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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】無線電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/20 20160101AFI20220721BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20220721BHJP
   H02J 50/90 20160101ALI20220721BHJP
   H02J 50/80 20160101ALI20220721BHJP
【FI】
H02J50/20
H02J50/40
H02J50/90
H02J50/80
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018174545
(22)【出願日】2018-09-19
(65)【公開番号】P2020048316
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 4月20日発行 2018年電子情報通信学会 無線電力伝送研究会(WPT)信学技報、 vol.118、 no.17、 WPT2018-3、 pp.9-11、 2018年4月. 電子情報通信学会予稿集編集委員会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 4月27日開催 電子情報通信学会 無線電力伝送研究会(WPT) 東京機械振興会館B2F 1号室
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 6月3日開催 2018年 IEEE、IEEE MTT学会 WPTC2018大会 ポリテクニーク モントリオール(カナダ ケベック州 モントリオール)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 6月 6日発行 2018年IEEE,IEEE MTT学会 WPTC2018 大会講演予稿集,番号1570438467,IEEE WPTC2018学会予稿集編集委員会
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】袁 巧微
(72)【発明者】
【氏名】青木 拓海
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-200319(JP,A)
【文献】特表2011-523844(JP,A)
【文献】特開2016-123266(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143001(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0068549(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00-50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M個の送電素子Ti(1≦i≦M)と、N個の受電素子Rj(1≦j≦N)と、を備え、MおよびNのうち少なくとも一方は複数である無線電力伝送システムであって、
使用周波数f、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mに基づき、各送電素子Tiの自己インピーダンスを表わすM×Mの自己インピーダンス行列ZTTと、各受電素子Rjの自己インピーダンスを表わすN×Nの自己インピーダンス行列ZRRと、前記M個の送電素子Tiおよび前記N個の受電素子Rjの相互インピーダンスを表わすM×Nの相互インピーダンス行列ZTRと、前記N個の受電素子Rjおよび前記M個の送電素子Tiの相互インピーダンスを表わすN×Mの相互インピーダンス行列ZRTと、を定める第1演算処理要素と、
前記第1演算処理要素により定められた4つのインピーダンス行列ZTT,ZRR,ZTR,ZRTに基づき、前記M個の送電素子から前記N個の受電素子に対する電力伝送効率ηが、関係式(1)で表わされるレイリー商として定義されているモデルにしたがって、関係式(2)で表わされる固有値問題の解としてM+N個の固有値λおよび最大固有値λmaxを求める第2演算処理要素と、
前記第1演算処理要素に対して出力される前記使用周波数f、前記各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、前記各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mのうち、未知である指定因子をさまざまに変更することにより、前記第2演算処理要素により求められた最大固有値λmaxを最大化するまたは閾値以上にするような前記指定因子の解を探索する第3演算処理要素と、を備えていることを特徴とする無線電力伝送システム。
【数1】
(「H」は複素共役転置行列、「T」は転置行列、「*」は複素共役行列を表わす。)
【数2】
【請求項2】
請求項1記載の無線電力伝送システムにおいて、
前記第3演算処理要素が、前記指定因子として、前記N個の受電素子Rjのうち少なくとも1つの受電素子Ruの位置pu+Mおよび姿勢qu+Mのうち少なくとも一方を前記指定因子として前記解を探索することを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項3】
請求項2記載の無線電力伝送システムにおいて、
前記第3演算処理要素により探索された解に関する指定情報を、前記少なくとも1つの受電素子Ruを構成要素とする端末装置に対して送信する通信装置をさらに備えていることを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項4】
請求項3記載の無線電力伝送システムにおいて、
前記第3演算処理要素が、前記指定因子として、前記少なくとも1つの受電素子Ruの位置pu+Mを前記指定因子として前記解を探索し、相互に区分されている複数の実空間領域のうち、前記解としての前記少なくとも1つの受電素子Ruの位置pu+Mが含まれる一の実空間領域を示す情報を前記指定情報として生成することを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項5】
請求項1~4のうちいずれか1つに記載の無線電力伝送システムにおいて、
前記第3演算処理要素が、前記第2演算処理要素により求められた最大固有値に対応する固有ベクトルにより表わされる、前記各送電素子Tiおよび前記各受電素子Rjのいずれかの電流が所定の範囲から逸脱している場合、当該最大固有値に対応する前記指定因子を前記解から除外することを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項6】
M個の送電素子Ti(1≦i≦M)と、N個の受電素子Rj(1≦j≦N)と、を備え、MおよびNのうち少なくとも一方は複数である無線電力伝送システムであって、
使用周波数f、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mに基づき、各送電素子Tiから信号を出力した際に各送電素子Tiに反射する信号、または各送電素子Tiから信号を出力した際に他の送電素子Ti1に通過する信号を表わすM×Mの行列STTと、各受電素子Rjから信号を出力した際に各受電素子Rjに反射する信号、または各受電素子Rから信号を出力した際に他の受電素子Rj1に通過する信号を表わすN×Nの行列SRRと、M個の送電素子Tiから信号を出力した際にN個の受電素子Rjに通過する信号を表わすM×Nの行列STRと、N個の受電素子Rjから信号を出力した際にM個の送電素子Tiに通過する信号を表わすN×Mの行列SRTと、を定める第1演算処理要素と、
前記第1演算処理要素により定められた4つの行列STT,SRR,STR,SRTに基づき、前記M個の送電素子から前記N個の受電素子に対する電力伝送効率ηが、各送電素子Tiへの入射波aTi、各受電素子Rjへの入射波aRj、各送電素子Tiによる反射波bTiおよび各受電素子Rjによる反射波bRjを用いて関係式(3)で表わされるレイリー商として定義されているモデルにしたがって、関係式(4)で表わされる固有値問題の解としてM+N個の固有値λおよび最大固有値λmaxを求める第2演算処理要素と、
前記第1演算処理要素に対して出力される前記使用周波数f、前記各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、前記各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mのうち、未知である指定因子をさまざまに変更することにより、前記第2演算処理要素により求められた最大固有値λmaxを最大化するまたは閾値以上にするような前記指定因子の解を探索する第3演算処理要素と、を備えていることを特徴とする無線電力伝送システム。
【数3】
(「H」は複素共役転置行列、「T」は転置行列、「*」は複素共役行列を表わす。)
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線電力伝送技術に関する。
【背景技術】
【0002】
送電素子および受電素子の間の無線方式の電力伝送効率の最大化を図る技術が提案されている(非特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Q. Chen, et al., “Antenna characterization for wireless power transmission system using near-field coupling,” IEEE Antennas Propag. Mag., vol.54, no.4, pp.108-116, Aug, 2012
【文献】Q. Chen and Q. Yuan, “Antennas in wireless charging systems,” in Hanbook of Antenna Technologies, Springer Singapore, Aug. 2015 R1-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、無線電力伝送システムの利便性向上の観点からは、一対一ではなく、一対複数、複数対一または複数対複数という組み合わせの送電素子と受電素子との間の無線方式の電力伝送効率の最大化を図ることが必要である。
【0005】
そこで、本発明は、一対複数、複数対一または複数対複数という組み合わせの送電素子と受電素子との間の無線電力伝送の効率の向上を図りうるシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様の無線電力伝送システムは、M個の送電素子Ti(1≦i≦M)と、N個の受電素子Rj(1≦j≦N)と、を備え、MおよびNのうち少なくとも一方は複数である無線電力伝送システムであって、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mに基づき、各送電素子Tiの自己インピーダンスを表わすM×Mの自己インピーダンス行列ZTTと、各受電素子Rjの自己インピーダンスを表わすN×Nの自己インピーダンス行列ZRRと、前記M個の送電素子Tiおよび前記N個の受電素子Rjの相互インピーダンスを表わすM×Nの相互インピーダンス行列ZTRと、前記N個の受電素子Rjおよび前記M個の送電素子Tiの相互インピーダンスを表わすN×Mの相互インピーダンス行列ZRTと、を定める第1演算処理要素と、前記第1演算処理要素により定められた4つのインピーダンス行列ZTT,ZRR,ZTR,ZRTに基づき、前記M個の送電素子から前記N個の受電素子に対する電力伝送効率ηが、関係式(1)で表わされるレイリー商として定義されているモデルにしたがって、関係式(2)で表わされる固有値問題の解としてM+N個の固有値λおよび最大固有値λmaxを求める第2演算処理要素と、前記第1演算処理要素に対して出力される前記各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、前記各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mのうち、未知である指定因子をさまざまに変更することにより、前記第2演算処理要素により求められた最大固有値λmaxを最大化するまたは閾値以上にするような前記指定因子の解を探索する第3演算処理要素と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
【数1】
(「H」は複素共役転置行列、「T」は転置行列、「*」は複素共役行列を表わす。)
【0008】
【数2】
【0009】
本発明の第2態様の無線電力伝送システムは、M個の送電素子Ti(1≦i≦M)と、N個の受電素子Rj(1≦j≦N)と、を備え、MおよびNのうち少なくとも一方は複数である無線電力伝送システムであって、使用周波数f、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mに基づき、各送電素子Tiから信号を出力した際に各送電素子Tiに反射する信号、または各送電素子Tiから信号を出力した際に他の送電素子Ti1に通過する信号を表わすM×Mの行列STTと、各受電素子Rjから信号を出力した際に各受電素子Rjに反射する信号、または各受電素子Rから信号を出力した際に他の受電素子Rj1に通過する信号を表わすN×Nの行列SRRと、M個の送電素子Tiから信号を出力した際にN個の受電素子Rjに通過する信号を表わすM×Nの行列STRと、N個の受電素子Rjから信号を出力した際にM個の送電素子Tiに通過する信号を表わすN×Mの行列SRTと、を定める第1演算処理要素と、前記第1演算処理要素により定められた4つの行列STT,SRR,STR,SRTに基づき、前記M個の送電素子から前記N個の受電素子に対する電力伝送効率ηが、各送電素子Tiへの入射波aTi、各受電素子Rへの入射波aRj、各送電素子Tiによる反射波bTiおよび各受電素子Rによる反射波bRjを用いて関係式(3)で表わされるレイリー商として定義されているモデルにしたがって、関係式(4)で表わされる固有値問題の解としてM+N個の固有値λおよび最大固有値λmaxを求める第2演算処理要素と、前記第1演算処理要素に対して出力される前記使用周波数f、前記各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、前記各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mのうち、未知である指定因子をさまざまに変更することにより、前記第2演算処理要素により求められた最大固有値λmaxを最大化するまたは閾値以上にするような前記指定因子の解を探索する第3演算処理要素と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
【数3】
(「H」は複素共役転置行列、「T」は転置行列、「*」は複素共役行列を表わす。)
【0011】
【数4】
【発明の効果】
【0012】
本発明の無線電力伝送システムによれば、使用周波数f、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mのうち、未知である指定因子がさまざまに変更される。これにより、固有値問題の解としての最大固有値λmaxを最大化するまたは閾値以上にするように指定因子の解が探索される。これにより、一対複数(Mが単数である一方でNが複数である場合)、複数対一(Mが複数である一方でNが単数である場合)または複数対複数(MおよびNがともに複数である場合)という組み合わせの送電素子と受電素子との間の無線電力伝送の効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態としての無線電力伝送システムの構成説明図。
図2】Z行列の算出方法の一例に関する説明図。
図3】探索解および当該探索解が含まれる複数の実空間領域の例示図。
図4】探索解に関する指定情報の出力形態に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(構成(第1実施形態))
図1に示されている本発明の一実施形態としての無線電力伝送システムは、M個の送電素子T1,T2,‥TMと、N個の受電素子R1,R2,‥RNと、サーバ100と、を備えている。「M」および「N」のうち少なくとも一方は複数である。各送電素子Ti(i=1,2,‥M)は、例えば、形状特性因子として円周ciを有する円環状導線であると疑似される。各送電素子Tiの位置piは当該円環の中心位置の3次元ベクトルにより表わされ、各送電素子Tiの姿勢qiは当該円環が存在する平面の平面ベクトルにより表わされる。各送電素子Tiには、当該各送電素子Tiに電力を供給し、かつ、当該電力(電流)を制御するための給電ドライバ(図示略)が設けられている。
【0015】
各受電素子Rj(j=1,2,‥N)は、形状特性因子として円周cj+Mを有する円環状導線であると疑似される。各受電素子Rjの位置pj+Mは当該円環の中心位置の3次元ベクトルにより表わされ、各受電素子Rjの姿勢qj+Mは当該円環が存在する平面の平面ベクトルにより表わされる。各送電素子Tiには、当該各送電素子Tiに電力を供給し、かつ、当該電力(電流)を制御するための給電ドライバ(図示略)が設けられている。
【0016】
サーバ100は、記憶装置102と、通信装置104と、第1演算処理要素110と、第1演算処理要素120と、第3演算処理要素130と、を備えている。
【0017】
記憶装置102は、第1演算処理要素110、第1演算処理要素120および第3演算処理要素130のそれぞれの演算処理結果などに関するデータのほか、当該演算処理に必要なソフトウェアを記憶保持している。通信装置104は、指定情報を端末装置に送信する。
【0018】
第1演算処理要素110、第1演算処理要素120および第3演算処理要素130のそれぞれは、共通のまたは別個の複数のCPU(マルチコアプロセッサまたはシングルコアプロセッサなど)により構成され、割り当てられた演算処理を実行するように構成されている。すなわち、第1演算処理要素110、第1演算処理要素120および第3演算処理要素130のそれぞれを構成する演算処理装置が、記憶装置102を構成するメモリ等の種々のメモリから必要なデータおよびソフトウェアを読み取り、当該データを対象として当該ソフトウェアにしたがった演算処理を実行するようにプログラムされているまたは設計されている。
【0019】
第1演算処理要素110は、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mに基づき、各送電素子Tiの自己インピーダンスを表わすM×Mの自己インピーダンス行列ZTTと、各受電素子Rjの自己インピーダンスを表わすN×Nの自己インピーダンス行列ZRRと、M個の送電素子TiおよびN個の受電素子Rjの相互インピーダンスを表わすM×Nの相互インピーダンス行列ZTRと、N個の受電素子RjおよびM個の送電素子Tiの相互インピーダンスを表わすN×Mの相互インピーダンス行列ZRTと、を定める。〇×●の行列とは、〇行●列の行列を意味する。
【0020】
TTは使用周波数f、各送電素子Tiの形状特性因子ciと送電素子間の配置の関数にしたがって定められる。ZRRは使用周波数f、各受電素子Rjの形状特性因子cj+Mの関数にしたがって定められる。ZTRおよびZRTのそれぞれは、使用周波数f、ck、pkおよびqk(k=1,2,‥M,M+1,M+2,‥M+N)の関数にしたがって定められる。
【0021】
第2演算処理要素120は、第1演算処理要素110により定められた4つのインピーダンス行列ZTT,ZRR,ZTR,ZRTに基づき、M個の送電素子TiからN個の受電素子Rjに対する電力伝送効率ηが、関係式(1)で表わされるレイリー商として定義されているモデルにしたがって、関係式(2)で表わされる固有値問題の解としてM+N個の固有値λおよび最大固有値λmaxを求める。
【0022】
【数5】
(「H」は複素共役転置行列、「T」は転置行列、「*」は複素共役行列を表わす。)
【0023】
【数6】
【0024】
関係式(2)の左辺および右辺のそれぞれの行列はエルミート行列である。関係式(1)により表現される電力伝送効率ηは一般化されたレイリー商(Generalized Rayleigh quotient)であり、最大値ηmaxを有する。最大レイリー商は、関係式(2)で表わされる一般化された固有値問題の最大固有値と同等である。
【0025】
ここで、関係式(1)に関して導出過程を説明する。M個の送電素子のそれぞれの電圧を成分とするM次元の送電電圧ベクトルVT、M個の送電素子のそれぞれの電流を成分とするM次元の送電電流ベクトルIT、N個の受電素子のそれぞれの電圧を成分とするN次元の受電電圧ベクトルVR、および、N個の受電素子のそれぞれの電流を成分とするN次元の受電電流ベクトルIRの関係は関係式(5)および(6)により表現される。
【0026】
【数7】
【0027】
【数8】
【0028】
電力伝送効率ηは、入力電力Pinに対する出力電圧Poutの比率として関係式(7)にしたがって定義される。
【0029】
【数9】
【0030】
入力電力Pinおよび出力電圧Poutのそれぞれは、関係式(8)および(9)のそれぞれにより表現される。
【0031】
【数10】
【0032】
【数11】
【0033】
電力伝送効率ηは、関係式(7)~(9)をまとめて得られる関係式(10)により表現される。
【0034】
【数12】
【0035】
ここで、RRRはN×Nの自己インピーダンス行列の実部を要素とするN×Nの抵抗行列を表わす。RTTはM×Mの自己インピーダンス行列の実部を要素とするM×Mの抵抗行列を表わす。関係式(10)が変形されることにより、関係式(1)が得られる。
【0036】
第3演算処理要素130は、第1演算処理要素110に対して出力される各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mのうち、未知である指定因子をさまざまに変更することにより、第2演算処理要素120により求められた最大固有値λmaxを最大化するまたは閾値以上にするような指定因子の解を探索する。第3演算処理要素130は、第2演算処理要素120により求められた最大固有値λmaxに対応する固有ベクトルにより表わされる、各送電素子Tiおよび各受電素子Rjのいずれかの電流I=IT,IR Tが所定の範囲から逸脱している場合、当該最大固有値に対応する指定因子を解から除外する。
【0037】
(機能(第1実施形態))
例えば、図1に示されているように、ある設備に複数の送電素子Ti(i=1,2,‥M)が設置され、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qiのほか、電流Iiおよび電圧Viが既知である状態で、当該設備に形状特性因子ci+Mを有する受電素子Rjを構成要素とするスマートホンXj(またはタブレット端末等も含む携帯端末)が持ち込まれる場合について考える。当該既知の因子は、記憶装置102に記憶保持されている。
【0038】
この場合、設備に設置されているサーバ100の通信装置104とスマートホンXjとの無線通信(例えばWi-Fi通信(「Wi-Fi」は登録商標))により、スマートホンXjが有する受電素子Rjの少なくとも形状特性因子cj+Mが(必要に応じて、電流Ij+Mおよび電圧Vj+Mも)サーバ100の第1演算処理要素110により認識される。その上で、電力伝送効率ηをその最大値ηmaxに至らせるため、未知である受電素子Rjの位置pjおよび姿勢qjが、指定因子としてサーバ100を構成する第3演算処理要素130により、最大電力伝送効率ηmaxを最大化するまたは閾値以上とするような当該指定因子の解が探索される。
【0039】
具体的には、第3演算処理要素130により、指定因子である受電素子Rjの位置pjおよび姿勢qjが仮決定される。例えば、図3に示されているように、複数の送電素子Tiによる無線電力伝送の対象領域を構成する複数の実空間領域S1~S7が存在する場合、当該複数の実空間領域S1~S7のいずれかに含まれるように受電素子Rjの位置pjが仮決定される。複数の実空間領域は、鳥観図のように2次元領域として定義されてもよく、高さも含む3次元領域として定義されてもよい。
【0040】
受電素子Rjの実空間における位置pjは、計算量低減のため、例えば、0.05m、0.10m、0.20m、0.50m、1mまたは2mなど、離散的な座標値(緯度および経度、または、緯度、経度および高度)によって定義される。受電素子Rjの実空間における姿勢qjは、例えば、5°、10°または15°など、離散的な角度(仰角および方位角、またはオイラー角)によって定義される。
【0041】
続いて、既知の因子(送受電に用いられる電磁波の周波数f、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qiのほか、電流Iiおよび電圧Vi、ならびに、スマートホンXjが有する受電素子Rjの少なくとも形状特性因子cj+M、電流Ij+Mおよび電圧Vj+M)と、仮決定された未知の因子(受電素子Rjの位置pjおよび姿勢qj)と、に基づき、第1演算処理要素110により、前記4つのインピーダンス行列ZTT,ZRR,ZTR,ZRTが定められる(関係式(3)および(4)参照)。
【0042】
そして、第2演算処理要素120により、第1演算処理要素110により定められた4つのインピーダンス行列ZTT,ZRR,ZTR,ZRTに基づき、M個Tiの送電素子から受電素子Rjに対する電力伝送効率ηが、関係式(1)で表わされるレイリー商として定義されているモデルにしたがって、関係式(2)で表わされる固有値問題の解として固有値λおよび最大固有値λmaxが求められる。
【0043】
その後、第3演算処理要素130による指定因子(受電素子Rjの位置pjおよび姿勢qj)の仮決定、第1演算処理要素110による4つのインピーダンス行列ZTT,ZRR,ZTR,ZRTの設定、および、第2演算処理要素120による最大固有値λmaxの導出が繰り返される。当該繰り返しの過程で最大固有値λmaxが徐々に増大するように指定因子の仮決定が繰り返される。例えば、最大固有値λmaxの指定回数にわたる増加率が所定値以下になった場合、最大固有値λmaxが最大化されたとみなして、その際の最大固有値λmaxの基礎として仮決定された指定因子が解として求められてもよい。最大固有値λmaxが閾値以上になった場合、その際の最大固有値λmaxの基礎として仮決定された指定因子が解として求められてもよい。
【0044】
ここで、最大電力伝送効率ηmaxの最大化または閾値以上の値を実現する探索解としての受電素子Rjの位置pjが、第4実空間領域S4に包含されている場合を考える。この場合、第3演算処理要素130により、設備の間取りを示す地図に重畳させて、当該設備のうち第4実空間領域S4にいけば、スマートホンXjに搭載されているバッテリの充電が円滑に行われる旨のメッセージを含む指定情報が生成される。サーバ100の通信装置104により、指定情報がスマートホンXjに送信され、これに応じて当該スマートホンXjの出力装置(ディスプレイ装置)に図4に示されているように当該メッセージが表示される。これにより、スマートホンXjのユーザを、第4実空間領域S4に配置されている席に誘導することが可能になる。
【0045】
(構成(第2実施形態))
本発明の第2実施形態としての無線電力伝送システムは、第1演算処理要素110、第2演算処理要素120および第3演算処理要素130のそれぞれの機能が第1実施形態とは相違している。
【0046】
第1演算処理要素110は、使用周波数f、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mに基づき、散乱行列Sを定める。
【0047】
(M+N)行×(M+N)列のインピーダンス行列Zは、(M+N)行×(M+N)列の散乱行列Sを用いて、関係式(11)にしたがって表現される。
【0048】
【数13】
【0049】
関係式(11)において「STT」は、各送電素子Tiから信号を出力した際に各送電素子Tiに反射する信号、または各送電素子Tiから信号を出力した際に他の送電素子Ti1に通過する信号を表わすM×Mの行列である。「SRR」は、各受電素子Rjから信号を出力した際に各受電素子Rjに反射する信号、または各受電素子Rから信号を出力した際に他の受電素子Rj1に通過する信号を表わすN×Nの行列である。「STR」は、M個の送電素子Tiから信号を出力した際にN個の受電素子Rjに通過する信号を表わすM×Nの行列である。「SRT」は、N個の受電素子Rjから信号を出力した際にM個の送電素子Tiに通過する信号を表わすN×Mの行列である。
【0050】
第2演算処理要素120は、第1演算処理要素110により定められた4つの行列STT,SRR,STR,SRTに基づき、M個の送電素子TiからN個の受電素子Rjに対する電力伝送効率ηが、各送電素子Tiへの入射波aTi、各受電素子Rへの入射波aRj、各送電素子Tiによる反射波bTiおよび各受電素子Rによる反射波bRjを用いて関係式(3)で表わされるレイリー商として定義されているモデルにしたがって、関係式(4)で表わされる固有値問題の解としてM+N個の固有値λおよび最大固有値λmaxを求める。
【0051】
関係式(3)により表現される電力伝送効率ηは一般化されたレイリー商であり、最大値ηmaxを有する。
【0052】
【数14】
(「H」は複素共役転置行列、「T」は転置行列、「*」は複素共役行列を表わす。)
【0053】
【数15】
【0054】
第3演算処理要素130は、第1演算処理要素110に対して出力される使用周波数f、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、各受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+Mおよび姿勢qj+Mのうち、未知である指定因子をさまざまに変更することにより、第2演算処理要素120により求められた最大固有値λmaxを最大化するまたは閾値以上にするような指定因子の解を探索する。
【0055】
ここで、図2に示されているように、一の平面に含まれる円環状の2つの受電素子R1およびR2のそれぞれと、当該一の平面に対して平行な他の平面に含まれる円環状の2つの送電素子T1およびT2のそれぞれとが対向して配置されている状況を一例として考察する。送電素子T1およびT2のそれぞれの中心の間隔、ならびに、受電素子R1およびR2のそれぞれの中心間隔はともに10mに設定された。送電素子T1およびT2、ならびに、受電素子R1およびR2のそれぞれの周長は、周波数f=2MHzの電磁波の0.1波長(~15m)に設定された。
【0056】
この場合、散乱行列Sは電磁界解析シミュレータにより関係式(12)のように正確に算出される。
【0057】
【数16】
【0058】
ここで、散乱行列Sの各要素は|sij|arg(sij)の形で複素表現されており、例えばS11について「8.48‥E-01」が複素数の絶対値|sij|に相当し、「∠-179.561」が偏角arg|sij|に相当する。
【0059】
また[Z]行列のデータは式(11)を用いて(13)の[S]行列から計算することができる。更に上記図2に示すモデルの[S]行列データは4ポートネットワークアナライザーを用いて測定から取得も可能である。測定器及び大半の電磁界解析シミュレータが[S]行列に関するデータをしか提供していない観点から、[S]行列を用いた効率の計算がより簡潔的に尚且つ実用的なものと考えられる。
【0060】
(機能(第2実施形態))
前記構成の無線電力伝送システムによれば、第1実施形態と同様に、第3演算処理要素130による指定因子(受電素子Rjの位置pjおよび姿勢qj)の仮決定、第1演算処理要素110による4つの行列STT,SRR,STR,SRTの設定、および、第2演算処理要素120による最大固有値λmaxの導出が繰り返される。当該繰り返しの過程で最大固有値λmaxが徐々に増大するように指定因子の仮決定が繰り返される。
【0061】
前記のように、最大電力伝送効率ηmaxの最大化または閾値以上の値を実現する探索解としての受電素子Rjの位置pjが、第4実空間領域S4に包含されている場合、第3演算処理要素130により、設備の間取りを示す地図に重畳させて、当該設備のうち第4実空間領域S4にいけば、スマートホンXjに搭載されているバッテリの充電が円滑に行われる旨のメッセージを含む指定情報が生成される。サーバ100の通信装置104により、指定情報がスマートホンXjに送信され、これに応じて当該スマートホンXjの出力装置(ディスプレイ装置)に図4に示されているように当該メッセージが表示される。これにより、スマートホンXjのユーザを、第4実空間領域S4に配置されている席に誘導することが可能になる。
【0062】
(本発明の他の実施形態)
前記実施形態では、指定因子として受電素子Rjの位置pjおよび姿勢qjが繰り返し変更されることにより、電力伝送効率ηの最大値ηmaxを実現するまたは閾値以上の値を実現するような解が探索されたが、その他の因子が未知の指定因子としてその解が探索されてもよい。
【0063】
例えば、各送電素子Tiの電流Iiおよび電圧Viが指定因子として未知であり、その他の因子(送受信に用いられる信号(電磁波)の周波数f、各送電素子Tiの形状特性因子ci、位置piおよび姿勢qi、ならびに、スマートホンXjが有する受電素子Rjの形状特性因子cj+M、位置pj+M、姿勢qj+M、電流Ij+Mおよび電圧Vj+M)が既知である状態で、電力伝送効率ηの最大値ηmaxを実現するまたは閾値以上の値を実現するような解が探索されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
100‥サーバ、102‥記憶装置、104‥通信装置、110‥第1演算処理要素、120‥第2演算処理要素、130‥第3演算処理要素、Rj‥受電素子、Ti‥送信素子、Xj‥スマートホン(端末装置)。
図1
図2
図3
図4