(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】遺伝子編集によるヒトジストロフィン遺伝子の修正用の治療標的および使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220721BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220721BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220721BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20220721BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20220721BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220721BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220721BHJP
C12N 5/073 20100101ALI20220721BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220721BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220721BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20220721BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20220721BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20220721BHJP
C12N 15/86 20060101ALN20220721BHJP
A61K 35/76 20150101ALN20220721BHJP
A61K 35/761 20150101ALN20220721BHJP
A61K 38/46 20060101ALN20220721BHJP
A01K 67/027 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/85 Z
C12N15/55
C12N15/12
C12N5/10
C12N5/073
A61K48/00
A61K31/7105
A61P21/04
C12N9/16 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/86 Z
A61K35/76
A61K35/761
A61K38/46
A01K67/027
(21)【出願番号】P 2018547872
(86)(22)【出願日】2016-11-30
(86)【国際出願番号】 US2016064285
(87)【国際公開番号】W WO2017095967
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-12-02
(32)【優先日】2015-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】ガーズバック チャールズ エイ
(72)【発明者】
【氏名】ロビンソン-ハム ジャクリーン エヌ
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/197748(WO,A1)
【文献】国際公開第1991/018114(WO,A1)
【文献】特表平05-508313(JP,A)
【文献】特表2016-521555(JP,A)
【文献】OUSTEROUT, D.G., et al.,"Multiplex CRISPR/Cas9-based genome editing for correction of dystrophin mutations that cause Duchenne muscular dystrophy.",NATURE COMMUNICATIONS,2015年02月18日,Vol.6,6244(pp.1-13),[online], doi: 10.1038/ncomms7244
【文献】WOOD, H.,"Neuromuscular disease: CRISPR/Cas9 gene-editing platform corrects mutations associated with Duchenne muscular dystrophy.",NATURE REVIEW NEUROLOGY,2015年03月10日,Vol.11, No.4,184,[online], doi: 10.1038/nrneurol.2015.37
【文献】OUSTEROUT, D.G., et al.,"Multiplex CRISPR/Cas9-based genome editing for correction of dystrophin mutations that cause Duchenne muscular dystrophy.",NATURE COMMUNICATIONS,2015年02月18日,Vol.6,6244(pp.1-13),[online], doi: 10.1038/ncomms7244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のgRNA分子および第2のgRNA分子を含むDNAターゲティング組成物であって、
前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xii)配列番号41に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列
またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
からなる群から選択される
、DNAターゲティング組成物。
【請求項2】
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(Cas)タンパク質または前記Casタンパク質をコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項1に記載のDNAターゲティング組成物。
【請求項3】
(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子、
(b)第2のgRNA分子、および
(c)NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する少なくとも1種のCas9分子
をコードするベクターであって、
前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は
、
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xii)配列番号41に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
からなる群から選択される、ベクター。
【請求項4】
前記第1のgRNA分子、前記第2のgRNA分子および前記Cas9分子は、ヒトDMD遺伝子のエクソン51に隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成するように構成されている、請求項
3に記載のベクター。
【請求項5】
前記ベクターはウイルスベクターである、請求項
3に記載のベクター。
【請求項6】
前記ベクターは、前記第1のgRNA分子、前記第2のgRNA分子および/またはCas9分子をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された組織特異的プロモーターを含む、請求項
3に記載のベクター。
【請求項7】
請求項
3に記載のベクターを含む細胞。
【請求項8】
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xii)配列番号41に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
からなる群から選択される第1のgRNA分子および第2のgRNA分子を含む、細胞中で変異ジストロフィン遺伝子を修正するための組成物。
【請求項9】
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xii)配列番号41に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
からなる群から選択される第1のgRNA分子および第2のgRNA分子を含む、対象中で変異ジストロフィン遺伝子をゲノム編集するための組成物。
【請求項10】
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xii)配列番号41に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
からなる群から選択される第1のgRNA分子および第2のgRNA分子を含む、変異ジストロフィン遺伝子を有する、必要とする対象を処置するための組成物。
【請求項11】
ジストロフィン遺伝子におけるエクソン51を含むセグメントの欠失用の組成物であって、
(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第1のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第1のベクター、および
(b)第2のgRNA分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第2のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第2のベクター
を含み、
前記第1および第2のgRNA分子のそれぞれは、19~24個のヌクレオチドの長さのターゲティングドメインを有し、前記第1のgRNA分子、前記第2のgRNA分子、前記第1のCas9分子、および前記第2のCas9分子は、ヒトDMD遺伝子のエクソン51に隣接する第1のイントロン中に第1の二本鎖切断を、かつ第2のイントロン中に第2の二本鎖切断を形成するように構成され、それにより、前記ジストロフィン遺伝子におけるエクソン51を含むセグメントが欠失され、かつ
前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xii)配列番号41に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
からなる群から選択される、組成物。
【請求項12】
細胞中で変異ジストロフィン遺伝子を修正するための組成物であって、
(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第1のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第1のベクター、および
(b)第2のgRNA分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第2のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第2のベクター
を含み、
前記第1のgRNA分子および第2のgRNA分子のそれぞれは、19~24個のヌクレオチドの長さのターゲティングドメインを有し、前記第1のgRNA分子、前記第2のgRNA分子、前記第1のCas9分子、および前記第2のCas9分子は、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51に隣接する第1のイントロン中に第1の二本鎖切断を、かつ第2のイントロン中に第2の二本鎖切断を形成するように構成され、それにより、前記ジストロフィン遺伝子においてエクソン51を含むセグメントが欠失され、かつ
前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xii)配列番号41に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
からなる群から選択される、組成物。
【請求項13】
変異ジストロフィン遺伝子を有する、必要とする対象を処置するための組成物であって、
(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第1のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第1のベクター、および
(b)第2のgRNA分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第2のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第2のベクター
を含み、
前記第1のgRNA分子および第2のgRNA分子のそれぞれは、19~24個のヌクレオチドの長さのターゲティングドメインを有し、前記第1のgRNA分子、前記第2のgRNA分子、前記第1のCas9分子、および前記第2のCas9分子は、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51に隣接する第1のイントロン中に第1の二本鎖切断を、かつ第2のイントロン中に第2の二本鎖切断を形成するように構成され、それにより、ジストロフィン遺伝子においてエクソン51を含むセグメントが欠失され、かつ
前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xii)配列番号41に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
からなる群から選択される、組成物。
【請求項14】
前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、
(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子
からなる群から選択される、請求項
13に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる、2015年11月30日に出願された米国仮特許出願第62/260,712号明細書および2016年5月2日に出願された米国仮特許出願第62/330,336号明細書に対する優先権を主張する。
【0002】
政府の権利の陳述
本発明は、National Science Foundation Graduate Research Fellowship Programによる賞の下で政府の支援を受けて行なわれた。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本開示は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)9に基づくシステムおよびウイルス送達システムを使用する遺伝子発現の改変、遺伝子のゲノム操作およびゲノム改変の分野に関する。本開示はまた、筋肉(例えば骨格筋および心筋)での遺伝子のゲノム操作およびゲノム改変の分野にも関する。
【背景技術】
【0004】
合成転写因子は、哺乳動物システムにおける多くの異なる医学的用途および科学的用途(例えば、組織再生の刺激、薬物スクリーニング、遺伝的欠陥の補償、抑制された腫瘍抑制因子の活性化、幹細胞分化の制御、遺伝子スクリーニングの実施および合成遺伝子回路の作成)のために遺伝子発現を制御するように操作されている。これらの転写因子は、内因性遺伝子のプロモーターまたはエンハンサーを標的とし得る、または導入遺伝子の調節のために哺乳動物のゲノムに直交する配列を認識するように意図的に設計され得る。ユーザーにより定義される配列を標的とする新規転写因子を設計するための最も一般的な戦略は、ジンクフィンガータンパク質および転写アクチベーター様エフェクター(TALE)のプログラム可能なDNA結合ドメインをベースとしている。これらのアプローチの両方は、これらのドメインのタンパク質-DNA相互作用の原理を、独自のDNA結合特異性を有する新規のタンパク質の設計に適用することが含まれる。これらの方法は多くの用途で広く成功しているが、タンパク質-DNA相互作用を操作するために必要なタンパク質工学は面倒な可能性があり、且つ専門知識を必要とする。
【0005】
加えて、この新規のタンパク質は必ずしも有効であるとは限らない。この理由はまだ分かっていないが、ゲノム標的部位へのタンパク質結合に対するエピジェネティックな改変およびクロマチン状態の効果に関連している可能性がある。加えて、この新規のタンパク質および他の成分が各細胞に送達されることを確実にすることには課題が存在する。この新規のタンパク質およびその複数の成分を送達するための既存の方法として、コピー数の差異に起因して各細胞中での高度に可変な発現レベルに至る別々のプラスミドおよびベクターの細胞への送達が挙げられる。加えて、遺伝子導入後の遺伝子活性化はプラスミドDNAの希釈に起因して一過性であり、一時的な遺伝子発現は、治療効果を誘導するのに十分ではない可能性がある。さらに、このアプローチは、容易には遺伝子導入されない細胞型には適していない。そのため、この新規のタンパク質の別の制限は転写活性化の効力である。
【0006】
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを使用して、標的とするゲノム遺伝子座で部位特異的な二本鎖切断を導入することができる。このDNA開裂は天然のDNA修復機構を刺激し、2種の可能な修復経路のうちの一方に至る。ドナー鋳型の非存在下では、この切断は、DNAの小さい挿入または欠失が起こるエラーが発生し易い修復経路である非相同末端結合(NHEJ)により修復される。この方法を使用して、標的とする遺伝子配列の読み枠を意図的に破壊し得る、欠失させ得る、または改変し得る。しかしながら、ドナー鋳型がヌクレアーゼと共に提供される場合、細胞機構は、この切断を相同組換えにより修復し、この相同組換えは、DNA切断の存在下では桁違いに増強される。この方法を使用して、標的部位でDNA配列中に特定の変化を導入することができる。遺伝子操作されたヌクレアーゼは、様々なヒト幹細胞および細胞株での遺伝子編集ならびにマウス肝臓での遺伝子編集に使用されている。しかしながら、これらの技術の実施での大きな障害は、有効で効率的であり且つゲノム改変の成功を容易にする方法によるインビボでの特定の組織への送達である。
【0007】
遺伝する遺伝性疾患は、米国において子供に破壊的な影響を及ぼす。これらの疾患は現在、治療法がなく、症状を緩和する試みによってのみ管理され得る。数十年にわたり、遺伝子治療の分野では、この疾患の治療法が約束されている。しかしながら、治療用遺伝子の細胞および患者への安全且つ効率的な送達に関する技術的な障害により、このアプローチは制限されている。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、機能するジストロフィンの喪失に起因して、筋肉疲労、歩行の喪失および典型的には生後30年での死亡を臨床的な特徴とする致命的な遺伝性疾患である。DMDは、ジストロフィン遺伝子中での遺伝的なまたは自発的な変異な結果である。DMDを引き起こすほとんどの変異はエクソンの欠失の結果であり、翻訳読み枠を枠外に押し出す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ジストロフィンは、筋細胞の完全性および機能の調節に関与するタンパク質複合体の重要な構成要素である。DMD患者は概して、小児期には自身を身体的に支える能力を失い、十代にはますます弱まり、二十代には死亡する。DMDのための現在の実験的遺伝子治療戦略は、一過性の遺伝子送達媒体の反復投与を必要とする、または外来遺伝子物質のゲノムDNAへの永続的な組込みに依存する。これらの方法は両方とも、安全性に深刻な懸念を有する。さらに、これらの戦略は、大きく且つ複雑なジストロフィン遺伝子配列を送達することができないことにより制限されている。ジストロフィン遺伝子中に変異を有する患者を直すまたは処置するための、より正確で効率的な遺伝子編集ツールが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号41、配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含むガイドRNA(gRNA)を対象とする。
【0010】
本発明はまた、第1のgRNAおよび第2のgRNAを含むDNAターゲティング組成物も対象とする。この第1のgRNA分子および第2のgRNA分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号41、配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む。この第1のgRNA分子および第2のgRNA分子は、異なるターゲティングドメインを含む。
【0011】
本発明はまた、上記で説明したgRNA分子または上記で説明したDNAターゲティング組成物を含む単離ポリヌクレオチドも対象とする。
【0012】
本発明は、上記で説明したgRNA、上記で説明したDNAターゲティング組成物または上記で説明した単離ポリヌクレオチドを含むベクターを対象とする。
【0013】
本発明はまた、上記で説明したDNAターゲティング組成物を含むベクターも対象とする。
【0014】
本発明はまた、(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子、(b)第2のgRNA分子、および(c)NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する少なくとも1種のCas9分子をコードするベクターも対象とする。この第1のgRNA分子および第2のgRNA分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号41、配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む。この第1のgRNA分子および第2のgRNA分子は異なるターゲティングドメインを含む。
【0015】
本発明はまた、上記で説明したgRNA、上記で説明したDNAターゲティング組成物、上記で説明した単離ポリヌクレオチドまたは上記で説明したベクターを含む細胞も対象とする。
【0016】
本発明はまた、上記で説明したgRNA、上記で説明したDNAターゲティングシステム、上記で説明した単離ポリヌクレオチド、上記で説明したベクターまたは上記で説明した細胞と、任意選択で使用するための説明書とを含むキットも対象とする。
【0017】
本発明はまた、細胞中で変異ジストロフィン遺伝子を修正する方法も対象とする。この方法は、上記で説明したgRNA、上記で説明したDNAターゲティングシステム、上記で説明した単離ポリヌクレオチドまたは上記で説明したベクターを細胞に投与することを含む。
【0018】
本発明はまた、対象中で変異ジストロフィン遺伝子をゲノム編集する方法も対象とする。この方法は、上記で説明したgRNA、上記で説明したDNAターゲティングシステム、上記で説明した単離ポリヌクレオチド、上記で説明したベクターまたは上記で説明した細胞を含むゲノム編集用組成物を対象に投与することを含む。
【0019】
本発明はまた、変異ジストロフィン遺伝子を有する、必要とする対象を処置する方法も対象とする。この方法は、上記で説明したgRNA、上記で説明したDNAターゲティングシステム、上記で説明した単離ポリヌクレオチド、上記で説明したベクターまたは上記で説明した細胞を対象に投与することを含む。
【0020】
本発明はまた、対象中での変異ジストロフィン遺伝子のゲノム編集用の改変アデノ随伴ウイルスベクターであって、上記で説明したgRNAをコードする第1のポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識するCas9分子をコードする第2のポリヌクレオチド配列とを含む改変アデノ随伴ウイルスベクターも対象とする。
【0021】
本発明はまた、ジストロフィン遺伝子におけるエクソン51を含むセグメントの欠失用組成物であって、(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第1のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第1のベクター、および(b)第2のgRNA分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第2のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第2のベクターを含む組成物も対象とする。第1および第2のgRNA分子のそれぞれは、19~24個のヌクレオチドの長さのターゲティングドメインを有し、第1のベクターおよび第2のベクターは、それぞれがヒトDMD遺伝子のエクソン51に隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成するように構成され、それにより、ジストロフィン遺伝子においてエクソン51を含むセグメントが欠失される。
【0022】
本発明はまた、上記で説明した組成物を含む細胞も対象とする。
【0023】
本発明はまた、細胞中で変異ジストロフィン遺伝子を修正する方法であって、この細胞に、(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第1のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第1のベクター、および(b)第2のgRNA分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第2のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第2のベクターを投与することを含む方法も対象とする。第1のgRNA分子および第2のgRNA分子のそれぞれは、19~24個のヌクレオチドの長さのターゲティングドメインを有し、ベクターは、それぞれがヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51に隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成するように構成され、それにより、ジストロフィン遺伝子においてエクソン51を含むセグメントが欠失される。
【0024】
本発明はまた、変異ジストロフィン遺伝子を有する、必要とする対象を処置する方法も対象とする。この方法は、対象に、(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第1のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第1のベクター、および(b)第2のgRNA分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第2のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第2のベクターを投与することを含む。第1のgRNA分子および第2のgRNA分子のそれぞれは、19~24個のヌクレオチドの長さのターゲティングドメインを有し、前記ベクターは、それぞれがヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51に隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成するように構成され、それにより、ジストロフィン遺伝子においてエクソン51を含むセグメントが欠失される。
【0025】
本発明はまた、エクソン52が欠失した(Δ52)ヒトジストロフィン遺伝子(hDMD)を有する遺伝子導入齧歯動物胚を作成する方法も対象とする。この方法は、上記で説明したgRNA、上記で説明したDNAターゲティングシステム、上記で説明した単離ポリヌクレオチド、上記で説明したベクター、上記で説明した改変アデノ随伴ウイルスベクターまたは上記で説明した組成物を齧歯動物胚に投与し、それにより、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン52が欠失される、投与すること、およびヒトジストロフィン遺伝子のエクソン52の欠失を有する遺伝子導入齧歯動物胚を選択することであって、この齧歯動物胚は正常なヒトジストロフィン遺伝子を含む、選択することを含む。
【0026】
本発明はまた、上記で説明した方法により作成された遺伝子導入齧歯動物胚も対象とする。
【0027】
本発明はまた、上記で説明した遺伝子導入齧歯動物胚から作成された遺伝子導入齧歯動物も対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】Surveyorアッセイにより決定した、HEK293T細胞中のヒトジストロフィン遺伝子(野生型ジストロフィン遺伝子)ならびにDMD患者の筋芽細胞株(DMD 8036およびDMD 6594、これらのそれぞれは、ジストロフィン遺伝子の変異型を有する)を標的とする個々のgRNA JCR89およびJCR91の活性を示す。
【
図2A-2B】SaCas9ならびにgRNA JCR89およびJCR91による同時処理に起因する、HEK293T細胞ならびにDMD筋芽細胞(DMD 8036およびDMD 6594)のゲノムDNA中でのエクソン51の欠失(
図2A)ならびにDMD筋芽細胞由来のcDNA中でのエクソン51の欠失(
図2B)を示す。
【
図3】2種のウイルスベクターによるSaCas9ならびにgRNA JCR89およびJCR91の筋肉組織への同時送達に関するAAVに基づくインビボシステムを示す。
【
図4】SaCas9およびgRNAを担持するウイルスベクターの前脛骨(TA)筋への局所的AAV8送達後の、ヒトDMD遺伝子を担持する遺伝子導入マウス(hDMD/mdxマウス)でのヒトエクソン51の欠失の検出を示す。
【
図5】尾静脈注射による全身AAV8送達後の、hDMD遺伝子を担持する遺伝子導入マウスでのヒトエクソン51の欠失の検出を示す。
【
図6】ヒトゲノムとアカゲザルゲノムとの間で保存されている様々なgRNA標的を示す(表2中のgRNAの配列を参照されたい)。各gRNAの位置を、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51と関連させて示す。
【
図7】Surveyorアッセイにより決定した、ヒトHEK293T細胞の遺伝子導入後の個々のgRNAの活性を示す。
【
図8】CasOFFinderプログラム(Bae et al.(2014)Bioinformatics 30:1473-1475)を使用して予測した候補gRNAの特異性を示す。
【
図9】ゲノムDNAのPCRにより決定した、HEK293T細胞中におけるおよびDMD 6594細胞中におけるgRNA JCR157およびJCR160によるエクソン51の欠失を示す。
【
図10】以下の様々な標的長:19個、20個、21個、22個および23個のヌクレオチドのgRNA JCR157の(Surveyorアッセイにより決定した)活性を示す。
【
図11】以下の様々な標的長:19個、20個、21個、22個および23個のヌクレオチドのgRNA JCR160の(Surveyorアッセイにより決定した)活性を示す。
【
図12】ゲノムDNAのPCRにより決定した、様々な長さ(21個、22個または23個のヌクレオチド)のJCR157およびJCR160を組み合わせることにより生じた欠失を示す。
【
図13】Surveyorアッセイによる、インビトロでのオンターゲットヌクレアーゼ活性を示す。
【
図14】ゲノムDNA中でのエクソン51のインビトロでの欠失を示す。
【
図15】7日にわたり分化したヒトDMD筋芽細胞におけるcDNA中でのエクソン51のインビトロでの欠失を示す。
【
図16】DMD患者筋芽細胞のcDNA中におけるインビトロでのエクソン47~52の接合を示す。
【
図17】健康なhDMD/mdxマウスから始まるΔ52/mdxマウスの設計を示す。
【
図18】インビトロでのガイド検証を示す:個々(Surveyorアッセイ)を示す。
【
図19】インビトロでのガイド検証を示す:対:gRNAの対を使用して、HEK293T細胞のゲノムDNA中でのエクソン51の欠失が生じた。
【
図20】DNAマイクロインジェクションプロトコルの概要を示す。
【
図22】ファウンダーマウスの遺伝子型同定の結果を示す。
【
図23】ファウンダーマウス7、63および76の配列決定の結果の一部を示す。
【
図25】ファウンダー雄76+mdx/mdx繁殖結果からの同腹仔5(雄のみ)の遺伝子型同定を示す。「63」はファウンダー雄である(しかし、この場合には親ではなかった)。「293」は、HEK293T細胞ゲノムDNA対照を表す。
【
図26】ファウンダー雄63+mdx/mdxの繁殖結果からの同腹仔1の遺伝子型同定を示す。
【
図27】仔54497および54498の392bpの配列決定の読み取りの一部を示す。
【
図28】仔54497および54498からの心臓およびTAの免疫組織化学的染色を示す。
【
図29】Δ52/mdxマウスがジストロフィンタンパク質を欠くことを示す。
【
図30】Δ52/mdxマウスは、DMD遺伝子型と一致するジストロフィンタンパク質を欠くが、健康なhDMD/mdxマウスはジストロフィンを発現することを示すウエスタンブロットを示す。
【
図31】自発運動および探索により示す、mdxマウスおよびhDMD/mdxマウスと比較したΔ52/mdxマウスの全体的な活動性を示す。
【
図32】除去のためにイントロン領域中のエクソン51の上流および下流をgRNAが標的とすることによる、エクソン51をスキップするためにSaCas9およびgRNAを使用するΔ52/mdxマウスの修正戦略を示す。
【
図33】SaCas9ならびにgRNA JCR179およびJCR183を使用する、DMD患者筋芽細胞(DMD 6594細胞)中でのエクソン51欠失からのジストロフィンタンパク質のインビトロでの回復を示す。
【
図34】gRNAおよびSaCas9システムを使用してΔ52/mdxマウスを処理するための実験設計を示す。
【
図35】右TA筋中でのインビボでのエクソン51欠失を示す。
【
図36】右TA筋中でのインビボでのエクソン51欠失を示す。
【
図37】処理TA筋中におけるインビボでのジストロフィンタンパク質の回復を示す。
【
図38】処理TA筋中におけるインビボでのジストロフィンタンパク質の回復を示す。
【
図39】移動した総距離に関する全ての時点の平均を示す。
【
図40】後ろ足で立っている姿勢の合計に関する全ての時点の平均を示す。
【
図41】16週の未処理マウスおよび処理マウスの握力を示す。
【
図43】
図42の増幅cDNA PCRバンドの配列決定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書で説明されているように、特定の方法および操作されたgRNAは、発現の変更、ゲノム操作、および遺伝性疾患(例えばDMD)に関与するジストロフィン遺伝子での変異の効果の修正または低減のためのCRISPR/CRISPR関連(Cas)9に基づく遺伝子編集システムで有用であることを発見している。本開示のgRNAを、臨床翻訳により適している標的部位に生成した。例えば、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9(SpCas9)をコードする遺伝子は、他の全ての必要な調節配列が含まれる場合には筋肉への全身性遺伝子送達に使用されるベクターであるアデノ随伴ウイルス(AAV)により送達されるには大きすぎる。その代わりに、黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9(SsCas9)(SpCas9と比べて約1kb小さい)と共に使用するために、本開示のgRNAを選択してスクリーニングした。標的選択を、ヒトゲノムとアカゲザルゲノムとの間で保存された配列上の、SaCas9に適合する標的であるかに関してスクリーニングし、これにより、可能な遺伝子標的の数が大きく制限される。この選択基準を、非ヒト霊長類モデルにおける前臨床試験を容易にするためにヒトおよびアカゲザルの両方で活性であり得るgRNA候補を考慮するように選択した。本開示のgRNA(ヒトおよびアカゲザルの両方のジストロフィン遺伝子配列を標的とする)を、CRISPR/Cas9に基づくシステムと共に使用して、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51の周囲のイントロン領域を標的とし得、この領域のゲノム欠失が生じて、DMD患者由来の細胞において機能するジストロフィンの発現が回復される。
【0030】
また、本明細書で説明されているのは、ジストロフィン遺伝子を標的とすべく、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムおよび複数のgRNAを送達するための遺伝子コンストラクト、組成物および方法でもある。本開示の主題はまた、遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を骨格筋および心筋に送達する方法も提供する。このベクターはAAV(例えば改変AAVベクター)であることができる。本開示の主題は、効果的で効率的であり且つゲノム改変の成功を容易にする、骨格筋または心筋へのこのクラスの治療剤の活性型を送達する方法を説明し、さらには、治療用途のためにヒトゲノムを書き直す手段および基礎科学用途のための標的モデル種を提供する。
【0031】
このセクションおよび本明細書での開示全体で使用するセクションの表題は、単に構成を目的とするだけであり、限定することを意図するものではない。
【0032】
1.定義
別途定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。矛盾する場合には、定義を含む本文書が支配する。好ましい方法および材料が以下に説明されているが、本明細書で説明されたものと類似のまたは等価の方法および材料を本発明の実施または試験で使用することができる。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。本明細書で開示された材料、方法および例は一例にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0033】
用語「含む」、「含まれる」、「有すること」、「有する」、「することができる」、「含有する」、およびこれらの異形は、本明細書で使用する場合、追加の作用または構造可能性を排除しない、制約のない移り変わる語句、用語、または単語であることが意図される。単数形「a」、「an」、および「the」には、文脈によって他に明確に指示しない限り、複数の指示内容が含まれる。本開示はまた、明確に説明してもしなくても、本明細書で提供される実施態様または要素を「含む」、「~からなる」、および「本質的に~からなる」、他の実施態様を意図する。
【0034】
本明細書の数値範囲の列挙については、それぞれその間にある数が、同じ程度の正確性で、明確に意図される。例えば、6~9の範囲については、6および9に加えて、数値7および8が意図され、範囲6.0~7.0については、数値6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、および7.0が、明確に意図される。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「約(about)」または「約(approximately)」は、当業者によって決定される特定の値に関して許容される誤差範囲内を意味し、この誤差範囲は、この値がどのようにして測定されるかまたは決定されるか(即ち、測定システムの限界)によってある程度決まるだろう。例えば、「約」は、当分野での慣習に従って、3または3超の標準偏差内を意味することができる。あるいは、「約」は、所与の値の最大20%の範囲を意味し得、好ましくは最大10%の範囲を意味し得、より好ましくは最大5%の範囲を意味し得、より好ましくはさらに最大1%の範囲を意味し得る。あるいは、特に生物系または生物学的プロセスに関して、この用語は、ある値の1桁内を意味し得、好ましくは5倍以内を意味し得、より好ましくは2倍以内を意味し得る。
【0036】
本明細書で互換的に使用される「アデノ随伴ウイルス」または「AAV」は、ヒトおよびいくつかの他の霊長類の種を感染させる、パルボウイルス(Parvoviridae)科のディペンドウイルス(Dependovirus)属に属する、小さいウイルスを指す。AAVは、現在、疾患を引き起こすことが知られておらず、したがって、ウイルスは、非常に穏やかな免疫応答を引き起こす。
【0037】
本明細書で使用される「結合領域」は、ヌクレアーゼによって認識および結合される、ヌクレアーゼ標的領域内の領域を指す。
【0038】
本明細書において互換的に使用される「心筋(cardiac muscle)」または「心筋(heart muscle)」は、心臓の壁および組織学的基礎で見られる一種の不随意性の横紋筋(心筋(myocardium))を意味する。心筋は、心筋細胞(cardiomyocyte)または心筋細胞(myocardiocyte)で作られている。心筋細胞は骨格筋細胞上の条線と同様の条線を示すが、多核骨格筋とは異なり唯一の固有の核を含む。特定の実施態様では、「心筋状態」は、心筋に関連する状態(例えば、心筋症、心不全、不整脈および炎症性心疾患)を指す。
【0039】
本明細書で使用される「コード配列」または「コードする核酸」は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸(RNAまたはDNA分子)を意味する。コード配列は、核酸が投与される個人または哺乳類の細胞における発現を誘導することが可能なプロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含めた調節エレメントに作動可能に連結された開始および停止シグナルをさらに含むことができる。コード配列は、コドン最適化することができる。
【0040】
本明細書で使用される「相補体」または「相補的」は、核酸が、核酸分子のヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体の間に、Watson-Crick(例えばA-T/UおよびC-G)またはフーグスティーン塩基対合を生じることができることを意味する。「相補性」は、互いに逆平行に整列させた時に各位置のヌクレオチド塩基が相補的となるような、2つの核酸配列間に共有される性質を指す。
【0041】
本明細書で使用される「修正すること」、「ゲノム編集すること」、および「修復すること」は、切り詰め型タンパク質をコードするまたはタンパク質をまったくコードしない変異遺伝子を、完全長の機能性または部分的に完全長の機能性タンパク質発現が得られるように変化させることを指す。変異遺伝子を修正することまたは修復することは、変異を有する遺伝子の領域を置き換えること、または変異遺伝子全体を、相同組換え修復(homology-directed repair)(HDR)などの修復機構を用いて、変異を有しない遺伝子のコピーと置き換えることを含むことができる。変異遺伝子を修正することまたは修復することはまた、遺伝子内の二本鎖切断をもたらし、次いでこの遺伝子を非相同末端結合(NHEJ)を使用して修復することによって、未成熟終止コドン、異所性スプライス受容部位、または異所性スプライス供与部位をもたらすフレームシフト変異を修復することを含むことができる。NHEJは、修復中に少なくとも1つの塩基対を付加または欠失させることができ、これは、適切な読み枠を修復するおよび未成熟終止コドンを除去することができる。変異遺伝子を修正することまたは修復することはまた、異所性スプライス受容部位またはスプライスドナー配列を破壊することを含むことができる。変異遺伝子を修正することまたは修復することはまた、2つのヌクレアーゼ標的部位間のDNAを除去することによって、適切な読み枠を修復するために、同じDNA鎖上での2種のヌクレアーゼの同時作用によって、非必須遺伝子セグメントを欠失させることと、NHEJによってDNA切断を修復することとを含むことができる。
【0042】
本明細書で互換的に使用される「ドナーDNA」、「ドナー鋳型」、および「修復鋳型」は、対象となる遺伝子の少なくとも一部分を含む二本鎖DNA断片または分子を指す。ドナーDNAは、完全に機能性のタンパク質または部分的に機能性のタンパク質をコードすることができる。
【0043】
本明細書で互換的に使用される「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」または「DMD」は、筋変性および最終的に死をもたらす、劣性遺伝の致死的なX連鎖性障害を指す。DMDは、一般的な遺伝性の単一遺伝子性疾患であり、男性の3500人に1人に発症する。DMDは、ジストロフィン遺伝子のナンセンスまたはフレームシフト変異をもたらす、遺伝性変異または自然突然変異の結果である。DMDを引き起こすジストロフィン変異の大多数は、ジストロフィン遺伝子において読み枠を破壊して早期翻訳終結を引き起こす、エクソンの欠失である。DMD患者は、一般的に、小児期に自分自身の身体を支える能力を失い、10代の間に次第に筋力が低下するようになり、20代で死亡する。
【0044】
本明細書で使用される「ジストロフィン」は、筋線維の細胞骨格を細胞膜を通して周囲の細胞外基質に連結するタンパク質複合体の一部である、棒状の細胞質タンパク質を指す。ジストロフィンは、筋細胞の完全性および機能の調節を担う細胞膜のジストログリカン複合体に、構造安定性を提供する。本明細書で互換的に使用されるジストロフィン遺伝子または「DMD遺伝子」は、遺伝子座Xp21の2.2メガ塩基である。一次転写物は、約2,400kbであり、成熟したmRNAは、約14kbである。79エクソンが、3500超のアミノ酸であるタンパク質をコードする。
【0045】
本明細書で使用される「エクソン51」は、ジストロフィン遺伝子の51番目のエクソンを指す。エクソン51は、DMD患者では、フレーム破壊欠失に頻繁に隣接しており、オリゴヌクレオチドに基づくエクソンスキッピングについての臨床試験において標的とされている。エクソン51スキッピング化合物エテプリルセンについての臨床試験は、最近、ベースラインと比較して平均47%のジストロフィン陽性線維を伴う、48週にわたる有意な機能性の利益を報告した。エクソン51の変異は、NHEJに基づくゲノム編集による永続的な修正に理想的に適している。
【0046】
本明細書で互換的に使用される「フレームシフト」または「フレームシフト変異」は、1つ以上のヌクレオチドの付加または欠失がmRNA内のコドンの読み枠のずれをもたらす、遺伝子変異の種類を指す。読み枠のずれは、ミスセンス変異または未成熟終止コドンなどの、タンパク質翻訳でのアミノ酸配列の変更をもたらす可能性がある。
【0047】
本明細書で使用される「機能性」および「完全に機能性」は、生物活性を有するタンパク質を説明する。「機能性遺伝子」は、機能性タンパク質に翻訳されるmRNAに転写される遺伝子を指す。
【0048】
本明細書で使用される「融合タンパク質」は、元々は別のタンパク質をコードしている2つ以上の遺伝子の連結を介して作製されたキメラタンパク質を指す。融合体遺伝子の翻訳は、元のタンパク質のそれぞれに由来する機能特性をもつ単一のポリペプチドをもたらす。
【0049】
本明細書で使用される「遺伝子コンストラクト」は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むDNAまたはRNA分子を指す。コード配列には、核酸分子が投与される個人の細胞における発現を誘導することが可能なプロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含めた調節エレメントに作動可能に連結された開始および停止シグナルが含まれる。本明細書で使用する場合、用語「発現可能な形態」は、個人の細胞内に存在する場合にコード配列が発現されることとなるような、タンパク質をコードするコード配列に、作動可能に連結された必須の調節エレメントを含有する遺伝子コンストラクトを指す。
【0050】
本明細書で使用される「遺伝性疾患」は、ゲノム内の1つ以上の異常によって、部分的にまたは完全に、直接的にまたは間接的に引き起こされる疾患、特に、生まれつき存在する状態を指す。異常は、変異、挿入、または欠失であり得る。異常は、遺伝子のコード配列またはその調節配列に影響を与える可能性がある。遺伝性疾患は、限定はされないが、DMD、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、血友病、嚢胞性線維症、ハンチントン舞踏病、家族性高コレステロール血症(LDL受容体欠損)、肝芽腫、ウィルソン病、先天性肝性ポルフィリン症、肝代謝の遺伝性の障害、レッシュ・ナイハン症候群、鎌状赤血球貧血、地中海貧血症、色素性乾皮症、ファンコニ貧血、網膜色素変性症、毛細血管拡張性運動失調症、ブルーム症候群、網膜芽細胞腫、およびテイ・サックス病であり得る。
【0051】
本明細書で互換的に使用される「相同組換え修復」または「HDR」は、大抵は細胞周期のG2およびS期において、DNAの相同の断片が核内に存在する場合に、二本鎖DNA損傷を修復するための、細胞における機構を指す。HDRは、修復を誘導するためのドナーDNA鋳型を使用し、また、ゲノムに対する特定の配列変化(全遺伝子の標的とされる付加を含めて)を作り出すために使用することができる。ドナー鋳型が、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムと共に提供される場合、細胞機構は、相同組換えによって切断を修復することとなり、これは、DNA切断の存在下で、数桁増強される。相同のDNA断片が存在しない場合、代わりに非相同末端結合が起こり得る。
【0052】
本明細書で使用される「ゲノム編集」は、遺伝子を変化させることを指す。ゲノム編集は、変異遺伝子を修正することまたは修復することを含むことができる。ゲノム編集は、変異遺伝子または正常遺伝子などの遺伝子をノックアウトすることを含むことができる。ゲノム編集は、対象となる遺伝子を変化させることによって、疾患を治療する、または筋肉修復を増強するために使用することができる。
【0053】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列の状況で本明細書で使用される「同一な」または「同一性」は、これらの配列が、特定の領域にわたって同一である、特定の割合の残基を有することを意味する。その割合は、2つの配列を最適に整列させ、これらの2つの配列を特定の領域にわたって比較し、両方の配列において同一な残基が存在する位置の数を決定してマッチ位置の数を出し、マッチ位置の数を、特定の領域における位置の総数で割り、結果に100をかけて、配列同一性の割合を出すことによって算出することができる。2つの配列が異なる長さのものである、または整列によって1つ以上の粘着末端が生じて比較の特定の領域に単一の配列のみが含まれる場合、単一の配列の残基は、計算の分母に含まれるが、分子には含まれない。DNAおよびRNAを比較する場合、チミン(T)とウラシル(U)は、等しいとみなすことができる。同一性は、手作業で、またはBLASTまたはBLAST 2.0などのコンピュータ配列アルゴリズムを使用することによって実施することができる。
【0054】
本明細書で互換的に使用される「変異遺伝子」または「変異した遺伝子」は、検出可能な変異を受けている遺伝子を指す。変異遺伝子は、遺伝子の正常な伝達および発現に影響を与える、遺伝材料の喪失、獲得、または交換などの変化を受けている。本明細書で使用される「破壊された遺伝子」は、未成熟終止コドンをもたらす変異を有する、変異遺伝子を指す。破壊された遺伝子産物は、完全長の破壊されていない遺伝子産物と比較すると切り詰め型である。
【0055】
本明細書で使用される「非相同末端結合(NHEJ)経路」は、相同の鋳型を必要とせずに、切断末端を直接的に連結することによって、DNA内の二本鎖切断を修復する経路を指す。NHEJによる、鋳型に依存しないDNA末端の再連結は、DNA切断点にランダムな微小挿入および微小欠失(インデル)を導入する、確率的な、誤りがちな修復プロセスである。この方法は、標的とされる遺伝子配列を意図的に破壊する、欠失させる、または読み枠を変更するために使用することができる。NHEJは、一般的に、修復を誘導するための、マイクロホモロジーと呼ばれる短い相同のDNA配列を使用する。これらのマイクロホモロジーは、しばしば、二本鎖切断の末端の単鎖オーバーハング中に存在する。このオーバーハングが完璧に適合する場合、NHEJは通常、切断を正確に修復し、一方で、ヌクレオチドの喪失をもたらす不正確な修復も起こり得るが、これは、オーバーハングが適合しない場合にははるかに一般的である。
【0056】
本明細書で使用される「正常遺伝子」は、遺伝材料の喪失、獲得、または交換などの変化を受けていない遺伝子を指す。正常遺伝子は、正常な遺伝子伝達および遺伝子発現を受ける。
【0057】
本明細書で使用される「ヌクレアーゼ介在性のNHEJ」は、Cas9分子などのヌクレアーゼが二本鎖DNAを切断した後に開始されるNHEJを指す。
【0058】
本明細書で使用される「核酸」または「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」は、共有結合によって共に連結された、少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。単鎖の描写はまた、相補鎖の配列も定義する。したがって、核酸は、描写した単鎖の相補鎖も包含する。所与の核酸と同一の目的のために、核酸の多くのバリアントを使用することができる。したがって、核酸は実質的に同一な核酸およびその相補体も包含する。単鎖は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で標的配列とハイブリッド形成することができるプローブを提供する。したがって、核酸は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリッド形成するプローブも包含する。
【0059】
核酸は、一本鎖または二本鎖であり得るし、二本鎖配列と一本鎖配列の両方の部分を含有することもできる。核酸は、DNA、ゲノムDNAとcDNAの両方、RNA、またはハイブリッドであり得、ここでは、核酸は、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの組み合わせ、およびウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン ヒポキサンチン、イソシトシン、およびイソグアニンを含めた塩基の組み合わせを含有することができる。核酸は、化学合成方法によって、または組換え方法によって得ることができる。
【0060】
本明細書で使用される「作動可能に連結された」は、遺伝子の発現が、遺伝子と空間的に連結されたプロモーターの制御下であることを意味する。プロモーターは、その制御下の遺伝子の5’(上流)または3’(下流)に位置することができる。プロモーターと遺伝子との距離は、プロモーターが由来する遺伝子においてプロモーターが制御するプロモーターと遺伝子との距離とほぼ同じであり得る。当技術分野で公知であるように、この距離のバリエーションは、プロモーター機能の喪失を伴わずに適応させることができる。
【0061】
本明細書で使用される「部分的に機能性」は、変異遺伝子によってコードされ、かつ、機能性タンパク質よりも低い生物活性を有するが、非機能性タンパク質よりも高い生物活性を有する、タンパク質を説明する。
【0062】
本明細書で互換的に使用される「未成熟終止コドン」または「アウトオブフレーム終止コドン」は、野生型遺伝子には通常見られない位置での終止コドンをもたらす、DNAの配列内のナンセンス変異を指す。未成熟終止コドンは、完全長型のタンパク質と比較して切断されているまたは短いタンパク質をもたらす可能性がある。
【0063】
本明細書で使用される「プロモーター」は、細胞における核酸の発現を付与する、活性化する、または促進することが可能である、合成または天然由来の分子を意味する。プロモーターは、発現をさらに促進するための、かつ/または、空間的発現および/または同じものの時間的発現を変更するための、1つ以上の特異的な転写調節配列を含むことができる。プロモーターはまた、転写の開始部位から数千塩基対も離れて位置することができる、遠位エンハンサーまたはリプレッサーエレメントを含むことができる。プロモーターは、ウイルス、細菌、真菌、植物、昆虫、および動物を含めた起源から得ることができる。プロモーターは、発現が起こる細胞、組織、または器官に対して、または発現が起こる発生段階に対して、または生理的ストレス、原体、金属イオン、または誘発物質などの外部刺激に応答して、遺伝子成分の発現を恒常的または変動的に調節することができる。プロモーターの代表的な例としては、バクテリオファージT7プロモーター、バクテリオファージT3プロモーター、SP6プロモーター、lacオペレーター-プロモーター、tacプロモーター、SV40後期プロモーター、SV40初期プロモーター、RSV-LTRプロモーター、CMV IEプロモーター、SV40初期プロモーターまたはSV40後期プロモーター、ヒトU6(hU6)プロモーターおよびCMV IEプロモーターが挙げられる。
【0064】
本明細書で使用される「骨格筋」は、体性神経系の制御下にあり、かつ腱として公知のコラーゲン線維の束によって骨に付着している、横紋筋の種類を指す。骨格筋は、時として口語的に「筋線維(muscle fiber)」と呼ばれる、筋細胞(myocyte)として公知の個々の成分、または「筋肉細胞(muscle cell)」で構成されている。筋細胞は、筋形成として公知のプロセスにおいて、発達性の筋芽細胞(筋肉細胞をもたらす、ある種類の胚性前駆細胞)の融合体から形成される。これらの長い円柱形の多核細胞は、筋線維(myofiber)とも呼ばれる。
【0065】
本明細書で使用される「骨格筋状態」は、筋ジストロフィー、老化、筋変性、創傷治癒、および筋力低下または筋萎縮症などの、骨格筋に関連する状態を指す。
【0066】
本明細書で互換的に使用される「対象」および「患者」は、限定はされないが、哺乳類(例えば、ウシ、ブタ、ラクダ、ラマ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、ネコ、イヌ、ラット、およびマウス、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザルまたはアカゲザル、チンパンジーなどのサル)、およびヒト)を含めた、あらゆる脊椎動物を指す。いくつかの実施態様では、対象は、ヒトまたは非ヒトであり得る。対象または患者は、他の形態の治療を受けていてもよい。
【0067】
「標的遺伝子」は、本明細書で使用される場合、既知のまたは推定上の遺伝子産物をコードする任意のヌクレオチド配列を指す。標的遺伝子は、遺伝性疾患に関与する変異遺伝子であることができる。特定の実施態様では、標的遺伝子はヒトジストロフィン遺伝子である。特定の実施態様では、標的遺伝子は変異ヒトジストロフィン遺伝子である。
【0068】
「標的領域」は、本明細書で使用される場合、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムが結合して開裂するように設計されている標的遺伝子の領域を指す。
【0069】
本明細書で使用される「導入遺伝子」は、ある生物から単離されており、別の生物に導入される、遺伝子配列を含有する遺伝子または遺伝材料を指す。DNAのこの非天然セグメントは、トランスジェニック生物におけるRNAまたはタンパク質を産生する能力を保持することもできるし、トランスジェニック生物の遺伝暗号の正常な機能を変えることもできる。導入遺伝子の導入は、生物の表現型を変化させる可能性を有する。
【0070】
核酸に関して本明細書で使用される「バリアント」は、(i)参考ヌクレオチド配列の一部もしくは断片;(ii)参考ヌクレオチド配列の相補体、もしくはその一部;(iii)参考核酸と実質的に同一である核酸、もしくはその相補体;または(iv)ストリンジェントな条件下で参考核酸とハイブリッド形成する核酸、その相補体、もしくはそれと実質的に同一な配列を意味する。
【0071】
ペプチドまたはポリペプチドに関する「バリアント」は、アミノ酸の挿入、欠失、または保存的置換によってアミノ酸配列が異なるが、少なくとも1つの生物活性を保持する。バリアントは、少なくとも1つの生物活性を保持するアミノ酸配列を有する参考タンパク質と実質的に同一であるアミノ酸配列を有するタンパク質も意味することができる。アミノ酸の保存的置換、すなわち、アミノ酸を、同様の性質(例えば、荷電領域の親水性、程度、および分布)の別のアミノ酸と置き換えることは、微小な変化を一般的に伴うものと当技術分野で認識されている。これらの微小な変化は、当技術分野で理解されている通り、アミノ酸の疎水性指標(hydropathic index)を考慮することによって、ある程度特定することができる。Kyte et al.,J.Mol.Biol.157:105-132(1982)。アミノ酸の疎水性指標は、その疎水性および電荷の考慮に基づいている。同様の疎水性指標のアミノ酸が置換されてもまだ、タンパク質機能を保持できることが、当技術分野で公知である。一態様では、±2の疎水性指標を有するアミノ酸が置換される。アミノ酸の親水性はまた、生体機能を保持するタンパク質をもたらすであろう置換を明らかにするために使用することができる。ペプチドという状況でのアミノ酸の親水性の考慮は、そのペプチドの最大の局所的平均親水性の算出を可能にする。互いに±2以内の親水性値を有するアミノ酸での置換を実施することができる。アミノ酸の疎水性指標と親水性値はどちらも、そのアミノ酸の特定の側鎖によって影響を受ける。この知見と一致して、生体機能と適合するアミノ酸置換は、疎水性、親水性、電荷、大きさ、および他の性質によって明らかにされる、アミノ酸、特にそのアミノ酸の側鎖の相対的類似性に依存することが理解されよう。
【0072】
本明細書で使用される「ベクター」は、複製開始点を含有する核酸配列を意味する。ベクターは、ウイルスベクター、バクテリオファージ、細菌人工染色体または酵母人工染色体であり得る。ベクターは、DNAまたはRNAベクターであり得る。ベクターは、自己複製する染色体外のベクターであり得、好ましくはDNAプラスミドである。例えば、このベクターは、Cas9タンパク質および少なくとも1種のgRNA分子(例えば、配列番号1~19、41、42のいずれか1つのターゲティングドメインまたはその相補体を含むgRNA)をコードすることができる。いくつかの実施態様では、このCas9タンパク質は、配列番号27、配列番号33または配列番号45のアミノ酸配列を有することができる。いくつかの実施態様では、このCas9タンパク質は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9(例えば、配列番号33または45のアミノ酸配列を有するSaCas9)であることができる。いくつかの実施態様では、このCas9タンパク質は、配列番号26、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号34、配列番号35、配列番号43または配列番号44の核酸配列を含む核酸配列によりコードされる。
【0073】
本明細書で別に定義されない限り、本開示に関して使用される科学および技術用語は、当業者によって普通に理解されるのと同じ意味を有するものとする。例えば、本明細書に記載した細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質および核酸化学、ならびにハイブリダイゼーションに関して使用される、あらゆる学術用語、およびこれらの技術は、周知でありかつ当技術分野で普通に使用されるものである。用語の意味および範囲は、明確であるべきである;しかし、いずれかの潜在的あいまい性の場合には、本明細書で提供する定義が、あらゆる辞書または外部の定義よりも先行する。さらに、文脈によって他に必要とされない限り、単数の用語には、複数形が含まれるものとし、複数の用語には、単数形が含まれるものとする。
【0074】
2.ジストロフィン遺伝子のゲノム編集用の遺伝子コンストラクト
本発明は、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)のゲノム編集、ゲノム改変またはゲノム発現の変更のための遺伝子コンストラクトを対象とする。この遺伝子コンストラクトは、ヒトおよびアカゲザルの両方のジストロフィン遺伝子配列(例えば、SaCas9に適合する標的)を標的とする少なくとも1種のgRNAを含む。本開示のgRNAは、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51の周囲のイントロン領域を標的とするために、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システム(例えば、SaCas9を使用するシステム)に含まれ得、この領域のゲノム欠失を引き起こして、DMD患者由来の細胞中で機能するジストロフィンの発現を回復させる。
【0075】
a.ジストロフィン遺伝子
ジストロフィンは、細胞膜を介して筋繊維の細胞骨格と周囲の細胞外マトリックスとをつなぐタンパク質複合体の一部である棒状の細胞質タンパク質である。ジストロフィンは、細胞膜のジストログリカン複合体に構造安定性をもたらす。ジストロフィン遺伝子は、遺伝子座Xp21で2.2ベガ塩基である。一次転写は約2,400kbを測定し、成熟mRNAは約14kbである。79種のエクソンは、3500個を超えるアミノ酸であるタンパク質をコードする。正常な骨格筋組織には、わずかな量のジストロフィンしか含まれないが、このジストロフィンの異常な発現の欠如により、重度且つ不治の症状が発症する。ジストロフィン遺伝子中のいくつかの変異により、罹患した患者では不完全なジストロフィンおよび重度のジストロフィー表現型が産生される。ジストロフィン遺伝子中のいくつかの変異により、罹患した患者では、部分的に機能するジストロフィンタンパク質および非常に軽度のジストロフィー表現型がもたらされる。
【0076】
DMDは、ジストロフィン遺伝子中でナンセンス変異またはフレームシフト変異を引き起こす遺伝的なまたは自発的な変異の結果である。天然に存在する変異およびその結果は、DMDに関して比較的よく理解されている。ロッドドメインに含まれるエクソン45~55領域(例えばエクソン51)中で起こるインフレーム欠失により、高度に機能するジストロフィンタンパク質が産生され得、多くの保有者は無症状であるか軽度の症状を呈することが知られている。さらに、ジストロフィン遺伝子のこの領域中のエクソンを標的とする(例えばエクソン51を標的とする)ことにより、理論的には患者の60%超を処置することができる。mRNAのスプライシングの最中に非必須エクソンをスキップさせて(例えば、エクソン51をスキップさせて)、内部的には欠失しているが機能するジストロフィンタンパク質を産生することにより、DMD患者の破壊されたジストロフィン読み枠を回復させる努力がなされている。内部ジストロフィンエクソンの欠失(例えば、エクソン51の欠失)により、適切な読み枠が保持されるものの比較的軽度のベッカー型筋ジストロフィー(即ちBMD)が引き起こされる。ベッカー型筋ジストロフィー(即ちBMD)遺伝子型は、ジストロフィン遺伝子中に欠失が存在するという点でDMDと類似する。しかしながら、この欠失は読み枠を無傷に保つ。そのため、内部的には切り詰められるが部分的に機能するジストロフィンタンパク質が作られる。BMDは幅広い表現型を有するが、多くの場合、ジストロフィンのエクソン45~55の間に欠失が存在する場合には、この表現型はDMDと比べてはるかに軽度である。そのため、DMD遺伝子型をBMD遺伝子型へと変更することは、ジストロフィンを修正するための一般的な戦略である。ジストロフィンを修正するための多くの戦略が存在し、これらの多くは、内因性ジストロフィンの読み枠の回復に依存する。これにより、疾患の遺伝子型がDMDからベッカー型筋ジストロフィーへとシフトする。多くのBMD患者は、翻訳読み枠を維持する遺伝子内欠失を有し、より短いが大部分が機能するジストロフィンタンパク質が生じる。
【0077】
特定の実施態様では、読み枠を回復させるためのエクソン51の改変(例えば、例えばNHEJによるエクソン51の欠失または排除)により、欠失変異を有するDMD対象等の表現型DMD対象が改善される。特定の実施態様では、ジストロフィン遺伝子のエクソン51はジストロフィン遺伝子の51番目のエクソンを指す。エクソン51はDMD患者のフレーム破壊性欠失に頻繁に隣接しており、オリゴヌクレオチドに基づくエクソンスキッピングの臨床試験で標的とされている。エクソン51スキッピング化合物エテプリルセンの臨床試験では、ベースラインと比較して平均47%のジストロフィン陽性繊維を伴い48週にわたり有意な機能的利点が報告された。エクソン51での変異は、NHEJに基づくゲノム編集による永続的な修正に理想的に適している。
【0078】
本開示のベクターは、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)中で欠失を生じさせることができる。特定の実施態様では、このベクターは、ジストロフィン遺伝子の標的位置に隣接する2つのイントロン(第1のイントロンおよび第2のイントロン)中で2つの二本鎖切断(第1の二本鎖切断および第2の二本鎖切断)を形成し、それにより、ジストロフィン遺伝子においてジストロフィン標的位置を含むセグメントが欠失されるように構成されている。「ジストロフィン標的位置」は、本明細書で説明したジストロフィンのエクソン標的位置またはジストロフィンのエクソン内標的位置であることができる。ジストロフィンのエクソン標的位置の欠失により、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患している患者のジストロフィン配列が最適化され得、例えば、コードされるジストロフィンタンパク質の機能もしくは活性が増加され得る、または対象の疾患状態が改善される。特定の実施態様では、ジストロフィンのエクソン標的位置の排除により読み枠が回復される。このジストロフィンのエクソン標的位置は、ジストロフィン遺伝子の1つまたは複数のエクソンを含むことができる。特定の実施態様では、このジストロフィン標的位置は、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)のエクソン51を含む。
【0079】
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)のエクソン51での高効率の遺伝子編集を媒介することができる。本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、DMD患者由来の細胞中でのジストロフィンタンパク質の発現を回復させる。
【0080】
エクソン51は、DMDでのフレーム破壊性欠失に頻繁に隣接している。エクソンスキッピングによるジストロフィン転写産物からのエクソン51の除去を使用して、全DMD患者の約15%を処置することができる。このクラスのジストロフィン変異は、NHEJに基づくゲノム編集およびHDRによる永続的な修正に理想的に適している。本明細書で説明された遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、ヒトジストロフィン遺伝子中のエクソン51の標的型改変用に開発されている。本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)はヒトDMD細胞中に遺伝子導入され、読み枠を修正するための効率的な遺伝子改変および遺伝子変換を媒介する。タンパク質の回復はフレーム回復と同時であり、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムで処理された細胞の大部分で検出される。
【0081】
b.CRISPRシステム
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)は、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)に特異的であるCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムをコードする。「クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート」および「CRISPR」は、本明細書で互換的に使用される場合、配列決定された細菌の約40%および配列決定された古細菌の90%のゲノムで見られる複数の短いダイレクトリピートを含む遺伝子座を指す。CRISPR系は、ある形態の獲得免疫を提供する、侵入するファージおよびプラスミドに対する防御に関与する、微生物ヌクレアーゼ系である。微生物宿主におけるCRISPR遺伝子座は、CRISPR介在性の核酸切断の特異性をプログラミングすることが可能な、CRISPR関連(Cas)遺伝子と、ノンコーディングRNAエレメントとの組み合わせを含有する。スペーサーと呼ばれる、外来DNAの短い部分が、ゲノムのCRISPRリピート間に組み込まれ、過去の曝露の「メモリー」として働く。Cas9は、sgRNA(本明細書で互換的に「gRNA」とも称される)の3’末端との複合体を形成し、このタンパク質-RNA対は、sgRNA配列の5’末端と、プロトスペーサーとして公知であるあらかじめ定義された20bp DNA配列との間の相補的塩基対合によって、そのゲノム上の標的を認識する。この複合体は、crRNA内のコードされた領域を介して、病原体DNAの相同遺伝子座、すなわち、病原体ゲノム内のプロトスペーサー、およびプロトスペーサー隣接モチーフ(protospacer-adjacent motif)(PAM)に誘導される。ノンコーディングCRISPRアレイは、ダイレクトリピート内で転写および切断されて、個々のスペーサー配列を含有する短いcrRNAとなり、これが、Casヌクレアーゼを標的部位(プロトスペーサー)に誘導する。発現されるsgRNAの20bp認識配列を単に交換することによって、Cas9ヌクレアーゼを、ゲノム上の新しい標的に誘導することができるようになる。CRISPRスペーサーは、真核生物におけるRNAiと同様の方式で外来性遺伝因子を認識および発現停止させるために使用される。
【0082】
3つのクラスのCRISPR系(I型、II型、およびIII型エフェクター系)が公知である。II型エフェクター系は、単一のエフェクター酵素、Cas9を使用して、4つの連続的ステップで、標的DNA二本鎖破壊を行って、dsDNAを切断する。複合体として作用する複数の異なるエフェクターを必要とするI型およびIII型エフェクター系と比較して、II型エフェクター系は、真核細胞などの代替状況において機能することができる。II型エフェクター系は、長い前駆‐crRNA(これは、スペーサー含有CRISPR遺伝子座から転写される)、Cas9タンパク質、およびtracrRNA(これは、前駆‐crRNAプロセシングに関与する)からなる。tracrRNAは、前駆‐crRNAのスペーサーを隔てている反復領域とハイブリッド形成し、したがって、内在性RNase IIIによるdsRNA切断を開始する。この切断に、Cas9による各スペーサー内の第2の切断現象が続き、tracrRNAおよびCas9と結合されたままである成熟crRNAが産生され、Cas9:crRNA-tracrRNA複合体が形成される。
【0083】
Cas9:crRNA-tracrRNA複合体は、DNA二重鎖をほどき、crRNAとの配列マッチングを探索して切断する。標的認識は、標的DNA内の「プロトスペーサー」配列と、crRNA内の残存するスペーサー配列との間の相補性の検出時に発生する。Cas9は、正しいプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)もプロトスペーサーの3’末端に存在する場合に、標的DNAの切断を媒介する。プロトスペーサーターゲティングについては、配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)、すなわちDNA切断に必要とされるCas9ヌクレアーゼによって認識される短い配列の直後でなければならない。別のII型系は、異なるPAM要件を有する。化膿レンサ球菌(S.pyogenes)CRISPR系は、5’-NRG-3’(ここで、Rは、AまたはGのいずれかである)としての、かつ、ヒト細胞におけるこの系の特異性を特徴付ける、このCas9(SpCas9)のためのPAM配列を有することができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムの独自の能力は、2つ以上のsgRNAを伴う単一のCas9タンパク質を同時発現させることによって、複数の異なるゲノム上遺伝子座を同時に標的にする、直接的な能力である。例えば、遺伝子改変された系において、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)II型系は、本来は「NGG」配列(ここで、「N」は、いずれかのヌクレオチドであり得る)を使用することを好むが、「NAG」などの他のPAM配列も受け入れられる(Hsu et al., Nature Biotechnology(2013)doi:10.1038/nbt.2647)。同様に、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)由来のCas9(NmCas9)は、通常、NNNNGATTという天然のPAMを有するが、高度に縮重したNNNNGNNN PAMを含めた様々なPAMにわたって活性を有する(Esvelt et al.Nature Methods(2013)doi:10.1038/nmeth.2681)。
【0084】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRR(R=AまたはG)(配列番号22)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施態様では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRN(R=AまたはG)(配列番号23)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施態様では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRT(R=AまたはG)(配列番号24)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施態様では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRV(R=AまたはG)(配列番号25)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。上述の実施態様では、Nは任意のヌクレオチド残基であり得、例えばA、G、CまたはTのいずれかであり得る。Cas9分子を操作して、このCas9分子のPAM特異性を変更することができる。
【0085】
(1)CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システム
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)の遺伝子改変された形態のII型エフェクター系は、ゲノム工学のために、ヒト細胞において機能することが示された。この系では、Cas9タンパク質は、合成によって再構成された「ガイドRNA」(「gRNA」、また、本明細書ではキメラ一本鎖ガイドRNA(「sgRNA」)と互換的に使用され、一般に、RNase III およびcrRNAプロセシングの必要性を不要にするcrRNA-tracrRNA融合体である)によって、ゲノム上の標的部位に誘導された。本明細書で提供するのは、ゲノム編集、および遺伝性疾患の治療における使用のためのCRISPR/Cas9に基づく編集システムである。CRISPR/Cas9に基づく編集システムは、遺伝性疾患、老化、組織再生、または創傷治癒に関与する遺伝子を含めた、あらゆる遺伝子を標的にするように設計することができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、Cas9タンパク質またはCas9融合タンパク質と、少なくとも1つのgRNAとを含むことができる。特定の実施態様では、システムは2種のgRNA分子を含む。Cas9融合タンパク質は、例えば、トランス活性化ドメインなどの、Cas9にとって内在性であるものとは異なる活性を有するドメインを含むことができる。
【0086】
標的遺伝子(例えば、ジストロフィン遺伝子、例えばヒトジストロフィン遺伝子)は、細胞の分化にもしくは遺伝子の活性化が所望され得る任意の他のプロセスに関与し得る、または変異(例えばフレームシフト変異もしくはナンセンス変異)を有し得る。この標的遺伝子が、未成熟終止コドン、異所性スプライス受容部位または異所性スプライス供与部位を生じる変異を有する場合、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを、この未成熟終止コドン、異所性スプライス受容部位または異所性スプライス供与部位の上流または下流のヌクレオチド配列を認識してこの配列に結合するように設計することができる。このCRISPR-Cas9に基づくシステムを使用して、スプライス受容体またはスプライス供与体を標的として未成熟終止コドンのスキッピングを誘導することによりまたは破壊された読み枠を回復させることにより正常な遺伝子スプライシングを破壊することもできる。このCRISPR-Cas9に基づく遺伝子編集システムは、ゲノムのタンパク質コード領域へのオフターゲット変化を媒介する場合もあるし媒介しない場合もある。
【0087】
(a)Cas9分子およびCas9融合タンパク質
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、Cas9タンパク質またはCas9融合タンパク質を含むことができる。Cas9タンパク質は核酸を開裂するエンドヌクレアーゼであり、CRISPR遺伝子座によりコードされ、且つII型CRISPRシステムに関与する。Cas9タンパク質は、以下が挙げられるがこれらに限定されないあらゆる細菌または古細菌の種に由来し得る:化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(S.aureus)、アシドボラックス・アヴェナエ(Acidovorax avenae)、アクチノバチルス・プルロニューモニア(Actinobacillus pleuropneumoniae)、アクチノバチルス・サクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)、アクチノバチルス・スイス(Actinobacillus suis)、アクチノマイセス種(Actinomyces sp.)、シクリフィルス・デニトリフィカンス(cycliphilus denitrificans)、アミノモナス・パウシボランス(Aminomonas paucivorans)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・スミシイ(Bacillus smithii)、バチルス・チューリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)、バクテロイデス種(Bacteroides sp.)、ブラストピレルラ・マリナ(Blastopirellula marina)、ブラディリゾビウム種(Bradyrhizobium sp.)、ブレビバチルス・ラテロスポラス(Brevibacillus laterosporus)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari)、カンジダツス・プニセイスピリルム(Candidatus Puniceispirillum)、クロストリジウム・セルロリチカム(Clostridium cellulolyticum)、クロストリジウム・パーフリンゲン(Clostridium perfringens)、コリネバクテリウム・アクコレン(Corynebacterium accolens)、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)、コリネバクテリウム・マトルコチイ(Corynebacterium matruchotii)、ディノロセオバクター・シバエ(Dinoroseobacter shibae)、ユウバクテリウム・ドリクム(Eubacterium dolichum)、ガンマプロテオバクテリア(gamma proteobacterium)、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクス(Gluconacetobacter diazotrophicus)、ヘモフィルス・パラインフルエンザエ(Haemophilus parainfluenzae)、ヘモフィルス・スプトラム(Haemophilus sputorum)、ヘリコバクター・カナデンシス(Helicobacter canadensis)、ヘリコバクター・シナエディ(Helicobacter cinaedi)、ヘリコバクター・ムステラエ(Helicobacter mustelae)、イリオバクター・ポリトロパス(Ilyobacter polytropus)、キンゲラ・キンガエ(Kingella kingae)、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus crispatus)、リステリア・イバノビイ(Listeria ivanovii)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、リステリアセアエ・バクテリア(Listeriaceae bacterium)、メチロシスチス種(Methylocystis sp.)、メチロシナス・トリコスポリウム(Methylosinus trichosporium)、モビルンカス・ムリエリス(Mobiluncus mulieris)、ナイセリア・バシリフォルミス(Neisseria bacilliformis)、ナイセリア・シネレア(Neisseria cinerea)、ナイセリア・フラベッセンス(Neisseria flavescens)、ナイセリア・ラクタミカ(Neisseria lactamica)、ナイセリア種(Neisseria sp.)、ナイセリア・ワズワーシイ(Neisseria wadsworthii)、ニトロソモナス種(Nitrosomonas sp.)、パルビバクラム・ラバメンティボランス(Parvibaculum lavamentivorans)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、ファスコラークトバクテリウム・スクシナテュテンス(Phascolarctobacterium succinatutens)、ラルストニア・シジジイ(Ralstonia syzygii)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、ロドブラム種(Rhodovulum sp.)、シモンシエラ・ムエレ(Simonsiella muelleri)、スフィンゴモナス種(Sphingomonas sp.)、スポロラクトバチルス・ビネア(Sporolactobacillus vineae)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)、ストレプトコッカス種(Streptococcus sp.)、サブドリグラヌルム種(Subdoligranulum sp.)、チストレラ・モビリス(Tistrella mobilis)、トレポネーマ種(Treponema sp.)またはベルミネフロバクター・エイセニア(Verminephrobacter eiseniae)。特定の実施態様では、Cas9分子は化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9分子(本明細書では「SpCas9」とも称される)である。特定の実施態様では、Cas9分子は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9分子(本明細書では「SaCas9」とも称される)である。
【0088】
Cas9分子またはCas9融合タンパク質は、1種または複数種のgRNA分子と相互作用し得、このgRNA分子と共同して、標的ドメインを含む部位に局在化し、特定の実施態様ではPAM配列に局在化する。Cas9分子またはCa9融合タンパク質のPAM配列を認識する能力を、例えば既に説明されている形質転換アッセイ(Jinek 2012)を使用して決定することができる。
【0089】
特定の実施態様では、Cas9分子またはCas9融合タンパク質の標的核酸と相互作用してこの標的核酸を開裂する能力は、PAM配列依存性である。PAM配列は標的核酸中の配列である。特定の実施態様では、標的核酸の開裂はPAM配列の上流で起こる。異なる細菌種由来のCas9分子は、異なる配列モチーフ(例えばPAM配列)を認識することができる。特定の実施態様では、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)のCa9分子は配列モチーフNGGを認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する(例えばMali 2013を参照されたい)。特定の実施態様では、S.サーモフィラス(S.thermophilus)のCas9分子は配列モチーフNGGNG(配列番号36)および/またはNNAGAAW(W=AまたはT)(配列番号20)を認識し、これらの配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する(例えばHorvath 2010;Deveau 2008を参照されたい)。特定の実施態様では、S.ミュータンス(S.mutans)のCas9分子は配列モチーフNGGおよび/またはNAAR(R=AまたはG)(配列番号21)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する(例えばDeveau 2008を参照されたい)。特定の実施態様では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRR(R=AまたはG)(配列番号22)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施態様では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRN(R=AまたはG)(配列番号23)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施態様では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRT(R=AまたはG)(配列番号24)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。特定の実施態様では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子は配列モチーフNNGRRV(R=AまたはG;V=AまたはCまたはG)(配列番号25)を認識し、この配列の1~10(例えば3~5)bp上流の標的核酸配列の開裂を指示する。上述の実施態様では、Nはあらゆるヌクレオチド残基であり得、例えばA、G、CまたはTのいずれかであり得る。Cas9分子を操作して、このCas9分子のPAM特異性を変更することができる。
【0090】
特定の実施態様では、ベクターは、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する少なくとも1種のCas9分子をコードする。特定の実施態様では、この少なくとも1種のCas9分子は黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子である。特定の実施態様では、この少なくとも1種のCas9分子は変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子である。
【0091】
Casタンパク質を、ヌクレアーゼ活性が不活性化されるように変異させることができる。エンドヌクレアーゼ活性を有しない不活性化Cas9タンパク質(「iCas9」、「dCas9」とも称される)は最近、立体障害を介して遺伝子発現を抑制するために、gRNAによって細菌、酵母およびヒト細胞において遺伝子を標的としている。化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9配列に関連する例示的な変異として、D10A、E762A、H840A、N854A、N863Aおよび/またはD986Aが挙げられる。黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9配列に関連する例示的な変異として、D10AおよびN580Aが挙げられる。特定の実施態様では、Cas9分子は変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子である。特定の実施態様では、変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子はD10A変異を含む。この変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9をコードするヌクレオチド配列を配列番号34に示し、以下に記載する:
【化1】
【化2】
【0092】
特定の実施態様では、変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子はN580A変異を含む。この変異黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子をコードするヌクレオチド配列を配列番号35に示し、以下に記載する:
【化3】
【化4】
【化5】
【0093】
Cas9分子をコードする核酸は合成核酸配列であることができる。例えば、この合成核酸分子を化学的に改変することができる。この合成核酸配列はコドン最適化され得、例えば、少なくとも1つの非共通(non-common)コドンまたは低共通(less-common)コドンが共通コドンで置き換えられている。例えば、この合成核酸は、最適化されたメッセンジャーmRNA(例えば、例えば本明細書で説明されている哺乳類の発現系での発現に最適化されている)の合成を指示することができる。
【0094】
加えて、またはあるいは、Cas9分子またはCas9ポリペプチドをコードする核酸は核局在化配列(NLS)を含むことができる。核局在化配列は当分野で既知である。
【0095】
化膿レンサ球菌(S.pyogenes)のCas9分子をコードする例示的なコドン最適化核酸配列を配列番号26示し、以下に記載する。
【化6】
【化7】
【化8】
【0096】
化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9分子の対応するアミノ酸配列を配列番号27に示し、以下に記載する。
【化9】
【0097】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子をコードし且つ任意選択で核局在化配列(NLS)を含む例示的なコドン最適化核酸配列を配列番号28~32、43および44に示し、以下に記載する。黄色ブドウ球菌(S.aureus)のCas9分子をコードする別の例示的なコドン最適化核酸配列は、配列番号83のヌクレオチドヌクレオチド1293~4451を含む。
【0098】
配列番号28を以下に記載する。
【化10】
【化11】
【化12】
【0099】
配列番号29を以下に記載する。
【化13】
【化14】
【0100】
配列番号30を以下に記載する。
【化15】
【化16】
【化17】
【0101】
配列番号31を以下に記載する。
【化18】
【化19】
【0102】
配列番号32を以下に記載する。
【化20】
【化21】
【化22】
【0103】
配列番号43を以下に記載する。
【化23】
【化24】
【0104】
いくつかの実施態様では、黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子をコードするヌクレオチド配列は配列番号44のヌクレオチド配列を含み、配列番号44を以下に記載する。
【化25】
【化26】
【0105】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子のアミノ酸配列を配列番号33に示し、以下に記載する。
【化27】
【0106】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子のアミノ酸配列を配列番号45に示し、以下に記載する。
【化28】
【0107】
あるいは、または加えて、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは融合タンパク質を含むことができる。この融合タンパク質は2種の異種ポリペプチドドメインを含み得、第1のポリペプチドドメインはCasタンパク質を含み、第2のポリペプチドドメインは活性(例えば、転写活性化活性、転写抑制活性、転写終結因子活性、ヒストン修飾活性、ヌクレアーゼ活性、核酸会合活性、メチラーゼ活性またはデメチラーゼ活性)を有する。この融合タンパク質は、活性(例えば、転写活性化活性、転写抑制活性、転写終結因子活性、ヒストン修飾活性、ヌクレアーゼ活性、核酸会合活性、メチラーゼ活性もしくはデメチラーゼ活性)を有する別のポリペプチドドメインに融合したCas9タンパク質または変異Cas9タンパク質を含むことができる。
【0108】
(a)転写活性化活性
第2のポリペプチドドメインは転写活性化活性(即ちトランス活性化ドメイン)を有することができる。例えば、gRNAの組み合わせを介してiCas9とトランス活性化ドメインとの融合タンパク質の標的を哺乳類のプロモーターに定めることにより、内因性の哺乳類遺伝子(例えばヒト遺伝子)の遺伝子発現を活性化することができる。このトランス活性化ドメインは、1つのVP16タンパク質、複数のVP16タンパク質(例えばVP48ドメインもしくはVP64ドメイン)、またはNFカッパB転写活性化因子活性のp65ドメインを含むことができる。例えば、融合タンパク質はiCas9-VP64であることができる。
【0109】
(b)転写抑制活性
第2のポリペプチドドメインは転写抑制活性を有することができる。この第2のポリペプチドドメインは、Kruppel関連ボックス活性(例えばKRABドメイン)、ERF抑制因子ドメイン活性、Mxil抑制因子ドメイン活性、SID4X抑制因子ドメイン活性、Mad-SID抑制因子ドメイン活性またはTATAボックス結合タンパク質活性を有することができる。例えば、融合タンパク質はdCas9-KRABであることができる。
【0110】
(c)転写終結因子活性
第2のポリペプチドドメインは転写終結因子活性を有することができる。この第2のポリペプチドは、真核性終結因子1(ERF1)活性または真核性終結因子3(EFR3)活性を有することができる。
【0111】
(d)ヒストン修飾活性
第2のポリペプチドドメインはヒストン修飾活性を有することができる。この第2のポリペプチドドメインは、ヒストンデアセチラーゼ活性、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性、ヒストンデメチラーゼ活性またはヒストンメチルトランスフェラーゼ活性を有することができる。ヒストンアセチルトランスフェラーゼは、p300もしくはCREB結合タンパク質(CBP)タンパク質またはその断片であることができる。例えば、融合タンパク質はdCas9-p300であることができる。
【0112】
(e)ヌクレアーゼ活性
この第2のポリペプチドドメインは、Cas9タンパク質のヌクレアーゼ活性とは異なるヌクレアーゼ活性を有することができる。ヌクレアーゼ、またはヌクレアーゼ活性を有するタンパク質は、核酸のヌクレオチドサブユニット間のホスホジエステル結合を切断することが可能な酵素である。ヌクレアーゼは通常、エンドヌクレアーゼとエキソヌクレアーゼにさらに分類されるが、いくつかの酵素は、どちらのカテゴリーにも属することができる。よく知られているヌクレアーゼは、デオキシリボヌクレアーゼおよびリボヌクレアーゼである。
【0113】
(f)核酸会合活性
第2のポリペプチドドメインは核酸会合活性を有し得る、または核酸結合タンパク質-DNA結合ドメイン(DBD)は、二本鎖DNAもしくは一本鎖DNAを認識する少なくとも1つのモチーフを含む独立に折り畳まれたタンパク質ドメインである。DBDは、特定のDNA配列(認識配列)を認識し得る、またはDNAに対して一般的な親和性を有し得る。以下からなる群から選択される核酸会合領域:ヘリックス-ターン-ヘリックス領域、ロイシンジッパー領域、翼状ヘリックス領域、翼状ヘリックス-ターン-ヘリックス領域、ヘリックス-ループ-ヘリックス領域、免疫グロブリンフォールド、B3ドメイン、ジンクフィンガー、HMG-ボックス、Wor3ドメイン、TALエフェクターDNA結合ドメイン。
【0114】
(g)メチラーゼ活性
第2のポリペプチドドメインはメチラーゼ活性を有し得、このメチラーゼ活性は、メチル基のDNA、RNA、タンパク質、小分子、シトシンまたはアデニンへの転移に関与する。この第2のポリペプチドドメインはDNAメチルトランスフェラーゼを含むことができる。
【0115】
(h)デメチラーゼ活性
第2のポリペプチドドメインはデメチラーゼ活性を有することができる。この第2のポリペプチドドメインは、核酸、タンパク質(特にヒストン)および他の分子からメチル(CH3-)基を除去する酵素を含むことができる。あるいは、この第2のポリペプチドは、DNAを脱メチル化するための機序において、メチル基をヒドロキシメチルシトシンに変換することができる。この第2のポリペプチドはこの反応を触媒することができる。例えば、この反応を触媒する第2のポリペプチドはTet1であることができる。
【0116】
(b)ジストロフィン遺伝子を標的とするgRNA
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、少なくとも1種のgRNA分子(例えば2種のgRNA分子)を含む。このgRNAにより、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムが標的とされる。このgRNAは、以下の2つの非コードRNA:crRNAおよびtracrRNAの融合である。このsgRNAは、任意の所望のDNA標的との相補的塩基対形成により標的化特異性を付与する20bpのプロトスペーサーをコードする配列を交換することにより、この所望のDNA配列を標的とすることができる。gRNAは、II型エフェクターシステムに関与する、天然に存在するcrRNA:tracrRNA二本鎖を模倣する。この二本鎖(例えば、42個のヌクレオチドのcrRNAおよび75個のヌクレオチドのtracrRNAを含み得る)は、Cas9が標的核酸を切断するためのガイドとして作用する。「標的領域」、「標的配列」または「プロトスペーサー」は、本明細書で互換的に使用される場合、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムが標的とする標的遺伝子(例えばジストロフィン遺伝子)の領域を指す。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは少なくとも1種のgRNAを含み得、これらのgRNAは異なるDNA配列を標的とする。これらの標的DNA配列は重複することができる。この標的配列またはプロトスペーサーに続いて、このプロトスペーサーの3’末端でPAM配列が存在する。II型システムが異なると、必要とされるPAMも異なる。例えば、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)II型システムは「NGG」配列を使用し、「N」はあらゆるヌクレオチドであることができる。いくつかの実施態様では、PAM配列は「NGG」であり得、「N」はあらゆるヌクレオチドであり得る。いくつかの実施態様では、PAM配列はNNGRRT(配列番号24)であってもよいしNNGRRV(配列番号25)であってもよい。
【0117】
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばAAVベクター)によりコードされるgRNA分子の数は、少なくとも1個のgRNA、少なくとも2個の異なるgRNA、少なくとも3個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA、少なくとも5個の異なるgRNA、少なくとも6個の異なるgRNA、少なくとも7個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA、少なくとも9個の異なるgRNA、少なくとも10個の異なるgRNA、少なくとも11個の異なるgRNA、少なくとも12個の異なるgRNA、少なくとも13個の異なるgRNA、少なくとも14個の異なるgRNA、少なくとも15個の異なるgRNA、少なくとも16個の異なるgRNA、少なくとも17個の異なるgRNA、少なくとも18個の異なるgRNA、少なくとも18個の異なるgRNA、少なくとも20個の異なるgRNA、少なくとも25個の異なるgRNA、少なくとも30個の異なるgRNA、少なくとも35個の異なるgRNA、少なくとも40個の異なるgRNA、少なくとも45個の異なるgRNAまたは少なくとも50個の異なるgRNAであることができる。本開示のベクターによりコードされるgRNAの数は、少なくとも1個のgRNA~少なくとも50個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも45個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも40個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも35個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも30個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも25個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも20個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも16個の異なるgNRA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも12個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも8個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNA~少なくとも4個の異なるgRNA、少なくとも4個のgRNA~少なくとも50個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも45個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも40個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも35個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも30個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも25個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも20個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも16個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも12個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA~少なくとも8個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも50個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも45個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも40個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも35個の異なるgRNA、8個の異なるgRNA~少なくとも30個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも25個の異なるgRNA、8個の異なるgRNA~少なくとも20個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA~少なくとも16個の異なるgRNA、または8個の異なるgRNA~少なくとも12個の異なるgRNAであることができる。特定の実施態様では、この遺伝子コンストラクト(例えばAAVベクター)は、1種のgRNA分子(即ち第1のgRNA分子)と任意選択でCas9分子とをコードする。特定の実施態様では、第1の遺伝子コンストラクト(例えば第1のAAVベクター)は1種のgRNA分子(即ち第1のgRNA分子)と任意選択でCas9分子とをコードし、第2の遺伝子コンストラクト(例えば第2のAAVベクター)は1種のgRNA分子(即ち第2のgRNA分子)と任意選択でCas9分子とをコードする。
【0118】
本gRNA分子はターゲティングドメインを含み、このターゲティングドメインは、PAM配列が続く標的DNA配列の相補ポリヌクレオチド配列である。このgRNAは、ターゲッティングドメインまたは相補ポリヌクレオチド配列の5’末端で「G」を含むことができる。gRNA分子のターゲティングドメインは、PAM配列が続く標的DNA配列の少なくとも10個の塩基対の、少なくとも11個の塩基対の少なくとも12個の塩基対の、少なくとも13個の塩基対の、少なくとも14個の塩基対の、少なくとも15個の塩基対の、少なくとも16個の塩基対の、少なくとも17個の塩基対の、少なくとも18個の塩基対の、少なくとも19個の塩基対の、少なくとも20個の塩基対の、少なくとも21個の塩基対の、少なくとも22個の塩基対の、少なくとも23個の塩基対の、少なくとも24個の塩基対の、少なくとも25個の塩基対の、少なくとも30個の塩基対の、または少なくとも35個の塩基対の相補ポリヌクレオチド配列を含むことができる。特定の実施態様では、gRNA分子のターゲティングドメインは19~25個のヌクレオチドの長さを有する。特定の実施態様では、gRNA分子のターゲティングドメインは20個のヌクレオチドの長さである。特定の実施態様では、gRNA分子のターゲティングドメインは21個のヌクレオチドの長さである。特定の実施態様では、gRNA分子のターゲティングドメインは22個のヌクレオチドの長さである。特定の実施態様では、gRNA分子のターゲティングドメインは23個のヌクレオチドの長さである。
【0119】
本gRNAは、ジストロフィン遺伝子(DMD)のある領域を標的とするすることができる。特定の実施態様では、このgRNAは、ジストロフィン遺伝子のエクソン、イントロン、プロモーター領域、エンハンサー領域、転写領域のうちの少なくとも1つを標的とすることができる。特定の実施態様では、このgRNA分子はヒトジストロフィン遺伝子のイントロン50を標的とする。特定の実施態様では、このgRNA分子はヒトジストロフィン遺伝子のイントロン51を標的とする。特定の実施態様では、このgRNA分子はヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51を標的とする。このgRNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含むことができる。
【0120】
単一のまたは多重のgRNAを、エクソン51での変異ホットスポットを標的とすることにより、またはおよびエクソン内の小さい挿入および欠失を導入することにより、またはエクソン51の排除により、ジストロフィン読み枠を回復させるように設計することができる。本開示のベクターによる処理後、インビトロで、デュシェンヌ患者の筋肉細胞中においてジストロフィン発現を回復させることができる。遺伝的に修正された患者細胞の免疫不全マウスへの移植後に、ヒトジストロフィンをインビボで検出した。意義深いことに、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムの特有の多重遺伝子編集能力は、普遍的なまたは患者特異的な遺伝子編集アプローチにより患者の変異の最大62%を修正し得る、この変異ホットスポット領域の大きな欠失を効率的に生じさせることを可能にする。いくつかの実施態様では、候補gRNAを、surveyorにより測定したオフターゲット活性、オンターゲット活性に基づいて、ならびにエクソンからの距離に基づいて、評価して選択する。
【0121】
3.DNAターゲティング組成物
本発明はまた、そのような遺伝子コンストラクトを含むDNAターゲティング組成物も対象とする。このDNAターゲティング組成物は、上記で説明したようにジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)を標的とする少なくとも1種のgRNA分子(例えば2種のgRNA分子)を含む。この少なくとも1種のgRNA分子は、標的領域に結合して認識することができる。この標的領域を、可能なアウトオブフレーム終止コドンのすぐ上流で選択し得、その結果、修復プロセス中の挿入または欠失がフレーム変換によってジストロフィン読み枠を回復させる。標的領域はまた、スプライス受容部位またはスプライス供与部位であることもでき、その結果、修復プロセス中の挿入または欠失が、スプライス部位の破壊およびエクソンの排除によりスプライシングを破壊しジストロフィン読み枠を回復させる。標的領域はまた、異所性終止コドンであることもでき、その結果、修復プロセス中の挿入または欠失が、この終止コドンを除去することによりまたは破壊することによりジストロフィン読み枠を回復させる。
【0122】
特定の実施態様では、本開示のDNAターゲティング組成物は第1のgRNAおよび第2のgRNAを含み、第1のgRNA分子および第2のgRNA分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含む。特定の実施態様では、第1のgRNA分子におよび第2のgRNA分子は異なるターゲティングドメインを含む。特定の実施態様では、第1のgRNA分子は、配列番号1、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14または配列番号15であり、第2のgRNA分子は、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号18または配列番号19である。特定の実施態様では、第1のgRNA分子は、配列番号1、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14および配列番号15からなる群から選択され、第2のgRNA分子は、配列番号2、配列番号4、配列番号16、配列番号17、配列番号18および配列番号19からなる群から選択される。
【0123】
特定の実施態様では、第1のgRNA分子および第2のgRNA分子は、(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;
(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに(xii)配列番号41に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子からなる群から選択される。いくつかの実施態様では、DNAターゲティング組成物は、配列番号37に記載のヌクレオチド配列および/または配列番号38に記載のヌクレオチド配列を含む。
【0124】
特定の実施態様では、DNAターゲティング組成物は、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのPAMを認識する少なくとも1種のCas9分子またはCas9融合タンパク質をさらに含むことができる。いくつかの実施態様では、このDNAターゲティング組成物は、配列番号83または配列番号84に記載のヌクレオチド配列を含む。特定の実施態様では、ベクターは、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51に隣接する第1および第2のイントロン中でそれぞれ第1および第2の二本鎖切断を形成し、それによりジストロフィン遺伝子においてエクソン51を含むセグメントを欠失させるように構成されている。
【0125】
本開示のベクターの欠失効率は、欠失サイズ(即ち、このベクターにより欠失されるセグメントのサイズ)に関連することができる。特定の実施態様では、特異的欠失の長さまたはサイズは、標的とされる遺伝子(例えばジストロフィン遺伝子)中のPAM配列間の距離により決定される。特定の実施態様では、ジストロフィン遺伝子のセグメントの特異的欠失(このセグメントの長さおよびこのセグメントが含む配列(例えばエクソン51)に関して定義される)は、標的遺伝子(例えばジストロフィン遺伝子)内の特異的PAM配列に隣接して作られた切断の結果である。
【0126】
特定の実施態様では、この欠失サイズは約50~約2,000個の塩基対(bp)であり、例えば、約50~約1999bp、約50~約1900bp、約50~約1800bp、約50~約1700bp、約50~約1650bp、約50~約1600bp、約50~約1500bp、約50~約1400bp、約50~約1300bp、約50~約1200bp、約50~約1150bp、約50~約1100bp、約50~約1000bp、約50~約900bp、約50~約850bp、約50~約800bp、約50~約750bp、約50~約700bp、約50~約600bp、約50~約500bp、約50~約400bp、約50~約350bp、約50~約300bp、約50~約250bp、約50~約200bp、約50~約150bp、約50~約100bp、約100~約1999bp、約100~約1900bp、約100~約1800bp、約100~約1700bp、約100~約1650bp、約100~約1600bp、約100~約1500bp、約100~約1400bp、約100~約1300bp、約100~約1200bp、約100~約1150bp、約100~約1100bp、約100~約1000bp、約100~約900bp、約100~約850bp、約100~約800bp、約100~約750bp、約100~約700bp、約100~約600bp、約100~約1000bp、約100~約400bp、約100~約350bp、約100~約300bp、約100~約250bp、約100~約200bp、約100~約150bp、約200~約1999bp、約200~約1900bp、約200~約1800bp、約200~約1700bp、約200~約1650bp、約200~約1600bp、約200~約1500bp、約200~約1400bp、約200~約1300bp、約200~約1200bp、約200~約1150bp、約200~約1100bp、約200~約1000bp、約200~約900bp、約200~約850bp、約200~約800bp、約200~約750bp、約200~約700bp、約200~約600bp、約200~約2000bp、約200~約400bp、約200~約350bp、約200~約300bp、約200~約250bp、約300~約1999bp、約300~約1900bp、約300~約1800bp、約300~約1700bp、約300~約1650bp、約300~約1600bp、約300~約1500bp、約300~約1400bp、約300~約1300bp、約300~約1200bp、約300~約1150bp、約300~約1100bp、約300~約1000bp、約300~約900bp、約300~約850bp、約300~約800bp、約300~約750bp、約300~約700bp、約300~約600bp、約300~約3000bp、約300~約400bpまたは約300~約350bpである。特定の実施態様では、この欠失サイズは、約118個の塩基対、約233個の塩基対、約326個の塩基対、約766個の塩基対、約805個の塩基対または約1611個の塩基対であることができる。
【0127】
4.筋肉中での遺伝子編集用組成物
本発明は、対象の骨格筋中でのまたは心筋中での標的遺伝子のゲノム編集用の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはその組成物を対象とする。この組成物は、改変AAVベクターと、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システム(例えばgRNA分子およびCas9分子)をコードするヌクレオチド配列とを含む。この組成物は、活性型のCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを骨格筋または心筋に送達する。本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)を、遺伝性疾患および/または他の骨格筋もしくは心筋の状態(例えばDMD)に関与するジストロフィン遺伝子中での変異の影響の修正または低減で使用することができる。この組成物は、ドナーDNAまたは導入遺伝子をさらに含むことができる。この組成物を、ゲノム編集、ゲノム操作、ならびに遺伝性疾患および/または他の骨格筋もしくは心筋の状態に関与する遺伝子中での変異の影響の修正また低減で使用することができる。
【0128】
a.ジストロフィンのターゲティング用のCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システム
本明細書では、ジストロフィン遺伝子に特異的なCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムが開示されている。このCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、Cas9と、ジストロフィン遺伝子を標的とするための少なくとも1種のgRNAとを含むことができる。このCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、標的領域に結合して認識することができる。この標的領域を、可能なアウトオブフレーム終止コドンのすぐ上流で選択し得、その結果、修復プロセス中の挿入または欠失がフレーム変換によってジストロフィン読み枠を回復させる。標的領域または、スプライス受容部位またはスプライス供与部位であることもでき、その結果、修復プロセス中の挿入または欠失が、スプライス部位の破壊およびエクソンの排除により、スプライシングを破壊しジストロフィン読み枠を回復させる。標的領域はまた、異所性終止コドンであることもでき、その結果、修復プロセス中の挿入または欠失が、この終止コドンを除去することによりまたは破壊することによりジストロフィン読み枠を回復させる。
【0129】
このgRNAは、配列番号1~19、41、42からなる群から選択されるヌクレオチド配列またはその相補体を標的とすることができる。例えば、本開示のCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを操作して、ジストロフィン遺伝子のエクソン51でのより高い効率の遺伝子編集を媒介させた。このCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、DMD患者由来の細胞中でジストロフィンタンパク質発現を回復させた。いくつかの実施態様では、DNAターゲティング組成物は、配列番号37に記載のヌクレオチド配列、配列番号38に記載のヌクレオチド配列、配列番号83に記載のヌクレオチド配列および/または配列番号84に記載のヌクレオチド配列を含む。例えば、DNAターゲティング組成物は、配列番号37に記載のヌクレオチド配列、配列番号38に記載のヌクレオチド配列および配列番号83に記載のヌクレオチド配列を含む、またはDNAターゲティング組成物は、配列番号37に記載のヌクレオチド配列、配列番号38に記載のヌクレオチド配列および配列番号84に記載のヌクレオチド配列を含む。
【0130】
b.アデノ随伴ウイルスベクター
この組成物はウイルス送達システムも含むことができる。特定の実施態様では、このベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。このAAVベクターは、ヒトおよびいくつかの他の霊長類種に感染するパルボウイルス(Parvoviridae)科のディペンドウイルス(Dependovirus)属に属する小型ウイルスである。AAVベクターを使用して、様々なコンストラクト構造を使用するCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを送達することができる。例えば、AAVベクターは、別々ベクター上のまたは同一のベクター上のCas9およびgRNA発現カセットを送達することができる。あるいは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)または髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)等の種に由来する小さいCas9タンパク質を使用する場合、Cas9と最大2つのgRNA発現カセットとの両方を、4.7kbのパッケージング限度内で単一のAAVベクター中で組み合わせることができる。
【0131】
特定の実施態様では、AAVベクターは改変AAVベクターである。この改変AAVベクターは、心筋および骨格筋の組織向性の増強を有することができる。この改変AAVベクターは、哺乳類の細胞中でCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムの送達および発現を可能にすることができる。例えば、この改変AAVベクターはAAV-SASTGベクターであることができる(Piacentino et al.(2012)Human Gene Therapy 23:635-646)。この改変AAVベクターは、インビボで骨格筋および心筋にヌクレアーゼを送達することができる。この改変AAVベクターは、いくつかのカプシド型(例えば、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV8およびAAV9)のうちの1つまたは複数をベースとすることができる。この改変AAVベクターは、代替の筋肉向性AAVカプシドを有するAAV2偽型をベースとすることができ、例えば、全身送達および局所送達により骨格筋または心筋を効率的に遺伝子導入するAAV2/1ベクター、AAV2/6ベクター、AAV2/7ベクター、AAV2/8ベクター、AAV2/9ベクター、AAV2.5ベクターおよびAAV/SASTGベクターをベースとすることができる(Seto et al.Current Gene Therapy(2012)12:139-151)。この改変AAVベクターはAAV2i8G9であることができる(Shen et al.J.Biol.Chem.(2013)288:28814-28823)。いくつかの実施態様では、組成物は、配列番号39に記載のヌクレオチド配列および/または配列番号40に記載のヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施態様では、組成物は、配列番号39に記載のヌクレオチド配列を含む第1のベクターと、配列番号40に記載のヌクレオチド配列を含む第2のベクターとを含む。
【0132】
5.筋肉中での遺伝子編集の方法
本開示は、対象の骨格筋中でのまたは心筋中での遺伝子編集の方法を対象とする。この方法は、上記で説明した骨格筋中でのまたは心筋中での遺伝子編集用組成物を対象の骨格筋または心筋に投与することを含む。このゲノム編集は、変異遺伝子を修正することまたは導入遺伝子を挿入することを含むことができる。変異遺伝子を修正することは、この変異遺伝子を欠失させること、再編集することまたは置き換えることを含むことができる。変異異遺伝子を修正することは、ヌクレアーゼ介在性のNHEJまたはHDRを含むことができる。
【0133】
6.変異遺伝子を修正して対象を処置する方法
本開示の主題は、細胞中で変異遺伝子(例えば変異ジストロフィン遺伝子、例えば変異ヒトジストロフィン遺伝子)を修正し、遺伝性疾患(例えばDMD)に罹患している対象を処置する方法を提供する。この方法は、上記で説明した本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を細胞または対象に投与すること含むことができる。この方法は、上記で説明した骨格筋中でのまたは心筋中での遺伝子編集用の本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を対象の骨格筋または心筋に投与することを含むことができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを骨格筋または心筋に送達するための本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物の使用により、修復鋳型またはドナーDNA(これらは、遺伝子全体またはこの変異を含む領域を置き換えることができる)と共に、完全に機能するまたは部分的に機能するタンパク質の発現を回復させることができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを使用して、標的とされるゲノム遺伝子座で部位特異的な二本鎖切断を導入することができる。部位特異的二本鎖切断は、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムが標的DNA配列に結合し、それにより標的DNAの開裂が可能になる場合に生じる。このDNA開裂は天然のDNA修復機構を刺激し得、以下の2つの可能な修復経路のうちの1つをもたらす:相同組換え修復(HDR)経路または非相同末端結合(NHEJ)経路。
【0134】
本開示は、修復鋳型を伴わないCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムによる遺伝子編集を対象とし、この遺伝子編集により、読み枠を効率的に修正し、遺伝性疾患に関与する機能的タンパク質の発現を回復させることができる。本開示のCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、相同組換え修復またはヌクレアーゼ介在性の非相同末端結合(NHEJ)に基づく修正手法(これらは、相同組換えまたは選択に基づく遺伝子修正を受け入れない可能性がある、増殖が制限された初代細胞株における効率的な修正を可能にする)の使用を含むことができる。この戦略は、活性なCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムの迅速且つ頑強なアセンブリを、フレームシフト、未成熟終止コドン、異所性スプライス供与部位または異所性スプライス受容部位を生じる非必須コード領域中の変異により生じる遺伝性疾患の処置に効率的な遺伝子編集方法と統合する。
【0135】
a.ヌクレアーゼ介在性の非相同末端結合
内因性の変異遺伝子からのタンパク質発現の回復は、鋳型なしのNHEJ介在性のDNA修復によるものであることができる。標的遺伝子RNAを標的とする一過性の方法とは対照的に、過渡的に発現されたCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムによるゲノム中の標的遺伝子読み枠の修正により、それぞれ改変された細胞およびその後代の全てによって、永久に回復された標的遺伝子発現をもたらすことができる。特定の実施態様では、NHEJはヌクレアーゼ介在性のNHEJであり、このヌクレアーゼ介在性のNHEJは、特定の実施態様では、Cas9分子により開始されて二本鎖DNAを切断するNHEJを指す。この方法は、骨格筋中でのまたは心筋中での遺伝子編集のために、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を対象の骨格筋または心筋に投与することを含む。
【0136】
ヌクレアーゼ介在性のNHEJ遺伝子修正は、変異した標的遺伝子を修正し、HDR経路に勝る、いくつかの潜在的利点を提供することができる。例えば、NHEJは、非特異的挿入変異をもたらす可能性があるドナー鋳型を必要としない。HDRと対照的に、NHEJは、細胞周期の全ての期において効率的に作動するので、循環と、有糸分裂後の細胞(筋線維など)との両方において効率的に利用することができる。これは、オリゴヌクレオチドに基づくエクソンスキッピング、または終止コドンの薬物によって強いられるリードスルーに代わる、頑強な永続的な遺伝子修復を提供し、理論上はわずか1つの薬物治療しか必要としない可能性がある。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システム、ならびにメガヌクレアーゼおよびジンクフィンガーヌクレアーゼを含めた他の遺伝子改変されたヌクレアーゼを使用する、NHEJに基づく遺伝子修正は、本明細書に記載したプラスミド電気穿孔手法に加えて、細胞および遺伝子に基づく療法のための他の既存のエクスビボおよびインビボプラットフォームと組み合わせることができる。例えば、mRNAに基づく遺伝子導入による、または、精製された細胞透過性タンパク質としてのCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムの送達は、挿入変異のいかなる可能性も回避するであろうDNAフリーのゲノム編集手法を可能にすることができる。
【0137】
b.相同組換え修復
内在性の変異した遺伝子からのタンパク質発現の修復は、相同組換え修復を含むことができる。上に記載した通りの方法は、細胞にドナー鋳型を投与することをさらに含む。ドナー鋳型は、完全に機能性または部分的に機能性のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むことができる。例えば、ドナー鋳型は、小型化されたジストロフィンコンストラクト(ミニジストロフィン(「minidys」)と呼ばれる)、変異ジストロフィン遺伝子を修復するための完全に機能性のジストロフィンコンストラクト、または相同組換え修復後に変異ジストロフィン遺伝子の修復をもたらすジストロフィン遺伝子の断片を含むことができる。
【0138】
c.変異遺伝子を修正してCRISPR/Cas9を用いて対象を処置する方法
本開示はまた、修復鋳型またはドナーDNA(これらは、遺伝子全体、または変異を含有する領域を置き換えることができる)を用いる、完全に機能性または部分的に機能性のタンパク質の発現を修復するための、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを用いるゲノム編集を対象とする。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、標的とされるゲノム遺伝子座に部位特異的二本鎖切断を導入するために使用することができる。部位特異的二本鎖切断は、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムが、gRNAを使用して標的DNA配列に結合し、それによって標的DNAの切断が可能になる場合にもたらされる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、その高速の成功裡かつ効率的な遺伝子改変のおかげで、ゲノム編集の進歩という利点を有する。このDNA切断は、天然のDNA修復機構を刺激し、可能性のある2つの修復経路:相同組換え修復(HDR)または非相同末端結合(NHEJ)経路のうちの1つをもたらすことができる。例えば、ジストロフィン遺伝子に誘導されるCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、配列番号1~19、41、42のいずれか1つの核酸配列またはその相補体を有するgRNAを含むことができる。
【0139】
本開示は、読み枠を効率的に修正し、かつ遺伝性疾患に関与する機能性タンパク質の発現を修復することができる、修復鋳型を伴わない、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを用いるゲノム編集を対象とする。開示されたCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムおよび方法は、相同組換え修復またはヌクレアーゼ介在性の非相同末端結合(NHEJ)に基づく修正手法(これらは、相同組換えまたは選択に基づく遺伝子修正を適用できない可能性がある、増殖が制限された初代細胞株における効率的な修正を可能にする)を使用することを含むことができる。この戦略は、活性なCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムの迅速かつ頑強なアセンブリを、フレームシフト、未成熟終止コドン、異所性スプライス供与部位、または異所性スプライス受容部位をもたらす非必須コード領域の変異によって引き起こされる遺伝性疾患の治療のための効率的な遺伝子編集方法と統合する。
【0140】
本開示は、細胞における変異遺伝子を修正し、DMDなどの遺伝性疾患を患う対象を治療する方法を提供する。この方法は、上に記載した通りに、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システム、前記CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムをコードするポリヌクレオチドまたはベクター、または前記CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムの組成物を、細胞または対象に投与することを含むことができる。この方法は、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを投与すること、例えば、Cas9タンパク質、またはヌクレアーゼ活性を有する第2のドメインを含有するCas9融合タンパク質、前記Cas9タンパク質、またはCas9融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列、および/または少なくとも1種のgRNA(ここで、gRNAは、異なるDNA配列を標的にする)を投与することを含むことができる。これらの標的DNA配列は、オーバーラップしていることが可能である。細胞に投与されるgRNAの数は、上に記載した通りの、少なくとも1種のgRNA、少なくとも2種の異なるgRNA、少なくとも3種の異なるgRNA、少なくとも4種の異なるgRNA、少なくとも5種の異なるgRNA、少なくとも6種の異なるgRNA、少なくとも7種の異なるgRNA、少なくとも8種の異なるgRNA、少なくとも9種の異なるgRNA、少なくとも10種の異なるgRNA、少なくとも15種の異なるgRNA、少なくとも20種の異なるgRNA、少なくとも30種の異なるgRNA、または少なくとも50種の異なるgRNAであり得る。gRNAは、配列番号1~19、41、42、またはその相補体のうちの少なくとも1つの核酸配列を含むことができる。この方法は、相同組換え修復または非相同末端結合を含むことができる。
【0141】
7.疾患を処置する方法
本開示は、必要とする対象を処置する方法を対象とする。この方法は、上記で説明した本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を対象の組織に投与することを含む。特定の実施態様では、この方法は、上記で説明した本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を対象の骨格筋または心筋に投与することを含むことができる。特定の実施態様では、この方法は、上記で説明した本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を対象の静脈に投与することを含むことができる。特定の実施態様では、この対象は、変性または衰弱または遺伝性疾患を引き起こす骨格筋または心筋の状態に罹患している。例えば、この対象は、上記で説明したデュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患している。
【0142】
a.デュシェンヌ型筋ジストロフィー
上記で説明した方法を使用して、ジストロフィン遺伝子を修正して前記変異ジストロフィン遺伝子の完全に機能するまたは部分的に機能するタンパク質発現を回復させることができる。いくつかの態様および実施態様では、本開示は、患者におけるDMDの影響(例えば臨床症状/適応症)を低減する方法を提供する。いくつかの態様および実施態様では、本開示は、患者においてDMDを処置する方法を提供する。いくつかの態様および実施態様では、本開示は、患者においてDMDを予防する方法を提供する。いくつかの態様および実施態様では、本開示は、患者においてDMDのさらなる悪化を予防する方法を提供する。
【0143】
8.Δ52hDMDを有する遺伝子導入齧歯動物を作成する方法
本開示は、エクソン52が欠失しているヒトジストロフィン遺伝子を有する遺伝子導入齧歯動物胚を作成する方法を対象とする。この方法は、本gRNAを齧歯動物胚に投与し、それによりヒトジストロフィン遺伝子のエクソン52を欠失させること、およびヒトジストロフィン遺伝子のエクソン52が欠失している遺伝子導入齧歯動物胚を選択することであって、この齧歯動物胚は正常なヒトジストロフィン遺伝子を含む、選択することを含む。いくつかの実施態様では、この齧歯動物胚はマウス胚である。いくつかの実施態様では、この遺伝子導入齧歯動物胚は、ヘテロ接合性hDMDまたはヘテロ接合性hDMD-Δ52である。いくつかの実施態様では、配列番号41に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子と、配列番号42に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子とをこの齧歯動物胚に投与して、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン52を欠失させる。いくつかの実施態様では、この方法は、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含むCasタンパク質をこの齧歯動物胚に投与することをさらに含む。本開示は、この方法により作成された遺伝子導入齧歯動物胚を対象とする。本開示はまた、この遺伝子導入齧歯動物胚から作成された遺伝子導入齧歯動物も対象とする。
【0144】
9.コンストラクトおよびプラスミド
上記で説明した組成物は、本明細書で開示したCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムをコードする遺伝子コンストラクトを含むことができる。この遺伝子コンストラクト(例えばプラスミド)は、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システム(例えばCas9タンパク質およびCas9融合タンパク質および/またはgRNAのうちの少なくとも1つ)をコードする核酸を含むことができる。上記で説明した組成物は、改変AAVベクターをコードする遺伝子コンストラクトと、本明細書で開示したCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムをコードする核酸配列とを含むことができる。この遺伝子コンストラクト(例えばプラスミド)は、このCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムをコードする核酸を含むことができる。上記で説明した組成物は、本明細書で開示した改変レンチウイルスベクターをコードする遺伝子コンストラクトを含むことができる。
【0145】
この遺伝子コンストラクト(例えば組換えプラスミドまたは組換えウイルス粒子)は、Cas9融合タンパク質および少なくとも1種のgRNAをコードする核酸を含むことができる。いくつかの実施態様では、この遺伝子コンストラクトは、Cas9融合タンパク質および少なくとも2つの異なるgRNAをコードする核酸を含むことができる。いくつかの実施態様では、この遺伝子コンストラクトは、Cas9融合タンパク質および2つ超の異なるgRNAをコードする核酸を含むことができる。いくつかの実施態様では、この遺伝子コンストラクトは、少なくとも1つのgRNA分子および/またはCas9分子をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含むことができる。いくつかの実施態様では、このプロモーターは、第1のgRNA分子、第2のgRNA分子および/またはCas9分子をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されている。この遺伝子コンストラクトは、機能する染色体外分子として細胞中に存在することができる。この遺伝子コンストラクトは、線状ミニ染色体、例えばセントロメア、テロメアまたはプラスミドまたはコスミドであることができる。
【0146】
遺伝子コンストラクトはまた、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および組換えアデノウイルス関連ウイルスを含めた、組換えウイルスベクターのゲノムの一部であり得る。遺伝子コンストラクトは、細胞内で生存する弱毒化した生きている微生物または組換え微生物ベクター中の遺伝材料の一部であり得る。遺伝子コンストラクトは、核酸のコード配列の遺伝子発現のための調節エレメントを含むことができる。調節エレメントは、プロモーター、エンハンサー、開始コドン、終止コドン、またはポリアデニル化シグナルであり得る。
【0147】
いくつかの実施態様では、この遺伝子コンストラクトはベクターである。このベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであり得、このアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは少なくとも1種のCas9分子および少なくとも1種のgRNA分子をコードし、このベクターは、哺乳動物の細胞中で少なくとも1種のCas9分子および少なくともgRNA分子の発現が可能である。このベクターはプラスミドであることができる。このベクターを、インビボでの遺伝子治療に使用することができる。このベクターは組換えであることができる。このベクターは、融合タンパク質(例えばCas9融合タンパク質)またはCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムをコードする異種核酸を含むことができる。このベクターはプラスミドであることができる。このベクターは、Cas9融合タンパク質またはCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムをコードする核酸を細胞に遺伝子導入するのに有用であり得、形質転換された宿主細胞を、Cas9融合タンパク質またはCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムの発現が起こる条件下で培養して維持する。
【0148】
コード配列は、安定性および高レベルの発現のために最適化することができる。ある場合では、コドンは、分子内結合が原因で形成されるものなどの、RNAの二次構造形成を低下させるように選択される。
【0149】
ベクターは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムをコードする異種の核酸を含むことができ、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムコード配列の上流であり得る開始コドン、およびCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムコード配列の下流であり得る終止コドンをさらに含むことができる。開始および停止コドンは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムコード配列と共に、フレーム内であり得る。ベクターはまた、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムコード配列に作動可能に連結されたプロモーターを含むことができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムコード配列に作動可能に連結されたプロモーターは、サルウイルス40(SV40)由来のプロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロモーター、例えばウシ免疫不全ウイルス(BIV)長い末端反復(LTR)プロモーター、モロニ―ウイルスプロモーター、トリ白血病ウイルス(ALV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばCMV最初期プロモーター、エプスタイン・バーウイルス(EBV)プロモーター、U6プロモーター、例えばヒトU6プロモーター、またはラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターであり得る。プロモーターはまた、ヒトユビキチンC(hUbC)、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、またはヒトメタロチオネインなどの、ヒト遺伝子由来のプロモーターであり得る。プロモーターはまた、天然または合成の、筋肉または皮膚特異的なプロモーターなどの組織特異的プロモーターであり得る。そのようなプロモーターの例が米国特許出願公開第20040175727号明細書および同第20040192593号明細書で説明されており、これらの明細書の内容はその全体が本明細書に組み込まれる。筋肉特異的プロモーターの例として、Spc5-12プロモーター(米国特許出願公開第20040192593号明細書で説明されており、この明細書はその全体が参照により本明細書に組み込まれる;Hakim et al.Mol.Ther.Methods Clin.Dev.(2014)1:14002;およびLai et al.Hum Mol Genet.(2014)23(12):3189-3199)、MHCK7プロモーター(Salva et al.,Mol.Ther.(2007)15:320-329で説明されている)、CK8プロモーター(Park et al.PLoS ONE(2015)10(4):e0124914で説明されている)、ならびにCK8eプロモーター(Muir et al.,Mol.Ther.Methods Clin.Dev.(2014)1:14025で説明されている)が挙げられる。いくつかの実施態様では、gRNAおよび/またはCas9タンパク質の発現がtRNAにより駆動される。
【0150】
gRNA分子および/またはCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列の各々はそれぞれ、プロモーターに作動可能に連結され得る。gRNA分子および/またはCas9分子に作動可能に連結されているプロモーターは同一のプロモーターであってもよい。gRNA分子および/またはCas9分子に作動可能に連結されているプロモーターは異なるプロモーターであってもよい。このプロモーターは、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、抑制性プロモーターまたは調節性プロモーターであることができる。
【0151】
ベクターはまた、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムの下流であり得るポリアデニル化シグナルを含むことができる。ポリアデニル化シグナルは、SV40ポリアデニル化シグナル、LTRポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナル、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナル、またはヒトβ-グロビンポリアデニル化シグナルであり得る。SV40ポリアデニル化シグナルは、pCEP4ベクター(Invitrogen,San Diego,CA)由来のポリアデニル化シグナルであり得る。
【0152】
ベクターはまた、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システム、すなわち、Cas9タンパク質、もしくはCas9融合タンパク質コード配列、もしくはsgRNAの、上流のエンハンサー、またはCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを含むことができる。エンハンサーは、DNA発現のために必須であり得る。エンハンサーは、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、またはウイルスエンハンサー、例えばCMV、HA、RSV、またはEBVに由来するものなどであり得る。ポリヌクレオチド機能エンハンサーは、それぞれの内容が参照によって完全に組み込まれる米国特許第5,593,972号明細書、米国特許第5,962,428号明細書、および国際公開第94/016737号パンフレットに記載されている。ベクターはまた、ベクターを染色体外に維持するために、哺乳類の複製開始点を含むことができ、細胞において、ベクターの複数のコピーを産生することができる。ベクターはまた、調節配列を含むことができ、調節配列は、ベクターが投与される哺乳類またはヒト細胞における遺伝子発現のために十分に適合させることができる。ベクターはまた、緑色蛍光タンパク質(「GFP」)などのレポーター遺伝子および/またはハイグロマイシン(「Hygro」)などの選択可能マーカーを含むことができる。
【0153】
ベクターは、常用の技術、および容易に入手可能な出発材料によってタンパク質を産生するための、発現ベクターまたは系であり得る(参照によって完全に組み込まれる、Sambrook et al.,Molecular Cloning and Laboratory Manual,Second Ed.,Cold Spring Harbor(1989))。いくつかの実施態様では、このベクターは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムをコードする核酸配列を含むことができ、例えば、Cas9タンパク質またはCas9融合タンパク質をコードする核酸配列、および配列番号1~19、41,42のうちの少なくとも1つの核酸配列またはその相補体を含む少なくとも1種のgRNAをコードする核酸配列を含むことができる。いくつかの実施態様では、Cas9タンパク質またはCas9融合タンパク質は、配列番号26のいずれか1つの核酸配列によりコードされる。いくつかの実施態様では、このベクターは、配列番号39または配列番号40の核酸配列を含む。
【0154】
10.医薬組成物
本開示の主題は、上記で説明した遺伝子コンストラクトを含む組成物を提供する。本発明に係る医薬組成物は、使用される投与様式に従って製剤化され得る。医薬組成物が注射用医薬組成物である場合、この医薬組成物は無菌であり、パイロジェンフリーであり且つ粒子状物質フリーである。等張性製剤が好ましくは使用される。一般に、等張性のための添加剤として、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトールおよびラクトースを挙げることができる。場合によって、等張性溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)が好ましい。安定剤としてゼラチンおよびアルブミンが挙げられる。いくつかの実施態様では、この製剤に血管収縮剤が添加される。
【0155】
前記組成物は、薬学的に許容し得る賦形剤をさらに含むことができる。薬学的に許容し得る賦形剤は、ビヒクル、アジュバント、担体、または希釈剤としての機能性分子であり得る。薬学的に許容し得る賦形剤は、遺伝子導入促進剤(これには界面活性剤が含まれ得る)、例えば免疫刺激複合体(ISCOMS)、フロイント不完全アジュバント、LPS類似体(モノホスホリルリピドAを含めて)、ムラミルペプチド、キノン類似体、ベシクル、例えばスクアレンおよびスクアレン、ヒアルロン酸、脂質、リポソーム、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、ポリアニオン、ポリカチオン、もしくはナノ粒子、または他の公知の遺伝子導入促進剤であり得る。
【0156】
遺伝子導入促進剤は、ポリアニオン、ポリカチオン(ポリ-L-グルタミン酸(LGS)を含めて)、または脂質である。遺伝子導入促進剤は、ポリ-L-グルタミン酸であり、より好ましくは、ポリ-L-グルタミン酸は、骨格筋中でのまたは心筋中でのゲノム編集のための組成物中に、6mg/ml未満の濃度で存在する。遺伝子導入促進剤はまた、界面活性剤、例えば免疫刺激複合体(ISCOMS)、フロイント不完全アジュバント、LPS類似体(モノホスホリルリピドAを含めて)、ムラミルペプチド、キノン類似体、およびベシクル、例えばスクアレンおよびスクアレンを含むことができ、また、遺伝子コンストラクトと共に、ヒアルロン酸も使用することができる。いくつかの実施態様では、前記組成物をコードするDNAベクターはまた、遺伝子導入促進剤、例えば脂質、リポソーム(レシチンリポソーム、または、当技術分野で公知の他のリポソームを含めて)、DNA-リポソーム混合物としてのもの(例えば国際公開第09324640号パンフレット参照)、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、ポリアニオン、ポリカチオン、またはナノ粒子、または他の公知の遺伝子導入促進剤を含むことができる。好ましくは、遺伝子導入促進剤は、ポリアニオン、ポリカチオン(ポリ-L-グルタミン酸(LGS)を含めて)、または脂質である。
【0157】
11.送達の方法
本明細書で提供されるのは、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはその組成物を細胞に送達する方法である。この組成物の送達は、この細胞中で発現され且つこの細胞の表面に送達される核酸分子としてのこの組成物の遺伝子導入または電気穿孔であることができる。この核酸分子を、BioRad Gene Pulser XcellデバイスまたはAmaxa Nucleofector IIbデバイスを使用して電気穿孔することができる。BioRad電気穿孔溶液、Sigmaリン酸緩衝生理食塩水 製品番号D8537(PBS)、Invitrogen OptiMEM I(OM)またはAmaxa Nucleofector溶液V(N.V.)等のいくつかの異なる緩衝液を使用することができる。遺伝子導入は、Lipofectamine 2000等の遺伝子導入試薬を含むことができる。
【0158】
本開示の遺伝子コンストラクトまたは組成物が組織に送達され、その結果として哺乳類の細胞中にベクターが送達されると、この遺伝子導入された細胞はgRNA分子およびCas9分子を発現する。この遺伝子コンストラクトまたは組成物を哺乳類に投与して、遺伝子発現を変更することができる、またはゲノムを再編集するもしくは変更することができる。例えば、この遺伝子コンストラクトまたは組成物を哺乳類に投与して、哺乳類中でジストロフィン遺伝子を修正することができる。この哺乳類は、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、アンテロープ、バイソン、スイギュウ、ウシ科動物(bovid)、シカ、ハリネズミ、ゾウ、ラマ、アルパカ、マウス、ラットまたはニワトリであり得、好ましくはヒト、ウシ、ブタまたはニワトリであり得る。
【0159】
gRNA分子およびCas9分子をコードする遺伝子コンストラクト(例えばベクター)を、インビボでの電気穿孔を伴うおよび伴わないDNA注入(DNAワクチン接種とも称される)、リポソーム介在、ナノ粒子促進、ならびに/または組換えベクターにより哺乳類に送達することができる。この組換えベクターを任意のウイルス型により送達することができる。このウイルス型は、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルスおよび/または組換えアデノ随伴ウイルスであることができる。
【0160】
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を細胞に導入して、ジストロフィン遺伝子(例えばヒトジストロフィン遺伝子)を遺伝的に修正することができる。特定の実施態様では、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を、DMD患者由来の筋芽細胞に導入する。特定の実施態様では、遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物をDMD患者由来の繊維芽細胞に導入し、遺伝的に修正された繊維芽細胞をMyoDで処理して筋芽細胞への分化を誘導し得、この筋芽細胞を対象(例えば、対象の損傷を受けた筋肉)に移植して、修正されたジストロフィンタンパク質が機能することを検証し得る、および/または対象を処置し得る。この改変された細胞は、幹細胞(例えば、誘導された多能性幹細胞)、骨髄由来前駆細胞、骨格筋前駆細胞、DMD患者由来のヒト骨格筋芽細胞、CD133+細胞、中胚葉性血管芽細胞(mesoangioblast)、およびMyoD形質導入細胞もしくはPax7形質導入細胞、または他の筋原性前駆細胞であることもできる。例えば、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、誘導された多能性幹細胞のニューロン分化または筋原性分化を引き起こすことができる。
【0161】
12.投与の経路
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を、様々な経路(例えば、経口、非経口、舌下、経皮、直腸内、経粘膜、局所、吸入を介して、頬側投与を介して、胸膜内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、鼻腔内、くも膜下腔内、および関節内、またはこれらの組み合わせ)により対象に投与することができる。特定の実施態様では、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)または組成物を、対象(例えばDMDを罹患している対象)に筋肉内投与する、静脈内投与する、またはこれらの組み合わせで投与する。獣医学的使用の場合、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)または組成物を、通常の獣医学診療に従って、適切に許容される製剤として投与することができる。獣医師は、ある特定の動物にとって最も適している投薬レジメンおよび投与経路を容易に決定することができる。この組成物を、従来のシリンジ、無針注射装置、「微粒子銃(microprojectile bombardment gone gun)」、または他の物理的方法(例えば電気穿孔(「EP」)、「水力学的方法」または超音波)により投与することができる。
【0162】
本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)または組成物を、いくつかの技術(例えば、インビボでの電気穿孔を伴うおよび伴わないDNA注入(DNAワクチン接種とも称される)、リポソーム介在、ナノ粒子促進、組換えベクター(例えば組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルスおよび組換えアデノウイルス関連ウイルス))により哺乳類に送達することができる。この組成物を骨格筋または心筋に注射することができる。例えば、この組成物は、前脛骨筋または尾に注射することができる。
【0163】
いくつかの実施態様では、本開示の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物を、1)成体マウスへの尾静脈注射(全身)により、2)筋肉内注射により、例えば、成体マウスにおける筋肉(例えばTAまたは腓腹筋)への局所注射により、3)P2マウスへの腹腔内注射により、または4)P2マウスへの顔面静脈注射(全身)により投与する。
【0164】
13.細胞型
これらの送達方法および/または送達の経路のいずれかを無数の細胞型(例えば、DMDの細胞に基づく治療用に現在研究中の細胞型)と共に利用することができ、この細胞型として以下が挙げられるがこれらに限定されない:不死化筋芽細胞、例えば野生型およびDMD患者由来の株、例えばΔ48-50 DMD、DMD6594(del48-50)、DMD8036(del48-50)、C25C14およびDMD-7796細胞株、原発性DMD皮膚線維芽細胞、誘導された多能性幹細胞、骨髄由来前駆細胞、骨格筋前駆細胞、DMD患者由来のヒト骨格筋芽細胞、CD133+細胞、中胚葉性血管芽細胞、心筋細胞、肝細胞、軟骨細胞、間葉系前駆細胞、造血性幹細胞、平滑筋細胞、およびMyoD形質導入細胞もしくはPax7形質導入細胞、または他の筋原性前駆細胞。ヒト筋原性細胞の不死化を使用して、遺伝的に修正された筋原性細胞のクローンを誘導することができる。細胞をエクスビボで改変して、遺伝的に修正されたジストロフィン遺伝子を含み且つゲノムのタンパク質コード領域中に他のヌクレアーゼ導入変異がない不死化DMD筋芽細胞のクローン集団を単離して増殖させることができる。あるいは、非ウイルスまたは非組込みウイルスの遺伝子導入によるまたは精製タンパク質および細胞浸透モチーフを含むgRNAの直接送達によるCRISPR/Cas9に基づくシステムのインビボでの一時的な送達により、外因性DNA組込みのリスクが最低限なまたはないインサイチュでの高度に特異的な修正が可能になり得る。
【0165】
14.キット
本明細書で提供されるのは、変異ジストロフィン遺伝子を修正するのに使用され得るキットである。このキットは、変異ジストロフィン遺伝子の修正用のgRNAと、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを使用するための説明書とを少なくとも含む。また、本明細書で提供されるのは、骨格筋中でのまたは心筋中でのジストロフィン遺伝子のゲノム編集に使用され得るキットでもある。このキットは、上記で説明した骨格筋中でのまたは心筋中でのゲノム編集用の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物と、前記組成物を使用するための説明書とを含む。
【0166】
キットに含まれる説明書は、包装材料に貼り付けることもできるし、パッケージ挿入物として含めることもできる。説明書は、一般的に、書面のまたは印刷された素材であるが、これに限定されない。こうした説明書を保管する、また、これらをエンドユーザーに伝えることが可能なあらゆる媒体が、本開示によって企図される。こうした媒体としては、限定はされないが、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えばCD ROM)などが挙げられる。本明細書で使用する場合、用語「説明書」は、説明書を提供するインターネットサイトのアドレスを含むことができる。
【0167】
骨格筋中でのまたは心筋中での変異ジストロフィンの修正用のまたはジストロフィン遺伝子のゲノム編集用の遺伝子コンストラクト(例えばベクター)またはこの遺伝子コンストラクトを含む組成物は、ジストロフィン遺伝子のある領域に特異的に結合して切断する、上記で説明したgRNA分子およびCas9分子を含む改変ベクターを含むことができる。変異ジストロフィン遺伝子中の特定の領域に特異的に結合してこの領域を標的とするために、上記で説明したCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムをキットに含めることができる。このキットは、上記で説明したドナーDNA、別のgRNAまたは導入遺伝子をさらに含むことができる。
【実施例】
【0168】
15.実施例
本明細書で説明された本開示の方法の他の適切な改変および適応が容易に適用可能であり且つ認識可能であり、ならびに本開示または本明細書で開示された態様および実施態様の範囲から逸脱することなく適切な等価物を使用して行なわれ得ることが当業者に容易に明らかであるだろう。これまで本開示を詳細に説明したが、以下の実施例を参照することにより本開示がより明確に理解されるだろう。この実施例は、本開示のいくつかの態様および実施態様を説明することのみを単に意図しており、本開示の範囲を限定するとみなすべきではない。本明細書で言及される全ての学術誌参考文献、米国特許および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0169】
本発明は複数の態様を有し、以下の非限定的な実施例により説明される。
【0170】
実施例1
ヒトジストロフィン遺伝子のターゲティング
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを使用して、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51を標的としてこのエクソン51を欠失させた。黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9(SaCas9)(化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9と比べて約1kb小さい)をアデノ随伴ウイルス(AAV)と共に使用して、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを送達した。黄色ブドウ球菌(S.aureus)Cas9分子をコードするコドン最適化核酸配列を、配列番号43または配列番号44に記載する。
図3は、2種のウイルスベクターによるSaCas9および2種のgRNAの筋肉組織へのAAVに基づくインビボ同時送達の概略を示す。各ベクターは、それぞれCMVプロモーターおよびhU6プロモーターにより駆動されるSaCas9および1種のgRNAのコピーを有した(PT366-179(配列番号39)およびPT366-183(配列番号40))。
【0171】
ヒトジストロフィン遺伝子を標的とする個々のgRNA、JCR89(エクソン51の上流を標的とする)およびJCR91(エクソン51の下流を標的とする)(ヒトゲノムに対して設定した)の活性を、HEK293T細胞(ジストロフィン遺伝子の正常なバージョンを有する)ならびにDMD患者の筋芽細胞株(DMD8036およびDMD6594、それぞれはジストロフィン遺伝子の変異型を有する)でのSurveyorアッセイで決定した(
図1を参照されたい)。SurveyorアッセイはゲノムDNA中のミスマッチを検出し、このミスマッチはCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システム由来の挿入欠失を示す。JCR89の場合、親バンドサイズは555ntであり、使用したプライマーは以下であった:フォワードプライマー-aagttacttgtccaggcatga(配列番号91);およびリバースプライマー-gaaaaacttctgccaacttttatca(配列番号92)。予想される切断バンドサイズは134ntおよび421ntであった。JCR91の場合、親バンドサイズは632ntであり、使用したプライマーは以下であった:フォワードプライマー-tgcaaataacaaaagtagccataca(配列番号93);およびリバースプライマー-tctttagaaaggcttgaaagctg(配列番号94)。予想される切断バンドサイズは210ntおよび422ntであった。
【0172】
HEK293T細胞ならびにDMD筋芽細胞(DMD8036およびDMD6594)を、ScCas9ならびにgRNA JCR89およびJCR91(配列番号37および配列番号38)で同時処理した。ゲノムDNAを、フォワードプライマー-cttcactgctggccagttta(配列番号95)およびリバースプライマー-tctttagaaaggcttgaaagctg(配列番号94)で増幅させた。予想される親バンドサイズは1646ntであり、予想される「完全な」欠失バンドは766ntであった(gRNA切断部位間の実際の欠失サイズは、挿入欠失の発生に起因して766ntとは異なった)。
図2Aは、HEK293T細胞およびDMD筋芽細胞のゲノムDNA中のエクソン51の欠失を示す。
図2Bは、DMD筋芽細胞からのcDNA中のエクソン51の欠失を示す。「No RT」は、逆転写酵素を添加しなかった陰性対照である。
【0173】
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを、ヒトDMD遺伝子を担持する遺伝子導入マウス(hDMD/mdxマウス)に注射し、エクソン51を欠失させた。SaCas9およびgRNAを担持するウイルスベクターの局所AAV8送達を前脛骨(TA)筋に適用した。表1を参照されたい。以下のように3匹のマウスにAAV8を注射した:1匹のマウスに両方のTAで高用量のAAV8を注射し(「HH」)、1匹のマウスに両方のTAで低用量のAAV8を注射し(「LL」)、1匹のマウスに左TAで低用量を注射し且つ右TAで高用量を注射した(「LH」)。用量を表1の第2列に列挙する。処理の8週後にマウスを屠殺し(「PT週」)、分析用に組織を摘出した。ネスト化PCRにより、HHマウスの両方の肢、LLマウスの右TAおよびLHマウスの右肢でのエクソン51の欠失が明らかになった。
【0174】
【0175】
マウスTA筋から採取したゲノムDNAを、フォワードプライマー:cttcactgctggccagttta(配列番号95)およびリバースプライマー:tctttagaaaggcttgaaagctg(配列番号94)を使用する第1のPCR反応で増幅させた。このPCR産物1~3μLを、フォワードプライマー-aagttacttgtccaggcatga(配列番号91);およびリバースプライマー-ttgaacatggcattgcataaA(配列番号96)を使用する第2のPCR反応(2×gDNA PCR)で使用した。この第2のPCRは、1089ntの予想される親バンドと、323ntの予想される欠失バンド(gRNA切断部位間の実際の欠失サイズは、挿入欠失の発生に起因して323ntとは異なった)とを有した。
図4は第2のPCRの結果を示す。「L」レーンは左TA筋での結果を示し、この左TA筋を対照として使用して生理食塩水を投与した。「R」レーンは右TA筋での結果を示し、この右TA筋に、等量でプレミックスした2種のウイルスベクターを注射した。全身AAV8送達によりhDMD/mdxマウスの尾静脈にCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムも注射した(
図5を参照されたい)。マウスの肝臓から採取したゲノムDNA(
図5-左側のパネル)およびマウスの心臓から採取したゲノムDNA(
図5-右側のパネル)も、
図4と同じプロトコルを使用して増幅させた。約300個のヌクレオチドの予想バンドは、エクソン51の欠失を示した。
【0176】
ヒトおよびアカゲザルのジストロフィン遺伝子配列またはヒトジストロフィン遺伝子配列を標的とするさらなるgRNAを生成して選択した(
図6および表2を参照されたい)。表2は、gRNAの一般的な標的、認識されるゲノム鎖、gRNA配列、およびこのgRNAに関連するPAM配列を列挙する。gRNAの標的ゲノム配列(ゲノムプラス鎖で示す)を表3に列挙する。これらのgRNAを培養ヒト細胞で試験し、欠失を生じる最適な活性およびgRNAの組み合わせを発見した。選択したgRNAもヒトゲノムで予想される特異性に基づいて優先順位を付け(
図8)、19~23個のヌクレオチドの様々な最適標的配列長に関してスクリーニングした(
図10および11)。
図6は、ヒトゲノムとアカゲザルゲノムとの間で保存されている、表2に列挙した様々なgRNA標的を示す。各gRNAの位置を、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51に関連して示す。
【0177】
【0178】
【0179】
表2に列挙した個々の候補gRNAをヒトHEK293T細胞に遺伝子導入した。これら候補gRNAの活性をSurveyorアッセイで決定した(
図7を参照されたい)。JCR160の場合、親バンドサイズは483ntであり、使用したプライマーは以下であった:フォワードプライマー-cgggcttggacagaacttac(配列番号97);およびリバースプライマー-ctgcgtagtgccaaaacaaa(配列番号98)。予想される切断バンドサイズは192ntおよび291ntであった。JCR157の場合、親バンドサイズは631ntであり、使用したプライマーは以下であった:フォワードプライマー-gagatgtcttttgcagctttcc(配列番号99);およびリバースプライマー-gggaccttggtaaagccaca(配列番号100)。予想される切断バンドサイズは147ntおよび484ntであった。
【0180】
これらの候補gRNAの特異性を、CasOFFinderプログラム(Bae et al.(2014)Bioinformatics 30:1473-1475;
図8を参照されたい)を使用して予測した。候補gRNAを、Surveyorアッセイで測定したオフターゲット活性、オンターゲット活性およびエクソンからの距離に基づいて評価して選択した。gRNA JCR157およびJCR160は低い予測オフターゲット活性を有し、これらをさらなる試験に使用した。
【0181】
gRNA JCR157を含む改変pDO240プラスミド、gRNA JCR160を含む改変pDO240プラスミド、およびSaCas9を含むプラスミド(pDO242;配列番号83)をHEK293T細胞に遺伝子導入し、DMD6594細胞に電気穿孔した。親バンドは2451ntであると予想し、欠失バンドは約840~850ntであると予想する。
図9は、フォワードプライマー-tgcctttcaatcattgtttcg(配列番号101)およびリバースプライマー-agaaggcaaattggcacaga(配列番号102)を使用するゲノムDNA(約850個のヌクレオチド)のPCRにより決定したエクソン51の欠失を示す。gRNA切断部位間に作成された欠失は約1611ntであった。
【0182】
図10は、
図7においてJCR157に使用したプライマーおよびPCR条件を使用して、HEK293T細胞においてSurveyorアッセイで決定した様々な標的長のgRNA JCR157(19個、20個、21個、22個および23個のヌクレオチド)の活性を示す。
図11は、フォワードプライマー-cgggcttggacagaacttac(配列番号97);およびリバースプライマー-ctgcgtagtgccaaaacaaa(配列番号98)を使用してHEK293T細胞においてSurveyorアッセイで決定した様々な標的長のgRNA JCR160(19個、20個、21個、22個および23個のヌクレオチド)の活性を示す。親バンドサイズは483ntであると予想し、予想される切断バンドサイズは209ntおよび274ntであった。
【0183】
図9で使用した条件を使用して、様々な標的長のgRNA JCR157およびJCR160(21個、22個または23個のヌクレオチド)の組み合わせをHEK293T細胞で使用した。
図12はゲノムDNAのPCRを示す。23個のヌクレオチド標的をそれぞれ有するJCR157およびJCR160の組み合わせは、ほぼ50%の欠失を有した。
【0184】
23ntの標的配列を使用して、エクソン51に隣接する各gRNA(上流JCR179および下流JCR183)をSaCas9と共に個別に実施し、HEK293T細胞中での(「293s」)およびDMD6594細胞中での(「DMD6594s」)オンターゲットヌクレアーゼ活性を実証した(
図13を参照されたい)。JCR179の場合、親バンドサイズは594ntであり、使用したプライマーは以下であった:フォワードプライマー-tgcctttcaatcattgtttcg(配列番号101);およびリバースプライマー-aaggccccaaaatgtgaaat(配列番号103)。予想される切断バンドサイズは594ntおよび130ntであった。JCR183の場合、親バンドサイズは731ntであり、使用したプライマーは以下であった:フォワードプライマー-gagtttggctcaaattgttactctt(配列番号104);およびリバースプライマー-ctgcgtagtgccaaaacaaa(配列番号98)。予想される切断バンドサイズは440ntおよび291ntであった。
図13は、Surveyorアッセイによるインビトロでのオンターゲットヌクレアーゼ活性を示す。
【0185】
SaCas9ならびにgRNA JCR179およびJCR183(JCR157およびJCR160の23ntの標的;配列番号37および配列番号38)を含むプラスミドをヒトHEK293T細胞に遺伝子導入し、DMD筋芽細胞(DMD6594s)に電気穿孔した。DMD6594細胞は、エクソン48~50を既に欠いている不死化DMD患者筋芽細胞である。親バンドは2451ntであると予想し、欠失バンドは約823ntであると予想する。
図14は、フォワードプライマー-tgcctttcaatcattgtttcg(配列番号101)およびリバースプライマー-agaaggcaaattggcacaga(配列番号102)を使用するゲノムDNAのPCRにより決定したヒトHEK293T細胞での(左側のパネル)およびDMD6594s細胞での(右側のパネル)ゲノムDNA中のエクソン51のインビトロでの欠失を示す。gRNA切断部位間に作成された欠失は約1628ntであった。上部のパネルはHEK293T細胞およびDMD6594細胞での上流および下流のgRNAの標的遺伝子の概略を示し、紫色は正常にプロセシングされたエクソンを示し、黄色は変異エクソンを示す。中間のパネルはゲノム欠失領域に横切るPCRの結果を示し、アスタリスクは欠失を示す。底部のパネルはゲノムDNAのドロップレットデジタルPCRを示す。HEK293T細胞では、gRNAおよびSaCas9は16%の欠失を有し、DMD細胞6594細胞は約10%の編集を有した。
【0186】
ゲノムDNA中の変化がRNAに転写されたかどうかを決定するために、SaCas9および両方のgRNAを同時に遺伝子導入して7日にわたり分化させたDMD筋芽細胞からRNAを採取した(
図15を参照されたい)。当分野で既知の標準的方法を使用して、このRNAをcDNAへと逆転写し、このcDNAをPCR増幅させた。
図15において、底部の左側のパネルは、フォワードプライマー-tggcggcgttttcattat(配列番号105)およびリバースプライマー-TTCGATCCGTAATGATTGTTCTAGCC(配列番号106)を使用したエクソン44~エクソン52のPCR増幅を示す。親バンドは948ntであると予想し、欠失バンドは約715ntであると予想する。
図15は、SaCas9および両方のgRNAで処理した細胞でのみ欠失バンドを示す。底部の右側のパネルは、cDNAの約14%の編集を明らかにするddPCRを示す。DMD患者筋芽細胞のcDNAにおけるインビトロでのエクソン47~52の接合部を配列決定した(
図16を参照されたい)。
図16では、未処理細胞(対照細胞Δ48-50)からのバンドの配列は、エクソン47~51が予想通りに結合され、処理細胞(Δ48-50+Δ51)での欠失バンドはエクソン47~52の接合部を示すことを示した。そのため、ゲノムDNAレベルを目的とするエクソン51および本開示のシステムの明確な欠如が転写を介して行なわれていた。
【0187】
実施例2
Δ52/mdxマウスの作成
図17はΔ52/mdxマウスの設計を示す。hDMD/mdxマウスをLeiden Universityから得て、DMDの関連モデル(エクソン52が除去されており、この欠失により読み枠外シフトおよびDMD遺伝子型が生じている)を作成するために操作した。hDMD/mdxマウスはmdxバックグランウド中の5番染色体上に完全長の野生型ヒトジストロフィン遺伝子を含み、その結果、マウスジストロフィンは発現されない。
【0188】
DMDの関連モデルを作成するために、SpCas9 CRISPR/Cas9編集システムおよびgRNAを使用して、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン52を標的としてこのエクソン52を欠失させた。エクソン52の上流および下流を標的とする様々なgRNAを試験し、Surveyorアッセイを使用して検証した(
図18を参照されたい)。上流gRNAの場合、フォワードプライマー-ctccggaatgtctccatttg(配列番号87)およびリバースプライマー-TTGTGTGTCCCATGCTTGTT(配列番号107)を使用し、親バンドサイズは402ntであった。JCR94(AACAAATATCCCTTAGTATC(配列番号41))の場合、予想される切断サイズは243ntおよび159ntであった。下流gRNAの場合、フォワードプライマー-CAACGCTGAAGAACCCTGAT(配列番号108)およびリバース-atgagggagagactggcatc(配列番号88)を使用し、親バンドサイズは509ntであった。JCR99(AATGTATTTCTTCTATTCAA(配列番号42))の場合、予想される切断サイズは346ntおよび163ntであった。gRNAの対(例えばJCR94およびJCR99)を試験し、フォワードプライマー-ctccggaatgtctccatttg(配列番号87)およびリバースプライマー-atgagggagagactggcatc(配列番号88)を使用してHEK293T細胞のゲノムDNA中のエクソン51の欠失を検出することにより検証した(
図19を参照されたい)。親バンドサイズは718ntであり、欠失バンドは392ntであり、gRNA間の欠失は326ntであった。JCR94およびJCR99の対をゲノム編集システムで使用してΔ52/mdxマウスを作成した。具体的には、このマウスを、JCR94 gRNA、JCR99 gRNAおよびSaCas9をマウス胚に注入することにより作成した。
【0189】
図20は、BACリコンビニアリングサービス(recombineering service)を含むDNAマイクロインジェクションプロトコルを示す。1日目:妊馬を血清ゴナドトロピンで腹腔内処理して排卵を誘発した。3日目:妊馬をヒト絨毛性ゴナドトロピンで腹腔内処理した。第1ラウンドでは471個の胚を作成したが、5個の栓のみを視認した。150個の受精胚を使用した(14匹の雌が過排卵した)。前核注射をCas9 50ng未満および各ガイド20ngで実施した。
図21は、遺伝子導入マウスを作成するためのマウス繁殖プロトコルを示す。
【0190】
以下の遺伝子型同定プロトコルを使用して、ファウンダーマウスの遺伝子型を同定した。DNEasy Blood and Tissueキット(Qiagen)を使用して、このマウスの尾の切れ端からゲノムDNA(gDNA)を抽出した。各仔の遺伝子型を同定するために、以下の通りにAccuPrime HiFi Taqキットを使用してgDNAを増幅させた:i.gDNA 100ng;ii.AccuPrime Buffer II 2.5μL;iii.AccuPrime HiFi Taq 0.1μL;iv.JRH261(ctccggaatgtctccatttg(配列番号87))(10μM)1μL;v.JRH264(atgagggagagactggcatc(配列番号88))(10μM)1μL;およびvi.総体積25μLまでの水。反応を以下の通りにサーモサイクラーで実行した:i.4分にわたり95度:ii.30秒にわたり95度;iii.30秒にわたり52度;iv.1:00分にわたり68度;v.工程ii~ivを35回繰り返す;および永久に4度。PCR反応物をゲル上で分離した(
図22)。予想されるバンドサイズは、欠失が存在しなかった(即ち、エクソン52が依然として存在した)場合には718ntであり、エクソン52が欠失した場合には約392ntであった。
図22で示すように、ファウンダーマウス7、63および76はエクソン52が欠失していた。
【0191】
増幅バンドを、JRH264プライマー(
図23を参照されたい)を使用して配列決定し、標的領域の再結合末端を配列決定した。
図23は配列決定領域を示し、太字、下線付きおよび通常の文字は天然配列を示し、イタリック体の文字は挿入または欠失を示す。予想される配列(「デルタ52」)では、太字の文字は下線付きの文字に連結されている。ファウンダーマウスでは、この領域に挿入(イタリック体の文字)および欠失(ハイフン)が存在した。
【0192】
雄ファウンダーマウスをmdx/mdx雌と交配させ、キメラを繁殖させた(
図24)。ファウンダー雄76またはファウンダー雄63とmdx/mdx雌とから作成した同腹仔を、
図22で使用した条件を使用してエクソン52欠失に関してスクリーニングして遺伝子型を同定した(それぞれ
図25および
図26)。エクソン52が欠失した場合、予想されるバンドサイズは約392ntであった。エクソン52が存在した場合、予想されるバンドサイズは約718ntであった。仔54497および54498(ファウンダー雄63+mdx/mdx雌の繁殖対に由来)はエクソン52が欠失しており、配列決定した(
図27)。仔54497および54498は392bpの配列決定読み取りにおいて互いに92.86%の同一性を有し、挿入欠失は同一であった。
【0193】
健康なhDMD/mdxマウスおよびΔ52/mdxマウスでのジストロフィンの発現を、蛍光免疫組織化学を使用して比較した。
図28で示すように、Δ52/mdxマウス仔54497および54498はジストロフィンタンパク質を欠いた。心臓染色の場合、ラミニンプローブ曝露は100ミリ秒であり、ジストロフィン曝露は900ミリ秒であった。TA筋サンプルの場合、ラミニンプローブ曝露およびジストロフィンプローブ曝露は2.0秒であった。ジストロフィンタンパク質を欠いたΔ52/mdxマウスを示す
図29も参照されたい。心臓およびTA筋の両方において、Δ52/mdxマウスではジストロフィン発現が失われた。TA筋では、わずかな自発的復帰変異体繊維(spontaneous revertant fiber)(ランダムスプライス事象または体細胞変異)が存在したが、これはmdxマウスモデルと一致した。ウエスタンブロッティングはまた、Δ52/mdxマウスがDMD遺伝子型と一致するジストロフィンタンパク質を欠いており、健康なhDMD/mdxマウスがジストロフィンを発現することも示した。
図30を参照されたい。
【0194】
Δ52/mdxマウスは、オープンフィールド試験の最初の5分後にmdxマウスと同様のレベルの活動を示した。このオープンフィールド試験では、マウスに、30分にわたりオープンフィールドアリーナ(20×20×30cm)を自由に探索させた。動物の活動および位置を、Fusion Activityソフトウェア(バージョン5.3、Omnitech、Columbus、OH)を実行するコンピュータにインターフェースで接続された赤外線ダイオード(x、yおよびz軸)を使用して自動的にモニタリングした。
図31は、自発運動および探索により示された、mdxマウスおよびhDMD/mdxマウスと比較したΔ52/mdxマウスの全体的な活動を示す。移動距離および直立した垂直方向の活動をそれぞれ左側のパネルおよび右側パネルに示す。
【0195】
実施例3
エクソン51の除去によるジストロフィンの回復
エクソン51の除去により、Δ52/mdxマウスにおいてベッカー型筋ジストロフィー(BMD)様の遺伝子型を作成することができ、理論的にはジストロフィン発現を回復させることができる。Δ52/mdxマウスを使用して、本開示のCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムを使用したエクソン51の除去によるジストロフィン発現の回復を実証した。
図32は、イントロン領域中でエクソン51の上流および下流をgRNAが標的とすることによりエクソン51をスキップさせる、SaCas9およびgRNAを使用した修正戦略を示す。
【0196】
標準:gRNA JCR179(上流)またはJCR183(下流)(それぞれ配列番号37および配列番号38)ならびにSaCas9を含むプラスミドをDMD患者筋芽細胞に電気穿孔した。分化細胞からタンパク質を回収し、ジストロフィン抗体によるウエスタンブロットを使用して分析した。
図33は、ゲノムDNAを編集してジストロフィンタンパク質を回復させ得ることを示しており、なぜならば、3つ全ての成分(即ち、両方のgRNAおよびSaCas9)で処理した細胞はジストロフィン発現を示したからである。
【0197】
次いで、このシステムをΔ52/mdxマウスで試験した。
図34は、gRNAおよびSaCas9システムを使用してΔ52/mdxマウスを処理するための実験設計を示し、この実験設計で使用する2種のウイルスベクターの概略を含む。ベクターPT366-179(配列番号39)およびPT366-183(配列番号40)ならびにウイルス粒子を製造するための当分野で既知の方法を使用して、AAV8組換えウイルスコンストラクトを作成した。これらのウイルスベクター(AAV8)を、2種のウイルス粒子としてインビボで同時送達した。各ウイルス粒子は、SaCas9とgRNAのうちの1つとを含んだ(
図3を参照されたい)。Δ52/mdxマウスをAAV8組換えウイルスコンストラクトの5E11で処理した。ウイルスを右TA筋に筋肉内注射し、左TA筋は対側対照としての役割を果たし、この左TA筋にPBSを注射した。処理後、左TA筋および右TA筋の両方を取り出し、それぞれの切片をゲノムDNA分析用に採取した。
図35に示すように、目的の領域を横切ってPCRを実施し、左側のゲル上での処理右TA筋において欠失バンドが認められ、このことは、あるレベルのゲノム編集を示した。この欠失バンドを配列決定し、優性産物は、各gRNAのPAMからの予想連結3塩基対であった。
図35は、右TA筋におけるインビボでのエクソン51欠失を示す。
【0198】
同様に、処理右TAおよび対照左TA筋の切片を分析して、編集がRNAを通じて伝えられるかどうかを決定した。cDNA中のエクソン50~53を横切ってPCRを実施した。
図36の右側のゲルに示すように、処理サンプルのうちの2つでは、エクソン51および52の欠如が存在する。欠失バンドを配列決定し、マウスがエクソン52を既に欠いており且つCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムがエクソン51を除去したと仮定すると、予想したように優性産物はエクソン50~53の連結であった(底部の右側の配列クロマトグラムを参照されたい)。
図36は、右TA筋におけるインビボでのエクソン51欠失を示す。
【0199】
図37は、Δ52/mdxマウスの対照PBSを注射した左TA筋中にジストロフィンがほとんど存在しなかったことを示す代表的な蛍光免疫組織化学的染色を示す。対照左TA上の緑色でのある程度のジストロフィン染色は、緑色に染まる場合もある復帰変異体繊維または死滅細胞に起因する可能性がある。右側の写真に示すように、処理右TA筋では緑色のジストロフィン染色が明らかに増加している。
図37は、処理TA筋におけるインビボでのジストロフィンタンパク質回復を示す。
【0200】
3匹の試験マウスからの左右のTA筋からタンパク質を抽出し、ウエスタンブロット分析を実施した。
図38は、処理TA筋におけるインビボでのジストロフィンタンパク質の回復を示す。対照左TA筋ではタンパク質発現が見られず、3つ全ての右TA筋は様々なレベルのジストロフィンタンパク質発現を示した。マウス1の右TAからのタンパク質発現が最も強力であり、マウス2および3は、微弱であるとはいえ存在するバンドを有した。本開示のCRISPR/Cas9に基づく遺伝子編集システムは、Δ52/mdxマウスにおいてジストロフィンタンパク質発現をある程度まで回復させるためにインビボで作用した。
【0201】
マウスの生理学的試験。処理マウス(全て雄hDMD-Δ52(het)/mdx(hemi)マウス)を、SaCas9を含むおよびgRNAを含むAAV8(n=10)またはAAV9(n=10)組換えウイルスコンストラクトで処理し、未処理マウス(hDMD-Δ52/mdx)(n=10)と比較した。AAV組換えウイルスコンストラクトを、ベクターPT366-179(配列番号39)およびPT366-183(配列番号40)を使用し且つ当分野で既知の方法を使用して作成した。処理マウスは、6~8週齢の尾静脈に注射したウイルス200μLを有した。8週間後にマウスを試験した。
【0202】
オープンフィールドの距離試験。マウスに、30分にわたりオープンフィールドアリーナを自由に探索させた。動物の活動および位置を、Fusion Activityソフトウェアを実行するコンピュータにインターフェースで接続された赤外線ダイオードで自動的にモニタリングした。データを連続的に収集し、5分間隔である区間に入れた。
図39は、未処理の16週齢のマウスと比較した、8週齢で処理した16週齢のマウスでの総移動距離に関する全ての時点での平均を示す。16週後の後ろ足で立っている姿勢の合計に関する全ての時点の平均を
図40に示す。統計は、一方向ANOVA、各カラム平均と未処理平均との比較、およびDunnett post hoc(平均+/-SEM)であった。AAV8処理マウスおよびAAV9処理マウスは、未処理の年齢が一致するマウスと比べて統計的に有意に多い移動距離を示す(統計的に有意)。全ての処理マウスは、未処理の年齢が一致する対照と比較して、後ろ足で立っている姿勢の統計的に有意に増加した量を示す。
【0203】
握力。16週の未処理マウスと処理マウスとの握力を試験した。マウスに、前足および後ろ足に対してそれぞれ3~5回試行して握力を試験した。試行平均を
図41に示す。握力を重量グラムとして報告する。
図41に示すように、AAV9処理マウスは、未処理の年齢が一致するマウスと比較して、前足において統計的に有意に増加した握力を示した。統計は、双方向ANOVA、Tukey’s test post hocであった。
【0204】
cDNA PCR。マウスの心臓からの組織を、RNEasy Plus Universalミニキット(Qiagen)を使用して処理した。結果として得られたRNAを、SuperScript VILO cDNA合成キットを使用してcDNAに逆転写した。cDNA 1μLを、AccuPrime DNAポリメラーゼならびにエクソン48でのプライマー(フォワードプライマー:gtttccagagctttacctgagaa(配列番号89))およびエクソン54でのプライマー(リバースプライマー:CTTTTATGAATGCTTCTCCAAG(配列番号90))を使用してPCR増幅させた。予想されるバンドサイズは、欠失が存在しなかった(即ち、エクソン52が依然として存在した)場合には997ntであり、エクソン52が欠失した場合には約764ntであった。
図42は、36~50時間齢で顔面静脈を介してAAV9を注射したP2マウス(「JA10(P2 AAV9)」)、および尾静脈を介してAAV8の3.3-7.7E12(「JA11(TV AAV8)」)またはAAV9の4.3-7.5E12(「JA12(TV AAV9)」)を注射した成体マウスを示す。
図42に示すように、P2マウス(48~54時間齢マウス)AAV9処理マウス、ならびにAAV8成体処理マウスおよびAAV9成体処理マウスにおいて様々な程度に編集が生じ、このことを、エクソン53に結合するプライマーtttctgtgattttcttttggattg(配列番号109)を使用した欠失バンドの配列決定によりさらに確認した。
図43は、Ja10マウス1由来の欠失バンドの配列におけるエクソン51および52の欠失を示す代表的なクロマトグラムを示す。
【0205】
前述の詳細な説明および付随する実施例は、単に実例に過ぎず、本発明の範囲への制限と受け取るべきではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその等価物によってのみ定義されることが理解されよう。
【0206】
開示された実施態様に対する様々な変更および改変は、当業者には明らかであろう。限定はされないが、本発明の化学構造、置換基、誘導体、中間体、合成物、組成物、製剤、または使用の方法に関するものを含めた、こうした変更および改変を、その趣旨および範囲から逸脱せずに行うことができる。
【0207】
完全性の理由から、本発明の種々の態様を、次の番号付けした条項で提示する:
第1項.配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号41、配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含むガイドRNA(gRNA)。
【0208】
第2項.第1のgRNAおよび第2のgRNAを含むDNAターゲティング組成物であって、前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号41、配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含み、前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は異なるターゲティングドメインを含む、DNAターゲティング組成物。
【0209】
第3項.前記第1のgRNA分子は配列番号1、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15または配列番号41であり、前記第2のgRNA分子は配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19または配列番号42である、第2項に記載のDNAターゲティング組成物。
【0210】
第4項.前記第1のgRNA分子は、配列番号1、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14および配列番号15からなる群から選択され、前記第2のgRNA分子は、配列番号2、配列番号4、配列番号16、配列番号17、配列番号18および配列番号19からなる群から選択される、第2項または第3項に記載のDNAターゲティング組成物。
【0211】
第5項.前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに(xii)配列番号41に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子からなる群から選択される、第2~4項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング組成物。
【0212】
第6項.クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(Cas)タンパク質をさらに含む第2~5項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング組成物。
【0213】
第7項.前記Casタンパク質は、NNGRRT(配列番号25)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識するCas9分子を含む、第6項に記載のDNAターゲティング組成物。
【0214】
第8項.前記Casタンパク質は、配列番号45のアミノ酸配列を有する黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9分子を含む、第6項または第7項に記載のDNAターゲティング組成物。
【0215】
第9項.前記DNAターゲティング組成物は、配列番号83のヌクレオチド配列、配列番号84のヌクレオチド配列、配列番号37のヌクレオチド配列および/または配列番号38のヌクレオチド配列を含む、第2~8項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング組成物。
【0216】
第10項.第1項に記載のgRNA分子または第2~9項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング組成物を含む単離ポリヌクレオチド。
【0217】
第11項.第1項に記載のgRNA、第2~9項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング組成物または第10項に記載の単離ポリヌクレオチドを含むベクター。
【0218】
第12項.第6~9項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング組成物を含むベクター。
【0219】
第13項.(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子、(b)第2のgRNA分子、および(c)NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する少なくとも1種のCas9分子をコードするベクターであって、第1のgRNA分子および第2のgRNA分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号41、配列番号42に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含み、前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は異なるターゲティングドメインを含む、ベクター。
【0220】
第14項.前記ベクターは、ヒトDMD遺伝子のエクソン51に隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成するように構成されている、第13項に記載のベクター。
【0221】
第15項.前記第1のgRNA分子は配列番号1、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15または配列番号41であり、前記第2のgRNA分子は配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19または配列番号42である、第13項または第14項に記載のベクター。
【0222】
第16項.前記第1のgRNA分子は、配列番号1、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14および配列番号15からなる群から選択され、前記第2のgRNA分子は、配列番号2、配列番号4、配列番号16、配列番号17、配列番号18および配列番号19からなる群から選択される、第13~15項のいずれか一項に記載のベクター。
【0223】
第17項.前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子からなる群から選択される、第13~16項のいずれか一項に記載のベクター。
【0224】
第18項.前記ベクターはウイルスベクターである、第11~17項のいずれか一項に記載のベクター。
【0225】
第19項.前記ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、第18項に記載のベクター。
【0226】
第20項.前記AAVベクターはAAV8ベクターまたはAAV9ベクターである、第19項に記載のベクター。
【0227】
第21項.前記ベクターは、前記第1のgRNA分子、前記第2のgRNA分子および/または前記Cas9分子をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された組織特異的プロモーターを含む、第11~20項のいずれか一項に記載のベクター。
【0228】
第22項.前記組織特異的プロモーターは筋肉特異的プロモーターである、第21項に記載のベクター。
【0229】
第23項.第1項に記載のgRNA、第2~9項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング組成物、第10項に記載の単離ポリヌクレオチドまたは第11~22項のいずれか一項に記載のベクターを含む細胞。
【0230】
第24項.第1項に記載のgRNA、第2~9項のいずれか一項に記載のDNAターゲティングシステム、第10項に記載の単離ポリヌクレオチド、第11~22項のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項23に記載の細胞と、任意選択で使用するための説明書とを含むキット。
【0231】
第25項.細胞中で変異ジストロフィン遺伝子を修正する方法であって、第1項に記載のgRNA、第2~9項のいずれか一項に記載のDNAターゲティングシステム、第10項に記載の単離ポリヌクレオチドまたは第11~22項のいずれか一項に記載のベクターを細胞に投与することを含む方法。
【0232】
第26項.対象中で変異ジストロフィン遺伝子をゲノム編集する方法であって、第1項に記載のgRNA、第2~9項のいずれか一項に記載のDNAターゲティングシステム、第10項に記載の単離ポリヌクレオチド、第11~22項のいずれか一項に記載のベクターまたは第23項に記載の細胞を含むゲノム編集用組成物を前記対象に投与することを含む方法。
【0233】
第27項.前記ゲノム編集用組成物を前記対象に筋肉内投与する、静脈内投与する、またはこれらの組み合わせで投与する、第26項に記載の方法。
【0234】
第28項.前記変異ジストロフィン遺伝子を修正することはヌクレアーゼ介在性の非相同末端結合を含む、第25~27項のいずれか一項に記載の方法。
【0235】
第29項.変異ジストロフィン遺伝子を有する、必要とする対象を処置する方法であって、第1項に記載のgRNA、第2~9項のいずれか一項に記載のDNAターゲティングシステム、第10項に記載の単離ポリヌクレオチド、第11~22項のいずれか一項に記載のベクターまたは第23項に記載の細胞を前記対象に投与することを含む方法。
【0236】
第30項.対象中での変異ジストロフィン遺伝子のゲノム編集用の改変アデノ随伴ウイルスベクターであって、第1項に記載のgRNAをコードする第1のポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識するCas9分子をコードする第2のポリヌクレオチド配列と含む改変アデノ随伴ウイルスベクター。
【0237】
第31項.前記改変アデノ随伴ウイルスベクターは配列番号39または配列番号40に記載のヌクレオチド配列を含む、第30項に記載の改変アデノ随伴ウイルスベクター。
【0238】
第32項.ジストロフィン遺伝子におけるエクソン51を含むセグメントの欠失用の組成物であって、(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第1のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第1のベクター、および(b)第2のgRNA分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第2のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第2のベクターを含み、前記第1および第2のgRNA分子のそれぞれは、19~24個のヌクレオチドの長さのターゲティングドメインを有し、前記第1のベクターおよび第2のベクターは、それぞれがヒトDMD遺伝子のエクソン51に隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成するように構成され、それにより、ジストロフィン遺伝子におけるエクソン51を含むセグメントが欠失される、組成物。
【0239】
第33項.前記セグメントは約50個の塩基対~約2,000個の塩基対の長さを有する、第32項に記載の組成物。
【0240】
第34項.前記セグメントは、約118個の塩基対、約233個の塩基対、約326個の塩基対、約766個の塩基対、約805個の塩基対または約1611個の塩基対の長さを有する、第33項に記載の組成物。
【0241】
第35項.前記第1のCas9分子および前記第2のCas9分子は同一である、第32~34項のいずれか一項に記載の組成物。
【0242】
第36項.前記第1のCas9分子および前記第2のCas9分子は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9分子である、第35項の記載の組成物。
【0243】
第37項.前記第1のCas9分子および前記第2のCas9分子は変異黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9分子である、第36項に記載の組成物。
【0244】
第38項.前記第1のCas9分子および前記第2のCas9分子は異なる、第32~34項のいずれか一項に記載の組成物。
【0245】
第39項.前記第1のCas9分子または前記第2のCas9分子は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9分子である、第38項に記載の組成物。
【0246】
第40項.前記第1のCas9分子および/または前記第2のCas9分子は、配列番号45のアミノ酸配列を有するSaCas9分子を含む、第32~39項のいずれか一項に記載の組成物。
【0247】
第41項.前記第1のベクターおよび/または前記第2のベクターはウイルスベクターである、第32~40項のいずれか一項に記載の組成物。
【0248】
第42項.前記第1のベクターおよび/または前記第2のベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、第41項に記載の組成物。
【0249】
第43項.前記AAVベクターはAAV8ベクターまたはAAV9ベクターである、第42項に記載の組成物。
【0250】
第44項.前記ジストロフィン遺伝子はヒトジストロフィン遺伝子である、第32~43項のいずれか一項に記載の組成物。
【0251】
第45項.前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19に記載のヌクレオチド配列またはその相補体を含むターゲティングドメインを含み、前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は異なるターゲティングドメインを含む、第32~44項のいずれか一項に記載の組成物。
【0252】
第46項.前記第1のgRNA分子は配列番号1、配列番号3、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14または配列番号15であり、前記第2のgRNA分子は配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号16、配列番号17、配列番号18または配列番号19である、第32~45項のいずれか一項に記載の組成物。
【0253】
第47項.前記第1のgRNA分子は、配列番号1、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14および配列番号15からなる群から選択され、前記第2のgRNA分子は、配列番号2、配列番号4、配列番号16、配列番号17、配列番号18および配列番号19からなる群から選択される、第32~46項のいずれか一項に記載の組成物。
【0254】
第48項.前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子からなる群から選択される、第32~47項のいずれか一項に記載の組成物。
【0255】
第49項.前記第1のベクターは配列番号39に記載のヌクレオチド配列を含み、前記第2のベクターは配列番号40に記載のヌクレオチド配列を含む、第32~48項のいずれか一項に記載の組成物。
【0256】
第50項.薬物での使用のための第32~49項のいずれか一項に記載の組成物。
【0257】
第51項.デュシェンヌ型筋ジストロフィーの処置での使用のための第32~50項のいずれか一項に記載の組成物。
【0258】
第52項.第32~51項のいずれか一項に記載の組成物を含む細胞。
【0259】
第53項.細胞中で変異ジストロフィン遺伝子を修正する方法であって、前記細胞に、(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第1のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第1のベクター、および(b)第2のgRNA分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第2のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第2のベクターを投与することを含み、前記第1のgRNA分子および第2のgRNA分子のそれぞれは、19~24個のヌクレオチドの長さのターゲティングドメインを有し、前記ベクターは、それぞれがヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51に隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成するように構成され、それにより、前記ジストロフィン遺伝子においてエクソン51を含むセグメントが欠失される、方法。
【0260】
第54項.前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子からなる群から選択される、第53項に記載の方法。
【0261】
第55項.前記変異ジストロフィン遺伝子は、未成熟終止コドン、破壊された読み枠、異所性スプライス受容部位または異所性スプライス供与部位を含む、第53項または第54項に記載の方法。
【0262】
第56項.前記変異ジストロフィン遺伝子は、未成熟終止コドンおよび切り詰め型遺伝子産物をもたらすフレームシフト変異を含む、第53~55項のいずれか一項に記載の方法。
【0263】
第57項.前記変異ジストロフィン遺伝子は、前記読み枠を破壊する1つまたは複数のエクソンの欠失を含む、第53~55項のいずれか一項に記載の方法。
【0264】
第58項.前記変異ジストロフィン遺伝子の修正は、未成熟終止コドンの欠失、破壊された読み枠の修正、またはスプライス受容部位の破壊もしくはスプライス供与配列の破壊によるスプライシングの改変を含む、第53~57項のいずれか一項に記載の方法。
【0265】
第59項.前記変異ジストロフィン遺伝子の修正はエクソン51の欠失を含む、第53~58項のいずれか一項に記載の方法。
【0266】
第60項.前記変異ジストロフィン遺伝子の修正は相同組換え修復を含む、第53~59のいずれか一項に記載の方法。
【0267】
第61項.前記細胞にドナーDNAを投与することをさらに含む第60項に記載の方法。
【0268】
第62項.前記変異ジストロフィン遺伝子の修正はヌクレアーゼ介在性の非相同末端結合を含む、第53~61項のいずれか一項に記載の方法。
【0269】
第63項.前記細胞は筋芽細胞である、第53~62項のいずれか一項に記載の方法。
【0270】
第64項.前記細胞はデュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患している対象に由来する、第53~63項のいずれか一項に記載の方法。
【0271】
第65項.前記細胞は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患しているヒト対象由来の筋芽細胞である、第53~64項のいずれか一項に記載の方法。
【0272】
第66項.前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子からなる群から選択される、第53~65項のいずれか一項に記載の方法。
【0273】
第67項.変異ジストロフィン遺伝子を有する、必要とする対象を処置する方法であって、前記対象に、(a)第1のガイドRNA(gRNA)分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第1のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第1のベクター、および(b)第2のgRNA分子をコードするポリヌクレオチド配列と、NNGRRT(配列番号24)またはNNGRRV(配列番号25)のいずれかのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識する第2のCas9分子をコードするポリヌクレオチド配列とを含む第2のベクターを投与することを含み、前記第1のgRNA分子および第2のgRNA分子のそれぞれは、19~24個のヌクレオチドの長さのターゲティングドメインを有し、前記ベクターは、それぞれがヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51に隣接する第1および第2のイントロン中で第1および第2の二本鎖切断を形成するように構成され、それにより、前記ジストロフィン遺伝子においてエクソン51を含むセグメントが欠失される、方法。
【0274】
第68項.前記第1のgRNA分子および前記第2のgRNA分子は、(i)配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ii)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iii)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(iv)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(v)配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vi)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(vii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(viii)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(ix)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号19に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;(x)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号15に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子;ならびに(xi)配列番号11に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号18に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子からなる群から選択される、第67項に記載の方法。
【0275】
第69項.前記対象はデュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患している、第68項に記載の方法。
【0276】
第70項.前記第1のベクターおよび第2のベクターを前記対象の筋肉に投与する、第67~69項のいずれか一項に記載の方法。
【0277】
第71項.前記筋肉は骨格筋または心筋である、第70項に記載の方法。
【0278】
第72項.前記骨格筋は前脛骨筋である、第71項に記載の方法。
【0279】
第73項.前記第1のベクターおよび第2のベクターを前記対象に筋肉内投与する、静脈内投与する、またはこれらの組み合わせで投与する、第67~72項のいずれか一項に記載の方法。
【0280】
第74項.エクソン52が欠失した(Δ52)ヒトジストロフィン遺伝子(hDMD)を有する遺伝子導入齧歯動物胚を作成する方法であって、第1項に記載のgRNA、第2~9項のいずれか一項に記載のDNAターゲティングシステム、第10項に記載の単離ポリヌクレオチド、第11~22項のいずれか一項に記載のベクター、第30項または第31項に記載の改変アデノ随伴ウイルスベクターまたは第32~51項のいずれか一項に記載の組成物を齧歯動物胚に投与し、それにより、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン52が欠失される、投与すること、および前記ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン52が欠失している遺伝子導入齧歯動物胚を選択することであって、前記齧歯動物胚は正常なヒトジストロフィン遺伝子を含む、選択することを含む方法。
【0281】
第75項.前記齧歯動物胚はマウス胚である、第74項に記載の方法。
【0282】
第76項.前記齧歯動物胚はヘテロ接合性hDMDまたはヘテロ接合性hDMD-Δ52である、第74項または第75項に記載の方法。
【0283】
第77項.前記齧歯動物胚に、配列番号41に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第1のgRNA分子、および配列番号42に記載のヌクレオチド配列を含むターゲティングドメインを含む第2のgRNA分子を投与してヒトジストロフィン遺伝子のエクソン52を欠失させる、第74~76項のいずれか一項に記載の方法。
【0284】
第78項.前記齧歯動物胚に、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含むCasタンパク質を投与することをさらに含む第74~77項のいずれか一項に記載の方法。
【0285】
第79項.第74~78項のいずれか一項に記載の方法により作成された遺伝子導入齧歯動物胚。
【0286】
第80項.第79項に記載の遺伝子導入齧歯動物胚から作成された遺伝子導入齧歯動物。
【0287】
付表
JCR179を有するpDO240(配列番号37)(gRNAは太字)
【化29】
【化30】
【0288】
JCR183を有するpDO240(配列番号38)(gRNAは太字)
【化31】
【化32】
【0289】
JCR179 PT366AAV 179を有するPT366(配列番号39)-インビボでの作業に使用されるAAVプラスミド(gRNAは太字;SaCas9は大文字;NLSは小文字、太字および下線付き)
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【0290】
JCR183を有するPT366(配列番号40)-インビボでの作業に使用される(gRNAは太字;SaCas9は大文字;NLSは小文字、太字および下線付き)
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
【0291】
pDO242(インビボでの作業のために全てのJCR89/91プロジェクトおよびJCR157/160プロジェクトで使用されるSaCas;SaCas9は大文字)(配列番号83)
【化43】
【化44】
【化45】
【化46】
【0292】
pJRH1(全てのJCR179/183プロジェクトに使用されるSaCas9、SaCas9は大文字;NLSは小文字、太字および下線付き)(配列番号84)
【化47】
【化48】
【化49】
【化50】
【化51】
【0293】
PT366中のNLS配列(配列番号85)
AAAAGGCCGGCGGCCACGAAAAAGGCCGGCCAGGCAAAAAAGAAAAAG
【0294】
pDO203-gRNAをSpCas9にクローニングするための一般的なバックボーン;JCR94およびJCR99を太字の部位に入れて細胞中で試験し、次いでhDMD-delta52/mdxマウスを作製するためにmRNAを作製した(配列番号86)
【化52】
【化53】
【配列表】