(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】デンドリマー組成物ならびに壊死性腸炎および他の胃腸障害の処置における使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/60 20170101AFI20220721BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20220721BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220721BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220721BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220721BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220721BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20220721BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220721BHJP
A61K 31/7028 20060101ALI20220721BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220721BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220721BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220721BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220721BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220721BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220721BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220721BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220721BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220721BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20220721BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220721BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
A61K47/60
A61K47/54
A61K9/107
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/08
A61K49/00
A61K31/198
A61K31/7028
A61P29/00
A61P31/00
A61P35/00
A61P1/04
A61P31/04
A61P19/02
A61P11/00
A61P1/18
A61P9/10 101
A61P25/20
A61P25/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2018521536
(86)(22)【出願日】2016-10-26
(86)【国際出願番号】 US2016058763
(87)【国際公開番号】W WO2017074993
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2019-10-21
(32)【優先日】2015-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ハックカム, デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】カナン, スハタ
(72)【発明者】
【氏名】ランガラマヌジャム, カナン
(72)【発明者】
【氏名】ニノ, ディエゴ エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ザン, ファン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0180250(US,A1)
【文献】国際公開第2015/038493(WO,A1)
【文献】特表2015-526434(JP,A)
【文献】TEO IAN,PREVENTING ACUTE GUT WALL DAMAGE IN INFECTIOUS DIARRHOEAS WITH GLYCOSYLATED DENDRIMERS,EMBO MOLECULAR MEDICINE,2012年09月,VOL:4, NR:9,PAGE(S):866 - 881
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における炎症性胃腸障害および中枢神経系の関連した炎症を処置するための薬学的に許容される組成物であって、前記組成物が、末端のヒドロキシル基を介して1種または複数の抗炎症剤とコンジュゲートしたポリ(アミドアミン)(PAMAM)ヒドロキシル末端デンドリマーからなるデンドリマー複合体を含み、前記デンドリマー複合体が、血液脳関門を横切り、
前記組成物が、前記被験体に経口投与されることを特徴とする、薬学的に許容される組成物。
【請求項2】
前記PAMAMデンドリマーがG3、G4、G5またはG6 PAMAMデンドリマーである、請求項1に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項3】
前記PAMAMデンドリマーが、ジスルフィド結合を介して前記1種または複数の抗炎症剤にコンジュゲートしている、請求項1および2のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項4】
前記PAMAMデンドリマーが、SPDP、グルタチオン(GSH)、ガンマ-アミノ酪酸(GABA)、およびその組み合わせからなる群より選択される1種または複数のスペーサー化合物を介して前記1種または複数の抗炎症剤にコンジュゲートしている、請求項1から3のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項5】
処置される前記障害が、壊死性腸炎(NEC)である、請求項1から4のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項6】
前記組成物が、中枢神経系合併症を有する障害を有する前記被験体に投与されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項7】
前記抗炎症剤がN-アセチルシステインである、請求項1から6のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項8】
前記抗炎症剤がtoll様受容体4の阻害剤である、請求項1から6のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項9】
前記toll様受容体4の阻害剤が、式C
17H
27NO
9を有する2-アセトアミドピラノシドであるC34、またはその
塩である、請求項8に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項10】
前記障害が壊死性腸炎であり、前記デンドリマー複合体が、前記被験体における壊死性腸炎の1つまたは複数の症状を軽減するのに有効な量である、請求項1から9のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項11】
前記組成物が、抗興奮毒性剤または抗グルタメート剤にコンジュゲートしたデンドリマーからなるデンドリマー複合体をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項12】
前記組成物が、懸濁物、エマルジョン、錠剤、カプセルまたは洗浄液中に製剤化される、請求項1から11のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項13】
前記組成物が乳児用製剤中で製剤化される、請求項1から12のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項14】
前記PAMAMデンドリマーが、1種または複数の診断剤とさらにコンジュゲートしている、請求項1~13のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項15】
前記1種または複数の診断剤がフルオロフォアである、請求項14に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項16】
前記抗興奮毒性剤または抗グルタメート剤が、MK801、メマンチン、ケタミン、および1-MTからなる群から選択される、請求項11に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項17】
前記デンドリマー複合体が、前記被験体の体重1kg当たり約0.01mg~約100mgの投与量で投与されることを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項18】
前記処置される障害が、腹部敗血症および膵炎からなる群から選択される、請求項1~4、7~9および11~17のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項19】
前記炎症性胃腸障害が、消化管における炎症および神経炎症を含む、請求項1~4、7~9および11~17のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【請求項20】
前記被験体が早産幼児である、請求項1~19のいずれか一項に記載の薬学的に許容される組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2015年10月29日に出願されたU.S.S.N.62/248,063(その全体が本明細書に援用される)に対する優先権を主張する。
【0002】
連邦政府により資金供与を受けた研究または開発に関する陳述
この発明は、National Institutes of Health(NIH-NICHD)によってKannan RangaramanujamおよびSujatha Kannanにそれぞれ付与された契約1R01HD076901-01A1(KR)および1R01HD069562-01A1(SK)の下、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
この発明は、炎症性および/または感染性障害、例えば壊死性腸炎の処置および/または診断のためのポリ(アミドアミン)デンドリマーの経口製剤に関する。
【背景技術】
【0004】
壊死性腸炎(NEC)は、早産幼児の胃腸管に罹患する重度の炎症状態であり、腸壊死の突然の発病、続いて、症例の40%より多くおける全身性敗血症および死亡によって特徴付けられる。NECの発症から生き延びた小児のうちおよそ15%が、認知の重度欠損によって特徴付けられる重度の神経学的損傷を発病する。全身性炎症および神経炎症は、NECと関連した鍵となる公知の結果である。
【0005】
壊死性腸炎は、粘膜またはより深部の腸壊死によって特徴付けられる主に早産または病気の新生児の後天性疾患である。それは、新生児の中で最も一般的なGI緊急事態である。症状および徴候は、摂食不耐性、嗜眠、不安定な体温、腸閉塞、腹部膨満、胆汁性嘔吐、血便、便における物質の低減、無呼吸、および時々敗血症の徴候を含む。診断は、臨床的であり、画像化研究によって確認される。処置は主に支持的であり、経鼻胃吸引、非経口流体、TPNおよび抗生物質を含む。現在、早産幼児におけるNECおよびその関連した全身性炎症のための有効な治療的または予防的な手法は存在しない。壊死性腸炎を有し得る乳児のための処置は、通常の摂食を停止させること;胃にチューブを挿入することによって腸の中のガスを解放すること;静脈内流体および抗生物質薬を与えること;腹部X線、血液検査、および血液ガスの測定を用いて状態をモニタリングすることを含む。幼児は、腸の穿孔または腹壁の炎症(腹膜炎)があるならば外科手術を必要とする。外科手術は、死んだ腸組織を除去するために使用され、人工肛門形成術または回腸造瘻術を必要とすることがあり、腸が再接続され得る前に数週必要であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、胃腸管への送達の改善を提供することが本発明の目的である。
【0007】
胃腸管の炎症性および感染性障害、殊に腸炎を処置する手段を提供することは、本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
治療剤、予防剤および/または診断剤を送達するデンドリマーを含めた医薬組成物は、経口投与されることで、感染症、炎症およびがんの処置のために胃腸管、ならびに脳における標的細胞に達することができる。実施例によって実証されている通り、製剤は、早産幼児の胃腸管に罹患し、腸壊死の突然の発病、続いて症例の40%より多くにおける全身性敗血症および死亡によって特徴付けられる重症炎症状態である壊死性腸炎(NEC)を処置するのに有効であった。NECの発病は、腸上皮上での細菌受容体toll様受容体4(TLR4)の活性化を必要とし、これは脳の主要な免疫細胞であるミクログリアの活性化に至る。ミクログリア活性化は、マウスにおいて前頭前皮質のミエリンの喪失および認知機能欠損の発病をもたらす炎症性カスケードを開始する。重要なことに、マウスにおいて観察される構造的および炎症的変化は、剖検で得られるヒト脳の切片を免疫染色することによって明らかにされている通り、この疾患を発病するヒトにおいて観察される変化に酷似している。
【0009】
ポリ(アミドアミン)デンドリマーの経口投与は、胃腸(GI)管ならびに中枢神経系(CNS)における炎症を標的化し、機能改善を生成できる薬物を送達する。デンドリマーの経口投与は、炎症細胞におけるさらなる選択的局在化とともに、NECを有するマウスにおける消化管および脳の損傷部域におけるデンドリマーの著しい濃縮をもたらす。際だったことに、デンドリマーを使用する抗炎症剤(N-アセチルシステイン)の経口投与は、NECを有する動物における脳損傷および消化管損傷の劇的な改善をもたらす。損傷された消化管および脳におけるデンドリマーのこの選択的局在化は、経口デンドリマー製剤が、脳損傷をもたらす神経炎症を含めて、関連した全身性炎症の処置と一緒に、消化管を保存するNECの非外科的手術処置に有用であるはずであることを実証している。加えて、消化管および脳における炎症細胞中のフルオロフォアタグ化デンドリマーを選択的に局在化することによって、この技術は、NECの感度の良い検出のための診断用ツールを表すこともできる。
【0010】
好ましい実施形態では、デンドリマーは、デンドリマーにコンジュゲートされた抗炎症剤およびTLR4阻害剤の、消化管および脳への送達のために使用される。これは、消化管を保存するという非外科的手術選択肢、およびNECを有する早産新生児における関連した脳損傷の防止/処置を提供することで、GI管および脳の両方の損傷を防止または軽減する。診断剤を同時投与することによって、デンドリマーは、NECにおいて消化管および脳における炎症および損傷の非侵襲的なリアルタイム検出を提供するために使用することもできる。炎症に関連した細胞におけるデンドリマーナノデバイスの選択的局在化は、NECにおいて消化管および脳における炎症および損傷の非侵襲的なリアルタイム検出のための手法を提供する。好ましい診断薬は、非侵襲的な検出のためのインドシアニングリーンなど、ヒト使用に承認されたフルオロフォアである。
【0011】
好ましい製剤は、そこに結合されたN-アセチルシステインを有するPAMAデンドリマー(第4~6世代)を、TLR4阻害剤との組み合わせで含む。好ましいTLR4阻害剤は、TLR4シグナリングを阻害する小分子阻害剤、特にC34を含む{Neal、2013 PLoS One。2013年;8巻(6号):e65779頁}。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
炎症および感染症またはがんによって特徴付けられる胃腸障害を処置するための方法であって、前記障害の処置または診断のための1種または複数の治療剤、予防剤または診断剤と複合体化されたデンドリマーを含む薬学的に許容される組成物を被験体に経口投与することを含む、方法。
(項目2)
前記デンドリマーが、少なくとも1種の治療剤に共有結合したポリ(アミドアミン)(PAMAM)ヒドロキシル末端デンドリマーである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記PAMAMデンドリマーがG3、G4、G5またはG6 PAMAMデンドリマーである、項目2に記載の方法。
(項目4)
ジスルフィド結合を介して前記治療剤、前記予防剤または前記診断剤に連結されたPAMAMデンドリマーを含む、項目1から3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
SPDP、グルタチオン(GSH)、ガンマ-アミノ酪酸(GABA)、およびその組み合わせから本質的になる群より選択される1種または複数のスペーサー化合物を介してPAMAMデンドリマーに連結された治療剤、予防剤または診断剤を含む、項目2から4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
処置される前記障害が、壊死性腸炎(NEC)、腹部敗血症、肺炎、関節炎、膵炎およびアテローム性動脈硬化症からなる群より選択される、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記組成物が、中枢神経系合併症を有する障害を有する前記被験体に投与される、項目1から6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記治療剤が抗炎症薬である、項目1から7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記抗炎症性薬がtoll様受容体4の阻害剤である、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記治療剤が、式C
17
H
27
NO
9
を有する2-アセトアミドピラノシドであるC34、その塩または類似体である、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記障害が壊死性腸炎であり、治療剤と複合体化された前記デンドリマーが、前記被験体における壊死性腸炎の1つまたは複数の症状を軽減するのに有効な量での単位投与量にある、項目1から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
抗興奮剤(anti-excitatory agent)を含む、項目1から11のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
デンドリマー複合体が、ミクログリアおよびアストロサイトを局在化および標的化するための治療活性薬剤を含む、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
診断剤が前記デンドリマーと複合体化される、項目1から13のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記診断剤がフルオロフォアである、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記デンドリマーが、懸濁物、エマルジョン、錠剤、カプセルまたは洗浄液中に製剤化される、項目1から15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記デンドリマーが乳児用製剤中で製剤化される、項目1から16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
項目1から17のいずれか一項に記載の方法における使用のための組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
I.定義
「治療剤」という用語は、疾患または障害の1つまたは複数の症状を防止または処置するために投与することができる薬剤を指す。例は、以下に限定されないが、核酸、核酸類似体、小分子、ペプチド模倣物、タンパク質、ペプチド、炭水化物もしくは糖、脂質、または界面活性剤、あるいはその組み合わせを含む。
【0013】
「処置」という用語は、疾患、障害または状態の1つまたは複数の症状を防止または軽減することを指す。疾患または状態の処置は、根底にある病態生理学に影響がないとしても、特定の疾患または状態の少なくとも1つの症状を好転させる(ameliorate)ことを含み、例えば、鎮痛剤は疼痛の原因を処置しないが、このような薬剤を投与することによって被験体の疼痛を処置することなどである。
【0014】
「薬学的に許容される」という語句は、妥当な利益/リスク比に相応する、過度の毒性、刺激、アレルギー応答または他の問題もしくは合併症なく、健全な医学的判断の範疇内でヒトおよび動物の組織との接触における使用に適当である組成物、ポリマーおよび他の材料ならびに/または剤形を指す。「薬学的に許容される担体」という語句は、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクル、例えば、1つの器官または身体の一部から別の器官または身体の一部に任意の対象組成物を運搬または輸送するのに関与する液体または固体の充填剤、希釈剤、溶媒または封入材料を指す。各担体は、対象組成物の他の成分と適合性があり、患者に害がないという意味で「許容され」なければならない。
【0015】
「治療有効量」という語句は、任意の医学的処置に適用可能な妥当な利益/リスク比で何らかの所望の効果を生成する治療剤の量を指す。有効量は、処置されている疾患もしくは状態、投与されている特定の標的化構築物、被験体のサイズ、または疾患もしくは状態の重症度などの因子に依存して変動することができる。当業者は、過度の実験法を必要とすることなく、特定の化合物の有効量を経験的に決定することができる。
【0016】
II.製剤
A.デンドリマー
「デンドリマー」という用語は、本明細書で使用される場合、以下に限定されないが、内部コアを有する分子構造物、この開始剤コアに規則的に付着されている反復単位の内部層(または「世代」)、および最外側世代に付着されている末端基の外部表面を含む。デンドリマーの例は、以下に限定されないが、PAMAM、ポリエステル、ポリリシンおよびPPIを含む。PAMAMデンドリマーは、カルボキシル、アミンおよびヒドロキシル末端を有することができ、以下に限定されないが、第1世代PAMAMデンドリマー、第2世代PAMAMデンドリマー、第3世代PAMAMデンドリマー、第4世代PAMAMデンドリマー、第5世代PAMAMデンドリマー、第6世代PAMAMデンドリマー、第7世代PAMAMデンドリマー、第8世代PAMAMデンドリマー、第9世代PAMAMデンドリマー、または第10世代PAMAMデンドリマーを含めて、任意の世代のデンドリマーであってよい。ともに使用するのに適当なデンドリマーは、以下に限定されないが、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリプロピルアミン(POPAM)、ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリエステル、イプチセン、脂肪族ポリ(エーテル)および/または芳香族ポリエーテルのデンドリマーを含む。デンドリマー複合体の各デンドリマーは、他のデンドリマーと同様または異なる化学的性質であってよい(例えば、第1のデンドリマーはPAMAMデンドリマーを含むことができ、一方で、第2のデンドリマーはPOPAMデンドリマーを含むことができる)。一部の実施形態では、第1または第2のデンドリマーは、追加の薬剤をさらに含むことができる。多腕PEGポリマーは、スルフヒドリルまたはチオピリジン末端基を保有する少なくとも2つの分枝を有するポリエチレングリコールを含むが;しかしながら、本明細書において開示されている実施形態は、このクラスに限定されず、スクシンイミジルまたはマレイミド末端など他の末端基を保有するPEGポリマーが使用され得る。分子量10kDaから80kDaのPEGポリマーを使用することができる。
【0017】
デンドリマー複合体は、複数のデンドリマーを含む。例えば、デンドリマー複合体は、第3のデンドリマーを含むことができ;ここで第3のデンドリマーは、少なくとも1つの他のデンドリマーと複合体化される。さらに、第3の薬剤は、第3のデンドリマーと複合体化することができる。別の実施形態では、第1および第2のデンドリマーは、第3のデンドリマーと各々複合体化され、ここで、第1および第2のデンドリマーはPAMAMデンドリマーであり、第3のデンドリマーはPOPAMデンドリマーである。追加のデンドリマーは、本発明の趣旨から逸脱することなく組み込むことができる。複数のデンドリマーが利用される場合、複数の薬剤も組み込むことができる。これは、互いに複合体化されるデンドリマーの数によって限定されない。
【0018】
本明細書で使用される場合、「PAMAMデンドリマー」という用語は、アミドアミンビルディングブロックとともに異なるコアを含有することができるポリ(アミドアミン)デンドリマーを意味する。それらを作製するための方法は当業者に公知であり、一般に、中心開始剤コアの周囲に樹状β-アラニン単位の同心シェル(世代)を生成する2段階の繰り返し反応順序を伴う。このPAMAMコア-シェル構造物は、添加シェル(世代)の関数として直径が直線的に成長する。他方、表面基は、樹状分枝形成の数学に従って各世代で指数関数的に増幅する。それらは、5個の異なるコア型および10個の官能表面基を有する世代G0~10において利用可能である。デンドリマー-分岐ポリマーは、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリエステル、ポリエーテル、ポリリシンまたはポリエチレングリコール(PEG)、ポリペプチドのデンドリマーからなっていてよい。
【0019】
一部の実施形態によると、使用されるPAMAMデンドリマーは、第4世代デンドリマーまたはそれを超えるデンドリマーであってよく、ヒドロキシル基は、それらの官能表面基に付着されている。多腕PEGポリマーは、スルフヒドリルまたはチオピリジン末端基を保有する2個およびそれより多くの分枝を有するポリエチレングリコールを含むが;しかしながら、実施形態はこのクラスに限定されず、スクシンイミジルまたはマレイミド末端など他の末端基を保有するPEGポリマーが使用され得る。分子量10kDaから80kDaのPEGポリマーを使用することができる。
【0020】
一部の実施形態では、デンドリマーはナノ粒子形態であり、国際特許公開番号WO2009/046446に詳細に記載されている。
【0021】
PAMAM-NACの調製
下記は、リンカーとしてN-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)を使用して、N-アセチルシステインをアミン末端第4世代PAMAMデンドリマー(PAMAM-NH2)にコンジュゲートするための合成スキームである。
【0022】
スキーム1において、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)の合成は、2段階手順によって行われる。最初に、3-メルカプトプロピオン酸を、2,2’-ジピリジルジスルフィドとのチオール-ジスルフィド交換により反応させることで、2-カルボキシエチル2-ピリジルジスルフィドを得る。アミン末端デンドリマーのSPDPへの連結を容易にするため、スクシンイミド基を、2-カルボキシエチル2-ピリジルジスルフィドと反応させることで、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドおよび4-ジメチルアミノピリジンを使用することによるN-ヒドロキシスクシンイミドとのエステル化によって、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネートを得る。
【化1】
【0023】
スキーム2において、スルフヒドリル-反応性基を導入するため、PAMAM-NH
2デンドリマーを、ヘテロ二官能性クロスリンカーSPDPと反応させる。スキーム2において、SPDPのN-スクシンイミジル活性化エステルが末端第1級アミンにカップリングすることで、アミド連結2-ピリジルジチオプロパノイル(PDP)基が得られる。SPDPとの反応後、PAMAM-NH-PDPを、RP-HPLCを使用して分析して、SPDPがデンドリマーとどの程度反応したかを決定することができる。
【化2】
【0024】
別の実施形態では、下記のスキーム4に記載されている合成経路は、D-NACをピリジルジチオ(PDP)-官能化デンドリマー3にまで合成するために使用することができる。次いで化合物3をDMSO中のNACと終夜室温で反応させて、D-NAC5を得る。
【化3】
【0025】
デンドリマー-PEG-バルプロ酸コンジュゲート(D-VPA)の調製
初めに、バルプロ酸を、チオール-反応性基で官能化する。(CH
2)
2O-の3つの反復単位を有する短いPEG-SHを、スキーム3に示されている通りのカップリング試薬としてDCCを使用して、バルプロ酸と反応させる。得られた粗PEG-VPAを、カラムクロマトグラフィーによって精製し、プロトンNMRによって特徴付ける。NMRスペクトルにおいて、PEG-VPAの形成が確認された3.65ppmから4.25ppmへの、PEGのOH基に隣接するCH
2プロトンのピークの下方シフトがあった。チオール基は酸官能基との反応に対して感受性であり得るが、NMRスペクトルは、PEGのチオール基に隣接するCH
2プロトンに属するピークの下方シフトをまったく示さなかった。これは、チオール基がチオール反応性官能化デンドリマーと自由に反応することを示唆する。
【化4】
【0026】
スキーム4において、PEG-VPAをPAMAM-OHにコンジュゲートするため、ジスルフィド結合を、デンドリマーとバルプロ酸との間に導入する。最初に、デンドリマーをフルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)保護γ-アミノ酪酸(GABA)と反応させることによって、デンドリマーを二官能性デンドリマー1に変換する。二官能性デンドリマーへのPEG-VPAのコンジュゲーションは、2段階プロセスを含んでおり、第1のステップは、アミン官能化二官能性デンドリマー1とN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)との反応であり、第2のステップは、チオール官能化バルプロ酸とコンジュゲートさせることを含む。SPDPを、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)の存在下で中間体2と反応させることで、ピリジルジチオ(PDP)官能化デンドリマー3を得る。
【化5】
【0027】
これはin situ反応プロセスであるが、構造は1H NMRによって確立された。スペクトルにおいて、ピリジル基の芳香族プロトンについて6.7から7.6ppmの間の新たなピークは、生成物の形成を確認した。ピリジル基の数およびGABAリンカーの数は同じであると検証されており、このことは、アミン基の大部分がSPDPと反応したことを示す。これは、デンドリマーへの薬物のコンジュゲーションについて鍵となるステップであることから、アミン基当たりのSPDPのモル当量の使用および反応に必要とされる時間が検証された。最終的に、PEG-VPAを、in situでPDP官能化デンドリマーと反応させることで、デンドリマー-PEG-バルプロ酸(D-VPA)を得る。最終コンジュゲートの形成およびVPAの負荷は1H NMRによって確認され、コンジュゲートの純度は逆相HPLCによって評価された。NMRスペクトルにおいて、VPAの脂肪族プロトンについて0.85から1.67ppmの間の多重線、PEGのCH2プロトンについて3.53から3.66ppmの間の多重線、およびピリジル芳香族プロトンの非存在は、コンジュゲート形成を確認した。VPAの負荷は、プロトン積分方法を使用して推定したところ約21分子であり、これは、1~2個のアミン基が未反応のままであることを示唆する。HPLCチャートにおいて、D-VPAの溶出時間(17.2分)は、G4-OHについての溶出時間(9.5分)と異なり、コンジュゲートは、純粋であることが確認され、VPA(23.4分)およびPEG-VPA(39.2分)のトレースは測定できなかった。デンドリマーへのVPA負荷の百分率は約12%w/wであり、3つの異なるバッチでグラム分量(gram quantities)を作製するための方法を検証している。
【0028】
B.カップリング剤およびスペーサー
デンドリマー複合体は、デンドリマーまたは多腕PEGにコンジュゲートまたは付着されている治療活性薬剤または化合物(以下「薬剤」)で形成することができる。付着は、薬剤とデンドリマーとの間にジスルフィド架橋を提供する適切なスペーサーを介して生じることができる。デンドリマー複合体は、身体に見出される還元条件下で、チオール交換反応によってin vivoで薬剤を急速に放出できる。
【0029】
「スペーサー」という用語は、本明細書で使用される場合、治療活性薬剤をデンドリマーに連結するために使用される組成物を含むと意図される。スペーサーは、ポリマーおよび治療剤または画像化剤を架橋するための、単一の化学実体または一緒に連結された2種もしくはそれより多い化学実体のいずれかであってよい。スペーサーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、マレイミド、ビニルスルホンおよびカーボネート末端を有する任意の小さい化学実体、ペプチドまたはポリマーを含むことができる。
【0030】
スペーサーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、マレイミド、ビニルスルホンおよびカーボネート基を末端とする化合物のクラスの中から選択することができる。スペーサーは、チオピリジン末端化合物、例えばジチオジピリジン、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエートLC-SPDPまたはスルホ-LC-SPDPを含むことができる。スペーサーはペプチドを含むこともでき、ここでペプチドは、スルフヒドリル基を本質的に有する線状または環状であり、例えばグルタチオン、ホモシステイン、システインおよびその誘導体、arg-gly-asp-cys(RGDC)、シクロ(Arg-Gly-Asp-d-Phe-Cys)(c(RGDfC))、シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Tyr-Cys)、シクロ(Arg-Ala-Asp-d-Tyr-Cys)である。スペーサーは、メルカプト酸誘導体、例えば3メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、4メルカプト酪酸、チオラン-2-オン、6メルカプトヘキサン酸、5メルカプト吉草酸、ならびに他のメルカプト誘導体、例えば2メルカプトエタノールおよび2メルカプトエチルアミンであってよい。スペーサーは、チオサリチル酸およびその誘導体、(4-スクシンイミジルオキシカルボニル-メチル-アルファ-2-ピリジルチオ)トルエン、(3-[2-ピリジチオ]プロピオニルヒドラジドであってよい。スペーサーはマレイミド末端を有することができ、ここでスペーサーは、ポリマーまたは小さい化学実体、例えばビス-マレイミドジエチレングリコールおよびビス-マレイミドトリエチレングリコール、ビス-マレイミドエタン、ビスマレイミドへキサンを含む。スペーサーは、1,6-ヘキサン-ビス-ビニルスルホンなどのビニルスルホンを含むことができる。スペーサーは、チオグルコースなどのチオグリコシドを含むことができる。スペーサーは還元型タンパク質、例えばウシ血清アルブミンおよびヒト血清アルブミン、ジスルフィド結合を形成できる任意のチオール末端化合物であってよい。スペーサーは、マレイミド、スクシンイミジルおよびチオール末端を有するポリエチレングリコールを含むことができる。
【0031】
C.治療剤、予防剤および診断剤
「デンドリマー複合体」という用語は、本明細書で使用される場合、デンドリマーと治療活性薬剤との組み合わせを指す。これらのデンドリマー複合体は、in vivoに見出される還元条件下で細胞内に薬物を優先的に放出できるPAMAMデンドリマーまたは多腕PEGに付着またはコンジュゲートされた薬剤を含む。デンドリマー複合体は、i.v.注射によって投与される場合、罹患状態下に限り血液脳関門(BBB)を優先的に横切ることができ、正常状態下ではできない。
【0032】
治療活性薬剤、画像化剤および/または標的化部分は、共有結合しているか、または分子内に分散もしくは封入されているかのいずれであってもよい。デンドリマーは、好ましくは、カルボキシル、ヒドロキシルまたはアミン末端を有する最大第10世代までのPAMAMデンドリマーである。PEGポリマーは、2個またはそれより多い腕および10kDaから80kDaの分子量を有する星形状化ポリマーである。PEGポリマーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジルまたはマレイミド末端を有する。デンドリマーは、ジスルフィド、エステルまたはアミド結合において終端するスペーサーを介して標的化部分、画像化剤および/または治療剤に連結される。
【0033】
代表的な治療剤(プロドラッグを含める)、予防剤または診断剤は、ペプチド、タンパク質、炭水化物、ヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、小分子、またはその組み合わせであってよい。例示的な治療剤は、抗炎症薬、抗増殖薬、化学療法薬、血管拡張薬および抗感染剤を含む。
【0034】
抗生物質は、ペニシリンおよびアンピシリンなどのベータ-ラクタム、セフロキシム、セファクロル、セファレキシン、セファドロキシル(cephydroxil)、セフポドキシム(cepfodoxime)およびプロキセチルなどのセファロスポリン、ドキシサイクリンおよびミノサイクリンなどのテトラサイクリン抗生物質、アジスロマイシン、エリスロマイシン、ラパマイシンおよびクラリスロマイシンなどのマクロライド抗生物質、シプロフロキサシン、エンロフロキサシン、オフロキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシンおよびノルフロキサシンなどのフルオロキノロン、トブラマイシン、コリスチン、またはアズトレオナム、ならびにエリスロマイシン、アジスロマイシンまたはクラリスロマイシンなど、抗炎症活性を有することが知られている抗生物質を含む。好ましい抗炎症薬は、N-アセチルシステインを含めた抗酸化薬である。好ましいNSAIDSは、メフェナム酸、アスピリン、ジフルニサル、サルサレート、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、デクスケトプロフェン(deacketoprofen)、フルルビプロフェン、オキサプロジン、ロキソプロフェン、インドメタシン、スリンダク、エトドラク、ケトロラク、ジクロフェナク、ナブメトン、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、イソキシカム、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸、セレコキシブ(elecoxib)、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、ルミラコキシブ、エトリコキシブ、フィロコキシブ、スルホンアニリド、ニメスリド、ニフルム酸およびリコフェロンを含む。
【0035】
代表的な小分子は、ステロイド、例えばメチルプレドニゾン、デキサメタゾン、COX-2阻害剤を含めた非ステロイド性抗炎症剤、コルチコステロイド抗炎症剤、金化合物抗炎症剤、免疫抑制剤、抗炎症かつ血管新生抑制剤、抗興奮毒性剤、例えばバルプロ酸、D-アミノホスホノバレレート、D-アミノホスホノヘプタノエート、グルタメート形成/放出阻害剤、例えばバクロフェン、NMDA受容体アンタゴニスト、サリチレート抗炎症剤、ラニビズマブ、アフリベルセプトを含めた抗VEGF剤、ならびにラパマイシンを含む。他の抗炎症薬は、非ステロイド薬、例えばインドメタシン、アスピリン、アセトアミノフェン、ジクロフェナクナトリウムおよびイブプロフェンを含む。コルチコステロイドは、フルオシノロンアセトニドおよびメチルプレドニゾロンであってよい。ペプチド薬は、ストレプトキナーゼ(streptidokinase)であってよい。
【0036】
多くの炎症性疾患は、リポ多糖類(LPS)に対する受容体であるtoll様受容体4(TLR4)を介して病的に上昇させたシグナリングに繋がり得る。したがって、潜在的な抗炎症剤としてTLR4阻害剤の発見に大きな関心がもたれている。最近、阻害剤E5564に結合されているTLR4の構造が解かれ、E5564結合性ドメインを標的化する新たなTLR4阻害剤の設計および合成を可能にした。これらは米国特許第8,889,101号に記載されており、この内容は、参照により組み込まれる。Nealら、PLoS One。2013年;8巻(6号):e65779e頁によって報告されている通り、小分子ライブラリーの制限スクリーニング手法と併せて使用された類似性検索アルゴリズムは、E5564部位に結合し、TLR4を阻害する化合物を同定した。リード化合物C34は、式C17H27NO9を有する2-アセトアミドピラノシド(MW 389)であり、これは、in vitroで腸細胞およびマクロファージにおけるTLR4を阻害し、内毒血症および壊死性腸炎のマウスモデルにおいて全身性炎症を低減する。TLR4共受容体MD-2の疎水性内部ポケットへのC34の分子ドッキングは、ポケットの内側深くピラン環を包埋する緊密な嵌合を実証した。際だったことに、C34は、壊死性腸炎を有する幼児から切除されたヒト回腸においてex-vivoでLPSシグナリングを阻害した。これらの所見は、C34およびβ-アノマー性シクロヘキシル類似体C35を、TLR4媒介炎症性疾患に対して潜在的な治療的利益を有する小分子TLR4阻害剤のための新規なリードとして同定する。
【0037】
参照により本明細書に組み込まれるWipfら、Tetrahedron Lett. 2015年56巻(23号):3097~3100頁(「Wipf」)は、C34の類似体を記載している。アノマー性オキサゾリンの銅(II)媒介加溶媒分解ならびにβ-グルコサミンおよびβ-ガラクトサミンペンタアセテートの酸媒介変換を使用することで、アノマー炭素でおよびピラノース環のC-4でC34の類似体を発生させた。これらの化合物を、培養された腸細胞および単球におけるTLR4媒介炎症性シグナリングに対するそれらの影響について評価した。NF-kB-ルシフェラーゼレポーターマウスを使用して、それらの効力を確認し、したがって、この系列における最初の構造-活性関係(SAR)研究を確立し、より効力のあるイソプロピル2-アセトアミド-α-ガラクトシド17を同定した。これらのデータは、C34、その類似体、または他のTLR4阻害剤が、経口製剤における使用のためにデンドリマーにコンジュゲートすることができることを示している。
【0038】
デンドリマー複合体は、抗興奮毒性およびD-抗グルタメート剤を送達するために使用することもできる。好ましい候補は、MK801、メマンチン、ケタミン、1-MTである。
【0039】
代表的なオリゴヌクレオチドは、siRNA、microRNA、DNA、およびRNAを含む。治療剤は、アミンまたはヒドロキシル末端を有するPAMAMデンドリマーであってよい。
【0040】
生物活性化合物または治療活性薬剤に連結されたデンドリマー複合体は、標的化すること、患部での局在化、薬物を放出すること、および画像化目的を含めて、いくつかの機能を行うために使用することができる。デンドリマー複合体は、標的化部分をともなってまたはそれをともなわずにタグ化することができ、デンドリマーと薬剤または画像化剤との間のジスルフィド結合はスペーサーまたはリンカー分子を介して形成される。
【0041】
D.デバイスおよび製剤
デンドリマーは、経腸的に投与することができる。本発明において使用されている担体または希釈剤は、固体製剤のための固体担体もしくは希釈剤、液体製剤のための液体担体もしくは希釈剤、またはその混合物であってよい。
【0042】
液体製剤のため、薬学的に許容される担体は、例えば、水性もしくは非水性溶液、懸濁物、エマルジョンまたは油であってよい。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体は、例えば、水、アルコール溶液/水溶液、シクロデキストリン、エマルジョンまたは懸濁物を含み、食塩水および緩衝化媒体も含まれる。
【0043】
油の例は、石油、動物、植物または合成起源のもの、例えば、落花生油、大豆油、鉱油、オリーブ油、ヒマワリ油、魚肝油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ、ワセリンおよびミネラルである。非経口製剤における使用のための適当な脂肪酸は、例えば、オレイン酸、ステアリン酸およびイソステアリン酸を含む。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、適当な脂肪酸エステルの例である。
【0044】
ビヒクルは、例えば、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、塩化デキストロース(dextrose chloride)および塩化ナトリウム、乳酸加リンゲルおよび固定油を含む。製剤は、例えば、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、および製剤を意図されるレシピエントの血液と等張性にする溶質を含有することができる水性および非水性の等張滅菌注射溶液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および保存料を含むことができる水性および非水性滅菌懸濁物を含む。ビヒクルは、例えば、流体および栄養補充液、電解質補充液、例えばリンゲルデキストロースに基づくものを含むことができる。一般に、水、食塩水、水性デキストロースおよび関連糖溶液が好ましい液体担体である。これらは、乳児用製剤(infant formula)のタンパク質、脂肪、糖類および他の構成成分で製剤化することもできる。
【0045】
III.処置の方法
A.処置される障害または疾患
製剤は、感染症、炎症またはがんと関連した障害、特に、CNSに広がる全身性炎症を有するものを処置するために投与することができる。生得免疫受容体toll様受容体4(TLR4)は、細菌エンドトキシン(リポ多糖類、「LPS」)に対する、ならびに炎症性または感染性障害中に放出される様々な内在性分子に対する造血性および非造血性細胞上の受容体として認識されてきた。いくつかの疾患が、感染および非感染プロセスの両方を含めたTLR4シグナリングの増悪に起因していた。これらは、壊死性腸炎(NEC)、腹部敗血症、肺炎、関節炎、膵炎およびアテローム性動脈硬化症を含む。好ましい実施形態では、処置される疾患はNECである。
【0046】
治療剤、予防剤または診断剤に連結されたデンドリマーを含めたデンドリマー複合体組成物は、NECの病因において鍵となる役割を果たすミクログリアおよびアストロサイトを選択的に標的化することができる。N-アセチルシステイン(「NAC」)は、広範に調査および研究されてきた。それは、母体胎児感染症において関連した神経炎症についても調査される。しかしながら、NACは、高い血漿タンパク質結合により低い生物学的利用能に陥る。デンドリマー複合体組成物は、NACの活性に影響することなく血漿タンパク質結合を克服する。G4 PAMAM-NACは、単回のi.v.投与による遊離薬物NACよりもin vivoで10倍から100倍効力があり得る。遊離薬物NACは、生物学的利用能の低減をもたらす非常に高い血漿タンパク質結合を呈する。このデンドリマー複合体の主要な利点の1つは、それが、望まれない薬物血漿タンパク質相互作用を制限することによって生物学的利用能を増強すること、および薬物の急速な放出を細胞内で選択的にもたらすことで所望の治療的作用を呈することである。
【0047】
G4 PAMAM-NACにおける薬物NACの高ペイロードは、非常にわずかな量(10mg)の担体しか必要とせず、PAMAMデンドリマーは、それによって、毎日投与される量を低減する。薬剤の量の減少は、薬剤に関連した副作用を限定する。薬剤の生物学的利用能は依然として高いので、薬剤のプラス効果は、より少量の薬剤の投与にもかかわらず低下しない。デンドリマー-薬物コンジュゲートを含めたデンドリマー複合体は、組織および臓器へのその体内分布を制限し、標的部位で薬物を優先的に送達し、それによって、所望されない副作用を低減する。
【0048】
デンドリマー複合体はBBBを横切って有効に輸送し、したがって、神経障害、神経発達障害および神経変性障害、ならびに脳損傷における標的化薬物送達に有用である。G4-PAMAM-S--S-NACコンジュゲートは、神経炎症性障害における活性化ミクログリア細胞およびアストロサイトを特異的に標的化する。
【0049】
G4-PAMAM-S--S-NACデンドリマーコンジュゲートの治療的効力を、発生中のウサギ脳(脳性麻痺の動物モデル)における白質損傷およびミエリン形成減少を誘発するためのリポ多糖類(LPS)で動物を2日間処置した後に評価した。G4-PAMAM-S--S-NACデンドリマー複合体から選択的に送達されたNACは、炎症促進性サイトカイン(TNF-α、IL-6 mRNA)、NFκBおよびニトロチロシンを含めた炎症性シグナリング因子を強く抑制し、GSHレベルを増強した。G4-PAMAM-S--S-NACは、遊離NACと比較して10倍から100倍効力があることを見出した。これは、G4-PAMAM-S--S-NACがBBBを横断したという結論を裏付ける。デンドリマー複合体から活性化ミクログリア細胞へのNACの標的化送達は、運動欠陥を改善し、脳性麻痺の新生児ウサギモデルにおけるLPS-誘発脳損傷からの回復を弱めた。
【0050】
炎症促進性サイトカイン(TNF-α、IL-6 mRNA)の著しい低減が、G4-PAMAM-S--S-NACデンドリマー複合体の投与で観察された。NACおよびG4-PAMAM-S--S-NACで処置された仔ウサギは、食塩水で処置された仔ウサギと比較した場合、運動欠陥の改善とともに胎児炎症応答の減少を示した。G4-PAMAM-S--S-NACコンジュゲートで処置された仔ウサギは、G4-PAMAM-S--S-NACコンジュゲートからのNACの持続送達により、NAC単独を受容した仔ウサギと比較した場合、脳においてより少ない挙動変化およびより低いミクログリア活性化を有していた。結果は、G4-PAMAM-S--S-NACコンジュゲートが、NAC単独よりも大きな効果を有することを示した。なぜなら、それが、活性化されたマクロファージおよびミクログリア細胞によって優先的に取り込まれ、炎症性および酸化性およびニトロソ化の効果を低減するからである。
【0051】
G4-PAMAM-S--S-NACデンドリマー複合体を用いる処置は、白質損傷およびミクログリア活性化を低減した。遊離NACについて観察されたものと同様の応答を誘起するためのG4-PAMAM-S--S-NACとして投与された場合、NACの用量の著しい低減が観察された。濃度100mg/kgでの遊離NACおよび濃度10mg/kgでのG4-PAMAM-S--S-NACの両方が、10mgで同一の応答を誘起し、デンドリマーへのコンジュゲートで用量の低減が達成されることを実証する。G4-PAMAM-S--S-NACは遊離NACよりも低い濃度で、LPS誘発脳損傷に対して著しい保護効果、TNF-αの抑制およびIL-6活性の下方調節を示す。デンドリマー-NACコンジュゲートのこの活性は、シグナル伝達因子NF-κBおよびニトロチロシンを阻止または修飾することによって早期の炎症応答に干渉するその能力に起因し、それによって細胞活性化をモジュレートすることができる。6および8腕PEG-NACコンジュゲートは、2時間以内に細胞内GSH濃度(2および10mM)においてNACの74%を放出した。0.008~0.8mMの間の濃度範囲で、コンジュゲートはミクログリア細胞に対して非毒性であった。等モル濃度のNAC(0.5mM)で、6腕PEG-S--S-NACおよび8腕PEG-S--S-NACは、GSH枯渇の阻害において遊離NACよりも効率的であった。6および8腕PEG-S--S-NACコンジュゲートの両方は、各々0.5mMおよび5mM濃度で、等モル濃度での遊離NACと比較した場合のROS産生において著しい阻害を示した。研究は、コンジュゲートが、遊離NACと比較した場合、NO産生の阻害において優れていることを実証している。最高濃度(5mM)で、遊離薬物は、H2O2レベルおよび亜硝酸イオンレベルを30~40%低減したが、コンジュゲートは、H2O2および亜硝酸イオンレベルを、70%を超えて低減した。これは、コンジュゲートが細胞の内側で薬物を輸送でき、かつ遊離形態での薬物を放出し、かつ遊離薬物よりも著しく効力があることを示す。5mM濃度で、6腕PEG-S--S-NACコンジュゲートは、(1)同等の濃度のNAC(Pb0.05)と比較した場合、TNF-α産生の有意な阻害(70%)を示した。8腕PEG-S--S-NACコンジュゲートは、(3)同等の濃度のNAC(Pb0.05およびPb0.01)と比較した場合、5mMでTNF-α産生の有意な阻害(70%)を示した。PEGはヒト使用に承認され、このデバイスはNACの限界に対処し、より大きな効力を提供するので、PEG化NACは、医薬産業に対して有用性を有するデンドリマー複合体である。
【0052】
B.投与量
典型的に、主治医は、年齢、体重、全般的な健康状態、食事、性別、投与される化合物、投与の経路、および処置されている状態の重症度など様々な因子を考慮に入れ、各個々の被験体を処置するための組成物の投与量を決定する。組成物の用量は、処置されている被験体の体重1kg当たり約0.0001から約1000mg、体重1kg当たり約0.01から約100mg、約0.1mg/kgから約10mg/kg、および体重1kg当たり約0.5mgから約5mgであってよい。
【0053】
一般に、投与のタイミングおよび頻度は、所与の処置または診断スケジュールの効力と所与の送達系の副作用とのバランスをとるために調整される。例示的な投薬頻度は、持続的注入、単回および複数の投与、例えば毎時、毎日、毎週、毎月または毎年投薬することを含む。
【0054】
本発明の方法において使用される投薬レジメンは、被験体における障害を処置するのに十分な時間の任意の長さであり得ることは、当業者によって理解されよう。「慢性的」という用語は、本明細書で使用される場合、投与レジメンの時間の長さが数時間、数日、数週、数カ月またはおそらく数年であってよいことを意味する。
【0055】
デンドリマー複合体は、上記で考察されている状態または疾患を処置できることが知られている1種または複数の追加の治療活性薬剤との組み合わせで投与することができる。
【0056】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによりさらに理解されよう。
【実施例】
【0057】
(実施例1:壊死性腸炎の処置)
NECの発病は、腸上皮上の細菌受容体toll様受容体4(TLR4)の活性化を必要とする。なぜなら、TLR4を欠如しているマウスはNECから保護されており、一方、NECを有するヒトは、消化管においてTLR4活性化の増加を呈するからである。腸上皮上のTLR4の活性化は、ミクログリアの活性化に至り、前頭前皮質におけるミエリンの喪失、およびヒトにおいて観察される疾患によく似ている方式でマウスにおける認知機能欠損の発病をもたらす。
【0058】
ポリ(アミドアミン)デンドリマーは、CNSにおける炎症を標的化し、機能的改善を生成する薬物を送達する。以下の実施例によって実証されている通り、デンドリマーの経口投与は、炎症細胞におけるさらなる選択的局在化とともに、NECを有するマウスにおける消化管および脳の損傷部域におけるデンドリマーの著しい蓄積に至る。際だったことに、デンドリマーを使用する抗炎症剤(N-アセチルシステイン)の経口投与は、NECを有する動物における脳損傷および消化管損傷の劇的な改善をもたらす。損傷された消化管および脳におけるデンドリマーのこの選択的局在化は、脳損傷をもたらす神経炎症を含めて、関連した全身性炎症の処置と一緒に、消化管の保存をともなうNECの非外科手術処置についての暗示を有する。消化管における炎症細胞中のフルオロフォアタグ化デンドリマーの選択的局在化は、NECの感度の良い検出のための診断用ツールとして使用することもできる。
【0059】
材料および方法
デンドリマー。デンドリマー-Cy5およびデンドリマー-薬物のコンジュゲートを作製するためのプロトコールを含めて、下記の実験において使用される詳細な材料および方法は、Kannan Sら、Sci. Transl. Med.、4巻:130ra46頁(2012年)によっておよび米国特許第8,889,101号において記載されてきた。
【0060】
デンドリマーコンジュゲートのコンジュゲーション。前に報告されている方法(Kannanら、Science Trans. Med(2012年4月))を使用して、Cy5へのデンドリマーのコンジュゲーションを行った。薬物実験のため、デンドリマーをN-アセチル-システインにコンジュゲートし、異なる時点で2~20mg/kgを範囲とする用量で投与した。
【0061】
統計分析。スチューデントのt検定を使用して、データを再現性について分析することで、2つの群の間の有意性を決定した。0.05に等しいまたはそれ未満のp値を有意と考えた。
【0062】
NECの動物モデル。新生児マウス(生後6~11日目)を壊死性腸炎(NEC)のよく確立されたモデルに曝露した。簡潔には、仔マウスに、胃管栄養法を介して5回/日、ヒトNECから単離された細菌が補充された製剤を給餌し、4日間1日2回低酸素チャンバーにおいて10分間低酸素(5%のO2、95%のN2)を受けさせた。
【0063】
2つの実験プロトコールを用いることで、脳に対するNECの急性効果 対 長期効果を決定した。急性効果を決定するため、脳試料を、NECプロトコールの完了後(生後11日目)直ちに収集し、その後、ミエリン化およびミクログリア活性化の免疫組織化学的評価を続けた。モリス水迷路および新規物体認識試験(novel object recognition test)を使用して、NECプロトコールの完了の3週後(生後32~46日目)に、NEC曝露の挙動上の影響(behavioral implication)を決定した。
【0064】
デンドリマー-NAC治療。N-アセチル-システインをコンジュゲートしたデンドリマー(D-NAC)を、経口胃管栄養法を介してNACベースで18mg/kg(D-NACコンジュゲートベースで100mg/kg)の臨床関連用量で、NECプロトコールの2日目および3日目(即ち、生後8日目および9日目)に送達した。
【0065】
画像化するため、D-NACの最終用量後から数時間遅れて、Cy5標識デンドリマー(D-Cy5)を、経口胃管栄養法を介して100mg/kgで、NECプロトコールの3日目に送達した。
【0066】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析。Empowerソフトウェアとインターフェース接続された、Watersインラインデガッサー、バイナリポンプ、フォトダイオードアレイ(PDA)検出器、マルチ蛍光λ検出器およびオートサンプラー(4℃で維持される)が備えられているWaters HPLC機器(Waters Corporation、Milford、Massachusetts)を使用して、デンドリマー-Cy5コンジュゲート(D-Cy5)の純度を分析した。Waters 2998 PDA検出器を使用して210nmでの吸光度でデンドリマーについておよび650nmでの吸光度でCy5について、ならびにWaters 2475蛍光検出器を使用して645nmでの励起および662nmでの発光により蛍光について、同時に、HPLCクロマトグラムをモニタリングした。水/アセトニトリル(0.1%w/wのTFA)を新たに調製し、濾過し、脱ガスし、移動相として使用した。TSK-ゲルガードカラムに接続されたTSK-ゲルODS-80 Ts(250×4.6mm、5μmの粒子サイズを有する25cmの長さ)を使用した。勾配流を使用し、初期の条件が90:10(H2O/ACN)であり、次いで、30分で10:90(H2O/ACN)にアセトニトリル濃度を徐々に増加させ、1ml/分の流量を用いて60分で元の初期条件90:10(H2O/ACN)に戻した。
【0067】
免疫組織化学および共焦点顕微鏡法。脳スライスをPBS中2%のパラホルムアルデヒド(PFA)に固定した。イソペンタン中のドライアイスを丁重に使用して、1:2の比での20%スクロースおよび最適切削温度化合物(OCT)(Sakura Finetek USA Inc.、Torrance、CA)中に、脳を凍結した。冷凍ブロックを切片化するまで-80℃で貯蔵する。クライオスタットを使用して、8μmの切片を凍結ブロックから切断した。ミクログリア細胞マーカーであるウサギ抗イオン化カルシウム結合アダプター1分子(Iba-1)(Wako chemicals、USA)中で、切片をインキュベートし、ヤギ抗ウサギ-Cy3二次抗体を適用した。切片をZeiss 510共焦点顕微鏡上で分析した。IV注射された動物における全ての組織を分析するための、励起および発光波長ならびにレーザーの設定は同一であった。切片のZスタックを取り、折り畳む(collapse)ことで、切片全体の深さにわたる画像を与えた。
【0068】
結果
NECに曝露された仔マウスは、モリス水迷路および新規物体認識挙動試験における作業記憶および空間学習の欠損によって証明された著しい認知欠陥を呈する。これらの所見は、脳ミエリン化およびミクログリア活性化の組織病理学的評価と相関する。NECに曝露された動物は、対照動物と比較した場合、欠損ミエリン化パターンを有し、これは、中脳および脳梁におけるミエリン塩基性タンパク質(MBP)の発現の減少によって特に明らかである。さらに、NEC処置動物は、対照と比較して、脳梁、海馬および中脳のレベルでミクログリア活性化の増加を呈する。
【0069】
経口投与されたデンドリマーは、消化管によって容易に取り込まれ、病態依存性体内分布を呈した。デンドリマーは、主に、大脳皮質、殊に頭頂皮質および運動皮質中に蓄積することが見られた。D-Cy5は、視床、視床核で蓄積することも見られた。
【0070】
NEC中のD-NACの投与は、未処置NECマウスと比較して、D-Cy5取込みの低減(より低いレベルの炎症、ミクログリア活性化の低減、および正常のミエリン化パターンを示す)によって証明される通り、脳に対する保護効果に至る。動物が組織病理学的およびqRT-PCR評価による壊死性腸炎の明らかな証拠を呈するという事実にもかかわらず、D-NACの保護効果が観察された。
【0071】
Cy5標識デンドリマー(D-Cy5)を投薬した全てのマウス群において、デンドリマーは消化管中に蓄積され、腸絨毛における上皮細胞によって取り込まれており、D-Cy5がGI管に吸収され、体循環で分配されたことを示した。
【0072】
製剤給餌(NEC)マウスにおいて、Cy5標識デンドリマー(D-Cy5)は、主に、大脳皮質、殊に頭頂皮質および運動皮質中に蓄積することが見られた(
図2)。D-Cy5は、視床、視床核で蓄積することも見られた。
【0073】
目的の領域でD-Cy5の細胞共局在化をさらに同定するため、頭頂領域での体性感覚皮質を、より高い倍率下で検査した。体性感覚皮質で、D-Cy5局在化の大部分は、皮質の層2~5中にあると思われ、細胞取り込みのパターンを形成する。
【0074】
視床および視床核で、D-Cy5は、非標識化細胞による優勢な細胞取込みおよび活性化ミクログリア/マクロファージによるある程度の取込みとともに細胞共局在化を明らかに示した。
【0075】
加えて、D-NAC処置は、NECに関連するミクログリア活性化、脳室周囲領域中のD-Cy5蓄積を有意に減少させ、製剤給餌マウスの脳におけるミエリン化を大きく増強した。D-NAC処置は、製剤給餌マウスにおける脳の脳室周囲領域中のD-Cy5蓄積を減少させた。母乳栄養マウス(健康な陽性対照)において、D-Cy5は脈絡叢だけに見られた。製剤給餌マウス(NEC陰性対照)において、D-Cy5は、おそらく細胞取り込みにより、脳室周囲領域に大きな量で蓄積し、散乱パターンを形成した。製剤給餌マウスへのD-NAC処置(NEC、デンドリマー-NAC処置)後、D-Cy5蓄積は脳室周囲領域の周囲で有意に減少し、最小限のD-Cy5だけが脳室(ventrical)の外層において観察された。脳におけるデンドリマー取込みは、炎症の程度に比例していることが示されているので、これは、経口D-NAC処置が神経炎症を低減したことを示している。
【0076】
D-NAC処置は、NECに関連したミクログリア活性化を減少させた。母乳栄養および製剤給餌+D-NAC処置マウスにおいて、ミクログリア細胞は、小細胞体を有する同様の集団を有し、ミクログリア細胞が「休止状態」であることを示唆した。対照的に、製剤給餌NECマウス(対照)において、ミクログリア集団は細胞体の肥大とともに著しく増加し、ミクログリア活性化を示唆した。
【0077】
D-NAC処置は、製剤給餌マウスの脳において、NECと関連したミエリン化欠陥から保護した。母乳栄養(健康な対照)および製剤給餌+D-NAC処置(NEC、D-NACで処置された)マウスは、製剤給餌だけのマウス(NEC未処置)よりも脳において高い程度のミエリン化を有し、製剤給餌+D-NAC処置群における炎症の低減が神経修復に役立ったことを示した。
【0078】
同様の結果は、Goodら、Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol.2014年306巻(11号):G1021~32頁。doi: 10.1152/ajpgi.00452.2013。Epub 2014年4月17日によって記載されている仔ブタモデルを使用して得られている。
【0079】
本明細書において引用されている刊行物、特許出願および特許を含めた全ての参考文献は、各参考文献が参照により組み込まれることが個々におよび具体的に示され、本明細書においてその全体が説明されているのと同じ程度に本明細書によって参照により組み込まれる。