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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】圧縮機および冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/12 20060101AFI20220721BHJP
   F04B 39/10 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
F04C29/12 H
F04B39/10 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021161450
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 広道
(72)【発明者】
【氏名】片山 達也
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 金敬
(72)【発明者】
【氏名】足立 将彬
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄大
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/017081(WO,A1)
【文献】実開昭61-44074(JP,U)
【文献】中国実用新案第211144816(CN,U)
【文献】実開昭60-7371(JP,U)
【文献】特開2018-198527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00-39/16
F04C 23/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮室(36)を形成する固定側部材(45)と、回転駆動されて前記圧縮室(36)の容積を変化させる可動側部材(38)とを備え、流体を前記圧縮室(36)へ吸入して圧縮する圧縮機であって、
前記固定側部材(45)には、当該固定側部材(45)を貫通して前記圧縮室(36)から流体を導出する吐出ポート(50)が形成されると共に、該吐出ポート(50)を開閉する吐出弁(60)が設けられ、
前記吐出弁(60)は、前記吐出ポート(50)の流出端(52)を覆うことによって前記吐出ポート(50)を閉じ、該吐出ポート(50)の流出端(52)から浮き上がることによって前記吐出ポート(50)を開く弁体(61)を備え、
前記吐出ポート(50)の流入端(51)の面積をAiとし、該流入端(51)の周縁長をLiとし、該流入端(51)の水力直径をDi=4×(Ai/Li)とする一方、
前記吐出ポート(50)の流出端(52)の周縁長をLoとし、前記弁体(61)の基準リフト量をhoとし、前記弁体(61)のうち前記吐出ポート(50)の流出端(52)と接する部分である弁頭部(64)の周縁長をLvとし、前記吐出ポート(50)の流出端(52)と前記弁体(61)との間に形成された流出側流路(70)の断面積をAo=Lo×hoとし、該流出側流路(70)の水力直径をDo=4×{Ao/(Lo+Lv)}とした場合に、
前記吐出ポート(50)の流出端(52)の水力直径Diに対する前記流出側流路(70)の水力直径Doの比(Do/Di)が0.602以上且つ0.740以下である、圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮機において、
前記弁頭部(64)の直径をdvとした場合に、
前記弁体(61)の基準リフト量hoに対する前記弁頭部(64)の直径dvの比(dv/ho)が3.5以上且つ5.2以下である、圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧縮機において、
最高回転数が118rps以上である、圧縮機。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の圧縮機(10)を備える、冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機および冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、吐出ポートを開閉するための吐出弁を備えた圧縮機が知られている。例えば、特許文献1には、いわゆるリード弁を吐出弁として備えたロータリ圧縮機が開示される。
【0003】
特許文献1のロータリ圧縮機では、吐出弁が主軸受に設けられる。この吐出弁は、吐出ポートの流出端を覆うように設けられた板状の弁体を備える。圧縮室の内圧が弁体の背圧よりも低い状態では、弁体が吐出ポートを塞いで圧縮室への流体の逆流を阻止する。一方、圧縮室の内圧が弁体の背圧よりも高い状態になると、弁体が弾性変形して吐出ポートの流出端から離れる。このため、圧縮室内の高圧流体は、吐出ポートの流出端と弁体の隙間を通って流出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-101503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようなロータリ圧縮機では、吐出ポートの流出端の水力直径に対する流出側流路の水力直径の比が適切でないと、弁体がフルリフトする駆動軸の回転角度が広くなり、吐出弁が閉じ始めるタイミングが遅れる、いわゆる閉じ遅れ現象を生じる。そのため、弁体が閉じる動作を行う閉じ期間が短くなり、当該閉じ期間の終了前のタイミングで弁体が急激に閉じる。これにより、弁体の吐出ポートの流出端への着座速度が上がる。そうなると、弁体が吐出ポートの流出端に当接するときの加振力が増加する。このため、吐出弁の動作で発生する騒音と振動が大きくなる。また、弁体に作用する衝撃荷重も増加する。
【0006】
本開示の目的は、吐出弁の閉じ遅れ現象が生じるのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、圧縮室(36)を形成する固定側部材(45)と、回転駆動されて前記圧縮室(36)の容積を変化させる可動側部材(38)とを備え、流体を前記圧縮室(36)へ吸入して圧縮する圧縮機(10)を対象とする。第1の態様に係る圧縮機(10)において、前記固定側部材(45)には、当該固定側部材(45)を貫通して前記圧縮室(36)から流体を導出する吐出ポート(50)が形成されると共に、該吐出ポート(50)を開閉する吐出弁(60)が設けられる。前記吐出弁(60)は、前記吐出ポート(50)の流出端(52)を覆うことによって前記吐出ポート(50)を閉じ、該吐出ポート(50)の流出端(52)から浮き上がることによって前記吐出ポート(50)を開く弁体(61)を備える。
【0008】
前記吐出ポート(50)の流入端(51)の面積をAiとし、該流入端(51)の周縁長をLiとし、該流入端(51)の水力直径をDi=4×(Ai/Li)とする一方、前記吐出ポート(50)の流出端(51)の周縁長をLoとし、前記弁体(61)の基準リフト量をhoとし、前記弁体(61)のうち前記吐出ポート(50)の流出端(52)と接する部分である弁頭部(64)の周縁長をLvとし、前記吐出ポート(50)の流出端(52)と前記弁体(61)との間に形成された流出側流路(70)の断面積をAo=Lo×hoとし、該流出側流路(70)の水力直径をDo=4×{Ao/(Lo+Lv)}とした場合に、前記吐出ポート(50)の流出端(52)の水力直径Diに対する前記流出側流路(70)の水力直径Doの比(Do/Di)は、0.602以上且つ0.740以下である。
【0009】
第1の態様では、吐出ポート(50)の流出端(52)の水力直径Diに対する流出側流路(70)の水力直径Doの比(Do/Di)が、0.602以上且つ0.740以下となるように、弁体(61)の基準リフト量hoが吐出ポート(50)の流出端(52)の周縁長Loおよび弁頭部(64)の周縁長Lvの和に対して設定される。このように弁体(61)の基準リフト量hoを設定すると、弁体(61)のリフト量が比較的大きくなり、吐出ポート(50)の流出端(52)と弁体(61)との間を流体が通過する際の抵抗を下げることができる。そのことで、圧縮室(10)内の流体が、可動側部材(38)の動作に伴い、吐出ポート(50)を通じて外部へ速やかに吐出される。これにより、圧縮室(10)の内圧が弁体(61)の背圧よりも下がるタイミングを早めることができる。したがって、吐出弁(60)の閉じ遅れ現象が生じるのを抑制できる。
【0010】
本開示の第2の態様は、第1の態様の圧縮機(10)において、前記弁頭部(64)の直径をdvとした場合に、前記弁体(61)の基準リフト量hoに対する前記弁頭部(64)の直径dvの比(dv/ho)が3.5以上且つ5.2以下である、圧縮機(10)である。
【0011】
第2の態様では、弁体(61)の基準リフト量hoに対する弁頭部(64)の直径dvの比(dv/ho)が3.5以上且つ5.2以下となるように、弁頭部(64)の直径dvが設定される。このように、弁頭部(64)の直径dvを設定すると、弁頭部(64)の直径dvが比較的小さくなり、流体が吐出側流路(70)を流れる際の抵抗を下げることができる。そうすると、圧縮室(10)内の流体を吐出ポート(50)から外部へ速やかに吐出できる。このことは、吐出弁(60)の閉じ遅れ現象が生じることを抑制するのに有利である。
【0012】
本開示の第3の態様は、第1または第2の態様の圧縮機(10)において、最高回転数が118rps以上である、圧縮機(10)である。
【0013】
第3の態様では、最高回転数が118rps以上であって比較的高い。圧縮機(10)の回転が高速化するほど、弁体(61)がフルリフトする回転角は広くなり、弁体(61)が閉じ始めるタイミングが遅れる。よって、比較的高い回転数で運転される圧縮機(10)において、本開示の技術は有効である。
【0014】
本開示の第4の態様は、冷凍装置(1)を対象とする。第4の態様に係る冷凍装置(1)は、第1~第3の態様のいずれか1つの圧縮機(10)を備える。
【0015】
第4の態様では、上述した圧縮機(2)が冷媒回路(10)に用いられる。このことは、冷凍装置(1)で行われる冷凍サイクルの高効率化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態の冷凍装置が備える冷媒回路の概略の構成図である。
図2図2は、実施形態の圧縮機の縦断面図である。
図3図3は、図2のA-A線における圧縮機構の断面図である。
図4図4は、吐出弁を例示する平面図である。
図5A図5Aは、図4のB-B線における圧縮機構の要部を例示する断面図であって、吐出弁が閉じた状態を示す。
図5B図5Bは、図4のB-B線における圧縮機構の要部を例示する断面図であって、吐出弁が開いた状態を示す。
図6図6は、図4のC-C線における圧縮機構の要部を例示する断面図である。
図7図7は、図5Bの要部を拡大して示す圧縮機構の断面図である。
図8図8は、フロントヘッドの上面のうち吐出ポートの流出端およびその周辺の部分を抜き出して示す平面図である。
図9A図9Aは、実際の流出側流路の形状を例示する斜視図である。
図9B図9Bは、仮想の流出側流路の形状を例示する斜視図である。
図10図10は、実施例と比較例の基準リフト量hoについての水力直径比Do/Diなどを示す表である。
図11図11は、吐出ポートから流出するガス冷媒の流れを示すフロントヘッドの要部の断面図であって、基準リフト量hoが2.0mmの場合の図4のB-B線断面とC-C線断面とを示す。
図12図12は、吐出ポートから流出するガス冷媒の流れを示すフロントヘッドの要部の断面図であって、基準リフト量hoが1.2mmの場合の図4のB-B線断面とC-C線断面とを示す。
図13図13は、基準リフト量hoが1.2mmの場合と基準リフト量hoが2.0mmの場合との、駆動軸が一回転する間における圧縮室の圧力と弁体のリフト量との変化を示す試験結果のグラフである。
図14図14は、変形例1の吐出弁が閉じた状態での圧縮機構の要部を例示する断面図であって、図5Aに相当する断面を示す。
図15図15は、変形例1の吐出弁が開いた状態での圧縮機構の要部を例示する断面図であって、図5Bに相当する断面を示す。
図16図16は、変形例2の吐出ポートの形状を示す断面図であって、図5Bに相当する断面を示す。
図17図17は、変形例3の吐出ポートの形状を示す断面図であって、図5Bに相当する断面を示す。
図18図18は、変形例4の圧縮機構の断面図であって、図3に相当する断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の実施形態で述べる「第1」、「第2」、「第3」…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられ、その語句の数や順序までも限定するものではない。なお、図面は、本開示を概念的に説明するためのものである。よって、図面では、本開示の技術の理解を容易にするために寸法、比または数を、誇張あるいは簡略化して表す場合がある。
【0018】
この実施形態の圧縮機(10)は、冷凍装置(1)に設けられる。
【0019】
-冷凍装置-
図1に示すように、冷凍装置(1)は、冷媒が充填された冷媒回路(2)を有する。冷媒回路(2)は、圧縮機(10)、放熱器(3)、減圧機構(4)および蒸発器(5)を備える。減圧機構(4)は、例えば膨張弁である。冷媒回路(2)は、冷媒を循環させて、蒸気圧縮方式の冷凍サイクルを行う。
【0020】
冷凍サイクルでは、圧縮機(10)によって圧縮されたガス冷媒が、放熱器(3)において空気に放熱する。このとき、冷媒は、液化して液冷媒に変化する。放熱した液冷媒は、減圧機構(4)によって減圧される。減圧された液冷媒は、蒸発器(5)において蒸発する。このとき、冷媒は、気化してガス冷媒に変化する。蒸発したガス冷媒は、圧縮機(10)に吸入される。圧縮機(10)は、吸入したガス冷媒を圧縮する。冷媒は、流体の一例である。
【0021】
冷凍装置(1)は、例えば空気調和装置である。空気調和装置は、冷房と暖房とを切り換える冷暖房兼用機であってもよい。この場合、冷媒回路(2)は、冷媒の循環方向を切り換える切換機構を有する。切換機構は、例えば四方切換弁である。空気調和装置は、冷房専用機または暖房専用機であってもよい。
【0022】
また、冷凍装置(1)は、給湯器、チラーユニット、庫内の空気を冷却する冷却装置などであってもよい。冷却装置は、冷蔵庫、冷凍庫、コンテナなどの内部の空気を冷却する装置である。
【0023】
-圧縮機-
図2に示すように、本例の圧縮機(10)は、全密閉型のロータリ圧縮機である。圧縮機の最高回転数は、118rps以上である。最高回転数は、電動機(20)の回転数の最大値を規定する。圧縮機(10)の最高回転数を高くすることは、冷媒回路(2)における冷媒の循環量を増加させ、冷媒の最大循環量を確保するのに好ましい。このことは、空気調和装置において、冷房運転での冷房能力を高め、暖房運転での暖房能力を高めるのに有利である。
【0024】
圧縮機(10)は、ケーシング(11)と、電動機(20)と、圧縮機構(30)とを備える。電動機(20)および圧縮機構(30)は、ケーシング(11)の内部に収容される。圧縮機構(30)は、ケーシング(11)内の下部に配置される。電動機(20)は、圧縮機構(30)の上方に配置される。
【0025】
〈ケーシング〉
ケーシング(11)は、両端が閉塞された円筒状の密閉容器である。ケーシング(11)は、起立した姿勢に設置される。ケーシング(11)は、胴部(12)と、上部鏡板(13)と、下部鏡板(14)を備える。胴部(12)は、円筒状に形成される。上部鏡板(13)は、胴部(12)の上端開口を閉塞する。下部鏡板(14)は、胴部(12)の下端開口を閉塞する。
【0026】
胴部(12)の下側部分には、吸入管(15)が取り付けられる。吸入管(15)は、ケーシング(11)の胴部(12)を貫通し、圧縮機構(30)に接続される。上部鏡板(13)には、吐出管(16)が取り付けられる。吐出管(16)は、上部鏡板(13)を貫通し、ケーシング(11)の内部における電動機(20)よりも上側の空間に開口する。ケーシング(11)の底部には、油溜め部(17)が形成される。油溜め部(17)には、潤滑油が貯留される。
【0027】
〈電動機〉
電動機(20)は、ステータ(21)と、ロータ(22)と、駆動軸(23)とを備える。ステータ(21)およびロータ(22)はそれぞれ、円筒状に形成される。ステータ(21)は、ケーシング(11)の胴部(12)に固定される。ロータ(22)は、ステータ(21)の中空部に配置される。駆動軸(23)は、ロータ(22)の中空部に挿通される。ロータ(22)は、駆動軸(23)に固定され、駆動軸(23)と一体で回転する。
【0028】
駆動軸(23)は、上下方向に延びる棒状の部材である。駆動軸(23)は、主軸部(24)と、偏心部(25)とを備える。偏心部(25)は、主軸部(24)の下端寄りに配置される。偏心部(25)は、主軸部(24)よりも大径に形成される。偏心部(25)の軸心は、主軸部(24)の軸心に対して偏心する。図示しないが、駆動軸(23)には、給油通路が形成される。給油通路は、潤滑油を圧縮機(10)の摺動部分へ供給するための通路である。
【0029】
主軸部(24)の下端部には、ポンプ(26)が設けられる。ポンプ(26)は、油溜め部(17)の潤滑油に浸漬される。駆動軸(23)が回転すると、油溜め部(17)の潤滑油が、ポンプ(26)によって駆動軸(23)の給油通路へ汲み上げられる。汲み上げられた潤滑油は、給油通路を通って圧縮機構(30)、第1軸受(31a)および第2軸受(33a)などの圧縮機(10)の各摺動部分へ供給される。
【0030】
〈圧縮機構〉
圧縮機構(30)は、いわゆる揺動ピストン型のロータリ式流体機械である。圧縮機構()は、フロントヘッド(31)と、シリンダ(32)と、リアヘッド(33)と、ピストン(38)と、一対のブッシュ(41)とを備える。フロントヘッド(31)、シリンダ(32)およびリアヘッド(33)は、互いにボルトによって締結され、ハウジング(34)を構成する。ハウジング(34)は、固定側部材の一例である。ピストン(38)は、可動側部材の一例である。
【0031】
フロントヘッド(31)は、シリンダ(32)の上端面を閉塞する部材である。フロントヘッド(31)の中央部には、第1軸受(31a)が設けられる。第1軸受(31a)は、筒状に形成され、上方へ突出する。第1軸受(31a)は、すべり軸受を構成する。第1軸受(31a)の中空部には、駆動軸(23)が挿通される。第1軸受(31a)は、駆動軸(23)の偏心部(25)の上側に位置し、主軸部(24)を回転自在に支持する。
【0032】
リアヘッド(33)は、シリンダ(32)の下端面を閉塞する部材である。リアヘッド(33)の中央部には、第2軸受(33a)が設けられる。第2軸受(33a)は、筒状に形成され、下方へ突出する。第2軸受(33a)は、すべり軸受を構成する。第2軸受(33a)の中空部には、駆動軸(23)が挿通される。第2軸受(33a)は、駆動軸(23)の偏心部(25)の下側に位置し、主軸部(24)を回転自在に支持する。
【0033】
シリンダ(32)は、厚肉円板状の部材である。シリンダ(32)の中央部には、シリンダボア(32a)が形成される。シリンダボア(32a)は、シリンダ(32)を厚さ方向に貫通する円形孔である。シリンダボア(32a)は、フロントヘッド(31)およびリアヘッド(33)により閉空間とされる。ハウジング(34)は、シリンダボア(32a)に収容されたピストン(38)と共に圧縮室(36)を形成する。シリンダ(32)は、シリンダボア(32a)の中心線を上下方向に向けた姿勢でケーシング(11)の胴部(12)に固定される。
【0034】
図3に示すように、シリンダ(32)には、ブッシュ孔(32b)およびブレード孔(32c)が形成される。ブッシュ孔(32b)およびブレード孔(32c)は、シリンダ(32)を厚さ方向に貫通する。ブッシュ孔(32b)およびブレード孔(32c)はそれぞれ、略円形状に形成される。ブッシュ孔(32b)は、圧縮室(36)に開口する。ブレード孔(32c)は、ブッシュ孔(32b)と連通する。ブッシュ孔(32b)は、圧縮室(36)とブレード孔(32c)との間に位置する。
【0035】
ブッシュ孔(32b)には、一対のブッシュ(41)が嵌め込まれる。各ブッシュ(41)は、半円柱状の部材である。一対のブッシュ(41)の平坦な面同士は、互いに隙間をあけて対向する。一対のブッシュ(41)は、ブッシュ孔(32b)の中心線を軸心として揺動可能である。一対のブッシュ(41)は、後述のブレード(43)を挟み込むことで、ピストン(38)の自転を規制する。
【0036】
ピストン(38)は、ローラ(39)と、ブレード(43)とを備える。ローラ(39)は、円筒状の部材である。ローラ(39)の中空部には、駆動軸(23)の偏心部(25)が回転自在に嵌め込まれる。ローラ(39)の外周面(40)は、シリンダ(32)の内周面(35)に摺接する。ローラ(39)の外周面(40)とシリンダ(32)の内周面(35)との間には、圧縮室(36)が形成される。圧縮室(36)は、ガス冷媒を圧縮するための空間である。
【0037】
ブレード(43)は、平板状に形成される。ブレード(43)は、ローラ(39)の外周面(40)に設けられ、ローラ(39)の径方向における外側へ延びる。ブレード(43)は、圧縮室(36)を高圧室(36a)と低圧室(36b)とに仕切る。ブレード(43)は、一対のブッシュ(41)の間に進退自在に挟み込まれ、ブレード孔(32c)に挿入される。ブレード(43)は、一対のブッシュ(41)を介してシリンダ(32)に支持される。
【0038】
シリンダ(32)には、吸入ポート(42)が形成される。吸入ポート(42)は、シリンダ(32)を径方向に貫通し、圧縮室(36)の低圧室(36b)に連通する。吸入ポート(42)の一端は、シリンダ(32)の内周面(35)に開口する。シリンダ(32)の内周面(35)における吸入ポート(42)の開口端は、ブッシュ(41)に隣接した位置(図3におけるブッシュ(41)の右隣)に設けられる。一方、吸入ポート(42)の他端には、吸入管(15)が挿入される。
【0039】
フロントヘッド(31)には、吐出ポート(50)が形成される。吐出ポート(50)は、フロントヘッド(1)を貫通し、圧縮室(36)の高圧室(36a)に連通する。吐出ポート(50)は、圧縮室(36)からガス冷媒を導出するポートである。フロントヘッド(31)の下面において、吐出ポート(50)の開口端は、ブッシュ(41)に対して吸入ポート(42)とは逆側の位置(図3におけるブッシュ(41)の左隣)に配置される。吐出ポート(50)の詳細な形状については、後述する。
【0040】
圧縮機(10)は、低圧なガス冷媒を吸入管(15)から吸入ポート(42)を通じて圧縮室(36)に吸入する。ピストン(38)は、電動機(20)により回転駆動されて圧縮室(36)(高圧室(36a)および低圧室(36b))の容積を変化させる。これにより、圧縮室(36)に吸入されたガス冷媒を圧縮する。圧縮機(10)は、圧縮室(36)で圧縮した高圧なガス冷媒を、吐出ポート(50)から導出し、ケーシング(11)の内部空間を通じて吐出管(16)から吐出する。
【0041】
〈吐出弁〉
フロントヘッド(31)の上面には、吐出弁(60)が設けられる。吐出弁(60)は、吐出ポート(50)を開閉する。吐出弁(60)は、リード弁によって構成される。図5A図5Bおよび図6に示すように、吐出弁(60)は、フロントヘッド(31)の上面に取り付けられる。図4にも示すように、吐出弁(60)は、弁体(61)と、弁押え(65)と、固定ピン(67)とを備える。弁体(61)の基端部(62)と弁押え(65)の基端部(66)とは、ボルトなどの固定ピン(67)によってフロントヘッド(31)に共に固定される。
【0042】
弁体(61)は、細長くて平坦な薄板状の部材である。弁体(61)は、例えばばね鋼からなり、可撓性を有する。弁体(61)は、吐出ポート(50)の流出端(52)を覆うように設けられる。弁体(61)は、吐出ポート(50)の流出端(52)を覆うことによって吐出ポート(50)を閉じ、吐出ポート(50)の流出端(52)から浮き上がることによって吐出ポート(50)を開く。弁体(61)は、基端部(62)と、弁首部(63)と、弁頭部(64)とを備える。
【0043】
弁体(61)の基端部(62)には、留め孔(62a)が形成される。留め孔(62a)には、固定ピン(67)が挿通される。弁体(61)の弁首部(63)は、基端部(62)および弁頭部(64)よりも細い。弁頭部(64)は、弁体(61)の先端部を構成する。弁頭部(64)は、弁体(61)における吐出ポート(50)の流出端(52)と接する部分である。弁頭部(64)は、吐出ポート(50)の流出端(52)よりも大径の円形状に形成される。
【0044】
弁押え(65)は、剛性の高い金属製の部材である。弁押え(65)は、弁体(61)の形状に対応した細長い板状に形成される。弁押え(65)の基端部(66)には、留め孔(66a)が形成される。留め孔(66a)には、固定ピン(67)が挿通される。弁押え(65)は、先端側に向かうほどフロントヘッド(31)から離れるように上向きに湾曲した形状を有する。弁押え(65)は、弁体(61)の上に重なるように配置される。弁押え(65)の弁頭部(64)に対応する先端部は、弁頭部(64)よりも一回り小さな直径の円形状に形成される。
【0045】
図5Aに示すように、弁体(61)が吐出ポート(50)の流出端(52)を覆う状態では、吐出ポート(50)が閉状態となる。吐出弁(60)が閉状態であると、弁体(61)のうち弁頭部(64)の前面(61a)が吐出ポート(50)の流出端(52)の周縁と密着する。一方、図5Bおよび図6に示すように、弁体(61)が吐出ポート(50)の流出端(52)から浮き上がった状態では、吐出ポート(50)が開状態となる。吐出弁(60)が開状態であると、吐出ポート(50)の流出端(52)と弁体(61)との間に流出側流路(70)が形成される。吐出ポート(50)から吐出されたガス冷媒は、流出側流路(70)を通過する。
【0046】
-圧縮機の運転動作-
圧縮機(10)の運転動作について、図3を参照しながら説明する。
【0047】
電動機(20)に通電すると、駆動軸(23)は、図3における時計方向に回転する。駆動軸(23)が回転すると、ピストン(38)が、ブッシュ(41)を支点として圧縮室(36)の中で揺動しつつ偏心回転する。このようにピストン(38)が偏心回転すると、圧縮室(36)の低圧室(36b)には、吸入ポート(42)を通って低圧なガス冷媒が吸入されると共に、圧縮室(36)の高圧室(36a)に存在するガス冷媒が圧縮される。
【0048】
ここで、吐出弁(60)の弁体(61)の背面には、ケーシング(11)の内部空間のガス圧(ドーム内圧力)が作用する。このため、高圧室(36a)内のガス圧がドーム内圧力よりも低い間は、吐出弁(60)が図5Aに示す閉状態となる。そして、ピストン(38)が移動して高圧室(36a)内のガス圧が次第に上昇し、高圧室(36a)内のガス圧がドーム内圧力を超えると、弁体(61)の弁頭部(64)が吐出ポート(50)の流出端(52)から離れる。その結果、吐出弁(60)は、図5Bに示す開状態となる。
【0049】
吐出弁(60)が開状態になると、高圧室(36a)内のガス冷媒は、吐出ポート(50)を通過し、吐出ポート(50)の流出端(52)と弁体(61)との間の隙間を通ってケーシング(11)の内部空間におけるハウジング(34)外、すなわち圧縮機構(30)の外部へ導出される。圧縮機構(30)から導出された高圧なガス冷媒は、吐出管(16)を通ってケーシング(11)の外部へ吐出される。
【0050】
-吐出ポートの形状-
吐出ポート(50)の形状について、図7および図8を参照しながら説明する。
【0051】
吐出ポート(50)は、真っ直ぐ延びる貫通孔である。本例の吐出ポート(50)の流路断面は、円形状である。ここでいう流路断面は、吐出ポート(50)の中心線(CL)と直交する方向における断面である。吐出ポート(50)の流入端(51)は、フロントヘッド(31)の前面、すなわちシリンダ(32)側の面に開口する。吐出ポート(50)の流出端(52)は、フロントヘッド(31)の背面、すなわちシリンダ(32)とは逆側の面に開口する。
【0052】
フロントヘッド(31)の背面では、吐出ポート(50)の流出端(52)を囲む部分がシート部(55)を構成する。シート部(55)は、フロントヘッド(31)の上面で周囲よりも一段高くなるように隆起した部分である。シート部(55)の外面(上面)は、断面半円形状に形成される。このシート部(55)の外面頂部は、弁座面(56)を構成する。弁座面(56)は、弁体(61)の弁頭部(64)が当接する面である。
【0053】
吐出ポート(50)は、シート部(55)よりも下側の部分が主通路部(53)を構成する。主通路部(53)の流路断面は、半径がRiであり、直径がdi=Ri×2の円形状である。主通路部(53)の流路断面の形状は、全長に亘って一定となっている。つまり、主通路部(53)の直径diは、全長に亘って同径である。したがって、吐出ポート(50)の流入端(51)の形状も、直径がdiの円形状となっている。
【0054】
吐出ポート(50)の流出端(52)の形状は、吐出ポート(50)の流入端(51)よりも一回り大きな円形状である。吐出ポート(50)の流出端(52)の面積は、弁体(61)の弁頭部(64)の前面(61a)のうち吐出ポート(50)の圧力が作用する部分の面積、すなわち受圧面積と等しい。このため、吐出ポート(50)の流出端(52)の面積が大きいほど、弁体(61)の受圧面積が大きくなり、弁体(61)を吐出ポート(50)の流出端(52)から引き離す方向の力が大きくなる。
【0055】
弁体(61)を吐出ポート(50)の流出端(52)から引き離す方向の力が大きくなると、弁体(61)が吐出ポート(50)の流出端(52)から離れ始める時点における、圧縮室(36)内のガス圧と、弁体(61)の背面に作用するガス圧との差が小さくなる。このため、圧縮室(36)内のガス冷媒を必要以上に圧縮することに起因する損失、いわゆる過圧縮損失が低減する。
【0056】
-弁体のリフト量-
吐出弁(60)の弁体(61)には、所定のリフト量が設定される。弁体(61)のリフト量は、ガス冷媒が圧縮機構(30)から吐出される際の圧力損失と、吐出弁(60)の弁体(61)が吐出ポート(50)の流出端(52)を閉じるタイミングの遅れ、いわゆる吐出弁(60)の閉じ遅れ現象とが抑制されるように設定される。そうすることで、圧縮機(10)の効率低下を抑制できる。本例の圧縮機(10)では、弁体(51)の基準リフト量hoが、吐出ポート(50)の流入端(51)の水力直径Diに基づいて設定される。
【0057】
〈吐出ポートの流入端の水力直径Di〉
上述したように、吐出ポート(50)の流入端(51)の形状は、半径がRiであり、直径がdi=Ri×2の円形状である。したがって、吐出ポート(50)の流入端(51)の周縁長Liは、下記の式1で表される。吐出ポート(50)の流入端(51)の周縁長Liは、吐出ポート(50)の流入端(51)の濡れ縁長さである。吐出ポート(50)の流入端(51)の面積Aiは、下記の式2で表される。したがって、吐出ポート(50)の流入端(51)の水力直径Diは、下記の式3で表される。
Li=di×π ・・・・・(式1)
Ai=Ri×π ・・・・・(式2)
Di=4×(Ai/Li) ・・・・・(式3)
【0058】
本例では、吐出ポート(50)の流入端(51)の形状が円形状であるので、吐出ポート(50)の流入端(51)の水力直径Diは、吐出ポート(50)の流入端(51)の直径diと等しい(Di=di)。
【0059】
〈弁体の基準リフト量〉
図7に示すように、弁体(61)の基準リフト量hoは、吐出ポート(50)の中心線(CL)における弁体(61)の最大リフト量である。つまり、基準リフト量hoは、弁体(61)の背面の全体が弁押え(65)に接した状態における、吐出ポート(50)の中心線(CL)上での吐出ポート(50)の流出端(52)から弁頭部(64)の前面(61a)までの距離である。吐出ポート(50)の中心線(CL)は、吐出ポート(50)の流入端(51)の中心と吐出ポート(50)の流出端(52)の中心とを通る直線である。この中心線(CL)は、吐出ポート(50)の流入端(51)および流出端(52)と直交する。
【0060】
弁体(61)の背面の全体が弁押え(65)に接した状態において、弁頭部(64)の前面(61a)は、吐出ポート(50)の流出端(52)に対して傾斜し、弁体(61)の先端側に向かうほど吐出ポート(50)の流出端(52)から離れる。このため、吐出ポート(50)の流出端(52)から弁頭部(64)の前面(61a)までの距離は、弁体(61)の先端側で最大値hとなる。吐出ポート(50)の流出端(52)から弁頭部(64)の前面(61a)までの距離は、弁体(61)の基端側で最小値hとなる。
【0061】
〈弁体の弁頭部の形状〉
図4に示すように、弁体(61)の弁頭部(64)の形状は、弁押え(65)の先端部よりも一回り大きな、半径がRvであり、直径がdv=Rv×2の円形状である。弁頭部(64)は、平面視で弁押え(65)の外周側へ延び出る。弁頭部(64)の外周部分は、吐出ポート(50)の流出端(52)よりも外周側に張り出した張出部分(64a)を構成する。弁頭部(64)の張出部分(64a)の長さは、吐出側流路(70)でのガス冷媒の流通性と、吐出弁(60)の閉じ遅れ現象とに関係する。
【0062】
本例の圧縮機(10)では、弁体(61)の弁頭部(61c)の直径dvは、基準リフト量hoに基づいて設定される。弁体(61)の基準リフト量hoに対する弁頭部(61c)の直径dvの比(dv/ho)は、3.5以上且つ5.2以下である。つまり、弁頭部(61c)の直径dvは、下記の式4に示す関係を満たすように設定される。
3.5≦dv/ho≦5.2 ・・・・・(式4)
【0063】
弁頭部(64)の張出部分(64a)は、吐出側流路(70)をガス冷媒が流れるときの摩擦抵抗となる。そのため、弁頭部(64)の直径dvが小さいほど、吐出側流路(70)におけるガス冷媒の流通抵抗が低下し、吐出側流路(70)をガス冷媒がスムーズに流れる。このことは、過圧縮損失を低減させるのに有利である。また、弁頭部(64)の直径dvが小さいほど、弁頭部(64)の質量が小さくなる。それにより、吐出弁(60)の開閉に伴う弁頭部(64)の移動に伴う慣性力が低減する。このことは、弁体(61)の追随姓をアップさせて、吐出弁(60)の閉じ遅れ現象が生じることを抑制するのに有利である。
【0064】
〈流出側流路の水力直径Do〉
図8に示すように、吐出ポート(50)の流出端(52)の形状は、半径がRoであり、直径がdoの円形状である。吐出弁(60)の開状態では、弁体(61)の弁頭部(64)の前面(61a)が吐出ポート(50)の流出端(52)に対して傾斜した状態となる。このため、流出側流路(70)の断面形状は、図9Aに示すように、上面が下面に対して傾斜した筒状体の側面と同じ形状となる。
【0065】
流出側流路(70)の下側の周縁(72)は、吐出ポート(50)の流出端(52)の周縁(52a)と同じ円形状である。吐出側流路(70)の上側の周縁(71)は、吐出ポート(50)の流出端(52)の周縁(52a)を弁体(61)の弁頭部(64)の前面(61a)に投影した形状である。流出側流路(70)の高さは、弁体(61)の先端側に向かうほど高くなる。流出側流路(70)の高さは、吐出ポート(50)の流出端(52)から弁頭部(64)の前面(61a)までの距離に相当する。よって、流出側流路(70)の高さは、弁体(61)の先端側で最大値hとなり、弁体(61)の基端側で最小値hとなる。
【0066】
ところで、弁体(61)の背面(61b)の全体が弁押え(65)に接した状態において、弁頭部(64)の前面(61a)は、実質的に湾曲しない平面となる。このため、弁体(61)の基準リフト量hoは、弁体(61)のリフト量の最大値hと最小値hとの平均値と実質的に等しい。とすると、図9Aに示す実際の流出側流路(70)の流路断面積は、図9Bに示す仮想の流出側流路(70)の流路断面積と実質的に等しくなる。
【0067】
図9Bに示す仮想の流出側流路(70)は、弁体(61)の弁頭部(64)の前面(61a)が吐出ポート(50)の流出端(52)と平行であり、吐出ポート(50)の流出端(52)から弁頭部(64)の前面(61a)までの距離が基準リフト量hoである場合に、吐出ポート(50)の流出端(52)と弁頭部(64)との間に形成される流路である。また、この仮想の流出側流路(70)の断面形状は、上面と下面が平行な円筒状の側面と同じ形状である。
【0068】
本例では、図9Bに示す仮想の流出側流路(75)を、図9Aに示す実際の流出側流路(70)と実質的に等価であるとして扱う。そして、図9Aに示す実際の流出側流路(70)の水力直径Doを、図9Bに示す仮想の流出側流路(75)の水力直径と実質的に等しいとして扱い、下記の式5~8に基づいて算出する。
【0069】
上述したように、吐出ポート(50)の流出端(52)の形状は、半径がRiであり、直径がdoの円形状である。吐出ポート(50)の流出端(52)の周縁長Loは、吐出ポート(50)の流出端(52)の濡れ縁長さである。したがって、吐出ポート(50)の流出端(52)の周縁長Loは、下記の式5で表される。
Lo=do×π ・・・・・(式5)
【0070】
上述したように、弁体(61)の弁頭部(64)の外形は、直径がdvの円形状である。したがって、弁頭部(64)の周縁長Lvは、以下の式6で表される。
Lv=dv×π ・・・・・(式6)
【0071】
仮想の流出側流路(75)において、上側の周縁(76)の形状および下側の周縁(77)の形状はそれぞれ、実際の流出側流路(70)の下側の周縁と同様に、吐出ポート(50)の流出端(52)の形状と同じである。仮想の流出側流路(75)の周縁長は、吐出ポート(50)の流出端(52)の周縁長Loと等しい。このため、仮想の流出側流路(75)の流路断面積Aoは、以下の式7で表される。
Ao=Lo×ho ・・・・・(式7)
【0072】
仮想の流出側流路(70)の濡れ縁長さは、仮想の流出側流路(70)の上側の周縁長と下側の周縁長との和である。したがって、仮想の流出側流路(75)の濡れ縁長さは、Lo+Lvとなる。このため、仮想の流出側流路(75)の水力直径Doは、以下の式8で表される。本例では、実際の流出側流路(70)の水力直径を、以下の式8を用いて算出される水力直径Doと等しいとする。
Do=4×{Ao/(Lo+Lv)} ・・・・・(式8)
【0073】
〈水力直径比Do/Di〉
吐出ポート(50)の流出端(52)の水力直径Diに対する流出側流路(70)の水力直径Doの比である水力直径比(Do/Di)は、0.602以上且つ0.740以下である。つまり、弁体(61)の基準リフト量は、当該水力直径比(Do/Di)が以下の式9で示す関係を満たすように設定される。
0.602≦Do/Di≦0.740 ・・・・・(式9)
【0074】
流出側流路(75)の流路断面積Aoは、上記の式7に示すように、Lo×hoである。したがって、本例の圧縮機(10)において、弁体(61)の基準リフト量hoは、下記の式10に示す範囲内の値に設定される。弁体(61)の基準リフト量hoの下限値hminは、下記の式11で表される。弁体(61)の基準リフト量hoの上限値hmaxは、下記の式12で表される。
min≦ho≦hmax ・・・・・(式10)
min=(0.1505×Di)×(Lo+Lv)/Lo ・・・・・(式11)
max=(0.185×Di)×(Lo+Lv)/Lo ・・・・・(式12)
【0075】
図10には、基準リフト量hoが2.0mm、1.2mmの各場合について、弁体(61)の基準リフト量ho、吐出ポート(50)の流入端(51)の直径di、吐出ポート(50)の流出端(52)の直径do、弁頭部(64)の直径dv、流出側流路(70)の断面積Ao、吐出ポート(50)の流入端(51)の水力直径Di、吐出ポート(50)の流出端(52)の水力直径Do、水力直径比Do/Di、弁体(61)の基準リフト量hoに対する弁頭部(64)の直径の比dv/hoを示す。基準リフト量hoが2.0の場合は、水力直径比Do/Diが0.616となり、本開示の実施例である。一方、弁体(61)の基準リフト量hoが1.2mmの場合は、水力直径比Do/Diが0.370となり、本開示の実施例ではない比較例である。
【0076】
なお、図10に示す水力直径比Do/Diの値は、下記の式13を用いて算出した値である。この式13は、Do/Diに上記の式1~式3および式5~式8を代入することによって得られる数式である。
Do/Di=4×do×ho/{di×(do+dv)} ・・・・・(式13)
【0077】
-水力直径比Do/Diの数値範囲-
次に、水力直径比Do/Diを0.602以上且つ0.740以下に設定するのが望ましい理由を説明する。
【0078】
吐出弁(60)が開閉する際には、弁体(61)が弾性変形することによって、弁頭部(64)が移動する。そして、弁体(61)の基準リフト量hoが小さいほど、弁体(61)の移動距離が短くなり、流出側流路(70)が狭くなる。このため、弁体(61)の基準リフト量hoを小さくし過ぎると、圧縮室(36)からのガス冷媒の流出がスムーズに行われ難い。例えば、図12に示すように、基準リフト量ho=1.2mmの場合は、流出側流路(70)が比較的狭く、冷媒ガスが吐出ポート(50)から流出する際の抵抗が大きくなる。
【0079】
圧縮室(36)からのガス冷媒の流出がスムーズに行われないと、弁体(61)がフルリフトした後にも圧縮室(36)の圧力が高くなり、圧縮室(36)内のガス冷媒が必要以上に圧縮される過圧縮が生じる。例えば、図13に示すように、基準リフトho=1.2mmの場合は、弁体(61)がフルリフトした暫く後の時点Txで圧縮室(36)の圧力が一段上がる場面がある。このように過圧縮が生じると、エネルギー損失(過圧縮損失)が発生する。
【0080】
また、圧縮室(36)からのガス冷媒の流出がスムーズに行われないと、弁体(61)がフルリフトする駆動軸(23)の回転角度が広くなり、吐出弁(60)が閉じ始めるタイミングであるにも拘わらず、弁体(61)がフルリフトしたままとなる現象、いわゆる閉じ遅れ現象が生じる。例えば、図13に示すように、基準リフト量ho=1.2mmの場合は、駆動軸(23)の回転角度が270°を越えても暫くはフルリフトした状態である。
【0081】
閉じ遅れ現象が生じると、弁体(61)が閉じる動作を行う閉じ期間が短くなり、当該閉じ期間の終了前のタイミングで弁体(61)が急激に閉じる。これにより、弁体(61)の弁頭部(64)が吐出ポート(50)の流出端(52)への着座速度が上がる。そうなると、弁体(61)が吐出ポート(50)の流出端(52)に当接するときの加振力が増加する。このため、吐出弁(60)の動作で発生する騒音と振動が大きくなり、弁体(61)に作用する衝撃荷重も増加する。
【0082】
また、閉じ遅れ現象が生じると、圧縮行程の初期の圧縮室(36)が吐出ポート(50)を介してケーシング(11)の内部空間を連通する。その結果、ケーシング(11)の内部空間に存在する高圧なガス冷媒が吐出ポート(50)を通って圧縮室(36)へ逆流する。このため、単位時間当たりに圧縮機構(30)から吐出されるガス冷媒の質量流量が減少する。よって、圧縮機(10)の効率が低下する。
【0083】
吐出弁(60)の閉じ遅れ現象に起因する、弁体(61)の着座速度の上昇、および圧縮機(10)の効率低下を抑えるには、弁体(61)の基準リフト量hoを大きくするのが望ましい。そこで、本例の圧縮機(10)では、水力直径比Do/Diが0.602以上となるように吐出弁(60)の弁体(61)の基準リフト量hoが設定される。
【0084】
しかし、吐出弁(60)の弁体(61)の基準リフト量hoを大きくし過ぎると、開状態の吐出弁(60)において、弁体(61)がフルリフトする前に、弁体(61)の弾性力が、弁体(61)に作用するガス冷媒の圧力よりも大きくなる。よって、弁体(61)がフルリフトしなくなる。また、弁体(61)が吐出ポート(50)の流出端(52)から浮き上がったときの弁体(61)の曲げ角度が大きくなる。このため、弁体(61)の基端部(62)にかかる曲げ応力が増大する。
【0085】
弁体(60)をフルリフトさせると共に、弁体(61)の基端部(62)にかかる曲げ応力を抑えるには、弁体(61)の基準リフト量hoを小さくするのが望ましい。そこで、本例の圧縮機(10)では、水力直径比Do/Diが0.740以下となるように吐出弁(60)の弁体(61)の基準リフト量hoが設定される。
【0086】
-実施形態の特徴-
この実施形態の圧縮機(10)では、吐出ポート(50)の流出端(52)の水力直径Diに対する流出側流路(70)の水力直径Doの比(Do/Di)が、0.602以上且つ0.740以下となるように、弁体(61)の基準リフト量hoが吐出ポート(50)の流出端(52)の周縁長Loおよび弁頭部(64)の周縁長Lvの和に対して設定される。このように弁体(61)の基準リフト量hoを設定すると、弁体(61)のリフト量が比較的大きくなり、冷媒ガスが流出側流路(70)を通過する際の抵抗を下げることができる。例えば、図11に示すように、基準リフト量ho=2.0mmの場合は、流出側流路(70)が比較的広く、冷媒ガスが吐出ポート(50)から流出する際の抵抗が小さくなる。
【0087】
冷媒ガスが流出側流路(70)を通過する際の抵抗が低いと、圧縮室(10)内の冷媒ガスが、ピストン(38)の動作に伴い、吐出ポート(50)を通じて外部へ速やかに吐出される。圧縮室(36)からのガス冷媒の流出がスムーズに行われると、弁体(61)がフルリフトした後に圧縮室(36)の圧力が高くなるのを抑え、過圧縮が生じるのを抑制できる。そのことで、圧縮機(10)での過圧縮損失を低減できる。例えば、図13に示すように、基準リフト量ho=2.0mmの場合は、弁体(61)がフルリフトする時点Txが基準リフト量ho=1.2mmの場合よりも暫く後のタイミングであり、当該時点Txでの圧縮室(36)内の圧力が、基準リフト量ho=1.2mmの場合に比べて低くなる。
【0088】
また、圧縮室(36)からのガス冷媒の流出がスムーズに行われると、圧縮室(10)の内圧が弁体(61)の背圧よりも下がるタイミングを早めることができる。したがって、吐出弁(60)の閉じ遅れ現象が生じるのを抑制できる。これにより、弁体(61)が閉じる動作を行う閉じ期間が確保され、当該閉じ期間の終了前のタイミングで弁体(61)を緩やかに閉じることができる。例えば、図13に示すように、基準リフト量ho=2.0mmの場合は、駆動軸(23)の回転角度が270°を越えると直ぐ弁体(61)が閉じ始めて閉じ期間の終了前には弁体(61)の閉じる速度(弁リフト量の変化)が小さくなる。その結果、吐出弁(60)の動作で発生する騒音と振動、弁体(61)に作用する衝撃荷重を軽減できる。
【0089】
また、この実施形態の圧縮機(10)では、吐出弁(60)の閉じ遅れ現象が生じるのを抑制することで、圧縮行程の初期の圧縮室(36)が吐出ポート(50)を介してケーシング(11)の内部空間を連通することが回避される。それにより、ケーシング(11)の内部空間に存在する高圧なガス冷媒が吐出ポート(50)を通って圧縮室(36)へ逆流するのを抑制できる。その結果、圧縮機(10)の効率が向上する。
【0090】
この実施形態の圧縮機(10)では、弁体(61)の基準リフト量hoに対する弁頭部(64)の直径dvの比(dv/ho)が3.5以上且つ5.2以下となるように、弁頭部(64)の直径dvが設定される。このように、弁頭部(64)の直径dvを設定すると、弁頭部(64)の直径dvが比較的小さくなり、冷媒ガスが吐出側流路(70)を流れる際の抵抗を下げることができる。そうすると、圧縮室(10)内の冷媒ガスを吐出ポート(50)から外部へ速やかに導出できる。このことは、弁体(61)が吐出ポート(50)の流出端(52)を閉じるタイミングの遅れを抑制するのに有利である。
【0091】
この実施形態の圧縮機(10)では、最高回転数が118rps以上であって比較的高い。圧縮機(10)の回転が高速化するほど、弁体(61)がフルリフトする駆動軸(23)の回転角度は広くなり、弁体(61)が閉じ始めるタイミングが遅れる。よって、比較的高い回転数で運転される圧縮機(10)において、本開示の技術は有効である。
【0092】
この実施形態の圧縮機(10)では、上述した圧縮機(2)が冷媒回路(10)に用いられる。このことは、冷凍装置(1)で行われる冷凍サイクルの高効率化に寄与する。
【0093】
-変形例1-
図14および図15に示すように、上記実施形態の圧縮機(10)において、フロントヘッド(31)には、吐出ポート(50)の流出端(52)を拡大するように面取り部(57)が形成されてもよい。フロントヘッド(31)に面取り部(57)が形成される場合は、面取り部(57)が形成されない場合に比べて、吐出ポート(50)の流出端(52)の面積が拡大する。吐出ポート(50)の流出端(52)の面積が拡大すると、弁頭部(54)の受圧面積が拡大し、弁体(60)を吐出ポート(50)の流出端(52)から引き離す方向の力が大きくなる。
【0094】
-変形例2-
図16に示すように、上記実施形態の圧縮機(10)において、吐出ポート(50)の主通路部(53)の流路断面積は、吐出ポート(50)の流入端(51)から流出端(52)に向かって次第に拡大してもよい。本例では、吐出ポート(50)の主通路部(53)を形成する内面が、吐出ポート(50)の中心線(CL)を中心とする錐面となる。また、主通路部(53)の上端の直径は、主通路部(53)の下端の直径よりも大きくなる。
【0095】
-変形例3-
図17に示すように、上記実施形態の圧縮機(10)において、フロントヘッド(31)に設けられたシート部(55)は、断面矩形状に形成されてもよい。本例のシート部(55)の外面がなす弁座面(56)は、平坦面となる。吐出ポート(50)の流路断面の形状は、吐出ポート(50)の流入端(51)から流出端(52)に亘って一定の円形状である。吐出ポート(50)の直径は、流入端(51)から流出端(52)に向けて拡大してもよい。
【0096】
-変形例4-
図18に示すように、上記実施形態の圧縮機(10)の圧縮機構(30)は、ブレード(43)がピストン(38)と別体に形成されたローリングピストン型のロータリ式流体機械であってもよい。本例の圧縮機構(30)では、平板状のブレード(43)がシリンダ(32)の径方向へ延びるブレード溝に進退自在に嵌め込まれ、ブッシュ(41)が省略される。ブレード(41)は、ばね(44)によってピストン(38)の外周面(39)に押圧される。ブレード(41)の先端部は、ピストン(38)の外周面(39)と摺接する。
【0097】
-変形例5-
上記実施形態の圧縮機(10)において、吐出ポート(50)の流路断面の形状は、長円形状または楕円形状であってもよい。例えば、吐出ポート(50)は、短径がシリンダ(32)の内周面の径方向に沿うように配置される。
【0098】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明したように、本開示は、圧縮機および冷凍装置について有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 冷凍装置
10 圧縮機
36 圧縮室
38 ピストン(可動側部材)
45 ハウジング(固定側部材)
50 吐出ポート
52 流出端
60 吐出弁
64 弁頭部
61 弁体
70 流出側流路
【要約】
【課題】吐出弁の閉じ遅れを抑制する。
【解決手段】吐出ポート(50)の流入端(51)の面積をAiとし、流入端(51)の周縁長をLiとし、流入端(51)の水力直径をDi=4×(Ai/Li)とする。吐出ポート(50)の流出端(52)の周縁長をLoとし、弁体(61)の基準リフト量をhoとし、弁体(61)のうち弁頭部(64)の周縁長をLvとし、吐出ポート(50)の流出端(52)と弁体(61)との間に形成された流出側流路(70)の断面積をAo=Lo×hoとし、流出側流路(70)の水力直径をDo=4×{Ao/(Lo+Lv)}とする。この場合の吐出ポート(50)の流出端(52)の水力直径Diに対する流出側流路(70)の水力直径Doの比(Do/Di)を0.602以上且つ0.740以下とする。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18