(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】単一モードまたはローモードファイバーレーザーを利用する超低量子欠陥ポンピング方式に基づく高出力希土類ドープ結晶増幅器
(51)【国際特許分類】
H01S 3/10 20060101AFI20220720BHJP
H01S 3/094 20060101ALI20220720BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20220720BHJP
H01S 3/098 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
H01S3/10 D
H01S3/094
H01S3/067
H01S3/098
(21)【出願番号】P 2019529591
(86)(22)【出願日】2017-12-01
(86)【国際出願番号】 US2017064297
(87)【国際公開番号】W WO2018102738
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-20
(32)【優先日】2016-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501012517
【氏名又は名称】アイピージー フォトニクス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アレックス・デルガチェフ
(72)【発明者】
【氏名】イゴール・サマルツェフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレンチン・ガポンツェフ
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0055844(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0138630(US,A1)
【文献】米国特許第8817827(US,B2)
【文献】特開2015-228499(JP,A)
【文献】特表2012-511260(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0069723(US,A1)
【文献】米国特許第09160136(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第105140773(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0044768(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L33/00-33/64
H01S 3/00- 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1030nmの波長λsまたはその近傍の単一モード(SM)シード出力パルス信号ビームと、
前記信号ビームを受け取るイッテルビウム(Yb)ドープ結晶
ブースターまたは
Ybドープ結晶セラミックブースターと、
を含む、主発振器出力増幅器(MOPA)構成と、
1000から1020nmの波長範囲内の波長λpの高輝度ポンプビームを
出力して前記Yb
ドープ結晶ブースター
またはYbドープ結晶セラミックブースターをエンドポンプする単一またはローモード連続波(CW)ファイバーレーザーと、を含み、
前記信号及びポンプビームが、
前記Ybドープ結晶ブースターまたは前記Ybドープ結晶セラミックブースターに入射する際に80から100%の範囲内で互いに重複して実質的に同軸的または同一直線上に伝搬し、前記波長λs及びλpが、超低量子欠陥を提供するように選択され、
複数の前記Ybドープ結晶
ブースターまたは複数の前記
Ybドープ結晶セラミックブースターが、前記信号ビームに対して透明であり、ポンプビームを反射する第1のフィルターと第2のフィルターとの間に配置
され、
複数の前記Ybドープ結晶ブースターまたは複数の前記Ybドープ結晶セラミックブースターが、それぞれ複数の前記Ybドープ結晶ブースターまたは複数の前記Ybドープ結晶セラミックブースターを含む互いに離隔された複数のカスケードを構成する、高出力単一モード(SM)レーザーシステム。
【請求項2】
前記超低量子欠陥が3%未満である、請求項1に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項3】
前記Yb
ドープ結晶ブースター
または前記Ybドープ結晶セラミックブースターがYb:YAG結晶またはY
2O
3セラミックを含み、平板または棒状に成形された、請求項1または2に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項4】
前記ポンプ光の前記波長λpが1006から1010nmの波長範囲内で変化し、1010nmの波長が好適であり、前記超低量子欠陥が2から2.5%の間である、請求項1または2に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項5】
前記SMまたはローモードCWファイバーレーザーポンプが、最大数kWのポンプ光を出力するように動作可能である、請求項1に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項6】
前記SMシードが、fs、psまたはnsパルス持続時間の範囲の一連の超短信号光パルスを出力するように動作可能である1つもしくは複数のレーザーダイオードまたはSMファイバーレーザーとして構成された、請求項1に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項7】
前記第1及び第2のフィルターがそれぞれダイクロイックミラーまたはボリュームブラッグ格子(VBG)である、請求項1に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項8】
前記Yb
ドープ結晶ブースター
または前記Ybドープ結晶セラミックブースターの出力における信号ビームが、
数百ワットから数kWまで変化する平均パルス出力と、
数百マイクロジュールから数ミリジュールの範囲のパルスごとのエネルギーと、を特徴とする、請求項1に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項9】
前記シードが、モードロックファイバーレーザーを含む、請求項1に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項10】
少なくとも1つの前段増幅ステージをさらに含む、請求項9に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項11】
前記シードが純粋パルスモードまたはバーストモードで動作する、請求項1に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項12】
前記ポンプビームが
前記Yb
ドープ結晶ブースター
または前記Ybドープ結晶セラミックブースターの対向する端部の一方または両方の端部に結合されるように、前記CW高輝度ファイバーレーザーが前記ポンプビームを出力する、請求項1に記載の高出力SMレーザーシステム。
【請求項13】
1030nmの波長またはその近傍のSM信号ビームを受け取るイッテルビウム(Yb)バルク増幅器と、
1000から1020nmの波長範囲の波長λpでYbバルク増幅器の対向するファセットの一方または両方のファセットに結合される高輝度ポンプビームを出力する、単一またはローモード連続波(CW)ファイバーレーザーと、を含み、
前記信号及びポンプビームが、
前記Ybバルク増幅器に入射する際に互いに80%超重複して伝搬し、波長λs及びλpが、3%未満の超低量子欠陥を提供するように選択され、
前記Ybバルク増幅器が、前記信号ビームに対して透明であり、ポンプビームを反射する第1のフィルターと第2のフィルターとの間に配置された複数のYbドープ結晶
ブースターまたは複数の
Ybドープ結晶セラミックブースターを
含み、
複数の前記Ybドープ結晶ブースターまたは複数の前記Ybドープ結晶セラミックブースターが、それぞれ複数の前記Ybドープ結晶ブースターまたは複数の前記Ybドープ結晶セラミックブースターを含む互いに離隔された複数のカスケードを構成する、ブースター。
【請求項14】
前記Ybバルク増幅器が、平板または棒状であるように構成され、前記超低量子欠陥が、2から2.5%の間である、請求項13に記載のブースター。
【請求項15】
前記Ybバルク増幅器が、Yb:YAGまたはYb
2O
3セラミックを含む、請求項13に記載のブースター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1030nmの波長またはその近傍で動作し、1000から1020nmの波長範囲で動作する単一横モード(SM)またはローモード(LM)ファイバーレーザーによってエンドポンプされた、高出力、高輝度の希土類ドープされたバルクイッテルビウム(Yb)増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
高効率超短パルスレーザーは、産業用途に制限なく使用されている。多数の種類の固体レーザーのうち、おそらくファイバーレーザーは、他と比べて高い効率、メンテナンスの必要性の低さ及び高い平均出力に起因して、次第に一般的になりつつある。残念ながら、ピーク出力レベルを高くすると、ファイバーレーザー、特にSMファイバーレーザーは、達成可能なピーク出力を制限し、大多数の用途では回折限界に近いことが必要とされるビームの品質に悪影響を及ぼす、望ましくない非線形効果の影響を受ける。ファイバーレーザー産業は、この限界を改善することについてたゆまぬ努力を続けている一方で、バルクレーザーの解決手段が、SMファイバーレーザーに対する、実行可能な代替手段として考えられている。
【0003】
固体レーザーのダイオードポンピングは、小型のパッケージング及び高度に効率的なレーザー性能などの多くの望ましい特性を提示することができ、そのため、固体レーザー開発の主要な方向性になっている。940から980nmの間の波長を有する高出力ダイオードレーザーの近年の発展は、ダイオードポンプされたYb3+ドープレーザー及び増幅器の発展において新たな関心を刺激してきた。2つの電子的マニフォルド、すなわち基底の2 F7/2状態及び励起された2 F5/2状態に基づく単純な電子的構造のために、Yb3+は、近赤外におけるダイオードポンプ方式に良好に適した有利な分光特性を有する。まず、イッテルビウムは、一般に長い保存寿命を有し、これはNdドープされた同等品よりもほぼ4倍長い。第2に、Yb3+イオンドープ材料は、ポンプダイオードの温度を精密に制御する必要性を排除する、幅広い吸収バンドを呈する。次に、単純な2つのマニフォルドの電子構造は、低い量子欠陥、励起状態吸収がないこと、及び非放射損失の最小化につながり、これらの因子全ては、熱負荷及び熱に伴う問題の低減につながる。Yb3+に追加的な4f準位がないことも、アップコンバージョンの効果を排除し、濃度クエンチを最小化し、そのため高くドープされたYb結晶でさえも、濃度クエンチなく利用可能である。YAGの良好な熱特性、物理特性、化学特性およびレーザーの特徴のために、最も注意が払われるのは、よく開発されたレーザー材料であるYbドープイットリウムアルミニウムガーネット(Yb:YAG)結晶である。高品質の高ドープYb:YAG結晶は、従来のチョクラルスキー(CZ)法を用いて成長可能である。
【0004】
しかし、Ybドープ媒体を含む結晶レーザー及び増幅器はまた、よく知られた限界も有する。特に、ダイオードポンプされた高出力固体レーザーシステムの出力増大に対する2つの基本的な限界は、
1.高出力ダイオードレーザー(DL)及びアセンブリの輝度が低いこと、及び
2.顕著な量子欠陥である。
【0005】
結晶増幅器の出力増大に対する基本的な限界の1つは、DLポンピングで例示される。知られているように、高出力(多ワット)LDは、明るい光を発生しない。しかし、高輝度ポンプ源が、あらゆるレーザーシステムの効率及び出力を増大するための鍵となる技術の1つであるが、特にYbドープ媒体(例えばYb:YAG)をポンプすることについて重要である。
【0006】
そのため、高輝度光源において、低い量子欠陥を有するレーザー結晶増幅器をポンピングする必要性が存在する。
【0007】
増幅器の光-光効率全体の量は、ポンプ効率ηPと抽出効率ηexの積であり、ηPはEacc/EPで定義され、EPはポンプエネルギーであり、Eaccは抽出に利用可能な蓄積されたエネルギーの部分である。Yb媒体の準3準位の性質に起因して、蓄積したエネルギーの全てが利用可能なわけではない。ポンプ効率は、ポンピングに関連する損失の和によって、またはこれらの損失に関連して効率ηiの積によって決定される。この他に、前述のように結晶増幅器の高ピーク出力の増大に重要な量子欠陥を含むいくつかの損失メカニズムが存在する。
【0008】
量子欠陥は、レージング(抽出)光子とポンプ光子との間のエネルギーの違いの結果である。関連する効率は、ηQD=λP/λLで与えられ、λP及びλLはそれぞれ、ポンプ波長及び抽出(信号)波長である。Ybドープ材料の1つの利点は、その量子欠陥が小さいことであり、その欠点は、準3準位の性質である。ηQDを最大化するために、λPとλLとの間の差は最小にされるべきである。例としてYb:YAGレーザー媒体を考える場合、抽出波長は、典型的には1030nm(λL)の増幅ピークに設定される。ポンプ波長を選択するための標準的な手法は、940または969nmの2つの最も強い吸収ピークのうちの一方を選択することである。これにより、高出力ポンプレーザーダイオードの輝度の制限の問題を緩和できるように、発振器または増幅器で使用されるYbドープレーザー結晶の長さを最小化することができるようになる。940nmまたは969nmのポンプ波長λPの使用は、ηQD=91~94%に対応する。まとめると、より小さな量子欠陥が、増幅器の光学効率を増大させるのに有益であるが、イッテルビウムのような準3準位レーザーシステムでは、より小さな量子欠陥は、達成可能な反転準位を制限する。この制限は、適切なレーザー増幅器または発振器の設計で解決可能である。
【0009】
したがって、1)可能な限り回折限界に近い高輝度、すなわちSMレーザー、及び2)量子欠陥を最小化し、結晶増幅器の達成可能な光学効率を増大するためにレーザー媒体の発光ピークに近いポンプ波長、を有するポンプ源の必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願に開示される手法は、前述の必要性を十分に充足する。開示された固体レーザーシステムは、光学経路にそって伝搬するパルス信号光を出力するシード源として動作する、SMファイバーレーザーを含む。結晶増幅器は、所望の抽出波長でパルス信号光を受け取り、増幅された信号光を、fs、psまたはns幅の範囲の超短パルスの形態で出力する。増幅された信号光のピーク出力は、増幅器にエネルギーを付与するポンプアセンブリーの関数であり、数十から数千kWのレベルに到達しうる。
【0011】
本開示の1つの態様によれば、ポンプアセンブリーは、高輝度の回折制限された(SM)ポンプ光を連続波(CW)方式で出力する1つまたは複数のファイバーレーザー源を含む。ビーム品質の1つの測定値は、ビーム発散の立体角によって分割された単位面積当たりの出力、すなわちステラジアン当たりかつ1平方センチメートル当たりのワットである輝度Bである。輝度は、出力Pをπ2とビームパラメータ積Qの2乗とで割ることによって与えられる。
【0012】
【0013】
したがって、開示されたSMファイバーポンプでは、希土類ドープ結晶増幅器、すなわち低輝度ポンプ源の出力増大の主要な制限は、実質的に最小化された。
【0014】
結晶増幅器の出力増大を制限する他の課題は、ポンピング構成の効率に関する。例えば、1μmのレーザーシステムでは、940から980nmのポンプ波長範囲及び1030nmの信号(抽出)波長が、大きな量子欠陥を与えるのにスペクトル的に十分離れており、この大きな量子欠陥は、ダイオードポンプ手法の効率を根本的に制限する。
【0015】
この制限は、本開示の第2の態様によって対処された。すなわち、開示されたSM Ybファイバーレーザーポンプ構成は、ポンプ光を、3%未満、好適には2.0から2.5%の範囲内の超低量子欠陥をもたらす1000から1010nmの波長範囲内であるように出力するように構成される。開示された量子欠陥は、LDポンプされたYb:YAGで知られる6から9%の典型的な量子欠陥よりも実質的に少ない。信号光とポンプ光との間の波長の差が小さいことは、超低量子欠陥ポンピング方式と呼ばれる。
【0016】
超低量子欠陥ポンピングの利点により、アクティブレーザー媒体の熱負荷をきわめて低くすることが可能になり、最大70から80%の、より高い抽出効率を容易に達成でき、これらは結晶増幅器の大きな出力増大に不可欠である。
【0017】
本開示の前述の構造的態様は、添付する図面とともに、以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】YbドープYAGの棒材または平板の発光断面積である。
【
図3】超低量子欠陥ポンピングを有する開示された構造の光学的概略図である。
【
図4】
図4A及び4Bはそれぞれ、1010nmにおいて、吸収ポンプ出力に対してプロットされた出力パワー及び増幅特性である。
【
図5】
図5A及び5Bはそれぞれ、1006nmにおいて、吸収ポンプ出力に対してプロットされた出力/パワー及び増幅特性である。
【
図7】ドーパント濃度または結晶長さに対してプロットされた開示されたバルク増幅器の出力である。
図8は異なる寸法の開示されたバルク増幅器の出力の合計ポンプ出力からの依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1及び2は、Ybイオンドープ増幅媒体の吸収及び発光断面積を示している。典型的には、ポンプ波長は、幅広く利用される高出力レーザーダイオードから得られうる、940~980nmの範囲内で選択される。抽出波長は、1030nm±5nm未満の増幅ピークまたはその近傍に設定される。対称的に、本開示は、SM高輝度ファイバーレーザーを利用する、1000~1020nm及び有利には1006~1010nmの波長範囲に特に関心のある1μm波長範囲のポンピングの、別の、従来とは異なる手法を開示する。
【0020】
図3は、本開示を示し、高出力増幅器もしくはブースターなどの単独の増幅システム、またはより大きく、より複雑な増幅システムの一部として動作可能な、例示的なレーザーシステム10を示す。主発振器出力増幅器(Master Oscillator Power Amprifier,MOPA)アーキテクチャを有するか、または単独のブースター増幅器であるように構成されると、レーザーシステム10は、多くの産業用途において特に関心のある、1030nmの波長において、fs、psまたはnsパルス持続時間の範囲の信号光の超短パルスを出力するように動作可能である。所望のパルス持続時間は、所望の信号光波長及びパルス反復率で、信号光を出力するように動作可能なシード12によって提供される。シード12は、好適には純粋なパルスまたはバースト形態で動作するパルスSMファイバーレーザーである。ファイバーレーザー/発振器はモードロックされうる。シード12の構成はまた、ファイバー発振器に加えて、1つまたは複数の前段増幅ステージを含みうる。ファイバー発振器を有さない高出力ダイオードレーザーに使用が考えられるが、ダイオードレーザーの輝度がファイバー発振器の輝度とは比較にならないため、効率がより低い。線幅はパルス持続時間に依存するが、好適には4~7nmの範囲で変化する。
【0021】
出力信号光が光経路にわたって伝搬すると、信号光を棒状及び薄い平板を含む様々な幾何学的形状及び寸法を有しうるYb:YAG結晶16の内部に集束する光学系L1 14に入射する。これは、小さな幅、例えば2mmの幅及び例えば6cmに達する比較的大きな長さを有する平板形状の本体でありうる。Yb:YAG結晶の他に、特に前述の平板構成が使用される場合には、Yb2O3などのYb酸化物セラミックスの使用が、非常に高いドーパント(Yb)濃度の可能性のために、非常に有益でありうる。
【0022】
Ybブースターは、SM信号光をkW~MWのピーク出力レベル及び、パルスごとに数百マイクロジュールから数ミリジュールの範囲のエネルギーに増幅するように動作可能である。回折限界ビームでのそのような高ピーク出力は、信号ビームと同じ方向または反対方向に伝搬しつつ、Yb結晶ブースターの対向するファセットの1つに結合されるポンプビームを出力するポンプ構成(ポンプ)18の結果である。その対向する端部においてYbブースターをポンプする構成も可能である。伝搬方向に関係なく、信号及びポンプビームは、80%から、特定の条件では100%の間で変化する範囲で互いに重複して同一直線状を伝搬し、90%を超える重複が明らかに有利である。
【0023】
ポンプ18は、この場合にはYbイオンでドープされたファイバーレーザーを有して構成され、1000~1020nmの波長範囲の高輝度ポンプ光を出力するようにCW方式で動作する。ポンプ光のM2は、1から10まで変化し、1と2との間の範囲が好適である。したがって、ポンプ18は、フィルターまたは波長識別器F1に入射する前に、集束光学系L2及びL3 20を通ってポンプ高輝度光ビームを出力する単一モードまたはローモードCWファイバーレーザーとして構成されうる。
【0024】
フィルターF1は、図示されるようにダイクロイックミラーとして、またはボリュームブラッグ格子(VBG)22として構成され、後者は特に、信号及びポンプビームがそれぞれ互いに非常に近接した波長λs及びλpで伝搬する場合には実用的である。特定の構成及びビーム伝搬方向とは無関係に、信号光及びポンプビームの両方が前述するように同一直線上を伝搬し、同軸上に伝搬することもあるように、フィルター22は、信号光に対して透明であり、ポンプ光を反射する。実際には、信号及びポンプビームは、開示されたシステムの性能全体に悪影響を及ぼさない1°未満の非常に小さな角度で互いから発散しうる。重複したビームは、ポンプ18を有する増幅器及び端部ポンピング構成である増幅器16のファセットの一方に同時に入射する。増幅器16は、それぞれ増幅カスケード16及び26または
図6に示されるように、単一カスケード16を画定する複数の結晶またはセラミック部を含みうる。複数カスケード増幅構成が用いられる場合、別の集束レンズL
4 24が、下流側結晶増幅カスケード26の内部にビームを集束するように設置される。
【0025】
図4A~4Bは、1010nmポンプ出力に対する結晶増幅器の出力及び増幅をそれぞれ示している。グラフは、0.1MHz(青い点)のより低いパルス反復率(Pulse Repetition Rate,prr)及び1MHz(赤い点)のより高いprrにおいて得られている。シード平均出力は、結晶増幅器からの達成可能な増幅及び出力に影響を与えることが分かる。
図4C~4Dは1006nmのポンプにおいて同じ傾向を示している。
【0026】
図5A、5Bは、1MHzのprrにおいてそれぞれ1010及び1006nmの波長のポンプ光における開示されたシステムの出力での増幅スペクトルを示している。図に示されるように、青い曲線は、1010nmのポンプ波長について183.5W、及び多くの実験セットアップの1つにおいて1006nmのポンプ波長について93.5である最大ポンプ出力に対応する。
【0027】
図6は、システム10の改良を示している。ここでは、それぞれが一対の結晶を有する2つの増幅カスケードの代わりに、単一の結晶30を有する1つの増幅カスケードが使用される。一般に、結晶の長さ及びドーパント濃度は、それぞれ幅広い範囲から選択されうる。最適化の目的のために、結晶の長さを増大するとドーパント濃度を低下させる必要があり、またその逆も同様である。一般に、濃度の範囲は、通常約20%で制限される任意の合理的な割合を含んでもよく、一方結晶の長さは、数十センチメートル程度の長さでありえ、結晶長さが1センチメートル未満で最良の結果が得られうる。図示された構成要素の残りは、
図3において使用されたものと同一のままである。
図3の実施形態と同様に、それぞれ1030及び1010nmの波長の信号光及びポンプ光ビームは、ダイクロイックミラーまたはVBGのいずれかでありうるフィルター22から下流に光経路に沿って同軸上を伝搬する。
【0028】
図3及び6の両方の方式での広範囲な実験は、増幅された信号光が、1010nmのポンプ波長よりも1006nmのポンプ波長における方がより出力が大きく、これは、その他すべての条件が同じであるような状況では、反転がより短いポンプ波長でより高くなるため、よく理解される。これらの条件は、シード出力、吸収ポンプ出力及びシード/ポンプビームの大きさを含む。
図3のYb:YAG16の測定された吸収係数は、1010nmポンプ波長よりも1006nmポンプ波長において約1.5倍高い。重要なことに、悪影響を及ぼすレンズ効果は、1006及び1010nmのポンプ波長の両方について最小であり、これは開示されたポンプ波長の両方において量子効果が小さいことによって容易に説明できる。ビームの大きさは、本質的には同じ、3%未満の変動のままであり、シード出力は2Wから7Wの範囲であり、及び/またはポンプ出力は93Wと180Wとの間の範囲である。よく理解できるように、ポンプ出力は、制限なくkWレベルに到達しうる。パルスエネルギーは、機能ポンプ出力であり、数百マイクロジュールから数ミリジュールまで幅広い範囲のエネルギー内で変動する。
図6に概略図が示されている。対称的に、熱レンズ効果は、
図6の969nmポンプ波長でそれ自体を明白に示している。ビームの大きさは約21%変化し、ポンプ出力は低いprr及び高いprrの両方で0から97.5Wまで増大する。
【0029】
観察されたデータに基づいて、出力を含む
図3及び6の開示されたシステム10の特性を改善する方法は明らかである。1つの有用な改良は、結晶の長さを増加させることを含む。結果の改善につながるさらに別の改良は、ドーパント濃度の増加である。前述の傾向の両方は
図7に示されている。
図8は、ファイバーレーザーポンプの出力における全ポンプ出力が増大するにつれて、出力システムのパワーが増加することを示している。赤色の曲線は青色の曲線におけるものよりも大きな結晶の長さに対応している。
【0030】
さらに、SMまたはローモードファイバーポンプの出力及び輝度を増大することにより、増幅器結晶内の増幅領域の比較的小さな断面(断面積)を可能にし、すなわちIsatより十分高い出力密度での動作を可能にする。1μmの波長及び0.2mm以上のビーム直径のガウシアンビームについて、結晶の長さが20から80mmに変化すると、発散は重要ではなくなる。高輝度回折限界高出力ビームを有するポンピングが、Yb増幅器の効率の改善に重要であることは明らかである。
【0031】
Ybイオンについてホスト媒体はYAGに限定されず、多数の様々な結晶を含みうることが理解される。ホスト結晶の非限定的なリストは、ガーネット(LuAG、GGGなど)、タングステン酸塩(例えばKGW、KYW、KLuW)、バナジウム酸塩(YVO4、YGdO4)、フッ化物(YLF、LuLiF、CaF2など)、ホウ酸塩(BOYS、GdCOB)、リン灰石(SYS)、三二酸化物(Y2O3、Sc2O3)及びその他の物を含みうる。さらに、その他の希土類イオン及び各結晶が、高出力SMファイバーポンプ及び低量子欠陥によって特徴づけられる共振ポンピングで使用されうる。
【0032】
前述の説明および例は、バルク増幅器にエネルギーを付与するために、信号光ビームとともに同軸的に伝搬するポンプビームを出力するSM高出力高輝度CWポンプレーザーを用いる本開示の主要な概念を示すためだけに記述されたものである。本明細書で開示された構造的な仕様は、限定を意図されるものではない。したがって、開示は、開示された概念の範囲内の全ての変形例を含むものと幅広く解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0033】
10 レーザーシステム
12 シード
14 光学系L1
16 Yb:YAG結晶
18 ポンプ
20 集束光学系L2及びL3
22 ボリュームブラッグ格子(VBG)
24 集束レンズL4
26 増幅カスケード
30 結晶