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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】インサート
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/04 20060101AFI20220720BHJP
   F16B 39/22 20060101ALI20220720BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
F16B37/04 N
F16B39/22 C
E04B1/41 502C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018097968
(22)【出願日】2018-05-22
(65)【公開番号】P2019203538
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】317019029
【氏名又は名称】株式会社東京衡機エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】大和矢 麻起
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 康之
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3215110(JP,U)
【文献】特開2015-224771(JP,A)
【文献】特開平10-072873(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107654475(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00-43/02
E04B 1/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ねじを受け入れるための先端部を露出させた状態で設置対象物に埋設されて固定される基体と、
両端に開口を有する外殻と、一方の前記開口に連絡して前記雄ねじのねじ込みを許容する雌ねじと、もう一方の前記開口と前記雌ねじとを連絡させる収納空間と、この収納空間に回り止めされて収納され、前記雌ねじと同一方向の螺旋状に巻回されて前記雌ねじにねじ込まれた前記雄ねじを螺合させるコイルスプリングと、緩め方向に回転する前記雄ねじに連れ回されるコイルスプリングの回転を規制する規制部とを備え、前記一方の開口を露出させて前記基体に固定されたねじ部と、
を備え
前記ねじ部は、ナット形の外径形状を有する前記外殻を有し、
前記基体は、前記先端部となる一端側に開口して前記外殻の角部に内接する内径の軸孔を有する筒状部と、前記軸孔の他端側を閉じるように前記筒状部に固定されたフランジとを有し、
前記ねじ部は、前記外殻の側面と前記軸孔との間の隙間に設けられた溶接材によって前記先端部に溶接固定されている、
ことを特徴とするインサート。
【請求項2】
記規制部は、
前記コイルスプリングの前記雄ねじを螺合させる部分の端部を外周側に起立させたストッパと、
前記外殻の側面を貫通して前記ストッパの可動範囲を規制する貫通開口と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のインサート。
【請求項3】
前記筒状部と前記ねじ部との結合位置は、前記基体の先端部から前記隙間に流し込まれた前記溶接材が前記貫通開口まで達しないだけの余裕分を見込んだ距離を距離Lとして、前記筒状部の先端に対して前記貫通開口が距離Lだけ離隔されるように定められている、
ことを特徴とする請求項2に記載のインサート。
【請求項4】
前記ねじ部は、前記基体の先端部から突出している、
ことを特徴とする請求項3に記載のインサート。
【請求項5】
前記ねじ部は、前記基体の先端部と同一面内に位置している、
ことを特徴とする請求項3に記載のインサート。
【請求項6】
前記基体は、前記軸孔の入口に開先を有している、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一に記載のインサート。
【請求項7】
前記コイルスプリングは、前記雄ねじを螺合させる第1の領域と、前記第1の領域よりも大径の回り止めされる第2の領域とを連続的に備えており、
前記外殻は、前記第2の領域を前記収納空間内で回り止めする、
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一に記載のインサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートなどの壁面や天井などに埋め込まれて固定され、雄ねじをねじ込むことによって各種の設備品や建築構造物などを保持するようにしたインサートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートなどの壁面や天井などに埋め込まれて固定されるインサートは、内部に設けた雌ねじにボルトなどの雄ねじをねじ込むことで、各種の設備品や建築構造物などを固定したり、吊り下げたりするのに使われる。例えば電気設備、衛生設備、空調設備、防災設備などの設備品の固定に、インサートは有用性を発揮する。
【0003】
インサートによって保持される設備品は重量物であることが多いため、雌ねじにねじ込んだ雄ねじの緩み止めが重要である。従来のインサートでは、専ら雄ねじを締め込むことによって緩み止めを行っている。このため雄ねじは、ある程度の力で締め込まれなければならない。
【0004】
これに対して近年、強く締めこむことなく雄ねじを緩みにくくできるようにしたインサートが提案され、例えば特許文献1に紹介されている。
【0005】
文献1に記載されたインサートは、根元側の大径部分と先端側の小径部分とが連絡する外形形状を有しており、軸方向に雌ねじ孔(11f1)を設けている。大径部分の内部はバネ収容部(10f2)となっており、ここにコイルバネ(12)が収容されている。コイルバネ(12)は、バネ収容部(10f2)のキャップ(11)に設けた孔(11b)に一端部(12a)を挿入することで回り止めされ、他端部を雌ねじ孔(11f1)と連絡させている。そこで雌ねじ孔(11f1)にねじ込まれた吊りボルト(4)は、雌ねじ部(11f1)を過ぎるとコイルバネ(12)に螺合し、これによって緩み止めされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-032023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたインサートは、雌ねじ部(11f1)の奥側にバネ収容部(10f2)を配置し、ここにコイルバネ(12)を配置している。このためコイルバネ(12)によって吊りボルト(4)を回り止めするに際しては、雌ねじ孔(11f1)に吊りボルト(4)をねじ込み、その先端部がコイルバネ(12)の配置位置に達するまで吊りボルト(4)を回転させ続ける必要がある。
【0008】
その一方でインサートは、コンクリートなどの壁面や天井などに埋め込まれて固定するという施工上、引っ張り強度を高めようとすると、どうしても埋設長さを長くしなければならない。このため特許文献1に記載されたインサートでは、コイルバネ(4)の位置まで吊りボルト(4)を至らせる必要から、雌ねじ孔(11f1)に対する吊りボルト(4)のねじ込み量が増大してしまう。これによって施工時の作業負担が増えるため、何らかの改善が求められる。
【0009】
み防止機能を持たせながら、雄ねじのねじ込み量を減少させたい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ンサートは、雄ねじを受け入れるための先端部を露出させた状態で設置対象物に埋設されて固定される基体と、両端に開口を有する外殻と、一方の前記開口に連絡して前記雄ねじのねじ込みを許容する雌ねじと、もう一方の前記開口と前記雌ねじとを連絡させる収納空間と、この収納空間に回り止めされて収納され、前記雌ねじと同一方向の螺旋状に巻回されて前記雌ねじにねじ込まれた前記雄ねじを螺合させるコイルスプリングと、緩め方向に回転する前記雄ねじに連れ回されるコイルスプリングの回転を規制する規制部とを備え、前記一方の開口を露出させて前記基体に固定されたねじ部と、を備え、前記ねじ部は、ナット形の外径形状を有する前記外殻を有し、前記基体は、前記先端部となる一端側に開口して前記外殻の角部に内接する内径の軸孔を有する筒状部と、前記軸孔の他端側を閉じるように前記筒状部に固定されたフランジとを有し、前記ねじ部は、前記外殻の側面と前記軸孔との間の隙間に設けられた溶接材によって前記先端部に溶接固定されている。
【発明の効果】
【0011】
体にねじ部を固定するという構造上、雄ねじのねじ込み量は雌ねじの軸方向長さによってのみ規定されるので、コイルスプリングによる緩み防止機能を持たせながら、雄ねじのねじ込み量を減少させて施工時の作業負担を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の一形態を示すインサートの平面図。
図2】内部構造を破線で示すインサートの側面図。
図3】内部構造を破線で示すインサートの底面図。
図4】インサートが内蔵するねじ部の分解斜視図。
図5】ネジ部が内蔵するスプリングの(a)は側面図、(b)は平面図。
図6図4中のA-A線断面図。
図7】インサートが内蔵するネジ部の斜視図。
図8】インサートとその先端部に固定されたねじ部との縦断側面図。
図9】コンクリートの天井に埋設されたインサートに対する吊りボルトのねじ込み作業時の状態を示す垂直断面図。
図10図9の作業の際に生ずるコイルスプリングの状態を示すネジ部の底面図。
図11】コンクリートの天井に埋設されたインサートに対する吊りボルトの緩め作業時の状態を示す垂直断面図。
図12図11の作業の際に生ずるコイルスプリングの状態を示すネジ部の底面図。
図13】インサートの変形例を示す縦断側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、円筒状の基体の先端部に、ねじ部と、当該基体内にねじ込まれた雄ねじを嵌合させるコイルスプリングとを内蔵するインサートである。
【0014】
インサートの実施の一形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態のインサートは、コンクリートの天井に埋設され、吊りボルトの雄ねじをねじ込んで取り付けられるようにしている。以下、つぎに示す項目に沿って、詳細に説明する。
1.構造
(1)概要
(2)基体
(3)ねじ部
(コイルスプリング)
(外殻)
(規制部)
(4)基体に対するねじ部の固定
2.作用効果
(インサートに対する吊りボルトの取り付け)
(インサートからの吊りボルトの取り外し)
(インサートの長さ寸法と雄ねじのねじ込み保持強度との非依存性)
(インサートの長さ寸法とインサートの引張耐力の関係)
(作業負担の軽減)
(構造の簡素化)
(加工精度)
(結合強度)
(溶接作業上の問題)
(その他)
3.変形例
【0015】
1.構造
(1)概要
本実施の形態のインサート101は、吊りボルト201の雄ねじ202を受け入れるための先端部102を露出させた状態でコンクリートの天井301(設置対象物)に埋設される(図9図11参照)。このときインサート101は、完全に硬化する前のコンクリートに埋設され、その硬化によって固定される。
【0016】
図1図3に示すように、インサート101は、天井301に埋設されて固定される基体111を備え、この基体111にねじ部131を固定している。
【0017】
(2)基体
基体111は、円筒状の筒状部112の一端に、円板状のフランジ113を固定した構造物である。両者の固定は、例えば筒状部112の周囲とフランジ113との間に施した溶接による。これらの筒状部112及びフランジ113は、例えば鋼鉄製である。
【0018】
インサート101において、筒状部112の長さ寸法は、求められる引っ張り強度によって定められる。求められる引っ張り強度が大きくなればなるほど、筒状部112の長さ寸法も長くする必要がある。
【0019】
図2に示すように、筒状部112は、円筒状であるが故に軸孔114を有している。軸孔114は一端側において開口し、他端側ではフランジ113によって閉じられている。軸孔114の開口側の端部、つまり先端部102には、ねじ部131が取り付けられている。ねじ部131は軸孔114に圧入され、周囲の溶接によって固定されている。このとき筒状部112とねじ部131とは、互いの軸を一致させた同軸上に配置されている。また溶接の強度を考慮し、ねじ部131はその一部を僅かに露出させた状態で軸孔114に圧入され、側面部分を溶接に供している。
【0020】
(3)ねじ部
図4図8に示すように、ねじ部131は、両端に開口132a,132bを有する外殻133を備えている。外殻133の内部には雌ねじ134が形成され、収納空間135が設けられている。雌ねじ134は一方の開口132aに連絡し、吊りボルト201が有する雄ねじ202のねじ込みを許容する。収納空間135はもう一方の開口132bと雌ねじ134との間に配置され、コイルスプリング151を収納する。
【0021】
コイルスプリング151は、雌ねじ134と同一方向の螺旋状に巻回されており、雌ねじ134にねじ込まれた雄ねじ202(図8図10参照)を螺合させる。
【0022】
ねじ部131は、規制部171も備えている。規制部171は、緩め方向に回転する雄ねじ202に連れ回されるコイルスプリング151の回転を規制する。
【0023】
図1図2図8図9図11に示すように、ねじ部131は、一方の開口132aを露出させて、基体111に固定されている。
【0024】
(コイルスプリング)
コイルスプリング151について詳しく述べる。
【0025】
図4図5(a)(b)に示すように、コイルスプリング151は、一本のコイル素線152を螺旋状に巻回したもので、雄ねじ202を螺合させる第1の領域151Aと、第1の領域151Aよりも大径の第2の領域151Bとを連続させている。コイル素線152の材料は、例えばステンレスである。
【0026】
第1の領域151Aは、円形をなす螺旋状にコイル素線152を巻回している。このとき第1の領域151Aは、雌ねじ134と同一方向の螺旋状に巻回され、雌ねじ134にねじ込まれた雄ねじ202を螺合させる。
【0027】
第1の領域151Aでは、螺合する雄ねじ202に対してコイル素線152は線状に接触する。そこで線状に接触する領域間の配列間隔を確保し、雄ねじ202を螺合させることができるようにするために、隣接するコイル素線152同士は離れた状態に維持されている。
【0028】
より詳しくは、コイル素線152において、雄ねじ202と線状に接触する領域間の配列間隔は、雄ねじ134のピッチと同一の寸法になるように設定されている。
【0029】
またコイル素線152と雄ねじ202とが線状に接触する領域がなす直径は、第1の領域151Aの方が雄ねじ202よりも僅かに小径に形成されている。これによって雄ねじ202は、コイル素線152を押し広げながら第1の領域151Aに螺合する。
【0030】
第2の領域151Bは、第1の領域151Aの終端部に連続し、六角形をなす螺旋状にコイル素線152を巻回している。第1の領域151Aのように円形にしていないのは、コイルスプリング151を回り止めするためである。コイルスプリング151の回り止めは、外殻133の収納空間135と第2の領域151Bとの協働によって行われる。
その詳細は、外殻133の詳細な説明の項において後述する。
【0031】
第1の領域151Aと第2の領域151Bとは、同心上に配列されている。
【0032】
コイルスプリング151は、第1の領域151Aの始端部分を外周側に起立させ、ストッパ153としている。ストッパ153は、外殻133に設けた後述する凹部としての貫通開口172に挿入され(図7図12参照)、この貫通開口172との協働によってコイルスプリング151の回転を規制する規制部171を構成する。
規制部171の詳細についても、外殻133の詳細な説明の項において後述する。
【0033】
(外殻)
外殻133について詳しく述べる。
【0034】
図4図6図8に示すように、外殻133は、六角柱状の外形形状を与えられた鋼鉄製のナットである。したがって外殻133は、一方の開口132aともう一方の開口132bとを貫通させる貫通孔136を備え、この貫通孔136の一部に雌ねじ134を設けている。雄ねじ136が設けられているのは、貫通孔136のうち、一方の開口132aに連絡する領域である。
【0035】
外殻133が一般的なナットと相違するのは、貫通孔136の一部を収納空間135とし、ここにコイルスプリング151を収納している点にある。収納空間135は、貫通孔136のうち、もう一方の開口132bに連絡する領域に配置されている。このような収納空間135は、コイルスプリング151の形状に合わせ、二つの空間からなっている。一つは螺合空間135A、もう一つは回り止め空間135Bである。
【0036】
図6及び図8に示すように、螺合空間135Aと回り止め空間135Bとは、外殻133の軸方向に並べて配置されている。螺合空間135Aは雌ねじ134に隣接する位置、回り止め空間135Bは開口132bに連絡する位置にそれぞれ配置されている。
【0037】
螺合空間135Aは、コイルスプリング151の第1の領域151Aを収納する(図8参照)。
螺合空間135Aの内径は、吊りボルト201の雄ねじ202の螺合によって拡大し、螺合を解く方向への雄ねじ202の回転によってさらに拡大する第1の領域151Aの外径よりも、大径となる径に設定されている。したがって螺合空間135Aは遊びをもって第1の領域151Aを収納し、雄ねじ202の螺合状態のいかんにかかわらず、第1の領域151Aの径の変動を妨げない。
【0038】
回り止め空間135Bは、コイルスプリング151の第2の領域151Bを収納する(図8参照)。
このとき回り止め空間135Bは、僅かな遊びをもって第2の領域151Bを収納するように、その内寸を定めている。したがって第2の領域151Bは、回り止め空間135Bの内壁に固定されることなく保持され、コイルスプリング151を回り止めする。
【0039】
このときコイルスプリング151の第2の領域151Bは、開口132bから軸方向へ脱落する可能性がある。そこで回り止め空間135Bは、コイルスプリング151の脱落防止のための構造を備えている。
この構造は、外殻133が開口132bの側に有している六つの辺のそれぞれから内周側に突出する突片137によって構成されている。これらの突片137は、一例として、外殻133の六つの辺の端部の一部を開口132bの側から加圧し、塑性変形させることによって形成される。その結果、外殻133の六つの辺の端部それぞれに窪み部138が形成され、この際に移動した肉の部分によって突片137が形成される。これらの突片137は、コイルスプリング151の開口132bからの脱落を防止する。
【0040】
以上のように構成された外殻133は、一体成形された金属材である。一体成形は、例えば鍛造や切削加工によって行われる。
【0041】
(規制部)
図4図6図8に示すように、外殻133はさらに、規制部171を構成するための貫通開口172を側壁に設けている。貫通開口172は、外殻133の外径形状をなす六角柱の一面に設けられた貫通孔であり、コイルスプリング151の第1の領域151Aの始端部分に設けられたストッパ153を挿入させ得る位置に設けられている。
【0042】
回り止め空間135Bに第2の領域151Bが回り止めされて収納されたコイルスプリング151においては、吊りボルト201の雄ねじ202の回転に連れ回され、螺合空間135A内で第1の領域151Aがねじれるように回転する。これに応じてストッパ153は周方向に変位する。このため貫通開口172内のどこにストッパ153を位置させるかは、第1の領域151Aの挙動を制御するという面から重要である。
【0043】
この点、ストッパ153は、初期状態においては、貫通開口172の内周一端側に寄せた位置に配置されている。説明の便宜上、ここでの貫通開口172の内周一端を規制端Rと呼ぶ。規制端Rは、ねじ戻し方向への雄ねじ202の回転に第1の領域151Aが連れ回されたとき、ストッパ153が当接する側の内周端部である。したがってストッパ153は、ねじ込み方向への雄ねじ202の回転に第1の領域151Aが連れ回されたとき、貫通開口172内で、規制端Rを始点とする所定の範囲を自由に移動する。
【0044】
ねじ込み方向への雄ねじ202の回転に連れ回されたときの第1の領域151Aの回転範囲は、コイル素線152と雄ねじ202との間に滑りが生じたときが最大値となる。
つまりストッパ153は、規制端Rを始点として、コイル素線152と雄ねじ202との間に滑りが生じるまで貫通開口172内を移動する。そこで貫通開口172の幅は、このようなストッパ153の移動を許容し得る幅に設定されている。
【0045】
その一方で、ねじ戻し方向への雄ねじ202の回転に連れ回されたときの第1の領域151Aの回転範囲は、規制端Rにストッパ153が干渉するまでの範囲に規制される。
このとき第1の領域151Aは、ねじ戻し方向への雄ねじ202の回転に連れ回されることで径を縮小するわけであるが、規制端Rにストッパ153が干渉してその回転が規制されれば、それ以上径を縮小しない。したがって規制端Rによるストッパ153の移動規制は、第1の領域151Aの径の縮小を止めさせるという意味合いを持つ。
そこで規制端Rとストッパ153との位置関係は、雄ねじ202をねじ戻して螺合を解くことができる程度に第1の領域151Aの径の縮小範囲を規制し得る位置に定められている。
【0046】
規制部171は、規制端Rとストッパ153との協働によって第1の領域151Aの回転を規制し、ねじ部131に対する雄ねじ202の螺合を解くことができるようにしている。
【0047】
(4)基体に対するねじ部の固定
ねじ部131の外殻133は、六角柱形状をしているが故に、外周に六面を備え、隣り合う二面の間に角部を有している。角部は、外殻133がなす断面六角形の頂点をなす。
基体111が有する筒状部112の軸孔114は、この頂点をなす外殻133の角部に内接するように、その内径が定められている。したがってねじ部131は、筒状部112の軸孔114に嵌り込んで外殻133の角部を密接させる。
図8に示すように、外殻133の六面は、筒状部112の軸孔114との間に隙間Gを形成する。そこで基体111の筒状部112に対してねじ部131の外殻133は、隙間Gに溶接材191を流し込むようにして溶接されて固定される。
【0048】
筒状部112の軸孔114の入口には開先192が形成されている。このため開先192がない場合と比較して、筒状部112と溶接材191との接触面積が増大し、結果的に外殻133と溶接材191との接触面積も増大する。開先192は、軸孔114と外殻133との溶接空間を拡げる役割も担っている。
【0049】
筒状部112とねじ部131との結合位置は、筒状部112の先端に対して、規制部171の貫通開口172が距離Lだけ離隔されるように設定されている。距離Lは、筒状部112とねじ部131との溶接に際して、筒状部112と外殻133との間に流し込まれる溶接材191が貫通開口172にまで達しないだけの余裕分を見込んだ距離である。
このとき溶接材191がどこまで入り込むかは、筒状部112と外殻133との間の隙間Gの大きさや、溶接材191の種類、さらには溶接作業時の外部環境などの各種の条件に依存する。距離Lは、これらの条件を考慮した上で、溶接材191が貫通開口172にまで達しないように、適宜設定される。
【0050】
2.作用効果
このような構成において、インサート101は、例えば図9図11に示すように、コンクリートの天井301に埋設されて使用される。
【0051】
(インサートに対する吊りボルトの取り付け)
図9及び図10は、天井301に埋設されたインサート101に対する吊りボルト201のねじ込み作業時の状態を示している。
インサート101に吊りボルト201をねじ込むには、ねじ部131の雌ねじ134に吊りボルト201の雄ねじ202を螺合させ、時計方向CWであるねじ込み方向にねじ込む。雄ねじ202が雌ねじ134の終端にまで至ると、雄ねじ202はコイルスプリング151の第1の領域151Aに螺合し、さらにねじ込まれていく。
このとき第1の領域151Aは、雄ねじ202の螺合によって径を拡大し、雄ねじ202との接触抵抗の増大に応じて連れ回され、いずれ雄ねじ202との間に滑りを生じる。両者間に滑りが生じれば、雄ねじ202は第1の領域151Aにねじ込まれる。
雄ねじ202との接触抵抗の増大に応じて連れ回されたとき、規制端Rに位置していたストッパ153は貫通開口172内を移動する。この移動は、第1の領域151Aと雄ねじ202との間に滑りが生ずるまで続くが、両者間に滑りが生じればストッパ153は移動せず、貫通開口172内で規制端Rと反対側の端部に干渉することはない。
したがって第1の領域151Aの自由な挙動は妨げられず、雄ねじ202は第1の領域151Aに円滑に螺合する。
【0052】
第1の領域151Aに螺合した雄ねじ202は、ねじ戻し方向である緩み方向に回転しようとすると、第1の領域151Aに締めつけられる。第1の領域151Aが径を縮小するからである。これによって雄ねじ202の緩み止めが果たされ、吊りボルト201は、緩みを生ずることなく確実にインサート101に取り付けられる。
【0053】
(インサートからの吊りボルトの取り外し)
図11及び図12は、天井301に埋設されたインサート101に対する吊りボルト201のねじ戻し作業時の状態を示している。
雄ねじ202を反時計方向CCWであるねじ戻し方向に回転させると、コイルスプリング151の第1の領域151Aが連れ回されて径を縮小し、雄ねじ202を締めつける。このとき第1の領域151Aの連れ回りによってストッパ153が移動し、規制端Rと干渉してその移動が規制される。すると第1の領域151Aはそれ以上径を縮小することがなくなり、雄ねじ202をねじ戻して第1の領域151Aとの間の螺合を解くことが可能になる。
【0054】
(作業負担の軽減)
本実施の形態によれば、基体111にねじ部131を固定するという構造上、吊りボルト201が有している雄ねじ202のねじ込み量は、インサート101の雌ねじ134の軸方向長さによってのみ規定される。したがってコイルスプリング151による緩み防止機能を持たせながら、雄ねじ202のねじ込み量を減少させて施工時の作業負担を低減することができる。
とりわけ数多くのインサート101を天井301に埋設し、その分の吊りボルト201を取り付けなければならない場合には、インサート101及び吊りボルト201の数量が増えれば増えるほど、作業負担を大幅に低減することが可能である。
【0055】
作業負担の軽減には、基体111の先端部102にねじ部131を固定しているという構成も一役買っている。基体111の先端部102にねじ部131が配置されていれば、その雌ねじ134に対する雄ねじ202のねじ込み作業時に、良好な視認性を得ることができるからである。
【0056】
また前述したとおり、インサート101からの吊りボルト201の取り外し作業に際しては、雄ねじ202のねじ戻しに伴いストッパ153が移動し、規制端Rに干渉する。このときストッパ153が規制端Rに衝突する衝突音が発生するため、雄ねじ202をねじ戻すことができることを作業者に知らせることが可能になる。
しかも規制端Rに対するストッパ153の干渉によって雄ねじ202をねじ戻す際の手ごたえが変わるため、雄ねじ202の螺合がこれから解かれるのだという節度感を作業者に与えることができる。
このような音と感触とによる作業者への報知は、作業性を向上させ、作業負担の軽減に貢献する。
【0057】
(インサートの長さ寸法と雄ねじのねじ込み保持強度との非依存性)
本実施の形態では、雄ねじ202の保持を専らねじ部131によって担っている。ねじ部131は、雄ねじ202を十分な保持強度で保持する。このため基体111の筒状部112の長さ寸法と雄ねじ202のねじ込み保持強度との間の依存関係がなく、筒状部112の長さ寸法を自由に設定することが可能である。また筒状部112の長さ寸法を長くしたとしても、雄ねじ202のねじ込み量が増加しない。
【0058】
(インサートの長さ寸法とインサートの引張耐力との関係)
コンクリートに埋め込まれたインサート101の引張耐力は、インサート101にねじ込まれた吊りボルト201に引張力が作用した際に生じる強度によって決定される。より詳しくは、コンクリートが円錐状に割れて破壊するコンクリートのコーン状破壊強度、吊りボルト201の引張降伏強度、インサート101の引張降伏強度のうち、その最小値が上記引張耐力を決定づける。
このためコンクリートのコーン状破壊強度は、吊りボルト201とインサート101とのそれぞれの引張降伏強度を上回っていなければならない。そこで実際の施工にあたっては、この条件を満たすだけのコンクリートのコーン状破壊強度を確保するために、インサート101を埋設する建設部材ごとに、筒状部112の基体111の長さ寸法L1(図9参照)を調整する必要がある。
本実施の形態のインサート101は、基体111が有する円筒状の筒状部112の先端部分に、コイルスプリング151を内蔵するねじ部131を溶接によって固定する構造を採用している。このためコイルスプリング151を含むねじ部131の構造を改変することなく、筒状部112の長さ寸法L1を自由に設定することが可能である。したがってインサート101を埋設する建設部材ごとに要求される引張耐力を満足するインサート101を容易に実現することができる。
【0059】
(構造の簡素化)
ストッパ153は、コイルスプリング151の雄ねじ202を螺合させる第1の領域151Aの端部を外周側に起立させるだけという簡素な構造を有している。
ストッパ153の可動範囲を規制する凹部は、外殻133の側面に貫通させた貫通開口172という簡素な構造によって実現されている。
したがって本実施の形態によれば、規制部171の構造の簡素化を図ることができる。
【0060】
本実施の形態によれば、一本のコイル素線152によって第1の領域151Aと第2の領域151Bとを有するコイルスプリング151としている。したがって二つの機能を有するコイルスプリング151を単一のコイル素線152から得ることができ、構造の簡素化を図ることができる。
【0061】
(加工精度)
外殻133は、例えば鍛造や切削加工によって一体成形された金属材である。このため別部品を組み合わせたような一体成形品ではないものとの比較において、高い精度が得られる。
【0062】
(結合強度)
基体111の筒状部112とねじ部131の外殻133との溶接部分には、筒状部112の軸孔114の入口に位置させて開先192が形成されている。このため開先192がない場合と比較して、筒状部112と溶接材191との接触面積が増大し、結果的に外殻133と溶接材191との接触面積も増大する。
したがって溶接による基体111とねじ部131との結合強度を高めることができる。
また開先192を設けることによって溶接空間が拡がるため、溶接による各部の変形も防止することができる。
【0063】
(溶接作業上の問題)
筒状部112とねじ部131との結合位置は、筒状部112の先端に対して、規制部171の貫通開口172が距離Lだけ離隔されるように設定されている。このため筒状部112とねじ部131との溶接に際して、筒状部112と外殻133との間に流し込まれる溶接材191が貫通開口172にまで達しないようにすることができる。
したがって貫通開口172に溶接材191が入り込んでしまったり、溶接材191で塞がれてしまったりすることによる規制部171の動作不良を防止することができる。
【0064】
(その他)
基体111をなす筒状部112はパイプ状の部材であり、フランジ113は円板状の部材である。いずれも容易に入手可能で、汎用品の流用も可能である。加工も容易で、筒状部112は様々な長さへの対応、フランジ113は様々な径への対応が可能である。
したがって基体111を容易かつ手軽に構成することができる。
【0065】
3.変形例
実施に際しては、各種の変形や変更が許容される。
【0066】
例えばねじ部131は、上記実施の形態では基体111の先端部102から突出させて固定した一例を示したが、実施に際してはこれに限定されることはなく、図13に示すように、筒状部112の先端部102と同一面内に位置するように固定してもよい。
【0067】
またストッパの可動範囲を規制する凹部として、上記実施の形態では貫通開口172を例示したが、実施に際してはこれに限定されず、外殻133の内周面に設けた窪みのような形態のものであってもよい。
【0068】
また外殻133の形状として、上記実施の形態では六角柱状のものを例示したが、実施に際してはこれに限定されない。他の多角形状であってもよく、あるいは多角形状ですらなくてもよい。水平断面が真円形であったり、楕円形であったりしてもよい。
【0069】
その他、あらゆる変形や変更が許容される。
【符号の説明】
【0070】
101 インサート 151 コイルスプリング
102 先端部 151A 第1の領域
111 基体 151B 第2の領域
112 筒状部 152 コイル素線
113 フランジ 153 ストッパ
114 軸孔 171 規制部
131 ねじ部 172 貫通開口(凹部)
132a 開口(一方の開口) 191 溶接材
132b 開口(もう一方の開口) 192 開先
133 外殻 201 吊りボルト
134 雌ねじ 202 雄ねじ
135 収納空間 301 天井
135A 螺合空間 CW 時計方向
135B 回り止め空間 CCW 反時計方向
136 貫通孔 G 隙間
137 突片 R 規制端
138 窪み部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13