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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】マグネットモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/2746 20220101AFI20220720BHJP
   H02K 21/14 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
H02K1/2746
H02K21/14 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020016104
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021125913
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2020-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】511228012
【氏名又は名称】小林 和明
(73)【特許権者】
【識別番号】518355272
【氏名又は名称】H&E Tec株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 和明
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特表昭59-502091(JP,A)
【文献】特開2012-244892(JP,A)
【文献】国際公開第2005/112231(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02N 99/00
H02K 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に離間して配置された複数の第1永久磁石を有する回転体と、
前記回転体と一体回転する回転軸と、
前記回転軸の軸方向において前記回転体を挟むように配置され、各々が前記回転軸を囲むように周方向に離間して配置された複数の第2永久磁石を有する一対の固定体とを備えるマグネットモータであって、
前記第1永久磁石と前記第2永久磁石とがすれ違う前に互いに反発する磁化方向の組み合わせであり、前記回転軸の回転方向に前記第1永久磁石、ケイ素鋼板、非磁性体がこの順に繰り返し配列されて前記回転体が形成されている、若しくは前記回転軸の回転方向に前記第2永久磁石、非磁性体、ケイ素鋼板がこの順に繰り返し配列されて前記固定体が形成されている、
または、
前記第1永久磁石と前記第2永久磁石とがすれ違った後に互いに吸引する磁化方向の組み合わせであり、前記回転軸の回転方向に前記第1永久磁石、非磁性体、ケイ素鋼板がこの順に繰り返し配列されて前記回転体が形成されている、若しくは前記回転軸の回転方向に前記第2永久磁石、ケイ素鋼板、非磁性体がこの順に繰り返し配列されて前記固定体が形成されていることを特徴とするマグネットモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のマグネットモータにおいて、
前記ケイ素鋼板は、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石の一方にのみ取り付けられていることを特徴とするマグネットモータ。
【請求項3】
請求項1に記載のマグネットモータにおいて、
前記ケイ素鋼板は、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石の両方に取り付けられ、且つ互いに厚みが異なることを特徴とするマグネットモータ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のマグネットモータにおいて、
前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石は、前記回転軸の回転方向に対して磁化方向が逆向きに傾斜した2つの永久磁石を、前記回転軸の軸方向に組み合わせて構成されていることを特徴とするマグネットモータ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のマグネットモータにおいて、
前記回転体が有する前記第1永久磁石の数と、前記固定体が有する前記第2永久磁石の数とは、互いに異なることを特徴とするマグネットモータ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のマグネットモータにおいて、
前記回転体の径方向において、前記第1永久磁石に対面する電磁石と、
前記回転体の回転を加速させる向きの磁力が発生するタイミングで、前記電磁石に電流を供給する電流供給装置とを備えることを特徴とするマグネットモータ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のマグネットモータにおいて、
前記回転軸の軸方向において、複数の前記回転体及び複数の前記固定体が交互に配置されており、
複数の前記回転体は、それぞれの前記複数の第1永久磁石の位相が異なるように、前記回転軸に固定されていることを特徴とするマグネットモータ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のマグネットモータにおいて、
直径の異なる複数の前記回転体を同心円状に一体化して構成され、前記回転軸と一体回転する円盤を備え、
前記一対の固定体は、前記回転軸の軸方向において前記円盤を挟むように配置され、
前記円盤の径方向に隣接する2つの前記回転体が有する前記第1永久磁石は、周方向において位相が異なることを特徴とするマグネットモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を組み合わせて回転力を発生させるマグネットモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の永久磁石を有する回転体と、複数の永久磁石を有する固定体とを備える所謂「マグネットモータ」が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなマグネットモータは、回転体及び固定体それぞれに取り付けられた永久磁石の吸引力及び反発力によって、回転体に固定された回転軸を回転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5608721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成のマグネットモータにおいて、永久磁石の吸引力及び反発力は、回転軸の回転を加速させる向きに作用するだけでなく、回転軸の回転を阻害する所謂「コギングトルク」にもなり得るので、回転軸のスムーズな回転を阻害する可能性がある。
【0005】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回転軸をスムーズに回転させるマグネットモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、周方向に離間して配置された複数の第1永久磁石を有する回転体と、前記回転体と一体回転する回転軸と、前記回転軸の軸方向において前記回転体を挟むように配置され、各々が前記回転軸を囲むように周方向に離間して配置された複数の第2永久磁石を有する一対の固定体とを備えるマグネットモータであって、前記第1永久磁石と前記第2永久磁石とがすれ違う前に互いに反発する磁化方向の組み合わせであり、前記回転軸の回転方向に前記第1永久磁石、ケイ素鋼板、非磁性体がこの順に繰り返し配列されて前記回転体が形成されている、若しくは前記回転軸の回転方向に前記第2永久磁石、非磁性体、ケイ素鋼板がこの順に繰り返し配列されて前記固定体が形成されている、または、前記第1永久磁石と前記第2永久磁石とがすれ違った後に互いに吸引する磁化方向の組み合わせであり、前記回転軸の回転方向に前記第1永久磁石、非磁性体、ケイ素鋼板がこの順に繰り返し配列されて前記回転体が形成されている、若しくは前記回転軸の回転方向に前記第2永久磁石、ケイ素鋼板、非磁性体がこの順に繰り返し配列されて前記固定体が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1永久磁石及び第2永久磁石の間に作用する磁力のうち、回転軸の回転を阻害する向きの磁力が低減するので、回転軸をスムーズに回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】マグネットモータ1を一部破断させた斜視図である。
図2】マグネットモータ1の分解斜視図である。
図3】回転体20及びカラー40の断面図である。
図4】固定体30の平面図である。
図5】回転体20及び固定体30を二次元平面に展開した状態を示す図である。
図6】永久磁石23、33がすれ違う前の磁界の状態を示す図である。
図7】永久磁石23、33の一部が重なった時の磁界の状態を示す図である。
図8】永久磁石23、33が完全に重なった時の磁界の状態を示す図である。
図9】ケイ素鋼板24を省略した比較例であって、永久磁石23、33がすれ違う前の磁界の状態を示す図である。
図10】変形例1に係る回転体20及び固定体30を二次元平面に展開した状態を示す図である。
図11】変形例2に係る回転体20及び固定体30を二次元平面に展開した状態を示す図であって、回転体20にのみケイ素鋼板24を設けた例である。
図12】変形例2に係る回転体20及び固定体30を二次元平面に展開した状態を示す図であって、固定体30にのみケイ素鋼板34を設けた例である。
図13】変形例3に係る円盤50の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係るマグネットモータ1を図面に基づいて説明する。なお、以下に記載する本発明の実施形態は、本発明を具体化する際の一例を示すものであって、本発明の範囲を実施形態の記載の範囲に限定するものではない。従って、本発明は、実施形態に種々の変更を加えて実施することができる。
【0010】
図1は、マグネットモータ1を一部破断させた斜視図である。図2は、マグネットモータ1の分解斜視図である。図3は、回転体20及びカラー40の断面図である。図4は、固定体30の平面図である。
【0011】
マグネットモータ1は、回転側の永久磁石と、固定側の永久磁石との間に生じる吸引力及び反発力によって、回転軸を回転させる。図1及び図2に示すように、マグネットモータ1は、回転軸10と、回転体20と、一対の固定体30a、30b(以下、これらを総称して、「固定体30」と表記する。)と、カラー40とを主に備える。
【0012】
なお、図1及び図2では、1つの回転体20と、2つの固定体30a、30bを備えるマグネットモータ1の例を説明する。但し、複数の回転体20及び複数の固定体30が、回転軸10の軸方向に所定の間隔を隔てて、交互に配置されていてもよい。但し、回転軸10の軸方向の両端には、固定体30が配置される。すなわち、マグネットモータ1は、N(Nは1以上の整数)個の回転体20と、(N+1)個の固定体30とを備える。
【0013】
図1及び図2に示すように、回転体20は、円板形状の外形を呈する。回転体20には、円板の中心において、厚み方向に貫通する貫通孔21が形成されている。回転軸10は、貫通孔21に挿通されて、回転体20に固定される。すなわち、回転軸10は、回転体20の中心を厚み方向に貫通し、回転体20と一体回転する。
【0014】
図3に示すように、回転体20は、貫通孔21が形成された円板22と、複数の永久磁石(第1永久磁石)23a、23b、・・・(以下、これらを総称して、「永久磁石23」と表記する。)と、複数のケイ素鋼板24a、24b、・・・(以下、これらを総称して、「ケイ素鋼板24」と表記する。)と、複数の非磁性体25a、25b、・・・(以下、これらを総称して、「非磁性体25」と表記する。)とで構成される。
【0015】
円板22の外周面には、永久磁石23と、ケイ素鋼板24と、非磁性体25とが、周方向に交互に配置されている。すなわち、複数の永久磁石23は、回転体20の周方向に離間した位置に配置されている。また、ケイ素鋼板24は、回転体20の周方向において、永久磁石23に隣接して配置されている。さらに、非磁性体25は、回転体20の周方向において、永久磁石23とケイ素鋼板24との間に配置されている。
【0016】
ケイ素鋼板24は、鉄に少量(例えば、3~7%)のケイ素を含めた材料を、圧延したものである。ケイ素鋼板24は、透磁率が高い(例えば、2000~6000μs)材料の一例である。ケイ素鋼板24は、透磁率が高い材料の中でも安価に入手できる。但し、ケイ素鋼板24に代えて、さらに透磁率の高いアモルファス鋼板を採用してもよい。非磁性体25は、強磁性体ではない材料であって、例えば、アルミニウム、ガラス、木などで構成される。なお、円板22も非磁性材料で構成されていてもよい。
【0017】
図1及び図2に示すように、固定体30は、円板形状の外形を呈する。固定体30には、円板の中心において、厚み方向に貫通する貫通孔31が形成されている。貫通孔31には、回転軸10が挿通される。但し、貫通孔31の直径は回転軸10より大きいので、固定体30は、回転軸10と共に回転しない。貫通孔31には、回転軸10を回転自在に支持する軸受(図示省略)が取り付けられていてもよい。
【0018】
また、一対の固定体30a、30bは、回転軸10の軸方向において、回転体20を挟むように配置されている。すなわち、回転体20と固定体30a、30bとは、回転軸10の軸方向において、所定の間隔を隔てて対向配置されている。
【0019】
図4に示すように、固定体30は、複数の永久磁石(第2永久磁石)33a、33b、・・・(以下、これらを総称して、「永久磁石33」と表記する。)と、複数のケイ素鋼板34a、34b、・・・(以下、これらを総称して、「ケイ素鋼板34」と表記する。)と、複数の非磁性体35a、35b、・・・(以下、これらを総称して、「非磁性体35」と表記する。)とで構成される。
【0020】
永久磁石33と、ケイ素鋼板34と、非磁性体35とは、周方向に交互に配置されている。すなわち、複数の永久磁石33は、固定体30の周方向に離間した位置に配置されている。また、ケイ素鋼板34は、固定体30の周方向において、永久磁石33に隣接して配置されている。さらに、非磁性体35は、固定体30の周方向において、永久磁石33とケイ素鋼板34との間に配置されている。
【0021】
ケイ素鋼板34及び非磁性体35の組成は、前述したケイ素鋼板24及び非磁性体25と共通する。なお、図3及び図4には、回転体20及び固定体30の両方がケイ素鋼板24、34を備える例を示すが、回転体20のみがケイ素鋼板24を備えていてもよいし、固定体30のみがケイ素鋼板34を備えていてもよい。
【0022】
図1及び図2に示すように、カラー40は、円筒形状の外形を呈する。カラー40は、回転軸10の軸方向において、一対の固定体30a、30bの間に位置する。カラー40の軸方向の長さは、回転体20の厚みより長い。カラー40の内径寸法は、回転体20の直径より大きい。すなわち、カラー40は、回転体20の外周面から離間した位置において、回転体20を囲むように配置される。また、カラー40は、一対の固定体30a、30bの間隔を調整するスペーサとして機能する。
【0023】
また、図1図3に示すように、カラー40には、側面を厚み方向に貫通する電磁石41が取り付けられている。電磁石41は、回転体20の径方向において、永久磁石23に対面し得る位置に配置されている。さらに、電磁石41には、電流供給装置42が接続されている。電流供給装置42は、電磁石41に磁力を発生させるためのパルス電流を、所定のタイミングで電磁石41に供給する。
【0024】
電流供給装置42は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を備える。CPUは、ROMに格納されたプログラムコードを読み出して実行することによって、後述する処理を実現する。RAMは、CPUがプログラムを実行する際のワークエリアとして用いられる。
【0025】
図5は、回転体20及び固定体30を二次元平面に展開した状態を示す図である。図5の例では、4個の回転体20a、20b、20c、20dと、5個の固定体30a、30b、30c、30d、30eとが交互に配置されている。また、図5の例では、固定体30からケイ素鋼板34が省略されて、その隙間が非磁性体35で埋められている。さらに、図5では、永久磁石23、33を白地で示し、ケイ素鋼板24を斜線ハッチングで示し、非磁性体25、35をドットハッチングで示し、一部を除いて参照番号を省略する。
【0026】
図5の例において、回転体20は、8個の永久磁石23を有する。そして、8個の永久磁石23は、回転体20の周方向に45°間隔で配置されている。一方、固定体30は、9個の永久磁石33を有する。そして、9個の永久磁石33は、固定体30の周方向に40°間隔で配置されている。
【0027】
すなわち、回転体20が有する永久磁石23の数と、固定体30が有する永久磁石33との数は、互いに異なる。より詳細には、回転体20が有する永久磁石23、及び固定体30が有する永久磁石33のうちの一方が奇数で、他方が偶数となる。そのため、隣接する回転体20及び固定体30の周方向において、近接する永久磁石23、33の相対位置は、互いに異なる。但し、回転体20及び固定体30が有する永久磁石23、33の具体的な数は、前述の例に限定されない。
【0028】
また、複数の回転体20a、20b、20c、20dは、周方向において永久磁石23の位相が異なるように、回転軸10に固定される。図5の例では、回転体20a、20bの位相が180°異なり、回転体20a、20cの位相が45°異なり、回転体20c、20dの位相が180°異なる。但し、回転体20a~20dの位相差の具体例は、前述の例に限定されない。
【0029】
また、永久磁石23、33は、図5に矢印で示すように、回転軸10の回転方向に対して、磁化方向が傾斜している。永久磁石23、33は、例えば、回転軸10の軸方向に隣接する2つの永久磁石を接合(例えば、接着、溶着など)して構成される。
【0030】
より詳細には、永久磁石23は、回転軸10の回転方向と逆方向に対して、磁化方向が回転体20の厚み方向の中央向きに傾斜した永久磁石Aと、回転軸10の回転方向に対して、磁化方向が回転体20の厚み方向の外向きに傾斜した永久磁石Bとを、回転軸10の軸方向に組み合わせて構成されている。この組み合わせは、回転体20a~20dが備える全ての永久磁石23に共通する。
【0031】
また、永久磁石33は、回転軸10の回転方向と逆方向に対して、磁化方向が固定体30の厚み方向の外向きに傾斜した永久磁石Cと、回転軸10の回転方向に対して、磁化方向が固定体30の厚み方向の中央向きに傾斜した永久磁石Dとを、回転軸10の軸方向に組み合わせて構成されている。この組み合わせは、固定体30a~30eが備える全ての永久磁石33に共通する。
【0032】
そして、回転軸10の軸方向において、永久磁石A、Dが所定の間隔を隔てて対面し、永久磁石B、Cが所定の間隔を隔てて対面する。すなわち、図5において参照番号を付した永久磁石23は、固定体30aの参照番号を付した永久磁石33とS極同士が対面し、固定体30bの参照番号を付した永久磁石33とN極同士が対面する。
【0033】
換言すれば、永久磁石23、33の磁化方向は、回転体20が回転する過程において、永久磁石23、33がすれ違う前に反発し合う組み合わせである。この場合において、ケイ素鋼板24は、回転軸10の回転方向における永久磁石23の前端(回転軸10の回転方向の下流側)に取り付けられる。換言すれば、ケイ素鋼板24は、永久磁石23、33の磁界の組み合わせが回転軸10の回転を阻害するタイミング(図5の例では、すれ違う前)で、永久磁石23、33の間に介在する位置に配置される。
【0034】
図6図9を参照して、永久磁石23、33がすれ違う際の吸引力及び反発力の関係を説明する。図6は、永久磁石23、33がすれ違う前の磁界の状態を示す図である。図7は、永久磁石23、33の一部が重なった時の磁界の状態を示す図である。図8は、永久磁石23、33が完全に重なった時の磁界の状態を示す図である。図9は、ケイ素鋼板24を省略した比較例であって、永久磁石23、33がすれ違う前の磁界の状態を示す図である。
【0035】
図6に矢印で示すように、永久磁石23の前端にケイ素鋼板24を取り付けることにより、永久磁石BのN極から出る磁力線の多くは、ケイ素鋼板24を通って、永久磁石AのS極に向かう。また、ケイ素鋼板24の厚みが大きくなるほど、永久磁石BのN極から永久磁石AのS極に向かう磁力線の割合も大きくなる。
【0036】
これにより、ケイ素鋼板24の前端において、永久磁石A側がN極となり、永久磁石B側がS極となる。すなわち、永久磁石23の前端と、ケイ素鋼板24の前端とでは、極性が反転する。その結果、すれ違う直前の永久磁石23、33の間には吸引力が働き、永久磁石23の第一ラインaは、永久磁石33の第二ラインB付近まで進む(回転する)。すなわち、この吸引力によって、回転体20は、回転軸10の回転方向に回転する。図5に示す複数の永久磁石23のうち、回転体20を回転させる向きの力を受ける永久磁石23に「+」を付加している。
【0037】
次に、図7及び図8に示すように、永久磁石23の第一ラインaが、永久磁石33の第二ラインBから第五ラインFの間に位置するとき、永久磁石23、33の間には吸引力が働く。その結果、永久磁石23、33の間に生じる回転体20を回転させる向きの力は、徐々に小さくなり、最終的には回転体20の回転を阻害する向きに作用する。図5に示す複数の永久磁石23のうち、回転体20を回転させる向きの力が生じない永久磁石23に「0」を付加し、回転体20の回転を阻害する向きの力を受ける永久磁石23に「-」を付加している。
【0038】
次に、図8の状態から永久磁石23の第一ラインaが、永久磁石33の第五ラインFを超えると、永久磁石AのN極と固定体30aの永久磁石DのN極とが反発し、永久磁石BのS極と固定体30bの永久磁石CのS極とが反発する。この反発力によって、回転体20は、回転軸10の回転方向に回転する。
【0039】
図6図8に示すように、永久磁石23、33の相対位置によって、回転体20には、回転軸10を回転させる向きの力(以下、「回転力」と表記する。)と、回転軸10の回転を阻害する向きの力(以下、「阻害力」と表記する。)とが交互に付与される。しかしながら、永久磁石23の前端にケイ素鋼板24を設けて極性を反転させることによって、図5で「+」が付加された永久磁石23が、図5で「0」、「-」が付加された永久磁石23より多くなる。その結果、回転体20全体としては、回転力が阻害力を上回るので、回転体20は継続的に回転することができる。
【0040】
一方、図9に示すように、ケイ素鋼板24を省略すると、永久磁石23、33がすれ違う直前に、回転軸10の回転を阻害する反発力が生じる。その結果、図9の例では、回転体20全体としては、阻害力が回転力を上回って、回転体20は継続的に回転することができない。
【0041】
また、電流供給装置42は、回転軸10の回転を加速させる向きの磁力が発生するタイミングで、電磁石41にパルス電流を供給する。一例として、電流供給装置42は、回転軸10が回転する過程において、永久磁石23が電磁石41に対面する直前に、永久磁石23を吸引する向きの電流を電磁石41に供給すればよい。他の例として、電流供給装置42は、回転軸10が回転する過程において、永久磁石23が電磁石41を通過した直後に、永久磁石23を反発させる向きの電流を電磁石41に供給すればよい。
【0042】
永久磁石23の位置は、例えば、永久磁石23の位置(位相)を検知する位置センサ(例えば、ロータリエンコーダ)によって検知することができる。すなわち、電流供給装置42は、位置センサの検知結果に基づいて、永久磁石23が所定の位置に到達したことを認識し、そのタイミングで電磁石41に電流を供給すればよい。
【0043】
上記の実施形態によれば、例えば以下の作用効果を奏する。
【0044】
上記の実施形態によれば、永久磁石23の前端にケイ素鋼板24を取り付けたので、図6に示すように、永久磁石23、33がすれ違う直前のタイミングで互いに吸引し合って、回転軸10を回転させる向きの力を発生させる。これにより、回転力が阻害力を上回るので、回転軸10をスムーズに回転させることができる。
【0045】
なお、磁力の強い磁石を永久磁石23、33として採用すると、吸引力及び反発力の両方が増加する。しかしながら、上記の実施形態によれば、永久磁石23、33がすれ違う直前の反発力は吸引力に変換されるので、永久磁石23、33がすれ違う直前には強く吸引し合い、永久磁石23、33がすれ違った後は強く反発し合うことになる。
【0046】
また、上記の実施形態によれば、回転体20及び固定体30が有する永久磁石23、33の数を異ならせると共に、複数の回転体20a~20dで永久磁石23の位相を異ならせたので、複数の永久磁石23が阻害力を受けるタイミングを分散させることができる。これにより、コギングトルクを低減して、回転軸10をさらにスムーズに回転させることができる。
【0047】
また、上記の実施形態によれば、回転軸10の回転方向に対して、永久磁石23、33の磁化方向を傾斜させたので、回転力となる吸引力及び反発力を高めることができる。その結果、回転軸10をさらにスムーズに回転させることができる。
【0048】
また、上記の実施形態によれば、電磁石41及び電流供給装置42によって、回転軸10を加速させる向きの力を回転体20に付与するので、回転軸10をさらにスムーズに回転させることができる。なお、電磁石41に電流を付与するタイミングは、例えば、回転軸10の回転を開始するタイミングのみでもよいし、永久磁石23が所定の位置に到達する都度でもよい。また、電磁石41及び電流供給装置42は、省略可能である。
【0049】
また、上記の実施形態によれば、回転体20側にケイ素鋼板24を取り付けたので、回転体20の重量が増加する。これにより、回転体20の慣性力が大きくなる(すなわち、回転体20が所謂「フライホイール」として機能する。)ので、回転軸10をさらにスムーズに回転させることができる。
【0050】
さらに、上記の実施形態では、回転軸10の回転方向において、永久磁石23の長さを永久磁石33より長くした。これにより、永久磁石23は、すれ違った永久磁石33から受ける反発力が弱まる前に、次の永久磁石33から吸引力を受けることができる。その結果、回転体20を回転させる向きの力が生じない区間(図5で「0」を付加した区間)を短くすることができる。なお、永久磁石23、33の長さの関係は、回転体20及び固定体30に取り付けられる永久磁石23、33の数、回転体20及び固定体30の円周の長さ等によって、適宜調整される。
【0051】
[変形例1]
ケイ素鋼板の配置は、図5の例に限定されない。図10は、変形例1に係る回転体20及び固定体30を二次元平面に展開した状態を示す図である。なお、上記の実施形態との共通点の詳細な説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0052】
変形例1では、回転体20及び固定体30のうち、固定体30のみにケイ素鋼板34が設けられ、回転体20にはケイ素鋼板24が設けられていない点で、上記の実施形態と相違する。より詳細には、ケイ素鋼板34は、回転軸10の回転方向における固定体30の後端(回転軸10の回転方向の上流側)に設けられている。一方、回転体20のケイ素鋼板24(図5)の位置は、非磁性体25によって埋められている。
【0053】
変形例1によれば、永久磁石33の後端側の極性が反転するので、図6を用いて説明したように、永久磁石23、33がすれ違う直前に吸引し合う。その結果、回転軸10をスムーズに回転させることができる。
【0054】
このように、ケイ素鋼板24、34は、回転体20及び固定体30の一方にのみ設けられていればよい。さらに他の例として、図5に示す回転体20と、図10に示す固定体30とを組み合わせて、回転体20及び固定体30の両方にケイ素鋼板24、34が設けられていてもよい。この場合、周方向におけるケイ素鋼板24、34の厚みを互いに異ならせるのが望ましい。
【0055】
[変形例2]
また、ケイ素鋼板24、34の配置は、図5及び図10の例に限定されない。図11は、変形例2に係る回転体20及び固定体30を二次元平面に展開した状態を示す図であって、回転体20にのみケイ素鋼板24を設けた例である。図12は、変形例2に係る回転体20及び固定体30を二次元平面に展開した状態を示す図であって、固定体30にのみケイ素鋼板34を設けた例である。なお、上記の実施形態及び変形例1との共通点の詳細な説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0056】
図11に示す永久磁石23は、永久磁石A、Bの磁化方向が図5と逆向きである。すなわち、永久磁石Aの磁化方向は、回転軸10の回転方向に対して、回転体20の厚み方向の外向きに傾斜している。また、永久磁石Bの磁化方向は、回転軸10の回転方向と逆方向に対して、回転体20の厚み方向の中央向きに傾斜している。一方、永久磁石C、Dの磁化方向は、図5と同一である。図12についても同様である。
【0057】
図11及び図12の磁化方向の組み合わせは、永久磁石23、33がすれ違う直前に、互いに吸引し合って回転軸10を回転させる向きの力を発生させると共に、永久磁石23、33がすれ違った後に、互いに吸引し合って回転軸10の回転を阻害する。
【0058】
そこで、図11及び図12に示すように、永久磁石23、33の磁界の組み合わせが回転軸10の回転を阻害するタイミング(図11及び図12では、すれ違った後)で、永久磁石23、33の間に介在する位置に、ケイ素鋼板24を配置することによって、回転軸10をスムーズに回転させることができる。
【0059】
すなわち、図11に示すように、ケイ素鋼板24は、回転軸10の回転方向における永久磁石23の後端(回転軸10の回転方向の上流側)に配置される。また、図12に示すように、ケイ素鋼板34は、回転軸10の回転方向における永久磁石33の前端(回転軸10の回転方向の下流側)に配置される。
【0060】
但し、永久磁石23、33がすれ違った後の吸引力を反発力に変換する例(図11及び図12)は、永久磁石23、33がすれ違う前の反発力を吸引力に変換する例(図5及び図11)と比較すると、回転軸10を回転させる力は弱い。そのため、ケイ素鋼板24、34の配置は、図11及び図12の例より、図5及び図10の例の方が望ましい。
【0061】
なお、ケイ素鋼板24、34は、回転体20及び固定体30の一方にのみ設けられてもよいし、回転体20及び固定体30の両方に設けられてもよい。また、回転体20及び固定体30の両方にケイ素鋼板24、34を設ける場合には、ケイ素鋼板24、34の周方向に厚みを異ならせるのが望ましい。さらに、図5及び図10と、図11及び図12とで、永久磁石A、Bの磁化方向を逆転させることに代えて、永久磁石C、Dの磁化方向を逆転させてもよい。
【0062】
[変形例3]
なお、上記の実施形態及び変形例1、2では、複数の回転体20を回転軸10の軸方向に配列した例を説明した。しかしながら、複数の回転体20のレイアウトは前述の例に限定されない。以下、図13を参照して、変形例3に係る回転体20a、20b、20cのレイアウトを説明する。図13は、変形例3に係る円盤50の平面図である。なお、上記の実施形態との共通点の詳細な説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0063】
円盤50は、例えば、非磁性体で形成されている。円盤50は、直径の異なる複数の回転体20a、20b、20cを同心円状に一体化して構成されている。また、円盤50の中心には、回転軸10が挿通される貫通孔21が形成されている。例えば、円盤形状の非磁性体に複数の貫通孔を形成し、永久磁石23、ケイ素鋼板24、及び非磁性体25をこの貫通孔に収容することによって、円盤50を形成してもよい。ケイ素鋼板24及び非磁性体25は、図13では図示を省略しているが、図3と同様に配置される。
【0064】
円盤50の径方向に隣接する回転体20a、20bが有する永久磁石23は、周方向において位相が異なる。また、円盤50の径方向に隣接する回転体20b、20cが有する永久磁石23は、周方向において位相が異なる。一方、回転体20a、20cが有する永久磁石23は、周方向において、位相が同一でもよいし、位相が異なってもよい。
【0065】
また、永久磁石23の数は、複数の回転体20a、20b、20cのうちの外側ほど多くてもよい。また、周方向における永久磁石23の長さは、複数の回転体20a、20b、20cのうちの外側ほど長くてもよい。さらに、周方向に隣接する永久磁石23の間隔は、複数の回転体20a、20b、20cのうちの外側ほど大きくてもよい。
【0066】
さらに、図示は省略するが、一対の固定体30a、30bは、回転軸10の軸方向において、円盤50を挟むように配置される。固定体30a、30bの構成は、図4と共通するが、回転体20a、20b、20cそれぞれの永久磁石23と対面するように、永久磁石33が径方向に長くなる。
【0067】
変形例3によれば、マグネットモータ1の軸方向の寸法を小さくしつつ、コギングトルクを低減することができる。また、複数の回転体20を軸方向に配列するのと比較して、部品点数を少なくすることができるので、マグネットモータ1の製造コストを低減する効果も期待できる。
【符号の説明】
【0068】
1…マグネットモータ、10…回転軸、20…回転体、22…円板、23…永久磁石(第1永久磁石)、24,34…ケイ素鋼板、25,35…非磁性体、30…固定体、33…永久磁石(第2永久磁石)、40…カラー、41…電磁石、42…電流供給装置、50…円盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13