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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂製締結具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/46 20060101AFI20220720BHJP
   B29C 70/12 20060101ALI20220720BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20220720BHJP
   F16B 37/00 20060101ALI20220720BHJP
   F16B 43/00 20060101ALI20220720BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20220720BHJP
【FI】
B29C70/46
B29C70/12
F16B35/00 N
F16B37/00 C
F16B43/00 Z
B29K101:12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021516098
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2020017021
(87)【国際公開番号】W WO2020218233
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2019084239
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】金森 尚哲
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敬洋
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-015399(JP,A)
【文献】特開平10-138244(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0232042(US,A1)
【文献】特開昭61-086241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29D 1/00
B29B 11/16
F16B 23/00-43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂製の締結具の製造方法であって、
開繊した強化繊維が所定の方向に配向した状態で熱可塑性樹脂に含浸された繊維強化樹脂シートが所定の大きさに細断された複数のチョップ材を準備する準備工程と、
前記複数のチョップ材を平面的に並べて合体したチョップドシートを作製するチョップドシート作製工程と、
前記チョップドシートを金型の内部に詰め込む投入工程と、
前記金型を加熱した状態で前記金型内部の前記チョップドシートを加圧することにより、前記締結具の形状に成形する加圧工程と
を含む繊維強化樹脂製締結具の製造方法。
【請求項2】
前記チョップドシート作製工程は、前記複数のチョップ材を熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に分散させた状態で含浸させることにより前記チョップドシートを作製する
請求項に記載の繊維強化樹脂製締結具の製造方法。
【請求項3】
前記チョップドシート作製工程の後において、前記チョップドシートを前記チョップ材よりも大きい所定の大きさに細断するチョップドシート細断工程をさらに含み、
前記投入工程において、細断された前記チョップドシートを前記金型の内部に詰め込む、
請求項またはに記載の繊維強化樹脂製締結具の製造方法。
【請求項4】
前記チョップ材に含まれる前記強化繊維の繊維長は、5~100mmである、
請求項1~のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂製締結具の製造方法。
【請求項5】
前記チョップ材における前記熱可塑性樹脂に含まれる強化繊維の体積含有率は、30~80%である、
請求項1~のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂製締結具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製締結具の製造方法および繊維強化樹脂製締結具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、締結具として金属ボルトや樹脂製ボルトなどが用いられている。金属ボルトは腐食しやすく、重量があるという欠点があり、樹脂製のボルトは腐食することはないが、強度が足りないという欠点がある。
【0003】
そこで、近年では、腐食しにくく、軽量でかつ金属製のボルト等と同程度の強度を有する締結具として、炭素繊維強化樹脂(CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)、以下、CFRPと呼ぶ)からなるボルトやナットなどの締結具が製造されてきている。CFRP製の締結具は、耐腐食性および高強度を両立しているので、水中や雨にさらされやすい場所などの過酷な使用条件下でも使用可能である。
【0004】
このようなCFRP製の締結具を製造する方法として一般的に知られる製造方法には、炭素繊維強化樹脂に含まれる炭素繊維の長繊維を所定の方向に並べた状態で樹脂に含浸させたCFRP製の丸棒を準備し、当該CFRP製の丸棒の周面を切削加工によってねじ切りしてねじ山を削り出すことによって、CFRP製のボルトを製造する方法がある。
【0005】
また、特許文献1記載の方法のように、強化炭素繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた熱可塑性炭素繊維強化樹脂、すなわちCFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermal Plastic)製の丸棒を加熱状態の金型を用いて熱プレス成形することによってCFRTP製のボルトを製造することも知られている。
【0006】
しかし、CFRP製の丸棒を切削加工によりねじ切りをしてボルトを製造する方法では、1本ごとに切削加工を施す必要があり、量産性に劣る。しかも、CFRP製の丸棒は、通常、丸棒の長手方向に強化繊維が延びているので、ボルトを製造するために、ねじ切り加工をしたときに、丸棒周面の強化繊維が切断されて高い強度のボルトを製造することが難しい。
【0007】
また、特許文献1記載のようにCFRP製の丸棒を熱プレス成形してボルトを製造する方法においても、ねじ山部分で強化繊維が急激な変形をして切断されるので、この製造方法でもボルトの強度の向上が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公平7-86367号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、量産性に優れ、かつ高い強度の締結具を製造することが可能な繊維強化樹脂製締結具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の繊維強化樹脂製締結具の製造方法は、繊維強化樹脂製の締結具の製造方法であって、開繊した強化繊維が所定の方向に配向した状態で熱可塑性樹脂に含浸された繊維強化樹脂シートが所定の大きさに細断された複数のチョップ材を準備する準備工程と、前記複数のチョップ材を平面的に並べて合体したチョップドシートを作製するチョップドシート作製工程と、前記チョップドシートを金型の内部に詰め込む投入工程と、前記金型を加熱した状態で前記金型内部の前記チョップドシートを加圧することにより、前記締結具の形状に成形する加圧工程とを含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の製造方法によって製造される繊維強化樹脂製締結具の具体例としてのボルト、ナット、およびワッシャの斜視図である。
図2】本発明の繊維強化樹脂製締結具の製造方法の実施形態に係る製造方法の一連の流れを示すフローチャートである。
図3】締結具の材料となるCFRTP製のチョップ材を製造するための中間材として、CFRTP製シートを製造する過程を示す説明図である。
図4】CFRTP製シートを連続的に細断してCFRTP製のチョップ材を製造する過程を示す説明図である。
図5】本発明の製造方法で用いられる金型の分解斜視図である。
図6】本発明の製造方法における複数のチョップ材またはチョップドシートを金型に投入する投入工程を示す説明図である。
図7】投入工程においてチョップ材を金型の内部に押し込む過程を示す説明図である。
図8】本発明の製造方法におけるチョップ材を金型の内部で加圧して締結具であるボルトを成形する加圧工程を示す説明図である。
図9】加圧工程後に金型を分解する過程を示す説明図である。
図10】成形されたボルトを金型から取り出す過程を示す説明図である。
図11】本発明の製造方法の変形例であるチョップ材を熱可塑性フィルムに含浸させることによりチョップドシートを作製するチョップドシート作製工程を示す説明図である。
図12】比較例1のボルトの断面図である。
図13】(a)は5mm×20mmの矩形形状のチョップ材(厚さ50μm)、およびマトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられ、炭素繊維の繊維体積含有率は53%である製造条件によって製造されたボルトの断面図、(b)は比較例3のボルトの断面図である。
図14】本発明の製造方法で使用可能な金型の他の例を示す断面図である。
図15】本発明の製造方法で使用可能な金型の他の例を示す断面図である。
図16】本発明の製造方法で使用可能な金型の他の例を示す断面図である。
図17】本発明の製造方法で使用可能な金型の他の例を示す断面図である。
図18】繊維強化樹脂製ボルトの断面を観察した場合の繊維の充填度合いの評価についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0013】
図1には、本発明の製造方法によって製造される繊維強化樹脂製締結具の具体例としてのボルトB、ナットN、およびワッシャWが示されている。これらボルトBなどの締結具は、強化繊維を熱可塑性樹脂に含浸させた繊維強化樹脂シートを細断したチョップ材を熱プレス成形することによって製造されている。
【0014】
すなわち、本実施形態の繊維強化樹脂製の締結具の製造方法は、
(A) 開繊した強化繊維が所定の方向に配向した状態で熱可塑性樹脂に含浸された繊維強化樹脂シートが所定の大きさに細断された複数のチョップ材を準備する準備工程と、
(B) 複数のチョップ材を金型の内部に投入する投入工程と、
(C) 金型を加熱した状態で金型内部のチョップ材を加圧することにより、締結具の形状に成形する加圧工程と
を含むことを特徴とする。
【0015】
強化繊維としては、炭素繊維束、ガラス繊維束、アラミド繊維束、セラミックス繊維束などの強化繊維束を開繊したもの(すなわち、繊維束をばらして帯状に広げたもの)が用いられる。とくに、炭素繊維束は、強度および耐腐食性などの点で好ましい。また、炭素繊維のうち、とくに、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維は、他の素材よりも高い強度を有する点で好ましい。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロンMXD6、ナイロン9T、ナイロン11、ナイロン12等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、フッ素系樹脂などが使用される。また、これらの熱可塑性樹脂を2種類以上混合して、ポリマーアロイにした樹脂を使用してもよい。
【0017】
また、熱可塑性樹脂は、繊維強化樹脂シートの作製時にはシート状の形態で使用されるが、熱可塑性樹脂材料による繊維から構成される織物シート材または編物シート材、さらには不織布などの形態で使用してもよい。
【0018】
本実施形態の繊維強化樹脂製の締結具の製造方法は、具体的には、図2のフローチャートに示される手順で実行される。ここでは、製造される締結具として、ボルトBを例に挙げて説明する。
【0019】
まず、繊維強化樹脂シートとして熱可塑性炭素繊維強化樹脂(CFRTP)製のシート(以下、CFRTPシート)を製造する(図2のS1)。
【0020】
CFRTPシートは、例えば、図3に示されるようなCFRTPシートを製造するシート製造装置を用いて連続的に製造される。
【0021】
図3に示されるシート製造装置は、強化繊維としての炭素繊維束F1および熱可塑性樹脂シートR1を用いて、CFRTPシートSを連続的に製造する装置である。
【0022】
シート製造装置は、具体的には、互いに上下方向に並んで配置された複数対(図3では2対)の加熱ロール1と、上記の加熱ロール1の群の下側に位置し、互いに上下方向に並んで配置された複数対(図3では2対)の冷却ロール2と、上下方向に並ぶ2本加熱ロール1および2本の冷却ロール2の縦列にそれぞれ掛け回された一対の無端ベルト3と、一対の無端ベルト3の下側に位置する一対の引き出しロール4と、巻き取り用のボビン5とを備えている。
【0023】
また、図示されていないが、最上段の加熱ロール1の近傍には、炭素繊維束F1を開繊して帯状に広げることによって開繊繊維F2を連続的に形成する開繊機構が設けられている。開繊機構としては、例えば、繊維束を広げて長繊維を同一方向に延びるように平たく広げる処理をすることが可能な機構であればよく、繊維束を叩いて広げる機構、または繊維束に風を当てて広げる機構などの種々の機構が用いられる。
【0024】
図3に示される製造装置では、熱可塑性樹脂シートR1を表裏両側から開繊繊維F2で挟むことによって、CFRTPシートSを製造する。
【0025】
2対の加熱ロール1は、それぞれ電気ヒータまたは加熱流体などによって加熱される。2対の加熱ロール1は、無端ベルト3を介して開繊繊維F2と熱可塑性樹脂シートR1とを互いに重ね合せた状態で両側から挟み込みながら加熱することにより、開繊繊維F2を熱可塑性樹脂シートR1に連続的に含浸させる。
【0026】
複数対の冷却ロール2は、それぞれ冷却流体などによって冷却される。複数対の冷却ロール2は、無端ベルト3を介して開繊繊維F2が含浸された状態の熱可塑性樹脂シートR1を両側から挟み込みながら冷却して下方へ送り出すことにより、所定の厚さのCFRTPシートSを連続的に成形する。
【0027】
一対の引き出しロール4は、製造されたCFRTPシートSに張力を加えながら連続的に下方へ引き出す。
【0028】
巻き取り用のボビン5は、モータなどの駆動源によって回転し、一対の引き出しロール4によって引き出されたCFRTPシートSを順次巻き取ることにより、ロール状のCFRTPシートSを形成する。
【0029】
なお、図3に示される無端ベルト3を用いずに熱可塑性樹脂シートと開繊した強化繊維を所定の方向に一緒に流して巻き取る方法によっても、CFRTPシートを製造することが可能である。
【0030】
ついで、図4に示されるように、作製されたCFRTPシートSを細断してチョップ材Cを作製する(図2のS2)。
【0031】
具体的には、図4に示されるように、ロール状に巻かれたCFRTPシートSを引き出しながら、区間Iにおいて、シートSの幅方向に等間隔に配置された多数の刃を有するカッターなどを用いて、所定の幅を有する多数の短冊(strip)状になるようにシートSを長手方向に連続的に切断する。ついで、区間IIにおいて、シートSの幅方向に延びる刃を有するロータリーカッターなどを用いて、シートSが短冊状に切断されたものを所定の長さごとに切断する。これにより、所定の寸法のチョップ材Cを連続的に作製することができる。
【0032】
チョップ材Cの大きさは、成形されるボルトBの寸法、後述する金型11の投入口12の大きさ、成形時の賦形性などの種々の条件を考慮して選定される。
【0033】
ついで、上記(B)の投入工程として、図5~6に示される金型11を加熱した状態で、投入口12を通して、当該金型11に多数のチョップ材Cを投入する。
【0034】
金型11は、その内部でチョップ材Cを加熱しながら加圧成形できる構成であればよく、例えば、縦方向に2分割された割り型11a、11bによって構成される。金型11の上端には、投入口12が形成されている。金型11の内部には、成形されるボルトB(締結具)の形状に対応する空間部(キャビティー)13が形成されている。空間部13は、投入口12と連通している。空間部13は、ボルトBのおねじが形成された軸部分の形状に対応する軸部側空間部13aと、ボルトBの六角形の頭部の形状に対応する頭部側空間部13bとを有する。したがって、軸部側空間部13aの内面にはめねじが形成され、頭部側空間部13bには六角柱状にくりぬかれた凹部が形成されている。
【0035】
2つの割り型11a、11bは、互いの合わせ面14を当接させてボルトBの形状に対応する空間部13を形成した状態で連結される。具体的には、2つの割り型11a、11bに水平方向に形成された貫通孔15にボルトを挿入するとともに当該ボルトにナットを締結することによって、2つの割り型11a、11bが連結される。
【0036】
なお、図5~6に示される上記の金型11は、縦割り型の2つの割り型11a、11bを有し、空間部13のうちボルト頭部側に1個の貫通孔12が形成された構造を有しているが、本発明の製造方法では金型の構造について限定するものではなく、種々の形状の金型を採用することが可能である。
【0037】
例えば、本発明の変形例として、図14に示される金型21のように、ボルト形状の空間部21aのうち軸部側空間部21bに連通する貫通孔21cが形成され、軸部側の貫通孔21cから圧力Pを空間部21a内に与えることが可能な構造であってもよい。
【0038】
また、他の変形例として、図15に示される金型22のように、2つの貫通孔、すなわち、ボルト形状の空間部22aのうち軸部側空間部22bに連通する貫通孔22c、および頭部側空間部22dに連通する貫通孔22eが形成された構造であってもよい。図15の構造では、2か所の貫通孔22c、22eから圧力Pを空間部22a内に与えることが可能である。
【0039】
さらに他の変形例として、図16に示される横割り型の金型23を用いてもよい。この金型23は、水平方向に延びる合わせ面23dで合わせることが可能な2つの割り型として、上型23aおよび下型23bを有する。上型23aおよび下型23bを合わせることによりボルト状の空間部23cが形成される。
【0040】
横割り型についてのさらに他の変形例として、図17に示される横割り型の金型24のように、2か所の貫通孔24e、24fを形成してもよい。図17の構造では、上型24aおよび下型24bを水平合わせ面24dで合わせることによってボルト形状の空間部24cが形成されている。当該空間部24cのうち軸部側空間部24c1は、貫通孔24eに連通し、頭部側空間部24c2は、貫通孔24fに連通している。2か所の貫通孔24e、24fから圧力Pを空間部24c内に与えることが可能である。
【0041】
金型11の加熱方法については、チョップ材Cが溶融する温度(例えば270℃前後の250~300℃)まで加熱できる方法であればよく、本発明ではとくに限定しない。例えば、赤外線やバーナーなどによる加熱の他、誘導加熱などによって加熱してもよい。
【0042】
チョップ材Cを金型11に投入する方法については、本発明はとくに限定されるものではなく、投入装置を用いた機械的な方法または手作業で所定量のチョップ材Cを投入すればよい。
【0043】
チョップ材Cを投入する際には、チョップ材C内部の炭素繊維の延びる方向がそろわないように多数のチョップ材Cが互いにバラバラの方向を向くように(すなわち、チョップ材Cの向きがランダムになるように)投入することにより、成形後のボルトBのランダム配向性を確実に担保することが可能である。したがって、チョップ材Cの大きさは、投入口12の開口面積や空間部13の体積や形状などを考慮して、多数のチョップ材Cが投入時において互いにバラバラの方向を向く程度の大きさになるように設定されるのが好ましい。
【0044】
ついで、図7に示されるように、チョップ材Cを金型11に押し込む(図2のS4)。具体的には、押圧ロッド16を金型11の投入口12に挿入し、押圧ロッド16によって、金型11に投入されたチョップ材Cを金型11内部の空間部(キャビティー)13に押し込む。これにより、チョップ材Cを空間部13の内部に均一に分散して詰め込まれるようにする。押圧ロッド16によってチョップ材Cを押し込む場合、投入口12とほぼ同一の大きさの蓋を介してチョップ材Cを押し込んでもよいし、押圧ロッド16の下端面で直接押し込んでもよい。押し込んだときにチョップ材Cが漏れなければ適宜の方法で押し込めばよい。上記のチョップ材Cを金型11に押し込む工程(S4)は本発明の製造方法では、必須でなく、省略してもよい。
【0045】
その後、図8に示されるように、熱プレス機17を用いて金型11内部のチョップ材Cを加圧する(図2のS5)。熱プレス機17は、台座17aと、台座17aの上方に配置された加圧部17bとを有する。台座17aは、ヒータを有しており、台座17aに載置された金型11を加熱する。金型11が台座17aに載置された状態で、加圧部17bが下降することにより、加圧部17bは押圧ロッド16を介して加熱された金型11内部のチョップ材Cを加圧する。これにより、金型11内部では多数のチョップ材Cの群が高温高圧下で空間部13内部で溶融変形してボルトBの形状に成形される。
【0046】
ボルトBの成形後、図9に示されるように、金型11を分解して、2つの割り型11a、11bに分割する(図2のS6)。
【0047】
最後に、図10に示されるように、ボルトBを金型11の一方の割り型11aの空間部13から取り外して脱型をして(図2のS7)、ボルトBの製造方法の一連の工程が終了する。
【0048】
本発明の実施形態に係るボルトBなどの繊維強化樹脂製締結具は、上記の製造方法で製造することにより、熱可塑性樹脂と、配向が特定されない状態で前記熱可塑性樹脂に含浸されている強化繊維とで形成された繊維強化樹脂製締結具であって、前記強化繊維の繊維長は、5~100mmの範囲内、好ましくは5~40mmであり、さらに好ましくは5~20mmである。前記熱可塑性樹脂における前記強化繊維の体積含有率は、30~80%の範囲内、好ましくは30~60%であるという特徴を有することが可能になる。
【0049】
上記の締結具では、強化繊維配向が特定されない状態、すなわちランダム配向性を有する状態で強化繊維が熱可塑性樹脂に含浸されており、しかも、強化繊維における条件として、繊維長が5~100mmの範囲内であり、かつ、前記熱可塑性樹脂における体積含有率が30~80%の範囲内であるので、量産性に優れ、かつ高い強度を有している。
【0050】
上記の条件は、後述の実施例で示されるように、強化繊維の繊維長が、5~100mmで、好ましくは5~40mmであり、さらに好ましくは5~20mm程度あれば、引張強度に優れたボルトを製造することができる点、および強化繊維の体積含有率が30~80%の範囲内、好ましくは30~60%であれば、ボルトの高い強度および賦形性を確保することが可能である点に基づいている。
【0051】
(本実施形態の特徴)
上記の本実施形態の繊維強化樹脂製の締結具の製造方法では、ボルトBなどの締結具の材料として、図3~4に示されるように、開繊した強化繊維F2が所定の方向に配向した状態で熱可塑性樹脂R1に含浸されたCFRTPシートSなどの繊維強化樹脂シートを所定の大きさに細断することによって形成された複数のチョップ材Cを準備する。そして、複数のチョップ材Cを金型11の内部に投入して、チョップ材を加熱した状態で加圧成形する。チョップ材Cは賦形性、すなわち金型のキャビティ形状への追随性が良いので、従来の繊維強化樹脂製の棒状部材を切削加工して製造する場合と比較して量産性に優れる。
【0052】
すなわち、本実施形態の製造方法によって製造された繊維強化樹脂製の締結具は、上記(C)の加圧工程のように熱プレス成形を行うことによって大量量産が可能である。また、使用済の締結具を再加熱して熱可塑性樹脂を溶融すれば他の用途に再利用することが可能である。
【0053】
しかも、締結具の材料となる複数のチョップ材の群はランダム配向性を有するので、加圧成形しても、チョップ材に含まれる強化繊維が切断されるおそれが低い。そして、成形後の締結具も一定の繊維長を維持しているので、締結具の強度(例えば、ねじり強度、せん断強度など)を向上することができる。これにより、量産性に優れてかつ高い強度を有する繊維強化樹脂製締結具を製造することが可能になる。
【実施例
【0054】
つぎに、本発明の実施例として、本実施形態の繊維強化樹脂製の締結具の製造方法によって製造されたCFRTP製のボルトBの強度および賦形性についての評価を行う。ボルトBとしては、M8×30のサイズの六角全ねじのボルト(すなわち外径が8mmで、かつ、長さ30mmの軸部を有する六角全ねじのボルト)を例に挙げて説明する。
【0055】
ボルトBの材料となるCFRTP製のチョップ材は、CFRTPシートを細断することにより形成される。CFRTPシートは、炭素繊維からなる多数の長繊維が単一の方向に延びるシート、すなわちUDシートからなり、具体的には、開繊されたPAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維を単一の方向に延ばしながらマトリックス(母材)となるナイロン6(PA6)、PA9T、PPSなどに含浸させることにより製造される。
【0056】
上記のCFRTPシートを細断することにより形成されるチョップ材の大きさは、M8のボルトを成形するための金型の投入口およびキャビティの大きさを考慮して、当該キャビティに対して賦形性の良い大きさになるように設定される。
【0057】
CFRTPシートおよびそれを細断したチョップ材における炭素繊維の体積含有率(Vf)は、35~53%である。
【0058】
チョップ材(またはチョップ材をキャリアシート(例えば、熱可塑性樹脂製のフィルム)に固定したチョップドシート)を金型に投入してボルトBをプレス成形する際には、例えば、成形温度270℃の加熱状態の下、プレス圧力37MPaでチョップ材(またはチョップドシート)を加圧する。その後、加熱を停止した状態で、冷間プレスとして、常温(例えば25℃程度)の状態においてプレス圧力73MPaでさらに加圧して、所定の形状のボルトBに成形する。
【0059】
本実施形態の製造方法によって製造されたCFRTP製のボルトBの引張破断荷重、成形性、および繊維充填度合いについての評価は、以下のようにして行われる。
【0060】
なお、引張破断荷重の試験は、JIS B 1051に準拠した試験方法で実施される。
【0061】
表1に示されるように、本実施形態の繊維強化樹脂製の締結具の製造方法によって製造されたCFRTP製のボルトBとして、実施例1~7の条件でM8×30のサイズの六角全ねじのボルトを製造する。あわせて、実施例8の条件で当該ボルトに対応するM8のナットを製造する。
【0062】
実施例1では、5mm×10mm(すなわち、横5mm、縦10mm)の矩形形状のチョップ材(厚さ50μm)、およびマトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられる。なお、炭素繊維の繊維体積含有率(Vf)は53%である。
【0063】
実施例2では、5mm×20mmの矩形形状のチョップ材(厚さ50μm)、およびマトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられ、炭素繊維の繊維体積含有率は35%である。
【0064】
実施例3では、5mm×100mmの矩形形状のチョップ材(厚さ50μm)、およびマトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられ、炭素繊維の繊維体積含有率は53%である。
【0065】
実施例4では、40mm角(すなわち、縦横いずれも40mm)の正方形状のチョップ材、およびマトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられ、炭素繊維の繊維体積含有率は53%である。
【0066】
実施例5では、5mm×20mmの矩形形状のチョップ材(厚さ50μm)、およびマトリックス(基材)としてPA6よりも物理的特性に優れたPA9Tフィルムが用いられ、炭素繊維の繊維体積含有率は53%である。
【0067】
実施例6では、5mm×10mmの矩形形状のチョップ材、およびマトリックス(基材)としてPPSフィルムが用いられる。なお、炭素繊維の繊維体積含有率は47.7%である。
【0068】
実施例7では、チョップドシート(すなわち、チョップ材をキャリアシート(熱可塑性樹脂製のフィルム)に固定したシート)、およびマトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられ、炭素繊維の繊維体積含有率は53%である。
【0069】
実施例8は、上記実施例1~7の条件で製造されるボルトに対応するM8のナットであって、5mm×20mmの矩形形状のチョップ材(厚さ50μm)、およびマトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられ、炭素繊維の繊維体積含有率は53%である。
【0070】
一方、表2には、上記実施例1~8と比較するために、比較例1~7の条件でM8×30のサイズの六角全ねじのボルトを製造する。あわせて、実施例8の条件で当該ボルトに対応するM8のナットを製造する。
【0071】
比較例1では、UDシート(厚さ180μm)であって、マトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられる。
【0072】
比較例2では、5mm×1000mmのテープ材(厚さ50μm)を丸めて金型に投入する形で用いられる。なお、マトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられ、炭素繊維の繊維体積含有率は53%である。
【0073】
さらに、比較例3では、5mm×20mmの矩形形状のチョップ材(厚さ50μm)、およびマトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられ、炭素繊維の繊維体積含有率は53%である製造条件でボルトを製造後にねじ山を削り出したものが用いられる。
【0074】
比較例4では、ガラス繊維を含む短繊維強化品の材料の射出品であり、マトリックス(基材)としてPPSが用いられる。ガラス繊維(GF)の含有率は40%(重量%)である。
【0075】
比較例5では、ガラス繊維を含む短繊維強化品の材料の射出品であり、マトリックス(基材)としてMXD6が用いられる。ガラス繊維(GF)の含有率は50%(重量%)である。
【0076】
比較例6では、樹脂製の材料の射出品であり、マトリックス(基材)としてPC(ポリカーボネート)が用いられる。
【0077】
比較例7では、樹脂製の材料の射出品であり、マトリックス(基材)としてPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)が用いられる。
【0078】
比較例8では、上記比較例4の条件で製造されるボルトに対応するM8のナットであって、短繊維強化品の材料の射出品であり、マトリックス(基材)としてPPSが用いられる。ガラス繊維(GF)の含有率は40%(重量%)である。
【0079】
上記実施例1~8および比較例1~8によってそれぞれ製造されたボルトおよびナットについて規定本数の引張試験を行った結果、それぞれの例についての引張張破断荷重を求めるとともに、成形性および繊維の充填度合いについての評価を行った。その結果が表1~2に示される。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
上記の表1~2に示されるように、本実施形態の製造方法(すなわち、CFRTP製のチョップ材を用いて加圧成形する製造方法)によって製造されたCFRTP製のボルトの引張破断荷重は、実施例1~7に示されるように、4921~7890Nの範囲内である。しかも、実施例1~7では、成形性についての評価は△(7割程度の割合で成形完了)および〇(すべて成形完了)である。また、実施例1~7では、繊維の充填度合いの評価も〇(7割程度の割合でねじ山全体まで充填完了)および◎(すべてねじ山先端まで充填完了)である(図18の繊維の充填度合いの評価についての説明図参照)。なお、図18には、ボルトのねじ山31の断面図が示され、31aがねじ山の先端、32が炭素繊維、33がマトリックス樹脂を示す。
【0083】
一方、比較例1では、UDシートをそのまま加圧成形して製造したボルトの引張破断荷重が2537Nにすぎず、実施例1~7における上記の範囲内の最小値の4921Nを大きく下回っている。さらに、繊維の充填度合いの評価も×(ねじ山の先端まで充填できなかった)である(図18参照)。
【0084】
上記の比較例1では、UDシートを用いたボルトの成型は可能であるが、引張破断荷重が2537Nしかなく、同一材料(PA6フィルム)のマトリックスを用いた実施例1~4および7の引張破断荷重(4921~7890N)よりも大幅に低い。この原因は、比較例1によって成型されたボルトBでは、図12に示される当該ボルトBの断面において、ネジ山Gの奥の箇所において発生したボイドV(空孔)による剛性の低下が原因であると考えられる。ボイドVは、ボルト成型中においてUDシート内の連続繊維(すなわち、所定方向に配向された長繊維の強化繊維の層)によって空気の逃げ道を塞ぐために生じたと考えられる。なお、図12に示されるボイドVは、ボルトBの切断面をレーザー顕微鏡で観察することによって確認された。一方、実施例1~4および7のボルトBでは、断面観察してもボイドVは発見されなかった。
【0085】
比較例2のようにテープ材を丸めて加圧成形した場合、ボルトを成形することができず、引張破断荷重の測定、ならびに成形性および繊維の充填度合いの評価を行うことができなかった。
【0086】
比較例3は、5mm×20mmの矩形形状のチョップ材(厚さ50μm)、およびマトリックス(基材)としてPA6フィルムが用いられ、炭素繊維の繊維体積含有率は53%である製造条件によって製造されたM8のボルト(直径8mm)をさらにネジ山を削る加工をしている。これにより、比較例3の引張破断荷重(2084N)は、実施例1~4および7の引張破断荷重(4921~7890N)よりも大幅に低下している。この原因は、図13(a)に示される削り加工前のボルトB1内部において強化繊維Fが連続して延びている状態と比較して、図13(b)に示される削り加工後の比較例3のボルトB2内部において強化繊維Fが切断されて引張強度が低下したことが原因であると考えられる。
【0087】
比較例4のようにガラス繊維を含むPPSの射出品、および比較例5のようにガラス繊維を含むMXD6の射出品を用いた場合のそれぞれの引張破断荷重(3215Nおよび4386N)を見ても、実施例1~4および7の引張破断荷重(4921~7890N)よりも十分に低いことがわかる。
【0088】
また、繊維を含まない樹脂の射出品の例として、比較例6のようにPCの射出品、および比較例7のようにPEEKの射出品を用いた場合のそれぞれの引張破断荷重(2121Nおよび3258N)を見ても、実施例1~4および7の引張破断荷重(4921~7890N)よりも十分に低いことがわかる。
【0089】
また、実施例8に示されるように、本実施形態の製造方法(すなわち、CFRTP製のチョップ材を用いて加圧成形する製造方法)によって製造されたCFRTP製のナットの引張破断荷重は、9292Nであり、非常に高い値である。しかも、実施例8では、成形性についての評価は〇(すべて成形完了)であり、かつ、繊維の充填度合いの評価も◎(すべてねじ山先端まで充填完了)である。
【0090】
一方、比較例8で製造されたナット、すなわち、ガラス繊維を含むPPSの射出品であるナットの引張破断荷重は3290Nにすぎず、上記の実施例のナットの引張破断荷重(9292N)を大きく下回っている。
【0091】
さらに、以下の表3に示されるように、実施例1~7で製造される炭素繊維製(CF)のM8のボルトの重量は3gであり、ステンレス鋼(SUS)製のM8のボルトの重量(16g)と比較して1/5よりも小さく、非常に軽い。また、実施例8で製造される炭素繊維製(CF)のM8のナットの重量は1.2gであり、ステンレス鋼(SUS)製のM8のナットの重量(5.4g)と比較して1/4~1/5程度小さく、非常に軽い。
【0092】
【表3】
【0093】
上記の表1の試験結果などを見れば、チョップ材に含まれる強化繊維の繊維長は、5~100mmで、好ましくは5~40mm、さらに好ましくは5~20mm程度あれば、引張強度に優れたボルトやナットを製造することができると考えられる。また、このように実施例1~8によって製造されたボルトやナットは、引張強度に優れることを考慮すればねじり強度も高くなることが推定される。
【0094】
ここで、チョップ材の繊維長は、長い方がボルトの強度の向上に寄与すると考えられるが、賦形性を考えた場合には、マトリックスの樹脂材料の流動性(MFR)は、2~50g/10min、好ましくは5~30g/minである。この数値であれば賦形性を良好に維持することが可能である。
【0095】
また、チョップ材におけるマトリックスに含まれる強化繊維の体積含有率が30~80%の範囲内であるのが好ましい。30%よりも少ないとボルトの強度が低くなり、80%を超えると賦形性が低下して成型が困難になるので、ボルトの高い強度および賦形性を確保する観点から強化繊維の体積含有率は上記の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは30~60%が良い。
【0096】
(変形例)
(A)
上記の実施形態では、図6に示されるようにCFRTPシートを細断した多数のチョップ材Cを金型11に投入して、チョップ材Cの状態で熱プレス成形をしてボルトBなどの締結具を製造しているが、本発明はこれに限定するものではなく、多数のチョップ材Cを平面的に並べて合体したシート状の部材、すなわちチョップドシートCSの状態で金型に投入してもよい。
【0097】
すなわち、本発明の製造方法の変形例として、この製造方法は、上記の(A)チョップ材の準備工程の後において、(D)複数のチョップ材を平面的に並べて合体したチョップドシートを作製するチョップドシート作製工程(図2のS21)をさらに含み、上記の(B)投入工程において、チョップドシートを金型の内部に詰め込むことを特徴とする。
【0098】
チョップドシート作製工程は、複数のチョップ材Cを平面的に並べて合体したチョップドシートCSを作製することができればよく、本発明では複数のチョップ材Cを合体させるためのフィルムの使用についてはとくに限定しない。
【0099】
チョップドシート作製工程の一例としては、例えば、複数のチョップ材を熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に分散させた状態で含浸させたチョップドシートを作製する。具体的には、図11に示されるように、熱可塑性樹脂フィルムR2を連続的に送り出していき、区間XIのように、熱可塑性樹脂フィルムR2の両面に多数のチョップ材Cを分散させた状態で加熱ロールなどで加熱しながら加圧することにより、チョップ材Cが両面に分散されたチョップドシートCSが製造される。なお、チョップ材Cは、熱可塑性樹脂フィルムR2の両面のうちのいずれか一方の面のみに含浸してもよい。
【0100】
熱可塑性樹脂フィルムR2は、上記のチョップ材Cを製造する際に用いられた熱可塑性樹脂シートR1(図3参照)と同じ材料(例えばナイロン6(PA6))であれば、チョップ材Cのマトリックス(母材)と同じ材料であるので、チョップ材Cが熱可塑性樹脂フィルムR2に含浸されやすくなる。
【0101】
なお、これら熱可塑性樹脂シートR1および熱可塑性樹脂フィルムR2の厚さは、チョップ材CおよびチョップドシートCSを作製する際の製造条件などを考慮して適宜選定される。
【0102】
製造されたチョップドシートCSは、金型11の投入口12に投入しやすいように変形され、例えば丸められた状態で金型11に詰め込まれる(図6参照)。なお、チョップドシートCSが大きい場合は、成形されるボルトBの体積に対応する大きさで切り出してから丸めて用いればよい。
【0103】
このような上記の製造方法では、複数のチョップ材Cを平面的に並べて合体したチョップドシートCSの状態にして、当該チョップドシートCSを金型11の内部に詰め込むことにより、複数のチョップ材Cを金型11の空間部(キャビティー)13に容易に分散させて投入することが可能になる。その結果、投入後のチョップ材Cを金型11の空間部13に均一に分散させるための別作業が必要なくなり、量産性がさらに向上する。
【0104】
しかも、チョップドシートCS内部のチョップ材Cにおいても一定の繊維長が維持されているので、長繊維を有するボルトBなどの締結具を製造することが可能であり、締結具の強度を向上することが可能である。
【0105】
また、上記の変形例では、複数のチョップ材Cを熱可塑性樹脂フィルムR2の少なくとも一方の面に分散させた状態で含浸させることにより、チョップドシートCSを容易に作製することが可能である。また、作製後のチョップドシートCSからチョップ材Cが分離するおそれも低減する。
【0106】
(B)
また、他の変形例として、上記の図11で作製されたチョップドシートCSを金型11に投入しやすい大きさに細断してもよい。
【0107】
すなわち、本発明の他の変形例としての製造方法は、上記の(D)チョップドシート作製工程の後において、図11の区間XII~XIIIに示されるように、チョップドシートCSをチョップ材Cよりも大きい所定の大きさに細断するチョップドシート細断工程をさらに含み、上記の(B)投入工程において、細断されたチョップドシートT(図6および図11参照)を金型11の内部に詰め込むことを特徴とする。
【0108】
上記の製造方法では、チョップ材Cよりも大きい所定の大きさに細断されたチョップドシートTを金型11の内部に詰め込むので、チョップドシートを金型11の内部に詰め込む前に丸めたり変形する別作業が不要になり、金型への投入が容易である。それとともに、チョップ材Cのままの状態で金型11に投入するよりも金型11の空間部13において均一に分散させることが可能である。その結果、量産性がより一層優れる。
【0109】
(C)
なお、上記実施の形態の製造方法では、複数のチョップ材を平面的に並べて合体したチョップドシートを作製し、当該チョップドシートを金型の内部に詰め込む例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数のチョップ材のどのような形状にまとめて金型に詰め込むか限定としない。したがって、本発明の変形例として、複数のチョップ材を棒状にしたものを金型に投入して加圧するようにしてもよい。
【0110】
<実施形態のまとめ>
前記実施形態をまとめると以下のとおりである。
【0111】
前記実施形態にかかる繊維強化樹脂製締結具の製造方法は、繊維強化樹脂製の締結具の製造方法であって、開繊した強化繊維が所定の方向に配向した状態で熱可塑性樹脂に含浸された繊維強化樹脂シートが所定の大きさに細断された複数のチョップ材を準備する準備工程と、前記複数のチョップ材を平面的に並べて合体したチョップドシートを作製するチョップドシート作製工程と、前記チョップドシートを金型の内部に詰め込む投入工程と、前記金型を加熱した状態で前記金型内部の前記チョップドシートを加圧することにより、前記締結具の形状に成形する加圧工程とを含むことを特徴とする。
【0112】
かかる製造方法では、締結具の材料として、開繊した強化繊維が所定の方向に配向した状態で熱可塑性樹脂に含浸された繊維強化樹脂シートを所定の大きさに細断することによって形成された複数のチョップ材を準備する。そして、複数のチョップ材を平面的に並べて合体したチョップドシートを作製し、チョップドシートを金型の内部に詰め込みチョップドシートを加熱した状態で加圧成形する。チョップドシートを構成するチョップ材は賦形性、すなわち金型のキャビティ形状への追随性が良いので、従来の繊維強化樹脂製の棒状部材を切削加工して製造する場合と比較して量産性に優れる。
【0113】
しかも、締結具の材料となる複数のチョップ材の群はランダム配向性(すなわち強化繊維の配向が特定されていない性質)を有するので、加圧成形しても、チョップ材に含まれる強化繊維が切断されるおそれが低い。そして、成形後の締結具も強化繊維の一定の繊維長を維持しているので、締結具の強度を向上することができる。これにより、量産性に優れてかつ高い強度を有する繊維強化樹脂製締結具を製造することが可能になる。
【0115】
また、前記実施形態にかかる製造方法では、前記複数のチョップ材を平面的に並べて合体したチョップドシートの状態にして、当該チョップドシートを金型の内部に詰め込むことにより、複数のチョップ材を金型の空間部に容易に分散させて投入することが可能になる。その結果、投入後のチョップ材を金型の空間部に均一に分散させるための別作業が必要なくなり、量産性がさらに向上する。
【0116】
しかも、チョップドシート内部のチョップ材においても一定の繊維長が維持されているので、長繊維を有する締結具を製造することが可能であり、締結具の強度を向上することが可能である。
【0117】
上記の繊維強化樹脂製締結具の製造方法であって、前記チョップドシート作製工程は、前記複数のチョップ材を熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に分散させた状態で含浸させることにより前記チョップドシートを作製するのが好ましい。
【0118】
この場合、複数のチョップ材を熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に分散させた状態で含浸させることにより、チョップドシートを容易に作製することが可能である。また、作製後のチョップドシートからチョップ材が分離するおそれも低減する。
【0119】
上記の繊維強化樹脂製締結具の製造方法であって、前記チョップドシート作製工程の後において、前記チョップドシートを前記チョップ材よりも大きい所定の大きさに細断するチョップドシート細断工程をさらに含み、前記投入工程において、細断された前記チョップドシートを前記金型の内部に詰め込むのが好ましい。
【0120】
かかる製造方法では、チョップ材よりも大きい所定の大きさに細断されたチョップドシートを金型の内部に詰め込むので、チョップドシートを金型の内部に詰め込む前に丸めたり変形する別作業が不要になり、金型への投入が容易である。それとともに、チョップ材のままの状態で金型に投入するよりも金型の空間部において均一に分散させることが可能である。その結果、量産性がより一層優れる。
【0121】
上記の繊維強化樹脂製締結具の製造方法であって、前記チョップ材に含まれる前記強化繊維の繊維長は、5~100mmであるのが好ましい。この範囲内であれば、締結具の高い強度を確保することが可能である。
【0122】
上記の繊維強化樹脂製締結具の製造方法であって、前記チョップ材における前記熱可塑性樹脂に含まれる強化繊維の体積含有率は、30~80%であるのが好ましい。この範囲内であれば、締結具の高い強度および賦形性を確保することが可能である。
【0123】
本実施形態にかかる繊維強化樹脂製締結具は、熱可塑性樹脂と、配向が特定されない状態で前記熱可塑性樹脂に含浸されている強化繊維とで形成された繊維強化樹脂製締結具であって、前記強化繊維の繊維長は、5~100mmの範囲内であり、前記熱可塑性樹脂における前記強化繊維の体積含有率は、30~80%の範囲内であることを特徴とする。
【0124】
上記の締結具では、強化繊維の配向が特定されない状態、すなわち強化繊維が長繊維を有する状態で熱可塑性樹脂に含浸されており、しかも、強化繊維における条件として、繊維長が5~100mmの範囲内であり、かつ、前記熱可塑性樹脂における体積含有率が30~80%の範囲内であるので、量産性に優れ、かつ高い強度を有する。
【0125】
本実施形態にかかる繊維強化樹脂製締結具の製造方法および繊維強化樹脂製締結具によれば、量産性に優れ、かつ高い強度の締結具を製造することができる。
図1
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図3
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