(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】無菌バリアシステム、及び、その除染方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/20 20060101AFI20220721BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20220721BHJP
B01L 1/00 20060101ALI20220721BHJP
F24F 8/24 20210101ALI20220721BHJP
A61L 101/22 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
A61L2/20 106
A61L2/18 102
B01L1/00 A
B01L1/00 C
F24F8/24
A61L101:22
(21)【出願番号】P 2021210520
(22)【出願日】2021-12-24
【審査請求日】2021-12-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599053643
【氏名又は名称】株式会社エアレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】川崎 康司
(72)【発明者】
【氏名】角田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】益留 純
(72)【発明者】
【氏名】緒方 嘉貴
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-198079(JP,A)
【文献】特公昭61-004543(JP,B2)
【文献】特開2015-190682(JP,A)
【文献】特開2013-164252(JP,A)
【文献】特開2008-264506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/20
A61L 2/18
B01L 1/00
A61L 101/22
F24F 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部環境から壁面で隔てられ当該壁面のうち側壁面の下方部に外部環境への
開放部を設けたチャンバーと、前記チャンバーの内部に供給する空気を外部環境から導入する外気導入手段と、前記チャンバーの内部に天井壁から下方に向かう一方向流の空気を供給する整流板及び送風手段と、前記チャンバーの内部を除染する際に除染剤を供給する除染剤供給手段と、前記チャンバーの側壁面の下方部且つ前記
開放部の近傍に前記チャンバーの内部から外部環境に向けて設けられた除染剤分解ユニットと、前記開放部を遮蔽する開閉可能な遮蔽扉とを有し、
前記チャンバーの内部を除染操作及びエアレーション操作により無菌状態にしたのちに、当該チャンバーの内部で無菌作業を行う無菌バリアシステムであって、
前記除染操作の際には、前記遮蔽扉が前記開放部を遮蔽した状態にあり、前記除染剤供給手段が作動して、当該チャンバーの内部に除染剤を直接供給して除染し、
前記エアレーション操作の際には、前記遮蔽扉が前記開放部を遮蔽した状態にあり、前記外気導入手段及び前記送風手段を介して前記チャンバーの内部に清浄空気を導入し、前記整流板を介して前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気の流れを維持し、且つ、前記チャンバーの内部を外部環境より陽圧にした状態で、空気の圧力差により当該チャンバーの内部の除染剤を含む空気が駆動ファンの作動を必要とせず前記除染剤分解ユニットを通過して除染剤が分解された空気が外部環境に放出され、
前記無菌作業の際には、前記遮蔽扉が
開放されて前記開放部が外部環境に開放された状態にあり、前記外気導入手段と前記送風手段とが作動して、外部環境から導入された空気が前記整流板を介して前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気となり、前記
開放部から外部環境に放出されることを特徴とする無菌バリアシステム。
【請求項2】
外部環境から壁面で隔てられ当該壁面のうち底壁面に排気ダンパーを備えたチャンバーと、前記チャンバーの内部に供給する空気を外部環境から導入する外気導入手段と、前記チャンバーの内部に天井壁から下方に向かう一方向流の空気を供給する整流板及び送風手段と、前記チャンバーの内部を除染する際に除染剤を供給する除染剤供給手段と、前記チャンバーの側壁面の下方部に当該チャンバーの内部から外部環境に向けて設けられた除染剤分解ユニットとを有し、
前記チャンバーの内部を除染操作及びエアレーション操作によりを無菌状態にしたのちに、当該チャンバーの内部で無菌作業を行う無菌バリアシステムであって、
前記除染操作の際には、前記排気ダンパーを閉鎖した状態とし、前記除染剤供給手段が作動して、当該チャンバーの内部に除染剤を直接供給して除染し、
前記エアレーション操作の際には、前記排気ダンパーを閉鎖した状態を維持したまま、前記外気導入手段及び前記送風手段を介して前記チャンバーの内部に清浄空気を導入し、前記整流板を介して前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気の流れを維持し、且つ、前記チャンバーの内部を外部環境より陽圧にした状態で、空気の圧力差により当該チャンバーの内部の除染剤を含む空気が駆動ファンの作動を必要とせず前記除染剤分解ユニットを通過して除染剤が分解された空気が外部環境に放出され、
前記無菌作業の際には、前記排気ダンパーを開放した状態にあり、前記外気導入手段と前記送風手段とが作動して、外部環境から導入された空気が前記整流板を介して前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気となり、前記チャンバーの底壁面に設けられた排出ダンパーを介して外部環境に放出されることを特徴とする無菌バリアシステム。
【請求項3】
前記除染剤分解ユニットは、前記チャンバーの内部を除染する際に除染剤として使用する過酸化水素を除染後に分解する過酸化水素分解触媒を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の無菌バリアシステム。
【請求項4】
前記チャンバーの内部の下方部の空気を前記天井壁の上部に設けられた前記送風手段に循環させる二重壁からなる側壁面、又は、循環ダクトを有していないことを特徴とする請求項1又は2に記載の無菌バリアシステム。
【請求項5】
外部環境から導入された空気をチャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気とし、当該チャンバーの側壁面の下方部に設けられた
開放部から外部環境に放出する無菌バリアシステムにおいて、前記チャンバーの内部を除染するための除染操作とエアレーション操作とからなる除染方法であって、
前記無菌バリアシステムは、前記チャンバーと、前記チャンバーの内部に供給する空気を外部環境から導入する外気導入手段と、前記チャンバーの内部に天井壁から下方に向かう一方向流の空気を供給する整流板及び送風手段と、前記チャンバーの内部を除染する際に除染剤を供給する除染剤供給手段と、前記チャンバーの側壁面の下方部且つ前記
開放部の近傍に前記チャンバーの内部から外部環境に向けて設けられた除染剤分解ユニットと、前記開放部を遮蔽する開閉可能な遮蔽扉とを有し、
前記除染操作において、前記遮蔽扉で前記開放部を遮蔽した状態とし、前記除染剤供給手段から前記チャンバーの内部に過酸化水素ガス又はミストを直接供給して除染し、
前記エアレーション操作において、前記遮蔽扉で前記開放部を遮蔽した状態を維持したまま、前記外気導入手段及び前記送風手段を介して前記チャンバーの内部に清浄空気を導入し、前記整流板を介して前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気の流れを維持し、且つ、前記チャンバーの内部を外部環境より陽圧にすることにより、空気の圧力差により当該チャンバーの内部に残留する過酸化水素ガス又はミストを前記清浄空気と共に駆動ファンの作動を必要とせず前記除染剤分解ユニットを通過させることにより過酸化水素を分解して前記チャンバーの内部を清浄化することを特徴とする無菌バリアシステムの除染方法。
【請求項6】
外部環境から導入された空気をチャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気とし、当該チャンバーの底壁面に備えられた排気ダンパーを開放して外部環境に放出する無菌バリアシステムにおいて、前記チャンバーの内部を除染するための除染操作とエアレーション操作とからなる除染方法であって、
前記無菌バリアシステムは、前記チャンバーと、前記チャンバーの内部に供給する空気を外部環境から導入する外気導入手段と、前記チャンバーの内部に天井壁から下方に向かう一方向流の空気を供給する整流板及び送風手段と、前記チャンバーの内部を除染する際に除染剤を供給する除染剤供給手段と、前記チャンバーの側壁面の下方部に前記チャンバーの内部から外部環境に向けて設けられた除染剤分解ユニットとを有し、
前記除染操作において、前記排気ダンパーを閉鎖した状態とし、前記除染剤供給手段から前記チャンバーの内部に過酸化水素ガス又はミストを直接供給して除染し、
前記エアレーション操作において、前記排気ダンパーを閉鎖した状態を維持したまま、前記外気導入手段及び前記送風手段を介して前記チャンバーの内部に清浄空気を導入し、前記整流板を介して前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気の流れを維持し、且つ、前記チャンバーの内部を外部環境より陽圧にすることにより、空気の圧力差により当該チャンバーの内部に残留する過酸化水素ガス又はミストを前記清浄空気と共に駆動ファンの作動を必要とせず前記除染剤分解ユニットを通過させることにより過酸化水素を分解して前記チャンバーの内部を清浄化することを特徴とする無菌バリアシステムの除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部を無菌状態に保つ作業に使用する無菌バリアシステム、及び、その除染方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
清浄な雰囲気で行われる作業、例えば、医薬品の製造段階の作業、或いは、半導体や電子部品の製造段階の作業においては、外部環境から汚染物質が入り込まないように内部を無菌・無塵状態に保った清浄な作業環境で作業が行われる。このような作業環境としては、一般にはクリーンルームが使用される。このクリーンルーム内では、無塵衣を身に付けた作業者が作業を行う。しかし、無菌性保証水準、無塵性保証水準を高めるためには、クリーンルーム内に更に高度なクリーン領域を構成して作業が行われる。
【0003】
高度なクリーン領域を構成する装置・システム(以下、「無菌バリアシステム」という)として下記非特許文献1において、アイソレーター(Isolator)と、アクセス制限バリアシステム(RABS:Restricted Access Barrier System)とが示されている。また、本発明においては、これらに加えクリーンベンチなども無菌バリアシステムに含むものとする。
【0004】
アイソレーターは、外部環境から密閉されたチャンバーを使用し、作業者がこのチャンバーの外部から作業用グローブなどを介して作業を行う。これらのアイソレーターのチャンバー内においては、上方から下方に流れる一方向流の清浄空気の層流(ラミナーフロー)を流して、チャンバー内のクリーン環境を維持している。
【0005】
アクセス制限バリアシステム(以下「RABS」という)は、クリーンルーム内の一部に下方部が開放された壁面で囲まれた領域を設け、その内部に上方から下方に流れる一方向流の清浄空気の層流(ラミナーフロー)を流すと共に、作業者の厳格なアクセス制限を行うようにしたものである。このRABSにおいては、作業者は壁面に設けられた作業用グローブやハーフスーツなどを介して作業を行う。クリーンベンチは、RABSよりも簡易型の装置ではあるが、基本的な考え方はRABSと同様である。
【0006】
一方、無菌バリアシステム(アイソレーター、RABS、クリーンベンチなど)のチャンバー(作業室に対応)の除染には、過酸化水素ガスが広く採用されている。この過酸化水素ガスは、強力な滅菌効果を有し、安価で入手しやすく、且つ、最終的には酸素と水に分解する環境に優しい除染ガスとして有効である。なお、過酸化水素ガスによる除染効果は、除染対象部位の表面に凝縮する過酸化水素水の凝縮膜によるものであることが下記特許文献1で示された。
【0007】
そこで、本発明者らは、過酸化水素ガスに代えて過酸化水素水の微細なミストをチャンバーの内部に供給することで、より少ない量の除染剤で効率的な除染が可能であることを見出し、下記特許文献2などの提案を行った。その後、過酸化水素ミストによる除染は、世界的に広がっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭61-4543号公報
【文献】特願2020-156970号
【非特許文献】
【0009】
【文献】厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課、「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」の改訂について(平成23年4月20日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
密閉型のアイソレーターのチャンバーの内部を除染する際には、アイソレーターが配置されたクリーンルームとは別に除染する。一方、一部開放型のRABS、クリーンベンチなど(以下「RABSなど」という)のチャンバーの内部を除染する際には、RABSなどが配置されたクリーンルームと共に除染する場合もあるが、RABSなどのチャンバー内の環境がグレードAを要求される場合であっても、クリーンルームの環境はグレードBなどである場合が多い。その場合には、RABSなどをクリーンルームとは別に除染することとなる。
【0011】
ここでは、RABSを例にして説明する。従来のRABSの除染においては、除染操作後のエアレーション操作において、チャンバー内の除染剤を含む空気を天井壁の上部空間(送風ゾーン)に設けられた送風器に循環させるための二重壁又はダクトが必要である(詳細は後述する)。また、RABSの天井壁の送風ゾーンに、除染剤を分解無害化するための触媒ユニットを設け、循環するチャンバー内の空気を排気する。このとき、天井壁の送風ゾーンの空気圧が外部環境よりも負圧となるため、触媒ユニットには専用ファン(外部環境に放出するための加圧ファン)が必要であった。
【0012】
そのため、従来のRABSにおいては、天井壁の送風ゾーンの送風器部分の構造やチャンバー部分の構造が複雑となり、RABS自体のコストアップの要因となっていた。また、エアレーション操作においては、チャンバーの下方部(底面付近)の空気の流れが複雑(下方流を上方に循環させるため)になり、空気が滞留する部分が生じてエアレーション効率が良くない部分があるという構造上の課題があった。
【0013】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、チャンバー内と送風ゾーンとの間での空気の循環を必須要件とせず、除染剤を分解無害化するための触媒ユニットに専用ファンを設置することがなく、コンパクトでシンプルな構造であって、除染・エアレーションにおける操作効率の高い無菌バリアシステム、及び、その除染方法を提供することを目的とする。なお、この除染・エアレーションにおける操作効率の高いシステムは、密閉型のアイソレーターのチャンバーの除染に対しても有効である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、無菌バリアシステムのチャンバーの内部を上方から下方に流れる一方向流とチャンバーの内圧を利用し、チャンバーに設けられた開放部を有効に利用することにより、空気流を乱すことなく効率よくエアレーションできることを見出して本発明の完成に至った。
【0015】
即ち、本発明に係る無菌バリアシステムは、請求項1の記載によれば、
外部環境から壁面で隔てられ当該壁面のうち側壁面の下方部に外部環境への開放部を設けたチャンバー(330)と、前記チャンバーの内部に供給する空気を外部環境から導入する外気導入手段(341)と、前記チャンバーの内部に天井壁(331)から下方に向かう一方向流の空気を供給する整流板(333)及び送風手段(343)と、前記チャンバーの内部を除染する際に除染剤を供給する除染剤供給手段(350)と、前記チャンバーの側壁面(322)の下方部且つ前記開放部の近傍に前記チャンバーの内部から外部環境に向けて設けられた除染剤分解ユニット(344)と、前記開放部を遮蔽する開閉可能な遮蔽扉(324)とを有し、
前記チャンバーの内部を除染操作及びエアレーション操作によりを無菌状態にしたのちに、当該チャンバーの内部で無菌作業を行う無菌バリアシステムであって、
前記除染操作の際には、前記遮蔽扉が前記開放部を遮蔽した状態にあり、前記除染剤供給手段が作動して、当該チャンバーの内部に除染剤を直接供給して除染し、
前記エアレーション操作の際には、前記遮蔽扉が前記開放部を遮蔽した状態にあり、前記外気導入手段及び前記送風手段を介して前記チャンバーの内部に清浄空気を導入し、前記整流板を介して前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気の流れを維持し、且つ、前記チャンバーの内部を外部環境より陽圧にした状態で、空気の圧力差により当該チャンバーの内部の除染剤を含む空気が駆動ファンの作動を必要とせず前記除染剤分解ユニットを通過して除染剤が分解された空気が外部環境に放出され、
前記無菌作業の際には、前記遮蔽扉が開放されて前記開放部が外部環境に開放された状態にあり、前記外気導入手段と前記送風手段とが作動して、外部環境から導入された空気が前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気となり、前記開放部から外部環境に放出されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る無菌バリアシステムは、請求項2の記載によれば、
外部環境から壁面で隔てられ当該壁面のうち底壁面に排気ダンパーを備えたチャンバーと、前記チャンバーの内部に供給する空気を外部環境から導入する外気導入手段と、前記チャンバーの内部に天井壁から下方に向かう一方向流の空気を供給する整流板及び送風手段と、前記チャンバーの内部を除染する際に除染剤を供給する除染剤供給手段と、前記チャンバーの側壁面の下方部に当該チャンバーの内部から外部環境に向けて設けられた除染剤分解ユニットとを有し、
前記チャンバーの内部を除染操作及びエアレーション操作によりを無菌状態にしたのちに、当該チャンバーの内部で無菌作業を行う無菌バリアシステムであって、
前記除染操作の際には、前記排気ダンパーを閉鎖した状態とし、前記除染剤供給手段が作動して、当該チャンバーの内部に除染剤を直接供給して除染し、
前記エアレーション操作の際には、前記排気ダンパーを閉鎖した状態を維持したまま、、前記外気導入手段及び前記送風手段を介して前記チャンバーの内部に清浄空気を導入し、前記整流板を介して前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気の流れを維持し、且つ、前記チャンバーの内部を外部環境より陽圧にした状態で、空気の圧力差により当該チャンバーの内部の除染剤を含む空気が駆動ファンの作動を必要とせず前記除染剤分解ユニットを通過して除染剤が分解された空気が外部環境に放出され、
前記無菌作業の際には、前記排気ダンパーを開放した状態にあり、前記外気導入手段と前記送風手段とが作動して、外部環境から導入された空気が前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気となり、前記チャンバーの底壁面に設けられた排出ダンパーを介して外部環境に放出されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載の無菌バリアシステムであって、
前記除染剤分解ユニットは、前記チャンバーの内部を除染する際に除染剤として使用する過酸化水素を除染後に分解する過酸化水素分解触媒(344b)を備えていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1又は2に記載の無菌バリアシステムであって、
前記チャンバーの内部の下方部の空気を前記天井壁の上部に設けられた前記送風手段に循環させる二重壁からなる側面壁、又は、循環ダクトを有していないことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る無菌バリアシステムの除染方法は、請求項5の記載によれば、
外部環境から導入された空気をチャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気とし、当該チャンバーの側壁面の下方部に設けられた開放部から外部環境に放出する無菌バリアシステムにおいて、前記チャンバーの内部を除染するための除染操作とエアレーション操作とからなる除染方法であって、
前記無菌バリアシステムは、前記チャンバー(330)と、前記チャンバーの内部に供給する空気を外部環境から導入する外気導入手段(341)と、前記チャンバーの内部に天井壁(331)から下方に向かう一方向流の空気を供給する整流板(333)及び送風手段(343)と、前記チャンバーの内部を除染する際に除染剤を供給する除染剤供給手段(350)と、前記チャンバーの側壁面(322)の下方部且つ前記開放部の近傍に前記チャンバーの内部から外部環境に向けて設けられた除染剤分解ユニットと、前記開放部を遮蔽する開閉可能な遮蔽扉(324)とを有し、
前記除染操作において、前記遮蔽扉で前記開放部を遮蔽した状態とし、前記除染剤供給手段から前記チャンバーの内部に過酸化水素ガス又はミストを直接供給して除染し、
前記エアレーション操作において、前記遮蔽扉で前記開放部を遮蔽した状態を維持したまま、前記外気導入手段及び前記送風手段を介して前記チャンバーの内部に清浄空気を導入し、前記整流板を介して前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気の流れを維持し、且つ、前記チャンバーの内部を外部環境より陽圧にすることにより、空気の圧力差により当該チャンバーの内部に残留する過酸化水素ガス又はミストを前記清浄空気と共に駆動ファンの作動を必要とせず前記除染剤分解ユニットを通過させることにより過酸化水素を分解して前記チャンバーの内部を清浄化することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る無菌バリアシステムの除染方法は、請求項6の記載によれば、
外部環境から導入された空気をチャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気とし、当該チャンバーの底壁面に備えられた排気ダンパーを開放して外部環境に放出する無菌バリアシステムにおいて、前記チャンバーの内部を除染するための除染操作とエアレーション操作とからなる除染方法であって、
前記無菌バリアシステムは、前記チャンバーと、前記チャンバーの内部に供給する空気を外部環境から導入する外気導入手段と、前記チャンバーの内部に天井壁から下方に向かう一方向流の空気を供給する整流板及び送風手段と、前記チャンバーの内部を除染する際に除染剤を供給する除染剤供給手段と、前記チャンバーの側壁面の下方部に前記チャンバーの内部から外部環境に向けて設けられた除染剤分解ユニットとを有し、
前記除染操作において、前記排気ダンパーを閉鎖した状態とし、前記除染剤供給手段から前記チャンバーの内部に過酸化水素ガス又はミストを直接供給して除染し、
前記エアレーション操作において、前記排気ダンパーを閉鎖した状態を維持したまま、前記外気導入手段及び前記送風手段を介して前記チャンバーの内部に清浄空気を導入し、前記整流板を介して前記チャンバーの天井壁から下方に向かう一方向流の空気の流れを維持し、且つ、前記チャンバーの内部を外部環境より陽圧にすることにより、空気の圧力差により当該チャンバーの内部に残留する過酸化水素ガス又はミストを前記清浄空気と共に駆動ファンの作動を必要とせず前記除染剤分解ユニットを通過させることにより過酸化水素を分解して前記チャンバーの内部を清浄化することを特徴とする。
【0021】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する第1実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0022】
上記構成によれば、無菌バリアシステムは、チャンバーと外気導入手段と除染剤供給手段と送風手段と除染剤分解ユニットと遮蔽扉とを有している。チャンバーは、外部環境から壁面で隔てられ当該壁面のうち側壁面の下方部に外部環境への開放部を設けた状態にある。外気導入手段は、チャンバーの内部に供給する空気を外部環境から導入する。除染剤供給手段は、チャンバーの内部を除染する際に除染剤を供給する。送風手段は、チャンバーの内部に天井壁から下方に向かう一方向流の空気を供給する。除染剤分解ユニットは、チャンバーの側面壁の下方部且つ開放部の近傍にチャンバーの内部から外部環境に向けて設けられている。遮蔽扉は、開放部を遮蔽する。
【0023】
このことにより、チャンバー内と送風ゾーンとの間での空気の循環を必須要件とせず、除染剤を分解無害化するための触媒ユニットに専用ファンを設置することがなく、コンパクトでシンプルな構造であって、除染・エアレーションにおける操作効率の高い無菌バリアシステムを提供することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、除染剤分解ユニットは、専用の風圧手段を必要としなくてもよい。また、チャンバーの内部を除染する際に除染剤として使用する過酸化水素を除染後に分解する過酸化水素分解触媒を備えていてもよい。これらのことにより、上記作用効果をより具体的かつ効果的に発揮することができる。
【0025】
また、上記構成によれば、無菌バリアシステムは、チャンバーの内部の下方部の空気を天井壁の上部に設けられた送風手段に循環させる二重壁からなる側面壁、又は、循環ダクトを有していなくてもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的かつ効果的に発揮することができる。
【0026】
また、上記構成によれば、無菌バリアシステムの除染方法は、上述の無菌バリアシステムに対して、チャンバーの内部の無菌状態を担保するための除染操作、及び、除染操作後にチャンバーの内部をエアレーションするエアレーション操作に関するものである。
【0027】
除染操作においては、遮蔽扉で開放部を遮蔽した状態とし、除染剤供給手段からチャンバーの内部に過酸化水素ガス又はミストを放出して除染する。
【0028】
エアレーション操作においては、遮蔽扉で開放部を遮蔽した状態を維持したまま、外気導入手段及び送風手段を介してチャンバーの内部に清浄空気を導入してチャンバーの内部を外部環境より陽圧にする。このことにより、チャンバーの内部に残留する過酸化水素ガス又はミストを清浄空気と共に除染剤分解ユニットを通過させて過酸化水素を分化してチャンバーの内部を清浄化する。
【0029】
このことにより、チャンバー内と送風ゾーンとの間での空気の循環を必須要件とせず、除染剤を分解無害化するための触媒ユニットに専用ファンを設置することがなく、コンパクトでシンプルな構造であって、除染・エアレーションにおける操作効率の高い無菌バリアシステムの除染方法を提供することができる。
【0030】
また、上記構成によれば、エアレーション操作において、チャンバーの内部を陽圧にすることにより除染剤分解ユニットに専用の風圧手段を必要としなくてもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的かつ効果的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】従来のRABSの一例(二重壁方式)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。
【
図2】従来のRABSの他の例(ダクト方式)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。
【
図4】
図3の無菌バリアシステムの過酸化水素分解ユニット及び遮蔽扉の部分を拡大した、(A)遮蔽扉の開放状態、(B)遮蔽扉の遮蔽状態を示す概要断面図である。
【
図5】
図4の無菌バリアシステムの遮蔽扉の他の構造例を示す、(A)遮蔽扉の開放状態、(B)遮蔽扉の遮蔽状態を示す概要断面図である。
【
図6】
図1の従来のRABS(二重壁方式)を改造した、第2実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。
【
図7】
図1の従来のRABS(二重壁方式)を改造した、第3実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。
【
図8】第4実施形態に係る無菌バリアシステム(クリーンベンチ型)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。
【
図9】第5実施形態に係る無菌バリアシステム(アイソレーター型)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る無菌バリアシステム(アイソレーター、RABS、クリーンベンチなど)について説明する前に、従来の無菌バリアシステムについてRABSを例にして説明する。以下、使用する全ての図面(
図1~
図9)において、空気の流れを破線で示している。
【0033】
《従来のRABS(二重壁方式)》
まず、従来のRABSの一例として、二重壁方式のRABSについて説明する。
図1は、従来のRABSの一例(二重壁方式)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。まず、通常操作を示す
図1(C)において、従来のRABS(二重壁方式)の構成を説明する。なお、
図1(A)及び(B)においては、(C)と重複する符号の記載を一部省略する。
【0034】
図1(C)において、RABS100は、サポートエリアを形成するクリーンルーム(図示せず)の内部に周囲から隔離された状態で設けられている。クリーンルームのサポートエリアには、クリーン衣を着用した作業者(図示せず)が、RABS100の外部から作業用グローブ(図示せず)を介して作業を行う。
【0035】
RABS100は、床面上に載置される架台110と、この架台110の上に乗載されるRABS本体120とにより構成されている。架台110は、周囲をステンレス製金属板からなる壁材で覆われ、その内部には、電装及び機械室(図示せず)が収納されている。RABS本体120の内部には、チャンバー130と送風ゾーン140とが設けられている。
【0036】
チャンバー130は、天井壁131と内側面壁132とで囲まれ、内側面壁132の下方部(架台110との間)が開放されている。なお、RABS本体120の外側面壁122とチャンバー130内側面壁132とで二重壁134を構成し、外側面壁122の下方部(架台110との間)も開放されている。また、チャンバー130の天井壁131の下方には、スクリーンメッシュからなる整流板133が設けられている。
【0037】
送風ゾーン140は、RABS本体120の天井壁121と外側面壁122及びチャンバー130の天井壁131とで囲まれた空間である。送風ゾーン140の外側面壁122にはRABS100に外部環境(クリーンルーム)から空気を供給する給気ブロワー141と外部環境に空気を排気する排気ブロワー142とが設けられている。また、送風ゾーン140の内部には、チャンバー130の内部に清浄空気を供給する送風装置143と、除染剤を含む空気から除染剤を分解して排気する除染剤分解ユニット144とが設けられている。
【0038】
送風装置143は、送風ファン143aとフィルター143bとから構成されている。この送風装置143は、給気ブロワー141から送風ゾーン140に供給される空気を清浄空気とし、整流板133を介してチャンバー130の内部を上方から下方に向けて流れる一方向流の清浄空気を供給する。
【0039】
除染剤分解ユニット144は、加圧ファン144aと触媒フィルター144bとフィルター144cとから構成されている。この除染剤分解ユニット144は、除染後のエアレーションの際にチャンバー130の内部に残留した除染剤(過酸化水素)を分解しながら外部環境(クリーンルーム)に空気を排気する。
【0040】
このような構成において、従来のRABS100(二重壁方式)の無菌状態での通常操作について説明する。
図1(C)において、給気ブロワー141から送風ゾーン140に供給された空気は、送風装置143によって清浄空気となり、整流板133を介してチャンバー130の内部を上方から下方に向けて一方向流の清浄空気として流れる。
【0041】
この一方向流の清浄空気は、RABS本体120の外側面壁122とチャンバー130の内側面壁132とで構成された二重壁134の下方部に開口する開放部123から外部環境(クリーンルーム)に排気される。なお、一部の清浄空気は、二重壁134と送風ゾーン140を介して循環する。このように、RABSにおいては、チャンバー130の内部を流れる一方向流の清浄空気によって、クリーンルームよりも高度の空気清浄度が維持されている。
【0042】
次に、従来のRABS100(二重壁方式)の除染方法について説明する。除染方法は、除染剤による除染操作と、除染操作後に除染剤を排除するエアレーション操作から構成される。まず、除染操作について説明する。
図1(A)において、二重壁134の下方部に開口する開放部123に遮蔽扉124を設置して、RABS本体120の内部を外部環境から遮蔽する。次に、外部環境にある除染剤供給装置150からチャンバー130の内部に除染剤を供給する。ここでは、除染剤として過酸化水素水を使用する。なお、供給する過酸化水素水の状態は、ガス状態でもミスト状態でもよいが、ここでは過酸化水素ミストとする。
【0043】
チャンバー130の内部に供給された過酸化水素ミストは、チャンバー130の内部(天井壁131と整流板133との間のゾーンを含む)、二重壁134の内部、送風ゾーン140の内部に充満し、これらの箇所を所定時間かけて除染する。
【0044】
次に、従来のRABS100(二重壁方式)の除染後のエアレーション操作について説明する。
図1(B)において、除染剤供給装置150からの過酸化水素ミストの供給は停止している。一方、二重壁134の下方部に開口する開放部123に設置した遮蔽扉124は、遮蔽状態を維持する。次に、送風装置143によって残留した過酸化水素ガス・ミストを含有する空気をチャンバー130の内部、二重壁134の内部、送風ゾーン140の内部で循環すると共に、給気ブロワー141から送風ゾーン140に空気を徐々に供給して、RABS100の内部の空気から過酸化水素ガス・ミストを希釈する。
【0045】
これと並行して、送風ゾーン140に設けられた除染剤分解ユニット144を作動する。このことにより、RABS100の内部の空気に残留する過酸化水素ガス・ミストが除染剤分解ユニット144の作用で分解され、外部環境(クリーンルーム)に過酸化水素ガス・ミストを含有しない空気として排気される。なお、この時には、送風ゾーン140の内部が外部環境より負圧となっていること、及び、除染剤分解ユニット144の触媒フィルター144bとフィルター144cの空気抵抗により、加圧ファン144aを作動させる必要がある。
【0046】
このようにして、所定時間かけてエアレーションすることにより、RABS100の内部は高度の無菌状態を確保することができる。その後、二重壁134の下方部に開口する開放部123に設置した遮蔽扉124を排除して、RABS100の無菌状態での通常操作が可能となる。
【0047】
上述のように、従来のRABS100においては、次のような課題が認められる。(1)二重壁方式の構造などRABS自体の構成が複雑となる。(2)過酸化水素ガス・ミストを分解する際に除染剤分解ユニット144に加圧ファン144aを作動させる必要がある。(3)除染剤分解ユニット144を送風ゾーン140の内部、又は、RABS100の外部に設置する必要があり、設計、製作が煩雑である。(4)保守管理のアクセスが煩雑である。(5)循環のための経路(二重壁)の確保が必要である。(6)循環方式が基本となり、エアレーション効率が低下する。(7)循環方式となるため、内部温度の上昇への対処(空調空気の投入)が必要となる場合がある。
【0048】
《従来のRABS(ダクト方式)》
次に、従来のRABSの他の例として、ダクト方式のRABSについて説明する。
図2は、従来のRABSの他の例(ダクト方式)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。まず、通常操作を示す
図2(C)において、従来のRABS(ダクト方式)の構成を説明する。なお、
図2(A)及び(B)においては、(C)と重複する符号の記載を一部省略する。
【0049】
図2(C)において、RABS200は、サポートエリアを形成するクリーンルーム(図示せず)の内部に周囲から隔離された状態で設けられている。クリーンルームのサポートエリアには、クリーン衣を着用した作業者(図示せず)が、RABS200の外部から作業用グローブ(図示せず)を介して作業を行う。
【0050】
RABS200は、床面上に載置される架台210と、この架台210の上に乗載されるRABS本体220とにより構成されている。架台210は、周囲をステンレス製金属板からなる壁材で覆われ、その内部には、電装及び機械室(図示せず)が収納されている。RABS本体220の内部には、チャンバー230と送風ゾーン240とが設けられている。
【0051】
チャンバー230は、天井壁231とRABS本体220の側面壁222とで囲まれ、側面壁222の下方部(架台210との間)には開放部223が開口している。なお、RABS本体220の一方の側面壁222の外部には、チャンバー230と送風ゾーン240とを連通するダクト234が設置されている。また、チャンバー230の天井壁231の下方には、スクリーンメッシュからなる整流板233が設けられている。
【0052】
送風ゾーン240は、RABS本体220の天井壁221と側面壁222及びチャンバー230の天井壁231とで囲まれた空間である。送風ゾーン240の側面壁222にはRABS200に外部環境(クリーンルーム)から空気を供給する給気ブロワー241と外部環境に空気を排気する排気ブロワー242とが設けられている。また、送風ゾーン240の内部には、チャンバー230の内部に清浄空気を供給する送風装置243と、除染剤を含む空気から除染剤を分解して排気する除染剤分解ユニット244とが設けられている。
【0053】
送風装置243は、送風ファン243aとフィルター243bとから構成されている。この送風装置243は、給気ブロワー241から送風ゾーン240に供給される空気を清浄空気とし、整流板233を介してチャンバー230の内部を上方から下方に向けて流れる一方向流の清浄空気を供給する。
【0054】
除染剤分解ユニット244は、加圧ファン244aと触媒フィルター244bとフィルター244cとから構成されている。この除染剤分解ユニット244は、除染後のエアレーションの際にチャンバー230の内部に残留した除染剤(過酸化水素)を分解しながら外部環境(クリーンルーム)に空気を排気する。
【0055】
このような構成において、従来のRABS200(ダクト方式)の無菌状態での通常操作について説明する。
図2(C)において、給気ブロワー241から送風ゾーン240に供給された空気は、送風装置243によって清浄空気となり、整流板233を介してチャンバー230の内部を上方から下方に向けて一方向流の清浄空気として流れる。
【0056】
この一方向流の清浄空気は、RABS本体220の側面壁222の下方部に開口する開放部223から外部環境(クリーンルーム)に排気される。なお、一部の清浄空気は、ダクト234と送風ゾーン240を介して循環する。このように、RABSにおいては、チャンバー230の内部を流れる一方向流の清浄空気によって、クリーンルームよりも高度の空気清浄度が維持されている。
【0057】
次に、従来のRABS200(ダクト方式)の除染方法について説明する。除染方法は、除染剤による除染操作と、除染操作後に除染剤を排除するエアレーション操作から構成される。まず、除染操作について説明する。
図2(A)において、側面壁222の下方部に開口する開放部223に遮蔽扉224を設置して、RABS本体220の内部を外部環境から遮蔽する。次に、外部環境にある除染剤供給装置250からチャンバー230の内部に除染剤を供給する。ここでは、除染剤として過酸化水素水を使用する。なお、供給する過酸化水素水の状態は、ガス状態でもミスト状態でもよいが、ここでは過酸化水素ミストとする。
【0058】
チャンバー230の内部に供給された過酸化水素ミストは、チャンバー230の内部(天井壁231と整流板233との間のゾーンを含む)、ダクト234の内部、送風ゾーン240の内部に充満し、これらの箇所を所定時間かけて除染する。
【0059】
次に、従来のRABS200(ダクト方式)の除染後のエアレーション操作について説明する。
図2(B)において、除染剤供給装置250からの過酸化水素ミストの供給は停止している。一方、側面壁222の下方部に開口する開放部223に設置した遮蔽扉224は、遮蔽状態を維持する。次に、送風装置243によって残留した過酸化水素ガス・ミストを含有する空気をチャンバー230の内部、ダクト234の内部、送風ゾーン240の内部で循環すると共に、給気ブロワー241から送風ゾーン240に空気を徐々に供給して、RABS200の内部の空気から過酸化水素ガス・ミストを希釈する。
【0060】
これと並行して、送風ゾーン240に設けられた除染剤分解ユニット244を作動する。このことにより、RABS200の内部の空気に残留する過酸化水素ガス・ミストが除染剤分解ユニット244の作用で分解され、外部環境(クリーンルーム)に過酸化水素ガス・ミストを含有しない空気として排気される。なお、この時には、送風ゾーン240の内部が外部環境より負圧となっていること、及び、除染剤分解ユニット244の触媒フィルター244bとフィルター244cの空気抵抗により、加圧ファン244aを作動させる必要がある。
【0061】
このようにして、所定時間かけてエアレーションすることにより、RABS200の内部は高度の無菌状態を確保することができる。その後、側面壁222の下方部に開口する開放部223に設置した遮蔽扉224を排除して、RABS200の無菌状態での通常操作が可能となる。
【0062】
上述のように、従来のRABS200においては、次のような課題が認められる。(1)ダクト方式の構造などRABS自体の構成が複雑となる。(2)過酸化水素ガス・ミストを分解する際に除染剤分解ユニット244に加圧ファン244aを作動させる必要がある。(3)除染剤分解ユニット244を送風ゾーン240の内部、又は、RABS200の外部に設置する必要があり、設計、製作が煩雑である。(4)保守管理のアクセスが煩雑である。(5)循環のための経路(ダクト)の確保が必要である。(6)循環方式が基本となり、エアレーション効率が低下する。(7)循環方式となるため、内部温度の上昇への対処(空調空気の投入)が必要となる場合がある。
【0063】
次に、従来の無菌バリアシステムであるRABS(二重壁方式、及び、ダクト方式)における上述の課題を解決するために提案された、本発明に係る無菌バリアシステムを各実施形態において説明する。なお、本発明は、下記の各実施形態にのみ限定されるものではない。
【0064】
《第1実施形態》
まず、本発明に係る無菌バリアシステムの第1実施形態について説明する。本第1実施形態は、RABS型の無菌バリアシステムに関するものである。
図3は、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。まず、通常操作を示す
図3(C)において、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の構成を説明する。なお、
図3(A)及び(B)においては、(C)と重複する符号の記載を一部省略する。
【0065】
図3(C)において、RABS300は、サポートエリアを形成するクリーンルーム(図示せず)の内部に周囲から隔離された状態で設けられている。クリーンルームのサポートエリアには、クリーン衣を着用した作業者(図示せず)が、RABS300の外部から作業用グローブ(図示せず)を介して作業を行う。
【0066】
RABS300は、床面上に載置される架台310と、この架台310の上に乗載されるRABS本体320とにより構成されている。架台310は、周囲をステンレス製金属板からなる壁材で覆われ、その内部には、電装及び機械室(図示せず)が収納されている。RABS本体320の内部には、チャンバー330と送風ゾーン340とが設けられている。
【0067】
チャンバー330は、天井壁331とRABS本体320の側面壁322とで囲まれ、側面壁322の下方部(架台310との間)には開放部323が開口している。なお、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、従来のRABSのような二重壁、又は、ダクトなどを必要としない。また、チャンバー330の天井壁331の下方には、スクリーンメッシュからなる整流板333が設けられている。
【0068】
送風ゾーン340は、RABS本体320の天井壁321と側面壁322及びチャンバー330の天井壁331とで囲まれた空間である。送風ゾーン340の側面壁322には、RABS300に外部環境(クリーンルーム)から空気を供給する給気ブロワー341と外部環境に空気を排気する排気ブロワー342とが設けられている。また、送風ゾーン340の内部には、チャンバー330の内部に清浄空気を供給する送風装置343が設けられている。なお、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、従来のRABSのような加圧ファン(風圧手段)を具備した除染剤分解ユニットを送風ゾーン340の内部に設ける必要がない。
【0069】
送風装置343は、送風ファン343aとフィルター343bとから構成されている。この送風装置343は、給気ブロワー341から送風ゾーン340に供給される空気を清浄空気とし、整流板333を介してチャンバー330の内部を上方から下方に向けて流れる一方向流の清浄空気を供給する。
【0070】
本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、送風ゾーン340の内部に除染剤分解ユニットを設ける代わりに、RABS本体320の側面壁322の下方部に開口する開放部323の近傍に除染剤分解ユニット344が設けられている。この除染剤分解ユニット344は、触媒フィルターとフィルターとから構成されており、従来のRABSとは異なり加圧ファンを具備することを要しない。
【0071】
この除染剤分解ユニット344は、除染後のエアレーションの際にチャンバー330の内部に残留した除染剤(過酸化水素)を分解しながら外部環境(クリーンルーム)に空気を排気する。なお、除染剤分解ユニット344の構成の詳細については、後述のエアレーション操作の際に説明する。また、除染剤分解ユニット344の下方部には、開放部323を遮蔽する開閉式の遮蔽扉324が設けられている(遮蔽扉324の詳細は後述する)。
図3(C)においては、遮蔽扉324が開放された状態にあるが、脱着式の遮蔽扉としてもよい。なお、チャンバー330の内部を除染する際に使用する除染剤供給装置(
図3(B)(C)には図示せず)については、後述の除染操作の際に説明する。
【0072】
このような構成において、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の無菌状態での通常操作について説明する。
図3(C)において、給気ブロワー341から送風ゾーン340に供給された空気は、送風装置343によって清浄空気となり、整流板333を介してチャンバー330の内部を上方から下方に向けて一方向流の清浄空気として流れる。
【0073】
この一方向流の清浄空気は、RABS本体320の側面壁322の下方部に開口する開放部323(開放状態にある)から外部環境(クリーンルーム)に排気される。なお、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、従来のRABSのような二重壁、又は、ダクトなどが設けられていないので、一方向流の清浄空気が送風ゾーン340を介して循環することはない。また、開放部323の近傍に設けられた除染剤分解ユニット344の各フィルターの空気抵抗により、一方向流の清浄空気が除染剤分解ユニット344を通過することはない。このように、無菌バリアシステム(RABS型)においては、チャンバー330の内部を流れる一方向流の清浄空気によって、クリーンルームよりも高度の空気清浄度が維持されている。
【0074】
次に、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の除染方法について説明する。除染方法は、除染剤による除染操作と、除染操作後に除染剤を排除するエアレーション操作とから構成される。まず、除染操作について説明する。
図3(A)において、側面壁322の下方部に開口する開放部323に設けられた遮蔽扉324を閉鎖して、RABS本体320の内部を外部環境から遮蔽する。次に、外部環境にある除染剤供給装置350からチャンバー330の内部に除染剤を供給する。ここでは、除染剤として過酸化水素水を使用する。なお、供給する過酸化水素水の状態は、ガス状態でもミスト状態でもよいが、ここでは過酸化水素ミストとする。
【0075】
なお、除染剤供給装置350は、除染操作においては必要であるが、常設でなくてもよい。例えば、他の用途に使用している既存の除染剤供給装置から配管でRABS本体320に接続するようにしてもよい。チャンバー330の内部に供給された過酸化水素ミストは、チャンバー330の内部(天井壁331と整流板333との間のゾーンを含む)に充満し、これらの箇所を所定時間かけて除染する。
【0076】
次に、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の除染後のエアレーション操作について説明する。
図3(B)において、除染剤供給装置350からの過酸化水素ミストの供給は停止している。一方、側面壁322の下方部に開口する開放部323に設置した遮蔽扉324は、遮蔽状態を維持する。次に、チャンバー330の内部に残留した過酸化水素ガス・ミストを含有する空気を排除するために、給気ブロワー341から送風ゾーン340に空気を徐々に供給し、送風装置343によってチャンバー330の内部の空気を希釈する。
【0077】
このとき、遮蔽された開放部323の直ぐ上に設けられた除染剤分解ユニット344が作用する。すなわち、チャンバー330の内部の空気に残留する過酸化水素ガス・ミストが除染剤分解ユニット344の作用で分解され、外部環境(クリーンルーム)に過酸化水素ガス・ミストを含有しない空気として排気される。なお、この時には、給気ブロワー341及び送風装置343の作動によりRABS300の内部を外部環境より陽圧とすることにより、チャンバー330の内部の空気は、加圧ファンを具備することなく除染剤分解ユニット344を通過する。
【0078】
このようにして、所定時間かけてエアレーションすることにより、RABS300の内部は高度の無菌状態を確保することができる。その後、側面壁322の下方部に開口する開放部323に設置した遮蔽扉324を開放して、RABS300の無菌状態での通常操作が可能となる。
【0079】
ここで、除染剤分解ユニット344及び遮蔽扉324について説明する。
図4は、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の過酸化水素分解ユニット及び遮蔽扉の部分を拡大した、(A)遮蔽扉の開放状態、(B)遮蔽扉の遮蔽状態を示す概要断面図である。
図4において、除染剤分解ユニット344は、開放部323の直ぐ上のRABS本体320の側面壁322の下端部に設けられている。
図4(A)(B)においては、いずれも除染剤分解ユニット344の図示右部分がチャンバー330の内部であり、図示左部分が外部環境(クリーンルーム)となる。
【0080】
除染剤分解ユニット344は、チャンバー330の内部側からプレフィルター344aと触媒フィルター344bとフィルター344cとの3層構造から構成されている。すなわち、除染後のエアレーションの際にチャンバー330の内部に残留した除染剤(過酸化水素)を分解する触媒フィルター344bを2枚のフィルター344a、344cで挟んだ構造である。なお、除染剤分解ユニット344には、従来のRABSのような加圧ファンを必要としないので設けられていない。
【0081】
除染剤分解ユニット344の位置は特に限定するものではないが、RABS本体320の側面壁322に設けることが好ましい。また、本第1実施形態のようにRABS本体320の開放部323の近傍に設けることがより好ましい。更に、除染剤分解ユニット344は、側面壁322の下方部に開口する開放部323の全域に亘って設けてもよく、或いは、複数カ所に分散して設けるようにしてもよい。このように、除染剤分解ユニット344の配置面積が広く且つ広範囲に及ぶことにより、触媒フィルター344bの厚みを従来のRABSの除染剤分解ユニット(上述の144、244)の厚みより薄くすることができる。このことにおいても、加圧ファンを使用することなく効率的にエアレーションすることができる。
【0082】
図4(A)(B)において、遮蔽扉324は、開放部323を密閉することのできる扉本体324aを有し、一方の端部324bにて除染剤分解ユニット344の下端部に開閉可能に取り付けられている。また、扉本体324aの他方の端部324cは、架台310の上面壁311(チャンバー330の底面壁を兼ねる)の端部311aに接合して開放部323を密閉する。なお、本第1実施形態においては、扉本体324aをその一方の端部324bにて除染剤分解ユニット344の下端部に開閉可能に取り付けられている。しかし、開閉可能に取り付ける代わりに、脱着式の扉本体を用いるようにしてもよい。
【0083】
ここで、
図4(A)のように遮蔽扉324を開放することにより、無菌状態での通常操作において、チャンバー330の内部を流れる一方向流の清浄空気は、側面壁322の下方部に開口する開放部323から外部環境(クリーンルーム)に放出される。このとき、一方向流の清浄空気が除染剤分解ユニット344を通過することはない。
【0084】
一方、
図4(B)のように遮蔽扉324を閉鎖することにより、開放部323が遮蔽されてチャンバー330が外部環境から閉鎖された状態となる。よって、エアレーション操作において、チャンバー330の内部に残留する過酸化水素ガス・ミストを含む空気は、給気ブロワー341及び送風装置343の作動によるチャンバー330の内部の陽圧により、除染剤分解ユニット344を容易に通過することができる。
【0085】
次に、遮蔽扉の他の例について説明する。
図5は、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の遮蔽扉の他の構造例を示す、(A)遮蔽扉の開放状態、(B)遮蔽扉の遮蔽状態を示す概要断面図である。
図5において、除染剤分解ユニット344の構造と配置は、
図4と同様であり開放部323の直ぐ上のRABS本体320の側面壁322の下端部に設けられている。
図5(A)(B)においては、いずれも除染剤分解ユニット344の図示右部分がチャンバー330の内部であり、図示左部分が外部環境(クリーンルーム)となる。
【0086】
図5(A)(B)において、遮蔽扉325は、屈曲した形状で開放部323を密閉することのできる扉本体325aを有し、一方の端部325bにて除染剤分解ユニット344の下端部に開閉可能に取り付けられている。また、扉本体325aの他方の端部325cは、架台310の上面壁311(チャンバー330の底面壁を兼ねる)の端部311aに接合して開放部323を密閉する。なお、本第1実施形態においては、扉本体325aをその一方の端部325bにて除染剤分解ユニット344の下端部に開閉可能に取り付けられている。しかし、開閉可能に取り付ける代わりに、脱着式の扉本体を用いるようにしてもよい。
【0087】
ここで、
図5(A)のように遮蔽扉325を開放することにより、無菌状態での通常操作において、チャンバー330の内部を流れる一方向流の清浄空気は、側面壁322の下方部に開口する開放部323から外部環境(クリーンルーム)に放出される。このとき、一方向流の清浄空気が除染剤分解ユニット344を通過することはない。
【0088】
一方、
図5(B)において、遮蔽扉325を閉鎖することにより、開放部323が遮蔽されてチャンバー330が外部環境から閉鎖された状態となる。よって、エアレーション操作において、チャンバー330の内部の残留する過酸化水素ガス・ミストを含む空気は、給気ブロワー341及び送風装置343の作動によるチャンバー330の内部の陽圧により、除染剤分解ユニット344を容易に通過することができる。
【0089】
上述のように、本第1実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、従来のRABSの課題を以下のように解消することができる。(1)二重壁方式やダクト方式のようにRABS自体の構成が複雑となることはない。(2)過酸化水素ガス・ミストを分解する際に除染剤分解ユニット344に加圧ファンを作動させる必要がない。(3)除染剤分解ユニット344を送風ゾーン340の内部、又は、RABS300の外部に設置する必要がなく、設計、製作が煩雑となることはない。(4)保守管理のアクセスが煩雑となることはない。(5)循環のための経路(二重壁、ダクト)の確保が必要でない。(6)循環方式ではなく、エアレーション効率が低下することがない。(7)循環方式ではなく、内部温度の上昇への対処(空調空気の投入)が必要ではない。
【0090】
《第2実施形態》
次に、本発明に係る無菌バリアシステムの第2実施形態について説明する。本第2実施形態は、従来のRABS(二重壁方式)を改造したRABS型の無菌バリアシステムに関するものである。例えば、二重壁方式のRABSを使用していたが、(1)加圧ファンを具備した除染剤分解ユニットが故障した場合、(2)故障はしなくてもエアレーション効率を向上させたい場合、などに従来の二重壁方式のRABSを改造する。なお、本第2実施形態では二重壁方式のRABSについて説明するが、ダクト方式のRABSについても同様である。
【0091】
図6は、
図1の従来のRABS(二重壁方式)を改造した、本第2実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。まず、通常操作を示す
図6(C)において、本第2実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の構成を説明する。なお、
図6(A)及び(B)においては、(C)と重複する符号の記載を一部省略する。
【0092】
図6(C)において、RABS400は、サポートエリアを形成するクリーンルーム(図示せず)の内部に周囲から隔離された状態で設けられている。クリーンルームのサポートエリアには、クリーン衣を着用した作業者(図示せず)が、RABS400の外部から作業用グローブ(図示せず)を介して作業を行う。
【0093】
RABS400は、床面上に載置される架台410と、この架台410の上に乗載されるRABS本体420とにより構成されている。架台410は、周囲をステンレス製金属板からなる壁材で覆われ、その内部には、電装及び機械室(図示せず)が収納されている。RABS本体420の内部には、チャンバー430と送風ゾーン440とが設けられている。
【0094】
チャンバー430は、天井壁431と内側面壁432とで囲まれ、内側面壁432の下方部(架台410との間)が開放されている。なお、RABS本体420の外側面壁422とチャンバー430内側面壁432とで二重壁434を構成し、外側面壁422の下方部(架台410との間)も開放されている。また、チャンバー430の天井壁431の下方には、スクリーンメッシュからなる整流板433が設けられている。また、
図6(C)においては、二重壁434の機能を残しているが、本第2実施形態においては、二重壁434を閉鎖するように改造してもよい。
【0095】
送風ゾーン440は、RABS本体420の天井壁421と外側面壁422及びチャンバー430の天井壁431とで囲まれた空間である。送風ゾーン440の外側面壁422にはRABS400に外部環境(クリーンルーム)から空気を供給する給気ブロワー441と外部環境に空気を排気する排気ブロワー442とが設けられている。また、送風ゾーン440の内部には、チャンバー430の内部に清浄空気を供給する送風装置443が設けられている。なお、
図6においては、従来のRABSで作動していた除染剤分解ユニットが取り除かれている(取り除かずに作動させないでもよい)。
【0096】
送風装置443は、送風ファン443aとフィルター443bとから構成されている。この送風装置443は、給気ブロワー441から送風ゾーン440に供給される空気を清浄空気とし、整流板433を介してチャンバー430の内部を上方から下方に向けて流れる一方向流の清浄空気を供給する。
【0097】
本第2実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、送風ゾーン440の内部に従来設けられていた除染剤分解ユニットに代えて、RABS本体420の外側面壁422の下方部に開口する開放部423の近傍に除染剤分解ユニット444が設けられている。この除染剤分解ユニット444は、触媒フィルターとフィルターとから構成されており、従来のRABSとは異なり加圧ファンを具備することを要しない。
【0098】
この除染剤分解ユニット444は、除染後のエアレーションの際にチャンバー430の内部に残留した除染剤(過酸化水素)を分解しながら外部環境(クリーンルーム)に空気を排気する。なお、除染剤分解ユニット444の構成は、上記第1実施形態と同様である。また、除染剤分解ユニット444の下方部には、開放部423を遮蔽する開閉式の遮蔽扉424が設けられている(
図6(C)では開放状態にある)。
【0099】
このような構成において、本第2実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の無菌状態での通常操作について説明する。
図6(C)において、給気ブロワー441から送風ゾーン440に供給された空気は、送風装置443によって清浄空気となり、整流板433を介してチャンバー430の内部を上方から下方に向けて一方向流の清浄空気として流れる。
【0100】
この一方向流の清浄空気は、RABS本体420の外側面壁422とチャンバー430の内側面壁432とで構成された二重壁434の下方部に開口する開放部423(開放状態にある)から外部環境(クリーンルーム)に排気される。なお、本第2実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、従来のRABSにおける二重壁434が設けられているので、一部の清浄空気が二重壁434と送風ゾーン440を介して循環する(改造で閉鎖した場合は循環しない)。このように、無菌バリアシステム(RABS型)においては、チャンバー430の内部を流れる一方向流の清浄空気によって、クリーンルームよりも高度の空気清浄度が維持されている。
【0101】
次に、本第2実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の除染方法について説明する。除染方法は、除染剤による除染操作と、除染操作後に除染剤を排除するエアレーション操作から構成される。まず、除染操作について説明する。
図6(A)において、RABS本体420の外側面壁422の下方部に開口する開放部423を遮蔽扉424で閉鎖して、RABS本体420の内部を外部環境から遮蔽する。なお、遮蔽扉424の構成は、上記第1実施形態と同様である。次に、外部環境にある除染剤供給装置450からチャンバー430の内部に除染剤を供給する。ここでは、除染剤として過酸化水素水を使用する。なお、供給する過酸化水素水の状態は、ガス状態でもミスト状態でもよいが、ここでは過酸化水素ミストとする。
【0102】
なお、除染剤供給装置450は、除染操作においては必要であるが、常設でなくてもよい。例えば、他の用途に使用している既存の除染剤供給装置から配管でRABS本体420に接続するようにしてもよい。チャンバー430の内部に供給された過酸化水素ミストは、チャンバー430の内部(天井壁431と整流板433との間のゾーンを含む)、二重壁434の内部、送風ゾーン440の内部に充満し、これらの箇所を所定時間かけて除染する。
【0103】
次に、本第2実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の除染後のエアレーション操作について説明する。
図6(B)において、除染剤供給装置450からの過酸化水素ミストの供給は停止している。一方、開放部423を閉鎖した遮蔽扉424は、遮蔽状態を維持する。次に、送風装置443によって残留した過酸化水素ガス・ミストを含有する空気をチャンバー430の内部、二重壁434の内部、送風ゾーン440の内部で循環すると共に、給気ブロワー441から送風ゾーン440に空気を徐々に供給して、RABS400の内部の空気から過酸化水素ガス・ミストを希釈する。
【0104】
このとき、開放部423の直ぐ上に設けられた除染剤分解ユニット444が作用する。すなわち、RABS400の内部の空気に残留する過酸化水素ガス・ミストが除染剤分解ユニット444の作用で分解され、外部環境(クリーンルーム)に過酸化水素ガス・ミストを含有しない空気として排気される。なお、この時には、給気ブロワー441及び送風装置443の作動によりRABS400の内部を外部環境より陽圧とすることにより、チャンバー430の内部の空気は、加圧ファンを具備することなく除染剤分解ユニット444を通過する。
【0105】
このようにして、所定時間かけてエアレーションすることにより、RABS400の内部は高度の無菌状態を確保することができる。その後、外側面壁422の下方部に開口する開放部423に設置した遮蔽扉424を開放して、RABS400の無菌状態での通常操作が可能となる。
【0106】
上述のように、本第2実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、従来のRABSを改造することにより、上記第1実施形態と同様に従来のRABSの課題を解消することができる。
【0107】
《第3実施形態》
次に、本発明に係る無菌バリアシステムの第3実施形態について説明する。本第3実施形態は、従来のRABS(二重壁方式)を改造したRABS型の無菌バリアシステムに関するものである。なお、本第3実施形態の改造は、上記第2実施形態よりも軽微であり、従来のRABSに脱着式の除染剤分解ユニットを採用するものである。また、本第3実施形態では二重壁方式のRABSについて説明するが、ダクト方式のRABSについても同様である。
【0108】
図7は、
図1の従来のRABS(二重壁方式)を改造した、本第3実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。まず、通常操作を示す
図7(C)において、本第3実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の構成を説明する。なお、
図7(A)及び(B)においては、(C)と重複する符号の記載を一部省略する。
【0109】
図7(C)において、RABS500は、サポートエリアを形成するクリーンルーム(図示せず)の内部に周囲から隔離された状態で設けられている。クリーンルームのサポートエリアには、クリーン衣を着用した作業者(図示せず)が、RABS500の外部から作業用グローブ(図示せず)を介して作業を行う。
【0110】
RABS500は、床面上に載置される架台510と、この架台510の上に乗載されるRABS本体520とにより構成されている。架台510は、周囲をステンレス製金属板からなる壁材で覆われ、その内部には、電装及び機械室(図示せず)が収納されている。RABS本体520の内部には、チャンバー530と送風ゾーン540とが設けられている。
【0111】
チャンバー530は、天井壁531と内側面壁532とで囲まれ、内側面壁532の下方部(架台510との間)が開放されている。なお、RABS本体520の外側面壁522とチャンバー530内側面壁532とで二重壁534を構成し、外側面壁522の下方部(架台510との間)も開放されている。また、チャンバー530の天井壁531の下方には、スクリーンメッシュからなる整流板533が設けられている。また、
図7(C)においては、二重壁534の機能を残しているが、本第3実施形態においては、二重壁534を閉鎖するように改造してもよい。
【0112】
送風ゾーン540は、RABS本体520の天井壁521と外側面壁522及びチャンバー530の天井壁531とで囲まれた空間である。送風ゾーン540の外側面壁522にはRABS500に外部環境(クリーンルーム)から空気を供給する給気ブロワー541と外部環境に空気を排気する排気ブロワー542とが設けられている。また、送風ゾーン540の内部には、チャンバー530の内部に清浄空気を供給する送風装置543が設けられている。なお、
図7においては、従来のRABSで作動していた除染剤分解ユニットが取り除かれている(取り除かずに作動させないでもよい)。
【0113】
送風装置543は、送風ファン543aとフィルター543bとから構成されている。この送風装置543は、給気ブロワー541から送風ゾーン540に供給される空気を清浄空気とし、整流板533を介してチャンバー530の内部を上方から下方に向けて流れる一方向流の清浄空気を供給する。
【0114】
本第3実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、送風ゾーン540の内部に従来設けられていた除染剤分解ユニットに代えて、RABS本体520の外側面壁522の下方部に開口する開放部523に、脱着式の除染剤分解ユニット544を設置する。この除染剤分解ユニット544は、触媒フィルターとフィルターとから構成されており、従来のRABSとは異なり加圧ファンを具備することを要しない。
【0115】
この除染剤分解ユニット544は、除染の際には開放部523を閉鎖する遮蔽扉として作用し、除染後のエアレーションの際にはチャンバー530の内部に残留した除染剤(過酸化水素)を分解しながら外部環境(クリーンルーム)に空気を排気する。なお、除染剤分解ユニット544の基本的な構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0116】
このような構成において、本第3実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の無菌状態での通常操作について説明する。
図7(C)において、給気ブロワー541から送風ゾーン540に供給された空気は、送風装置543によって清浄空気となり、整流板533を介してチャンバー530の内部を上方から下方に向けて一方向流の清浄空気として流れる。
【0117】
この一方向流の清浄空気は、RABS本体520の外側面壁522とチャンバー530の内側面壁532とで構成された二重壁534の下方部に開口する開放部523(開放状態にある)から外部環境(クリーンルーム)に排気される。なお、本第3実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、従来のRABSにおける二重壁534が設けられているので、一部の清浄空気が二重壁534と送風ゾーン540を介して循環する(改造で閉鎖した場合は循環しない)。このように、無菌バリアシステム(RABS型)においては、チャンバー530の内部を流れる一方向流の清浄空気によって、クリーンルームよりも高度の空気清浄度が維持されている。
【0118】
次に、本第3実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の除染方法について説明する。除染方法は、除染剤による除染操作と、除染操作後に除染剤を排除するエアレーション操作から構成される。
図7(A)において、RABS本体520の外側面壁522の下方部に開口する開放部523に除染剤分解ユニット544を取り付ける。除染操作における除染剤分解ユニット544は、RABS本体520の内部を外部環境から遮蔽する遮蔽扉として作用する。なお、除染剤分解ユニット544は、上記第1実施形態及び第2実施形態とは異なり脱着式である。次に、外部環境にある除染剤供給装置550からチャンバー530の内部に除染剤を供給する。ここでは、除染剤として過酸化水素水を使用する。なお、供給する過酸化水素水の状態は、ガス状態でもミスト状態でもよいが、ここでは過酸化水素ミストとする。
【0119】
なお、除染剤供給装置550は、除染操作においては必要であるが、常設でなくてもよい。例えば、他の用途に使用している既存の除染剤供給装置から配管でRABS本体520に接続するようにしてもよい。チャンバー530の内部に供給された過酸化水素ミストは、チャンバー530の内部(天井壁531と整流板533との間のゾーンを含む)、二重壁534の内部、送風ゾーン540の内部に充満し、これらの箇所を所定時間かけて除染する。
【0120】
次に、本第3実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)の除染後のエアレーション操作について説明する。
図7(B)において、除染剤供給装置550からの過酸化水素ミストの供給は停止している。一方、開放部523に設置した脱着式の除染剤分解ユニット544を設置した状態を維持する。エアレーション操作における除染剤分解ユニット544は、チャンバー530の内部の空気を通過させて本来の作用をする。次に、送風装置543によって残留した過酸化水素ガス・ミストを含有する空気をチャンバー530の内部、二重壁534の内部、送風ゾーン540の内部で循環すると共に、給気ブロワー541から送風ゾーン540に空気を徐々に供給して、RABS500の内部の空気から過酸化水素ガス・ミストを希釈する。
【0121】
このとき、開放部523に設置した除染剤分解ユニット544が作用する。すなわち、RABS500の内部の空気に残留する過酸化水素ガス・ミストが除染剤分解ユニット544の作用で分解され、外部環境(クリーンルーム)に過酸化水素ガス・ミストを含有しない空気として排気される。なお、この時には、給気ブロワー541及び送風装置543の作動によりRABS500の内部を外部環境より陽圧とすることにより、チャンバー530の内部の空気は、加圧ファンを具備することなく除染剤分解ユニット544を通過する。
【0122】
このようにして、所定時間かけてエアレーションすることにより、RABS500の内部は高度の無菌状態を確保することができる。その後、外側面壁522の下方部に開口する開放部523に設置した脱着式の除染剤分解ユニット544を取り除いて、RABS500の無菌状態での通常操作が可能となる。
【0123】
上述のように、本第3実施形態に係る無菌バリアシステム(RABS型)においては、従来のRABSに脱着式の除染剤分解ユニット544を採用することにより、上記第1実施形態と同様に従来のRABSの課題を解消することができる。
【0124】
《第4実施形態》
次に、本発明に係る無菌バリアシステムの第4実施形態について説明する。本第4実施形態は、クリーンベンチ型の無菌バリアシステムに関するものである。
図8は、本第4実施形態に係る無菌バリアシステム(クリーンベンチ型)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。まず、通常操作を示す
図8(C)において、本第4実施形態に係る無菌バリアシステム(クリーンベンチ型)の構成を説明する。なお、
図8(A)及び(B)においては、(C)と重複する符号の記載を一部省略する。
【0125】
図8(C)において、クリーンベンチ600は、サポートエリアを形成するクリーンルーム(図示せず)の内部に周囲から隔離された状態で設けられている。クリーンルームのサポートエリアには、クリーン衣を着用した作業者(図示せず)が、クリーンベンチ600の外部から開放部を介して作業を行う。
【0126】
クリーンベンチ600は、床面上に載置される架台610と、この架台610の上に乗載されるクリーンベンチ本体620とにより構成されている。架台610は、周囲をステンレス製金属板からなる壁材で覆われ、その内部には、電装及び機械室(図示せず)が収納されている。クリーンベンチ本体620の内部には、チャンバー630と送風ゾーン640とが設けられている。
【0127】
チャンバー630は、天井壁631とクリーンベンチ本体620の側面壁622とで囲まれ、側面壁622の一面(傾斜した正面壁622a)の下方部(架台610との間)には開放部623が開口している。なお、本第4実施形態に係る無菌バリアシステム(クリーンベンチ型)においては、従来のRABSのような二重壁、又は、ダクトなどは設けられていない。
【0128】
送風ゾーン640は、クリーンベンチ本体620の天井壁621と側面壁622及びチャンバー630の天井壁631とで囲まれた空間である。送風ゾーン640の内部には外部環境(クリーンルーム)から空気を導入してチャンバー630の内部に清浄空気を供給する送風装置643が設けられている。本第4実施形態における送風装置643は、外気導入手段と送風手段の機能を併せ持ち、上記第1実施形態における給気ブロワー341と送風装置343の機能に対応する。送風装置643は、送風ファン643aとフィルター643b、643cとから構成されている。この送風装置643は、送風ファン643aの作動によりフィルター643cを介して外部環境の空気を導入し、フィルター643bを介して、チャンバー630の内部を上方から下方に向けて流れる一方向流の清浄空気を供給する。
【0129】
本第4実施形態に係る無菌バリアシステム(クリーンベンチ型)においては、クリーンベンチ本体620の正面壁622aの下方部に開口する開放部623に、脱着式の除染剤分解ユニット644を設置する。この除染剤分解ユニット644は、上記第3実施形態と同様に、触媒フィルターとフィルターとから構成され、脱着機能を有している(後述の除染操作及びエアレーション操作において説明)。
【0130】
この除染剤分解ユニット644は、除染の際には開放部623を閉鎖する遮蔽扉として作用し、除染後のエアレーションの際にはチャンバー630の内部に残留した除染剤(過酸化水素)を分解しながら外部環境(クリーンルーム)に空気を排気する。なお、除染剤分解ユニット644の基本的な構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0131】
このような構成において、本第4実施形態に係る無菌バリアシステム(クリーンベンチ型)の無菌状態での通常操作について説明する。
図8(C)において、送風装置643によって送風ゾーン640に導入された空気は、同じ送風装置643によって清浄空気となり、チャンバー630の内部を上方から下方に向けて一方向流の清浄空気として流れる。
【0132】
この一方向流の清浄空気は、クリーンベンチ本体620の正面壁622aの下方部に開口する開放部623(開放状態にある)から外部環境(クリーンルーム)に排気される。このように、無菌バリアシステム(クリーンベンチ型)においては、チャンバー630の内部を流れる一方向流の清浄空気によって、クリーンルームよりも高度の空気清浄度が維持されている。
【0133】
次に、本第4実施形態に係る無菌バリアシステム(クリーンベンチ型)の除染方法について説明する。除染方法は、除染剤による除染操作と、除染操作後に除染剤を排除するエアレーション操作から構成される。
図8(A)において、クリーンベンチ本体620の正面壁622aの下方部に開口する開放部623に除染剤分解ユニット644を取り付ける。除染操作における除染剤分解ユニット644は、クリーンベンチ本体620の内部を外部環境から遮蔽する遮蔽扉として作用する。なお、除染剤分解ユニット644は、上記第3実施形態と同様に脱着式である。次に、外部環境にある除染剤供給装置650からチャンバー630の内部に除染剤を供給する。ここでは、除染剤として過酸化水素水を使用する。なお、供給する過酸化水素水の状態は、ガス状態でもミスト状態でもよいが、ここでは過酸化水素ミストとする。
【0134】
なお、除染剤供給装置650は、除染操作においては必要であるが、常設でなくてもよい。例えば、他の用途に使用している既存の除染剤供給装置から配管でクリーンベンチ本体620に接続するようにしてもよい。チャンバー630の内部に供給された過酸化水素ミストは、チャンバー630の内部に充満し所定時間かけて除染する。
【0135】
次に、本第4実施形態に係る無菌バリアシステム(クリーンベンチ型)の除染後のエアレーション操作について説明する。
図8(B)において、除染剤供給装置650からの過酸化水素ミストの供給は停止している。一方、開放部623に設置した脱着式の除染剤分解ユニット644を設置した状態を維持する。エアレーション操作における除染剤分解ユニット644は、チャンバー630の内部の空気を通過させて本来の作用をする。次に、送風装置643からチャンバー630の内部に空気を徐々に供給して、チャンバー630の内部の空気から過酸化水素ガス・ミストを希釈する。
【0136】
このとき、開放部623に設置した除染剤分解ユニット644が作用する。すなわち、チャンバー630の内部の空気に残留する過酸化水素ガス・ミストが除染剤分解ユニット644の作用で分解され、外部環境(クリーンルーム)に過酸化水素ガス・ミストを含有しない空気として排気される。なお、この時には、送風装置643の作動によりチャンバー630の内部を外部環境より陽圧とすることにより、チャンバー630の内部の空気は、加圧ファンを具備することなく除染剤分解ユニット644を通過する。
【0137】
このようにして、所定時間かけてエアレーションすることにより、クリーンベンチ600の内部は高度の無菌状態を確保することができる。その後、正面壁622aの下方部に開口する開放部623に設置した脱着式の除染剤分解ユニット644を取り除いて、クリーンベンチ600の無菌状態での通常操作が可能となる。
【0138】
上述のように、本第4実施形態に係る無菌バリアシステム(クリーンベンチ型)においては、従来のクリーンベンチに脱着式の除染剤分解ユニット544を採用することにより、上記第1実施形態と同様に従来のクリーンベンチの課題を解消することができる。
【0139】
《第5実施形態》
まず、本発明に係る無菌バリアシステムの第5実施形態について説明する。本第5実施形態は、アイソレーター型の無菌バリアシステムに関するものである。
図9は、本第5実施形態に係る無菌バリアシステム(アイソレーター型)の内部を正面から見た、(A)除染操作、(B)エアレーション操作、(C)無菌状態での通常操作を示す概要断面図である。まず、通常操作を示す
図9(C)において、本第5実施形態に係る無菌バリアシステム(アイソレーター型)の構成を説明する。なお、
図9(A)及び(B)においては、(C)と重複する符号の記載を一部省略する。
【0140】
図9(C)において、アイソレーター700は、サポートエリアを形成するクリーンルーム(図示せず)の内部に周囲から隔離された状態で設けられている。クリーンルームのサポートエリアには、クリーン衣を着用した作業者(図示せず)が、アイソレーター700の外部から作業用グローブ(図示せず)を介して作業を行う。
【0141】
アイソレーター700は、床面上に載置される架台710と、この架台710の上に乗載されるアイソレーター本体720とにより構成されている。架台710は、周囲をステンレス製金属板からなる壁材で覆われ、その内部には、電装及び機械室(図示せず)が収納されている。アイソレーター本体720の内部には、チャンバー730と送風ゾーン740とが設けられている。
【0142】
チャンバー730は、天井壁731とアイソレーター本体720の側面壁722とで囲まれている。本来のアイソレーターは外部環境から密閉されたチャンバーを使用するが、本第5実施形態に係る無菌バリアシステム(アイソレーター型)においては、側面壁722の下方部に開放部723を開口し、その部分全体を遮蔽するように除染剤分解ユニット744が設けられている(詳細は後述する)。
【0143】
送風ゾーン740は、アイソレーター本体720の天井壁721と側面壁722及びチャンバー730の天井壁731とで囲まれた空間である。送風ゾーン740の側面壁722には、アイソレーター700に外部環境(クリーンルーム)から空気を供給する給気ブロワー741が設けられている。また、送風ゾーン740の内部には、チャンバー730の内部に清浄空気を供給する送風装置743が設けられている。
【0144】
また、アイソレーターを無菌状態で通常操作する際には、チャンバー730の内部を通過した空気を外部環境に排気するために圧力制御されたファンなどの排気手段が用いられる。なお、本第5実施形態においては、架台710の内部に収容された圧力制御可能な排気ダンパー742を使用した。なお、本第5実施形態に係る無菌バリアシステム(アイソレーター型)においては、従来のアイソレーターのように除染剤分解ユニットを排気手段に設ける必要がない。
【0145】
送風装置743は、送風ファン743aとフィルター743bとから構成されている。この送風装置743は、給気ブロワー741から送風ゾーン740に供給される空気を清浄空気とし、整流板733を介してチャンバー730の内部を上方から下方に向けて流れる一方向流の清浄空気を供給する。
【0146】
本第5実施形態に係る無菌バリアシステム(アイソレーター型)においては、排気手段に除染剤分解ユニットを設ける代わりに、アイソレーター本体720の側面壁722の下方部に開口する開放部723に除染剤分解ユニット744が設けられている。この除染剤分解ユニット744は、上記第1実施形態と同様に触媒フィルターとフィルターとから構成されている。
【0147】
この除染剤分解ユニット744は、除染後のエアレーションの際にチャンバー730の内部に残留した除染剤(過酸化水素)を分解しながら外部環境(クリーンルーム)に空気を排気する。なお、除染剤分解ユニット744の基本的な構成は、上記第1実施形態と同様である。なお、チャンバー730の内部を除染する際に使用する除染剤供給装置(
図9(B)(C)には図示せず)については、後述の除染操作の際に説明する。
【0148】
このような構成において、本第5実施形態に係る無菌バリアシステム(アイソレーター型)の無菌状態での通常操作について説明する。
図9(C)において、給気ブロワー741から送風ゾーン740に供給された空気は、送風装置743によって清浄空気となり、整流板733を介してチャンバー730の内部を上方から下方に向けて一方向流の清浄空気として流れる。この一方向流の清浄空気は、チャンバー730の底面壁723に開口する排出口(図示せず)から、架台710の内部に収容された排気ダンパー742を介して外部環境(クリーンルーム)に排気される。
【0149】
また、除染剤分解ユニット744の排気面に遮蔽扉を設け、無菌状態で通常操作する際のチャンバー730の内部の密閉性を更に厳密にするようにしてもよい。このように、無菌バリアシステム(アイソレーター型)においては、チャンバー730の内部を流れる一方向流の清浄空気によって、クリーンルームよりも高度の空気清浄度が維持されている。
【0150】
次に、本第5実施形態に係る無菌バリアシステム(アイソレーター型)の除染方法について説明する。除染方法は、除染剤による除染操作と、除染操作後に除染剤を排除するエアレーション操作とから構成される。まず、除染操作について説明する。
図9(A)において、外部環境にある除染剤供給装置750からチャンバー730の内部に除染剤を供給する。ここでは、除染剤として過酸化水素水を使用する。なお、供給する過酸化水素水の状態は、ガス状態でもミスト状態でもよいが、ここでは過酸化水素ミストとする。
【0151】
なお、除染剤供給装置750は、除染操作においては必要であるが、常設でなくてもよい。例えば、他の用途に使用している既存の除染剤供給装置から配管でアイソレーター本体720に接続するようにしてもよい。チャンバー730の内部に供給された過酸化水素ミストは、チャンバー730の内部(天井壁731と整流板733との間のゾーンを含む)に充満し、これらの箇所を所定時間かけて除染する。
【0152】
次に、本第5実施形態に係る無菌バリアシステム(アイソレーター型)の除染後のエアレーション操作について説明する。
図9(B)において、除染剤供給装置750からの過酸化水素ミストの供給は停止している。次に、チャンバー730の内部に残留した過酸化水素ガス・ミストを含有する空気を排除するために、給気ブロワー741から送風ゾーン740に空気を徐々に供給し、送風装置743によってチャンバー730の内部の空気を希釈する。
【0153】
このとき、除染剤分解ユニット744が作用する。すなわち、チャンバー730の内部の空気に残留する過酸化水素ガス・ミストが除染剤分解ユニット744の作用で分解され、外部環境(クリーンルーム)に過酸化水素ガス・ミストを含有しない空気として排気される。なお、この時には、給気ブロワー741及び送風装置743の作動によりアイソレーター700の内部を外部環境より陽圧とすることにより、チャンバー730の内部の空気は、加圧ファンを具備することなく除染剤分解ユニット744を通過する。
【0154】
このようにして、所定時間かけてエアレーションすることにより、アイソレーター700の内部は高度の無菌状態を確保することができる。その後、アイソレーター700の無菌状態での通常操作が可能となる。
【0155】
上述のように、本第5実施形態に係る無菌バリアシステム(アイソレーター型)においては、従来のアイソレーターに除染剤分解ユニット744を採用することにより、上記第1実施形態と同様に従来のアイソレーターの課題を解消することができる。
【0156】
以上説明したように、本発明によれば、チャンバー内と送風ゾーンとの間での空気の循環を必須要件とせず、除染剤を分解無害化するための触媒ユニットに専用ファンを設置することがなく、コンパクトでシンプルな構造であって、除染・エアレーションにおける操作効率の高い無菌バリアシステム、及び、その除染方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0157】
100~500…RABS、120~520…RABS本体、
121~521…RABS本体の天井壁、222,322…RABS本体の側面壁、
122,422,522…RABS本体の外側面壁、
600…クリーンベンチ、620…クリーンベンチ本体、
621…クリーンベンチ本体の天井壁、622…クリーンベンチ本体の側面壁、
622a…クリーンベンチ本体の正面壁、
700…アイソレーター、720…アイソレーター本体、
721…アイソレーター本体の天井壁、722…アイソレーター本体の側面壁、
723…アイソレーターのチャンバーの底面壁、
110~710…架台、310…架台の上面壁、311a…架台の上面壁の端部、
130~730…チャンバー、131~731…チャンバーの天井壁、
132,432,532…チャンバーの内側面壁、234…ダクト、
134,434,534…二重壁、140~740…送風ゾーン、
141~541,741…給気ブロワー、142~542…排気ブロワー、
742…排気ダンパー、123~623…開放部、133~533,733…整流板、
143~743…送風装置、143a~743a…送風ファン、
143b~743b,344c,744c…フィルター、344a…プレフィルター、
144~744…除染剤分解ユニット、144b~344b…触媒フィルター、
124~424,325…遮蔽扉、324a,325a…扉本体、
324b,324c,325b,325c…扉本体の端部、
150~750…除染剤供給装置。
【要約】
【課題】チャンバー内と送風ゾーンとの間での空気の循環を必須要件とせず、除染剤を分解無害化するための触媒ユニットに専用ファンを設置することがなく、コンパクトでシンプルな構造であって、除染・エアレーションにおける操作効率の高い無菌バリアシステム、及び、その除染方法を提供する。
【解決手段】
外部環境から壁面で隔てられ当該壁面のうち側壁面の下方部に外部環境への開放部を設けたチャンバーと、チャンバーの内部に供給する空気を外部環境から導入する外気導入手段と、チャンバーの内部に天井壁から下方に向かう一方向流の空気を供給する
整流板及び送風手段と、チャンバーの内部を除染する際に除染剤を供給する除染剤供給手段と、チャンバーの側壁面の
下方部且つ開放部の近傍にチャンバーの内部から外部環境に向けて設けられた除染剤分解ユニットと、開放部を遮蔽する
開閉可能な遮蔽扉とを有する。
【選択図】
図3