(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】PKM2モジュレーター及びHMGB1の組合せ製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20220720BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20220720BHJP
A61K 31/5025 20060101ALI20220720BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220720BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220720BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20220720BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220720BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220720BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220720BHJP
A61K 35/15 20150101ALN20220720BHJP
A61K 35/17 20150101ALN20220720BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20220720BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20220720BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20220720BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61K31/496
A61K31/5025
A61K35/12
A61K35/76
A61K38/10
A61K48/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K35/15 Z
A61K35/17 Z
A61K45/00
C07K14/47
C12N9/12
(21)【出願番号】P 2018530152
(86)(22)【出願日】2016-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2016080671
(87)【国際公開番号】W WO2017098051
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-10-30
(32)【優先日】2015-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2015-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512127143
【氏名又は名称】ルプレヒト-カールス-ウニベルジテート ハイデルベルク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴディニャ,ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ロート,ヴィルフリート
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0123483(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0103086(US,A1)
【文献】International Immunology,2006年,Vol. 18, No. 11,pp. 1563-1573
【文献】Biochemistry,2006年,Vol. 45,pp. 3626-3634
【文献】PATHOLOGE,2013年05月26日,SUPPLEMENT 1,P.6-7,12,http://dx.doi.org/DOI 10.1007/s00292-013-1765-2,DO-019
【文献】THE JOURNAL OF IMMUNOLOGY,米国,2013年01月09日,VOL:190, NR:4,PAGE(S):1797 - 1806,http://dx.doi.org/10.4049/jimmunol.1202472
【文献】EUROPEAN JOURNAL OF CANCER,2012年07月,VOL:48, SUPPL:5,PAGE: S120,http://dx.doi.org/10.1016/S0959-8049(12)71169-3,503
【文献】NATURE COMMUNICATIONS,2014年07月14日,VOL:5,P.1-9,http://dx.doi.org/10.1038/ncomms5436
【文献】PROBE REPORTS FROM THE NIH MPLECULAR LIBRARIES PROGRAM,2013年05月08日,PAGE(S):1-33,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK153222/pdf/Bookshelf_NBK153222.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/17
A61K 31/496
A61K 31/5025
A61K 35/12
A61K 35/76
A61K 38/10
A61K 48/00
A61P 35/00
A61P 43/00
A61K 35/15
A61K 35/17
A61K 45/00
C07K 14/47
C12N 9/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不適切な細胞増殖の処置、好ましくはがんの処置において使用するための組合せ製剤であって、
(i)ピルビン酸キナーゼM2(PKM2)活性のモジュレーター、及び
(ii)高移動度グループボックス1(HMGB1)ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを提供する薬剤
を含む組合せ製剤であって、
(i)のPKM2活性のモジュレーターがP-M2tide(チロシンがリン酸化された配列番号1)、DASA(1-(2,6-ジフルオロフェニルスルホニル)-4-(2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン-6-イルスルホニル)ピペラジン)又はML265(6-(3-アミノベンジル)-4-メチル-2-(メチルスルフィニル)-4,6-ジヒドロ-5H-チエノ-[2',3':4,5]ピロロ[2,3-d]ピリダジン-5-オン)であり、
前記組合せ製剤は、(i)と(ii)の組合せを含む単一製剤であるか、(i)を含む製剤と(ii)を含む製剤の組合せであり、
前記不適切な細胞増殖における細胞が、(i)PKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性であ
り、かつ(ii)HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを提供する薬剤による処置に対して耐性である、組合せ製剤。
【請求項2】
HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを提供する前記薬剤が、
(i)HMGB1ポリペプチドを含むポリペプチド、
(ii)HMGB1ポリペプチドのボックスBを含むポリペプチド、
(iii)(i)又は(ii)のポリペプチドに少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有し、PKM2の四量体形態の活性を阻害する活性を有するポリペプチド、
(iv)(i)~(iii)のいずれか1つのポリペプチドを含む、腫瘍細胞に特異的に結合する薬剤、
(v)HMGB1ポリペプチドを分泌するように誘導されたHMGB1分泌細胞、
(vi)好ましくはベクター及び/又は宿主細胞に含まれる、(i)、(ii)及び/又は(iii)のポリペプチドをコードしている発現可能なポリヌクレオチド;又は
(vii)(i)~(vi)の任意の組み合わせ
である、請求項1に記載の組合せ製剤。
【請求項3】
(i)の前記HMGB1ポリペプチドが、好ましくは配列番号4のアミノ酸配列を含む、ヒトHMGB1ポリペプチドであり;(ii)のHMGB1ポリペプチドの前記ボックスBが、好ましくは配列番号5のアミノ酸配列を含む、ヒトHMGB1ポリペプチドのボックスBであり;(iv)の前記HMGB1分泌細胞が、マクロファージ又はNK細胞であり;及び/又は(vi)の前記発現可能なポリヌクレオチドが、(I)配列番号6及び/又は7の核酸配列、又は(II)(I)の核酸配列に少なくとも70%同一である核酸配列、及びプロモーター、好ましくは異種プロモーターを含むポリヌクレオチドである、請求項2に記載の組合せ製剤。
【請求項4】
(i)を含む製剤と(ii)を含む製剤の組合せであり、併用使用若しくは個別使用、及び/又は同時使用若しくは連続使用のためのものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組合せ製剤。
【請求項5】
医薬として使用するための、請求項1~4のいずれか1項に記載の組合せ製剤。
【請求項6】
不適切な細胞増殖における細胞の選択の阻止に使用するための、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための組合せ製剤。
【請求項7】
不適切な細胞増殖に対する、HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを提供する薬剤との併用療法で使用するための薬剤であって、
前記薬剤は、PKM2活性のモジュレーターであり、
PKM2活性のモジュレーターがP-M2tide、DASA又はML265であり、
前記不適切な細胞増殖における細胞が、PKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性であ
り、かつHMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを提供する薬剤による処置に対して耐性である、薬剤。
【請求項8】
不適切な細胞増殖に対する、PKM2活性のモジュレーターとの併用療法で使用するための薬剤であって、
前記薬剤は、HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを提供する薬剤であり、
PKM2活性のモジュレーターがP-M2tide、DASA又はML265であり、
前記不適切な細胞増殖における細胞が、PKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性であ
り、かつHMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを提供する薬剤による処置に対して耐性である、薬剤。
【請求項9】
不適切な細胞増殖の処置において使用するためのキットであって、
PKM2活性のモジュレーターと、HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを提供する薬剤と、を含み、
PKM2活性のモジュレーターがP-M2tide、DASA又はML265であり、
前記不適切な細胞増殖における細胞が、PKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性であ
り、かつHMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを提供する薬剤による処置に対して耐性である、キット。
【請求項10】
前記HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドが、HMGB1ポリペプチドのアミノ酸Y109、Y144、Y155及びY162に対応するチロシン残基の少なくとも1つがリン酸化可能ではないアミノ酸と交換された、オリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドである、請求項1に記載の組合せ製剤。
【請求項11】
前記リン酸化可能ではないアミノ酸が非荷電のリン酸化可能ではないアミノ酸である、請求項10に記載の組合せ製剤。
【請求項12】
前記リン酸化可能ではないアミノ酸が、各場合で独立して、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミンからなる群から選択され、好ましくはグルタミンである、請求項10又は11に記載の組合せ製剤。
【請求項13】
前記HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドが、ポリリン酸化HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドである、請求項1に記載の組合せ製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)ピルビン酸キナーゼM2(PKM2)活性のモジュレーター及び(ii)高移動度グループボックス1(HMGB1)ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤を含む組合せ製剤に関する。本発明はまた、医薬として使用するための、及び不適切な細胞増殖の処置において、好ましくはがんの処置において使用するための前述の組合せ製剤に関する。更に、本発明は、不適切な細胞増殖に罹患している対象が、唯一のPKM2阻害剤としてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置、及びそれに関連する処置に適応するか否かを決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高移動度グループボックス1(HMGB1)タンパク質は、核タンパク質の高移動度グループ(HMG)ファミリーに属し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)におけるそのメンバーの異常な高移動性に基づいて命名された。これらのタンパク質は、クロマチンに付随している最も豊富に存在するタンパク質のうち、ヒストンに次ぐものであり、DNAの構造を屈曲させ、変形させ、さもなければ改変し、それにより転写因子のDNAへの結合を改変するという点で真核細胞の核において構築的な役割を果たしている。HMGタンパク質は、いくつかの種類の良性腫瘍及び自己免疫性疾患などの様々な障害の発生に関係している。更に、多量のHMGB1の放出、特にNK細胞からの放出は、樹状細胞活性化(Saidi et al. (2008), PloS one 3, e3601)及び走化性(Yang et al. (2007), Journal of leukocyte biology 81, 59-66)にとって極めて重要である。加えて、HMGB1は著しい抗菌活性を示し、細菌を速やかに死滅させる(Zetterstrom et al., (2002), Pediatric research 52, 148-154)。
【0003】
内因性HMGB1はまた、細胞及び器官のエネルギー代謝にも複雑に関係している。HMGB1ノックアウトマウスは、肝細胞のグリコーゲン貯蔵プールを利用することができず、周産期低血糖症により死亡する。グルコースは一時的に動物を救うが、マウスは、内部器官、筋肉及び脂肪組織の重度の萎縮が原因で数日後に死亡する(Calogero et al. (1999), Nature genetics 22, 276-280)。HMGB1とのマウス筋組織のEx vivoインキュベーションは筋繊維を急速に消耗させ、またHMGB1濃度の上昇は、多発性筋炎に罹患している患者の筋繊維質で見つかっている(Grundtman et al. (2010), The FASEB journal 24, 570-578)。要約すると、HMGB1の欠乏及び過剰は両方とも細胞エネルギー代謝に著しい影響を及ぼす。
【0004】
細胞外HMGB1は強力なサイトカインであって、マクロファージ及び免疫系の他の細胞に対する強い活性化因子であり、広範囲の炎症反応をもたらす。この理由から、HMGB1は、自己免疫性疾患、例えば全身性エリテマトーデス及び慢性関節リウマチなどに関係している。しかし、多量の血中HMGB1はまた、敗血症のような重篤な又は生命に危険を及ぼす炎症状態を示すことが分かっている。このようなHMGB1関連病理に対抗するために、HMGB1機能の阻害剤、例えば阻害抗体又はそのフラグメント、ボックスAに変異を含むHMGB1の変異体、又はボックスAドメインのポリマーコンジュゲートが開示されている(米国特許第6,468,533号、WO 02/074337、米国特許出願公開第2003/0144201号、WO 2006024547、及びWO 2008031612)。一方、HMGB1は抗がん剤として提案された(米国特許出願公開第2011/0123483 A1号)。
【0005】
HMGB1タンパク質について、いくつかの構造モチーフ:2つのDNA結合ドメイン(ボックスA及びボックスB)、2つの核局在化配列、及びC末端酸性ドメインが開示されている。HMGB1タンパク質は、アセチル化、メチル化、ADPリボシル化、リン酸化又はグリコシル化によって広範囲に翻訳後修飾され得る。核局在化部位のアセチル化は、免疫系の活性化細胞から能動的にHMGB1タンパク質を分泌させるシグナルである。能動的分泌に加えて、HMGB1はまた、壊死細胞からも受動的に放出される。
【0006】
酵素のピルビン酸キナーゼM2(PKM2)は、近年、特にがん細胞で産生される、がん治療の特異的標的として同定された。PKM2は解糖のペースメーカー酵素であり、2つの形態で生じる。四量体形態は、グルコースの好気的分解において作用し、その基質ホスホエノールピルビン酸(PEP)に対して低Km値を有する。したがって、四量体形態はPEPの生理的濃度において高活性であり、それによりグルコースはエネルギー代謝に送られる。PKM2の二量体形態は、PEPに対する高Km値を有し、PEPの生理的濃度においてほとんど不活性であり、それによりピルビン酸が合成プロセスに送られる前に解糖中間体が生じる。
【0007】
PKM2のモジュレーターの2つの群が知られている。阻害剤、例えば特定のホスホチロシンペプチド、例えばP-M2tide(チロシンリン酸化ペプチドGGAVDDDYAQFANGG(配列番号1))は、四量体を二量体形態へと解離させる。活性化物質、例えばML265(CAS-NO:1221186-53-3、6-(3-アミノベンジル)-4-メチル-2-(メチルスルフィニル)-4,6-ジヒドロ-5H-チエノ[2',3':4,5]ピロロ[2,3-d]ピリダジン-5-オン)は、PKM2の四量体形態を安定化させる。興味深いことには、PKM2の阻害剤及び活性化物質は、抗腫瘍活性を有することが分かった。しかし、効果を得るためには化合物を高濃度(約100μM以上)で使用しなければならない。
【0008】
がんの処置は、腫瘍組織の外科切除に加えて、本質的に、活発に分裂する細胞に有害の機能を及ぼす医薬及び/又は処置の適用に頼っている。その性質のため、こうした処置はまた、人体内の細胞分裂をしている非腫瘍細胞及び組織をも傷つけ、よく知られた深刻に心配される多くの化学療法及び放射線療法の副作用、例えば悪心、消化不全(digestive distortion)、疲労、脱毛等が誘発される。したがって、これまで知られていない作用経路を介して効果的であり、それにより化学療法及び/又は放射線療法における用量を低減することができ、副作用が緩和される新規の治療薬を手にすることが望まれている。また、がん細胞の新たな死滅経路を使用するそのような薬剤の提供は、休止状態に入ることにより化学療法に対して生存し、全ての再発及び転移の少なくとも一部に関与することが最近判明したがん幹細胞の除去にも効果的に寄与することができる。
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明は、
(i)ピルビン酸キナーゼM2(PKM2)活性のモジュレーター、及び
(ii)高移動度グループボックス1(HMGB1)タンパク質及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤
を含む組合せ製剤に関する。
【0010】
下記で使用される場合、用語「有する(have)」、「含む(comprise)」又は「含む(include)」又はそれらの任意の文法的な変化形は、非排他的な方法で使用される。したがって、これらの用語は、これらの用語により導入される特徴に加えて、さらなる特徴がこの文脈において説明された実体に存在しない状況、及び1つ以上のさらなる特徴が存在する状況の両方を意味し得る。一例として、「AはBを有する」、「AはBを含む(comprise)」及び「AはBを含む(include)」という表現は、全て、Bに加えて、Aに他の要素が存在しない状況(すなわち、単独的及び排他的にBからなる状況)、並びに、Bに加えて、実体Aに1つ以上のさらなる要素、例えば要素C、要素C及び要素D又はさらなる要素が存在する状況を意味し得る。
【0011】
更に、下記で使用される場合、用語「好ましくは」「より好ましくは」「最も好ましくは」、「特に」、「より特に」、「詳しくは」「より詳しくは」、又は同類の用語は、任意選択的な特徴と併せて使用され、さらなる可能性を限定するものではない。したがって、これらの用語によって導入される特徴は、任意選択的な特徴であり、いかなる場合も特許請求の範囲を限定することを意図するものでない。本発明は、当業者が認識するように、代替的な特徴を使用することにより実施される。同様に、「本発明の実施形態において」又は同様の表現により導入される特徴は、任意選択的な特徴であるものとし、本発明のさらなる実施形態に関するいかなる限定もなく、本発明の範囲に関するいかなる限定もなく、またこうして導入された特徴を本発明の他の任意選択的特徴又は非任意選択的特徴と組み合わせる可能性に関するいかなる限定もない。更に、別段の記載がない限り、用語「約」は表示値±20%に関する。
【0012】
用語「組合せ製剤」は、本出願において言及される場合、1つの製剤中に本発明の薬学的に活性な化合物を含む製剤に関する。好ましくは、組合せ製剤は容器に含まれており、すなわち、好ましくは、前記容器は本発明の全ての薬学的に活性な化合物を含む。好ましくは、前記容器は、別々の製剤として、すなわち、好ましくは、PKM2活性のモジュレーターの1つの製剤、及び高移動度グループボックス1(HMGB1)タンパク質及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤の1つの製剤として、本発明の薬学的に活性な化合物を含み、より好ましくは、前記容器は、例えば、好ましくは、2層錠剤などとして、単一製剤で本発明の薬学的に活性な化合物を含む。最も好ましくは、組合せ製剤は混合製剤であり、すなわち、好ましくは、組合せ製剤は、本発明の化合物の混合物を含む。当業者には理解されるように、用語「製剤」は、本発明の少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む、又はそれからなる化合物の、好ましくは薬学的に許容される混合物に関する。好ましくは、組合せ製剤は、PKM2活性のモジュレーター、及び高移動度グループボックス1(HMGB1)タンパク質及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤を単一製剤、例えば錠剤又は輸液中に含み、より好ましくは、組合せ製剤は、PKM2活性のモジュレーター、及び高移動度グループボックス1(HMGB1)タンパク質及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤の混合物を含む。
【0013】
好ましくは、組合せ製剤は、個別投与用又は併用投与用である。「個別投与」は、本明細書で使用される場合、本発明の薬学的に活性な化合物の少なくとも2つが異なる経路を介して投与される投与に関する。例えば、1つの化合物は腸内投与(例えば経口)によって投与され得るが、第2の化合物は非経口投与(例えば静脈内投与)によって投与される。好ましくは、個別投与用の組合せ製剤は、個別投与用の少なくとも2つの物理的に分離された製剤を含み、それぞれの製剤は少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含有し、例えば、組合せ製剤の薬学的に活性な化合物を、それらの化学的性質又は生理学的性質のために、異なる経路によって、例えば非経口的及び経口的に投与しなければならない場合に、前記選択肢は好ましい。逆に、「併用投与」は、本発明の薬学的に活性な化合物を同じ経路を介して、例えば、経口的に又は静脈内に投与される投与に関する。
【0014】
また好ましくは、組合せ製剤は、同時投与用又は連続投与用である。「同時投与」は、本明細書で使用される場合、本発明の薬学的に活性な化合物が同時に投与される、すなわち、好ましくは、薬学的に活性な化合物の投与が15分未満の時間間隔内に、より好ましくは5分未満の時間間隔内に開始される投与に関する。最も好ましくは、薬学的に活性な化合物の投与は、例えば、薬学的に活性な化合物を含む錠剤を呑み込むことによって、又は薬学的に活性な化合物を含む溶液の静脈注射を適用することによって、同時に開始する。逆に「連続投与」は、本明細書で使用される場合、本発明の相乗効果を可能にする、対象における薬学的に活性な化合物の血漿中濃度をもたらす投与であるが、好ましくは、本明細書の上記で指定した同時投与ではない投与に関する。好ましくは、連続投与は、薬学的に活性な化合物、好ましくは全ての薬学的に活性な化合物の投与を1日又は2日の時間間隔内で、より好ましくは12時間の時間間隔内で、更により好ましくは4時間の時間間隔内で、更により好ましくは1時間の時間間隔内で、最も好ましくは5分の時間間隔内で開始する投与である。
【0015】
好ましくは、組合せ製剤は、薬学的に適合性のある組合せ製剤である。用語「薬学的に適合性のある製剤」及び「医薬組成物」は、本明細書で使用される場合、少なくとも1つの本発明の化合物、及び任意選択により1つ以上の薬学的に許容される担体を含む組成物に関する。本発明の化合物は、薬学的に許容される塩として製剤化することができる。好ましい許容される塩は、酢酸塩、メチルエステル、HCl、硫酸塩、塩化物等である。医薬組成物は、好ましくは局所的に投与され、より好ましくは全身投与される。薬物投与に通常使用される適切な投与経路は、経口投与、静脈内投与、非経口投与、並びに吸入である。しかし、化合物の性質及び作用機序に応じて、医薬組成物は、他の経路によって同様に投与され得る。更に、化合物は、通常の医薬組成物中で、又は本明細書の別の箇所で指定した個別の医薬組成物として、他の薬剤と組み合わせて投与することができ、前記個別の医薬組成物はパーツのキット形態で提供することができる。
【0016】
化合物は、好ましくは、従来の手順に従って、標準の医薬担体と薬剤とを組み合わせることによって調製された従来の剤形で投与される。これらの手順は、所望の製剤に適切な成分を混合、造粒、圧縮又は溶解することを含み得る。薬学的に許容される担体又は希釈剤の形態及び特性は、それが組み合わせられる有効成分の量、投与経路及び他の周知の変動要因によって決定されることは理解されよう。
【0017】
担体は、製剤の他の成分と適合性があり、その受容者に有害でないという意味において許容されなければならない。使用される医薬担体は、例えば、固体、ゲル又は液体であり得る。固体担体の例は、ラクトース、白土、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸等である。液体担体の例は、リン酸緩衝生理食塩水、シロップ、落花生油及びオリーブ油等の油、水、乳剤、様々なタイプの湿潤剤、滅菌溶液等である。同様に、担体又は希釈剤は、当技術分野で周知の時間遅延材料、例えば、グリセリルモノステアレート又はグリセリルジステアレート等を単独で、又はワックスと共に含んでいてもよい。前記適切な担体は、上記のもの及び当技術分野で周知のものを含むが、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvaniaを参照されたい。
【0018】
希釈剤は、1つ以上の化合物の生物活性に影響を及ぼさないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理的塩類、リンガー液、デキストロース溶液及びハンクス溶液である。更に、医薬組成物又は製剤はまた、他の担体、アジュバント、又は非毒性、非治療的、非免疫原性の安定剤等を含んでいてもよい。
【0019】
治療上有効量は、本明細書で言及されている疾患又は症状に伴う徴候を予防、改善又は処置する、本発明の医薬組成物中で使用される化合物の量を意味する。そのような化合物の治療有効性及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準の製薬手順、例えばED50(個体群の50%で治療上有効な用量)及びLD50(個体群の50%に対する致死用量)によって決定することができる。治療効果と毒性作用との間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比率として表すことができる。
【0020】
投与計画は、主治医及び他の臨床学的要因によって、好ましくは上記の方法のいずれか1つに従って決定される。医学分野において周知であるように、任意のある患者のための投与量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間及び経路、一般的な健康状態、並びに同時に投与される他の薬剤を含めた、多くの要因に依存する。経過は、定期的評価によってモニターすることができる。典型的な用量は、例えば、1~1000μgの範囲であり得る。しかし、この例示範囲の下方又は上方の用量が特に前述の要因を考慮して予測される。一般に、医薬組成物の規則的投与としての投与計画は、1日当たり1μg~10mg単位の範囲内であるものとする。投与計画が持続注入である場合はまた、毎分体重1キログラム当たり1μg~10mg単位の範囲にそれぞれあるものとする。経過は、定期的評価によってモニターすることができる。本発明の化合物の好ましい用量及び濃度は、本明細書の他の箇所で特定されている。
【0021】
本明細書で言及されている医薬組成物及び製剤は、好ましくは、本明細書で挙げた疾患又は症状を処置又は改善又は予防するために少なくとも1回投与される。しかし、前記医薬組成物は、1回以上、例えば、毎日1~4回を非限定的な日数まで投与することができる。
【0022】
特定の医薬組成物は、製薬分野において周知の方法で調製され、本明細書の上記で言及した少なくとも1つの活性化合物を、混合物中で、又は薬学的に許容される担体若しくは希釈剤と組み合わせて含む。これらの特定の医薬組成物の製造については、活性化合物(複数可)は、通常、担体若しくは希釈剤と混合されるか、又は、カプセル、サッシェ、カシェ、ペーパー若しくは他の適切な容器若しくはビヒクルに封入若しくはカプセル化される。得られた製剤は投与様式、すなわち錠剤、カプセル剤、坐剤、溶液、懸濁液等の形態での投与に適合させることになる。推奨投与量は、考慮された受容者に応じて投与量の調整を推測するために、処方者又は使用者の指示書に表示されるものとする。
【0023】
用語「誘導体」は、本発明の化学化合物の文脈において使用される場合、本発明の前記化学化合物に関連する構造を有する化学分子に関する。好ましくは、誘導体は、3つ以下、より好ましく2つ以下、最も好ましくは1つ以下の化学誘導体化反応により本発明の化学化合物から製造することができる。好ましくは、誘導体は、哺乳動物、好ましくはヒト体内で本発明の化学化合物に代謝される化合物である。また好ましくは、誘導体は、本発明の化学化合物から加水分解によって得ることができる化合物である。化学化合物がペプチド又はポリペプチドである場合、誘導体は、好ましくは、それが由来する化合物に本明細書の下記で指定した類似度を少なくとも有する化合物である。本明細書で使用される場合、本明細書の下記で指定した高移動度グループボックス1(HMGB1)ポリペプチドの誘導体又は本明細書の下記で指定したHMGB1ポリペプチドのボックスBの誘導体は、がん細胞、好ましくは結腸がん細胞、より好ましくはHCT116細胞を阻害する活性、及び/又は、好ましくは、PKM2の四量体形態の活性を阻害する活性を有する。
【0024】
用語「ピルビン酸キナーゼ」又は「PK」は当業者には理解されており、ホスホエノールピルビン酸からADPにリン酸基を移し、ATP及びピルビン酸を産生することを触媒する酵素に関する(EC 2.7.1.40)。脊椎動物はピルビン酸キナーゼの4つのアイソフォームを含むことが知られており、そのうちの2つはそれぞれ同じ遺伝子によってコードされている。ピルビン酸キナーゼをコードしているヒト遺伝子は、PKLR(Genbank受託番号:NM_000298.5 GI:189095249)、及び本明細書の下記で明示したPKMである。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「ピルビン酸キナーゼM」又は「PKM」は、PKM遺伝子、好ましくはヒトPKM遺伝子の産物の1つに関する。PKM遺伝子から、いくつかのスプライス変異体が転写され、それによりアイソエンザイムが生じる。ピルビン酸キナーゼM1(PKM1、Genbank受託番号:NP_002645.3 GI:33286418、配列番号8)とも呼ばれるアイソフォームaは、基質のホスホエノールピルビン酸に対して高親和性を有する四量体酵素である。ピルビン酸キナーゼMの第2のアイソフォームは、「ピルビン酸キナーゼM2」又は「PKM2」と呼ばれる。したがって、好ましくは、本発明のPKMはPKM2である。好ましくは、PKM2は哺乳動物のPKM2であり、より好ましくはヒトPKM2である。好ましくは、PKM2は、Genbank受託番号:KJ891817.1 GI:649102182又は配列番号3の核酸配列を含む、又はその核酸配列からなるポリヌクレオチドによって好ましくはコードされている、Genbank受託番号:AAQ15274.1 GI:33346925(配列番号2)のアミノ酸配列を含み、又はより好ましくは、そのアミノ酸配列からなる。PKM2は、その基質ホスホエノールピルビン酸に対して高親和性を有する好ましくは非リン酸化四量体形態で存在することができ、またその基質ホスホエノールピルビン酸に対して低親和性を有する好ましくはリン酸化二量体形態で存在することができる。従来の活性アッセイはPKM1とPKM2の高親和性形態を区別しないので、用語「高親和性ピルビン酸キナーゼ」は、「ピルビン酸キナーゼ高親和性」又は「PKHA」とも呼ばれ、前述のアイソエンザイムを両方とも含む。反対に、用語「低親和性ピルビン酸キナーゼ」は、「ピルビン酸キナーゼ低親和性」又は「PKLA」とも呼ばれ、PKM2の二量体形態に関する。必要な場合、PKM2の高親和性形態への特定の言及については、用語「高親和性PKM2」又は「PKM2HA」を使用する。
【0026】
用語「PKM2活性のモジュレーター」は、本明細書で使用される場合、ピルビン酸キナーゼM2(PKM2)の活性をモジュレートする薬剤に関し、すなわち、好ましくは、モジュレーターは、好ましくは本明細書の下記で明示したように、当業者に公知のPKM2の活性を決定するアッセイ混合物中に有効濃度で存在する場合、PKM2の活性を少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、最も好ましくは少なくとも50%増加又は減少させる。当業者には有効濃度の決定の方法が知られている。好ましくは、PKM2活性のモジュレーターの有効濃度は10μM~100mM、より好ましくは50μM~50mM、最も好ましくは100μM~10mMである。当業者には理解されるように、PKM2活性をモジュレートする際の候補化合物の活性は、好ましくは、PKM2活性のさらなるモジュレーターの非存在下で決定される。好ましくは、PKM2のモジュレーターは、対象の体内で産生されない化合物であり、より好ましくは解糖において産生及び/又は消費されない化合物である。したがって、PKM2活性のモジュレーターは、HMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤ではなく、好ましくは、D-フルクトース-1,6,二リン酸ではない。好ましくはPKM2活性のモジュレーターはPKM2活性の阻害剤であり、より好ましくはPKM2の四量体形態を不安定化する化合物であり、更により好ましくは、P-M2tide(チロシンリン酸化ペプチドGGAVDDDYAQFANGG(配列番号1))又はその誘導体であり、P-M2tideの前記誘導体は、PKM2活性を阻害する活性を有するか、又は、対象の体内における代謝の際に前記活性を有する化合物を提供する。また好ましくは、PKM2活性のモジュレーターはPKM2活性の活性化物質であり、より好ましくはPKM2の四量体形態を安定化させる化合物であり、更により好ましくは、ML265(CAS-NO:1221186-53-3、6-(3-アミノベンジル)-4-メチル-2-(メチルスルフィニル)-4,6-ジヒドロ-5H-チエノ[2',3':4,5]-ピロロ[2,3-d]ピリダジン-5-オン、又はDASA(1-(2,6-ジフルオロフェニルスルホニル)-4-(2,3-ジヒドロベンゾ[b][1,4]ジオキシン-6-イルスルホニル)ピペラジンである。したがって、本発明によれば、PKM2活性のモジュレーターは、PKM2の四量体形態及び二量体形態の平衡をモジュレートする薬剤である。
【0027】
好ましくは、PKM2活性のモジュレーターは0.1mM未満、より好ましくは0.05mM未満、最も好ましくは0.01mM未満の濃度で使用されるか、又は好ましくは0.1mM未満、より好ましくは0.05mM未満、最も好ましくは0.01mM未満の血漿中濃度を誘導する用量で使用される。また好ましくは、PKM2活性のモジュレーターは、0.0005mM~0.1mM、より好ましくは0.001mM~0.05mM、最も好ましくは0.005mM~0.01mMの濃度で使用されるか、又は好ましくは、0.0005mM~0.1mM、より好ましくは0.001mM~0.05mM、最も好ましくは0.005mM~0.01mMの血漿中濃度を誘導する用量で使用される。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「高移動度グループボックス1ポリペプチド」(HMGB1ポリペプチド)は、当業者に公知のポリペプチドの高移動度グループのメンバーに関するか、又はPKM2の四量体形態の活性を阻害する活性を有する部分配列又はその誘導体に関する。好ましくは、HMGB1ポリペプチドは、ヒトHMGB1ポリペプチド(Genbank受託番号:NP_002119.1 GI:4504425、配列番号4)であるか、又は上記で明示した活性を有する部分配列又はその誘導体である。前述の活性の測定に適したアッセイは、付随する実施例に記載されている。HMGB1ポリペプチドは、細胞又は組織から精製されてもよく、又は化学的に合成されてもよく、又は好ましくは組換えにより製造することができる。HMGB1ポリペプチドは、精製又は検出の際にタグとして役立ち得るさらなるアミノ酸を含んでいてもよく、及び/又はHMGB1ポリペプチドは、本明細書の他の箇所で明示したように、融合ポリペプチドにより含まれ得る。
【0029】
HMGB1ポリペプチドを含めた本発明のポリペプチドの好ましい誘導体は、本明細書に別記されている。好ましい実施形態において、HMGB1ポリペプチドの誘導体は、HMGB1ポリペプチドのB-ボックスモチーフを含む、好ましくはヒトHMGB1のボックスBを含む、より好ましくは配列番号5又はその誘導体を含む、より好ましくは、好ましくは本明細書の下記で明示されているヒトHMGB1のポリリン酸化ボックスBを含むポリペプチドである。
【0030】
好ましくは、HMGB1ポリペプチドは、Y109、Y144、Y155及びY162から選択される少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、最も好ましくは4つの全ての位置でリン酸化されており、より好ましくはチロシンがリン酸化されている。また好ましくは、HMGB1ポリペプチドのB-ボックスモチーフを含むポリペプチドは、HMGB1ポリペプチドのY109、Y144、Y155及びY162に対応する位置から選択される少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、最も好ましくは4つの全ての位置でリン酸化されており、より好ましくはチロシンがリン酸化されている。したがって、用語「ポリリン酸化HMGB1ポリペプチド」は、本明細書で使用される場合、HMGB1ポリペプチドのY109、Y144、Y155及びY162に対応する位置から選択される少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは4つの全ての位置でリン酸化されているHMGB1ポリペプチドに関する。最も好ましくは、ポリリン酸化HMGB1ポリペプチドは、4つの前述のチロシン残基でリン酸化されており、更に、好ましくはポリペプチドのB-ボックス内の少なくとも1つのさらなる残基、好ましくはセリン及び/又はスレオニン残基でリン酸化されているHMGB1ポリペプチドである。これに対応して、用語「ポリリン酸化HMGB1ポリペプチドの誘導体」は、本明細書で使用される場合、HMGB1ポリペプチドのY109、Y144、Y155及びY162に対応する位置から選択される少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは4つの全ての位置でリン酸化されている、本明細書の他の箇所で明示されているようなHMGB1ポリペプチドの誘導体に関する。最も好ましくは、ポリリン酸化HMGB1ポリペプチドの誘導体は、4つの前述のチロシン残基でリン酸化されており、更に、好ましくはポリペプチドのB-ボックス内の少なくとも1つのさらなる残基、好ましくはセリン及び/又はスレオニン残基でリン酸化されているHMGB1ポリペプチドの誘導体である。
【0031】
好ましい実施形態において、HMGB1ポリペプチド又はその誘導体は、本明細書の下記で明示されているようなオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチドである。
【0032】
用語「HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤」は、本明細書で使用される場合、HMGB1ポリペプチド又は本明細書で明示したようなその誘導体を生物系に放出する能力を有する任意の薬剤又は組成物に関する。好ましくは、HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤は、1nM~1000nM、より好ましくは10nM~250nM、最も好ましくは25nM~150nMの血漿中濃度を誘導する用量で使用される。
【0033】
好ましい実施形態において、HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤は、本明細書の下記で明示されているようなオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチドを提供する薬剤である。
【0034】
好ましくは、HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する前記薬剤は、HMGB1ポリペプチド自体又は本明細書で明示されているようなその誘導体であり、この用語は、好ましくは、HMGB1ポリペプチド又はHMGB1ポリペプチドのボックスBに対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有し、PKM2の四量体形態の活性を阻害する活性を有するポリペプチドを更に含む。好ましくは、この用語はまた、HMGB1ポリペプチド又はHMGB1ポリペプチドのボックスBを含む腫瘍細胞に特異的に結合する薬剤に関する。好ましくは、腫瘍細胞に特異的に結合する前記薬剤は、抗体、アプタマー、レクチン等である。また好ましくは、HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤という用語は、HMGB1ポリペプチドを分泌するように誘導されたHMGB1分泌細胞に関する。HMGB1を分泌するように誘導され得る細胞、及びそのような方法は当技術分野で公知であり、好ましくは、実施例において示したような方法を含む。HMGB1を分泌するように誘導され得る好ましい細胞は、マクロファージ及びNK細胞である。また好ましくは、HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤という用語は、HMGB1ポリペプチド及び/又はHMGB1ポリペプチドのボックスBをコードしている発現可能なポリヌクレオチドに関する。当業者には理解されるように、前記ポリヌクレオチドは、好ましくは、ベクター又は宿主細胞に含まれる。
【0035】
用語「ポリヌクレオチド」は、本明細書で使用される場合、上述の生物活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列を含み、好ましくは配列番号6及び/又は7のヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチドに関する。好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号4及び/又は5のアミノ酸配列を含むポリペプチド又は本明細書の上記で明示されているようなその誘導体をコードしているポリヌクレオチドである。上記で詳述されているアミノ酸配列を有するポリペプチドは、2種以上のポリヌクレオチドによる縮重遺伝子コードに基づいてコードされていてもよいことを理解されたい。更に、本発明に従って使用される場合の用語「ポリヌクレオチド」は、前述の特定のポリヌクレオチドの変異体を更に包含する。前記変異体は、本発明のポリヌクレオチドのオルソログ、パラログ又は他のホモログを示し得る。ポリヌクレオチド変異体は、好ましくは、配列が少なくとも1つのヌクレオチド置換、付加及び/又は欠失によって前述の特定の核酸配列から誘導され、変異体核酸配列が上記で明示したような活性を有するポリペプチドをなおもコードし得ることを特徴とする核酸配列を含む。変異体はまた、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、前述の特定の核酸配列にハイブリダイズすることが可能な核酸配列を含むポリヌクレオチドを包含する。これらのストリンジェントな条件は当業者には公知であり、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6で確認することができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件に関する好ましい例は、約45℃での6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(=SSC)中のハイブリダイゼーション条件、続いて0.2×SSC、0.1% SDS、50~65℃での1回以上の洗浄ステップである。これらのハイブリダイゼーション条件は、核酸の種類に応じて、例えば、有機溶媒が存在する場合、緩衝液の温度及び濃度に関して異なることは、当業者には理解される。例えば、「標準ハイブリダイゼーション条件」下では、温度は、核酸の種類に応じて、0.1~5×SSC(pH7.2)の濃度を有する水性緩衝液中42℃から58℃の間で異なる。有機溶媒が上述の緩衝液、例えば50%ホルムアミド中に存在する場合、標準条件下の温度は約42℃である。DNA:DNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は、好ましくは、例えば0.1×SSC及び20℃~45℃、好ましくは30℃から45℃の間である。DNA:RNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は、好ましくは、例えば0.1×SSC及び30℃~55℃、好ましくは45℃から55℃の間である。上述のハイブリダイゼーション温度は、例えば、長さが約100bp(=塩基対)であり、ホルムアミドの非存在下で50%のG+C含有量を有する核酸について決定される。当業者は、教科書、例えば上記で言及した教科書等を参照することにより、必要とされるハイブリダイゼーション条件をどのように決定するかが分かる。
【0036】
或いは、ポリヌクレオチド変異体は、PCRに基づく技術、例えば、DNAの混合オリゴヌクレオチドプライマーに基づく増幅により、すなわち本発明のポリペプチドの保存ドメインに対する縮重プライマーを使用して得ることができる。本発明のポリペプチドの保存ドメインは、ポリヌクレオチドの核酸配列、又は上記で明示されているようなポリペプチドのアミノ酸配列の配列比較により同定することができる。適切なPCR条件は、当技術分野において周知である。鋳型として、AAV由来のDNA又はcDNAを使用することができる。更に変異体は、上記で詳述した核酸配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一である核酸配列を含むポリヌクレオチドを含む。同一性パーセント値は、好ましくは、上述したように計算される。
【0037】
前述の核酸配列のいずれかの断片を含むポリヌクレオチドも、本発明のポリヌクレオチドとして包含される。断片は、上記で明示されているような生物活性を依然として有するポリペプチドをコードするものとする。したがって、ポリペプチドは、前記生物活性を付与する本発明のポリペプチドのドメインを含み得るか、又はそれからなり得る。本明細書で意味する場合の断片は、好ましくは、前述の核酸配列のいずれか1つの少なくとも50、少なくとも100、少なくとも250又は少なくとも500個の連続するヌクレオチドを含むか、又は前述のアミノ酸配列のいずれか1つの少なくとも20、少なくとも30、少なくとも50、少なくとも80、少なくとも100又は少なくとも150個の連続するアミノ酸を含むアミノ酸配列をコードする。
【0038】
本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは、単離されたポリヌクレオチド(すなわち、その天然のコンテキストから単離されたもの)として、又は遺伝子的に修飾された形態でのいずれかで提供されるものとする。ポリヌクレオチドは、好ましくは、cDNAを含むDNA又はRNAである。この用語は、一本鎖ポリヌクレオチド、並びに二本鎖ポリヌクレオチドを包含する。更に、天然に存在する修飾ポリヌクレオチドを含む化学的に修飾されたポリヌクレオチド、例えばグリコシル化ポリヌクレオチド若しくはメチル化ポリヌクレオチド、又は人工修飾されたもの、例えばビオチン化ポリヌクレオチドも含まれる。
【0039】
本発明のポリヌクレオチドは、本質的には、前述の核酸配列からなるか、又は前述の核酸配列を含むかのいずれかである。したがって、それらはさらなる核酸配列もまた含有し得る。具体的には、本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
【0040】
用語「ベクター」は、好ましくは、ファージ、プラスミド、ウイルス又はレトロウイルスベクター、並びに人工染色体、例えば、細菌又は酵母人工染色体を包含する。より好ましくは、この用語は、ウイルス由来のベクター、好ましくは腫瘍細胞を優先的に感染させるウイルス(腫瘍指向性ウイルス)、又はがん細胞を優先的に溶解するウイルス(腫瘍溶解性ウイルス)に由来のベクターに関する。更にこの用語はまた、ターゲティング構築物のゲノムDNAへのランダム又は部位特異的組込みを可能にするターゲティング構築物に関する。そのようなターゲティング構築物は、好ましくは、相同組換え又は異種組換えのいずれかにとって十分な長さのDNAを含む。本発明のポリヌクレオチドを包含するベクターは、好ましくは、宿主における増殖及び/又は選択のための選択マーカーを更に含む。ベクターは、当技術分野において周知の様々な技術により宿主細胞に組み込まれ得る。例えば、プラスミドベクターは、沈澱物、例えば、リン酸カルシウム沈澱物若しくは塩化ルビジウム沈澱物に、又は帯電した脂質との複合体に、又は炭素系クラスター、例えばフラーレンに導入することができる。或いは、プラスミドベクターは、熱ショック又はエレクトロポレーションの技術により導入され得る。ベクターがウイルスであるならば、宿主細胞への適用前に、適切なパッケージング細胞株を使用してin vitroでパッケージングしてもよい。ウイルスベクターは、複製コンピテント又は複製欠損であってもよい。
【0041】
好ましくは、本発明のベクターにおいて、本発明のポリヌクレオチドは、原核細胞若しくは真核細胞、又は単離されたその画分における発現を可能にする発現調節配列に作動的に連結される。前記ポリヌクレオチドの発現は、好ましくは翻訳可能なmRNAへの、ポリヌクレオチドの転写を含む。真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞における発現を保証する調節エレメントは、当技術分野において周知である。それらは、好ましくは、転写の開始を保証する調節配列を含み、任意選択で、転写の終止及び転写物の安定化を保証するポリ-Aシグナルを含む。追加の調節エレメントとしては、転写エンハンサー、並びに翻訳エンハンサーを挙げることができる。原核宿主細胞の発現を許可する可能性のある調節エレメントは、例えば、大腸菌(E.coli)におけるlac、trp又はtacプロモーターを含み、また真核宿主細胞の発現を許可する調節エレメントの例は、酵母におけるAOX1又はGAL1プロモーター、又はCMV-、SV40-、RSV-プロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、CMV-エンハンサー、SV40-エンハンサー又は哺乳動物及び他の動物細胞におけるグロビンイントロンである。更に、誘導性発現調節配列は、本発明に包含される発現ベクターにおいて使用され得る。そのような誘導性ベクターは、好ましくは、tet若しくはlacオペレーター配列、又は熱ショック若しくは他の環境因子によって誘導され得る配列を含み得る。適切な発現調節配列は、当技術分野において周知である。転写開始を担うエレメントに加えて、そのような調節エレメントはまた、ポリヌクレオチドの下流にある、転写終結シグナル、例えば、SV40-poly-A部位又はtk-poly-A部位を含み得る。この文脈において、適切な発現ベクターは当技術分野において公知であり、例えば、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia社)、pBluescript(Stratagene社)、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(InVitrogene社)又はpSPORT1(GIBCO BRL社)等である。ウイルス由来の発現ベクター、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス又はウシパピローマウィルスは、本発明のポリヌクレオチド又はベクターを標的細胞個体群に送達するのに使用することができる。当業者に周知の方法を使用して組換えウイルスベクターを構築することができる。例えば、Sambrook, Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1989) N.Y.、及びAusubel, Current Protocols in Molecular Biology, Green Publishing Associates and Wiley Interscience, N.Y. (1994)に記載されている技術を参照されたい。
【0042】
用語「宿主細胞」は、好ましくは、対象に投与することに適合性のある細胞に関する。より好ましくは、前記細胞は、対象と免疫学的に適合性である。最も好ましくは、細胞は、前記対象から得られた細胞である。本発明の宿主細胞は、好ましくは、がん細胞の近傍に移動する傾向のある細胞である。より好ましくは、宿主細胞は免疫細胞であり、最も好ましくは、腫瘍特異抗原を特異的に認識する免疫系細胞、例えば、腫瘍抗原特異的T細胞である。
【0043】
本発明のポリペプチド又はペプチドの好ましい実施形態において、ポリペプチド又はペプチドは検出可能なタグを更に含む。用語「検出可能なタグ」は、ポリペプチド又はペプチドに付加又は導入されるアミノ酸の伸長を意味する。好ましくは、タグは、ポリペプチド又はペプチドにC末端又はN末端に付加されるものとする。アミノ酸の前記伸長は、例えば、タグを特異的に認識する抗体によるポリペプチド又はペプチドの検出を可能にするか、又は機能的構造、例えばキレーターの形成を可能にするものであるか、又は蛍光タグによって視覚化を可能にするものとする。好ましいタグは、Myc-タグ、FLAG-タグ、6-His-タグ、HA-タグ、GST-タグ又はGFP-タグである。これらのタグは、全て当技術分野において周知である。
【0044】
好ましくは、ポリペプチド又はペプチドに関係する用語「その誘導体」は、前記ポリペプチド又はペプチドのアミノ酸配列の変異体を含み、前記変異体は、ポリペプチド又はペプチドのアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有しており、また前記変異体は、本明細書で明示されているポリペプチド又はペプチドの機能を保持している。同一性パーセント値は、好ましくは、アミノ酸配列領域全体にわたって計算される。異なる配列を比較するための様々なアルゴリズムに基づいた一連のプログラムを当業者は利用することができる。この文脈において、Needleman及びWunsch又はSmith及びWatermanのアルゴリズムにより信頼性の高い結果が得られる。配列アラインメントを実施するには、GCGソフトウェアパケット(Genetics Computer Group, 575 Science Drive, Madison, Wisconsin, USA 53711 (1991))の一部である、プログラムPileUp (J. Mol. Evolution., 25, 351-360, 1987, Higgins et al., CABIOS, 5 1989: 151-153)、又はプログラムGap and BestFit (Needleman and Wunsch (J. Mol. Biol. 48; 443-453 (1970))、及びSmith and Waterman (Adv. Appl. Math. 2; 482-489 (1981))を使用する。上記においてパーセント(%)で列挙した配列同一性値は、好ましくは、以下の設定:ギャップウェイト:50、レングスウェイト:3、アベレージマッチ:10.000、及びアベレージミスマッチ:0.000で、配列領域全体に対してプログラムGAPを使用して決定される。
【0045】
更に、ポリペプチド又はペプチドの誘導体は、特定のポリペプチド又はペプチドのオーソログ、パラログ又は他のホモログを表し得る前述の特定のアミノ酸配列の変異体を更に包含する。変異体は、好ましくは、配列が少なくとも1つのアミノ酸の置換及び/又は付加及び/又は欠失によって上述したポリペプチド又はペプチドの前述の配列から誘導され得ることを特徴とするアミノ酸配列を含む。
【0046】
用語「誘導体」はまた、化学的に修飾されたポリペプチドを含み、例えば、修飾アミノ酸を含有するポリペプチド、又は、例えば、ビオチン化された、若しくはフルオロフォア、例えばフルオレセイン、又はCy 3に結合されたポリペプチド、例えばジスルフィド結合若しくはステープリングする(stapling)ことによって(Walensky 2004, Science 305(5689): 1466-1470)構造的に制限されたペプチド、又は細胞透過ポリペプチド若しくはタンパク質形質導入ドメイン(Snyder 2004, Pharm Res 21(3): 389-393)に連結されたポリペプチドを含む。そのような修飾は、ポリペプチドの生物学的特性、例えば、細胞透過性、結合性、安定性を改善し得るか、又は検出標識として使用することができる。
【0047】
有利には、本発明の基礎となる研究において、本発明の組合せ製剤の中で、そこに含まれる2つの化合物は相乗効果を媒介し、特に、治療効果を得るために必要とされるPKM2活性のモジュレーターに必要な用量を減少させることを可能にすることが分かった。更に、PKM2のモジュレーター又はHMGB1に対する細胞の耐性が併用療法を提供することにより弱化させることができること、またそのような耐性の発生を併用治療の提供により回避させることができることも分かった。
【0048】
上述した定義は、下記に必要な変更を加えて適用する。下記で更に述べた追加の定義及び説明はまた、本明細書に記載した全ての実施形態についても同様に準用される。
【0049】
したがって、本発明はまた、医薬として使用するための本発明の組合せ製剤に関する。
【0050】
更に、本発明は、不適切な細胞増殖の処置において使用するための本発明の組合せ製剤に関する。
【0051】
用語「不適切な細胞増殖」とは、本明細書で使用される場合、体細胞群による不適切及び/又は制御不能な増殖を特徴とする動物、好ましくはヒトの疾患を意味する。この制御不能な増殖は、周囲組織への浸潤及び破壊、またおそらくは、身体の他の部位への不適切な増殖細胞の拡散を伴い得る。好ましくは、前記不適切な細胞増殖はがんであり、好ましくは、前記不適当な増殖細胞はがん細胞である。したがって、好ましくは、組合せ製剤はがんの処置で使用するためのものである。
【0052】
好ましくは、がんは、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄白血病、副腎皮質がん、エイズ関連リンパ腫、肛門がん、虫垂がん、星状細胞腫、非定型奇形腫、基底細胞がん、胆管がん、膀胱がん、脳幹グリオーマ、乳がん、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍、小脳星状細胞腫、子宮頸がん、脊索腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、結腸がん、結腸直腸がん、頭蓋咽頭腫、子宮内膜がん、上衣芽細胞腫、脳室上衣腫、食道がん、頭蓋外胚細胞腫、性腺外胚細胞腫、肝臓外胆管がん、胆嚢がん、胃がん、消化管間質腫瘍、妊娠性絨毛性腫瘍、有毛細胞白血病、頭頸部がん、肝細胞がん、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、視床下部視神経膠腫、眼内メラノーマ、カポジ肉腫、喉頭がん、髄芽細胞腫、髄様上皮腫、メラノーマ、メルケル細胞がん、中皮腫、口腔がん、多発性内分泌腺腫症候群、多発性骨髄腫、菌状息肉腫、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽腔がん、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん、口腔がん、口腔咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、卵巣がん、卵巣胚細胞腫、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓がん、乳頭腫症、副鼻腔及び鼻腔がん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、クロム親和細胞腫、下垂体部腫瘍、胸膜肺芽腫、中枢神経系原発リンパ腫、前立腺がん、直腸がん、腎細胞がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、セザリー症候群、小細胞肺がん、小腸がん、軟部組織肉腫、扁平上皮がん、扁平上皮頚部がん、睾丸がん、喉頭がん、胸腺がん、胸腺腫、甲状腺がん、尿道がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、及びウィルムス腫瘍からなるリストから選択される。
【0053】
より好ましくは、がんは、白血病、リンパ腫、HPV関連がん、結腸直腸がん、胃がん、膵臓がん、肺がん、脳がん又は乳がんである。好ましい結腸直腸がんは、結腸がんである。更により好ましくは、がんは白血病であり、最も好ましくは慢性リンパ性白血病(CLL)である。
【0054】
上記によれば、本発明はまた、HMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤の投与を含む、不適切な細胞増殖に対する併用療法において使用するためのPKM2活性のモジュレーターに関する。
【0055】
好ましくは、少なくとも前記不適切な細胞増殖の細胞の画分は、HMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つによる処置に対して耐性であり、好ましくは、前記画分は少なくとも2%であり、より好ましくは少なくとも5%、更により好ましくは少なくとも25%、最も好ましくは少なくとも50%である。用語「処置に対する耐性」は当業者には理解され、好ましくは、前記不適切な細胞増殖の細胞の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%が、臨床的に適切な濃度での調査の下で、本化合物によるin vivoでの処置の24時間後に生存可能である不適切な細胞増殖に関し、好ましくは、臨床的に適切な濃度はHMGB1又はその誘導体については80nMであり、PKM2活性のモジュレーターについては100μMである。
【0056】
また上記によれば、本発明は、PKM2活性のモジュレーターの投与を含む、不適切な細胞増殖に対する併用療法において使用するためのHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤に関する。
【0057】
好ましくは、少なくとも前記不適切な細胞増殖の細胞の画分は、PKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性であり、好ましくは、前記画分は少なくとも2%であり、より好ましくは少なくとも5%、更に好ましくは少なくとも25%、最も好ましくは少なくとも50%である。
【0058】
好ましくは、前記方法が、(i)PKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性である、又は(ii)HMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤による処置に対して耐性である、前記不適切な細胞増殖における細胞の選択を阻止する方法である処置である。
【0059】
好ましくは、本発明の化合物は、(i)PKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性である、又は(ii)HMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤による処置に対して耐性である、不適切な細胞増殖における細胞の選択の阻止に使用するためのものである。
【0060】
また、本発明は、PKM2活性のモジュレーター、及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤を投与し、それにより不適切な細胞増殖を処置することを含む、不適切な細胞増殖に罹患している対象の不適切な細胞増殖を処置する方法に関する。
【0061】
本発明の不適切な細胞増殖を処置する方法は、好ましくは、in vivoでの方法である。更に、それは、上記で明確に言及したものに加えたステップを含み得る。例えば、さらなるステップは、例えば、前記薬学的に活性な化合物の投与前又は投与後に腫瘍組織を外科的に切除することに関し得る。更に、前記ステップの1つ以上は、自動化された装置によって実施することができる。
【0062】
用語「対象」は、本明細書で使用される場合、動物、好ましくは家畜又はコンパニオン動物、より好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトに関する。
【0063】
用語「処置する」とは、本明細書で言及された疾患又は障害又はそれに伴う症状を有意な程度改善することを意味する。また本明細書で使用される場合の前記処置するには、好ましくは、本明細書で言及された疾患又は障害に関した健康の完全回復も含む。本発明に従って使用される場合の処置は、処置しようとする全ての対象において有効ではないかもしれないことを理解されたい。しかし、この用語は、好ましくは、本明細書で言及された疾患又は障害に罹患している対象の統計学的に有意な部分が順調に処置され得ることを必要とする。ある部分が統計的に有意であるかどうかは、様々な周知の統計用評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、マンホイットニー検定を使用し、それ以上作業することなく当業者によって決定され得る。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。好ましくは、処置は、所定のコホート又は個体群の対象の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%に有効であるものとする。
【0064】
本発明はまた、がんを処置する医薬組成物又はキットを製造するためのPKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤の使用に関する。
【0065】
更に、本発明は、PKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤を混合するステップを含む、本発明による組合せ製剤の調製方法に関する。好ましくは、前記方法は、PKM2活性のモジュレーター及びHMGB1又はその断片若しくは誘導体の混合物を医薬組成物として製剤化するステップを更に含む。
【0066】
本発明はまた、PKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物、並びにPKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤を含むキットに関する。
【0067】
本明細書で使用される場合の用語「キット」とは、少なくとも前述の手段、例えば、好ましくは単一容器内で、好ましくは別々に又は組み合わせて提供される、PKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤を含む収集物を意味する。容器はまた、好ましくは、本発明の方法を実施するための説明書を更に含む。キットの構成材は、好ましくは、「すぐに使用可能な」方法で提供され、例えば、濃度はそれに応じて調節される。
【0068】
本発明は、更に、HMGB1ポリペプチドのアミノ酸Y109、Y144、Y155及びY162に対応するチロシン残基の少なくとも1つがリン酸化可能ではないアミノ酸と交換された、オリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体に関する。
【0069】
更に、本発明は疾患を処置するためのオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体に関し、また本発明は、不適切な細胞増殖を処置するためのオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体に関する。
【0070】
本明細書で使用される場合、用語「オリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド」は、HMGB1ポリペプチドのアミノ酸Y109、Y144、Y155及びY162に対応するチロシン残基の少なくとも1つがリン酸化可能ではないアミノ酸と交換された、本明細書の上記で明示されているHMGB1ポリペプチドに関する。したがって、野生型HMGB1ポリペプチドと比べ、HMGB1ポリペプチドのオリゴリン酸化誘導体は、前述の可能性のあるリン酸化部位の少なくとも1つを欠失している。理解されるように、用語「オリゴリン酸化」は、リン酸化の可能性の低い部位を提供するポリペプチドに関し、どの程度リン酸化部位が野生型HMGB1ポリペプチド及び/又はオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチドにおいて実際にリン酸化されているかは重要ではない。オリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体は、依然としてがん細胞株において細胞死を誘導する活性を有する。細胞死を誘導する化合物の活性は、好ましくは、前記化合物で処置した細胞培養物の細胞生存率を未処置の対照と比較することによって当業者により確立され得る。好ましくは、前記活性は、乳酸デヒドロゲナーゼ放出を決定することにより、より好ましくは実施例において本明細書で明示したように、最も好ましくは、例えば、参照番号:SW 480(ECACC 87092801)でEuropean Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC)から入手可能な細胞株SW480を使用することにより確立される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y109に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸の1つに、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y144に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸の1つに、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y155に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸の1つに、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y162に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸の1つに、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y109及びY144に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y109及びY155に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y109及びY162に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y144及びY155に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y144及びY162に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y155及びY162に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y109、Y144及びY155に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y109、Y144及びY162に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y109、Y155及びY162に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。好ましくは、少なくともアミノ酸Y144、Y155及びY162に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。より好ましくは、少なくともアミノ酸Y109、Y144、Y155及びY162に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。より好ましくは、アミノ酸Y109、Y144、Y155及びY162に対応するチロシン残基は、好ましくは上記で明示されているアミノ酸から独立して選択されるアミノ酸に、より好ましくはグルタミンに交換される。したがって、好ましくは、オリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体は、配列番号11、より好ましくは、配列番号12のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0071】
用語「リン酸化可能ではないアミノ酸」は、本明細書で使用される場合、翻訳後のリン酸化が真核細胞において生じないことが知られている、好ましくは生細胞において生じることが知られていない、アミノ酸に関する。翻訳後のリン酸化は、真核生物において、真核細胞のセリン、スレオニン、チロシン、アルギニン、リジン及びシステイン残基で生じることが知られており、更には原核細胞のヒスチジン残基で生じることが知られている。したがって、リン酸化可能ではないアミノ酸は、好ましくは、セリン、スレオニン、チロシン、アルギニン、リジン、システイン又はヒスチジンでないタンパク質原性のアミノ酸である。好ましくは、リン酸化可能ではないアミノ酸は、非荷電側鎖を有するアミノ酸であり、好ましくは、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、アスパラギン又はグルタミンであり、好ましくは、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン又はグルタミンがあり、更により好ましくは、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、アスパラギン又はグルタミンである。より好ましくは、リン酸化可能ではないアミノ酸は、チロシンの側鎖と同様のサイズを有する非荷電側鎖を有するアミノ酸であり、より好ましくは、フェニルアラニン又はグルタミンであり、最も好ましくはグルタミンである。
【0072】
更に、本発明は、不適切な細胞増殖に罹患している対象が、PKM2活性のモジュレーターを唯一のPKM2モジュレーターとして投与することを含む処置に適応するか否かを決定する方法であって、
(a)前記対象の不適切に増殖する細胞のサンプルを提供するステップ、
(b)前記不適切に増殖する細胞の第1のサブポーションを、少なくとも12時間、少なくとも15%の酸素を含む雰囲気下でインキュベートするステップ(正常酸素状態のサブポーション)、
(c)前記不適切に増殖する細胞の第2のサブポーションを、少なくとも12時間、5%以下の酸素を含む雰囲気下でインキュベートするステップ(低酸素状態のサブポーション)、
(d)前記第1及び第2のサブポーションの細胞における少なくとも酵素である高親和性ピルビン酸キナーゼ及び低親和性ピルビン酸キナーゼの活性を決定するステップ、
(e)ステップ(d)で決定された前記活性を比較するステップ、及び
(f)比較ステップ(e)の結果に基づいて、不適切な細胞増殖に罹患している前記対象が、PKM2活性のモジュレーターを唯一のPKM2モジュレーターとして投与することを含む処置に適応するか否かを決定するステップ
を含む方法に関する。
【0073】
不適切な細胞増殖に罹患している対象が、PKM2活性のモジュレーターを本発明の唯一のPKM2阻害剤として投与することを含む処置に適応するか否かを決定する方法は、好ましくは、in vitroでの方法である。更に、それは、上記で明示的に言及したものに加えたステップを含み得る。例えば、さらなるステップは、例えば、当業者に公知の方法によって前記対象が不適切な細胞増殖に罹患しているか否かを決定することに関し得る。更に、前記ステップの1つ以上は、自動化された装置によって実施することができる。好ましくは、不適切な細胞増殖に罹患している対象が、PKM2活性のモジュレーターを唯一のPKM2阻害剤として投与することを含む処置に適応するか否かを決定する方法は、EP 2 821 790 A1に開示されているように実施され、それはその完全な開示に関して参照により本明細書に援用される。
【0074】
用語「サンプル」は、体液のサンプル、単離された細胞のサンプル、又は組織若しくは器官からのサンプル、又は外部若しくは内部体表面から採取された洗浄/すすぎ流体のサンプルを意味する。サンプルは細胞を含み、好ましくは、サンプルは不適切に増殖する細胞を含む。サンプルは周知の技術によって得ることができ、好ましくは、任意の体表面、体腔、器官又は組織からのスクレープ、スワブ又は生検を含む。このようなサンプルは、ブラシ、(綿の)スワブ、スパチュラ、すすぎ/洗浄液、パンチバイオプシー装置、針による空洞の穿刺又は外科用器具の使用によって得ることができる。しかし、血液、尿、唾液、涙液、便のサンプルも本発明の方法に包含される。組織又は器官のサンプルは、例えば生検又は他の外科的処置によって、任意の組織又は器官から得ることができる。単離された細胞は、単離技術、例えば、濾過、遠心分離又は細胞選別などによって、体液又は組織又は器官から得ることができる。好ましくは、細胞、組織又は器官のサンプルは、不適切な増殖の公知の標的又は疑義のある標的である細胞、組織又は器官から得られる。サンプルは、特に特許請求の範囲、実施形態、及び実施例で明示されているように、本発明の方法を実施するために更に処理することができることを理解されたい。好ましくは、サンプルは、前記サンプルに含まれる生細胞を得るために前処理される。
【0075】
好ましくは、サブポーションは、例えば、好ましくは後の切片から得られる同様のサイズの組織薄片を提供することによって、又はほぼ等量の小さな組織切片を提供することによって、又はサンプルを(例えばトリプシンで)酵素的に消化し細胞を単離し、及び同様の細胞数を提供することによって得られる全てのサブポーション中に同様の不適切に増殖する細胞が存在する可能性が高いように得る。
【0076】
用語「インキュベートする」は当業者には理解されており、好ましくは、前記細胞の生存及び/又は増殖を許容する条件下で細胞を維持することに関する。不適切に増殖する細胞を維持する好ましい条件は、当業者には公知である。好ましくは、インキュベーションは、6時間から24時間、より好ましくは7時間から15時間、更に好ましくは10時間から14時間の間、最も好ましくは12時間±1時間である。好ましくは、第1のサブポーション及び第2のサブポーションは同じ時間インキュベートされ、すなわち、第1のサブポーションと第2のサブポーションの間のインキュベーション時間の差は、好ましくは、1時間以下であり、より好ましくは0.5時間以下であり、更により好ましくは0.25時間以下である。好ましくは、サンプルは、少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、最も好ましくは少なくとも24時間、標準細胞培養条件下でプレコンディショニングされる。
【0077】
本発明によれば、サンプルの少なくとも第1のサブポーションは正常酸素状態の条件下で、すなわち、がん組織における酸素含量(約1%~10%)にほぼ相当する量の酸素を含む雰囲気下で、又は標準大気(21%酸素)の雰囲気下でインキュベートされる。好ましくは、酸素濃度は少なくとも1%であり、より好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%であり、最も好ましくは、酸素濃度は21%である。
【0078】
本発明によれば、サンプルの少なくとも第2のサブポーションは低酸素状態の条件下で、すなわち、細胞で低酸素応答を誘導する酸素濃度を含む雰囲気下でインキュベートされる。好ましくは、酸素濃度は0.5%以下であり、より好ましくは0.3%以下、更に好ましくは0.1%以下であり、最も好ましくは0%である。
【0079】
好ましくは、正常酸素状態及び低酸素状態は、前記2つの酸素濃度の間の有意差がサンプルに影響を及ぼすように選択される。したがって、正常酸素状態と低酸素状態の間の酸素濃度の差は、好ましくは、少なくとも1%であり、より好ましくは少なくとも2%であり、更により好ましくは少なくとも10%であり、最も好ましくは少なくとも20%である。
【0080】
特に高親和性ピルビン酸キナーゼ、低親和性ピルビン酸キナーゼの酵素活性を決定する方法は、当技術分野で公知である。好ましくは、本方法において、さらなる酵素活性が、特にヘキソキナーゼ、リンゴ酸デカルボキシラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)及びシトクロムc酸化錯体IVの少なくとも1つが決定される。好ましくは、少なくとも酵素である高親和性ピルビン酸キナーゼ、低親和性ピルビン酸キナーゼ及び乳酸デヒドロゲナーゼの活性が決定される。酵素活性は教科書に記載されているように測定することができ、また、例えばEP 2 821 790 A1から当業者には公知である。表1に、可能なアッセイ及び適切な酵素活性を決定するための反応条件をまとめている。
【0081】
【0082】
好ましくは、決定される活性は、比活性、すなわちタンパク質の質量当たりの活性(U/mg)である。高親和性PKに対する上記のアッセイは、ピルビン酸キナーゼM1(PKM1遺伝子の産物)活性と高親和性ピルビン酸キナーゼM2(PKM2遺伝子の産物)活性とを区別しないことは、当業者には理解されよう。したがって、このアッセイにおいては、高親和性ピルビン酸キナーゼ及び低親和性ピルビン酸キナーゼの総活性がそれぞれ決定される。
【0083】
本発明の方法によれば、正常酸素状態条件下の活性と比べた場合の低酸素状態下でのPKHA又はPKLAのいずれかの活性の強い変化は、PKM2活性のモジュレーターの唯一のPKM2モジュレーターとしての投与を含む処置に適応する患者由来のサンプルを示す。好ましくは、前記変化は増加であっても低減であってもよい。また好ましくは、前記変化は、少なくとも1.5倍、より好ましくは少なくとも2倍、最も好ましくは少なくとも3倍の変化である。逆に、正常酸素状態条件下の活性、又はPKHAとPKLAの両方の平行変化と比べた場合の低酸素状態下でのPKHA又はPKLAのいずれかの活性における中程度の変化又は無変化は、PKM2活性のモジュレーターの唯一のPKM2モジュレーターとしての投与を含む処置に適さない患者由来のサンプルを示す。好ましくは、唯一のPKM2モジュレーターとしてPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適さない前記患者については、本明細書で別記されているようなHMGB1との併用治療が推奨される。
【0084】
好ましくは、方法ステップ(e)は、低酸素状態のサブポーションの酵素活性と正常酸素状態のサブポーションの酵素活性の比率を計算する。より好ましくは、前述の方法ステップ(e)は、嫌気性酵素の活性の合計と好気性酵素の活性の合計との比率を計算することを更に含む。
【0085】
例えば、嫌気性酵素としての酵素LDH、PKLA及び好気性酵素PKHAの酵素活性が患者の腫瘍組織で決定される場合、以下のように進めることができる。第1のステップにおいて、好ましくは、標準化した低酸素状態/正常酸素状態の酵素活性(XN、Xは目的の酵素である)を計算する:LDHN=LDH低酸素状態/LDH正常酸素状態、PKLAN=PKLA低酸素様態/PKLA正常酸素状態、及びPKHAN=PKHA低酸素状態/PKHA正常酸素状態。更に、好ましくは、嫌気性/好気性の比Sは、例えば、以下の式によって計算することができる:
【0086】
【0087】
上記から理解されるように、Sの計算に適用される式において、除数の被加数の数値で割った、被除数中の被加数の数値に対応するSの値は(参照スコアSR)、唯一のPKM2モジュレーターとしてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適さない患者からのサンプルを示し、好ましくは、そのような場合、SはSR±0.5SRに対応し、より好ましくは±0.25SR、最も好ましくは±0.1SRに対応する。逆に、SRから大幅に乖離したSの値は、唯一のPKM2モジュレーターとしてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応する患者由来のサンプルを示し、好ましくは、そのような場合、SはSR±0.1SR、より好ましくは±0.25SR、最も好ましくは±0.5SRより高いか又は低い。式1の例において、SRは2((1+1)/1)である。
【0088】
更に、本発明は、不適切な細胞増殖に罹患している対象における不適切な細胞増殖を処置する方法であって、(A)前記対象が唯一のPKM2モジュレーターとしてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応するか否かを、好ましくは本発明の方法により決定するステップ、及び(B)ステップA)において前記対象が、唯一のPKM2阻害剤としてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応すると決定された場合に、前記対象にPKM2活性のモジュレーターを投与し、それにより不適切な細胞増殖を処置するステップを含む、方法に関する。
【0089】
不適切な細胞増殖を処置する方法は、好ましくは、in vivoでの方法である。更に、それは上記の明示的に言及したものに加えてステップを含み得る。例えば、さらなるステップは、例えば、前記対象が当業者に公知の方法によって不適切な細胞増殖に罹患しているか否かを決定することに関し得る。更に、前記ステップの1つ以上は、自動化された装置によって実施することができる。好ましくは、この方法は、(C)ステップA)において前記対象が、唯一のPKM2阻害剤としてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応しないと決定された場合に、前記対象にPKM2活性のモジュレーター及びHMGB1又はその断片又は誘導体、好ましくは本発明の組合せ製剤を投与し、それにより不適切な細胞増殖を処置するさらなるステップを含む。
【0090】
有利には、本発明の基礎となる実験において、低酸素状態下の活性と比べて正常酸素状態の条件下でインキュベートした腫瘍サンプルにおける上記で明示されている酵素の異なる活性は、そこに含まれている細胞がPKM2のモジュレーターに対して感受性であるか否かを示すことが確認された。
【0091】
上記を考慮すると、以下の実施形態が好ましい。
【0092】
1.(i)ピルビン酸キナーゼM2(PKM2)活性のモジュレーター、及び
(ii)高移動度グループボックス1(HMGB1)ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤
を含む組合せ製剤。
【0093】
2.前記HMGB1又はその誘導体が高親和性ピルビン酸キナーゼの、好ましくはPKM2の四量体形態の活性を阻害する、実施形態1に記載の組合せ製剤。
【0094】
3.HMGB1ポリペプチド及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する前記薬剤が、
(i)HMGB1ポリペプチドを含むポリペプチド、
(ii)HMGB1ポリペプチドのボックスBを含むポリペプチド、
(iii)(i)又は(ii)のポリペプチドに少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有し、PKMの、好ましくはPKM2の四量体形態の活性を阻害する活性を有するポリペプチド、
(iv)(i)~(iii)のいずれか1つのポリペプチドを含む、腫瘍細胞に特異的に結合する薬剤、
(v)HMGB1ポリペプチドを分泌するように誘導されたHMGB1分泌細胞、
(vi)好ましくはベクター及び/又は宿主細胞に含まれる、(i)、(ii)及び/又は(iii)のポリペプチドをコードしている発現可能なポリヌクレオチド;又は
(vii)(i)~(vi)の任意の組み合わせ
である、実施形態1又は2に記載の組合せ製剤。
【0095】
4.(i)の前記HMGB1ポリペプチドが、ヒトHMGB1ポリペプチドであって、好ましくは配列番号4のアミノ酸配列を含む前記ポリペプチドである、実施形態1~3のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0096】
5.(ii)のHMGB1ポリペプチドの前記ボックスBが、ヒトHMGB1ポリペプチドのボックスBであって、好ましくは配列番号5のアミノ酸配列を含む前記ボックスBである、実施形態3又は4に記載の組合せ製剤。
【0097】
6.(i)、(ii)又は(iii)の前記ポリペプチドが融合ポリペプチドである、実施形態3~5のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0098】
7.(iv)の前記HMGB1分泌細胞がマクロファージ又はNK細胞である、実施形態3~6のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0099】
8.(vi)の前記発現可能なポリヌクレオチドが、
(I)配列番号6及び/若しくは7の核酸配列、又は
(II)(I)の核酸配列に少なくとも70%同一である核酸配列
及びプロモーター、好ましくは異種プロモーター
を含むポリヌクレオチドである、実施形態3~7のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0100】
9.(iv)の腫瘍細胞に特異的に結合する前記薬剤が抗体若しくはその断片、又はアプタマーである、実施形態3~8のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0101】
10.(vi)の前記ベクターがウイルスベクター、好ましくは腫瘍親和性ウイルスベクターである、実施形態3~9のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0102】
11.前記宿主細胞が免疫細胞、好ましくは腫瘍に特異的なB細胞である、実施形態3~10のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0103】
12.前記HMGB1がリン酸化HMGB1であり、及び/又はHMGB1ポリペプチドの前記ボックスBが、HMGB1ポリペプチドのリン酸化ボックスBである、実施形態1~11のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0104】
13.PKM2の前記モジュレーターがPKM2の阻害剤であり、好ましくは、PKM2の四量体化の阻害剤であり、より好ましくは、P-M2tide(チロシンがリン酸化された配列番号1)である、実施形態1~12のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0105】
14.前記モジュレーターがPKM2の活性化物質であり、好ましくはPKM2四量体を安定化させる薬剤であり、より好ましくはML265(6-(3-アミノベンジル)-4-メチル-2-(メチルスルフィニル)-4,6-ジヒドロ-5H-チエノ-[2',3':4,5]ピロロ[2,3-d]ピリダジン-5-オン)である、実施形態1~13のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0106】
15.前記PKM2がヒトPKM2である、実施形態1~14のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0107】
16.併用使用若しくは個別使用、及び/又は同時使用若しくは連続使用のためのものである、実施形態1~15のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0108】
17.薬学的に適合性のある製剤である、実施形態1~16のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0109】
18.医薬として使用するための、実施形態1~17のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0110】
19.不適切な細胞増殖、好ましくはがんの処置において使用するための、実施形態1~17のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0111】
20.HMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤を投与することを含む、不適切な細胞増殖に対する併用療法において使用するためのPKM2活性のモジュレーター。
【0112】
21.前記不適切な細胞増殖がHMGB1又はその誘導体による処置に耐性である、実施形態20の使用のためのPKM2活性のモジュレーター。
【0113】
22.PKM2活性のモジュレーターを投与すること含む、不適切な細胞増殖に対する併用療法で使用するためのHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤。
【0114】
23.前記不適切な細胞増殖がPKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性である、実施形態22の使用のためのHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤。
【0115】
24.(i)PKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性であるか、又は(ii)HMGB1若しくはその誘導体を提供する薬剤による処置に対して耐性である、不適切な細胞増殖における細胞の選択の阻止に使用するための、実施形態1~17のいずれか1つに記載の使用のための組合せ製剤。
【0116】
25.前記PKM2活性のモジュレーターが0.1mM未満、好ましくは0.05mM未満、より好ましくは0.01mM未満の濃度で使用されるか、又は0.1mM未満、好ましくは0.05mM未満、より好ましくは0.01mM未満の血漿中濃度を誘導する用量で使用される、実施形態19に記載の使用のための組合せ製剤、又は実施形態20若しくは21の使用のためのPKM2活性のモジュレーター。
【0117】
26.前記PKM2活性のモジュレーターが0.0005mM~0.1mM、好ましくは0.001mM~0.05mM、より好ましくは0.005mM~0.01mMの濃度で使用されるか、又は0.0005mM~0.1mM、好ましくは0.001mM~0.05mM、より好ましくは0.005mM~0.01mMの血漿中濃度を誘導する用量で使用される、実施形態19に記載の使用のための組合せ製剤、又は実施形態20若しくは21の使用のためのPKM2活性のモジュレーター。
【0118】
27.前記がんが結腸直腸がん又は慢性リンパ球性白血病(CLL)である、実施形態19に記載の使用のための組合せ製剤、又は実施形態20若しくは21の使用のためのPKM2活性のモジュレーター、又は実施形態22若しくは23の使用のためのHMGB1若しくはその誘導体を提供する薬剤。
【0119】
28.PKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤を投与し、それにより不適切な細胞増殖を処置することを含む、不適切な細胞増殖に罹患している対象における不適切な細胞増殖を処置する方法。
【0120】
29.がんを処置するための医薬組成物又はキットを製造するためのKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤の使用。
【0121】
30.前記医薬組成物が実施形態1~17のいずれか1つに記載の複合組成物である、実施形態29の使用。
【0122】
31.PKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤を混合するステップを含む、実施形態1~17のいずれか1つに記載の複合組成物を調製する方法。
【0123】
32.PKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤の混合物を医薬組成物として製剤化するステップを更に含む、実施形態31の方法。
【0124】
33.PKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【0125】
34.PKM2活性のモジュレーター及びHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤を含むキット。
【0126】
35.不適切な細胞増殖に罹患している対象が、唯一のPKM2阻害剤としてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応するか否かを決定する方法であって、
(a)前記対象の不適切に増殖する細胞のサンプルを提供するステップ、
(b)少なくとも1%の酸素を含む雰囲気下で、少なくとも12時間±1時間(正常酸素条件)、前記不適切に増殖している細胞の第1のサブポーションをインキュベートするステップ、
(c)0.1%以下の酸素を含む雰囲気下で、少なくとも12時間±1時間(低酸素条件)、前記不適切に増殖している細胞の第2のサブポーションをインキュベートするステップ、
(d)第1及び第2のサブポーションの細胞における少なくとも酵素である高親和性ピルビン酸キナーゼ及び低親和性ピルビン酸キナーゼの活性を決定するステップ、
(e)ステップ(d)で決定された前記活性を比較するステップ、及び
(f)比較ステップ(e)の結果に基づいて、不適切な細胞増殖に罹患している前記対象が、唯一のPKM2阻害剤としてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応するか否かを決定するステップ
を含む、方法。
【0127】
36.正常酸素条件下の活性に比べて低酸素条件下のPKHA若しくはPKLAのいずれかの活性における強い変化が、唯一のPKMモジュレーターとしてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応する患者由来のサンプルの指標である、実施形態35の方法。
【0128】
37.正常酸素条件下の活性に比べて低酸素条件下のPKHA若しくはPKLAのいずれかの活性の中程度若しくは無変化が、又はPKHAとPKLAの両方の類似する変化が、唯一のPKMモジュレーターとしてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応しない患者由来のサンプルの指標である、実施形態35又は36の方法。
【0129】
38.不適切な細胞増殖に罹患している対象における不適切な細胞増殖を処置する方法であって、
(A)前記対象が唯一のPKM2阻害剤としてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応するか否かを、好ましくは実施例35~37のいずれか1つに記載の方法により決定するステップ、及び
(B)ステップA)において前記対象が、唯一のPKM2阻害剤としてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応すると決定された場合に、前記対象にPKM2活性のモジュレーターを唯一のPKM2阻害剤として投与し、それにより不適切な細胞増殖を処置するステップ
を含む、方法。
【0130】
39.(C)ステップA)において、前記対象が唯一のPKM2阻害剤としてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応しないと決定された場合に、前記対象にPKM2活性のモジュレーター及びHMGB1又はその断片又は誘導体、好ましくは実施例1~17のいずれか1つに記載の組合せ製剤を投与し、それにより不適切な細胞増殖を処置するステップを更に含む、実施形態39の方法。
【0131】
40.ポリリン酸化高移動度グループB1(HMGB1)ポリペプチド又はその誘導体。
【0132】
41.医薬として使用するための、ポリリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
【0133】
42.がんの処置で使用するための、ポリリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
【0134】
43.前記HMGB1ポリペプチド又はその誘導体がポリリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体である、実施例1~18のいずれか1つに記載の組合せ製剤。
【0135】
44.不適切な細胞増殖、好ましくはがんに罹患している対象を処置する方法であって、前記対象に治療有効量のポリリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体を投与するステップを含む、方法。
【0136】
45.(i)HMGB1又はその誘導体を産生するように末梢血単核球、好ましくはNK細胞を誘導するステップ;
(ii)細胞培養物上清又はこれらの細胞の細胞質ゾルからの前記HMGB1又はその誘導体を精製するステップ
を含む、ポリリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体を産生する方法。
【0137】
46.HMGB1ポリペプチドの誘導体が、HMGB1ポリペプチドのアミノ酸Y109、Y144、Y155及びY162に対応する少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、最も好ましくは4つの全てのチロシン残基がリン酸化可能ではないアミノ酸残基、好ましくはグルタミン残基と交換された、HMGB1ポリペプチドのボックスBを含むポリペプチドであり、より好ましくは、配列番号11を含む、より好ましくは配列番号11からなるポリペプチドである、実施形態1~11又は13~17のいずれか1つに記載の組合せ製剤、実施形態22又は23に記載の使用のためのHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤、実施形態28に記載の方法、実施形態29又は30に記載の使用、実施形態31又は32に記載の方法、実施形態33に記載の医薬組成物、実施形態34に記載のキット。
【0138】
47.HMGB1ポリペプチドの誘導体が、HMGB1ポリペプチドであり、HMGB1ポリペプチドにおいて少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つ、最も好ましくは4つ全てのチロシン残基Y109、Y144、Y155及びY162が、リン酸化可能ではないアミノ酸残基、好ましくはグルタミン残基と交換された、より好ましくは、配列番号12を含む、より好ましくは配列番号12からなるポリペプチドである、実施形態1~11又は13~17のいずれか1つに記載の組合せ製剤、実施形態22又は23に記載の使用のためのHMGB1及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを提供する薬剤、実施形態28に記載の方法、実施形態29又は30に記載の使用、実施形態31又は32に記載の方法、実施形態33に記載の医薬組成物、実施形態34に記載のキット。
【0139】
48.HMGB1ポリペプチドのアミノ酸Y109、Y144、Y155及びY162に対応するチロシン残基の少なくとも1つがリン酸化可能ではないアミノ酸と交換された、オリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
【0140】
49.前記リン酸化可能ではないアミノ酸が非荷電のリン酸化可能ではないアミノ酸である、実施形態48のオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
【0141】
50.前記リン酸化可能ではないアミノ酸が、各場合で独立して、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、アスパラギン、及びグルタミンからなる群から選択され、好ましくはグルタミンである、実施形態48又は49のオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
【0142】
51.疾患の処置において使用するための、実施形態48~50のいずれか1つに記載のオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド。
【0143】
52.不適切な細胞増殖の処置において使用するための、実施形態48~50のいずれか1つに記載のオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド。
【0144】
本明細書で引用された全ての参考文献は、それらの開示内容全体及び本明細書で詳しく言及された開示内容全体に関して、参照により本明細書に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【
図1-1】ヒトNK細胞由来のHMGB1は結腸直腸がんにおいて細胞死を誘導することを示す。(A)HMGB1はNK-92 Cl細胞からクロマトグラフィーによって精製した。矢印=HMGB1を含有する画分(溶出液#38)。(B)溶出液37~42を含有する膜を示すイムノブロット。30kDの特異的HMGB1バンドは溶出液#38中にのみ検出された。(C)HMGB1(n=3)との72時間インキュベーション後の細胞傷害性アッセイ。精製HMGB1(#38)の1:40稀釈液を使用した(約16nMに相当)。組換えヒトHMGB1は80nMで使用した。(D)2名のドナーから得た活性化ヒト末梢血NK細胞(抗Nkp30抗体とクロスリンクされたもの)由来の上清は、それらの細胞傷害性能力に関してクリスタルバイオレットアッセイで試験した(72時間、n=3)。グリシルリジン(200μM)をHMGB1の阻害剤として使用した。(E)(D)で使用した上清のイムノブロット。HMGB1は、Nkp30クロスリンク時に特異的に分泌された。
*=非特異的バンド。
**p<0.002。(F)~(M)NK細胞由来のHMGB1は、結腸直腸がんにおいて細胞死を誘導する。(F、G)NK-92 Cl細胞株由来の細胞傷害性顆粒からのHMGB1を、最終精製ステップの前に、Resource RPCカラム(F)及びSource 15RPC ST 4.6/100カラム(G)での逆相クロマトグラフィーによって精製した。詳細は、実験手順のセクションに記載されている。破線は、アセトニトリル勾配を示す。HMGB1を含有する画分は、矢印で示している。(H)精製収率は、対応するゲルのクーマシーブルー染色によって決定した場合、約90%であった。(I、左)クリスタルバイオレット生存率アッセイによって評価したHT29がん細胞の生存率。細胞を組換えヒトHMGB1(160nM)又はNK細胞由来のHMGB1(160nM)で処理した;この場合、提示した200μMのグリシルリジンを使用した(72時間、n=3)。(I、右)HMGB1細胞傷害性のサイドバイサイド比較は、80nMのHMGB1濃度を使用して(72時間、n=3)実施した。(K)溶出液#38中のHMGB1の純度を示す銀色ゲル(0.5μgのタンパク質を装填)。(L)Nkp30で刺激した血液ドナーNK細胞由来の上清からのHPLC精製HMGB1(80nM、24時間、n=3)をIgG1対照上清で希釈したところ、実質的な細胞傷害性を示す。(M)インターフェロンγ濃度をELISA(実験手順を参照)によって決定し、血液ドナー由来の培養及び刺激したNK細胞の活性化に対する陽性対照として使用した。エラーバーはSDを示す。
**p<0.002。
【
図2-1】HMGB1はミトコンドリア呼吸を阻害する。(A)HMGB1で処理した後の結腸直腸がん細胞株のミトコンドリア分画で測定した呼吸鎖複合体の活性(80nM、24時間、n=5)。(B)組織薄片を新鮮なヒト外科結腸がん標本から作製し、HMGB1で処理した(160nM、72時間)。組織薄片をホモジナイゼーションした後、COX活性をミトコンドリア分画で測定した(n= 8)。(C~F)結腸直腸がん細胞及び組織薄片を、それぞれ(A)及び(B)に記載されているようにHMGB1で処理した。次いで、シアン化物感受性呼吸を測定した。* p<0.05、**p<0.001。
【
図3-1】HMGB1はPK M2との干渉により解糖を阻害する。(A)HMGB1で処理した後の細胞画分中で測定した解糖酵素の活性(80nM、24時間、n=5)。HK=ヘキソキナーゼ、PFK=ホスホフクルトキナーゼ、GAPDH=グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、TPI=トリオースリン酸イソメラーゼ、PGM=ホスホグリセリン酸ムターゼ、ENO=エノラーゼ、LDH=乳酸デヒドロゲナーゼ。(B)新鮮な外科標本由来の結腸がん組織切片をHMGB1で処理した(160nM、72時間)。四量体PK M2活性を8つのホモジネートで測定した。(C)結腸直腸がん細胞のPK M2活性は、血液ドナー#2からの刺激したNK細胞に由来する上清と24時間インキュベーションした後に測定した(
図1Dを参照)。グリシルリジン(200μM)をHMGB1阻害剤として使用した(n=3)。(D)5-3H-グルコースターンオーバーをHMGB1で処理した後に評価した(80nM、24時間、n=3)。(E)SW480細胞を使用する実験を、(D)で概説したように実施した。グリシルリジン(200μM)をHMGB1の阻害剤として使用した(n=3)。(F)HMGB1で処理した後の粗抽出液のmRNA中の14Cの濃縮(80nM、24時間、n=3)。(G)PK M2-HMGB1複合体の単離:2μMヒトPK M2及び2μMヒトHMGB1を含有する溶液の限外濾過。濾過したPK M2-HMGB1複合体は、ウェスタンブロッティングに暴露した。
*p<0.05、
**p<0.002、
***p<0.00008。
【
図4】HMGB1は四量体PK M2のアロステリック阻害剤である。(A)以下のHMGB1構築物について計算を実施した:左端:Aボックス(暗色)、非リン酸化チロシン;中央左:Aボックス、リン酸化チロシン;中央右:Bボックス、非リン酸化チロシン;右端:Bボックス、リン酸化チロシン。(B)暗色雲状=HMGB1 A及びBボックスの静電ポテンシャル:左端)Aボックス、非リン酸化チロシン;中央左)Aボックス、リン酸化チロシン;中央右)Bボックス、非リン酸化チロシン;右端)Bボックス、リン酸化チロシン。(C)左:HMGB1 ボックスB残基pTyr 116及びpTyr 162から(PDBファイル:2YRQによる番号付与、それぞれ、ヒト配列における残基109及び155に対応)、最高ランクのドッキングポーズに関するPK M2 K433までの距離及びPK M2 Y105のHMGB1 ボックスBからの最も近い荷電残基までの距離。右:PK M2の静電ポテンシャル(暗色)を有する回転図。(D)実験は(A)で概説したように実施した。FBPの存在下(左)又はリン酸化Tyr 105使用(中央)又はFBPの非存在下及び非リン酸化Tyr 105使用(右)。
【
図5-1】グルコース発酵及びグルタミノリシスはがん細胞におけるHMGB1誘発代謝遮断を回避する。(A)HMGB1で処理した呼吸鎖欠損細胞(ρ0)及び対照(野生型)細胞で実施した生存率アッセイ(160nM、72時間、n=3)。
**p<0.0001。(B)ATP生成量は、O
2消費から、また13C標識グルコース由来の13C乳酸流出量から計算した。(C)ATP生成量は、13C標識グルタミン由来の13C乳酸流出量から計算した。細胞をHMGB1で処理した(80nM、24時間、n=3、
*p<0.02)。(D)オリゴマイシン(10ng/ml)及びHMGB1(80nM)で処理した後の細胞の生存(両方とも72時間、n=3、
**p<0.0001)。(E)HMGB1で処理した後のグルコース非含有培地におけるクリスタルバイオレット生存アッセイ(80nM、SW480及びHCT116;160nM、HT29;24時間)。L-DON(1μM)を提示したように加えた(n=3、
*p<0.02)。(F)ME1のsiRNA媒介性ノックダウン後に、HT29細胞をHMGB1で処理した(80nM、72時間、n=3、
*p<0.0003及び
**p<0.000002)。右パネル:ノックダウンを確認するための抗ME1抗体によるイムノブロット。(G)直腸がん患者におけるME1発現レベル及びがん組織の局所浸潤深度(pT期);+ME1の発現が+低度、+中程度、+++高程度。(H)直腸がん患者におけるME1発現レベル及びリンパ節転移(pN期)の関連。(I)~、四量体PKM2フェノコピーのHMGB1細胞傷害性の阻害。(I)細胞を24時間100μMのP-M2tide(ホスホチロシンペプチド)で処理した(n=3)。P-M2tide結合部位から離れている二量体-二量体界面に結合するPKM2活性化小分子ML-265は、細胞傷害性を誘導しなかった。(K)125I標識HMGB1で処理した提示細胞の細胞画分(80nM、24時間、n=3)。(L)PKM2を一時的にダウンレギュレート又は過剰発現させた後、HMGB1で処理した(80nM、72時間、n=3)。PKM2のノックダウン又は過剰発現の成功は、ウエスタンブロット法(M、N)によって確認した。エラーバーはSDを表す。
*p<0.05、
**p<0.01。
【
図6】HMGB1及び活性化物質(Aの左及び右)又はPMK2の阻害剤(B)の同時投与はクリスタルバイオレット細胞傷害性アッセイで決定されたように相乗的な細胞傷害性作用を有する(アッセイは重複して実施、
*はp<0.05を示す)。(C)I125標識HMGB1による免疫沈降(PKM2プルダウン)。HMGB1は、ホスホチロシンペプチドと同様に、PKM2のアロステリックな中心近位に結合し、結合における競合をもたらす。反対に、アロステリックな中心から遠位にある、二量体-二量体界面で四量体に結合する活性化物質ML265は、HMBG1と競合しない。
【
図7-1】オリゴリン酸化HMGB1の細胞死誘導効果。提示したがん細胞株を異なる2つの濃度のGlnHMGB1(配列番号12)とインキュベートし、細胞生存率をMTTアッセイで試験した。対照:GlnHMGB1の添加なし;Y軸:630nmでの光電密度。
【
図8-1】オリゴリン酸化HMGB1の細胞死誘導効果。提示したがん細胞株を異なる2つの濃度のGlnHMGB1(配列番号12)とインキュベートし、細胞生存率をLDH放出アッセイで試験した。対照:GlnHMGB1の添加なし;Y軸:上清中のLDHの割合(%)。
【発明を実施するための形態】
【0146】
以下の実施例は本発明を単に例示したものである。これらは、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0147】
[実施例1]
NK細胞由来のHMGB1タンパク質は結腸直腸がんの細胞死を誘導する
がん細胞
9に対する組換えヒトHMGB1タンパク質の細胞傷害活性を考慮し、本発明者らは、免疫細胞由来内在性HMGB1の細胞効果を検討しようとした。この目的のため、本発明者らは、HPLCによってNK細胞株NK-92 Clの細胞質ゾル顆粒からHMGB1を単離した(
図1A)。HMGB1の溶出は、イムノブロット解析によって確認した(
図1B)。NK細胞由来のHMGB1、及び比較としての組換えヒトHMGB1は、両方とも、SW480及びHCT116の結腸直腸がん細胞を効率的に死滅させた(
図1C)。観察された細胞死は、HMGB1の阻害剤であるグリシルリジンがその細胞傷害性作用を有意に遮断したので、HMGB1に特異的であった。反対にHT29細胞は、HMGB1の低濃度~中濃度(16~80nM)に対して耐性であった。より高濃度(80nM又は160nM)のNK細胞由来のHMGB1は、サイドバイサイドの細胞傷害実験で評価したとおり、組換えHMGB1よりも高い細胞傷害性を及ぼした(
図1I)。溶出液#38の銀染色ゲルにより、HMGB1が高純度で単離されていることを確認した(約30kDでの単一バンド、
図1K)。
【0148】
健康な血液ドナー由来の活性化ヒト末梢血NK細胞をアゴニスト抗Nkp30mAbsにより刺激すると、HT29及びHCT116結腸がん細胞に対するNK細胞依存性細胞傷害性作用は、HMGB1特異的阻害剤グリシルリジンによって低減し、HMGB1がNK細胞誘発腫瘍細胞死を部分的に媒介していたことが示唆された(
図1D)。反対に、SW480細胞における細胞傷害性はグリシルリジンによって変化しなかった。
【0149】
NK細胞からのHMGB1の分泌は、イムノブロット法によって確認した(
図1E)。更に、高レベルのインターフェロン-γが上清中で検出され、アゴニスト抗NKp30mAbによるNK細胞の活性化が示された。したがって、NK細胞由来のHMGB1タンパク質は、結腸直腸がん細胞において細胞死を誘導する。
【0150】
[実施例2]
HMGB1はin vitro及びex vivoでの結腸直腸がんにおける好気性呼吸を阻害する
HMGB1媒介性細胞死は、HMGB1感受性(SW480)がん細胞及びHMGB1部分的耐性(HCT116)がん細胞における巨大ミトコンドリアの形成及びATPの実質的減少を特徴とするが、HMGB1耐性HT29細胞では特徴的ではなかった。観察されたエネルギー当量の損失及び変化したミトコンドリア形態により、本発明者らは、HMGB1が主要なATP生成経路、酸化的リン酸化反応(OXPHOS)及び解糖に影響を及ぼすか否かを検討した。HMGB1処理は、酸素誘導性ATP生成にとって必須であるシトクロムcオキシダーゼ(COX)の活性レベルを有意に低下させた(
図2A)。複合体IからIIIへの電子の流れは変化しなかったが、結合型複合体II及びIIIの活性はHMGB1感受性細胞(SW480)において低下し、部分的HMGB1耐性細胞株HCT116及びHMGB1耐性細胞株HT29においては維持されたか、又は更にアップレギュレートされた。ATPシンターゼ活性は低下せず、細胞内ATPの減少が呼吸鎖上流のエネルギー代謝の阻害によって引き起こされたという仮説を裏付けている。次に、本発明者らは、ヒト結腸直腸がん組織のin vivoでの複雑性を説明する代替モデルにおいて、結腸直腸がん患者の新鮮な腫瘍組織から得た300μm厚の切片を使用して、in vitroでの単層細胞培養に基づく結果を確認した。HMGB1処理は、原発腫瘍組織におけるCOX活性の強力な阻害によって示されたように、酸素のターンオーバーを低下させた(
図2B)。一貫して、HMGB1は、結腸直腸がん組織におけるミトコンドリアの酸素消費量を強力に減少させた(
図2C)。同様の効果が培養した結腸がん細胞においても観察され、ミトコンドリアの酸素消費量の阻害がHMGB1感受性SW480細胞及び部分的HMGB1耐性HCT116細胞において明白であったが(
図2D+
図2E)、HMGB1耐性HT29細胞のミトコンドリア呼吸はHMGB1によってわずかに減少しただけであった(
図2F)。これらの結果は、HMGB1が結腸直腸がん細胞の好気性呼吸を阻害することを示している。
【0151】
[実施例3]
HMGB1は、四量体PK M2の特異的阻害によって結腸直腸がん細胞における解糖をコントロールする
好気性呼吸はグルコース作動され得ることから、本発明者らは、主要な解糖酵素の活性に対するHMGB1の効果を検討した。本発明者らは、グルコース媒介性呼吸を作動することが知られているHMGB1処理(
図3A)後のピルビン酸キナーゼ(PK)のアイソフォーム(M2)活性の低下を観察した。HMGB1は、試験した全ての結腸直腸がん細胞株、並びにex vivoでの組織薄片培養において、四量体ピルビン酸キナーゼアイソフォームPK M2を特異的に阻害した(
図3A+
図3B)。さらなる実験は、血液ドナー(ドナー#2、
図1を参照)由来のNkp30刺激NK細胞からのHMGB1含有上清も四量体PK M2を有意に阻害することを示した(
図3C)。重要なことに、グリシルリジンが完全に四量体PK M2活性を回復させたので、この阻害はHMGB1によって引き起こされた。二量体PK M2活性は変化しなかった。HMGB1処理した細胞におけるグルコース流量は、エノラーゼ反応のステップで低下した(
図3D)。観察された代謝シフトは、HMGB1阻害剤グリシルリジンによる同時処理によって部分的に逆転した(
図3E)。更に、HMGB1処理は、ペントースリン酸分路への解糖系中間体の流量を増加させた(
図3F)。ピルビン酸キナーゼの上流のグルコース中間体の蓄積と一致し、生成物阻害によって観察されたHK活性の低下を説明することができるヘキソキナーゼ(HK)生成物グルコース-6-リン酸の大幅な増加があった。酵素試験から得た結果を裏付けて、HMGB1はin vitroでPK M2(
図3G)と物理的に相互作用した。
125I標識したHMGB1を使用し、本発明者らはPKM2を免疫沈澱させることによって、in vivoでのPKM2へのHMGB1の特異的結合を示すことができた(
図6C)。非細胞傷害性P-M2tide濃度は、PKM2へのHMGB1の結合を実質的に阻害し、本発明者らのin silico結果を裏付けた(
図6C)。これらのデータは、PKM2のFBP結合ポケットの近傍のK433を含む、HMGB1結合がP-M2tide PKM2結合部位と競合することを意味する。重要なことに、以前に(FBP結合ポケットから遠位にある)PKM2
10の二量体-二量体界面に結合することが同定されたPKM2の活性化物質である小分子ML-265は、PKM2へのHMGB1結合に競合しなかった(
図6C)。
【0152】
[実施例4]
HMGB1による四量体PK M2の結合及びアロステリック阻害
HMGB1による四量体PK M2の阻害をより詳細に特徴づけるために、本発明者らはin silicoタンパク質ドッキング試験を実施した。ポリリン酸化HMGB1 Bボックスはポーズの単一クラスターを生じ、PK M2への特異的結合を示した(
図4A)。同様の推定手順を非リン酸化HMGB1 Bボックス、又はポリリン酸化HMGB1 Aボックス若しくは非リン酸化HMGB1 Aボックスに適用した場合、特異的結合は観察されなかった(
図4A)。これは、更に、3つの他の試験の場合に非特異的結合の典型的な主に疎水的に作動する結合とは反対に、ポリリン酸化HMGB1 Bボックスに対して静電的に強く作動された結合を示した結合クラスターのエネルギー解析により裏付けられた(
図4B)。特異的結合が観察されるリン酸化Bボックスについては、負の静電ポテンシャルの大きな領域(赤色の等電位)は結合界面の近傍に存在したが、非特異的結合の場合はそのような領域を欠いていた(
図4B)。更に、相互作用は、以前にFBP結合ポケットの近傍のホスホチロシン(pTyr)ペプチド結合
11及び四量体化の調節を介したPK M2活性の制御
12に関与することが示された、PK M2のK433に関係している(
図4C)。FBPの結合又はY105のリン酸化に対して提案されたHMGB1結合部位を囲む領域に静電ポテンシャルの変動がある(
図4D)。FBP結合における正の静電ポテンシャルサイズの減少、又はY105のリン酸化に対する負の静電ポテンシャルの導入は、リン酸化HMGB1ボックスBから負に帯電したリン酸基の結合を妨げると思われる(
図4D)。これらの結果は、HMGB1がPK M2四量体のアロステリック阻害剤であるということを裏付けている。
【0153】
更に、本発明者らは、P-M2tideと呼ばれるホスホチロシンペプチドであるPKM2四量体の公知の阻害剤を使用して、観察された細胞死をフェノコピーすることができた(
図5L)。P-M2tideは、PKM2のK433の相互作用に関するFBP結合ポケットの近傍で結合することが以前に明らかにされている
11。P-M2tideは実質的に細胞死を誘導したが、PKM2の活性化物質、小分子ML-265は細胞死を誘導することができなかった(
図5L)。細胞膜の透過は、
125I標識HMGB1
9を使用して確認され、細胞質ゾルの放射活性の急速な(24時間)増加が明らかになった(
図5K)。PKM2 siRNA/プラスミドを使用したPKM2に対する機能獲得及び機能喪失の実験は、PKM2のダウンレギュレーションが細胞をHMGB1に感作させたが、PKM2の過剰発現は細胞にHMGB1に対するさらなる耐性を付与したことを示した(
図5L~N)。
【0154】
[実施例5]
HMGB1耐性がん細胞はグルコース発酵の増強及びグルタミノリシスの増加を特徴とする
PK M2四量体の特異的阻害及びグルコース作動性呼吸の結果としての阻害によって誘導される、観察された細胞死は、主として(嫌気性)解糖を行うがん細胞の生存を促進するはずである。この仮説を試験するため、本発明者らは、1つのHMGB1感受性(SW480)細胞株及び1つの部分的HMGB1感受性(HCT116)細胞株からインタクトな呼吸鎖を欠損している結腸直腸がん細胞(ρ
0細胞)を作製した。解糖を単独で行うこれらの改変された細胞株は、HMGB1に対してほぼ完全な耐性になった(
図5A)。HMGB1の存在下における細胞生存に対する解糖、グルタミノリシス及び好気性呼吸の相対的寄与を評価するため、本発明者らは乳酸塩生産率及び酸素消費量から総ATP生成を計算した(
図5B+C)。HMGB1部分的(HCT116)耐性がん細胞及び高耐性(HT29)がん細胞はいずれも、ATP生産効率のHMGB1に起因する低下を解糖により効率的に補うが、SW480細胞は~50%のATP生産の大幅な低下を示した(
図5B)。しかし、HMGB1の処理後、グルタミノリシスからのATP産出(
図5C)がO
2利用によって生産されたATPと良好に一致した(
図5B)ので、HT29細胞のみがグルタミノリシスを使用することにより好気性呼吸からATP生産を維持することができた。一貫して、HT29細胞のHMGB1処理後、標識CO
2の産生を測定することにより評価した場合、グルコース酸化は大幅に低下し(~50%)、グルタミン酸化は増加した(~35%)。重要なことに、好気性呼吸からのエネルギーは、オリゴマイシンによる急速な細胞死の誘導によって示されるように、SW480及びHCT116の細胞の生存にとって重要であった(
図5D)。L-DONによるグルタミノリシスの阻害は、グルコース欠乏培地(
図5E)及びグルコース補充培地のいずれにおいても相乗的な細胞傷害性を生じた。ME1のダウンレギュレーション後、本発明者らは、HMGB1細胞傷害性に対するHT29細胞の感作を確認した(
図5F)。更に、HMGB1は、HMGB1感受性SW480異種移植片腫瘍増殖ヌードマウスを阻害したが、HMGB1及びL-DONの併用療法によるHMGB1耐性HT29異種移植片腫瘍の処理は、実質的に腫瘍増殖を阻害した。要約すると、グルコース発酵の増加及びグルタミノリシスの増加の両方ががん細胞をHMGB1に対して耐性にする可能性があり、動物実験は、組換えHMGB1による処置が治療の選択を構成し得ることを示唆している。
【0155】
[実施例6]
方法
細胞培養及び動物実験
ヒト結腸直腸がん、ヒト膠芽腫及びヒトNK細胞株は、ATCCから購入した。ヒトNK細胞は、白血球濃縮物から精製した。全ての動物実験は、NIHガイドラインGuide for the Care and Use of Laboratory Animalsに従って実施した。
【0156】
細胞株、細胞培養、及びrho zero細胞の作製及び動物実験
ヒト結腸がん細胞株SW480、HCT116、HT29及びCaco2、ヒト神経膠芽腫細胞株U251MG及びナチュラルキラー細胞株NK-92 Clは、ATCCから購入した。細胞株は、Genomics and Proteomics Core Facility 2(DKFZ, Heidelberg, Germany)において実施された多重PCRにより汚染に関して定期的に試験した。実験については、細胞を10継代以下で培養した。Rho zero細胞は、以前に開示されている1のように作製した(Gdynia, G. et al.「Danger signaling protein HMGB1 induces a distinct form of cell death accompanied by formation of giant mitochondria.」Cancer research 70, 8558-8568)。実験で使用した細胞は、RPMI(#1640、結腸がん、NK細胞)培地又はDMEM高グルコース(#41965-039、膠芽腫細胞)培地で培養した。Rho zero細胞は、以前に開示されているように作製した(Gdynia, G. et al. ibd)。簡潔に説明すると、細胞を、250ng/ml臭化エチジウム、50μg/ml L-ピルビン酸及び5mg/mlのウリジンを補充したRPMI培地(10%FCS、1%P/S)で12週間にわたり培養した。細胞傷害性の測定については、細胞を96-ウェルプレートで培養し、組換えヒトHMGB1タンパク質(Sigma-Aldrich(登録商標)社)、グリチルリチン酸((3β,18α)-30-ヒドロキシ-11,30-ジオキソオレアン-12-エン-3-イル 2-O-β-D-グルコピラヌロノシル-β-D-グルコピラノシドウロン酸))(Sigma-Aldrich(登録商標)社)、10μM(非毒性)又は100μM(細胞傷害性)のP-M2tide(アミノ酸配列: GGAVDDDpYAQFANGG; #BML-P239-0001; Enzo Life Sciences社)又は100μM ML-265(Cayman Chemical社)で処理し、次いで、細胞生存率をクリスタルバイオレット染色により評価した(Gillies, R. J., Didier, N. & Denton, M. Determination of cell number in monolayer cultures. Analytical biochemistry 159, 109-113 (1986))。リンゴ酸酵素1ノックダウンは、6-ウェルプレート中でリポフェクタミンを使用して40nM siRNAで実施し、続いて、72時間、80nM HMGB1で処理した。siRNAの配列は次のとおりであった:ME1、5'-CCCUGUGGGUAAAUUGGCUCUAUAU-3'及びスクランブルした対照、5'-CCUGCAGUACUUCAAGCGGtt-3'。PKM2 siRNAは、Santa Cruz社から得た。非特異的siRNAは対照(Dharmacon社, Schwerte, Germany)として供給した。PKM2又はME1の過剰発現については、細胞を、リポフェクタミン2000を使用して、pCMV-PKM2(Sino Biological Inc.社、Beijing, China)又はpCMV-ME1(OriGene社、Rockville, MD, USA)でトランスフェクトした。細胞傷害性測定については、特段の指示のない限り、コンフルエントな細胞を96-ウェルプレートで培養した。刺激したNK細胞からの上清の細胞傷害性活性は、参考文献のとおり、RPMI培地を用いて3日間96ウェルプレートで評価した。組換えヒトHMGB1(10ng、Sigma社)は陽性対照として適合した。質量アイソトポマーアッセイについては、細胞を、均一に標識した(U)-13C-D-グルコース又はU-13C-グルタミン(Sigma-Aldrich(登録商標)社)のいずれかを補充したグルコース非含有又はグルタミン非含有培地で培養した。
【0157】
動物実験については、6週齢のメス及びオスの無胸腺CD1ヌードマウス(Charles River、n=40)に、30ゲージ針を使用して、右側腹部に100μl PBS中5×106個のSW480又はHT29細胞を皮下注射した。腫瘍が触知できた時点で処置を開始した。2週間の間、500μl PBS中の10μg rhHMGB1、若しくはPBSのみ(対照群)及び/又は12.5mg/kg/注射のL-DONを、反対側の部位に腹膜腔内注射を毎日実施した(Ovejera, A. A., Houchens, D. P., Catane, R., Sheridan, M. A. & Muggia, F. M.「Efficacy of 6-diazo-5-oxo-L-norleucine and N-[N-gamma-glutamyl-6-diazo-5-oxo-norleucinyl]-6-diazo-5-oxo-norleucine against experimental tumors in conventional and nude mice.」、Cancer research 39, 3220-3224 (1979))。腫瘍容積は、記載されているようにして(Tomayko, M. M. & Reynolds, C. P.「Determination of subcutaneous tumor size in athymic (nude) mice.」、Cancer Chemother Pharmacol 24, 148-154 (1989))、楕円形の式(長さ×幅×高さ×1/2)を用い、キャリパーによって測定した。処置の2週間後、動物を屠殺した。
【0158】
HMGB1の逆相HPLC精製及び同定
逆相クロマトグラフィー:HMGB1を抽出し、Source 15培地をクロマトグラフィーに適用したことを除き、Zetterstrom及び共同研究者(Zetterstrom, C. K. et al.「High mobility group box chromosomal protein 1 (HMGB1) is an antibacterial factor produced by the human adenoid.」Pediatric research 52, 148-154)を参照して逆相クロマトグラフィーにより精製した。第1の精製ステップについては、Resource RPCカラム(6.4×100mm; GE Healthcare社)を適用した。溶媒Aは0.17% TFAを含む水であり、溶媒Bは0.15%のTFAを含むアセトニトリルであった。流量は1ml/分であった。以下の溶出プログラムを実施した:5%の溶媒B 均一濃度10分、5~30%のB直線勾配15分、30~60%のB直線勾配45分、60~90%のB5分、90%のB均一濃度5分。第2の精製ステップは、上記と同様の溶出条件を適用し、Source 15RPC ST 4.6/100カラムで実施した。最終精製は、5%B均一濃度10分、5~40%のB直線勾配15分、40~50%のB直線勾配45分、50~90%のBを5分、90%のBを均一濃度5分の溶出により、Source 15RPC ST 4.6/100カラムで達成した。
【0159】
NK-92 Cl細胞は、12.5%ウシ胎仔血清(Gibco社)、12.5%ウマ血清(Life technologies GmbH社)、0.1%の2-メルカプトエタノール(Gibco社)及び100IU/ml ペニシリン及び100μg/ml ストレプトマイシン(両方ともSigma Aldrich社)を補充した最少必須培地(MEM)アルファ(Gibco社)で培養した。細胞は分裂され、基本毎日培養フラスコを注意深く振盪させ、必要に応じて新鮮な培地を添加することによって増殖させた。細胞を回収する24時間前に、組換えヒトIL-2(Tecin(商標)Roche社製、NIHの好意により提供されたもの)を100IU/mlの濃度まで添加した。6×108個のNK-92 Cl細胞を1.8Lの培養培地から回収し、開示7されているように、細胞内膜状小胞の精製に使用した。全ての溶出液(80)のクーマシーブルー染色は、標準プロトコルに従って、Brilliant Blue R-250色素(Sigma社)を用いて実施した。HMGB1は、ヒト抗HMGB1抗体(1:1,000、abcam社)を使用して、イムノブロット解析によって検出した。ゲルは、Pierce Silver Stainキット(Thermo Scientific社、Rockford、IL)を用いて、製造業者の説明書に従って染色した。
【0160】
ヒトナチュラルキラー細胞の調製及び培養
ヒトNK細胞は、マンハイム(Germany)にある血液バンクから入手した白血球濃縮物から精製した。濃縮物をPBSで希釈し、biocoll分離溶液(Biochrom AG社)での遠心分離ステップに供した。バフィーコートを回収し、プラスチック付着を45分間実施した。得られた末梢血白血球のうち、NK細胞を製造業者の説明書に従ってヒトNK細胞単離キット(Miltenyi社)を使用して単離した。次いで、高純度のNK細胞(フローサイトメトリーによって決定した場合に95%のCD3- CD56+細胞)は、10%ヒトAB血清(PAA Laboratories)、200U/mlの組換えヒトインターロイキン-2(IL-2、National Institutes of Health)並びに100U/mLペニシリン及び100mg/mlストレプトマイシン(Sigma-Aldrich社)を含むCellGro幹細胞増殖培地(CellGenix社)中、1×106細胞/mlの密度で培養した。6日後、NK細胞を回収し、計測し、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen社)及び100U/mlのIL-2を補充したRPMI(Sigma-Aldrich社)を入れた96ウェルプレートの抗体プレコーティングウェル中、2×106細胞/mlの密度で再播種した。コーティングについては、細胞を播種する1日前に、PBS中でmlgG1(クローンMOPC-21)又は抗NKp30抗体(クローンP30-15、両方ともBioLegend社製)のいずれか1μg/mlと共に、ウェルを一晩4℃にてインキュベートした。プレコーティングしたプレート上で2日後、上清を回収し、遠心分離を行い可能性のある細胞汚染物質をペレット化した。製造業者から提供された説明書に従ってIFN-γ ELISA(BioLegend社)を実施するため、上清のアリコートを使用した。
【0161】
Ex vivoでの結腸がん標本、結腸がん組織マイクロアレイ
腫瘍を含有する結腸部分を外科切除した直後、新鮮な腫瘍生検標本を振動刃ミクロトーム(vibrating blade microtome)(Vibratome(商標)、Leica社)で処理した。300μmの組織薄片を作製し、RPMI細胞培養培地中で提示した時間インキュベートした。対照切片を緩衝4%ホルマリン(pH7.4)溶液で一晩固定し、次いでパラフィン包埋し、ヘマトキシリン及びエオジン(HE)染色は自動染色システム(Techmate 500、DakoCytomation社)で実施した。HE切片は、結腸直腸がんの存在について、病理学者(WR、GG)により検討された。全ての外科標本は、ハイデルベルク大学病院(ドイツ)の一般外科、内臓外科及び災害外科の科から入手した。研究目的におけるヒト組織の使用は、ハイデルベルク大学病院の地域倫理委員会によって承認された。
【0162】
腫瘍マイクロアレイ(TMA)の作製については、German DACHS(Darmkrebs: Chancen der Verhutung durch Screening; Colon Cancer: Chances of Prevention through Screening)の症例対照研究に含まれている1,260名の結腸直腸がん患者からの組織試料を、NCTハイデルベルクの腫瘍組織バンク(Tumor Tissue Bank)により収集した。ヒト組織の使用については、ハイデルベルク大学の地域倫理委員会並びにバーデン=ヴュルテンベルク州及びラインラント=プファルツ州の医療委員会によって承認された。書面のインフォームドコンセントは、CRCに罹患している患者由来の腫瘍組織の譲渡を含め、ベースライン時の各関係者から得た。
【0163】
免疫組織化学
TMA切片は、自動染色システム(Techmate 500、DakoCytomation社)を使用して、以前に開示されているようにして(Gdynia, G. et al.「Basal caspase activity promotes migration and invasiveness in glioblastoma cells.」Molecular cancer research : MCR 5, 1232-1240, doi:10.1158/1541-7786.MCR-07-0343 (2007))免疫染色した。視覚化は、アビジン-ビオチン複合体ペルオキシダーゼ、アミノエチルカルバゾール及びヘマトキシリンで実施した。切片は、ウサギポリクローナル抗リンゴ酸酵素1抗体(1:100、ab97445、abcam社)とインキュベートし、以下のキットで処理した:ChemMate Detectionキット(K5003、DakoCytomation社)、ChemMate Bufferキット(K5006、DakoCytomation社)及びAvidin/Biotin Blockingキット(SP-2001、Vector Laboratories社)。陽性がん細胞の染色強度及び量のスコアの結果は、2名の病理学者(WR、GG)によって半定量的に独立して評価された。ここで、強度範囲は、0=陰性;1=低度;2=中程度及び3=高度、並びに量は、0=陽性なし、1=0~10%で陽性;2=11~50%で陽性;3=51~80%で陽性;4=80%超で陽性。異なる検証のいくつかの場合において、コンセンサススコアを決定した。染色及び評価を第2のTMAで更に実施し、同様の結果を得た。最終的な免疫反応性スコア(IRS、0~12の範囲)は、強度スコア及び量スコアを乗算することによって得られる。ME1に関しては、低度、中程度、高度陽性発現は、それぞれ、IRS<3、3から6の間のIRS、IRS>6として定義された。HMGB1に関しては、高度発現及び高度陽性発現は、それぞれ、3から6の間のIRS、IRS>6として定義された。5つの腫瘍のみが完全にHMGB1陰性であったので、ここでは、統計解析は、高度発現及び高度陽性発現を使用してのみ実施することができた。ME1抗体特異性:細胞を6ウェルプレートガラス製のカバーガラスでプレートし、トランスフェクトした。カバーガラスを回収し、パラホルムアルデヒドで固定し、TMA切片について、記載されているようにしてME1抗体で免疫染色した。
【0164】
電子顕微鏡法
細胞を30分間4℃でin situにて固定化し(50mMカコジル酸ナトリウム中2.3%グルタルアルデヒド、pH7.2)、掻き取り、4℃で10分間、200×gで遠心分離を行い、染色した(2%四酸化オスミウム、5%酢酸ウラニル)。脱水し、Epon包埋したサンプルからの超薄切片を、80kVのZeiss EM-10A電子顕微鏡を使用して顕微鏡写真撮影した。格子レプリカは、拡大指標のための対照として適していた。
【0165】
酵素アッセイ
呼吸鎖複合体、解糖系タンパク質及びリンゴ酸酵素の酵素活性は、二波長モードで作動するコンピューター調整可能な分光光度計(Spectramax Plus Microplate Reader、Molecular Devices; Sunny Vale社、CA, USA)を使用して、以前に開示されているようにして(Kaminski, M. M. et al.「T cell activation is driven by an ADP-dependent glucokinase linking enhanced glycolysis with mitochondrial reactive oxygen species generation.」Cell reports 2, 1300-1315 (2012). Bruncko, M. et al.「Naphthamidine urokinase plasminogen activator inhibitors with improved pharmacokinetic properties.」Bioorganic & medicinal chemistry letters 15, 93-98, (2005))、細胞成分分画において決定した。サンプルは、温度調節された96ウェルプレート中で300μlの最終容量で分析した。ME1の活性は、増加するリンゴ酸の量の存在下で記録した(0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、1、2.5 mM)。Vmax及びKmは、Hanes-Woolfプロットを使用して計算した。高基質レベルの存在下において、リンゴ酸に関するKmは、試験した3つの全ての細胞株で類似していた(SW480: 0.32mM、HCT116: 0.30mM、HT29: 0.31mM)。Vmax(mU/mgタンパク質)値は、3.38(SW480、0.5~5.0mMリンゴ酸)、5.77(HCT116、0.5~5.0mMリンゴ酸)及び3.68(HT29、0.5~5.0mMリンゴ酸)、及び1.68(SW480、0.02~0.2mMリンゴ酸)、3.24(HCT116、0.02~0.2mMリンゴ酸)及び1.89(HT29、0.02~0.2mMリンゴ酸)であった。ME1の2つのアイソフォーム、ミトコンドリア(NAD(P)+依存性)ME3及びミトコンドリア(NAD+依存性)ME2は、検出可能な活性が非常に低いか、又は全く活性がなかった(データは示さず)。二量体PK M2は、生理的PEPレベルで事実上不活性であり、酵素アッセイにおいて非常に高量(10mM)及び非常に低量(100μM)のPEPを使用することにより、両形態を判別することができる。
【0166】
細胞のグルコース-6-リン酸のレベルは、製造業者のプロトコルに従って、グルコース-6-リン酸アッセイキット(Sigma社)を使用して測定した。
【0167】
代謝アッセイ
13C6-D-グルコース又は13C5-グルタミンの代謝に由来する乳酸は、NMRにおいて標識及び非標識の乳酸のCH3基強度を比較することにより決定した。ミトコンドリア呼吸は、Oroboros 1 oxygraphシステムを使用して測定した。解糖は、5-3H-グルコースの3H2Oへの変換をモニターすることにより測定した。U-14C-標識したグルコースからのRNAリボースへの14Cの取り込みは、ペントースリン酸分路におけるグルコース利用として得られた。酵素活性は、以前に開示24されているようにして、細胞成分分画において決定した。
【0168】
in silicoでのHMGB1-PK M2タンパク質ドッキング試験
完全なHMGB1構造よりもむしろ個々のHMGB1 Boxドメイン(PDB: 1CKT、2YRQ)を、2つのドメイン間のリンカー領域(残基79-94)の構造的柔軟性を正確に説明する複雑性のため、使用した。初期構造はProtein Data Bank(PDB)から取得し、X線構造は、可能であればNMR構造に対して優先的に得た。PK M2構造(PDBコード: 3BJF)、HMGB Box A(PDBコード: 1CKT)、HMGBボックスB(PDBコード: 2YRQ、残基95-163)を使用した。全ての計算は、3BJFからのA鎖を使用した。FBPが存在する場合の計算については、この残基をmol2ファイルとしてUCSF Chimera内に保存し、変更されたPDBファイルに加えて、PDB2PQRウェブサーバーに送信した。他の全ての計算において、全てのリガンドが構造から除かれた。PDB2PQRウェブサーバーを使用し、SDAによるシミュレーション用の全ての構造を、AMBER force fieldパラメーター及びpH7で割り当てられたプロトン化状態を用いて調製した。各HMGB1構造、及びY105でリン酸化されたPK M2は、Chimeraの構築特徴を使用してリン酸化した。電荷及び半径は、AMBERパラメーターデータベースで指定されたホスホチロシンパラメーターを使用して、PQRファイルに手動で追加した(http://personalpages.manchester.ac.uk/staff/Richard.Bryce/amber/pro/phos2_inf.html)。グリッド間隔が1オングストロームである、129ポイントの立方体グリッド上の各タンパク質の静電ポテンシャルを計算するため、単純Debye-Huckel境界条件、タンパク質比誘電率1、溶質誘電体78を用い、APBSバージョン1.2.1を使用し、直線化ポアソン・ボルツマン方程式を解いた。ポテンシャルは、50mMのイオン強度、半径1.5オングストロームの陽イオン及び陰イオンで計算した。誘電係数及びイオンアクセシビリティー係数は、平滑化法(smol選択)を使用して計算し、平滑化ウィンドウは0.3オングストロームに設定した。実効電荷計算のため、試験電荷をオリジナルのSDA計算どおりに、更にホスホチロシン残基のリン原子及び酸素原子上に置いた。SDAプログラムを使用し、4つのそれぞれのHMGB1モデル(非リン酸化ボックスA、リン酸化ボックスA、非リン酸化ボックスB、リン酸化ボックスB)とPK M2の40,000種を超えるドッキングエンカウンター複合体を計算した。SDA計算には、静電的相互作用、静電脱溶媒和及び疎水性脱溶媒和の項が含まれ、加重係数はそれぞれ0.5、1.0及び-0.013であった。タンパク質プローブの半径は1.77オングストロームに設定し、溶媒プローブは1.4オングストロームに設定し、排除グリッド間隔は0.5オングストロームに設定した。タンパク質を最初に260オングストロームだけ離し、中心-中心距離が540オングストロームを超えた場合、又は総シミュレーション時間が5,000psを超えた場合にシミュレーションを停止した。好都合な相互作用エネルギーによってランク付けした場合の上位5,000種のドッキングされた複合体を、SDAと共に提供された階層クラスタリングツールを使用して、クラスター分析のために保持した。各シミュレーションについて、ドッキングされた複合体をクラスター化し、定量分析及び視覚的分析用の10種のクラスターを作製した。全ての画像を、VMD視覚化ソフトウェアを使用して調製した。
【0169】
代謝産物のNMR分析
13C-乳酸排出を分析するため、1mlの細胞上清を遠心分離にかけ(8,000×g、10分、4℃)、細胞残屑を遠心沈澱させた。500μlの上清に10%のD2Oをそれぞれ添加し、5mmのNMRサンプルチューブに移した。サンプルは、低温冷却検出プローブ(QNP-CryoProbe(商標))を備えたBruker AvanceIII 600 NMR分光計で測定した。
【0170】
測定用パラメーター:
磁場14.09テスラ;サンプル温度295 K;パルス幅4.7us(30°フリップ角に相当);収集及び遅延時間の広帯域複合パルスデカップリング(Waltz65)、128Kの全収集データポイント;収集時間1.8秒;遅延時間1.5秒;512トランジェント;全実験時間30分。
【0171】
処理パラメーター:
256Kのリアルデータポイントへのゼロ入力、指数関数的増加(lb=1.0 Hz);ベースラインアーチファクトを補正するための後方線形予測によるフーリエ変換。
【0172】
データ分析:
乳酸の13CH3基のシグナルの積分(非標識乳酸についてはδ=20.108ppmの一重項、及び標識乳酸についてはδ=20.097ppmの二重項、それぞれ(1J(13C13C)=36.8 Hz))を乳酸濃度の尺度として採用した。信頼性のある定量結果を得るため、標識乳酸及び非標識乳酸の既知量を含有している標準サンプルで強度を較正した。またこの手順は、選択した繰り返し時間(3.3秒)内の13C核の不完全な緩和による誤差を補正する。濃度の決定は、Bruker NMRソフトウェア(Topspin 3.2, Bruker BioSpin 2012)で構築した「ERETIC」機能を使用することにより実施した。このように得られた濃度は、それぞれ13C6グルコース及び13C5グルタミン中の13C濃縮の不完全度について補正された(98%)。
【0173】
イムノブロット解析、細胞内分画、限外濾過
細胞を、溶解緩衝液P(20mM Tris-HCl(pH7.4)、137mM NaCl、10%(v/v)グリセリン、1% Triton X-100、2mM EDTA、100mMフェニルメチルスルホニルフルオリド及びプロテアーゼ阻害剤(Complete mini、Roche社製))に溶解させた。溶解産物を4℃にて14,000×g(10分)で遠心分離した。総タンパク質は、Bradford(Bio-Rad)法によって測定した。可溶性タンパク質はSDS-PAGEにより分離し、ニトロセルロース上にブロットし、以下の抗体のうちの1つとインキュベートした:マウスモノクローナル抗-β-アクチン(1:3,000、Sigma-Aldrich社)、ウサギ抗PK M2(1:1,000、Cell Signaling社)、ウサギ抗リンゴ酸酵素1(1:1,000、abcam社)。適切な二次抗体(1:3,000、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合型)はBio-Radからであった。可視化は、増強された化学発光技術(GE-Healthcare社)によって行った。ミトコンドリア分画は、以前に開示されているようにして(Gdynia, G. et al.「BLOC1S2 interacts with the HIPPI protein and sensitizes NCH89 glioblastoma cells to apoptosis.」Apoptosis : an international journal on programmed cell death 13, 437-447, (2008))、ApoAlert Cell Fractionationキット(Clontech社)を使用して抽出した。
【0174】
PK M2-HMGB1複合体の限外濾過:等モル量のHMGB1及びPKM2を300μlの最終容量で混合し、Amicon Ultra 0.5ml 30k装置(Merck-Millipore社、Darmstadt, Germany)において15μlの最終容量に濾過した(14000g、4℃)。遠心分離後に、保持液を元の体積に調節した。次いで、濾液及び保持液をウエスタンブロットによって分析した。対照については、HMGB1及びPKM2を単独でも分析した。精製HMGB1(2μM)は陰性対照として適していた。
【0175】
定量的PCR分析
定量的PCR分析は、以前に開示されているようにして(Fassl, A. et al.「Notch1 signaling promotes survival of glioblastoma cells via EGFR-mediated induction of anti-apoptotic Mcl-1.」Oncogene 31, 4698-4708, doi:10.1038/onc.2011.615 (2012))実施した。
【0176】
統計分析
本発明者らは、全ての結腸直腸サンプルに対して、並びに結腸及び直腸がん亜群に対して、ME1又はHMGB1発現と局所腫瘍範囲(pT)及びリンパ節転移(pN)の間の相関を、linear by linear関連試験(Agresti A. Categorical Data Analysis. John Wiley & Sons. Hoboken, New Jersey, 2002)を使用して評価した。全生存期間は、任意の原因による診断から死亡までの時間として定義した。無増悪生存期間の終点は、任意の原因による腫瘍再発、遠隔転移又は死亡のいずれか最初に生じたものとした。CRC(結腸直腸がん)関連の生存の分析については、無関係な原因による死亡は競合事象として取り扱った。多変量(原因別)比例ハザード回帰モデルは、ME1又はHMGB1発現(IRSスコア)、年齢、性別、グレード、pT、pN、pM、腫瘍部位、アジュバント及びネオアジュバント化学療法及び放射線療法を含んでいた。pT期は、結腸壁への腫瘍浸潤の程度によって定義する:粘膜下組織(pT1)、固有筋(pT2)、漿膜下組織/結腸周囲脂肪組織(pT3)、及び腹膜通過穿孔/他の器官への浸潤(pT4)。pN期は、局所リンパ節転移の数によって定義される:1つの局所リンパ節における転移(pN1a)、2~3つの局所リンパ節における転移(pN1b)、漿膜下組織における、又は局所リンパ節転移のない非腹膜化結腸周囲軟組織又は直腸周囲軟組織における腫瘍病変(複数可)(pN1c)、4つ以上の局所リンパ節における転移(pN2)。pM0期又はpM1期は、遠隔転移の非存在又は発生によってそれぞれ定義される。
【0177】
実験室的実験の結果は、対応t検定を使用して分析した。結果は平均±SDを使用して示した。全ての統計的検定については、5%の有意レベルを使用した。図中の有意性は星印により示している。統計分析は、統計ソフトウェアenvironment R、バージョン2.15.3、及びMicrosoft Excel 2010ソフトウェアを使用して実施した。
【0178】
[実施例7]
本発明の特に好ましい実施形態において、酵素活性測定に必要とされる試薬は、ウェルプレートの底部及び(又は)壁に固体として沈着される。そのように処理されたウェルプレートは、サンプル緩衝液中のサンプルの添加、及びプレートのウェル中のサンプルの異なる酵素活性の光度測定を可能にする。
【0179】
ウェルの壁及び/又は底部に沈着した固体試薬が入ったウェルプレートは、例えば、乾燥凍結(凍結乾燥)によって得ることができる。例えば、適切な濃度の酵素活性の測定に必要な試薬を含有するある特定量の緩衝液によるウェルプレートのウェルを処理する。真空下で、そのように処理されたウェルは、低温で乾燥させ、緩衝液の水分を蒸発させることができる。特異的酵素の酵素活性を測定するための乾燥試薬は、ウェルの底部及び壁に付着する。
【0180】
【0181】
【0182】
[実施例8]
リン酸化可能ではないHMGB1
GlnHMGB1の作製
グルタミン(配列番号12)で置き換えられたそのB-Boxドメインチロシン残基を有するHMGB1ポリペプチドをコードしているプラスミドをHEK細胞(無血清懸濁細胞培養物、1,000ml(約2.5×10
6細胞/ml)、次いで、バルプロ酸を補充)にトランスフェクトした。細胞ペレットをホモジナイズし、IMAC及びTALON(Clontech社)樹脂により精製し、イミダゾールを使用して溶出させた。溶出液は、SDS-PAGE(クマシー染色)によって分析した。陽性溶出液をプールした後、タンパク質をゲル濾過し(Superdex)、最後にSDS-PAGEによって分析した。精製タンパク質は、阻害アッセイにおいて、
図7及び
図8に示した濃度で使用した。
【0183】
MTTアッセイ
アッセイを3つの時点(0時間、24時間及び48時間)で実施し、実験を4回繰り返した。各時点において、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイを使用して細胞生存率を測定した。MTTアッセイは、Mosmannによって報告されているようにして実施した(Mosmann T.「Rapid colorimetric assay for cellular growth and survival: application to proliferation and cytotoxicity assays.」J Immunol Methods. 1983;65:55-63)。簡単に説明すると、各時点において、培地をウェルから吸引し、MTT(1mg/ml)を各ウェルに静かに加えた。細胞を5%CO2中で3時間、37℃でインキュベートした後、MTTを吸引し、酸性化したイソプロパノール(0.04M HCl)を加えて還元青色ホルマザン結晶を可溶化した。アリコートを96ウェルプレートに移し、吸収度を96ウェルプレートリーダの590nmの試験フィルター及び630nmの参照フィルターで測定した。実験で使用した全ての結腸がん細胞株において、未処理の対照と比べ増殖に有意な減少があった(p<0.05、n=4)。
【0184】
LDHアッセイ
乳酸デヒドロゲナーゼ活性は、Bergmeyer及びBerndt E.(1974)に記載されているように、340nmでピルビン酸基質によるNADHの酸化を測定することによって分光測光法でアッセイした。結果は以下の式を使用して分析した。
【0185】
【0186】
実験で使用した全ての結腸がん細胞株において、未処理の対照と比べ、培地中へのLDHの有意な放出があった(p<0.05、n=4)。したがって、GlnHMGB1は、異なるがん細胞株において細胞死を誘導することができる。
【0187】
参考文献
[1]
(i)ピルビン酸キナーゼM2(PKM2)活性のモジュレーター、及び
(ii)高移動度グループボックス1(HMGB1)ポリペプチド又はその誘導体を提供する薬剤
を含む組合せ製剤。
[2]
HMGB1ポリペプチド又はその誘導体を提供する前記薬剤が、
(i)HMGB1ポリペプチドを含むポリペプチド、
(ii)HMGB1ポリペプチドのボックスBを含むポリペプチド、
(iii)(i)又は(ii)のポリペプチドに少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を有し、PKM2の四量体形態の活性を阻害する活性を有するポリペプチド、
(iv)(i)~(iii)のいずれか1つのポリペプチドを含む、腫瘍細胞に特異的に結合する薬剤、
(v)HMGB1ポリペプチドを分泌するように誘導されたHMGB1分泌細胞、
(vi)好ましくはベクター及び/又は宿主細胞に含まれる、(i)、(ii)及び/又は(iii)のポリペプチドをコードしている発現可能なポリヌクレオチド;又は
(vii)(i)~(vi)の任意の組み合わせ
である、[1]に記載の組合せ製剤。
[3]
(i)の前記HMGB1ポリペプチドが、好ましくは配列番号4のアミノ酸配列を含む、ヒトHMGB1ポリペプチドであり;(ii)のHMGB1ポリペプチドの前記ボックスBが、好ましくは配列番号5のアミノ酸配列を含む、ヒトHMGB1ポリペプチドのボックスBであり;(iv)の前記HMGB1分泌細胞が、マクロファージ又はNK細胞であり;及び/又は(vi)の前記発現可能なポリヌクレオチドが、(I)配列番号6及び/又は7の核酸配列、又は(II)(I)の核酸配列に少なくとも70%同一である核酸配列、及びプロモーター、好ましくは異種プロモーターを含むポリヌクレオチドである、[2]に記載の組合せ製剤。
[4]
PKM2の前記モジュレーターがPKM2の阻害剤、好ましくはPKM2の四量体の阻害剤、より好ましくはP-M2tide(チロシンがリン酸化された配列番号1)である、[1]~[3]のいずれかに記載の組合せ製剤。
[5]
前記モジュレーターがPKM2の活性化物質であり、好ましくはPKM2四量体を安定化させる薬剤であり、より好ましくはML265(6-(3-アミノベンジル)-4-メチル-2-(メチルスルフィニル)-4,6-ジヒドロ-5H-チエノ-[2',3':4,5]ピロロ[2,3-d]ピリダジン-5-オン)である、[1]~[3]のいずれかに記載の組合せ製剤。
[6]
併用使用若しくは個別使用、及び/又は同時使用若しくは連続使用のためのものである、[1]~[5]のいずれかに記載の組合せ製剤。
[7]
医薬として使用するための、[1]~[6]のいずれかに記載の組合せ製剤。
[8]
不適切な細胞増殖の処置において、好ましくはがんの処置において使用するための、[1]~[6]のいずれかに記載の組合せ製剤。
[9]
(i)PKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性であるか、又は(ii)HMGB1若しくはその誘導体を提供する薬剤による処置に対して耐性である、不適切な細胞増殖における細胞の選択の阻止に使用するための、[1]~[8]のいずれかに記載の使用のための組合せ製剤。
[10]
HMGB1又はその誘導体を提供する薬剤を投与することを含む、不適切な細胞増殖に対する併用療法において使用するためのPKM2活性のモジュレーター。
[11]
PKM2活性のモジュレーターを投与すること含む、不適切な細胞増殖に対する併用療法で使用するためのHMGB1又はその誘導体を提供する薬剤。
[12]
前記不適切な細胞増殖がPKM2活性のモジュレーターによる処置に対して耐性である、[11]の使用のためのHMGB1又はその誘導体を提供する薬剤。
[13]
PKM2活性のモジュレーター及びHMGB1又はその誘導体を提供する薬剤を含むキット。
[14]
HMGB1ポリペプチドのアミノ酸Y109、Y144、Y155及びY162に対応するチロシン残基の少なくとも1つがリン酸化可能ではないアミノ酸と交換された、オリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
[15]
前記リン酸化可能ではないアミノ酸が非荷電のリン酸化可能ではないアミノ酸である、[14]に記載のオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
[16]
前記リン酸化可能ではないアミノ酸が、各場合で独立して、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミンからなる群から選択され、好ましくはグルタミンである、[14]又は「15」に記載のオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
[17]
疾患の処置において使用するための、[14]~[16]のいずれかに記載のオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド。
[18]
不適切な細胞増殖の処置において使用するための、[14]~[16]のいずれかに記載のオリゴリン酸化HMGB1ポリペプチド。
[19]
ポリリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
[20]
医薬として使用するための、ポリリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
[21]
がんの処置において使用するための、ポリリン酸化HMGB1ポリペプチド又はその誘導体。
[22]
不適切な細胞増殖に罹患している対象が、唯一のPKM2阻害剤としてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応するか否かを決定する方法であって、
(a)前記対象の不適切に増殖する細胞のサンプルを提供するステップ、
(b)少なくとも1%の酸素を含む雰囲気下で、少なくとも12時間±1時間(正常酸素条件)、前記不適切に増殖している細胞の第1のサブポーションをインキュベートするステップ、
(c)0.1%以下の酸素を含む雰囲気下で、少なくとも12時間±1時間(低酸素条件)、前記不適切に増殖している細胞の第2のサブポーションをインキュベートするステップ、
(d)前記第1及び第2のサブポーションの細胞における少なくとも酵素である高親和性ピルビン酸キナーゼ(PKHA)及び低親和性ピルビン酸キナーゼ(PKLA)の活性を決定するステップ、
(e)ステップ(d)で決定された前記活性を比較するステップ、及び
(f)比較ステップ(e)の結果に基づいて、不適切な細胞増殖に罹患している前記対象が、唯一のPKM2阻害剤としてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応するか否かを決定するステップ
を含む、方法。
[23]
正常酸素条件下の活性に比べて低酸素条件下のPKHA若しくはPKLAのいずれかの活性における強い変化が、唯一のPKMモジュレーターとしてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応する患者由来のサンプルの指標であり、及び/又は、正常酸素条件下の活性に比べて低酸素条件下のPKHA若しくはPKLAのいずれかの活性の中程度若しくは無変化が、又はPKHAとPKLAの両方の類似する変化が、唯一のPKMモジュレーターとしてのPKM2活性のモジュレーターの投与を含む処置に適応しない患者由来のサンプルの指標である、[22]に記載の方法。
【配列表】