(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】トナーバインダー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20220720BHJP
【FI】
G03G9/087 325
(21)【出願番号】P 2020154617
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2019196991
(32)【優先日】2019-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篠原 修一
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-219646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖状炭化水素基の炭素数が18~24の(メタ)アクリレートである単量体(a)と、
以下の関係式(1)を満たす単量体(x)とを構成単量体とする重合体(A)を含むトナーバインダーであり、
前記重合体(A)が架橋構造を有し、
前記重合体(A)のキシレン不溶分が7~30重量%であり、前記重合体(A)が以下の関係式(2)を満たすトナーバインダー。
関係式(1):{(dP)
2+(dH)
2}
0.5≧8.3
[関係式(1)において、(dP)は前記単量体(x)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の極性項であり、(dH)は前記単量体(x)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項である。]
関係式(2):Tm-Tg≧10
[関係式(2)において、Tmは、DSC測定による吸熱ピークのピークトップ温度(℃)であり、Tgは、DSC測定によるガラス転移温度(℃)である。]
【請求項2】
前記重合体(A)のDSC測定によるガラス転移温度が45℃以下である請求項1に記載のトナーバインダー。
【請求項3】
前記重合体(A)が関係式(3)を満たす請求項1又は2に記載のトナーバインダー。
関係式(3):8.0×10
5≦G’(40)≦1.5×10
8
[関係式(3)において、G’(40)は、粘弾性測定による40℃の貯蔵弾性率(Pa)である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
トナーの低温定着性、保存性を満たす方法として、結晶性樹脂を使用する技術が提案されている(特許文献1)。しかしながら、結晶性樹脂は、長期の保存性や高温高湿下では加水分解による分子量の低下が起こり、特に酸価付与した時には分子量の減少が顕著であるという問題がある。さらに、結晶性樹脂は高価なため、非晶性樹脂(例えばポリエステルやポリスチレンなど)との併用や非晶性単量体との共重合によりコストを抑えて使用するのが一般的であるが、酸価を有する上記非晶性樹脂との併用により、上記の結晶性樹脂に加水分解が起こるという問題がある。一方で耐加水分解性に優れるビニル系ポリマーに結晶性を付与して用いる技術も提案されている(参考文献2)。但し、この場合においても側鎖のアルキル基は、特定の高温高湿条件下では加水分解が生じ、樹脂の特性が変化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-077419号公報
【文献】国際公開第2018/110593号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、低温定着性、高温高湿下での保存性、耐加水分解性に優れたトナーバインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらの問題点を解決するべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、鎖状炭化水素基の炭素数が18~24の(メタ)アクリレートである単量体(a)と、以下の関係式(1)を満たす単量体(x)とを構成単量体とする重合体(A)を含むトナーバインダーであり、前記重合体(A)が架橋構造を有し、前記重合体(A)のキシレン不溶分が7~30重量%であり、前記重合体(A)が以下の関係式(2)を満たすトナーバインダーである。
関係式(1):{(dP)2+(dH)2}0.5≧8.3
[関係式(1)において、(dP)は前記単量体(x)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の極性項であり、(dH)は前記単量体(x)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項である。]
関係式(2):Tm-Tg≧10
[関係式(2)において、Tmは、DSC測定による吸熱ピークのピークトップ温度(℃)であり、Tgは、DSC測定によるガラス転移温度(℃)である。]
【発明の効果】
【0006】
本発明により、低温定着性、高温高湿下での保存性、耐加水分解性に優れたトナーバインダーを提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のトナーバインダーは、重合体(A)を含むトナーバインダーである。
重合体(A)は、単量体(a)と単量体(x)とを構成単量体とする重合体であり、上記単量体(a)が、鎖状炭化水素基の炭素数が18~24の(メタ)アクリレートであり、上記単量体(x)が上記の関係式(1)を満たす。また、上記重合体(A)が架橋構造を有し、重合体(A)が上記の関係式(2)を満たす。
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び/又は「メタクリレート」を意味する。
【0008】
前記の単量体(a)は、鎖状炭化水素基の炭素数が18~24の(メタ)アクリレートである。
鎖状炭化水素基の炭素数が18~24の(メタ)アクリレートとしては、炭素数18~24の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレート[オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ヘンエイコサニル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、リグノセリル(メタ)アクリレート等]及び炭素数18~24の分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレート[2-デシルテトラデシル(メタ)アクリレート等]が挙げられる。
これらの内、トナーの保存安定性の観点から好ましくは炭素数18~24の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレートであり、より好ましくは炭素数20~24の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレートであり、さらに好ましくは22~24の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレートである。
単量体(a)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0009】
前記単量体(x)は、上記関係式(1)を満たせばどのような単量体でもよいが、低温定着性、高温高湿下での保存性及び耐加水分解性の観点から、架橋性単量体(b)と非架橋性単量体(d)とを含むことが好ましい。
単量体(x)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0010】
架橋性単量体(b)としては、2個以上のビニル基を有する単量体(b1)、イソシアネート基又はブロック化されたイソシアネート基を有するビニル重合性単量体(b2)及びエポキシ基を有するビニル重合性単量体(b3)等が挙げられる。
【0011】
2個以上のビニル基を有する単量体(b1)としては、例えば、ジ(メタ)アクリル酸エステル[エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等]、多価アルコールのポリ(メタ)アクリル酸エステル[トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等]、及び二個以上のビニル基を有する芳香族系化合物[ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン等]等が挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」及び/又は「メタクリル酸」を意味する。
【0012】
イソシアネート基又はブロック化されたイソシアネート基を有するビニル重合性単量体(b2)としては、例えば、ジメチル-m-イソプロペニルベンジルイソシアネート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、メタクリル酸2-(0-[1’-メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0013】
エポキシ基を有するビニル重合性単量体(b3)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート等が挙げられる。
【0014】
上記架橋性単量体(b)のうち架橋剤として働いたとき、低温定着性の観点から、2個以上のビニル基を有する単量体(b1)が好ましく、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0015】
非架橋性単量体(d)としては、例えば、スチレン系モノマー(d1)、(メタ)アクリル系モノマーのうち単量体(a)を除く(メタ)アクリル系モノマー(d2)、ビニルエステルモノマー(d3)、並びに、ニトリル基、ウレタン基、ウレア基、アミド基、イミド基、アロファネート基及びビューレット基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基とエチレン性不飽和結合とを有する単量体(d4)等が挙げられる。
【0016】
スチレン系モノマー(d1)としては、スチレン、アルキル基の炭素数が1~3のアルキルスチレン(例えばα-メチルスチレン及びp-メチルスチレン等)等が挙げられる。
これらのうち好ましくはスチレンである。
【0017】
(メタ)アクリル系モノマー(d2)としては、アクリル酸、メタクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート[メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等]、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート[2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びエチル-2-(ヒドロキシメチル)アクリレート等]、アミノアルキル基含有(メタ)アクリレート[ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等]等が挙げられる。
これらのうち好ましくはアルキル(メタ)アクリレート、及びそれらの2種以上の混合物である。
【0018】
ビニルエステルモノマー(d3)としては、脂肪族ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル及び酢酸イソプロペニル等)及び芳香族ビニルエステル(例えば、メチル-4-ビニルベンゾエート等)等が挙げられる。
【0019】
ニトリル基、ウレタン基、ウレア基、アミド基、イミド基、アロファネート基及びビューレット基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基とエチレン性不飽和結合とを有する単量体(d4)としては、ニトリル基を有する単量体(d41)、ウレタン基を有する単量体(d42)、ウレア基を有する単量体(d43)、アミド基を有する単量体(d44)、イミド基を有する単量体(d45)、アロファネート基を有する単量体(d46)及びビューレット基を有する単量体(d47)等が挙げられる。
【0020】
ニトリル基を有する単量体(d41)としては、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等が挙げられる。
【0021】
ウレタン基を有する単量体(d42)としては、エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~22のアルコール(メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル及びビニルアルコール等)と、炭素数1~30のイソシアネートとを公知の方法で反応させた単量体、並びに、炭素数1~26のアルコールとエチレン性不飽和結合を有する炭素数2~30のイソシアネートとを公知の方法で反応させた単量体等が挙げられる。
炭素数1~30のイソシアネートとしては、モノイソシアネート化合物(ベンゼンスルフォニルイソシアネート、トシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、p-クロロフェニルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、t-ブチルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、オクチルイソシアネート、2-エチルヘキシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、アダマンチルイソシアネート、2,6-ジメチルフェニルイソシアネート、3,5-ジメチルフェニルイソシアネート及び2,6-ジプロピルフェニルイソシアネート等)、脂肪族ジイソシアネート化合物(トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート及び2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等)、脂環式ジイソシアネート化合物(1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,3-シクロへキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート及び水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネート等)及び芳香族ジイソシアネート化合物(フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソソアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネート等)等が挙げられる。
炭素数1~26のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、t-ブチルアルコール、ペンタノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、ヘプタデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、エライジルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、リノレニルアルコール、ノナデシルアルコール、ヘンエイコサノール、ベヘニルアルコール及びエルシルアルコール等が挙げられる。
エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~30のイソシアネートとしては、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-(0-[1’-メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチル(メタ)アクリレート及び1,1-(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。
なお、本明細書中、イソシアネート基を有する化合物及び構造における炭素数にはイソシアネート基(-NCO)に含まれる炭素数は含まない。
【0022】
ウレア基を有する単量体(d43)としては、炭素数3~22のアミン[例えば、1級アミン(ノルマルブチルアミン、t-ブチルアミン、プロピルアミン及びイソプロピルアミン等)、2級アミン(ジノルマルエチルアミン、ジノルマルプロピルアミン及びジノルマルブチルアミン等)、アニリン及びシクロヘキシルアミン等]と、エチレン性不飽和結合を有する炭素数2~30のイソシアネートとを公知の方法で反応させた単量体等が挙げられる。
【0023】
アミド基を有する単量体(d44)としては、炭素数3~22のアミンとエチレン性不飽和結合を有する炭素数3~30のカルボン酸(アクリル酸及びメタクリル酸等)を公知の方法で反応させた単量体等が挙げられる。
【0024】
イミド基を有する単量体(d45)としては、アンモニアとエチレン性不飽和結合を有する炭素数4~10の無水カルボン酸(無水マレイン酸及びジアクリル酸無水物等)を公知の方法で反応させた単量体、及び炭素数3~22の1級アミンとエチレン性不飽和結合を有する炭素数4~10の無水カルボン酸を公知の方法で反応させた単量体等が挙げられる。
【0025】
アロファネート基を有する単量体(d46)としては、ウレタン基を有する単量体(d42)と炭素数1~30のイソシアネートを公知の方法で反応させた単量体等が挙げられる。
【0026】
ビューレット基を有する単量体(d47)としては、ウレア基を有する単量体(d43)と炭素数1~30のイソシアネートを公知の方法で反応させた単量体等が挙げられる。
【0027】
これらの非架橋性単量体(d)のうち、低温定着性、耐加水分解性、高温高湿下での保存性及び原料価格の観点から好ましいのはスチレン系モノマー(d1)、(メタ)アクリル系モノマー(d2)及びニトリル基、ウレタン基、ウレア基、アミド基、イミド基、アロファネート基及びビューレット基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基とエチレン性不飽和結合とを有する単量体(d4)が好ましく、より好ましくは、(メタ)アクリル系モノマー(d2)及びニトリル基、ウレタン基、ウレア基、アミド基、イミド基、アロファネート基及びビューレット基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基とエチレン性不飽和結合とを有する単量体(d4)であり、さらに好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート及びニトリル基を有する単量体(d41)である。
【0028】
本発明における単量体(x)は、上記の通り、関係式(1)を満たす。{(dP)2+(dH)2}0.5が本範囲にあると低温定着性が良好となる。これは、単量体(a)の結晶性セグメントが単量体(x)由来の非晶性セグメントと相分離し易くなり、シャープメルト性が良好になるためである。
関係式(1):{(dP)2+(dH)2}0.5≧8.3
【0029】
関係式(1)において、(dP)は上記単量体(x)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の極性項であり、(dH)は上記単量体(x)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項である。
【0030】
好ましくは関係式(1-2)を満たすものであり、特に好ましくは関係式(1-3)を満たすものである。
関係式(1-2):18.8≧{(dP)2+(dH)2}0.5≧8.3
関係式(1-3):10.7≧{(dP)2+(dH)2}0.5≧8.3
【0031】
なお、ハンセン溶解度パラメータの定義と計算はCharles M.Hansen著「Hansen Solubility Parameters;A Users Handbook(CRC Press,2007)」に記載されており、本発明におけるハンセン溶解度パラメータの単位は(cal/cm3)0.5である。また、コンピュータソフトウェア「HSPiP4.1.0」を用いることにより、文献にパラメータ値の記載がない単量体に関しても、その化学構造からハンセン溶解度パラメータを推算することができる。本発明では、文献にパラメータ値の記載がある単量体については、その値を用い、文献にパラメータ値の記載がない単量体に関しては、「HSPiP4.1.0」に付属のリストの数値、リストに記載のないものについてはY-BM推算法を用いて推算したパラメータ値を用いる。また、前記重合体(A)を構成する単量体(x)が複数の場合は、重量割合に基づいて(dP)と(dH)を算出する。
【0032】
ハンセン溶解度パラメータを調整する方法としては、官能基の変更等が挙げられる。ニトリル基、エステル基等の双極子モーメントの高い官能基を含む単量体や、アミド基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の水素結合性を有する官能基を含む単量体を選択することで、(dP)や(dH)のパラメータを大きくすることができる。
【0033】
本発明における重合体(A)を構成する単量体(a)の重量割合は、重合体(A)を構成する単量体の合計重量を基準として、低温定着性の観点から好ましくは30~93重量%であり、より好ましくは45~85重量%であり、特に好ましくは55~70重量%である。
本発明における重合体(A)を構成する単量体(x)の重量割合は、重合体(A)を構成する単量体の合計重量を基準として、低温定着性及び高温高湿下での保存性の観点から好ましくは7~70重量%であり、より好ましくは15~55重量%であり、特に好ましくは30~45重量%である。
また、架橋性製単量体(b)と非架橋性単量体(d)との重量比[(b)/(d)]は、低温定着性及び耐加水分解性の観点から、0.1/99.9~20/80が好ましく、より好ましくは1/99~10/90である。
【0034】
本発明における重合体(A)は、以下の(1)~(3)の方法により得ることができる。
(1)上記の2個以上のビニル基を有する単量体(b1)を含む単量体(x)及び単量体(a)を含有する単量体組成物を連鎖重合させる方法。
(2)上記のイソシアネート基又はブロック化されたイソシアネート基を有するビニル重合性単量体(b2)を含む単量体(x)及び単量体(a)を含有する単量体組成物を連鎖重合させたのち、前記重合物と水酸基、アミノ基等のイソシアネート基と反応する活性水素を2個以上有する化合物とを重付加させる方法。
(3)上記のエポキシ基を有するビニル重合性単量体(b3)を含む単量体(x)及び単量体(a)を含有する単量体組成物を連鎖重合させたのち、前記重合物とカルボキシル基等のエポキシ基と反応する官能基を2個以上有する化合物とを重付加させる方法。
なお、重合体(A)が架橋構造を有するかどうかは、重合体(A)をキシレンに溶解してキシレンに不溶な成分(キシレン不溶解分)を有するかどうかで確認することができる。
上記方法の内プロセスの簡易性の観点から(1)の方法が好ましい。
【0035】
単量体(a)及び単量体(x)を含有する単量体組成物を連鎖重合させる場合は、公知の方法(例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合及びリビングカチオン重合等)で重合することで製造できる。ラジカル重合の場合は、例えば、上記単量体を溶媒(トルエン等)中でラジカル反応開始剤(c)とともに反応させる溶液重合法(特開平5-117330号公報等)により合成することができる。
【0036】
ラジカル反応開始剤(c)としては、特に制限されず、無機過酸化物(c1)、有機過酸化物(c2)及びアゾ化合物(c3)等が挙げられる。また、これらのラジカル反応開始剤を併用してもかまわない。
【0037】
無機過酸化物(c1)としては、特に限定されないが、例えば過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム及び過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0038】
有機過酸化物(c2)としては、特に制限されないが、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、α、α-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)へキサン、ジ-t-へキシルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルパーオキシへキシン-3、アセチルパーオキシド、イソブチリルパーオキシド、オクタニノルパーオキシド、デカノリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、m-トルイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート及びt-ブチルパーオキシアセテート等が挙げられる。
【0039】
アゾ化合物(c3)としては、特に制限されないが、例えば、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル及びアゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0040】
これらの中でも開始剤効率が高く、シアン化合物などの副生成物を生成しないことから、有機過酸化物(c2)が好ましい。
【0041】
本発明における重合体(A)は関係式(2)を満たす。Tm-Tgが本範囲にあるとトナーの低温定着性が良好となる。これは、重合体(A)を含むトナーバインダーを用いたトナーを熱定着させる際に、重合体(A)がガラス転移温度(Tg)による影響なく吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)を示す温度でシャープメルト化してトナーバインダーが低粘度化されるためである。
関係式(2):Tm-Tg≧10
より好ましくは10≦Tm-Tg≦30である。
Tm-Tgは、重合体(A)を構成する単量体(a)の炭素数を調整する、(A)を構成する単量体(a)の重量比率を調整する、(A)の重量平均分子量を調整する、重合体(A)を構成する単量体(x)のFox-Floryの等式から計算されるガラス転移温度を調整する等の方法により、上記の好ましい範囲に調整することができる。例えば(a)の炭素数を増やす、(a)の重量比率を増やす、(A)の重量平均分子量を増やす、(A)の含有率を増やす、重合体(A)を構成する単量体(x)のFox-Floryの等式から計算されるガラス転移温度を下げる等の方法によりTm-Tgを大きくすることができる。
また、例えば重合体(A)を構成する単量体(a)が炭素数18~24の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレートであり、単量体(a)の重量割合が重合体(A)を構成する単量体の合計重量を基準として、30重量%以上であり、重合体(A)を構成する単量体(x)が非架橋性単量体(d)の(メタ)アクリル系モノマー(d2)を含有することで関係式(2)を満たすことが容易になる。
【0042】
重合体(A)の示差走査熱量計(DSCともいう)測定による吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)は、低温定着性と高温高湿下での保存性の観点から、40~100℃であることが好ましく、より好ましくは50~70℃である。
【0043】
吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)は、示差走査熱量計(TA Instruments(株)製、DSC Q20)を用いて、ASTM D3418-82に準じて測定される値である。具体的には、20℃から10℃/分の条件で150℃まで第1回目の昇温を行い、続いて150℃から10℃/分の条件で0℃まで冷却し、続いて0℃から10℃/分の条件で150℃まで第2回目の昇温をした際の第2回目の昇温過程の重合体(A)の吸熱ピークのトップを示す温度である。
【0044】
重合体(A)のDSC測定によるガラス転移温度(Tg)は、低温定着性と高温高湿下での保存性の観点から、45℃以下であることが好ましく、-35~45℃であることがより好ましく、5~45℃であることがさらに好ましい。
【0045】
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(TA Instruments(株)製、DSC Q20)を用いて、ASTM D3418-82に準じて測定される値である。具体的には、20℃から10℃/分の条件で150℃まで第1回目の昇温を行い、続いて150℃から10℃/分の条件で0℃まで冷却し、続いて0℃から10℃/分の条件で150℃まで第2回目の昇温をした際の第2回目の昇温過程のDSC曲線の各ベースラインを延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度である。なお、重合体(A)のガラス転移温度(Tg)と吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)が重なる場合は、重合体(A)を構成する単量体からFOX-Floryの等式(T.G.FOX,Bull.Am.Phys.Soc.,1,123(1950))を利用して計算したガラス転移温度等で代用する事が出来る。
【0046】
本発明における重合体(A)の重量平均分子量は、高温高湿下での保存性及び耐加水分解性の観点から、好ましくは30,000~3,000,000である。
【0047】
本発明における重合体(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(以降GPCと略記)を用いて以下の条件で測定する。
装置 :HLC-8120 [東ソー(株)製]
カラム :TSK GEL GMH6 2本 [東ソー(株)製]
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.25重量%のTHF溶液
移動相 :テトラヒドロフラン(重合禁止剤を含まない)
溶液注入量:100μL
検出装置 :屈折率検出器
基準物質 :標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)12点(分子量 500 1,050 2,800 5,970 9,100 18,100 37,900 96,400 190,000 355,000 1,090,000 2,890,000)[東ソー(株)製]
重量平均分子量の測定では、0.25重量%になるように試料をTHFに溶解し、不溶解分を孔径1μmのPTFEフィルターでろ別したものを試料溶液とした。
【0048】
本発明における重合体(A)の酸価は、耐加水分解性の観点から、40mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が40mgKOH/g以下であるとカルボキシル基等の酸性官能基が触媒として働きにくく、加水分解の促進を抑えることができる。重合体(A)の酸価は、より好ましくは0~15mgKOH/gであり、さらに好ましくは0~3mgKOH/gである。
重合体(A)の酸価は、単量体の酸価及び酸価を有する単量体の含有量を調整することで調整できる。重合体(A)の酸価は、例えばJISK0070などの方法で測定される。
【0049】
重合体(A)は、低温定着性及び高温高湿下での保存性の観点から、関係式(3)を満たすことが好ましい。
関係式(3):8.0×105≦G’(40)≦1.5×108
なお、関係式(3)において、G’(40)は、粘弾性測定による40℃の貯蔵弾性率(Pa)である。
G’(40)が8.0×105以上であるとトナーバインダーの固さが十分であるため高温高湿下での保存性が良好となる。一方、G’(40)が1.5×108以下であると低温定着性が良好となる。G’(40)は、重合体(A)のTgや単量体(a)の比率等で調整することができる。
【0050】
本発明における重合体(A)のG’(40)は、粘弾性測定装置(ARES-24A、レオメトリック社製)を用いて、直径8mm、厚さ2.0±0.3mmの円板状に加圧成型した試料をパラレルプレートに装着し、室温(25℃)から100℃に昇温して、試料の形を整えた後、40℃まで冷却し、40~180℃まで測定したときの40℃の貯蔵弾性率(Pa)である。また、測定は以下の条件で行う。
治具 :8mmパラレルプレート
周波数 :1Hz
歪み率 :1%
昇温速度:5℃/min
【0051】
重合体(A)のキシレン不溶分は、高温高湿下での保存性及び耐加水分解性の観点から、7~50重量%であることが好ましい。より好ましくは7~30重量%であり、さらに好ましくは7~15重量%である。
重合体(A)のキシレン不溶分の測定方法は以下の通りである。
サンプル作製としては、重合体(A)1.00gを吸熱ピークのピークトップ温度以上の温度でキシレン100gに溶解又は分散し、25℃まで冷却したものを遠心分離機により、遠心分離を行い、上澄み液を除去した後、減圧乾燥(170℃、2時間)し、キシレン不溶分を得て、キシレン不溶分の重量を小数点以下第4位まで測定し、下記式により(A)のキシレン不溶分を算出する。
重合体(A)のキシレン不溶分(重量%)=(キシレン不溶分の重量(g)/1.00)×100
尚、遠心分離の条件は以下の通りである。
<遠心分離条件>
遠心分離機:H-19F(株式会社コクサン製)
回転速度 :4000rpm
回転時間 :20分
【0052】
前記重合体(A)のウレタン基及びウレア基の濃度は、高温高湿下での保存性及び耐加水分解性の観点から、好ましくは2.5×10-5mol/g以下であり、より好ましくは5.0×10-6mol/g以下である。ウレタン基及びウレア基の濃度が2.5×10-5mol/g以下であるとウレタン基及びウレア基に吸着している水分子による加水分解の影響が小さく、また、重合体(A)の分子量が低下することなく架橋構造が維持されるため高温高湿下での保存性が良好となる。
ウレタン基及びウレア基濃度はイソシアネートとアルコールやイソシアネートと活性水素を有するアミンが反応することで生じるため、これらの使用量を調整することで調整できる。
重合体(A)のウレタン基及びウレア基の濃度は以下の方法により求めることができる。
【0053】
前記重合体(A)のウレタン基及びウレア基の濃度の定量方法としては、特に制限されないが、例えば、合成の際に使用した原料のウレタン基、ウレア基濃度から計算する方法が挙げられる。また、未知試料の場合は以下の方法が挙げられる。
【0054】
前記重合体(A)のプロトンを核磁気共鳴装置(NMR)で測定し定量を行う方法は、例えば以下の方法で測定することができる。
<サンプル調整>
NMRチューブにサンプルを100mg、内部標準物質としてトリメチルシリルプロパンスルホン酸ナトリウムを10mg、緩和試薬としてCr(AcAc)3を10mgはかりとり、ジメチルスルホキシド、またはジメチルホルムアミドの重水素溶媒を0.45mL加え樹脂を溶解させる。
<測定条件>
装置:ブルカーバイオスピン社製「AVANCE III HD400」
積算回数:32回
<解析および計算>
例えば芳香族イソシアネート誘導体のNHプロトンはDMSO中ではウレア基は7.8~8.6、ウレタン基は8.7~9.6にピークが観測される。一方、脂肪族イソシアネート誘導体のNHプロトンはDMSO中ではウレア基は5.7~6.2、ウレタン基は6.7~7.0にピークが観測される。これらの積分比と内部標準物質のプロトンのピーク(0ppm)の積分比からウレア基およびウレタン基の含有量(mmol/g)を算出する。
【0055】
本発明のトナーバインダーは、重合体(A)以外のトナーバインダー用重合体として公知であるその他重合体(特許第4493080号公報、特許第2105762号公報及び特開平06-194876号公報に記載の重合体等)を含有しても良い。
また、本発明のトナーバインダーは、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記の重合体(A)の重合時に使用した化合物及びその残渣を含んでいてもよい。
【0056】
トナーバインダー中の重合体(A)の重量割合は、低温定着性、高温高湿下での保存性及び耐加水分解性の観点から、トナーバインダーの重量を基準として5~100重量%であることが好ましく、より好ましくは50~100重量%であり、特に好ましくは70~100である。
【0057】
トナーバインダーの製造方法について説明する。
トナーバインダーは重合体(A)を含有していれば特に限定されず、例えば重合体(A)、その他の重合体及び添加剤を混合する場合の混合方法は公知の方法でよく、混合方法としては、粉体混合、溶融混合及び溶剤混合等が挙げられる。また、(A)、その他の重合体及び添加剤は、トナーを製造するときに同時に混合してもよい。この方法の中では、均一に混合し、溶剤除去の必要のない溶融混合が好ましい。
【0058】
粉体混合する場合の混合装置としては、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー及びバンバリーミキサー等が挙げられる。好ましくはヘンシェルミキサーである。
溶融混合する場合の混合装置としては、反応槽等のバッチ式混合装置及び連続式混合装置が挙げられる。適正な温度で短時間で均一に混合するためには、連続式混合装置が好ましい。連続式混合装置としては、スタティックミキサー、エクストルーダー、コンティニアスニーダー及び3本ロール等が挙げられる。
【0059】
溶剤混合の方法としては、重合体(A)、その他の樹脂を溶剤(酢酸エチル、テトラヒドロフラン及びアセトン等)に溶解し、均一化させた後、脱溶剤及び粉砕する方法や、重合体(A)、その他の樹脂を溶剤(酢酸エチル、テトラヒドロフラン及びアセトン等)に溶解し、水中に分散させた後、造粒及び脱溶剤する方法などがある。
【0060】
本発明のトナーバインダーを含有するトナーは、必要により着色剤、離型剤、荷電制御剤及び流動化剤等を含有してもよい。
【0061】
着色剤としては、トナー用着色剤として使用されている染料及び顔料等のすべてを使用することができる。例えば、カーボンブラック、鉄黒、スーダンブラックSM、ファーストイエローG、ベンジジンイエロー、ピグメントイエロー、インドファーストオレンジ、イルガシンレッド、パラニトロアニリンレッド、トルイジンレッド、カーミンFB、ピグメントオレンジR、レーキレッド2G、ローダミンFB、ローダミンBレーキ、メチルバイオレットBレーキ、フタロシアニンブルー、ピグメントブルー、ブリリアントグリーン、フタロシアニングリーン、オイルイエローGG、カヤセットYG、オラゾールブラウンB及びオイルピンクOP等が挙げられる。着色剤は、これらのいずれか単独であってもよく、2種以上が混合されたものであってもよい。また、必要により磁性粉(鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性金属の粉末若しくはマグネタイト、ヘマタイト、フェライト等の化合物)を着色剤としての機能を兼ねて含有させることができる。
着色剤の含有量は、本発明のトナーバインダー100重量部に対して、好ましくは1~40重量部、より好ましくは3~10重量部である。なお、磁性粉を用いる場合は、本発明のトナーバインダー100重量部に対して、好ましくは20~150重量部、より好ましくは40~120重量部である。
【0062】
離型剤としては、高化式フローテスターによるフロー軟化点〔T1/2〕が50~170℃のものが好ましく、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナバワックス、モンタンワックス及びそれらの脱酸ワックス、エステルワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0063】
フロー軟化点〔T1/2〕の測定方法を記載する。
高化式フローテスター{たとえば、(株)島津製作所製、CFT-500D}を用いて、1gの測定試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出して、「プランジャー降下量(流れ値)」と「温度」とのグラフを描き、プランジャーの降下量の最大値の1/2に対応する温度をフロー軟化点〔T1/2〕とする。
【0064】
ポリオレフィンワックスとしては、オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン、1-ドデセン、1-オクタデセン及びこれらの混合物等)の(共)重合体[(共)重合により得られるもの及びそれをさらに熱減成して得られるものを含む]、(例えば低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体)、オレフィンの(共)重合体の酸素及び/又はオゾンによる酸化物、オレフィンの(共)重合体のマレイン酸変性物[例えばマレイン酸及びその誘導体(無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル及びマレイン酸ジメチル等)変性物]、オレフィンと不飽和カルボン酸[(メタ)アクリル酸、イタコン酸及び無水マレイン酸等]及び/又は不飽和カルボン酸アルキルエステル[(メタ)アクリル酸アルキル(アルキルの炭素数1~18)エステル及びマレイン酸アルキル(アルキルの炭素数1~18)エステル等]等との共重合体等が挙げられる。
【0065】
マイクロクリスタリンワックスとしては、例えば、日本精蝋(株)製のHi-Mic-2095、Hi-Mic-1090、Hi-Mic-1080、Hi-Mic-1070、Hi-Mic-2065、Hi-Mic-1045、Hi-Mic-2045等が挙げられる。
【0066】
パラフィンワックスとしては、例えば、日本精蝋(株)製のParaffin WAX-155、Paraffin WAX-150、Paraffin WAX-145、Paraffin WAX-140、Paraffin WAX-135、HNP-3、HNP-5、HNP-9、HNP-10、HNP-11、HNP-12、HNP-51等が挙げられる。
【0067】
フィッシャートロプシュワックスとしては、サゾール社製のSasolwax C80等が挙げられる。
【0068】
カルナバワックスとしては、株式会社加藤洋行社製の精製カルナウバワックス 特製1号等が挙げられる。
【0069】
エステルワックスとしては、脂肪酸エステルワックス(例えば、日油社製のニッサンエレクトールWEP-2、WEP-3、WEP-4、WEP-5及びWEP-8等)等が挙げられる。
【0070】
高級アルコール類としては、炭素数30~50の脂肪族アルコールなどがあり、例えばトリアコンタノールが挙げられる。脂肪酸類としては、炭素数30~50の脂肪酸などであり、例えばトリアコンタンカルボン酸が挙げられる。
【0071】
荷電制御剤としては、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよく、ニグロシン染料、3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン染料、4級アンモニウム塩、ポリアミン樹脂、イミダゾール誘導体、4級アンモニウム塩基含有ポリマー、含金属アゾ染料、銅フタロシアニン染料、サリチル酸金属塩、ベンジル酸のホウ素錯体、スルホン酸基含有ポリマー、含フッ素ポリマー及びハロゲン置換芳香環含有ポリマー等が挙げられる。
【0072】
流動化剤としては、シリカ、チタニア、アルミナ、炭酸カルシウム、脂肪酸金属塩、シリコーン樹脂粒子及びフッ素樹脂粒子等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。トナーの帯電性の観点からシリカが好ましい。また、シリカは、トナーの転写性の観点から疎水性シリカであることが好ましい。また、シリカは、トナーの転写性の観点から疎水性シリカであることが好ましい。
【0073】
トナー中のトナーバインダーの含有量はトナーの重量に基づき、好ましくは30~97重量%、より好ましくは40~95重量%、さらに好ましくは45~92重量%である。着色剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0.05~60重量%、より好ましくは0.1~55重量%、さらに好ましくは0.5~50重量%である。離型剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0~30重量%、より好ましくは0.5~20重量%、さらに好ましくは1~10重量%である。荷電制御剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0~20重量%、より好ましくは0.1~10重量%、さらに好ましくは0.5~7.5重量%である。流動化剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0~10重量%、より好ましくは0~5重量%、さらに好ましくは0.1~4重量%である。また、着色剤、離型剤、荷電制御剤及び流動化剤の合計含有量はトナー重量に基づき、好ましくは3~70重量%、より好ましくは4~58重量%、さらに好ましくは5~50重量%である。トナーの組成比率を上記の範囲とすることで高温高湿下での保存性が良好なトナーを容易に得ることができる。
【0074】
本発明のトナーバインダーをトナーとして用いる場合のトナーの製造方法は特に限定されず、混練粉砕法、乳化転相法、乳化重合法、懸濁重合法、溶解懸濁法及び乳化凝集法等の公知のいずれの方法により得られたものであってもよい。
これらの製造方法のうち、生産性、低温定着性及び保存性の観点から混練粉砕法及び溶解懸濁法が好ましい。
【0075】
例えば、混練粉砕法によりトナーを得る場合、流動化剤を除くトナーを構成する成分をヘンシェルミキサー、ナウターミキサー及びバンバリーミキサー等で乾式ブレンドした後、二軸混練機、エクストルーダー、コンティニアスニーダー及び3本ロール等の連続式の混合装置で溶融混練し、その後ミル機等で粗粉砕し、最終的に気流式微粉砕機(例えば、超音速ジェット粉砕機等)等を用いて微粒子化して、さらに気流分級機等の分級機で粒度分布を調整することにより、トナー粒子[好ましくは体積平均粒径(D50)が5~20μmの粒子]とした後、流動化剤を混合して製造することができる。なお、体積平均粒径(D50)はコールターカウンター[例えば、商品名:マルチサイザーIII(ベックマン・コールター(株)製)]を用いて測定される。
【0076】
また、乳化転相法によりトナーを得る場合、流動化剤を除くトナーを構成する成分を有機溶剤に溶解又は分散後、水を添加する等によりエマルジョン化し、次いで分離、分級して製造することができる。トナーの体積平均粒径は、3~15μmが好ましい。
【0077】
乳化重合法及び懸濁重合法は、公知の方法[特公昭36-10231号公報、特公昭47-518305号公報、特公昭51-14895号公報等に記載の方法]を用いることができる。
【0078】
溶解懸濁法及び乳化凝集法は、公知の方法[特許第3596104号公報、特許第3492748号公報等に記載の方法]を用いることができる。
【0079】
本発明のトナーバインダーに用いられるトナーは、必要に応じて鉄粉、ガラスビーズ、ニッケル粉、フェライト、マグネタイト及び樹脂(アクリル重合体、及びシリコーン重合体等)により表面をコーティングしたフェライト等のキャリアー粒子と混合されて電気的潜像の現像剤として用いられる。トナーとキャリアー粒子との重量比は、1/99~100/0である。また、キャリアー粒子の代わりに帯電ブレード等の部材と摩擦し、電気的潜像を形成することもできる。
【0080】
本発明のトナーバインダーを含有するトナーは、電子写真用トナーとして複写機及びプリンター等により支持体(紙及びポリエステルフィルム等)に定着して記録材料とされる。支持体に定着する方法としては、公知の熱ロール定着方法及びフラッシュ定着方法等が適用できる。
【0081】
本発明のトナーバインダーを用いて作成されたトナーは電子写真法、静電記録法や静電印刷法等において、静電荷像又は磁気潜像の現像に用いられる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り部は重量部を示す。
また、以下において実施例11及び17は参考例1~2を意味する。
【0083】
<製造例1>[重合体(A-1)の製造]
オートクレーブにトルエン46部を仕込み、窒素で置換した後、撹拌下密閉状態で105℃まで昇温した。ベヘニルアクリレート[日油(株)製、以下同様]60部、アクリロニトリル[ナカライテクス(株)製、以下同様]10部、スチレン[出光興産(株)製、以下同様]8部、メチルアクリレート[ナカライテクス(株)製、以下同様]21.5部、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート[協栄社化学(株)製、以下同様]0.5部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート[パーブチルO、日油(株)、以下同様]0.359部、及びトルエン23部の混合溶液を、オートクレーブ内温度を105℃にコントロールしながら、2時間かけて滴下し重合を行った。更に同温度で4時間保ち重合を完結させた。その後100℃にて脱溶剤を行い、重合体(A-1)を得た。
【0084】
<製造例2~15、比較製造例1~5>[重合体(A-2)~(A-15)、(A’-1)~(A’-5)の製造]
表1に記載の単量体の組成に基づきそれぞれの単量体を指定の重量部とした以外は製造例1と同様にして重合体(A-2)~(A-15)、(A’-1)~(A’-5)を得た。
なお、オクタデシルアクリレート、ベヘニルメタクリレート、リグノセリルアクリレート、メタクリロニトリル、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、メトキシ-トリエチレングルコールアクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、メタクリル酸、ヘキサデシルアクリレート及び2-イソシアナトエチルメタクリレートとメタノールの反応物は下記のものを用いた。
オクタデシルアクリレート:東京化成工業株式会社製
ベヘニルメタクリレート:日油(株)製
リグノセリルアクリレート:製造例16に記載した。
メタクリロニトリル:東京化成工業株式会社製
2-ヒドロキシプロピルアクリレート:東京化成工業株式会社製
メトキシ-トリエチレングルコールアクリレート(ライトアクリレートMTG-A):共栄社化学株式会社製
メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート(ライトアクリレート130A):共栄社化学株式会社製
メチルメタクリレート:東京化成工業株式会社製
ブチルメタクリレート:東京化成工業株式会社製
メタクリル酸:東京化成工業株式会社製
ヘキサデシルアクリレート:東京化成工業株式会社製
2-イソシアナトエチルメタクリレート[カレンズMOI、昭和電工(株)製、以下同様]とメタノールの反応物:製造例17に記載した。
【0085】
<製造例16>[リグノセリルアクリレートの製造]
撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、空気導入管、減圧装置、減水装置を備えた反応容器に、リグノセリルアルコール[BASF社製]870部、トルエン1000部、アクリル酸[三菱ケミカル(株)製]280部、ハイドロキノン2部を投入し、撹拌して均一化した。その後、パラトルエンスルホン酸4部を加え、30分撹拌した後、空気を30mL/分の流量で吹き込みながら100℃で生成する水を除去しながら5時間反応させた。その後、反応容器内の圧力を300mmHgに調整し、生成する水を除去しながらさらに3時間反応させた。反応溶液を室温まで冷却後、10重量%水酸化ナトリウム水溶液20部を加えて1時間撹拌したのち静置して有機相と水相を分離させた。有機相を分液及び遠心分離操作で採取し、ハイドロキノン1部を投入し、空気を吹き込みながら減圧で溶媒を除去し、リグノセリルアクリレートを得た。
【0086】
<製造例17>[2-イソシアナトエチルメタクリレートとメタノールの反応物の製造]
オートクレーブに脱水メチルエチルケトン50部を仕込み、ドライエア通気を行った後、2-イソシアナトエチルメタクリレート50部、脱水メタノールを30部、ネオスタンU-600[日東化成工業(株)、以下同様]0.039部を加え、80℃で10時間反応を行った。その後空気で置換しながら80℃にて脱溶剤を行い、定量的に反応が完結した2-イソシアナトエチルメタクリレートとメタノール反応物を得た。
【0087】
<製造例18>[重合体(A-16)の製造]
十分乾燥させたオートクレーブに脱水トルエン46部を仕込み、窒素で置換した後、撹拌下密閉状態で105℃まで昇温した。それぞれ脱水したベヘニルアクリレート[日油(株)製、以下同様]60部、アクリロニトリル[ナカライテクス(株)製、以下同様]10部、スチレン[出光興産(株)製、以下同様]8部、メチルアクリレート[ナカライテクス(株)製、以下同様]21.5部、2-イソシアナトエチルメタクリレート0.1部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート[パーブチルO、日油(株)、以下同様]0.359部、及びトルエン23部の混合溶液を、オートクレーブ内温度を105℃にコントロールしながら、2時間かけて滴下し重合を行った。更に同温度で4時間保ち重合を完結させた。その後50℃まで冷却した後、1,6-ヘキサンジオール[東京化成工業株式会社製]0.1部、ネオスタンU-600[日東化成工業(株)、以下同様]0.044部を加え、80℃で10時間反応を行った。その後140℃にて脱溶剤を行い、重合体(A-16)を得た。
【0088】
重合体(A-1)~(A-16)及び(A’-1)~(A’-5)の組成及び物性値を表1及び表2に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
<製造例19>[その他の樹脂(B-1)の製造]
反応槽中に、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド2モル付加物697部、テレフタル酸297部、及び縮合触媒としてテトラブトキシチタネート0.5部を入れ、0.5~2.5kPaの減圧下220℃で反応させ、生成する水を留去しながら10時間反応させた。酸価が1mgKOH/g以下になったところで、180℃まで冷却し、無水トリメリット酸25部を加え、1時間反応させた後、反応槽から取り出し、非晶性ポリエステル樹脂であるその他の樹脂(B-1)を得た。
非晶性ポリエステル樹脂であるその他の樹脂(B-1)のガラス転移温度は67℃、フロー軟化点114℃、数平均分子量は2,800、重量平均分子量は6,500、酸価は12mgKOH/gであった。
【0092】
<実施例1~17及び比較例1~5>
製造例1~19と比較製造例1~5で得た重合体(A-1)~(A-16)、(A’-1)~(A’-5)を各々93部とその他の樹脂(B-1)7部をテトラヒドロフランと混和して蒸発後固形分量が50%の均一溶液とした。続けて80℃にて溶剤除去を行い、蒸発後固形分量が99.90%以上の樹脂混合物を得てこれをトナーバインダー(D-1)~(D-16)として以下に記載の方法でトナー(Ts-1)~(Ts-16)、(Tf-1)及び(Ts’-1)~(Ts’-5)を得た。
【0093】
<溶解懸濁法によるトナー(Ts-1)の製造>
[微粒子分散液1の製造]
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に、水683部、メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩[エレミノールRS-30、三洋化成工業社製]11部、ビニルベンゼン139部、メタクリル酸138部、アクリル酸ブチル184部、過硫酸アンモニウム1部を仕込み、400回転/分で15分間撹拌したところ、白色の乳濁液が得られた。加熱して、系内温度75℃まで昇温し5時間反応させた。更に、1%過硫酸アンモニウム水溶液30部を加え、75℃で5時間熟成してビニルポリマー(ビニルベンゼン-メタクリル酸-アクリル酸ブチル-メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩の共重合体)の水性分散液[微粒子分散液1]を得た。[微粒子分散液1]をレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置[LA-920、株式会社堀場製作所製]で測定した体積平均粒径は、0.15μmであった。
[ワックス分散液1の製造]
冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、カルナウバワックス15部及び酢酸エチル85部を投入し、80℃に加熱して溶解し、1時間かけて30℃まで冷却し、カルナウバワックスを微粒子状に晶析させ、更に「ウルトラビスコミル」(アイメックス製)で湿式粉砕し[ワックス分散液1]を作製した。
[顔料マスターバッチの製造]
水1200部、カーボンブラック(キャボット社製、リーガル400R)40部、製造例4で製造した重合体(A-4)20部をヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)で混合し、混合物を3本ロールを用いて90℃で30分混練後、圧延冷却しパルペライザーで粉砕して顔料マスターバッチ[MB1]を得た。
[水相s1の製造]
攪拌棒をセットした容器に、水955部、[微粒子分散液1]15部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム水溶液(エレミノールMON7、三洋化成工業製)30部を投入し、乳白色の液体[水相s1]を得た。
【0094】
[トナー(Ts-1)の製造]
・粒子化
ビーカー内にトナーバインダー(D-1)191部、顔料マスターバッチ[MB1]25部、[ワックス分散液1]67部、酢酸エチル124部を投入して溶解・混合均一化し、[油相s1]を得た。この[油相s1]中に[水相s1]600部を添加し、TKホモミキサー(特殊機化工業社製)を使用し、回転数12000rpmで25℃で1分間分散操作を行い、さらにフィルムエバポレータで減圧度-0.05MPa(ゲージ圧)、温度40℃、回転数100rpmの条件で30分間脱溶剤し、水性着色重合体分散体(X-1)を得た。
・分級
(X-1)100部を遠心分離し、更に水60部を加えて遠心分離して固液分離する工程を2回繰り返した後、35℃で1時間乾燥した後に、分級機としてエルボジェット分級機[(株)マツボウ製、EJ-L-3(LABO)型]で、3.17μm以下の微粉が12個数%以下、8.0μm以上の粗粉が3体積%以下となるように、微粉及び粗粉を除去して着色重合体粒子[Cs-1]を得た。
・外添処理
次に、得られた着色粉体の着色重合体粒子[Cs-1]100部に対し、疎水性シリカ[アエロジルR972、日本アエロジル(株)製]を1部添加し、周速を15m/secとして30秒混合、1分間休止を5サイクル行い、トナー(Ts-1)を得た。
【0095】
<溶解懸濁法によるトナー(Ts-2)~(Ts-16)及び(Ts’-1)~(Ts’-5)の製造>
トナーバインダー(D-1)に変えて(D-2)~(D-16)及び(D’-1)~(D’-5)を用いること以外はトナー(Ts-1)と同様の手順でそれぞれ[油相s2]~[油相s16]及び、[油相s’1]~[油相s’5]を得て、表3及び表4に記載の組成でトナー(Ts-2)~(Ts-16)及び(Ts’-1)~(Ts’-5)を得た。
【0096】
[混練粉砕法によるトナー(Tf-1)の製造]
製造例11で得た重合体(A-11)をトナーバインダー(D-17)として以下の記載の方法でトナー(Tf-1)を得た。
・混練
(D-17)85部、顔料のカーボンブラックMA-100[三菱ケミカル(株)製]6部、離型剤のカルナウバワックス4部、荷電制御剤[T-77、保土谷化学工業(株)製]4部を下記の方法でトナー化した。まず、ヘンシェルミキサー[日本コークス工業(株)製 FM10B]を用いて各々の原料を予備混合した後、二軸混練機[(株)池貝製 PCM-30]で混練した。
・粉砕、分級
ついで超音速ジェット粉砕機ラボジェット[日本ニューマチック工業(株)製 LJ型]を用いて微粉砕した後、気流分級機[日本ニューマチック工業(株)製 MDS-I]で分級し、着色樹脂粒子(FP-1)を得た。
・外添処理
ついで、着色樹脂粒子(FP-1)100部に流動化剤として疎水性シリカ[アエロジルR972、日本アエロジル(株)製]1部をサンプルミルにて混合して、トナー(Tf-1)を得た。
【0097】
実施例1~17で得たトナー(Ts-1)~(Ts-16)及び(Tf-1)並びに比較例1~5で得られた比較用のトナー(Ts’-1)~(Ts’-5)について、低温定着性、高温高湿下での保存性及び耐加水分解性を下記の方法で評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0098】
【0099】
【0100】
<低温定着性>
トナーを紙面上に1.00mg/cm2となるよう均一に載せた。このとき粉体を紙面に載せる方法は、熱定着機を外したプリンターを用いた。この紙をソフトローラーに定着速度(加熱ローラーの周速)213mm/秒、加熱ローラーの温度90~200℃の範囲を5℃刻みで通した。次に定着画像へのコールドオフセットの有無を目視し、コールドオフセットの発生温度を測定した。
コールドオフセットの発生温度が低いほど、低温定着性に優れることを意味する。この評価条件では、一般には125℃以下であることが好ましい。
【0101】
<高温高湿下での保存性>
トナー1gと疎水性シリカ(アエロジルR8200、エボニックジャパン(株)製)0.01gをシェイカーで1時間混合した。混合物をフタの無いガラス容器に入れ、温度40℃、湿度80%の雰囲気で48時間静置し、ブロッキングの程度を目視で判断し、下記判定基準で耐熱保存性を評価した。
◎:ブロッキングは発生しておらず目視での流動性に変化なし
○:ブロッキングが発生しているが容器を揺すると凝集がほどけて流動する
×:ブロッキングが発生している
【0102】
<耐加水分解性>
トナー1gをフタの無いガラス容器に入れ、温度95℃、湿度95%の雰囲気で10日間静置し、試験前後のGPC測定による重量平均分子量と100℃での貯蔵弾性率(Pa)測定を行い重量平均分子量の変化、及び貯蔵弾性率の変化を確認し、加水分解が生じているかを評価した。なおGPC測定及び100℃での貯蔵弾性率(Pa)は重合体(A)と同様の方法で測定した。
◎:重量平均分子量及び貯蔵弾性の変化は共に±5%未満
○:分子量のは±5%以上の変化があるが、貯蔵弾性の変化は±5%未満
×:分子量及び弾性共に±5%以上の変化
【0103】
表3及び表4の評価結果から明らかなように、本発明のトナーバインダーを含有するトナー(Ts-1)~(Ts-16)及び(Tf-1)は、低温定着性、高温高湿下での保存性及び耐加水分解性が良好である。
一方で、比較用のトナーバインダーを含有するトナー(Ts’-1)~、(Ts’-5)は、低温定着性、高温高湿下での保存性及び耐加水分解性のうち、少なくとも1つで評価結果が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のトナーバインダーは、低温定着性、高温高湿下での保存性、耐加水分解性に優れ、電子写真、静電記録や静電印刷等に用いる静電荷像現像用トナーとして好適に使用できる。
さらに、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、電子ペーパー用粒子などの用途として好適である。