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特許7108266オーバーラップ熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】オーバーラップ熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20220721BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018210042
(22)【出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2020075407
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】313016820
【氏名又は名称】興人フィルム&ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 大
(72)【発明者】
【氏名】柴田 良和
(72)【発明者】
【氏名】浜田 和宏
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-230122(JP,A)
【文献】特開昭64-043543(JP,A)
【文献】特開2011-116033(JP,A)
【文献】特開昭64-031838(JP,A)
【文献】国際公開第2012/029323(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの表面層Xと、これら表面層の間に設けられた少なくとも1つの内部層Yとを有する3層以上から構成される、ポリエチレン系多層フィルムであって、
該2つの表面層Xはそれぞれ独立してエチレン系樹脂94~98.5質量部、ゼオライト0.5~2質量部及び防曇剤1~4質量部を含む樹脂組成物から形成された層であり、
該少なくとも1つの内部層Yはエチレン系樹脂94~99質量部、ゼオライト0~2質量部及び防曇剤1~4質量部を含む樹脂組成物から形成された層であり、
ゼオライトはSiO/Alモル比が100以上であり、下記(a)~(c)の物性を満たす、オーバーラップ熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルム。
(a)ヘイズ値が5%以下であること
(b)120℃におけるヒートシール強度が1.5N/cm以上であること
(c)120℃におけるMD方向及びTD方向それぞれの熱収縮率が55%以上であること
【請求項2】
前記ゼオライトの平均粒径が0.5~10μmである、請求項1に記載のオーバーラップ熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオーバーラップ熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
青果物は、収穫後、光合成による生長ができなくなるので、呼吸により炭水化物等の貯蔵物質を分解し、生命維持に必要なエネルギーを獲得している。この呼吸作用により、青果物の劣化が進行し、鮮度が低下して、変色やしおれ等の品質低下を引き起こす。
呼吸作用は、青果物自身から放出されるエチレンガスや、青果物を加工する際のカットによる切断ストレス等によって促進され、鮮度低下に影響することが知られている。
したがって、生産者は、品質の良い青果物を消費地に送り届けるために、様々な鮮度維持の工夫をしており、その工夫手段の1つとして、プラスチックフィルムを使用した青果物の包装が挙げられる。
【0003】
鮮度保持を目的とした青果物包装袋として、1つまたは複数の孔が設けられた有孔合成樹脂フィルムから構成される青果物鮮度保持包装袋が提案されている(特許文献1)。該青果物鮮度保持包装袋は、いわゆるMA(Modified Atmosphere)包装袋であり、包装袋内の酸素濃度を調整し、また水蒸気透過を制御して、青果物の呼吸や水分の蒸散をコントロールし、鮮度保持性を高めたものである。
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案された青果物鮮度保持包装袋は、被包装物をタイトに包装することが難しいので、包装物内のエアー過多により、店頭で包装物を陳列する際に包装物同士が滑って積み重ね置きが難しく、また、包装物を段ボール箱に詰める際に嵩張って、輸送効率が良くない等の問題があった。
【0005】
そこで、上記の問題を解決すべく、熱収縮性フィルム(シュリンクフィルム)を用いて、青果物をタイトにオーバーラップして熱収縮包装する形態が普及しており、鮮度保持性を高めた熱収縮性フィルムとして、アイオノマー樹脂とアミド系滑剤とシリカ系ブロッキング防止剤と無機系抗菌剤から成る熱収縮性プラスチックフィルムが提案されている(特許文献2)。
【0006】
また、少なくとも表層/中心層/裏層の3層を有する積層構成からなり、中心層はポリアミド系樹脂を主成分とし、表層及び裏層はポリオレフィン系樹脂から選ばれた単独または混合樹脂を主成分とし、さらにフィルムの縦方向の50%引張り伸び応力が所定の範囲にあり、フィルムの横方向の50%引張り伸び応力が所定の範囲にあることを特徴とする食品包装用ストレッチシュリンクフィルムが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-206311号公報
【文献】特開平3-126741号公報
【文献】特開2007-15210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2で提案された熱収縮性プラスチックフィルムは熱収縮包装後に、内容物である青果物の蒸散等に起因する水分が熱収縮性プラスチックフィルム内面で水滴となる、いわゆる曇りが生じ、包装物の外観を損ねる虞があった。また、特許文献2の熱収縮性プラ
スチックフィルムでは、フィルムのヒートシール強度が低下し易く、青果物自動包装機にて、オーバーラップ熱収縮包装する際に、溶断シール部にピンホールやシール開きが発生し易いため、溶断シール部の美観性を損ねる懸念点を有していた。
【0009】
また、特許文献3で提案された食品包装用ストレッチシュリンクフィルムは、製袋品外部からの酸素取り込みが不十分である為、青果物の呼吸作用が進むにつれて、製袋品内の酸素濃度が著しく低下し、青果物が酸素を必要としない無気呼吸をし始め、エタノールやアセトアルデヒドなどを生成し異臭が生じる問題を有していた。
【0010】
そこで、本発明は、青果物をオーバーラップして熱収縮包装する形態において、包装後の青果物の鮮度保持期間を延長することができ、且つ、自動包装機における溶断シール性や収縮仕上がり性等の自動包装機適性に優れ、包装物の美観性を損ないにくいポリエチレン系熱収縮多層フィルムの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のSiO/Alモル比(以下、SAR値とも記載する。)を有するゼオライトを含む層を有し、かつ特定の物性値を満たすオーバーラップ熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルムが優れた鮮度保持性と透明性とを発現し、また自動包装機適性、とりわけ自動包装機における溶断シール性や収縮仕上がり性などにも優れることを見出し、本発明を完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、2つの表面層Xと、これら表面層の間に設けられた少なくとも1つの内部層Yとを有する3層以上から構成される、ポリエチレン系多層フィルムであって、
該2つの表面層X及び該少なくとも1つの内部層Yはそれぞれ独立してエチレン系樹脂94~99質量部、ゼオライト0~2質量部及び防曇剤1~4質量部を含む樹脂組成物から形成された層であり、
該2つの表面層X及び該少なくとも1つの内部層Yのうちの1層以上がゼオライトを含み、
該ゼオライトはSiO/Alモル比が100以上であり、
下記(a)~(c)の物性を満たす、オーバーラップ熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルムである。
(a)ヘイズ値が5%以下であること
(b)120℃におけるヒートシール強度が1.5N/cm以上であること
(c)120℃におけるMD方向及びTD方向それぞれの熱収縮率が55%以上であること
ここで、本発明の好ましい態様の1つは、2つの表面層Xと、これら表面層の間に設けられた少なくとも1つの内部層Yとを有する3層以上から構成される、ポリエチレン系多層フィルムであって、
該2つの表面層Xはそれぞれ独立してエチレン系樹脂94~98.5質量部、ゼオライト0.5~2質量部及び防曇剤1~4質量部を含む樹脂組成物から形成された層であり、
該少なくとも1つの内部層Yはエチレン系樹脂94~99質量部、ゼオライト0~2質量部及び防曇剤1~4質量部を含む樹脂組成物から形成された層であり、
該ゼオライトはSiO /Al モル比が100以上であり、下記(a)~(c)の物性を満たす、オーバーラップ熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルムである。
(a)ヘイズ値が5%以下であること
(b)120℃におけるヒートシール強度が1.5N/cm以上であること
(c)120℃におけるMD方向及びTD方向それぞれの熱収縮率が55%以上であること
【0013】
前記ゼオライトの平均粒径は0.5~10μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオーバーラップ熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルムは、優れた鮮度保持性と透明性とを有するという効果を奏する。
【0015】
また、本発明のオーバーラップ熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルムは、自動包装機適性、とりわけ自動包装機における溶断シール性や収縮仕上がり性などにも優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
<エチレン系樹脂>
本発明において、表面層X及び内部層Yの形成に用いられる樹脂組成物の内、エチレン
系樹脂とは、エチレンの単独重合体、及び/又は、エチレンと少量の他のモノマーとの共重合体である。ここでいう他のモノマーは特に限定されないが、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチル-ペンテン-1等のα-オレフィン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の金属イオン中和物等が挙げられる。
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸との総称であり、そのいずれか一方又は両方を指す。
【0017】
表面層X及び内部層Yの形成に用いられる樹脂組成物中のエチレン系樹脂の含有量は94~99質量部である。エチレン系樹脂は、収縮仕上がり性や自動包装機における溶断シール性等に優れた特徴を付与する作用を成す。表面層X及び内部層Yの形成に用いられる樹脂組成物中の防曇剤及びゼオライトに関して、それらに依る機能付与に必要な含有量を鑑みた点から、エチレン系樹脂に関しては、当該範囲での含有量が必要となる。
【0018】
<ゼオライト>
本発明において、表面層X及び/又は内部層Yの形成に用いられる樹脂組成物の内、ゼオライトとは、結晶性アルミノ珪酸塩の総称であり、一般式としては、M2/nO・Al・xSiO・yHOで示される。ここでMは金属陽イオンを意味し、nは金属陽イオンの原子価を意味し、xとyはぞれぞれSiO及びHOのモル数を意味する。
ここでいうゼオライトは特に限定されるものではなく、一般的に分類されている合成ゼオライト、人工ゼオライト、天然ゼオライト群の中から選ばれる。
ゼオライトは、青果物から放出されるエチレンガスを吸収することで、青果物の呼吸を抑制し、鮮度保持性を付与する作用を成す。
【0019】
表面層X及び/又は内部層Yの形成に用いられる樹脂組成物中のゼオライトとしては、SAR値が100以上のものである。SAR値が100未満であると、多層フィルムの透明性が低下して、包装物の美観性を損ねる可能性がある。この透明性低下に関しては、ゼオライトのSAR値が低い程、ゼオライトの親水性が高くなるため、疎水性であるポリエチレンマトリックス中におけるゼオライトの分散性が不足することによるものと推測される。
また、上記ゼオライトとしては、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、Malvern Panalytical社製マスターサイザー3000)を使用して測定される平均粒径が0.5~1
0μmであることが好ましい。平均粒径が10μmを超えると多層フィルムの透明性が低下して、包装物の美観性を損ねる可能性があるので、好ましくなく、平均粒径が0.5μm未満では、ゼオライトの製造コストアップとなり、多層フィルムのコストパフォーマンスが低下する為、好ましくない。
【0020】
本発明において、表面層X及び内部層Yの形成に用いられる樹脂組成物中、ゼオライトの含有量は、青果物の鮮度保持性と包装物の美観性との両立の観点から、0~2質量部であり、かつ2つの表面層X及び少なくとも1つの内部層Yのうちの1層以上は必ずゼオライトを含有する。ゼオライトを含有させないと目的とする青果物の鮮度保持性が得られず、またゼオライトを表面層X及び/又は内部層Yに2質量部を超えて含有させると、多層フィルムの透明性が低下し、包装物の美観性を損ねる可能性がある。
【0021】
<防曇剤>
本発明において、表面層X及び内部層Yの形成に用いられる樹脂組成物の内、防曇剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸コハク酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン-グリセリン系縮合脂肪酸エステル、ソルビタン-ジグリセリン系縮合脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどの多価アルコール部分脂肪酸エス
テル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルなどのエチレンオキサイド付加物、さらにソルビトールにプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドを付加した後にエステル化して得られるソルビトール誘導体、アルキルアミン、アルキルアミド、アルキルエタノールアミン、脂肪酸ジエタノールアミドなどのアミン、アミド類およびそれらのエチレンオキサイド付加物、ポリアルキレングリコール等の非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤及びその他公知のものが挙げられる。
防曇剤は、1種単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0022】
青果物をオーバーラップして包装する場合、エチレン系樹脂からなるプラスチックフィルムは、表面が疎水性であるので、青果物からの蒸散等で、プラスチックフィルム表面に付着した水分が水滴となって曇りが生じ、被包装物の識別性を低下させる。
これに対し、本発明は防曇剤を使用することにより、プラスチックフィルム表面に防曇剤を存在させて、プラスチックフィルム表面を親水化することで、水滴では無く水膜にすることができるので、曇りの発生を抑え、被包装物を包装する多層フィルムとして適切な外観を得ることができる。
【0023】
本発明において、表面層X及び内部層Yの形成に用いられる樹脂組成物中、防曇剤の含有量は、多層フィルムの防曇性と押出成形性の両立の観点から、1~4質量部である。表面層X及び内部層Yへの含有量が1質量部未満では目的とする防曇効果が十分に得られない可能性があり、4質量部を超えると、押出成形性が低下する可能性がある。
【0024】
なお、本発明において、本発明の目的に支障をきたさない範囲内であれば、滑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、酸化防止剤等の添加剤をそれぞれの有効な性能を発揮させる目的で適宜使用することができる。
【0025】
また、本発明において、本発明の目的に支障をきたさない範囲内であれば、表面層Xの形成に用いられる樹脂組成物に内部層Yの形成に用いられる樹脂組成物を混合してもよく、また、内部層Yの形成に用いられる樹脂組成物に表面層Xの形成に用いられる樹脂組成物を混合してもよい。これにより、要求される特性に応じて諸物性の調整を行う事が出来、またフィルム製造時に発生するトリムや規格外品等の再利用樹脂を混合使用する事も出来る。
【0026】
本発明の層構成は、2つの表面層Xと、これら表面層の間に設けられた少なくとも1つの内部層Yとを有する3層以上からなり、例えばX/Y/X、X/X+Y/Xの3層構成、X/X+Y/Y/X+Y/X、X/Y/X+Y/Y/X等の5層構成が挙げられる。中でも、X+Y層を設けた層構成は、諸物性の調整や再利用樹脂の混合使用がやりやすくなり、好適である。内部層Y、両表面層X以外の層については本発明の目的に支障をきたさない範囲内であれば、特に制限はない。
【0027】
本発明の各層の厚み構成比については、本発明の目的を達し得る範囲内であれば、特に限定されない。本発明の多層フィルム全体の厚みも特に限定されないが、熱収縮性包装材料用途としては7~35μmであることが好ましい。
【0028】
本発明の多層フィルムの物性については、ヘイズ値が5%以下であり、120℃におけるヒートシール強度が1.5N/cm以上であり、120℃におけるMD方向及びTD方向それぞれの熱収縮率が55%以上であることを満たす必要がある。
ヘイズ値が5%を超えると、被包装物を容易に識別し、商品価値を低下させないために必要な透明性が得られない可能性がある。120℃におけるヒートシール強度が1.5N
/cm未満である場合は、青果物を自動包装する際の溶断シール性が低下し、溶断シール部にピンホールや開きが発生し、包装物の外観を損ねる可能性がある。また、120℃におけるMD方向及びTD方向それぞれの熱収縮率が55%未満である場合には、青果物を自動包装する際の収縮仕上がり性が低下し、包装物の外観を損ねる可能性がある。
【0029】
本発明の多層フィルムを用いた青果物の包装形態については、本発明の多層フィルムを用いて、カットしていない青果物を又は二つ以上にカットした青果物を、オーバーラップして熱収縮包装する形態が、店頭等での包装物の積み重ね置き適性や、包装物の輸送効率の観点で好ましい。
【0030】
例えば、本発明の多層フィルムは、日本ポリスター(株)製の野菜包装機PAW-6000BやPAW-9000Bなどの包装機などに使用することにより、青果物をオーバーラップして熱収縮包装することができる。これにより、本発明の多層フィルムはタイトに被包装物を包装することができるので、包装物を店頭で陳列する際、重ね置きすることができ、また、該包装物を段ボール箱に詰める際、嵩張らない為、輸送効率に優れるという効果をも有する。
上記で例示した包装機は、ピロー包装の三方ヒートシールされた製袋方式で、縦シールがローレットであり、横シールがシールアンドカットのヒートシール方式である。また、該包装機は被包装物の縦サイズを自動測長して、フィルムのカット長を、予め設定した余尺になるように自動設定するシステム(PAMS)を採用しており、形状の異なる被包装物であっても、被包装物に最適な製袋サイズに自動包装することができる。この包装機に熱収縮トンネルを付設して、熱収縮包装することにより、タイトな収縮仕上がりが得られる収縮包装体を製造することができる。
【0031】
[熱収縮包装用ポリエチレン系多層フィルムの製造方法]
次に、本発明の多層フィルムの製造方法を例示する。
前記の樹脂組成物を用いて製造した多層フィルムを、公知の縦横同時2軸延伸方法で延伸する。延伸倍率は縦横とも3~7倍であることが好ましい。3倍未満では、得られる多層フィルムの熱収縮率が低く、満足な収縮仕上がり性が得られない可能性があるので、好ましくなく、7倍を超えると、多層フィルムの引裂強度が低下する虞があるので、好ましくない。
また、本発明の目的に支障をきたさない範囲内であれば、多層フィルムに耐熱性を付与して収縮仕上がり性を向上させる等の目的で、電子線等により、多層フィルムの架橋処理を適宜施しても良い。
【0032】
以下、5層積層環状製膜延伸の場合を例に挙げ、具体的に説明する。
まず、エチレン系樹脂、ゼオライト及び防曇剤を含む樹脂組成物から形成された層が両表面層に、エチレン系樹脂及び防曇剤を含む樹脂組成物から形成された層が両中間層に、エチレン系樹脂及び防曇剤を含む樹脂組成物から形成された層が芯層になるように、3台或いは5台の押出機により溶融混練し、押出機先端に接合された5層構成の環状ダイより環状に共押出し、延伸することなく一旦急冷固化してチューブ状未延伸多層フィルムを作製する。次いで、電子線照射装置にて、チューブ状未延伸多層フィルムの両面に電子線を照射し、架橋チューブ状未延伸多層フィルムを作製する。得られた架橋チューブ状未延伸多層フィルムを、チューブラー延伸装置に供給し、高度の配向可能な温度範囲で再加熱し、チューブ内部にガス圧を適用して膨張延伸により、縦横とも延伸倍率3~7倍で同時二軸配向を起こさせる。延伸装置から取り出した多層フィルムは、所望により熱処理やアニーリングすることができ、これにより保存中の自然収縮を抑制することができる。
【実施例
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定され
るものではない。
なお、実施例及び比較例おける測定及び評価の方法は、以下に示す通りに行った。
1.フィルム厚み:JIS-Z1709に準じて測定した。
2.厚み比:フィルムの断面を顕微鏡で観察することにより測定した。
3.ヘイズ値:JIS-K7105に準じて測定した。
4.ヒートシール強度:テスター産業(株)製ヒートシールテスター(型式:TP-701-B)を用い、120℃に温調された幅10cmのヒートシールバーにて、二枚に重ねたフィルムを、ゲージ圧力0.8kgf/cm、シール時間1.0秒でシールした。その後、フィルムを15mm幅に切り出して、シール部を剥離するように引っ張り試験機のつかみ器具に装着し、シール強度をJIS-Z1707に準拠して測定した。
5.熱収縮率:ASTM-D1204に準じて120℃で測定した。
【0034】
6.包装評価:日本ポリスター(株)製の野菜自動包装機(型式:PAW-9000B)にて、市販の1/4カットした白菜を適切な製袋余裕率条件で予備包装し、フィルムの耐熱限界5℃手前に設定した収縮トンネル内を5秒間滞留させ、トンネル通過後の包装サンプルの中から無作為に10個を選び、鮮度保持性、溶断シール性、収縮仕上がり性及び透明性を以下の基準で評価した。
<鮮度保持性>
○:包装サンプルを包装後直ぐに10℃雰囲気下で静置し、3日経過後、被包装物である白菜において、変色、しおれ、腐敗等の鮮度低下の見られないものが10個中8個以上。△:包装サンプルを包装後直ぐに10℃雰囲気下で静置し、3日経過後、被包装物である白菜において、変色、しおれ、腐敗等の鮮度低下の見られないものが10個中3~7個。×:包装サンプルを包装後直ぐに10℃雰囲気下で静置し、3日経過後、被包装物である白菜において、変色、しおれ、腐敗等の鮮度低下の見られないものが10個中2個以下。<溶断シール性>
○:包装サンプルの溶断シール部にピンホールやシール開きが見られない、良好な溶断シール性が得られる溶断シール温度範囲が存在する。
×:包装サンプルの溶断シール部にピンホールやシール開きが見られない、良好な溶断シール性が得られる溶断シール温度範囲が存在しない。
<収縮仕上がり性>
○:収縮フィルムと被包装物とのタイト感は十分あり、また包装サンプルの四隅の角立ちが殆ど無い。
×:収縮フィルムと被包装物とのタイト感が不十分である、または、包装サンプルの四隅の角立ちが大きく、外観を損ねる。
<透明性>
○:収縮フィルムの透明性が良好で、被包装物の識別が容易にできる。
×:収縮フィルムの透明性が不良であるため、被包装物の識別が困難である、または、識別が出来ても包装物の外観を損なうため、包装物の商品価値を低下させる。
【0035】
実施例1
表1に示すように、密度0.913g/cm、メルトインデックス(以下、MIとも表記する。)2.4g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)95.5質量部、平均粒径1μm、SAR値2000超の合成ゼオライト(B1)1.5質量部及び防曇剤(C1)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステル/ポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量比=20/70/10の混合物)3質量部からなる樹脂組成物を両表面層とし、密度0.920g/cm、MI0.5g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A2)98質量部及び防曇剤(C2)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステルの質量比=50/50の混合物)2質量部からなる樹脂組成物を両中間層とし、密度0.905g/cm、MI0.8g/10分の超低密度ポリエチレン(A3)98質量部及び防曇剤(C2)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂
肪酸エステルの質量比=50/50の混合物)2質量部からなる樹脂組成物を芯層とし、3台の押出機で溶融混練した後、厚み比が1/1/4/1/1になるように各押出機の押出量を設定し、5層環状ダイスにより下向きに共押出した。形成された5層構成チューブを、内側は冷却水が循環している円筒状冷却マンドレルの外表面を摺動させながら、外側は水槽を通すことにより冷却して引き取り、未延伸多層フィルムを得た。このチューブ状未延伸多層フィルムの両面に、日新ハイボルテージ社製の電子線照射装置を用いて、110kGyの照射条件で電子線照射を行った後、架橋チューブ状未延伸多層フィルムをチューブラー二軸延伸装置に導き、樹脂融点付近の温度まで加熱し、縦横それぞれ6倍に延伸し、フィルム厚み10μmの二軸延伸多層フィルムを得た。
得られたフィルムは、鮮度保持性、溶断シール性、収縮仕上がり性及び透明性のいずれもが良好であった。
【0036】
実施例2
表1に示すように、密度0.913g/cm、MI2.4g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)97質量部、平均粒径6μm、SAR値400の合成ゼオライト(B2)1質量部及び防曇剤(C1)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステル/ポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量比=20/70/10の混合物)2質量部からなる樹脂組成物を両表面層とし、密度0.920g/cm、MI0.5g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A2)78質量部、密度0.964g/cm、MI5.2g/10分の高密度ポリエチレン(A4)20質量部及び防曇剤(C2)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステルの質量比=50/50の混合物)2質量部からなる樹脂組成物を両中間層とし、厚み比を1/1/5/1/1とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み10μmの二軸延伸多層フィルムを得た。
得られたフィルムは、鮮度保持性、溶断シール性、収縮仕上がり性及び透明性のいずれもが良好であった。
【0037】
実施例3
表1に示すように、密度0.913g/cm、MI2.4g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)98.5質量部、平均粒径3μm、SAR値105の合成ゼオライト(B3)0.5質量部及び防曇剤(C1)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステル/ポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量比=20/70/10の混合物)1質量部からなる樹脂組成物を両表面層とし、厚み比を1/1/3/1/1とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み10μmの二軸延伸多層フィルムを得た。
得られたフィルムは、鮮度保持性、溶断シール性、収縮仕上がり性及び透明性のいずれもが良好であった。
【0038】
実施例4
表1に示すように、密度0.913g/cm、MI2.4g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)97質量部、平均粒径1μm、SAR値2000超の合成ゼオライト(B1)1質量部及び防曇剤(C1)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステル/ポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量比=20/70/10の混合物)2質量部からなる樹脂組成物を両表面層とした以外は、実施例2と同様の方法で、フィルム厚み10μmの二軸延伸多層フィルムを得た。
得られたフィルムは、鮮度保持性、溶断シール性、収縮仕上がり性及び透明性のいずれもが良好であった。
【0039】
実施例5
表1に示すように、密度0.913g/cm、MI2.4g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)96質量部、平均粒径3μm、SAR値105の合成ゼオライト(
B3)1質量部及び防曇剤(C1)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステル/ポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量比=20/70/10の混合物)3質量部からなる樹脂組成物を両表面層とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み10μmの二軸延伸多層フィルムを得た。
得られたフィルムは、鮮度保持性、溶断シール性、収縮仕上がり性及び透明性のいずれもが良好であった。
【0040】
比較例1
表2に示すように、密度0.913g/cm、MI2.4g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)97質量部及び防曇剤(C1)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステル/ポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量比=20/70/10の混合物)3質量部からなる樹脂組成物を両表面層とした以外は、実施例1と同様の方法で、フィルム厚み10μmの二軸延伸多層フィルムを得た。
得られたフィルムは、溶断シール性、収縮仕上がり性及び透明性については良好なものの、鮮度保持性が不十分な結果であった。
【0041】
比較例2
表2に示すように、密度0.913g/cm、MI2.4g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)96質量部、金属微粒子抗菌剤(D1)2質量部及び防曇剤(C1)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステル/ポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量比=20/70/10の混合物)2質量部からなる樹脂組成物を両表面層とした以外は、実施例2と同様の方法で、フィルム厚み10μmの二軸延伸多層フィルムを得た。
得られたフィルムは、鮮度保持性及び収縮仕上がり性については良好なものの、ヒートシール強度が低いため溶断シール性が不十分であり、また、ヘイズ値が高く、透明性が劣る結果であった。
【0042】
比較例3
表2に示すように、密度0.913g/cm、MI2.4g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)96質量部、平均粒径4μm、SAR値30の合成ゼオライト(B4)1質量部及び防曇剤(C1)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステル/ポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量比=20/70/10の混合物)3質量部からなる樹脂組成物を両表面層とした以外は、実施例3と同様の方法で、フィルム厚み10μmの二軸延伸多層フィルムを得た。
得られたフィルムは、鮮度保持性、溶断シール性及び収縮仕上がり性については良好なものの、ヘイズ値が高く、透明性が劣る結果であった。
【0043】
比較例4
表2に示すように、密度0.913g/cm、MI2.4g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(A1)95質量部、平均粒径3μm、SAR値3の合成ゼオライト(B5)3質量部及び防曇剤(C1)(グリセリン脂肪酸エステル/ポリグリセリン脂肪酸エステル/ポリオキシエチレンアルキルエーテルの質量比=20/70/10の混合物)2質量部からなる樹脂組成物を両表面層とした以外は、実施例4と同様の方法で、フィルム厚み10μmの二軸延伸多層フィルムを得た。
得られたフィルムは、鮮度保持性、溶断シール性及び収縮仕上がり性については良好なものの、ヘイズ値が高く、透明性が劣る結果であった。
【0044】
比較例5
表2に示すように、延伸倍率を縦横それぞれ2.5倍とした以外は、実施例5と同様の方法で、フィルム厚み10μmの二軸延伸多層フィルムを得た。
得られたフィルムは、鮮度保持性、溶断シール性及び透明性については良好なものの、熱収縮率が低いため、収縮仕上がり性が不十分であった。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のポリエチレン系多層フィルムは、青果物をオーバーラップして熱収縮包装する形態において、包装後の青果物の鮮度保持期間を延長することができ、且つ、自動包装機における溶断シール性や収縮仕上がり性等の自動包装機適性に優れ、包装物の美観性を損ないにくい熱収縮性包装材料として好適に用いることができる。