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  • 特許-自動車用部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】自動車用部品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20220720BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20220720BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220720BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220720BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20220720BHJP
   C09D 133/08 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
B32B7/022
C09D5/00 D
C09D5/02
C09D133/00
C09D133/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018190944
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020059187
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】特許業務法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】高田 親也
(72)【発明者】
【氏名】林 祐美子
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 恵美
(72)【発明者】
【氏名】中根 健
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-240960(JP,A)
【文献】特開2006-88025(JP,A)
【文献】特開2008-237940(JP,A)
【文献】特開2004-351390(JP,A)
【文献】特開平3-12269(JP,A)
【文献】特開2006-169416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 5/00-5/02
C09D 133/00-133/08
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み1.5~2.5mm、エラストマー成分で変性されたポリプロピレン樹脂組成物からなるプラスチック素材に塗膜層を形成して得られた自動車用部品であって、
前記塗膜層は、
(a)単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%であるプライマー塗料、
(b)着色剤を含有するベース塗料、
(c)少なくとも、水酸基価80~220mgKOH/gである線状アクリルポリオール(c-1)、一分子あたりのラジカル重合性不飽和基数2~4の多官能単量体(c-2-1)2~30重量部及び重合性不飽和基を1つ有する単官能単量体(c-2-2)98~70重量部を構成単位として有し、ガラス転移点が70~120℃である架橋アクリル樹脂(c-2)、
並びに、硬化剤(c-3)を含有するクリヤー塗料
をこの順で塗装・焼付して得られた複層塗膜であり、
-30℃でのデュポン衝撃強度が4.9J以上であることを特徴とする自動車用部品。
【請求項2】
ベース塗料は、溶剤系一液、溶剤系二液又は水性一液である請求項1に記載の自動車用部品。
【請求項3】
架橋アクリル樹脂(c-2)は、重量平均分子量が15000~200000である請求項1又は2に記載の自動車用部品。
【請求項4】
線状アクリルポリオール(c-1)と架橋アクリル樹脂(c-2)の重量比が(c-1)/(c-2)=90/10~50/50である請求項1~3のうちいずれか1項に記載の自動車用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上は省エネルギーや二酸化炭素排出量低減という観点から従来以上に重要視されるようになってきている。このような観点から、自動車部品の軽量化が推進され続けている。自動車用に使用されるプラスチック製部品(例えば、バンパー、モール等)についても軽量化の検討がなされており、軽量化を目的とした薄肉化が検討されつつある。
【0003】
プラスチック製品の強度は、その厚みと密接な関係を有し、薄肉化した場合には強度が低下してしまうという問題を有する。更に、自動車は種々の使用環境においても適用することが必要とされる。このような使用環境のなかにはきわめて過酷な環境も想定され、このような環境に適応できなければならない。その一例として-30℃以下という寒冷地での使用を挙げることができる。しかしながら、薄肉化したプラスチック製自動車部品は-30℃といった低温条件下では充分な耐衝撃性が得られないという問題を有する。
【0004】
プラスチック製の自動車部品においては、通常は塗装を行うことが行われる。よって、耐衝撃性等の諸物性を有する塗膜を形成することによって、このような問題を改善する試みが行われている。
【0005】
特許文献1においては、ヤング率、伸び率、破断強度が特定の範囲内のものである塗料組成物用樹脂粒子が開示されており、樹脂粒子を含有する塗料組成物を使用することによって、耐チッピング性に優れた塗膜を形成することが記載されている。しかし、これは塗料において使用される樹脂の組成に関する発明ではない。また低温での耐衝撃性を改善するための試みはなされていない。
【0006】
特許文献2においては、第一ベース塗料としてヤング率、破壊エネルギーにおいて特定の物性を有する塗料を使用する複層塗膜形成方法が記載されている。しかし、低温での耐衝撃性を改善するための試みはなされていない。
【0007】
特許文献3においては、金属板上プライマー、中塗り塗料、上塗り塗料を塗装する塗装方法が記載されている。しかし、低温での耐衝撃性を改善するための試みはなされていないし、プラスチック製品の塗装に関する記載も存在しない。
【0008】
一方、塗料分野において使用されるアクリル系樹脂において、多官能モノマーを一部に使用して得られたポリマーを使用することはほとんど検討がなされていない。このようなものとしては、例えば、特許文献4、5においてこのような樹脂組成物が開示されている。しかし、これらを自動車部品用の塗料として使用することに関しては記載がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-270014号公報
【文献】特開2003-181368号公報
【文献】特開2000-204483号公報
【文献】特開2004-131689号公報
【文献】特開平01-131219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述したような課題を解決し、薄肉化されたプラスチック製の部品に対して寒冷地においても十分に使用可能な耐衝撃性を付与できることから、軽量化による燃費改善を行うことができる自動車用部品を提供する
ことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、厚み1.5~2.5mm、エラストマー素材で変性されたポリプロピレン樹脂組成物からなるプラスチック素材に塗膜層を形成して得られた自動車用部品であって、
前記塗膜層は、
(a)単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%であるプライマー塗料、
(b)着色剤を含有するベース塗料、
(c)少なくとも、水酸基価80~220mgKOH/gである線状アクリルポリオール(c-1)、一分子あたりのラジカル重合性不飽和基数2~4の多官能単量体(c-2-1)2~30重量部及び重合性不飽和基を1つ有する単官能単量体(c-2-2)98~70重量部を構成単位として有し、ガラス転移点が70~120℃である架橋アクリル樹脂(c-2)、
並びに、硬化剤(c-3)を含有するクリヤー塗料
をこの順で塗装・焼付して得られた複層塗膜であり、
-30℃でのデュポン衝撃強度が4.9J以上であることを特徴とする自動車用部品である。
【0012】
上記ベース塗料は、溶剤系一液、溶剤系二液又は水性一液であることが好ましい。
上記架橋アクリル樹脂(c-2)は、重量平均分子量が15000~200000であることが好ましい。
上記線状アクリルポリオール(c-1)と架橋アクリル樹脂(c-2)の重量比は、(c-1)/(c-2)=90/10~50/50であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の自動車用部品は、塗膜が有する優れた性能によって優れた耐衝撃性を有するものであることから、薄肉であるにもかかわわらず低温でも耐衝撃性を有する。これによって自動車部品の重量の低減を図り、自動車の燃費改善の効果を図るものである。また、耐ガソホール性においても優れた性能を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のガラス転移点の測定においてチャートからの測定値読み取り方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
(プラスチック素材)
厚み1.5~2.5mm、エラストマー素材で変性されたポリプロピレン樹脂組成物からなるプラスチック素材に塗膜層を形成して得られた自動車用部品である。すなわち、厚み1.5~2.5mmという薄肉物品においても、充分な低温耐衝撃性を付与できるような塗膜の形成を行ったものである。
【0016】
本発明のプラスチック素材は、エラストマー素材で変性されたポリプロピレン樹脂組成物からなるものである。エラストマー素材で変性されたポリプロピレン樹脂としては、特に限定されず、公知の市販のものを使用することができる。更に、樹脂以外に必要に応じて添加剤を添加したものであってもよい。
【0017】
本発明においては、厚み1.5~2.5mmの上記プラスチック素材に塗膜を形成したものである。このようなプラスチック素材としては、自動車バンパー、モール等の自動車用部品などを挙げることができる。また、上記厚みは、プラスチック部品のうち最も厚みが薄い部分が上記範囲内であるものを指す。
【0018】
(塗膜層)
本発明の自動車用部品において形成された塗膜層は、プライマー塗料、着色剤を含有するベース塗料及びクリヤー塗料をこの順で塗装・焼付して得られた複層塗膜である。特に、クリヤー塗膜において、一分子あたりのラジカル重合性不飽和基数2~4の多官能単量体(c-2-1)2~30重量部及び単官能(メタ)アクリル単量体(c-2-2)98~70重量部を構成単位として有し、ガラス転移点が70~120℃である架橋アクリル樹脂(c-2)を使用する点に特徴を有するものである。
【0019】
上記ラジカル重合性不飽和基数2~4の多官能単量体を共重合した重合体は、従来、塗料分野においてほとんど検討がなされていない樹脂である。本発明者らはこのような樹脂を配合した塗料について検討を行った結果、従来の塗料よりも優れた耐衝撃性を有することを見出したものである。特に、一分子あたりのラジカル重合性不飽和基数2~4の多官能単量体(c-2-1)を使用し、Tgが70~120℃であるような樹脂を使用することで耐衝撃性を改善する。更に、プライマー塗料においても、-20℃での引張伸度が5~35%であるような柔軟な樹脂とすることで衝撃エネルギーを吸収し、衝撃時の基材と塗膜の界面での剥離を生じにくいものとすることで、上記目的を達成したものである。
【0020】
また、ラジカル重合性不飽和基数2~4の多官能単量体(c-2-1)を使用して得られた重合体は、架橋構造を有するものであることから、耐衝撃性が良好な塗膜を形成しやすいものである。通常、高ガラス転移点であるような樹脂を使用した場合は、熱硬化時の反応が進行しにくい。しかしながら、ラジカル重合性不飽和基数2~4の多官能単量体(c-2-1)を使用して得られた重合体は、重合体の状態で架橋構造を有していることから、充分な衝撃強度を得ることができるものである。
【0021】
(プライマー塗料)
本発明のプライマー塗料は、単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%であるプライマー塗料である。なお、ここでの引張伸度は、以下に示した方法によって測定した値である。
【0022】
<引張伸度の測定方法>
(i)塗膜がハクリ可能な塗板上に乾燥膜厚が30μmになるように塗装し、塗装後に80℃で25分間乾燥させて塗膜を形成する。
(ii)縦10mm×横50mmの大きさに試験片を作製し、両端にマスキングテープを貼りつけ、マスキングテープの残り半分を裏面へ折り返す。
(iii)島津オートグラフ(AG-IS)にてマイナス20℃の環境下、5mm/minの引張り速度で測定する。
(iv)5サンプル測定してその平均値を算出する
【0023】
上記プライマーとしては上述した引張伸度を満たすものであれば特に限定されないが、プラスチック素材に導電性を付与することができる導電性プライマーが好ましい。なかでも、水性導電プライマーであることが好ましく、例えば、プライマー用樹脂及び導電剤(カーボンブラック、アンチモンドープ酸化スズ処理酸化チタン等)、さらに必要に応じて白色顔料や、その他の原料を含んだものを挙げることができる。
【0024】
上記水性導電プライマー中の水の配合割合は、導電プライマー全体に対して、好ましくは45~90質量%、さらに好ましくは50~80質量%である。水の配合割合が45質量%未満であると、粘度が高くなり、貯蔵安定性や、塗装作業性が低下する。他方、水の配合割合が90質量%を超えると、不揮発分量の割合が低下し、塗装効率が悪くなり、タレ、ワキなどの外観異常が生じやすくなる。上記水性導電プライマーは、有機溶剤をさらに含んでもよく、その配合割合は、通常、含まれる水に対して40質量%以下である。
【0025】
上記水性導電プライマーのプライマー用樹脂成分としては、酸変性ポリプロピレン、酸変性塩素化ポリオレフィン、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂;水性アルキッド樹脂、水溶性アクリル樹脂等の顔料分散樹脂などを用いることが好ましい。これらのすべてを含有するものであってもよい。
【0026】
上記プライマーは、例えば、スプレー塗装やベル塗装などの手法で塗ることができる。上記基材は、必要に応じて、洗浄、脱脂しておいてもよい。
【0027】
プライマー塗膜は、乾燥膜厚で5~30μmであることが好ましい。5μm未満では隠ぺい性不足となり、30μmを超えるとワキやタレが発生し易くなる。好ましくは10~20μmである。上記乾燥膜厚は、SANKO社製SDM-miniRを用いて測定することができる。
【0028】
本発明において、プライマー塗料組成物の塗膜伸び率は、塗料組成物の組成の調整、使用する樹脂の組成を当業者に周知の方法で調整することによって、所定の範囲に調整することができる。また、塗料用アルキド樹脂、塗料用ポリエステル樹脂、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールやその混合物等のソフトナーを使用して調整することもできる。
【0029】
(ベース塗料)
本発明においては、着色剤を含有するベース塗料を使用する。このようなベース塗料としては特に限定されず、公知の任意のものを使用することができる。着色剤としても公知の任意の無機顔料、有機顔料等を含有するものを使用することができる。その配合量も特に限定されるものではない。塗料は水性であっても、溶剤系であってもよい。また、着色ベース層及びマイカベース層の2層からなるものであってもよい。ベース塗膜の厚みは、10~30μmであることが好ましい。10μm未満では隠蔽性が不足するという問題を生じるおそれがあり、30μmを超えるとタレ、ワキ等の不具合が発生するおそれがある。好ましくは15~20μmである。上記乾燥膜厚は、SANKO社製SDM-miniRを用いて測定することができる。
【0030】
上記ベース塗料は、溶剤系一液、溶剤系二液又は水性一液であることが好ましい。これらのいずれの形態のものであっても、本発明の目的に好適に使用することができる。
【0031】
(クリヤー塗料)
本発明においては、クリヤー塗料として、少なくとも、水酸基価80~220mgKOH/gである線状アクリルポリオール(c-1)、一分子あたりのラジカル重合性不飽和基数2~4の多官能単量体(c-2-1)2~30重量部及び単官能(メタ)アクリル単量体(c-2-2)98~70重量部を構成単位として有し、ガラス転移点が70~120℃である架橋アクリル樹脂(c-2)、並びに、硬化剤(c-3)を含有するクリヤー塗料を使用する。
【0032】
(線状アクリルポリオール(c-1))
上記線状アクリルポリオール(c-1)としては、特に限定されず、塗料分野において使用される通常の線状アクリルポリオールを使用することができる。上記線状アクリルポリオール(c-1)は、水酸基価が80~220mgKOH/gであることが必要である。水酸基価が80mgKOH/g未満であると、クリヤー塗膜の架橋密度が低下するため、耐溶剤性、耐候性などが不充分であるという問題を生じ、220mgKOH/gを超えると、水酸基が残存して、耐水性や耐湿性が低下するという問題を生じる。上記下限は、95mgKOH/gであることがより好ましく、110mgKOH/gであることが更に好ましい。上記上限は、200mgKOH/gであることがより好ましく、180mgKOH/gであることが更に好ましい。
【0033】
上記線状アクリルポリオール(c-1)を構成する単量体として使用できる単量体としては、特に限定されず、単官能(メタ)アクリレート、ビニル系単量体、アミド系単量体等を挙げることができる。
【0034】
単官能(メタ)アクリレートの例は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル-γ-(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びこれらの変性物(誘導体)〔例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、γ-ブチロラクトン又はε-カプロラクトン付加物〕、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ポリジメチルシロキサンマクロマー、γ‐(メタ)クリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0035】
ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルピリジン等のビニル系芳香族化合物の他、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等の他のビニル系単量体、及びこれらの変性物(誘導体)等を挙げることができる。
【0036】
アミド系単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、tert-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、及びこれらの変性物(誘導体)等を挙げることができる。マレイミド誘導体としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ブチルマレイミド等を挙げることができる。
【0037】
なお、上記線状アクリルポリオール(c-1)は、原則的に不飽和官能基を2以上有する単量体を使用しないものであるが、物性に影響を与えない範囲で微量に不飽和官能基を2以上有する単量体を含有するものであってもよい。このような不飽和官能基を2以上有する単量体の使用量は、1.0重量%以下であることが好ましい。
【0038】
上記線状アクリルポリオール(c-1)は、重量平均分子量が3500~10000の範囲内のものであることが好ましい。重量平均分子量が3500未満であると、耐溶剤性、耐候性、外観などが充分ではないという問題を生じるおそれがあり、10000を超えると、高粘度のため塗装作業性や外観が低下するという問題を生じるおそれがある。上記下限は、4000であることがより好ましく、4500であることが更に好ましい。上記上限は、8000であることがより好ましく、6000であることが更に好ましい。
【0039】
なお、本明細書における重量平均分子量は、東ソー(株)製 HLC-8200を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定した値である。測定条件は以下の通りである。
カラム TSgel Super Multipore HZ-M 3本
展開溶媒 テトラヒドロフラン
カラム注入口オーブン 40℃
流量 0.35ml
検出器 RI
標準ポリスチレン 東ソー(株)製PSオリゴマーキット
【0040】
上記線状アクリルポリオール(c-1)は、ガラス転移温度が-10~80℃であることが好ましい。ガラス転移温度が-10℃未満であると、塗膜の耐汚染性、耐擦り傷性が不充分であるという問題を生じるおそれがあり、80℃を超えると、耐屈曲性が不充分という問題を生じるおそれがある。上記下限は、20℃であることがより好ましく、40℃であることが更に好ましい。上記上限は、70℃であることがより好ましく、65℃であることが更に好ましい。
【0041】
本明細書におけるガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)(熱分析装置SSC5200(セイコー電子製))にて以下の工程により測定した値を用いた。すなわち、昇温速度10℃/minにて20℃から150℃に昇温する工程(工程1)、降温速度10℃/minにて150℃から-50℃に降温する工程(工程2)、昇温速度10℃/minにて-50℃から150℃に昇温する工程(工程3)において、工程3の昇温時のチャートから得られる値である。即ち、図1で示されるチャートの矢印で示される温度をTgとした。
【0042】
上記線状アクリルポリオール(c-1)は、有機溶媒中での溶液重合、水分散体中での乳化重合等の公知の任意の方法によって得ることができる。
【0043】
(架橋アクリル樹脂(c-2))
上記架橋アクリル樹脂(c-2)は、一分子あたりのラジカル重合性不飽和基数2~4の多官能単量体(c-2-1)2~30重量部及び単官能(メタ)アクリル単量体(c-2-2)98~70重量部を構成単位として有するものである。なお、当該架橋アクリル樹脂(c-2)は、溶媒中に溶解又はナノ粒子の状態で微細分散した状態のものである。このため、樹脂溶液としては透明性を有するため、クリヤー塗膜の透明性に影響を与えることもない。この点で、塗料分野で使用される粒子径が大きい内部架橋粒子とは明確に異なるものである。
【0044】
一分子あたりのラジカル重合性不飽和基数2~4の多官能単量体(c-2-1)は、官能基数2~4の(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0045】
官能基数2の(メタ)アクリレートの例は、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールートリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等を含む。なかでも、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等を好ましく用いることができる。
【0046】
官能基数3のメタクリレートの例は、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等を含む。なかでも、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等を好ましく用いることができる。
【0047】
官能基数4のメタクリレートの例は、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等を含む。なかでも、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等を好ましく用いることができる。多官能単量体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
重合性不飽和基を1つ有する単官能単量体(c-2-2)は、不飽和結合を1つのみ有する単量体である。このようなものとしては、上述した線状アクリルポリオール(c-1)の原料単量体として使用することができるものとして例示した単官能(メタ)アクリレート、ビニル系単量体、アミド系単量体等の各種単量体を使用することができる。
【0049】
上記架橋アクリル樹脂(c-2)において、ガラス転移温度は、70~120℃である。当該範囲内であることによって、低温環境下で脆性化することにより、衝撃時に塗膜だけが破壊されて衝撃エネルギーを分散し、素材の破壊を防止する、という効果が得られる。ガラス転移温度の測定は、上述した線状アクリルポーオール(c-1)における測定方法と同一の方法によって行うことができる。
【0050】
上記(c-2)においては、多官能単量体(c-2-1)2~30重量部及び単官能(メタ)アクリル単量体(c-2-2)98~70重量部の割合で使用する。
上記多官能単量体(c-2-1)が2重量部未満であると、充分な低温耐衝撃性が得られない。また、30重量%を超えると、重合の際にゲル化を生じてしまい、樹脂を得ることが困難となる。
【0051】
単官能(メタ)アクリレート(c-2-2)として、水酸基含有(メタ)アクリレートを使用する場合は、得られた樹脂の水酸基価が0~50mgKOH/gとなる割合で配合することが好ましい。塗料用樹脂と使用する場合は、当該範囲内とすることで硬化反応を好適に行うことができる。
【0052】
上記(c-2-3)として(メタ)アクリル酸を使用する場合、得られた樹脂の酸価が0~10mgKOH/gとなる割合で配合することが好ましい。塗料用樹脂と使用する場合は、当該範囲内とすることで必要に応じて硬化反応を好適に行うことができる。
【0053】
上記架橋アクリル樹脂(c-2)は、重量平均分子量が15000~200000であることが好ましい。当該範囲内のものとすることで、充分な低温耐衝撃性が得られるという点で好ましいものである。上記下限は、17000であることがより好ましく、20000であることが更に好ましい。上記上限は、100000であることがより好ましく、50000であることが更に好ましい。重量平均分子量の測定は、上述した線状アクリルポーオール(c-1)における測定方法と同一の方法によって行うことができる。
【0054】
(架橋アクリル樹脂(c-2)の製造方法)
上記架橋アクリル樹脂(c-2)の製造は、その製造方法を特に限定されるものではないが、有機溶剤中、ラジカル重合開始剤の存在下に所定の温度領域でラジカル重合を行うことが好ましい。具体的には、特に制限されないが、所定の温度領域に調整された反応容器内に、単量体組成物、ラジカル重合開始剤及び任意で添加される有機溶剤からなる混合物を添加する方法を好適に採用することができる。
【0055】
ラジカル重合開始剤としては、tert-アミルパーオキシピバレート、AIBNの他、一般的に用いられるラジカル重合開始剤を用いることができ、例えば、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシオクトエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルへキサノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-アミルパーオキシネオデカノエート、tert-アミルパーオキシオクトエート、tert-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-アミルパーオキシネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、スクシニックパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル等を挙げることができる。
ラジカル重合開始剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
ラジカル重合開始剤の使用量は、使用する単量体組成物100重量部に対して、通常0.5~10重量部程度であり、好ましくは1~8重量部である。
【0057】
有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロペンタン、オクタン、ヘプタン、シクロヘキサン、ホワイトスピリット等の炭化水素類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ベンジル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;n-ブタノール、プロピルアルコール等のアルコールを挙げることができる。有機溶剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
なかでも有機溶剤としては、単量体組成物を溶解可能な溶剤であることが好ましく、単量体組成物及び生成する架橋重合体(A)の双方を溶解可能な溶剤、すなわち溶液重合を実現可能な溶剤であることがより好ましい。このような有機溶剤として、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルイソブチルケトン等を好ましく用いることができる。単量体組成物の使用量に対する有機溶剤の使用量は、少なくとも単量体組成物の全量又はほぼ全量を溶解できる量であることが好ましく、単量体組成物及び生成する架橋重合体(A)の全量又はほぼ全量を溶解できる量であることがより好ましい。単量体と有機溶剤の重量比は、5/95~65/35であることが好ましい。単量体の割合が5/95より小さい場合は、生産性に乏しく、単量体の割合が65/35を超える場合は、ゲル化を生じやすくなる。上記重量比は、10/90~60/40であることがより好ましく、15/85~55/45であることが更に好ましい。
【0059】
(線状アクリルポリオール(c-1)と架橋アクリル樹脂(c-2)の混合比)
本発明において使用するクリヤー塗料においては、上記線状アクリルポリオール(c-1)と架橋アクリル樹脂(c-2)との混合比は、(c-1)/(c-2)=90/10~50/50とすることが好ましい。上記範囲を超えて線状アクリルポリオール(c-1)を配合した場合には、充分な低温耐衝撃性が得られないという点で好ましいものではない。上記範囲を超えて架橋アクリル樹脂(c-2)を配合した場合は、耐屈曲性が不充分であるという点で好ましいものではない。
【0060】
(硬化剤(c-3))
硬化剤(c-3)としては特に限定されず、水酸基、カルボキシル基等と反応を生じる官能基を2以上有する化合物を使用することができる。このような化合物としては例えば、ポリイソシアネート;メラミン樹脂等のアミノ樹脂等を挙げることができる。
【0061】
上記ポリイソシアネートとしては、イソシアネート基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート等の芳香族のもの;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族のもの;イソホロンジイソシアネート等の脂環族のもの;その単量体及びそのビュレットタイプ、ヌレートタイプ、アダクトタイプ等の多量体等を挙げることができる。
【0062】
上記ポリイソシアネートの市販品としては、デュラネート24A-90PX(NCO:23.6%、商品名、旭化成社製)、スミジュールN-3200-90M(商品名、住化バイエルウレタン社製)、タケネートD165N-90X(商品名、三井武田ケミカル社製)、スミジュールN-3300、スミジュールN-3500(いずれも商品名、住化バイエルウレタン社製)、デュラネートTHA-100(商品名、旭化成社製)等を挙げることができる。また、必要に応じてこれらをブロックしたブロックイソシアネートを使用することもできる。
【0063】
上記塗料組成物において、上記硬化剤(c-3)中のNCO基と上記線状アクリルポリオール(c-1)と架橋アクリル樹脂(c-2)中のOH基の合計の当量比(NCO/OH)は、0.8/1~1.2/1であることが好ましい。0.8/1未満であると、クリヤー塗膜の塗膜強度が不充分となるおそれがある。1.2/1を超えると、耐候性や硬度が不充分になるおそれがある。上記当量比(NCO/OH)は、0.9/1~1.1/1であることがより好ましい。
【0064】
アミノ樹脂とは、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン等のアミノ化合物とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド化合物との縮合体にメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコールを変性させて得た縮合体である。
【0065】
上記アミノ樹脂は、分子量が500~2000のものが好ましい。これらの例としては、商標サイメル235、238、285、232(三井サイテック株式会社製)の名前で販売されているメラミン樹脂等を挙げることができる。
【0066】
上記アミノ樹脂の配合量は、塗料樹脂固形分100質量部当たり、下限15質量部、上限35質量部の範囲内であることが好ましい。配合量が15質量部未満であると硬化性等が低下するおそれがあり、35質量部を超えると、付着性、耐温水性等が低下するおそれがある。上記下限は、20質量部がより好ましい。
【0067】
(その他の添加剤)
上記クリヤー塗料においては、上述した成分以外に、塗料分野において一般的に配合される添加剤を配合するものであってもよい。例えば、透明性を阻害しない範囲において、ベースカラー顔料やメタリック顔料を含有させることができる。さらに、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、架橋樹脂粒子、表面調整剤等を配合することもできる。
【0068】
(2液溶剤型クリヤー塗料)
本発明において使用するクリヤー塗料は、その形態を特に限定されるものではないが、線状アクリルポリオール(c-1)と架橋アクリル樹脂(c-2)を含有する主剤溶液と、硬化剤(c-3)を含有する硬化剤溶液とからなる2液硬化型クリヤー塗料とすることが好ましい。
【0069】
クリヤー塗膜の厚みは、15~50μmであることが好ましい。15μm未満では下地の凹凸が隠蔽できないという問題を生じるおそれがあり、50μmを超えると塗装時にワキ・タレなどの不具合が起こるという問題を生じるおそれがある。好ましくは20~45μmである。上記乾燥膜厚は、SANKO社製SDM-miniRを用いて測定することができる。
【0070】
(複層塗膜の塗装方法)
本発明の自動車用部品は、上述したプライマー層、ベース層及びクリヤー層を有する複層塗膜を有するものであるが、その形成方法は特に限定されるものではなく、バンパー等の自動車用プラスチック部品の塗装において使用される通常の塗装方法によって、塗膜を形成することができる。
【0071】
本発明の複層塗膜の形成方法は、基材の表面に、プライマー、カラーベース塗料組成物及びクリヤー塗料組成物をこの順番に塗り重ねて、複層の未硬化膜を形成し、焼き付け工程を行うものであってもよい。
【0072】
この場合の焼き付け温度は、迅速な硬化とプラスチック成型品の変形防止との兼ね合いから、例えば、80~120℃とすることが好ましい。好ましくは、90~110℃である。焼き付け時間は、通常10~60分間であり、好ましくは15~50分間、さらに好ましくは20~40分間である。焼き付け時間が10分間未満であると、塗膜の硬化が不充分であり、硬化塗膜の耐水性及び耐溶剤性などの性能が低下する。他方、焼き付け時間が60分間を超えると、硬化しすぎでリコートにおける密着性などが低下し、塗装工程の全時間が長くなり、エネルギーコストが大きくなる。なお、この焼付け時間は、基材表面が実際に目的の焼き付け温度を保持しつづけている時間を意味し、より具体的には、目的の焼き付け温度に達するまでの時間は考慮せず、目的の温度に達してから該温度を保持しつづけているときの時間を意味する。
【0073】
塗料の未硬化膜を同時に焼き付けるのに用いる加熱装置としては、例えば、熱風、電気、ガス、赤外線などの加熱源を利用した乾燥炉などが挙げられ、また、これら加熱源を2種以上併用した乾燥炉を用いると、乾燥時間が短縮されるため好ましい。
【0074】
本発明の自動車用部品における複層塗膜は、-30℃でのデュポン衝撃強度が4.9Jである。このようなものとすることで、欧州や中国等の寒冷地において、スノーバンクとぶつかった場合にもバンパーの破損をふせぐことができるものとなる。
【0075】
上記-30℃でのデュポン衝撃強度は、以下の実施例において詳述した方法によって測定したものである。
【実施例
【0076】
以下、本発明を実施例によって説明する。実施例中、配合割合において%とあるのは特に言及がない限り重量%を意味する。本発明は以下に記載した実施例に限定されるものではない。
【0077】
製造例 1
ポリプロピレンエマルジョンの製造
(製造例1-1 ポリオレフィンの製造)
1000ml丸底フラスコに、脱塩水110ml、硫酸マグネシウム・7水和物22.2g及び硫酸18.2gを採取し、攪拌下に溶解させた。この溶液に、市販の造粒モンモリロナイト16.7gを分散させ、100℃まで昇温し、2時間攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、得られたスラリーを濾過してウェットケーキを回収した。回収したケーキを1000ml丸底フラスコにて、脱塩水500mlにて再度スラリー化し、濾過を行った。この操作を2回繰り返した。最終的に得られたケーキを、窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥し、化学処理モンモリロナイト13.3gを得た。
【0078】
得られた化学処理モンモリロナイト4.4gに、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.4mmol/ml)20mlを加え、室温で1時間攪拌した。この懸濁液にトルエン80mlを加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリー(スラリー濃度=99mg粘土/ml)を得た。
別のフラスコに、トリイソブチルアルミニウム0.2mmolを採取し、ここで得られた粘土スラリー19ml及びジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4-ジメチル-4H-5,6,7,8-テトラヒドロ-1-アズレニル)ハフニウム131mg(57μmol)のトルエン希釈液を加え、室温で10分間攪拌し、触媒スラリーを得た。
【0079】
次いで、内容積24リッターの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トルエン11L、トリイソブチルアルミニウム3.5mmol及び液体プロピレン2.64Lを導入した。室温で、上記触媒スラリーを全量導入し、67℃まで昇温し重合時の全圧を0.65MPa、水素濃度を400ppmで一定に保持しながら、同温度で2時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応プロピレンをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放してポリマーのトルエン溶液を全量回収し、溶媒並びに粘土残渣を除去したところ10.9質量%のポリプロピレントルエン溶液を11kg(1.20kgポリプロピレン)得た。得られたポリプロピレンの重量平均分子量Mwは300000(Pst換算値)、PP部の結晶化度は45%であった。
【0080】
(製造例1-2 無水マレイン酸変性ポリプロピレンの製造)
還流冷却管、温度計、攪拌機の付いたガラスフラスコ中に、製造例1-1で得られたポリプロピレン400gとトルエン600gとを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後無水マレイン酸100gを加え、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製、パーブチルI(PBI))30gを加え、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、系を室温付近まで冷却し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別した。更に、アセトンで沈殿・濾別を繰り返し、最終的に得られたポリマーをアセトンで洗浄した。洗浄後に得られたポリマーを減圧乾燥することにより、白色粉末状の無水マレイン酸変性ポリマーが得られた。この変性ポリマーの赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は、3.7質量%(0.37mmol/g)であった。また重量平均分子量は140000であった。
【0081】
(製造例1-3 ポリプロピレンエマルジョンの製造)
還流冷却管、温度計、攪拌機の付いたガラスフラスコ中に、製造例3で得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレン(重量平均分子量140000、無水マレイン酸グラフト率3.7%)100g及びテトラヒドロフラン150gとを入れ、65℃に加熱して溶解させた。次いでジメチルエタノールアミン5.8g(2化学当量)加え、温度を65℃に保ちながら、60℃のイオン交換水400gを滴下し、転相させた後、酸化防止剤としてハイドロキノン0.1gを加え、ゆっくり温度を上げてテトラヒドロフランを留去し、乳白色の分散体を得た。この分散体の固形分をイオン交換水を加えて20質量%に調整した。この水分散体の粒径は0.1μm以下であった。
【0082】
製造例2
(ポリウレタンディスパージョンの製造)
攪拌羽根、温度計、温度制御、滴下装置、サンプル採取口及び冷却管付き還流装置、窒素導入管を備えた耐圧反応容器に窒素ガスを通じながらポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ(株)製T-4671)500部、5-スルホソジゥムイソフタール酸ジメチル134部及びテトラブチルチタネート2部を仕込み、反応温度を180℃に設定してエステル化反応を行い、最終的に分子量2117、水酸基価53mgKOH/g,酸価が0.3mgKOH/gのスルホン酸基含有ポリエステルを得た。
上記スルホン酸基含有ポリエステルを280部、ポリブチレンアジペート200部、1,4-ブタンジオール35部、ヘキサメチレンジイソシアネート118部及びメチルエチルケトン400部とを、攪拌羽根、温度計、温度制御、滴下装置、サンプル採取口及び冷却管付き反応容器に窒素ガスを通じながら仕込み、攪拌しながら液温を75℃に保持してウレタン化反応を行い、NCO含有率が1%であるウレタンプレポリマーを得た。続いて、上記反応容器中温度を40℃に下げて、十分攪拌しながらイオン交換水955部を均一に滴下して転相乳化を行った。次いで、内部温度を室温に下げて、アジピン酸ヒドラジド13部とイオン交換水110部とを混合したアジピン酸ヒドラジド水溶液を添加してアミン伸長を行った。ついで、若干の減圧状態で60℃に液温をあげて脱溶剤を行い、終了した時点で、ポリウレタンディスパージョンの固形分が35%になるようにイオン交換水を追加してスルホン酸基含有ポリウレタンディスパージョンを得た。酸価は11mgKOH/gであった。
【0083】
製造例3
(内部架橋アクリルエマルジョンの製造)
脱イオン水220部にペレックス-SSH(花王社製、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)5.0部を加えた溶液に、スチレン45重量部、メチルメタクリレート25重量部、n-ブチルアクリレート25重量部、エチレングリコールジメタクリレート5重量部をゆっくり加え、乳化物を作成した。
次に、冷却器、温度計及び攪拌器を備えたガラスフラスコに、脱イオン水100部を入れ、80℃に加熱した。その後、上記乳化物及び脱イオン水15.0部と過硫酸カリウム0.03部からなる開始剤水溶液を3時間かけて滴下し目的の架橋アクリル粒子エマルションを得た。
【0084】
製造例4
(顔料分散ペーストの製造)
攪拌機の付いた適切な容器に、水性アクリル樹脂(固形分酸価:52mgKOH/g、重量平均分子量:32000、不揮発分:30質量%)11.75部、サーフィノールT324(エアープロダクツ社製顔料分散剤)2.07部、サーフィノール440(エアープロダクツ社製消泡剤)1.61部、脱イオン水38.5部、カーボンブラックECP600JD(ライオン社製導電カーボン)2.54部、タイピュア-R960(デュポン社製酸化チタン顔料)37.64部、ニプシール50B(ニホンシリカ社製のシリカ)5.89部を順に攪拌下で添加し、1時間攪拌後、ラボ用1.4リットルのダイノミルにてグライドゲージで20μ以下になるまで分散を行い、顔料分散ペーストを得た。
この顔料分散ペーストは不揮発分52質量%で粘度は60KU(20℃)であった。
【0085】
製造例5
(水酸基含有樹脂の製造)
攪拌羽根、温度計、滴下装置、温度制御装置、窒素ガス導入口および冷却管を備えた反応装置に、溶剤として酢酸ブチル140部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、攪拌下125℃まで昇温した。次に、モノマーとして、2-ヒドロキシエチルメタクリレート155.7部、スチレン45部、t-ブチルメタクリレート112.9部、n-ブチルアクリレート133.2部、メタクリル酸3.5部の混合物、および、重合開始剤として、カヤエステルO(t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサナート、化薬アクゾ社製)45部を酢酸ブチル90部に溶解した溶液を反応装置中に3時間かけて滴下した。
滴下終了後1時間熟成させ、さらに、重合開始剤カヤエステルO(t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサナート)0.9部を酢酸ブチル10部に溶解して、1時間かけて反応装置中に滴下した。その後125℃を保ったまま2時間熟成させて冷却し、反応を終了した。
得られたアクリル樹脂の重量平均分子量は7000で、不揮発分は65%であった。
【0086】
製造例6
(樹脂粒子の調製)
攪拌加熱装置、温度計、窒素導入管、冷却管およびデカンターを備えた反応容器に、ビスヒドロキシエチルタウリン213部、ネオペンチルグリコール208部、無水フタル酸296部、アゼライン酸376部、及びキシレン30部を仕込み昇温した。反応により生成した水はキシレンと共沸させて除去した。還流開始より約3時間かけて反応液温を210℃とし、カルボン酸相当の酸価が135mgKOH/g(固形分)になるまで攪拌と脱水とを継続して反応させた。
液温を140℃まで冷却した後、カージュラーE10(商品名;シェル社製のバーサティック酸グリシジルエステル)500部を30分で滴下し、その後、約2時間攪拌を継続して反応を終了した。固形分の酸価55mgKOH/g、ヒドロキシル価91mgKOH/g、および数平均分子量1250の両性イオン基含有ポリエステル樹脂を得た。
この両性イオン含有ポリエステル樹脂10部、脱イオン水140部、ジメチルエタノールアミン1部、スチレン50部及びエチレングリコールジメタクリレート50部をステンレス製ビーカー中で激しく攪拌することによりモノマー懸濁液を調製した。また、アゾビスシアノ吉草酸0.5部、脱イオン水40部およびジメチルエタノールアミン0.32部を混合することにより開始剤水溶液を調製した。
攪拌加熱装置、温度計、窒素導入管および冷却管を備えた反応容器に上記両性イオン基含有ポリエステル樹脂5部、脱イオン水280部およびジメチルエタノールアミン0.5部を仕込み、80℃に昇温した。
ここに、モノマー懸濁液251部と開始剤水溶液40.82部とを同時に60分かけて滴下し、更に、60分反応を継続した後、反応を終了させた。
動的光散乱法で測定した粒子径55nmを有する架橋性樹脂粒子エマルジョンを得た。この架橋性樹脂粒子エマルジョンにキシレンを加え、減圧下共沸蒸留により水を除去し、媒体をキシレンに置換して、固形分含有量20重量%の架橋性樹脂粒子のキシレン溶液を得
た。
【0087】
合成例1
(架橋樹脂の合成)
攪拌羽根、温度調節計、還流管、窒素導入口、滴下ロートを装着したガラス製セパラブルフラスコに酢酸ブチル300gを仕込んで温度を100℃に保った。そこに、イソボルニルメタクリレート15.2gメタアクリル酸メチル249.4g、n-ブチルメタクリレート115.4g、酢酸ブチル80.0g、トリメチロールプロパントリメタクリレート20.0g、アゾビスイソブチロニトリル16.0gからなる混合液を3時間かけて連続的に添加した。その後1時間反応を継続し、酢酸ブチル20.0g、アゾビスイソブチロニトリル2.0gの混合液を30分かけて添加し、添加終了後、30分を経過した後に冷却を開始した。
【0088】
合成例2~7、比較合成例1~4
合成例1と同様に表1に示した組成の架橋樹脂の合成を実施した。
【0089】
【表1】
【0090】
塗料の調製
(プライマーの調製)
下記表2に示した配合の水性プライマーP1~P3を作成した。
【0091】
【表2】
【0092】
(ベース塗料)
水性ベース塗料として日本ビー・ケミカル(株)社製WB-3060、溶剤系ラッカーとして日本ビー・ケミカル(株)社製R-301、溶剤系2液ベース塗料として日本ビー・ケミカル(株)社製R-784をそれぞれ用いた。
【0093】
(クリヤー塗料)
下記表3配合の主剤と硬化剤を作成した。主剤と硬化剤との混合比は100/18である。
【0094】
【表3】
【0095】
実施例1~7、比較例1~5
(塗膜の作成)
表4に示した各塗料を使用し、以下の手順で塗膜を作成した。
(i)ポリプロピレン素材を中性洗剤で水洗い(脱脂洗浄)し、エアーブローで乾燥した
(ii)水性プライマーを乾燥膜厚が10μmになるように塗装し、80℃で5分乾燥した。
(iii)ベース塗料クリヤー塗料の塗装はWB-3060の場合、乾燥膜厚15μmになるように塗装し、塗装後に80℃で5分乾燥後、クリヤー塗料を乾燥膜厚が30μmになるように塗装した。
R-301の場合、乾燥膜厚15μmになるように塗装し、続いてクリヤー塗料を乾燥膜厚が30μmになるように塗装した。
R-784の場合、乾燥膜厚15μmになるように塗装し、続いてクリヤー塗料を乾燥膜厚が30μmになるように塗装した。
(iv)仕上げとして、クリヤー塗料を塗装後、80℃×20分間乾燥して積層塗膜の作製を完了した
【0096】
得られた塗膜について、以下の基準に基づいて評価を行った。結果を表4に示す。
(引張伸率)
(i)膜がハクリ可能な塗板上に乾燥膜厚が30μmになるように塗装し、塗装後に80℃で25分間乾燥させて塗膜を形成する。
(ii)縦10mm×横50mmの大きさに試験片を作製し、両端にマスキングテープを貼りつけ、マスキングテープの残り半分を裏面へ折り返す。
(iii)島津オートグラフ(AG-IS)にてマイナス20℃の環境下、5mm/minの引張り速度で測定する。
(iv)5サンプル測定してその平均値を算出する。
【0097】
(デュポン衝撃強度)
JIS K 5600-5-3をベースに撃ち型半径6.35±0.03、受け台直径4.8cm、板厚2mmの円筒で評価した。
落下おもりは500gのものを用い、素材が破壊されない限界値を測定し、以下の基準で評価を行った。
〇:4.9J以上
×:4.9J未満
【0098】
(耐ガソホール性)〔20℃〕
塗装後のポリオレフィン基材片(3cm×3cm)を、レギュラーガソリンにエタノールを10容量%添加して得られるガソホールに浸漬した後、30分でハガレのないものを○、それ未満を×とした。
【0099】
(耐湿性)
塗装後のポリオレフィン基材を50℃、湿度98%の雰囲気下で10日間放置した後、外観評価を行った。上記耐湿試験で行った外観評価の評価基準は以下の通りである。
○:初期(耐湿試験前)と比較して異常がない場合
△:初期(耐湿試験前)と比較して塗膜に少しの膨れや艶引けが見られる場合
×:初期(耐湿試験前)と比較して塗膜に膨れや艶引けがある場合
【0100】
(耐屈曲性)
JIS K 5600-5-1 に準じ、常温で90°折り曲げ試験を行った(曲率半径10mm)。
○:異常なし
×:ワレ発生
【0101】
【表4】
【0102】
表4の結果から、本発明の自動車用部品は、耐湿性、耐屈曲性、低温衝撃性において優れた効果を有するものであることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の自動車用部品は、バンパーなどの自動車用部品として好適に使用することができる。
図1