(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】積層鋼板の製造方法、積層鋼板、モータおよび積層鋼板用接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20220721BHJP
【FI】
H02K15/02 F
(21)【出願番号】P 2019519596
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2018018912
(87)【国際公開番号】W WO2018216565
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2017101758
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】楠山 亜紀
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-334648(JP,A)
【文献】特開2007-217484(JP,A)
【文献】特開2000-152570(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0132256(US,A1)
【文献】特開2002-078257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H01F 41/02
H01F 27/25
B21D 28/02
C09J 5/00
C09J 4/02
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状鋼板の片面または両面に対して、オイルと積層鋼板用接着剤組成物とを含む混合物を塗布する工程1、およびプレス成形装置のパンチ部により前記帯状鋼板から鋼板体を打ち抜き、前記鋼板体を積層接着する工程2を含む、積層鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記接着剤組成物が、(メタ)アクリレート化合物の少なくとも1種と有機過酸化物とを含む、請求項1に記載の積層鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記(メタ)アクリレート化合物が、オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物の少なくとも1種を含む、請求項2に記載の積層鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリレート化合物が、脂肪族(メタ)アクリレートおよび脂環式(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項2または3に記載の積層鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記混合物は、前記接着剤組成物100質量部に対してオイル3~100質量部を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記接着剤組成物は、加熱で硬化することができる接着剤組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記積層鋼板が、モータのローターまたはステーター用である、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層鋼板の製造方法、積層鋼板、モータおよび積層鋼板用接着剤組成物(以下、単に接着剤組成物とも称する)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、モータは携帯電話の振動、カメラのフォーカス調整、ハードディスクの駆動、自動車の駆動など多岐にわたり利用されている。モータのローターやステーターは、電磁鋼板を何枚も積層してつくられた積層鋼板により構成されている。積層鋼板は、カシメにより積層されるのが一般的である。しかし、モータの小型化に伴い積層鋼板のさらなる極薄板化のニーズが増しており機械締結による応力集中・歪み集中が問題になっていた。そのような経緯から応力を面で分散できる手法として積層接着が注目されている。
【0003】
特開2001-321850号公報には、帯状鋼板の表面に接着剤を塗布し、プレス成型機によって打抜きと同時に電磁鋼板を積層させた積層接着体の製造方法が開示されている。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特開2001-321850号公報の積層接着法では、帯状鋼板に塗布されたパンチングオイルを除去した後に、接着剤を塗布する必要があるため工程が複雑化してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の状況に鑑みてされたものであり、接着剤の接着力を損なうことなく製造工程の簡略化が可能である積層鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明は以下の要旨を有するものである。
【0007】
[1]帯状鋼板の片面または両面に対して、オイルと積層鋼板用接着剤組成物とを含む混合物を塗布する工程1、およびプレス成形装置のパンチ部により前記帯状鋼板から鋼板体を打ち抜き、前記鋼板体を積層接着する工程2を含む、積層鋼板の製造方法。
【0008】
[2]前記接着剤組成物が、(メタ)アクリレート化合物の少なくとも1種と有機過酸化物とを含む、[1]に記載の積層鋼板の製造方法。
【0009】
[3]前記(メタ)アクリレート化合物が、オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物の少なくとも1種を含む、[2]に記載の積層鋼板の製造方法。
【0010】
[4]前記(メタ)アクリレート化合物が、脂肪族(メタ)アクリレートおよび脂環式(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、[2]または[3]に記載の積層鋼板の製造方法。
【0011】
[5]前記混合物は、前記接着剤組成物100質量部に対してオイル3~100質量部を含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の積層鋼板の製造方法。
【0012】
[6]前記接着剤組成物は、加熱で硬化することができる接着剤組成物である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の積層鋼板の製造方法。
【0013】
[7]前記積層鋼板が、モータのローターまたはステーター用である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の積層鋼板の製造方法。
【0014】
[8]前記[1]~[7]のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた積層鋼板。
【0015】
[9]前記[8]に記載の積層鋼板を用いたモータ。
【0016】
[10]積層鋼板の製造方法に用いられる積層鋼板用接着剤組成物であって、
前記積層鋼板の製造方法は、
帯状鋼板の片面または両面に対して、オイルと前記積層鋼板用接着剤組成物を含む混合物を塗布する工程1、および
プレス成形装置のパンチ部により帯状鋼板から鋼板体を打ち抜き、前記鋼板体を積層接着する工程2、
を含み、
前記積層鋼板用接着剤組成物が(メタ)アクリレート化合物を含む、積層鋼板用接着剤組成物。
【0017】
[11]前記接着剤組成物が、有機過酸化物をさらに含む、[10]に記載の積層鋼板用接着剤組成物。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る積層鋼板の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に発明の詳細を説明する。
図1は実施形態に係る積層鋼板の製造装置の概略図である。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。
【0020】
本発明に係る積層鋼板の製造方法は、帯状鋼板の片面または両面に対して、オイルと積層鋼板用接着剤組成物とを含む混合物を塗布する工程1、およびプレス成形装置のパンチ部により前記帯状鋼板から鋼板体を打ち抜き、前記鋼板体を積層接着する工程2を含む。かかる構成を有する本発明の製造方法は、接着剤の接着力を損なうことなく製造工程の簡略化が可能となる。本発明の製造方法においては、オイルと接着剤組成物とが分離することなく混合物の形態で同時に塗布でき、オイルの性能と接着剤組成物の性能との両方が有効に発揮されうる。
【0021】
以下、本発明の積層鋼板の製造方法に用いられる製造装置、当該製造方法の各工程、当該製造方法によって得られた積層鋼板とこれを用いたモータ、及び当該製造方法に用いられる積層鋼板用接着剤組成物につき、詳しく説明する。
【0022】
<積層鋼板の製造装置>
図1に示すように、積層鋼板の製造装置1は、帯状鋼板2をプレス成形装置4方向へ送り出すロール装置3と、帯状鋼板2にオイルと接着剤組成物との混合物を塗布する塗布装置5とプレス成形装置4から構成されるものである。前記プレス成形装置4は、帯状鋼板2から鋼板体のスロットや内径などの部分を打ち抜く加工を施すための打ち抜きパンチ部7と、帯状鋼板2から鋼板体の外径部分を打ち抜きプレスするためのプレス加工用パンチ部9と、プレス加工用パンチ部9の直下に設けられ、打ち抜きプレスされた鋼板体が所定枚数になるまで積層接着して収納保持するための積層鋼板の収納保持穴6と、プレス成形装置の底部11とから構成される。帯状鋼板2の厚さは、打ち抜き加工性の観点から0.05~5.0mmの範囲が好ましく、より好ましくは0.1~3mmである。
【0023】
本発明においてパンチ部とは、帯状鋼板2の打ち抜きとプレス加工を施し積層させる働きをするものである。打ち抜きとプレス加工は、同一のパンチ部材で行ってもよいし、2以上のパンチ部材を用いて行っても良い。
図1に示す積層鋼板の製造装置1の場合、打ち抜きパンチ部7は帯状鋼板2から鋼板体のスロットや内径などの部分を打ち抜く働きをし、プレス加工用パンチ部9は、帯状鋼板2から鋼板体の外径打ち抜きだけでなくプレス加工を施している。
【0024】
<製造工程>
積層鋼板の製造工程は、
図1に示すように、プレス成形装置4方向へ送り出すロール装置3から供給された帯状鋼板2に対して、片面または両面に塗布装置5によりオイルと接着剤組成物との混合物を塗布する工程1と、プレス成形装置4内で打ち抜きパンチ部7により打抜き加工を施した後に、帯状鋼板2はプレス加圧用パンチ9により打ち抜きが行われ、鋼板体が収納保持穴6内で、既に積層されている鋼板体(所定枚数に未達の積層鋼板)の上に順次積み重ね(積層接着して)収納させる工程2とを含む。前述の通り、パンチングオイルと接着剤組成物とを同時に塗布できるため製造工程の簡略化可能となる。なお、帯状鋼板の両面にオイルと接着剤組成物との混合物を塗布する場合には、
図1の塗布装置5を帯状鋼板2の上面と下面の両方に設置してもよい。また、帯状鋼板2に接触する各パンチ部7、9の表面には、帯状鋼板2表面に塗布されたオイルと接着剤組成物との混合物が付着するのを防止するための表面処理加工が施されていてもよい。帯状鋼板の両面にオイルと接着剤組成物との混合物を塗布する場合、少なくとも帯状鋼板2と接触する搬送ライン部分に、上記と同様の表面処理加工が施されていてもよい。
【0025】
工程2の鋼板体の積層方法は、プレス成形装置の底部11上に、未載置または既に1枚載置されている若しくは複数枚積層されている鋼板体の上にプレス加圧用パンチ9のプレス圧によって鋼板体を押しつける方法であってもよく、または鋼板体を押しつけず乗せるだけの方法であってもよい。また、プレス成形装置の底部11上に、未載置または既に1枚載置されている若しくは複数枚積層されている鋼板体の上に打ち抜かれた鋼板体をすぐに積層してもよく、所定の時間をおいてから積層してもよい。既に1枚載置されている若しくは複数枚積層されている鋼板体とは、パンチ9のプレス圧によって鋼板体を押しつける、または押しつけず乗せる操作が1回又は複数回行われて得られる積層体を意味する。前記積層接着とは接着剤組成物を硬化または乾燥することで積層体を得ることを意味する。工程2では、パンチ部9の直下に設けられた収納保持穴6内に打ち抜かれた鋼板体を順次積み重ね(積層接着して)収納し、所定枚数に達した段階でパンチ部9によりプレス加工を施して積層鋼板8を形成してもよい。
【0026】
なお、
図1においては打ち抜きパンチ部7が一つであるが、例えば、ロータコアの場合、スロット部分の打ち抜きパンチ部と、内径部分の打ち抜きパンチ部とを設けるなど、打ち抜き精度を上げられることから複数設けてもよい。また、生産効率を高められることから、帯状鋼板2の幅を広げて、各パンチ部7、9や収納保持穴6等を帯状鋼板2の幅方向に複数配置し、同時に複数の積層鋼板8が形成可能なラインを形成してもよい。モータの積層鋼板を製造する場合の打ち抜き形状、すなわち打ち抜かれる鋼板体の形状は、帯状鋼板2に対してスロット、ティースなどの形状が挙げられる。
【0027】
さらに、得られた積層鋼板の間の接着剤組成物を短時間で硬化させるためには加熱を行うことが好ましい。本発明の製造工程によれば、脱脂工程を設けなくても鋼板部材の間のオイルと接着剤組成物の混合物が硬化し、固着させることができる。
【0028】
前記の加熱の方法は、特に限定されないが、恒温槽、遠赤外線ヒータなどが挙げられる。加熱に際しての温度及び時間は、十分に硬化できる条件であればよいが、例えば、40~300℃、好ましくは60~200℃、特に好ましくは80~150℃の温度で、例えば、10秒~3時間、好ましくは20秒~60分、特に好ましくは30秒~30分の条件で加熱することが適当である。積層鋼板を恒温層に入れるに際して、予め固定治具などで固定することで位置ずれを防止できることから好ましい。なお、
図1のプレス装置の下部10にヒータを設置することで接着剤組成物の硬化促進を行うことも可能である。
【0029】
前記塗布装置5における塗布方法としては、特に限定されないが、例えばローラ、ディスペンシング、スプレー、インクジェット、ディッピングなどが挙げられる。
【0030】
<オイルと接着剤組成物とを含む混合物>
本発明の工程1のオイルと接着剤組成物とを含む混合物について説明する。本発明のオイルと接着剤組成物とを含む混合物を用いることで、脱脂工程を設けなくても鋼板部材(鋼板体)の間のオイルと接着剤組成物との混合物が硬化し、固着させることが可能である。
【0031】
前記オイルとは、かじりや焼き付きを防止する目的で使用されるものであり、例えば、パンチングオイルなどが挙げられる。オイルの成分は、特に限定されないが、鉱物油や合成油を主成分とするものが挙げられ、さらに任意成分として防錆剤、防腐剤等を添加してもよい。また、従来は接着剤組成物を鋼板全体に塗布するには、鋼板に空気穴を空ける等工夫が必要であり困難性があったが、オイルと接着剤組成物とを含む混合物は低粘度であることから鋼板全体に容易に塗布が可能となる。
【0032】
前記接着剤組成物としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート化合物の少なくとも1種と有機過酸化物とを含む組成物、エポキシ樹脂を含む組成物、ウレタン樹脂を含む組成物、ウレア樹脂を含む組成物、シリコーン樹脂を含む組成物、フッ素樹脂を含む組成物、シアネートエステル樹脂を含む組成物、フェノール樹脂を含む組成物、レゾルシノール樹脂を含む組成物、ポリアミド樹脂を含む組成物などが挙げられる。中でも、オイルと併用しても優れた接着力を有することから(メタ)アクリレート化合物の少なくとも1種と有機過酸化物とを含む組成物が好ましい。前記(メタ)アクリレート化合物の少なくとも1種と有機過酸化物とを含む組成物は、特に好ましくは、接着剤組成物を短時間で硬化でき、信頼性の高い積層鋼板が得られるという観点から、加熱で硬化することができる接着剤組成物である。
【0033】
前記(メタ)アクリレート化合物としては、組成物が白濁、分離しないという観点から、前記オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物の少なくとも1種であることが好ましい。前記オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物としては、脂肪族(メタ)アクリレート、及び脂環式(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の化合物などが挙げられる。特に脂肪族(メタ)アクリレート、及び脂環式(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を用いることで、パンチングオイルと接着剤を同時に塗布した際に、接着剤の接着力が優れることから好ましい。前記(メタ)アクリレート化合物としては、特に前記オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物と前記オイルに相溶しない(メタ)アクリレート化合物とを併用することで、接着力を向上できることから特に好ましい。前記オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物と前記オイルに相溶しない(メタ)アクリレート化合物とを併用する場合、前記オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物の配合比率は、前記オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物と前記オイルに相溶しない(メタ)アクリレート化合物の合計量100質量部に対して、好ましくは20~99質量部の範囲であり、より好ましくは40~95質量部の範囲である。上記の範囲内であることで、特に優れた接着力を示すことが可能である。
【0034】
前記脂環式(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記脂肪族(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、イソステアリル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用しても構わない。
【0035】
前記のオイルに相溶しない(メタ)アクリレート化合物としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アルコキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアクリルアミド、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用しても構わない。
【0036】
前記有機過酸化物としては、接着剤を短時間で硬化でき、信頼性の高い積層鋼板が得られるという観点から、1時間半減期温度が、80~300℃の範囲である有機過酸化物が好ましく、100~200℃の範囲である有機過酸化物がより好ましい。前記の1時間半減期温度は、ベンゼン中で、過酸化物の濃度は0.1mol/Lの条件で熱分解により測定された値である。
【0037】
前記の1時間半減期温度が80~300℃の範囲である有機過酸化物としては、ハイドロパーオキサイドが挙げられる。ハイドロパーオキサイドの具体例としては、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイドなど挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で使用してもよく、2種類以上併用しても構わない。
【0038】
前記有機過酸化物の添加量は、前記(メタ)アクリレート化合物100質量部に対して、0.05~10質量部の範囲であり、好ましくは0.1~5質量部の範囲である。上記の範囲内であることでより優れた接着力を示すことが可能である。
【0039】
前記混合物の添加量としては、前記接着剤組成物100質量部に対して、前記オイル3~100質量部であり、さらに好ましくは5~80質量部であり、特に好ましくは10~70質量部の範囲である。上記の範囲内であることで鋼板体同士が強力に接着され、信頼性の高い積層鋼板が得られる。
【0040】
<接着剤組成物中の任意成分>
本発明の接着剤組成物には、強度向上等を目的にエラストマー成分を添加できる。また、保存性を向上するためにキレート剤、酸化防止剤、ラジカル重合禁止剤等を添加できる。また、粘度を調整する目的で粘度(レオロジー)調整剤を添加できる。また、チオールやアミン化合物といった重合速度調整剤を添加することができる。
【0041】
なお、当然ながら、本発明の混合物中には、上記の接着剤組成物中の任意成分が含まれていてもよい。
【0042】
<帯状鋼板>
本発明の帯状鋼板としては、ロール状に巻き取った状態で商品として流通している鋼板を用いることができる。本発明では、こうした鋼板をそのまま脱脂除去することなく、使用することができる。帯状鋼板の種類としては、鉄製鋼板(冷間圧廷鋼材など)、電磁鋼板等が利用可能である。
【0043】
<鋼板体>
本発明の鋼板体は、接着剤組成物が塗布された帯状鋼板から所定の形状に打ち抜いたものである。かかる鋼板体の厚さは、モータの小型化に伴い積層鋼板のさらなる極薄板化のニーズが増していることから、0.01~3mmが好ましく、0.1~1mmがより好ましい。また、鋼板体に塗布形成された接着剤層の厚さも、同様のニーズから、0.1~1000μmが好ましく、0.5~500μmがより好ましい。また、積層鋼板に使用される鋼板体の枚数は、モータ効率が優れるという観点から、2~500枚が好ましく、3~50枚がより好ましい。
【0044】
本発明の積層鋼板の製造方法により得られる積層鋼板は、モータのローターまたはステーター用であることが好ましい。かかる構成により、オイル(パンチングオイル等)と接着剤組成物を同時に塗布できるため工程を大幅に簡略化することができる。また、コスト低減効果に優れた応力集中・歪み集中が生じないローターまたはステーター用の極薄板化した高性能な積層鋼板を提供することができる。
【0045】
<積層鋼板>
本発明の製造方法により得られる積層鋼板は、接着剤組成物(接着剤層)により絶縁されているため電流損失が少なく高性能であり、応力を面で分散し、応力集中・歪み集中が生じないことから、モータのローターやステーターなどに好ましく用いられる。
【0046】
<モータ>
本発明の製造方法によって得られた積層鋼板をローターやステーター等に用いたモータは、携帯電話の振動、カメラのフォーカス調整、ハードディスクの駆動、自動車の駆動などに好適に用いられる。かかる構成を有するモータは、電流損失が少なく効率が優れる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制約されるものではない。
【0048】
表1中の各種モノマー15質量部、クメンヒドロペルオキシド0.2質量部、オイル(鉱物油、日本工作油株式会社製G6339F)5質量部を常温にてミキサーで60分混合し調製した。相溶有無を目視で確認し評価した。結果を表1に示す。「相溶する」とは、組成物が透明であるもので、「相溶しない」とは、組成物が白濁、分離してしまうものを意味する。
【0049】
【0050】
【0051】
<オイルと接着剤組成物とを含む混合物の調製>
・実施例1
イソボルニルアクリレート(オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物、共栄社化学株式会社製IBX-A)80質量部と、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(オイルに相溶しない(メタ)アクリレート化合物、新中村化学工業株式会社製BPE 2.6)20質量部と、クメンヒドロペルオキシド(1時間半減期温度が157.9℃の有機過酸化物、日本油脂株式会社製)2質量部と含む接着剤組成物を常温にてミキサーで60分混合し、その後、パンチングオイル(鉱物油、日本工作油株式会社製G6339F)43質量部を加えて、常温にてミキサーで30分混合して、本実施例のオイルと接着剤組成物とを含む混合物を調製した。
【0052】
・実施例2
実施例1において、イソボルニルアクリレートの代わりに、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物、新中村化学工業株式会社製DCP)に変更した以外は、実施例1と同様にして、本実施例のオイルと接着剤組成物とを含む混合物を調製した。
【0053】
・実施例3
実施例1において、イソボルニルアクリレートの代わりに、ネオペンチルジメタクリレート(オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物、新中村化学工業株式会社製NPG)に変更した以外は、実施例1と同様にして、本実施例のオイルと接着剤組成物とを含む混合物を調製した。
【0054】
・実施例4
実施例1において、イソボルニルアクリレートの代わりに、トリメチロールプロパントリメタクリレート(オイルに相溶する(メタ)アクリレート化合物、新中村化学工業株式会社製TMPT)に変更した以外は、実施例1と同様にして、本実施例のオイルと接着剤組成物とを含む混合物を調製した。
【0055】
・実施例5
実施例2において、オイル43質量部を34質量部に変更した以外は、実施例2と同様にして、本実施例のオイルと接着剤組成物とを含む混合物を調製した。
【0056】
・実施例6
実施例2において、オイル43質量部を68質量部に変更した以外は、実施例2と同様にして、本実施例のオイルと接着剤組成物とを含む混合物を調製した。
【0057】
・比較例1
パンチングオイル(鉱物油、日本工作油株式会社製G6339F)のみから構成される比較例1のオイルを得た。
【0058】
・参考例1
実施例1において、イソボルニルアクリレートを除いた以外は、実施例1と同様にして調製し、本参考例のオイルと接着剤組成物とを含む混合物を調製した。
【0059】
<引張せん断接着強さ試験>
幅25mm×長さ100mm×厚さ3mmの鉄製鋼板または電磁鋼板のテストピース2枚を10mmオ-バーラップした面に、各実施例で調製した各オイルと接着剤組成物とを含む混合物および比較例1のオイルをそれぞれ塗布し貼り合わせ、120℃に設定した恒温槽にて60分加熱・硬化させ各試験片を得た。次に、各試験片を用いて25℃にて万能引張試験機(引っ張り速度10mm/min.)にてせん断接着強さ(単位はMPa)をJIS K 6850(1999)に従い測定した。結果を表2に示す。なお、本発明において0.5MPa以上であることが好ましく、特に好ましくは1MPa以上である。なお、参考例1で調製したオイルと接着剤組成物とを含む混合物は、塗布前に分離して塗布できなかったので、表2では記載していない。
【0060】
【0061】
表2の実施例1~6により、本発明のオイルと接着剤組成物とを含む混合物は、鉄製鋼板または電磁鋼板に対する接着性が優れることがわかる。このことにより本発明のオイルと接着剤組成物とを含む混合物を用いれば、脱脂工程を設けなくても鋼板部材の間のオイルと接着剤組成物との混合物が硬化し、固着させることが可能である。一方で、比較例1によれば本発明の接着剤組成物成分を含まないことから、まったく接着していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、オイルと接着剤組成物を同時に塗布できるため工程の簡略化可能である積層鋼板の製造方法を提供するものであることから、極めて有効であり、広い分野に適用可能であることから産業上有用である。
【0063】
本出願は、2017年5月23日に出願された日本国特許出願第2017-101758号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。
【符号の説明】
【0064】
1 積層鋼板の製造装置、
2 帯状鋼板、
3 ローラ装置、
4 プレス成形装置、
5 オイルと接着剤組成物の混合物の塗布装置、
6 積層鋼板の収納保持穴、
7 打ち抜きパンチ部、
8 鋼板積層、
9 プレス加圧用パンチ部、
10 プレス成形装置の下部、
11 底部。