(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】除染システム及び除染方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20220720BHJP
【FI】
G21F9/28 501A
G21F9/28 501Z
G21F9/28 521Z
(21)【出願番号】P 2020062974
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000204000
【氏名又は名称】太平電業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】佐山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 智久
(72)【発明者】
【氏名】砂川 武義
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-015658(JP,A)
【文献】特開2019-015659(JP,A)
【文献】特開2004-045079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、ホウ砂と、還元性単糖・少糖とを含む除染剤を用いて被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染システムであって、
前記除染剤と前記被除染対象物を格納し、スリット壁により第1の部屋と第2の部屋とに区切られた容器と、
前記第1の部屋においてゲル状の前記除染剤により前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させる分離手段と、
前記被除染対象物から前記放射性物質が分離された後に、前記容器内の前記ゲル状の除染剤を液状化させる液状化剤を投入する液状化手段と、
前記液状化剤により前記除染剤が液状化され、前記放射性物質が前記第2の部屋に貯留された後に、前記第2の部屋から前記放射性物質を含む前記液状の除染剤を排出する排出手段と、
前記第2の部屋から排出された前記放射性物質を含む前記液状の除染剤から前記放射性物質を除去する除去手段と、
前記除去手段により前記放射性物質が除去処理された前記液状の除染剤を前記容器に送還する送還手段と、
前記送還手段が前記液状の除染剤を前記容器に送還した後に、前記容器内の前記液状の除染剤をゲル状化させるゲル状化剤を投入するゲル状化手段と、
を備えることを特徴とする除染システム。
【請求項2】
グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、ホウ砂と、還元性単糖・少糖とを含む除染剤を用いて被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染システムであって、
前記除染剤と前記被除染対象物を格納し、スリット壁により第1の部屋と第2の部屋とに区切られた容器と、
前記第1の部屋において、液状の前記除染剤と、前記液状の除染剤をゲル状化させるゲル状化剤とを攪拌しつつ、前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させる分離手段と、
前記被除染対象物から前記放射性物質が分離された後に、前記容器内のゲル状の除染剤を液状化させる液状化剤を投入する液状化手段と、
前記液状化剤により前記除染剤が液状化され、前記放射性物質が前記第2の部屋に貯留された後に、前記第2の部屋から前記放射性物質を含む前記液状の除染剤を排出する排出手段と、
前記第2の部屋から排出された前記放射性物質を含む前記液状の除染剤から前記放射性物質を除去する除去手段と、
前記除去手段により前記放射性物質が除去処理された前記液状の除染剤を前記容器に送還する送還手段と、
を備えることを特徴とする除染システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の除染システムであって、
前記スリット壁は、開閉式のスリット壁であり、前記分離手段が前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させている際に開状態であることを特徴とする除染システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の除染システムであって、
前記スリット壁は、開閉式のスリット壁であり、前記除染剤が液状化され、前記放射性物質が前記第2の部屋に貯留された後に閉じられ、
前記排出手段は、前記開閉式のスリット壁が閉じられた後に、前記第2の部屋から前記放射性物質を含む前記液状の除染剤を排出することを特徴とする除染システム。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の除染システムであって、
前記容器内の前記除染剤を攪拌する攪拌手段を備え、
前記攪拌手段は、
前記液状化剤が投入された後に、前記容器内の前記除染剤を攪拌する、及び、前記ゲル状化剤が投入された後に、前記容器内の前記除染剤を攪拌する、の少なくとも何れか一方を行うことを特徴とする除染システム。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の除染システムであって、
前記分離手段は、前記容器内の前記ゲル状の除染剤を振動させて、前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させることを特徴とする除染システム。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の除染システムであって、
前記分離手段は、前記容器を回転させて、前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させることを特徴とする除染システム。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の除染システムであって、
前記液状化剤は、ホウ酸水溶液に果糖を加えた混合水溶液、又は、クエン酸水溶液であることを特徴とする除染システム。
【請求項9】
請求項1乃至
8の何れか一項に記載の除染システムであって、
前記ゲル状化剤は、水酸化リチウム水溶液又は水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする除染システム。
【請求項10】
グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、ホウ砂と、還元性単糖・少糖とを含む除染剤と、スリット壁により第1の部屋と第2の部屋に区切られた容器と、を用いて被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染方法であって、
前記除染剤が格納されている容器における前記第1の部屋に前記被除染対象物を投入する投入工程と、
前記第1の部屋においてゲル状の前記除染剤により前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させる分離工程と、
前記被除染対象物から前記放射性物質が分離された後に、前記容器内の前記ゲル状の除染剤を液状化させる液状化工程と、
前記除染剤が液状化し、前記放射性物質が前記第2の部屋に貯留された後に、前記第2の部屋から前記放射性物質を含む前記液状の除染剤を排出する排出工程と、
前記第2の部屋から排出された前記放射性物質を含む前記液状の除染剤から前記放射性物質を除去する除去工程と、
前記除去工程により前記放射性物質が除去処理された前記液状の除染剤を前記容器に送還する送還工程と、
前記送還工程により前記液状の除染剤を前記容器に送還した後に、前記容器内の前記液状の除染剤をゲル状化させるゲル状化工程と、
を含むことを特徴とする除染方法。
【請求項11】
グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、ホウ砂と、還元性単糖・少糖とを含む除染剤と、スリット壁により第1の部屋と第2の部屋に区切られた容器と、を用いて被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染方法であって、
液状の前記除染剤が格納されている容器における前記第1の部屋に前記被除染対象物を投入する投入工程と、
前記第1の部屋において前記液状の前記除染剤と、前記液状の除染剤をゲル状化させるゲル状化剤とを攪拌しつつ、前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させる分離工程と、
前記被除染対象物から前記放射性物質が分離された後に、前記容器内のゲル状の除染剤を液状化させる液状化工程と、
前記除染剤が液状化し、前記放射性物質が前記第2の部屋に貯留された後に、前記第2の部屋から前記放射性物質を含む前記液状の除染剤を排出する排出工程と、
前記第2の部屋から排出された前記放射性物質を含む前記液状の除染剤から前記放射性物質を除去する除去工程と、
前記除去工程により前記放射性物質が除去処理された前記液状の除染剤を前記容器に送還する送還工程と、
を含むことを特徴とする除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被除染対象物に付着した放射性物質を、除染剤を用いて除去する除染システム等に関するものである、
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の原子力関連施設においては、機械の分解、点検作業、解体撤去作業及び放射性物質の除染等の作業等によって、例えば、周辺の構造物の表面が、コバルト60、マンガン54等の放射性物質によって汚染される事態が起こる可能性がある。
【0003】
構造物の表面に付着した放射性物質は、放射線を出し続けるので、作業従業者等が放射線被曝する。
【0004】
放射性物質が付着した被除染対象物を除染する方法の一つとして、乾式ではブラスト除染(被除染対象物にブラスト材(粒体)を衝突させて、表面に付着した放射性物質を取り除く除染方法)がある。
【0005】
一方、湿式として構造物の表面に高圧水をまんべんなく吹き付けて洗浄する高圧水洗浄は、多大な時間と労力を要する。また、洗浄作業後の汚染廃液の回収にも多大な時間と労力を要する。さらに、汚染廃液が周囲に流出したり、地下に浸透したりして、二次汚染を招くおそれもある。
【0006】
そこで、上記問題を解決する除染方法として、被除染表面にゲル状の除染剤の被膜を形成し、放射性物質を内包した除染剤を被除染表面から剥離し、除去する方法が提案されている。
【0007】
そして、特許文献1には、この方法に用いることができる除染剤であって、除染作業が容易に行え、生分解性であることから後処理が容易で、しかも、再使用可能な除染剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の除染剤を用いて作業員が手作業で除染作業をする場合、被爆のおそれもあり、また、大量の被除染対象物を除染するのに膨大な時間が掛かってしまう。
【0010】
本発明は、こうした事情に鑑み、被除染対象物の除染作業に関して、作業者が被爆する可能性と作業時間を大幅に削減することができる除染システム等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記課題を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0012】
請求項1記載の発明は、グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、ホウ砂と、還元性単糖・少糖とを含む除染剤を用いて被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染システムであって、前記除染剤と前記被除染対象物を格納し、スリット壁により第1の部屋と第2の部屋とに区切られた容器と、前記第1の部屋においてゲル状の前記除染剤により前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させる分離手段と、前記被除染対象物から前記放射性物質が分離された後に、前記容器内の前記ゲル状の除染剤を液状化させる液状化剤を投入する液状化手段と、前記液状化剤により前記除染剤が液状化され、前記放射性物質が前記第2の部屋に貯留された後に、前記第2の部屋から前記放射性物質を含む前記液状の除染剤を排出する排出手段と、前記第2の部屋から排出された前記放射性物質を含む前記液状の除染剤から前記放射性物質を除去する除去手段と、前記除去手段により前記放射性物質が除去処理された前記液状の除染剤を前記容器に送還する送還手段と、前記送還手段が前記液状の除染剤を前記容器に送還した後に、前記容器内の前記液状の除染剤をゲル状化させるゲル状化剤を投入するゲル状化手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、ホウ砂と、還元性単糖・少糖とを含む除染剤を用いて被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染システムであって、前記除染剤と前記被除染対象物を格納し、スリット壁により第1の部屋と第2の部屋とに区切られた容器と、前記第1の部屋において、液状の前記除染剤と、前記液状の除染剤をゲル状化させるゲル状化剤とを攪拌しつつ、前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させる分離手段と、前記被除染対象物から前記放射性物質が分離された後に、前記容器内のゲル状の除染剤を液状化させる液状化剤を投入する液状化手段と、前記液状化剤により前記除染剤が液状化され、前記放射性物質が前記第2の部屋に貯留された後に、前記第2の部屋から前記放射性物質を含む前記液状の除染剤を排出する排出手段と、前記第2の部屋から排出された前記放射性物質を含む前記液状の除染剤から前記放射性物質を除去する除去手段と、前記除去手段により前記放射性物質が除去処理された前記液状の除染剤を前記容器に送還する送還手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の除染システムであって、前記スリット壁は、開閉式のスリット壁であり、前記分離手段が前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させている際に開状態であることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一項に記載の除染システムであって、前記スリット壁は、開閉式のスリット壁であり、前記除染剤が液状化され、前記放射性物質が前記第2の部屋に貯留された後に閉じられ、前記排出手段は、前記開閉式スリットが閉じられた後に、前記第2の部屋から前記放射性物質を含む前記液状の除染剤を排出することを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一項に記載の除染システムであって、前記容器内の前記除染剤を攪拌する攪拌手段を備え、前記攪拌手段は、前記液状化剤が投入された後に、前記容器内の前記除染剤を攪拌する、及び、前記ゲル状化剤が投入された後に、前記容器内の前記除染剤を攪拌する、の少なくとも何れか一方を行うことを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れか一項に記載の除染システムであって、前記分離手段は、前記容器内の前記ゲル状の除染剤を振動させて、前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至5の何れか一項に記載の除染システムであって
、前記分離手段は、前記容器を回転させて、前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7の何れか一項に記載の除染システムであって、 前記液状化剤は、ホウ酸水溶液に果糖を加えた混合水溶液、又は、クエン酸水溶液であることを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8の何れか一項に記載の除染システムであって、前記ゲル状化剤は、水酸化リチウム水溶液又は水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする。
【0022】
請求項10に記載の発明は、グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、ホウ砂と、還元性単糖・少糖とを含む除染剤と、スリット壁により第1の部屋と第2の部屋に区切られた容器と、を用いて被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染方法であって、前記除染剤が格納されている容器における前記第1の部屋に前記被除染対象物を投入する投入工程と、前記第1の部屋においてゲル状の前記除染剤により前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させる分離工程と、前記被除染対象物から前記放射性物質が分離された後に、前記容器内の前記ゲル状の除染剤を液状化させる液状化工程と、前記除染剤が液状化し、前記放射性物質が前記第2の部屋に貯留された後に、前記第2の部屋から前記放射性物質を含む前記液状の除染剤を排出する排出工程と、前記第2の部屋から排出された前記放射性物質を含む前記液状の除染剤から前記放射性物質を除去する除去工程と、前記除去工程により前記放射性物質が除去処理された前記液状の除染剤を前記容器に送還する送還工程と、前記送還工程により前記液状の除染剤を前記容器に送還した後に、前記容器内の前記液状の除染剤をゲル状化させるゲル状化工程と、を含むことを特徴とする。
【0023】
請求項11に記載の発明は、グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、ホウ砂と、還元性単糖・少糖とを含む除染剤と、スリット壁により第1の部屋と第2の部屋に区切られた容器と、を用いて被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染方法であって、液状の前記除染剤が格納されている容器における前記第1の部屋に前記被除染対象物を投入する投入工程と、前記第1の部屋において前記液状の前記除染剤と、前記液状の除染剤をゲル状化させるゲル状化剤とを攪拌しつつ、前記被除染対象物から前記放射性物質を分離させる分離工程と、前記被除染対象物から前記放射性物質が分離された後に、前記容器内のゲル状の除染剤を液状化させる液状化工程と、前記除染剤が液状化し、前記放射性物質が前記第2の部屋に貯留された後に、前記第2の部屋から前記放射性物質を含む前記液状の除染剤を排出する排出工程と、前記第2の部屋から排出された前記放射性物質を含む前記液状の除染剤から前記放射性物質を除去する除去工程と、前記除去工程により前記放射性物質が除去処理された前記液状の除染剤を前記容器に送還する送還工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、被除染対象物の除染時に作業者が直接被除染対象物に触れる必要が無く、機械的に除染処理を行うことができることから、被除染対象物の除染作業に関して、作業者が被爆する可能性と作業時間を大幅に削減することができる。また、乾式のブラスト除染で、表層を削り取った際に被除染対象物の表面に粉状に残って付着した残り滓を洗浄する際にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】被除染対象物を除染する際のステップ1時の除染システムの状態を示す図である。
【
図3】被除染対象物を除染する際のステップ2時の除染システムの状態を示す図である。
【
図4】被除染対象物を除染する際のステップ3時の除染システムの状態を示す図である。
【
図5】被除染対象物を除染する際のステップ4時の除染システムの状態を示す図である。
【
図6】他の除染システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
まず、
図1を用いて、本実施形態に係る除染システム100の構成について説明する。
【0028】
除染システム100は、除染容器1を有し、除染容器1内において放射性物質が付着した被除染対象物を除染剤により除染する。
【0029】
ここで、本実施形態の除染剤について説明する。除染剤は、グアガム(Guar Gum)、タラガム(Tara Gum)、コンニャク粉の少なくとも1つと、これらの架橋剤としてのホウ砂、および、還元性単糖・少糖とを含むものからなっている。
【0030】
ホウ砂は、グアガム分子間を繋ぐ架橋反応を促進させて、ゲル状除染剤の剛性を高める作用を有している。しかし、グアガムにホウ砂を加えると、ゲル状除染剤の剛性は、高まる反面、流動性が低下する。
【0031】
そこで、還元性単糖・少糖をさらに加えることによって、ゲル状除染剤の剛性および流動性の両方を向上させている。
【0032】
除染剤は、例えば、水50mlに0.5gのグアガムを添加し、攪拌し、静置して膨潤させる。次いで、ほう砂糖液(ほう砂10wt%と果糖13wt%)を添加し、攪拌することによって、製造することができる(この製造方法を「製造方法1」という)。
【0033】
このように製造される除染剤の粘度は、還元性単糖・少糖の添加量を変えることによって調整することができる。
【0034】
ゲル状の除染剤を放射性物質が付着した被除染対象物の表面に接着させ、除去することにより被除染対象物を除染することができる。
【0035】
ゲル状の除染剤は、液状化剤を用いて液状化させることができる。液状化剤としては、例えば、ホウ酸水溶液に果糖を加えた混合水溶液、又は、クエン酸水溶液を採用することができる。ゲル状の除染剤を液状化させる際には、液状化剤を加えた後に攪拌することにより液状化を促進させることができる。
【0036】
例えば、上記製造方法1により製造したゲル状の除染剤に、ホウ酸4.63wt%、果糖7.41wt%の水溶液(pH3.5)を作製し、この水溶液約20gをゲル状の除染剤に加え、攪拌することによって、ゲル状の除染剤を液状化することができる(この液状化方法を「液状化方法1」という)。
【0037】
また、例えば、上記製造方法1により製造したゲル状の除染剤に、pH3.3程度に調整したクエン酸水溶液を作製し、このクエン酸水溶液約8gをゲル状の除染剤に加え、攪拌することによって、ゲル状の除染剤を液状化することができる(この液状化方法を「液状化方法2」という)。
【0038】
その一方で、この液状化した除染剤は、ゲル状化剤を用いてゲル状化させることができる。ゲル状化剤としては、例えば、水酸化リチウム水溶液又は水酸化ナトリウム水溶液を採用することができる。液状の除染剤をゲル状化させる際には、ゲル状化剤を加えた後に攪拌することによりゲル状化を促進させることができる。
【0039】
例えば、上記液状化方法1、液状化方法2により液状化した液状の除染剤に、1mol/LNaOHを約10g加え、攪拌することによって、液状化した除染剤を再ゲル状化することができる。
【0040】
このように、除染剤Dは水素イオン指数(pH)によってゲル状から液状の何れの状態にあるかをゲル硬度という。ゲル硬度が高ければゲル状であることを示し、ゲル硬度が低ければ液状であることを示す。
【0041】
この除染剤を使用することにより、放射性物質を内包したゲル状の使用済みの除染剤を液状化し、この後、液状化した使用済みの除染剤から放射性物質を分離、除去し、この後、液状化した使用済みの除染剤を、再度、ゲル状化することによって、使用済みの除染剤の再使用が可能となる。この結果、除染コストの低減を図ることができる。また、この除染剤は、生分解性であり、処理が面倒な薬品等が使用されていないので、後処理が容易に行える。
【0042】
除染システム100は、除染容器1の他に、スリット開閉用モーター11、放射性物質除去器13、一時仮受タンク14、液状化剤貯留タンク15と、ゲル状化剤貯留タンク16と、純水貯留タンク17と、バルブ12、18A-18F(バルブ18A-18Fは逆止弁)、センサーS、マイコン9及び中央制御装置(例えば、PC)10を有する。
【0043】
除染容器1は、上述した除染剤の原料となるグアガム等や架橋剤を投入するための投入口2、3が設けられている。除染容器1は、除染処理前まで除染剤により満たされる。
【0044】
除染容器1は開閉式スリット壁5が設けられている。除染容器1は、開閉式スリット壁5により、第1の部屋1Aと、第2の部屋1Bとに区切られる。開閉式スリット壁5は、スリット開閉用モーター11により駆動され、開状態と閉状態に制御される。
【0045】
第1の部屋1Aは、被除染対象物が投入される部屋である。第1の部屋1Aには、超音波発生器4が設けられている。超音波発生器4は、超音波を発生して第1の部屋1A内にあるゲル状の除染剤と被除染対象物を振動させることにより、被除染対象物に付着した放射性物質を分離させる。また、超音波発生器4は、除染容器1内の除染剤を攪拌する役割も担う。
【0046】
第2の部屋1Bは、第1の部屋1Aの下方に位置している。放射性物質を含んだゲル状の除染剤が液状化されると、放射性物質は第2の部屋1Bに沈殿し、放射性物質を含んだ液状の除染剤が第2の部屋1Bに貯留される。
【0047】
第2の部屋1Bには、排出口8が設けられ、排出口8はバルブ12により開閉される。バルブ12が開状態になると、放射性物質を含んだ液状の除染剤が第2の部屋1Bから排出される。
【0048】
第2の部屋1Bから排出された放射性物質を含んだ液状の除染剤は、放射性物質及び不純物(以下、「放射性物質等」という場合がある)を除去する機構である放射性物質除去器13に移送される。放射性物質除去器13は、例えば、フィルターや遠心分離機などで構成され、液状の除染剤から放射性物質等を除去する。なお、放射性物質等を除去する方法として濾過法、比重差による沈殿分離法等を用いたり、化学的に析出させたりする方法を実現する放射性物質除去器13を採用してもよい。
【0049】
放射性物質除去器13により放射性物質等が除去された液状の除染剤は、一時仮受タンク14に移送される。一時仮受タンク14にはポンプPと、その先にバルブ18Aが設けられている。バルブ18Aを開状態にし、ポンプPを駆動させると、一時仮受タンク14の放射性物質等が除去済みの液状の除染剤は、除染容器1のバルブ18E、18Fを介して、投入口6、7から除染容器1に投入される。つまり、除染容器1から排出された液状の除染剤は、放射性物質除去器13により放射性物質等が除去され、一時仮受タンク14を介して、除染容器1に送還される。
【0050】
液状の除染剤が除染容器1に送還されると、除染容器1内の液状の除染剤は再度ゲル状化される。これにより、除染システム100は、繰り返し被除染対象物を除染することができる。
【0051】
液状化剤貯留タンク15は液状化剤(例えば、ホウ酸水溶液に果糖を加えた混合水溶液)を貯留し、ゲル状化剤貯留タンク16はゲル状化剤(例えば、水酸化リチウム)を貯留し、純水貯留タンク17は純水を貯留する。タンク15、16、17について、ポンプPとバルブ18B、18C、18Dがそれぞれ設けられており、液状化剤、ゲル状化剤及び純水が適宜、バルブ18E、18Fを介して投入口6、7から投入され、除染容器1内において除染剤のゲル硬度が調整される。なお、純水は、除染システム100の配管等の洗浄やゲルの原材料(但し、除染剤はpHをアルカリ性に移行させることにより固くすることができる)として用いられる。
【0052】
センサーS及びマイコン9は、第1の部屋1A、第2の部屋1B、一時仮受タンク14、液状化剤貯留タンク15、ゲル状化剤貯留タンク16、純水貯留タンク17のそれぞれについて設けられ、センサーSがそれぞれの内部の様子等を検知し、マイコン9がその様子等を示す情報を中央制御装置10に送信する。
【0053】
中央制御装置10は、マイコン9から受信する情報や、オペレータからの入力操作に基づいて、超音波発生器4のON/OFF、放射性物質除去器13のON/OFF、ポンプPのON/OFF、バルブ12、18A-18Fの開閉、スリット開閉用モーター11による開閉式スリット壁5の開閉等を制御する。
【0054】
次に、
図2-5を用いて、除染システム100が被除染対象物を除染する際の動作をステップ1からステップ4に分けて説明する。
【0055】
[ステップ1]
図2を用いてステップ1について説明する。ステップ1を開始するに当たって、開閉式スリット壁5は開状態としておき、バルブ12、18A-18Fは全て閉状態とする。また、除染容器1をゲル状の除染剤Dにより満たす。
【0056】
この準備ができたらまず、第1の部屋1Aに被除染対象物200を投入する(「投入工程」の一例)。
【0057】
次に、中央制御装置10は、超音波発生器4を駆動させることにより超音波を発生させ、ゲル状の除染剤Dと被除染対象物200を振動させて、被除染対象物200に付着している放射性物質を分離させる(「分離工程」の一例)。
【0058】
[ステップ2]
次に、
図3を用いてステップ2について説明する。ステップ1により、被除染対象物200から放射性物質が分離したら、次いで、除染容器1内のゲル状の除染剤Dを液状化させる(「液状化工程」の一例)。具体的には、中央制御装置10は、除染容器1のセンサーSからの情報等に基づいて除染容器1内の除染剤Dのゲル硬度を特定しつつ、除染剤Dが所定のゲル硬度に液状化されるようにバルブ18Bを開状態とし、液状化剤貯留タンク15から液状化剤を除染容器1内に投入する。なお、液状化が進み過ぎた場合には、バルブ18Cを開状態とし、ゲル状化剤貯留タンク16はゲル状化剤を投入しゲル硬度を調整する。なお、液状化剤又はゲル状化剤を投入した際には、超音波発生器4により超音波を発生させ、除染剤Dを攪拌することにより満遍なくゲル硬度を調整できる。
【0059】
除染剤Dのゲル硬度が所定のゲル硬度の液状になったら、全てのバルブ12、18A-18Fを閉状態とする。除染容器1内の除染剤Dが液状化されると、比重の大きな放射性物質は開閉式スリット壁5を通って、第2の部屋1Bに貯留される。
【0060】
[ステップ3]
次に、
図4を用いてステップ3について説明する。ステップ2により、放射性物質が第2の部屋1Bに十分貯留されたら、中央制御装置10は、スリット開閉用モーター11を制御して、開閉式スリット壁5を閉状態とする。次に、バルブ12を開状態とし、第2の部屋1Bから液状の除染剤Dを排出し、放射性物質除去器13に移送する(「排出工程」の一例)。
【0061】
放射性物質除去器13は液状の除染剤Dから放射性物質を除去し(「除去工程」の一例)、除去処理済みの除染剤Dを一時仮受タンク14に移送する。なお、第2の部屋1Bから除染剤Dの排出が完了したら、バルブ12を閉状態とする。
【0062】
[ステップ4]
次に、
図5を用いてステップ4について説明する。ステップ4では、バルブ18Aを開状態とし、一時仮受タンク14から放射性物質等が除去処理済みの除染剤Dを除染容器1内に送還する(「送還工程」の一例)。一時仮受タンク14から送還される除染剤Dでは除染容器1を十分に満たせない場合には、投入口2、3から除染剤Dの原料であるグアガム等や架橋剤を投入して量を調整する。
【0063】
次いで、除染容器1内の液状の除染剤Dをゲル状化させる(「ゲル状化工程」の一例)。具体的には、中央制御装置10は、除染容器1のセンサーSからの情報等に基づいて除染容器1内の除染剤Dのゲル硬度を特定しつつ、除染剤Dが所定のゲル硬度にゲル状化されるようにバルブ18Cを開状態とし、ゲル状化剤貯留タンク16からゲル状化剤を除染容器1内に投入する。なお、ゲル状化が進み過ぎた場合には、バルブ18Bを開状態とし、液状化剤貯留タンク15は液状化剤を少量ずつ投入しゲル硬度を調整する。なお、ゲル状化剤又は液状化剤を投入した際には、超音波発生器4により超音波を発生させ、除染剤Dを攪拌することにより満遍なくゲル硬度を調整できる。
【0064】
除染容器1内の除染剤Dがゲル状化されたら、第1の部屋1Aから被除染対象物200を取り出す。ゲル状化させてから被除染対象物200を取り出す目的は、被除染対象物200を取り出す際に液状の除染剤Dがしたたり落ちて、飛散(汚染拡大防止)させないためである。これにより、被除染対象物200の除染が完了する。なお、開閉式スリット壁5はステップ4の何れかのタイミングで開状態とする。
【0065】
以上説明したように、本実施形態の除染システム100は、グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、ホウ砂と、還元性単糖・少糖とを含む除染剤Dを用いて被除染対象物200に付着した放射性物質を除去するため、除染剤Dと被除染対象物200を格納し、開閉式スリット壁5(「スリット壁」の一例)により第1の部屋1Aと第2の部屋1Bとに区切られた除染容器1(「容器」の一例)と、第1の部屋1Aにおいてゲル状の除染剤Dにより被除染対象物200から放射性物質を分離させる超音波発生器4(「分離手段」の一例)と、被除染対象物200から放射性物質が分離された後に、除染容器1内のゲル状の除染剤Dを液状化させる液状化剤を投入する中央制御装置10及び液状化剤貯留タンク15のポンプP(「液状化手段」の一例)と、液状化剤により除染剤Dが液状化され、放射性物質が第2の部屋1Bに貯留された後に、第2の部屋1Bから放射性物質を含む液状の除染剤Dを排出する排出口8及びバルブ12(「排出手段」の一例)と、第2の部屋1Bから排出された放射性物質を含む液状の除染剤Dから放射性物質を除去する放射性物質除去器13(「除去手段」の一例)と、放射性物質除去器13により放射性物質が除去処理された液状の除染剤Dを除染容器1に送還する中央制御装置10及び一時仮受タンク14のポンプP(「送還手段」の一例)と、中央制御装置10及び一時仮受タンク14のポンプPが液状の除染剤Dを除染容器1に送還した後に、除染容器1内の液状の除染剤Dをゲル状化させるゲル状化剤を投入する中央制御装置10及びゲル状化剤貯留タンク16のポンプP(「ゲル状化手段」の一例)と、を有する。
【0066】
したがって、本実施形態の除染システム100によれば、被除染対象物200の除染時に作業者が直接、被除染対象物200に触れる必要が無く、機械的に除染処理を行うことができることから、被除染対象物200の除染作業に関して、作業者が被爆する可能性と作業時間を大幅に削減することができる。
【0067】
また、本実施形態の除染システム100は、超音波発生器4(「攪拌手段」の一例)が、液状化剤が投入された後に、除染容器1内の除染剤Dを攪拌する、及び、ゲル状化剤が投入された後に、除染容器1内の除染剤Dを攪拌する、の少なくとも何れか一方を行うこととすることができる。これにより、ゲル状の除染剤Dの液状化を促進させたり、液状の除染剤Dのゲル状化を促進させたりすることができる。
【0068】
なお、本実施形態では、超音波発生器4が第1の部屋1A内にあるゲル状の除染剤Dと被除染対象物200を振動させることにより、被除染対象物200に付着した放射性物質を分離させたり、除染容器1内の除染剤Dを攪拌したりすることとしたが、超音波発生器4に代えて、又は加えて、同様の作用を実現する、例えばフィンを有する攪拌機を除染容器1に設けることとしてもよい。
【0069】
また、除染容器1を回転させる回転機構を設けて、ステップ1においてゲル状の除染剤Dと被除染対象物200が入った除染容器1を回転させることにより、被除染対象物200に付着している放射性物質を分離させることとしてもよい。なお、回転機構が除染容器1を回転させる軸は直交する2軸、3軸又はそれ以上とすることとしてもよい。除染容器1に回転機構を設ける場合、放射性物質が遠心力により第2の部屋1Bに貯留されるように除染容器1を開閉式スリット壁5により区切ることとする。開閉式スリット壁5は、回転機構が除染容器1を回転させている際に開状態とし、遠心力により放射性物質が第2の部屋1Bに十分に貯留されたら閉状態として、回転終了後に放射性物質が第1の部屋1Aに移動することを防ぐこととする。なお、回転終了後の放射性物質の移動を防ぐために、開閉式スリット壁5の代わりに、第1の部屋1Aから第2の部屋1Bの一方向にしか放射性物質を通さない一方向透過壁を設けることとしてもよい。
【0070】
さらに、本実施形態では、ステップ1において、第1の部屋1Aにおいて、ゲル状の除染剤Dにより被除染対象物200に付着している放射性物質を分離させることとしたが、第1の部屋1Aにおいて、液状の除染剤Dとゲル状化剤とを攪拌しつつ、被除染対象物200から放射性物質を分離させることとしてもよい。例えば、液状の除染剤Dで満たされた除染容器1に被除染対象物200とゲル状化剤を投入し(投入順序は任意)、次いで、超音波発生器4を駆動させることにより超音波を発生させ、液状の除染剤Dとゲル状化剤を攪拌してゲル状化を促進させつつ、被除染対象物200に付着している放射性物質を分離させることとしてもよい。この場合、ステップ4において、放射性物質が除染処理済みの除染剤Dを除染容器1に送還した後に、液状の除染剤Dをゲル状化させずに液状のままとしておくのが好ましい。
【0071】
さらにまた、本実施形態では、除染容器1を開閉式スリット壁5により、第1の部屋1Aと、第2の部屋1Bとに区切ることとしたが、
図6に示すように、開閉式スリット壁5の代わりにスリット21(常に開状態のスリット)を設けることとしてもよい。
図6では、開閉式スリット壁5が設けられていないため、開閉式スリット壁5に対応するスリット開閉用モーター11及びマイコン9も設けられていない。なお、開閉式スリット壁5の代わりにスリット21を設けた場合における、除染システム100が被除染対象物を除染する際の動作は、開閉式スリット壁5の開閉を行わない点を除いて開閉式スリット壁5を設けた場合と同様である。
【符号の説明】
【0072】
1 除染容器
1A 第1の部屋
1B 第2の部屋
2 投入口
3 投入口
4 超音波発生器
5 開閉式スリット壁
6 投入口
7 投入口
8 排出口
9 マイコン
10 中央制御装置
11 スリット開閉用モーター
12 バルブ
13 放射性物質除去器
14 一時仮受タンク
15 液状化剤貯留タンク
16 ゲル状化剤貯留タンク
17 純水貯留タンク
18 バルブ
100 除染システム
200 被除染対象物
D 除染剤
S センサー
P ポンプ