(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】渦駆動式の受動的水素再結合およびイグナイタ装置
(51)【国際特許分類】
G21C 9/06 20060101AFI20220720BHJP
G21D 3/08 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
G21C9/06
G21D3/08 F
(21)【出願番号】P 2019558515
(86)(22)【出願日】2018-04-24
(86)【国際出願番号】 US2018029022
(87)【国際公開番号】W WO2018208495
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-03-26
(32)【優先日】2017-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】アラファト、ヤシール
(72)【発明者】
【氏名】ライオンズ、ジョン、エル
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-158600(JP,A)
【文献】特開平06-148373(JP,A)
【文献】特開2016-074554(JP,A)
【文献】国際公開第2017/140467(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 9/06
G21D 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受動的水素再結合およびイグナイタ装置(10)であって、
下面(16)に水素再結合触媒の被覆を施された実質的に水平な金属板(14)であって、当該実質的に水平な金属板の下方に位置する第1の気体流入部(42)と、当該実質的に水平な金属板の周りに位置する第1の気体流出部(30)とを有するハウジング(12)によって外周を支持された実質的に水平な金属板(14)、
当該実質的に水平な金属板(14)の上面に実質的に近接し、当該上面と連通関係にある、当該ハウジング(12)および第1組の渦形成翼(
28)への第2の気体流入部(20)であって、当該第1組の渦形成翼は当該第2の気体流入部から流入する第2の気体に渦(24)を形成するように構成されている第2の気体流入部(20)、
当該ハウジング(12)の上部を貫通する、当該渦(24)を流出させるための第2の気体流出部(44)、
当該第1の気体流入部(42)の近傍に支持された第1の受動的イグナイタ(38)および
当該第2の気体流出部(44)の近傍に支持された第2の受動的イグナイタ(26)
より成る受動的水素再結合およびイグナイタ装置。
【請求項2】
前記水素再結合触媒は白金またはパラジウムまたはそれらの組み合わせである、請求項1の受動的水素再結合およびイグナイタ装置(10)。
【請求項3】
前記実質的に水平な金属板(14)の下面は、前記水素再結合触媒の被覆を施され、前記第1の気体流入部(42)から流入する第1の気体を前記第1の気体流出部(30)へ差し向けるように構成された下方に突出する翼(34)を含む、請求項1の受動的水素再結合およびイグナイタ装置(10)。
【請求項4】
前記第1の気体流出部(30)は、前記第1組の渦形成翼(28)の少なくとも一部の内部を延びる部分と、前記第2の気体流出部(44)の外側に位置する出口とを有する、請求項1の受動的水素再結合およびイグナイタ装置。
【請求項5】
前記第1組の渦形成翼(28)は、前記渦形成翼の内部を流れ
る第1の気体の熱を前記第2の気体流入部(20)から流入する前記第2の気体に伝達するように構成されている、請求項4の受動的水素再結合およびイグナイタ装置(10)。
【請求項6】
前記第2のイグナイタは前記渦から駆動エネルギーを得る、請求項1の受動的水素再結合およびイグナイタ装置。
【請求項7】
前記第2の気体流出部(44)は、前記第2の気体流出部から離隔し、下から前記第2の気体を排出させる構成を有する覆い(46)を含む、請求項1の受動的水素再結合およびイグナイタ装置(10)。
【請求項8】
前記実質的に水平な金属板の上面には、第2組の渦形成翼(36)が取り付けられている、請求項1の受動的水素再結合およびイグナイタ装置(10)。
【請求項9】
前記第2組の渦形成翼(36)は前記渦(24)と同じ方向である、請求項8の受動的水素再結合およびイグナイタ装置(10)。
【請求項10】
前記実質的に水平な金属板(14)の上面(18)には、実質的に水素再結合触媒の被覆が施されている、請求項1の受動的水素再結合およびイグナイタ装置(10)。
【請求項11】
水素の再結合および点火方法であって、
水素が一構成成分となり得る第1の気体を受動的に寄せ集めて、第1の気体流入部(42)から処理を施すためのハウジング(12)へ流入させるステップと、
当該第1の気体を、当該第1の気体流入部(42)から水素再結合触媒の被覆が施された実質的に水平な金属板(14)の下面(16)へ差し向け、さらに当該実質的に水平な金属板の下面に沿って当該実質的に水平な金属板の周囲の第1の気体流出部(30)へ差し向けるステップと、
水素が一構成成分となり得る第2の気体を受動的に寄せ集めて、当該実質的に水平な金属板(14)の上面に実質的に近接し、当該上面と連通関係にある、第2の気体流入部(20)および第1組の渦形成翼(28)を介して当該ハウジング(12)へ流入させるステップであって、当該第1組の渦形成翼(28)により当該第2の気体流入部から流入する当該第2の気体に渦(24)が形成されるようにしたステップと、
当該ハウジング(12)の上部の第2の気体流出部(44)から渦(24)を排出するステップと、
当該第1の気体流入部(42)の入口で第1の受動的イグナイタ(38)を支持するステップと、
当該第2の気体流出部(44)の近傍に第2の受動的イグナイタ(26)を支持するステップと
より成る方法。
【請求項12】
前記第1の気体流出部(30)は、前記第1組の渦形成翼(28)の少なくとも一部の内部を延びる部分と、前記第2の気体流出部(44)の外側に位置する出口とを有する、請求項11の方法。
【請求項13】
前記第2のイグナイタ(26)は前記渦(24)から駆動エネルギーを得るステップを含む、請求項11の方法。
【請求項14】
前記第2のイグナイタ(26)は点火推進エネルギーとなる火花を発生させる電荷を蓄える回転装置である、請求項13の方法。
【請求項15】
前記第2の気体流出部(44)は前記第2の気体流出部から離隔した覆い(46)を含み、前記第2のイグナイタ(26)を遮蔽するステップを含むことを特徴とする、請求項11の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して水素処理システムに関し、具体的には、原子力発電所用の水素イグナイタおよび水素再結合器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来型の水冷式原子炉は、冷却材喪失事故(LOCA)が格納容器の健全性にもたらす脅威を最小にするよう設計されている。LOCAは、2つの特異な問題を引き起こす。その一つは、原子炉冷却材回路が破損すると、高温の水と蒸気が格納容器の雰囲気中に噴出するため、格納容器から熱を除去するシステムを使用しない限り、格納容器内の圧力と温度が格納容器の設計限界を超える可能性があるという問題;もう一つは、冷却材の喪失に非常用冷却材の冷却材系への注入失敗が続く過酷なLOCAでは、燃料温度の上昇により、一次系の残留蒸気と燃料被覆中のジルコニウムが高温で反応するという問題である。状況が深刻化すると、燃料被覆が完全に酸化する可能性がある。この反応は発熱を伴い、水素を生成する。この反応で生成される水素は、蒸気とともに一次系の破損個所から格納容器雰囲気中へ漏出する。シビアアクシデントにおける水素の質量放出速度は、毎秒1kgのオーダーになりうる。水素濃度を自己着火限界以下に保つ装置を使用しない限り、原子炉格納容器に爆発性ガス混合物が生成される可能性がある。
【0003】
新しい設計の水冷式原子炉は、電源、給水および運転員の関与に頼らずにLOCAの影響を減殺する。そのような原子炉は、格納容器雰囲気中の熱を格納容器の壁を介して伝達する受動的な手段により、格納容器の圧力を設計限界内に保つ。例えば、格納容器の壁を鋼製にしたり高所に設置したタンクから冷却水を供給することにより、熱伝達を促進する。格納容器雰囲気中の熱は、自然対流によって格納容器の壁に伝達される。破損個所から吹き出る高温の蒸気は空気と混合し、格納容器の最上部へ上昇して、格納容器の低温の壁に接触し、冷却する。この混合物は温度が下がって密度が増すと降下し、壁付近が下降流、中心部が上昇流の自然循環プロセスが始まる。初期の蒸気が吹き出る期間が終わると、格納容器の低温の壁および他のあらゆる低温の表面上での蒸気の凝縮速度が破損個所からの蒸気の放出速度と等しくなるまで、格納容器内の圧力と温度が上昇する。
【0004】
従来設計の原子炉は、水素が滞留しないようにするためのさまざまな手段を用いている。その一つは、発電所が通常運転に入る前または起動時に、格納容器の雰囲気を酸素欠乏状態にする事前不活性化である。不活性ガス(通常は窒素)を格納容器内に注入しながら、内部の空気を大気中へ排出して、酸素濃度を水素の燃焼に必要なレベル以下に低下させる。大型の格納容器には実際上の固有の問題があるため、この事前不活性化は通常、小型の格納容器にのみ適用される。
【0005】
中・大型の格納容器では、水素を減らす策として通常は水素イグナイタが考えられる。水素イグナイタは、水素濃度が高くなりそうな場所を中心に格納容器内の随所に配置するのが一般的である。水素イグナイタは、水素濃度が着火しきい値を超えるとすぐに燃焼させることにより、エネルギー放出を時間的かつ空間的に分散させながら緩やかな爆燃によって水素を取り除くものである。しかし、水素イグナイタを使用すると、一カ所で起きる爆燃が、付近のより敏感な領域(すなわち水素放出点により近い領域)に拡がったり、隣接する可燃性混合気の塊中へ拡散(いわゆるジェット点火)したりして、予想以上の勢いで伝播するリスクがある。このようにして、爆燃が爆ごうへ遷移すると、格納容器の構造体と機器に非常に大きな負荷がかかるおそれがある。意図的に点火する方法の別の欠点は、混合挙動と、混合物の意図的な点火によって起きる燃焼タイプを予測できないことである。この不確実性があるため、爆燃を伴わない水素除去法が模索されている。また、交流電源に頼るイグナイタは電源喪失時に利用できない可能性があり、電池を用いるイグナイタは電源の利用可能性に限界があるため断続的な使用に限られ、さらに触媒型イグナイタは着火可能な混合物の範囲、応答時間、ならびに毒作用、汚損、機械的損傷にさらされやすいという制約がある。そのため、水素濃度を爆燃限界以下に保つためのそれ以外の手段を用意し、そのような手段が無効なときにのみ意図的な点火に頼るのが従来の慣行である。
【0006】
そのような他の手段の1つは、水素再結合器の使用である。水素再結合器は、水素を酸素と結合させて水を生成させることにより、格納容器内の水素濃度を下げる。触媒式再結合器は、加熱式再結合器とは異なり、自己始動型で、外部電源を必要とせず、受動的システムの一部として使用できる。触媒式水素再結合器は、格納容器内での使用が提案されてきたが、数々の要因のため実際には広く使用されていない。大型原子炉における従来の慣行は、格納容器雰囲気中での混合を利用して、破損個所で生じた水素を格納容器全体にわたって希釈する。容量の大きな格納容器は、爆燃限界に達するまでに非常に多量の水素を希釈できるので、この慣行は効果的と考えられる。これにより、LOCAに対処するための緊急措置を講じることができるある程度の長さの時間が得られる。
【0007】
水素再結合器を効果的に運転するには、比較的大きい空気流量が必要である。格納容器の冷却に格納容器雰囲気の自然循環を用いる従来のやりかたでは、一般的に、受動的水素再結合器が大容量の格納容器に効果的に対処するに十分な大きい流量が得られない。また、格納容器内には機械類とその間の様々な空間が存在するため、LOCAによってもたらされる自然対流パターンは予測やモデル化がきわめて難しい。そのため、受動的水素再結合器を配置する最適な場所の選択は科学的とは言えないものとなる。その結果、水素再結合器は通常、格納容器雰囲気の一部が送風機によって循環する風管の中に設置される。これはもちろん受動的システムではなく、循環用送風機を駆動させる電源を喪失した場合は役に立たない。再結合器への空気の流れを改善するさまざまな方法が提案されている。文献DE3035103には、垂直シャフトおよびその中の加熱装置を使用して、煙突効果によって再結合器への気流を改善する方法が開示されている。シャフトは気流を再結合器へ導くうえで効果的であるが、上向きの空気流を起こす電気加熱器は外部電源を必要とする。また、大きなシャフトを格納容器内の機器に一体化するに当たり、物理的問題が生じることが明らかである。
【0008】
このように多くの制約があるため、水素再結合器は、放射線分解および腐食によって生じる水素を定常的に除去する用途に限り受け入れられている。事故被害軽減の手立てとして、商用原子炉はこれまでは専ら水素再結合器だけに依存せず、イグナイタおよび/または不活性化を併用してきた。したがって、触媒式再結合器によって水素を除去できる条件を改善する必要がある。
【発明の概要】
【0009】
前述の目的を達成するために、本発明が提供する受動的水素再結合およびイグナイタ装置は、下面に水素再結合触媒の被覆を施された実質的に水平な金属板であって、当該金属板の下方に位置する第1の気体流入部と、当該金属板の周りに位置する第1の気体流出部とを有するハウジングにより外周を支持された当該実質的に水平な金属板を具備する。当該装置は、当該実質的に水平な金属板の上面に実質的に近接し、当該上面と連通関係にある、当該ハウジングおよび第1組の渦形成翼への第2の気体流入部を有し、当該第1組の渦形成翼は当該第2の気体流入部から流入する第2の気体に渦を形成するように構成されている。当該装置はさらに、当該ハウジングの上部を貫通する、当該渦を流出させるための第2の気体流出部、当該第1の気体流入部の近傍に支持された第1の受動的イグナイタおよび当該第2の気体流出部の近傍に支持された第2の受動的イグナイタを有する。
【0010】
好ましくは、当該水素再結合触媒は白金またはパラジウムまたはそれらの混合物であり、当該実質的に水平な金属板の当該水素再結合触媒の被覆を施された下面には、当該第1の気体流入部から流入する第1の気体を当該第1の気体流出部へ差し向けるように構成された下方に突出する翼が設けられている。一実施態様において、当該第1の気体流出部は当該第1組の渦形成翼の少なくとも一部の内部を延びる部分と、当該第2の気体流出部の外側に位置する出口とを有する。当該第1組の渦形成翼は、当該渦形成翼の内部を流れる当該第1の気体の熱を当該第2の気体流入部から流入する当該第2の気体へ伝達する構成を有するのが望ましい。当該第1のイグナイタは表面積を増すためにばね状に巻回された白金またはパラジウム線であり、当該第2のイグナイタは当該渦から駆動エネルギーを得るのが好ましい。当該第2のイグナイタとしては、点火推進エネルギーとなる火花を引き起こすヴァンデグラフ起電機に似た電荷を蓄える回転装置、またはキャパシタを充電し、特定の電圧になると火花を発生させるように構成された発電機駆動回転装置、または火花を発生させるために圧電デバイスを駆動する回転装置がある。
【0011】
別の実施態様では、当該第2の気体流出部から離隔したところに、下から当該第2の気体を排出させる覆いがある。当該実質的に水平な金属板の上面には、第2組の渦形成翼が渦と同じ方向に取り付けられている。当該実質的に水平な金属板の上面にも、実質的に水素再結合触媒の被覆を施すことができる。
【0012】
本発明はまた、水素が一構成成分となり得る第1の気体を受動的に寄せ集めて、第1の気体流入部から処理を施すためのハウジングへ流入させるステップを含む水素の再結合および点火方法を企図する。この方法では、当該第1の気体を当該第1の気体流入部から水素再結合触媒の被覆が施された実質的に水平な金属板の下面へ差し向け、さらに当該実質的に水平な金属板の下面に沿って当該実質的に水平な金属板の周囲の第1の気体流出部へ差し向ける。この方法はまた、水素が一構成成分となり得る第2の気体を受動的に寄せ集めて、当該実質的に水平な金属板の上面に実質的に近接し、当該上面と連通関係にある、第2の気体流入部および第1組の渦形成翼を介して当該ハウジングへ流入させる。当該第1組の渦形成翼は、当該第2の気体流入部から流入する当該第2の気体に渦を形成するように構成されている。この方法はさらに、当該ハウジングの上部の第2の気体流出部から当該渦を排出させ、当該第1の気体流入部の入口で第1の受動的イグナイタを支持し、当該第2の気体流出部の近傍に第2の受動的イグナイタを支持する。当該第2のイグナイタは、当該渦から駆動エネルギーを得るのが好ましく、点火推進エネルギーとなる火花を引き起こす電荷を蓄える回転装置がよい。この方法は、当該第2の気体流出部から離隔したところにある覆いにより、当該第2のイグナイタを遮蔽するステップを含むのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0014】
【
図1】本発明の一実施態様の一部切欠き立体図である。
【0015】
【
図2】本発明の水素再結合およびイグナイタ装置の一部切欠き二次元図である。
【0016】
【
図3】本発明の水素再結合およびイグナイタ装置の斜視図である。
【0017】
【
図4】
図3に示す水素再結合およびイグナイタ装置の平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前述のように、原子力発電所のシビアアクシデントのシナリオでは、格納容器内の水素爆発を次の方法で減殺しようとする。(i)PAR(受動的自己触媒再結合器)により、水素を空気中の酸素と受動的に再結合させて水蒸気を生成させる(一般的に大型の乾式格納容器で使用)、(ii)格納容器の雰囲気を不活性化する(実際的には非常に小型の格納容器でのみ有用)、および(iii)電気加熱素子(能動的イグナイタ)を、爆発下限界における水素の着火温度を超えるまで加熱する(アイスコンデンサー式格納容器、BWR Mark III格納容器および2003年10月16日以降に許認可を受けたすべての水冷式原子炉の格納容器で使用)。本発明の目的は、能動的イグナイタの代替技術を提供することである。
【0019】
現行の能動的イグナイタは、本質的に加熱グロープラグであり、水素の生成または滞留が予想される格納容器内の戦略的な位置に配置される。オフサイト交流電源が利用可能な事故状況では、予備電源は不要であり、イグナイタを頼りにすることができる。オフサイト交流電源を喪失する事故シナリオには、一般的に、各々が約33個のイグナイタと独立の電源を有する2つの予備グループがある。一方の系列には予備電源としてのディーゼル発電機があり、もう一方の系列の電源は蓄電池である。冗長なディーゼル発電機または可搬型発電機が用意される場合もある。予備の蓄電池で駆動させる場合、連続して4時間給電できるように設計するのが一般的である。
【0020】
現行のイグナイタの主な問題点は、ケーブルを張り巡らす必要があり、運転停止時の保守が容易でなく、動作させるための外部電源が必要なことである。また、ケーブルは時間の経過とともに損耗し、交換する必要がある。したがって、外部電源および関連の配線や制御機器に頼らない自己充足型の受動的水素イグナイタが必要である。現行のイグナイタとは異なり、本願のシステムはこれらの基準を満たしている。さらに、本願の装置は運転員の介入を必要とせずに機能する。
【0021】
過去において、水素再結合触媒を用いる設計の受動的イグナイタがあったが、そのような受動的イグナイタの使用には幾つかの重要な問題があった。第1に、触媒を通過する空気の自然対流が遅いため、イグナイタの加熱に時間がかかる。第2に、反応が始まると、触媒表面に再結合反応を妨げる水が生成される傾向がある。反応が続くにつれて、発熱反応によって生成する蒸気がプレートの温度上昇によって自ずと除去され、速度を増した空気流によって水分子が取り払われる。プレートの温度が約500℃を超えると、そうした速度に到達する。
【0022】
本願で開示する受動的イグナイタは、空気中の水素の触媒酸化によって表面を高温にし、高温になったこの触媒表面上に空気流が自然に連続して補充されるようにし、垂直方向の浮力によるものに比べて高速の渦が自然に形成されるようにして、触媒への、また触媒からの物質移動を改善することにより、自己触媒作用を促進するものである。これら3つの要因はすべて、気流が単純に上向きに流れる場合に比べて、受動的イグナイタをより低い水素濃度で、より速く加熱するように働く。
【0023】
図1~4に示す本発明の装置は、実質的に水平な金属板14を含み、その底面16には、白金またはパラジウムまたはそれらの混合物などの水素再結合触媒の被覆が施されている。この金属板は、熱伝導率の高い材料製であるのが好ましい。水素と空気が存在すると、金属板はその底面上で水素を再結合させて、熱を発生させる。金属板14の底面16が熱くなると、その上面18も熱くなる。金属板14の上面18が熱くなると、その上面の空気が加熱され、近傍の空気が浮力によって上昇する。上昇したあとの空間に、周囲のより低温の空気が引き込まれる。しかし、金属板の周囲から流入する新鮮な空気は、放射曲線状に延びる翼28に沿う流路を辿る。これらの翼28は流入する空気を強制的に集束して、砂漠で自然発生する塵旋風に似た渦24を形成させる。この渦24は上方へ移動し、狭い排気筒22から流れ出る。「イグナイタコア部」26は、排気筒22の開口部に戦略的に配置される。水平板の底面と同様に、イグナイタコア部にも水素再結合触媒の被覆が施されている。渦24が高速であるため、(1)触媒に新鮮な反応物が補充され、(2)触媒表面から水分子(触媒反応の副生物)が取り除かれるので、再結合反応の速度が確実に大きくなる。一方、水平板14は高温に加熱する必要がない。過去の研究から、高温の表面と周囲の空気の温度差がわずか100℃でも、非常に高速(8~10m/s)の渦を形成できることがわかっている。したがって、水素濃度が低くても、水平板14は非常に高速(8~11m/s)の渦を生成できる。これに比べて、垂直方向の対流による気流の速度は0.5~1m/sであり、200~500℃を超える温度差が要求される。
【0024】
水平板14の底面16上の気体は、渦の流れ24を妨げないようなハウジング12内の流路30を介して排気する必要がある。したがって、案内フィンまたは翼28の内部32がその目的に使用される。
図2に示すように、案内翼28の内部32は、水平板14の下で加熱された空気がそこから上昇して装置から出るまでの流路を提供する。これにより、渦へ流入する空気20を、翼28の外面に沿って流れる間に予熱することができる。水平板14の底面16にフィン34を設けることによって、(1)触媒の表面積を大きくし、(2)高温の空気を、流体力学的により好ましい流路を辿り案内フィン28の内部32へ流入したあと装置10から出るように、導くことができる。同様に、水平板14の上面18に渦流と同方向にフィン36を設けることによって、水平板から空気への熱伝達を改善することができる。フィン36の代わりに垂直に延びるピン、平板、または他の形状のプレートを使用して、ピンまたはプレートから空気へ効果的に熱を伝達することができる。渦24の加熱を促進するために、水平板14の上面18にも水素再結合触媒の被覆を施すことができる。
図1~4は、上述の原理を用いた好ましい実施態様を示す。また、水平板14の下方の予熱器部分40の開口部、すなわち下部空気流入部42には、当該流入部42に入る水素を含む新鮮な空気を点火可能なコイルばねイグナイタ38がある。
【0025】
渦の出口44に設けるイグナイタ26の別の実施態様は、点火推進エネルギーとなる火花を発生させるために、物体に電荷を蓄えるための回転機構(ヴァンデグラフ起電機に類似)を使用する。さらに、実質的に水平な金属板14の上面18に第3組の翼36を設けることにより、浮力を与えられた加熱状態の空気層がその上昇中に強制的に旋回される結果形成される、しっかりと根を下ろした柱状の渦が、高温の空気をさらに引き込んで自己持続性を獲得し、化学エネルギーと電気エネルギーの間に新たな熱機械的な結びつきが生まれるようにすることができる。さらに、実質的に水平な金属板14の上面18と第3組の翼36とに、水素再結合触媒の被覆を施すことができる。
【0026】
上部のイグナイタ26のさらに別の実施態様は、キャパシタを充電する発電機を渦24によって駆動し、特定の電圧に達したときにキャパシタに火花を発生させる。上部イグナイタ26のさらにもう一つ別の実施態様は、渦24によって駆動される回転機構が圧電デバイスを駆動する。そのような回転機構の一例は、実質的に水平な金属板14の上面の中心に回転自在に取り付けられた垂直に延びるシャフトであり、当該シャフトの周面から翼が放射曲線状に延びるものである。
【0027】
したがって、本発明は、自己作動性および自己持続性を有する受動的水素イグナイタ10を提供する。浮力により誘発される渦24により高速の空気がイグナイタコア部を活性化するので、イグナイタはより低い水素濃度でより迅速に自己着火温度に達する。イグナイタは金属板の温度が低くても渦24を形成させるため、より低い水素濃度(空気中の水素モル4%超、8%未満)で点火させることができる。案内フィン28は二重の機能を有する。すなわち、(1)フィンの外面が渦を形成するように流入空気を案内する、(2)フィンの内部が実質的に水平な金属板14の底面16の再結合反応により高温になった空気を排出する流路となる、(3)フィン内部の高温の空気が渦の中へ流入する空気20を予熱するため、点火に至るまでの時間が短縮される。渦24は、同じく自己駆動式の垂直軸回転翼に作用して、別の電気式火花発生器を作動させることができる。ばね式イグナイタ38もまた、予熱器流入口42の速度が大きくなれば点火を引き起こすことができる。排気筒の覆い46はイグナイタコア部の触媒表面が格納容器スプレイや水などに晒されるのを防ぐが、その他の触媒表面(実質的に水平な金属板14の下部フィン34およびばね式イグナイタ38)は装置の設計によって保護される。より大型の設計では、水素の爆発下限界(<4%)に達する前に多量の水素を変性させるための既存のPAR(受動的自己触媒再結合器)と、水素が爆発水準(>10%)に達する前に過剰な水素を点火する能動的イグナイタの二重機能を持たせることが可能である。PARは一般的に応答が遅めなので、本実施態様はこのプロセスを速めることにより、設計基準事故および設計基準外事故に対するプラントの安全性を高めることができる。
【0028】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含する。