(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】縫目安定下糸制御装置
(51)【国際特許分類】
D05B 57/26 20060101AFI20220721BHJP
【FI】
D05B57/26 Z
D05B57/26 A
(21)【出願番号】P 2020066285
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】520116078
【氏名又は名称】江端 美和
(72)【発明者】
【氏名】江端 美和
【審査官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150149(JP,A)
【文献】特開昭62-002998(JP,A)
【文献】特開2017-51511(JP,A)
【文献】実開平1-118780(JP,U)
【文献】特開平3-12195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 57/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
〔請求項1〕の装置において、1糸供給側糸道部材A及び2被縫製物側糸道部材Bは、ボビンケースあるいは9内釜等上糸ループを潜り抜ける部材に固定あるいは内蔵され、4糸保持稼働部材の役目を果たす場合の5下糸調子ばねを除く4糸保持稼働部材及び8縫目安定下糸制御部材は上糸ループの外側に配置され3下糸の引き締め位相においてその目的の動作を行う、あるいは、1糸供給側糸道部材A、2被縫製物側糸道部材Bと共に、4糸保持稼働部材と8縫目安定下糸制御部材の片方または両方がボビンケースあるいは内釜等上糸ループを潜り抜ける部材に所属し、上糸ループの外側に4糸保持稼働部材を稼働させる第2の糸保持稼働部材と8縫目安定下糸制御部材を稼働させる第2の縫目安定下糸制御部材を配置し3下糸の引き締め位相においてその目的の動作を行う、1糸供給側糸道部材A、2被縫製物側糸道部材B、4糸保持稼働部材、及び8縫目安定下糸制御部材を有する本縫いミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
縫製機械の構造、及び縫製技術に関する技術である。
【0002】
縫製品の品質を左右する最も重要な要素は、縫い目の上下糸が形成する形体のバランスと上下糸の張力バランスにあり、従来、これらのバランスは、被縫製物、上下糸、及び、縫製機械の構造部品の摩擦力のバランスを上手にとることにより保たれてきたが、摩擦力そのものは非常に不安定で、縫いの品質を安定させるのは非常に困難であった。
【0003】
本発明は、これらのバランスの全てを摩擦力に頼るのではなく、これらのバランスをとるにあたって最も重要な縫い目に使用される3下糸の糸量を制御し縫い品質を安定、向上させるものである。
【発明の概要】
【本発明が解決しようとする課題】
【0004】
縫製品の品質を左右する最も重要な要素は、縫い目の上下糸が形成する形体のバランスと上下糸の張力バランスにある。
【0005】
従来のミシンでは、これらのバランスは上糸調子器中のばねにより押圧された対向するディスク(糸調子皿)と上糸との摩擦力と、内釜あるいはボビンケースに内蔵された5下糸調子ばねと3下糸との摩擦力によりとられていた。すなわち、これらの摩擦力と、被縫製物や上下糸の変形への抵抗力や、上下糸の、さらに被縫製物と上下糸との摩擦力及び上下糸が接触するミシン部品との摩擦力との間のバランスをとることにより保たれていた。
【0006】
しかし、摩擦力そのものは非常に不安定で、摩擦力を、すなわち縫いの品質を安定させる必要な力を制御するのは非常に困難で、被縫製物の材質及び機械的特性(伸縮性等)、また、ミシンの設定(被縫製物の送り量、縫い速度等)等の変化に対し、常に上糸調子器と5下糸調子ばねのばね圧を変化させ、すなわち両者が発生させる摩擦力を調整しなければならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、これらの摩擦力に頼るのではなく、縫い目に使用される3下糸の糸量を制御し縫い品質を安定、向上させるものである。
【0008】
類似の考案として上糸の糸量を制御し縫い品質を安定、向上させるものがあり、実際に、実機搭載されているものもある。しかし、1縫目を完成させる最後の役目は上糸ではなく3下糸が行っていること、上糸は一縫目を完成させる間に機構が1縫目に必要な上糸長に対し大量の上糸を必要としているため1縫目で消費される上糸長以外の上糸を供給、回収しなければならないこと、そのせいもあり多くの部品と接触し1縫目形成の過程過程で縫いに不必要な上糸張力が必要になること、更には、1縫目を完成する時点では、次の縫い目の形成がすでに始まっていることから、被縫製物の機械的特性(伸縮性等)及び縫目形体の変化に対応することが難しく、ある程度の効果があるものの縫い条件が限定されるものである。
【発明の効果】
【0009】
この様な理由から、本発明は、上記上糸に求められる解決されなければならない必要条件が大幅に少ない3下糸に着目し、縫い目に消費される3下糸の糸長を制御することにより縫い品質を安定、向上させるものである。
すなわち、本発明は本縫いミシンの有史以来、およそ200余年にわたり本縫いミシンに課せられてきた課題を解決する「縫目安定下糸制御装置」を提供するものである。
【発明の詳細な説明】
【0010】
最初に、縫い目形成メカニズムと縫い目形成プロセスの説明をする。
【0011】
本縫いは、主として上下2本の糸を撚り合わせ、その2本の糸の撚りと撚りの間に被接合物すなわち数枚の布等を挟み込んで布等の接合を行なう縫い目である。
従って、2本の糸で撚りの間にある被縫合物を締め付ける縫い目なので、そのメカニズムは紐で物を縛るメカニズムに似ていて、基本的には単一縫い目サイクルで縫合強さを調節、完結させる。この縫合強さは被縫合物や縫い目の特性(長さや模様など)により異なるもので、原則として上下糸の張力により調節されるが、この張力は縫い目を構成する過程、すなわち単一縫い目サイクルを通して一定ではなく、設計上は主要位相ごとに適切な張力(無張力状態も含め)を付与することが重要となる。なお、一般的なミシンにおいては、下糸の張力を一定にし、上糸の張力のみの変更で、単一縫い目サイクル中の張力変動をコントロールしている。
【0012】
また、本縫いでは縫い目の強度を安定保持するために、上糸と下糸の撚り合わせの交差点を被縫合物の厚み方向のほぼ中間にもぐりこませる。これは、縫い目強度に、被縫合物である布と縫い糸の摩擦力を利用するとともに、縫い糸を強制的に折り曲げその折り曲げ抵抗力を利用すること、さらには、縫い方向に対し上糸と下糸の長さをほぼ等しくすることにより、縫い方向の引張り力に対し2本の糸で効率良く支えるためである。この上糸と下糸の交差点を「結節点」といい、この結節点が被縫合物の厚みに対し上糸側から何パーセントの位置にあるかを表すことを「縫い目交差率」という。上糸側から見た縫い目の美しさ(直線に見える)を必要とする場合、故意にこの結節点を下糸側にずらす。一般的に、このような目的で使用するとき、縫い目交差率60%が縫い目強度にもほとんど影響を与えず、上糸側から見た縫い目も美しく見えると言われている。
【0013】
さらに、本縫いでの縫い目強度を安定保持させるために必要な縫い目形成メカニズムがある。それは、次々に形成されていく縫い目が一定の縫い目交差率を維持するために、基本的に、一針の縫い目形成の過程で、一度上糸が下糸を被縫合物の上まで引き上げ、その後、下糸が結節点を被縫合物の中に引き込み縫い目を安定させる。これは、単一縫い目構成サイクルにおいて、上糸が釜をくぐるために、縫い目構成に必要な糸量に比べ多量の上糸を供給し、かつ、その糸を回収するために、上糸が長い距離を行ったり来たりすることと、上糸は単一縫い目構成サイクルの間に張力を大きく変化させること、さらには、被縫合物以外の数々の部材とも摩擦していることから、上糸に比べこれらの要素において格段に条件の良い下糸に最終的な結節点位置及び縫い目強度の管理をゆだねることが効果的になるからである。
【0014】
このように縫い目形成メカニズムのなかで特に重要なのは「次々に形成されていく縫い目が一定の縫い目交差率を維持するために、基本的に、一針の縫い目形成の過程で、一度上糸が下糸を被縫合物の上まで引き上げ、その後、下糸が結節点を被縫合物の中に引き込み縫い目を安定させる。」という縫い目形成プロセスである。この役目を担うのが[
図5]「ミシンのモーションダイヤグラム」に出てくる「釜下糸繰出量」でこの作用により上糸張力のばらつきが縫い目形成に与える影響を緩和し、安定した縫い目形成を行うと言える。従って、「釜下糸繰出量」という表現よりは、「最終縫目引締量」という表現の方が適切かもしれない。
【0015】
次に、1針の縫い目形成プロセスにおける上糸と下糸の挙動を[
図5]「ミシンのモーションダイヤグラム」を使い説明する。
【0016】
モーションダイヤグラムとは「針棒上死点を0°として上軸が1回転すなわち360°回転する間に、縫いを形成する各機構がどのタイミングでどのように動作し、同時に縫い糸がどのような挙動をするのかを1枚のグラフ上に示したもの」である。
【0017】
モーションダイヤグラムは、針棒上死点を起点0°としているが、実はこの位相ではまだ新しい縫い目形成はスタートしておらず、かつ、前の縫い目が完結していない。実際の縫い目形成の起点は天秤上死点あるいは天秤上死点を少し過ぎたあたりにある。また、前の縫い目の完結位相は「釜下糸繰出量」が下糸の引き締めを行なった位相から、上下送り量曲線が0になった位相、すなわち、送り歯が針板の下に沈む位相にかけてのどこかになる。
しかし、実際の縫い目形成の起点は被縫製物の条件、送り量の変化により微妙に変化すること、また他の機構部品に比べ、針棒上死点の位相が正確に測れることから、モーションダイヤグラムの位相の精度を維持するため針棒上死点を基準値0°とし、測定は被縫製物を取り除き、かつ、その結果として送り量が影響しない状態で測定している。このようなことから、モーションダイヤグラムは0°~360°で終わらず0°~約500°の測定、表示を行っている。
【0018】
さて、縫い目の品質を左右するのは、まぎれもなく、1目を構成する縫い目形成メカニズムの過程における縫い糸(上糸及び下糸)の挙動である。
【0019】
そこで、まず、1目サイクル中の上糸の挙動を示す釜上糸必要量と天秤上糸供給量に着目する。他の機構の運動曲線は、主にこの2種の曲線を作り出すための動きが示されている。
【0020】
まず、釜上糸必要量だが、これは、前の縫い目から次の縫い目が完成するまでの1サイクル中の各位相においてミシンの機構が必要とする上糸量をグラフ化したものである。すなわち、針板の針穴付近に測定糸の一端を固定し針の糸穴を通した他端の動きを測定する。このことから、送り量による上糸の消費量は無視されている。
従って、釜上糸必要量と名付けられているが、針の動きによっても変化し、必要量は針の糸穴が針板の針穴を通過した時から変化を始める。
この変化量は針棒最下点で極値を持ち、針の上昇とともに減少するが釜の剣先が上糸ループを捕捉したのち再び増加する。
【0021】
次に、天秤上糸供給量だが、これは、前の縫い目から天秤の糸穴を経由し、糸調子器に至る糸道経路長さの変化量を表す。従って、釜上糸必要量と同じように針板の針穴付近に測定糸の一端を固定し送り量による上糸の消費量を無視し、なおかつ、針の針穴、及び、糸取りばねを経由させない。このことから、天秤上糸供給量は天秤上下量と位相が同じ変化を行い、その量は約2倍の数値となる。
【0022】
各位相ごとの天秤上糸供給量と釜上糸必要量との差が上糸のたるみとなる。この上糸のたるみを吸収しているのが、天秤と上糸調子器の間に設けられている糸取りばねである。
【0023】
釜上糸必要量は針棒下死点を過ぎると減少し、天秤上糸供給量は増加し続けるので、その差は大きくなり、糸取りばねストロークを超えて上糸はたるんでしまう。このたるみが、釜剣先が上糸をとらえるループとなる。このループを安定した適度の大きさに維持するのが糸取りばねの大きな役割となる。
【0024】
ただし、モーションダイヤグラムの図中「糸取りばねストローク」と説明しているが、これは数値的には正しい表現ではない。天秤上糸供給量は供給量0から今対象としている1針の縫い目形成プロセスが始まるが、この時点では前の1針の縫い目形成プロセスは完了していない。従って、実天秤上糸供給量は、その間に、すなわち天秤上糸供給量が開始されてから前の縫い目の完成までの間に前の縫い目で消費された糸量を差し引いた糸量となり、その糸量から釜上糸必要量を引いた「たるみ」糸量から、上糸ループを作るのに必要な糸量を差し引いた「たるみ」糸量を吸収するためのメカニズムの中で動いた糸取りばねストロークが真の糸取りばねストロークとなる。
【0025】
続いて、縫い目を構成する為に、「釜」は捕捉した上糸ループを大きくして、下糸の格納部のボビンをくぐらせる。この一連の動きに必要な上糸の量が正真正銘の「釜上糸必要量」となる。モーションダイヤグラムを見てお分かりのように「釜上糸必要量」は最大必要量を過ぎると一気に小さくなる。これは、釜剣先から上糸を放すためでループも一気に小さくしなければならない。さもなければ、釜剣先は、再び同じループを捕捉してしまい縫い障害を起こす可能性がある。この釜剣先から解放されたループを小さくする最初の役目と中釜の回転止めを通過するための糸張力を発生させる役目も基本的には「糸取ばね」が行なっている。すなわち、この釜剣先から解放されたループを小さくする最初の役目と中釜の回転止めを通過するための糸張力を発生させる役目を担う糸取りばね特性は、糸取ばねに求められる、安定した縫い目を形成するための重要な要素となる。
【0026】
ここで、問題になるのは、この位相では既に針は布(被縫製物)の上まで上昇していて布(被縫製物))を貫通していない。よって、布の下部にある糸が布を通過するときまともに被縫合物(布)と接触し抵抗を受けるので、厚物等被縫合物の接触抵抗の大きい被縫製物では糸取りばねの張力ではループを十分に引き上げられず、被縫製物の下に上糸のたるみが発生してしまうこととなる。このたるみの発生している時間を極力短くするために、天秤に早戻り機構を採用し、「天秤上糸供給量」を急速に少なくしている。またこの位相では水平送りもスタートさせ送り量による上糸たるみの吸収効果をわずかながら発生させている。
【0027】
続いて、釜下糸繰り出し量による縫目の引き締め及び完成について説明する。
【0028】
天秤の早戻り機能により、“たるんだ”上糸を急速に回収しながら天秤上死点、すなわち前の縫い目から天秤糸穴を経由し糸調子器への最大糸道経路となる位相へと向かうのだが、当該縫い目開始時(天秤上死点)の最大糸道経路での糸長と比べ送りピッチ等1縫目に費やされた糸長が不足する。この不足糸長分は天秤上死点へ向かう過程で上糸調子器から引き出され、この時、縫い目に糸張力を発生させる。その結果、≪本縫い縫い目形成メカニズム解説図≫に示したように下糸を被縫製物の上まで引き上げ縫い目を引き締める。この時、前の縫い目と今の縫い目間が引き込まれないように送り歯は針板上方にあり縫い目を保持しているとともに、水平送りも作用して安定した引き締めを行っていることがモーションダイヤグラムから読み取れる。
【0029】
続いて、下糸が結節点を被縫合物の中に引き込む。これは、「釜下糸繰出量」が行うのでだが、この位相では天秤上死点を過ぎて次の縫い目形成プロセスが始まっているので、すなわち、天秤上糸供給が始まっているので縫い目と上糸調子器間の上糸の張力は減少し上糸がたるんでおり、一定の下糸張力で比較的簡単に縫い目を被縫合物の中に引き込むことができる。従って、基本的には、縫い目を形成している縫い糸の張力は、被縫製物と縫い糸との摩擦力と、縫い糸を強制的に折り曲げその折り曲げ抵抗力とに対する、下糸調子ばねの圧力による下糸調子ばねと下糸との摩擦力とのバランスにより決まる。このように、釜下糸繰出量は最終的に縫い目の安定、品質維持を決定する要となる。
【0030】
この縫い目を安定させる下糸の引き締め行う釜糸繰出量を発生させる機構は第1図と似ており、8縫目安定下糸制御部材に相当する部材が釜の駆動部に配置されたカム面であったり、釜外部に設けられた下糸繰出レバーが担っているが、8縫目安定下糸制御部材に相当する部材の釜下糸繰出量を作り出す移動量が固定されていること、1糸供給側糸道部材Aに相当する部材が5下糸調子ばねであり4糸保持稼働部材に相当する部材がないことにより3下糸に与えられる張力によっては3下糸が供給されてしまうこと、更には、2被縫製物側糸道部材Bに相当する部材が針板針孔の縁であり糸道部材A、B間の距離aが簡単に変化してしまうことにより安定した下糸繰出量を維持することができない現状となっている。
【0031】
しかし、それでもなお、これらの不安定要素は、上糸に比べ1縫目形成プロセスの過程で上糸に内在する不安定要素、すなわち、モーションダイヤグラムを見てわかるように各過程で上糸が必要とされている糸量が下糸に比べ非常に多いこと、糸に与えられる張力が変化すること、下糸に最終的な結節点位置及び縫い目強度の管理をゆだねていることに比べ解決可能であり、その解決方法として本発明を用いれば品質が良く安定した縫い目を形成できる。
【0032】
本発明においては、1供給側糸道部材Aと2被縫製側糸道部材の間隔aが常に一定の数値に固定、保たれていることから、8縫目安定下糸制御部材の動きを制御することにより、糸道部材A,B間の糸量の変化量b+c-aが正確に得られる、すなわち、1縫目に必要な下糸量が正確に供給されることになる。この変化量b+c-aは、6押さえの7移動量により計算される第2
図Cの区間に費やされる下糸量に相当する。従って、糸道部材A,B間の糸量の変化量b+c-aに糸供給側から下糸が供給されては「(糸道部材A,B間の糸量の変化量b+c-a)=(第2
図Cの区間に費やされる下糸量)」が成り立たなくなり、すなわち、上下糸の結節点位置がばらつき、縫い目が安定せず縫い品質を低下させるため、下糸の引き締め位相では4糸保持稼働部材が稼働し、3下糸を固定し、下糸供給側からの下糸供給を遮断している。
【0033】
ちなみに、上記説明と、モーションダイヤグラムからわかるように、下糸の引き締め位相による下糸の変化量(b+c-a)や従来からの「釜下糸繰り出し量」は非常に少量であることから、次の縫い目の下糸必要量を満足できず、下糸の必要となった位相に対応し、5下糸調子ばねが与える下糸張力に抗してずるずると引き出されており、かつ、第2
図Cの区間に費やされる下糸量は、ほぼ上糸引き締め時に引き出されている。このような現象から、従来、下糸の長さを管理することによる縫目の安定化は不可能であるという思考が一般的認識として定着していたと思われる。
【0034】
なお、特許請求範囲〔請求項1〕で4糸保持稼働部材は存在せず、「5下糸調子ばね自体が糸保持部材として」と表現したのは、磁力など非接触方法により、下糸引き締め位相において5下糸調子ばねのばね圧を増強して4糸保持稼働部材の役目を担うことができるためである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図2】は本縫い縫い目形成メカニズム解説図であり、図中Cは「(糸道部材A,B間の糸量の変化量b+c-a)=(第2
図Cの区間に費やされる下糸量)」の「Cの区間」を破線にて表している。
【
図3】は本発明の一使用例として、本発明を9内釜(中釜ともいう)に搭載した外観図である。この例では、1糸供給側糸道部材と2被縫製物側糸道部材は9内釜と一体となっていて単一部材とはなっていない。なお、図には示されていないが、糸道部分において、糸の接しない場所への設置、あるいは糸抜け防止機能を付加することにより、外部から糸道にかけてスリットを敷設することは可能で、スリットを設けることにより糸道への糸通しが簡単になる。
【
図4】は、[
図3]の内釜に断面等を用いて本発明を解説した図である。A図は第3図と同一方から見て糸道部分を断面にして説明したものであり、B視はA図の矢印Bから見た図、C視はA図の矢印Cから見た図である。
【
図5】は一般的「ミシンのモーションダイヤグラム」の解説図である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・糸供給側糸道部材、2・・・被縫製物側糸道部材、3・・・下糸、
4・・・糸保持稼働部材、5・・・下糸調子ばね、6・・・押さえ、
7・・・(押さえの)移動量、8・・・縫目安定下糸制御部材、9・・・内釜、
10・・・ボビン、11・・・下糸調子ばね台、
a・・・供給側糸道部材Aと被縫製側糸道部材の下糸長さ(間隔)、
b・・・縫目安定下糸制御部材が稼働した時の下糸長さ、
c・・・縫目安定下糸制御部材が稼働した時の下糸長さ