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  • 特許-袋ナット用の電気抵抗溶接電極 図1
  • 特許-袋ナット用の電気抵抗溶接電極 図2
  • 特許-袋ナット用の電気抵抗溶接電極 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】袋ナット用の電気抵抗溶接電極
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/30 20060101AFI20220721BHJP
   B23K 11/14 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
B23K11/30 311
B23K11/14 310
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019043156
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020022993
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2018152767
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512035918
【氏名又は名称】青山 省司
(72)【発明者】
【氏名】青山 好高
(72)【発明者】
【氏名】青山 省司
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/009280(WO,A1)
【文献】特開2009-062192(JP,A)
【文献】特開2012-020335(JP,A)
【文献】特開2012-218070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/14、11/24、11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナット本体の片側の端面に溶着用突起が設けられ、他側の端面に円筒部を有するカバー部材が一体化されている袋ナットが、鋼板部品に対する溶接の対象とされており、
ナット本体とカバー部材の境界部に幅の狭い環状の被加圧面が形成されており、
前記円筒部は、真っ直ぐで滑らかな表面とされた円筒面を有しており、
断面円形で円筒状とされた電極本体が金属材料を用いて構成され、
前記電極本体の端部に結合した加圧部材に、前記被加圧面に密着する加圧面が形成されているとともに、前記カバー部材の円筒部が挿入される受入孔が形成され、受入孔の内面と円筒部の外面との間の隙間が実質的にゼロとされて、受入孔に対して円筒部が摺動する状態とされ、
前記電極本体に、絶縁材料製で大径孔と小径孔が形成されたガイド筒が挿入され、
ストッパ部材が、永久磁石が収容されている大径部と、永久磁石の吸引力で袋ナットを吸引するための小径部によって構成され、
前記ストッパ部材の大径部が前記ガイド筒の大径孔に摺動可能な状態で挿入されているとともに、ストッパ部材の小径部がガイド筒の小径孔に摺動可能な状態で挿入されており、
前記小径部の直径を受入孔の内径よりも小さくすることによって、小径部と受入孔の間に空隙が形成され、
前記小径部の先端面に形成されたストッパ面が、前記受入孔内の途中に位置してカバー部材を受け止めるように、小径部の長さが設定されていることを特徴とする袋ナット用の電気抵抗溶接電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ナット本体にカバー部材が一体化されている袋ナットを溶接の対象とした電気抵抗溶接電極に関している。
【背景技術】
【0002】
特開2011-183414号公報に記載されている電気抵抗溶接電極は、雄ねじが形成された軸部と、この軸部に一体の円形のフランジと、フランジ表面に形成された溶着用突起からなるプロジェクションボルトを溶接の対象としている。そして、この電極においては、軸部を受入孔に挿入した状態で電極を進出させ、電極の先端面でフランジ面を加圧して鋼板部品にボルトを溶接することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-183414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなプロジェクションボルト溶接であると、フランジ面を加圧するものであるから、電極先端面とフランジ面の密着面積が大きく設定できるので、ボルトが電極の中心軸線から多少ずれていても、十分な加圧力をボルトに及ぼすことができる。とくに、直径方向にボルトがずれていても電極加圧力を正常に作用させることができる。この直径方向のずれ変位は、軸部に雄ねじが形成されているので、軸部を円滑に挿入孔へ差し込むために、軸部外径と受入孔内径の間の空隙を大きく設定する必要があり、必然的に偏心量が大きくなる。
【0005】
しかしながら、ナット本体にカバー部材が一体化されているような構造の袋ナットにおいては、電極先端面とナット本体の密着面積を大きくすることができないので、袋ナットが電極の中心軸線から少しでもずれていると、ナット本体に対する加圧力が片寄った状態で作用することになり、正常な溶接が確保できない、という問題がある。また、袋ナットでは、カバー部材の質量よりもナット本体の質量の方が遥かに大きいので、電極の受入孔におけるナット保持が不安定になる、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するために提供されたもので、袋ナット特有の形状を利用して、電極の受入孔におけるナット保持を、安定した状態で確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、
ナット本体の片側の端面に溶着用突起が設けられ、他側の端面に円筒部を有するカバー部材が一体化されている袋ナットが、鋼板部品に対する溶接の対象とされており、
ナット本体とカバー部材の境界部に幅の狭い環状の被加圧面が形成されており、
前記円筒部は、真っ直ぐで滑らかな表面とされた円筒面を有しており、
断面円形で円筒状とされた電極本体が金属材料を用いて構成され、
前記電極本体の端部に結合した加圧部材に、前記被加圧面に密着する加圧面が形成されているとともに、前記カバー部材の円筒部が挿入される受入孔が形成され、受入孔の内面と円筒部の外面との間の隙間が実質的にゼロとされて、受入孔に対して円筒部が摺動する状態とされ、
前記電極本体に、絶縁材料製で大径孔と小径孔が形成されたガイド筒が挿入され、
ストッパ部材が、永久磁石が収容されている大径部と、永久磁石の吸引力で袋ナットを吸引するための小径部によって構成され、
前記ストッパ部材の大径部が前記ガイド筒の大径孔に摺動可能な状態で挿入されているとともに、ストッパ部材の小径部がガイド筒の小径孔に摺動可能な状態で挿入されており、
前記小径部の直径を受入孔の内径よりも小さくすることによって、小径部と受入孔の間に空隙が形成され、
前記小径部の先端面に形成されたストッパ面が、前記受入孔内の途中に位置してカバー部材を受け止めるように、小径部の長さが設定されていることを特徴とする袋ナット用の電気抵抗溶接電極である。
【発明の効果】
【0008】
カバー部材が加圧部材の受入孔に挿入されると、永久磁石の吸引力が小径部を経てカバー部材に作用し、カバー部材は受入孔内へ引き込まれ、カバー部材の先端部分がストッパ面に吸着される。この段階では、加圧部材の加圧面とナット本体の間にわずかな隙間が形成されている。ついで、カバー部材がストッパ面に吸引された保持状態で電極が進出すると、ナット本体の溶着用突起が鋼板部品に押し付けられる。さらに押し付けが進行すると、この押し付け反力が作用してストッパ部材が相対的に押し込まれ、加圧部材の加圧面がナット本体に密着する。この状態で溶接電流が通電され、溶接が完了する。
【0009】
カバー部材の円筒部は、真っ直ぐな円筒面を有し、滑らかな表面とされた円管状の部材であり、前述の雄ねじのような表面の凹凸がないので、受入孔内面と円筒部外面との空隙を大幅に小さくすることが可能となり、袋ナットが電極の中心軸線からずれる寸法を最小化できる。換言すると、受入孔内面と円筒部外面との空隙を実質的にゼロとし、カバー部材を受入孔に挿入したり引き出したりできる、いわゆる摺動状態でカバー部材の嵌入度合いを切り詰めることができる。これにともなって、袋ナットが電極の中心軸線に対して同軸状態で保持され、ナット本体と加圧部材の加圧面との相対位置が正確に設定され、加圧面はナット本体の被加圧面の全周域にわたって接触し、加圧面の被加圧面に対する加圧力はナット本体に対して片寄ることなく作用し、各溶着用突起の溶着状態が全域にわたって均一に良好になされて、溶接品質が向上する。
【0010】
袋ナットにおいてはその形状の特徴として、ナット本体とカバー部材が一体化されたものなので、通常のプロジェクションナットよりも軸線方向長さが著しく長くなっている。つまり、背が高くなっている。このため、溶接後、カバー部材先端部に横方向の何等かの外力が作用すると、溶着部が剥離や破損をして袋ナット全体の傾きが増大する恐れがある。このような傾きは、加圧部材の加圧面がナット本体の被加圧面に対して全周にわたって均一に接触して加圧されていないために、各溶着用突起の溶融状態にばらつきがあることが原因になっている。このような問題を回避するために、加圧部材の加圧面がナット本体の被加圧面に対して全周にわたって均一に接触して加圧されることが必須である。このような正常な接触状態によって、袋ナットが電極の中心軸線と同軸もしくはほぼ同軸となるように維持されているので、図2(B)に示すように、加圧面は被加圧面に対して全域にわたって接触し、各溶着用突起の鋼板部品に対して均一な加圧加重となっている。したがって、背の高い袋ナットであっても、鋼板部品に対して傾きなく強固な溶接が確保できる。
【0011】
小径部のストッパ面が受入孔内に位置するように、小径部の長さが設定されているので、カバー部材が受入孔内に挿入され受入孔で包囲されたままの状態で、受入孔の長手方向の途中に待機しているストッパ面でカバー部材が吸引停止とされる。このように受入孔内においてカバー部材に吸引力が作用しているとともに、カバー部材の円筒部は実質的に隙間なく受入孔に差し込まれている。したがって、袋ナットの下部に直径方向の何等かの外力が作用しても、電極の中心軸線に対する袋ナット揺動変位は実害のないレベルにすることができる。これによって正常な溶接が実現する。
【0012】
小径部の先端面に形成されたストッパ面が受入孔内に位置するように、小径部の長さが設定されているので、小径部の長さをできるだけ長くすることができ、小径部から永久磁石に伝達される熱量を少なくして、永久磁石の耐久性を向上させることが可能となる。
【0013】
ナット本体の片側の端面に溶着用突起が設けられ、他側の端面に円筒部を有するカバー部材が一体化されている袋ナットが、鋼板部品に対する溶接の対象とされており、
断面円形で円筒状とされた電極本体が金属材料を用いて構成され、
前記電極本体の端部に結合した加圧部材に、前記カバー部材の円筒部と前記ナット本体が挿入される受入孔が形成され、
前記電極本体に、絶縁材料製で大径孔と小径孔が形成されたガイド筒が挿入され、
ストッパ部材が、永久磁石が収容されている大径部と、永久磁石の吸引力で袋ナットを吸引するための小径部によって構成され、
前記ストッパ部材の大径部が前記ガイド筒の大径孔に摺動可能な状態で挿入されているとともに、ストッパ部材の小径部がガイド筒の小径孔に摺動可能な状態で挿入されており、
前記小径部の先端面に形成されたストッパ面が前記小径孔の開口端の近傍に位置するように、小径部の長さが設定されている。
【0014】
受入孔にカバー部材の円筒部とナット本体が挿入されるので、袋ナット全体が受入孔で保持されることとなり、袋ナットの保持安定性が向上する。小径部の先端面に形成されたストッパ面が小径孔の開口端の近傍に位置するように、小径部の長さが設定されているので、小径部の長さを短くすることができ、これによって永久磁石の吸引力をより強く袋ナットに作用させることが可能となり、袋ナットの保持安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電極全体と関連局部の断面図である。
図2】袋ナットの平面図と断面図である。
図3】他の実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の袋ナット用の電気抵抗溶接電極を実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0017】
図1および図2は、本発明の実施例1を示す。
【0018】
最初に、電極本体について説明する。
【0019】
クロム銅のような銅合金製導電性金属材料で作られた電極本体1は、円筒状の形状であり、断面円形とされている。この電極本体1は、可動電極であり、エアシリンダ(図示していない)などの進退駆動手段の結合部材2に、テーパ嵌合などで一体化されている。
【0020】
電極本体1は、結合部材2に結合されている円筒型の基部材3と、円筒型の接続部材4がねじ部5で一体化されている。電極本体1、ここでは接続部材4に絶縁材料製で大径孔6と小径孔7が形成された円筒型のガイド筒8が挿入されている。加圧部材9が、電極本体1の端部にねじ部10によって結合されている。この加圧部材9に貫通した状態の受入孔12が形成してあり、そこに後述の袋ナットが挿入される。加圧部材9の先端面が平坦な加圧面11とされている。電極の中心軸線O-Oは、加圧面11に直交している。なお、ガイド筒8の合成樹脂材料としては、耐熱、耐摩耗性にすぐれたものであればよく、ポリテトラフルオロエチレン(商品名=テフロン・登録商標)を使用するのが望ましい。別の材料として、ポリアミド樹脂の中から、耐熱性、耐摩耗性にすぐれた樹脂を採用することも可能である。
【0021】
つぎに、袋ナットについて説明する。
【0022】
袋ナット20は鉄製であり、ナット本体13とカバー部材16によって構成されている。ナット本体13にねじ孔14が形成され、片側の端面に溶着用突起15が設けられている。溶着用突起15は、同一円周上に120度間隔で3個設けてある。他側の端面にカバー部材16が結合してある。カバー部材16は、真っ直ぐな円筒部17と、この円筒部17に滑らかに連なっている球形部18を有したもので、鋼板材料にプレス成型をしたものである。円筒部17の端部がナット本体13に溶接してある。図2(A)に示すように、ナット本体13の直径はカバー部材16の直径よりもわずかに大きく形成してあり、これによってナット本体13とカバー部材16の境界部、すなわちナット本体13の端面に、幅の狭い環状の被加圧面19が形成されている。なお、ナット本体13は、六角形が一般的であるが、四角形や八角形であってもよい。
【0023】
加圧部材9の受入孔12の内径は、カバー部材16の円筒部17の直径よりもわずかに大きくなっている。こうすることによって、カバー部材16を受入孔12に挿入したときに、袋ナット20の直径方向の移動は実質的にゼロであり、中心軸線O-O方向の摺動だけが許されている。
【0024】
つぎに、ストッパ部材について説明する。
【0025】
ストッパ部材21は、永久磁石22が収容されている大径部23と、永久磁石22の吸引力で袋ナット20を吸引するための小径部24によって構成されている。大径部23は、断面円形の器状の形とされ、その中に永久磁石22がはめ込んである。また、小径部24は、断面円形の棒状とされ、大径部23に溶接してある。黒く塗り潰した箇所が溶接部26である。大径部23は、ガイド筒8の大径孔6に摺動可能な状態で挿入されており、小径部24は、ガイド筒8の小径孔7に摺動可能な状態で挿入されている。大径部23は、ステンレス鋼のような非磁性材料で構成してある。また、小径部24は、軟鉄のような磁性材料で構成してある。
【0026】
小径部24は受入孔12内まで伸ばされており、その先端面に形成されたストッパ面27が受入孔12内に位置するように、小径部24の長さが設定されている。また、小径部24の直径は、受入孔12の内径よりも小さく設定してあり、これによって空隙28が形成されている。
【0027】
基部材3の内側に、カップ状の断熱・絶縁材31が差し込んであり、断熱・絶縁材31とストッパ部材21の間に圧縮コイルスプリング32が配置してある。圧縮コイルスプリング32の張力によって、ストッパ部材21の大径部23の端面33がガイド筒8の大径孔6の内端面34に押し付けられている。この押し付けによって、ストッパ面27の待機位置が設定される。上記断熱・絶縁材31は、ポリテトラフルオロエチレン(商品名=テフロン・登録商標)のような合成樹脂材で作られている。
【0028】
電極本体1と同軸状態で、固定電極29が配置され、その上に鋼板部品30が載置してある。
【0029】
カバー部材16を受入孔12に挿入する方法としては、作業者が手で受入孔12に差し込んだり、駆動手段で動作する供給ロッドで差し込んだりする。
【0030】
つぎに、動作を説明する。
【0031】
カバー部材16が加圧部材9の受入孔12に挿入されると、永久磁石22の吸引力が小径部24を経てカバー部材16に作用し、カバー部材16は受入孔12内へ引き込まれ、カバー部材16の先端部分(球形部18)がストッパ面27に吸着される。この段階では、加圧部材9の加圧面11とナット本体13の被加圧面19の間にわずかな隙間Lが形成されている。ついで、カバー部材16がストッパ面27に吸引された保持状態で電極本体1が進出すると、ナット本体13の溶着用突起15が鋼板部品30に押し付けられる。さらに押し付けが進行すると、この押し付け反力が作用して、圧縮コイルスプリング32を縮めながらストッパ部材21が相対的に押し込まれ、加圧部材9の加圧面11がナット本体13の被加圧面19に全域にわたってぴったりと密着する。この状態で溶接電流が通電され、鋼板部品30への溶接が完了する。
【0032】
以上に説明した実施例の作用効果は、つぎのとおりである。
【0033】
カバー部材16の円筒部17は、真っ直ぐな円筒面を有し、滑らかな表面とされた円管状の部材であり、前述の雄ねじのような表面の凹凸がないので、受入孔12の内面と円筒部17の外面との空隙を大幅に小さくすることが可能となり、袋ナット20が電極の中心軸線O-Oからずれる寸法を最小化できる。換言すると、受入孔12の内面と円筒部17の外面との空隙を実質的にゼロとし、カバー部材16を受入孔12に挿入したり引き出したりできる、いわゆる摺動状態でカバー部材16の嵌入度合いを切り詰めることができる。これにともなって、袋ナット20が電極の中心軸線O-Oに対して同軸状態で保持され、ナット本体13と加圧部材9の加圧面11との相対位置が正確に設定され、加圧面11はナット本体13の被加圧面19の全周域にわたって接触し、加圧面11の被加圧面19に対する加圧力はナット本体13に対して片寄ることなく作用し、各溶着用突起15の溶着状態が全域にわたって均一に良好になされて、溶接品質が向上する。
【0034】
袋ナット20においてはその形状の特徴として、ナット本体13とカバー部材16が一体化されたものなので、通常のプロジェクションナットよりも軸線方向長さが著しく長くなっている。つまり、背が高くなっている。このため、溶接後、カバー部材16の先端部に横方向の何等かの外力が作用すると、溶着部が剥離や破損をして袋ナット20全体の傾きが増大する恐れがある。このような傾きは、加圧部材9の加圧面11がナット本体13の被加圧面19に対して全周にわたって均一に接触して加圧されていないために、各溶着用突起15の溶融状態にばらつきがあることが原因になっている。このような問題を回避するために、加圧部材9の加圧面11がナット本体13の被加圧面19に対して全周にわたって均一に接触して加圧されることが必須である。このような正常な接触状態によって、袋ナット20が電極の中心軸線O-Oと同軸もしくはほぼ同軸となるように維持されているので、図2(B)に示すように、加圧面11は被加圧面19に対して全域にわたって接触し、各溶着用突起15は鋼板部品30に対して均一な加圧加重となっている。したがって、背の高い袋ナット20であっても、鋼板部品30に対して傾きなく強固な溶接が確保できる。
【0035】
小径部24のストッパ面27が受入孔12内に位置するように、小径部24の長さが設定されているので、カバー部材16が受入孔12内に挿入され受入孔12で包囲されたままの状態で、受入孔12の長手方向の途中に待機しているストッパ面27でカバー部材16が吸引停止とされる。このように受入孔12内においてカバー部材16に吸引力が作用しているとともに、カバー部材16の円筒部17は実質的に隙間無く受入孔12に差し込まれている。したがって、袋ナット20の下部に直径方向の何等かの外力が作用しても、電極の中心軸線O-Oに対する袋ナット20の揺動変位は実害のないレベルにすることができる。これによって正常な溶接が実現する。
【0036】
小径部24の先端面に形成されたストッパ面27が受入孔12内に位置するように、小径部24の長さが設定されているので、小径部24の長さをできるだけ長くすることができ、小径部24から永久磁石22に伝達される熱量を少なくして、永久磁石22の耐久性を向上させることが可能となる。
【0037】
ナット本体13にカバー部材16が一体化された形状の袋ナット20においては、カバー部材16側のナット本体13の端面に形成される被加圧面19は、直径方向で見た幅が狭くなる。本実施例では、円筒部17が受入孔12内に実質的に隙間のない状態で差し込まれるので、カバー部材16は電極の中心軸線O-Oに対して同軸かまたは実質的に同軸となる高い位置精度が確保できる。したがって、被加圧面19の幅が狭くても、加圧部材9の加圧面11を被加圧面19の全周域にわたって密着させることができ、各溶着用突起15が均一に鋼板部品30に加圧され、良好な溶接品質がえられる。
【0038】
ナット本体13の質量が、カバー部材16の質量よりも大きくて、ナット本体13が加圧面11から露出しているのであるが、カバー部材16の円筒部17がぴったりと受入孔12に挿入されているので、質量にともなう袋ナット20の揺れ方向の変位を最小化できる。
【0039】
受入孔12内にまで伸ばされた小径部24は、その外径が受入孔12の内径よりも小さく設定され、小径部24と受入孔12の間に空隙28が存置されている。このような空隙28が存置されているので、永久磁石22の吸引力は小径部24からカバー部材16に対してだけ作用し、袋ナット20に対する吸引力を強く作用させることができる。
【実施例2】
【0040】
図3は、本発明の実施例2を示す。
【0041】
この実施例2における袋ナット20は、ナット本体13にフランジ35が一体的に形成され、このフランジ35に溶着用突起15が設けてある。そして、受入孔12の長さを長くして、カバー部材16の円筒部17とナット本体13の双方が受入孔12に挿入できるようになっている。受入孔12の延長にともなって小径部24の先端面に形成されたストッパ面27が小径孔7の開口端37の近傍に位置するように、小径部24の長さが設定されている。
【0042】
受入孔12の内面とナット本体13の角部との空隙を実質的にゼロとし、ナット本体13を受入孔12に挿入したり引き出したりできる、いわゆる摺動状態でナット本体13の嵌入度合いを切り詰めてある。したがって、実施例1におけるカバー部材16を受入孔12に摺動状態で挿入したものと同じになる。なお、図3では、ナット本体13の角部と受入孔12の内面の間の空隙を誇張して図示してある。
【0043】
上記の小径孔7の開口端37の近傍とは、ガイド筒8の小径部分の端面とストッパ面27が同一仮想平面上に存在しているか、または、ガイド筒8の小径部分の端面とストッパ面27のいずれかが、袋ナット20側に僅かに突き出ていることを意味している。それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先の実施例1と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。
【0044】
受入孔12にカバー部材16の円筒部17とナット本体13が挿入されるので、袋ナット20全体が受入孔12で保持されることとなり、袋ナット20の保持安定性が向上する。小径部24の先端面に形成されたストッパ面27が小径孔7の開口端37の近傍に位置するように、小径部24の長さが設定されているので、小径部24の長さを短くすることができ、これによって永久磁石22の吸引力をより強く袋ナット20に作用させることが可能となり、袋ナット20の保持安定性が向上する。それ以外の作用効果は、先の実施例1と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
上述のように、本発明の電極によれば、袋ナット特有の形状を利用して、電極の受入孔におけるナット保持を、安定した状態で確保する。したがって、自動車の車体溶接工程や、家庭電化製品の板金溶接工程などの広い産業分野で利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 電極本体
6 大径孔
7 小径孔
8 ガイド筒
9 加圧部材
11 加圧面
12 受入孔
13 ナット本体
15 溶着用突起
16 カバー部材
17 円筒部
19 被加圧面
20 袋ナット
21 ストッパ部材
22 永久磁石
23 大径部
24 小径部
27 ストッパ面
28 空隙
30 鋼板部品
37 開口端
L 隙間
図1
図2
図3