(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】細胞全体でのアッセイおよび方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20220721BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220721BHJP
G01N 33/84 20060101ALI20220721BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220721BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220721BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20220721BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20220721BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20220721BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20220721BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20220721BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20220721BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/34 B
G01N33/84 Z
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K31/337
A61K31/4745
A61K31/7068
A61K33/24
A61K31/5377
A61K31/282
A61K31/517
(21)【出願番号】P 2020181085
(22)【出願日】2020-10-29
(62)【分割の表示】P 2018215470の分割
【原出願日】2013-06-12
【審査請求日】2020-11-27
(32)【優先日】2012-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514316237
【氏名又は名称】セルキュイティー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ランス ギャビン レイン
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン フランシス サリバン
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/008530(WO,A2)
【文献】RECENT RESULTS IN CANCER RESEARCH,2003年,vol.161,p.39-47
【文献】CANCER DETECTION AND PREVENTION,2003年,vol.27,p.291-296
【文献】CLINICAL LABORATORY,2006年,vol.52,p.375-384
【文献】MEDICAL & BIOLOGICAL ENGINEERING & COMPUTING,2012年01月31日,vol.50,p.117-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料における細胞の数および/または付着の変化を、個々の対象に対する処置の選択の指標とする方法であって、前記試料は、前記対象由来の単離された無標識生存がん細胞試料であり、前記方法は:
(a)着目した細胞シグナル伝達経路のアクチベーター剤を、前記試料の一部に投与し、前記アクチベーター剤の非存在下における細胞の数および/または付着と比較して、前記試料における細胞の数および/または付着に変化が存在するかを決定するステップであって、ここで、細胞の数および/または付着の変化は、前記試料において前記経路が活性であることを示す、ステップと、
(b)前記アクチベーター剤と治療剤とを、前記試料の一部に投与し、前記アクチベーター剤単独の存在下における細胞の数および/または付着と比較して、前記試料における細胞の数および/または付着に変化が存在するかを決定するステップであって、ここで、前記治療剤は、前記アクチベーター剤と同一の着目した細胞シグナル伝達経路を標的とし、前記アクチベーター剤単独の存在下における細胞の数および/または付着と比較した細胞の数および/または付着の変化は、前記経路が前記治療剤に対して感受性であることを示す、ステップと
を含み、
(1)前記試料において前記着目した細胞シグナル伝達経路が活性であり、そして、前記経路が前記治療剤に対して感受性であ
り、前記治療剤が前記着目した細胞シグナル伝達経路の阻害剤であることは、前記着目した細胞シグナル伝達経路を標的とする
および前記着目した細胞シグナル伝達経路を阻害する治療剤が
、前記対象に対する処置として選択されるべきであることを示す
か、または
(2)前記試料において前記着目した細胞シグナル伝達経路が活性であり、そして、前記経路が前記治療剤に対して感受性であり、前記治療剤が前記着目した細胞シグナル伝達経路のアクチベーターであることは、前記着目した細胞シグナル伝達経路を標的とするおよび前記着目した細胞シグナル伝達経路を活性化する治療剤が、前記対象に対する処置として選択されるべきであることを示す、
方法。
【請求項2】
前記アクチベーター剤が、MAPK、MAK、MKK、ERK、JNK、RHO、FAK1、RAS/RAF、PI3K、AKT、mTOR、PTEN、MEK、NOTCH、WNT、Jak/STAT、H1F1α、ヘッジホッグ、TGFβ、細胞接着、細胞周期調節経路、増殖/成長経路、アポトーシス経路およびそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞シグナル伝達経路に標的化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アクチベーター剤が、細胞表面受容体に標的化されているか、またはEGFR、EGFR-TK、PI3K、mTOR、MEK1、MEK2、HER2受容体、Her3受容体、Her4受容体、VEGFR、トポイソメラーゼI、TUBB1、BCL2、TGFR、TNFR、FGFR、MAPK、MAK、MKK、セリンスレオニンプロテインキナーゼ、チロシンキナーゼ、サイクリン依存性キナーゼ、Fasデスレセプター、NOTCH、WNT、Jak/STAT、H1F1α、ヘッジホッグ、神経成長因子受容体、肝細胞増殖因子受容体、インターロイキン受容体、サイトカイン受容体、ホルモン受容体、DNA、プリン架橋剤、チミジル酸シンターゼ、細胞接着シグナル伝達およびアポトーシス経路ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される特定の細胞分子に標的化されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記治療剤が抗がん剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記抗がん剤が、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ラパチニブ、ドセタキセル、タモキシフェン、シスプラチン、アブラキサン、パクリタキセル注射、ブレンツキシマブベドチン、エベロリムス、ペメトレキセド、エキセメスタン、オファツムマブ、ベバシズマブ、アレムツズマブ、イリノテカン、ビカルタミド、オキサリプラチン、セツキシマブ、ビスモデギブ、トレミフェンクエン酸塩、フルベストラント、ゲムシタビン、イマチニブ、トポテカン、アキシチニブ、ロミデプシン、カバジタキセル、ソラフェニブ、インフリキシマブ、レナリドミド、リツキシマブ、ダサチニブ、スニチニブ、エルロチニブ、ニロチニブ、チロシンキナーゼ阻害剤、パクリタキセル、テモゾロミド、トリオキサイド、パニツムマブ、ボルテゾミブ、アザシチジン、パゾパニブ、クリゾチニブ、カペシタビン、イピリムマブ、ベムラフェニブ、ゴセレリン酢酸塩、アビラテロン、BH3模倣物、ナビトクラックス、アナストロゾール、レトロゾール、アロマターゼ阻害剤、シクロホスファミド、ドキソルビシン、メトトレキサート、フルオロウラシル、イクサベピロン、カルボプラチン、アフリベルセプト、テムシロリムス、イブリツモマブ、アビラテロン、クスチルセン、ネラチニブおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法がバイオセンサーを利用することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記センサーがインピーダンスセンサーである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞の数および/または付着が、前記センサーを用いて前記試料の細胞指数を決定することによって測定される、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2013年6月12日にPCT国際特許出願として出願したものであり、2012年6月12日に出願した米国特許出願第13/494,618号に対する優先権を主張する。米国特許出願第13/494,618号の開示は、その全体が本明細書に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
化学物質および外因性タンパク質が、特定の細胞標的に対する有効なヒト治療剤となり得ることを発見して以来、罹患した個体の処置は著しい進歩を為した。しかし、依然として、がん等、多くの一般的な疾患の処置は、相当な改善の余地がある。ヒトゲノムプロジェクトの主な推進力の1つは、治療介入の開発および処方を前進させるために、疾患の遺伝的原因を発見することであった。報告を信用すれば、ヒトゲノムプロジェクトによって全ヒト遺伝子が同定された。これらの遺伝子の多くは、ヒト集団において疾患と統計的に連鎖した。今のところ、疾患の遺伝連鎖の知識または遺伝的バイオマーカーの検出は、必ずしも疾患経過または治療成績を有効に予測するとは限らない。同様に、遺伝連鎖、さらには係る遺伝子からのタンパク質発現レベルの定量化までもが、適切な治療経過の決定において非常に限定されていた。
【0003】
ペタバイト量の遺伝情報が収集された。大量の統計的および分析的モデリング演算能力が、収集された遺伝的データに適用されて、多くの異なる種類の疾患を分析した。このプロセスから、少なくとも2つの重要な事実が分かった。第1に、一部には、ある個体における乳がんが、別の個体における同じがんと遺伝的構成、タンパク質発現レベルおよび治療介入に対する応答が完全に異なる場合があるため、乳がん等の「疾患」が不均一である。第2に、事例の大部分において、現在の遺伝的バイオマーカーの検出の適中率が低い。
【0004】
現代の標的薬物は、特定の限られた数のヒト細胞モデルを念頭に置いたプロセスに沿って発見および開発されている。このような細胞株の多くは、特定の細胞標的に対し所望の活性を有する薬物を選択するための、潜在的な薬物の大規模ライブラリーの最適化されたスクリーニング環境を提供するよう操作されている。各患者の疾患が、同じ疾患の他の患者とは異なることを示す臨床情報を踏まえると、このプロセスを用いることにより、潜在的な薬物の有効性に関して誤解を招く可能性がある。今日まで、創薬および開発プロセスは、臨床治験に先立ち応答性のヒトを同定するのにそれほど有効ではなく、臨床開発プロセスを通して高い失敗率に悩み続けてきた。患者に対する害の低下に焦点を合わせる規制臨床開発プロセスにより承認される薬物の多くは、実際の疾患患者集団における有効率の低さに悩んでいる。
【0005】
臨床医へのあらゆる病状提示が、同じ原因から生じるとは限らない。分かり易い例を挙げると、骨関節の炎症は、あるものは内部、あるものは外部、あるものは「遺伝的に連鎖した」、またあるものは未知の原因による、複数の起源から生じ得る。医科学は、外部病原体を適宜同定することができれば、感染性疾患に関する患者のトリアージにおいて相当に有効である。医師には、現在利用できる治療法のいずれが、内因による炎症の低下をもたらすか予測するための手持ちのツールがさらに少ない。医師は、特定の患者の細胞が、どのように機能するか、あるいはより適切には機能不全となるか、また、臨床的に「炎症」として現れる疾患の処置に利用できる多くの治療法の1種に対しどのように応答するかに関する知識を欠く。医師は、異常遺伝子が存在することは分かっていようが、これが、特定の患者における疾患経過にどのように影響を与えるかは分かっていない。医師は、特に、どのように薬物が作用する筈であるかは分かっていようが、特定の患者が、該薬物活性に対し無応答性または抵抗性となり得るかは分かっていない。
【0006】
患者は、自身の特定の疾患原因のより優れた同定および有効な治療経過のためのより優れた情報に基づく意思決定を必要とする。ヒトゲノム配列決定および他の遺伝的定量化ツールは、各患者の疾患が、該患者に幾分特有であることを医者に告げた。この情報は、個別化医療周辺のビジネス全体を生み出し、これにより、各患者は、自身の疾患にカスタマイズされたカスタマイズ治療レジメンを受けることができる可能性がある。薬物は、特定の遺伝子関連の疾患兆候に対して開発されている。この理想的アプローチは、主として現在の予後ツールセットの著しい弱点のために、未だに検証を必要とする。遺伝子は存在し得るが、特定の個体の文脈におけるその機能は相関しない。
【0007】
各患者が異なっていること、また、治療法が肯定的な応答をもたらすことに何度も失敗することの認識に対する返答の1つは、コンパニオン診断の開発であった。この種の診断検査は、現代のバイオマーカー検出ツールを用いて設計されて、特定の薬物に応答する可能性がより高い患者の同定を試みる。この検査は、特定の遺伝子の遺伝子数の増加、遺伝子突然変異または発現レベルの変化の探索に関与する。有意な治療応答の予測におけるこのような検査の大部分の成功率は、多くの場合、50%を大幅に下回る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって、依然として、個体の治療法の有効性に対するより優れた予後指標を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一部の薬物は、特定の遺伝子関連の疾患兆候に対し標的化されている。このアプローチは、主として現在の予後ツールセットの著しい弱点のために、未だに広く利用されていない。本明細書に記載されているキットおよび方法は、個体の疾患に対し有効性を示す治療剤を選択する方法を提供する。実施形態において、治療剤が、CReMSにおいて罹患組織由来の無標識生細胞全体に接触し、治療剤の存在下で細胞の生理的パラメータの変化またはその欠如が検出される。ベースライン測定値と比較して疾患細胞の生理的パラメータの変化をもたらす、対象を処置するための治療剤が選択される。
【0010】
本開示の一態様は、初期診断時に、あるいは処置を通じて1種または複数の治療剤を選択する方法を包含する。実施形態において、個々の対象における疾患または障害の処置のための使用に承認されたまたは公知の1種または複数の治療剤を選択するための方法は、細胞応答測定系において、1種または複数の治療剤を対象由来の少なくとも1種の単離された生存疾患細胞試料に投与するステップと、治療剤(単数または複数)の投与前の細胞応答パラメータのベースライン測定値と比較して、治療剤(単数または複数)に応答して疾患細胞試料の細胞応答パラメータに変化が生じるか決定するステップであって、細胞応答パラメータの変化が、薬剤(単数または複数)が、個々の対象における疾患に対し治療上の有効性を有することを示すステップとを含む。実施形態において、単離された疾患細胞試料は、無標識生存細胞全体を含む。実施形態において、単離された疾患細胞における細胞応答パラメータの変化は、規定の期間にわたって連続的にモニターされる。実施形態において、規定の期間は、細胞が依然として生存している間の変化の検出に十分な期間である。実施形態において、細胞応答パラメータは、治療剤が影響を与えることが意図されているパラメータである。実施形態において、方法は、少なくとも1種の細胞応答または生理的パラメータの変化をもたらす治療剤または治療剤の組み合わせを選択するステップと、選択された薬剤を医療提供者に伝達するステップとをさらに含む。実施形態において。方法は、少なくとも1種の細胞応答または生理的パラメータの変化をもたらす治療剤または治療剤の組み合わせを対象に投与するステップをさらに含む。
【0011】
実施形態において、個々の対象における疾患のための薬剤の治療上の有効性を決定するステップを含む、個々の対象に対する処置を選択するための方法は、細胞応答測定系(CReMS)において、薬剤を個々の対象由来の少なくとも1種の単離された無標識生存疾患細胞試料に投与するステップであって、疾患細胞試料が、がん細胞試料、自己免疫性疾患の対象由来の細胞試料、外来性病原因子(foreign agent)に感染した組織由来の細胞試料およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるステップと、治療剤の存在下で、細胞が依然として生存している間の変化の検出に十分な規定の期間にわたって、治療剤が影響を与えることが意図されている細胞試料の少なくとも1種の生理応答パラメータの変化を連続的に測定するステップと、ベースライン測定値と比較して、薬剤に対する細胞試料の生理応答パラメータの変化が生じるか決定するステップであって、生理応答の変化が、薬剤が個々の対象における疾患に対し治療上の有効性を有することを示すステップとを含む。
【0012】
実施形態において、個々の対象における疾患のための薬剤の治療上の有効性を決定するステップを含む、個々の対象に対する処置を選択するための方法は、細胞応答測定系(CReMS)において、薬剤を個々の対象由来の少なくとも1種の単離された無標識生存疾患細胞試料に投与するステップであって、疾患細胞試料が、がん細胞試料、自己免疫性疾患の対象由来の細胞試料、外来性病原因子に感染した組織由来の細胞試料およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるステップと、治療剤を投与する前または後に、細胞応答測定系において、細胞応答経路を撹乱する少なくとも1種のアクチベーター剤を個々の対象由来の単離された無標識疾患細胞試料に投与するステップと、治療剤および/またはアクチベーター剤の存在下で、細胞が依然として生存している間の変化の検出に十分な規定の期間にわたって、治療剤またはアクチベーター剤が影響を与えることが意図されている細胞試料の少なくとも1種の生理応答パラメータの変化を連続的に測定するステップと、ベースライン測定値と比較して、薬剤に対する細胞試料の生理応答パラメータの変化が生じるか決定するステップであって、生理応答の変化が、薬剤が、個々の対象における疾患に対し治療上の有効性を有することを示すステップと
を含む。
【0013】
実施形態において、個々の対象におけるがんのための薬剤の治療上の有効性を決定するステップを含む、がんを有する個々の対象に対する処置を選択するための方法は、バイオセンサーにおいて、薬剤を個々の対象由来の少なくとも1種の単離された無標識がん細胞試料に投与するステップと、治療剤の存在下で、規定の期間にわたって、細胞試料の少なくとも1種の生理応答パラメータの変化を連続的に測定するステップと、ベースライン測定値と比較して細胞試料の生理応答パラメータの変化を提示する、対象の処置のための治療剤を選択するステップとを含む。
【0014】
実施形態において、治療剤および/またはアクチベーター剤は、細胞応答経路、細胞受容体または細胞分子に標的化されている。実施形態において、細胞応答経路は、MAPK、MAK、MKK、ERK、JNK、RHO、FAK1、RAS/RAF、PI3K、AKT、mTOR、PTEN、MEK、NOTCH、WNT、Jak/STAT、H1F1α、ヘッジホッグ、TGFβ、細胞接着、細胞周期調節経路、増殖/成長経路、アポトーシス経路およびそれらの組み合わせを包含する。実施形態において、細胞受容体または分子は、EGFR、EGFR-TK、PI3K、mTOR、MEK1、MEK2、HER2受容体、Her3受容体、Her4受容体、VEGFR、トポイソメラーゼI、TUBB1、BCL2、TGFR、TNFR、FGFR、MAPK、MAK、MKK、セリンスレオニンプロテインキナーゼ、チロシンキナーゼ、サイクリン依存性キナーゼ、Fasデスレセプター、NOTCH、WNT、Jak/STAT、H1F1α、ヘッジホッグ、神経成長因子受容体、肝細胞増殖因子受容体、インターロイキン受容体、サイトカイン受容体、ホルモン受容体、DNA、プリン架橋剤、チミジル酸シンターゼ、細胞接着シグナル伝達およびアポトーシス経路ならびにそれらの組み合わせを包含する。
【0015】
本開示の別の態様において、キットは、輸送培地を含有する、個々の対象由来の疾患細胞試料のための容器と、輸送培地を含有する、個々の対象由来の対照細胞試料のための容器と、バイオセンサーからのデータを、細胞試料が依然として生存し治療剤に応答している間の規定の期間にわたる個々の対象由来の単離された疾患細胞試料における、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O2、CO2、グルコースおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞生理応答パラメータの変化を示す出力へと変換し、出力を、応答なし、弱い応答性および応答性として分類し、分類による報告を作成するためのコンピュータ実行可能命令を有する非一過性コンピュータ可読媒体とを含む。実施形態において、キットは、バイオセンサーを含む。
特定の実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
個々の対象における疾患のための薬剤の治療上の有効性を決定するステップを含む、個々の対象のための処置を選択するためのin vitro方法であって、
a)細胞応答測定系(CReMS)において、前記薬剤を前記個々の対象由来の少なくとも1種の単離された無標識生存疾患細胞試料に投与するステップであって、前記疾患細胞試料が、がん細胞試料、自己免疫性疾患の対象由来の細胞試料、外来性病原因子に感染した組織由来の細胞試料およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるステップと、b)治療剤の存在下で、前記細胞が依然として生存している間の変化の検出に十分な規定の期間にわたって、前記治療剤が影響を与えることが意図されている前記細胞試料の少なくとも1種の生理応答パラメータの変化を連続的に測定するステップと、
c)ベースライン測定値と比較して、前記薬剤に対する前記細胞試料の生理応答パラメータの前記変化が生じるか決定するステップであって、生理応答の前記変化が、前記薬剤が、前記個々の対象における前記疾患に対し治療上の有効性を有することを示すステップとを含む方法。
(項目2)
前記治療剤が、1種または複数の薬剤である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記治療剤が、抗がん剤である、項目1または項目2に記載の方法。
(項目4)
前記薬剤が、腫瘍停滞、抗増殖、細胞死滅またはアポトーシスを引き起こす抗がん治療剤である、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記薬剤が、細胞応答もしくはシグナル伝達経路に標的化されるか、または特定の細胞分子に標的化されている、項目3に記載の方法。
(項目6)
前記抗がん治療剤が、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ラパチニブ、ドセタキセル、タモキシフェン、シスプラチン、アブラキサン、パクリタキセル注射、ブレンツキシマブベドチン(brentuximab vedoton)、エベロリムス、ペメトレキセド、エキセメスタン、オファツムマブ、ベバシズマブ、アレムツズマブ、イリノテカン、ビカルタミド、オキサリプラチン、セツキシマブ、ビスモデギブ(visomodegib)、トレミフェンクエン酸塩、フ
ルベストラント、ゲムシタビン、イマチニブ、トポテカン(topeotecan)、アキシチニブ、ロミデプシン、カバジタキセル(cabrazitaxel)、ソラフェニブ、インフリキシマブ、レナリドミド、リツキシマブ、ダサチニブ、スニチニブ、エルロチニブ、ニロチニブ、チロシンキナーゼ阻害剤、パクリタキセル、テモゾロミド、トリオキサイド、パニツムマブ、ボルテゾミブ、アザシチジン、パゾパニブ、クリゾチニブ、カペシタビン、イピリムマブ、ベムラフェニブ、ゴセレリン酢酸塩、アビラテロン、BH3模倣物、ナビトクラックス、アナストロゾール、レトロゾール、アロマターゼ阻害剤、シクロホスファミド、ドキソルビシン、メトトレキサート、フルオロウラシル、イクサベピロン、カルボプラチン、アフリベルセプト、テムシロリムス、イブリツモマブ(irbritumomab)、アビラテロン、クスチルセン、ネラチニブおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記治療剤を投与する前または後に、細胞応答測定系において、細胞応答経路を撹乱する少なくとも1種のアクチベーター剤を前記個々の対象由来の前記単離された無標識疾患細胞試料に投与するステップをさらに含む、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記アクチベーター剤が、MAPK、MAK、MKK、ERK、JNK、RHO、FAK1、RAS/RAF、PI3K、AKT、mTOR、PTEN、MEK、NOTCH、WNT、Jak/STAT、H1F1α、ヘッジホッグ、TGFβ、細胞接着、細胞周期調節経路、増殖/成長経路、アポトーシス経路およびそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞応答経路に標的化されている、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記アクチベーター剤が、細胞表面受容体に標的化されるか、またはEGFR、EGFR-TK、PI3K、mTOR、MEK1、MEK2、HER2受容体、Her3受容体、Her4受容体、VEGFR、トポイソメラーゼI、TUBB1、BCL2、TGFR、TNFR、FGFR、MAPK、MAK、MKK、セリンスレオニンプロテインキナーゼ、チロシンキナーゼ、サイクリン依存性キナーゼ、Fasデスレセプター、NOTCH、WNT、Jak/STAT、H1F1α、ヘッジホッグ、神経成長因子受容体、肝細胞成長因子受容体、インターロイキン受容体、サイトカイン受容体、ホルモン受容体、DNA、プリン架橋剤、チミジル酸シンターゼ、細胞接着シグナル伝達およびアポトーシス経路ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される特定の細胞分子に標的化されている、項目8に記載の方法。
(項目10)
少なくとも1種の疾患細胞試料が、がん細胞の細胞試料である、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記がん細胞が、乳房、結腸および肺のがん細胞である、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記細胞応答測定系(CReMS)が、バイオセンサーを含む、項目1~11のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記バイオセンサーが、細胞接着、細胞付着、細胞形態、細胞表現型、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞密度、細胞極性、pH、O2、CO2、グルコースおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞パラメータを検出する、項目12に記載の方法。(項目14)
機器が、インピーダンスまたは光学的機器である、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記ベースラインが、同じ対象由来の健常細胞から作製される、項目1~14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記ベースラインが、同じ対象由来の罹患細胞から、または前記薬剤に応答するもしくは応答しないことが公知の他の患者の疾患細胞から作製される、項目1~14のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記変化が、非線形変化である、項目1~16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
前記非線形変化が、非線形ユークリッド距離変化である、項目17に記載の方法。
(項目19)
ベースライン測定値と比較して前記単離された生存疾患細胞試料の生理応答パラメータの変化を提示する前記治療剤を選択するステップをさらに含む、項目1~17のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
カットオフ値と同じかまたはこれより大きな生理応答パラメータの変化を提示する前記治療剤が選択される、項目19に記載の方法。
(項目21)
輸送培地を含有する、個々の対象由来の単離された疾患細胞試料のための容器と、
輸送培地を含有する、前記個々の対象由来の対照細胞試料のための容器と、
バイオセンサーからのデータを、前記細胞試料が依然として生存し治療剤に応答している間の規定の期間にわたる個々の対象由来の前記単離された疾患細胞試料における、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O2、CO2、グルコースおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞生理応答パラメータの変化を示す出力へと変換し、前記出力を、応答なし、弱い応答性および応答性として分類し、前記分類による報告を作成するためのコンピュータ実行可能命令を有する非一過性コンピュータ可読媒体と
を含むキット。
(項目22)
容器中に前記治療剤をさらに含む、項目21に記載のキット。
(項目23)
前記治療剤が、抗がん剤である、項目22に記載のキット。
(項目24)
アクチベーター剤をさらに含む、項目21または項目22に記載のキット。
(項目25)
前記アクチベーター剤が、細胞表面受容体に標的化されるか、またはEGFR、EGFR-TK、PI3K、mTOR、MEK1、MEK2、HER2受容体、Her3受容体、Her4受容体、VEGFR、トポイソメラーゼI、TUBB1、BCL2、TGFR、TNFR、FGFR、MAPK、MAK、MKK、セリンスレオニンプロテインキナーゼ、チロシンキナーゼ、サイクリン依存性キナーゼ、Fasデスレセプター、NOTCH、WNT、Jak/STAT、H1F1α、ヘッジホッグ、神経成長因子受容体、肝細胞成長因子受容体、インターロイキン受容体、サイトカイン受容体、ホルモン受容体、DNA、プリン架橋剤、チミジル酸シンターゼ、細胞接着シグナル伝達およびアポトーシス経路ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される特定の細胞分子に標的化されている、項目24に記載のキット。
(項目26)
前記非一過性コンピュータ可読媒体が、非線形変化により出力を決定するためのコンピュータ実行可能命令を有する、項目21~25のいずれか一項に記載のキット。
(項目27)
バイオセンサーをさらに含む、項目21~26のいずれか一項に記載のキット。
(項目28)
前記バイオセンサーが、細胞接着、細胞付着、細胞形態、細胞表現型、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞密度、細胞極性、pH、O2、CO2、グルコースおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞パラメータを検出する、項目27に記載のキット。
(項目29)
前記対照試料が、罹患細胞の別の試料、同じ対象由来の健康組織の試料、治療剤に応答することが公知の細胞試料、治療剤に応答しないことが公知の試料およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目21~28のいずれか一項に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】
図1A、
図1Bおよび
図1Cは、2名のHER2過剰発現乳がん患者(患者B1およびB4)由来の細胞、HER2陽性乳がんに適応される2種の標的経路薬物(ラパチニブおよびトラスツズマブ)およびヒト上皮成長因子(EGF)を用いて行った、「CELx」検査の結果を示す図である。検査におけるB1およびB4細胞の生理的変化を細胞応答測定系(CReMS)により測定し、CReMSからの出力を図面に記録する。B1およびB4細胞それぞれの一方の試料をラパチニブで前処置し、B1およびB4細胞それぞれのもう一方の試料をトラスツズマブで前処置し、その後のEGF刺激に対する細胞の各セットの生理応答を、検査を通じて連続的基盤で記録する。
図1Aに示すCELx経路シャットダウン検査は、患者B1が、トラスツズマブに応答しないが、ラパチニブに応答すると予測する。
図1Bに示す結果は、また、患者B4が、トラスツズマブおよびラパチニブの両方に応答すると予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照(third party clinical reference)によって記録された結果の比較を
図1Cに示す;この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果によると、患者B1は、トラスツズマブに無応答性であり、ラパチニブに応答性であることが判明し、患者B4は、両方に応答性であることが判明した。
【
図1B】
図1A、
図1Bおよび
図1Cは、2名のHER2過剰発現乳がん患者(患者B1およびB4)由来の細胞、HER2陽性乳がんに適応される2種の標的経路薬物(ラパチニブおよびトラスツズマブ)およびヒト上皮成長因子(EGF)を用いて行った、「CELx」検査の結果を示す図である。検査におけるB1およびB4細胞の生理的変化を細胞応答測定系(CReMS)により測定し、CReMSからの出力を図面に記録する。B1およびB4細胞それぞれの一方の試料をラパチニブで前処置し、B1およびB4細胞それぞれのもう一方の試料をトラスツズマブで前処置し、その後のEGF刺激に対する細胞の各セットの生理応答を、検査を通じて連続的基盤で記録する。
図1Aに示すCELx経路シャットダウン検査は、患者B1が、トラスツズマブに応答しないが、ラパチニブに応答すると予測する。
図1Bに示す結果は、また、患者B4が、トラスツズマブおよびラパチニブの両方に応答すると予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照(third party clinical reference)によって記録された結果の比較を
図1Cに示す;この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果によると、患者B1は、トラスツズマブに無応答性であり、ラパチニブに応答性であることが判明し、患者B4は、両方に応答性であることが判明した。
【
図1C】
図1A、
図1Bおよび
図1Cは、2名のHER2過剰発現乳がん患者(患者B1およびB4)由来の細胞、HER2陽性乳がんに適応される2種の標的経路薬物(ラパチニブおよびトラスツズマブ)およびヒト上皮成長因子(EGF)を用いて行った、「CELx」検査の結果を示す図である。検査におけるB1およびB4細胞の生理的変化を細胞応答測定系(CReMS)により測定し、CReMSからの出力を図面に記録する。B1およびB4細胞それぞれの一方の試料をラパチニブで前処置し、B1およびB4細胞それぞれのもう一方の試料をトラスツズマブで前処置し、その後のEGF刺激に対する細胞の各セットの生理応答を、検査を通じて連続的基盤で記録する。
図1Aに示すCELx経路シャットダウン検査は、患者B1が、トラスツズマブに応答しないが、ラパチニブに応答すると予測する。
図1Bに示す結果は、また、患者B4が、トラスツズマブおよびラパチニブの両方に応答すると予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照(third party clinical reference)によって記録された結果の比較を
図1Cに示す;この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果によると、患者B1は、トラスツズマブに無応答性であり、ラパチニブに応答性であることが判明し、患者B4は、両方に応答性であることが判明した。
【
図2A】
図2A、
図2Bおよび
図2Cは、2名の乳がん患者(患者B1およびB2)由来の細胞、抗増殖薬パクリタキセルを用いて行ったCELx検査の結果を示す図である。検査におけるB1およびB2細胞の生理的変化をCReMSにより測定し、CReMSからの出力を図面に記録する。B1およびB2細胞それぞれの一方のセットをパクリタキセルで処置し、B1およびB2細胞のもう一方の対照セットには薬物を与えなかった;細胞の各セットの生理応答を48時間の経過にわたって連続的に記録した。B2被験細胞は、B2対照細胞と比較したCReM出力の有意な減少に反映される通り、パクリタキセルに対する初期応答性を示したが、概して24時間後、CReM出力が逆転し、被験細胞が増殖しており、もはやこの薬物に応答性でないことを示す。B1被験細胞は、検査期間を通じてB1対照細胞と比較したCReM出力の減少に反映される通り、パクリタキセルに対する速効性かつ連続的な応答性を示す。
図2Aおよび
図2Bに提示されているCELx検査結果は、患者B1およびB2が両者共にパクリタキセルに応答すると予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照によって記録された結果の比較を
図2Cに示す;この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果によると、患者B1およびB2は両者共に、パクリタキセルに応答性であることが判明した。
【
図2B】
図2A、
図2Bおよび
図2Cは、2名の乳がん患者(患者B1およびB2)由来の細胞、抗増殖薬パクリタキセルを用いて行ったCELx検査の結果を示す図である。検査におけるB1およびB2細胞の生理的変化をCReMSにより測定し、CReMSからの出力を図面に記録する。B1およびB2細胞それぞれの一方のセットをパクリタキセルで処置し、B1およびB2細胞のもう一方の対照セットには薬物を与えなかった;細胞の各セットの生理応答を48時間の経過にわたって連続的に記録した。B2被験細胞は、B2対照細胞と比較したCReM出力の有意な減少に反映される通り、パクリタキセルに対する初期応答性を示したが、概して24時間後、CReM出力が逆転し、被験細胞が増殖しており、もはやこの薬物に応答性でないことを示す。B1被験細胞は、検査期間を通じてB1対照細胞と比較したCReM出力の減少に反映される通り、パクリタキセルに対する速効性かつ連続的な応答性を示す。
図2Aおよび
図2Bに提示されているCELx検査結果は、患者B1およびB2が両者共にパクリタキセルに応答すると予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照によって記録された結果の比較を
図2Cに示す;この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果によると、患者B1およびB2は両者共に、パクリタキセルに応答性であることが判明した。
【
図2C】
図2A、
図2Bおよび
図2Cは、2名の乳がん患者(患者B1およびB2)由来の細胞、抗増殖薬パクリタキセルを用いて行ったCELx検査の結果を示す図である。検査におけるB1およびB2細胞の生理的変化をCReMSにより測定し、CReMSからの出力を図面に記録する。B1およびB2細胞それぞれの一方のセットをパクリタキセルで処置し、B1およびB2細胞のもう一方の対照セットには薬物を与えなかった;細胞の各セットの生理応答を48時間の経過にわたって連続的に記録した。B2被験細胞は、B2対照細胞と比較したCReM出力の有意な減少に反映される通り、パクリタキセルに対する初期応答性を示したが、概して24時間後、CReM出力が逆転し、被験細胞が増殖しており、もはやこの薬物に応答性でないことを示す。B1被験細胞は、検査期間を通じてB1対照細胞と比較したCReM出力の減少に反映される通り、パクリタキセルに対する速効性かつ連続的な応答性を示す。
図2Aおよび
図2Bに提示されているCELx検査結果は、患者B1およびB2が両者共にパクリタキセルに応答すると予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照によって記録された結果の比較を
図2Cに示す;この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果によると、患者B1およびB2は両者共に、パクリタキセルに応答性であることが判明した。
【
図3A】
図3A、
図3Bおよび
図3Cは、2名の結腸がん患者(患者C1およびC2)由来の細胞、EGFならびに結腸がんに適応される2種の薬物、セツキシマブおよびイリノテカンの組み合わせを用いて行ったCELx検査の実験の全時間経過にわたる結果を示す図である。検査におけるC1およびC2細胞の生理的変化をCReMSにより測定し、CReMSからの出力を図面に記録する。C1およびC2被験細胞それぞれの一方のセットをセツキシマブおよびイリノテカンで処置し、対照C1およびC2細胞のもう一方のセットには薬物を与えなかった;細胞の各セットの生理応答を連続的に記録した。C1およびC2被験細胞は両者共に、これらそれぞれの対照細胞と比較した被験細胞のCReMS出力の低下に反映されている通り、薬物組み合わせに対する応答性を示した。これらの結果は、患者C1およびC2が両者共に、セツキシマブおよびイリノテカンの組み合わせに応答すると予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照によって記録された結果の比較を
図3Cに示す;この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果によると、患者C1およびC2は両者共に、セツキシマブおよびイリノテカン組み合わせに対し応答性であることが判明した。
【
図3B】
図3A、
図3Bおよび
図3Cは、2名の結腸がん患者(患者C1およびC2)由来の細胞、EGFならびに結腸がんに適応される2種の薬物、セツキシマブおよびイリノテカンの組み合わせを用いて行ったCELx検査の実験の全時間経過にわたる結果を示す図である。検査におけるC1およびC2細胞の生理的変化をCReMSにより測定し、CReMSからの出力を図面に記録する。C1およびC2被験細胞それぞれの一方のセットをセツキシマブおよびイリノテカンで処置し、対照C1およびC2細胞のもう一方のセットには薬物を与えなかった;細胞の各セットの生理応答を連続的に記録した。C1およびC2被験細胞は両者共に、これらそれぞれの対照細胞と比較した被験細胞のCReMS出力の低下に反映されている通り、薬物組み合わせに対する応答性を示した。これらの結果は、患者C1およびC2が両者共に、セツキシマブおよびイリノテカンの組み合わせに応答すると予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照によって記録された結果の比較を
図3Cに示す;この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果によると、患者C1およびC2は両者共に、セツキシマブおよびイリノテカン組み合わせに対し応答性であることが判明した。
【
図3C】
図3A、
図3Bおよび
図3Cは、2名の結腸がん患者(患者C1およびC2)由来の細胞、EGFならびに結腸がんに適応される2種の薬物、セツキシマブおよびイリノテカンの組み合わせを用いて行ったCELx検査の実験の全時間経過にわたる結果を示す図である。検査におけるC1およびC2細胞の生理的変化をCReMSにより測定し、CReMSからの出力を図面に記録する。C1およびC2被験細胞それぞれの一方のセットをセツキシマブおよびイリノテカンで処置し、対照C1およびC2細胞のもう一方のセットには薬物を与えなかった;細胞の各セットの生理応答を連続的に記録した。C1およびC2被験細胞は両者共に、これらそれぞれの対照細胞と比較した被験細胞のCReMS出力の低下に反映されている通り、薬物組み合わせに対する応答性を示した。これらの結果は、患者C1およびC2が両者共に、セツキシマブおよびイリノテカンの組み合わせに応答すると予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照によって記録された結果の比較を
図3Cに示す;この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果によると、患者C1およびC2は両者共に、セツキシマブおよびイリノテカン組み合わせに対し応答性であることが判明した。
【
図4】
図4は、11種の異なる患者細胞(患者B1、B2、B3、B4、B5、B6、B7由来の乳がん細胞、患者C1およびC2由来の結腸がん細胞ならびに患者L1およびL2由来の肺がん細胞)および15種の異なる薬物(カペシタビン、セツキシマブ、ドセタキセル、フルオロウラシル、ゲフィチニブ、GSK1059615、GSK1120212、ラパチニブ、パクリタキセル、パゾパニブ、トラスツズマブ、トポテカン、シスプラチン、エルロチニブおよびオキサリプラチン(oxiliplatin))の選択から可能な細胞および薬物組み合わせの一部を用いて行った、57種のCELx検査の概要結果を示す図である。
図4は、患者L1およびL2細胞におけるパクリタキセルおよびシスプラチンの薬物組み合わせを用いて行った2種のCELx組み合わせ検査ならびに患者B1、B2、B3およびB4細胞におけるトラスツズマブおよびラパチニブの薬物組み合わせによる4種のCELx検査から得られた結果も示す。11種の異なる細胞経路を標的化する総計16種の異なる薬物を、この実験セットにおける細胞試料に導入した。実験毎に、その対照細胞と比較した被験細胞の生理応答の変化を計算した。
図4における各ボックスは、50%超(黒塗ボックス)、5%~50%の間(縦線ボックス)、5%未満(横線ボックス)または検査なし(白ボックス)のいずれかとして、各実験において測定された生理応答の変化を分類する。この図に表されている一連の実験は、広範な薬物に曝露された後に種々のがん細胞型において生じる生理的変化を測定するCELx検査の能力を例示する。
【
図5】
図5は、薬物セツキシマブおよびEGFにより、4名の乳がん患者(B1、B2、B3およびB4)由来の細胞において別々に行った8種のCELx検査の概要結果を示す図である。細胞B1、B2、B3およびB4における検査の一方のセットは、「光学的」バイオセンサーCReMSを用いて行い、同じ細胞における検査のもう一方のセットは、「インピーダンス」バイオセンサーCReMSを用いて行った。CReMSによって記録された出力のパーセンテージ変化の範囲を示す概要様式で結果を提示する。検査した患者細胞毎に、各CReMSによって記録された生理的変化の量は同一であった。これらの結果は、CELx検査方法が、細胞における異なる生理的変化を測定する異なる種類のCReMSを利用できることを例示する。
【
図6】
図6は、実施例1~4に記載されている65種の検査の概要結果を提示する図である。11種の異なる細胞経路を標的化する総計16種の異なる薬物を、この実験セットにおいて、3種の異なる種類のがんを患う11名の患者由来の細胞試料へと導入した。実験毎に、そのベースラインまたは対照細胞と比較した被験細胞の生理応答の変化を計算した。
図6における各ボックスは、50%超、5%~50%の間または5%未満のいずれかとして、各実験において測定された生理応答の変化を分類する。CELx検査は、生理応答の変化が5%~50%の間または50%超である場合、治療法に対する肯定的な患者応答を予測し、生理応答の変化が5%未満である場合、治療法に対する患者応答なしを予測する。応答は次の通りに示されている:50%超(黒塗ボックス)、5%~50%の間(縦線ボックス)、5%未満(横線ボックス)または検査なし(白ボックス)。この図に表されている一連の実験は、広範な細胞経路に影響を与える広範な薬物に曝露された後に種々のがん細胞型において生じる生理的変化を測定するCELx検査の能力を例示する。
【
図7】
図7は、
図6に記載されているCELx検査予測(個々の薬物に対する被験細胞応答)と、薬物に対する患者の応答性を記録した第三者から得られた結果との間の相関(0%または100%のいずれか)を記録する図である。黒塗ボックスは、治療剤に対する応答または無応答に関する細胞試料における検査結果と細胞試料の公知の状態との間の100%一致を表し、空白ボックスは検査されておらず、灰色の影付きボックスは、治療剤に対する応答または無応答に関する公知の細胞試料状態との一致なしを表す。検査された事例において、CELx検査および第三者は、1事例を除いて同じ結果を生じ、CELx検査の持つ、広範な細胞経路を標的化する16種の異なる薬物に対する乳房、肺および結腸患者応答を予測する力を例示する。
【
図8】
図8A、
図8B、
図8Cおよび
図8Dは、異なる患者がん細胞および薬物のCELx検査結果、対、薬物に対する患者の応答性を記録した第三者から得られた結果を記録する図である。
図8Aは、検査した全12種のがん患者細胞および16種の異なる薬物の結果の比較を記録する。
図8Bは、単独および13種の異なる薬物と組み合わせて検査した8種の乳がん患者細胞の結果の比較を記録する。
図8Cは、単独および3種の異なる薬物と組み合わせて検査した2種の異なる結腸がん患者細胞の結果の比較を記録する。
図8Dは、単独および3種の異なる薬物と組み合わせて検査した2種の異なる肺がん患者細胞の結果の比較を記録する。各図において、CELx検査は、1事例を除いて、患者が特定の薬物または薬物の組み合わせに応答するかしないか的確に予測することが示されている。
【
図9】
図9は、検査した全患者細胞および薬物ならびに検査した患者、薬物、経路およびCReMSの種類のサブグループに関するCELx検査の感度および特異性を記録する図である。全体および試験したサブグループそれぞれの内において、CELx検査は、高い感度(98%+)および特異性(99.9%+)を生じた。これらの結果は、異なるがん細胞型、薬物の種類、CReMSの種類および標的とする経路にわたる検査の予測力を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.定義
別段の規定がなければ、本明細書に用いられているあらゆる技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書において言及されているあらゆる特許、出願、公開出願および他の刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。本セクションに表記されている定義が、参照により本明細書に組み込まれている特許、出願、公開出願および他の刊行物に表記されている定義に反し、またはその他これと不一致である場合、本セクションに表記されている定義は、ここに本明細書の一部を構成するものとしてその内容が援用されている定義に勝る。次の用語は、本明細書において、次の定義を有することが意図されている。
【0018】
用語「約」は、本明細書において、およそ、その近辺、概してまたはその前後を意味する。用語「約」は、数的範囲と併せて用いられる場合、表記されている数値の上下に境界を延長することにより該範囲を修正する。一般に、用語「約」は、本明細書において、記述されている値の上下に数値を10%の変動で修正するよう用いられている。一態様において、用語「約」は、それが用いられている数の数値のプラスマイナス20%を意味する。したがって、約50%は、45%~55%の範囲内を意味する。端点によって本明細書に列挙されている数的範囲は、該範囲内に含まれるあらゆる数および分率を包含する(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4および5を包含する)。
【0019】
細胞に関する用語「アクチベーター」、「活性化する」または「撹乱因子」、「撹乱する」、「撹乱」は併せて、当業者に周知の、細胞に効果を有する試薬、有機分子、シグナル伝達因子、生化学物質、核酸またはタンパク質を用いた細胞の生理的操作の特定の対象または活性を指す。効果は、細胞生理活性のいずれかのモジュレーションを指し、上方または下方調節を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0020】
用語「アッセイ」または「アッセイする」は、例えば、外因性刺激(例えば、治療剤)による刺激による細胞の光学的または生体インピーダンス応答等、標的の存在、非存在、含量、程度、動態、動力学または種類を決定するための分析を指す。
【0021】
用語「付着する」または「付着」は、例えば、物理的吸収、化学結合、化学誘引および類似のプロセスまたはそれらの組み合わせ等により表面に接続された、本開示の表面修飾因子物質、細胞、リガンド候補化合物および類似の実体を指す。特に、「細胞付着」、「細胞接着」または「細胞試料付着」は、培養または細胞繋留材料との相互作用その他等による、細胞の一体的な結合または表面への相互作用を指す。
【0022】
用語「付着パターン」は、表面への細胞または細胞試料の接続の観察可能な形質または特徴を指す。付着パターンは、定量的とすることができる(例えば、付着部位の数)。付着パターンは、定性的とすることもできる(例えば、細胞外マトリックスへの付着の好ましい分子部位)。
【0023】
用語「抗体」は、広義で用いられており、所望の生物学的活性または機能を提示する、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を包含)、ヒト化抗体、キメラ抗体、多特異的抗体(例えば、二特異的抗体)および抗体断片を特に包含する。
【0024】
抗体は、例えば、キメラ、ヒト化またはヒト抗体とすることができ、これらの抗原結合性断片とすることができる。「抗体断片」は、全長抗体の一部、一般に、その抗原結合性または可変領域を含む。抗体断片の例として、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFv断片;ダイアボディ(diabody);直鎖状抗体;単鎖抗体分子;ならびに例えば、抗
体断片から形成された二特異的抗体等の多特異的抗体が挙げられる。「機能的断片」は、全長抗体の抗原への結合を実質的に保持し、生物学的活性を保持する。抗体は、共有結合または他の付着により1種または複数の他の薬物と組み合わせることにより、「装備」または「コンジュゲート」して、個々の薬物分子が別々に達成することのできるものよりも優れた効力、特異性および有効性を達成することができる。
【0025】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書において、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す、すなわち、この集団の個々の抗体は、少量存在する場合がある生じ得る天然起源の突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に対し作製されている。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に包含する従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原における単一の決定基に対し作製されている。修飾語句「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集団から得られる抗体の特徴を示すものであり、いずれか特定の方法による抗体の産生を要求するものとして解釈するべきではない。
【0026】
「キメラ」抗体(免疫グロブリン)は、特定の種に由来するまたは特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における相当する配列と同一または相同の重鎖および/または軽鎖の一部を含有するが、一方、鎖(複数可)の残り部分は、別の種に由来するまたは別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における相当する配列と同一または相同であり、また、所望の生物学的活性を提示する限りにおいて、係る抗体の断片も含有する(米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら、1984年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81巻:6851~6855頁)。
【0027】
用語「ヒト化抗体」は、本明細書において、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有する抗体である。ヒト化抗体は、その大部分において、ヒト免疫グロブリン(レシピエントまたはアクセプター抗体)であり、レシピエント抗体の可変ドメイン高頻度可変領域残基は、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)由来の高頻度可変領域残基によって置き換えられている。高頻度可変領域は、配列によって定義される相補性決定領域(CDR)であっても(例えば、Kabat 1991年、1987年、1983年を参照)、構造によって定義
される高頻度可変ループ(HVL)であっても(例えば、Chothia 1987年を参照)
、あるいはその両方であってもよい。
【0028】
「生体分子コーティング」は、天然起源の生体分子もしくは生化学物質または1種もしくは複数の天然起源の生体分子もしくは生化学物質に由来するもしくはこれに基づく生化学物質である分子を含む、表面におけるコーティングである。例えば、生体分子コーティングは、細胞外マトリックス構成成分(例えば、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、他の糖タンパク質、ペプチド、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、細胞間CAM、血管性CAM、MAdCAM)またはこれらの誘導体を含むことができる、あるいは天然起源の生化学物質、リジンおよびオルニチンに基づくポリマー型分子であるポリリジンまたはポリオルニチン等、生化学物質を含むことができる。アミノ酸等、天然起源の生化学物質に基づくポリマー型分子は、天然起源の生化学物質のアイソマーまたはエナンチオマーを用いることができる。コーティングは、細胞表面受容体もしくは細胞表面同族結合タンパク質または前記細胞表面タンパク質に対し親和性を有するタンパク質を包含することもできる。
【0029】
用語「ベースライン測定値」は、検査しようとする細胞のセットの生理的開始点を指し、薬物が添加される前の期間にわたる測定値の評価に基づく。この用語は、外因性撹乱に先立つ基礎細胞代謝測定値またはCReMS読み取り値を包含することができる。あるいは、この用語は、外因性撹乱ありまたはなしにおける正常な健常細胞代謝機能のCReMS測定値を包含するがこれに限定されない。
【0030】
用語「基礎形態」は、薬剤または刺激の導入に先立つ細胞または細胞試料の形および構造を指す。
【0031】
用語「細胞接着」は、別の細胞への、細胞外マトリックス構成成分への、または表面(例えば、マイクロタイタープレート)への細胞の結合を指す。
【0032】
用語「細胞応答測定系」または「CReMS」は、細胞内、細胞内および細胞間、ならびに細胞および計装機器間の生理的または細胞応答パラメータの変化を定量的に決定することができる機器を指す。実施形態において、細胞は、無標識細胞全体である。生理的または細胞応答パラメータの変化は、グルコース、酸素、二酸化炭素、タンパク質やアミノ酸等のアミン含有材料等、分析物、または細胞外マトリックス、または細胞シグナル伝達分子、または細胞増殖、細胞形態もしくは細胞骨格再編成の変化を決定することにより測定される。CReMSの一例は、バイオセンサーである。
【0033】
用語「CReMSシグナル」は、本明細書において、化学電気的CReMSによって細胞が分析される際の細胞の細胞生理的変化の尺度として定義されている。CReMSシグナルおよびCReMSシグナルの変化は、生理的変化を測定する特定の化学電気的トランスデューサーに関係する様々な単位を有し得る。例えば、CReMSシグナルは、細胞指数、インピーダンス、波長単位、pH単位、電圧、電流の単位を有し得るが、これらに限定されない、あるいは単位の比率を用いることによって無次元となり得る。これらの単位のいずれも、時間成分を有し得る。CReMSシグナルは、例えば、正規化、ベースライン決定、曲線減算またはこれらのいずれかの組み合わせ等、生物学、生化学および生物物理学の技術分野の当業者によって頻繁に為される通り、解釈を明確にするため数学的に改変することができる。CReMSシグナルは、単一の時点で、あるいはより好ましくは、細胞生理応答の完全パターンを表す連続的な一連の時点にわたって測定することができる。
【0034】
用語CReM「光学的シグナル」は、細胞が置かれているフォトニック結晶バイオセンシングCReMSから反射される光として測定される波長値または波長値の変化として定義される。単位は、典型的には、ピコメートルまたはナノメートル表記であるが、変化の比率が報告されるのであれば、無次元にしてもよい。「光学的シグナル」は、時間と組み合わせた前記単位で表現することができる。反射された光の波長のシフトは、フォトニック結晶表面における質量に比例する。よって、「光学的シグナル」は、CReMSにおける細胞数の定量的尺度である。さらに、例えば、細胞形態、細胞接着、細胞生存率、細胞の構造的再編成の変化は、波長シフトとして検出されるセンサーにおける質量の量に差をもたらすため、「光学的シグナル」は、細胞生理的状態の尺度である。
【0035】
用語「細胞指数」は、本明細書において、インピーダンスの測定値として定義されており、本発明の一事例において、例えば、10kHzの固定された電気的周波数および固定された電圧で測定することにより適用することができる。
そして、方程式、細胞指数i=(Rtn-Rt0)/F
(式中、
i=1、2または3時点、
10kHz周波数で装置が操作される一例において、F=15オーム、
Rt0は、時点T0において測定されるバックグラウンド抵抗であり、
Rtnは、細胞添加、細胞生理的変化または細胞撹乱後の時点Tnにおいて測定される抵抗である)
により計算することができる。
【0036】
細胞指数は、細胞状態を表すための、測定された電気インピーダンスの相対変化として導かれる無次元パラメータである。細胞が、電極に存在しないまたは十分に接着されていない場合、CIはゼロである。同じ生理条件下において、より多くの細胞が電極に付着されている場合、CI値はより大きくなる。したがって、CIは、ウェルに存在する細胞数の定量的尺度である。その上、細胞生理的状態、例えば、細胞形態、細胞接着または細胞生存率の変化は、CIの変化をもたらす。
【0037】
用語「バイオセンサー」は、分析物または分析物の変化または細胞の生理状態を測定する機器を指す。実施形態において、バイオセンサーは、典型的に、3部分を含有する:分析物に結合するまたはこれを認識する生物学的構成成分または要素(細胞外マトリックス、細胞シグナル伝達分子または細胞増殖、組織、細胞、代謝物、異化産物、生体分子、イオン、酸素、二酸化炭素、炭水化物、タンパク質等の非限定例を挙げられる)、検出器要素(光学的、圧電気的、電気化学的、温度測定的または磁気的等、物理化学的様式で操作する)および両方の構成成分と関連するトランスデューサー。
【0038】
用語「光学的バイオセンサー」は、蛍光、吸収、透過率、密度、屈折率および光の反射を測定する機器を指す。実施形態において、光学的バイオセンサーは、生細胞、病原体またはそれらの組み合わせにおける分子認識または分子刺激事象を定量化可能なシグナルに変換するための光学的トランスデューサーを含むことができる。その上、実施形態は、フォトニック結晶機器、光導波路機器および表面プラズモン共鳴機器を包含することができる。
【0039】
用語「インピーダンスバイオセンサー」は、生きた患者細胞の複素インピーダンス変化(デルタZまたはdZ)を測定する機器を指し、インピーダンス(Z)は、オームの法則(Z=V/I)に説明されている通り、電圧の電流に対する比に関連付けられる。これは、細胞との電極界面における局所イオン環境に対し高感度であり、このような変化を、電圧および電流増減の関数として検出する。正常機能またはその撹乱の結果としての細胞の生理的変化は、電極周囲の電流の流れに定量化可能な変化をもたらし、測定されるシグナルの振幅および特徴に影響する。実施形態において、インピーダンスバイオセンサーは、生細胞、病原体またはそれらの組み合わせにおける分子認識または分子刺激事象を定量化可能なシグナルに変換するための電極または電気回路を含むことができる。実施形態において、ISFETバイオセンサーは、生細胞、病原体またはそれらの組み合わせにおける分析物認識または細胞刺激事象を定量化可能なシグナルに変換するためのイオン選択性電界効果電気トランスデューサーを含むことができる。ISFETバイオセンサーにおける分析物濃度が変化すると、トランジスタにおける電流が変化し、これにより定量化シグナルが生じる。
【0040】
用語「細胞シグナル伝達」は、情報の細胞内または細胞間移行を指す。細胞シグナル伝達は、細胞の間の直接的な接触により、またはある細胞から別の細胞へと取り入れられる物質の放出により達成することができる。細胞間シグナル伝達は、2分子(例えば、リガンドおよび受容体)間の相互作用を介して起こり得る。受容体結合は、細胞内シグナル伝達のカスケードを誘発し得る(例えば、細胞内における生化学的変化の惹起または膜電位の修飾)。
【0041】
用語「細胞骨格組織化」は、細胞の内部足場の配置を指す。細胞の細胞骨格は、細胞質または膜要素および/または細胞内小器官の支持に役立つフィラメントを含む。細胞骨格は、細胞の形状の維持も助ける。
【0042】
用語「細胞増殖」は、細胞成長および細胞分裂の結果としての細胞数の増加を指す。
【0043】
用語「細胞生存」は、代謝、成長、運動、生殖、ある種の応答性および適応性等、ある特定の機能を行う能力によって特徴付けられる細胞の生存率を指す。
【0044】
用語「有効性」は、特定の介入が有益な結果を生じる程度を指す。実施形態において、介入は、小分子または抗体等、治療剤となり得る。有益な結果は、症状の阻害、細胞成長の減少、細胞死滅の増加、炎症の減少および免疫応答性の増加を限定することなく包含する。
【0045】
「細胞外マトリックス構成成分」は、動物の細胞外マトリックスにおいて生じる分子である。これは、いずれかの種由来およびいずれかの組織型由来の細胞外マトリックスの構成成分となり得る。細胞外マトリックス構成成分の非限定例として、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチン、他の糖タンパク質、ペプチド、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン等が挙げられる。細胞外マトリックス構成成分は、成長因子(増殖因子)を包含することもできる。
【0046】
用語「包括的表現型」は、全体としての細胞または細胞試料の複数の観察可能な特性を指す。包括的表現型として、細胞サイズ、細胞形状、特徴的隆起、増殖、拡散、付着フォーカス密度、細胞骨格配置、細胞増殖パターン、受容体食作用または付着フォーカス数、pHの変化、代謝物の取り込みまたは流出、シグナル伝達タンパク質および成長因子(増殖因子)、酸素、CO2、グルコース、ATPならびにマグネシウム、カルシウム、カリウム等のイオンを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0047】
用語「事象特異性」は、細胞の特異的な特性の物理的観察を指す。係る特異的な特性は、特定のアクチベーターまたは治療剤に対する細胞の意図および/または予想される生理応答の一部としての特異的な細胞機能、外因性撹乱または経路アゴニズム/アンタゴニズムに関する。アクチベーターおよび治療剤は、細胞骨格構造または細胞経路等、細胞機能のある特定の側面に影響を与えるよう標的化されることが公知となり得る。アクチベーターまたは治療剤の存在下の細胞における物理的に観察可能な事象は、細胞におけるアクチベーターまたは治療剤の意図および/または予想される効果の反映であるため、物理的に観察可能な事象は、事象特異性と呼ばれる。例えば、CReMSの付着バイオセンサー型における大部分の細胞試料へのビンブラスチンの添加は、シグナルの深刻な低下を生じる。ビンブラスチンは、細胞の細胞骨格足場破壊因子である。シグナルの低下は、微小管分子における薬物の作用に起因する細胞形状および付着の損失に特異的に連鎖した細胞の物理的に観察可能な事象である。
【0048】
用語「インピーダンス」は、本明細書において、方程式:インピーダンス(オーム)=電圧(ボルト)/電流(アンペア)またはZ=V/Iによる、電圧および電流に関する物理法則によって定義される。
【0049】
処置または治療法の目的のための「哺乳動物」は、ヒトや、イヌ、ウマ、ネコ、ウシその他等の飼育動物および家畜および動物園、競技用またはペット動物を包含する、哺乳動物として分類されるいずれかの動物を指す。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0050】
用語「マイクロカンチレバー機器」、「マイクロカンチレバーアレイ」または「マイクロカンチレバー器具」は、その用途に応じて棒状、V字形または他の形状となり得る可撓性の梁(beam)である少なくとも1個のカンチレバーを含むCReMS装置の種類を指す。マイクロカンチレバーの一端は、支持基盤に固定されており、別の一端は自由に動く。マイクロカンチレバーは、天然の共鳴周波数とマッチする位相差シグナルを検出するための電気的な方法を用いて濃度を測定することができ(例として、参照により本明細書に組み込まれている、2000年3月28日に公表された米国特許第6,041,642号における記載を挙げる)、公知の分子、例えば、DNA、RNAまたはタンパク質等、巨大分子の生体分子が配置されたマイクロカンチレバーの共鳴特性の変化を用いた標的種の濃度を決定する。偏向は、光学的および圧電気的な方法を用いて測定される。
【0051】
本明細書において互換的に使用されている「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、いずれかの長さのヌクレオチドのポリマーを指し、DNAおよびRNAを包含する。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、および/またはこれらのアナログ、あるいはDNAもしくはRNAポリメラーゼによってまたは合成反応によってポリマーに取り込むことのできるいずれかの基質となり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびそのアナログ等、修飾ヌクレオチドを含むことができる。存在するのであれば、ポリマーの集合の前または後に、ヌクレオチド構造に対する修飾を付与することができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成成分によって中断することができる。ポリヌクレオチドは、標識とのコンジュゲーション等により、合成後にさらに修飾することができる。他の種類の修飾として、例えば、「キャップ」、天然起源のヌクレオチドのうち1個または複数とアナログとの置換、例えば、無電荷結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメート等)および荷電結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)による修飾、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ(ply)-L-リジン等)等のペンダント部分を含有する修飾、インターカ
レーター(例えば、アクリジン、ソラレン等)による修飾、キレート化剤を含有する修飾(例えば、金属、放射性金属、ボロン、酸化金属等)、アルキル化剤を含有する修飾、修飾結合(例えば、アルファアノマー核酸等)による修飾等のヌクレオチド間修飾と共に、非修飾型のポリヌクレオチド(複数可)が挙げられる。さらに、糖に通常存在するヒドロキシル基のいずれかを、例えば、ホスホネート基、リン酸基によって置き換えることができる、標準保護基によって保護することができる、あるいは追加的ヌクレオチドに追加的な結合を調製するために活性化することができる、あるいは固体または半固体支持体へとコンジュゲートすることができる。5’および3’末端OHは、リン酸化することができる、あるいは1~20個の炭素原子のアミンまたは有機キャッピング基部分と置換することができる。他のヒドロキシルは、標準保護基へと誘導体化することもできる。ポリヌクレオチドは、例えば、2’-O-メチル-、2’-O-アリル、2’-フルオロ-または2’-アジド-リボース、炭素環式糖アナログ、アルファ-アノマー糖、アラビノース、キシロースまたはリキソース等のエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式アナログおよびメチルリボシド等の塩基性ヌクレオシドアナログを包含する、本技術分野において一般に公知のリボースまたはデオキシリボース糖の類似型を含有することもできる。1種または複数のホスホジエステル結合は、代替的結合基によって置き換えることができる。このような代替的結合基として、リン酸が、P(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、’’(O)NR.sub.2(「アミデート」)、P(O)R’、P(O)OR’、COまたはCH.sub.2(「ホルムアセタール」)によって置き換えられた実施形態(式中、各RまたはR’は独立的に、H、またはエーテル(--O--)結合を必要に応じて含有する置換もしくは非置換アルキル(1~20C)、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニルまたはアラルキルである)が挙げられるがこれらに限定されない。ポリヌクレオチドにおけるあらゆる結合が同一である必要はない。先行する記載は、RNAおよびDNAを包含する、本明細書に言及されているあらゆるポリヌクレオチドに適用される。
【0052】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって連結された2個以上のアミノ酸を含有するペプチドまたはタンパク質を指し、ペプチド、オリゴマー、タンパク質その他を包含する。ポリペプチドは、天然、修飾または合成アミノ酸を含有することができる。ポリペプチドは、翻訳後プロセシング等により天然に、あるいはアミド化、アシル化、架橋その他等、化学的に修飾されていてもよい。
【0053】
用語「水晶振動子共鳴器/マイクロバランス」は、測定が意図されるウイルスまたは任意の他の小さい物体等、僅かな質量の添加によって妨害された際の圧電気的水晶振動子の周波数の変化を測定することにより質量を測定する、CReMS機器の種類を指す。周波数測定は、高精度で容易に行うことができ、したがって、僅かな質量の測定が容易である。
【0054】
本明細書において、「試料」は、本開示において、器具、マイクロプレートまたは方法を用いて単離、操作、測定、定量化、検出または分析すべき部分を含有し得るものを指す。試料は、生体液または生体組織等、生体試料となり得る。生体液の例として、細胞培養培地等の培地における細胞の懸濁液、尿、血液、血漿、血清、唾液、精液、糞便、痰、脳脊髄液、涙、粘液、羊水その他が挙げられる。生体組織は、通常、特定の種類の細胞とその細胞間物質との凝集塊であり、ヒト、動物、植物、細菌、真菌またはウイルス構造の構造材料の1種を形成し、結合、上皮、筋肉および神経組織を包含する。生体組織の例として、器官、腫瘍、リンパ節、動脈および個々の細胞(複数可)も挙げられる。生体試料は、細胞懸濁液、生物学的分子(例えば、タンパク質、酵素、核酸、炭水化物、生物学的分子に結合している化学分子)を含有する溶液をさらに包含することができる。
【0055】
用語「細胞試料」は、特定の対象から単離された細胞を指し、細胞は、対象の生体液、排泄または組織から単離される。組織から単離される細胞は、腫瘍細胞を包含することができる。組織から単離される細胞は、ホモジナイズされた組織および細胞抽出物ならびにそれらの組み合わせを包含する。細胞試料は、血液、血清、血漿、尿、精液、精子液(seminal fluid)、精漿、前立腺液、前射精液(pre-ejaculatory fluid)(カウパー腺液)、排泄物、涙、唾液、汗、生検、腹水、脳脊髄液、リンパ液、髄または毛髪からの単離を包含するが、これらに限定されない。
【0056】
用語「CELx」検査は、本明細書に記載されている方法の様々な実施形態を全般的に指す。
【0057】
用語「疾患細胞試料」は、疾患の部位由来の複数の細胞または疾患の特徴を有する細胞を指す。
【0058】
用語「健常細胞試料」は、検査されている疾患がない細胞、あるいは疾患がない組織から抽出された細胞の細胞試料を指す。例えば、対象の乳がんに対する治療剤の効果に関して特定の対象が検査されている場合、非がん性細胞または非乳房組織由来の細胞が、「健康」であると考慮される。用語「健常細胞試料」は、対象の全体健康状態における決定または反映ではない。
【0059】
用語、分析的「感度」は、検査または検出限界を指し、ゼロから区別される最少の含量として定義される(例えば、ゼロ対照の平均を上回る95%信頼区間または2標準偏差(SD)が一般に用いられる)。
【0060】
用語、臨床「感度」は、検査が陽性であり標的状態を有する対象の割合を指す、あるいは対象とする状態が存在する場合に検査が陽性である頻度を指す。検査の臨床「感度」は、計算:100%×TP/(TP+FN)(式中、TPは、検査されている成績の真陽性事象の数であり、FNは、陰性として不正確に決定された事象である偽陰性事象の数である)によって得られる正確性の推定として定義される。
【0061】
臨床「特異性」は、検査が陰性であり標的状態を持たない対象の割合を指す、あるいは対象とする状態が存在しない場合に検査が陰性である頻度を指す。臨床特異性は、計算:100%×TN/(FP+TN)(式中、TNは、検査されている成績の真陰性事象の数であり、FPは、陽性として不正確に決定された事象である偽陽性の数である)によって推定される。
【0062】
用語「表面プラズモン共鳴機器」は、局所的屈折率の変化を検出することによる、金属表面における生体分子の結合事象を測定する光学的バイオセンサー型のCReMSを指す。
【0063】
用語「治療剤」は、いずれかの合成または天然起源の生物学的に活性なものの化合物または組成物を指し、生物(ヒトまたは非ヒト動物)に投与されると、局所および/または全身作用により所望の薬理学的、免疫原性および/または生理的効果を誘導する。この用語は、タンパク質、ペプチド、ホルモン、核酸、遺伝子コンストラクトその他等の分子を包含する薬物、ワクチンおよび生物製剤として伝統的に考慮される化合物または化学物質を網羅する。薬剤は、獣医学を包含する医学、応用および植物等による農業ならびに他の分野において用いられる生物学的に活性な薬剤となり得る。用語、治療剤は、医薬;ビタミン;ミネラルサプリメント;疾患もしくは疾病の処置、予防、診断、治癒もしくは緩和に用いられる物質;または身体の構造もしくは機能に影響を与える物質;または所定の生理的環境に置かれた後に生物学的に活性となるもしくはより活性となるプロドラッグも限定することなく包含する。治療剤として、抗がん療法薬、抗精神病薬、抗炎症剤および抗生物質が挙げられるがこれらに限定されない。
【0064】
用語「標的経路薬物」、「経路薬物」または「標的化薬物」は、疾患プロセスに関与する特定の生体分子(例えば、タンパク質)に結合し、これによりその活性を調節するよう設計された、治療能を有するいずれかの分子または抗体を指す。
【0065】
用語「抗増殖薬」、「抗増殖剤」または「アポトーシス誘導薬」は、細胞分裂を低下、細胞成長を低下または細胞を死滅させるよう機能する治療能を有するいずれかの分子または抗体を指す。多くの場合、このような薬物の活性は、正常な細胞プロセスに関与する広範なクラスの生体分子に方向づけられており(例えば、DNAインターカレーション)、よって、薬物は、細胞疾患状態に対する判別性が低い。
【0066】
ポリペプチドの「バリアント」は、参照配列とは異なるアミノ酸配列を含有するポリペプチドを指す。参照配列は、全長ネイティブポリペプチド配列または全長ポリペプチド配列の他のいずれかの断片となり得る。一部の実施形態において、参照配列は、可変ドメイン重鎖または可変ドメイン軽鎖コンセンサス配列である。ポリペプチドバリアントは、一般に、参照配列と少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0067】
B.治療剤の有効性を選択またはモニターする方法
一部には、ある個体におけるがんは、別の個体における同じがんと遺伝的構成、タンパク質発現レベルおよび治療介入に対する応答が完全に異なり得るため、がん等の疾患は不均一である。罹患組織同士であっても、互いに遺伝子発現または遺伝子変化が相当に変動し得る。例えば、転移性腫瘍は、原発性腫瘍とは異なり得る。ヒトゲノム配列決定および他の遺伝的定量化ツールは、各患者の疾患が、該患者に幾分特有なものであることを医者に告げた。この情報は、個別化医療周辺のビジネス全体を生み出し、各患者は、自身の疾患にカスタマイズされた治療レジメンを受けることができる可能性がある。
【0068】
一部の薬物は、特定の遺伝子関連の疾患兆候に対し標的化されている。このアプローチは、主として現在の予後ツールセットの著しい弱点のために、未だに広く利用されていない。本明細書に記載されている方法は、個体の疾患に対し有効性を示す治療剤を選択する方法を提供する。実施形態において、CReMSにおいて、治療剤が、罹患組織から単離された無標識生細胞全体に接触し、細胞の生理的パラメータの変化またはその欠如が、治療剤の存在下で検出される。ベースライン測定値と比較して疾患細胞の生理的パラメータの変化をもたらす、対象を処置するための治療剤が選択される。
【0069】
本開示の一態様は、初期診断時に、あるいは処置を通じて1種または複数の治療剤を選択する方法を包含する。実施形態において、個々の対象における疾患または障害を処置するための使用に承認された1種または複数の治療剤を選択するための方法は、細胞応答測定系において、1種または複数の治療剤を対象由来の少なくとも1種の単離された疾患細胞試料に投与するステップと、治療剤の投与前の細胞応答パラメータのベースライン測定値と比較して、治療剤に応答して疾患細胞試料の細胞応答パラメータに変化が生じるか決定するステップであって、細胞応答パラメータの変化が、薬剤が、個々の対象における疾患に対し治療上の有効性を有することを示すステップとを含む。実施形態において、単離された疾患細胞試料は、無標識細胞全体を含む。実施形態において、単離された疾患細胞における細胞応答パラメータの変化は、規定の期間にわたって連続的にモニターされる。実施形態において、方法は、少なくとも1種の細胞応答または生理的パラメータの変化をもたらす治療剤または治療剤の組み合わせを選択するステップと、選択された薬剤を医療提供者に伝達するステップとをさらに含む。実施形態において、方法は、少なくとも1種の細胞応答または生理的パラメータの変化をもたらす治療剤または治療剤の組み合わせを投与するステップをさらに含む。
【0070】
別の実施形態において、個々の対象における疾患のための薬剤の治療上の有効性を決定するステップを含む、個々の対象に対する処置を選択するための方法は、細胞応答測定系(CReMS)において、薬剤を記個々の対象由来の少なくとも1種の単離された無標識疾患細胞試料に投与するステップであって、疾患細胞試料が、がん細胞試料、自己免疫性疾患の対象由来の細胞試料、外来性病原因子に感染した組織由来の細胞試料およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるステップと、治療剤の存在および/または非存在下で、規定の期間にわたって、細胞試料の少なくとも1種の生理応答パラメータの変化を連続的に測定するステップと、ベースライン測定値と比較して、薬剤に対する細胞試料の生理応答パラメータの変化が生じるか決定するステップであって、生理応答の変化が、薬剤が、前記個々の対象における疾患に対し治療上の有効性を有することを示すステップとを含む。実施形態において、疾患細胞は、がん細胞である。
【0071】
他の実施形態において、特定の対象に対する治療剤の有効性を比較するための方法は、細胞の少なくとも1種の生理的パラメータを測定する機器において、少なくとも2種の異なる治療剤を、同じ対象由来の別々の疾患細胞試料に投与するステップと、ベースライン測定値と比較して、治療剤それぞれに対する各細胞試料の生理応答を決定するステップであって、生理応答が、各治療剤の有効性を示すステップとを含む。実施形態において、単離された疾患細胞試料は、無標識細胞全体を含む。実施形態において、単離された疾患細胞における細胞応答パラメータの変化は、規定の期間にわたって連続的にモニターされる。実施形態において、方法は、より優れた有効性をもたらす治療剤または治療剤の組み合わせを選択するステップと、医療提供者に選択を伝達するステップとをさらに含む。実施形態において、方法は、より優れた有効性をもたらす治療剤または治療剤の組み合わせを対象に投与するステップをさらに含む。
【0072】
本開示の別の態様は、腫瘍細胞の成長速度を決定するための方法を提供する。腫瘍の成長速度を測定することにより、腫瘍細胞が成長することができる速さに応じて処置を選択することができる。腫瘍細胞が、速く成長する腫瘍である場合、医療従事者は、より遅く成長する腫瘍の処置と比較して、より積極的な処置を選択するであろう。実施形態において、方法は、細胞応答測定系において単離された腫瘍細胞試料を用意するステップと、腫瘍細胞試料の成長速度を規定の期間にわたって連続的にモニターするステップと、速い成長速度を提示する腫瘍細胞に対しより積極的な処置を選択するステップ、および/または選択された処置を医療提供者に伝達するステップとを含む。実施形態において、単離された疾患細胞試料は、無標識細胞全体を含む。実施形態において、方法は、選択された処置を対象に投与するステップをさらに含む。実施形態において、速く成長する腫瘍は、約100時間未満、好ましくは、20時間未満の細胞倍加速度を有し、一方、より遅く成長する腫瘍は、100時間以上の細胞倍加速度を有し、細胞倍加速度とは、1個の細胞が2個の細胞に分裂する時間である。
【0073】
本開示の別の態様は、特定の経路が、個々の対象由来の疾患細胞試料において活性であるか、および/または特定の経路が、治療剤に対し感受性であるか決定して、疾患細胞試料における経路の存在を検出するための方法を提供する。係る方法において、個体の疾患細胞試料において機能する細胞経路のプロファイルを得て、処置の継続において経時的にモニターすることができる。実施形態において、経路の存在または非存在に関して疾患細胞試料を特徴付けするための方法は、細胞応答測定系において、1種または複数のアクチベーター剤および/または治療剤を対象由来の少なくとも1種の単離された疾患細胞試料に投与するステップと、アクチベーター剤および/または治療剤の投与前の細胞応答パラメータのベースライン測定値と比較して、アクチベーター剤および/または治療剤に応答して疾患細胞試料の細胞応答パラメータに変化が生じるか決定するステップであって、細胞応答パラメータの変化が、アクチベーター剤によって活性化されたまたは治療剤によって阻害された細胞経路が、個々の対象由来の単離された疾患細胞試料において機能していることを示すステップとを含む。実施形態において、アクチベーター剤は、ヘレグリン等、受容体および細胞表面タンパク質に結合し、続いて細胞経路を活性化する成長因子(増殖因子)、タンパク質もしくは他のリガンド、疾患細胞試料における経路を活性化する細胞表面受容体を有する形質転換細胞を包含する細胞、または所望の様式で細胞生理機能を細胞内にて撹乱する有機小分子(10,000ダルトン以下)、ペプチド、核酸(例えば、干渉RNA)を包含する。実施形態において、治療剤は、非限定的なリストから、EGFR、Her2、PDGFR、TGFR、FGFR、TNFRまたはVEGF受容体等の成長因子受容体(増殖因子受容体)、トポイソメラーゼ活性、キナーゼ、Gタンパク質共役型受容体、受容体チロシンキナーゼ、微小管重合、細胞骨格組織化、細胞機能および細胞接着を阻害する治療剤を包含する。
【0074】
実施形態において、方法は、細胞応答測定系において、1種または複数のアクチベーター剤を対象由来の単離された疾患細胞試料に投与するステップと、アクチベーター剤の投与前の細胞応答パラメータのベースライン測定値と比較して、規定の期間にわたってアクチベーター剤に応答して疾患細胞試料の細胞応答パラメータに変化が生じるか決定するステップと、1種または複数の治療剤を単離された疾患細胞試料に投与するステップと、アクチベーター剤の投与前または後の細胞応答パラメータと比較して、規定の期間にわたって治療剤に応答して疾患細胞試料の細胞応答パラメータに変化が生じるか決定するステップであって、細胞応答パラメータの変化が、アクチベーター剤によって活性化され、治療剤によって阻害された細胞経路が、個々の対象由来の単離された疾患細胞試料において機能していることを示すステップとを含む。
【0075】
追加的な実施形態は、処置、臨床治験および/または候補治療剤に対する患者の応答性の評価のために対象を選択するための方法を包含する。実施形態において、候補治療法に応答する可能性が最も高い患者のみを選択するために、対象は、該候補治療法の臨床治験に先立ち選択される。このアプローチは、特に、該疾患と診断された集団全体の一部にしか効果的な結果を生じ得ない治療剤を用いて、候補治療法が、規制当局の承認を保証するのに十分な程、選択された患者集団内の有効性を実証できる見込みを増加させる。このアプローチにおける未承認の治療法の臨床治験に考慮される患者は、罹患細胞を評価して、薬物に対するその応答性を決定する。未承認の治療剤に対し応答性を実証する患者のみが、治験に選択される。他の実施形態において、細胞応答測定系において、1種または複数の治療剤を対象由来の少なくとも1種の単離された疾患細胞試料に投与するステップと、治療剤(単数または複数)の投与前の細胞応答パラメータのベースライン測定値と比較して、治療剤(単数または複数)に応答して疾患細胞試料の細胞応答パラメータに変化が生じるか決定するステップであって、細胞応答パラメータの変化が、薬剤(単数または複数)が、個々の対象における疾患に対し治療上の有効性を有することを示すステップとを含む方法によって、対象の細胞の試料がレスポンダーとして同定される場合、対象は、処置のために選択される。実施形態において、方法は、その細胞が、処置または臨床治験のための治療剤(単数または複数)に応答して細胞応答パラメータの変化を提示する対象を選択するステップをさらに含む。
【0076】
さらなる態様は、治療剤に対する応答性または無応答性を実証する対象由来の疾患試料のバイオマーカーを同定するための方法を包含する。実施形態において、方法は、細胞応答測定系において、対象由来の単離された疾患細胞試料を治療剤と接触させるステップと、治療剤(単数または複数)の投与前の細胞応答パラメータのベースライン測定値と比較して、治療剤(単数または複数)に応答して疾患細胞試料の細胞応答パラメータに変化が生じるか決定するステップであって、細胞応答パラメータの変化が、薬剤(単数または複数)が、個々の対象における疾患に対し治療上の有効性を有することを示し(レスポンダー)、変化の欠如が、治療剤が、対象の疾患に対し有効性を持たないことを示す(ノンレスポンダー)ステップとを含む。実施形態において、方法は、他のバイオマーカーの治療剤に対し応答性である対象由来の細胞をさらに特徴付けるステップ、および/または他のバイオマーカーの治療剤に対し応答性ではない対象由来の細胞をさらに特徴付けるステップをさらに含む。実施形態において、他のバイオマーカーは、遺伝子突然変異、一塩基多型、遺伝子発現レベル、タンパク質、タンパク質突然変異、スプライスバリアント、細胞表面マーカー、タンパク質または核酸の過剰発現、核酸の増幅、細胞形態およびそれらの組み合わせを含む。
【0077】
さらに他の実施形態において、特定の対象に最適な治療レジメまたは薬物の組み合わせを決定するための方法は、細胞の少なくとも1種の生理的パラメータを測定する機器において、複数の治療剤組み合わせを同じ対象由来の別々の疾患細胞試料に投与するステップであって、各治療法組み合わせが、同じ対象由来の別々の疾患細胞試料に投与されるステップと、ベースライン測定値と比較して、各治療法組み合わせに対する各細胞試料の生理応答を決定するステップであって、生理応答が、可能な治療法組み合わせの最も効果的な治療法組み合わせを示すステップとを含む。実施形態において、方法は、少なくとも1種の細胞応答または生理的パラメータの変化をもたらす治療剤または治療剤の組み合わせを選択するステップをさらに含む。実施形態において、方法は、少なくとも1種の細胞応答または生理的パラメータの変化をもたらす治療剤または治療剤の組み合わせを対象に投与するステップをさらに含む。
【0078】
別の態様において、方法は、細胞応答測定系において、1種または複数の治療剤を対象由来の少なくとも1種の単離された疾患細胞試料に投与するステップと、治療剤(単数または複数)の投与前の細胞応答パラメータのベースライン測定値と比較して、治療剤(単数または複数)に応答して疾患細胞試料の細胞応答パラメータに変化が生じるか決定するステップと、細胞応答パラメータの変化を引き起こす治療剤を選択するステップと、少なくとも1種の細胞応答または生理的パラメータの変化をもたらす治療剤を対象に投与するステップとを含む、疾患を処置するための治療剤を選択することにより、疾患のために患者を処置するステップを含む。治療剤は、特定の生物学的経路に標的化されている治療剤、細胞増殖を阻害する治療剤、細胞死滅を増強させる治療剤、炎症を阻害する治療剤、微生物を死滅させる治療剤および/または免疫応答を増強させる治療剤を包含する。治療剤が特定の生物学的経路に標的化されている実施形態において、治療剤は、細胞表面受容体と相互作用し、受容体に対するリガンドの作用を阻害することができる。例えば、一部の乳がん細胞は、上皮成長因子受容体(EGFR)に対し陽性であり、上皮成長因子(EGF)に応答する。個々の対象の細胞に対するEGFの相互作用を阻害する治療剤の有効性は、リガンドの存在および非存在下で決定することができる。
【0079】
他の実施形態において、治療剤は、細胞増殖および/または細胞死滅を阻害する。このような場合、細胞応答または生理的パラメータの変化の速度は、試料において測定することができ、細胞死を引き起こすまたは細胞増殖を阻害する治療剤の有効性を示す。実施形態において、細胞応答の変化の速度は、治療剤ならびに増殖を増強させかつ/または細胞死滅を阻害する公知の薬剤の存在および/または非存在下で決定される。
【0080】
本開示の他の態様において、キットが提供される。実施形態において、キットは、輸送培地を含有する、個々の対象由来の疾患細胞試料のための容器と、輸送培地を含有する、対照細胞試料のための容器と、バイオセンサーと、バイオセンサーからのデータを、規定の期間にわたる、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O2、CO2、グルコースおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞生理応答パラメータの変化を示す出力へと変換し、出力を、応答なし、弱い応答性および応答性として分類し、分類による報告を作成するためのコンピュータ実行可能命令を有する非一過性コンピュータ可読媒体とを含む。
【0081】
細胞試料
本発明の実施形態は、対象の罹患細胞に投与された際の治療法の有効性を決定するため、有効性をモニターするため、あるいは治療法の用量を同定するためのシステム、キットおよび方法を包含する。
【0082】
伝統的に、疾患は、疾患に冒されている組織または器官によって分類されてきた。根底にある機序(例えば、遺伝的、自己免疫性応答等)に関するより良い知識により、本発明者らは、現在、同じ組織/器官を冒し、同じ症状等を生じる疾患が、異なる病因を有し得ること、また、不均一な遺伝子発現プロファイルを有し得ることが理解している。加えて、多くの疾患において、治療剤に対しレスポンダーおよびノンレスポンダーが存在することが示された。実施形態において、特定の治療薬の薬物組み合わせが、特定の個体に有効となるか予測または予後判定するため、例えば、個体がレスポンダーであるかノンレスポンダーであるか決定するために、本明細書の方法において、レスポンダーおよびノンレスポンダーが同定されるいかなる病型を用いてもよい。
【0083】
本来不均一であり、レスポンダーおよび多くのノンレスポンダーを有することが公知の病型の一例は、がんである。がんは、典型的に、組織型にしたがって分類される。しかし、がんの不均一性のより的確な説明は、異なるがんの異なる突然変異において反映される。がんの不均一性のさらにより的確な説明は、特定の患者の細胞における突然変異の実際の機能的、生理的結果である。例えば、前立腺がんは、この器官のがんを引き起こす異なる種類および異なる突然変異を有する。成績および処置は、がんを引き起こす突然変異が、機能獲得型(例えば、タンパク質産生の増加を引き起こす癌原遺伝子)であるか、機能欠損型突然変異(例えば、腫瘍抑制因子)であるか、また、いずれの遺伝子において生じるかに基づき異なる可能性がある。特定のがんの不均一性によって、特定の治療剤に対する不均一な応答が存在し得ることが予想されよう。本発明の実施形態は、治療剤または治療剤のパネルに対する特定の対象のがん細胞を検査して、特定の対象のがんに特異的な治療剤または最も有効な治療剤の有効性を決定して、対象のための処置を選択することを可能にする。
【0084】
本発明の実施形態は、個々の対象由来のがん細胞の疾患細胞試料を包含する。係るがん細胞は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、副腎皮質癌、肛門がん、虫垂がん、星状細胞腫、基底細胞癌、肝外胆管がん、膀胱がん、骨がん、骨肉腫、悪性線維性組織球腫、脳幹神経膠腫、中枢神経系非定型奇形/ラブドイド腫瘍、中枢神経系胚芽腫、中枢神経系胚細胞腫瘍、頭蓋咽頭腫、上衣芽細胞腫、上衣腫、髄芽腫、髄上皮腫、乳がん、中等度分化の松果体実質腫瘍、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、松果体芽腫、気管支腫瘍、カルチノイド腫瘍、子宮頚がん、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄増殖性障害、結腸がん、結腸直腸がん、皮膚性T細胞リンパ腫、腺管上皮内癌(DCIS)、子宮内膜がん、食道がん、感覚神経芽腫、ユーイング肉腫、性腺外胚細胞腫瘍、眼球内黒色腫、網膜芽細胞腫、線維性組織球腫(fibrous histocytoma)、胆嚢がん、胃がん、胃腸カルチノイド腫瘍、胃腸間質性腫瘍(GIST)、妊娠性絨毛性腫瘍、グリオーマ、ヘアリー細胞白血病、心臓がん、肝細胞がん、ランゲルハンス細胞組織球症(Histocytosis)、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、膵島細胞腫瘍、カポジ肉腫、腎細胞がん、喉頭がん、口唇がん、肝臓がん、非浸潤性小葉癌(LCIS)、肺がん、メルケル細胞癌、メラノーマ、中皮腫、口内(mouth)がん、多発
性骨髄腫、鼻腔および副鼻腔がん、鼻咽頭がん、ニューロブラストーマ、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん、口腔がん、中咽頭がん、卵巣がん、膵臓がん、乳頭腫、パラガングリオーマ、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、松果体実質、下垂体腫瘍、胸膜肺芽細胞腫、前立腺がん、直腸がん、横紋筋肉腫、唾液腺がん、扁平上皮癌、小腸がん、精巣がん、咽喉がん、甲状腺がん、尿管がん、尿道がん、子宮がん、腟がん、外陰部がんおよびウィルムス腫瘍に由来し得るが、これらに限定されない。
【0085】
自己免疫性疾患は、自己抗原に対する免疫系活性化による炎症の増加によって特徴付けられる。現在の治療法は、B細胞等の免疫系細胞および抗TNFα等の炎症性分子を標的とする。治療法は、免疫モジュレートまたは免疫抑制剤として広く特徴付けることができる。薬物は、TNFアルファ、インテグリン、スフィンゴシン受容体およびインターロイキン等、特定の分子に標的化することができる。他の薬物は、副腎皮質ステロイド等、抗炎症剤として作用する。さらに他の事例において、薬物は、メルカプトプリンおよびシクロホスファミド等、免疫抑制剤である。自己免疫性状態に関して、ある特定の治療法に対する応答に関して末梢血細胞を試験することができる。他の実施形態において、炎症部位の組織試料、例えば、関節リウマチにおける滑膜組織または潰瘍性大腸炎の結腸組織。
【0086】
例えば、一部の関節リウマチ患者は、抗TNFα抗体に対しノンレスポンダーであることが公知である。実施形態において、RAを有すると疑われる患者から末梢血細胞を得て、患者のTNF受容体の細胞シグナル伝達能力および関連するMAPK経路の減少を用いて、患者が、免疫調節性または免疫抑制剤化合物に対しレスポンダーまたはノンレスポンダーである可能性が高いか決定することができる。同様に、IL-6、インターフェロンアルファ、インターフェロンガンマその他を標的とする治療法等、他の治療法を同じ仕方で検査することができる。他の実施形態において、多発性硬化症の患者は、インターフェロンベータに対しノンレスポンダーであることが公知である。対象由来の細胞試料を薬物のパネルに対し検査して、細胞生理的パラメータの変化を誘導することにより、あるとすれば、いずれの薬物が特定の対象に有効であるか理解することができる。有利な成績の例は、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology)(ACR)判断基準に
よって決定される細胞炎症パラメータの低下、あるいは血液脳関門機能を強化するための細胞接着の増加となる。
【0087】
他の実施形態において、患者は、微生物、異物または外来性病原因子による細胞の感染に起因する疾患を有し得る。微生物に感染した血液細胞または組織試料は、様々な抗生物質、抗ウイルス薬または他の治療候補に対する応答性に関して評価することができる。例えば、C型肝炎感染症には、ウイルス機能を低下させる多数の異なる治療剤が存在し、感染した組織試料を1種または複数の治療剤と接触させ、細胞生理的パラメータの変化を検出することができる。感染した組織の細胞生理的パラメータに変化を生じる治療剤、および/または最少用量で細胞生理的パラメータに変化を生じる治療剤が選択される。細胞生存の増加または細胞成長の増加等の成績が、有利と考慮される。特定の受容体型または細胞経路の撹乱を介したウイルス侵入の遮断等により、直接的にヒト細胞をもたらすよう治療法が設計された他の実施形態において、本明細書の他の実施形態に記載されている前記治療法により、受容体結合または経路撹乱に関して患者細胞を検査することができる。
【0088】
実施形態において、治療法を開始する前、治療法の間、治療法の後、緩解の間、再燃した際に細胞試料を得ることができる。本明細書に記載されている方法は、処置前、処置の間、患者が抵抗性を生じる場合、再燃した際の治療上の有効性の予測に有用である。本開示の方法は、治療剤または薬剤の組み合わせに対するレスポンダーまたはノンレスポンダーの予測としても有用である。
【0089】
実施形態において、細胞は、いかなる種類の固定液によっても接触または処置されず、パラフィンまたは他の材料に包埋されず、いかなる検出可能な標識もない。実施形態において、細胞が、細胞全体、生存細胞および/または無標識細胞のままであることが好ましい。一部の実施形態において、細胞試料は、罹患組織および健康組織の両方のために用意される。一部の実施形態において、細胞試料は、生存した形態および固定された形態の両方で用意される。固定された形態で用意される細胞試料は、生存細胞との比較のための対照となり、特に、追加的なバイオマーカーの同定および相関の改善のために、本明細書に記載されている方法を踏まえて分析される。
【0090】
本発明の実施形態において、個々の対象由来の細胞は、治療上の有効性の決定に用いられる。細胞は、周知の方法により収集および単離することができる(すなわち、スワブ、生検等)。罹患および非罹患細胞の両方を用いることができる。非罹患細胞は、陰性対照、ベースライン尺度、経時的測定のための比較等として用いることができる。実施形態において、同じ対象由来の組織細胞の対照試料を得ることもできる。対照試料は、対象における別の健康な組織から、あるいは罹患組織試料と同じ器官由来の健康な組織から採取することができる。罹患細胞は、活動性疾患を有する組織から抽出される細胞である。実施形態において、罹患細胞は、乳がん細胞等、腫瘍細胞となり得る。がん性細胞は、必ずしも腫瘍から抽出される必要はない。例えば、白血病性細胞は、白血病患者の血液から収集することができる。細胞は、転移部位、循環腫瘍細胞、原発性腫瘍部位および再発性腫瘍部位等、異なる組織部位から収集することができ、細胞応答性を互いに比較することができる。別の実施形態において、罹患細胞は、関節リウマチ等、自己免疫性疾患の部位から抽出することができる。
【0091】
実施形態において、各組織試料における細胞の数は、好ましくは、少なくとも約5000個の細胞である。実施形態において、組織試料における細胞数は、約5000~百万個以上の細胞に及び得る。細胞試料は、血液、血清、血漿、尿、精液、精子液、精漿、前立腺液、前射精液(カウパー腺液)、排泄物、涙、唾液、汗、生検、腹水、脳脊髄液、リンパ液、髄または毛髪からの単離を包含するが、これらに限定されない。
【0092】
実施形態において、対象由来の細胞の抽出は、CReMSと同じ場所で行われる(例えば、研究室、病院)。したがって、細胞は、対象からバイオセンサーへの時間を埋めるための周知の移行培地において懸濁または保存することができる。別の実施形態において、対象由来の細胞の抽出は、CReMSとは異なる場所で行われる。細胞試料を得たら、細胞生存率を保持する培地において細胞試料を維持する。分析地への輸送時間の長さに応じて、異なる培地を用いることができる。実施形態において、組織試料の輸送に最大10時間を要し得る場合、培地は、400mosm/L未満の浸透圧を有し、Na+、K+、Mg+、Cl-、Ca+2、グルコース、グルタミン、ヒスチジン、マンニトールおよびトリプトファン、ペニシリン、ストレプトマイシンを含み、必須アミノ酸を含有し、その上、非必須アミノ酸、ビタミン、他の有機化合物、微量ミネラルおよび無機塩、血清、細胞抽出物または成長因子(増殖因子)、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、ホスホリルエタノールアミン(phosphophorylethanoloamine)、トリヨードチロニン(tridothyronine)、ピルビン酸ナトリウム、L-グルタミンをさらに含有して、ヒト初代細胞の増殖およびプレーティング効率を支持することができる。係る培地の例として、初代細胞管理の実施のための、セルシオ(Celsior)培地、ロズウェルパーク記念研究所(Roswell Park Memorial Institute)培地
(RPMI)、ハンクス緩衝食塩水およびマッコイの5A、イーグル基本最小培地(EMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、リーボビッツ(Leibovitz)L-1
5またはそれらの修正物が挙げられる。実施形態において、培地および容器は、エンドトキシンフリー、非発熱性ならびにDNaseおよびRNaseフリーである。
【0093】
細胞応答測定系(「CReMS」)
本発明のシステムおよび方法は、細胞応答測定系(CReMS)を利用する。CReMSは、細胞内、細胞内および細胞間、ならびに細胞および計装機器の間の生理的パラメータの変化を定量的に決定することができる機器を指す。生理的パラメータの変化は、分析物(細胞外マトリックス、細胞シグナル伝達分子または細胞増殖、組織、細胞、代謝物、異化産物、生体分子、イオン、酸素、二酸化炭素、炭水化物、タンパク質等の非限定例を包含)の変化を決定することにより測定される。実施形態において、バイオセンサーは、単離された無標識生存細胞全体における生理的パラメータの変化を測定している。実施形態において、治療および/またはアクチベーター剤の種類により予想される変化を測定することができるバイオセンサーが選択される。
【0094】
CReMSの一例は、バイオセンサーである。バイオセンサーの例は、電気化学的バイオセンサー、電気的バイオセンサー、光学的バイオセンサー、質量感度バイオセンサー、サーマルバイオセンサーおよびISFETバイオセンサーである。電気化学的バイオセンサーは、電位差測定的、電流測定的および/またはボルタメトリ特性を測定する。電気的バイオセンサーは、表面伝導率、インピーダンス、抵抗または電解質伝導率を測定する。光学的バイオセンサーは、蛍光、吸収、透過率、密度、屈折率および反射を測定する。質量感度バイオセンサーは、圧電性結晶の共鳴周波数を測定する。サーマルバイオセンサーは、反応および吸着の熱を測定する。ISFETバイオセンサーは、イオン、元素および酸素や二酸化炭素等の単純分子、グルコースおよび生命科学における他の対象とする代謝物を測定する。実施形態において、バイオセンサーは、インピーダンス機器、フォトニック結晶機器、光導波路機器、表面プラズモン共鳴機器、水晶振動子共鳴器/マイクロバランスおよびマイクロカンチレバー機器からなる群から選択される。実施形態において、光学的バイオセンサーは、生細胞、病原体またはそれらの組み合わせにおける分子認識または分子刺激事象を変換するための光学的トランスデューサーを含むことができる。特定の実施形態において、機器は、インピーダンス機器である。
【0095】
タンパク質または他のin vitro生体分子相互作用の測定に用いられるバイオセンサーの例において、特定のタンパク質の質量の捕捉は、有意義な生化学的および生物物理学的な値に翻訳される。捕捉された特定のタンパク質の分子量に関与する捕捉された質量による単純計算を適用して、モル数を評価し、平衡結合定数および当業者に公知の他の相互作用に関する記述的な値を導く。細胞アッセイに用いられるバイオセンサーの例において、細胞表面における特定の接着分子は、外部化学物質または他の刺激の適用により、特定の細胞経路を経て、センサーの表面および他の近隣細胞の近くにおけるその付着および形態をモジュレートする。
【0096】
バイオセンサーは、このようなモジュレーションを検出することができ、これは、刺激および刺激に対する応答に用いられる細胞内の経路に特有なものとなるような仕方で選択することができる。適宜設計されると、前記細胞アッセイに関するバイオセンサー結果は、分子および機能の見地から精巧に定量的となり得る。前記バイオセンサー結果は、さらなる特有性のために応答の時間的パターンとなり得る。細胞内の特定の経路をオンオフにすることが公知の生体分子アクチベーターまたは撹乱因子は、CReMSバイオセンサーシグナルの特異性を決定するための対照として用いることができる。バイオセンサー結果の時間的応答のカーブデコンボリューションのための方法(例えば、対照応答との非線形ユークリッド比較)は、さらにより非常に精密な特定の細胞応答に適用することができる。細胞バイオセンサーアッセイにおける力価決定外部刺激の使用は、さらなる生化学的および生物物理学的パラメータの説明をもたらすこともできる。
【0097】
無標識センサーの一例は、高周波水晶共鳴器または水晶振動子マイクロバランス(QCM)または共鳴カンチレバーである。共鳴器は、その表面にパターン化金属電極を備える水晶振動子を包含する。水晶材料は、電圧が印加される際に十分に特徴付けられた共鳴特性を有する。電極に特定の周波数の交流電圧を印加することにより、結晶は、特徴的な周波数で発振する。発振周波数は、センサー表面に質量が捕捉されると、定量的な仕方でモジュレートされる。追加的な質量は、より低い共鳴器周波数を生じる。したがって、水晶発振器の共鳴周波数の僅かな変化を測定することにより、研究している生体分子または細胞に標識を付着させなくても、配置された質量のごく僅かな変化を測定することができる。
【0098】
イオン選択性電界効果トランジスタ(ISFET)機器は、選択されたイオン、元素および酸素や二酸化炭素等の単純分子、グルコース、ならびに生命科学における他の対象とする代謝物を測定することができる小型化されたナノスケールの機器である。それらは、電気機械的操作レベルおよび生物学的応用レベルで広範囲に説明されてきた。今日まで、それらは、疾患プロセスにおける提案される治療介入に対する応答もしくは抵抗性またはそれらの時間的パターンを識別するための、特定の患者の細胞による使用に関しては説明されていなかった。
【0099】
光学的バイオセンサーは、センサー表面にカップリングされる光のいくつかの特徴に測定可能な変化を生じるよう設計される。このアプローチの利点は、励起源(センサーの照明源)、検出トランスデューサー(反射または透過光を集める機器)およびトランスデューサー表面それ自体の間の直接的な物理的接続が必要とされないことである。言い換えると、光学的バイオセンサーへの電気的接続の必要がなく、センサーと大部分の生物システムの安定化および試験に必要とされる流体とのつなぎ合わせに関して方法を単純化する。質量を直接的に検出するのではなく、あらゆる光学的バイオセンサーは、検出された物質の誘電体誘電率に頼って、測定可能なシグナルを生じる。誘電体誘電率の変化は、自由空間における光の速さの培地における光の速さに対する比の差に関係する。この変化は、培地の屈折率を本質的に表す。屈折率は、培地の比誘電率の平方根として公式に定義される(この関係性のより明確な処理に関しては、マクスウェルの方程式を参照)。光学的バイオセンサーは、タンパク質、細胞およびDNA等、あらゆる生物学的材料が、自由空間よりも高い比誘電率を有するという事実に頼る。したがって、これらの材料は全て、通過する光の速さを遅らせる固有の能力を保有する。光学的バイオセンサーは、生物学的材料を含有する培地を通る光の伝播速度の変化を、センサー表面に捕捉された生物学的材料の量に比例する定量化可能なシグナルに翻訳するよう設計される。
【0100】
異なる種類の光学的バイオセンサーとして、エリプソメーター、表面プラズモン共鳴(SPR)機器、イメージングSPR機器、格子結合イメージングSPR機器、ホログラフィックバイオセンサー、干渉バイオセンサー、反射干渉分光法(RIFS)、比色分析干渉バイオセンサー、差干渉計、ハートマン(Hartman)干渉計、二重偏波干渉計(DPI
)、導波管センサーチップ、統合入力格子結合機器、チャープ導波管格子機器、フォトニック結晶機器、ウッドの回折異常(Wood’s Anomalies)に基づく導波モード共鳴フィルター機器、三角銀粒子アレイが挙げられるがこれらに限定されない。また、可視、紫外、近赤外および赤外等が挙げられるがこれらに限定されない、電磁スペクトルの種々の波長を測定する機器をさらに包含する。操作のモードとして、散乱、非弾性散乱、反射、吸光度、ラマン、透過率、電気的横波および磁気的横波が挙げられるがこれらに限定されない。
【0101】
表面プラズモン共鳴機器は、局所的屈折率の変化を検出することにより、金属表面における生体分子の結合事象を測定する光学的バイオセンサーである。一般に、ハイスループットSPR装置は、自動サンプリングロボット、高分解能CCD(電荷結合素子)カメラ、およびプラスチック支持プラットフォームに包埋された4アレイを超える細胞をそれぞれ備える金または銀コーティングされたガラススライドチップからなる。SPR技術は、特定の金属界面、とりわけ銀および金において励起することのできる表面プラズモン(特殊電磁波)を活用する。入射光が、臨界角を超える角度で金属界面とカップリングされると、入射光から表面プラズモンへのエネルギーの共鳴伝達のために、反射光は、反射性において急激な減衰(SPR最小)を提示する。表面における生体分子の結合は、局所的屈折率を変化させ、SPR最小のシフトをもたらす。SPRシグナルの変化をモニターすることにより、表面における結合活性をリアルタイムで測定することが可能になる。
【0102】
SPR測定は、屈折率変化に基づくため、分析物の検出は、無標識かつ直接的である。分析物は、いかなる特殊な特徴または標識(放射性または蛍光性)も要求せず、多段階検出プロトコールの必要がなく直接的に検出することができる。測定は、リアルタイムで行うことができ、動態データおよび熱力学的データの収集を可能にする。最後に、SPRは、広範な分子量および結合親和性にわたる多数の分析物を検出することができる。よって、SPR技術は、細胞応答測定系として非常に有用である。
【0103】
生きた患者細胞の複素インピーダンス変化(デルタZまたはdZ)の測定のためのCReMSは、本実施形態に記載されており、インピーダンス(Z)は、オームの法則(Z=V/I)によって説明される電圧の電流に対する比に関連付けられる。例えば、患者細胞が付着された電極に定電圧が印加され、差次的周波数において、その周囲を、細胞間をおよび細胞を通って流れる電流を生じる。このCReMSは、細胞との電極界面における局所イオン環境に対し高感度であり、電圧および電流増減の関数としてこれらの変化を検出する。正常機能またはその撹乱の結果としての細胞の生理的変化は、電極周囲の電流の流れに定量化可能な変化を生じ、係るCReMSにおいて測定されるシグナルの振幅および特徴に影響を与える。
【0104】
実施形態において、バイオセンサーは、事象特異性を有する包括的表現型の変化を検出する。包括的表現型は、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O2、CO2、グルコースおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される1種または複数の細胞応答パラメータを含む。事象特異性に関して、この種の治療および/またはアクチベーター剤に予想される変化である、細胞試料の変化を反映する細胞パラメータが選択される。例えば、治療剤が、細胞骨格要素を標的とすることが公知である場合、係る薬剤と接触した細胞は、該薬剤の存在下で細胞接着の変化を示すことが予想される。
【0105】
一部の実施形態において、付着パターンの変化は、細胞接着の変化である。場合によっては、細胞接着の変化は、屈折率の変化またはインピーダンスの変化によって示される。さらに他の実施形態において、付着パターンの変化は、基礎形態の変化、細胞密度の変化または細胞サイズもしくは細胞形状の変化である。特定の実施形態において、基礎形態の変化は、細胞極性の変化である。実施形態において、細胞シグナル伝達の減少は、細胞骨格組織化の変化を示す。
【0106】
実施形態において、本開示の方法は、無標識であり、リアルタイムで測定することのできる細胞試料の分析を提供する。実施形態において、分析される細胞試料は、無標識であり、生存しており、細胞を固定するためのいかなる処置にも付されない。実施形態において、本開示の方法およびキットにおいて用いられる治療および/またはアクチベーター剤も無標識である。今日まで、無標識方法は、治療上の有効性の決定に有効な仕方で適用されたことがない。
【0107】
無標識アッセイは、標識アッセイの時間および紛らわしい複雑化要因を低下させることにより、スクリーニングキャンペーンの時間および費用を低下させることができる。遺伝子発現、遺伝子突然変異およびタンパク質機能を同定および定量化することができるアッセイは、ラージスケール並列処理を可能にするフォーマットで行われる。無標識アッセイを用いて、数万から数百万種のタンパク質-タンパク質またはDNA-DNA相互作用を同時に、より経済的に行うことができる。
【0108】
多種多様な標識による方法とは対照的に、分子相互作用の検出を可能にする方法は相対的に少数しか存在せず、標識なしでの細胞機能の検出は、さらにより少数である。無標識検出は、治療およびアクチベーター剤の分子フォールディングによって、細胞上の活性部位の遮断における標識の効果によって、あるいは細胞内に有効に置くことのできる実験においてあらゆる分子に均等に機能する適切な標識を見出せないことによって生じる実験的不確実性を除去する。無標識検出方法は、クエンチング、保存可能期間およびバックグラウンド干渉による実験的アーチファクトを除去しつつ、アッセイ開発に要求される時間および労力を大幅に単純化する。
【0109】
標識は、生化学的および細胞に基づくアッセイの主柱であるが、その使用には不利益が存在する。標識は、あらゆるアッセイ方法の大部分を構成し、特に、ヒト細胞における複雑な活動の研究の文脈におけるいくつかの問題を克服する必要がある。放射性標識の使用は、大量の汚染された材料を生じ、それを用いる者に対する害(細胞レベルの)を防止する規制方法により特殊施設において用いなければならない。フルオロフォアの励起/発光効率は、時間および光への曝露によって劣化し、的確かつ正確であるべき標識の能力を低下させ、アッセイが、時間的情報が得られないようにエンドポイント様式で1回のみ読み取られることを要求する。あらゆる標識に基づくアッセイは、同種および均一な様式での標識の付着のためのプロセス、標識が直線的に定量的となることや相互作用または測定されているプロセスに干渉または影響しないことの決定のためのプロセスの開発に相当な量の時間を要求する。複合混合物における標識の均一な適用は、プロセスが自然に進むのに必要とされる全分子の存在により複雑化される。標識を加えることは、該分子機能の間接的な可視化を可能にするだけであり、全システム機能の直接的な可視化はできない(すなわち、いくつかの拡大された仮定が必要となり得る)。細胞活性は、標識による的確な測定がさらにより困難である。標識を、細胞に対して正しい仕方で正しい位置において正しい分子に乗せる仕方に関する解明に加えて、標識が、正常な細胞プロセスを妨害していないことを確実することは現在不可能であり、これにより、in vivo条件への外挿を根拠に乏しいものとする。
【0110】
無標識検出は、一般に、DNA分子、ペプチド、タンパク質または細胞等、生物学的化合物または生物学的実体のいくつかの物理特性を直接的に測定することができるトランスデューサーの使用に関与する。あらゆる生化学的分子および細胞は、センサーの1種を用いて存在または非存在、増加または減少および修飾を示すために用いることができる、容積、質量、粘弾性、誘電体誘電率、熱容量および伝導率に関して有限の物理値を有する。その上、生物系は、分子を利用して、エネルギーを得て、O2/CO2消費/生成、グルコース産生/消費、ATP産生/消費等、その生命過程を行い、これにより、有限の期間にわたってその周囲(environ)におけるpH等、測定可能な変化を引き起こす。センサ
ーは、これら物理特性の1種を、測定可能な電流または電圧等の定量化可能なシグナルに変換することができるトランスデューサーとして機能する。
【0111】
場合によっては、バイオセンサーとしてトランスデューサーを用いるために、トランスデューサーの表面は、望まれない材料が付着できないようにしつつ、タンパク質等の特定の材料または特定の細胞型を選択的に捕捉する能力を持たなければならない。選択的検出能は、トランスデューサーの表面上に化学分子の特定のコーティング層を構築することによりもたらされる。センサー表面に付着される材料は、センサーコーティングと称され、一方、検出される材料は、分析物と呼ばれる。よって、場合によっては、バイオセンサーは、トランスデューサーに付着する材料から測定可能なシグナルを生じることができるトランスデューサーと、被験試料由来の標的分析物に結合することができる受容体リガンドを含有する特定の認識表面コーティングとの組み合わせである。
【0112】
実施形態において、特定の細胞構成成分または経路に関連するコーティングが、バイオセンサーのために選択される。例えば、係る事例において、細胞生理的パラメータが、細胞接着の変化である場合、バイオセンサー表面への細胞試料における細胞の接着をもたらすコーティングが選択される。実施形態において、バイオセンサーへの細胞の接着を増強するコーティングは、細胞外マトリックス、フィブロネクチン、インテグリンその他を包含する。他の実施形態において、細胞表面マーカーに基づき特定の細胞型に結合するコーティングが選択される。実施形態において、係る細胞表面マーカーとして、CD20、CD30、EGFR、EGFR-TK、PI3K、MEK1、MEK2、HER2受容体、Her3受容体、Her4受容体、VEGFRおよび他の細胞表面がんバイオマーカーが挙げられる。
【0113】
実施形態において、バイオセンサーは、生体分子コーティングでコーティングされている。細胞に接触するCReMS表面は、細胞の添加に先立ち、細胞の添加の間に、あるいは細胞の添加の後に、生体分子コーティングを含有し得る。コーティング材料は、合成、天然、動物由来、哺乳動物性となり得る、あるいはセンサーに置かれた細胞によって作製される。例えば、生体分子コーティングは、インテグリン、アドへリン、カドヘリンならびに他の細胞接着分子および細胞表面タンパク質に会合することが公知の細胞外マトリックス構成成分(例えば、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、細胞間CAM、血管性CAM、MAdCAM)、またはその誘導体を含むことができる、あるいは天然起源の生化学物質、リジンおよびオルニチンに基づくポリマー型分子であるポリリジンまたはポリオルニチン等、生化学物質を含むことができる。アミノ酸等、天然起源の生化学物質に基づくポリマー型分子は、バイオセンサーに特定の細胞表面タンパク質を付着させるよう設計された、天然起源の生化学物質のアイソマーまたはエナンチオマー、抗体、断片または抗体のペプチド誘導体、相補性決定領域(CDR)を用いることができる。
【0114】
バイオセンサーは、細胞を播種するための区域を含む。例えば、バイオセンサーは、細胞を播種するためのウェルを含有するマイクロタイタープレートを含むことができる。1種または複数の細胞試料は、表面への物理的吸着により、バイオセンサーの別個の位置に播種することができる。バイオセンサーは、1、10、24、48、96、384個以上の別個の位置を含むことができる。細胞試料は、約100~約100,000個の個々の細胞またはその間のいずれかの細胞数を含むことができる。最適な細胞試料は、バイオセンサーにおける別個の位置のサイズおよび性質に依存する。細胞試料は、約5000細胞以下;約10,000細胞以下;約15,000細胞以下;約20,000細胞以下;約25,000細胞以下;または約50,000細胞以下を含むことができる。細胞試料は、約1000~約2500細胞;約1000~約5000細胞;5000~約10,000細胞;約5000~約15,000細胞;約5000~約25,000細胞;約1000~約10,000細胞;約1000~約50,000細胞;および約5000~約50,000細胞を含むことができる。
【0115】
実施形態において、細胞応答または生理的パラメータの変化は、規定の期間にわたり測定される。実施形態において、規定の期間とは、対照細胞が、生理的パラメータの出力の変化が20%以下で変動する定常状態に達するのに要する時間の量である。実施形態において、変化は、細胞において1時間以下で観察される。他の実施形態において、変化は、細胞において、少なくとも1分間~約60分間およびその間の全期間で観察される。他の実施形態において、細胞応答の変化は、約10分~約1週間または200時間測定される。実施形態において、治療剤が、細胞経路を標的とする場合、細胞応答は、約10分~約5時間、約10分~約4時間、約10分~約3時間、約10分~約2時間、約10分~約1時間または約10分~約30分またはその間のいずれかの時点で測定される。実施形態において、治療剤が、細胞増殖または細胞死滅または細胞抵抗性に影響を与える場合、細胞応答は、約1時間~約200時間測定される。さらに他の実施形態において、1分~200時間の間の応答の組み合わせ(あるいは完全時間的パターンとして記載)が、細胞および抵抗性を生じる細胞能力における化合物の治療効果の決定に用いられる。この時間枠は、患者における可能性の高い応答およびその維持の査定において重要な、短期経路シグナル伝達、動的再プログラム化およびより長期の細胞応答の重要なプロセスを網羅する。
【0116】
特定の対象の細胞がバイオセンサーに播種されると、ベースライン測定値を決定することができる。ベースライン測定値は、同じ細胞試料または対照細胞試料において得ることができる。対照試料は、同じ患者および/または同じ組織由来の健常細胞または罹患細胞を含むことができる。対照試料は、薬剤に応答することが公知の疾患細胞を含むことができる。他の実施形態において、対照試料は、薬剤に応答しないことが公知の疾患細胞を含む。対照試料は、細胞健康、細胞代謝または細胞経路活性に関する標準化された応答を誘発するよう設計された、特定の患者の健康または罹患細胞へのアクチベーター剤の適用を包含することができる。
【0117】
対照は、疾患および/または薬物の種類毎に決定される。一慣例は、同じ患者由来の健常細胞対照に対する比較である。例えば、細胞死滅薬物により、方法は、健常細胞を上回る疾患細胞死滅の利益を示して、有意な治療指数を達成する。他の理想的な実施形態は、経路機能および薬物による制御を決定するための経路ツールの使用を包含する。標的化治療法の例において、ツールは、経路を撹乱し、撹乱を破壊する標的化薬物の能力を決定するための対照として用いられる、アクチベーター剤、生物試薬または小分子である。さらに他の実施形態のために、細胞における薬物の生理的効果は、例えば、酸素消費の時間的パターンもしくは速度、酸性化の速度もしくは時間的パターン、イオン流動または代謝物の代謝回転に留意しつつ、アクチベーター剤による外因性撹乱なしで測定される。
【0118】
バイオセンサーシグナルの連続的時間経過は、好ましい実施形態である。薬物処置に対する患者細胞応答を示す、時間対バイオセンサーシグナルプロットにおいて特徴的なパターンが存在する。このようなパターンの評価は、効果的な事象の存在の同定に有用である。生きた完全に機能的な細胞の時間経過または絶えず変化する測定値は、ある時点のみを表す典型的な細胞全体アッセイにおいて用いられる現在の慣例よりも有益である。本明細書に記載されている方法は、患者において発生する通りの動的システムを測定し、患者応答を決定する最も的確な手段を表す。経路応答の場合、完全な時間経過または時間的パターンの記録は、より複雑な分析を支持する能力において優れており、単一の測定に最適な時点の選択を不必要にする。
【0119】
対照に対する比較は、陽性または陰性対照ウェルに対する被験ウェルの、時間的最大、最小で、または最大シグナル-最小シグナルの間の差として、または時間経過プロットの積分した曲線下面積(AUC)を比較することにより、または他の非線形比較により行うことができる。バイオセンサーによる測定によってのみ支持される追加的な分析は、最大/最小に達する時間および時間的経過の他の導関数である。より長期の応答の場合、比較の時間は、処置または複数の薬物適用の数日または1週間後の特定の時点のものとなり得る。より長い時間経過で、傾きの変化を比較することも、あるいは1週間の薬物処置の初め、中間または終わりに時間対バイオセンサーシグナルプロットの第2の導関数を比較することもできる。対照と比較した有意な変化は、細胞代謝の削減に関連するバイオセンサーシグナルの絶対的降下を包含することができる。あるいは、降下に続いて、アッセイにおける薬物に対する抵抗性の発生を示すことができる増加が起こり得る。その上、非線形ユークリッド分析を用いて、完全な時間経過にわたる対照および患者試料の間の総計差の尺度を作製することができる。これもまた、患者の成績の予測に関して有意となる。
【0120】
実施形態において、規定の期間にわたるバイオセンサーの出力は、細胞指数として表される。細胞指数は、検査出発点からのインピーダンスの変化である。細胞指数は、インピーダンスの測定値として定義され、例えば、10kHzの固定された電気的周波数および固定された電圧において測定することにより、本発明の一事例において適用することができる。
これは、方程式細胞指数i=(Rtn-Rt0)/F
(式中、
i=1、2または3時点、
装置が10kHz周波数で操作される一例において、F=15オーム、
Rt0は、時点T0において測定されるバックグラウンド抵抗であり、
Rtnは、細胞添加、細胞生理的変化または細胞撹乱後の時点Tnにおいて測定される抵抗である)
により計算される。
【0121】
細胞指数は、細胞状態を表すための、測定される電気インピーダンスの相対変化として導かれる無次元パラメータである。細胞が、電極に存在しないまたは十分に接着されていない場合、CIはゼロである。同じ生理条件下において、より多くの細胞が電極に付着されている場合、CI値はより大きくなる。したがって、CIは、ウェルに存在する細胞数の定量的尺度である。その上、細胞の生理的状態、例えば、細胞形態、細胞接着または細胞生存率の変化は、CIの変化をもたらす。
【0122】
細胞指数は、存在、密度、付着または出発点もしくはベースラインインピーダンス測定値に基づくそれらの変化の定量的尺度である。ベースライン出発点インピーダンスは、薬物または他の撹乱因子によるいかなる処置にも先立つ細胞の健康、生存率および生理的状態の物理的観察可能な特徴および兆候である。ベースライン出発点は、CELx検査の定性的対照として用いることができる。薬物または撹乱因子の添加は、細胞によって経験される細胞生理的変化の特異性を反映するインピーダンスの時間的パターンを変化させる。細胞生理的状態、例えば、細胞形態、細胞数、細胞密度、細胞接着または細胞生存率の変化は、細胞指数の変化をもたらす。
【0123】
細胞応答または生理的パラメータの変化は、ベースライン測定値との比較により決定される。細胞パラメータまたは生理応答の変化は、CReMSの種類に依存する。例えば、細胞応答の変化が、光学的に決定される場合、物理的に観察可能な変化は、例えば、化学吸光度または透過率のスペクトル波長における光学的密度、表面プラズモン測定機器の変化、またはフォトニック結晶機器により検出される変化の関数として測定することができる。細胞パラメータまたは生理応答の変化が、電気的に決定される場合、物理的に観察可能な変化は、例えば、電極に接着された細胞のミリまたはマイクロインピーダンス変化を用いて測定することができる。pH、グルコース、二酸化炭素またはイオンの変化は、イオン選択性電界効果トランジスタ(ISFET)を用いて電子工学的に測定することができる。
【0124】
他の実施形態において、変化の速度は、治療法に対する細胞生理応答の差の決定に要求される期間のCReMS応答を測定する方法により決定される。変化の速度は、時間経過データの様々な解釈により説明され、速度、または速度の加速を包含する速度のさらなる導関数として表現することができる。
【0125】
実施形態において、細胞応答の変化を決定するための1個または複数のカットオフ値は、公知の応答細胞試料由来の試料のセットおよび公知の無応答患者由来の試料のセットの統計的有意性のための適切な信頼区間を決定するために、標準偏差、シグナルノイズ比、標準誤差、分散分析または当業者により公知の他の統計検定値を決定するステップと、2種の間の差を決定するステップと、両群の信頼区間の間にカットオフ値を設定するステップとを含む方法により決定される。好ましい実施形態は、80~90%信頼区間を包含し、より好ましい実施形態は、>90%信頼区間を包含し、最も好ましい実施形態は、>95%または>99%信頼区間を包含する。実施形態において、カットオフ値は、カットオフ値を用いて盲検の公知試料の状態をレスポンダーまたはノンレスポンダーとして決定し、試料を非盲検化し、試料の状態予測の正確性を決定することにより検証される。単一のカットオフ値の場合、カットオフ値を下回る値または公知のレスポンダーの値により近い値は、患者試料が、治療剤に対する応答性を提示していることを示し、値が、カットオフ値であるもしくはそれを上回る、または公知のノンレスポンダー値の値により近い場合、細胞試料は、治療剤に対するノンレスポンダーとして同定される。
【0126】
一部の実施形態において、規定の期間におけるバイオセンサーの出力は、応答なし、弱い応答性または応答性として分類される。規定の期間における出力は、出力をカテゴリーへと分類するために選択される。実施形態において、規定の期間は、バイオセンサーにおいて細胞が連続的にモニターされた期間のエンドポイントである。実施形態において、期間は、少なくとも60分、60時間または120時間である。実施形態において、応答なしとして分類される出力は、治療剤の投与に先立つベースラインまたは治療剤で処置されない対照細胞の出力値と、僅か少なくとも20%以下、15%以下、10%以下または5%以下の異なる出力値により示される。実施形態において、弱い応答性として分類される出力は、治療剤の投与に先立つベースラインまたは治療剤で処置されない対照細胞の出力値と、少なくとも50%以下かつ5%超の異なる出力値により示される。実施形態において、応答性として分類される出力は、治療剤の投与に先立つベースラインまたは治療剤で処置されない対照細胞と、少なくとも50%超の異なる出力値により示される。実施形態において、対照試料は、同じ対象由来の、治療剤で処置されていない疾患細胞の試料である。
【0127】
治療およびアクチベーター剤
患者が特定の疾患または状態と診断されると、多くの場合、広範囲の処置オプションが存在する。場合によっては、処置が非常に高価となったり、あるいは処置に伴う副作用が重篤であることもあるため、患者が処置に対しレスポンダーまたはノンレスポンダーとなる可能性があるか知ることは有用となる。加えて、患者が抵抗性となる場合、患者の罹患細胞が抵抗性となった後に、他のいずれの処置が効果的となり得るか知ることは有用となる。
【0128】
実施形態において、一部の患者が応答し、その他の患者が応答しない、状態の処置において用いられるいずれかの治療剤(単数または複数)は、本明細書に記載されている方法において分析することができる。例えば、がんに関して、多数の異なるキメラおよびヒト化抗体を包含する、多数の標的化免疫療法が利用できる。自己免疫性状態に関して、炎症性サイトカインまたはその受容体に標的化されている分子等の分子を分析することができる。炎症性サイトカインに標的化されている薬剤の例は、抗TNFα剤、インターフェロンアルファ、インターロイキンを標的とする薬剤その他である。副腎皮質ステロイド、タクロリムス(FK-506またはTACR)(T細胞代謝および増殖を阻害)、シロリムス(SIRO/81768)、ミコフェノール酸(myocophenolic acid)、ミコフェノ
ール酸モフェチル(MMF)、カルシニューリン阻害剤(CI)、シクロスポリン(CsA)およびラパマイシン(mTOR阻害剤)等の免疫抑制剤が挙げられる。
【0129】
実施形態において、本明細書に開示されている方法は、個々の対象由来の罹患細胞の生理的パラメータに変化を引き起こす能力に関する1種または複数の治療剤の検査に関与する。実施形態において、治療剤もまた無標識である。一部の実施形態において、2種以上の治療剤は、同じ患者由来の罹患細胞の別々の試料において、別々にまたは組み合わせて検査することができる。他の治療剤よりも少ない用量で細胞応答または生理的特徴に最大の変化を引き起こす治療剤が選択される。最大の治療効果をもたらす化合物の組み合わせを決定することができる。実施形態において、決定は、患者の健常細胞と比較して、治療指数ならびに他の個々の安全性および許容効果を決定することができる。
【0130】
一部の実施形態において、治療剤が、細胞経路に影響を与える標的化治療剤である場合、細胞応答性の変化は、経路のアクチベーター剤または撹乱因子の非存在または存在下で測定される。ベースライン測定値と比較して、必要に応じて、他の治療剤と比較して、経路の撹乱因子に対する細胞応答性を阻害する治療剤が選択される。
【0131】
他の実施形態において、治療剤が、細胞表面受容体に結合する標的化治療剤である場合、細胞応答性の変化は、受容体に結合するアクチベーター剤または撹乱因子の非存在または存在下で測定される。実施形態において、治療剤は、アクチベーターまたは撹乱因子の前または後に細胞試料に投与される。実施形態において、アクチベーター剤または撹乱因子は、無標識である。細胞表面受容体の密度に関係なく、ベースライン測定値と比較して、必要に応じて、他の治療剤と比較して、アクチベーター剤または撹乱因子に対する細胞応答性を阻害する治療剤が選択される。一部の実施形態において、細胞受容体の密度とは無関係のアクチベーター剤または撹乱因子の作用を阻害する治療剤が選択される。
【0132】
生理的パラメータの変化は、ベースラインまたは健常細胞対照と比較した、パラメータの増加または減少となり得る。変化は、完全アゴニズム、スーパーアゴニズム、不可逆的アゴニズム、選択的アゴニズム、共アゴニズム、インバースアゴニズムまたは部分限定アゴニズム、可逆的および不可逆的アンタゴニズム、競合的アンタゴニズム、非競合的アンタゴニズム、不競合的アンタゴニズムを表すことができる。変化は、適切な対照と比較して、より早く、より遅く生じる、または全く生じない可能性がある。より長いまたはより短い期間生じるよう、変化を選択することができる。可逆的または不可逆的な変化を選択することができる。
【0133】
例えば、細胞シグナル伝達の減少をもたらす治療剤が、自己免疫性状態の処置に選択される。サイトカインの作用を阻害する薬剤に応答する末梢血細胞は、細胞シグナル伝達の減少を示す。別の例において、Her2等の受容体に標的化されているヒト化抗体等、抗がん剤に応答性の疾患細胞に関して、疾患細胞は、EGFファミリー経路シグナル伝達の有意な低下を示す。他の事例において、抗血管新生剤に応答性の疾患細胞に関して、疾患細胞は、VEGF経路シグナル伝達の低下または増殖能力の低下を示す。薬剤の種類毎に測定されるCReMS応答または物理的に観察可能な特徴は、不正に設計された薬物の意図される生理応答に依存性であり、必要に応じて特異的または一般的となり得る。重要なことは、薬物が変化することが意図される応答を検査するための、ある期間にわたる生細胞の生理的測定のためのCReMSの使用である。
【0134】
特定の治療剤を、罹患細胞と、必要に応じて、健常細胞に投与して、特定の治療法の有効性を決定することができる。処置および無処置の罹患および/または健常細胞における治療法の効果を比較するために、罹患細胞および/または健常細胞は、無処置とすることもできる。単一の治療法を投与して、対象が治療的処置にどのように応答するか決定することができる。別の実施形態において、異なる治療法のパネルを特定の対象の細胞に投与することができる。
【0135】
実施形態において、細胞経路の活性化を阻害する治療剤の有効性のためのカットオフ値は、薬物を添加し、生理応答を測定することにより、一実施形態において決定される。別の実施形態において、経路は、薬物前処置ありおよびなしで刺激される。85%信頼区間、あるいは理想的には、90%を超える信頼区間、あるいはより理想的には95%または99%を超える信頼区間における、薬物による生理的ベースラインシグナルに対する変化または刺激シグナルの低下が、効果的と考慮される。実施形態において、細胞増殖を阻害または細胞死滅を増強する治療剤の有効性のためのカットオフ値は、生理応答を経時的に記録することにより決定される。85%信頼区間、あるいは理想的には、90%を超える信頼区間、あるいはより理想的には、95%または99%を超える信頼区間における、非処置もしくは健常細胞またはそれらの組み合わせと比較した、薬物による生理的ベースラインシグナルに対する低下または時間的パターンからの逸脱が、効果的と考慮される。
【0136】
個々の対象の疾患を処置するための治療剤の感度および特異性は、CReMSによって測定された細胞生理的経路応答を比較して、薬物が、特定の標的において設計された通りに働くことを決定し、有効性のためのカットオフ値が達成されたことを決定することにより決定される。
【0137】
治療剤は、特定の細胞経路に標的化されている薬剤、および/または細胞増殖を阻害するもしくは細胞死滅を引き起こす薬剤を限定することなく包含することができる。治療剤が標的とする経路の例として、MAPK-PK、RAS/RAF、RHO、FAK1、MEK/MAPK、MAK、MKK、AKT、EGF受容体、Her2受容体、Her3受容体、Her4受容体、PIK3/PTEN、VEGF受容体経路阻害剤、細胞接着、TGFベータ/SMAD、WNT、ヘッジホッグ/GLI、H1F1アルファ、JAK/STAT、Notch、G1/S移行の制御、DNA損傷制御、アポトーシスが挙げられる。
【0138】
実施形態において、治療剤は、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ラパチニブ、ドセタキセル、タモキシフェン、シスプラチン、アブラキサン、パクリタキセル注射、ブレンツキシマブベドチン(brentuximab vedoton)、エベロリムス、ペメトレキセド、エキセメスタン、オファツムマブ、ベバシズマブ、アレムツズマブ、イリノテカン、ビカルタミド、オキサリプラチン、セツキシマブ、ビスモデギブ(visomedegib)、トレミフェンクエン
酸塩、フルベストラント、ゲムシタビン、イマチニブ、イクサベピロン、トポテカン(topeotecan)、アキシチニブ、ロミデプシン、カバジタキセル(cabrazitaxel)、ソラフェニブ、インフリキシマブ、レナリドミド、リツキシマブ、ダサチニブ、スニチニブ、エルロチニブ、ニロチニブ、パクリタキセル、テモゾロミド、トリオキサイド、パニツムマブ、ボルテゾミブ、アザシチジン、パゾパニブ、クリゾチニブ、カペシタビン、イピリムマブ、ベムラフェニブ、ゴセレリン酢酸塩、アビラテロン、BH3模倣物、ナビトクラックス、アナストロゾール、レトロゾール、アロマターゼ阻害剤、シクロホスファミド、ドキソルビシン、メトトレキサート、フルオロウラシル、イクサベピロン、カルボプラチン、アフリベルセプト、テムシロリムス、イブリツモマブ(irbritumomab)、アビラテロン、クスチルセン、ネラチニブおよびそれらの組み合わせ等、多数の小分子および抗体薬物を含む。これら治療剤の標的は、公知である。
【0139】
実施形態において、個々の対象における疾患のための薬剤の治療上の有効性を決定するための方法は、細胞応答測定系(CReMS)において、薬剤を個々の対象由来の少なくとも1種の単離された疾患細胞試料に投与するステップと、ベースライン測定値と比較して、薬剤に対する細胞試料の細胞応答パラメータの変化が生じたか決定するステップであって、細胞応答の変化が、薬剤が、個々の対象における疾患に対し治療上の有効性を有することを示すステップとを含む。実施形態において、方法は、治療剤を投与する前または後に、細胞応答測定系において、個々の対象由来の少なくとも1種の単離された疾患細胞試料に、細胞応答経路を撹乱するアクチベーター剤または撹乱因子を投与するステップをさらに含む。
【0140】
一部の実施形態において、治療剤は、細胞表面受容体および/または細胞経路に標的化されている。このような場合、試料は、経路のアクチベーター剤または撹乱因子により試料が活性化される前に、治療剤と接触する。実施形態において、アクチベーター剤または撹乱因子は、特定の成長因子(増殖因子)、血管内皮増殖因子、ホスファチジルイノシトール、上皮成長因子、肝細胞増殖因子、m-CSF、RANKリガンド、腫瘍壊死因子(TNF-α)、ニューレグリン、エストロゲン、プロゲステロン、フォレート、アデノシン三リン酸およびFASリガンド、血小板由来増殖因子(PDGF)、または対象の血漿もしくは血清等の細胞経路またはシグナル伝達刺激の他の薬剤、Na+、K+、Mg+、Cl-、Ca+2、グルコース、グルタミン、ヒスチジン、マンニトールおよびトリプトファン、抗生物質(ラパマイシン)、必須および非必須アミノ酸、ビタミン、他の有機化合物、微量ミネラルおよび無機塩、血清、細胞抽出物、分画された細胞抽出物または分画された血清、細胞外シグナル伝達因子、細胞内シグナル伝達因子、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、ホスホリルエタノールアミン、トリヨードチロニン、ピルビン酸ナトリウム、L-グルタミンを含む。実施形態において、治療剤は、細胞増殖を阻害し、細胞死滅を増強し、罹患状態をもたらすシグナルに対して細胞を無応答性にするまたは応答性を低めることにより、罹患細胞に影響を与える治療剤である。係る治療剤の例として、シクロホスファミド、5-FU、カペシタビン(capaecitabine)および他のピリミジン薬物、他のSN-38代謝物アナロ
グ(Ex.イリノテカン)、タキソールおよび白金含有薬物(Ex.シスプラチン)が挙げられる。
【0141】
一部の実施形態において、このような薬剤のうち1種または複数に対する試料の応答は、細胞増殖を刺激する成長因子(増殖因子)または抗アポトーシス薬の存在または非存在下で測定することもできる。細胞増殖を刺激する成長因子(増殖因子)として、成長ホルモン、上皮成長因子、血管内皮増殖因子、血小板由来増殖因子、肝細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、線維芽細胞増殖因子、神経成長因子および当業者に公知の他の因子が挙げられる。抗アポトーシス剤として、抗アポトーシスタンパク質または経路を調節する化合物(Ex.Bcl-2タンパク質活性におけるタキソールおよび抗アポトーシスRasシグナル伝達カスケードの制御のためのゲフィチニブ)が挙げられる。
【0142】
例えば、乳がんと診断され、Her2陽性であると決定された特定の対象のために、該対象から単離された細胞は、特定の抗がん療法薬、特に抗Her2療法薬に対する応答性に関して検査することができる。例えば、Her2+対象由来の細胞は、上皮成長因子(EGF)および/または相同構造のペプチド、ニューレグリンまたはヘレグリンの存在または非存在下で、トラスツズマブまたはラパチニブに対する応答性に関して検査することができる。実施形態において、対象由来の細胞は、バイオセンサーに播種することができる。実施形態において、細胞は、無標識細胞全体である。係る細胞は、乳がん腫瘍および健康乳房組織由来の両方の細胞となり得る。トラスツズマブまたはラパチニブは、罹患細胞の試料と、必要に応じて、健常細胞の試料に投与することができる。一部の実施形態において、トラスツズマブで処置された細胞試料は、続いて、ニューレグリン等、Her受容体アクチベーターと接触する。罹患および健常細胞両方の試料は、無処置のままとなり得る。細胞応答は、細胞応答測定系(CReMS)を用いて決定される。実施形態において、細胞応答は、1時間以内に決定される。次に、特定の対象の細胞を処置するトラスツズマブの有効性は、経路の撹乱の存在または非存在下で決定することができる。
【0143】
実施形態において、細胞経路のアクチベーター、細胞増殖のアクチベーターまたはアポトーシスの阻害剤に対する個々の対象の細胞試料の細胞応答を阻害する薬剤が選択される。同じまたは異なる経路を活性化する多数の異なる治療剤が、本開示の方法において評価される場合、他の薬剤よりも低濃度でアクチベーターまたは阻害剤応答を阻害することができる薬剤が、好ましくは選択される。
【0144】
同様の実施形態において、活性の低下が罹患状態をもたらした場合、治療剤は、細胞活性に作用(agonize)または部分的に作用することにより、罹患細胞に影響を与える治療
剤である。
【0145】
検査は、一般に、20%未満の標準偏差、最適には、5%未満の標準偏差で、1nM未満~100uM超の濃度範囲内で薬物の有効性を測定することができる。化合物検査範囲は、最大耐用量として公知の薬物包装ラベルに定義されている投薬レベルに相当する。検査における細胞の実際のセットにおける生細胞の数を確かめることができない大部分の検査とは異なり、この検査は、検査の初めにおける品質管理およびベースライン生理決定ステップにおいて決定される生細胞によってのみ働く。この特色の結果は、検査結果の分散を低下させる。検査は、当業者にとって一般に公知の、細胞生存率に一般に許容される温度、酸素、湿度および二酸化炭素範囲を用いて行うことができる。場合によっては、好ましい温度範囲は、25℃~40℃の間である。他の事例において、温度は、特異的な撹乱のためにこの範囲内の±0.5℃へとさらに最適化し、標準温度制御インキュベーターキャビネットを用いて維持することができる。
【0146】
別の実施形態において、個体由来の罹患細胞の試料は、抗がん療法薬のパネルに対する応答性に関して検査することができる。がんのために、多数の小分子および抗体薬物が利用できる。係る治療剤の例として、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ラパチニブ、ドセタキセル、タモキシフェン、シスプラチン、アブラキサン、パクリタキセル注射、ブレンツキシマブベドチン、エベロリムス、ペメトレキセド、エキセメスタン、オファツムマブ、ベバシズマブ、アレムツズマブ、イリノテカン、ビカルタミド、オキサリプラチン、セツキシマブ、ビスモデギブ(visomedegib)、トレミフェンクエン酸塩、フルベストラント
、ゲムシタビン、イマチニブ、トポテカン(topeotecan)、アキシチニブ、ロミデプシン、カバジタキセル(cabrazitaxel)、ソラフェニブ、インフリキシマブ、レナリドミド、リツキシマブ、ダサチニブ、スニチニブ、エルロチニブ、ニロチニブ、パクリタキセル、テモゾロミド、トリオキサイド、パニツムマブ、ボルテゾミブ、アザシチジン、パゾパニブ、クリゾチニブ、カペシタビン、イピリムマブ、ベムラフェニブ、ゴセレリン酢酸塩、アビラテロン、BH3模倣物、ナビトクラックス、アナストロゾール、レトロゾール、アロマターゼ阻害剤、シクロホスファミド、ドキソルビシン、メトトレキサート、フルオロウラシルおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0147】
例えば、Her2+対象から収集された細胞の試料は、抗Her2療法薬を包含する抗乳がん療法薬のパネルに対して検査することができる。実施形態において、対象由来の細胞の各試料に、抗乳がん療法薬の1種を投与することができる。抗乳がん療法薬のパネルとして、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ラパチニブ、ドセタキセル、タモキシフェン、シスプラチン、BH3模倣物、アロマターゼ阻害剤、シクロホスファミド、ドキソルビシン、メトトレキサート、フルオロウラシル、NeuVax(商標)(アジュバントサルグラモスチム(rGM-CSF)と投与されたE75ペプチド)およびそれらの組み合わせを挙げることができるがこれらに限定されない。アロマターゼ阻害剤は、アロマターゼ阻害剤、アナストロゾール、レトロゾールまたはエキセメスタンのうち少なくとも1種となり得る。BH3模倣物は、ナビトクラックスとなり得る。
【0148】
実施形態において、抗乳がん療法薬は、Her/Neu受容体ファミリー活性モジュレーター(例えば、ペルツズマブ)細胞成長因子(細胞増殖因子)受容体モジュレーター(例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体のモジュレーター)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路モジュレーター、(PI3K)経路モジュレーター、BH3模倣物、アロマターゼ阻害剤またはそれらの組み合わせとなり得る。
【0149】
本発明の方法は、候補治療法を対象の細胞に投与して、安全性を決定し、治療上の有効性を決定するステップを包含する。その上、対象の罹患細胞への候補治療法の投与は、第IIまたはIII相臨床治験に適した患者集団を選択する方法として用いることができる。本発明の方法は、公知の治療法組み合わせに対し罹患細胞を検査するステップを包含する。その上、本発明の方法は、公知および候補治療法を検査するステップを包含する。
【0150】
本発明の方法は、また、治療剤の組み合わせを投与して、薬剤の特定の組み合わせが、より有効な結果(すなわち、疾患症状の寛解または治癒)を生じるか決定するステップを包含する。治療剤の組み合わせは、同じ細胞試料に投与される2種以上の治療剤である。本発明の実施形態において、治療剤の組み合わせは、細胞試料に同時発生的に投与される。実施形態において、少なくとも1種の治療剤は、組み合わせの他の少なくとも1種の治療剤の投与とは異なる時点で細胞試料に投与される。
【0151】
細胞試料への治療剤の投与後に、細胞試料の複数の側面に関するリアルタイムデータを収集することができる。例えば、pHおよび温度を測定することができる。その上、「細胞死因子」等、他の因子を決定することができる。CReMSにより決定される細胞死因子は、CReMSにより測定される物理化学的特性の変化となり得る。例えば、がん細胞は、表面に付着し、屈折率のベースライン読み取り値をもたらす。がん細胞死を促進する治療剤の投与は、試料におけるがん細胞が集まって表面から離れるため、屈折率に変化を引き起こす。これは、連続的リアルタイム様式で表面プラズモン共鳴を利用する光学的バイオセンサーにより測定することができる。
【0152】
実施形態は、CReMSにおいて、薬剤を対象由来の疾患細胞試料に投与するステップと、ベースライン測定値と比較して、薬剤に対する細胞試料の生理応答を決定するステップであって、生理応答が、薬剤の治療上の有効性を示すステップとを含む、特定の対象のための薬剤の治療上の有効性を決定するための方法を包含する。疾患細胞試料に投与される薬剤は、単一の薬剤または2種以上の薬剤となり得る。薬剤が、2種以上の薬剤である場合、2種以上の薬剤は、同時発生的に、あるいは異なる時点で投与することができる。例えば、細胞試料に1種の薬剤を投与して、後に第2の薬剤を投与することができる(例えば、10分後に)。方法は、プラセボを罹患細胞試料に投与するステップを包含することもできる。方法は、健常細胞試料において検査される薬剤(複数可)を投与するステップを包含することもできる。
【0153】
実施形態において、本明細書に記載されている方法は、特定の治療法に最適な用量範囲を決定する方法を提供する。用量範囲の決定は、臨床治験の適した設計を可能にする、および/または医師に、有害な副作用と有効性との均衡を取らせることができる。実施形態において、方法は、治療剤の用量の範囲を、同じ患者由来の罹患細胞の別々の試料に投与するステップと、ベースラインおよび/または健康対照細胞と比較して、本明細書に記載されている細胞の生理的パラメータの変化をもたらす用量範囲を決定するステップとを含む。
【0154】
本明細書に記載されている方法のいずれかが用いられて、個々の対象の疾患細胞が、1種または複数の治療剤に応答するか決定されると、結果は、医療従事者に伝達されて、対象の処置のための治療剤の選択を可能にする。実施形態において、方法は、選択された治療剤を対象に投与するステップをさらに含む。
【0155】
キット
本開示の別の態様において、キットが提供される。実施形態において、キットは、輸送培地を含有する個々の対象由来の疾患細胞試料のための容器と、輸送培地を含有する個々の対象由来の対照細胞試料のための容器と、バイオセンサーと、バイオセンサーからのデータを、規定の期間にわたる、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O2、CO2、グルコースおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞生理応答パラメータの変化を示す出力へと変換し、レスポンダーまたはノンレスポンダーとしての状態を示すカットオフ値を上回るまたは下回るものとして出力を分類し、かつ/または応答なし、弱い応答性および応答性として試料を分類し、分類による報告を作成するためのコンピュータ実行可能命令を有する非一過性コンピュータ可読媒体とを含む。
【0156】
疾患細胞試料の種類および量は、本明細書に記載されている。実施形態において、疾患細胞試料は、少なくとも5,000個の細胞を有する細胞全体の無標識生存細胞試料である。実施形態において、対照細胞試料は、同じ対象由来の疾患細胞試料、同じ対象由来の健常細胞試料、治療剤に応答することが公知の細胞試料、治療剤に応答しないことが公知の細胞試料およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0157】
容器および輸送培地は、細胞生存率を維持し、細胞活性化を最小化するよう設計される。実施形態において、培地および容器は、エンドトキシンフリー、非発熱性ならびにDNaseおよびRNaseフリーである。細胞試料を得たら、細胞生存率を保持する輸送培地において細胞試料を維持する。分析地への輸送時間の長さに応じて、異なる培地を用いることができる。実施形態において、組織試料の輸送が、最大10時間を要する場合、培地は、400mosm/L未満の浸透圧を有し、Na+、K+、Mg+、Cl-、Ca+2、グルコース、グルタミン、ヒスチジン、マンニトールおよびトリプトファン、ペニシリン、ストレプトマイシンを含み、必須アミノ酸を含有し、その上、非必須アミノ酸、ビタミン、他の有機化合物、微量ミネラルおよび無機塩、血清、細胞抽出物または成長因子(増殖因子)、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、ホスホリルエタノールアミン、トリヨードチロニン、ピルビン酸ナトリウム、L-グルタミンを含有して、ヒト初代細胞の増殖およびプレーティング効率を支持することができる。係る培地の例として、初代細胞管理の実施のための、セルシオ培地、ロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)、ハンクス緩衝食塩水およびマッコイの5A、イーグル基本最小培地(EMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、リーボビッツL-15またはそれらの修正物が挙げられる。
【0158】
バイオセンサーは、本明細書に記載されている。実施形態において、バイオセンサーは、細胞接着、細胞付着、細胞形態、細胞表現型、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞密度、細胞極性、pH、O2、CO2、グルコースおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される細胞パラメータを検出するバイオセンサーからなる群から選択される。実施形態において、機器は、インピーダンスまたは光学的機器である。バイオセンサーは、必要に応じて、本明細書に記載されている通りにコーティングされていてよい。実施形態において、本明細書に記載されている治療および/またはアクチベーター剤の種類に関連する生理的パラメータの変化を測定するバイオセンサーが選択される。
【0159】
実施形態において、キットは、バイオセンサーから得られたデータを、規定の期間にわたる、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O2、CO2、グルコースおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される細胞生理応答パラメータの変化を示す出力へと変換し、レスポンダーもしくはノンレスポンダー、および/または応答なし、弱い応答性および応答性として出力を分類し、分類による報告を作成するためのコンピュータ実行可能命令を有する非一過性コンピュータ可読媒体を含む。
【0160】
実施形態において、本開示は、本開示の方法を実行するための命令を有する演算機器またはコンピュータ可読媒体を提供する。コンピュータ可読媒体は、非一過性CD、DVD、フラッシュドライブ、外部ハードドライブおよびモバイル機器を包含する。
【0161】
本明細書に記載されているキットおよび方法は、プロセッサ/コンピュータシステムの使用を用いることができる。例えば、方法を実行するためのプログラムメモリ保存コンピュータプログラムコードに、ワーキングメモリに、また、従来のコンピュータスクリーン、キーボード、マウスおよびプリンタ等のインターフェースならびに本明細書に記載されている一実施形態の使用を見出すデータベースインターフェースを包含するネットワークインターフェースおよびソフトウェアインターフェース等の他のインターフェースに連結されたプロセッサを含む汎用コンピュータシステム。
【0162】
コンピュータシステムは、キーボード、入力データファイルまたはネットワークインターフェース、または例えば、規定の期間にわたりバイオセンサーによって作成されたデータを解釈するシステム等の別のシステム等、データ入力機器からのユーザー入力を受け入れ、プリンタ、ディスプレイ、ネットワークインターフェースまたはデータ記憶機器等、出力機器に出力を提供する。入力機器、例えば、ネットワークインターフェースは、本明細書に記載されている細胞生理的パラメータの変化および/またはこれら変化の定量化を含む入力を受け取る。出力機器は、細胞パラメータの変化の検出および/または定量化を描写する1個または複数の数および/またはグラフを包含するディスプレイ等、出力を提供する。
【0163】
コンピュータシステムは、本明細書に記載されている方法によって作成されたデータを記憶するデータストアに連結される。このデータは、測定値毎および/または対象毎に記憶される。必要に応じて、これらデータ種のそれぞれの複数のセットは、各対象に対応して記憶される。1個または複数のコンピュータ/プロセッサは、例えば、ネットワークを通じてコンピュータシステムに連結された、例えば、別々の機械として用いることができる、あるいはコンピュータシステムにおいて起動する別々のまたは統合されたプログラムを含むことができる。いずれの方法が用いられるとしても、これらのシステムは、データを受け取り、引き換えに検出/診断に関するデータを提供する。
【0164】
一部の実施形態において、演算機器は、サーバーコンピュータ等、単一の演算機器を包含することができる。他の実施形態において、演算機器は、ネットワーク(図示せず)を通じて互いに通信するよう構成された複数の演算機器を包含することができる。演算機器は、メモリ内に複数のデータベースを記憶することができる。演算機器に記憶されたデータベースは、診療所、開業臨床医、プログラマ識別コードまたは他のいずれかの所望のカテゴリーにより組織化することができる。
【0165】
バイオセンサーからのデータは、遠隔の演算システムまたは別のデータ記憶機器に送ることができる。通信プロセスは、初期化し、開始モジュールにおいて始め、接続操作へと進む。接続操作は、例えば、ケーブル接続、無線ローカルエリアネットワーク(WLANまたはWi-Fi)接続、セルラーネットワーク、無線パーソナルエリアネットワーク(WPAN)接続、例えば、BLUETOOTH(登録商標)またはいずれかの所望の通信リンクを介して、医療提供者の記憶された情報を遠隔の演算システムへと通信により連結する。
【0166】
転送操作は、バイオセンサーからのデータを演算機器へと送信する。実施形態において、転送操作は、機器間でデータを送信する前にデータを暗号化する。通信プロセスは、停止モジュールにおいて完了および終了することができる。バイオセンサーデータが、遠隔の演算機器へと転送されると、データは、経時的な細胞指数測定値等、出力に変換される。実施形態において、定義されるエンドポイントが選択され、本明細書に記載されている通り、応答なし、弱い応答性または応答性としての細胞試料の分類に用いられる。実施形態において、レスポンダーまたはノンレスポンダーとしての試料の分析の状態は、ケーブル接続、無線ローカルエリアネットワーク(WLANまたはWi-Fi)接続、セルラーネットワーク、無線パーソナルエリアネットワーク(WPAN)接続、例えば、BLUETOOTH(登録商標)またはいずれかの所望の通信リンクを通して、同様のプロセスを用いて医療提供者に返信される。
【0167】
実施形態において、コンピュータ可読記憶媒体は、演算機器により実行されると、バイオセンサーからのデータを出力へと変換するステップであって、出力が、規定の期間にわたる細胞生理応答パラメータの変化を示し、細胞生理応答パラメータが、治療剤の存在および/または非存在下における、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O2、CO2、グルコースおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるステップと、治療剤の存在下における細胞試料由来のバイオセンサーからの出力を、治療剤の非存在下における細胞試料由来のバイオセンサーからの出力と比較することにより、定義されたエンドポイントにおける応答なしおよび応答性として出力を分類するステップと、分類による報告を作成するステップとを含むステップを演算機器に実行させるコンピュータ実行可能命令を有する。実施形態において、コンピュータ実行可能命令は、医療提供者に分類を伝達するための命令を含む。
【0168】
実施形態において、コンピュータ可読記憶媒体は、いずれの経路が、対象の疾患細胞試料において効き目があるか同定するための命令を包含することができる。命令は、演算機器により実行されると、第1の活性化または撹乱薬剤で処置した対象由来の疾患細胞試料からのバイオセンサーデータの出力と、第1の活性化または撹乱薬剤で処置していない同じ対象由来の第2の疾患細胞試料からのバイオセンサーデータの出力との間に互いに差が存在するか決定して、第1のアクチベーターまたは撹乱因子薬剤に対し応答性である経路が、疾患細胞試料において活性であるか決定するステップと、出力の差の存在を、経路の活性の兆候として同定するステップと、経路の活性を医療提供者に伝達するステップとを含む。アクチベーターまたは撹乱因子薬剤およびこれらの経路は、本明細書に記載されている。
【実施例】
【0169】
実験設計の考察
本方法は、細胞または細胞経路内でタンパク質結合が起こった後の、細胞または細胞経路の生理的変化を測定するためにCReMSを利用する。薬物は、結合していないと作動できず、殆どあらゆる疾患遺伝子は、コアなシグナル伝達経路に分類されることが一般に理解されている。この事実と、タンパク質結合の生化学的原理が細胞型にわたり普遍的であるという事実を踏まえると、これにより、本明細書に記載されている方法は、タンパク質および他の生体分子結合が起こり得るあらゆる細胞および細胞経路に広く適用できる。
【0170】
現在最先端の遺伝子検査は、薬物または経路が結合しているか直接的に示すことができず、したがって、薬物応答を確実に予測することができない。薬物が導入された後に細胞内で生じる生理的変化を同定することにより、CELx検査は、薬物に対する対象の細胞の応答を確実に予測することができる。
【0171】
本明細書に記載されている方法を用いて、少なくとも3種類のCELx検査が想定される。
【0172】
1)標的経路薬物の有効性を決定する経路シャットダウン検査。この検査において、標的経路薬物のその細胞標的への結合に起因する被験細胞の生理的変化が測定され、ベースライン測定値と比較される。
【0173】
2)抗増殖薬の有効性を決定する抗増殖検査。この検査において、その増殖能力の阻害に起因する被験細胞の生理的変化が測定され、ベースライン測定値と比較される。
【0174】
3)組み合わせて利用される2種以上の薬物の有効性を決定する組み合わせ検査。この検査において、薬物に起因する被験細胞の生理的変化が測定され、ベースライン測定値と比較される。組み合わせ検査は、2種以上の標的経路薬物、2種以上の抗増殖薬または各種類の薬物のうち1種もしくは複数を包含することができる。
【0175】
これらの検査の実施形態を実証するために、3種類の異なるがん型の11名の異なる患者由来の細胞における65種の実験を行った。11種の異なる細胞経路に影響を与える16種の異なる薬物を検査し、2種の異なるCReMS型を利用した。本願の実施例においてその結果が報告されている検査のリストを下表1に提示する。
【表1-1】
【表1-2】
【0176】
実験設計の理論的根拠
組織:
【0177】
最も高い発生率のがんのうち3種由来の組織を選んだ。
【0178】
乳がん。乳がんモデルは、進行、細胞形態の多様性、可変的な代謝率および生存の観点から多くの他のがんの代表であり、多くの他の組織に存在するがんに共通な異常分子および経路を有するため、検査の64%に乳がん細胞を利用した。
【0179】
結腸および肺がん。結腸および肺がん細胞を利用して、他の顕著ながん型における本開示のシステムおよび方法の適用性を実証した。
【0180】
細胞:
乳がんの上皮細胞型の共通臨床症状を有する8名の患者由来の細胞を検査のために選択した。組織収集分野の当業者によって通例用いられる細胞試料収集技法を用いて、患者由来の細胞を得た。
【0181】
患者B1:細胞は、61歳の女性における乳房のTNMステージIIA、グレード3原発性浸潤性腺管癌に由来する。細胞は、およそ31時間の倍加時間を有し、偶発的無定形の上皮細胞形態を有する肥大型として現れ、非常に高い発現レベルのERB B1およびERB B2受容体を有する。エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)および癌遺伝子TP53状態は、全3種陰性である。
【0182】
患者B2:細胞は、51歳のコーカサス人種の女性の乳房の腺癌の胸水に由来する。細胞は、およそ28時間の倍加時間を有し、浸潤性、ウナギ状の(eel-like)形態で現れ、高い発現レベルのERB B1を有し、正常ERB B2受容体レベルを上回って僅かに上昇し、エストロゲン受容体(ER)陰性、プロゲステロン受容体(PR)陰性であり、高い癌遺伝子TP53状態を有する。
【0183】
患者B3:細胞は、43歳の白人女性における乳房の腺癌の胸水に由来する;およそ20時間の倍加時間、敷石状(cobblestone)上皮形態、非常に高い発現レベルのERB
B1およびERB B2受容体、エストロゲン受容体(ER)陰性、プロゲステロン受容体(PR)陰性、癌遺伝子TP53陽性状態。
【0184】
患者B4:細胞は、47歳の黒人女性における乳房の浸潤性腺管癌の腹水に由来する;110時間の倍加時間、円形、葡萄状(grape-like)クラスター形態を有し、非常に高い発現レベルのERB B1およびERB B2受容体を有し、エストロゲン受容体(ER)陽性、プロゲステロン受容体(PR)陰性および癌遺伝子TP53野生型-低状態である。
【0185】
患者B5:細胞は、60歳の白人女性における原発性乳房浸潤性腺管癌に由来する;28時間の倍加時間、無定形拡散および浸潤性形態の混合物、非常に高い発現レベルのERB B1およびERB B2受容体、エストロゲン受容体(ER)陽性、プロゲステロン受容体(PR)陽性、癌遺伝子TP53陽性状態。
【0186】
患者B6:細胞は、70歳の黒人女性における原発性乳房異形成癌TNMステージIVグレード3に由来する;およそ30時間の倍加時間、粗い拡散形態、非常に高い発現レベルのERB B1およびERB B2受容体、エストロゲン受容体(ER)陰性、プロゲステロン受容体(PR)陰性、癌遺伝子TP53突然変異、低状態。
【0187】
患者B7:細胞は、69歳の白人女性における乳房の浸潤性腺管癌の胸水に由来する;30時間の倍加時間、小さいモザイク上皮形態、低発現レベルのERB B1およびERB B2受容体、エストロゲン受容体(ER)陽性、プロゲステロン受容体(PR)陽性、癌遺伝子TP53野生型状態。
【0188】
患者B8:細胞は、48歳の白人女性における乳房の腺癌の胸水に由来する;24時間の倍加時間、非常に小さい葡萄状クラスター形態、低発現レベルのERB B1受容体、高い発現レベルのERB B2受容体、エストロゲン受容体(ER)陰性、プロゲステロン受容体(PR)陰性、癌遺伝子TP53野生型、低状態。
【0189】
結腸がんの上皮細胞型の共通臨床症状を有する2名の患者由来の細胞を、検査のために選択した:
【0190】
患者C1:細胞は、男性の結腸直腸癌に由来する。細胞は、14時間の球状体積倍加時間を有し、高レベルのERB B1、変異体K-Ras、変異体PIK3CAおよび癌遺伝子TP53陽性状態である。
【0191】
患者C2:細胞は、44歳のコーカサス人種の女性における原発性結腸腺癌、グレード2に由来する。細胞は、46時間の球状体積倍加時間を有し、高レベルのERB B1、変異体BRAFおよび癌遺伝子TP53陰性状態である。
【0192】
非小細胞肺がんの上皮細胞型の共通臨床症状を有する2名の患者由来の細胞を、検査のために選択した:
【0193】
患者L1:細胞は、25歳の男性の非小細胞肺癌の胸水に由来する;48時間の倍加時間、上皮形態、上昇した発現レベルのERB B1およびERB B2受容体、PIK3CA陽性であり、KRASとBRAF両者共に陰性状態。
【0194】
患者L2:細胞は、52歳の白人男性の細気管支肺胞性腺癌に由来する;およそ30時間の倍加時間、上皮形態、正常発現レベルのERB B1およびERB B2受容体であり、BRAF、HRAS、PIK3CAおよびKRASは全て陰性状態。
【0195】
細胞経路標的:
これらの実験のために選んだ薬物は、広範囲に相互接続され、結合により調節され、リン酸化および脱リン酸化等の酵素活性に関与し、決定的な細胞機能を制御する仕方において、大部分の細胞調節経路の代表的な11種の細胞経路に影響を与える。
【0196】
MAPK(EGFR、EGFR-TK、HER1、HER2)。マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼは、あらゆる細胞型に見出され、細胞外刺激(マイトジェン、浸透圧ストレス、熱ショックおよび炎症誘発性サイトカイン)に応答し、遺伝子発現、有糸分裂、分化、増殖および細胞生存/アポトーシス等、様々な細胞活性を調節する必要不可欠なセリン/スレオニン特異的プロテインキナーゼである。その緊密な調節は、細胞生存率の維持に重要である。上皮成長因子受容体(EGFR;ErbB-1;ヒトにおけるHER1)は、細胞外タンパク質リガンドの上皮成長因子ファミリー(EGF-ファミリー)のメンバーの細胞表面受容体である。EGFR過剰発現(上方調節として公知)または活動過剰をもたらす突然変異は、肺がん、肛門がんおよび多形神経膠芽腫を包含する多数のがんに関連している。EGFRまたはファミリーメンバーの突然変異、増幅または誤調節は、全上皮がんの約30%に関与し、拡大しているクラスの抗がん療法の標的である。
【0197】
PI3K/PTEN(Her2、3、4、VEGF)。殆どあらゆる細胞型に見出されるホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)経路は、細胞生存および細胞成長に決定的であり、細胞表面受容体に結合する成長因子(増殖因子)により活性化され得る。これは、がんにおいて最も高頻度で活性化される経路の中の、入り組んだシグナル伝達カスケードである。これは、ヒトのがんにおける他のいかなる経路よりも頻繁に、突然変異、増幅および再編成を包含するゲノム異常により標的化される。VEGF受容体は、広範なヒト腫瘍および細胞株にわたり発現される。VEGFの発現は、腫瘍成長および転移を促進する血管網の発達および維持をもたらすことが示されてきた。VEGFは、非小細胞肺がん(NSCLC)、結腸直腸および他の腫瘍の大部分において発現される。VEGFは、肺がんが進行するにつれてより高レベルで発現される。さらに、大量の相次ぐ証拠は、VEGF遺伝子発現が、予後不良と密接に関連することを示す。
【0198】
細胞接着。細胞接着経路は、殆どあらゆる主要な生理機能と交わる。経路は、セレクチン、インテグリンおよびカドヘリン等、細胞接着分子を用いることによる、表面、細胞外マトリックスまたは別の細胞への細胞の結合に関与する。正確な細胞接着は、多細胞構造の維持に必要不可欠である。細胞接着は、細胞の細胞質をリンクさせることができ、シグナル伝達に関与させることができる。あらゆる接着は、原形質膜の不可欠な構成成分と関与して直接的に、あるいは細胞外部に排出され堆積された材料により間接的に、細胞表面によって媒介される。
【0199】
MEK。MEKは、がん細胞増殖および生存のシグナルを出す、RAS/RAF/MEK/ERK経路における重要なプロテインキナーゼである。MEKは、がんにおいて、特に、RASおよびRAF癌遺伝子に突然変異を有する腫瘍において高頻度で活性化される。MEKは、また、がんにおいて成長および生存因子として作用し得る、炎症性サイトカインTNF、IL-6およびIL-1の生合成を調節する。MEK経路は、メラノーマ、非小細胞肺、頭部/頚部および膵臓がんを包含する異なる腫瘍の増殖における中心軸として作用する。また、単独の、あるいは他の薬剤と組み合わせたMEK阻害は、がんの処置における重要な治療戦略である。
【0200】
RHO。Rhoタンパク質は、細胞極性、小胞輸送、細胞周期およびトランスクリプトーム動力学等、広範な細胞機能に関与する。Rho活性化は、がん性細胞において多数の異なる効果を有し得る。腫瘍の惹起において、Rho活性の修飾は、アポトーシスを抑制し、したがって、人為的な細胞寿命延長に寄与することができる。天然アポトーシスが抑制された後に、Rhoタンパク質が不可欠な役割を果たす極性の損失により、異常腫瘍成長を観察することができる。次に、成長する腫瘤は、潜在的にRhoタンパク質に起因する接着タンパク質の変化により、その正常境界を通って浸潤することができる。
【0201】
AKT。AKTは、セリン/スレオニンキナーゼであり、細胞内における、IGF-1R、HER2/Neu、VEGF-R、PDGF-R等、受容体チロシンキナーゼの刺激、ならびに第2のメッセンジャーPIPによる受容体PI-3Kの膜局在化複合体の集合およびAktの活性化に関与する、収束する上流シグナル伝達経路の一群の枢要な節点として機能する。AKTおよびその上流調節因子は、広範な固形腫瘍および血液悪性腫瘍において調節解除されるため、また、この経路の上述の生物学的続発症を考慮すると、AKT経路は、これらの腫瘍の生物学的侵襲性の重要な決定要因および新規抗がん療法の主要な潜在的標的と考慮される。
【0202】
FAK1。接着斑キナーゼ1(FAK1)媒介性シグナル伝達の生物学的重要性は、このチロシンキナーゼが、胚発生、細胞遊走や細胞周期進行の制御およびアポトーシスにおいて基本的な役割を果たすという事実により強調される。これは、足場依存性細胞の生存において中心的な役割を果たし、インテグリン関連細胞遊走(悪性度の発達において重要な役割を果たすプロセス)に必要不可欠である。FAKは、広範なヒト上皮がんにおいて上方調節され、発現は、浸潤能に密接に相関される。近年、FAK発現は、悪性度への腫瘍細胞の進行、あるいはがんの病原に結びつけられた。FAK1は、乳がん抗エストロゲン抵抗性の調節において主要な役割を果たす。
【0203】
RAS/RAF。RAS経路は、がんにおける最も高頻度で調節解除される経路の1種である。RASは、RAF/マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)/細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)キナーゼ(MEK)/ERK MAPKおよびホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)-AKTシグナル伝達カスケードを包含する複数のエフェクター経路を通してシグナルを出す。これらのエフェクター経路の発癌能は、BRAFおよびPIK3CAにおける活性化突然変異ならびに腫瘍抑制因子PTEN、PI3Kの負の調節因子における機能欠損型突然変異の高頻度の発生により例示される。腫瘍発生におけるRasのこのような重要な役割により、Rasシグナル伝達経路は、抗がん療法の標的として相当な注目を集めた。
【0204】
MAK経路。転移関連キナーゼ(MAK)は、細胞成長に必要とされる転写因子の新規の調節因子である。この経路の阻害は、細胞周期停止活性をもたらす。
【0205】
MKK。マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MKK)シグナル伝達経路は、細胞分化、増殖、運動性および生存を包含する、生命に関わる細胞プロセスの転写および翻訳後調節の両方に関連している。MKKシグナル伝達経路は、VEGFの放出およびVEGFに対する応答のモジュレートにおいて必要不可欠な役割を果たすため、MKKは、腫瘍血管新生の促進において重要な役割を果たすと考えられる。
【0206】
アポトーシス経路。アポトーシス経路の活性化は、細胞傷害性薬物が腫瘍細胞を死滅させるための重要な機序である。アポトーシスは、2種の主要経路を通して起こる。外的または細胞質経路と称される第1の経路は、腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーのメンバーである、Fasデスレセプターにより誘発される。第2の経路は、刺激されると、ミトコンドリアからのチトクロム-cの放出およびデスシグナルの活性化をもたらす、内的またはミトコンドリア経路である。両方の経路は、調節および構造分子を切断するカスパーゼと呼ばれるプロテアーゼのカスケードの活性化に関与する最終共通経路へと収束し、結果的に、細胞の死を引き起こす。アポトーシスシグナル伝達の欠損は、腫瘍の抵抗性に寄与する。
【0207】
治療剤:
選ばれた治療剤は、小分子薬の代表的な治療剤および抗体に由来する治療剤を包含する。検査された治療剤は、細胞内で機能的な特異的な経路をシャットダウンするよう設計された作用機序による一部の治療剤と、細胞アポトーシスを引き起こすよう設計された他の治療剤とを包含する。
【0208】
セツキシマブ。セツキシマブ(アービタックス)は、転移性結腸直腸がんおよび頭頚部がんの処置のために静脈内注入により与えられる、キメラ(マウス/ヒト)モノクローナル抗体、上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤である。成長因子(増殖因子)が、細胞表面におけるその受容体に結合すると、受容体は、細胞を分裂させるシグナルを生じる。一部のがんは、成長因子(増殖因子)なしであっても分裂のためのシグナルを生じる突然変異した受容体によって引き起こされる。これにより、細胞は、制御不能に分裂するようになる。セツキシマブは、このような受容体に結合し、該シグナルをオフにする。
【0209】
エルロチニブ。エルロチニブ塩酸塩(タルセバ)は、非小細胞肺がん、膵臓がんおよび他の数種類のがんの処置に用いられる薬物である。これは、上皮成長因子受容体(EGFR)に作用する可逆的チロシンキナーゼ阻害剤である。エルロチニブは、様々な形態のがんにおいて高度に発現され、偶発的に突然変異される、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼを特異的に標的とする。これは、受容体のアデノシン三リン酸(ATP)結合部位に可逆的様式で結合する。
【0210】
ラパチニブ。ラパチニブ(タイケルブ/タイバーブ)は、乳がんおよび他の固形腫瘍のための経口による活性薬物である。これは、HER2成長受容体経路を中断する、二重チロシンキナーゼ阻害剤である。これは、HER2-陽性乳がんの併用療法において用いられる。ラパチニブは、2種の癌遺伝子、EGFR(上皮成長因子受容体)およびHER2/neu(ヒトEGFR2型)に関連するチロシンキナーゼ活性を阻害する。HER2/neuの過剰発現は、女性におけるある種の高リスク乳がんの原因となり得る。
【0211】
トラスツズマブ。トラスツズマブ(ハーセプチン)は、HER2/neu受容体に干渉するモノクローナル抗体である。その主な用途は、ある特定の乳がんを処置することである。これが、欠損HER2タンパク質に結合すると、HER2タンパク質はもはや、乳房における細胞を制御不能に繁殖させることはない。
【0212】
ドセタキセル。ドセタキセル(タキソテール)は、臨床的に十分に確立された抗有糸分裂化学療法医薬である(すなわち、これは細胞分裂に干渉する)。これは、乳房、卵巣、前立腺および非小細胞肺がんの処置に主に用いられる。ドセタキセルは、化学療法薬物クラス;タキサンのものであり、パクリタキセル(タキソール)の半合成アナログである。
【0213】
GSK1059615。ホスホイノシチド3-キナーゼ阻害剤(PI3K阻害剤)は、がんにおいて重要な役割を果たすPI3K/AKT/mTOR経路の一部である、ホスホイノシチド3-キナーゼ酵素を阻害することにより機能する潜在的な医薬物である。この経路の阻害は、多くの場合、腫瘍成長を抑制する。
【0214】
GSK1120212。GSK1120212は、有望な抗腫瘍活性を有する、MEK1およびMEK2(MEK1/2)酵素の強力かつ選択的なアロステリック阻害剤である。
【0215】
パゾパニブ。パゾパニブ(ヴォトリエント)は、腫瘍成長を遮断し、血管新生を阻害する、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、PDGFR-a/βおよびc-kitの強力かつ選択的な複数標的受容体チロシンキナーゼ阻害剤である。
【0216】
パクリタキセル。パクリタキセルは、肺、卵巣、乳房、頭頚部がんおよび進行型のカポジ肉腫の患者の処置に用いられる有糸分裂阻害剤である。パクリタキセルは、微小管を安定化し、その結果、細胞分裂における微小管の正常崩壊に干渉する。ドセタキセルと共に、これは、タキサンの薬物カテゴリーを形成する。
【0217】
フルオロウラシル。フルオロウラシル(5-FUまたはf5U)(Adrucil、Carac、Efudix、EfudexおよびFluoroplex)は、がんの処置において用いられるピリミジンアナログである薬物である。これは、自殺(suicide)阻害
剤であり、チミジル酸シンターゼの不可逆的阻害により働く。これは、抗代謝物と呼ばれる薬物のファミリーに属する。
【0218】
カペシタビン。カペシタビン(ゼローダ)は、転移性乳房および結腸直腸がんの処置において用いられる経口投与される化学療法剤である。カペシタビンは、腫瘍において5-フルオロウラシルへと酵素により変換され、そこでDNA合成を阻害し、腫瘍組織の成長を遅らせるプロドラッグである。
【0219】
トポテカン。トポテカン(ハイカムチン)は、トポイソメラーゼ阻害剤である化学療法剤である。これは、卵巣がんおよび肺がんならびに他のがん型の処置に用いられる。トポイソメラーゼ-Iは核酵素であり、DNA複製を防止し、最終的に細胞死をもたらす。このプロセスは、DNA鎖に切断を生じ、アポトーシスを起こす。
【0220】
イリノテカン。イリノテカン(Camptosar)は、結腸がんの処置に用いられる薬物である。イリノテカンは、加水分解により活性化されて、トポイソメラーゼIの阻害剤であるSN-38となる。活性代謝物SN-38によるトポイソメラーゼIの阻害は、最終的に、DNA複製および転写の両方の阻害をもたらす。
【0221】
オキサリプラチン。オキサリプラチンは、がん化学療法において用いられる配位錯体である。このような白金に基づく薬物は、通常、アルキル化剤として分類される。オキサリプラチンは、DNAにストランド間およびストランド内架橋の両方を形成することにより機能するアルキル化剤である。DNAにおける架橋は、DNA複製および転写を防止し、細胞死をもたらす。
【0222】
シスプラチン。シスプラチン(Platin)は、肉腫、一部の癌(例えば、小細胞肺がんおよび卵巣がん)、リンパ腫および胚細胞腫瘍を包含する様々な種類のがんの処置に用いられる。これは、白金含有抗がん薬のクラスの第1のメンバーであったが、これは現在、カルボプラチンおよびオキサリプラチンも包含している。このような白金錯体は、in vivoで反応し、DNAと結合し、DNAの架橋を引き起こし、最終的にアポトーシスを誘発する。
【0223】
CReMSの種類
2種類のCReMS、光学的バイオセンサーおよびインピーダンスバイオセンサーを利用して、検査における細胞の生理応答を測定して、生じた生理的変化の量を、異なる種類のCReMSにおいてどのように測定することができるか実証した。
【0224】
予測判断基準
標的経路の阻害またはアポトーシス経路により、CELx検査において引き起こされる生理的変化の量を、3種のカテゴリーのうち1種へと記録した:
1)ノンレスポンダー:無処置対照細胞と比較した、2種の薬物のうち最も高い生理的に関連する濃度による、細胞指数の<5%低下。この結果は、患者が、被験薬物組み合わせに応答しないことを示す。
2)レスポンダー(弱い):いずれかのレベルの濃度の薬物による、細胞指数の5~50%の間の低下。これは、患者が、検査薬物の組み合わせにある程度まで応答することを示す。
3)レスポンダー(強い):いずれかのレベルの濃度の薬物による、細胞指数の>50%低下。これは、患者が、検査薬物に応答することを示す。
【0225】
インピーダンスまたは光学的バイオセンサーを用いる細胞指数は、インピーダンス測定または屈折率測定のベースライン出発点を用いて計算される。ベースライン出発点インピーダンスまたは屈折率は、物理的に観察可能であり、薬物または他の撹乱因子によるいかなる処置よりも前の細胞の健康、生存率および生理的状態の兆候である。薬物または撹乱因子の添加は、インピーダンスまたは屈折率のベースライン読み取り値を、細胞によって経験される細胞生理的変化の特異性を反映する時間的パターンにおいて変化させる。
【0226】
(実施例1)
2種の薬物に対する2名の患者の区別された応答を示す経路シャットダウン検査
【0227】
2名のHER2過剰発現乳がん患者(患者B1およびB4)由来の細胞、HER2陽性乳がんに適応される2種の薬物(ラパチニブおよびトラスツズマブ)およびヒト上皮成長因子(EGF)を用いて、CELx経路シャットダウン検査を行った。検査におけるB1およびB4細胞の生理的変化を、インピーダンスバイオセンサーCReMSを用いて測定し、CReMSからの出力を、
図1Aおよび
図1Bに記録する。CELx検査結果および第三者臨床参照の比較を、
図1Cに記録する。本実施例は、患者の細胞における生理的変化を数時間の期間にわたり連続的に測定するためのCReMSを用いることにより、CELx検査が、患者が異なる標的経路薬物に対し有する応答性を予測することができる仕方を例示する。本実施例は、また、遺伝的バイオマーカー、この場合は、過剰発現するHER2遺伝子の存在が、薬物の有効性の予測に十分な条件ではない理由を例示する。
【0228】
材料と方法
CReMおよびマイクロプレート:4”×6”、96ウェルインピーダンスマイクロプレートを、全ウェルのインピーダンスを同時に測定しつつ定電圧を維持するよう設計されたRoche Applied Science(インディアナ州インディアナポリス)xCELLigence SPインピーダンスバイオセンサー内に置いた。特定のウェルのインピーダンスの変化は、細胞の数および細胞とインピーダンスマイクロプレートとの付着の種類に比例する。インピーダンスの変化は、これらの小細胞集団の撹乱に対する応答を示す。
【0229】
細胞:患者B1およびB4由来の細胞を利用した。細胞を-80℃で受け取り、解凍し、標準ヒト上皮細胞取り扱い手順に従って、典型的には、血清含有緩衝培地を含有するT75培養フラスコにおいて、37℃、5%CO2で培養した。インピーダンスマイクロプレートに加える前に、成長容器からヴェルセンを用いて細胞を取り出し、計数し、血清または他の成長因子(増殖因子)なしの培地に再懸濁した。
【0230】
バッファーおよび試薬:ATCC(米国バージニア州マナサス)またはLife Technologies(ニューヨーク州グランドアイランド)から送達された通りに、標準培地、血清、抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン)および他のバッファーを購入し、用いた。追加的な成長因子(成熟ヒトEGF ca6KDa)は、R&D
Systems(ミネソタ州ミネアポリス)から購入し、成長因子(増殖因子)または血清なしの緩衝細胞培地において調製した。小分子薬物である治療剤ラパチニブは、Selleck Chemicals(米国テキサス州)から購入し、抗体薬物であるトラスツズマブは、臨床調剤薬局から得た。
【0231】
手順:各ウェルにおける6,000~12,000個の間の細胞を、120uLの血清含有標準培地を含有するインピーダンスマイクロプレートに播種した。溶液を、血清を含有しない培地に置き換えて、生理的状態および経路刺激に関して細胞を同期化した。20マイクロリットルの薬物を、経路刺激の2時間前に無血清培地に加えた。EC80用量の受容体リガンド(典型的には、20uLにおける6nM)を用いて、経路刺激を惹起した。生理的変化を記録するCReMSを、バッファー交換から完全な細胞応答を通して経路刺激まで数時間連続的に維持した。経路検査は、37℃、5%CO2、相対湿度75%で行った。
【0232】
CReMSは、検査を通じて連続的基盤でデータを記録し、データは、B1およびB4細胞における2種の治療剤の効果を表した。
【0233】
結果:
図1Aおよび
図1Bは、それぞれ抗体薬物トラスツズマブおよび小分子薬物ラパチニブによる、B1およびB4細胞に関するCELx検査において収集されたデータを提示する。インピーダンスCReMSにより収集されたデータは、X軸に分で表す期間、Y軸に細胞指数を示す各図において表されている。細胞指数は、検査におけるB1およびB4細胞の生理的変化を表す。
【0234】
結果は、薬物添加なしのリガンド受容体による完全経路の刺激が、最も高い細胞指数を生じたことを示す。刺激されたB1細胞に薬物トラスツズマブを加えた後、被験細胞の細胞指数は5%未満変化し、B1被験細胞が、トラスツズマブの添加により影響されていないことを示す。逆に、B1細胞に薬物ラパチニブを加えた後、被験細胞の細胞指数は50%を超えて減少し、標的経路内の活性が有意に減弱したことを示す。薬物、ラパチニブおよびトラスツズマブそれぞれをB4細胞の別々の試料に加えた後、各被験細胞試料の細胞指数は50%を超えて減少した。この結果は、各被験細胞試料の標的経路内の活性が有意に減弱したことを示した。
【0235】
これらの結果に基づき、
図1Aに示すCELx経路シャットダウン検査は、患者B1が、トラスツズマブに応答しないが、ラパチニブに応答することを予測する。
図1Bに示す結果は、患者B4が、トラスツズマブおよびラパチニブの両方に応答することも予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照によって記録された結果の比較を
図1Cに示す。この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果によると、患者B1は、トラスツズマブに対し無応答性であり、ラパチニブに対し応答性であることが判明し、患者B4は、両方に対し応答性であることが判明した。
【0236】
考察:本発明の本実施例において、CELx検査は、患者B1およびB4の細胞を用いて、2種の薬物、トラスツズマブおよびラパチニブの有効性を的確に予測した。B1およびB4細胞は、受容体リガンドによるHER2経路の刺激に応答し、患者が、該経路内の活性をシャットダウンすることができる薬物に応答し得ることを示す。本実施例において、薬物が同様の作用機序を有するにもかかわらず、B1細胞は、2種の薬物に対する区別された応答を実証する。患者B1は、ラパチニブに応答性であり、トラスツズマブに無応答性であることが判明した。
【0237】
本実施例は、CELx検査が、抗体薬物であるトラスツズマブの場合のように細胞表面に働く治療剤、またはキナーゼ阻害剤薬物ラパチニブの場合のように細胞質において働く治療剤を包含する異なる種類の治療剤に適用できる仕方を例示する。これは、本開示のシステムおよび方法が、MAPK、RHO、AKT、FAK1、RAS/RAF、PIK3および細胞接着経路を標的とする薬物に応答した変化の検出に有効となる仕方も例示する。本実施例は、関連する遺伝的バイオマーカー、この場合は、過剰発現するHER2遺伝子の存在に関する知識が、薬物が、その意図される作用機序に従って機能するか予測するのに十分な条件ではないことの原理も例示する。本実施例において、薬物トラスツズマブは、これに意図されている通りに、全てのHer2陽性がん細胞型におけるHER2成長因子シグナル伝達経路を必ずしもシャットダウンするとは限らない。同様の遺伝的プロファイルにもかかわらず、患者B1およびB4は、CELx検査によって確認される通り、トラスツズマブに対し異なって応答する。逆に、本発明の方法の実施形態は、HER2部位に働く別の薬物、ラパチニブが、両方の患者に設計された通りに、経路をシャットダウンすることができることを的確に予測する。本実施例の結果は、第三者によって報告された応答と相関し、患者の罹患細胞における生理的変化の測定値を用いて、治療法が意図された有効性をもたらすか予測する能力を確認する。本発明により、医師は、薬物に対する腫瘍細胞の実際の応答性に基づき、乳がん患者のための処置を選択する。
【0238】
(実施例2)
1種の薬物に対する2名の患者の区別された応答を示す抗増殖性検査
2名の乳がん患者(患者B1およびB2)由来の細胞および薬物パクリタキセルを用いて、CELx抗増殖性検査を行った。インピーダンスバイオセンサーCReMSにより検査におけるB1およびB2細胞の生理的変化を測定し、CReMSからの出力を
図2Aおよび
図2Bに記録する。CELx検査結果および第三者臨床参照の比較を
図2Cに記録する。本実施例は、抗増殖薬が導入された後の患者のがん細胞における数日間の経過にわたり生理的変化を測定することにより、治療剤の有効性を予測するためのCELx検査の能力を実証する。本実施例は、結果の測定におけるベースライン、この場合は、無処置患者細胞の役割も実証する。加えて、患者B2に関して記録された結果は、薬物に対する細胞の応答性において経時的に生じ得る変化のために、連続的基盤で数日間にわたり細胞の生理応答をモニターすることの重要性を実証する。
【0239】
材料と方法
CReMS、マイクロプレート、試薬およびバッファー:実施例1において使用したCReMS、マイクロプレート、試薬およびバッファーは、検査した治療剤を除いて、実施例2において用いたものと同じである。実施例2において、治療剤、パクリタキセルを検査した。パクリタキセルは、Selleck Chemicals(米国テキサス州)から購入した。
【0240】
細胞:実施例1に記載されている様式と同じ様式で、患者B1およびB2由来の乳がん細胞を利用し、取り扱った。
【0241】
手順:各ウェルにおいて6,000~12,000個の間の細胞を、120uLの血清含有定着(settling)培地を含有するインピーダンスマイクロプレートに播種した。40マイクロリットルの薬物パクリタキセルを、B1およびB2細胞それぞれの1セットに加えた;B1およびB2細胞の別の対照セットには、薬物を与えなかった。生理的変化を記録するCReMSを、細胞がマイクロプレートに最初に播種されてから完全な細胞応答まで、48~72時間の間、連続的に維持した。37℃、5%CO2、75%相対湿度で検査を行った。
【0242】
結果:
図2Aおよび
図2Bは、薬物パクリタキセルによるB1およびB2細胞に関するCELx検査において収集されたデータを提示する。インピーダンスCReMSによって収集されたデータは、X軸に時間で表す期間、Y軸に細胞指数を示す図において表されている。細胞指数は、検査におけるB1およびB2細胞の生理的変化を表す。細胞指数の増加は、一般に、細胞増殖の増加の兆候である。長期細胞指数の減少は、一般に、細胞生存率の損失または生細胞数減少を示す。B2被験細胞は、B2対照細胞と比較したCReM出力の有意な減少において反映される通り、パクリタキセルに対し初期応答性を示したが、概して24時間後、CReM出力は逆転し、被験細胞が増殖し始め、もはや薬物に対し応答性ではないことを示す。B1被験細胞は、検査期間を通して、B1対照細胞と比較したCReM出力の減少において反映される通り、パクリタキセルに対し速効性および連続的な応答性を示す。
図2Aおよび
図2Bに提示されているCELx検査結果は、患者B1およびB2が両者共に、パクリタキセルに応答することを予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照によって記録された結果の比較を
図2Cに示す。この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果において、患者B1およびB2は両者共に、パクリタキセルに対し応答性であることが判明した。
【0243】
考察:本実施例において、CELx検査は、2名の乳がん患者、B1およびB2による抗増殖薬、パクリタキセルの有効性を的確に予測した。その上、患者B2のCELx検査結果は、パクリタキセルに対する抵抗性が、短期に発達することを示し、連続的基盤で延長された期間にわたって細胞の生理応答をモニターすることの重要性を例示する。薬物療法による主要問題の1つは、薬物に対する抵抗性の急速な発達であるため、この結果は重要である。患者に無効な治療法が処方されれば、時間が失われる。化学毒性のリスクを増加させ、化学療法の共通の副作用に陥ることに加えて、多くの場合、ある薬物による処置は、より有効であったかもしれない別の薬物による処置の可能性を除外する。
【0244】
(実施例3)
統合された2種の薬物に対する2名の患者の応答を示す組み合わせ検査
【0245】
2名の結腸がん患者(患者C1およびC2)由来の細胞、EGFおよび結腸がんに適応される2種の薬物、セツキシマブおよびイリノテカンの組み合わせを用いて、CELx組み合わせ検査を行った。インピーダンスバイオセンサーCReMSにより検査におけるC1およびC2細胞の生理的変化を測定し、CReMSから得られた出力を
図3Aおよび
図3Bに記録する。CELx検査結果および第三者臨床参照の比較を
図3Cに記録する。本実施例は、CELx検査が、遺伝子検査または発現プロファイリングを用いては行うことができないやり方で、2種以上の薬物の組み合わせに対し個々の患者が有する応答性を予測することができる仕方を実証する。検査は、CELx検査が、乳がん細胞に加えて結腸がん細胞を用いて操作する仕方も例示する。
【0246】
材料と方法
CReMS、マイクロプレート、試薬およびバッファー:実施例1および2において使用されたCReMS、マイクロプレート、試薬およびバッファーは、使用した治療剤を除いて、実施例3において用いられたものと同じである。実施例3において、2種の治療剤、セツキシマブおよびイリノテカンを検査した。イリノテカンは、Selleck Chemicals(米国テキサス州)から購入し、セツキシマブは、臨床調剤薬局から得た。
【0247】
細胞:実施例1に記載されている様式と同じ様式で、患者C1およびC2由来の結腸がん細胞を利用し、取り扱った。
【0248】
手順:各ウェルにおいて6,000~12,000個の間の細胞を、120uLの血清含有定着培地を含有するインピーダンスマイクロプレートに播種した。溶液を、血清を含有しない培地に置き換えて、生理的状態に関して細胞を同期化した。それぞれ20マイクロリットルのイリノテカンおよびセツキシマブを、C1およびC2細胞のそれぞれ1セットに加えた;C1およびC2細胞の別の対照セットには、薬物を与えなかった。生理的変化を記録するCReMSを、細胞がマイクロプレートに最初に播種されてから完全な細胞応答まで、48~72時間の間、連続的に維持した。37℃、5%CO2、75%相対湿度で検査を行った。
【0249】
結果:
図3Aおよび
図3Bは、C1およびC2細胞ならびに抗体薬物セツキシマブおよび小分子薬物イリノテカンの組み合わせに関するCELx検査において収集されたデータを提示する。インピーダンスCReMSによって収集されたデータは、X軸に時間で表す期間、Y軸に細胞指数を示す図において表されている。細胞指数は、検査におけるC1およびC2細胞の生理的変化を表す。結果は、無処置対照C1およびC2細胞が、最も高い細胞指数を生じたことを示す。2種の薬物がC1およびC2被験細胞に添加された後の結果は、細胞試料毎の細胞指数の50%超の低下を示す。これらの結果は、患者C1およびC2が両者共に、セツキシマブおよびイリノテカンの組み合わせに応答することを予測する。CELx検査予測および第三者臨床参照によって記録された結果の比較を
図3Cに示す。この図は、CELx検査が、臨床参照標準によって記録された結果を的確に予測したことを示し、この結果において、患者C1およびC2は両者共に、セツキシマブおよびイリノテカン組み合わせに対し応答性であることが見出された。
【0250】
考察:本実施例において、CELx検査は、2名の結腸がん患者、C1およびC2による、2種の薬物、セツキシマブおよびイリノテカンの有効性を的確に予測した。
【0251】
しかし、2種の薬物による患者C1の全体的な結果が、細胞指数の50%超の低下を示したとしても、CELx検査結果は、薬物の一方、セツキシマブが、患者C1の細胞において生理的変化を引き起こさなかったことを示した。これは、患者C1における薬物組み合わせの全体的な治療上の利益が、イリノテカンによるものである可能性が高いことを示唆する。医師が、併用療法内の1種の薬物、この場合はイリノテカンのみが有効であることを知れば、効果的な薬物のみを処方するであろう。CELx検査結果は、患者2が、個々の薬物それぞれに対し応答性であることを示し、薬物の組み合わせが、単一の薬物のみの使用よりも効果的となると示唆した。
【0252】
結果は、CELx検査が、2種以上の治療剤の組み合わせに対する個々の患者の応答性を予測することができる仕方を例示する。検査は、CELx検査が、結腸がん細胞を用いて操作する仕方を例示する。これは、異なる種類の薬物、この場合は、細胞表面に結合することにより働く抗体薬物セツキシマブ、およびアポトーシス経路阻害剤、この場合は、細胞核に結合することにより働くイリノテカンに対するがん細胞の生理応答性をさらに例示する。また、これは、MAPK、RHO、AKT、FAK1、RAS/RAF、PIK3および細胞接着経路ならびにアポトーシス経路を標的とする薬物に対するがん細胞の生理応答性も例示する。結果は、医師に、結腸がん患者に対しより効果的な処置を選択させるであろう。
【0253】
(実施例4)
異なる薬物を用いた追加的なCELx検査
11種の異なる患者細胞(患者B1、B2、B3、B4、B5、B6、B7由来の乳がん細胞、患者C1およびC2由来の結腸がん細胞ならびに患者L1およびL2由来の肺がん細胞)および15種の異なる薬物(カペシタビン、セツキシマブ、ドセタキセル、フルオロウラシル、ゲフィチニブ、GSK1059615、GSK1120212、ラパチニブ、パクリタキセル、パゾパニブ、トラスツズマブ、トポテカン、シスプラチン、エルロチニブおよびオキサリプラチン)の選択から可能な細胞および薬物組み合わせの一部を用いて、51種のCELx経路シャットダウンおよび抗増殖性単一薬物検査を行った。6種のCELx組み合わせ検査を行い、2種は、パクリタキセルおよびシスプラチンの薬物組み合わせならびに患者L1およびL2細胞を用いて、4種は、トラスツズマブおよびラパチニブの薬物組み合わせならびに患者B1、B2、B3およびB4細胞を用いて行った。インピーダンスバイオセンサーCReMSにより、細胞の生理的変化および検査した薬物を測定し、CReMSからの概要出力を
図4に記録する。これらのCELx検査結果および第三者臨床参照の間の相関を
図7に記録する。
【0254】
材料と方法
CReMS、マイクロプレート、試薬およびバッファー:
図4に収載されている57種の検査のそれぞれは、実施例1~3に記載されているものと同じCReMS、マイクロプレート、試薬およびバッファーによる。
【0255】
細胞:実施例1に記載されている様式と同じ様式で、患者B1、B2、B3、B4、B5、B6、B7、C1、C2、L1およびL2由来の細胞を利用し、取り扱った。
【0256】
手順:標的経路薬物(セツキシマブ、ゲフィチニブ、GSK1059615、GSK1120212、ラパチニブ、パゾパニブ、トラスツズマブおよびエルロチニブ)に関与する実験において、実施例1に記載されている手順を利用した。抗増殖薬(カペシタビン、ドセタキセル、フルオロウラシル、パクリタキセル、トポテカン、シスプラチンおよびオキサリプラチン)に関与する実験において、実施例2に記載されている手順を利用した。薬物の組み合わせに関与する実験において、実施例3に記載されている手順を利用した。患者細胞および細胞により検査した薬物のリストは、
図4に特徴付けされている。
【0257】
結果:収載されている細胞および薬物の様々な組み合わせにおいて行った57種のCELx検査の概要結果を
図4に示す。実験毎に、その対照細胞と比較した被験細胞の生理応答の変化を計算した。
図4における各ボックスは、各実験において測定した生理応答の変化を、50%超、5%~50%の間または5%未満のいずれかとして分類する。
図4に表されている一連の検査は、広範な細胞経路を標的とする広範な薬物に曝露された後に、種々の共通がん細胞型において生じる生理的変化を測定するCELx検査の能力を例示する。CELx検査予測および第三者臨床参照によって記録された結果の比較を
図7に示す。この図は、CELx検査結果が、患者および薬物組み合わせに関して報告された第三者臨床参照と相関したことを示す。
【0258】
考察:本実施例に記載されている57種の検査において、本明細書に記載されている本発明は、次のものによる有効性を実証した:
結腸、乳房および肺がん細胞;
EGFR、EGFR-TK、PI3K、MEK1、MEK2、HER2受容体およびVEGFRを包含する標的による、MAPK、RHO、AKT、FAK1、RAS/RAF、PI3K、MAK、MKK、MEKおよび細胞接着経路を阻害する標的経路薬物;ならびに
トポイソメラーゼI、TUBB1、BCL2、DNA、プリン架橋(GG、AG、GNG)およびチミジル酸シンターゼを包含する標的による、アポトーシス経路を標的とする抗増殖薬。
【0259】
1種を除くCELx検査結果のそれぞれは、この患者細胞および薬物組み合わせの結果と相関した。
【0260】
(実施例5)
異なるCReMSから得られた結果の間の一致検査
上皮成長因子(EGF)受容体を過剰発現する4名の乳がん患者(患者B1、B2、B3、B4)由来の細胞、1種の薬物セツキシマブおよびヒト上皮成長因子(EGF)を用いて、CELx経路シャットダウン検査を行った。インピーダンスバイオセンサーCReMSおよび光学的バイオセンサーCReMSにより、検査における4名の患者の細胞の生理的変化を測定して、2種の異なるCReMSから得られた結果の相関を実証した。CReMSから得られた出力を
図5に記録する。本実施例は、CELx検査が、2種の異なるCReMSを用いて、患者の細胞における生理的変化の同じ測定値を得ることができる仕方を例示する。
【0261】
材料と方法
CReMSおよびマイクロプレート:本実施例において、2種の異なるCReMSを用いた。ある一連の検査において、全ウェルのインピーダンスを同時に測定しつつ定電圧を維持するよう設計されたRoche Applied Science(インディアナ州インディアナポリス)xCELLigence SPインピーダンスバイオセンサー内に、4”×6”、96ウェルインピーダンスマイクロプレートを置いた。特定のウェルのインピーダンスの変化は、細胞の数および細胞とインピーダンスマイクロプレートとの付着の種類に比例する。インピーダンスの変化は、これらの小細胞集団の撹乱に対する応答を示す。他の一連の検査において、各ウェルにおいて850ナノメートル近赤外反射光を走査するよう設計されたPerkinElmer Instruments(マサチューセッツ州ウォルサム)EnSpire Multimode光学的バイオセンサー内に、4”×6”、384ウェル光学的マイクロプレートを置いた。特定のウェルの反射された波長の変化は、細胞の数および細胞と光学的マイクロプレートとの付着の種類に比例する。反射された波長の変化は、ウェルにおける小細胞集団の撹乱に対する応答を示す。
【0262】
試薬およびバッファー:実施例1において使用される試薬およびバッファーは、用いた治療剤を除いて、実施例5において用いられるものと同じである。実施例5において、治療剤セツキシマブを検査した。セツキシマブは、医学調剤薬局から取得した。
【0263】
細胞:両方の検査セットにおいて患者B1、B2、B3およびB4由来の乳がん細胞を利用し、実施例1に記載されている様式と同じ様式で取り扱った。
【0264】
手順:インピーダンスバイオセンサーCReMSを用いて行われる検査のセットにおいて、各ウェルにおいて6,000~12,000個の間の細胞を、120uLの血清含有定着培地を含有するインピーダンスマイクロプレートに播種した。経路刺激2時間前に、40マイクロリットルの薬物セツキシマブを、B1、B2、B3およびB4患者細胞のそれぞれ1セットを含有する無血清培地に加えた;B1、B2、B3およびB4細胞の別の対照セットには、薬物を与えなかった。EC80用量の受容体リガンド(20uLにおける6nM)を用いて経路刺激を惹起した。生理的変化を記録するインピーダンスCReMSを、マイクロプレートに細胞が最初に播種されてから完全な細胞応答まで、20~48時間の間に及び、連続的に維持した。37℃、5%CO2、75%相対湿度で検査を行った。
【0265】
光学的バイオセンサーCReMSを用いて行われる検査のセットにおいて、各ウェルにおいて6,000~12,000個の間の細胞を、60uLの血清含有定着培地を含有する光学的マイクロプレートに播種した。経路刺激の2時間前に、20マイクロリットルの薬物セツキシマブを、B1、B2、B3およびB4患者細胞のそれぞれ1セットを含有する無血清培地に加えた;B1、B2、B3およびB4細胞の別の対照セットには、薬物を与えなかった。EC80用量の受容体リガンド(20uLにおける6nM)を用いて経路刺激を惹起した。生理的変化を記録する光学的CReMSを、マイクロプレートに細胞を最初に播種してから完全な細胞応答まで、20~48時間の間に及び、連続的に維持した。25℃~30℃、<5%CO2、30%相対湿度で検査を行った。
【0266】
結果:
図5は、薬物セツキシマブおよびEGFを用いて、4名の乳がん患者(B1、B2、B3およびB4)由来の細胞において別々に行われた8種のCELx検査の概要結果を示す。細胞B1、B2、B3およびB4における検査の1セットは、光学的バイオセンサーCReMSを用いて行い、同じ細胞における検査の別のセットは、インピーダンスバイオセンサーCReMSを用いて行った。CReMSにより記録された出力のパーセンテージ変化の範囲を示す概要様式で結果を提示する。検査した患者細胞毎に、各CReMSにより記録された生理的変化の量は、同一であった。これらの結果は、CELx検査方法が、細胞における異なる生理的変化を測定する異なる種類のCReMSを利用できることを例示する。
【0267】
考察:本実施例において、細胞生理的変化を測定するための異なるトランスデューサー界面を有する2種の異なるCReMSにおいてCELx検査を行った。処置に対する生理応答の取得に用いた機器の有意な差にもかかわらず、光学的バイオセンサーCReMSおよびインピーダンスバイオセンサーCReMSは、患者試料それぞれに対し同一結果を生じた。この結果は、多くのCReMS種類への本発明の拡張と、薬物に対する治療応答を予測するために個々の患者の細胞生理的変化を用いる本発明の普遍性の例示に重要である。
【0268】
実施例の概要
CELx検査結果および臨床予測の概要
実施例1~4に記載されている全65種の総CELx検査の概要結果を
図6に提示する。
図6に記載されているCELx検査結果と、単一の薬物または薬物組み合わせに対する患者の応答性を記録した第三者臨床参照からの結果との間の相関(0%または100%のいずれか)を
図7に示す。1種を除く全65種の検査において、CELx検査予測および第三者測定値は、同じ結果を生じ、広範な細胞経路を標的とする16種の異なる薬物に対する乳房、肺および結腸患者応答を予測するCELx検査の能力を例示する。
【0269】
実施例1~4において検査された様々な患者がん細胞のCELx検査予測、対、第三者記録を、
図8A、
図8B、
図8Cおよび
図8Dに提示する。患者が、薬物または薬物組み合わせに応答することを的確に予測するCELx検査結果は、真陽性(TP)結果として表示される。患者が、薬物または薬物組み合わせに応答しないという的確な予測は、真陰性(TN)結果として表示される。患者が、薬物または薬物組み合わせに応答するという不確かな予測は、偽陽性(FP)として表示され、患者が、薬物に応答しないという不確かな予測は、偽陰性(FN)として表示される。
【0270】
図8Aは、単独でまたは16種の異なる薬物と組み合わせて検査した12種のがん患者細胞を用いた、実施例1~4において行った全検査の結果、対、第三者記録の比較を記録する。
図8Bは、単独および13種の異なる薬物と組み合わせて検査した8種の乳がん患者細胞の結果、対、第三者記録の比較を記録する。
図8Cは、単独および3種の異なる薬物と組み合わせて検査した2種の異なる結腸がん患者細胞の結果の比較を記録する。
図8Dは、単独および3種の異なる薬物と組み合わせて検査した2種の異なる肺がん患者細胞の結果の比較を記録する。各図において、CELx検査は、1事例を除いて、患者が特定の薬物または薬物の組み合わせに応答するかしないか的確に予測することが示されている。
図8Bにおいて、ゲフィチニブに対しレスポンダーであることが予想された1種の患者乳がん細胞試料が、CReMS検査において応答を示さなかったことが分かる。
【0271】
実施例1~4において検査した患者細胞および薬物ならびに検査した患者、薬物、経路およびCReMSの種類のサブグループに対するCELx検査の感度および特異性を、
図9に提示する。全体および試験したサブグループそれぞれの内において、CELx検査は、高い感度(98%+)および特異性(99.9%+)を生じた。これらの結果は、実施例1~4に記載されている異なるがん細胞型、薬物の種類、CReMSの種類および検査において標的化される経路にわたる検査の予測力を例示する。