(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】化学研磨処理液及び金属材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23F 3/04 20060101AFI20220721BHJP
C23F 1/38 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C23F3/04
C23F1/38
(21)【出願番号】P 2018166184
(22)【出願日】2018-09-05
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000232656
【氏名又は名称】日本表面化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】香取 光臣
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 和幸
(72)【発明者】
【氏名】長沢 壮平
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106281813(CN,A)
【文献】国際公開第2015/002272(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 3/00
C23F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学研磨処理液であって、
(1)10g/L以上の少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物、
(2)35%過酸化水素水を添加したときの濃度に換算して、50g/L以上の過酸化水素、
(3)10g/L以上の塩化物イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンから選択される少なくとも一種のイオン、
(4)1g/L以上のアルキルカルボン酸、これらのエステル化物及びこれらの塩から選択される少なくとも1種、及び
(5)0.01g/L以上の少なくとも1種の非イオン性界面活性剤
を含有し、
フッ素化合物の合計濃度は0.01g/L以下である、化学研磨処理液。
【請求項2】
金属材料の化学研磨処理に用いられる請求項1の化学研磨処理液であって、
前記金属材料が、チタン及びチタン合金から選択される少なくとも1種である、化学研磨処理液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化学研磨処理液であって、前記
(4)が
アルキルカルボン酸である、化学研磨処理液。
【請求項4】
金属材料の製造方法であって、
前記金属材料を請求項1~3いずれか1項に記載の化学研磨処理液に浸漬する工程を含む、該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明には、化学研磨処理液、及びこれを用いた金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン及びチタン合金は、空気中の酸素と反応する事で表面に強固な酸化膜を形成することができる。この酸化膜の存在により、チタン及びチタン合金は腐食環境下においても高い耐食性を実現することができる。さらに言えば、チタン及びチタン合金は、軽量であり、且つ生体親和性が高い(例えば、金属アレルギーを引き起こしにくい)。こうした耐食性、軽量性、及び生体親和性等の理由から、医療など様々な用途に適用されている。
【0003】
チタン及びチタン合金の表面を研磨することで、表面を平滑化し、これにより細菌の繁殖を抑制することができる。一方で、完全に平滑化するのではなく、表面に微細な凹凸を形成してもよい。これにより、メッキなどの更なる後工程処理によるメッキ層との密着性を向上させることができる。
【0004】
特許文献1では、チタン又はチタン合金の化学研磨方法を開示している。当該文献では、特定のフッ素化合物を含んだ化学研磨液を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、チタン及びチタン合金の表面には強固な酸化膜が形成される。従って、チタン及びチタン合金は、研磨する際に一般的に使用される酸やアルカリによる浸食に強い。このことが、チタン及びチタン合金の表面加工処理を困難にしている。
【0007】
従来技術においては、化学的に強固な酸化膜を除去し、更に表面を均一且つ平滑に研磨すること、及び表面に均一且つ微細な凹凸を形成することを目的として、フッ素化合物が使用されてきた。
【0008】
フッ素化合物としては、フッ酸、及びフッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウムなどが挙げられる。特許文献1では、これらに硝酸及び過酸化水素を組み合わせて使用することが開示されている。
【0009】
しかし、フッ素化合物は、腐食性が非常に高く、従って、毒性が非常に高い。フッ素化合物の取り扱いに関する事故が発生した場合、人体へ危険を及ぼすだけでなく、環境への悪影響を及ぼすことになる。よって、フッ素化合物の取り扱いには細心の注意を払う必要があった。
【0010】
また、フッ素化合物を使用した後の廃棄物の処理についても厳しい規制がある。従って、廃棄物の処理にコストがかかっていた。
【0011】
こうした人体への安全性や環境への悪影響等に鑑み、本発明は、フッ素化合物を実質的に使用することなく、従来の化学研磨処理液(即ち、フッ素化合物を含有する化学研磨処理液)と比べて遜色の無い化学研磨処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究した結果、以下の事象を見出した。まず、チタンを研磨する薬剤において、チタン表面の酸化膜を除去および化学研磨する為に用いられるフッ素化合物を使用しないことで、安全性と環境問題に対応できる。
【0013】
しかし、それだけでは不十分であり、その理由として、フッ素化合物以外の酸系化合物ではチタンの酸化膜を除去および化学研磨する事が難しいという問題が残る。そこで、本発明者は、フッ素化合物に代替物として、特定の成分の組み合わせを用いた。より具体的には、(1)少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物と、(2)過酸化水素と、(3)塩化物イオン、硫酸イオンおよび硝酸イオンから選択される少なくとも一種のイオンとを組み合わせて使用した。これにより、チタン表面の酸化膜の除去と研磨を同時に行なうことができることを見出した。そして、加工後のチタン表面は、従来技術によって加工されたチタン表面と遜色ないことを見出した。
【0014】
以上の知見に基づいて完成された本発明は、一側面において以下の発明を包含する。
(発明1)
化学研磨処理液であって、
(1)少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物、
(2)過酸化水素、
(3)塩化物イオン、硫酸イオンおよび硝酸イオンから選択される少なくとも一種のイオン、
(4)有機酸及びこれらの塩から選択される少なくとも1種、及び
(5)少なくとも1種の非イオン性界面活性剤
を含有し、
フッ素化合物を実質的に含有しない、化学研磨処理液。
(発明2)
金属材料の化学研磨処理に用いられる発明1の化学研磨処理液であって、
前記金属材料が、チタン及びチタン合金から選択される少なくとも1種である、化学研磨処理液。
(発明3)
発明1又は2に記載の化学研磨処理液であって、前記有機酸がカルボン酸である、化学研磨処理液。
(発明4)
金属材料の製造方法であって、
前記金属材料を発明1~3いずれか1つに記載の化学研磨処理液に浸漬する工程を含む、当該方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一側面において、化学研磨処理液はフッ素化合物を実質的に含有しない。これにより、人体への安全性を確保することができ、そして、環境への悪影響を低減させることができる。また、本発明の一側面において、化学研磨処理液は光沢処理及び粗面化処理のいずれにおいても、均一性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0018】
0.定義
(1)光沢処理
チタン酸化膜の除去と共に金属表面に平滑な表面状態を生み出し、光沢のある意匠を得るものであり、
目視およびマイクロスコープによる外観が均一な表面状態であること、
光沢度が80以上であること
表面粗さRaが0.45以下であること
これら全てを満たすものとして定義する。
(2)粗面化処理
チタン酸化膜の除去と共に金属の表面に微細な凹凸を生み出し、梨の皮の表面のような粗面かつ光沢の低い意匠とを得るものであり、
目視およびマイクロスコープによる外観が均一な表面状態であること
光沢度が20以下であること
表面粗さRaが1.5以上であること
これら全てを満たすものとして定義する。
【0019】
1.化学研磨処理液
一実施形態おいて、本発明は、化学研磨処理液を包含する。前記化学研磨処理液は、少なくとも以下の成分を包含することができる:
(1)少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物、
(2)過酸化水素、
(3)塩化物イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンから選択される少なくとも一種のイオン、
(4)有機酸及びこれらの塩から選択される少なくとも1種、及び
(5)少なくとも1種の非イオン性界面活性剤
【0020】
1-1.アルカリ金属水酸化物
アルカリ金属水酸化物は、加工後の外観に寄与する成分である。アルカリ金属水酸化物の種類は特に限定されないが、例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物の濃度は特に限定されないが、10~300g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは50~100g/Lである。上記の範囲だと、金属材料の表面の加工状態を制御しやすくなる。例えば、濃度を低くすると光沢のある外観が得られる。一方で、濃度を高くすると、粗面外観(梨の皮の表面のような)を得ることができる。
【0021】
1-2.過酸化水素
アルカリ金属水酸化物と同様、過酸化水素も、加工後の外観に寄与する成分である。過酸化水素の濃度は、特に限定されないが、35%過酸化水素水を添加したときの濃度に換算して、50~500g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは100~300g/Lである(例えば、50g/Lの場合、35%過酸化水素水を含めた全体で1L中に、50gの35%過酸化水素水が含まれる)。上記の範囲だと、金属材料の表面の加工状態を制御しやすくなる。例えば、濃度を低くすると光沢のある外観が得られる。一方で、濃度を高くすると、粗面外観(梨の皮の表面のような)を得ることができる。
【0022】
1-3.塩化物イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンから選択される少なくとも一種のイオン
これらのイオンは、均一且つ安定した表面を得ることに寄与する。また、塩化物イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンは、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩から選択される1種以上の塩形態で提供されてもよい。これらのイオンの合計濃度は、特に限定されないが、10~400g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは20~200g/Lである。前記範囲だと、均一且つ安定した表面を得ることができる。
【0023】
1-4.有機酸及びこれらの塩
有機酸及びこれらの塩の種類については、特に限定されないが、カルボン酸が好ましく、更に好ましくはアルキルカルボン酸である。化合物中のカルボン基の数は特に限定されず、1~3のいずれかであってもよい。前記アルキルカルボン酸のアルキル基については、直鎖状及び分岐状のいずれかであってもよい。
【0024】
更には、カルボン酸は、エステル化されてもよい。カルボン酸の具体例として、以下が挙げられる:シュウ酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、マロン酸。また、エステル化されたカルボン酸の具体例として、以下が挙げられる:メチルエステル化、エチルエステル化、ブチルエステル化。これらのエステル化は、モノエステル化に限定されず、ジエステル化、トリエステル化等も包含される。
【0025】
有機酸塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩形態で提供されてもよい。
【0026】
特に好ましい有機酸の例としては、乳酸、乳酸塩及びこれらのエステル化物、並びにシュウ酸、シュウ酸塩、及びシュウ酸エステル化物が挙げられる。これらの好ましい有機酸は、均一性に優れた外観を実現することができる。
【0027】
有機酸及びこれらの塩の合計濃度は、特に限定されないが、1~200g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは5~100g/Lである。有機酸及びこれらの塩の濃度が低すぎる場合、長期間使用したときに(特に、不純物が増えたときに)、研磨不足等の原因で外観が不均一になる可能性がある。有機酸及びこれらの塩の濃度が高すぎる場合、沈殿等が発生する可能性、及び、経済的に不利となる可能性がある。
【0028】
1-5.非イオン性界面活性剤
非イオン性界面活性剤は、材料の保護、及び均一且つ安定した研磨表面に寄与することができる。界面活性剤には、アニオン性、カチオン性、両性、非イオン性等の界面活性が挙げられる。しかし、これらの利点を実現する目的から、非イオン性界面活性剤が好ましい。好ましい非イオン性界面活性剤として、脂肪族ポリエーテル、アルキルポリエチレンオキサイドアルコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ノニルフェニルエトキシレート等などが挙げられる。非イオン性界面活性剤の合計濃度は特に限定されないが、0.01~10g/Lの範囲が好ましく、より好ましくは0.1~5g/Lである。
【0029】
1-6.その他の含有成分
一実施形態において、本発明は、上述した成分からなる化学研磨処理液を包含する。別の一実施形態において、本発明は、上述した成分に加えて、他の成分を更に含有する化学研磨処理液を包含する。他の成分としては、例えば、過酸化水素の安定剤として、フェノール誘導体が挙げられる。
【0030】
1-7.その他の除外成分
一実施形態において、本発明の化学研磨処理液は、特定の成分を除外する。更なる一実施形態において、本発明の化学研磨処理液は、フッ素化合物(ここで述べる「フッ素化合物」は単体のフッ素を含む)を実質的に含有しない。実質的に含有しないとは、金属材料の研磨に寄与しない程度の含有量であることを意味する。例えば、フッ素化合物の合計濃度は0.01g/L以下であってもよく、好ましくは0.0001g/L以下であってもよく、更に好ましくは、0.00001g/L以下であってもよく、最も好ましくは0g/Lである。これにより、人体への安全性が向上する。また、環境への悪影響も低減できる。更には、廃棄物処理に係るコストを低減することができる。
【0031】
1-8.溶媒
一実施形態において、本発明の化学研磨処理液は、水溶液である。即ち、有機溶媒を用いる必要がない。
【0032】
2.金属材料の製造方法
一実施形態において、本発明は、上述した化学研磨処理液を用いた金属材料の製造方法を含む。前記金属材料は、研磨処理が施される。
【0033】
2-1.研磨の種類
研磨には、化学研磨、物理研磨、電解研磨、化学機械研磨などが挙げられる。一実施形態において、本発明の方法では、化学研磨を行う。より具体的には、金属材料を、上述した化学研磨処理液中に浸漬してもよい。
【0034】
2-2.処理対象の金属
本発明の一実施形態において、処理対象の金属の例として、チタン及びチタン合金が含まれる。チタン合金はチタンを主成分とし(即ち各成分の中で最大量となる)、そして、他の副成分として、例えば、以下の元素から選択される:アルミニウム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、ニオブ、鉄、クロム、及びこれら1種以上の組み合わせ。
【0035】
2-2.前処理工程
上述した化学研磨を行う前に、金属材料に対して幾つかの処理を施してもよい。前処理の例としては、界面活性剤、無機酸イオン、水酸化物、及び金属イオンなどを含有する溶液を用いて処理することなどが挙げられる。これにより、金属材料の表面が洗浄され、且つ活性化される。
【0036】
2-3.化学研磨工程
上述したように、化学研磨工程においては、金属材料を、上述した化学研磨処理液に浸漬することができる。処理時の温度は、特に限定されないが、20~60℃で行なうことが好ましい。また、処理時間も、特に限定されないが、6分~60分が好ましく、10分以上が更に好ましい。上記範囲内だと、金属材料の表面の加工状態を制御しやすくなる。一方で、上記範囲外だと、例えば、温度が高すぎると、処理液の突沸、及び/又は素材の表面の過剰な研磨が発生する可能性がある。温度が低すぎると、反応が進行せず、十分に研磨が行なわれず、これにより不均一な外観となる可能性がある。処理時間が短すぎると、十分に研磨されない可能性がある。処理時間を60分超にしても、素材表面が過剰に研磨され、生産性の低下を招く可能性がある。
【0037】
上述した化学研磨工程は、少なくとも2つの処理に分類される(光沢処理と粗面化処理)。上述した条件範囲内で、適宜パラメータを設定することで、光沢処理及び粗面化処理を選択的に行うことができる。
【0038】
2-3-1.光沢処理
処理時の温度を低くすると、光沢のある外観を実現できる傾向が高くなる。ただし、温度の数値範囲については特に限定されない。この理由として、例えば、温度が高くても、他のパラメータの設定により光沢のある外観を実現できる可能性があるからである。他のパラメータについても同様の理由で、数値範囲については特に限定されない。
【0039】
温度以外の条件として、処理時間を短くすると、光沢のある外観を実現できる傾向が高くなる。
【0040】
2-3-2.粗面化処理
一方で、処理時の温度を高くすると、粗面化された外観を実現できる傾向が高くなる。また、処理時間を長くすると、粗面化された外観を実現できる傾向が高くなる。
【0041】
温度及び処理以外の条件として、少なくとも以下のいずれかの成分の濃度を高くすると、粗面化された外観を実現できる傾向が高くなる。
少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物、及び
過酸化水素
【0042】
2-4.後処理工程
上記化学研磨工程を経た後は、更なる表面処理を行ってもよい。表面処理の例としては、耐食性及び外観等の目的から、メッキ処理、化成被膜形成処理、オーバーコート処理、及び塗装処理などが挙げられる。これらの処理を行う場合には、上述した粗面化処理を行うことが望ましい。
【0043】
2-5.化学研磨後の金属材料の特性
上記化学研磨後、好ましくは、化学研磨直後の金属材料は、幾つかの優れた特性を有する。具体的には、光沢処理及び粗面化処理の両方において、均一性に優れた外観を得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、上述した本発明の実施形態同様、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0045】
3.金属材料の準備及び評価方法
金属材料として、チタンの試験片を準備した。当該試験片に対し、脱脂などの適当な前処理を施した。その後、化学研磨処理を施した。
【0046】
試験片の評価は、各実施例につき3例実施した。評価内容としては、目視による外観の確認と、光沢度計(日本電色工業株式会社製 PG-IIM)による光沢度の測定と、表面粗さ計(株式会社ミツトヨ製 SJ-400)による表面粗さRaの測定とを行なった。
【0047】
(1)目視による光沢の評価
目視により、光沢のある場合は「光沢」、光沢がなく、梨地状の粗面外観は「粗面」、光沢外観でも粗面外観でもない場合は「半光沢」とする。
【0048】
(2)目視による均一性の評価
目視により、観察した。「均一な表面状態の場合は○」、「表面が不均一な場合は×」とする。より具体的には、キーエンス製マイクロスコープVHX-5000を使用して、材料の表面を撮影した。当該機器が有する変換機能を用いて、撮影した画像を3D画像に変換した(
図1参照)。
【0049】
(3)光沢度の評価
一般的に用いられる光沢度計の60°における数字が大きければ素材に光沢があることを示し、光沢度計の示す数字が小さければ素材に光沢が無いことを示す。
【0050】
(4)表面粗さの評価
表面粗さの評価は算術平均粗さRaの値でRaの値が小さければ光沢状態を示し、Raの値が大きければ粗面状態を示す。
【0051】
上記の評価を元に後述の実施例における化学研磨後の表面状態を定義する。
(i)光沢
目視およびマイクロスコープによる外観が均一な表面状態であること、
光沢度が80以上であること
表面粗さRaを当該試験片上で5点測定し、その平均値が0.45以下であること
表面粗さRaを当該試験片上で5点測定し、その標準偏差が0.05以下であること
これら全てを満たすもの、均一が高く且つ光沢な状態として判定した。
【0052】
(ii)粗面
目視およびマイクロスコープによる外観が均一な表面状態であること
光沢度が20以下であること
表面粗さRaが1.5以上であること
表面粗さRaを当該試験片上で5点測定し、その標準偏差を算出する。その標準偏差を表面粗さRaの平均値で割り、パーセンテージで算出した値が15未満であること
これら全てを満たすものを、均一が高くかつ粗面状態として判定した。
【0053】
(iii)半光沢
目視およびマイクロスコープによる外観が不均一またはシミやムラが存在すること
光沢度が21~79であること
表面粗さRaが0.45超且つ1.5未満であること
表面粗さRaを当該試験片上で5点測定し、その標準偏差を算出する。その標準偏差を表面粗さRaの平均値で割り、パーセンテージで算出した値が15以上であること
これらのいずれかに該当するものを定義する。
【0054】
(実施例1)
適当な前処理を施した市販の純チタン板(表面積1dm2)を、水酸化ナトリウムを100g/L、35%過酸化水素水を200g/L、硫酸イオンが50g/Lになるように硫酸ナトリウムを添加、有機酸塩としてシュウ酸ナトリウムを50g/L、ノニルフェノールエトキシレート含有非イオン系界面活性剤を0.2g/L添加し、温度30℃に調整した処理液に20分間浸漬し、外観を評価した。
【0055】
(実施例2)
実施例1の水酸化ナトリウムの替わりに水酸化カリウムを使用して実施例1と同条件で試験を行なった。
【0056】
(実施例3~10)
実施例1の硫酸ナトリウムの替わりに表1に示す化合物を使用して実施例1と同条件で試験を行なった。
【表1】
【0057】
(実施例11~19)
実施例1のシュウ酸ナトリウムの替わりに表2に示す有機酸塩を使用して実施例1と同条件で試験を行なった。
【表2】
【0058】
(実施例20~24)
実施例1のシュウ酸ナトリウムの替わりに表3に示す有機酸化合物を使用して5g/Lを添加し、実施例1と同条件で試験を行なった。
【表3】
【0059】
(実施例25~27)
実施例1の非イオン系界面活性剤の替わりに表4に示す非イオン系界面活性剤を使用して5g/Lを添加し、実施例1と同条件で試験を行なった。
【表4】
【0060】
(実施例28~39)
実施例28~39については実施例1の化学研磨液中の各濃度条件を表5に示すように変化させて試験を行った。
【表5】
【0061】
(実施例40~43)
実施例40~43については、実施例1において、処理温度20℃(実施例40)、40℃(実施例41)、50℃(実施例42)、60℃(実施例43)で実施した。
【0062】
(実施例44~48)
実施例44~48については、実施例1において、処理時間10分(実施例44)、30分(実施例45)、40分(実施例46)、50分(実施例47)、60分(実施例48)で実施した。
【0063】
(実施例49~60)
実施例49~60においては実施例1の化学研磨液中の各濃度条件を表5(実施例28~39)に示すように変化させ、さらに処理温度50℃にて試験を行なった。
【0064】
(実施例61~72)
実施例61~72においては実施例1の化学研磨液中の各濃度条件を表5(実施例28~39)に示すように変化させ、さらに処理時間60分にて試験を行なった。
【0065】
(比較例1)
適当な前処理を施した市販の純チタン板(表面積1dm2)を市販のチタンおよびチタン合金向け研磨剤(チタニック99:製品名、日本表面化学株式会社製、フッ素化合物含有(フッ素化合物として約20g/L)、チタニック99A:650mL/L チタニック99B:350mL/L)を温度70℃に調整した処理液に10分浸漬し、チタン表面を研磨し、その外観を評価した。
【0066】
(比較例2)
適当な前処理を施した市販の純チタン板(表面積1dm2)を55%フッ化水素酸50(mL/L)と67.5%硝酸150(mL/L)からなる温度70℃に調整した研磨処理液に10分浸漬し、チタン表面を研磨し、その外観を評価した。
【0067】
(比較例3~5)
比較例3~5は適当な前処理を施した市販の純チタン板(表面積1dm
2)を表6に示す酸300mL/Lからなる温度70℃に調整した研磨処理液に30分間浸漬し、チタン表面を研磨し、その外観を評価した。
【表6】
【0068】
(比較例6)
比較例6として、実施例1の処理液から水酸化ナトリウムを抜いた処理液を用いた以外は実施例1と同条件で試験を行なった。
【0069】
(比較例7)
比較例7として、実施例1の処理液から過酸化水素水を抜いた処理液を用いた以外は実施例1と同条件で試験を行なった。
【0070】
(比較例8)
比較例8として、実施例1の処理液から硫酸ナトリウムを抜いた処理液を用いた以外は実施例1と同条件で試験を行なった。
【0071】
(比較例9)
比較例9として、実施例1の処理液からシュウ酸ナトリウムを抜いた処理液を用いた以外は実施例1と同条件で試験を行なった。
【0072】
(比較例10)
比較例10として、実施例1の処理液から非イオン系界面活性剤を抜いた処理液を用いた以外は実施例1と同条件で試験を行なった。
【0073】
(比較例11~12)
比較例11~12 については、実施例1において、温度10℃(比較例11)、80℃(比較例12)で実施した。
【0074】
(比較例13~14)
比較例13~14については、実施例1において、処理時間5分(比較例13)、80分(比較例14)で実施した。
【0075】
実施例1~72、比較例1~14について、外観及び均一性、光沢度、Raを評価した。評価結果を表7に示す。
【0076】
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表7-4】
【表7-5】
【表7-6】
【表7-7】
【表7-8】
【表7-9】
【表7-10】
【表7-11】
【表7-12】
【表7-13】
【0077】
いずれの実施例(光沢仕上がり)においても、Raの標準偏差が十分に低いものとなっていた。また、いずれの実施例(粗面仕上がり)においても、Raの標準偏差と平均値のパーセンテージが十分に低いものとなっていた。従って、全ての実施例において所望の均一性を実現することができた。
【0078】
一方で、比較例1~2では、所望の均一性は実現できているものの、処理液においてフッ素化合物が含まれていた。
【0079】
比較例3~11及び13では、半光沢状態であり、Raの標準偏差が大きかった。また、Raの標準偏差と平均値のパーセンテージが大きくなっていた。
【0080】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に提供することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。