(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】オリフィス構造体、ナノファイバー製造装置、及びナノファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
D02J 1/22 20060101AFI20220721BHJP
【FI】
D02J1/22 301Z
(21)【出願番号】P 2018031972
(22)【出願日】2018-02-26
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章泰
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-262644(JP,A)
【文献】特開2015-214763(JP,A)
【文献】特開2010-185162(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114831(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146542(WO,A1)
【文献】特開2019-007113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02J1/00-13/00
D01D1/00-13/02
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
D02G1/00-3/48
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原繊維を外部と気圧差を有する
4kPa以下の減圧状態の延伸室に導入し、前記原繊維にレーザー光を照射し
前記気圧差のみにより延伸することによりナノファイバーを製造するナノファイバー製造装置に用いられるオリフィス構造体であって、
前記原繊維が供給されるオリフィス部と、
前記オリフィス部と流体流通可能に接続され、前記延伸室における前記オリフィス部側に配置され、前記レーザー光が透過するレーザー光透過窓を含む接続部と、
を有し、
前記オリフィス部の最大径が、前記レーザー光透過窓間の最大距離以上であることを特徴とするオリフィス構造体。
【請求項2】
前記オリフィス部と前記接続部とが一体化されている請求項1に記載のオリフィス構造体。
【請求項3】
前記レーザー光透過窓が、ジンクセレン(Zn-Se)からなる請求項1から2のいずれかに記載のオリフィス構造体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のオリフィス構造体と、
前記オリフィス構造体のオリフィス部から導入された原繊維に対し、レーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
レーザー光の照射により溶融した原繊維を、前記オリフィス構造体と
4kPa以下の減圧状態の延伸室との気圧差
のみにより延伸する延伸手段と、
を有することを特徴とするナノファイバー製造装置。
【請求項5】
前記オリフィス構造体が前記延伸室に着脱可能に接続される請求項4に記載のナノファイバー製造装置。
【請求項6】
前記レーザー光が、炭酸ガスレーザー光である請求項4から5のいずれかに記載のナノファイバー製造装置。
【請求項7】
前記オリフィス構造体が前記延伸室上に複数個並列配置される請求項4から6のいずれかに記載のナノファイバー製造装置。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載のオリフィス構造体のオリフィス部から導入された原繊維に対し、レーザー光を照射するレーザー光照射工程と、
レーザー光の照射により溶融した原繊維を、前記オリフィス構造体と
4kPa以下の減圧状態の延伸室との気圧差
のみにより延伸する延伸工程と、
を含むことを特徴とするナノファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリフィス構造体、ナノファイバー製造装置、及びナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維径が1μm未満、即ち、ナノメータ(数nm~数百nm)範囲のナノファイバーが、バイオ、環境、医療分野などの幅広い分野において注目されている。
【0003】
このようなナノファイバーの製造技術として、本発明者は、既に、炭酸ガスレーザー超音速延伸(CLSD)法を開発している(例えば、特許文献1参照)。このCLSD法は、ナノファイバー作製法であるトップダウン型の複合紡糸法やボトムアップ型のエレクトロスピニング(ES)法に比べて、ほとんどすべての熱可塑性ポリマー材料に幅広く適用でき、溶剤や添加剤を使用しないために安全性が高いという数多くの優れた特徴を有することが知られている。
【0004】
例えば、
図1は、従来のナノファイバー製造装置の一例を示す図である。このナノファイバー製造装置100は、レーザー光照射手段5、原繊維供給手段2、オリフィス部3、ナノファイバー捕集容器8、レーザー光透過窓16を有する接続部6、延伸室4、パワーメーター7、及び圧力計9から構成される。なお、オリフィス部3とレーザー光透過窓16を含む接続部6を合わせてオリフィス構造体110と呼ぶことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、
図1の従来のナノファイバー製造装置100においては、
図2に示すように、オリフィス部3直下の一組のレーザー光透過窓16を含む接続部6は開放系であり、レーザー光透過窓16間の最大距離がオリフィス部3の最大径に比べて大きいのでシールド部分が多く必要となる。その結果、延伸室4の気密性が低くくなり、延伸室4内を十分に減圧できないという問題があった。
【0007】
本発明は、従来における前述の諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、延伸室内の気密性を上げて減圧度を高くすることができ、より細いナノファイバーを作製することができるオリフィス構造体、及び該オリフィス構造体を用いたナノファイバー製造装置、及びナノファイバーの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するための手段としての本発明のオリフィス構造体は、原繊維を外部と気圧差を有する延伸室に導入し、原繊維にレーザー光を照射し延伸することによりナノファイバーを製造するナノファイバー製造装置に用いられるオリフィス構造体であって、原繊維が供給されるオリフィス部と、オリフィス部と流体流通可能に接続され、延伸室におけるオリフィス部側に配置され、レーザー光が透過するレーザー光透過窓を含む接続部とを有し、オリフィス部の最大径が、レーザー光透過窓間の最大距離以上である。
【0009】
本発明のナノファイバー製造装置は、本発明のオリフィス構造体と、オリフィス構造体のオリフィス部から導入された原繊維に対し、レーザー光を照射するレーザー光照射手段と、レーザー光の照射により溶融した原繊維を、オリフィス構造体と延伸室との気圧差により延伸する延伸手段と、を有する。
【0010】
本発明のナノファイバーの製造方法は、本発明のオリフィス構造体のオリフィス部から導入された原繊維に対し、レーザー光を照射するレーザー光照射工程と、レーザー光の照射により溶融した原繊維を、オリフィス構造体と延伸室との気圧差により延伸する延伸工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前述の諸問題を解決し、前述の目的を達成することができ、気密性を向上させて減圧度を高くし、より速い気体流中で原繊維にレーザー光を照射することができるオリフィス構造体、該オリフィス構造体を有するナノファイバー製造装置、及びオリフィス構造体を用いたナノファイバーの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、従来のナノファイバー製造装置の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1のナノファイバー製造装置におけるオリフィス構造体の部分拡大図である。
【
図3】
図3は、本発明のナノファイバー製造装置の一例を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、
図3のナノファイバー製造装置におけるオリフィス構造体の一例を示す部分拡大図である。
【
図4B】
図4Bは、
図4Aにおけるオリフィス部の長さとレーザー光透過窓間の長さとの関係を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、
図3のナノファイバー製造装置における別のオリフィス構造体の一例を示す部分拡大図である。
【
図5B】
図5Bは、
図5Aにおけるオリフィス部の長さとレーザー光透過窓間の長さとの関係を示す図である。
【
図5C】
図5Cは、
図5AのA部分(溶融延伸部分)をマイクロスコープで撮影した写真である。
【
図6】
図6は、オリフィス構造体を延伸室に複数個並列配置した状態を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明のナノファイバー製造装置の一例を示す写真である。
【
図8】
図8は、
図7のナノファイバー製造装置のオリフィス構造体の一例を示す拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(オリフィス構造体)
本発明のオリフィス構造体は、原繊維を外部と気圧差を有する延伸室に導入し、原繊維にレーザー光を照射し延伸することによりナノファイバーを製造するナノファイバー製造装置に用いられるオリフィス構造体であって、オリフィス部と、接続部とを有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
【0014】
本発明においては、オリフィス構造体におけるオリフィス部の最大径が、レーザー光透過窓間の最大距離以上である。即ち、オリフィス部の最大径は、レーザー光透過窓間の最大距離と同じであるか、又はレーザー光透過窓間の最大距離より大きいことが必要である。これにより、オリフィス構造体を小型化できると共に、従来に比べてシールド部分が少なくてすむため、延伸室の気密性を高めることができる。
なお、オリフィス構造体におけるオリフィス部の最大径が、レーザー光透過窓間の最大距離よりも若干小さい場合であっても、本発明の目的及び効果を奏する場合には本発明に含まれる。
オリフィス部の最大径とは、オリフィス部が円筒形状である場合には最も大きな外径であり、オリフィス部が四角形状の場合は、最も大きな対角線の長さである。
レーザー光透過窓間の最大距離とは、オリフィス部を挟んで一組のレーザー光透過窓が設けられている場合には、両者の間の最大距離である。レーザー光透過窓を含む接続部がオリフィス部と一体化している場合には、接続部の最大内径である。
【0015】
<オリフィス部>
オリフィス部は、原繊維を延伸室に供給する。
オリフィス部の大きさ、形状、構造、及び材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
オリフィス部の大きさ、形状、及び構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
オリフィス部の材質としては、原繊維を延伸室に導入することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、樹脂などが挙げられる。
金属としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、ステンレススチール、クロム-ニッケル合金、チタン合金などが挙げられる。
樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合体、繊維強化プラスチック(FRP)、テフロン(登録商標)などが挙げられる。
【0016】
オリフィス部内は高速の気体が流れるので、オリフィス部の内部は抵抗の少ない構造が好ましい。オリフィス部の内部の断面も円形のものが好ましいが、原繊維の形状が楕円やテープ状の場合には、断面が楕円や矩形のものも使用される。また、オリフィス部入口では、原繊維を導入しやすいように大きく、出口部分のみ狭い形状が、原繊維の走行抵抗を小さくし、オリフィス部出口からの風速も大きくできるので好ましい。
【0017】
原繊維とは、既にフィラメントとして製造されて、リール等の原繊維供給手段に巻き取られたものである。また、紡糸過程において、溶融又は溶解フィラメントが冷却や凝固によりフィラメントとなったものを紡糸過程に引き続き使用され、本発明で用いられる原繊維となる。ここで、フィラメントとは、長さが通常1,000m以上の実質的に連続した繊維であり、数mm~数十mmの長さである短繊維とは区別される。また、フィラメントの外径は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm~200μmであることが好ましい。
【0018】
原繊維は、複屈折で測定した配向度が30%以上、あるいは50%以上といった、高度に分子配向したフィラメントでも使用できることに特徴がある。このように原繊維が高配向している場合は、延伸開始点において、原繊維径以上の膨張部をもって延伸されることが多い。
【0019】
原繊維としては、熱可塑性ポリマーからなるフィラメントであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル、ポリエチレンナフタレート等を含むポリエステル、ナイロン(含むナイロン6、ナイロン66)を含むポリアミド、ポリプロピレンやポリエチレンを含むポリオレフィン、ポリビニルアルコール系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等を含むフッ素系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ポリオキシメチレン、エーテルエステル系ポリマーなどが挙げられる。
これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン(含むナイロン6、ナイロン66)、ポリプロピレンは、延伸性もよく、分子配向性もよい点から好ましい。また、ポリ乳酸やポリグリコール酸等の生分解性ポリマーや生体内分解吸収性ポリマーである点から好ましい。
また、原繊維としては、これらのポリマーからなる芯鞘型フィラメントなどの複合フィラメントも使用することができる。
【0020】
延伸室とは、オリフィス部を通過して、延伸室に供給された原繊維を延伸してナノファイバーを製造する場所である。
延伸室の大きさ、形状、構造、及び材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
延伸室の材質としては、例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポロプロピレン樹脂などが挙げられる。
【0021】
<接続部>
接続部は、オリフィス部と流体流通可能に接続され、延伸室におけるオリフィス部側に配置され、レーザー光が透過するレーザー光透過窓を含む。
【0022】
接続部の大きさ、形状、構造、及び材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
接続部の大きさ、形状、及び構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
接続部の材質としては、少なくとも原繊維に照射するレーザー光が通過する部分はレーザー光を透過できる材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジンクセレン(Zn-Se)などが挙げられる。ジンクセレンは、レーザー光としての炭酸ガスレーザー光に対して高透過率な材料である点から好ましい。
接続部は、レーザー光透過窓のみから構成されていてもよい。この場合、接続部は、ジンクセレン(Zn-Se)から形成される。
接続部が、その一部にレーザー光透過窓を有する場合には、レーザー光透過窓は、ジンクセレン(Zn-Se)から形成され、レーザー光透過窓以外の部分は、金属、樹脂などで形成される。金属としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、ステンレススチール、クロム-ニッケル合金、チタン合金、などが挙げられる。
樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合体、繊維強化プラスチック(FRP)、テフロン(登録商標)などが挙げられる。
【0023】
<その他の部材>
その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、観察窓などが挙げられる。
観察窓は、接続部における、レーザー光透過窓以外の箇所に設けられる。観察窓の材質としては、例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポロプロピレン樹脂などが挙げられる。
接続部が観察窓を有することにより、レーザー光が原繊維に照射され、延伸される状態を観察することができる。
【0024】
ここで、本発明のオリフィス構造体の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、下記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0025】
<オリフィス構造体の第一の実施形態>
ここで、
図4Aは、本発明のオリフィス構造体の第一の実施形態の一例を示す図である。この
図4Aのオリフィス構造体210は、原繊維を延伸室に供給するオリフィス部3と、オリフィス部と流体流通可能に接続され、延伸室におけるオリフィス部側に配置され、レーザー光が透過するレーザー光透過窓を含む接続部6とを有する。
この
図4Aのオリフィス構造体210は、オリフィス部3と接続部6とが一体化された1本の円筒形状である。オリフィス部3と接続部6とが一体化されていることにより、ナノファイバー装置の小型化、ナノファイバー装置の延伸室の気密化を向上させる点から好ましい。
本実施形態において、オリフィス部3はステンレス鋼から形成されている。
接続部6は、ジンクセレン(Zn-Se)から形成され、レーザー光Lが透過するレーザー光透過窓の機能を果たしている。
図4Bに示すように、オリフィス部の最大径D1は、レーザー光透過窓間の最大距離D2以上であり、D1>D2を満たしている。これにより、オリフィス構造体を小型化できると共に、シールド部分が少なくてすむため、延伸室の気密性を高めることができる。
オリフィス部の最大径D1は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1cm前後であることが好ましい。
レーザー光透過窓間の最大距離D2は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、オリフィス部の最大径D1以下であることが好ましい。
【0026】
<オリフィス構造体の第二の実施形態>
図5Aは、本発明のオリフィス構造体の第二の実施形態の一例を示す図である。この
図5Aに示すオリフィス構造体210は、原繊維を延伸室に供給するオリフィス部3と、オリフィス部と流体流通可能に接続され、延伸室におけるオリフィス部側に配置され、レーザー光Lが透過するレーザー光透過窓16を含む接続部6と、観察窓12とを有する。
本実施形態において、オリフィス部3はステンレス鋼から形成されている。
レーザー光透過窓16はジンクセレン(Zn-Se)から形成され、観察窓12はガラス製である
この
図5Aのオリフィス構造体210は、オリフィス部3がボックス形状の接続部6と接続されている。オリフィス部3がボックス形状の接続部6と接続されることによっても、オリフィス部3と接続部6とが一体化されることによる効果が得られる。
図5Bに示すように、オリフィス部の最大径D1は、レーザー光透過窓間の最大距離D3以上であり、D1=D3を満たしている。これにより、オリフィス構造体を小型化できると共に、シールド部分が少なくてすむため、延伸室の気密性を高めることができる。
オリフィス部の最大径D1は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1cm前後であることが好ましい。
レーザー光透過窓間の最大距離D3は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、オリフィス部の最大径D1以下であることが好ましい。
図5Aに示すオリフィス構造体210は、繊維供給オリフィス、Zn-Se窓及び観察窓を備えた構造である。z軸方向から供給される繊維にx軸方向からレーザー光が照射され、y軸方向からマイクロスコープで繊維の延伸部分を観察できる(
図5C参照)。
【0027】
(ナノファイバー製造装置及びナノファイバーの製造方法)
本発明のナノファイバー製造装置は、本発明のオリフィス構造体と、レーザー光照射手段と、延伸手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0028】
本発明のナノファイバーの製造方法は、レーザー光照射工程と、延伸工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0029】
本発明のナノファイバーの製造方法は、ナノファイバー製造装置により好適に実施することができ、レーザー光照射工程はレーザー光照射手段により行うことができ、延伸工程は延伸手段により行うことができ、その他の工程はその他の手段により行うことができる。
【0030】
本発明のナノファイバー製造装置及びナノファイバーの製造方法においては、繊維供給速度、レーザー光の出力、レーザー光の照射位置、及び延伸室の減圧度などの延伸条件を変えることにより、得られるナノファイバーの繊維径を調整することができる。
【0031】
<オリフィス構造体>
オリフィス構造体としては、本発明のオリフィス構造体を用いる。本発明のオリフィス構造体を用いることにより、気密性を向上させて減圧度を高くし、より速い気体流中で原繊維にレーザー光を照射することができる。
【0032】
オリフィス構造体は、延伸室に着脱可能に接続されることが好ましい。これにより、オリフィス構造体を延伸室から取り外しが可能となるため、メンテナンスが容易となる。
オリフィス構造体を延伸室に着脱可能に接続する手段としては、気密性を担保することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オリフィス構造体の接続部にフランジ部を形成し、該フランジ部にOリングを取り付けた状態で、接続部を延伸室に接続し、延伸室内を減圧すると、フランジ部と延伸室の間のOリングに大気圧がかかることにより、簡単な構造でありながら、気密性を向上させることができる。更に、延伸室の減圧状態を解除すれば、オリフィス構造体を容易に取り外すことができる。
【0033】
オリフィス構造体は、延伸室上に複数個並列配置されることがシートを作製する点から好ましい。複数のオリフィス構造体の中心にオリフィス部の先端の開孔(ノズル)を設けて1列に配置すると、レーザー光が重なり減衰してしまうので、オリフィス部の先端の開孔を偏心させて設けジグザクに配置することが好ましい。この場合、オリフィス構造体を回転することによりオリフィス部の先端の開孔の位置を自由に調整することができる。
【0034】
<レーザー光照射工程及びレーザー光照射手段>
レーザー光照射工程は、オリフィス構造体のオリフィス部から繰り出された原繊維に対して、レーザー光を照射する工程であり、レーザー光照射手段により実施される。
【0035】
レーザー光としては、10.6μmの波長の炭酸ガスレーザーと、1.06μmの波長のYAG(イットリウム、アルミニウム、ガーネット系)レーザーが好ましく、10.6μmの波長の炭酸ガスレーザーが特に好ましい。
レーザーは、放射範囲(光束)を小さく絞り込むことが可能であり、また、特定の波長に集中しているので、無駄なエネルギーも少ない。
炭酸ガスレーザーは、パワー密度が50W/cm2以上が好ましく、100W/cm2以上がより好ましく、180W/cm2以上が更に好ましい。狭い延伸領域に高パワー密度のエネルギーを集中することによって、超高倍率延伸が可能となるからである
レーザー光照射手段としては、例えば、炭酸ガスレーザー発振器などが挙げられる。
【0036】
<延伸工程及び延伸手段>
延伸工程は、レーザー光の照射により溶融した原繊維を、オリフィス構造体と延伸室との気圧差により延伸する工程であり、延伸手段により実施される。
【0037】
延伸手段としては、レーザー光照射により溶融した原繊維を、オリフィス構造体と延伸室との気圧差により延伸することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
原繊維供給手段より供給された原繊維は、更にオリフィス部を通して、オリフィス部中を原繊維の走行方向に流れる気体によって送られる。原繊維が原繊維供給手段を経てオリフィス部に送り込まれるまでは、P1気圧の雰囲気下で行われ、P1気圧下の状態に保たれている場所を接続部とする。
【0038】
オリフィス部の出口以降は、P2気圧下に保たれ、オリフィス部から出てきた原繊維をレーザー光によって加熱することによって延伸される延伸室となる。原繊維は、P1気圧の接続部とP2気圧下の延伸室との圧力差(P1-P2)によって生じるオリフィス部中を流れる空気の流れによってオリフィス部中を送られていく。P2が大気圧のときは、特に圧力を一定にする囲いは必要ないが、P2が加圧下や減圧下の場合は、その圧力を保つための囲い(部屋)が必要であり、加圧ポンプ又は減圧ポンプも必要となる。このとき、P1とP2の気圧の差は、P1>P2である。
【0039】
本発明においては、P2が減圧下(大気圧未満の圧力)で行われることが好ましい。そうすることにより、P1を大気圧で実施でき、装置を著しく簡便にでき、また、減圧は比較的簡便な手段であるからである。更に、オリフィス部からエアーが減圧下に噴出されることにより、通常存在する大気圧のエアーに邪魔されることがないので、噴出されるエアーも、それに伴う原繊維も非常に安定し、その結果、延伸性が安定し、ナノフィラメント領域までの延伸が可能になるものと思われる。また、通常、オリフィス部の先端孔(ノズル)から高速流体が噴出すると、ノズルの周りで多量の随伴流を伴うが、減圧下では、この随伴流も少なくなり、ノズルから出た原繊維の流れを乱さないために、安定した延伸を可能にするものと思われる。
【0040】
本発明におけるオリフィス構造体の接続部と延伸室は、オリフィス部によってつながっている。オリフィス部中では、原繊維とオリフィス内径との間の狭い隙間にP1>P2の圧力差で生じた高速気体の流れが生じる。
【0041】
本発明は、延伸が音速域で行われることが好ましく、延伸室での風速を、音速域にすることにより、延伸して得られた繊維径をナノメータ域までの極細フィラメントを得ることができる。
【0042】
オリフィス部から送り出されてきた原繊維は、オリフィス部の出口で、レーザー光によって加熱され、オリフィス部からの高速流体によって原繊維に与えられる張力によって、原繊維は延伸される。
オリフィス部の直下とは、赤外線光束の中心がオリフィス先端より30mm以下、好ましくは10mm以下、5mm以下であることが最も好ましい。オリフィス部から離れると、原繊維が振れ、定位置に収まらず、レーザー光に安定して捉えられないからである。またオリフィス部からの高速気体によって原繊維に与えられる張力が、オリフィス部から離れることによって弱くなり、また安定性も小さくなるからと思われる。
【0043】
<その他の工程及びその他の手段>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、原繊維供給工程、制御工程などが挙げられる。
その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、原繊維供給手段、制御手段などが挙げられる。
【0044】
-原繊維供給工程及び原繊維送出手段-
本発明において、原繊維供給手段から供給された原繊維について延伸が行われる。原線維供給手段は、ニップローラや数段の駆動ローラの組み合わせなどの一定の送出速度で原繊維を送り出すことができるものであれば種々のタイプのものが使用できる。また、一定長さの原繊維だけを延伸したい場合は、原繊維をチャックで把持し、一定速度で下降させてオリフィス部に供給してもよい。
【0045】
-制御工程及び制御手段-
制御工程は、各工程を制御する工程であり、制御手段により好適に行うことができる。
制御手段としては、各手段の動きを制御することができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シークエンサー、コンピュータ等の機器が挙げられる。
【0046】
ここで、本発明のナノファイバー製造装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、下記構成部材の数、位置、形状等は本実施形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0047】
<第一の実施形態のナノファイバー製造装置>
ここで、
図3は、本発明の第一の実施形態のナノファイバー製造装置の一例を示す図である。この
図3の第一の実施形態のナノファイバー製造装置200は、
図4Aに示すオリフィス構造体の第一の実施形態210を有し、レーザー光照射手段5、原繊維供給手段2、オリフィス部3、レーザー光透過窓を有する接続部6、延伸室4、及びパワーメーター7などから構成される。
この
図4Aに示すオリフィス構造体210は、オリフィス部3と接続部6とが一体化された1本の円筒形状である。
延伸室4はアクリル樹脂製である。
【0048】
原繊維1は、原繊維供給手段2としてのリールに巻かれた状態から繰り出され、一定速度で送り出され、オリフィス構造体210のオリフィス部3へと導かれる。ここまでの工程は、原繊維供給側は気圧P1に保たれている。
オリフィス部3出口以降は、P2気圧下にある接続部6を含む延伸室4となる。オリフィス部3を出た原繊維1は、原繊維供給側と延伸室4との気圧差P1-P2によってもたらされる高速エアーと共に、延伸室4内に導かれる。送り出された原繊維1は、オリフィス直下において、レーザー光照射装置5より、走行する原繊維1に対して、一定幅の加熱域にレーザー光Lが照射される。レーザー光Lの届く先には、レーザー光Lのパワーメーター7が設けれ、レーザーパワーを一定に調節されていることが好ましい。
レーザー光Lにより加熱され、P1-P2の気圧差によってもたらされる高速エアーが下方のフィラメントに与える張力により、原繊維1は延伸されて、延伸されたフィラメントとなって下降し、下方で綿状フィラメント13として集積される。
気圧P2は、真空ポンプ(図示されていない)へ導かれているバルブ10等で調整される。延伸室4にも、圧力計が設けられている。
【0049】
図4Aに示すオリフィス構造体210は、オリフィス3とZn-Se窓6とを一体化した構造である。そのため、閉鎖された気体流中で原繊維1にレーザー光Lを照射でき、気体流中での延伸張力を大きくすることが可能である。
図4Aに示すオリフィス構造体210を取り付けた延伸室4(容積30cm
3)は、1台の真空ポンプ(アルバック社製、200mL/min)を用いて4kPa以下まで減圧でき、真空まで1分間程度で到達可能であり、気密性に優れている。このように高い減圧度を実現できると、得られるナノファイバーの繊維径を細く形成することができる。
【0050】
次に、
図7及び
図8は、第一の実施形態のナノファイバー製造装置の写真を示す。この第一の実施形態のナノファイバー製造装置は、炭酸ガスレーザー照射手段、延伸室(真空ボックス)、パワーメーター、マイクロスコープ、及び原繊維供給手段などから構成される。
オリフィス構造体は、延伸室上部に開けた直径数十mmの穴にOリングを介して接続される。延伸室は、y軸(平行)ステージとz軸(垂直)フラットステージとを組み合わせた台座に設置されている。延伸室をy軸及びz軸方向に微動させることでレーザー光照射位置を1mm以下の精度で調整することができる。
【0051】
<第二の実施形態のナノファイバー製造装置>
第二の実施形態のナノファイバー製造装置は、
図4Aに示すオリフィス構造体210を、
図5Aに示すオリフィス構造体210に変えた以外は、第一の実施形態のナノファイバー製造装置と同様である。なお、第二の実施形態のナノファイバー製造装置において、既に説明した第一の実施形態のナノファイバー製造装置と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
図5Aに示すオリフィス構造体210を取り付けた延伸室4(容積30cm
3)は、1台の真空ポンプ(アルバック社製、200mL/min)を用いて4kPa以下まで減圧でき、真空まで1分間程度で到達可能であり、気密性に優れている。このように高い減圧度を実現できると、得られるナノファイバーの繊維径を細く形成することができる。
【0052】
<第三の実施形態のナノファイバー製造装置>
第三の実施形態のナノファイバー製造装置は、オリフィス構造体として
図6に示すようにオリフィス構造体210を複数個並べて配置した以外は、第一の実施形態のナノファイバー製造装置と同様である。なお、第三の実施形態のナノファイバー製造装置において、既に説明した第一の実施の形態のナノファイバー製造装置と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
図6に示すようにオリフィス構造体210を複数個並べて配置することにより、ナノファイバーの量産化にも対応でき、シートや不織布を製造することができ、炭酸ガスレーザー超音速延伸法の工業化にも適している。
図6に示すように、複数のオリフィス構造体210を、中心が一直線上となるように配置する。この際、オリフィス部3の先端の開孔3aを偏心させておき、オリフィス構造体210を回転することにより、オリフィス部3の先端の開孔3aの位置を自由に調整することができ、オリフィス部の先端の開孔3aをジグザクに配置することができるので、レーザー光の減衰を防止できる。
【0053】
<比較実施形態のナノファイバー製造装置>
図1は、
図2で示すオリフィス構造体110を有する比較実施形態のナノファイバー製造装置の一例を示す図である。なお、比較実施形態のナノファイバー製造装置100において、既に説明した第一の実施の形態のナノファイバー製造装置と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
図2に示すオリフィス構造体110を取り付けた延伸室4(容積(容積30cm
3)は、真空ポンプ(アルバック社製、200mL/min)を3台用いた場合でも到達できる減圧度は10kPa程度と低かった。このように減圧度が低いと得られるナノファイバーの繊維径を細く形成することは困難である。
【0054】
本発明のオリフィス構造体を備えたナノファイバー製造装置によると、炭酸ガスレーザー超音速延伸(CLSD)法において、延伸室内の気密性を上げて減圧度を高くすることができる。また、本発明のナノファイバーの製造方法によると、エレクトロスピニング(ES)法とほぼ同等の繊維径を有する安全性の高いナノファイバーを作製できることが可能となり、例えば、精密フィルター、セパレーター、細胞培養足場材、縫合糸、創傷被覆材、人工血管などの産業分野及び医療材料分野への利用が期待される。
【0055】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 原繊維を外部と気圧差を有する延伸室に導入し、前記原繊維にレーザー光を照射し延伸することによりナノファイバーを製造するナノファイバー製造装置に用いられるオリフィス構造体であって、
前記原繊維が供給されるオリフィス部と、
前記オリフィス部と流体流通可能に接続され、前記延伸室における前記オリフィス部側に配置され、前記レーザー光が透過するレーザー光透過窓を含む接続部と、
を有し、
前記オリフィス部の最大径が、前記レーザー光透過窓間の最大距離以上であることを特徴とするオリフィス構造体である。
<2> 前記オリフィス部と前記接続部とが一体化されている前記<1>に記載のオリフィス構造体である。
<3> 前記レーザー光透過窓が、ジンクセレン(Zn-Se)からなる前記<1>から<2>のいずれかに記載のオリフィス構造体である。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のオリフィス構造体と、
前記オリフィス構造体のオリフィス部から導入された原繊維に対し、レーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
レーザー光の照射により溶融した原繊維を、前記オリフィス構造体と延伸室との気圧差により延伸する延伸手段と、
を有することを特徴とするナノファイバー製造装置である。
<5> 前記オリフィス構造体が前記延伸室に着脱可能に接続される前記<4>に記載のナノファイバー製造装置である。
<6> 前記レーザー光が、炭酸ガスレーザー光である前記<4>から<5>のいずれかに記載のナノファイバー製造装置である。
<7> 前記オリフィス構造体が前記延伸室上に複数個並列配置される前記<4>から<6>のいずれかに記載のナノファイバー製造装置である。
<8> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のオリフィス構造体のオリフィス部から導入された原繊維に対し、レーザー光を照射するレーザー光照射工程と、
レーザー光の照射により溶融した原繊維を、前記オリフィス構造体と延伸室との気圧差により延伸する延伸工程と、
を含むことを特徴とするナノファイバーの製造方法である。
<9> 前記オリフィス構造体が前記延伸室に着脱可能に接続される前記<8>に記載のナノファイバーの製造方法である。
<10> 前記レーザー光が、炭酸ガスレーザー光である前記<8>から<9>のいずれかに記載のナノファイバー製造方法である。
<11> 前記オリフィス構造体が前記延伸室に複数個並列配置される前記<8>から<10>のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法である。
【0056】
前記<1>から<3>のいずれかに記載のオリフィス構造体、前記<4>から<7>のいずれかに記載のナノファイバー製造装置、及び前記<8>から<11>のいずれかに記載のナノファイバーの製造方法によると、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 原繊維
2 原繊維供給手段
3 オリフィス部
4 延伸室
5 レーザー光照射手段
6 接続部
10 真空ポンプ
12 観察窓
13 ナノファイバー
16 レーザー光透過窓
200 ナノファイバー製造装置
210 オリフィス構造体
L レーザー光