(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】生体細胞凍結保存具および生体細胞凍結保存用具
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220721BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20220721BHJP
A61J 3/00 20060101ALI20220721BHJP
A01N 1/02 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12N1/04
A61J3/00 301
A01N1/02
(21)【出願番号】P 2019526992
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2018024427
(87)【国際公開番号】W WO2019004300
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】P 2017129335
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509038108
【氏名又は名称】株式会社北里コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003111
【氏名又は名称】あいそう特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100089060
【氏名又は名称】向山 正一
(72)【発明者】
【氏名】井上 太
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-188405(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115313(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/051522(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/088723(WO,A1)
【文献】特開2016-010359(JP,A)
【文献】登録実用新案第3202359(JP,U)
【文献】特開2018-121581(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230477(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
A61J 1/00-19/06
A01N 1/00-1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐寒性材料により形成された本体部と、耐寒性材料により形成された生体細胞保持部とを備える生体細胞凍結保存具であって、
前記生体細胞保持部は、光透過性を有するベース部と、前記ベース部の表面に固定された吸水部と、前記吸水部により取り囲まれた欠損部
とを備え、
前記吸水部は、光難透過性シートからなり、前記ベース部は、細長い平坦シート状であり、前記欠損部は、光難透過性シートである前記吸水部により取り囲まれた円状または多角形状となっており、さらに、前記欠損部
は、前記ベース部の前記表面が露出し
た光透過性を有する平坦な生体細胞載置部位を形成しており、かつ、透過型顕微鏡を用いた生体細胞の載置作業を行う際に、光難透過性である前記吸水部により取り囲まれ、光が透過する前記生体細胞載置部位が前記生体細胞を載置するターゲットを形成することを特徴とする生体細胞凍結保存具。
【請求項2】
前記吸水部により取り囲まれ、光が透過する前記生体細胞載置部位は、円形であり、直径が.0.5~1.5mmである請求項1に記載の生体細胞凍結保存具。
【請求項3】
前記生体細胞凍結保存具は、複数の前記欠損部を備えている請求項1または2に記載の生体細胞凍結保存具。
【請求項4】
前記吸水部は、前記欠損部を除き、前記ベース部の先端部の一方の表面の全体を覆うものとなっている請求項1ないし3のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
【請求項5】
前記生体細胞保持部は、中央部に前記欠損部を有する個別吸水部を複数備えており、前記個別吸水部の外側および前記欠損部において、前記ベース部の表面は、露出している請求項1ないし3のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
【請求項6】
前記ベース部は、無色透明である請求項1ないし
5のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
【請求項7】
前記ベース部は、透明性シートである請求項1ないし
5のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
【請求項8】
前記ベース部は、細長い平板状の可撓性シートである請求項1ないし
7のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
【請求項9】
前記ベース部は、細長い硬質平板部材である請求項1ないし
8のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
【請求項10】
請求項1ないし
9のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具と、前記生体細胞凍結保存具を収納可能かつ耐寒性材料により形成された一端が閉塞した筒状収納部材とを備える生体細胞凍結保存用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の卵子、胚などの卵、精子、造血幹細胞、多能性幹細胞等の幹細胞などの生体細胞を凍結保存する際に使用する生体細胞凍結保存具および生体細胞凍結保存用具に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物胚の凍結保存は、特定の系統や品種の遺伝資源の保存を可能とする。また、絶滅の危機に瀕している動物種の維持にも有効である。さらに、ヒトの不妊治療においても有用である。
哺乳動物胚の凍結保存方法としては、特開2000-189155公報(特許文献1)において、哺乳動物胚または卵子を滅菌処理した凍結ストロー、凍結バイアルまたは凍結チューブ等の凍結保存用容器の内面に、これらの胚または卵子を包被するに充分な最少量のガラス化液で貼り付け、この凍結保存用容器を密封し、この容器を液体窒素に接触させて急速に冷却することが提案されている。そして、融解方法では、前記の方法で保存した凍結保存用容器を液体窒素から取り出し、容器の一端部を開口し、この容器内に33~39℃の希釈液を直接注入し、胚または卵子の凍結を融解希釈するものである。この方法によれば、哺乳動物胚または卵子をウイルスや細菌による感染のおそれがなく高い生存率で保存および融解希釈することができるという優れた効果を備えている。
しかし、凍結ストロー、凍結バイアルまたは凍結チューブ等の凍結保存用容器の内面に、胚または卵子などの卵を包被するに充分かつ少量のガラス化液で貼り付ける作業が必ずしも容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-189155
【文献】特開2002-315573(WO公開02-085110)
【文献】特開2004-329202(US公開2004-0259072)
【文献】特開2016-10359(US公開2017-0135335)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本願発明者は、特許文献2(特開2002-315573、WO公開02-085110)を提案している。特許文献2の卵凍結保存具1は、耐寒性材料により形成された本体部2と、本体部2の一端に取り付けられ、可撓性かつ透明性かつ液体窒素耐性材料により形成された卵付着保持用ストリップ3と、卵付着保持用ストリップ3を被包可能に本体部2に着脱自在に取り付けられる一端が封鎖され、かつ耐寒性材料により形成された筒状部材4とからなるものである。
【0005】
また、本願発明者は、特許文献3(特開2004-329202、US公開2004-0259072)も提案している。特許文献3の卵凍結保存具1は、耐液体窒素材料で形成された卵凍結保存用チューブ2と、チューブ2を保護するための金属製筒状保護部材3とを備える。チューブ2は、本体部21と、内径が0.1mm~0.5mmの卵保存用細径部22とを備えるとともに、細径部の先端側にてヒートシール可能であり、本体部21にてヒートシール可能である。筒状保護部材3は、チューブ2の細径部22の先端部を収納する筒状部31と、細径部22の筒状部31に収納されない部分および本体部21の先端部21aを収納する半筒状部32とを備えている。
また、特開2016-10359(特許文献4、US公開2017-0135335)には、支持体上に、接着層とガラス化液吸収層を少なくともこの順に有するガラス化液吸収体を有し、ガラス化液吸収層の細胞又は組織を載置する部分と支持体の間に接着層が存在しない部分を有する細胞又は組織のガラス化凍結保存用治具が開示されている。
【0006】
特許文献2、3および4の卵凍結保存具は、有効である。また、特許文献4のものでは、ガラス化液吸収層が透明でないため、透過型顕微鏡を用いて、細胞の載置作業を行う際、ガラス化液吸収層の上面にピペットの先端部を配置したとき、その先端が視認しにくく、作業性が悪いものであった。このため、より容易に卵凍結操作が行える卵凍結保存具が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、生体細胞凍結保存具への生体細胞載置操作が容易であり、かつ、過剰なガラス化液が滴下されても、その除去操作が不要であり、生体細胞の凍結を迅速に行うことができる生体細胞凍結保存具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
耐寒性材料により形成された本体部と、耐寒性材料により形成された生体細胞保持部とを備える生体細胞凍結保存具であって、
前記生体細胞保持部は、光透過性を有するベース部と、前記ベース部の表面に固定された吸水部と、前記吸水部により取り囲まれた欠損部とを備え、
前記吸水部は、光難透過性シートからなり、前記ベース部は、細長い平坦シート状であり、前記欠損部は、光難透過性シートである前記吸水部により取り囲まれた円状または多角形状となっており、さらに、前記欠損部は、前記ベース部の前記表面が露出した光透過性を有する平坦な生体細胞載置部位を形成しており、かつ、透過型顕微鏡を用いた生体細胞の載置作業を行う際に、光難透過性である前記吸水部により取り囲まれ、光が透過する前記生体細胞載置部位が前記生体細胞を載置するターゲットを形成する生体細胞凍結保存具。
【0011】
また、上記目的を達成するものは、以下のものである。
上記のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具と、前記生体細胞凍結保存具を収納可能かつ耐寒性材料により形成された一端が閉塞した筒状収納部材とを備える生体細胞凍結保存用具。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施例の生体細胞凍結保存具の正面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した生体細胞凍結保存具の左側面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した生体細胞凍結保存具の縦断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示した生体細胞凍結保存具の生体細胞保持部の拡大図である。
【
図5】
図5は、
図2に示した生体細胞凍結保存具の生体細胞保持部の拡大図である。
【
図6】
図6は、
図5に示した生体細胞凍結保存具の縦断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の他の実施例の生体細胞凍結保存具の生体細胞保持部の拡大正面図である。
【
図8】
図8は、本発明の他の実施例の生体細胞凍結保存具の生体細胞保持部の拡大正面図である。
【
図9】
図9は、本発明の他の実施例の生体細胞凍結保存具の生体細胞保持部の拡大断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の生体細胞凍結保存用具に使用される一例の筒状収納部材の正面図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施例の生体細胞凍結保存用具の正面図である。
【
図13】
図13は、本発明の他の実施例の生体細胞凍結保存具の正面図である。
【
図15】
図15は、
図13に示した生体細胞凍結保存具の生体細胞保持部の拡大左側面図である。
【
図18】
図18は、
図13に示した生体細胞凍結保存具を先端側から見た拡大作用説明図である。
【
図19】
図19は、本発明の他の実施例の生体細胞凍結保存用具の説明図である。
【
図20】
図20は、本発明の他の実施例の生体細胞凍結保存具を先端側から見た拡大作用説明図である。
【
図21】
図21は、本発明の他の実施例の生体細胞凍結保
存具の正面図である。
【
図24】
図24は、本発明の他の実施例の生体細胞凍結保
存具の正面図である。
【
図26】
図26は、本発明の他の実施例の生体細胞凍結保
存具の生体細胞保持部の拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の生体細胞凍結保存具を図面に示す実施例を用いて説明する。
本発明の生体細胞凍結保存具1は、耐寒性材料により形成された本体部2と、耐寒性材料により形成された生体細胞保持部3とを備える。生体細胞保持部3は、光透過性を有するベース部31と、ベース部31の表面に固定された吸水部32とを備える。吸水部32は、吸水部32により取り囲まれた欠損部(言い換えれば、吸水部32の中に設けられた欠損部)33を備え、欠損部33において、ベース部31の表面が露出し、光透過性を有している。
特に、この実施例の細胞凍結保存具1は、卵凍結保存具であり、生体細胞保持部3は、卵保持部となっている。なお、本発明の細胞凍結保存具は、胚などの卵、卵子、精子、造血幹細胞、多能性幹細胞等の幹細胞などの細胞、特に上記のような生体細胞を凍結保存するために用いることができる。
また、本発明の生体細胞凍結保存用具10は、上記の生体細胞凍結保存具1と、生体細胞凍結保存具1を収納可能かつ耐寒性材料により形成された一端が閉塞した筒状収納部材4とを備える。
なお、本発明の生体細胞凍結保存具1は、筒状収納部材4を使用せず、生体細胞凍結保存具単独としても卵凍結保存に使用することができる。
【0014】
生体細胞凍結保存具1は、
図1ないし
図6に示すように、耐寒性材料により形成された本体部2と、本体部2の一端に取り付けられた耐寒性材料により形成された生体細胞保持部3とを備える。生体細胞保持部3は、光透過性を有するベース部31と、ベース部31の表面に固定された吸水部32とを備える。吸水部32は、吸水部32により取り囲まれた欠損部33を備える。
【0015】
この実施例の生体細胞凍結保存具1では、
図1ないし
図3に示すように、本体部2は、細長い棒状の本体部となっている。また、この実施例の生体細胞凍結保存具1では、生体細胞保持部3の光透過性を有するベース部31は、可撓性かつ透明性かつ耐寒性(具体的には、液体窒素耐性)材料により形成されており、この実施例では、細長い平坦シート状のものとなっている。
【0016】
本体部2は、
図1ないし
図3に示すように、生体細胞保持部3(ベース部31)の一端を保持している。本体部の長さとしては、50~200mm程度が好適である。また、本体部の幅としては、2~7mm程度が好適であり、厚さは、1~7mm程度が好適である。本体部2は、主軸部21と、主軸部21の先端部に設けられた生体細胞保持部3(ベース部31)を保持する保持部22と、本体部2の後端部に設けられた把持部23と、主軸部21と把持部23間に設けられたテーパー部24とを備えている。この実施例の生体細胞凍結保存具1では、把持部23を除き、後述する筒状収納部材4内に、収納可能であり、テーパー部24は、筒状収納部材4の開口部と係合可能なものとなっている。
【0017】
本体部2は、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、メタクリレート-スチレン共重合体、メタクリレート-ブチレン-スチレン共重合体)、ポリアミド(例えば、6ナイロン,66ナイロン)、ポリサルホン、フッ素樹脂、ポリイミド等の耐寒性樹脂が使用され、特に、液体窒素の温度に耐え得るものが好ましい。
【0018】
この実施例では、ベース部31は、細長い平坦シート状のものとなっている。ベース部31は、生体細胞(例えば、卵)の付着作業を容易にするために、光透過性、好ましくは、透明性を有する平坦シート状のものが好ましい。特に、無色透明の平坦シートが好ましい。さらには、可撓性を有するものであってもよい。
【0019】
生体細胞保持部3の先端部には、マーカー34が設けられている。マーカー34は、生体細胞保持部3の先端部の一方の表面(具体的には、吸水シートまたはベース部の表面)に、有色を付する(油性インクで着色する)ことにより形成される。ベース部31の長さは、10~70mm程度、幅0.5~4.0mm程度、厚さが0.01~0.5mm程度のものが用いられる。そして、ベース部31は、基端部が、上述した本体部2の保持部22に固着されている。
【0020】
ベース部31に使用されるシート形成材料としては、光透過性を有する樹脂シート、例えば、3-フッ化ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスルホン、ポリエステル(例えば、PET)、ポリスチレン、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などの合成樹脂からなるフィルムあるいはそれらの積層体が挙げられる。特に、耐寒性、具体的には、液体窒素耐性材料、言い換えれば、液体窒素に接触しても脆化しないものが好ましい。
【0021】
そして、本発明の生体細胞凍結保存具1では、
図1、
図4ないし
図6に示すように、光透過性を有するベース部31表面に固定された吸水部32を備える。さらに、吸水部32は、吸水部32により取り囲まれた欠損部33を備える。そして、欠損部33において、ベース部31の表面が露出し、光透過性を有している。欠損部33におけるベース部31の表面が、生体細胞載置部位として有効に使用できる。吸水部32の幅は、ベース部の幅と同じ~2/3程度であることが好ましい。また、吸水部32の長さは、5~70mmが好ましく、特に、10~50mmが好ましい。
【0022】
また、この実施例の生体細胞凍結保存具1では、
図5に示すように、生体細胞保持部3は、複数の欠損部(細胞載置部位)33を備えている。具体的には、生体細胞保持部3の長手方向に、複数設けられている。具体的には、5つの欠損部(細胞載置部位)33が設けられている。欠損部(細胞載置部位)33の数としては、1~7程度が好ましく、特に、2~5が好適である。欠損部の大きさとしては、円形の場合、直径が.0.5~1.5mm程度が好適である。
【0023】
また、欠損部33は、円状または多角形状であることが好ましく、特に、円形、楕円形であることが好ましい。さらに、吸水部32は、光難透過性シートであることが好ましい。このようなものとすることにより、透過型顕微鏡を用いた生体細胞の載置作業を行う際に、吸水部32が難透過性であり、欠損部33には光が透過するため、細胞を載置するターゲットである欠損部(細胞載置部位)33が浮かび上がるように見え、ターゲットの認識が極めて容易である。
【0024】
また、この実施例の生体細胞凍結保存具1では、
図5に示すように、吸水部32は、欠損部33を除き、ベース部31の先端部の一方の表面の全体を覆うものとなっている。このようなものとすることにより、欠損部(細胞載置部位)33の認識がより容易となる。
【0025】
吸水部32は、その全体もしくは一部が、ベース部31の表面に固定されている。吸水部32は、耐寒性材料により形成されている。吸水部32のベース部31への固定は、接着剤、両面テープなどの接着性物質により行うことが好ましい。なお、部分的なヒートシールによって、固定してもよい。
【0026】
吸水部としては、繊維からなるシート、多孔性樹脂シートなどの各種シートが使用できる。吸水部の厚みは10μm~5mmであることが好ましく、より好ましくは20μm~2.5mmである。そして、繊維からなるシートとしては、紙又は不織布が使用できる。
【0027】
吸水部として紙を用いる場合、紙としては、密度が0.1~0.6g/cm3であり、坪量が10~130g/m2の紙であることが好ましい。特に密度が0.12~0.3g/cm3であり、坪量が10~100g/m2である紙は、保存液の吸収性に優れ、さらには、透過型顕微鏡を用いて載置部上に載置した細胞又は組織を観察することができるような、細胞又は組織の視認性に優れた凍結保存用治具を提供することが可能となるため好ましい。
【0028】
吸水部として不織布を用いる場合、不織布を形成する繊維としては、セルロース繊維、セルロース繊維からなる再生繊維であるレーヨン繊維やキュプラ繊維、さらにはセルロース繊維からの半合成繊維であるアセテート繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維、ガラス繊維、絹繊維などが挙げられ、これら繊維を各種混合した不織布も用いることができる。中でもセルロース繊維、セルロース繊維由来の繊維でセルロース再生繊維であるレーヨン繊維やキュプラ繊維、更にはセルロース繊維からの半合成繊維であるアセテート繊維が好ましい。また、不織布としては、密度が0.1~0.4g/cm3であり、坪量が10~130g/m2の不織布であることが好ましい。特に密度が0.12~0.3g/cm3であり、坪量が10~100g/m2であるものが好ましい。
【0029】
吸水部として、使用可能な多孔性樹脂シートとしては、例えば特公昭42-13560号公報や、特開平08-283447号公報に記載される、少なくとも一軸方向に延伸し、樹脂の融点以上に加熱し焼結することで得た微細繊維状構造により多孔質構造を形成した樹脂シート、特開2009-235417号公報(WO公開03-014205、USP7758953、USP8110289)に記載される、乳化重合又は粉砕等の方法によって得られた熱可塑性樹脂の固体粉末を金型に充填し、加熱、焼結して粉末粒子表面を融着させて冷却することにより、多孔質構造を形成した樹脂シート等が挙げられる。
【0030】
上記した多孔性樹脂シートを形成する樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子ポリエチレン等の各種ポリエチレンやポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレンやポリビニリデンジフロライド等のフッ素樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル三元共重合体、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0031】
なお、吸水部32の形態としては、上記のものに限定されるものではない。例えば、
図7に示す生体細胞保持部3aのように、生体細胞保持部3aの側部に、ベース部露出部35を有するものであってもよい。この実施例のものでは、生体細胞保持部3aは、吸水部32aの両側部に生体細胞保持部3aの長手方向に延びる向かい合う2つのベース部露出部35を有している。
【0032】
また、
図8に示す生体細胞保持部3bのように、中央部に欠損部33を有する個別吸水部32bが複数設けられたものであってもよい。この実施例では、個別吸水部32bは、円形状のものとなっており、内部に円形状の欠損部33を備えている。そして、複数の個別吸水部32bが、ベース部31の表面に固定されている。また、個別吸水部32bの外側および欠損部33において、ベース部31の表面は、露出している。なお、個別吸水部32bの形状は、円形に限定されるものではなく、楕円状のもの、矩形状のもの、多角形状のものであってもよい。
【0033】
また、
図9に示す実施例の生体細胞凍結保存具の生体細胞保持部3cのように、吸水部32cは、所定の厚さ(高さ)を有するものであってもよい。この場合、吸水部32cの厚さ(高さ)としては、2~7mm程度が好適であり、特に、2~5mmが好ましい。このように、吸水部32cがある程度の厚さを有する場合、欠損部33aにおける吸水部32cの内面とベース部31の上面により、細胞収納部が形成され、細胞の離出が抑制される。
【0034】
筒状収納部材4は、
図10ないし
図12に示すように、生体細胞保持部3を被包可能に本体部2に着脱自在に取り付けられるものであり、一端が封鎖され、かつ耐寒性材料により形成されたものである。特に、この実施例の筒状収納部材4は、筒状本体41と、その一端部内に収納された封止部材42とを備える。筒状本体41の一端部は、収納する封止部材(具体的には、通気性封止部材)42により通気可能に封止されている。
【0035】
さらに、この実施例の筒状収納部材4では、筒状本体41の先端部には、錘43が収納されている。錘43は、封止部材42よりも先端側に収納されている。錘43を設けることにより、液体窒素タンクに投入された筒状収納部材4は、その先端側が下方を確実に向くものとなる。また、筒状収納部材4は、生体細胞保持部3に接触することなく被包できる内径および長さを備えている。また、筒状本体41は、後端(開口部)の外面には、開口部の認識を容易とするための着色部44を備えている。
【0036】
筒状収納部材4の形成材料としては、例えば、3-フッ化ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスルホン、ポリエステル(例えば、PET)、ポリスチレン、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などの合成樹脂からなるフィルムあるいはそれらの積層体が挙げられる。特に、液体窒素耐性材料、言い換えれば、液体窒素に接触しても脆化しないものが好ましい。
【0037】
次に、本発明の生体細胞凍結保存具1および生体細胞凍結保存用具10の使用方法について説明する。
この説明では、生体細胞である卵子を凍結保存する場合を例にとり説明する。
まず、ピペットの先端に卵子を採取し、卵子の細胞内液を平衡液に置換する作業を行い、さらに、細胞外液をガラス化液に置換する作業を行う。そして、顕微鏡下において、本発明の生体細胞凍結保存具1の生体細胞保持部3に設けられた吸水部32の欠損部33に卵子を少量のガラス化液とともに配置させ、ベース部材31の表面に付着させる。卵子が付着した生体細胞凍結保存具1の生体細胞保持部をあらかじめ準備しておいた液体窒素に浸漬し凍結(ガラス化)させる。そして、筒状収納部材4内に、卵子が付着した生体細胞凍結保存具1を挿入し、収納容器(図示せず)内に、生体細胞凍結保存具1を収納した筒状収納部材4を収納させ、続いて、収納容器を液体窒素タンク内に入れ保存する。
【0038】
また、本発明の生体細胞凍結保存具および生体細胞凍結保存用具としては、
図21ないし
図23に示すような生体細胞凍結保存具1aであってもよい。
この実施例の生体細胞凍結保存具1aは、耐寒性材料により形成された本体部2と、耐寒性材料により形成された生体細胞保持部3dとを備える。そして、生体細胞保持部3dは、光透過性を有し、細長いベース部31と、ベース部の少なくとも一方の表面の両側部に固定された細長い2つの吸水部32a,32bを備える。そして、2つの吸水部32a,32b間にて露出するベース部31が、光透過性を有する細胞載置部位33となっている。
【0039】
この実施例の生体細胞凍結保存具1aの基本構成は、上述した生体細胞凍結保存具1と同じであり、相違点は、吸水部の形態のみである。
光透過性を有するベース部31は、上述したものと同じである。
図21および
図23に示すように、ベース部31の一方の表面に吸水部32a,32bが固定されている。なお、吸水部32a,32bは、ベース部31の表面および裏面に設けてもよい。吸水部32a,32bは、ベース部31の表面の側部を被覆するように、長手方向に細長く延びるものとなっている。2つの吸水部32a,32bは、向かい合うように設けられている。
【0040】
吸水部32a,32bの幅としては、0.2~1.5mmが好ましく、特に、0.3~1.0mmが好ましい。そして、向かい合う吸水部32a,32b間において、ベース部31の表面が露出し、生体細胞載置部位33となっている。また、吸水部32a,32bの長さとしては、5~70mmが好ましく、特に、10~50mmが好ましい。また、吸水部32a,32b間の離間距離、言い換えれば、生体細胞載置部位33の幅は、0.5~1.5mmが好ましい。吸水部32a,32bの構成材料としては、上述した吸水部32にて説明したものが使用可能である。
【0041】
この実施例の生体細胞凍結保存具1aにおいても、
図23に示すように、生体細胞保持部3dの先端部には、マーカー34が設けられている。マーカー34は、生体細胞保持部3dの先端部の一方の表面(具体的には、吸水シートまたはベース部の表面)に、有色を付する(油性インクで着色する)ことにより形成される。
また、この実施例の生体細胞凍結保存具1aにおいても、上述した筒状収納部材4を用いることができる。生体細胞凍結保存具1aと筒状収納部材4により、生体細胞凍結保存用具が、構成される。
【0042】
また、本発明の生体細胞凍結保存具および生体細胞凍結保存用具としては、
図24および
図25に示すような生体細胞凍結保存具1bであってもよい。
この実施例の生体細胞凍結保存具1bは、耐寒性材料により形成された本体部2と、耐寒性材料により形成された生体細胞保持部3eとを備える。そして、生体細胞保持部3eは、光透過性を有し、細長いベース部31と、ベース部31の少なくとも一方の表面に、ベース部31を横切るように固定された向かい合う2つの吸水部37a,37b,37c,37dを有し、吸水部37a,37b,37c,37d間にて露出するベース部31が、光透過性を有する細胞載置部位33となっている。
【0043】
この実施例の生体細胞凍結保存具1bの基本構成は、上述した生体細胞凍結保存具1と同じであり、相違点は、吸水部の形態のみである。
光透過性を有するベース部31は、上述したものと同じである。
図24および
図25に示すように、ベース部31の一方の表面に吸水部37a,37b,37c,37dが固定されている。なお、吸水部37a,37b,37c,37dは、ベース部31の表面および裏面に設けてもよい。
吸水部37a,37b,37c,37dは、ベース部31の表面を横切るように、複数設けられている。各吸水部37a,37b,37c,37dは、ベース部31の長手方向に隣り合う吸水部が向かい合うように設けられている。隣り合う吸水部間における露出するベース部部分が、生体細胞載置部位33となっている。
【0044】
吸水部37a,37b,37c,37dは、ベース部31の幅全体に延びるものとなっている。なお、吸水部37a,37b,37c,37dは、
図26に示す実施例の生体細胞保持部3fのように、ベース部31の幅全体ではなく、ある程度の長さ延びるものであってもよい。この場合、吸水部37a,37b,37c,37dは、図ベース部31の幅の1/2以上延びるものであることが好ましい。
【0045】
吸水部37a,37b,37c,37dのベース部31の長手方向長は、0.2~5mmが好ましく、特に、0.5~3mmが好ましい。吸水部の数としては、2~10程度が好ましく、特に、2~5が好ましい。また、吸水部37a,37b,37c,37dの離間距離、言い換えれば、生体細胞載置部位33の幅は、0.5~1.5mmが好ましい。吸水部37a,37b,37c,37dの構成材料としては、上述した吸水部32にて説明したものが使用可能である。
【0046】
上述した実施例の生体細胞凍結保存具においても、
図23、
図25および
図26に示すように、生体細胞保持部3d,3e、3fの先端部には、マーカー34が設けられている。マーカー34は、生体細胞保持部の先端部の一方の表面(具体的には、吸水シートまたはベース部の表面)に、有色を付する(油性インクで着色する)ことにより形成される。
【0047】
また、上述した実施例の生体細胞凍結保存具1a,1bおよび
図26に示した生体細胞保持部3fを有する実施例のすべてにおいて、
図9に示す実施例の生体細胞凍結保存具の生体細胞保持部3cのように、吸水部は、所定の厚さ(高さ)を有するものであってもよい。この場合、吸水部の厚さ(高さ)としては、2~7mm程度が好適であり、特に、2~5mmが好ましい。
また、上述したの実施例の生体細胞凍結保存具1a,1bにおいても、上述した筒状収納部材4を用いることにより、生体細胞凍結保存用具を構成することができる。
【0048】
また、本発明の生体細胞凍結保存具および生体細胞凍結保存用具としては、
図13ないし
図19に示すような生体細胞凍結保存具5および生体細胞凍結保存用具20であってもよい。
この実施例の生体細胞凍結保存具5は、耐寒性材料により形成された本体部51と、耐寒性材料により形成された生体細胞保持部52とを備える。生体細胞保持部52は、光透過性を有するベース部53と、ベース部53の表面に固定された吸水部54とを備える。吸水部54は、吸水部54により取り囲まれた欠損部61を備え、欠損部61において、ベース部53の表面が露出し、光透過性を有している。
【0049】
生体細胞保持部52のベース部53は、断面が略矩形状であり、本体部51と接続された基端部59を備えている。そして、この実施例のものでは、ベース部53は、細長い幅の狭い帯状(薄板状)のものとなっている。そして、その表面に、吸水部54が固定されている。ベース部53の幅は、0.4~1.0mmが好ましく、長さは、5~30mmが好ましく、全体の厚さは、0.08~1.0mmが好ましい。また、ベース部53の肉厚な基端部の長さは、5~30mmが好ましく、本体部の長さは、20~100mmが好ましい。本体部51は、先端方向に突出する突出部64を備え、ベース部53は、突出部64を収納する凹部65を備えている。
【0050】
そして、本発明の生体細胞凍結保存具5においても、
図13、
図14、
図16および
図17に示すように、生体細胞保持部52は、複数の欠損部(細胞載置部位)61を備えている。具体的には、生体細胞保持部52の長手方向に、複数設けられている。具体的には、5つの欠損部(細胞載置部位)61が設けられている。欠損部(細胞載置部位)61の数としては、1~7程度が好ましく、特に、2~5が好適である。欠損部の大きさとしては、円形の場合、直径が.0.5~1.5mm程度が好適である。
【0051】
また、欠損部61は、円状形態であることが好ましい。さらに、吸水部54は、光難透過性シートであることが好ましい。このようなものとすることにより、透過型顕微鏡を用いた生体細胞の載置作業を行う際に、吸水部54が難透過性であり、欠損部61には光が透過するため、細胞を載置するターゲットである欠損部(細胞載置部位)61が浮かび上がるように見え、ターゲットの認識が極めて容易である。
【0052】
また、この実施例の生体細胞凍結保存具5では、
図14および
図16に示すように、生体細胞保持部52は、吸水部54の両側部に生体細胞保持部52の長手方向に延びる向かい合う2つのベース部露出部(後述する膨出部57,58)を有している。なお、吸水
部54は、欠損部61を除き、ベース部53の先端部の一方の表面の全体を覆うものであってもよい。さらには、
図7に示した生体細胞保持部3bのように、中央部に欠損部を有する個別吸水部が複数設けられたものであってもよい。
【0053】
吸水部54は、その全体もしくは一部が、ベース部53の表面に固定されている。吸水部54のベース部53への固定は、接着剤、両面テープなどの接着性物質により行うことが好ましい。なお、部分的なヒートシールによって、固定してもよい。
吸水部としては、繊維からなるシート、多孔性樹脂シートなどの各種シートが使用できる。吸水部の厚みは10μm~5mmであることが好ましく、より好ましくは20μm~2.5mmである。そして、繊維からなるシートとしては、紙又は不織布が使用できる。吸水部としては、上述したものが好適に使用できる。
【0054】
さらに、この実施例の生体細胞凍結保存具5では、
図13、
図14、
図16ないし
図18に示すように、ベース部53の吸水部54の固定部の両側部に設けられかつ生体細胞保持部52の長手方向に延びる2つの側部膨出部57,58を有している。このため、生体細胞凍結保存具5は、吸水部固定部の両側部に膨出部を有するため、生体細胞載置時における生体細胞の側部方向への移動を確実に抑制できる。
【0055】
さらに、この実施例の生体細胞凍結保存具5では、
図13ないし
図18(特に、
図15,
図16)に示すように、生体細胞保持部52は、吸水部固定部より生体細胞保持部52の先端側に設けられた突出部63を備えている。突出部63は、生体細胞保持部52の先端部より、上面側(吸水部側)に突出するものとなっている。また、突出部63は、
図17に示すように、先端面は、若干基端側に傾斜する傾斜面となっている。このような突出部63を形成することにより、もし、生体細胞収納部より生体細胞が離脱して、先端側に移動したとき、生体細胞凍結保存具5、言い換えれば、生体細胞保持部52からの落下を防止する。特に、この実施例の生体細胞凍結保存具5では、上述したように、生体細胞保持部52の両側部に設けられた膨出部57,58と
協働することにより、生体細胞の落下を防止する。
【0056】
本体部51、ベース部53および吸水部54は、耐寒性材料により形成されている。特に、本体部51、ベース部53および吸水部54は、液体窒素耐性材料、言い換えれば、液体窒素に接触しても脆化しないものが好ましい。また、ベース部53は、透明性を有することが好ましく、また、多少の可撓性を有するものであることが好ましい。本体部51およびベース部53の形成材料としては、例えば、3-フッ化ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などの合成樹脂、また、それら合成樹脂により形成されたフィルムの積層体が好適に使用される。
【0057】
そして、この実施例の生体細胞凍結保存具5では、
図13ないし
図19に示すように、生体細胞保持部52は、生体細胞保持部52の長手方向に延び、かつ、生体細胞保持部52の先端より突出する熱伝導性体55,56を有している。特に、この実施例の生体細胞凍結保存具5では、熱伝導性体55,56は、線状熱伝導性体となっており、生体細胞保持部52の両方の側部に設けられている。さらに、この実施例のものでは、熱伝導性体55,56は、吸水部固定部を越えて、ベース部53の基端側に延び、生体細胞保持部52の基端もしくはその付近に到達するものとなっている。また、熱伝導性体55,56は、先端部55a,56aを除き、側部膨出部57,58内に埋設されている。言い換えれば、先端部55a,56aは、生体細胞保持部52の先端より突出し、外面が露出した状態となっている。
【0058】
また、この実施例では、熱伝導性体55,56は、線状部材もしくは細い棒状部材により形成されている。さらに、熱伝導性体55,56の先端部55a,56aの形状は、基端側に向かって湾曲する湾曲先端部となっているものであってもよい。この場合、湾曲先端部55a,56aは、
図14に示すように、生体細胞凍結保存具5の先端部の前方に突出し、かつ、突出部63を保護するものであることが好ましい。
熱伝導性体55,56は、熱伝導性材料により形成されている。熱伝導性材料としては、銀、銅、アルミニウム、ステンレス鋼などの金属類、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナなどの熱伝導性セラミックスなどが好適に使用できる。
【0059】
図19に示す実施例の生体細胞凍結保存用具20は、上述した生体細胞凍結保存具5と、生体細胞凍結保存具5を収納可能かつ耐寒性材料により形成された一端が閉塞した筒状収納部材7とを備える。
筒状収納部材7は、
図19に示すように、生体細胞凍結保存具5を収納可能かつ耐寒性材料により形成された一端が閉塞した筒状体である。筒状収納部材7は、内部に生体細胞保持部材収納部71を有する筒状体70と、筒状体70の先端に設けられた熱伝導性部材72とを備える。また、この実施例では、筒状収納部材7は、先端閉塞部73と、基端開口部74と、内部に生体細胞保持部材収納部71を有する筒状体70と、筒状体70の先端部内に収納された熱伝導性部材72とにより構成されている。
【0060】
熱伝導性部材72は、筒状体70の内部に移動不能に収納されており、また、先端閉塞部73の内面に当接するように収納されている。また、熱伝導性部材72は、金属製の円柱状のものが用いられている。熱伝導性部材72の上面は、生体細胞凍結保存具5の熱伝導性体55,56の先端部55a,56aと接触可能なものとなっている。なお、熱伝導性部材72は、先端面、先端側側面などが筒状体70より露出するものであってもよい。
【0061】
また、このタイプの生体細胞凍結保存具においても、
図20に示す生体細胞凍結保存具5aのように、ベース部53の上面に設けられる吸水部54aは、所定の厚さ(高さ)を有するものであってもよい。この場合、吸水部54aの厚さ(高さ)としては、2~7mm程度が好適であり、特に、2~5mmが好ましい。このように、吸水部54aがある程度の厚さを有する場合、欠損部61における吸水部54aの内面とベース部53の上面により、細胞収納部が形成され、載置される細胞68の離出が抑制される。
【0062】
筒状体70は、耐寒性材料により形成されている。特に、筒状体70は、液体窒素耐性材料、言い換えれば、液体窒素に接触しても脆化しないものが好ましい。また、筒状体70は、内部が視認可能な透明もしくは半透明体であることが好ましい。筒状体70の形成材料としては、例えば、3-フッ化ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などの合成樹脂、また、それら合成樹脂により形成されたフィルムの積層体が好適に使用される。
【0063】
また、筒状収納部材7の生体細胞保持部材収納部71の長さは、生体細胞凍結保存具5の全長より、10~50mm長いものであることが好ましい。また、筒状収納部材7(筒状体70)の全長は、50~100mmが好ましく、内径は、2~5mmが好ましい。
【0064】
次に、本発明の生体細胞凍結保存用具5の使用方法について説明する。
この説明では、生体細胞である卵子を凍結保存する場合を例にとり説明する。
まず、複数の卵子を採取し、卵子の細胞内液を平衡液に置換する作業を行い、さらに、細胞外液をガラス化液に置換する作業を行う。そして、顕微鏡下において、
図18に示すように、生体細胞凍結保存具5の生体細胞保持部52に設けられた吸水部54の欠損部61に卵子68を少量のガラス化液とともに配置させ、ベース部材53の表面に付着させる。卵子が付着した生体細胞凍結保存具5を生体細胞保持部52側より、筒状収納部材7内に挿入し、
図19に示すように、生体細胞凍結保存具5の生体細胞保持部52の先端より突出する熱伝導性体55,56の先端部55a,56aが、筒状収納部材7内の熱伝導性部材72と接触する状態とする。
【0065】
そして、生体細胞凍結保存具5を収納した筒状収納部材7を先端側(熱伝導性部材72側)より、あらかじめ準備しておいた液体窒素に浸漬し凍結(ガラス化)させる。筒状収納部材7の液体窒素との接触により、筒状収納部材7内の熱伝導性部材72は急激冷却され、その冷却は、熱伝導性部材72と接触する生体細胞凍結保存具5の生体細胞保持部52の熱伝導性体55,56より温度を急激に奪うものとなり、生体細胞保持部52に保持されてる卵子も急激に冷却される。収納容器(ケーン)に、ガラス化した卵子を付着保持する生体細胞凍結保存具5を筒状収納部材7ごと収納した後、収納容器を液体窒素タンク内に入れ保存する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の生体細胞凍結保存具は、以下のものである。
(1) 耐寒性材料により形成された本体部と、耐寒性材料により形成された生体細胞保持部とを備える生体細胞凍結保存具であって、
前記生体細胞保持部は、光透過性を有するベース部と、前記ベース部の表面に固定された吸水部とを備え、前記吸水部は、前記吸水部により取り囲まれた欠損部を備え、前記欠損部において、前記ベース部の前記表面が露出し、光透過性を有している生体細胞凍結保存具。
【0067】
この生体細胞凍結保存具では、吸水部により取り囲まれた欠損部を備え、欠損部は光透過性を有するため、細胞の載置作業を行う際、欠損部の上面にピペットの先端部を配置したとき、透過型顕微鏡によるピペット先端の確認が容易である。また、過剰なガラス化液が、細胞とともに欠損部に滴下されても、ガラス化液は、欠損部を取り囲む吸水部に吸収されるため、除去操作も不要である。このため、生体細胞の凍結を迅速に行うことができる。
【0068】
また、上記の実施態様は、以下のものであってもよい。
(2) 前記欠損部における前記ベース部の表面が、細胞載置部位である上記(1)に記載の生体細胞凍結保存具。
(3) 前記生体細胞凍結保存具は、複数の前記欠損部を備えている上記(1)または(2)に記載の生体細胞凍結保存具。
(4) 前記欠損部は、円状または多角形状である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
【0069】
また、本発明の生体細胞凍結保存具は、以下のものである。
(5) 耐寒性材料により形成された本体部と、耐寒性材料により形成された生体細胞保持部とを備える生体細胞凍結保存具であって、
前記生体細胞保持部は、光透過性を有し、細長いベース部と、前記ベース部の少なくとも一方の表面の両側部に固定された細長い2つの吸水部を有し、前記2つの吸水部間にて露出する前記ベース部が、光透過性を有する細胞載置部位となっている生体細胞凍結保存具。
【0070】
また、本発明の生体細胞凍結保存具は、以下のものである。
(6) 耐寒性材料により形成された本体部と、耐寒性材料により形成された生体細胞保持部とを備える生体細胞凍結保存具であって、
前記生体細胞保持部は、光透過性を有し、細長いベース部と、前記ベース部の少なくとも一方の表面に、前記ベース部を横切るように固定された向かい合う2つの吸水部を有し、前記2つの吸水部間にて露出する前記ベース部が、光透過性を有する細胞載置部位となっている生体細胞凍結保存具。
【0071】
これら生体細胞凍結保存具においても、吸水部に近接する細胞載置部位は、光透過性を有するため、細胞の載置作業を行う際、細胞載置部位の上面にピペットの先端部を配置したとき、透過型顕微鏡によるピペット先端の確認が容易である。また、過剰なガラス化液が、細胞とともに細胞載置部位に滴下されても、ガラス化液は、細胞載置部位に近接する吸水部に吸収されるため、除去操作も不要である。このため、生体細胞の凍結を迅速に行うことができる。
【0072】
また、上記の実施態様は、以下のものであってもよい。
(7) 前記ベース部は、無色透明である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
(8) 前記ベース部は、透明性シートである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
(9) 前記ベース部は、細長い平板状の可撓性シートである上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
(10) 前記ベース部は、細長い硬質平板部材である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
(11) 前記吸水部は、光難透過性シートである上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具。
【0073】
また、本発明の生体細胞凍結保存用具は、以下のものである。
(12) 上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の生体細胞凍結保存具と、前記生体細胞凍結保存具を収納可能かつ耐寒性材料により形成された一端が閉塞した筒状収納部材とを備える生体細胞凍結保存用具。