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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】パンおよびパンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/02 20060101AFI20220721BHJP
   A21D 13/06 20170101ALI20220721BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20220721BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
A21D13/02
A21D13/06
A21D2/26
A21D2/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021546310
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2021007168
(87)【国際公開番号】W WO2021172454
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2020030551
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載日:表1のとおり、ウェブサイトのアドレス:表1のとおり、公開者:ベースフード株式会社、公開された発明の内容:ベースフード株式会社が、表1記載のアドレスのウェブサイトにて、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンについて公開した。特30条記事欠損あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載日:表2のとおり、ウェブサイトのアドレス:表2のとおり、公開者:表2のとおり、公開された発明の内容:表2の「公開者」が、表2記載のアドレスのウェブサイトにて、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンについて公開した。特30条記事欠損あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日:表3のとおり、刊行物:表3のとおり、公開者:表3のとおり、公開された発明の内容:表3の「公開者」に記載の者が、「刊行物」に記載の雑誌において、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンについて公開した。特30条記事欠損あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日:表4のとおり、刊行物:表4のとおり、公開者:表4のとおり、公開された発明の内容:表4の「公開者」に記載の者が、「刊行物」に記載の新聞において、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンについて公開した。特30条記事欠損あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:表5のとおり、展示会名、開催場所:表5のとおり、公開者:ベースフード株式会社、公開された発明の内容:ベースフード株式会社が、表5の展示会にて、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンについて公開した。特30条記事欠損あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:表6のとおり、展示会名、開催場所:表6のとおり、公開者:ベースフード株式会社、公開された発明の内容:ベースフード株式会社が、表6記載の媒体にて、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンの試供品を配布した。特30条記事欠損あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日:表7のとおり、放送番組、会見場所等:表7のとおり、公開者:ベースフード株式会社、公開された発明の内容:ベースフード株式会社が、表7記載のテレビ番組にて、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンについて公開した。特30条記事欠損あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日:表8のとおり、放送番組、会見場所等:表8のとおり、公開者:ベースフード株式会社、公開された発明の内容:ベースフード株式会社が、表8記載のラジオ番組にて、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンについて公開した。特30条記事欠損あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日:表9のとおり、集会名等:表9のとおり、公開者:ベースフード株式会社、公開された発明の内容:ベースフード株式会社が、表9記載の集会にて、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンについて公開した。特30条記事欠損あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日:表10のとおり、刊行物:表10のとおり、公開者:ベースフード株式会社、公開された発明の内容:ベースフード株式会社が、表10記載の自社刊行物にて、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンについて公開した。特30条記事欠損あり
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 販売日:表11のとおり、販売した場所:表11のとおり、公開者:ベースフード株式会社、公開された発明の内容:ベースフード株式会社が、表11記載の場所に、田沼聡美及び橋本舜が発明したパンを卸した。特30条記事欠損あり
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516149239
【氏名又は名称】ベースフード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田沼 聡美
(72)【発明者】
【氏名】橋本 舜
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0031562(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0054024(US,A1)
【文献】米国特許第04759934(US,A)
【文献】特開平04-144635(JP,A)
【文献】糖質制限 ふすま食パンwith豆乳グルト,クックパッド [オンライン],2017年10月10日,[検索日 2021.11.10], インターネット<URL: https://cookpad.com/recipe/4750816>,レシピID: 4750816
【文献】糖質制限 4大材料de主食パンPart5,クックパッド [オンライン],2018年02月15日,[検索日 2021.11.10], インターネット<URL: https://cookpad.com/recipe/4935115>,レシピID: 4935115
【文献】【低糖質】小麦50%OFF惣菜パン,クックパッド [オンライン],2017年10月26日,[検索日 2021.05.06], インターネット<URL: https://cookpad.com/recipe/4755417>,レシピID: 4755417
【文献】糖質制限 粉三昧de主食パン-VII,クックパッド [オンライン],2018年08月31日,[検索日 2021.05.06], インターネット<URL: https://cookpad.com/recipe/5230554>,レシピID: 5230554
【文献】糖質制限 HBでふすま×米ぬかパン,クックパッド [オンライン],2015年06月20日,[検索日 2021.05.06], インターネット<URL: https://cookpad.com/recipe/3037281>,レシピID: 3037281
【文献】24 Whole Grains and Seeds Bread with Honey,Mintel GNPD,[online],ID#: 3334207,2015年8月,[Retrieved on 11-04-2022], Retrieved from the internet: <URL: https://portal.mintel.com>
【文献】Knead for Seed 12 Grain Bread,Mintel GNPD,[online],ID#: 3196827,2015年6月,[Retrieved on 11-04-2022], Retrieved from the internet: <URL: https://portal.mintel.com>
【文献】Whole Grain White Bread,Mintel GNPD,[online],ID#: 1438131,2010年11月,[Retrieved on 11-04-2022], Retrieved from the internet: <URL: https://portal.mintel.com>
【文献】Bread,Mintel GNPD,[online],ID#: 10170003,2004年5月,[Retrieved on 11-04-2022], Retrieved from the internet: <URL: https://portal.mintel.com>
【文献】Natural Whole Grain Bread Extension,Mintel GNPD,[online],ID#: 10108292,2002年5月,[Retrieved on 11-04-2022], Retrieved from the internet: <URL: https://portal.mintel.com>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
A23L 33/00-33/29
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦全粒粉と、小麦タンパクと、大豆と、穀物の糠と、を含有する生地を加熱して得られるパンにおいて、
前記生地100gにおける、前記小麦全粒粉の含有量は10g以上20g以下であり、前記小麦タンパクの含有量は10g以上17g以下であり、前記大豆の含有量は5g以上10g以下であり、
前記穀物の糠として米糠を含み、前記米糠の含有量は2g以上g以下である、パン。
【請求項2】
前記生地100gにおける、前記小麦全粒粉の含有量は16.2g以下である、請求項1に記載のパン。
【請求項3】
前記米糠の含有量は2.9g以下である、請求項1または2に記載のパン。
【請求項4】
前記穀物の糠として小麦ふすまを含み、
前記米糠と前記小麦ふすまとの合計の含有量が3g以上6g以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のパン。
【請求項5】
前記生地は、さらに、小麦胚芽、もち米、にがり、卵、砂糖、海藻、種実および酵母から選択される1種以上を含有する、請求項1ないしのいずれか一項に記載のパン。
【請求項6】
前記生地100gにおける、前記小麦胚芽の含有量は1g以上3g以下である、請求項5に記載のパン。
【請求項7】
小麦全粒粉と、小麦タンパクと、大豆と、穀物の糠と、を含有する生地を加熱するパンの製造方法において、
前記生地100gにおける、前記小麦全粒粉の含有量は10g以上20g以下であり、前記小麦タンパクの含有量は10g以上17g以下であり、前記大豆の含有量は5g以上10g以下であり、
前記穀物の糠として米糠を含み、前記米糠の含有量は2g以上g以下である、パンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン、パン用ミックス粉およびパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康に毎日を過ごすためには食が重要である。例えば、日本では、厚生労働省と農林水産省が共同で策定した「食事バランスガイド」において、1日3食の各食事において、主食の他に、主菜、副菜、汁物を含んだバランスの良い献立にすることにより、必要な栄養素を全て摂取することが推奨されている。そして、この必要な栄養素の基準値として、厚生労働省は、食事摂取基準2020において、エネルギー及び各栄養素の摂取量を定めている(例えば、非特許文献1。)。このような必要な栄養素の摂取量基準は、諸外国においても策定されている。
【0003】
健康を維持するためには、必要な栄養素を全て食事で摂取することが望ましい。しかし、食事のみで、しかも各食事において、必要な栄養素をバランス良く摂取するのは難しい。
【0004】
そこで、1日に必要な全ての栄養素を全て含む、ドリンクタイプやビスケットタイプの栄養代替食がある(例えば、特許文献1。)。栄養代替食は、献立を考えなくても必要な栄養素を効率的に摂取でき、かつ食事の準備だけでなく食する時間を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】厚生労働省、日本人の食事摂取基準 インターネット<URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html>
【文献】特開2019-140952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、栄養代替食は栄養バランスが良く、手軽に食事代わりに摂取できるものの、風味や食感、腹持ち等の点で、食事としては物足りない。
【0007】
手軽に食事代わりに摂取できるものとして、例えば、おにぎりやパン等の主食がある。しかし、主食のみでは炭水化物に偏り、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維等が不足する。このため、栄養バランスを良くするためには、副食として他の食品と組み合わせたり、サプリメントによる補充が必要となる。
【0008】
本発明は、栄養素の種類と含有量が高いパンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の主たる発明は、パンであって、小麦タンパクと、大豆と、穀物の糠と、を含有する生地を加熱して得られ、前記生地100gにおける、前記小麦タンパクの含有量は10g以上20g以下であり、前記大豆の含有量は5g以上10g以下であり、前記穀物の糠の含有量は2g以上8g以下であることとする。
【0010】
その他本願が開示する課題やその解決方法については、発明の実施形態の欄により明らかにされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、栄養素の種類と含有量が高いパンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明は、たとえば以下のような構成を備える。
[項目1]
小麦タンパクと、大豆と、穀物の糠と、を含有する生地を加熱して得られるパンにおいて、
前記生地100gにおける、前記小麦タンパクの含有量は10g以上20g以下であり、前記大豆の含有量は5g以上10g以下であり、前記穀物の糠の含有量は2g以上8g以下である、パン。
[項目2]
前記穀物は、小麦、ライ麦および米から選択される1種以上である、項目1に記載のパン。
[項目3]
前記生地は、さらに、生地は、さらに、小麦胚芽、もち米、にがり、卵、砂糖、海藻、種実および酵母から選択される1種以上を含有する、項目1または2に記載のパン。
[項目4]
小麦タンパクと、大豆と、穀物の糠と、を含有するパン用ミックス粉であって、
前記パン用ミックス粉100gにおける、前記小麦タンパクの含有量は25g以上35g以下であり、前記大豆の含有量は10g以上20g以下であり、前記穀物の糠の含有量は5g以上15g以下である、パン用ミックス粉。
[項目5]
小麦タンパクと、大豆と、穀物の糠と、を含有する生地を加熱するパンの製造方法において、
前記生地100gにおける、前記小麦タンパクの含有量は10g以上20g以下であり、前記大豆の含有量は5g以上10g以下であり、前記穀物の糠の含有量は2g以上8g以下である、パンの製造方法。
【0013】
1.パン
本実施形態に係るパンは、小麦タンパクと、大豆と、穀物の糠と、を含有する生地を加熱して得られるものである。
【0014】
以下に、本実施形態に係るパンを構成する生地の原材料、および生地に含まれ得る原材料について説明する。
【0015】
また、本実施形態において、「パン」とは、小麦粉又はこれに穀粉類を加えたものを主原料とし、これにイーストを加えたもの、またはこれらに水、食塩、ぶどう等の果実、野菜、卵及びその加工品、砂糖類、食用油脂、乳及び乳製品等を加えたものを練り合わせ、発酵させたもの(以下「パン生地」または、単に「生地」と呼ぶ。)を焼いたものであって、水分が10%以上のものを意味するものとする(例えば、消費者庁ウェブサイト、https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/quality_labelling_standard/pdf/kijun_30_110930.pdf#search=%27%E3%83%91%E3%83%B3+%E5%AE%9A%E7%BE%A9%27)。
【0016】
したがって、本実施形態において、「パン」とは、イースト等の酵母を加えて膨らませて焼いた発酵パンを意味するが、発酵パンだけでなく、ベーキングパウダーや重曹等のガスを発生するふくらし粉により膨らませて焼き、水分が10%以上のものもパンと呼ぶものとする。したがって、本実施形態においては、スコーン、ホットビスケット等のビスケットタイプの硬いパンは含まない。
【0017】
1.1.小麦タンパク
本実施形態に係るパンは、生地に小麦タンパクを含み、パンを加熱する前の生地100gにおける含有量は10g以上20g以下である。
【0018】
小麦タンパクは、グルテン又は麩質とも呼び、穀物の胚乳から生成されるタンパク質の1種であるグルテニンとグリアジンが水を吸収して網目状につながったものである。パンの生地は、グルテンにより独特な粘り気と弾力が生まれ、この生地を発酵させると、酵母が「炭酸ガス」を発生し、生地が膨らむ(例えば、一般社団法人 日本洋菓子協会連合会ウェブサイト、https://gateaux.or.jp/ufaqs/%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%B3/参照。)。
【0019】
小麦タンパクは、吸水性、粘弾性、伸展性・伸長性、結着性、熱凝固性に優れる。このため、本実施形態に係るパンが小麦タンパクを含むことにより、パンに必要な風味を与え、弾力のある食感をつくる。
【0020】
文部科学省、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」によると、粉末状の小麦タンパク100g当たり、食物繊維 2.4g(水溶性食物繊維 0.5g、不溶性食物繊維 1.9g)、脂質 9.7g(飽和脂肪酸 1.34g、一価不飽和脂肪酸 0.82g、多価不飽和脂肪酸 4.25g)、タンパク質 72.0g、ビタミンB1 0.03mg、ビタミンB2 0.12mg、ナイアシン(ビタミンB3)3.5mg、パントテン酸(ビタミンB5) 0.61mg、ビタミンB6 0.10mg、葉酸(ビタミンB9) 34μg、ビタミンE 1.1mg、ナトリウム 60mg、カリウム 90mg、カルシウム 75mg、マグネシウム 75mg、リン 180mg、鉄分 6.6mg、亜鉛 5.0mg、銅 0.75mg、マンガン 2.67mgを含む。
【0021】
このように、小麦タンパクは、その70%以上がタンパク質で構成されている。このため、本実施形態に係るパンが小麦タンパクを生地100g中に10g以上20g以下含むことにより、特にタンパク質の含有量が高いパンを提供することができる。
【0022】
また、上記のように、小麦タンパクは、各種のミネラルや食物繊維の含有量が高い。このため、本実施形態に係るパンが小麦タンパクを生地100g中に10g以上20g以下含むことにより、タンパク質だけでなく、各種のミネラルや食物繊維の含有量が高いパンを提供することができる。
【0023】
小麦タンパクの含有量の下限値は、パン生地100gにおいて10g以上であり、11g以上が好ましく、上限値は20g以下であり、17g以下が好ましい。小麦タンパクの含有量が上記範囲内であることにより、パンに必要な弾性等を付与し、吸水性を適当な範囲として、パンの風味や食感を高めることができる。また、後述する小麦粉とは別に生地に加えることにより、例えば、1日に必要なタンパク質量の少なくとも1/3量、例えば、厚生労働省が定める18才以上の男性の栄養素等表示基準である81gの少なくとも1/3量を1食分のパンに含めることが可能となる。さらに、各種のミネラルや食物繊維の含有量が高いパンを提供することができる。なお、小麦タンパクの含有量は、後述する小麦粉に含まれる小麦タンパクを含んだ合計量とする。
【0024】
1.2.大豆
本実施形態に係るパンは、生地に大豆を含み、パンを加熱する前の生地100gにおける含有量は5g以上10g以下である。
【0025】
大豆は、タンパク質と脂質を豊富に含み、豆類の中でもタンパク質の含有量が最も高い。このため、本実施形態に係るパンが生地100g中に大豆を5g以上10g以下含むことにより、特にタンパク質と脂質の含有量が高いパンを提供することができる。
【0026】
大豆は、大豆として最も流通している黄大豆の他に、青大豆、黒大豆、白大豆、赤大豆、茶大豆であっても良い。例えば、黄大豆ではなく黒大豆であれば、黄大豆よりもβカロテンや葉酸の含有量が高く、またアントシアニンを含む。これらの大豆は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0027】
例えば、大豆が黄大豆である場合、文部科学省、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」によると、国産の乾燥黄大豆100g当たり、食物繊維 17.9g(水溶性食物繊維 1.5g、不溶性食物繊維 16.4g)、脂質 19.7g(飽和脂肪酸 2.59g、一価不飽和脂肪酸 4.80g、多価不飽和脂肪酸 10.39g)、タンパク質 33.8g、ビタミンB1 0.71mg、ビタミンB2 0.26mg、ナイアシン(ビタミンB3)2.0mg、パントテン酸(ビタミンB5) 1.36mg、ビタミンB6 0.51mg、ビオチン(ビタミンB7) 38.2μg、葉酸(ビタミンB9) 27.5μg、ビタミンE 2.3mg、ナトリウム 1mg、カリウム 1900mg、カルシウム 180mg、マグネシウム 220mg、リン 490mg、鉄分 6.8mg、亜鉛 3.1mg、銅 1.07mg、マンガン 2.51mgを含む。
【0028】
このように、大豆は、その30%以上がタンパク質、20%程度が脂質で構成されている。このため、本実施形態に係るパンが大豆を生地100g中に5g以上10g以下含むことにより、特にタンパク質と脂質の含有量が高いパンを提供することができる。
【0029】
また、上記のように、大豆は、1日に必要な栄養素のうち、各種のミネラルや食物繊維の含有量が高い。このため、本実施形態に係るパンが大豆を生地100g中に5g以上10g以下含むことにより、タンパク質だけでなく、各種のミネラルや食物繊維の含有量が高いパンを提供することができる。
【0030】
さらに、大豆は、必須脂肪酸や、食物繊維、ビタミンB1、B2、E、カルシウム、カリウム、鉄の含有量が高いため、これらの栄養素の供給源となる。その他、サポニン、レシチン、フラボノイド等の微量成分も含むため、生地を混合するときに原材料の乳化剤として機能したり、パンに風味や食感を付与することも期待できる。
【0031】
また、大豆の含有量の下限値は、パン生地100gにおいて5g以上であり、上限値は10g以下であり、9g以下が好ましい。前記含有量により、パンに必要なタンパク質やその他の栄養素を補い、さらにはパンの風味と食感を高めることができる。
【0032】
1.3.穀物の糠
本実施形態に係るパンは、生地に穀物の糠を含み、パンを加熱する前の生地100gにおける含有量は2g以上8g以下である。
【0033】
糠は、穀物を精白した際に出る果皮、種皮等の部分を指す。本実施形態においては、例えば米、もち米の場合には、種子から籾殻を除いた玄米の主に胚芽、外胚乳、糊粉層を含むものとし、小麦、ライ麦等の麦類の場合には、果皮、種皮の表皮部分を含むものとする。
【0034】
穀物の糠は、精白した穀物にはほとんど含まれないような栄養素を豊富に含む。このため、本実施形態に係るパンが生地100g中に穀物の糠を2g以上8g以下含むことにより、一日に必要な各栄養素を補い、さらには糠特有の成分により、パンに風味と食感を付与することができる。
【0035】
穀物の糠の原料となる穀物としては、例えば、小麦、米、トウモロコシ、大麦、燕麦、ライ麦、ハト麦、モロコシ、アワ、キビ、ヒエ、ソバ、コウリャン、ライ小麦、ブルグル、キヌア、アマランサス等が挙げられる。大麦はもち麦であっても良い。これらの穀物の糠は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0036】
本実施形態で用いる米糠を得るための米の種類は限定されず、例えば、水稲、陸稲、もち米、赤米、黒米、緑米等を含む。これらは、パンに所望の特性を付与するために適宜選択することができる。例えば、赤米は、白米と比較して、リン、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ビタミンB1、ビタミンE、食物繊維約を数倍多く含む他、タンニンを含む。黒米は、白米と比較して、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄分やビタミンB・E、食物繊維を数倍多く含む他、アントシアニンを含む。緑米は、亜鉛、マグネシウム、食物繊維を豊富に含む他、葉緑素を含む。
【0037】
また、これらの穀物は、種子の発生段階を問わず用いることが出来る。例えば、米の糠の原料となる穀物は、熟し切る前の成長著しい段階で摘み取ったもの(例えば、玄米であれば、若い玄米である青玄米)であってもよい。青玄米は玄米よりも高い栄養素を持つ他、うまみ成分の1つであるアラニンを含む。また、熟した穀物よりも繊維が柔らかいため、熟した穀物特有の硬さや臭いがなく、糠がより使いやすい場合がある。
【0038】
例えば、穀物の糠が米糠である場合、文部科学省、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」によると、米糠100g当たり、食物繊維 20.5g(水溶性食物繊維 2.2g、不溶性食物繊維 18.3g)、脂質 19.6g(飽和脂肪酸 3.45g、一価不飽和脂肪酸 7.37g、多価不飽和脂肪酸 5.90g、タンパク質 13.4g、ビタミンB1 1.82mg、ビタミンB2 0.71mg、ナイアシン(ビタミンB3)4.2mg、パントテン酸(ビタミンB5) 1.34mg、ビタミンB6 1.24mg、葉酸(ビタミンB9)390μg、ビタミンE 28.3mg、ナトリウム 3mg、カリウム 1100mg、カルシウム 42mg、マグネシウム 310mg、リン 1100mg、鉄分 9.4mg、亜鉛 15.9mg、銅 0.89mg、を含む。その他、米糠は、フィチン酸、イノシトール、フェルラ酸、γ-オリザノールも含む。
【0039】
穀物の糠が小麦ふすまである場合、インターネットト<URL: https://www.eatsmart.jp/do/caloriecheck/detail/param/foodCode/9999030001587>によると、小麦ふすま100g当たり、食物繊維 42.8g(水溶性食物繊維 g、不溶性食物繊維 g)、脂質 4.3g(飽和脂肪酸 0.63g、一価不飽和脂肪酸 0.64g、多価不飽和脂肪酸 2.21g)、タンパク質 15.6g、ビタミンB1 0.52mg、ビタミンB2 0.58mg、ナイアシン(ビタミンB3)1.30mg、パントテン酸(ビタミンB5) 2.18mg、ビタミンB6 1.3mg、ビオチン(ビタミンB7) μg、β―カロテン 6μg、葉酸(ビタミンB9)μg、ビタミンE 1.5mg、ナトリウム 2mg、カリウム 1182mg、カルシウム 73mg、マグネシウム 611mg、リン 1013mg、鉄分 10.6mg、亜鉛 7.3mg、銅 0.10mg、マンガン 11.50mg、セレン 78μg、を含む。
【0040】
これらの穀物の糠の中でも、小麦、ライ麦、米の糠が好ましい。すなわち、穀物の糠として、小麦ふすま、ライ麦糠、米糠を用いることが好ましい。糠は穀物の精白の過程において廃棄されることが多いため、特に、小麦、ライ麦、米の糠は入手しやすい。このため、栄養豊富な原料を安価に入手可能となる。また、上記のように、小麦、ライ麦、米の糠は、各種栄養素の種類と含有量、風味等の点からも好ましい。
【0041】
穀物の糠の含有量の下限値は、パン生地100gにおいて2g以上であり、3g以上が好ましく、上限値は8g以下であり、6g以下が好ましい。前記含有量により、本実施形態に係るパンに、脂質や食物繊維、その他の栄養素を補い、さらにはパンの風味と食感を高めることができる。なお、糠の含有量は、例えば、後述する小麦粉が全粒粉の場合には、その全粒粉に含まれる糠部分として小麦ふすまを含んだ合計量とする。
【0042】
1.4.小麦胚芽
本実施形態に係るパンは、生地に小麦胚芽を含むことが好ましい。小麦胚芽は、文部科学省、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」によると、小麦胚芽100g当たり、食物繊維 14.3g(水溶性食物繊維 0.7g、不溶性食物繊維 13.6g)、脂質 11.6g(飽和脂肪酸 1.84g、一価不飽和脂肪酸 1.65g、多価不飽和脂肪酸 6.50g)、タンパク質 32.0g、ビタミンB1 3.12mg、ビタミンB2 0.21mg、ナイアシン(ビタミンB3)34.6mg、パントテン酸(ビタミンB5) 4.43mg、ビタミンB6 3.27mg、ビオチン(ビタミンB7) 38.2μg、葉酸(ビタミンB9)180μg、ビタミンE 10.4mg、ナトリウム 7mg、カリウム 1500mg、カルシウム 35mg、マグネシウム 850mg、リン 2000mg、鉄分 7.6mg、亜鉛 5.9mg、銅 0.48mg、セレン 5μg、を含む。
【0043】
このため、小麦胚芽は、食物繊維や脂質、タンパク質、各種ビタミンはミネラルの供給源となる他、パンに風味や食感を付与する。この場合、小麦胚芽の含有量は、パン生地100gにおいて1g以上3g以下であることが好ましい。
【0044】
1.5.にがり
本実施形態に係るパンは、生地ににがりを含むことが好ましい。にがりは、海水からとれる塩化マグネシウムを主成分とする食品添加物である。このため、にがりは、マグネシウム等のミネラルの供給源となる。その他、風味を付与したり、発酵の速度の調整、雑菌繁殖防止等の効果も期待できる。なお、ミネラルの供給源として、にがりから抽出した塩化カリウム等の調味料無機塩を使用しても良い。
【0045】
1.6.卵
本実施形態に係るパンは、生地に卵を含むことが好ましい。卵はタンパク質と脂質に富む他、使用することで風味や食感に優れたパンが得られる。また卵黄中の卵黄リポタンパク質であるレシチンが、生地の原材料の乳化剤として機能する。これにより、各原材料を均一に混合して生地を安定化したり、生地の保水性を高めることが可能となる。また、より風味と食感に優れたパンとすることができる。
【0046】
1.7.海藻
本実施形態に係るパンは、生地に海藻を含むことが好ましい。海藻は、水溶性食物繊維であるアルギン酸とフコイダンを豊富に含むため、本実施形態に係るパンに必要な食物繊維を補う。また、本実施形態に係るパンが豊富に食物繊維を含むと、パンの腹持ちが良くなる他、パンの水分をゲル化する性質を有し、生地の保水力を高める。
【0047】
また、海藻は、カルシウムやヨウ素等のミネラルを豊富に含むため、本実施形態に係るパンに必要なミネラルを補うことができる。さらに、海藻はうまみ成分であるグルタミン酸を豊富に含むため、本実施形態に係るパンが海藻を含むことで、パンの風味が高まる。
【0048】
本実施形態で用いられる海藻としては、例えば、昆布、テングサ、オゴノリ、ワカメ、モズク等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0049】
これらの中でも、本実施形態で用いられる海藻は、昆布であることが好ましい。昆布は、各種ビタミンやミネラルを多く含むため、本実施形態に係るパンに対し、必要なビタミンやミネラルを供給する。昆布は、特に牛乳の6倍以上ものカルシウムを含むため、海藻として昆布を用いることで、パンにカルシウムを供給することができる。また、昆布は、食物繊維、フコイダン、アルギン酸、ラミナン、ヨウ素、グルタミン酸を豊富に含むため、本実施形態に係るパンに必要な食物繊維を補う他、パンに所望の風味や食感を付与することができる。
【0050】
昆布としては、真昆布、利尻昆布、羅臼昆布、日高昆布、長昆布、細目昆布等が挙げられ、所望の成分に応じて選択できるが、特に真昆布を用いることが好ましい。真昆布は「だし昆布」として使われるほか、おぼろ昆布や粉末などに加工し食されることが多いため、真昆布を使うとさらに風味に優れたパンになる。また、食物繊維やミネラルの供給源としての機能を充分に発揮させることができるとともに、パンの風味と食感を高めることができる。
【0051】
1.8.種実
本実施形態に係るパンは、生地に種実を含むことが好ましい。種実は、堅い皮や殻に包まれた食用の果実・種子の総称であり、堅果とも呼ばれる。種実は、タンパク質や脂質を豊富に含み、相対的に炭水化物量が低い。また、種実は、食物繊維や各種ビタミンやミネラルを豊富に含む。このため、本実施形態に係るパンが種実を含むことにより、本実施形態に係るパンに必要な各栄養素を補い、さらには各種実特有の成分により、パンに風味と食感を付与することができる。
【0052】
種実としては、例えば、アーモンド、カシューナッツ、ペカンナッツ、ブラジルナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、ココナッツ、松の実、ヒマワリの種、カボチャの種、スイカの種、シイ、クルミ、ゴマ、アマニ、麻の実(ヘンプ)、エゴマ、ケシ、トチ、ハス、松の実、落花生、カカオ等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0053】
本実施形態に係るパンは、生地に種実を含むことにより、各栄養素の供給源となるだけでなく、パンの風味と食感を高めることができる。
【0054】
1.9.小麦粉
本実施形態に係るパンは、生地に小麦粉を含むことが好ましい。小麦粉は、一般的にパン生地の主原材料となる原材料であり、炭水化物を多く含む。このため、パン生地が小麦粉を含むことで、エネルギーの供給源となる、主食であるパンの提供が可能となる。
【0055】
小麦粉は、タンパク質として上述の小麦タンパクを6~15質量%程度含むが、ビタミンやミネラルの含有量は多くはない。そこで、上述した各原材料と組み合わせてパン生地とすることで、糖質の含有量が高くならないよう抑制しつつ、栄養素の種類と含有量が高いパンを提供することができる。ここで、糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたものである。
【0056】
本実施形態に係るパンの生地の原材料において、小麦粉は、精白した小麦粉であっても良いし、全粒粉であっても良い。全粒粉は上記の小麦ふすま等を上記の糠として含むものであり、その割合は15質量%程度である。このため、小麦粉として全粒粉を用いることにより、本実施形態に係るパンに必要なビタミンやミネラル、脂質、タンパク質、食物繊維を補うことができる。また、全粒粉は、上記の小麦タンパクを10~13質量%程度含む。
【0057】
本実施形態に係るパンの生地の原材料において、小麦粉として硬質小麦と軟質小麦のいずれを用いても良く、薄力粉、中力粉または強力粉のいずれを用いても良い。この中でもパンの食感を良くするためには、小麦粉として強力粉を用いることが好ましい。
【0058】
小麦粉の含有量の下限値は、小麦粉として全粒粉を含む場合には、パン生地100gにおいて、10g以上が好ましく、11g以上がより好ましく、上限値は25g以下が好ましく、20g以下がより好ましい。小麦粉の含有量が上記範囲内であることにより、パンに必要な炭水化物を供給できるとともに、パンの風味を高めることができる。また、上述した原材料と組み合わせることにより、一般のパン生地と比べて小麦粉の含有量を低くして、糖質の含有量の低減が可能となる。
【0059】
1.10.酵母
本実施形態に係るパンは、生地に酵母を含むことが好ましい。酵母は、生地を発酵させてふっくらと膨らませるだけでなく、ビタミンB群をはじめとする各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、核酸、食物繊維等の供給源となる。また、生地に酵母を含むことにより、パンの風味が増す。
【0060】
酵母としては、例えば、パン酵母(サッカロミセス・セルヴィシエ菌、いわゆるイースト。)やビール酵母、等が挙げられる。中でも、本実施形態において、生地はパンを膨らませる他、ビタミンB群等の供給源の目的でパン酵母を含み、さらに、所望の性質にあわせて他の酵母を併用することが好ましい。
【0061】
パン酵母は、イースト、野生酵母、天然酵母のいずれであっても良い。イーストは、ドライイーストやインスタントドライイーストであっても良く、生イーストであっても良い。野生酵母は、レーズン種(レーズン+糖分)、ホップ種(ホップ+米麹)、果実種(果物+糖分)、ヨーグルト種(ヨーグルト+強力粉+糖分)であっても良い。天然酵母は、乳酸菌が生きているサワー種、パネトーネ種、ルヴァン種、酒種であっても良い。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0062】
1.11.グルコマンナンを含む食品
本実施形態に係るパンは、生地にグルコマンナンを含む食品を含むことが好ましい。グルコマンナンは針葉樹の細胞壁や蒟蒻芋に多く含まれる水溶性食物繊維であり、本実施形態に係るパンに必要な食物繊維の供給源となる。また、実施形態に係るパンの生地の乳化安定性、冷凍耐性、離水低減、食物繊維補給、カロリーダウン、デンプン老化遅延、糖質オフの機能の付与も期待できる。
【0063】
グルコマンナンを含む食品としては、例えば、チアシード、コンニャク粉等が挙げられる。中でも、本実施形態においては、グルコマンナンを含む食品としてチアシードを用いることが好ましい。チアシードは、ミネラルを豊富に含み、中でもリンとマグネシウムが豊富である他、食物繊維やオメガ3脂肪酸が豊富である。このため、チアシードを用いることで、さらに栄養豊富なパンとなる。また、チアシードは独特な食感を有するため、パンの風味と食感を高める。さらに、後述する酢と共に用いると、チアシードが酢を吸収して、その後ゆっくりと酢を生地中に放出するため、パン生地を製造する際に、酢酸のグルテン形成阻害効果をマイルドにする。これにより、パン生地中のグルテン量を調整することができる。
【0064】
本実施形態において、グルコマンナンを含む食品の含有量は、パン生地100gにおいて、1g以上3g以下が好ましい。グルコマンナンを含む食品の含有量が上記範囲内であることにより、パンとしての機能を充分に発揮させることができるとともに、パンの風味や食感を高めることができる。
【0065】
1.12.油脂
本実施形態に係るパンは、生地に油脂を含むことが好ましい。油脂は、パンの味にコクを出して風味を出したり、食感をソフトにする。また、パン生地を成形して焼成する際に、生地の窯伸びが良くなってパンのボリュームがアップし、焼き上がりがふっくらさせる。さらに、パン生地の水分を閉じ込め、乾燥を防き、老化を遅くする機能を有する。
【0066】
油脂としては、バター、動物脂、または植物油が挙げられる。バターは有塩バターであっても食塩不使用バターであっても良く、発酵バターであっても良い。動物脂としては、牛脂、ラード等が挙げられる。植物油としては、アマニ油、エゴマ油、オリーブ油、ゴマ油、米糠油、サフラワー油、大豆油、調合油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油、ブドウ油、綿実油、ヤシ油、落花生油が挙げられる。その他、マーガリン、ショートニングであっても良い。これらの中でも、特に風味に優れ、ビタミンAを含む点により、バターを使用することが好ましい。
【0067】
油脂の含有量は、パン生地100gにおいて、0.5g以上5.0g以下が好ましい。油脂の含有量が上記範囲内であることにより、パンの風味や食感を高めることができる。
【0068】
1.13.その他の原材料
本実施形態に係るパンは、生地の上記に挙げた原材料以外の成分を含んでも良い。その他の原材料としては、特に制限されないが、例えば、従来公知のパン生地に用いられる原材料や、食品にビタミンやミネラル等を付与したり、風味や食感を付与する原材料が挙げられる。例えば、麦芽、麦芽糖、米粉、もち米粉、イモ類、野菜、デンプン、砂糖等の糖類、塩、乳製品、ゼラチン、茶葉、酒精、等が挙げられる。また、いわゆるスーパーフードを含んでも良い。また、本実施形態に係るパンが発酵パンではない場合、ふくらし粉としてベーキングパウダーや重曹を含むことが好ましい。
【0069】
例えば、パン生地がその他の原材料として麦芽糖を含む場合、麦芽糖は酵母の発酵を助けるため、きめの揃ったパンが得られる。また、麦芽糖はパン生地にビタミン、ミネラルを付与する。乳製品であれば、独特の風味や栄養素を生地に付与する。これらの原材料は、必要に応じて含有量を調整して用いる。
【0070】
米粉は玄米粉であっても良く、玄米粉は発芽玄米粉であっても良い。イモ類は、ジャガイモ、サトイモ、サツマイモ、ヤーコン、キクイモ等が挙げられる。野菜は、炭水化物量が多いカボチャ、レンコン、ニンジン等が挙げられる。デンプンは、片栗粉、キャッサバデンプン等が挙げられる。糖類は、白糖、黒砂糖、和三盆糖、三温糖、加工糖、液糖、粉あめ、水あめ、ブドウ糖、果糖、異性化液糖、黒蜜、ハチミツ、メープルシロップ、サトウキビ抽出物、還元水あめ等が挙げられる。塩は、食塩、精製塩、岩塩等が挙げられる。乳製品は、生乳、加工乳、全粉乳、脱脂粉乳、生クリーム、ヨーグルト、チーズ、ホエーパウダー等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0071】
1.14.パンの製造方法
本実施形態に係るパンの製造方法は、小麦タンパクと、大豆と、穀物の糠と、を含有する生地を加熱するパンの製造方法において、前記生地100gにおける、前記小麦タンパクの含有量は10g以上20g以下であり、前記大豆の含有量は5g以上10g以下であり、前記穀物の糠の含有量は2g以上8g以下である。
【0072】
すなわち、本実施形態に係るパンは、上記原材料を任意の順序で混ぜて混錬した生地を発酵後に成形し、必要に応じて更に発酵させた後に任意の温度で加熱して焼成することにより得る。加熱は、生地を加熱する加熱手段、例えば、オーブン等の焼き窯を有するパン製造装置を用いて行う。
【0073】
これにより、栄養素の種類と含有量が高いパンを提供することができる。また、上記のように、本実施形態に係るパンに特徴的な原材料の選択と含有量により、風味に優れたパンを得ることができる。
【0074】
なお、上記原材料は、例えば、小麦タンパクと、大豆と、穀物の糠と、を含有するパン用ミックス粉として予め準備し、そこに他の原材料を添加して生地としても良い。
【0075】
この場合、例えば、パン用ミックス粉100gにおける小麦タンパクの含有量は25g以上35g以下であり、大豆の含有量は10g以上20g以下であり、穀物の糠の含有量は5g以上15g以下である。この場合、より栄養素の種類と含有量が高く、風味に優れたパンを提供することができる。
【0076】
1.15.効果
以上説明したように、本実施形態に係るパンは、上記原材料の選択と組み合わせにより、また、生地100gにおける、小麦タンパクの含有量が10g以上20g以下であり、大豆の含有量が5g以上10g以下であり、穀物の糠の含有量が2g以上8g以下であることにより、栄養素の種類と含有量が高いパンを提供することができる。
【0077】
また、上記原材料の選択と組み合わせと、その特徴的な含有量により、満足できる風味を兼ね備えた美味しいパンを提供することができる。
【0078】
パンは手軽に食べられるものであり、食事としておにぎりやパン等の主食だけですませることに抵抗がない日本人になじみやすい。そして、他の食材と組み合わせることなく、パンだけで必要な栄養素を全て摂取できるため、主菜、副菜等を組み合わせることなく、パンだけで食事の代わりとすることができる。このように、本実施形態に係るパンによれば、栄養素の種類と含有量が高い、主食としてのパンの提供が可能となる。
【0079】
なお、本実施形態に係るパンに他の食材を組み合わせることで、所望の栄養素の摂取量を高くすることができ、体の健康状態等にあわせた食事の提供が可能となるのは言うまでもない。
【0080】
2.実施例
以下、本発明を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「%」は質量基準である。
【0081】
2.1.パンの材料の調整
表1に記載の配合例で材料を準備し、パンを製造した。表1において、数値は全体量に対する百分率で表して小数第1位まで表している。
【0082】
【表1】
【0083】
表1において、小麦タンパクの合計量は、小麦タンパクとして実際に配合したものと、全粒粉中に小麦タンパクとして12%含むものとし、両者の合計量で表した。同様に、糠の合計量は、全粒粉中に糠として外皮を15%含むものとし、両者の合計量で表した。
【0084】
また、表1において、その他とは、海藻パウダー、真昆布、塩化カリウム、ビタミンミックス、アスコルビン酸、K2オイル(株式会社J-2オイルミルズ製)、ビオチン酵母、クロム酵母、サトウキビ抽出物、モルトエキスの混合物である。例4では、その他としてからし粉を含む。
【0085】
表1において、油脂は、バター及び/または植物油であり、酵母はドライイーストであり、砂糖は、上白糖またはきび糖である。
【0086】
表2は、表1において、パン用ミックス粉として調整可能な成分のみを表している。数値は全体量に対する百分率で表して小数第1位まで表している。
【0087】
【表2】
【0088】
2.2.パンの製造
ホームベーカリー(タイガー魔法瓶株式会社、商品名「IHホームベーカリー<やきたて>KBD-X型(1斤タイプ)」に準備した材料を全て投入し、メニュー番号17「大豆粉パンコース(調理時間2時間45分)」にてパンを製造した(インターネット<URL: https://www.tiger.jp/product/uploads/pdf/kbd_x_2.pdf>)。
【0089】
ここで、例1、2では、3食分と同じ配合割合で、表2に示す全粉体重量が250gになるように変換して実施した。例3~11では、2食分に変換し全粉体重量が250gを超えない粉体重量で実施した。
【0090】
各例で得られたパンについて説明する。
【0091】
例1~例8では、パンとは言い難いものができた。例1では、特に、とても食べられる味ではなかった。例3では、特に、そのままの重量を食べ切ることができない状態だった。例4では、大豆タンパクやパプリカ等で材料を組み直したところ、焼き上がりが土のように粉々のままであり、上記のように定義したパンにならなかった。詳細には、一部、ケーキのようになっている1cm程度の塊はあったものの、全体的にぼそぼそとした食感であり、食べにくく、パンの体をなしていなかった。普通のパンに比べて小麦タンパクが少ないため、グルテン形成できず、ぼそぼそになったことが考えられた。
【0092】
例5では、例4に比べて大幅に小麦グルテンを増やしたところ、生地がまとまったものの、中身が詰まって大豆団子のようになり、必要なタンパク質量が得られる量を食べきれなかった。また、独特の香りやパプリカの後味の苦味のような味がした。さらに、普通のパンに比べて旨味に欠けていた。
【0093】
例6では、必要なタンパク質量が食べられる重量にするために小麦グルテンの必要量を調整しながら確認したところ、見た目がパンに近づいてきたが、独特の香りやパプリカの後味の苦味のような味がした。例7、8では、パプリカを抜いたところ味が改善したが、身がかなり詰まって食べにくかった。
【0094】
例9では、例8とミックス粉としては同じものを用い、パンらしい膨らみにするために塩や加水量を調整した。その結果、パンの香りがするとともにパンと言えるレベルの小麦系の味がメインとなり、食感も本実施形態で定義したパンが得られた。また、材料の割合から、栄養素の種類と含有量が高いと予想されるパンが得られた。しかし、まだ穀物臭やエグミ感があった。
【0095】
例10では、よりパンらしい香りにするために、原材料の香りをマスキングするための材料を試した。例11では、より栄養価を高めるための配合を決め、製造時の栄養残存率を全ての栄養素について分析・算出した。栄養残存率は、以下に示す栄養分析法を用いて行った分析値と、元の材料に含まれる栄養価の計算値との差分を求めて算出した。
【0096】
栄養分析法は以下の通りであり、一般財団法人日本食品分析センターの分析方法を参考に行った。すなわち、炭水化物は食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)による計算値(100-(水分+タンパク質+脂質+灰分))、食物繊維は酵素-重量法、タンパク質は燃焼法、脂質は酸分解法、n-3系脂肪酸およびn-6系脂肪酸はガスクロマトグラフィー法、カルシウム、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、リンおよび亜鉛はICP発光分析法、クロム、ヨウ素、モリブデンおよびセレンはICP質量分析法、カリウムおよびナトリウムは原子吸光光度法、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKおよびアスコルビン酸パルミチン酸エステルは高速液体クロマトグラフィー法、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビオチン、葉酸およびビタミンB12は微生物定量法により分析した。熱量は修正アトウォーター法により算出した。
【0097】
2.3.評価結果
例1~例11のうち、生地100gにおける、小麦タンパクの含有量は10g以上20g以下であり、大豆の含有量は5g以上10g以下であり、穀物の糠の含有量は2g以上8g以下である例9~例11では、その配合により、特にタンパク質量、脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラルの種類と含有量が高いと考えられ、また、上記でパンと定義したパンが得られた。特に、例10~例11では、味、食感が通常のパンに近くなった。
【0098】
例えば、例11では、日本において厚生労働省が定めた栄養素等表示基準値(18才以上、基準熱量2,200kcal)に基づく1日分の基準値の1/3のうち、特に、タンパク質、脂質(ただし、n-6系脂肪酸)や食物繊維の基準を満たすものを1食分(得られたパン2個分)で得ることができた。また、小麦タンパク、大豆、穀物の糠の含有量が高いことにより、炭水化物量は基準値の1/3以下に抑えることができた。
【0099】
以上により、本実施形態に係るパンによれば、栄養素の種類と含有量が高いパンを提供することができた。
【0100】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0101】
例えば、上記実施例においては、生地にイースト等の酵母を加えた発酵パンを例として挙げたが、本発明はベーキングパウダーや重曹等のガスを発生するふくらし粉により膨らませて焼いた発酵パン以外のパンも本発明の範囲に含まれる。すなわち、本発明において特徴的な生地を用いていれば、生地を膨らませて焼く工程がどのようなものであっても本発明の範囲に含まれる。