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特許7107850成人幹細胞から誘導されたペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞
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  • 特許-成人幹細胞から誘導されたペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】成人幹細胞から誘導されたペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/867 20060101AFI20220720BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220720BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20220720BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20220720BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20220720BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20220720BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20220720BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C12N15/867 Z
A61K35/28
A61K35/34
A61P9/04
A61P9/06
C12N5/074
C12N5/0775
C12N5/10 ZNA
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2018553058
(86)(22)【出願日】2016-12-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 US2016068979
(87)【国際公開番号】W WO2017117276
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-12-23
(31)【優先権主張番号】14/980,274
(32)【優先日】2015-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515120051
【氏名又は名称】インジェネロン インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】518228666
【氏名又は名称】アライアンス オブ カーディオヴァスキュラー リサーチャーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】アルト,エックハルト
(72)【発明者】
【氏名】カリミ,タヘレ
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-532767(JP,A)
【文献】特表2006-515759(JP,A)
【文献】特表2009-507494(JP,A)
【文献】国際公開第2015/091157(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101265484(CN,A)
【文献】Mol Cell Biochem, 2013, Vol.383, p.161-171
【文献】STEM CELLS AND DEVELOPMENT, 2013, Vol.22, No.21, DOI: 10.1089/scd.2013.0123, p.1-12
【文献】NATURE BIOTECHNOLOGY, 2013, Vol.31, No.1, p.54-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/867
A61K 35/28
A61K 35/34
A61P 9/04
A61P 9/06
C12N 5/074
C12N 5/0775
C12N 5/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成体脂肪組織由来幹細胞を誘導された非収縮性心筋細胞タイプへと分化させる方法であって、前記脂肪組織由来幹細胞の特異的分化を誘導するために、成体脂肪組織由来幹細胞の集団をSHOX2、TBX5、HCN2の逐次的発現に付すことと、前記脂肪組織由来幹細胞を、心臓ペースメーカ細胞及びプルキンエ繊維の両方が形成されるまで培養することを含む前記方法。
【請求項2】
SHOX2、TBX5、HCN2をコードするDNAまたはmRNAの前記脂肪組織由来幹細胞への逐次トランスフェクションを行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
SHOX2、TBX5、TBX3、TBX18、HCN2の逐次的発現を誘導することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記非収縮性心筋細胞が、自己脂肪組織由来の再生細胞から生成される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記誘導段階が、SHOX2、TBX5、及びHCN2をコードする1以上の発現ベクターを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記誘導段階が、SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18及びHCN2をコードする1以上の発現ベクターを使用する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導段階が、SHOX2、TBX5、及びHCN2をコードする1以上のレンチウイルスベクターを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記誘導段階が、SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18及びHCN2をコードする1以上のレンチウイルス発現ベクターを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記誘導段階が、SHOX2、TBX5、及びHCN2をコードするmRNAを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記誘導段階が、SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18及びHCN2をコードするmRNAを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
誘導された洞房結節が形成されるまで前記ペースメーカ細胞及び前記プルキンエ繊維を増殖させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
医薬的に許容される緩衝液及び/または細胞支持媒体中に、請求項11に記載の方法により作製された誘導された洞房結節を含む組成物。
【請求項13】
医薬的に許容される緩衝液及び/または細胞支持媒体中に、請求項1に記載の方法により作製された誘導されたペースメーカ細胞を含む組成物。
【請求項14】
医薬的に許容される緩衝液及び/または細胞支持媒体中に、請求項1に記載の方法により作製された誘導されたプルキンエ繊維を含む組成物。
【請求項15】
SHOX2、TBX5、HCN2の逐次的発現を可能にする発現構築物で形質転換され、従って再プログラミングされた細胞を形成する成体脂肪組織由来幹細胞から形成された、前記再プログラミングされた細胞の集団を含む組成物であって、前記再プログラミングされた細胞の集団が医薬的に許容可能な液体の賦形剤及び/または細胞支持媒体中にある前記組成物。
【請求項16】
前記再プログラミングされた細胞の集団が、(i)SHOX2、(ii)TBX3及びTBX5及びTBX18、及び(iii)HCNの逐次的発現により形成される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記再プログラミングされた細胞の集団が、SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18、及びHCNの逐次的発現により形成される、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
体脂肪組織由来幹細胞においてSHOX2、TBX5、HCN2の逐次的発現を誘導して再プログラミングされた細胞を形成することと、
前記再プログラミングされた細胞を、心臓ペースメーカ細胞及びプルキンエ繊維が形成されるまで増殖させることを含む、成体脂肪組織由来幹細胞から非収縮性心筋細胞を産生する方法。
【請求項19】
前記心臓ペースメーカ細胞及びプルキンエ繊維を、それらが結合して誘導される洞房結節を形成するまで増殖させることを更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法により製造される前記誘導された洞房結節を含む、医薬組成物。
【請求項21】
前記成体脂肪組織由来幹細胞が、自己脂肪組織由来の成体幹細胞である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
(i)SHOX2、(ii)TBX3、TBX5、TBX18、及び(iii)HCN2の逐次的発現を誘導することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18、及びHCN2の逐次的発現を誘導することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記ペースメーカ細胞及びプルキンエ繊維をサイズ選別によって分離することを更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
20μm未満の細胞をプルキンエ繊維として選別し、また50μmを超える細胞をペースメーカ細胞として選別する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法により製造される分離されたプルキンエ繊維を含む、頻脈性不整脈の治療のための医薬組成物。
【請求項27】
請求項25に記載の方法により製造される分離されたプルキンエ繊維を含む、頻脈性不整脈の治療のための医薬組成物であって、前記成体脂肪組織由来幹細胞は頻脈性不整脈を有する患者から得られる、組成物。
【請求項28】
請求項24に記載の方法により製造される分離されたペースメーカ細胞を含む、洞不全症候群の治療のための医薬組成物。
【請求項29】
請求項24に記載の方法により製造される分離されたペースメーカ細胞を含む、洞不全症候群の治療のための医薬組成物であって、前記成体脂肪組織由来幹細胞は洞不全症候群の患者から得られる、組成物。
【請求項30】
不整脈を治療するための、請求項12~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記ペースメーカ細胞及びプルキンエ繊維が、それらのサイズに基づいて相互に分離される、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記ペースメーカ細胞及びプルキンエ繊維の両方を一緒に使用して、患者の損傷した洞結節を再構成する、請求項30に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年12月28日に出願された米国特許出願番号14/980,274「成人幹細胞から誘導されたペースメーカ及びプルキンエ細胞」に関し、その全体を、全ての目的で本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、不整脈の治療に使用するための非収縮性で電気的に活性な、誘導された心筋細胞を生成させる方法、並びに洞細胞または洞房結節細胞及びプルキンエ細胞のような、心臓の増強された電気的活動のための細胞の作製及び形成、それによって製造されたプルキンエ細胞及びその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
心臓(図1A)は、循環系の血管を通して血液を送り出す筋肉臓器である。右心房及び左心房並びに右心室及び左心室で構成される健康な哺乳類の心臓では、心臓弁が逆流を防止するため、血液は心臓を一方向にのみ流れる。心臓は保護嚢、即ち心膜に封入されており、心膜には少量の液体も含まれている。心臓の壁は、心外膜、心筋及び心内膜の3つの層で構成されている。
【0004】
洞房結節[sinoatrial node、SA節またはSANと略記されることが多い:また一般には洞結節とも呼ばれ、一般性は低いが洞節(sinuatrial node)とも呼ばれる]は、心臓のペースメーカであり、心拍の開始を担当する。これは、大静脈上部と心房の接合部に位置し、約5mm×2cmの大きさである。それは自発的に電気刺激を発生させ、これが心臓全体を伝導した後に心臓を収縮させる。電気刺激は自発的に発生するが、刺激の速度(従って心拍数)は心臓の右心房(上室)に位置する洞房結節を支配する神経によって修飾される。
【0005】
房室(AV)結節は、心室の収縮を調整する心臓の電気伝導システムの一部である。それは、心房及び心室を電気的に接続する(図1B)。AV結節は、心房と心室の間の特殊組織の領域であり、具体的には、心房から心室への正常な電気的刺激を伝導する冠状静脈洞の開口付近の心房中隔の後下領域にある。AV結節は非常にコンパクトである(約1×3×5mm)。それはコッホの三角形、即ち、三尖弁の中隔葉、冠状静脈洞、及び心房中隔の膜状部分によって囲まれた三角形の中心に位置する。
【0006】
AV結節の遠位部分は、His束として知られている。このHis束は、心室中隔の2つの枝、左の束の枝及び右の束の枝に分かれる。左の束の枝は左心室を活性化し、右の束の枝は右心室を活性化する。上記2つの束の枝は先細りになって多数のプルキンエ繊維を生成し、これは個々の心筋細胞群を刺激して収縮させる。
【0007】
奇異性電流(または奇異性チャネル、またはIfもしくはIKf、またはペースメーカ電流)とは、心臓内の特定の電流を指す。1970年代後半にプルキンエ線維及び洞房心筋細胞において最初に記載されてから、心臓ペースメーカ「奇異性」電流は広範に特徴付けられ、心臓ペースメーカにおけるその役割が研究されてきた。
【0008】
上記奇異性電流は、伝導組織の洞房結節、房室結節及びプルキンエ繊維のような自発的に活動する心臓領域において高度に発現される。この奇異性電流は、拡張期の電圧(通常-60/-70mV~-40mV)での過分極時に活性化する混合ナトリウム-カリウム電流である。洞房活動電位の終わりに膜がIf閾値(約-40/-50mV)未満で再分極すると、奇異性電流が活性化されて内向き電流が供給され、これは拡張期脱分極段階(DD)を開始する原因となる。このメカニズムにより、奇異性電流は洞房心筋細胞の自発的活動の速度、従って心拍数を制御する。
【0009】
ペースメーカ電流の分子的決定要素は、過分極活性化型の環状ヌクレオチド感受性チャネルファミリー(HCN)に属し、その4つのアイソフォーム(HCN1-4)が現在までに知られている。それらの配列に基づいて、HCNチャネルは、電位感受性K+(Kv)イオンチャネル及び環状ヌクレオチド感受性(CNG)イオンチャネルのスーパーファミリー構成員として分類される。
【0010】
簡単に言えば、心拍を制御する電気信号は、以下のように説明することができる。電気的刺激はSA節で開始する。この電気的活動は、心房の壁を通って広がり、それらを収縮させる。これにより血液が心室に送られる。AV節は、心室に入る前に電気信号を遅くするゲートのように働く。この遅延は、心房に対して、心室が収縮する前にそれが収縮するための時間を与える。この遅延の後、上記刺激は発散し、左と右のHis束を経て、心臓の各側のプルキンエ線維、心臓の頂点の心内膜、そして最後に心室心外膜へと伝導する。繊維のこのHis-プルキンエネットワークは、心室の筋肉壁に刺激を送り、それらを収縮させる。これは、心臓から肺及び身体へと血液を強制的に送り出す。SA節は別の刺激を発生させ、上記サイクルが再び開始される。
【0011】
心臓では多くのことが間違って起こり、不規則な鼓動を生じ得る。洞不全症候群(洞結節疾患または洞結節機能不全としても知られる)は、心臓の天然のペースメーカである洞結節が適切に機能しない一群の心臓リズム問題(不整脈)の名称である。
【0012】
人工ペースメーカは、心臓の鼓動を調節するために、心筋を脱分極させる電極により供給される電気刺激を用いる医療装置である。人工ペースメーカの主な目的は、心臓の天然のペースメーカが十分に速くないので、または心臓の電気伝導システムにブロックがあるので、適切な心拍数を維持することである。現代のペースメーカは外部からプログラム可能であり、心臓専門医が個々の患者のために最適なペーシングモードを選択することを可能にする。幾つかのものは、ペースメーカ及び除細動器を移植可能な単一の装置に組み合わせたものである。他のものは、心臓の上部(心房)及び下部(心室)の部屋の同期を改善するために、心臓内の異なる位置を刺激する複数の電極を有する。
【0013】
人工ペースメーカは多くの人命を救ってきたが、それは完全な解決策ではない。特に、それらはホルモン応答性ではなく、機械的及び/または電気的障害の影響を受け、電池交換が必要であり、強い磁場または治療的放射線の状況においては支障をきたす可能性がある。更に、ペースメーカ媒介性頻脈、準最適房室同期(SV)、及び幾つかの他のタイプのペースメーカ誘導性不整脈と同様に、感染は常に危険である。従って、より自然なペースメーカを開発するための努力が続けられている。
【0014】
サイレント組織での自発的活動を誘導できる細胞基質として一般的に意図される生物学的ペースメーカは、電子ペースメーカの限界を克服するための潜在的ツールである。人工ペースメーカの代わりに使用するための天然ペースメーカを開発する努力は、一般に2つのアプローチのうちの1つを採用してきた。
【0015】
1つのアプローチは、鼓動する心筋を、遺伝子操作を介してインサイチューでペースメーカ細胞に変換すること(即ち、直接再プログラミング)である。これに関して、初期の重要な転写因子であるTBX3は有望な結果をもたらしたが、不完全なペースメーカ特性を有する細胞を導いた。
【0016】
別のアプローチは、ペースメーカ細胞を形成するようにプログラミングされた胚または誘導された多能性幹細胞(いわゆるIPS細胞)を使用し、次に、これらの新たにプログラミングされたAV様細胞でAV細胞を置換または補充することである。
【0017】
ある研究において、Jungらは、誘導された多能性幹細胞(iPS細胞)におけるTBX3のアップレギュレーションによって、ペースメーカ細胞を生成しようと試みた。Hashemら(2013)は、SHOX2が、胚様体においてペースメーカ遺伝子プログラムを調節することを示した。Bakkerら(2012)は、最終分化した心筋細胞を、TBX3のアップレギュレーションによりペースメーカ細胞へと再プログラミングしようと試みた。別の研究において、Kapoorら(2013)は、成人の心筋細胞におけるTBX18の過剰発現によって、ペースメーカ細胞を生成しようと試みた。Huら(2014)は、Tbx18のアップレギュレーションによって心筋細胞をペースメーカ細胞に変換しようと試みた。
【0018】
心臓ペースメーカ細胞を生成するためのこれまでの幾つかの試みにもかかわらず、未分化の成人自己幹細胞に由来する臨床適用に利用可能な、正確に機能する生物学的ペースメーカ細胞は今まで存在していない。心臓伝導系のペースメーカ細胞または他の細胞に存在する幾つかの特徴を得るために、胚細胞またはIPS細胞のような細胞が、特定の遺伝子の操作によって誘導され得ることが以前に示されていただけである。単一の転写因子の単独の発現では、ペースメーカ細胞またはプルキンエ細胞へのそれぞれの完全な調節分化経路のスイッチを入れることはできなかった。ペースメーカ細胞を生成しようとする過去の試みは、天然の心臓ペースメーカ細胞の適切な生理学的機能性及び形態学的特性を模倣することができなかった。
【0019】
本明細書に記載される研究は、この研究を新規かつより高い状態にするものである:患者自身の組織に由来する成熟した未改変の新鮮な未培養細胞(本明細書では再生細胞とも呼ばれる)を、天然ペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞の形態学的及び機能的な構造及び特徴を備えた非収縮性心筋細胞へと誘導することは、これまで達成されていない。
【発明の概要】
【0020】
誘導されたペースメーカ細胞、プルキンエ細胞及びそれらの連合によって産生された洞房体、並びにその作製及び使用の方法が本明細書に記載される。
【0021】
レンチウイルスベース及びmRNAベースのトランスフェクションアプローチの両方を使用して、脂肪由来幹細胞(ADSC)が、SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18及びHCN2を含む転写因子の組み合わせのそれぞれの事後適用によって、心臓ペースメーカ細胞へと再プログラミングされている。
【0022】
SHOX2は、収縮性心筋細胞分化経路を阻害するSA結節におけるNKX2.5の負の調節因子であるが、ペースメーカ分化経路のアップレギュレーションによって、未分化の前駆細胞をそれぞれ非収縮性の心筋細胞ペースメーカ細胞系統へと特異的に誘導する。TBX3、TBX5及びTBX18は、未分化の中胚葉由来幹細胞のペースメーカ細胞系への分化、及びSANの形成を制御する主要な転写因子である。
【0023】
組織発生の後期段階における成熟ペースメーカ細胞は、心周期の拡張期の間に膜電位を漸進的に低下させる不安定なフェーズ4電位によって引き起こされる自発的脱分極過程の存在のために、通常の心筋細胞とは異なる。上記低下が臨界閾値に達すると、ナトリウムチャネルが開き、活動電位が誘導される。ペースメーカ細胞の自発的な拡張期脱分極は、特定のタンパク質をコードする過分極活性化型の環状ヌクレオチド感受性(HCN)チャネル遺伝子に起因し、これはIfまたは奇異性電流と名付けられた内向き電流の存在を提供する。HCN2の発現は、ペースメーカ細胞の適切な生理学的機能にとって重要であると考えられているが、他のHCN遺伝子がHCN2に取って代わり、または補充できる可能性がある
【0024】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0025】
<ペースメーカ再プログラミング遺伝子>
SHOX2(UniProt O60902)、別名SHORT・STATURE・HOMEOBOX・2またはSHOTは、ヒト短鎖ホメオボックス遺伝子(SHOX;312865)及びマウスogl2遺伝子に関連する遺伝子として同定された。元の発見者は、SHOX2が、SHOXよりもogl2に対する相同性の程度がはるかに高いことを示した。その中で、同一のホメオドメインを有し、且つ頭蓋冠に発現されたホメオドメインタンパク質に特徴的なC末端14アミノ酸残基モチーフを共有する2つの異なるアイソフォーム、即ちSHOTa及びSHOTbが単離された。SHOTaとSHOTbの間の相違は、N末端、及びC末端の択一的にスプライシングされたエキソン内にあった。段階化されたマウス胚由来切片上でのogl2のインサイチューハイブリダイゼーションにより、発生中の洞静脈(大動脈)、女性生殖器、間脳、間葉及び髄脊髄、鼻の莢膜、口蓋、眼瞼及び四肢における高度に制限された転写物が検出された。
【0026】
TBX5(UniProt Q99593)、別名T-BOX-5は、9つのエキソン及び47kb以上に亘って広がり、このタンパク質の突然変異はホルトオラム症候群、即ち、心臓及び四肢に影響を与える発達障害の原因である。研究者らは、野生型TBX5を過剰発現するP19CL6細胞株が、親株P19CL6細胞よりもより早く鼓動し始め、また心臓特異的遺伝子をより豊富に発現するのに対して、HOSにおいて軽度の骨格異常を伴う実質的な心臓欠陥を引き起こすG80R突然変異(601620.0004)を発現する細胞株は、鼓動する心筋細胞へと分化しないことを見出した。逆に、心臓異常を伴わない上肢奇形を引き起こすR237Q突然変異(601620.0003)は、野生型TBX5と同程度までにNppaプロモーターを活性化した。アイソフォーム1は、558アミノ酸である。
【0027】
TBX5の代わりに、またはそれに加えて、TBX3(UniProt O15119)を本明細書に記載の方法で使用することができる。TBX3、別名T-BOX-3は、ホルトオラム症候群との関連性を研究する際にTBX5と共に同定された。T-boxを中断する1つを含んだ、択一的に転写されるTBX3転写物が存在する。TBX3遺伝子の完全なオープンリーディングフレームは、予測された723アミノ酸のタンパク質をコードする。TBX3に対する他のT-box遺伝子の比較は、DNA結合ドメイン外の実質的な相同性領域を示した。
【0028】
四肢の形成に関与することに加えて、TBX3はペースメーカの発生に関与する。遺伝的系統解析、ノックアウト研究、及び外植体アッセイを用いることにより、TBX18(OMIM 604613)は、間葉前駆体からマウス洞房結節の大きな頭部構造を確立することが要求されることが見出された。その後、TBX3は、ペースメーカ機能のためのペースメーカ遺伝子の発現を誘導した。それはまた、誘導された多能性幹(iPS)細胞の質を改善するために使用されてきた。
【0029】
TBX18(UniProt O95935)もまた、本明細書に記載の方法で使用することができる。TBX18またはT-BOX-18は、心臓及び冠状血管、尿管及び脊柱を含む様々な組織及び器官の発生過程に関与する転写リプレッサーとして作用する。これは、洞房結節(SAN)頭部領域の胚発生のために必要とされる。このファミリーにおいては典型的なように、幾つかのエキソン(8)、少なくとも4つの転写物が存在し、また全長タンパク質は607アミノ酸である。
【0030】
HCN2(UniProt Q9UL51)、別名過分極-活性化型環状ヌクレオチド感受性カリウムチャネル2、及び脳環状ヌクレオチド感受性2;BCNG2は、ペースメーカイオンチャネルの1つであると考えられている。HCN2遺伝子は、約27kbに亘る8個のエキソンを含み、全チャネルと同様に少なくとも6個の膜貫通ドメインを有する889個のアミノ酸でかなり大きい。この過分極活性化型イオンチャネルは、ナトリウムイオンよりもカリウムに対して弱い選択性を示し、心臓における本来の(奇異性の)ペースメーカ電流(If)に寄与する。
【0031】
<方法の概要>
一般的に言えば、我々は、非常に初期の多能性幹細胞及び前駆細胞を含んだ、成体の非培養で且つ最初は未修飾の脂肪組織に由来する再生細胞を用いる。鼓動性または頻脈性の両方の心臓不整脈の修復を必要とする、同じ患者からの自己細胞を使用するのが好ましい。
【0032】
これらの細胞は、SHOX2、TBX5及びHCN2、またはSHOX2、TBX3、TBX5、TBX18及びHCN2をコードする逐次的発現ベクターでトランスフェクトされ、各遺伝子が逐次的かつ組織化された様式で転写されて、機能性タンパク質の産生をもたらすようになっている。
【0033】
脂肪組織由来の幹細胞の使用は、例示的なものに過ぎず、任意の適切な再生細胞調製物を使用することができる。再生細胞調製物には、例えば、骨髄、臍帯組織、臍帯血、胎盤、血液、または毛根もしくは大網脂肪のような身体の任意の他の組織に由来する細胞が含まれ、それによって、本出願に記載の方法でペースメーカ細胞を生成させるよう誘導され得る初期幹細胞を含有する。この可能な細胞のリストは例示に過ぎず、網羅的なものではない。
【0034】
本発明者らの経験において、上記タンパク質は、特定の順序及び量で連続して上記細胞に導入されるべきである(図2)。一度に全ての遺伝子をトランスフェクトしようとしたところ、大部分の細胞が死滅した。しかしながら、より良い導入システムを用いると、細胞がショックを受けずに生き残る可能性がある。しかし、活性化の順序は、発現レベルと同様に引き続き重要であると予想される。
【0035】
本明細書で使用したベクターはレンチウイルスベクターであったが、これは単なる例示であり、任意の発現ベクターを使用することができる。或いは、RNAを使用することができ、または未処理の機能性タンパク質でさえも使用することができる。
【0036】
DNA、RNA及びタンパク質は、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、及び脂質媒介トランスフェクションを含む様々な方法で、細胞に導入することができる。RNAはまた、例えば、HIV-1-tatタンパク質を用い、例えばtat融合を用いて細胞に送達することもできる。tatは、タンパク質送達に首尾よく用いられてきた。例えば、細胞透過性ペプチドTATのテトラメチルローダミンで標識された二量体であるdfTATは、高効率で、エンドソームから脱出することによって生きた細胞に浸透する。他の細胞透過性ペプチド(CPP)が知られており、実際に、無処置のタンパク質は、CPPを融合タンパク質として使用して送達でき、並びに非共有結合のCPP/タンパク質複合体によって送達することができる。
【0037】
現時点において、レトロウイルスは遺伝子治療(レトロウイルス及びレンチウイルス)に好ましいものであり、現在では350を超える遺伝子治療研究に用いられている。レトロウイルスベクターは、移入された導入遺伝子(複数可)の長期かつ安定した発現に起因して、またクローニング及び製造のための努力が殆ど必要ないため、細胞の遺伝子矯正に特に適している。しかしながら、ペースメーカ細胞の誘導のために等しく使用され得る次世代ベクターが引き続き開発されることが予想される。
【0038】
更に、ゲノム工学技術の出現(例えば、CRISP/CAS等)により、将来は、DNA、RNA、またはタンパク質の細胞送達ではなく、ゲノム工学を介して、必要なタンパク質を選択的に活性化することも可能になる可能性がある。選択的でエピジェネティックな変化(例えば、メチル化パターンの変化)も将来は可能であるかもしれないが、現時点では実用的ではない。
【0039】
多くの異なる成人多能性幹細胞源を本明細書で用いることができるが、本発明の1つの重要な側面は、ヒトにおける洞不全症候群及び他の不整脈を治療するための細胞を作製することにある。幹細胞の好ましい供給源は、不整脈の修復を必要とする同じ患者からの脂肪組織に由来する再生細胞のような自己細胞である。脂肪組織は、非収縮性であるが電気的に特殊な細胞、例えば連合して洞房体を形成するペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞等を形成するために、適切な逐次誘導を受けることが可能な、多数のこれら初期多能性細胞を含有するものとして好ましいものである。脂肪組織は、骨髄源を叩くことに関連した不快感を伴わずに、または拒絶の問題を回避する同種細胞を使用して、患者から容易に入手可能である。将来は、より多くの患者が、例えば臍帯血及び/または臍帯、または胎盤由来の幹細胞等を保存したときに、他のタイプの幹細胞が適合した同種異系移植術において好ましくなる可能性もあるが、現時点では、未だ僅かな患者についてしかこれらの資源は存在しない。
【0040】
現時点までは、形態学的レベル及び機能的レベルの両方でペースメーカ細胞の特徴を示す誘導された洞房細胞の創製のために、非培養または培養された成体の、即ち非胚性且つ非iPSの幹細胞を使用することはできなかった。これら細胞の使用は、それらが胚性幹細胞とは異なって自己由来であり、拒絶の問題を排除し、且つ容易に入手可能であるため、胚性幹細胞に対して非常に有利である。更に、誘導された多能性幹(iPS)細胞は安全ではない可能性がある:最近、幾つかの報告はこのような細胞はがん細胞に近いことを示した。
【0041】
同種異系細胞もまた適切であり得るが、HLAパターンが一致しない場合、免疫調節薬が典型的に必要とされる。しかしながら、このような細胞は今日使用されており、また、より多くのバンクが臍帯血、臍帯組織幹細胞等、及びそれによって生成された幹細胞を収集して貯蔵するようになってきているので、将来は更に適するようになる可能性があり、特に、何百何千もの異なるHLAパターンのライブラリを収集し、凍結保存することができる場合には、適合した同種異系移植の確率が増加する可能性がある。或いは、誘導されたペースメーカ/プルキンエ細胞のライブラリを予め作製することができるので、必要時には、これらの細胞を移植のために容易に利用することができる。
【0042】
更に、本発明者らは、ヒト野生型遺伝子を用いて本発明を説明したが、他の供給源を、上記種に適したものとして使用してもよい。発現を最適化するためにコドン最適化を行うこともできる。
【0043】
本発明は、以下の実施形態の1以上を、それらの任意の組合せ(複数可)において包含するものである。

【表1】
【表2】
【0044】
本明細書中で使用するとき、「誘導された洞房体」とは、再プログラミングされた幹細胞からなっており、これはペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞を形成し、次いでこれらが連合して機能的相互接続を形成し、且つ奇異性電流を発生して心臓拍動を誘導できる誘導された洞房体を産生する。ペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞の機能的相互接続及び電気生理学的特性は、特にCX30.2及びHCN4を含む心臓伝導性細胞に関しては、特異的な細胞膜接合及びイオンチャネルの発現と関連している(図10、11)
【0045】
本明細書で使用するとき、ペースメーカ細胞とは、自発的に脱分極する能力を有する、幾つかの蜘蛛状突出部をもった大きな主に丸い(>50μm)細胞である(図7、8)。
【0046】
本明細書中で使用するとき、「プルキンエ繊維」とは、小さな(<20μm、主細胞体
の直径を横切って)細胞であり、この細胞は互いに特異的な鎖を形成し、鎖及びチャネル
において自発的にそれ自体を配向させ、またペースメーカ細胞を包囲して、これら細胞と
の相互接続を形成する(図7、8、9)。
【0047】
本明細書中で使用するとき、幹細胞において特定の遺伝子の発現を「誘導する」とは、特定の方法論を意味せず、誘導性プロモーターの使用に限定されない。その代わりに、発現ベクター、裸のDNAもしくはRNAまたはタンパク質の使用、エピジェネティックな変化の誘導などを含む、遺伝子発現を開始する任意の手段を用いることができる。それは列挙された遺伝子/タンパク質の発現を既に示している天然細胞は含まず、ヒトの手によってそのように再プログラミングされた幹細胞のみを含む。
【0048】
本明細書中で使用するとき、「幹細胞」または「再生細胞」とは、多分化能性及び多能性の幹細胞、並びに本明細書に記載の細胞型に分化するために首尾よく再プログラミングされ得る他の型の細胞を含むものである。これらは、未だ分化していないか、または脱分化されている細胞であり、従って、全ての細胞型または多数の細胞型の何れかを形成する能力を有している。
【0049】
「成人幹細胞」とは、典型的には、非乳児由来の多能性幹細胞であり、ドナーの特定の年齢を意味しない。体細胞性幹細胞としても知られており、小児並びに成人にも見出すことができる。
【0050】
本明細書で使用する「自己の」とは、患者または遺伝的に同一の患者に由来する細胞を意味する。「同種異系」とは、同じ種に由来するが、異なる遺伝子型を有する細胞をいう。
【0051】
用語「a」または「an」の使用は、特許請求の範囲または明細書中の「含む」の用語に関連して使用されるときは、文脈上別段の指示がない限り、1以上を意味する。
【0052】
「約」の用語は、記載した値プラスまたはマイナス測定誤差の限度、或いは、測定方法が示されていない場合は記載した値プラスまたはマイナス10%を意味する。
【0053】
特許請求の範囲における用語「または」の使用は、択一的選択物のみを指すことが明示的に示されない限り、または択一的選択物が相互に排他的である場合を除いて、「及び/または」を意味するために使用される。
【0054】
用語「含む(comprise)」、「有する(have)」、「含む(include)」及び「含有する(contain)」(及びそれらの変形)は、非限定的連結動詞であり、請求項で使用されるときには他の要素の追加を可能にする。
【0055】
「~からなる」との語句は閉じられており、すべての追加要素を除外している。
【0056】
「本質的に~からなる」の語句は、追加の重要な要素を除外するが、本発明の性質を実質的に変えない重要でない要素の包含を可能にする。このタイプの要素は、例えば、緩衝剤、キレート剤、栄養素、使用説明書などが含まれる。
【0057】
本明細書では以下の略語が使用される。
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1A】心臓の解剖図:EKGトレース(右上)を伴った心臓の断面解剖図。
図1B】心臓の電気生理学:心臓の電気システム及び詳細なEKGトレース。
図2】遺伝子活性化シーケンス:心臓ペースメーカ細胞系統発生の異なる段階に関与する重要遺伝子を表す概略アルゴリズム。
図3】実験概要:心臓ペースメーカ細胞生成のための実験手順の順序を表す概略図。
図4】ベクターマップ:TBX3、TBX5、TBX18、HCN2、SHOX2構築物の発現ベクターとして使用される、PNL-TREPiTT-EGFPデルタU3-IRES2-EGFPプラスミド。
図5】形質転換の前及び後のADSC:ADSCの典型的な線維芽様様形態(A)から小ネットワーク形成細胞のコロニー(B)への、ADSCの形態の変化。矢印を参照されたい。ドキシサイクリン感受性スイッチの下で開始から7日後。
図6】形態の変化:心臓ペースメーカ誘導因子SHOX2、TBX5及びHCN2でのトランスフェクション後で、ドキシサイクリンスイッチ制御誘導の開始後1週間以内における、ADSCの典型的な線維芽様形態から小型及び大型ネットワーク形成細胞のコロニーへの、ADSCの形態学における変化。
図7】細胞型及びアラインメント:SHOX2、TBX5及びHCN2でトランスフェクトされたADSCの培養プレート中の2つの異なる細胞型の観察。右矢印-スパイク形状の突起を伴った小さな細胞集団。小さな細胞は、特別な整列した成長パターンを形成し、チャネル様の構造を作り始める。左矢印-特別な蜘蛛形状の形態を有するより大きな細胞。
図8】大きな細胞の詳細な観察:SHOX2、TBX5及びHCN2のドキシサイクリン制御誘導開始後14日以内の、大きな細胞(>50μm)の典型的な蜘蛛様形態の出現。
図9】ネットワーク:SHOX2、TBX5及びHCN2の誘導後3週間以内に、大きな蜘蛛形状の細胞がお互いに、及び小細胞と共にネットワークを形成し始める。
図10】小細胞におけるDAPI及びCX30.2。小さなネットワーク形成細胞におけるCX30.2(ペースメーカ細胞系統の特異的マーカー)の発現。青色のDAPI染色はDNAを発光させ、核を示す。
図11】大きな細胞におけるDAPI及びCX30.2。小さな蜘蛛形状の細胞及び大きな蜘蛛形状の細胞の両方におけるCX30.2の発現。
図12】小さな細胞及び大きな細胞の両者における、DAPI及びHCN4(ペースメーカ細胞系統の特異的マーカー)。
図13】RNA発現レベル。誘導の開始から2週間後に、ペースメーカ誘導因子の異なる組み合わせでトランスフェクトされたADSCにおける、心臓プルキンエ細胞の特異的マーカー遺伝子のmRNA発現レベル。
図14】RNA発現レベルの続き。SHOX2、TBX5及びHCN2の誘導開始の2週間後の、ペースメーカ誘導因子の異なる組み合わせでトランスフェクトされたADSCにおける心臓ペースメーカ細胞の特異的マーカー遺伝子のmRNA発現レベル。
図15】単一細胞電圧クランプ実験、奇異性電流制御細胞:ADSC(対照2)細胞から記録された代表的な奇異性電流(If)。このIf電流は、-40mVの保持電位から10mVずつ増加させて、500mSの間、-100mVから-40mVまでの電圧ステップで誘起された。
図16】小さな細胞における奇異性電流:SHOX2、TBX5、及びHCN2でトランスフェクトされた小サイズ画分(<20μm細胞サイズ)のADSCから記録された代表的な奇異性電流(If)。If電流は、-40mVの保持電位から10mVずつ増加させて、500mSの間、-100mVから-40mVまでの電圧ステップで誘起された。
図17】大きな細胞における奇異性電流。SHOX2、TBX5、HCN2でトランスフェクトされたADSCの大サイズの画分(>50μm細胞サイズ)から記録された代表的な奇異性電流(If)。このIf電流は、-40mVの保持電位から10mVずつ増加させて、500mSの間、-100mVから-40mVまでの電圧ステップで誘起された。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明は、ペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞または洞房結節(SAN)を作製する新規な方法;それによって作製されたペースメーカ細胞、プルキンエ細胞、及びSAN;並びに、例えばヒト患者のような患者の心臓における損傷したペースメーカ及びプルキンエ繊維を置換または補うために、これらを使用する方法を提供する。上記細胞は、直接またはカテーテルベースの注入によって、必要とされる場所に外科的に送達することができる。例えば、洞結節の修復については、損傷して機能が低下している洞結節に数千個の細胞をカテーテルベースで注入することで、効果的な修復を行うのに十分である。
【0060】
頻脈性不整脈の修復については、不整脈基質における伝導の速度を加速し、それによって難治性心筋に適合するように循環刺激を加速することによって再導入経路を閉じ、再導入を中断させるために、梗塞の境界領域のような遅い伝導帯の中にプルキンエ細胞が注入される。
【0061】
好ましくは、上記細胞は、患者由来の任意の利用可能な幹細胞供給源、例えば骨髄由来幹細胞、または脂肪由来もしくは血液、皮膚及び臍帯組織由来の幹細胞を使用して、自己細胞から作製される。
【0062】
<レンチウイルスベースの再プログラミング>
心臓ペースメーカ細胞に分化するようにADSCを誘導するために、レンチウイルスベクター系を適用することにより、上記ADSCに、SHOX2、TBX5、TBX3、TBX18及びHCN2を含む心臓ペースメーカ誘導因子の異なる組合せを逐次的にトランスフェクトする。レンチウイルスベクターは、例えばドキシサイクリンスイッチのようなスイッチの制御下にある。
【0063】
心臓ペースメーカ誘導因子の発現は、上記細胞に対して24時間間隔で連続的に適用されたレンチウイルスベクターにより達成された(図3)。細胞を、5%ウマ血清、2mMのグルタミン、0.1mMの非必須アミノ酸を添加したα-MEM中で培養した。培養物を毎日400ng/mLのドキシサイクリンで3日間処理し、次いで上記添加物を含むα-MEM中で2週間維持した。トランスフェクション後の細胞の形態学的変化を調べるために、細胞の顕微鏡観察を毎日行った。ドキシサイクリン誘導の開始後14日目に、種々の実験群からRNAサンプルを採取した。
【表4】
【0064】
ヒトADSC(hADSC)は、INGEERON(登録商標)(Houston、TX)から入手した。30~40歳のドナーからの脂肪組織を、治験審査委員会によって承認された組織取得プロトコルの下でのインフォームド・コンセントで得た。このADSCは、選択的脂肪形成術を受けているドナーから獲得した脂肪吸引物から調製した。以前に記載されたようにして、hASDCを単離した。
【0065】
簡単に言うと、脂肪組織を細かく切り、39℃で30分間、トランスポーズRT[(TransposeRT(商標))処理装置[INGENERON(登録商標)]のリンゲル溶液中で脂肪組織1グラム当たり1単位濃度のマトラーゼ[Matrase:INGENERON(登録商標)]と共にインキュベートした。その後、処理した組織を100μmフィルターで濾過し、450gで10分間遠心分離した。脂肪細胞及び破片を含む上清を捨て、ペレット化した細胞をハンクス平衡塩類溶液[CELLGRO(商標)]で2回洗浄し、最後に増殖培地中に懸濁させた。このプロセスは、インゲネロン・トランスポーズRT[InGeneron Transpose RT(商標)]システム[INGENERON(登録商標)]の使用説明書により詳細に記載されている。増殖培地は、アルファ修飾のイーグル(Eagle)培地[CELLGRO(商標)]、20%FBS[アトランタバイオロジカルズ(商標)]、2mMのグルタミン、100μg/mLのストレプトマイシンを伴う100単位/mLのペニシリン[CELLGRO(商標)]を含んでいた。
【0066】
接着細胞はhADSCと称され、5%COを含む加湿雰囲気中において37℃にて培養フラスコ内で増殖させた後、毎日洗浄して赤血球及び非付着細胞を除去した。80%コンフルエントに達したときに、トリプシン溶液0.25%を適用して細胞を剥離し、新しい細胞培養フラスコ中に3000細胞/cmの密度で播種した。
【0067】
ADSCを心臓ペースメーカ細胞に分化させるために、レンチウイルスベクター系(表1)を用いて、SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18及びHCN2を含む心臓ペースメーカ誘導因子の異なる組合せをADSCにトランスフェクトした。本明細書で使用するレンチウイルスベクターは、パッキングベクターpsPAX2及びエンベロープベクターpMDS2.G[ADDGENE(商標)](Islas、2012)を含んでいる。加えて、ドキシサイクリン制御トランスアクチベーター(rtTA2)を、上記系の転写誘導スイッチとして使用した。プラスミドPNL-TREPiTT-EGFPデルタU3-IRES2-EGFP(図4)が、全ての単一遺伝子のためのバックボーンベクターとして用いられた。市販の細胞株293FTを、ウイルスパッケージングに使用した。この293FT細胞株は、SV40ラージT抗原で形質転換されたヒト胎児腎細胞に由来する、急速に増殖する高度にトランスフェクション可能なクローン単離物であり、サーモフィッシャーサイエンティフィック[THERMO FISHER SCIENTIFIC(登録商標)]から入手可能である。
【0068】
手短に言うと、psPAX2、pMDs2.Gベクター、及びSHOX2、TBX3、TBX5、TBX18、HCN2を含む興味の対象である全ての単一遺伝子を含むプラスミドでトランスフェクトした293T細胞において、ウイルス粒子を産生させた。約80%コンフルエントなADSCの増殖状態への再プログラミングは、所定の実験群(表1参照)に従って、SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18、HCN2ベクターを含むウイルス粒子の異なる組み合わせでの感染によって達成された。4遺伝子及び5遺伝子の組み合わせもまた、良好な予備的結果を示す。
【0069】
トランスフェクトされた細胞は、5%(vol/vol)ウマ血清、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL-グルタミン酸を添加したα-MEM[INVITROGEN(登録商標)]により、大組織培養プレート中で培養された
【0070】
PCRを用いたトランスフェクションの72時間後に、各遺伝子構築物の安定な組込み及びmRNA発現を確認した。
【0071】
トランスフェクション後の細胞に起こる変化を調べるために、細胞の繊細な顕微鏡観察を毎日行った。SHOX2>TBX5>HCN2の逐次的トランスフェクションの三つの組合せに属する代表的なデータを本明細書に示す。
【0072】
ドキシサイクリン誘導処置後の第2週から出発して、異なる実験群からの遺伝子的にプログラミングされたペースメーカ細胞は、線維芽細胞様形態を変換するように開始して、幾つかの大きなスパイク形状の突起を有する特定のネットワーク形成細胞型を含む新しいコロニーを形成した。SHOX2>TBX5>HCN2の逐次的トランスフェクションを図5、6に示す。
【0073】
種々の実験群における分化期間中に、特定の大きな蜘蛛形状の細胞型及び長いスパイク状の突起を有する小さな紡錘形細胞を含む、2つの異なるタイプの細胞が徐々に出現した。図7,8は、SHOX2>TBX5>HCN2三つの逐次的連続トランスフェクションにおける2つの細胞型の外観を示す。その後、紡錘体形状及び蜘蛛形状の両方の細胞集団は互いに、高度に相互接続されたネットワークを形成し始めた(図9)。加えて、小さなスパイク形状の細胞は、特定の高度に整列した成長パターンを形成し始めた(心臓の自然伝導系におけるプルキンエ細胞ネットワークに対応する可能性が高い、図7における直線状の溝形成を参照されたい)。
【0074】
胎児SANからのペースメーカ細胞の単離に関する以前の研究結果によれば、蜘蛛形状の形態は、ペースメーカ細胞の典型的な形態として定義されている。従って、我々の秩序だったトランスフェクション実験は、SHOX2>TBX5>HCN2の三つの逐次的トランスフェクションが、天然のペースメーカ細胞に非常によく似た形態を有する細胞を作ったことを示した。
【0075】
本明細書には示されていないが、ペースメーカ誘導因子の種々の組み合わせでトランスフェクトされたADSCの異なる群において、同様の観察がなされた。しかし、個々のSHOX2及びHCN2、またはこれらの二つの組み合わせでトランスフェクトされた群と比較して、TBX転写因子(特にTBX5)でトランスフェクトされたADSC群では、心臓伝導細胞の典型的な形態に向けたより強固な形態学的変化が観察された。SHOX2、TBX5及びHCN2の3種の組み合わせでトランスフェクトされたADSC群において最も強固な形態学的変化が観察されたので、これらの結果を本明細書の一部に示す。qPCRアッセイによる心臓伝導系の分子マーカーの発現においてもまた、同様の結果が観察された(図13,14)。
【0076】
心臓伝導系開発の主な分子レギュレーターを同定することに関する以前のインビボ研究の結果は、T-ボックスタンパク質を、心臓伝導系形態形成のための、並びに心臓伝導性細胞の電気生理学的機能性に寄与するイオンチャネルタンパク質をコードする遺伝子のアップレギュレーションのための必須因子として同定した。
【0077】
Hoogaarsら(2007)は、TBX3が洞房結節遺伝子プログラムを制御し、心房にペースメーカ機能を課すことを示した。他の研究の結果は、TBX5が、心臓伝導細胞の成熟及び機能に必要な発生ネットワークを制御する重要な転写因子であることを示している。
【0078】
ゲノムワイドアソシエート研究(GWAS)の結果は、TBX5及びイオンチャネルを含むヒト心臓伝導系の発生プロセスに関連する多数の遺伝子座を同定した。イオンチャネルの発現は、系の電気生理学的機能にとって重要である。Arnoldら(2012)は、TBX5の欠損が、急速伝導の喪失、不整脈及び突然死を含む心臓伝導系において重度の機能不全を生じることを見出した。
【0079】
更に、ゲノムワイドアソシエート研究(GWAS)の結果に基づいて、TBX5及びSCN5A(UNIPROT Q14524)(別名NAV1.5、高速伝導系の重要なメディエータ)との間の分子リンクが同定された。この研究の結果は、SCN5Aの下流にあるTBX5応答性エンハンサーを同定したが、これは心室伝導系の系統明細にとって十分である(Arnolds,2012)。
【0080】
より小さい細胞は、紡錘状の形態及び長い細胞突起によって決定されるように、プルキンエ細胞に対応している:トランスフェクションの2週間後、これらの小さな紡錘状細胞は、個々の細胞の相互の密着結合による多細胞鎖及びネットワークの形成を含めて、特に高度に整列した成長パターンを示した。これらの細胞は、単細胞パッチ凝集アッセイにおいて、中程度のレベルの奇異性電流を示した。種々の心臓細胞型の単離及び特徴付けに関する以前のインビボ研究の結果によれば、この特定の鎖及びネットワーク形成成長パターンは、プルキンエ細胞の典型的な特徴として定義されている。同様の形態学的性質が、ESCにおけるTBX3の過剰発現による心臓結節細胞のインビトロ産生についての以前の試みにおいて報告された。加えて、我々の知見と一致して、種々のタイプの心臓伝導性細胞の特徴付けに関する以前の研究の結果もまた、ペースメーカ細胞と比較して、心臓プルキンエ細胞におけるより低レベルの電気生理学的活性を明らかにした。
【0081】
2つの細胞型が連合して相互接続されたネットワークが形成され、ここでは1つのペースメーカ細胞が囲まれ、幾つかのプルキンエ細胞に接続されてネットワークを形成する。このプルキンエ細胞は、ペースメーカ細胞によって誘導された最初の自発的脱分極の増幅器、及び伝導体として作用する目的を有する。これらの相互接続されたネットワークの形成は、細胞の電気生理学的機能に必須のCX30.2及びHCN4を含む、心臓導電性細胞の特異的膜接合及びイオンチャネルの発現と密接に関連している。過分極活性化型環状ヌクレオチド感受性ナトリウムチャネルのメンバーであるHCN4は、特定のペースメーカ電流Ifのために必要とされる。CX30.2は、細胞-細胞接合部、及び自発的に脱分極する心筋細胞間のネットワーク形成を担当する。
【0082】
<RNAに基づく再プログラミング>
プログラミングされたペースメーカ非収縮性心筋細胞を誘導する別の成功した方法は、mRNAベースのトランスフェクション法を使用している。この方法論は、全ての異なる誘導因子については未だ完全には完了していないが、我々の現在の結果は、その方法が同等に実行可能で効果的であることを示唆している。
【0083】
簡単に言えば、特異的プライマーを用いたPCRにより、コーディングDNAの配列を増幅させる。次いで、このPCR産物を精製し、生成したDNAの品質を決定する。インビトロ転写(IVT)プロセスを使用して、上記DNA産物からmRNAを生成させる。続いて、この生成物を精製し、ホスファターゼで処理して5’-三リン酸を除去する。生成したmRNAの更なる精製及び品質管理の後、トランスフェクション実験が行われる。
【0084】
IVTのDNA鋳型を得るために、PCRを用いて、全てのTBX18、TBX3及びHCN2プラスミドを増幅する。それにより、120個のチミジン(T)のポリTテールが、T120伸長部を有する逆方向プライマーを使用することによって挿入物に加えられる。こうして、IVTの後、生成したmRNAは、規定された長さを有するポリAテールを得る。100μLのPCR反応が、HOTSTAR(商標)HIFIDELITY・POLYMERASE・KIT[QIAGEN(登録商標)、ドイツ]を使用し、また0.7μMの各順方向及び逆方向プライマー、1×Q溶液、1×HOSTAR(商標)HIFIDELITY・PCR緩衝液、50ngのプラスミドDNA、2.5UのHOTSTAR(商標)HIFIDELITY・DNAポリメラーゼを含めて行われるであろう。
【0085】
増幅は、例えば以下の循環プロトコルを用いて実施される:即ち、95℃で5分間の初期活性化ステップ、続いて95℃で45秒間の変性、55℃で1分間のアニーリング、72℃で1分間の伸長、最後に72℃で10分間の伸長を25サイクルである。PCR産物は、QIAQUICK(商標)PCR PURIFICATION KIT[QIAGEN(登録商標)、ドイツ]を用いて製造業者の指示に従って精製し、20μLのヌクレアーゼフリーの水を用いてDNAを溶出する。DNAの品質及び純度は、1%アガロースゲル電気泳動によって評価することができる。
【0086】
PCRの後、遺伝子情報は、例えば、MEGASCRIPT(登録商標)T7キット[LIFE TECHNOLOGIES(登録商標)、ドイツ]を用いて、インビトロでDNAからmRNAに転写される。次いで、このmRNA転写物を使用して、細胞内でのタンパク質発現が誘導されるであろう。最初に、7.5mMのATP、1.875mMのGTP[両者ともMEGASCRIPT(登録商標)T7キットから]、7.5mMのMe-CTP、7.5mMの擬-UTP(両者ともTRILINK BIOTECHNOLOGIES TM、CAから)、及び2.5mMの3’-O-Me-mG(5’)ppp(5’)GのRNAキャップ構造アナログ[NEW ENGLANDBIOLABS(登録商標)、ドイツ]を含有する、23μLのNTP/キャップ構造類似体混合物を調製し、完全に混合する。
【0087】
次いで、40μLのこのIVT反応混合物は、40UのRIBOLOCK(商標)RNase阻害剤(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、1μgのPCR産物、1×反応緩衝液及び1×T7・RNAポリメラーゼ酵素混合物を加えることによって組立てられるであろう。このIVT反応混合物は、サーモミキサーにおいて37℃で3時間インキュベートされるであろう。鋳型DNAを除去するために、1μLのTURBO(商標)DNase[MEGASCRIPT(登録商標)T7キットから]をIVT反応混合物に添加し、37℃で15分間インキュベートする。次いで、この反応混合物をRNEASY(商標)Mini・Kit(QIAGEN)を用い、製造業者の指示に従って精製する。この改変されたmRNAは、40μLのヌクレアーゼフリーの水で2回スピンカラム膜から溶出されるであろう。
【0088】
生成されたmRNAは、RIG-1によって認識されて免疫活性化を導き得る5’三リン酸を除去するために、アンタルクチックホスファターゼ[Antarctic phosphatase;NEW ENGLAND BIOLABS(登録商標)]で処理されるであろう。更に、このホスファターゼ処理は、自己ライゲーション反応における再環化を防止する。この目的のために、9μLの10×アンタルクチックホスファターゼ反応緩衝液を、79μLの精製mRNA溶液に添加する。続いて、2μLのアンタルクチックホスファターゼ(5U/μL)を反応混合物に添加し、37℃で30分間インキュベートする。
【0089】
この処理されたmRNAは、例えばRNeasy・Mini・Kit(QIAGEN)を製造者の指示に従って使用して、精製することができる。この改変されたmRNAは、50μLのヌクレアーゼフリーの水で2回スピンカラム膜から溶出されるであろう。濃度は、SCANDROP分光光度計(ANALYTIC JENA、ドイツ)を用いて測定されるであろう。mRNAの濃度は、ヌクレアーゼフリーの水を加えることによって100ng/μLに調整されるであろう。合成された修飾mRNAの品質及び純度は、1%アガロースゲル電気泳動によって決定されるであろう。修飾されたmRNAはアリコートに分けられ、-80℃で保存され、トランスフェクションに使用されるであろう。
【0090】
ADSCは、10%FBS(LIFE TECH)、2mMのL-グルタミン(PAAラボラトリーズ、オーストリア)、及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PAA LAB.)を添加したα-MEM培地で培養されるであろう。細胞は、5%COで37℃に保たれ、また培地は3日毎に交換されるであろう。細胞は、トリプシン/EDTA[0.04%/0.03%、PROMOCELL(商標)、ドイツ]を用いて継代されるであろう。トランスフェクション実験を実施するために、24ウェルプレートのウェル当たり1.5×10個の細胞がプレーティングされるであろう。この細胞は、細胞インキュベーター中において37℃で一晩インキュベートされるであろう。翌日、トランスフェクション実験を行うことができる。
【0091】
本発明の異なるmRNAでのADSCのトランスフェクションは、LIPOFECT AMINE(登録商標)2000(LIFE TECH(登録商標))を用いて行う。リポプレックスの形成に必要なLIPOFECTAMINE(登録商標)2000の必要量を決定するために、1、2、4、6μLの異なる量のLIPOFECTAMINE(登録商標)2000を使用して細胞をトランスフェクションした。24ウェルプレートの1つのウェルのトランスフェクションのために、250μLのOpti-MEM・I還元血清培地を、製造業者の指示に従って、2.5μgの興味ある各mRNA及びそれぞれの量のリポフェクタミン[Lipofectamine(登録商標)2000]を含有するように調製した。
【0092】
ピペット操作により成分を穏やかに混合する。次いで、トランスフェクション混合物を室温で20分間インキュベートして、トランスフェクションのためのリポプレックスを生成させる。細胞を250μLのDPBS/ウェルで洗浄し、トランスフェクション混合物をウェルにピペットで加える。37℃及び5%COで4時間インキュベートした後、トランスフェクション混合物を1mLの完全細胞培地で置き換える。細胞を細胞インキュベーター中で24時間培養し、フローサイトメトリーを用いて分析する。
【0093】
タンパク質発現誘導のためのmRNAの必要量を決定するために、最初に、異なる量の各eGFP-mRNA(0、0.5、1、1.5、2、2.5μg)を用いて細胞のトランスフェクションを行う。24ウェルプレートの1ウェルのトランスフェクションのために、250μLのOpti-MEMI還元血清培地は、それぞれの量のmRNA及び1μLのLIPOFECTAMINE(登録商標)2000を用いて調製されるであろう。
【0094】
上記成分を穏やかに混合し、室温で20分間インキュベートする。細胞を500μLのDPBS/ウェルで洗浄し、上記トランスフェクション混合物を添加する。細胞を37℃及び5%COで4時間インキュベートする。その後、トランスフェクション混合物を吸引し、1mLの完全細胞培養培地を上記細胞に添加する。細胞をインキュベーター内で24時間インキュベートする。
【0095】
フローサイトメトリーを用いて、細胞におけるeGFP発現を確認する。eGFPによるタンパク質発現の誘導に必要なmRNAの量を決定した後、同じ濃度を、本発明によるそれぞれのmRNAに適用する。
【0096】
<免疫組織化学>
誘導されたペースメーカ細胞の更なる特徴付けのために、CX30.2及びHCN4を含む心臓ペースメーカ細胞系統の主要なマーカー遺伝子に対する免疫組織化学(IHC)的染色を、ドキシサイクリンにトリガーされた誘導開始の2週間後に行った。
【0097】
IHC染色を、CX30.2及びHCN4を含む、非収縮性心筋細胞のそれぞれ2つの主要なマーカー遺伝子について実施した。SHOX2>TBX5>HCN2の三つ組で逐次的に形質転換された細胞におけるIHC染色の結果は、紡錘体状及び蜘蛛状の細胞集団の両方において、CX30.2及びHCN4の発現を明らかにした(図10、11、12)。HCN4は、If、即ち特定のペースメーカ電流について必要とされる過分極活性化型環状ヌクレオチド感受性ナトリウムチャネルのメンバーである。CX30.2は、細胞-細胞接合、及びそれぞれの非収縮性心筋細胞間のネットワーク形成を担当する。
【0098】
同様の免疫表現型が、ペースメーカ誘導因子の他の組み合わせをトランスフェクトされたADSCの異なる群においても観察された。しかし、SHOX2及びHCN2で個別にまたは二つの組み合わせでトランスフェクトされた群と比較して、TBX転写因子(特にTBX5)をトランスフェクトされたADSC群では、トランスフェクトされたADSCの形態学的特性及び免疫表現型において、自発的に脱分極する非収縮性心筋細胞へと向かう、より強固な変化が観察された。トランスフェクトされたADSCの、洞房結節細胞への形態学的性質及び免疫表現型における最も強固な変化は、SHOX2、TBX5及びHCN2の三つの組み合わせによって観察された。TBX3及びTBX18は、TBX5に加えて、またはTBX5の代わりに使用することも可能であり、またHCN4はHCN2に加えて、またはHCN2の代わりに使用することができる。
【0099】
<主要遺伝子の発現レベル>
ペースメーカ及びプルキンエ細胞を含む種々のタイプの心臓伝導細胞系統に向けたADSCの分化に対する、心臓ペースメーカ誘導因子の種々の組み合わせの効果を評価するために、両方の細胞系統の特異的マーカー遺伝子のmRNA発現レベルを分析した。
【0100】
この目的のために、HCN1、HCN3、HCN4、SCN3B(UniProt Q9NY72)、CX30.2(適切にはGJC3、UniProt Q8NFK1としても知られる)を含む心臓ペースメーカ細胞の下流後期マーカーのパネル、並びにIRX3(UniProt P78415)、IRX5(UniProt P78411)、SEMA3B(UniProt Q6PI51)、SCNI0A(UniProt Q9Y5Y9)、SHH(UniProt Q15465)を含むプルキンエ細胞の特異的マーカー遺伝子のパネルについてのmRNA発現が、混合細胞型集団にqPCR分析を適用して決定された(例えば、細胞は最初にペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞に分離されなかったが、この実験は計画されている)。
【0101】
簡単に言えば、QIAGEN(登録商標)RNEASY(商標)キットを使用して総RNAを単離し、スーパースクリプトIII[INVITROGEN(登録商標)]を用いてcDNAに逆転写した。定量的PCRは、SYBR・Green[APPLIED BIOSYSTEMS(登録商標)]を検出器として用い、ABIプリズム7000システム検出配列(SDS)及びソフトウェア[APPLIED BIOSYSTEMS(登録商標)]を用いて行った。
【0102】
心臓ペースメーカマーカー(表3及び図12)及びプルキンエ細胞(表2及び図13)の特異的マーカー遺伝子のパネルについて、mRNA発現レベルを分析した。qPCR分析の結果に基づいて、心臓プルキンエ細胞のマーカー遺伝子の発現は、ペースメーカ誘導因子の異なる組み合わせをトランスフェクトされた全ての異なる実験群において観察することができる。しかし、HCN1、HCN3、HCN4、SCN3B(UniProt Q9NY72)、CX30.2(GJC3、UniProt Q8NFK1)を含む下流心臓ペースメーカマーカー遺伝子のアップレギュレーションに対して、心臓誘導因子の様々な組み合わせが種々の役割を果たす。
【0103】
例えば、HCN3B、HCN3及びCX30.2の最も高いmRNA発現レベルは、SHOX2、TBX5及びHCN2の3種の組み合わせをトランスフェクトされたADSCにおいて観察されたが、HCN1のmRNA発現はTBX18のアップレギュレーションとより相関していた。この研究の結果によれば、HCN4のmRNA発現は、SHOX2のアップレギュレーションと高度に相関している。加えて、HCN4の中程度の発現レベルが、SHOX2、TBX5及びHCN2の3つの組み合わせでトランスフェクトされたADSCにおいて観察された。全て総合すると、qPCRの結果に基づけば、SHOX2、TBX5及びHCN2の三つの組合せによるADSCのトランスフェクションは、心臓伝導性細胞の異なるマーカー遺伝子の最も一貫したアップレギュレーションを導く。トランスフェクトされたADSCの遺伝子発現パターンにおいて自発的に脱分極する非収縮性心筋細胞への最も強固な変化が、SHOX2及びHCN2で個別に、またはそれらの二つの組み合わせでトランスフェクトされた群に比較して、TBX転写因子(特にTBX5)をトランスフェクトされたADSC群において観察されたと結論することができる。トランスフェクトされたADSCの遺伝子発現パターンにおいて、自発的に脱分極する非収縮性心筋細胞に向けた最も強固で一貫した変化は、SHOX2、TBX5及びHCN2の三つの組み合わせによって観察された。
【0104】
一般に、SHOX2、TBX5及びHCN2の三つの組み合わせは、プルキンエ細胞及びペースメーカ細胞を含む心臓伝導系の両方の細胞タイプの生成のために、効果的に適用できると結論することができる。
【表5】
【表6】
【0105】
<パッチクランプアッセイ>
遺伝的にプログラミングされたペースメーカ細胞の機能性を更に検証するために、我々は単一細胞パッチクランプ実験を行って、細胞により生成された電流を測定した(White、2005)。
【0106】
全細胞電圧クランプ実験は、標準的なパッチクランプ法を用いて行った。記録電極は、フラミング-ブラウン(Flaming-Brown)微小電極プラー[P-97、SUTTER INSTRUMENTS(商標)、CA]を使用して、1.5mmの薄壁ホウケイ酸ガラス[No.7052、GARNER GLASS(商標)、CA]から作製し、使用前に熱研磨した。ピペットの各々は、内部溶液で満たされたとき2~5MΩの先端抵抗を有する。記録は、アクソクランプ(Axoclamp)2Bパッチクランプ増幅器[AXON INSTRUMENTS(商標);CA]を用いて行った。データを2kHzでフィルターにかけ、クランペックス(Clampex)8ソフトウェア[AXON INSTRUMENTS(商標)]を用いてデータを取得した。
【0107】
パッチピペットをホウケイ酸ガラスから引き上げ、熱研磨した。それらは、細胞間溶液で満たされたときには2~5MΩの抵抗を有した。
【0108】
電流クランプ記録のために、細胞間溶液は、10mMのNaCl、130mMのアスパラギン酸カリウム、0.04mMのCaCl、3mMのMg-ATP、10mMのHEPESを含有していた。pHを、KOHで7.2に調整した。細胞外(浴)溶液は、pH7.4において、140mMのNaCl、5.4mMのKCl、1.8mMのCaCl、1mMのMgCl、10mMのグルコース、及び5mMのHEPESを含有していた。
【0109】
奇異性電流(If)密度は、40mVの保持電位から10mV刻みで、500mSの間、-100mV~40mVの電圧ステップで測定された。心臓ペースメーカ細胞の重要な特性が、内向きの奇異性電流(If)の発現だからである。この研究の結果によれば、小さな紡錘形細胞集団及び大きな蜘蛛形状の細胞集団の両方が、HCNチャネルサブタイプの典型的な電流である強固なIf電流を示した(図15、16、17)。
【0110】
本発明は、レンチウイルスベクターに関して例示される。しかし、これは単なる例示に過ぎず、本発明は、ADSCのような幹細胞において必要な遺伝子を活性化するための任意の手段を含むように、広く適用することができる。以下の実施例は例示のみを意図しており、添付の特許請求の範囲を過度に制限するものではない。

本発明の様々な実施形態を以下に示す。
1.成体再生細胞を誘導された非収縮性心筋細胞タイプへと分化させる方法であって、前記細胞の特異的分化を誘導するために、成体再生細胞の集団をSHOX2>TBX5>HCN2の逐次的発現に付すことと、前記細胞を、心臓ペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞が形成されるまで培養することを含む前記方法。
2.前記再生細胞が成体幹細胞を含む、上記1に記載の方法。
3.前記再生細胞が自己脂肪組織由来幹細胞を含む、上記1に記載の方法。
4.SHOX2>TBX5>HCN2をコードするDNAまたはmRNAの前記細胞への逐次トランスフェクションを誘導することを含む、上記1に記載の方法。
5.SHOX2>TBX5>TBX3>TBX18>HCN2の逐次的発現を誘導することを含む、上記1に記載の方法。
6.前記非収縮性心筋細胞が、自己脂肪組織由来の再生細胞から生成される上記1に記載の方法。
7.前記誘導段階が、SHOX2、TBX5、及びHCN2をコードする1以上の発現ベクターを使用する、上記1に記載の方法。
8.前記誘導段階が、SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18及びHCN2をコードする1以上の発現ベクターを使用する上記1に記載の方法。
9.前記誘導段階が、SHOX2、TBX5、及びHCN2をコードする1以上のレンチウイルスベクターを使用する、上記1に記載の方法。
10.前記誘導段階が、SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18及びHCN2をコードする1以上のレンチウイルス発現ベクターを使用する、上記1に記載の方法。
11.前記誘導段階が、SHOX2、TBX5、及びHCN2をコードするmRNAを使用する、上記1に記載の方法。
12.前記誘導段階が、SHOX2、TBX3、TBX5、TBX18及びHCN2をコードするmRNAを使用する、上記1に記載の方法。
13.誘導された洞房体が形成されるまで前記ペースメーカ細胞及び前記プルキンエ細胞を増殖させることを更に含む、上記1に記載の方法。
14.医薬的に許容される緩衝液及び/または細胞支持媒体中に、上記13に記載の方法により作製された誘導された洞房体を含む組成物。
15.医薬的に許容される緩衝液及び/または細胞支持媒体中に、上記1に記載の方法により作製された誘導されたペースメーカ細胞を含む組成物。
16.医薬的に許容される緩衝液及び/または細胞支持媒体中に、上記1に記載の方法により作製された誘導されたプルキンエ細胞を含む組成物。
17.SHOX2>TBX5>HCN2の逐次的発現を可能にする発現構築物で形質転換され、従って前記再プログラミングされた細胞を形成する成体再生細胞から形成された、再プログラミングされた細胞の集団を含む組成物であって、前記再プログラミングされた細胞の集団が医薬的に許容可能な液体の賦形剤及び/または細胞支持媒体中にある前記組成物。
18.前記再プログラミングされた細胞の集団が、SHOX2>(TBX3及びTBX5及びTBX18)>HCNの逐次的発現により形成される、上記17に記載の組成物。
19.前記再プログラミングされた細胞の集団が、SHOX2>TBX3>TBX5>TBX18>HCNの逐次的発現により形成される、上記16に記載の組成物。
20.成体幹細胞を取得することと、
前記成体幹細胞においてSHOX2>TBX5>HCN2の逐次的発現を誘導して再プログラミングされた細胞を形成することと、
前記再プログラミングされた細胞を、心臓ペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞が形成されるまで増殖させることを含む方法。
21.前記心臓ペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞を、それらが結合して誘導される洞房体を形成するまで増殖させることを更に含む、上記20に記載の方法。
22.前記誘導された洞房体を患者の心臓に導入することを更に含む、上記21に記載の方法。
23.前記成体幹細胞が、自己脂肪組織由来の成体幹細胞である、上記22に記載の方法。
24.SHOX2>(TBX3>TBX5>TBX18)>HCN2の逐次的発現を誘導することを含む、上記20に記載の方法。
25.SHOX2>TBX3>TBX5>TBX18>HCN2の逐次的発現を誘導することを含む、上記20に記載の方法。
26.前記ペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞をサイズ選別によって分離することを更に含む、上記20に記載の方法。
27.20μm未満の細胞をプルキンエ細胞として選別し、また50μmを超える細胞をペースメーカ細胞として選別する、上記26に記載の方法。
28.前記分離されたプルキンエ細胞を頻脈性不整脈の治療のために患者に投与することを更に含む、上記27に記載の方法。
29.前記成体幹細胞は頻脈性不整脈を有する患者から得られ、また前記分離されたプルキンエ細胞は、前記頻脈性不整脈を治療するために十分な量で前記患者に投与される、上記27に記載の方法。
30.洞不全症候群の治療のために前記分離されたペースメーカ細胞を患者に投与することを更に含む、上記26に記載の方法。
31.前記成人幹細胞は洞不全症候群の患者から得られ、また前記分離されたペースメーカ細胞は、前記洞不全症候群を治療するために十分な量で前記患者に投与される、上記26に記載の方法。
32.不整脈を治療する方法であって、
不整脈の心臓を有する患者から成体幹細胞を取得することと、
前記成体幹細胞のプルキンエ細胞及びペースメーカ心筋細胞への分化系列決定(lineage commitment)を、逐次的なエピジェネティック再プログラミングにより誘導することと、
前記プルキンエ細胞もしくは前記ペースメーカ細胞、またはその両者を前記不整脈の心臓に導入することを含む前記方法。
33.前記ペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞が、それらのサイズに基づいて相互に分離される、上記32に記載の方法。
34.前記ペースメーカ細胞及びプルキンエ細胞の両方を一緒に使用して、前記患者の損傷した洞結節を再構成する、上記32に記載の方法。
【0111】
以下の参考文献は、全ての目的で、その全体が組み込まれる。
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【0128】
本明細書での全てのUniProt引用は、それにリンクされた配列を含めて、それらの全体を、全ての目的で本明細書に参照により組み込まれる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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