(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
D04H 3/16 20060101AFI20220720BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20220720BHJP
D01F 6/76 20060101ALI20220720BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20220720BHJP
D04H 3/009 20120101ALI20220720BHJP
【FI】
D04H3/16
B32B5/02 A
D01F6/76 D
D04H1/728
D04H3/009
(21)【出願番号】P 2018124341
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 俊
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
(72)【発明者】
【氏名】角前 洋介
(72)【発明者】
【氏名】道畑 典子
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-308810(JP,A)
【文献】特開2013-045502(JP,A)
【文献】特開2001-192955(JP,A)
【文献】特開2006-274474(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129373(WO,A1)
【文献】特開2014-017261(JP,A)
【文献】特表2014-504951(JP,A)
【文献】特開2006-088148(JP,A)
【文献】特開2013-079486(JP,A)
【文献】国際公開第2009/044766(WO,A1)
【文献】特開2019-077964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00-18/04
B01D39/00-41/04
B32B1/00-43/00
D01F1/00-9/04
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルスルホン樹脂で構成された繊維の層と、ポリスルホン樹脂で構成された繊維の層を有する積層体を備えた、構造体であって、
前記
ポリエーテルスルホン樹脂は前記
ポリスルホン樹脂と比べガラス転移温度が高く、
前記ポリエーテルスルホン樹脂のガラス転移温度は220℃以上であって、
前記
ポリスルホン樹脂は前記
ポリエーテルスルホン樹脂と比べ吸水率が低
く、前記ポリスルホン樹脂の吸水率は0.8重量%以下である、
構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2種類のポリスルホン系樹脂を有する構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスルホン系樹脂は、耐薬品性や耐加水分解性ならびに機械的強度といった諸特性に優れる樹脂である。そのため、ポリスルホン系樹脂を有する構造体(例えば、繊維集合体、フィルムや発泡体、あるいは、棒状や平板状などその他の形状を有する構造体)は、様々な産業資材に使用されている。
特に、ポリスルホン系樹脂を有する繊維集合体(繊維ウェブや不織布、織物や編物など)は表面積や空隙率が大きく柔軟性に優れるため、水処理膜などの液体分離膜や気体分離膜、医療用材料、イオン交換膜や透析膜、レドックスフロー電池や燃料電池の高分子電解質膜(特許文献1)などといった様々な産業用途に使用可能な膜の支持体として、あるいは、キャパシタや一次/二次電池などの電気化学素子用セパレータ、プリプレグ、気体フィルタや液体フィルタなどといった様々な産業用途に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人は、ポリスルホン系樹脂を有する構造体を産業資材として使用するにあたり、更に、該構造体に諸特性の向上が求められているという潜在的な要望を見出した。
例えば、ポリスルホン系樹脂を有する繊維集合体の強度を向上するため、該繊維集合体を加熱装置へ供すると、該繊維集合体に大きく寸法変化が生じることがあった。また、例えば、ポリスルホン系樹脂を有する繊維集合体を支持体として用いて燃料電池の高分子電解質膜を製造するため、該繊維集合体を高分子電解質膜液に浸漬すると、該繊維集合体に大きく寸法変化が生じることがあった。
そして、上述のような寸法変化が生じ易いポリスルホン系樹脂を有する構造体を使用して産業資材を調製すると、調製した産業資材には意図しない変形が存在するものとなり、期待する形状や諸機能を得られ難いという問題があった。
【0005】
本願出願人は、ポリスルホン系樹脂を有する構造体に寸法変化が発生する原因を追究した。追究の結果、ポリスルホン系樹脂を有する構造体は、
・例えば、210℃雰囲気下に存在した場合など高温条件下において、大きく収縮する、また、
・水やアルコール類などを溶媒あるいは分散媒としてなる高分子電界質膜液や水などの親水性液中に浸漬すると、大きく膨潤する、
ことで大きな寸法変化が発生することを見出した。
また、本寸法変化は、表面積や空隙率が大きく柔軟性に優れる構造体(例えば、繊維集合体)において、顕著に発生することを見出した。
【0006】
構造体に発生する寸法変化を抑制するためには、高温条件下における耐収縮性および親水性液中での耐膨潤性に共に優れるポリスルホン系樹脂を用いて構造体を調製すれば良いと考えられるものの、両特性に共に優れるポリスルホン系樹脂は産業用途として一般的に販売されておらず、該ポリスルホン系樹脂からなる構造体を提供することは現実的ではなかった。
そのため、更に、諸特性が向上したポリスルホン系樹脂を有する構造体、特に、寸法変化が抑制されたポリスルホン系樹脂を有する構造体の実現が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「(請求項1)ポリエーテルスルホン樹脂で構成された繊維の層と、ポリスルホン樹脂で構成された繊維の層を有する積層体を備えた、構造体であって、
前記ポリエーテルスルホン樹脂は前記ポリスルホン樹脂と比べガラス転移温度が高く、前記ポリエーテルスルホン樹脂のガラス転移温度は220℃以上であって、
前記ポリスルホン樹脂は前記ポリエーテルスルホン樹脂と比べ吸水率が低く、前記ポリスルホン樹脂の吸水率は0.8重量%以下である、
構造体。」
である。
【発明の効果】
【0008】
本願出願人は検討の結果、本発明によって、更に、諸特性が向上したポリスルホン系樹脂を有する構造体、特に、寸法変化が抑制されたポリスルホン系樹脂を有する構造体を提供できることを見出した。
つまり、構造体を構成するポリスルホン系樹脂として、ガラス転移温度が高いポリスルホン系樹脂を有することで高温条件下における耐収縮性に優れた構造体を提供できること、そして、吸水率が低いポリスルホン系樹脂を有することで液体中での耐膨潤性に優れた構造体を提供できることを見出した。
そして、両特性に共に優れるポリスルホン系樹脂を用いなくとも、ガラス転移温度が高いポリスルホン系樹脂Aと吸水率が低いポリスルホン系樹脂Bを有する構造体であることによって、構造体に含まれている両ポリスルホン系樹脂が互いに不足する特性を補い合うためか、高温条件下における耐収縮性および液体中での耐膨潤性に共に優れた構造体を実現できることを見出した。
そのため、本発明によって、特に、寸法変化が抑制されたポリスルホン系樹脂を有する構造体を提供できる。
【0009】
また、表面積や空隙率が大きく柔軟性に優れるため、より寸法変化が発生し易い繊維集合体(特に、繊維がランダムに存在してなる繊維ウェブや不織布など)であったとしても、本発明によって、特に、寸法変化が抑制されたポリスルホン系樹脂を有する繊維集合体を提供できる。
【0010】
更に、本願出願人は、構造体がポリスルホン系樹脂Aで構成された繊維の層と、ポリスルホン系樹脂Bで構成された繊維の層を有する積層体(特に、繊維がランダムに存在してなる繊維ウェブや不織布などの繊維層からなる積層体)を備えていることによっても、特に、寸法変化が抑制されたポリスルホン系樹脂を有する構造体を提供できることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。
本発明にかかる構造体は、ポリスルホン系樹脂Aおよびポリスルホン系樹脂Bの、少なくとも二種類のポリスルホン系樹脂を有している。
【0012】
ここでいうポリスルホン系樹脂とは、以下に示す化学構造を骨格内(ポリマー鎖内)に有する樹脂である。
【0013】
【0014】
ポリスルホン系樹脂の種類は、本発明にかかる構造体を提供できるものであればよく、適宜選択できるが、例えば、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、スルホン化ポリスルホン樹脂、スルホン化ポリエーテルスルホン樹脂、スルホン化ポリフェニルスルホン樹脂などを用いることができる。なお、本発明にかかるポリスルホン系樹脂において、側鎖の構造、置換基の有無やその種類、ポリマー鎖の分岐態様などは適宜選択できる。
【0015】
構造体に占めるポリスルホン系樹脂の重量百分率は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できるが、その重量百分率が多いほど諸特性の向上がもたらされた構造体を提供し易くなる。そのため、該重量百分率は1重量%以上であるのが好ましく、10重量%以上であるのが好ましく、30重量%以上であるのが好ましく、50重量%以上であるのが好ましく、70重量%以上であるのが好ましく、90重量%以上であるのが好ましく、構造体の構成樹脂がポリスルホン系樹脂のみであるのが最も好ましい。
【0016】
本発明でいう構造体の種類は産業資材の用途や要求物性などによって適宜選択できるが、例えば、繊維集合体(例えば、繊維ウェブや不織布、織物や編み物など)、フィルム(多孔フィルムなどの通気性フィルムや非通気性フィルム)、発泡体、棒状や平板状などその他の形状を有するものであっても良い。特に、表面積や空隙率が大きく柔軟性に優れるなどの諸特性に優れることから構造体は繊維集合体であるのが好ましく、繊維がランダムに存在してなる構造であると、剛性や補強性などが効率良く発揮された構造体となり好ましいことから、繊維ウェブや不織布であるのが最も好ましい。また、上述した各種構造体の積層構造物であってもよい。例えば繊維組成が異なる複数の繊維層(例えば、ポリスルホン系樹脂Aで構成された繊維層とポリスルホン系樹脂Bで構成された繊維層)を有する積層体を備えていると、特に、効率良く寸法変化が抑制されたポリスルホン系樹脂を有する構造体を提供でき好ましい。また、ポリスルホン系樹脂Aで構成された繊維層-ポリスルホン系樹脂Bで構成された繊維層-ポリスルホン系樹脂Aで構成された繊維層や、ポリスルホン系樹脂Bで構成された繊維層-ポリスルホン系樹脂Aで構成された繊維層-ポリスルホン系樹脂Bで構成された繊維層などのように、厚さ方向に対象をなす積層構造の繊維集合体を備えていると、プリーツ加工時などの成型性や剛性や両主面における耐摩耗性が同等であるなど均一な物性を備えた構造体を提供でき好ましい。
【0017】
なお、本発明にかかる繊維の層を構成するポリスルホン系樹脂Aあるいはポリスルホン系樹脂Bの割合は、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できるが、その割合が多いほど諸特性の向上がもたらされた構造体を提供し易くなる。そのため、ポリスルホン系樹脂Aのみで構成された繊維のみからなる繊維層、および/または、ポリスルホン系樹脂Bのみで構成された繊維のみからなる繊維層を備えた構造体であるのが最も好ましい。
【0018】
構造体の目付や厚さなどは産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できる。その目付は0.1~20g/m2であることができ、0.5~15g/m2であることができ、1~10g/m2であることができる。そして、その厚さは100μm以下であるのが好ましく、75μm以下であるのが好ましく、50μm以下であるのが好ましい。一方、厚さは1μm以上であるのが現実的である。なお、本発明において、目付とは測定対象物の主面における1m2あたりに換算した重量をいい、厚さとは、シックネスゲージ((株)ミツトヨ製、コードNo.:547-401、測定力3.5N以下)を用いて測定した値を意味する。
【0019】
本発明の構造体が有するポリスルホン系樹脂Aは、ポリスルホン系樹脂Bと比べ、ガラス転移温度が高いと共に吸水率が高い。
【0020】
本発明でいう「ガラス転移温度」とは、非晶質固体状態にガラス転移を起こす温度を指し、JIS K7121-1987に則って描いたDSC曲線から読み取った中間点ガラス転移温度(以降、Tgと称することがある)をいう。なお、構造体に含まれているポリスルホン系樹脂の種類が特性でき、安全データシートや論文あるいはカタログなどに該ポリスルホン系樹脂のガラス転移温度が記載されている場合には、該記載温度を該ポリスルホン系樹脂のガラス転移温度とみなすことができる。
【0021】
また、本発明でいう「吸水率」とは、測定対象となるポリスルホン系樹脂の試験片の重量に占める、前記試験片を湿度80%以上の雰囲気下(25℃)に100時間以上静置した後の試験片における重量百分率を算出し、その百分率から100%を引いた値(重量%)をいう。なお、構造体に含まれているポリスルホン系樹脂の種類が特性でき、安全データシートや論文あるいはカタログなどに該ポリスルホン系樹脂の吸水率が記載されている場合には、該記載値を該ポリスルホン系樹脂の吸水率とみなすことができる。
【0022】
本発明にかかるポリスルホン系樹脂Aとポリスルホン系樹脂Bの組み合わせは、本発明にかかる構成を満足するのであれば、適宜選択し組み合わせできる。
具体例として、
・BASF社製ポリエーテルスルホン樹脂(Ultrason(登録商標)、Tg:225℃、吸水率:2.2重量%)やSolvay社製ポリエーテルスルホン樹脂(Tg:220℃、吸水率:1.9重量%)あるいは住友化学株式会社製ポリエーテルスルホン樹脂(スミカエクセル(登録商標)、Tg:225℃、吸水率:2.0重量%以上)]と、BASF社製ポリスルホン樹脂(Ultrason(登録商標)、Tg:187℃、吸水率:0.8重量%)やSolvay社製ポリスルホン樹脂(Tg:185℃、吸水率:0.7重量%)の組み合わせ、
・BASF社製ポリフェニルスルホン樹脂(Ultrason(登録商標)、Tg:220℃、吸水率:1.2重量%)やSolvay社製ポリフェニルスルホン樹脂(Tg:220℃、吸水率:1.2重量%)と、BASF社製ポリスルホン樹脂(Ultrason(登録商標)、Tg:187℃、吸水率:0.8重量%)やSolvay社製ポリスルホン樹脂(Tg:185℃、吸水率:0.7重量%)の組み合わせ、
・BASF社製ポリエーテルスルホン樹脂(Ultrason(登録商標)、Tg:225℃、吸水率:2.2重量%)や住友化学株式会社製ポリエーテルスルホン樹脂(スミカエクセル(登録商標)、Tg:225℃、吸水率:2.0重量%以上)と、BASF社製ポリフェニルスルホン樹脂(Ultrason(登録商標)、Tg:220℃、吸水率:1.2重量%)やSolvay社製ポリフェニルスルホン樹脂(Tg:220℃、吸水率:1.2重量%)の組み合わせ、
などを挙げることができる。
【0023】
特に、構造体を構成するポリスルホン系樹脂Aとポリスルホン系樹脂Bの組み合わせが、
ポリエーテルスルホン樹脂とポリスルホン系樹脂の組み合わせであると、熱収縮の減少、親水性液(水/エタノール)に浸した時の寸法安定性向上という効果が、効果的に発揮され好ましい。
【0024】
構造体に占めるポリスルホン系樹脂Aとポリスルホン系樹脂Bの比率は、寸法変化の抑制、および、産業資材の用途や要求物性などによって適宜調整できるが、ポリスルホン系樹脂Aの重量部:ポリスルホン系樹脂Bの重量部は、99:1~1:99であることができ、10:90~90:10であることができ、20:80~80:20であることができ、30:70~70:30であることができ、40:60~60:40であることができる。
【0025】
構造体は、産業資材の用途や要求物性などにより、必要に応じて添加剤を含有していても良い。添加剤の種類として、例えば、難燃剤、香料、顔料(無機顔料および/または有機系顔料)、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、架橋剤などを挙げることができる。
【0026】
また、構造体はポリスルホン系樹脂以外にも、産業資材の用途や要求物性などにより、必要に応じて他の樹脂を含有していても良い。他の樹脂の種類として、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ乳酸、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、アラミド樹脂などの芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロスルホン酸樹脂など)、多糖類(デンプン、セルロース系樹脂、プルラン、アルギン酸、ヒアルロン酸など)、たんぱく質類(ゼラチン、コラーゲンなど)、ビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなど)、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を挙げることができる。なお、他の樹脂の種類は複数種類であっても良く、これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でもよい。また、樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。
【0027】
また、ポリスルホン系樹脂Aおよびポリスルホン系樹脂B以外の、ポリスルホン系樹脂を含有してもよい。
【0028】
次いで、本発明にかかる構造体の製造方法について例示し説明する。なお、すでに説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
繊維集合体の製造方法は適宜選択できるが、例えば、静電紡糸法、特開2009-287138号公報に開示されているようなガスの作用により紡糸する方法、特開2011-32593号公報に開示されているような電界の作用に加えてガスの剪断力を作用させて紡糸する方法、遠心紡糸法などを用いることができる。そして、これらの製造方法を用いて紡糸液を細径化させるとともに繊維化して、例えばネットあるいはドラムやベルトコンベアなどの捕集体上に捕集することで、捕集体上に繊維ウェブを形成できる。
これらの中でも静電紡糸法や、特開2009-287138号公報に開示されているようなガスの剪断作用により紡糸する方法を用いることで、平均繊維径が2μm以下の極細繊維を紡糸しやすく、繊維径が揃っており、しかも連続した極細繊維からなる繊維集合体を製造しやすいため好適である。
【0029】
ここでいう「平均繊維径」は、繊維を含む測定対象部分を撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、50点の繊維における各繊維径の算術平均値をいう。繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
【0030】
なお、
・ポリスルホン系樹脂Aおよびポリスルホン系樹脂Bが混合してなる混合樹脂を用いて紡糸した繊維を備える繊維集合体を調製しても、
・ポリスルホン系樹脂Aおよびポリスルホン系樹脂Bを備える複合繊維(例えば、サイドバイサイド繊維、シースコア繊維など)を備える繊維集合体を調製しても、
・ポリスルホン系樹脂Aからなる繊維と、ポリスルホン系樹脂Bからなる繊維が混在してなる繊維集合体を調製しても、
・ポリスルホン系樹脂Aからなる繊維の層と、ポリスルホン系樹脂Bからなる繊維の層を積層してなる積層体を備える繊維集合体を調製してもよい。
特に、ポリスルホン系樹脂Aからなる繊維の層と、ポリスルホン系樹脂Bからなる繊維の層を積層してなる積層体を備える構造体であると、更に、寸法変化が抑制されたポリスルホン系樹脂を有する構造体を提供でき好ましい。
【0031】
このようにして製造した繊維集合体から残留している溶媒を除去するため加熱装置へ供してもよい。加熱装置の種類は適宜選択でき、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する装置、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線を照射し加熱できる装置などを用いることができる。加熱装置による加熱温度は適宜選択するが、溶媒を揮発あるいは分解し揮発させ除去可能であると共に、構成繊維などの構成成分が意図せず分解や変性しない温度であるように適宜調整する。また、上述のようにして製造した繊維ウェブなどの繊維集合体を、水などに浸漬することで、構成繊維中に残留している溶媒を溶出させることで除去してもよい。
なお、上述の工程において加熱によって、あるいは、架橋剤などの添加剤と反応させることで、ポルスルホン系樹脂Aおよび/またはポルスルホン系樹脂Bの耐熱性を向上させたり不溶化させるなど、物性変化させてもよい。
【0032】
更に、上述のようにして製造した繊維ウェブあるいは繊維集合体を、表面を平滑とするためカレンダー処理など加圧処理する工程へ供してもよい。
【0033】
また、フィルムや発泡体、あるいは、棒状や平板状などその他の形状を有する構造体は、従来知られている製造方法へ供することによって製造できる。
具体的には、本発明にかかるポルスルホン系樹脂Aおよび/またはポルスルホン系樹脂Bの溶液や溶融液をシート状に展開する工程を備えた、フィルムの製造方法を採用できる。製造するフィルムの厚さは要望に合わせ適宜選択でき、通気性を有していないフィルムであっても通気性を有するフィルムであってもよい。また、成型型にポルスルホン系樹脂Aおよび/またはポルスルホン系樹脂Bの溶液や溶融液を流し込み、棒状や平板状などその他の形状を有する構造体を調製してもよい。あるいは、発泡させて発泡体を調製してもよい。更に、調製したポルスルホン系樹脂Aの構造体とポルスルホン系樹脂Bの構造体を備えた構造体を調製してもよい。
【0034】
また、本発明にかかるポルスルホン系樹脂Aの溶液や溶融液とポルスルホン系樹脂Bの溶液や溶融液を被覆対象物に付与する工程を備えた、被覆対象物の表面にポルスルホン系樹脂Aおよびポルスルホン系樹脂Bを備える構造体の製造方法を採用してもよい。あるいは、ポルスルホン系樹脂Bの溶液や溶融液をポルスルホン系樹脂Aを有する構造物に付与する工程を備えた、ポルスルホン系樹脂Aを有する構造物の表面にポルスルホン系樹脂Bを備えた構造体の製造方法、または、ポルスルホン系樹脂Aの溶液や溶融液をポルスルホン系樹脂Bを有する構造物に付与する工程を備えた、ポルスルホン系樹脂Bを有する構造物の表面にポルスルホン系樹脂Aを備えた構造体の製造方法を採用してもよい。
【0035】
なお、上述した繊維集合体から残留している溶媒を除去する方法と同様にして、構造体から残留している溶媒を除去してもよい。
【0036】
製造した構造体はそのまま各種用途に使用してもよいが、樹脂膜と複合化する工程、あるいは、別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層して積層体を製造する工程、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程などの各種二次工程を経て、様々な産業資材として使用してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
(紡糸液1および紡糸液2の用意)
ポリエーテルスルホン樹脂(住友化学株式会社製、スミカエクセル(登録商標)、品番:PES5200P、Tg:225℃、吸水率:2.0重量%以上)をジメチルアセトアミド(沸点:165℃)に溶解させ、紡糸液1(ポリエーテルスルホン樹脂の固形分重量百分率:27重量%、23℃時の粘度:3.7Pa・s)を調製した。
また、ポリスルホン樹脂(BASF社製、Ultrason(登録商標)、品番:S6010、Tg:187℃、吸水率:0.8重量%)をジメチルアセトアミド(沸点:165℃)に溶解させ、紡糸液2(ポリスルホン樹脂の固形分重量百分率:20重量%、23℃時の粘度:1.6Pa・s)を調製した。
【0039】
(紡糸方法)
内径が0.33mmの金属製のノズルに、アース処理されたパワーサプライを接続した。ノズル先端部の開口と対面するように、アース処理された捕集体(金属板)を設けた。この時、ノズル先端部と捕集体との最短距離が、4~8cmとなるように調整した。ノズルをパワーサプライにより8~15kVとなるように印加して、ノズルと捕集体の間に電界を形成した。
ノズルの開口から紡糸液を吐出量が0.7~1cc/時間となるようにして吐出させ、紡糸液を電界に導いて、紡糸液をノズル先端部の開口から捕集体へと飛翔させると共に細径化させ、繊維化して捕集体上に捕集し繊維ウェブを調製することを試みた。なお、本工程における紡糸環境は、温度25℃、湿度20%RHに調整した。
【0040】
(比較例1)
紡糸液1を用いて捕集体の主面上に、ポリエーテルスルホン繊維ウェブを調製した。そして、調製したポリエーテルスルホン繊維ウェブを捕集体から剥がし、180℃で30分間加熱処理することで構成繊維中に残留している溶媒を揮発させて除去し、ポリエーテルスルホン不織布(目付:2.8g/m2、厚さ:14μm、平均繊維径:390nm)を調製した。
【0041】
(比較例2)
紡糸液2を用いて捕集体の主面上に、ポリスルホン繊維ウェブを調製した。そして、調製したポリスルホン繊維ウェブを捕集体から剥がし、180℃で30分間加熱処理することで構成繊維中に残留している溶媒を揮発させて除去し、ポリスルホン不織布(目付:2.8g/m2、厚さ:14μm、平均繊維径:470nm)を調製した。
【0042】
(実施例1)
紡糸液1を用いて捕集体の主面上に、ポリエーテルスルホン繊維ウェブを調製した。次いで、ポリエーテルスルホン繊維ウェブの露出する主面上に、紡糸液2を用いてポリスルホン繊維ウェブ(ポリエーテルスルホン繊維ウェブと同目付)を調製した。
このようにして調製した、ポリエーテルスルホン繊維ウェブ層-ポリスルホン繊維ウェブ層の2層構造を備えた積層繊維ウェブを捕集体から剥がし、180℃で30分間加熱処理することで構成繊維中に残留している溶媒を揮発させて除去し、積層不織布(ポリエーテルスルホン繊維層-ポリスルホン繊維層を備える、目付:2.8g/m2、厚さ:13μm、ポリエーテルスルホン繊維層の平均繊維径:380nm、ポリスルホン繊維層の平均繊維径:360nm)を調製した。
【0043】
(実施例2)
紡糸液1を用いて捕集体の主面上に、ポリエーテルスルホン繊維ウェブを調製した。次いで、ポリエーテルスルホン繊維ウェブの露出する主面上に、紡糸液2を用いてポリスルホン繊維ウェブ(ポリエーテルスルホン繊維ウェブの2倍の目付)を調製した。更に、ポリスルホン繊維ウェブの露出する主面上に、紡糸液1を用いて新たにポリエーテルスルホン繊維ウェブ(捕集体の主面上に調製した、前記ポリエーテルスルホン繊維ウェブと同目付)を調製した。
このようにして調製した、ポリエーテルスルホン繊維ウェブ層-ポリスルホン繊維ウェブ層-ポリエーテルスルホン繊維ウェブ層の3層構造を備えた積層繊維ウェブを捕集体から剥がし、180℃で30分間加熱処理することで構成繊維中に残留している溶媒を揮発させて除去し、積層不織布(ポリエーテルスルホン繊維層-ポリスルホン繊維層-ポリエーテルスルホン繊維層を備える、目付:3.1g/m2、厚さ:12μm、ポリエーテルスルホン繊維層の露出する両主面における平均繊維径:355nm)を調製した。
【0044】
上述のようにして調製した、実施例および比較例の各不織布を以下の測定方法へ供し、測定結果を表1にまとめた。
【0045】
(高温条件下における、構造体の寸法変化百分率の測定方法)
評価対象物から、主面上における一辺(たて方向と称する)の長さが100mm、主面上におけるたて方向と垂直を成す方向(よこ方向と称する)の長さが100mmの正方形状の試料を採取した。そして、採取した試料を210℃雰囲気下に10分間静置することで加熱した。
加熱処理後の試料における、たて方向およびよこ方向の長さを測定した。測定値を以下式へ代入することで、たて方向およびよこ方向における寸法変化の百分率を各々算出した。なお、該百分率が小さいほど、寸法変化しにくい特性を有する測定対象物であることを意味する。
寸法変化百分率(%)=|{1-(C/100)}×100|
C:加熱処理後の試料における、たて方向あるいはよこ方向の長さ(mm)
【0046】
(親水性液中における、構造体の寸法変化百分率の測定方法)
評価対象物から、主面上における一辺(たて方向と称する)の長さが100mm、主面上におけるたて方向と垂直を成す方向(よこ方向と称する)の長さが100mmの正方形状の試料を採取した。そして、採取した試料を25℃の親水性液(純水(蒸留、イオン交換を経た二次蒸留水に相当)20重量部とイソプロピルアルコール80重量部の混合液)中に5分間浸漬した。そして、試料を取り出し、ステンレス製のバットにシワが無いように載せた。
浸漬処理後の試料における、たて方向およびよこ方向の長さを測定した。測定値を以下式へ代入することで、たて方向およびよこ方向における寸法変化百分率を各々算出した。なお、該百分率が小さいほど、寸法変化しにくい特性を有する測定対象物であることを意味する。
寸法変化百分率(%)=|{(D/100)-1}×100|
D:浸漬処理後の試料における、たて方向あるいはよこ方向の長さ(mm)
【0047】
【0048】
ポリエーテルスルホン樹脂からなる比較例1の構造体(ポリエーテルスルホン不織布)は、ポリスルホン樹脂からなる比較例2の構造体(ポリスルホン不織布)よりも、高温条件下において寸法変化し難いものの、親水性液中に浸漬した際に寸法変化し易いものであった。また、ポリスルホン樹脂からなる比較例2の構造体(ポリスルホン不織布)は、ポリエーテルスルホン樹脂からなる比較例1の構造体(ポリエーテルスルホン不織布)よりも、高温条件下において寸法変化し易いものの、親水性液中に浸漬した際に寸法変化し難いものであった。
一方、ポリエーテルスルホン樹脂からなる繊維層とポリスルホン樹脂からなる繊維層を備えた、実施例1の構造体(積層不織布)は、ポリエーテルスルホン樹脂からなる比較例1の構造体(ポリエーテルスルホン不織布)よりも親水性液中に浸漬した際に寸法変化し難いと共に、ポリスルホン樹脂からなる比較例2の構造体(ポリスルホン不織布)よりも、高温条件下において寸法変化し難いものであった。
【0049】
更に、実施例1の構造体は比較例1および2の構造体よりも、親水性液中における構造体の寸法変化百分率が低いものであった。これは、実施例1の構造体が比較例1および2の構造体よりも、親水性液中に浸漬した際に寸法変化し難い構造であり、液体中での耐膨潤性に優れる構造体であることを意味するものである。
【0050】
また、実施例2の構造体は、ポリエーテルスルホン樹脂からなる比較例1の構造体(ポリエーテルスルホン不織布)よりも親水性液中に浸漬した際に寸法変化し難いと共に、ポリスルホン樹脂からなる比較例2の構造体(ポリスルホン不織布)よりも、高温条件下において寸法変化し難いものであった。
【0051】
以上から、本発明によって、更に、諸特性が向上したポリスルホン系樹脂を有する構造体、特に、寸法変化が抑制されたポリスルホン系樹脂を有する構造体を実現できた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の構造体は、様々な産業用途(例えば、水処理膜などの液体分離膜や気体分離膜、医療用材料、イオン交換膜や透析膜、燃料電池の高分子電解質膜などといった様々な産業用途に使用可能な膜の支持体として、あるいは、キャパシタや一次/二次電池などの電気化学素子用セパレータ、プリプレグ、気体フィルタや液体フィルタなど)に使用できる。