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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】蓄電素子及び蓄電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20220720BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20220720BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220720BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20220720BHJP
   H01M 50/10 20210101ALI20220720BHJP
   H01M 50/40 20210101ALI20220720BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20220720BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M4/136
H01M4/58
H01M10/0585
H01M50/10
H01M50/40
H01M10/052
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020565508
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020036131
(87)【国際公開番号】W WO2021060414
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2020-11-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2019174786
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100217836
【弁理士】
【氏名又は名称】合田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】西野 友章
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】井上 信一
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-84416(JP,A)
【文献】特開2019-67699(JP,A)
【文献】特開2017-191744(JP,A)
【文献】特開2014-199775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04
H01M 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1外装材及び第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容された電極体及び電解液と、を備え、
前記電極体は、第1方向に積層された複数の第1電極及び複数の第2電極と、前記第1方向に隣り合う前記第1電極と前記第2電極との間に配置され且つ空隙を含む絶縁シートと、を有し、
前記第1電極は、第1電極集電体と、前記第1電極集電体の少なくとも一方の面上に設けられ且つ空隙を含む第1電極活物質を含む第1電極活物質層と、を有し、
前記第2電極は、第2電極集電体と、前記第2電極集電体の少なくとも一方の面上に設けられ且つ空隙を含む第2電極活物質を含む第2電極活物質層と、を有し、
前記収容空間に収容された前記電解液の総体積は、前記絶縁シートに含まれる空隙、前記第1電極活物質層に含まれる空隙、及び前記第2電極活物質層に含まれる空隙の総容積の105%以上160%以下であり、
前記第1外装材と前記第2外装材とは、接合部において接合されており、
平面視における前記接合部と前記電極体との間の前記第1方向に直交する方向に沿った距離は、5mm以上15mm以下であり、
平面視における前記収容空間の面積の、平面視における前記電極体の面積に対する比が、1.01以上2.0以下であり、
前記第1電極活物質層に含まれる空隙と前記第2電極活物質層に含まれる空隙との総容積の、前記絶縁シートに含まれる空隙の総容積に対する比は、1以上10以下であり、
前記第1電極集電体と前記第2電極集電体との間に存在する前記電解液の体積は、前記収容空間に収容された前記電解液の総体積の40%以上95%以下であり、
前記電極体の前記第1方向を法線方向とする面の面積は、80cm 以上4700cm 以下であり、
前記電極体の前記第1方向に沿った厚さは、0.25mm以上9.5mm以下である、蓄電素子。
【請求項2】
前記第1電極は、第1電極集電体と、前記第1電極集電体の少なくとも一方の面上に設けられ第1電極活物質を含む第1電極活物質層と、を有し、
前記第1電極活物質層は、リン酸鉄リチウムを含む、請求項に記載の蓄電素子。
【請求項3】
前記第1外装材及び前記第2外装材は、周縁の接合部において接合している、請求項1または2に記載の蓄電素子。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の蓄電素子の製造方法であって、
前記収容空間に前記電極体を配置する工程と、
前記収容空間に前記電解液を注入する工程と、を備え、
前記電解液を注入する工程において、前記電解液は、前記絶縁シートに含まれる空隙、前記第1電極活物質層に含まれる空隙、及び前記第2電極活物質層に含まれる空隙の総容積の105%以上160%以下の量を前記収容空間に注入される、蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子及び蓄電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電素子として、例えば特開2012-38702号公報で提案されているように、正極と負極とを交互に積層してなる電極体を有する、積層型電池や巻回型電池が広く普及している。このような蓄電素子では、外装体の内部に電極体及び電解液が収容されている。電極体の正極及び負極と電解液とが接触していることで、電解液を介して正極と負極との間をリチウムイオン等のイオンが移動することができる。このイオンの移動によって、蓄電素子を充電及び放電することができる。
【0003】
ところで、蓄電素子を長期間にわたって使用していると、外装体の内部に収容された電解液が分解されて、電解液の量が減少してしまう。電解液の減少により電解液が正極と負極との間を満たしていない部分が生じると、その部分では正極と負極との間をイオンが移動できず、蓄電素子を充電及び放電することができない。すなわち、正極と負極との間を満たす量以上の量の電解液が外装体の内部に収容されていないと、蓄電素子の使用を続けるにつれて、蓄電素子の容量が低下してしまう。
【0004】
しかしながら、過剰な量の電解液が外装体の内部に収容されていると、電解液によって電極体と外装体との間の距離が拡がってしまう。電極体と外装体との間の距離が拡がると、蓄電素子の体積エネルギー密度が低下してしまう。
【発明の開示】
【0005】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、蓄電素子の体積エネルギー密度の悪化を抑制しながら、容量の低下を抑制することを目的とする。
【0006】
本発明の蓄電素子は、
第1外装材及び第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容された電極体及び電解液と、を備え、
前記電極体は、第1方向に積層された複数の第1電極及び複数の第2電極と、前記第1方向に隣り合う前記第1電極と前記第2電極との間に配置され且つ空隙を含む絶縁シートと、を有し、
前記第1電極は、第1電極集電体と、前記第1電極集電体の少なくとも一方の面上に設けられ且つ空隙を含む第1電極活物質を含む第1電極活物質層と、を有し、
前記第2電極は、第2電極集電体と、前記第2電極集電体の少なくとも一方の面上に設けられ且つ空隙を含む第2電極活物質を含む第2電極活物質層と、を有し、
前記収容空間に収容された前記電解液の総体積は、前記絶縁シートに含まれる空隙、前記第1電極活物質層に含まれる空隙、及び前記第2電極活物質層に含まれる空隙の総容積の105%以上160%以下である。
【0007】
本発明の蓄電素子において、前記第1電極活物質層に含まれる空隙と前記第2電極活物質層に含まれる空隙との総容積の、前記絶縁シートに含まれる空隙の総容積に対する比は、1以上10以下であってもよい。
【0008】
本発明の蓄電素子において、
前記第1外装材と前記第2外装材とは、接合部において接合されており、
平面視における前記接合部と前記電極体との間の前記第1方向に直交する方向に沿った距離は、3mm以上15mm以下であってもよい。
【0009】
本発明の蓄電素子において、平面視における前記収容空間の面積の、平面視における前記電極体の面積に対する比が、1.01以上2.0以下であってもよい。
【0010】
本発明の蓄電素子において、前記第1電極集電体と前記第2電極集電体との間に存在する前記電解液の体積は、前記収容空間に収容された前記電解液の総体積の40%以上95%以下であってもよい。
【0011】
本発明の蓄電素子において、
前記第1電極は、第1電極集電体と、前記第1電極集電体の少なくとも一方の面上に設けられ第1電極活物質を含む第1電極活物質層と、を有し、
前記第1電極活物質層は、リン酸鉄リチウムを含んでもよい。
【0012】
本発明の蓄電素子において、前記電極体の前記第1方向を法線方向とする面の面積は、80cm以上4700cm以下であってもよい。
【0013】
本発明の蓄電素子において、前記電極体の前記第1方向に沿った厚さは、0.25mm以上9.5mm以下であってもよい。
【0014】
本発明の蓄電素子において、前記第1外装材及び前記第2外装材は、周縁の接合部において接合していてもよい。
【0015】
本発明の蓄電素子の製造方法は、上述したいずれかの蓄電素子の製造方法であって、
前記収容空間に前記電極体を配置する工程と、
前記収容空間に前記電解液を注入する工程と、を備え、
前記電解液を注入する工程において、前記電解液は、前記絶縁シートに含まれる空隙、前記第1電極活物質層に含まれる空隙、及び前記第2電極活物質層に含まれる空隙の総容積の105%以上160%以下の量を前記収容空間に注入される。
【0016】
本発明によれば、蓄電素子の体積エネルギー密度の悪化を抑制しながら、容量の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、蓄電素子を示す斜視図である。
図2図2は、蓄電素子を示す平面図である。
図3図3は、図1のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、電極体を示す平面図である。
図5図5は、絶縁シートを省いた電極体を示す平面図である。
図6図6は、電極体の一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張していることがある。
【0019】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0020】
図1乃至図6は、本発明による蓄電素子の一実施の形態を説明するための図である。図1は、蓄電素子1の一具体例を示す斜視図である。また、図2は、平面視における蓄電素子1を示している。なお、本明細書において、平面視とは、平板状や偏平状の部材をその部材のシート面の法線方向から観察することをいう。具体的には、本実施の形態では、対象となる部材を厚さ方向である第1方向d1から観察することを意味している。図1及び図2に示すように、蓄電素子1は、外装体7と、外装体7によって形成された収容空間7aに収容された電極体5及び電解液と、電極体5に接続されて外装体7の内部から外部へと延び出したタブ6と、を有している。図3は、図1の蓄電素子1のIII-III線に沿った断面図である。図3に示すように、電極体5は、第1方向d1に積層された複数の第1電極10及び複数の第2電極20を有している。
【0021】
図1及び図2に示された例において、蓄電素子1は、全体的に厚さ方向である第1方向d1に薄い偏平形状を有しており、長手方向となる第2方向d2と短手方向となる第3方向d3に広がっている。第1方向d1、第2方向d2及び第3方向d3は、互いに非平行であり、図示された例では、互いに直交している。図2に示された蓄電素子1における平面視とは、後に参照する図4及び図5における電極体5における平面視と同様に、第1方向d1に沿った方向からの観察を意味している。
【0022】
図2に示す蓄電素子1の平面図において、蓄電素子1の大きさ、より詳しくは蓄電素子1の外装体7の大きさ、すなわち平面視における蓄電素子1の面積を、例えば100cm以上5000cm以下とすることができる。また、蓄電素子1の外周の長さを、例えば40cm以上300cm以下とすることができる。蓄電素子1の厚さ、すなわち第1方向d1に沿った長さを、0.3mm以上10mm以下とすることができる。蓄電素子1の重さを、例えば0.06kg以上4.00kg以下とすることができる。図示された外装体7は、平面視において矩形形状を有している。外装体7の第2方向d2と平行な長辺に沿った長さを10cm以上100cm以下とすることができる。外装体7の第3方向d3と平行な長辺に沿った長さを10cm以上50cm以下とすることができる。
【0023】
このように大型で偏平形状となっている蓄電素子1は、高さに制限のある狭いスペースにも設置することができる。また、偏平形状の蓄電素子1を撓ませて湾曲させることもできる。さらに、大型で偏平形状となっている蓄電素子1は、容易に積層させることができる。複数の蓄電素子1を積層させてユニットとすることで、容易に大容量の蓄電素子ユニットを形成することができる。加えて、蓄電素子ユニットの放熱性も優れたものとすることができる。
【0024】
以下において、蓄電素子1が積層型のリチウムイオン二次電池である例について説明する。この例において、第1電極10は正極10Xを構成し、第2電極20は負極20Yを構成するものとする。ただし、以下に説明する作用効果の記載からも理解され得るように、ここで説明する一実施の形態は、リチウムイオン二次電池に限定されることなく、第1電極10及び第2電極20を第1方向d1に交互に積層してなる蓄電素子1に広く適用され得る。また、蓄電素子1は積層型電池に限らず、例えば巻回型電池であってもよい。蓄電素子1が巻回型電池である場合でも、第1電極10及び第2電極20が第1方向d1に積層される。
【0025】
以下、蓄電素子1の各構成要素について説明する。
【0026】
まず、電極体5について説明する。図3に示すように、電極体5は、第1方向d1に沿って交互に積層された正極10X(第1電極10)及び負極20Y(第2電極20)と、正極10Xと負極20Yとの間に配置された絶縁シート30と、を有している。図示された例において、絶縁シート30は、電極体5の最も一側及び最も他側にも配置されている。電極体5は、例えば板状の正極10X及び負極20Yを合計で20枚以上含んでいる。電極体5は、全体的に偏平形状を有し、第1方向d1への厚さが薄く、第1方向d1に非平行な第2方向d2及び第3方向d3に広がっている。電極体5の大きさ、すなわち平面視における面積を、例えば80cm以上4700cm以下とすることができる。また、電極体5の厚さ、すなわち第1方向d1に沿った電極体5の長さを、例えば0.25mm以上9.5mm以下とすることができる。
【0027】
図4は、電極体5の平面図である。図5は、絶縁シート30を除いた状態で、図4に示された電極体5を示した平面図である。図4及び図5に示された非限定的な例において、正極10X及び負極20Yは、略長方形形状の外輪郭を有している板状の電極である。第1方向d1に非平行な第2方向d2が、正極10X及び負極20Yの長手方向であり、第1方向d1及び第2方向d2の両方に非平行な第3方向d3が、正極10X及び負極20Yの短手方向(幅方向)である。図3及び図4に示されているように、正極10X及び負極20Yは、第2方向d2にずらして配置されている。より具体的には、複数の正極10Xは、第2方向d2における一側に寄って配置され、複数の負極20Yは、第2方向d2における他側に寄って配置されている。図4に示すように、正極10X及び負極20Yは、第2方向d2における中央において、第1方向d1に重なり合っている。
【0028】
図4及び図5に示された例において、負極20Yは、正極10Xより、第3方向d3の一側及び他側に延び出ている。正極10X及び負極20Yの厚さ、すなわち第1方向d1に沿った正極10X及び負極20Yの長さを、例えば80μm以上250μm以下とすることができる長手方向、すなわち第2方向d2に沿った正極10X及び負極20Yの長さを、例えば95mm以上950mm以下とすることができる。短手方向、すなわち第3方向d3に沿った正極10X及び負極20Yの長さ(幅)を、例えば95mm以上450mm以下とすることができる。
【0029】
次に、正極10X(第1電極10)について説明する。図3に示されているように、正極10X(第1電極10)は、正極集電体11X(第1電極集電体11)と、正極集電体11X上に設けられ正極活物質を含む正極活物質層12X(第1電極活物質層12)と、を有している。リチウムイオン二次電池において、正極10Xは、放電時にリチウムイオンを吸蔵し、充電時にリチウムイオンを放出する。
【0030】
図3に示すように、正極集電体11Xは、互いに対向する第1面11a及び第2面11bを主面として有している。正極活物質層12Xは、正極集電体11Xの第1面11a及び第2面11bの両側の面上に形成されている。具体的には、正極集電体11Xの第1面11a又は第2面11bが、電極体5に含まれる電極板10,20のうちの積層方向である第1方向d1における最外方に位置する場合、正極集電体11Xの最外方側となる面には正極活物質層12Xが設けられない。この正極集電体11Xの位置に依存した正極活物質層12Xの有無を除き、電極体5に含まれる複数の正極10Xは、正極集電体11Xの両側に正極活物質層12Xを有し、互いに同一に構成され得る。
【0031】
正極集電体11X及び正極活物質層12Xは、蓄電素子1(リチウムイオン二次電池)に適用され得る種々の材料を用いて種々の製法により、作製され得る。一例として、正極集電体11Xは、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属、とりわけアルミニウム箔によって形成され得る。正極集電体11Xの厚さは、特に限定されないが、1μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がより好ましい。正極集電体11Xの厚さが1μm以上50μm以下であると、正極集電体11Xの取り扱いが容易になるとともに、蓄電素子1の体積エネルギー密度の低下を抑制できる。正極活物質層12Xは、例えば、正極活物質、導電助剤、バインダーとなる結着剤を含んでいる。正極活物質層12Xは、正極活物質、導電助剤及び結着剤を溶媒に分散させてなる正極用スラリーを、正極集電体11Xをなす材料上に塗工して固化させることで、作製され得る。このような正極活物質層12Xは、図6に示すように、空隙15を含んで形成される。
【0032】
正極活物質として、例えば、一般式LiM(ただし、Mは金属であり、x及びyは金属Mと酸素Oの組成比である)で表される金属酸リチウム化合物が用いられる。金属酸リチウム化合物の具体例として、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等が例示され得る。または、正極活物質として、一般式LiMPO(ただし、Mは金属である)で表されるリン酸金属リチウム化合物が用いられてもよい。リン酸金属リチウム化合物の具体例として、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸コバルトリチウム等が例示され得る。さらに、正極活物質として、リチウム以外の金属を複数使用したものを使用してもよく、三元系と呼ばれるNCM(ニッケルコバルトマンガン)系酸化物、NCA(ニッケルコバルトアルミニウム)系酸化物等を使用してもよい。正極活物質として、これらの物質を1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、リン酸鉄リチウムが好ましい。正極活物質層12Xが含む正極活物質がリン酸鉄リチウムである場合、サイクル特性に優れた長寿命な蓄電素子とすることができる。すなわち、蓄電素子1を長期間にわたって使用することができる。正極活物質は、特に限定されないが、その平均粒子径が0.5μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上30μm以下であることがより好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布において、体積積算が50%での粒径(D50)を意味する。正極活物質層における正極活物質の含有量は、正極活物質層全量基準で、50質量%以上98.5質量%以下が好ましく、60質量%以上98質量%以下がより好ましい。
【0033】
正極用バインダーとなる結着剤の具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有樹脂、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、及びポリビニルアルコール等が挙げられる。これらバインダーは、1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、カルボキシメチルセルロース等は、ナトリウム塩等の塩の態様にて使用されていてもよい。これらのなかでは、フッ素含有樹脂が好ましく、中でもポリフッ化ビニリデンがより好ましい。正極活物質層12Xにおけるバインダーの含有量は、正極活物質層12Xの全量基準で、0.5質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0034】
導電助剤は、正極活物質や負極活物質よりも導電性が高い材料が使用され、具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、棒状カーボン等の炭素材料等が挙げられる。導電助剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。正極活物質層において、導電助剤が含有される場合、導電助剤の含有量は、正極活物質層全量基準で、0.5質量%以上15質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上9質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
なお、正極活物質層12Xは、本発明の効果を損なわない範囲内において、正極活物質、導電助剤、及びバインダー以外の他の任意成分を含んでもよい。ただし、正極活物質層12Xの総質量のうち、正極活物質、導電助剤、及びバインダーの総含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。正極活物質層12Xの厚さ(正極活物質層12Xが複数ある場合は各々の厚さ)は、特に限定されないが、10μm以上100μm以下が好ましく、20μm以上80μm以下がより好ましい。
【0036】
図5に示すように、正極集電体11X(第1電極集電体11)は、第1接続領域a1及び第1電極領域b1を有している。正極活物質層12X(第1電極活物質層12)は、正極集電体11Xの第1電極領域b1のみに積層されている。第1接続領域a1及び第1電極領域b1は、第2方向d2に配列されている。第1接続領域a1は、第1電極領域b1よりも第2方向d2における一側(図5における左側)に位置している。すなわち、第1接続領域a1は、第2方向d2の端部に位置している。複数の正極集電体11Xは、図5に示すように、第1接続領域a1において、抵抗溶接や超音波溶接、テープによる貼着、融着等によって互いに接合され、互いに電気的に接続している。
【0037】
図示された例では、一つのタブ6が、第1接続領域a1において正極集電体11Xに電気的に接続している。タブ6は、電極体5から第2方向d2に延び出している。一方、図5に示すように、第1電極領域b1は、負極20Yの後述する負極活物質層22Yに対面する領域の内側に位置している。そして、第3方向d3に沿った正極10Xの幅は、第3方向d3に沿った負極20Yの幅よりも狭くなっている。このような第1電極領域b1の配置により、負極活物質層22Yからのリチウムの析出を防止することができる。
【0038】
次に、負極20Y(第2電極20)について説明する。負極20Y(第2電極20)は、負極集電体21Y(第2電極集電体21)と、負極集電体21Y上に設けられ負極活物質を含む負極活物質層22Y(第2電極活物質層22)と、を有している。リチウムイオン二次電池において、負極20Yは、放電時にリチウムイオンを放出し、充電時にリチウムイオンを吸蔵する。
【0039】
図3に示すように、負極集電体21Yは、互いに対向する第1面21a及び第2面21bを主面として有している。負極活物質層22Yは、負極集電体21Yの第1面21a及び第2面21bの少なくとも一方の面上に形成される。具体的には、負極集電体21Yの第1面21a又は第2面21bが、電極体5に含まれる電極板10,20のうちの積層方向である第1方向d1における最外方に位置する場合、負極集電体21Yの最外方側となる面には負極活物質層22Yが設けられない。この負極集電体21Yの位置に依存した負極活物質層22Yの有無を除き、電極体5に含まれる複数の負極20Yは、負極集電体21Yの両側に設けられた一対の負極活物質層22Yを有し、互いに同一に構成され得る。
【0040】
負極集電体21Y及び負極活物質層22Yは、蓄電素子1(リチウムイオン二次電池)に適用され得る種々の材料を用いて種々の製法により、作製され得る。一例として、負極集電体21Yは、例えば銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属、とりわけ銅箔によって形成される。負極集電体21Yの厚さは、特に限定されないが、1μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がより好ましい。負極集電体21Yの厚さが1μm以上50μm以下であると、負極集電体21Yの取り扱いが容易になるとともに、蓄電素子1の体積エネルギー密度の低下を抑制できる。負極活物質層22Yは、例えば、炭素材料からなる負極活物質、及び、バインダーとして機能する結着剤を含んでいる。負極活物質層22Yは、例えば、炭素粉末や黒鉛粉末、スズ化合物とシリコンと炭素の複合体、リチウム等からなる負極活物質とポリフッ化ビニリデンのような結着剤とを溶媒に分散させてなる負極用スラリーを、負極集電体21Yをなす材料上に塗工して固化することで、作製され得る。このような負極活物質層22Yは、図6に示すように、空隙25を含んで形成される。
【0041】
負極活物質としては、炭素材料が好ましく、中でもグラファイトがより好ましい。負極活物質として、これらの物質を1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。負極活物質は、特に限定されないが、その平均粒子径が0.5μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上30μm以下であることがより好ましい。負極活物質層22Yにおける負極活物質の含有量は、負極活物質層22Yの全量基準で、50質量%以上98.5質量%以下が好ましく、60質量%以上98質量%以下がより好ましい。
【0042】
負極用バインダーとなる結着剤の具体例としては、正極用バインダーの具体例と同様であり、これらバインダーは、1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、カルボキシメチルセルロース等は、ナトリウム塩等の塩の態様にて使用されていてもよい。これらのなかでは、フッ素含有樹脂が好ましく、中でもポリフッ化ビニリデンがより好ましい。負極活物質層22Yにおけるバインダーの含有量は、負極活物質層22Yの全量基準で、0.5質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0043】
負極活物質層22Yは、導電助剤を含有してもよい。導電助剤の具体例は、正極活物質層12Xの場合と同じものが挙げられる。導電助剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。負極活物質層において、導電助剤が含有される場合、導電助剤の含有量は、負極活物質層全量基準で、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
なお、負極活物質層22Yにおいて、本発明の効果を損なわない範囲内において、負極活物質、導電助剤、及びバインダー以外の他の任意成分を含んでもよいことは、正極活物質層12Xの場合と同じであり、その含有量も同様である。負極活物質層22Yの厚さ(負極活物質層22Yが複数ある場合は各々の厚さ)は、特に限定されないが、10μm以上100μm以下が好ましく、20μm以上80μm以下がより好ましい。
【0045】
図5に示すように、負極集電体21Y(第2電極集電体21)は、第2接続領域a2及び第2電極領域b2を有している。負極活物質層22Y(第2電極活物質層22)は、負極集電体21Yの第2電極領域b2のみに積層されている。第2接続領域a2及び第2電極領域b2は、第2方向d2に配列されている。第2接続領域a2は、第2電極領域b2よりも第2方向d2における他側(図5における右側)に位置している。すなわち、第2接続領域a2は、第2方向d2の端部に位置している。複数の負極集電体21Yは、図5に示すように、第2接続領域a2において、抵抗溶接や超音波溶接、テープによる貼着、融着等によって互いに接合され、互いに電気的に接続している。図示された例では、正極集電体11Xに接続したタブとは別のタブ6が、第2接続領域a2において負極集電体21Yに電気的に接続している。タブ6は、電極体5から第2方向d2の他側に延び出している。
【0046】
既に説明したように、正極10Xの第1電極領域b1は、負極20Yの第2電極領域b2に対面する領域の内側に位置している(図5参照)。すなわち、第2電極領域b2は、正極10Xの正極活物質層12Xに対面する領域を内包する領域に広がっている。第3方向d3に沿った負極20Yの幅は、第3方向d3に沿った正極10Xの幅よりも広くなっている。とりわけ、負極20Yの第3方向d3における一側端部20aは、正極10Xの第3方向d3における一側端部10aよりも、第3方向d3における一側に位置し、且つ、負極20Yの第3方向d3における他側端部20bは、正極10Xの第3方向d3における他側端部10bよりも、第3方向d3における他側に位置している。
【0047】
次に、絶縁シート30について説明する。図6は、電極体5の一部を拡大して示している。図6に示すように、絶縁シート30は、例えば第1方向d1に隣り合う任意の二つの電極10,20の間に位置している。正極10X(第1電極10)及び負極20Y(第2電極20)の間に位置する絶縁シート30は、正極10X及び負極20Yが接触しないように離間させている。電極体5の第1方向d1の最も一側及び最も他側に配置されている絶縁シート30は、電極体5の表面の一部を形成しており、電極10,20が外部の部材と接触しないように離間させている。絶縁シート30は、絶縁性を有しており、正極10X及び負極20Yの接触による短絡を防止する。このような絶縁シート30の第1方向d1における長さ、すなわち厚さは、例えば0.01mm以上0.2mm以下である。なお、絶縁シート30の第1方向d1における長さは、絶縁シート30に含まれる後述する空隙35に電解液を含浸させた状態での長さである。
【0048】
図4及び図5に示されている例では、絶縁シート30は、第2方向d2及び第3方向d3に延びる矩形形状である。また、絶縁シート30は、平面視において、正極10Xの正極活物質層12Xの全領域及び負極20Yの負極活物質層22Yの全領域を覆うように広がっている。
【0049】
絶縁シート30は、大きなイオン透過度(透気度)、所定の機械的強度、および、電解液、正極活物質、負極活物質等に対する耐久性を有していることが好ましい。このような絶縁シート30として、例えば、絶縁性の材料によって形成された多孔質体や不織布等を用いることができる。すなわち、絶縁シート30は、図6に示すように、その内部に空隙35を含んでいる。より具体的には、絶縁シート30として、融点が80~140℃程度の熱可塑性樹脂からなる多孔フィルムを用いることができる。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系ポリマー、またはポリエチレンテレフタレートを採用することができる。外装体7の収容空間7aには、電極体5とともに電解液が封入される。電解液が、多孔質体や不織布からなる絶縁シート30に含浸することで、絶縁シート30を間に配置した電極10,20の電極活物質層12,22が電解液に接触した状態に維持される。電解液を介してイオンが移動することで、電極10,20において電極活物質層12,22と電解液とが反応して、蓄電素子1が電力を供給することができる。
【0050】
一例として、絶縁シート30は、絶縁性微粒子と絶縁シート用バインダーとを含み、絶縁性微粒子が絶縁シート用バインダーによって結着されて構成されている。絶縁性微粒子は、絶縁性であれば特に限定されず、有機粒子、無機粒子の何れであってもよい。具体的な有機粒子としては、例えば、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋スチレン-アクリル酸共重合体、架橋アクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸リチウム)、ポリアセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の有機化合物から構成される粒子が挙げられる。無機粒子としては二酸化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、ベーマイト、チタニア、ジルコニア、窒化ホウ素、酸化亜鉛、二酸化スズ、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、フッ化カリウム、フッ化リチウム、クレイ、ゼオライト、炭酸カルシウム等の無機化合物から構成される粒子が挙げられる。また、無機粒子は、ニオブ-タンタル複合酸化物、マグネシウム-タンタル複合酸化物等の公知の複合酸化物から構成される粒子であってもよい。絶縁性微粒子は1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。絶縁性微粒子の平均粒子径は、絶縁シート30の厚さよりも小さければ特に限定されず、例えば0.001μm以上1μm以下、好ましくは0.05μm以上0.8μm以下、より好ましくは0.1μm以上0.6μm以下である。絶縁シート30に含有される絶縁性微粒子の含有量は、絶縁シート30の全量基準で、好ましくは15質量%以上95質量%以下、より好ましくは40質量%以上90質量%以下、更に好ましくは60質量%以上85質量%以下である。絶縁性微粒子の含有量が上記範囲内であると、絶縁シート30は、均一な多孔質構造が形成でき、かつ適切な絶縁性が付与される。絶縁シート用バインダーとしては、上記した正極用バインダーと同種のものが使用できる。絶縁シート30における絶縁シート用バインダーの含有量は、絶縁シート30の全量基準で、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上45質量%以下がより好ましく、15質量%以上40質量%以下が更に好ましい。
【0051】
蓄電素子1の収容空間7aに電解液が収容されていることで、絶縁シート30に含まれる空隙35、正極活物質層12X(第1電極活物質層12)に含まれる空隙15、および負極活物質層22Y(第2電極活物質層22)に含まれる空隙25に電解液が含浸して、電極集電体11,21の間に電解液が存在している。充電及び放電のサイクルに伴い、電解液は正極活物質層12X(第1電極活物質層12)に含まれる空隙15内および負極活物質層22Y(第2電極活物質層22)に含まれる空隙25内で分解されてしまう。電解液が分解されてしまうと、正極活物質層12X(第1電極活物質層12)に含まれる空隙15および負極活物質層22Y(第2電極活物質層22)に含まれる空隙25に、絶縁シート30に含まれる空隙35に含浸した電解液が移動して補給される。なお、絶縁シート30に含まれる空隙35には、蓄電素子1の電極体5外の収容空間7aから電解液が移動して補給される。従って、正極活物質層12X(第1電極活物質層12)に含まれる空隙15と負極活物質層22Y(第2電極活物質層22)に含まれる空隙25との総容積の、絶縁シート30に含まれる空隙35の総容積に対する比は、適切な値となっていることが望まれる。具体的には、正極活物質層12X(第1電極活物質層12)の空隙15と負極活物質層22Y(第2電極活物質層22)の空隙25との総容積の、絶縁シート30に含まれる空隙35の総容積に対する比は、1以上10以下となることが好ましく、2以上8以下となることがより好ましい。
【0052】
次に、タブ6について説明する。タブ6は、蓄電素子1における端子として機能する。図3乃至図5に示すように、電極体5の正極10X(第1電極10)に一方(第2方向d2の一側)のタブ6が電気的に接続している。同様に、電極体5の負極20Y(第2電極20)に他方(第2方向d2の他側)のタブ6が電気的に接続している。図1及び図3に示すように、一対のタブ6は、外装体7の内部である収容空間7aから、外装体7の外部へと第2方向d2に延び出している。タブ6の外装体7の外部に延びている部分の第2方向d2に沿った長さは、例えば10mm以上25mm以下である。
【0053】
なお、図3に示すように、タブ6は、後述する外装体7が有する第1外装材40と第2外装材50との間、より詳しくは第1外装材40の第1シーラント層42と第2外装材50の第2シーラント層52との間を通過する。
【0054】
タブ6は、アルミニウム、銅、ニッケル、ニッケルメッキ銅等を用いて板状または短冊状に形成され得る。タブ6の厚みは、例えば0.1mm以上1mm以下である。また、タブ6の幅、すなわち第3方向d3に沿ったタブ6の長さは、一定となっている。
【0055】
タブ6上には、シール部4が設けられている。シール部4は、タブ6の第2方向d2における中間部において、タブ6を周囲から取り囲んでいる。シール部4は、外装体7に溶着しており、タブ6と外装体7との間を封止している。シール部4は、タブ6と外装体7との間の接触、特にタブ6と外装体7における後述の金属層41,51との接触を効果的に防止する。シール部4の材料としては、ポリプロピレン、変性ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体等を挙げることができる。シール部4の厚みを、例えば0.05mm以上0.4mm以下とすることができる。
【0056】
次に、外装体7について説明する。外装体7は、電極体5及び電解液を封止するための包装体である。図3に示すように、外装体7は、電極体5を収容するための収容空間7aを形成している。外装体7は、電極体5及び電解液をその内部の収容空間7aに収容して密閉する。
【0057】
収容空間7aは、電極体5を収容することができるよう、電極体5の寸法以上の寸法となっている。一方、蓄電素子1の体積エネルギー密度を高くするため、収容空間7aは、小さくなっていることが好ましい。ここで、体積エネルギー密度とは、蓄電素子が占める体積あたりの当該蓄電素子が供給可能な電力量(容量)のことを意味する。このため、外装体7は、少なくとも第1方向d1においては収容している電極体5に接していることが好ましい。収容空間7aは、収容される電極体5の形状に合わせた形状となるよう、形成されている。図示された例では、収容空間7aは、略直方体形状となっている。収容空間7aは、例えば、第1方向d1に沿った長さが0.25mm以上9.5mm以下であり、第2方向d2に沿った長さが95mm以上990mm以下であり、第3方向d3に沿った長さが95mm以上490mm以下である。
【0058】
収容空間7aは、収容される電極体5の形状に合わせた形状であることが好ましいが、電極10,20の間に存在する電解液以外の余剰の電解液を収容可能にするように、電極体5よりわずかに大きいことが好ましい。電極10,20の間に存在する電解液の量は、平面視における電極体5の面積に応じて変動し得る。適切な量の電解液を収容し得るようにする観点から、平面視における収容空間7aの面積の、平面視における電極体5の面積に対する比は、1.01以上2.0以下であることが好ましく、1.01以上1.5以下であることがより好ましい。
【0059】
収容空間7aは、電極10,20の間の絶縁シート30に電解液が含浸されて電極10,20の電極活物質層12,22が電解液に接触した状態に維持されるよう、十分な量の電解液を収容可能となっている。具体的には、適切な量の電解液を収容し得るようにする観点から、収容空間7aに収容された電解液の総体積は、絶縁シート30に含まれる空隙35の総容積の105%以上160%以下となっており、好ましくは105%以上150%以下となっている。また、第1電極集電体11と第2電極集電体21との間に存在する電解液の体積は、収容空間7aに収容された電解液の総体積の40%以上95%以下となっていることが好ましく、55%以上92%以下となっていることがより好ましい。なお、第1電極集電体11と第2電極集電体21との間に存在する電解液とは、第1電極活物質層12に含まれる空隙と、第2電極活物質層22に含まれる空隙と、絶縁シート30に含まれる空隙と、に含浸している電解液の合計をさす。また、第1電極集電体11と第2電極集電体21との間に存在する電解液の量は、例えば、放電状態にて蓄電素子1の外装材を切開して電極体5を取り出し、電極体5の表面に付着した電解液を拭き取った後、電極体5から遠心分離により電解液を分離することで、測定することができる。
【0060】
また、外装体7は、第1外装材40と、第2外装材50と、を有している。図2によく示されているように、第1外装材40と第2外装材50とがそれぞれの周縁の接合部60において接合されていることで、収容空間7aが形成されている。とりわけ、図2に示された例では、第1外装材40及び第2外装材50は、互いに対向して配置され、接合部60において接合されている。第1外装材40と第2外装材50とは、例えば接着性を有する接着層によって接合されていてもよいし、溶着されることによって接合されていてもよい。接着層によって接合される場合、接着層は、接着性に加え、絶縁性、耐薬品性、熱可塑性等を有していることが好ましく、例えば、ポリプロピレン、変性ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体等を用いることができる。このような第1外装材40及び第2外装材50の厚さを、例えば0.1mm以上0.3mm以下とすることができる。
【0061】
図2から理解されるように、接合部60と電極体5とは、離間している。接合部60と電極体5とが離間していることで、収容空間7aに電極10,20の間に存在する電解液以外の余剰の電解液を収容するための隙間を形成することができる。図2に示された平面視における接合部60と電極体5との間の第1方向d1に直交する方向に沿った距離Lは、3mm以上15mm以下であることが好ましく、5mm以上15mm以下であることがより好ましい。なお、平面視における接合部60と電極体5との間の距離Lとは、平面視における外装体7の周縁の各位置から外装体の接合部60までの第1方向に直交する方向に沿った最小長さの最大値のことである。
【0062】
なお、第1外装材40と第2外装材50とは、それぞれ別の部材であってもよいが、一体化している部材であってもよい。すなわち、第1外装材40及び第2外装材50は、1つのシート状の部材の一部及び他の一部であってもよい。この場合、第1外装材40と第2外装材50とが接続されている部分以外の部分(縁部)において第1外装材40と第2外装材50とが接合されることで、収容空間7aが形成される。
【0063】
図3によく示されているように、第1外装材40は、電極体5を収容可能な十分な大きさの収容空間7aを形成するため、第1外装材40の周縁から膨出した膨出部47を含んでいる。膨出部47は、第1外装材40の周縁によって取り囲まれて、第2外装材50から離間する向きに膨出している。膨出部47は、第1外装材40の中央部に位置している。一方、図示された例では、第2外装材50は、膨出部を含んでおらず、平坦になっている。
【0064】
しかしながら、図示された例に限らず、第1外装材40は膨出部を含んでおらず、第2外装材50が収容空間7aを形成するための膨出部を含んでいてもよい。さらには、第1外装材40及び第2外装材50の両方が、収容空間7aを形成するための膨出部を含んでいてもよい。
【0065】
図3に示された例において、第1外装材40は、第1金属層41及び第1金属層41に積層された第1シーラント層42を含んでいる。同様に、第2外装材50は、第2金属層51及び第2金属層51に積層された第2シーラント層52を含んでいる。第1シーラント層42は、第1外装材40において第2外装材50に対面する側に設けられている。第2シーラント層52は、第2外装材50において第1外装材40に対面する側に設けられている。すなわち、第1外装材40と第2外装材50とは、第1外装材40の第1シーラント層42と第2外装材50の第2シーラント層52とが向かい合うように配置されている。
【0066】
また、図示された例では、第1外装材40は、第1金属層41の表面をなす、すなわち第1金属層41の第1シーラント層42が積層された面とは逆側の面に設けられた、絶縁性を有する第1絶縁層43をさらに含んでいる。さらに、図示された例では、第2外装材50は、第2金属層51の表面をなす、すなわち第2金属層51の第2シーラント層52が積層された面とは逆側の面に設けられた、絶縁性を有する第2絶縁層53をさらに含んでいる。図3に示すように、第2方向d2において、第1外装材40の第1シーラント層42と第2外装材50の第2シーラント層52との間を、タブ6が通過している。タブ6のシール部4と第1シーラント層42及び第2シーラント層52とが溶着されることで、タブ6と外装体7との間を封止している。
【0067】
第1金属層41及び第2金属層51は、高ガスバリア性と成形加工性を有することが好ましく、例えばアルミニウム箔やステンレス箔等を用いることができる。第1シーラント層42及び第2シーラント層52は、収容空間7aに収容された電極体5と第1金属層41及び第2金属層51とが電気的に接続されることを防止する。第1シーラント層42及び第2シーラント層52は、熱可塑性を有する。熱可塑性を有する第1シーラント層42及び第2シーラント層52によって、第1外装材40と第2外装材50とを溶着によって接合することができる。第1シーラント層42及び第2シーラント層52としては、例えばポリプロピレン等を用いることができる。第1絶縁層43及び第2絶縁層53は、外部の導体と第1金属層41及び第2金属層51とが電気的に接続されることを防止する。第1絶縁層43及び第2絶縁層53は、例えば薄膜状のナイロン層である。
【0068】
次に、上述した構成からなる蓄電素子1の製造方法の一例について、説明する。
【0069】
まず、第1電極10として正極10Xを作製する。正極10Xの正極活物質層12Xを形成するために、まず、正極活物質と、正極用バインダーと、溶媒とを含む正極活物質層用組成物を用意する。正極活物質層用組成物は、必要に応じて配合される導電助剤などのその他成分を含んでもよい。正極活物質、正極用バインダー、導電助剤などは上記で説明したとおりである。正極活物質層用組成物は、スラリーとなる。
【0070】
正極活物質層組成物における溶媒は、水または有機溶剤を使用する。有機溶剤の具体例としては、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミドから選択される1種又は2種以上が挙げられる。これらの中では、N-メチルピロリドンが好ましい。正極活物質層用組成物の固形分濃度は、好ましくは5質量%以上75質量%以下、より好ましくは20質量%以上65質量%以下である。
【0071】
正極活物質層12Xは、上記正極活物質層用組成物を使用して公知の方法で形成すればよく、例えば、上記正極活物質層用組成物を正極集電体11Xの上に塗布し、乾燥することによって形成することができる。また、正極活物質層12Xは、正極活物質層用組成物を、正極集電体11X以外の基材上に塗布し、乾燥することにより形成してもよい。正極集電体11X以外の基材としては、公知の剥離シートが挙げられる。基材の上に形成した正極活物質層12Xは、好ましくは絶縁シート30を正極活物質層12X上に形成した後、基材から正極活物質層12Xを剥がして正極集電体11Xの上に転写すればよい。正極集電体11X又は基材の上に形成した正極活物質層12Xは、好ましくは加圧プレスする。加圧プレスすることで、電極密度を高めることが可能になる。加圧プレスは、ロールプレスなどにより行えばよい。
【0072】
次に、第2電極20としての負極20Yを作製する。負極20Yの負極活物質層22Yを形成するために、まず、負極活物質と、負極用バインダーと、溶媒とを含む負極活物質層用組成物を用意する。負極活物質層用組成物は、必要に応じて配合される導電助剤などのその他成分を含んでもよい。負極活物質、負極用バインダー、導電助剤などは上記で説明したとおりである。負極活物質層用組成物は、スラリーとなる。
【0073】
負極活物質層組成物における溶媒は、正極活物質層組成物における溶媒と同様のものを用いることができ、その固形分濃度も同様である。
【0074】
負極活物質層22Yは、上記負極活物質層用組成物を使用して公知の方法で形成すればよく、例えば、上記負極活物質層用組成物を負極集電体21Yの上に塗布し、乾燥することによって形成することができる。また、負極活物質層22Yは、負極活物質層用組成物を、負極集電体21Y以外の基材上に塗布し、乾燥することにより形成してもよい。負極集電体21Y以外の基材としては、公知の剥離シートが挙げられる。基材の上に形成した負極活物質層22Yは、好ましくは絶縁シート30を負極活物質層22Y上に形成した後、基材から負極活物質層22Yを剥がして負極集電体21Yの上に転写すればよい。負極集電体21Y又は基材の上に形成した負極活物質層22Yは、好ましくは加圧プレスする。加圧プレスすることで、電極密度を高めることが可能になる。加圧プレスは、ロールプレスなどにより行えばよい。
【0075】
また、絶縁シート30を作製する。絶縁シート30の絶縁シート用組成物は、無機粒子と、絶縁シート用バインダーと、溶媒とを含む。絶縁シート用組成物は、必要に応じて配合されるその他の任意成分を含んでいてもよい。無機粒子、絶縁層用バインダーなどの詳細は上記で説明したとおりである。絶縁シート用組成物はスラリーとなる。溶媒としては、水又は有機溶剤を使用すればよく、有機溶剤の詳細は、正極活物質層組成物における有機溶剤と同様のものが挙げられる。絶縁シート用組成物の固形分濃度は、好ましくは5質量%以上75質量%以下、より好ましくは15質量%以上50質量%以下である。
【0076】
絶縁シート30は、絶縁シート用組成物を、正極活物質層12X若しくは負極活物質層22Yの上に塗布して乾燥することによって形成することができる。絶縁シート用組成物を正極活物質層12X若しくは負極活物質層22Yの表面に塗布する方法は特に限定されず、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、バーコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。また、乾燥温度は、上記溶媒を除去できれば特に限定されないが、例えば40℃以上120℃以下、好ましくは50℃以上90℃以下である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、30秒以上20分以下である。
【0077】
以上のようにして作製された第1電極10(正極10X)、絶縁シート30、第2電極20(負極20Y)、絶縁シート30をこの順で繰り返し積層する。これにより、複数の第1電極10及び第2電極20が交互に積層され、第1電極10及び第2電極20の間に絶縁シート30が配置される。電極体5が第1電極10及び第2電極20を合計で20以上含むよう、第1電極10、絶縁シート30及び第2電極20を積層するようにしてもよい。
【0078】
積層された第1電極10、絶縁シート30及び第2電極20が圧着されることで、電極体5が作製される。第1電極10、絶縁シート30及び第2電極20を圧着させる具体的な方法は、プレス機などによりプレスすることで行うとよい。プレス条件は、正極活物質層12X及び負極活物質層22Yが必要以上に圧縮されない程度の条件で行うとよい。具体的には、プレス温度は、50℃以上130℃以下、好ましくは60℃以上100℃以下であり、プレス圧力は、例えば、0.2MPa以上3MPa以下、好ましくは0.4MPa以上1.5MPa以下である。また、プレス時間は、例えば、15秒以上15分以下、好ましくは30秒以上10分以下である。
【0079】
電極体5の第2方向d2における一側において、第2方向d2に延びるタブ6が超音波溶着等の手段によって第1電極10と電気的に接続され、第2方向d2における他側において、第2方向d2に延びる別のタブ6が第2電極20と電気的に接続される。
【0080】
また、第1外装材40及び第2外装材50を作製する。外装材40,50は、例えばアルミニウム箔からなる金属層41,51に、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリエチレンテレフタレートからなるシーラント層42,52をラミネートすることで作製される。第1外装材40及び第2外装材50は、平板状に形成される。第1外装材40には、例えばエンボス加工によって、膨出部47が設けられる。
【0081】
その後、電極体5を第1外装材40及び第2外装材50の間に配置する。第1外装材40及び第2外装材50は、第1シーラント層42及び第2シーラント層52の側が向かい合うように配置される。このとき、一方のタブ6は、第2方向d2の一側において第1外装材40及び第2外装材50の間から外方に延び出しており、他方のタブ6は第2方向d2の他方において第1外装材40及び第2外装材50の間から外方に延び出している。その後、第1外装材40及び第2外装材50を周縁において接合する。例えば第1シーラント層42及び第2シーラント層52の溶着によって、第1外装材40及び第2外装材50を接合することができる。第1シーラント層42及び第2シーラント層52の溶着は、例えば、第1外装材40及び第2外装材50を加熱加圧にすることによって、実現され得る。第1外装材40と第2外装材50とが縁部に位置する(周縁)の接合部60において接合されることで、収容空間7aが形成される。収容空間7aには、電解液が注入される。電解液が注入される量は、電極10,20の間の絶縁シート30に電解液が含浸されて電極10,20の電極活物質層12,22が電解液に接触した状態に維持される十分な量である。具体的には、電解液は、第1電極活物質層12に含まれる空隙15、第2電極活物質層22に含まれる空隙25、及び絶縁シート30に含まれる空隙35の総容積の105%以上160%以下、好ましくは105%以上150%以下の量を収容空間7aに注入される。
【0082】
以上の工程により、膨出部47によって形成された収容空間7aに、電極体5及び電解液が収容されて、図1に示すような蓄電素子1が製造される。
【0083】
ところで、従来の蓄電素子では、長期間にわたって使用していると、収容空間に収容された電解液が分解されて、電解液の量が減少してしまう。その結果、正極と負極との間の絶縁シートに十分な量の電解液が含浸しなくなる。すなわち、絶縁シートに含まれる空隙が電解液で満たされなくなる部分ができる。正極と負極との間の絶縁シートが電解液で満たされていない部分では正極と負極との間をイオンが移動できないため、蓄電素子を効率的に充電及び放電することができない。言い換えると、蓄電素子の容量が低下してしまう。そこで、電解液が分解されても絶縁シートに含まれる空隙が電解液で満たされることができるよう、十分な量の電解液を収容空間に収容しておくことが望まれる。
【0084】
しかしながら、過剰な量の電解液が収容空間に収容されていると、電解液によって電極体と外装体との間の距離が拡がってしまう。電極体と外装体との間の距離が拡がると、蓄電素子の容量が低下してしまう。
【0085】
本実施の形態の蓄電素子1では、収容空間7aに収容された電解液の総体積は、第1電極活物質層12に含まれる空隙15、第2電極活物質層22に含まれる空隙25、及び絶縁シート30に含まれる空隙35の総容積の105%以上160%以下、好ましくは105%以上150%以下となっている。収容空間7aに第1電極活物質層12に含まれる空隙15、第2電極活物質層22に含まれる空隙25、及び絶縁シート30の空隙35を満たす十分な量の電解液が収容されているため、蓄電素子1を長期間にわたって使用して電解液の量が減少しても、絶縁シート30の空隙35、第1電極活物質層12の空隙15、および第2電極活物質層22の空隙25を、電解液で満たすことができる。すなわち、長期間にわたって蓄電素子1を使用しても、蓄電素子1の容量が低下しにくい。加えて、収容空間7aに多すぎない量の電解液が収容されているため、電極体5と外装体7(第1外装材40および第2外装材50)との間の距離が電解液によって拡がることは抑制されている。したがって、体積エネルギー密度の悪化を抑制される。
【0086】
また、蓄電素子1が電力を効率よく供給可能となるよう、第1電極活物質層12に含まれる空隙15および第2電極活物質層22に含まれる空隙25にて電解液が分解されても、第1電極活物質層12と第2電極活物質層22とに隣接する絶縁シート30から十分な量の電解液が移動して補給されることが望まれる。したがって、正極活物質層12X(第1電極活物質層12)の空隙15と負極活物質層22Y(第2電極活物質層22)の空隙25との総容積の、絶縁シート30内の空隙35の総容積に対する比は、十分小さいことが望まれ、具体的には、10以下となることが好ましく、8以下となることがより好ましい。しかしながら、正極活物質層12X(第1電極活物質層12)の空隙15と負極活物質層22Y(第2電極活物質層22)の空隙25との総容積の、絶縁シート30内の空隙35との総容積に対する比が減るほど、絶縁シート30内の実質体積が減少し、蓄電素子1の絶縁性が低下してしまう。したがって、正極活物質層12X(第1電極活物質層12)の空隙15と負極活物質層22Y(第2電極活物質層22)の空隙25との総容積の、絶縁シート30内の空隙35の総容積に対する比が小さすぎないことが望まれ、具体的には、1以上となることが好ましく、2以上となることがより好ましい。
【0087】
さらに、平面視における接合部60と電極体5との間の第1方向d1に直交する方向に沿った距離Lは、3mm以上15mm以下であることが好ましく、5mm以上15mm以下であることがより好ましい。接合部60と電極体5とが離間していることで、収容空間7aに電極10,20の間に存在する電解液以外の余剰の電解液を収容することができる。また、接合部60と電極体5とが離間しすぎていないことで、収容空間7aが大きくなりすぎて蓄電素子1の体積エネルギー密度が悪化してしまうことを、抑制することができる。
【0088】
第1電極活物質層12は、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含んでいる。この場合、蓄電素子1を長期間にわたって使用することが可能となる。長期間にわたって蓄電素子1を使用すると、使用期間に応じて電解液が分解されてしまう。また、平面視における電極体5の面積が、80cm以上4700cm以下となっている。このような平面視における面積が十分に大きい電極体5は、電解液と電極とが接触する面積が大きいため、反応が促進されやすく、したがって電解液が分解されやすい。すなわち、第1電極活物質層12が正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含んでいる蓄電素子1に対し、電解液の分解による蓄電素子の容量低下を抑制する効果を有した本実施の形態は、特に好適である。
【0089】
以上のように、本実施の形態の蓄電素子1は、第1外装材40及び第2外装材50を含む外装体7と、第1外装材40と第2外装材50との間に形成される収容空間7aに収容された電極体5及び電解液と、を備え、電極体5は、第1方向d1に積層された複数の第1電極10及び複数の第2電極20と、第1方向d1に隣り合う第1電極10と第2電極20との間に配置され且つ空隙35を含む絶縁シート30と、を有し、第1電極10は、第1電極集電体11と、第1電極集電体11の少なくとも一方の面上に設けられ且つ空隙15を含む第1電極活物質を含む第1電極活物質層12と、を有し、第2電極20は、第2電極集電体21と、第2電極集電体21の少なくとも一方の面上に設けられ且つ空隙25を含む第2電極活物質を含む第2電極活物質層22と、を有し、収容空間7aに収容された電解液の総体積は、絶縁シート30に含まれる空隙35、第1電極活物質層12に含まれる空隙15、及び第2電極活物質層22に含まれる空隙25の総容積の105%以上160%以下である。このような蓄電素子1によれば、蓄電素子1を長期間にわたって使用して電解液の量が減少しても絶縁シート30の空隙35を電解液で満たすことができ、且つ、電極体5と外装体7(第1外装材40および第2外装材50)との間の距離が電解液によって拡がることが抑制される。したがって、蓄電素子1の体積エネルギー密度の悪化を抑制しながら、容量の低下を抑制することができる。
【0090】
本発明の態様は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【0091】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
実施例1~13及び比較例1~5として、絶縁シートに含まれる空隙、第1電極活物質層に含まれる空隙、及び第2電極活物質層に含まれる空隙の総容積に対する収容空間に収容された前記電解液の総体積の比率、第1電極活物質層に含まれる空隙と第2電極活物質層に含まれる空隙との総容積の絶縁シートに含まれる空隙の総容積に対する比率、及び、収容空間に収容された電解液の総体積に対する第1電極集電体と第2電極集電体との間に存在する電解液の体積の比率の組み合わせがそれぞれ異なるリチウムイオン二次電池(シート型のラミネート電池)を作製した。実施例10,11のリチウムイオン二次電池では、平面視における接合部と電極体との間の距離Lを変化させた。これに伴って、実施例10,11のリチウムイオン二次電池では、平面視における電極体の面積が変化している。これに伴って、実施例10,11のリチウムイオン二次電池では、平面視における収容空間の面積の、平面視における電極体の面積に対する比が変化している。
【0093】
これらの実施例1~13及び比較例1~5のリチウムイオン二次電池の製造方法について、具体的に説明する。
【0094】
まず、正極活物質を含む固形成分100質量部と、導電助剤としてカーボンブラックを5質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5質量部と、溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)を混合して、固形分45質量%のスラリーを調整した。正極活物質は、リン酸鉄リチウムを含んでいる。その後、このスラリーをアルミニウム箔に塗布し、予備乾燥後、120℃で真空乾燥した。電極を4kNで加圧プレスし、さらに電極の寸法に打ち抜くことで、正極を作製した。
【0095】
また、負極活物質を含む固形成分100質量部と、結着材としてスチレンブタジエンゴム1.5質量部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムを1.5質量部と、水溶媒を混合し、固形分50質量%のスラリーを調整した。その後、このスラリーを銅箔に塗布し、100℃で乾燥した。電極を2kNで加圧プレスし、さらに電極の寸法に打ち抜くことで、負極を作製した。
【0096】
正極、負極、セパレータを積層し、電解液を注入した後、封止することでシート状にラミネートされたリチウムイオン二次電池を作製した。なお、実施例及び比較例におけるリチウムイオン二次電池は、ドライボックス内又はドライルーム内にて作製された。
【0097】
作製された実施例1~13及び比較例1~5のリチウムイオン二次電池それぞれについて、初期の容量を測定した。また、実施例1~13及び比較例1~5のリチウムイオン二次電池それぞれについて、25℃において電流値1Cで3.6Vまで充電した後、電流値1Cで2.5Vまで放電した。この充放電サイクルを繰り返し行い、1000サイクル繰り返した後、リチウムイオン二次電池の容量を測定した。実施例1~13及び比較例1~5のリチウムイオン二次電池について、初期の容量に対して充放電サイクルを繰り返した後の容量の変化率を評価した。すなわち、各リチウムイオン二次電池について、1-(サイクル後の容量/初期の容量)の値を評価した。充放電サイクルを繰り返した後に容量の変化率が小さいリチウムイオン電池が、充放電の繰り返しに強く、したがってサイクル特性が高いと評価される。具体的には、初期の容量に対する充放電サイクルを繰り返した後の容量の変化率が0.02未満をA、0.02以上0.05未満をB、0.05以上0.10未満をC、0.10以上をDと評価した。
【0098】
実施例1~13及び比較例1~5について、絶縁シートに含まれる空隙、第1電極活物質層に含まれる空隙、及び第2電極活物質層に含まれる空隙の総容積に対する収容空間に収容された前記電解液の総体積の比率(電解液の体積比率)、第1電極活物質層に含まれる空隙と第2電極活物質層に含まれる空隙との総容積の絶縁シートに含まれる空隙の総容積に対する比率(絶縁シート中の空隙比率)、平面視における接合部と電極体との間の距離L、平面視における収容空間の面積の、平面視における電極体の面積に対する比(負極塗工部面積/収容空間面積)、収容空間に収容された電解液の総体積に対する第1電極集電体と第2電極集電体との間に存在する電解液の体積の比率(VA+VC/VEL)、平面視における電極体の面積、及び、容量の変化率の評価結果について、以下の表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示された実施例1~13及び比較例1~5との比較から、絶縁シートに含まれる空隙、第1電極活物質層に含まれる空隙、及び第2電極活物質層に含まれる空隙の総容積に対する収容空間に収容された前記電解液の総体積の比率(電解液の体積比率)が105%以上160%以下であることで、容量の変化率のサイクル特性が向上し、105%以上150%以下であることで、容量の変化率のサイクル特性がより向上することが理解される。また、平面視における接合部と電極体との間の距離Lが5mm以上であることで、容量の変化率のサイクル特性がより向上することが理解される。
【符号の説明】
【0101】
1 蓄電素子
5 電極体
6 タブ
7 外装体
7a 収容空間
10 第1電極
11 第1電極集電体
12 第1電極活物質層
20 第2電極
21 第2電極集電体
22 第2電極活物質層
30 絶縁シート
40 第1外装材
50 第2外装材
60 接合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6