(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】窒化鉄系磁性材料
(51)【国際特許分類】
H01F 1/059 20060101AFI20220721BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220721BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220721BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220721BHJP
【FI】
H01F1/059
C22C38/00 303A
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
C22C38/00 303D
(21)【出願番号】P 2017206610
(22)【出願日】2017-10-25
【審査請求日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2017077114
(32)【優先日】2017-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516135298
【氏名又は名称】株式会社Future Materialz
(73)【特許権者】
【識別番号】596032029
【氏名又は名称】関西触媒化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】小川 智之
(72)【発明者】
【氏名】小林 斉也
(72)【発明者】
【氏名】戸田 ▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】大谷 昌司
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-253247(JP,A)
【文献】特開2016-146387(JP,A)
【文献】特開平08-031626(JP,A)
【文献】特開平04-346203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/059
C22C 38/00
B22F 1/00
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化鉄系材料を含む磁性材料であって、
(1)前記窒化鉄系材料として、
a)一次粒子の平均粒径が10~200nmである(Fe
16-mX
m)N
2(但し、XはFeサイトに置換可能な元素の少なくとも1種を示し、mは0≦m≦5を満たす。)を含
み、その含有率が90~100体積%である第1粉末と、
b)一次粒子の平均粒径が0.3~500μmであるR
2Fe17N
n(但し、Rは希土類元素の少なくとも1種を示し、nは0<n≦3を満たす。)を含
み、その含有率が95~100体積%である第2粉末と
、
(2)熱硬化性樹脂と、
を含むことを特徴とする窒化鉄系磁性材料。
【請求項2】
前記Xが、Ge、Ga、Al、Si、V、Ti、Cr、Mn、Ni、Co、Zn、W、Mo、Pt、Rh、Pd、Ru、Y、Sc、Zr及びCeの少なくとも1種である、請求項1に記載の窒化鉄系磁性材料。
【請求項3】
前記Rが、Sm、Ce、Nd及びDyの少なくとも1種である、請求項1に記載の窒化鉄系磁性材料。
【請求項4】
第1粉末及び第2粉末の合計100重量部として、重量比で第1粉末が5~95重量部であり、第2粉末が95~5重量部である、請求項1に記載の窒化鉄系磁性材料。
【請求項5】
圧粉体である、請求項1~4のいずれかに記載の窒化鉄系磁性材料。
【請求項6】
圧粉体が磁気的に異方な成形体である、請求項5に記載の窒化鉄系磁性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化鉄Fe16N2を含む新規な窒化鉄系磁性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料は、例えば電子分野、自動車分野、医療分野等の各種の分野で利用されており、その用途等に応じて種々の化合物等が用いられている。例えば、フェライト系をはじめとして、パーマロイ系、ネオジム系、サマリウム系、アルニコ系等の各種の材料が知られている。
【0003】
これら磁性材料の中でも、窒化鉄Fe16N2は、α-Feを超える磁化が期待できるうえ、通常の鉄系材料に比して耐食性等にも優れるという点で注目されている強磁性材料の一つである。このため、各種の分野においてもFe16N2系磁性材料の開発が進められている。
【0004】
例えば、鉄と窒素を少なくとも構成元素とし、かつFe16N2相を少なくとも含む磁性粉末であって、鉄に対する窒素の含有量が1.0~20.0原子%であり、粒子長軸の平均サイズが20~100nmの範囲の紡錘状または針状であることを特徴とする窒化鉄系磁性粉末が知られている(特許文献1)。
【0005】
また例えば、Fe16N2相を含み、粒径の個数分布において、粒径10nm以上50nm以下の範囲の粒子の個数が全体のx%、粒径100nm以上200nm以下の範囲の粒子が全体のy%とするとき、前記xが30≦x≦70であり、前記yが30≦y≦70であり、前記x及びyが60≦x+y≦100であることを特徴とする窒化鉄系磁性粉が提案されている(特許文献2)
【0006】
さらに、Fe16N2を主成分とする窒化鉄粉末であって、粉末表面の少なくとも一部に、希土類金属元素、アルミニウムおよびシリコンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素ならびに(CoXFe1-X)Fe2O4(0<x≦1)で表される組成を有するコバルト含有フェライトを含む被覆層を有する窒化鉄粉末が提案されている(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-319923
【文献】特開2016-17199
【文献】特開2009-88287
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、Fe16N2系磁性材料は、さまざまな研究・開発がなされているが、保磁力という点ではなお改善の余地が残されている。すなわち、Fe16N2系磁性材料の保磁力をより高めることができれば、さらなる用途の拡大が期待できる。この点、窒化鉄Fe16N2に第3元素をドーピングする方法も考えられるが、第3元素をドープしても高い保磁力は得られていないのが現状である。
【0009】
従って、本発明の主な目的は、より高い保磁力を発揮できるFe16N2系磁性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成・構成からなる材料が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の窒化鉄系磁性材料に係る。
1. 窒化鉄系材料を含む磁性材料であって、
前記窒化鉄系材料として、
a)一次粒子の平均粒径が10~200nmである(Fe16-mXm)N2(但し、XはFeサイトに置換可能な元素の少なくとも1種を示し、mは0≦m≦5を満たす。)を含む第1粉末と、
b)一次粒子の平均粒径が0.3~500μmであるR2Fe17Nn(但し、Rは希土類元素の少なくとも1種を示し、nは0<n≦3を満たす。)を含む第2粉末
とを含むことを特徴とする窒化鉄系磁性材料。
2. 前記Xが、Ge、Ga、Al、Si、V、Ti、Cr、Mn、Ni、Co、Zn、W、Mo、Pt、Rh、Pd、Ru、Y、Sc、Zr及びCeの少なくとも1種である、前記項1に記載の窒化鉄系磁性材料。
3. 前記Rが、Sm、Ce、Nd及びDyの少なくとも1種である、前記項1に記載の窒化鉄系磁性材料。
4. 第1粉末及び第2粉末の合計100重量部として、重量比で第1粉末が5~95重量部であり、第2粉末が95~5重量部である、前記項1に記載の窒化鉄系磁性材料。
5. 圧粉体である、請求項1~4のいずれかに記載の窒化鉄系磁性材料。
6. 圧粉体が磁気的に異方な成形体である、前記項5に記載の窒化鉄系磁性材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より高い保磁力を発揮できるFe16N2系磁性材料を提供することができる。より具体的には、本発明材料では、比較的粒径の小さな第1粉末と比較的粒径の大きな第2粉末との混合粉末(特に複合材料)として用いることにより、高い保磁力とともに、第1粉末の特徴と第2粉末の特徴とを兼ね備えた物性を得ることができる。
【0013】
このような特徴をもつ本発明材料は、例えば粉末又は圧粉体(成形体)の形態で、従来の硬質磁性材料の代替品として利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試験例1で求めた各試料の磁性ヒステリシスループを示す。
【
図3】試験例3において、第1粉末と第2粉末との比率と、磁化との関係について調べた結果を示す。
【
図4】試験例4において、第1粉末と第2粉末との比率と、保磁力との関係について調べた結果を示す。
【
図5】試験例5において、第1粉末と第2粉末との比率と、最大エネルギー積(BH)maxとの関係について調べた結果を示す。
【
図6】本発明材料(FN20重量%及びSFN80重量%)の磁気特性について高温域における温度依存性について調べた結果を示す。
【
図7】本発明材料(FN20重量%及びSFN80重量%)を走査型電子顕微鏡で観察した結果(SEM像)を示す。
【
図8】試験例8で求めた測定資料gの磁性ヒステリシスループを示す。
【
図9】試験例8で求めた測定資料hの磁性ヒステリシスループを示す。
【
図10】試験例8で求めた測定資料iの磁性ヒステリシスループを示す。
【
図11】試験例8で求めた測定資料j磁性ヒステリシスループを示す。
【
図12】試験例8で求めた測定資料kの磁性ヒステリシスループを示す。
【
図13】試験例8で求めた測定資料lの磁性ヒステリシスループを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.窒化鉄系磁性材料
本発明の窒化鉄系磁性材料(本発明材料)は、窒化鉄系材料を含む磁性材料であって、
前記窒化鉄系材料として、
a)一次粒子の平均粒径が10~200nmである(Fe16-mXm)N2(但し、XはFeサイトに置換可能な元素の少なくとも1種を示し、mは0≦m≦5を満たす。)を含む第1粉末と、
b)一次粒子の平均粒径が0.3~500μmであるR2Fe17Nn(但し、Rは希土類元素の少なくとも1種を示し、nは0<n≦3を満たす。)を含む第2粉末とを含むことを特徴とする。
【0016】
第1粉末として、(Fe16-mXm)N2(但し、XはFeサイトに置換可能な元素の少なくとも1種を示し、mは0≦m≦5を満たす。)を含む粉末を用いる。すなわち、1)窒化鉄Fe16N2及び2)そのFeサイトが他の元素により置換された化合物の少なくとも1種を含む粉末を用いる。
【0017】
このような粉末自体は、公知又は市販のものを使用することができるほか、公知の合成方法に従って調製することができる。また、第1粉末は、(Fe16-mXm)N2成分の含有率が100体積%であることが最も望ましいが、本発明の効果を妨げない範囲内で他の成分(他の結晶相等)が含まれていても良い。一般的には、上記含有率は80~100体積%とし、好ましくは90~100体積%とし、より好ましくは95~100体積%とすることができる。
【0018】
Feサイトを置換する元素としては、特に限定されないが、特に本発明ではGe、Ga、Al、Si、V、Ti、Cr、Mn、Ni、Co、Zn、W、Mo、Pt、Rh、Pd、Ru、Y、Sc、Zr及びCeの少なくとも1種であることが好ましく、特にGe、Ga、Ti、Cr、Mn、Ni、Co,Zn、W、Mo及びRhの少なくとも1種であることがより好ましい。
【0019】
また、上記mの値は、通常は0~5である。すなわち、Feサイトが置換されていない組成(Fe16N2)のほか、Feサイトが置換された組成も採用することができる。Feサイトが置換されている場合は、0<m≦5とすれば良いが、特に1.5~5であることが好ましい。これによって、よりいっそうの結晶構造の安定化を図ることもできる。
【0020】
第1粉末の一次粒子の平均粒径は、通常10~200nmであり、好ましくは30~180nmである。このような粒径範囲に設定することにより、第1粉末を構成する粒子が、それよりも大きな第2粉末の粒子を取り囲み、あるいは被覆する状態を確保することができる結果、所望の磁気特性を発揮させることができる。上記の平均粒径は、公知の分級処理、粉砕処理、作製諸条件等によって適宜調整することもできる。
【0021】
なお、上記の一次粒子の平均粒径は、第1粉末を日本電子株式会社製の透過型電子顕微鏡「JEM-1400」で観察したデジタル画像データをPLYMPUS製「iTEM5.2」にて任意の粒子120個の粒径を測定・解析し、その算術平均値とした。
【0022】
第2粉末として、一次粒子の平均粒径が0.3~500μmであるR2Fe17Nn(但し、Rは希土類元素の少なくとも1種を示し、nは0<n≦3を満たす。)を含む粉末を用いる。
【0023】
このような粉末自体は、公知又は市販のものを使用することができるほか、公知の合成方法に従って調製することができる。また、第2粉末は、R2Fe17Nn成分の含有率が100体積%であることが最も望ましいが、本発明の効果を妨げない範囲内で他の成分(他の結晶相等)が含まれていても良い。例えば、R2Fe17Nn結晶相の安定化成分、表面修飾材等の粒子間の磁気的分離等のための各種の成分が含まれていても良い。一般的には、上記含有率は80~100体積%とし、好ましくは90~100体積%とし、より好ましくは95~100体積%とすれば良い。
【0024】
上記Rは、希土類元素であれば特に制限されない。例えば、La、Ce、Sm、Pr、Nd、Dy、Eu、Tb、Gd、Er、Ho、Yb、Lu等の各種の元素が挙げられるが、特にSm、Ce、Nd及びDyの少なくとも1種であることが望ましい。特に、本発明の効果を最大限に発揮できるRを組み合わせた組成の材料を選択すれば良い。これにより、R2Fe17Nn相の安定化を図れるほか、所望の磁気特性をより確実に得ることができる。従って、第2粉末として、例えばSm2Fe17N3含む粉末等を好適に用いることができる。
【0025】
また、上記nの値は、通常は0<n≦3であるが、好ましくは2≦n≦3とする。これにより、所望の磁気特性(特に高保磁力特性)が得られる。
【0026】
第2粉末の一次粒子の平均粒径は、通常0.3~500μmであり、好ましくは0.5~100μmである。このような粒径範囲に設定することにより、第1粉末を構成する粒子が、それよりも大きな第2粉末の粒子を取り囲み、あるいは被覆する状態を確保することができる結果、所望の磁気特性を発揮させることができる。特に、後記の
図7にも示すように、第1粉末を構成する粒子表面に第2粉末の粒子が付着して一体化してなる複合粒子を構成することが望ましい。上記の平均粒径は、公知の分級処理、粉砕処理等によって適宜調整することもできる。
【0027】
なお、上記の一次粒子の平均粒径については、第2粉末を日本電子株式会社製のショットキー電界放出形走査電子顕微鏡「JSM-7800F」で観察したデジタル画像データをPLYMPUS製「iTEM5.2」にて任意の粒子120個の粒径を測定・解析し、その算術平均値を前記平均粒径とした。
【0028】
本発明材料における第1粉末と第2粉末との割合は、用途、所望の磁気特性等に応じて適宜設定することができるが、通常は第1粉末及び第2粉末の合計100重量部として、重量比で第1粉末が5~95重量部であり、第2粉末が95~5重量部であることが好ましい。特に、第1粉末が10~85重量部であり、第2粉末が90~15重量部であることがより好ましい。
【0029】
また、本発明材料中における第1粉末と第2粉末との合計含有量が占める割合は限定的ではないが、通常は本発明材料中80~100重量%とし、特に85~100重量%とすることが好まし、さらに90~100重量%とすることがより好ましい。従って、本発明材料中における第1粉末と第2粉末との合計含有量が占める割合を例えば100重量%と設定することもできる。
【0030】
本発明材料では、本発明の効果を妨げない範囲内において他の成分が含まれていても良い。例えば、着色剤、潤滑剤、焼結助剤、樹脂バインダー、分散剤等の成分が添加されていても良い。
【0031】
本発明材料の形態としては、粉末状であるほか、本発明粉末を構成する結晶相が維持されている限りは圧粉体(成形体)であっても良い。本発明の圧粉体の例としては外部磁場印加しない状態で作製されるものであるが、それに限定されない。例えば、外部磁場を印加して磁気配向した圧粉体でも良い。これらは、用途等に合わせて適宜選択すれば良い。
【0032】
圧粉体とする場合は、粉末状の本発明材料を公知の成形方法(例えばプレス成型(冷間・熱間)、鋳込み成型、射出成形、ローラー成形等)によって成形すれば良い。この場合、圧粉体中にも、本発明の効果を妨げない範囲内で本発明材料以外の成分が含まれていても良い。例えば、圧粉体を成形するに添加される樹脂バインダーとして、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を5重量%以下の範囲内(好ましくは0.1~3重量%の範囲内)で含まれていても良い。
【0033】
本発明材料(特に圧粉体)の特性としては、例えば以下のような磁気特性を有するものが挙げられる。本発明材料が等方性磁石として機能する場合、保磁力Hcについては、通常1.5~20kOeの範囲内にあり、好ましくは5~20kOeである。また、残留磁化Mrについては、通常180~350emu/cm3の範囲内にあり、好ましくは220~350emu/cm3である。他方、本発明材料が異方性磁石として機能する場合、保磁力Hcについては、通常2000~20000Oeの範囲内にあり、好ましくは2500~20000Oeである。また、残留磁化Mrについては、通常350~700emu/cm3の範囲内にあり、好ましくは400~700emu/cm3である。
【0034】
2.窒化鉄系磁性材料の製造方法
本発明材料は、第1粉末及び第2粉末を混合する工程を含む方法によって製造することができる。両粉末を混合する方法は、両者をできる限り均一に混合する。その手法は特に制限されず、公知のミキサー、ニーダー等の装置を用いて実施することができる。
【0035】
また、両粉末の混合に際しては、乾式混合又は湿式混合のいずれであっても良い。なお、本発明における乾式混合とは、液体を一切使用しない条件下での混合をいう。また、湿式混合とは、非水系(有機溶媒の存在下)での混合をいう。
【0036】
また、本発明材料を圧粉体とする場合は、粉末状の本発明材料を公知の成形方法(例えばプレス成型(冷間・熱間)、鋳込み成型、射出成形、ローラー成形等)によって成形すれば良い。この場合、樹脂バインダーを用いることもできる。樹脂バインダーとしては、特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂(粉末)を好適に用いることができる。樹脂バインダーの添加量は、用いる樹脂バインダーの種類等に応じて適宜設定できるが、通常は5重量%以下の範囲内(好ましくは0.1~3重量%の範囲内)とすれば良い。このような樹脂バインダーを上記添加量で配合することにより、より確実かつ効率的に圧粉体を作製することができる。成形するための材料は、粉末状の本発明材料と樹脂バインダーを水の不存在下で混合することにより調製することができる。樹脂バインダーを添加する場合、粉末状の樹脂バインダーをそのまま添加することもできるが、特に樹脂バインダーを有機溶剤(例えばアセトン、トルエン、テトラヒドロフラン等)に溶解又は分散させて得られた液状物(ペースト等)の形態で粉末状の本発明材料と混合することも可能である。
【0037】
粉末状の本発明材料と前記ペーストとを混合する場合、これらが均一に混合することができれば良いが、特にペースト中に含まれる有機溶剤の一部又は全部を揮発させることにより、得られる混合物が粉末状とすることが好ましい。これにより、所望の成形体密度を有する成形体をより確実に得ることが可能となる。
【0038】
また、粉末状の本発明材料と前記ペーストとの混合は磁場中で行うこともできる。これにより、磁気的な配向状態が得られ易くなる。この場合の磁場の強さは、限定的ではないが、通常は0.2~1.5T程度とすれば良い。
【0039】
成形条件としては、特に制限されない。成形圧は、特に制限されないが、通常は0.1~25tonf/cm2程度とし、好ましくは0.2~20tonf/cm2とすれば良い。また、成形する際の雰囲気は、大気中でも良いが、特に第1粉末及び第2粉末が酸化されないように不活性雰囲気あるいは真空中で成形工程を実施することが好ましい。成形温度は、限定的でなく、例えば室温でも良い。また、特に樹脂バインダーが含まれている場合の成形温度は、通常70~250℃程度とし、特に80~200℃とすることが望ましい。雰囲気は、大気中でも良いが、特に実質的に非酸化性雰囲気であることが望ましく、例えば不活性ガス中、真空中等で成形を実施することができる。
【0040】
成形に際しては、成形時に外部磁界をかけずに圧粉体を製造した場合は、磁気等方性の圧粉体を得ることができる。これに対し、成形時に外部磁界をかけながら圧粉体を製造した場合は、磁気異方性の圧粉体(異方性磁石)を得ることができる。すなわち、外部磁界をかけながら成形することによって、得られる圧粉体の磁気特性を異方性化させることができる。
【0041】
外部磁界をかける場合は、公知の方法に従って実施すれば良い。例えば、市販の磁場発生装置を用いて実施することができる。また、磁場配向機能と成形機能を併せ持つ磁場中プレス成型装置を使用することもできる。外部磁界をかける場合の外部磁場の強さは、限定的ではなく、通常は0.2T以上とすれば良い。その上限値は、用いる磁場発生装置等の上限とすれば良く、一般的には7T程度とし、特に5T程度とすれば良い。また、外部磁場をかける時間(保持時間)は、特に限定されず、通常1~60分程度の範囲内において、圧粉体の大きさ等に応じて適宜設定すれば良い。外部磁場の向きは一方向のみでも良いが、場合によっては反転方向に磁場をかけても良い。また、これらを組み合わせて反転操作を複数回行っても良い。
【0042】
圧粉成形時の温度は、特に限定されず、例えば圧粉体の第一粉末と第二粉末との配合組成、用いる樹脂に最適な温度を選択すれば良い。従って、例えば室温(20℃)~150℃程度であっても良いが、これに限定されない。
【0043】
3.窒化鉄系磁性材料の使用
本発明材料は、通常の硬質磁性材料等と同様の用途に適用することができる。特に、本発明材料は、例えばダイレクトドライブ型風力発電等の発電機、VCM、ビデオ、CD、DVD等の再生記録装置のモーター等のほか、家電・自動車搭載機器におけるモーター等の各種用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0045】
なお、本実施例において、粒子の平均粒径、磁性ヒステリシスループ等は、以下のようにして測定した。
【0046】
(1)平均粒子径及び粒子表面酸化物皮膜厚みの測定
日本電子株式会社製の透過型電子顕微鏡JEM-1400、あるいは日本電子株式会社製のショットキー電界放出形走査電子顕微鏡JSM-7800Fで試料を観察したデジタル画像データをPLYMPUS製「iTEM5.2」にて任意の粒子120個の粒径を測定・解析し、算出した。
【0047】
(2)ヒステリシスループ
日本カンタム・デザイン株式会社製の振動試料型磁力計付きPhysical Property Measurement Systemを用いて印加磁場を-50000~50000Oe、300Kの条件下でM-Hヒステリシスループを測定し、飽和磁化及び保磁力を求めた。
【0048】
(3)試料粉末の純度の決定
ブルカー・エイエックスエス株式会社製 D8 ADVANCEにてXRD測定を行い、そのデータを用いて、同社製TOPAS解析ソフトを用いて、生成相の分率を求めた。
【0049】
実施例1
アルゴンガスで満たされた露点0℃DP以下のグローブボックス中(酸素濃度1000ppm以下)にて、第1粉末としてFe16N2粉末(一次粒子の平均粒径48nm、純度90%、以下「FN」とも表記する。)、第2粉末としてSm2Fe17N3粉末(一次粒子の平均粒径8μm、純度100%、以下「SFN」とも表記する。)を用意し、両粉末を所定の割合で量り取り、これらをグローブボックス中でメノウ乳鉢ライカイ機にて均一に乾式にて混合・粉砕することによって混合粉末全量として3gを調製した。
なお、FNS又はFNのいずれか一方のみからなる粉末(比較試料)については、単独の粉末をグローブボックス中でメノウ乳鉢ライカイ機にて均一に乾式にて粉砕・混合することによって粉末全量として3gを調製した。
次いで、同グローブボックス中で得られた混合粉末及び比較試料を用いて圧粉体を作製した。より具体的には、樹脂バインダーとして、液状高粘性の熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)0.2gをアセトン3mLに溶解させてペーストを調製した。上記で用意した混合粉末に対して前記ペーストを添加して混合しながら、アセトンを蒸発させて粉末状の混合物を得た。この混合物を同グローブボックス中に配置した金型(7mm角、割子)に充填して成形圧1.5tonf/cm2、温度100℃でプレス成形することにより直方体状の圧粉体を得た。得られた圧粉体の断片(約0.5g)を採取し、これを測定試料として用いた。
【0050】
試験例1
実施例1で得られた各測定試料a~fについて、そのヒステリシスループを求めた。その結果を
図1にそれぞれ示す。
なお、
図1において、測定試料と配合割合との関係は、以下のとおりである。
測定試料a:SFN/FN=0重量%/100重量%(比較試料)
測定試料b:SFN/FN=20重量%/80重量%
測定試料c:SFN/FN=40重量%/60重量%
測定試料d:SFN/FN=50重量%/50重量%
測定試料e:SFN/FN=80重量%/20重量%
測定試料f:SFN/FN=100重量%/0重量%(比較試料)
【0051】
試験例2
実施例1で得られた各測定試料a~fについて、その磁化曲線を求めた。その結果を
図2にそれぞれ示す。
なお、
図2において、測定試料と配合割合との関係は、以下のとおりである。
測定試料a:SFN/FN=0重量%/100重量%(比較試料)
測定試料b:SFN/FN=20重量%/80重量%
測定試料c:SFN/FN=40重量%/60重量%
測定試料e:SFN/FN=80重量%/20重量%
測定試料f:SFN/FN=100重量%/0重量%(比較試料)
【0052】
試験例3
第1粉末と第2粉末との配合割合を変えて実施例1と同様にして作製した測定試料について、その配合割合(FN含有量)と磁化との関係について調べた。その結果を
図3に示す。
【0053】
試験例4
第1粉末と第2粉末との配合割合を変えて実施例1と同様にして作製した測定試料について、その配合割合(FN含有量)と保磁力(保磁力Hc及び残留磁化Mr)との関係について調べた。その結果を
図4に示す。
【0054】
試験例5
第1粉末と第2粉末との配合割合を変えて実施例1と同様にして作製した測定試料について、その配合割合(FN含有量)と最大エネルギー積(BH)maxとの関係について調べた。その結果を
図5に示す。
【0055】
試験例6
測定試料eにおける磁気特性の温度依存性について調べた。その結果を
図6に示す。温度は、350K、450K及び550Kで設定した。
【0056】
試験例7
測定試料eの成形体断面を前記SEMにより観察した結果を
図7に示す。
図7中、符号Aに示すようにサブミクロンオーダーのSFN粒子であり、そのSFN粒子表面に苔のように付着している小さな粒子がFN粒子(符号Bで示す粒子)である。本発明材料は、FN粒子とSFN粒子との単なる混合粉末であっても良いが、
図7に示すようにSFN粒子表面にFN粒子が付着して一体化してなる複合粒子を含む粉末であっても良い。
【0057】
これらの結果からも明らかなように、本発明材料では、一次粒子の平均粒径が特定の範囲に制御されたFNとSNFとをブレンドすることによって、FNとSFNとの中間的な特性が確実に得られることがわかる。すなわち、FNよりも高い保磁力が得られるとともに、FN本来の特性(高い磁化等)も得られることがわかる。従って、本発明材料においては、両者の特性を活かした新たな用途の開拓が期待される。
【0058】
実施例2
FNとSFNとを表1に示す組成となるように混合したほかは、実施例1と同様にして混合粉末を調製した。
なお、FNのみからなる粉末(比較試料)については、FNの粉末をグローブボックス中でメノウ乳鉢ライカイ機にて均一に乾式にて粉砕・混合することによって全量として3gを調製した。
次いで、同グローブボックス中で得られた混合粉末又は比較試料を用いて圧粉体を作製した。より具体的には、樹脂バインダーとして、液状高粘性の熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)0.2gをアセトン3mLに溶解させてペーストを調製した。グローブボックス中で外部磁界2.0Tをかけた雰囲気下において、上記で用意した混合粉末又は比較試料に対して前記ペーストを添加して混合しながら、アセトンを蒸発させて粉末状の混合物を得た。この混合物を同グローブボックス中に配置した金型(7mm角、割子)に充填し、成形圧20.5tonf/cm2、温度約24℃、外部磁界2.6Tの条件下で3分間かけてプレス成形することにより所定の直方体の圧粉体(測定試料g,h,i,j)を得た。得られた圧粉体のサイズ、密度等を表2に示す。
【0059】
【0060】
実施例3
表1に示す組成を採用し、かつ、成形方法として成形圧10tonf/cm2、温度(約80℃)、外部磁界2.6Tの条件下で10分間かけて成形したほかは、実施例2と同様にして所定の直方体の圧粉体(測定試料k,l)を得た。得られた圧粉体のサイズ、密度等を表2に示す。
【0061】
試験例8
実施例2及び実施例3で得られた各圧粉体(測定試料g~l)の磁気特性(飽和磁化Ms、残留時間Mr等)を調べた。その結果を表2に示す。また、各圧粉体(測定試料g~l)のヒステリシスループを
図8(測定資料g)、
図9(測定資料h)、
図10(測定資料i)、
図11(測定資料j)、
図12(測定資料k)及び~
図13(測定資料l)に示す。各ヒステリシスループの「A」が磁化容易軸、「B」が磁化困難軸を示す。なお、
図8においては、磁化容易軸と磁化困難軸がほぼ一致しており、磁気的な配向はほとんど得られていない状態となっている。
【0062】
【0063】
これらの結果からも明らかなように、本発明の圧粉体はSFN、FNそれぞれ単独では得られない特異な物性を示すことがわかる。