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特許7107943様々なサイズのアーチワイヤスロットを有する歯列矯正システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】様々なサイズのアーチワイヤスロットを有する歯列矯正システム
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/14 20060101AFI20220720BHJP
   A61C 7/20 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
A61C7/14
A61C7/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019536191
(86)(22)【出願日】2018-01-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 US2018012085
(87)【国際公開番号】W WO2018128987
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】15/601,646
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/441,839
(32)【優先日】2017-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508328833
【氏名又は名称】ワールド クラス テクノロジー コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ピッツ
(72)【発明者】
【氏名】アルバート ルイズ-ヴェラ
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0244774(US,A1)
【文献】米国特許第05139419(US,A)
【文献】米国特許第02908974(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/12 - 7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正方形のアーチワイヤを受けるための第1のアーチワイヤスロットを備える第1のデンタルブラケットであって、前記第1のアーチワイヤスロットは、前記第1のデンタルブラケットの上面から第1のフロアまで下方に延び、前記第1のアーチワイヤスロットは、唇-舌方向において上面から第1のフロアまで測定された第1の深さと、咬合-歯肉方向に交差して延びる第1の幅とを有し、前記第1のアーチワイヤスロットは、前記正方形のアーチワイヤの対応する唇-舌寸法の102%~110%の範囲の第1の唇-舌寸法を有し、前記第1のアーチワイヤスロットを覆って延びる第1の結紮構造をさらに備える第1のデンタルブラケットと、
前記正方形のアーチワイヤを受けるための、前記第1のアーチワイヤスロットとは異なるサイズを有する第2のアーチワイヤスロットを備える第2のデンタルブラケットであって、前記第2のアーチワイヤスロットは、前記第2のデンタルブラケットの上面から第2のフロアまで下方に延び、前記第2のアーチワイヤスロットは、唇-舌方向で上面から第2フロアまで測定された第2の深さと、咬合-歯肉方向に交差して延びる第2の幅とを有し、前記第2のアーチワイヤスロットは、前記正方形のアーチワイヤの対応する唇-舌寸法の110%~125%の範囲の第2の唇-舌寸法を有し、前記第2のアーチワイヤスロットを覆って延びる第2の結紮構造をさらに備える第2のデンタルブラケットと、
前記正方形のアーチワイヤを受けるための、前記第1のアーチワイヤスロットとは異なるサイズを有し、かつ、前記第2のアーチワイヤスロットとは異なるサイズを有する、第3のアーチワイヤスロットを備える第3のデンタルブラケットであって、前記第3のアーチワイヤスロットは、前記第3のデンタルブラケットの上面から第3のフロアまで下方に延び、前記第3のアーチワイヤスロットは、唇-舌方向で上面から第3のフロアまで測定した第3の深さと、咬合-歯肉方向に交差して延びる第3の幅とを有し、前記第3のアーチワイヤスロットは、前記正方形のアーチワイヤの対応する唇-舌寸法の120%~140%の範囲の第3の唇-舌寸法を有し、前記第3のアーチワイヤスロットを覆って延びる第3の結紮構造をさらに備える第3のデンタルブラケットと、
前記第1のアーチワイヤスロット、前記第2のアーチワイヤスロット、および前記第3のアーチワイヤスロットを通って延びるための前記正方形のアーチワイヤと、
を備える装置。
【請求項2】
前記第1のアーチワイヤスロットが、前記第2のアーチワイヤスロットとは異なる断面形状を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1のアーチワイヤスロット、前記第2のアーチワイヤスロット、および前記第3のアーチワイヤスロットのそれぞれが、前記正方形のアーチワイヤを密に封入するような大きさの正方形の形状を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1のデンタルブラケットが前歯に固定可能であり、そして前記第2のデンタルブラケットが臼歯に固定可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1、第2、および第3のアーチワイヤスロットのそれぞれの前記第1の唇-舌寸法、前記第2の唇-舌寸法、および前記第3の唇-舌寸法が、歯の正中線に対してアーチの遠位方向に増加する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第1のアーチワイヤスロットと前記第2のアーチワイヤスロットと前記第3のアーチワイヤスロットとの咬合-歯肉方向寸法が同じである、請求項に記載の置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2017年1月3日に出願された米国仮特許出願第62/441,839号および2017年5月22日に出願された米国特許出願第15/601,646号に関連し、かつ、その優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
本開示は、歯列矯正器具に関し、より詳細には患者の歯の位置ずれを矯正するために使用される歯列矯正器具に関する。このような装具は、一般的にブレース(歯列矯正器)と呼ばれ、歯の噛み合わせに関して歯の位置を合わせたり、患者の口の見栄えを良くするために、歯を揃えたり真っ直ぐにしたりするために使用される。このような器具は、アンダーバイト、オーバーバイト、不正咬合、および歯の他の様々な位置合わせ不良を矯正するために使用され得る。
【0003】
ブレースは通常、患者の歯の上に組み立てられる3種類の構造を含む。まず、治療を受ける各歯に、スロットを有するブラケットを取り付ける。取り付けは通常、何らかの形の接着剤を使用して行われる。次に、アーチワイヤを、適用可能な上下の歯列の隣接するブラケットのスロットに挿入して締め付ける。アーチワイヤは、何らかの形態の結紮構造によってそれぞれのスロット内の適所に保持される。歴史的にこれらの結紮構造は弾性バンドであったが、より最近の代替案は、ブラケット内のスロットを交互に開いてアーチワイヤを挿入し、スロットを閉じてアーチワイヤをスロット内の所定の位置に保持するスライドドアまたはヒンジ付きドアを使用するブラケットの自己結紮構造を採用する。このアセンブリが所定の位置に配置されると、アーチワイヤの張力によって、時間の経過とともに、患者の歯が希望の位置に揃えられる。
【発明の概要】
【0004】
ブレースを使用した患者の歯の治療では、進行を監視し、治療の進行に合わせてブレースを調整するために何度か診察を繰り返す必要がある。治療の長さ、および繰り返しの調整は、しばしば患者にとって煩わしいものである。したがって、患者の歯をより効率的に整列させることによって治療の長さを短縮する、ブレースを用いて患者を治療するための改善されたシステムが望まれる。
【0005】
本開示は、概して、患者の口内の歯の位置ずれを矯正するための改良されたシステムに関する。本開示の第1の態様は、第1のデンタルブラケット、第2のデンタルブラケット、およびアーチワイヤを有する構成を備え得る。第1のデンタルブラケットは、アーチワイヤを受ける(受容する)ための第1のアーチワイヤスロットを有する。第2のデンタルブラケットは、アーチワイヤを受けるための第2のアーチワイヤスロットを有し、第2のアーチワイヤスロットは、第1のアーチワイヤスロットとは異なるサイズを有する。アーチワイヤは、第1のアーチワイヤスロットと第2のアーチワイヤスロットの両方を通して配置される。
【0006】
前述の装置のいくつかの好ましい実施形態では、第1のアーチワイヤスロットは、好ましくは、第1のアーチワイヤスロットとは異なる断面形状を有する。いくつかのそのような実施形態では、第1のアーチワイヤスロットは、正方形のアーチワイヤを密に封入するような大きさの正方形の形状を有することができる。いくつかのそのような実施形態では、第2のアーチワイヤスロットは、第1のデンタルブラケットの正方形アーチワイヤスロットよりもアーチワイヤに「遊び」を多くするようにサイズ設定された長方形の形状を有することができる。
【0007】
前述の装置のいくつかの好ましい実施形態では、第1のデンタルブラケットは前歯に固定され、第2のデンタルブラケットは臼歯に固定される。
【0008】
前述の装置のいくつかの好ましい実施形態は、第1のデンタルブラケットと第2のデンタルブラケットとの間に第3のデンタルブラケットを備えることとしてもよく、第3のデンタルブラケットは、第1のアーチワイヤスロットのサイズとは異なるサイズを有し、かつ、第2のアーチワイヤスロットのサイズとは異なるサイズを有する第3のアーチワイヤスロットを備える。いくつかのそのような実施形態では、第1、第2、および第3のアーチワイヤスロットの互いに対するそれぞれの断面積が、歯の正中線に対してアーチの遠位方向に増加する。
【0009】
前述の構成のいくつかの好ましい実施形態では、第1のアーチワイヤスロットおよび第2のアーチワイヤスロットの咬合-歯肉方向寸法は同じである。
【0010】
本開示の第2の態様は、第1の歯科用ブラケットを第1の歯に固定することができ、第1の歯科用ブラケットが第1のアーチワイヤスロットを有する方法である。第2のデンタルブラケットは、第2の歯に取り付けられてもよく、第2のデンタルブラケットは第2のアーチワイヤスロットを有する。第1のデンタル用ブラケットは、第1のアーチワイヤスロットと第2のアーチワイヤスロットの両方に配置されたアーチワイヤを使用して第2のデンタルブラケットに接続し、アーチワイヤは、第1のアーチワイヤスロットよりも第2のアーチワイヤスロット内でより多くの移動自由度を有する。
【0011】
前述の方法のいくつかの好ましい実施形態では、アーチワイヤは円形断面を有する。
【0012】
前述の方法のいくつかの好ましい実施形態では、第1のアーチワイヤスロットは正方形の断面を有し、第2のアーチワイヤスロットは長方形の断面を有する。
【0013】
前述の方法のいくつかの好ましい実施形態は、円形断面の第1のアーチワイヤを正方形断面の第2のアーチワイヤと交換するステップを含み得る。
【0014】
前述の方法のいくつかの好ましい実施形態では、第2のアーチワイヤは、第1のアーチワイヤスロットによって密に封入(カプセル化)されるが、第2のアーチワイヤスロットによって密に封入されないようにサイズ決めされる。
【0015】
前述の方法のいくつかの好ましい実施形態では、第1のデンタルブラケットは前歯に固定され、第2のデンタルブラケットは臼歯に固定される。
【0016】
前述の方法のいくつかの好ましい実施形態では、第1のアーチワイヤスロットと第2のアーチワイヤスロットの咬合-歯肉方向寸法は同じである。
【0017】
本発明をよりよく理解するために、また本発明をどのように実施することができるかを示すために、ここで、例として添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、アーチワイヤを使用して歯用器具を取り付けた歯列を示す。
図2図2は、図1の歯科用器具の断面図を示す。
図3図3A図3Cは、図1の歯科用装具に異なる形状のアーチワイヤを漸進的に適用して患者の歯を所望の位置に向かって徐々に移動させる治療プログラムの時間的進行を示す。
図4図4Aは、本明細書に開示されている新規な歯科矯正システムを使用している図1の線A-Aに沿った断面図である。図4Bは、本明細書に開示の新規な歯列矯正システムを用いた図1の線B-Bに沿った断面図を示す。
図5図5A図5Cは、図3A図3Cのシステムに対する、図4A図4Bの歯列矯正システムにおける促進的なトルク制御を示す。
図6図6A図6Bは、図3A図3Cのシステムに対する、図4A図4Bの歯列矯正システムにおける促進的な傾斜制御を示す。
図7図7A図7Cは、図3A図3Cのシステムに対する図4A図4Bの歯列矯正システムにおける促進的な回転制御を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
予備的に、以下の用語は、それぞれ、それらに続く意味と一致し、そのことが当業者により理解されるべきである。これらの意味は、当業者であれば明細書の理解を容易にするためにも提供される。
【0020】
前方:頭の正面、または唇の方向。「後方」の反対。
【0021】
前歯:1本の犬歯からもう1本の犬歯までにわたる、下顎または上顎のいずれかの歯。
【0022】
頬方向:頬に向かう方向。通常は臼歯に関連して使用される。「舌方向」の反対。
【0023】
頬-舌側方向:患者の頬と患者の舌の間に広がる特定の臼歯を通る方向またはそれに沿った方向。
【0024】
遠位方向:歯の正中線から離れた特定の歯の側面の方向。近位方向の反対。
【0025】
歯列弓:下顎または上顎のいずれかにある歯の列。
【0026】
歯の正中線:患者の口を2つの半分に分割し、患者の2つの中央前歯を通って口の後ろ側に伸びる想像線。
【0027】
歯肉方向:特定の歯の下の歯茎に向かう方向。
【0028】
切歯方向:特定の前歯の咬合面に向かう方向。
【0029】
切歯-歯肉方向:咬合面からその歯の下の歯茎まで伸びている特定の前歯を通る、またはそれに沿った方向。
【0030】
唇方向:唇に向かう方向。通常は前歯に関連して使用される。舌方向の反対。
【0031】
唇-舌方向:患者の唇から患者の舌までの間に広がる特定の前歯を通る、またはそれに沿った方向。
【0032】
下顎(Mandibular):下顎(lower jaw)に関連する。
【0033】
上顎(Maxillary):上顎(upper jaw)に関連する。
【0034】
近位:歯の正中線に向かう特定の歯の側面の方向。遠位の反対。
【0035】
近位-遠位方向:歯の近位側から歯の遠位側へ延びる特定の歯を通る方向。歯に対する近位-遠位方向は、本質的に、関連する上または下の歯列を通る曲線に沿っている。
【0036】
咬合方向:特定の臼歯の咬合面に向かう方向。
【0037】
咬合-歯肉方向:咬合面からその歯の下の歯茎まで伸びる任意の特定の臼歯を通る、またはそれに沿った方向。
【0038】
後方:頭の後ろに向かう方向。前部の反対。
【0039】
臼歯:犬歯の後方の下顎または上顎のいずれかの歯。
【0040】
回転-切歯:歯肉方向に方向づけられた垂直軸周りの、治療の過程における歯の角度回転。
【0041】
傾斜(Tip):頬-舌方向に方向づけられた水平軸周りの、治療の過程における歯の角度回転。
【0042】
トルク:近位-遠位方向に方向づけられた水平軸周りの、治療の過程における歯の角度回転。
【0043】
図1および図2を参照すると、ブレースを含む治療システム1は、アーチワイヤスロット6のような適切な手段、およびアーチワイヤスロット6のためのカバー5のような結紮構造を通る、アーチワイヤ4によって、互いに接続された複数のブラケット2を使用して患者の歯列3に適用することができる。前述したように、ブレースを使用する患者の治療は、典型的には、アーチワイヤ4の繰り返し調整を必要とし、その結果、経時的に、ブラケット2を介して歯3に加えられるアーチワイヤ4の張力は、歯3を所望の最終位置に移動させる。
【0044】
図3A~3Cは、一般的な従来技術の調整手順を示す。図3Aを参照すると、歯列弓に沿って各患者の歯3に接着されたそれぞれのブラケット2のアーチワイヤスロット6は、結紮構造5によって一端が閉じられた細長い長方形の開口として形成されてもよい。結紮構造5は、アーチワイヤスロット上のスライド式またはヒンジ式ドアであってもよく、あるいは弾性バンド、または他の任意の適切な構造であってもよい。一組のブレースが患者の各歯に最初に適用されるとき、円形断面のアーチワイヤ4が使用されてもよい。通常、円形アーチワイヤ4は比較的可撓性のあるニッケル-チタン材料で作られているので、矩形スロット6にはめ込まれた円形断面アーチワイヤと組み合わせると、アーチワイヤ4は比較的小さい力を患者の歯3に加え、ブラケット2は、歯3がより整列した状態に向かって動くにつれて、互いに対して動く重要な「遊び」を有する。さらに、円形アーチワイヤ4が使用されるとき、アーチワイヤ4をねじることはブラケット2にいかなる回転力も加えないので、歯3のトルク制御はない。
【0045】
最終的に、図3Bに示される別の治療段階において、円形断面のアーチワイヤは、アーチワイヤスロットよりも小さい長方形の正方形断面のアーチワイヤによって置き換えられ、これはニッケルチタンでも作ることができるが、場合によっては、それが置き換えるニッケルチタン円形アーチワイヤよりも硬いベータチタン合金で作られる。この第2段階の治療は、アーチワイヤ4およびブラケット2を介して歯3に加えられる力および制御を増強し、ブラケット2は、第1段階の治療に存在した場合よりもアーチワイヤ4に対する「遊び」が少ない。
【0046】
最後に、図3Cに示す治療の第3の最終段階では、小さな長方形の断面のアーチワイヤをより大きな長方形の断面のアーチワイヤに交換され、それは、典型的には、交換されるニッケル-チタニウムの正方形のアーチワイヤより堅いステンレス鋼から製造されている。この第3段階の治療は、アーチワイヤ4およびブラケット2を介して歯3に加えられる力および制御を再び強化し、アーチワイヤ4の材料およびアーチワイヤ4の断面がアーチワイヤスロット6内にぴったりと収まるように形作られているという事実を考慮すると、ブラケット2は、第1および第2の治療段階に存在するよりも互いにほとんど「遊び」がない。
【0047】
本発明者らは、治療中に全ての歯が同時に同じ量の「遊び」を受ける必要がないという認識に基づいて、図3A図3Cに示すものよりもより効率的な治療システムを適用できることを発見した。具体的には、本発明者らは、ブレースを用いた歯科治療の主な目的の1つは、所望の美的外観を達成するための前歯の正確な位置決めであり、臼歯の位置決めはそれほど正確である必要はないことを認識した。したがって、改良されたシステムは、好ましくは、下顎または上顎のいずれかの歯列弓に沿って配置するために一組のブラケット2を使用し、ここで、アーチワイヤスロットの断面は、歯の正中線から、すなわち前方ブラケットから後方ブラケットへとアーチの遠位方向に変化する。このシステムは、現行のシステムと比較して以下の利点をもたらす。
・歯列弓の前部分(anterior segment)の歯の制御が向上したため、治療の質が向上した。
・治療中の歯の動きの早期制御、現在のシステムと比較した場合の治療時間の短縮をもたらし、同時に歯が所望の位置に効率的に動くことができるように適切な運動の自由度を提供する。
・アーチワイヤの寸法を適切に設定することで、力が小さく効率的なため患者の体感が向上します。
【0048】
改良されたシステムでは、それぞれのブラケットのアーチワイヤスロットは、治療の最終段階で挿入されるアーチワイヤのサイズの両方に比例してサイズ決めされ、アーチワイヤスロットを形成するブラケットが歯列弓の近位-遠位方向に沿って固定される歯の位置も同様である。例えば、図4Aは、治療の最終段階で使用されるアーチワイヤ110の周囲にぴったりと収まるように寸法決めされた正方形アーチワイヤスロット105を有する改良されたデンタルブラケット100を示す。アーチワイヤスロット100を有するデンタルブラケットは、図1の線A?Aに沿って配置された前歯120に取り付けられるのが好ましい。好ましくは、下顎歯列弓および上顎歯列弓の両方の中心歯、側方歯および犬歯に使用されるブラケットは、正方形のアーチワイヤスロット105を有する。これらの前方ブラケット100の正方形のアーチワイヤスロット105は、これらの前方の歯120を最も正確に位置決めするのに役立つ。
【0049】
図4Bは、逆に、治療の最終段階で使用されるアーチワイヤ110の周りに緩く嵌合するように寸法決めされた長方形アーチワイヤスロット115を有する歯科用ブラケット102を示す。アーチワイヤスロット115を有するデンタルブラケット102は、図1の線B-Bに沿って配置された前歯150に取り付けられるのが好ましい。好ましくは、長方形の断面のアーチワイヤスロット115を有するブラケット102が、小臼歯および大臼歯に使用される。好ましくは、いくつかの実施形態では、歯120と歯150との間の歯に連続して配置されたブラケット102のアーチワイヤスロット115のサイズは、図4Aに示すサイズおよび形状から図4Bに示すサイズおよび形状まで何らかの所定の方法で変化する。このようにして、全ての治療段階の間、前歯は臼歯よりも移動の自由度が少ないが、同時に歯列弓の歯は全体として十分な移動自由度を有する。
【0050】
当業者は、図4Aおよび図4Bに示される改善されたシステムにおいて、
アーチワイヤの断面は、治療の開始時の円形から、その後、治療の過程にわたって様々な円形および正方形の断面を通ってこれら2つの図に示されるような正方形の断面を有する最終アーチワイヤに進むことができる。最終的な正方形の断面アーチワイヤは、患者に優しく、歯の移動に効果的な力を生み出す。さらに、最終的なアーチワイヤの正方形断面は歯の位置の優れた制御を提供する。
【0051】
当業者はまた、開示されたシステムおよび方法の他の実施形態が、先ほど説明されたもの以外の他の断面形状を使用してもよいことを理解するであろう。例えば、いくつかの実施形態では、デンタルブラケット100は、長方形の断面であるが、デンタルブラケット102のそれよりも小さいアーチワイヤスロットを有することができる。同様に、いくつかの実施形態では、デンタルブラケット102は、デンタルブラケット100のそれよりも大きい正方形の断面のアーチワイヤスロットを有することができる。
【0052】
好ましい一実施形態では、このシステムの最終アーチワイヤは、唇-舌方向寸法が0.020インチ、咬合-歯肉方向寸法が0.020インチ、すなわち、0.020インチ×0.020インチのアーチワイヤを有する。他の実施形態では、最終アーチワイヤの唇-舌方向および咬合-歯肉方向寸法は、0.017インチ×0.017インチ平方から0.021インチ×0.021インチ平方の範囲であり得る。
【0053】
アーチワイヤスロットの咬合-歯肉方向寸法は、上顎歯列弓および下顎歯列弓におけるすべての歯のトルクおよび傾斜位置決めの精度を高めるために、すべてのブラケットに対して一定に保持されることが好ましい。いくつかの実施形態におけるアーチワイヤの咬合-歯肉方向寸法の百分率としての、全ての括弧内のアーチワイヤスロットの咬合-歯肉方向寸法は、105%であり、102%から110%の範囲である。0.020インチ×0.020インチ平方である最終アーチワイヤを使用するシステムのブラケット内のアーチワイヤスロットの咬合-歯肉方向寸法は、そのような実施形態では0.021インチであり、0.0204インチから0.022インチの範囲である。
【0054】
これらの歯に使用されるブラケット内のアーチワイヤスロットの唇-舌方向寸法を比例的かつ漸進的に増加させることによって、小臼歯および大臼歯において運動の自由度の増加が達成される。次の表に示すように、ブラケット内のアーチワイヤスロットの唇-舌方向寸法は、上顎歯列弓と下顎歯列弓の両方で、中歯から大臼歯までのアーチワイヤの唇-舌方向寸法の割合として次第に増加する。
【0055】
【表1】
【0056】
0.020インチ×0.020インチ四方の最終アーチワイヤを使用するシステムのブラケット内のアーチワイヤスロットの唇-舌方向寸法は以下の通りである。
【0057】
【表2】
【0058】
表1および2に示される寸法に従って、正方形の最終アーチワイヤと結合されたアーチワイヤスロット寸法のこの組み合わせは、短縮された治療時間のために歯の動きの効率的な制御を維持しながら前歯の正確な位置決めをもたらすシステムを提供する。具体的には、図5A図5Cを参照すると、アーチワイヤスロット105および115は、既存のシステムよりも、治療の早い段階で、歯の位置決めのはるかに優れた制御を提供する。図5Aおよび図5Bは、治療の仕上げ段階中に図4Aおよび図4Bに示すようにブラケットを使用して前歯(図5A)および臼歯(図5B)に提供されるトルクに対する制御を示す。ブラケット100と102を接続するアーチワイヤ110がスロット105、115内でそれぞれねじられると、正方形アーチワイヤ110の角は、回転角度160(図5A)および165(図5B)でアーチワイヤスロットの側面に引っ掛かり、それによって、ブラケットが取り付けられている歯に力を伝達し、その結果、近位-遠位方向を向く軸を中心に歯を回転させる。特に、角度160と165の両方が図5Cに示される角度170よりも小さく、これは長方形スロット内の長方形アーチワイヤの結果を示す。これは、図5Aおよび図5Bのシステムが、治療の初期段階において、図5Cのシステムよりも位置決めに関してより良好な制御を有することを意味する。
【0059】
図6Aおよび6Bは、「傾斜」の制御に関して同じ現象を示す。図6Aは、アーチワイヤがブラケットに取り付けられた歯を位置決めするために使用されるアーチワイヤスロット105を有するブラケット100を示す。当業者は、図6Aの図がブラケット105によって提供される歯の動きに対する制御も表すことを理解するであろう。また、角度175は、図6Bの従来技術のシステムによって達成される角度180よりも著しく小さい。
【0060】
図7A~7Cは、「回転」の制御に関して同じ現象を示す。図7Aは、アーチワイヤがブラケットに取り付けられた歯を位置決めするために使用されるアーチワイヤスロット105を有するブラケット100を示す。図7Bは、アーチワイヤがブラケットに取り付けられた歯を位置決めするために使用されるアーチワイヤスロット115を有するブラケット105を示す。また、角度185および190はそれぞれ、図7Cの従来技術のシステムによって達成される角度195よりも著しく小さい。
【0061】
例示的な例として治療の初期段階を使用し、ここで説明される改良されたシステムは、表2、表3、および表4に示される測定値を有するアーチワイヤスロット内に直径0.014のアーチワイヤを使用し、図5A図7Cによって示される先行技術のシステムに対するトルク、傾斜、および回転に関する制御の改善をともに描写する。この初期治療段階では、丸いアーチワイヤを使用するのが好ましく、丸いアーチワイヤは、ねじれたときにアーチワイヤスロットに引っ掛かる縁がないためトルク制御はしないが、4.46度の回転制御と3.83度の傾斜制御を達成する。しかしながら、初期治療段階における従来技術のシステムは、トルクに対する制御を同様に提供しないが、8.47度の回転制御および4.29度の傾斜制御しか提供できない。トルクに対する制御と同様に、表3は、開示されたシステムが治療のあらゆる段階において歯の動きに対するより大きな制御を提供することを示している。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
理論的には、従来技術のシステムは、現在開示されているシステムのように制御の程度を有するように修正することができるが、これは長方形アーチワイヤスロット6の幅を狭くすることを必要とするであろう。しかしそうすることで、アーチ型ワイヤによって引き起こされる患者の歯への力は、正方形のアーチワイヤと比較して長方形のアーチワイヤのより高い慣性モーメントのために、患者にとって過剰で非常に不快になるであろう。したがって、本明細書に開示されているシステムおよび方法は、従来技術に対する著しい改善を表す。
【0065】
同等の教義や、その文字通りの範囲を超えて請求の強制可能な範囲を拡大するその他の原則を含む、一般的な法則の原理に従って解釈されるように、本発明は記載された特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲から逸脱することなく変形がなされ得ることが理解されるだろう。文脈上別段の指示がない限り、1つのインスタンスまたは複数のインスタンスへの参照であるかどうかにかかわらず、要素のインスタンスの数へのクレームでの参照は、少なくとも要素のインスタンスの記述された数を必要とするが、記載されたよりも多くのその要素の例を有する構造または方法を請求項の範囲から除外することを意図していない。請求項で使用されるときの「含む」またはその派生語は、請求された構造または方法における他の要素またはステップの存在を排除することを意図しない非排他的な意味で使用されている。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C