(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】熱回収システム
(51)【国際特許分類】
F01K 25/10 20060101AFI20220721BHJP
F01K 27/02 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
F01K25/10 P
F01K25/10 C
F01K25/10 R
F01K27/02 D
(21)【出願番号】P 2018198619
(22)【出願日】2018-10-22
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトサーモシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】599019269
【氏名又は名称】株式会社トヨタエナジーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中井 基生
(72)【発明者】
【氏名】松原 周
(72)【発明者】
【氏名】脇田 恭之
(72)【発明者】
【氏名】森本 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】盛 昭雄
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/145425(WO,A1)
【文献】特開2013-015094(JP,A)
【文献】独国特許発明第102004050465(DE,B3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 25/10
F01K 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理品を処理することで得られる熱によって第一流体の温度を上昇させる複数の熱源部と、
前記第一流体が流れる一次流路部を介して複数の前記熱源部と繋がり当該第一流体から第二流体に熱交換を行う熱交換器と、
前記一次流路部に設けられ前記熱交換器と前記熱源部とを繋げる流路を選択するためのバルブ機構と、
前記第二流体が流れる二次流路部を介して前記熱交換器と繋がり当該第二流体を入力として発電を行う発電ユニットと、
を備え、
一つの前記熱源部における前記第一流体の温度上昇のタイミングが、他の前記熱源部における前記第一流体の温度上昇のタイミングと異なり、複数の前記熱源部それぞれにおける前記第一流体の温度上昇のタイミングに応じて前記バルブ機構が動作する、熱回収システム。
【請求項2】
前記一次流路部は、前記熱源部と前記熱交換器とを繋ぐ主流路と、前記熱源部同士を繋ぎ当該熱源部間で前記第一流体の移動を可能とする連結流路と、を含み、
前記バルブ機構は、一つの前記熱源部の前記第一流体の温度が上昇する場合に、当該第一流体が前記連結流路を通じて他の前記熱源部に流れ、当該第一流体は当該他の熱源部を経由して前記熱交換器に流れるように流路を切り替えるためのバルブを含む、請求項1に記載の熱回収システム。
【請求項3】
処理品を処理することで得られる熱によって第一流体の温度を上昇させる複数の熱源部と、
前記第一流体が流れる一次流路部を介して複数の前記熱源部と繋がり当該第一流体から第二流体に熱交換を行う熱交換器と、
前記一次流路部に設けられ前記熱交換器と前記熱源部とを繋げる流路を選択するためのバルブ機構と、
前記第二流体が流れる二次流路部を介して前記熱交換器と繋がり当該第二流体を入力として発電を行う発電ユニットと、
を備え、
前記一次流路部は、前記熱源部と前記熱交換器とを繋ぐ主流路と、前記熱源部同士を繋ぎ当該熱源部間で前記第一流体の移動を可能とする連結流路と、を含み、
前記バルブ機構は、一つの前記熱源部の前記第一流体の温度が上昇する場合に、当該第一流体が前記連結流路を通じて他の前記熱源部に流れ、当該第一流体は当該他の熱源部を経由して前記熱交換器に流れるように流路を切り替えるためのバルブを含む、
熱回収システム。
【請求項4】
前記発電ユニットは、バイナリー発電ユニットである、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
温水又は蒸気を熱源として用い、低沸点である熱媒体を加熱し蒸発させ発電するバイナリー発電が知られている。バイナリー発電は、比較的低温の廃熱を有効利用でき、例えば地熱発電などでも活用されている。
【0003】
近年、例えば工場や設備などで出される廃熱をバイナリー発電に用いる試みが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8は、金属製部品を熱処理(焼入れ処理)するための熱処理装置90に、バイナリー発電ユニット91(以下、「発電ユニット91」と称する。)を適用した設備の説明図である。この設備は、熱処理装置90が備える油槽92と、発電ユニット91と、熱交換器93とを備える。油槽92には、冷却液99が溜められている。油槽92と熱交換器93とが一次配管94により接続され、熱交換器93と発電ユニット91とが二次配管95により接続されている。加熱された処理品100は、油槽92の冷却液99に浸されることで冷却され、熱処理(焼入れ処理)が行われる。この熱処理により、冷却液99の温度が一時的に上昇する。冷却液99を一次配管94に流し、流れる冷却液99の熱(廃熱)が、熱交換器93において、二次配管95を流れる熱媒体98に伝えられる(熱交換される)。熱媒体98の熱により発電ユニット91は発電を行うとともに、冷却液99が冷却される。
【0006】
このように、温度上昇した冷却液99が熱源となって発電ユニット91により発電が行われるが、発電が行われるためには、冷却液99の温度が所定の温度以上である必要がある。
【0007】
前記のような熱処理装置90では、処理品100が油槽92に浸される時間間隔(
図9において、サイクルタイムT)は長く(例えば30分)、また、処理品100の重量などの条件によって、前記時間間隔(サイクルタイムT)が変化する。加熱された処理品100が油槽92に浸されると、冷却液99の温度が上昇し、所定時間(
図9においてΔt)については、冷却液99の温度が所定の温度Aを超えて発電可能とするが、やがて冷却液99の温度が所定の温度Aまで低下すると、発電不可となる。
【0008】
熱処理装置90の冷却液99の熱を発電に利用する場合、冷却液99の温度は、処理品100の加熱温度及び重量などの処理条件によって変化し、また時間経過により変化する。この変化が不規則であると、発電ユニット91による発電が不安定となり、機能しない時間帯が多く発生する可能性がある。なお、このような問題点は、前記のような熱処理装置90に発電ユニット91が適用される場合以外にも、他の設備に適用される場合も同様に起こり得る。
【0009】
そこで、本発明は、例えば熱源部で得られる廃熱の温度が変化する場合であっても、発電を効率良く実行することが可能となる熱回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱回収システムは、処理品を処理することで得られる熱によって第一流体の温度を上昇させる複数の熱源部と、前記第一流体が流れる一次流路部を介して複数の前記熱源部と繋がり当該第一流体から第二流体に熱交換を行う熱交換器と、前記一次流路部に設けられ前記熱交換器と前記熱源部とを繋げる流路を選択するためのバルブ機構と、前記第二流体が流れる二次流路部を介して前記熱交換器と繋がり当該第二流体を入力として発電を行う発電ユニットと、を備え、一つの前記熱源部における前記第一流体の温度上昇のタイミングが、他の前記熱源部における前記第一流体の温度上昇のタイミングと異なり、複数の前記熱源部それぞれにおける前記第一流体の温度上昇のタイミングに応じて前記バルブ機構が動作する。
【0011】
この熱回収システムによれば、複数の熱源部が発電ユニットを共用する構成となる。そして、第一流体の温度上昇のタイミングが一つの熱源部と他の熱源部とで異なる。このため、一つの熱源部で温度上昇した第一流体が熱交換器に供給されると、その第一流体から第二流体に熱交換がされ、当該第二流体を入力として発電ユニットが発電する。その後、当該一つの熱源部の温度が降下して発電が不可能となる場合であっても、他の熱源部で温度上昇した第一流体が熱交換器に供給され、その第一流体から第二流体に熱交換がされ、当該第二流体を入力として発電ユニットが発電することが可能となる。このように、第一流体の温度上昇のタイミングを、複数の熱源部において異ならせることで、発電ユニットの動作機会が増える。よって、発電ユニットによる発電が効率良く実行される。なお、熱源部(熱処理装置)のサイクル開始のタイミングを熱源部側(熱処理装置側)で意図的にずらすことも可能である。
【0012】
また、前記一次流路部は、前記熱源部と前記熱交換器とを繋ぐ主流路と、前記熱源部同士を繋ぎ当該熱源部間で前記第一流体の移動を可能とする連結流路と、を含み、前記バルブ機構は、一つの前記熱源部の前記第一流体の温度が上昇する場合に、当該第一流体が前記連結流路を通じて他の前記熱源部に流れ、当該第一流体は当該他の熱源部を経由して前記熱交換器に流れるように流路を切り替えるためのバルブを含むのが好ましい。
この構成によれば、一つの熱源部の第一流体の温度が上昇する場合に、当該第一流体が前記連結流路を通じて他の熱源部に流れ、当該第一流体は当該他の熱源部を経由して前記熱交換器に流れるように流路が切り替えられる。これに対して、前記他の熱源部の第一流体の温度が上昇する場合に、当該第一流体が前記連結流路を通じて前記一つの熱源部に流れ、当該第一流体は当該一つの熱源部を経由して前記熱交換器に流れるように流路が切り替えられる。
前記構成のように、連結流路によって熱源部同士が繋がることで、これら熱源部を一つの熱源部とみなすことができ、熱源となる第一流体の容量が増加する。このため、処理品を処理することで得られる熱による第一流体の温度上昇は緩和されるが、上昇した第一流体の温度が下がりにくくなる。したがって、発電ユニットが発電可能となる時間を従来よりも長くすることが可能となる。更に、前記のとおり、第一流体の温度上昇のタイミングを、複数の熱源部において異ならせることで、発電ユニットの動作機会が増える。よって、発電ユニットによる発電がより一層効率良く実行される。
【0013】
本発明の熱回収システムは、処理品を処理することで得られる熱によって第一流体の温度を上昇させる複数の熱源部と、前記第一流体が流れる一次流路部を介して複数の前記熱源部と繋がり当該第一流体から第二流体に熱交換を行う熱交換器と、前記一次流路部に設けられ前記熱交換器と前記熱源部とを繋げる流路を選択するためのバルブ機構と、前記第二流体が流れる二次流路部を介して前記熱交換器と繋がり当該第二流体を入力として発電を行う発電ユニットと、を備え、前記一次流路部は、前記熱源部と前記熱交換器とを繋ぐ主流路と、前記熱源部同士を繋ぎ当該熱源部間で前記第一流体の移動を可能とする連結流路と、を含み、前記バルブ機構は、一つの前記熱源部の前記第一流体の温度が上昇する場合に、当該第一流体が前記連結流路を通じて他の前記熱源部に流れ、当該第一流体は当該他の熱源部を経由して前記熱交換器に流れるように流路を切り替えるためのバルブを含む。
【0014】
この熱回収システムによれば、連結流路によって熱源部同士が繋がることで、これら熱源部を一つの熱源部とみなすことができ、熱源となる第一流体の容量が増加する。このため、処理品を処理することで得られる熱による第一流体の温度上昇は緩和されるが、上昇した第一流体の温度が下がりにくくなる。このため、発電ユニットが発電可能となる時間を従来よりも長くすることが可能となる。よって、発電ユニットによる発電が効率良く実行される。
【0015】
また、前記発電ユニットは、バイナリー発電ユニットであるのが好ましく、この場合、比較的、低温である廃熱を有効利用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えば熱源部で得られる廃熱の温度が変化する場合であっても、発電を効率良く実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】油槽、熱交換器、及び発電ユニットの説明図である。
【
図3】油槽、熱交換器、及び発電ユニットの説明図である。
【
図4】油槽、熱交換器、及び発電ユニットの説明図である。
【
図5】一号炉及び二号炉による熱処理のための焼入れ室などの各室における温度の時間変化を示すグラフである。
【
図6】一号炉及び二号炉それぞれにおける冷却液の温度と、発電ユニットによる発電の可否との関係の説明図である。
【
図7】一号炉及び二号炉それぞれにおける冷却液の温度と、発電ユニットによる発電の可否との関係の説明図である。
【
図8】金属製部品を熱処理するための熱処理装置に、バイナリー発電ユニットを適用した設備の従来の説明図である。
【
図9】従来技術における、冷却液の温度と、発電ユニットによる発電の可否との関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔熱回収システムの構成について〕
図1は、熱回収システムの一例を示す平面図である。この熱回収システム10は、金属製部品を熱処理するための熱処理装置12の廃熱を利用して、発電ユニット14によって発電を行うシステムである。前記金属製部品の例としては、転がり軸受の軌道輪、軸、ピンなどの機械部品である。熱処理としては焼入れ処理である。熱処理のために(
図2参照)、加熱された金属製部品7(以下、「処理品7」と称する。)は、熱処理装置12が備える油槽16の冷却液(焼入れ油)18に浸され、冷却される。この際、冷却液18の温度が上昇する。そこで、冷却液18の熱が発電に用いられる。つまり、油槽16が熱源部として機能し、冷却液18が一次側の熱媒体(第一流体)となる。冷却液18の熱が熱交換器20によって二次側の媒体(第二流体)19に伝達され、発電ユニット14が発電を行う。
図2は、油槽16、熱交換器20、及び発電ユニット14の説明図である。なお、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号(参照番号)を付し、重複する説明は省略する。本実施形態では(
図2参照)、複数の処理品7がカゴ8に収容され、カゴ8が図外のアクチュエータによって上下移動する。
【0019】
図1に示される熱回収システム10には、二つの熱処理装置12が含まれる。
図1における上側の熱処理装置12を「一号炉12a」と称し、下側の熱処理装置12を「二号炉12b」と称する。一号炉12a及び二号炉12bは同じ構成である。一号炉12a及び二号炉12bそれぞれは、処理品7の進行方向の上流側(
図1では左側)から、第一パージ室81、第一予熱室82、第二予熱室83、浸炭・拡散室84、降温室85、均熱室86、焼入れ室87、及び第二パージ室88を備える。焼入れ室87に油槽16が設けられている。熱回収システム10には、二つの熱処理装置12が含まれることから、熱回収システム10は二つの油槽16を備える。一号炉12aの油槽16を「第一油槽16a」と称し、二号炉12bの油槽16を「第二油槽16b」と称する。
【0020】
図2において、熱回収システム10は、熱源部としての油槽16(16a,16b)の他に、熱交換器20、発電ユニット14、及びバルブ機構22を備える。更に、熱回収システム10は、一次流路部24及び二次流路部26を備える。一次流路部24は、油槽16(16a,16b)と熱交換器20とを繋ぎ、冷却液18を通す。二次流路部26は、熱交換器20と発電ユニット14とを繋ぎ、二次側の熱媒体19を流す。二次側の熱媒体19は、比較的低沸点である液体とすることができる。
【0021】
油槽16には、冷却液18が溜められている。前記のとおり、加熱された処理品7が冷却液18に浸されることで、処理品7は熱処理(焼入れ処理)される。この際、冷却液18の温度が上昇する。つまり、処理品7が熱処理されることで得られる熱によって冷却液18の温度が上昇する。
【0022】
熱交換器20は、冷却液18が流れる一次流路部24を介して二つの油槽16a,16bと繋がっている。熱交換器20では、冷却液18の熱が、二次側の熱媒体19に伝達される。つまり、熱交換器20は、冷却液18から二次側の熱媒体19に熱交換を行う。
【0023】
一次流路部24は、主流路28と、連結流路30とを含む。主流路28は、油槽16a,16bそれぞれと熱交換器20とを繋ぐ。連結流路30は、油槽16a,16b同士を繋ぎ、油槽16a,16b間で冷却液18の移動を可能とする。主流路28には、第一配管31、第二配管32、及び第三配管33が含まれる。第一配管31は、第一油槽16aと第二油槽16bとを繋ぐ。第一配管31には、開閉式の第一バルブ34及び第二バルブ35が設けられている。第二配管32は、第一配管31と並列となる配管であり、第一油槽16aと第二油槽16bとを繋ぐ。第二配管32には、開閉式の第三バルブ36及び第四バルブ37が設けられている。第三配管33は、第一配管31と第二配管32とを繋ぐ。第三配管33には、冷却液18を循環させるためのポンプ39と、熱交換器20とが設けられている。第三配管33の一端側は、第一配管31のうち、第一バルブ34と第二バルブ35との間の流路に接続されていて、第三配管33の他端側は、第二配管32のうち、第三バルブ36と第四バルブ37との間の流路に接続されている。
【0024】
連結流路30は、配管により構成されていて、開閉式の第五バルブ38が設けられている。バルブ34,35,36,37,38それぞれは、図外の制御装置から出力される司令信号に基づいて開閉動作する。前記開閉動作の制御は、一号炉12a及び二号炉12bの動作制御(熱処理制御)を行う制御装置によって実行されてもよい。二次流路部26には、熱交換器20と発電ユニット14との間において二次側の熱媒体19を循環させる第四配管40及びポンプ41が含まれる。
【0025】
第一バルブ34、第二バルブ35、第三バルブ36、第四バルブ37、及び、第五バルブ38により、バルブ機構22が構成される。バルブ機構22は一次流路部24に設けられている。
【0026】
第五バルブ38が閉状態であって、第一バルブ34及び第三バルブ36が開状態にあり、第二バルブ35及び第四バルブ37が閉状態にある場合、第一油槽16aの冷却液18は、第二配管32の一部、第三配管33、及び第一配管31の一部を経由して、第一油槽16aに戻る。この流れはポンプ39により発生し、冷却液18は、熱交換器20を通る。この冷却液18の流れを「第一油槽16aの循環流」と称する。
【0027】
これに対して、第五バルブ38が閉状態であって、第一バルブ34及び第三バルブ36が閉状態にあり、第二バルブ35及び第四バルブ37が開状態にある場合、第二油槽16bの冷却液18が、第二配管32の一部、第三配管33、及び第一配管31の一部を経由して、第二油槽16bに戻る。この流れはポンプ39により発生し、冷却液18は、熱交換器20を通る。この冷却液18の流れを「第二油槽16bの循環流」と称する。
【0028】
このように、バルブ機構22は、熱交換器20と油槽16a,16bとを繋げる流路を選択するために機能する。言い換えると、バルブ機構22は、二つの油槽16a,16bのうち、熱交換器20と繋がる油槽(16a又は16b)を選択する。具体的には、バルブ機構22は、前記第一油槽16aの循環流及び前記第二油槽16bの循環流の中から一つを選択する第一機能を有する。なお、前記第一油槽16aの循環流及び前記第二油槽16bの循環流を得るための一次流路部24の構成は、図示した構成以外であってもよい。また、バルブ機構22は、前記第一機能の他に、次の第二機能を有する。
【0029】
図3に示されるように、第五バルブ38が開状態であって、第一バルブ34及び第四バルブ37が開状態にあり、第二バルブ35及び第三バルブ36が閉状態にある場合、第一油槽16aの冷却液18が、連結流路30を通じて第二油槽16bに流れ、第二配管32の一部、第三配管33、及び第一配管31の一部を経由して、第一油槽16aに戻る。この流れはポンプ39により発生し、冷却液18は、熱交換器20を通る。この冷却液18の流れを「第一系統の流れ」と称する。
【0030】
これに対して、
図4に示されるように、第五バルブ38が開状態であって、第二バルブ35及び第三バルブ36が開状態にあり、第一バルブ34及び第四バルブ37が閉状態にある場合、第二油槽16bの冷却液18が、連結流路30を通じて第一油槽16aに流れ、第二配管32の一部、第三配管33、及び第一配管31の一部を経由して、第二油槽16bに戻る。この流れはポンプ39により発生し、冷却液18は、熱交換器20を通る。この冷却液18の流れを「第二系統の流れ」と称する。
【0031】
このように、バルブ機構22は、熱交換器20と油槽16a,16bとを繋げる流路を選択するために機能する。具体的には、バルブ機構22は、前記第一系統の流れ及び前記第二系統の流れの中から一つを選択する第二機能を有する。なお、前記第一系統の流れ及び前記第二系統の流れを得るための一次流路部24の構成は、図示した構成以外であってもよい。
【0032】
図2、
図3、及び
図4それぞれにおいて、発電ユニット14は、バイナリー発電ユニットである。発電ユニット14は、二次側の熱媒体19が流れる二次流路部26を介して熱交換器20と繋がっている。発電ユニット14は、この熱媒体19を入力として発電を行う。発電ユニット14は、二次側の熱媒体19の温度に応じて発電する。つまり、発電ユニット14は、熱媒体19が所定の温度以上である場合に発電可能であり、熱媒体19が所定の温度未満である場合に発電することができない。つまり、熱媒体19との間で熱交換を行う冷却液18が規定の温度以上である場合に、発電ユニット14は発電可能となり、冷却液18が規定の温度未満である場合に、発電ユニット14は発電不可となる。
【0033】
〔発電動作(その1)について〕
以上の構成を備えた熱回収システム10によって行われる発電動作について説明する。
図5は、一号炉12a及び二号炉12bによる熱処理のための焼入れ室87(
図1参照)などの各室における温度の時間変化を示すグラフである。
図5の上側が一号炉12aのグラフであり、下側が二号炉12bのグラフである。一号炉12a及び二号炉12bそれぞれでは、浸炭・拡散室84において950℃程度の浸炭温度で処理品7が加熱され、その後、焼入れ室87において850℃程度の焼入れ温度から、処理品7を油槽16の冷却液18に浸して急冷する(焼入れする)。
図5に示されるように、焼入れ温度から処理品7の急冷を開始する時刻(タイミング)が、一号炉12aと二号炉12bとで異なる。
図5では、一号炉12aでの急冷開始から時間Δt1について遅れて、二号炉12bでの急冷が開始される場合が示されている。また、一号炉12a及び二号炉12bそれぞれにおいて、所定のサイクルタイムで、繰り返し、処理品7の熱処理が行われる。なお、このサイクルタイムは、一定となる場合の他に、例えば処理品7の重量によって変化する場合がある。
【0034】
図6は、一号炉12a及び二号炉12bそれぞれにおける冷却液18の温度と、発電ユニット14による発電の可否との関係の説明図である。
図6に示されるように、一号炉12aでの急冷開始(時刻t0)から時間Δt1について遅れて、二号炉12bでの急冷が開始されることで、二号炉12bが有する第二油槽16bの冷却液18の温度上昇開始が、一号炉12aが有する第一油槽16aの冷却液18の温度上昇開始よりも(開始時刻t0から)時間Δt1について遅れる。この時間Δt1を「遅延時間Δt1」と称する。
【0035】
時刻t0を過ぎて、第一油槽16aの冷却液18の温度が上昇し規定の温度A以上となることで、この冷却液18から熱交換器20において二次側の熱媒体19に熱交換され、発電ユニット14は発電可能となる。このために、
図2において、第二バルブ35、第四バルブ37、及び第五バルブ38は閉状態にあり、第一バルブ34及び第三バルブ36は開状態にある。つまり、冷却液18の流れを前記「第一油槽16aの循環流」とする。この場合、
図6において、第一油槽16aの冷却液18の温度は、ある値まで上昇した後、降下する。規定の温度A未満となるまでの継続時間Δt2について発電ユニット14は発電可能である。本実施形態では、遅延時間Δt1が、継続時間Δt2よりも長く設定されている。なお、遅延時間Δt1が、継続時間Δt2と同じであってもよく、継続時間Δt2よりも短くてもよい。
【0036】
図6の場合、遅延時間Δt1と継続時間Δt2との差の時間Δt3では、発電が不可能となる。しかし、第一油槽16aの冷却液18の温度上昇の開始(時刻t0)から遅延時間Δt1後に、第二油槽16bの冷却液18の温度が上昇し規定の温度A以上となることで、この冷却液18から熱交換器20において二次側の熱媒体19に熱交換され、発電ユニット14は発電可能となる。このために、
図2において、バルブ機構22におけるバルブ開閉動作が実行され、第二バルブ35及び第四バルブ37は(閉状態から)開状態となり、第一バルブ34及び第三バルブ36は(開状態から)閉状態となる。なお、第五バルブ38は閉状態のままである。つまり、冷却液18の流れを前記「第二油槽16bの循環流」とする。
【0037】
図6において、第二油槽16bの冷却液18の温度は、ある値まで上昇した後、降下する。規定の温度A未満となるまでの継続時間Δt4について発電ユニット14は発電可能である。継続時間Δt4の後、時間Δt5について、第二油槽16bの冷却液18の温度が、規定の温度A未満となることで、発電不能となる、しかし、一号炉12aでは、次のサイクルで、つまり、時刻t0からサイクルタイムTについて経過後、別の処理品7が第一油槽16aに浸され、一号炉12aの廃熱によって、再び、発電ユニット14による発電が可能となる。このために、
図2において、バルブ機構22におけるバルブ開閉動作が実行される。その後、以上の動作が繰り返し実行される。
【0038】
このように、熱回収システム10が行う発電動作(その1)では、一つの熱源部である第一油槽16aにおける冷却液18の温度上昇のタイミングが、他の熱源部である第二油槽16bにおける冷却液18の温度上昇のタイミングと異なるように、一号炉12a(第一油槽16a)及び二号炉12b(第二油槽16b)の動作制御が行われる。そして、二つの油槽16a,16bそれぞれにおける冷却液18の温度上昇のタイミングに応じてバルブ機構22は動作する。
【0039】
発電動作(その1)によれば、二つの油槽16a,16bが発電ユニット14を共用する構成となる。そして、冷却液18の温度上昇のタイミングが第一油槽16aと第二油槽16bとで異なる。このため、第一油槽16aで温度上昇した冷却液18が熱交換器20に供給されると、その冷却液18から二次側の熱媒体19に熱交換がされ、この熱媒体19を入力として発電ユニット14が発電する。その後、第一油槽16aの温度が降下して発電が不可能となっても、第一油槽16aとは別である第二油槽16bで温度上昇した冷却液18が熱交換器20に供給される。この冷却液18から二次側の熱媒体19に熱交換がされ、この熱媒体19を入力として発電ユニット14が発電することが可能となる。このように、冷却液18の温度上昇のタイミングを、二つの油槽16a,16bにおいて異ならせることで、発電ユニット14の動作機会が増える。具体的に説明すると(
図6参照)、前記サイクルタイムTを30分とし、発電ユニット14による発電可能となる継続時間Δt2(Δt4)それぞれを10分とする。
図9に示される従来例では、サイクルタイムT毎に1/3の時間(10分)が発電可能であり、残りの2/3の時間(20分)が発電不可である。これに対して、
図6に示される発電動作(その1)によれば、サイクルタイムT毎に2/3の時間(20分)が発電可能であり、残りの1/3の時間(10分)が発電不可である。以上より、発電ユニット14による発電が効率良く実行される。
【0040】
〔発電動作(その2)について〕
前記構成を備える熱回収システム10は、前記(その1)と異なる発電動作を行うことができる。以下、その説明を行う。なお、前記のとおり(
図3参照)、一次流路部24には、第一油槽16a及び第二油槽16bそれぞれと熱交換器20とを繋ぐ主流路28と、第一油槽16aと第二油槽16bとを繋ぎこれら第一油槽16aと第二油槽16bとの間で冷却液18の移動を可能とする連結流路30とが含まれる。
【0041】
図3に示されるように、加熱された処理品7が第一油槽16aの冷却液18に浸されると、バルブ機構22により、冷却液18の流れを前記「第一系統の流れ」とするために、バルブ34~38の開閉が制御される。これにより、第一油槽16aの冷却液18の温度が先ず上昇する。この場合、第一油槽16aの冷却液18が連結流路30を通じて第二油槽16bに流れ、冷却液18は第二油槽16bを経由して熱交換器20に流れる。すると、熱交換器20で二次側の熱媒体19に熱交換がされ、発電ユニット14は発電可能となる。
【0042】
これに対して、
図4に示されるように、加熱された処理品7が第二油槽16bの冷却液18に浸されると、バルブ機構22により、冷却液18の流れを前記「第二系統の流れ」とするために、バルブ34~38の開閉が制御される。これにより、第二油槽16bの冷却液18の温度が先ず上昇する。この場合、第二油槽16bの冷却液18が連結流路30を通じて第一油槽16aに流れ、冷却液18は第一油槽16aを経由して熱交換器20に流れる。すると、熱交換器20で二次側の熱媒体19に熱交換がされ、発電ユニット14は発電が可能となる。
【0043】
このように、
図3及び
図4それぞれに示される発電動作(その2)によれば、連結流路30によって第一油槽16aと第二油槽16bとが繋がることで、これら第一油槽16a及び第二油槽16bによって一つの油槽とみなすことができ、熱源となる冷却液18の容量が増加する。このため、処理品7を熱処理することで得られる熱による冷却液18の温度上昇は、前記(その1)の場合(
図6参照)と比較すると、緩和されるが、上昇した冷却液18の温度が下がりにくくなる。つまり、冷却液18の温度が、前記規定の温度A以上となる時間(
図6におけるΔt2、Δt4)が長くなる。したがって、発電ユニット14が発電可能となる時間を従来よりも長くすることが可能となる。
【0044】
〔発電動作(その3)について〕
前記構成を備える熱回収システム10は、前記(その1)及び前記(その2)と異なる発電動作を行うことができる。以下、その説明を行う。発電動作(その3)では、前記(その1)の場合と同様に、第一油槽16aにおける冷却液18の温度上昇のタイミングと、第二油槽16bにおける冷却液18の温度上昇のタイミングとを異ならせる。これと共に、前記(その2)の場合と同様に、第一油槽16aの冷却液18の温度が上昇するタイミングでは、第一油槽16aの冷却液18が連結流路30を通じて第二油槽16bに流れ、冷却液18は第二油槽16bを経由して熱交換器20に流れるように、バルブ機構22によって、一次流路部24における流路が切り替えられる。これに対して、第二油槽16bの冷却液18の温度が上昇するタイミングでは、第二油槽16bの冷却液18が連結流路30を通じて第一油槽16aに流れ、冷却液18は第一油槽16aを経由して熱交換器20に流れるように、バルブ機構22によって、一次流路部24における流路が切り替えられる。
【0045】
前記(その2)のように、連結流路30によって第一油槽16aと第二油槽16bとが繋がることで、これら油槽16a,16bによって一つの油槽とみなすことができ、熱源となる冷却液18の容量が増加する。このため、
図7に示されるように、処理品7を処理することで得られる熱による冷却液18の温度上昇は緩和されるが、上昇した冷却液18の温度が下がりにくくなる。したがって、発電ユニット14が発電可能となる時間(継続時間Δt2、Δt4)を長くすることが可能となる。更に、前記(その1)のように、冷却液18の温度上昇のタイミングを、二つの油槽16a,16bにおいて異ならせることで、発電ユニット14の動作機会が増える。なお、
図7は、発電動作(その3)の場合における、一号炉12a及び二号炉12bそれぞれにおける冷却液18の温度と、発電ユニット14による発電の可否との関係についての説明図である。
【0046】
発電動作(その3)では、一号炉12aの廃熱により発電可能となる継続時間Δt2が長くなる。このため、
図6に示される発電動作(その1)の場合と比較して、発電が不可能となる時間Δt3が短縮(解消)される。そして、一号炉12aの廃熱により発電が不可能となる前に、二号炉12bの廃熱により発電可能とするように、バルブ機構22によって、一次流路部24における流路が切り替えられる。つまり、一号炉12aの廃熱により発電が不可能となる前に(又は発電が不可能になると)、冷却液18の流れが、前記「第一系統の流れ」から前記「第二系統の流れ」に変更される。すると、
図7の継続時間Δt2に続いて、二号炉12bの廃熱により発電が可能となる。しかも、二号炉12bの廃熱により発電可能となる継続時間Δt4が長くなる。このため、
図6に示される発電動作(その1)の場合と比較して、発電が不可能となる時間Δt5が短縮(解消)される。そして、二号炉12bの廃熱により発電が不可能となる前に(又は発電が不可能になると)、一号炉12aの廃熱により発電可能とするように、バルブ機構22によって、一次流路部24における流路が切り替えられる。つまり、一号炉12aの廃熱により発電が不可能となる前に(又は発電が不可能になると)、冷却液18の流れが、前記「第二系統の流れ」から前記「第一系統の流れ」に変更される。
【0047】
図7に示される発電動作(その3)によれば、各サイクルタイムTの全時間において発電可能となる。以上より、発電ユニット14による発電が効率良く実行される。
【0048】
〔本実施形態の熱回収システム10について〕
図1において、処理品7を熱処理する熱処理装置12では、熱処理のための状況が時々刻々と変化することがある。このため、油槽16a,16bにおいて得られる廃熱の温度は、非定常となる。しかし、本実施形態の熱回収システム10が行う前記発電動作(その2)及び(その3)によれば、前記廃熱をできるだけ平準化し、効率良く廃熱を発電に利用することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態の熱回収システム10が行う前記発電動作(その1)に関して(
図6参照)、第二油槽16bの冷却液18の温度上昇の開始が、第一油槽16aの冷却液18の温度上昇の開始(時刻t0)よりも時間Δt1について遅れ、この時間Δt1を「遅延時間Δt1」として説明した。前記のとおり、油槽16a,16bにおいて得られる廃熱の温度は非定常となることから、この遅延時間Δt1は、一定ではなく、廃熱の温度(冷却液18の温度)に応じて、遅延時間Δt1を変更してもよい。つまり、バルブ機構22によって、冷却液18の流れを「第一油槽16aの循環流」と「第二油槽16bの循環流」との間で切り替えるタイミングを、第一油槽16a及び第二油槽16bにおける冷却液18の温度に応じて、可変としてもよい。
【0050】
前記実施形態では、二つの熱処理装置12が一つの発電ユニット14を共用する場合について説明したが、熱処理装置12は複数であればよく、二つ以外に、三つ以上であってもよい。
【0051】
熱処理装置12は、
図1により説明したような連続式の浸炭焼入炉以外であってもよく、例えば、バッチ式の浸炭焼入炉であってもよい。また、複数の熱処理装置12の組み合わせは、連続式の浸炭焼入炉とバッチ式の浸炭焼入炉との組み合わせであってもよい。
以上、浸炭焼入炉を例に説明したが、これに限らない。冷却液は油をはじめ、水又はポリマー等であってもよい。また、冷却液の他に冷却ガスであってもよい。また、設備対象は、浸炭焼入炉に限定されることはなく、焼入炉、浸炭窒化焼入炉、真空浸炭焼入炉、真空焼入炉等、焼入槽を有する熱処理炉であってもよい。
また、
図1の実施形態では、焼入れ室87の油槽16の廃熱を発電に用いる場合について説明したが、予熱室82(83)のリジェネバーナ排ガスの熱や降温室85の冷却チューブの熱を熱源としてもよい。この場合、予熱室82(83)(又は降温室85)が熱源部となり、一号炉12aの予熱室82(83)(又は降温室85)の一部と、二号炉12bの予熱室82(83)(又は降温室85)の一部とが連結流路30などによって接続される。
【0052】
前記実施形態では、発電ユニット14を熱処理装置12に組み合わせた場合について説明したが、熱処理装置12以外の他の設備に組み合わせてもよい。工場や熱処理装置12のような設備から得られる廃熱を用いて発電する場合、その廃熱は、高温域であったり低温域であったりするが、前記実施形態の構成によれば、廃熱を安定的に回収して、効率良く発電することが可能となる。
【0053】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0054】
7:金属製部品(処理品) 10:熱回収システム 12:熱処理装置
14:発電ユニット 16:油槽(熱源部) 16a:第一油槽
16b:第二油槽 18:冷却液(第一流体) 19:熱媒体(第二流体)
20:熱交換器 22:バルブ機構 24:一次流路部
26:二次流路部 28:主流路 30:連結流路
34:第一バルブ 35:第二バルブ 36:第三バルブ
37:第四バルブ 38:第五バルブ