(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】ドリルビット
(51)【国際特許分類】
E21B 10/02 20060101AFI20220721BHJP
E21B 10/56 20060101ALI20220721BHJP
E21C 25/04 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
E21B10/02
E21B10/56
E21C25/04
(21)【出願番号】P 2022044760
(22)【出願日】2022-03-19
【審査請求日】2022-03-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522112397
【氏名又は名称】松原鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170025
【氏名又は名称】福島 一
(72)【発明者】
【氏名】松原 博幸
(72)【発明者】
【氏名】佐野 正
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-266007(JP,A)
【文献】実開平02-116586(JP,U)
【文献】特公昭54-035561(JP,B2)
【文献】特開平05-065786(JP,A)
【文献】米国特許第04098362(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0168917(US,A1)
【文献】実開昭63-108489(JP,U)
【文献】特開2002-115481(JP,A)
【文献】特開平05-149074(JP,A)
【文献】実開昭63-098359(JP,U)
【文献】特開昭59-210186(JP,A)
【文献】特開昭61-270495(JP,A)
【文献】特開2015-105471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 10/02
E21B 10/56
E21C 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の回転軸を有し、円筒状のドリルビット本体と、
前記ドリルビット本体の頭部に設けられ、面層を掘削刃として備える複数の掘削部材と、
前記ドリルビット本体の頭部の先端平面のうち、外周端部領域に設けられ、前記面層の面を、前記外周端部領域の面と直角な垂線に対して、前記ドリルビット本体の回転方向と逆方向に、20度
~45度の範囲内の第一の傾斜角度で傾斜された掘削部材で構成されており、当該掘削部材の側面を覆って固定する先端側掘削部と、
前記ドリルビット本体の頭部の円筒側面のうち、上端部領域に設けられ、前記面層の面を、前記上端部領域の面と直角な垂線に対して、前記ドリルビット本体の回転方向と逆方向に、60度~90度の範囲内の第二の傾斜角度で傾斜された掘削部材で構成されており、当該掘削部材の側面を覆って固定し、当該掘削部材の面層が、前記先端側掘削部の掘削部材の面層の近傍に設けられ、当該掘削部材の面層の先端が、前記ドリルビット本体の頭部の平面視で、前記先端側掘削部の掘削部材の面層の先端よりも
、0.5mm~3.0mmの範囲内の距離だけ外部に突出している円筒側掘削部と、
を備え
、
前記先端側掘削部と前記円筒側掘削部とのそれぞれは、予め設けられた凹状の台座に前記掘削部材の側面から底面までを、ろう付けされることで、当該掘削部材の側面を覆って固定される、
ドリルビット。
【請求項2】
前記台座の凹部の寸法は、前記掘削部材の直径寸法に対して、0.1mm~0.5mmの長さだけ長く構成し、前記台座の凹部にろうを入れた後に、前記掘削部材の底面を押し込むことで、前記掘削部材の側面から底面までをろうで満たす、
請求項1に記載のドリルビット。
【請求項3】
前記台座の凹部の底面に、ろうが溜まる溝部を更に設け、
前記台座の凹部にろうを入れた後に、前記掘削部材の底面を押し込むことで、前記掘削部材の側面から底面までをろうで満たす、
請求項1に記載のドリルビット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルビットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、海底に存在する硬岩、例えば、花崗岩等の掘削を効率よく行うためにドリルビットの切削部材の配置に工夫を凝らした技術が存在する。
【0003】
米国特許第4098362号明細書(特許文献1)には、ドリルビットのクラウンに取り付けられた複数の切削要素又はカッターを含む回転式ロックドリルビットが開示されている。この回転式ロックドリルビットでは、各切削要素は、-10度から-25度の間のすくい角でビットのクラウンに結合された多結晶ダイヤモンドの薄い平面層を含む。又、他の実施形態では、各切削要素は、ドリルクラウンの一端に取り付けられた細長いピンと、-10度から-25度の間のすくい角で配置されるように、ピンの自由端に結合された多結晶ダイヤモンドの薄層とを含む。これにより、カルタゴ大理石やバレ花崗岩等の岩石の掘削に要する特定のエネルギーを最小化することが出来るとしている。
【0004】
又、特開平10-6228号公報(特許文献2)には、改善された研摩切削素子及びドリルビットが開示されている。このドリルビットの研摩切削素子は、研摩切削層と金属基体とを含み、これらの間の界面に接線チャンファを有し、この接線チャンファの平面が金属基体の円柱部の表面の平面に対して約5度から約85度の角度を形成している。これにより、研摩切削素子における内部残留応力に起因した破損及びスポーリングに対するダイヤモンド層の感受性を最小にすることが出来るとしている。
【0005】
又、特表2001-515164号公報(特許文献3)には、部分的にダイヤモンド強化したドリルビットが開示されている。このドリルビットでは、ビットボデーと、ビットボデーに取り付けたダイヤモンド強化していないボタンの少なくとも1つの環状列と、ビットボデーにおいて未強化ボタンの半径方向外側に取り付けたダイヤモンド強化ボタンの少なくとも1つの環状列とを含む。未強化ボタンの少なくとも1つの列における未強化ボタンの全摩耗体積は、強化ボタンの最外環状列の全摩耗体積の75パーセントより大きく、未強化ボタンの列の1つにおける未強化ボタンの数は、強化ボタンの最外環状列における強化ボタンの数に少なくとも等しい。未強化ボタンの少なくともいくつかは、強化ボタンのいずれより大きい摩耗体積を有し、未強化ボタンの半径方向最外の列は、強化ボタンの隣接する列に関して軸方向前方に変位している。これにより、未強化ボタンの再成形が必要になる前に、著しい量の未強化ボタンの摩耗を生じさせることが可能となり、それにより時間及び費用において著しい節約をもたらすとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第4098362号明細書
【文献】特開平10-6228号公報
【文献】特表2001-515164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
海底や地中の掘削に用いられるドリルビットの掘削部材は、通常、硬岩でも掘削することが出来るように、例えば、ダイヤモンドの薄い平面層を備えている。この掘削部材の平面層は、ドリルビットの回転により、硬岩からの強い衝撃を受け続けることから、容易に摩耗したり破砕したりする。一方、掘削部材の平面層は、少なくともダイヤモンドを原材料として構成していることから、掘削部材の単価が高く、一回、掘削部材の摩耗や破砕が生じると、全体として高価なドリルビットの買い替えに繋がる。そのため、ドリルビットの長寿命化に課題があった。
【0008】
ここで、特許文献1に記載の技術では、切削要素の角度により、衝撃に関係する特定のエネルギーの最小化を図ることが出来るものの、各切削要素の連携によるドリルビット全体の掘削効率の向上やドリルビットの長寿命化について記載が無い。
【0009】
又、特許文献2に記載の技術では、ドリルビットの頭部の側面に半球状の研摩切削素子が設けられているものの、同様に、各研摩切削素子の連携に関する記載が無い。
【0010】
更に、特許文献3に記載の技術では、未強化ボタンの環状列と強化ボタンの環状列との組み合わせにより、未強化ボタンの再成形が必要になる前に、未強化ボタンの摩耗を促進させるものの、各位置毎のボタンの連携に関する記載が無い。
【0011】
そこで、本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、各位置における掘削部材の掘削役割を明確化し、掘削負荷を分散させることで、ドリルビット全体の掘削効率の向上とドリルビットの長寿命化とを図ることが可能なドリルビットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るドリルビットは、ドリルビット本体と、複数の掘削部材と、先端側掘削部と、円筒側掘削部と、を備える。ドリルビット本体は、長手方向の回転軸を有し、円筒状である。掘削部材は、前記ドリルビット本体の頭部に設けられ、面層を掘削刃として備える。先端側掘削部は、前記ドリルビット本体の頭部の先端平面のうち、外周端部領域に設けられ、前記面層の面を、前記外周端部領域の面と直角な垂線に対して、前記ドリルビット本体の回転方向と逆方向に、20度~50度の範囲内の第一の傾斜角度で傾斜された掘削部材で構成されており、当該掘削部材の側面を覆って固定する。円筒側掘削部は、前記ドリルビット本体の頭部の円筒側面のうち、上端部領域に設けられ、前記面層の面を、前記上端部領域の面と直角な垂線に対して、前記ドリルビット本体の回転方向と逆方向に、60度~90度の範囲内の第二の傾斜角度で傾斜された掘削部材で構成されており、当該掘削部材の側面を覆って固定し、当該掘削部材の面層が、前記先端側掘削部の掘削部材の面層の近傍に設けられ、当該掘削部材の面層の先端が、前記ドリルビット本体の頭部の平面視で、前記先端側掘削部の掘削部材の面層の先端よりも、所定の距離だけ外部に突出している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、各位置における掘削部材の掘削役割を明確化し、掘削負荷を分散させることで、ドリルビット全体の掘削効率の向上とドリルビットの長寿命化とを図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係るドリルビットの一例を示す側面視斜視図(
図1A)と、平面視斜視図(
図1B)と、である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係るドリルビットの先端側掘削部の掘削部材と円筒側掘削部の掘削部材との位置関係の一例を示す側面図である。
【
図3】本発明の第一の実施形態に係るドリルビットの先端側掘削部の掘削部材と円筒側掘削部の掘削部材との位置関係の一例を示す平面図である。
【
図4】本発明の第一の実施形態に係るドリルビットにおける先端側掘削部の掘削部材の掘削の一例を示す側面図(
図4A)と、円筒側掘削部の掘削部材の掘削の一例を示す側面図(
図4B)と、である。
【
図5】本発明の第二の実施形態に係るドリルビット(なで肩型ドリルビット)の一例を示す平面図(
図5A)と、断面図(
図5B)と、である。
【
図6】本発明の第二の実施形態に係るドリルビット(いかり肩型ドリルビット)の一例を示す平面図(
図6A)と、断面図(
図6B)と、である。
【
図7】実施例1-2、比較例1の一例を示す斜視写真、平面写真、側面写真である。
【
図8】実施例1-2における各回転数毎の力積の評価結果(
図8A)と、実施例1-2における各回転数毎のエネルギーの評価結果(
図8B)と、である。
【
図9】実施例2の掘削後の岩石の掘削穴の写真である。
【
図10】実施例2-4の一例を示す斜視写真、平面写真、側面写真である。
【
図11】実施例1-4における各第一の傾斜角度毎の力積の評価結果(
図11A)と、実施例1-4における各第一の傾斜角度毎のエネルギーの評価結果(
図11B)と、である。
【
図14】実施例5-6の試作品の背面視斜視図(
図14A)と、実施例5-6の掘削試験の様子を示す正面図(
図14B)と、である。
【
図15】実施例5-6における各回転数毎の掘削速度の評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0016】
<本発明の第一の実施形態>
本発明の第一の実施形態に係るドリルビット1は、
図1~
図3に示すように、ドリルビット本体10と、複数の掘削部材11と、を備える。
【0017】
ドリルビット本体10は、長手方向の回転軸を有し、円筒状である。掘削部材11は、ドリルビット本体10の頭部10aに設けられ、面層を掘削刃として備えている。ここで、面層の構成に特に限定は無く、例えば、平面層や曲面層、半円球面層等を挙げることが出来る。
【0018】
又、複数の掘削部材11は、先端側掘削部12と、円筒側掘削部13とを含む。先端側掘削部12は、ドリルビット本体10の頭部10aの先端平面のうち、外周端部領域12aに設けられ、面層12bの面を、外周端部領域12aの面F1と直角な垂線P1に対して、ドリルビット本体10の回転方向と逆方向に、20度~50度の範囲内の第一の傾斜角度αで傾斜された掘削部材12で構成されており、当該掘削部材の側面を覆って固定している。
【0019】
ここでは、先端側掘削部12の掘削部材12の面層12bは平面層として構成している。又、外周端部領域12aとは、ドリルビット本体10の頭部10aの先端平面のうち、外周付近の端部領域を意味する。外周端部領域12aの面F1とは、先端側掘削部12の面層12bの近傍において外周端部領域12a上の所定の位置(点)における接線を構成する接平面を含む。
図2では、先端側掘削部12の面層12bの近傍では、外周端部領域12aが平面であるため、その面F1は、外周端部領域12aの平面になるが、例えば、外周端部領域12aが曲面である場合は、その面F1は、先端側掘削部12の平面層12bの近傍において外周端部領域12a上の所定の位置における接線を構成する接平面になる。又、先端側掘削部12は、3つの掘削部材12で構成されている。
【0020】
更に、円筒側掘削部13は、ドリルビット本体10の頭部10aの円筒側面のうち、上端部領域13aに設けられ、面層13bの面を、上端部領域13aの面F2と直角な垂線P2に対して、ドリルビット本体10の回転方向と逆方向に、60度~90度の範囲内の第二の傾斜角度βで傾斜された掘削部材13で構成されている。
【0021】
ここで、円筒側掘削部13の掘削部材13の面層13bは平面層として構成している。又、上端部領域13aとは、ドリルビット本体10の頭部10aの円筒側面のうち、上方で、外周付近の端部領域を意味する。上端部領域13aの面F2とは、上述と同様に、円筒側掘削部13の面層13bの近傍において上端部領域13a上の所定の位置(点)における接線を構成する接平面を含む。
図3では、上端部領域13aが平面であるため、その面F2は、上端部領域13aの平面になるが、例えば、上端部領域13aが曲面である場合は、その面F2は、円筒側掘削部13の平面層13bの近傍において上端部領域13a上の所定の位置における接線を構成する接平面になる。又、円筒側掘削部13は、先端側掘削部12の3つの掘削部材12に対応して、3つの掘削部材13で構成されており、当該掘削部材の側面を覆って固定している。
【0022】
又、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bが、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの近傍に設けられ、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bの先端13b1(刃先)が、ドリルビット本体10の頭部10aの平面視で、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの先端12b1(刃先)よりも、所定の距離dだけ外部に突出している。ここでは、平面視とは、ドリルビット本体10の頭部10aが進行する方向と逆方向から見た面を意味する。
【0023】
又、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bが、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの近傍に設けられるとは、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bが、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bを中心として所定の距離の範囲内に存在することを意味し、例えば、
図2では、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bは、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bに対して、ドリルビット本体10の回転方向と逆方向の位置で、且つ、ドリルビット本体10の頭部10aの平面から側面に向かって斜めの位置に設けられている。これにより、各位置における掘削部材11の掘削役割を明確化し、掘削負荷を分散させることで、ドリルビット1全体の掘削効率の向上とドリルビット1の長寿命化とを図ることが可能となる。
【0024】
即ち、ドリルビット10の頭部10aを回転させながら、岩石R(硬岩)に衝突させると、
図4Aに示すように、先ず、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bが岩石Rに衝突し、岩石Rを破壊して、掘削を開始する。つまり、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの先端12b1が岩石Rに衝突し、この先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの先端12b1の軌跡まで掘削が行われる。この先端側掘削部12の掘削部材12の掘削は、破砕掘削に対応する。
【0025】
ここで、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bでは、第一の傾斜角度αが、20度~50度の範囲内であることで、効率的に岩石Rを掘削して、掘削部材12の平面層12bへの掘削負担を軽減することが可能である。尚、第一の傾斜角度αは、20度~45度の範囲内であると更に好ましい。
【0026】
さて、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの掘削が進行すると、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの下方近傍(
図4Aでは、上方近傍)に円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bが設けられており、且つ、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bの先端13b1は、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの先端12b1よりも外部に突出していることから、次に、
図4Bに示すように、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bが、岩石Rの掘削部分の側面に対して掘削を開始する。
【0027】
つまり、先端側掘削部12の掘削部材12がある程度掘削すると、円筒側掘削部13の掘削部材13が、先端側掘削部12の掘削部材12が掘削した掘削部分R1の側面R2に対して掘削することになる。ここで、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bの先端13b1が、掘削部分R1の側面R2に衝突を開始するため、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bの先端13b1の軌跡まで更に掘削が行われる。
【0028】
ここで、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bでは、第二の傾斜角度βが、60度~90度の範囲内であることで、効率的に岩石Rを掘削して、掘削部材13の平面層13bへの掘削負担を軽減することが可能である。尚、第二の傾斜角度βが90度の場合は、例えば、円筒側掘削部13の掘削部材13が、ドーム状のボタンビット(ボタンチップビット)に該当する場合である。この場合は、
図3に示すように、ボタンビットの曲面層13bの面のうち、最上面が、円筒側掘削部13の曲面層13bの近傍において上端部領域13aの上の所定の位置(ここでは、直下)における接線を構成する接平面F2となり、接平面F2と直角な垂線P2に対して、ドリルビット本体10の回転方向と逆方向に、90度に傾斜することになる。
【0029】
さて、従来、通常のドリルビットでは、例えば、先端側掘削部12の掘削部材12が、岩石Rの掘削部分R1及びその側面R2までも掘削するように構成されているが、その場合、先端側掘削部12の掘削部材12への掘削負担が増加し、掘削部材12の平面層12bの摩耗や破砕を引き起こしていた。
【0030】
本発明では、先端側掘削部12の掘削部材12に、岩石Rの最初の掘削部分R1の掘削を担当させ、続いて、円筒側掘削部13の掘削部材13に、岩石Rの掘削部分R1の側面R2の掘削を担当させている。これにより、ドリルビット本体10の頭部10aの先端平面における外周端部領域12aの掘削部材12と、頭部10aの円筒側面における上端部領域13aの掘削部材13の各位置における掘削部材の掘削役割を明確にして、掘削負荷を分散させることが可能となる。その結果、特定の位置の掘削部材に掘削負荷が集中することを回避して、ドリルビット1全体の掘削効率の向上とドリルビット1の長寿命化とを図ることが可能となる。このような構成では、一定のスラスト(N)(kgf)に対してドリルビット1全体の掘削速度を向上させるため、現場での掘削時間短縮にも寄与する。
【0031】
又、円筒側掘削部13の掘削部材13により、岩石Rの掘削部分R1の側面R2が集中的に掘削されることで、ドリルビット本体10の頭部10aの側面に対する掘削部分R1の側面R2からの衝突を軽減することが出来るため、掘削時にドリルビット1の頭部10を回転し続けても、頭部10の外周側面の軸ブレが生じない。これにより、岩石Rの掘削部分R1を綺麗に形成することが可能となる。
【0032】
又、先端側掘削部12と円筒側掘削部13の掘削部材12、13は、側面を覆って固定されている。これは、例えば、先端側掘削部12と円筒側掘削部13の掘削部材12、13が嵌る凹状の台座(溝部)(窪み)が設けられていることに相当する。これにより、ドリルビット本体10の頭部10aが回転して、掘削部材12、13の平面層12b、13bが岩石Rに強固に衝突したとしても、掘削部材12、13の側面を覆って固定することで、岩石Rに対する掘削部材12、13の固定強度を維持し、掘削部材12、13の脱落を確実に防止することが出来る。
【0033】
ここで、ドリルビット本体10の構成に特に限定は無いが、例えば、
図1A、
図1B、
図2A、
図2B、
図3A、
図3Bに示すように、破砕した岩石Rを排出するための排出孔10bや排出溝10cを適宜設けても構わない。
【0034】
又、掘削部材11、12、13の構成に特に限定は無いが、例えば、平面層を有する円筒状の構成を挙げることが出来るが、その他に、球形状、半球形状、弾道形状、ドーム形状等を挙げることが出来る。又、平面層の構成は、例えば、多結晶ダイヤモンドの他に、超硬合金や耐摩耗性材料で構成される。
【0035】
又、掘削部材11、12、13の数に特に限定は無く、ドリルビット本体10のサイズや掘削対象に応じて適宜変更することが出来る。もちろん、先端側掘削部12と円筒側掘削部13の掘削部材12、13に加えて、他の掘削部材11を適宜配置しても構わない。
【0036】
又、掘削部材11、12、13の固定に特に限定は無いが、例えば、掘削部材11、12、13が円筒状に構成されている場合は、円筒が装着可能な円筒状の台座をドリルビット本体10の頭部10aに設けることで、掘削部材11、12、13の側面を覆って固定することが可能である。
【0037】
ところで、掘削部材11、12、13の固定方法について、
図2に示すように、先端側掘削部12と円筒側掘削部13を含む掘削部材11、12、13とのそれぞれは、予め設けられた凹状の台座10dに掘削部材11、12、13の側面から底面までを、ろう付けされることで、当該掘削部材11、12、13の側面を覆って固定されると好ましい。これにより、掘削部材11、12、13を強固にドリルビット本体10に固定させることが出来る。
【0038】
ここで、台座10dの凹部の寸法r1に特に限定は無いが、例えば、掘削部材11、12、13の直径寸法r2に対して所定の長さ(例えば、0.1mm~0.5mm)だけ長く構成し、台座10dの凹部にろうを入れた後に、掘削部材11、12、13の底面を押し込むことで、掘削部材11、12、13の側面から底面までをろうで満たして、掘削部材11、12、13を強固に固定させることが出来る。ろうの種類に特に限定は無いが、例えば、ニッケルろう、チタンろう、コバルトろう、銅ろう、錫ろう、銀ろう、又はこれらの組み合わせを挙げることが出来る。尚、掘削部材11、12、13を更に強固に固定させるために、例えば、台座10dの凹部の底面に、ろうが溜まる溝部10eを更に設けると好ましい。ここで、溝部10eの形状に特に限定は無いが、例えば、円柱状や円錐状、半球状等を挙げることが出来る。
【0039】
又、先端側掘削部12と円筒側掘削部13の掘削部材12、13の配置に特に限定は無いが、例えば、先端側掘削部12の掘削部材12は、ドリルビット本体10の頭部10aの先端平面の中心から放射状に均等に配置され、円筒側掘削部13の掘削部材13は、ドリルビット本体10の頭部10aの円筒側面の外周面に周方向に均等に配置されているが、これに限定されない。
【0040】
又、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bの先端13b1が、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの先端12b1に対して外部に突出している所定の距離dに特に限定は無いが、例えば、0.5mm~3.0mmの範囲内であると好ましい。これにより、先端側掘削部12の掘削部材12が掘削した掘削部分R1の側面R2が、直ぐに円筒側掘削部13の掘削部材13に衝突するため、先端側掘削部12の掘削から円筒側掘削部13の掘削に効率よく切り替えることが可能となり、ドリルビット1全体の掘削効率を更に向上させることが可能となる。
【0041】
ここで、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bの位置は、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの位置に近接すればするほど、掘削負荷の分散に寄与するため好ましい。
【0042】
<本発明の第二の実施形態>
さて、本発明の第一の実施形態では、先端側掘削部12の掘削部材12が3つ、円筒側掘削部13の掘削部材13が3つの必要最小限で構成したが、これに限らず、他の構成であっても構わない。
【0043】
例えば、本発明の第二の実施形態に係るドリルビット(なで肩型ドリルビットと称する)では、
図5に示すように、先端側掘削部12の掘削部材12は、ドリルビット本体10の頭部10aの先端平面の中心から放射状に均等に4つ配置されている。ここで、ドリルビット本体10の頭部10aの外周端領域12aの角部はR形状に構成され、先端側掘削部12の掘削部材12は、外周端領域12aのR形状の部分(ショルダー部分)(角部分)に配置されている。又、円筒側掘削部13の掘削部材13は、ドリルビット本体10の頭部10aの円筒側面の外周面に周方向に均等に4つ配置されている。
図5では、先端側掘削部12の掘削部材12と円筒側掘削部13の掘削部材13とは、それぞれ4つずつ配置しているが、ドリルビットの構成に応じて、4つ以上配置しても良い。
【0044】
ここで、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bが、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの直下の近傍に設けられ、円筒側掘削部13の掘削部材13の平面層13bの先端13b1が、ドリルビット本体10の頭部10aの平面視で、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの先端12b1よりも、所定の距離dだけ外部に突出している。
【0045】
ここで、本発明の第二の実施形態では、更に複数の掘削部材11をドリルビット本体10の頭部10aの先端平面や円筒側面に配置しているが、各位置における掘削部材11の掘削役割を明確化し、掘削負荷を分散させるために、下記のような構成を採用している。
【0046】
例えば、複数の掘削部材11、12が、ドリルビット本体10の頭部10aの先端平面に設けられる場合、ドリルビット本体10の頭部10aが回転すると、複数の掘削部材11、12の平面層のそれぞれが、ドリルビット本体10の頭部10aの半径方向に部分的に重なって、複数の掘削部材11、12の平面層がドリルビット本体10の頭部10aの先端平面の全体を覆うように構成されている。これにより、ドリルビット本体10の頭部10aの回転により、複数の掘削部材11、12の平面層が岩石に満遍なく衝突させることが可能となり、特定の位置の掘削部材11、12に掘削負荷が集中することを回避することが可能となる。
【0047】
又、複数の掘削部材11、12、13の数は、ドリルビット本体10の頭部10aの半径方向に行くに従い、増加するように構成されている。これにより、ドリルビット本体10の頭部10aの半径方向に行く程、ドリルビット本体10の頭部10aの回転速度(周速)は速くなるものの、ドリルビット本体10の頭部10aの半径方向に行くに従い、複数の掘削部材11、12、13の数が増加するため、ドリルビット本体10の頭部10aの半径方向の特定の位置における複数の掘削部材11、12、13の掘削負荷を分散させることが可能となる。これにより、特定の位置における複数の掘削部材11、12、13の平面層が岩石に満遍なく衝突させることが可能となり、特定の位置の掘削部材11、12、13に掘削負荷が集中することを回避することが可能となる。
【0048】
又、掘削部材11、12、13の平面層の先端の高さは、ドリルビット本体10の頭部10aの中心に行くに従い、低くなるように構成されている。例えば、ドリルビット本体10の頭部10aの平面の中央領域に設けられる第一の掘削部材11aの平面層11a1の先端11a2は、ドリルビット本体10の頭部10aの中心に近い第二の掘削部材11bの平面層11b1の先端11b2よりも、所定の高さhだけ高く構成されている。つまり、中心側の第二の掘削部材11bの平面層11b1の先端11b2は、外周端部側の第一の掘削部材11aの平面層11a1の先端11a2よりも低く構成されている。これにより、ドリルビット10の頭部10aを回転させながら、岩石Rに衝突させると、第一の掘削部材11aの平面層11a1が、先ず、岩石Rを破壊し、次に、第二の掘削部材11bの平面層11b1が、第一の掘削部材11aが掘削した掘削部分の次の部分(ドリルビット10の頭部10aの中央領域に近い部分)を順次掘削する。このように、ドリルビット本体10の頭部10aの平面に配置される複数の掘削部材11の平面層の先端を、ドリルビット本体10の頭部10aの中心に行くに従い、段階的に低くすることで(ドリルビット本体10の頭部10aの外周に近づくに従って、段階的に高くすることで)、位置における掘削部材11の掘削役割を明確化し、掘削負荷を分散させることが出来るのである。
【0049】
ここで、第一の掘削部材11aと第二の掘削部材11bの配置に特に限定は無いが、例えば、
図5に示すように、平面視において、先端側掘削部12の掘削部材12と、円筒側掘削部13の掘削部材13との配置で構成される延長線上に沿って設けられている。又、円筒側掘削部13の掘削部材13の下方の延長線上には、平面層の先端が、当該掘削部材13の平面層13bの先端13b1よりも所定の距離だけ外部に突出する他の掘削部材が設けられている。
【0050】
又、他の構成として、本発明の第二の実施形態に係るドリルビット(いかり肩型ドリルビットと称する)では、
図6に示すように、第一の掘削部材11aの平面層11a1の先端11a2は、第二の掘削部材11bの平面層11b1の先端11b2よりも所定の高さhだけ高く構成され、更に、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bの先端12b1が、第一の掘削部材11aの平面層11a1の先端11a2よりも所定の高さiだけ高く構成されている。このように、ドリルビット本体10の頭部10aの半径方向に沿って配置された掘削部材の平面層の先端を、ドリルビット本体10の頭部10aの中心に行くに従い、段階的に低くすることで(ドリルビット本体10の頭部10aの外周に近づくに従って、段階的に高くすることで)、更に、掘削負荷を分散させることが出来る。
【0051】
ここで、先端側掘削部の掘削部材12の平面層12bは、円筒側掘削部の掘削部材13の平面層13bの直上の近傍に設けられているが、ここでも、ドリルビット本体10の頭部10aの外周端部12aはR形状に構成され、先端側掘削部の掘削部材12以外の第三の掘削部材11cは、先端側掘削部の掘削部材12が設けられる位置以外で、外周端部12aのR形状の部分に配置されている。このように、外周端部12aのR形状の部分に設けられる掘削部材は、先端側掘削部の掘削部材12以外に設けても構わない。
【0052】
尚、
図5、
図6に示す本発明の第二の実施形態には、適宜、排出孔や排出溝が設けられる。排出孔や排出溝は、岩石の破砕後の砂利や石を外部に排出させるために設けられるものであり、排出孔の数や孔径、排出溝の数や幅、深さは、例えば、砂利や石が排出される流量や方向を加味して、ドリルビット本体10の頭部10aに適宜設けられる。
【0053】
又、ドリルビット本体10の頭部10aの形状について、本発明の第一の実施形態では、円筒状であったが、本発明の第二の実施形態のなで肩型ドリルビットのように、外周端部領域12aのショルダー部分を丸くした半球状に構成しても良いし、本発明の第二の実施形態のいかり肩型ドリルビットのように、外周端部領域12aのショルダー部分を丸くするとともに、ドリルビット本体10の頭部10aの中心を低くして窪ませた形状に構成しても構わない。
【0054】
ここで、本発明の第二の実施形態について、更に、他の構成に変更しても良い。例えば、円筒側掘削部の掘削部材13をボタンビット(超硬合金ボタン)に構成して、超硬合金ボタンが、ドリルビット本体10の回転と同時に岩石Rに打撃を与えることで、軸ブレを防止しても良い。又、円筒側掘削部の掘削部材13とは別に、頭部10aの円筒側面に超硬合金ボタンを設けて、軸ブレを防止しても良い。超硬合金ボタンの数に特に限定は無く、適宜設計される。又、超硬合金ボタンの設置位置に特に限定は無く、例えば、円筒側掘削部の掘削部材13の位置と同様の位置や頭部10aの回転軸に沿った位置を挙げることが出来る。
【0055】
又、例えば、頭部10aの円筒側面に、頭部10aの回転軸に沿った長尺状の超硬合金ガイドパッドを設けて、軸ブレを防止しても良い。超硬合金ガイドパッドの数に特に限定は無く、適宜設計される。又、超硬合金ガイドパッドの設置位置に特に限定は無く、例えば、頭部10aの円筒側面の下方位置を挙げることが出来る。
【0056】
又、複数の掘削部材11、12、13について、平面層の角部を丸くして、エッジ部にR面を形成することで、掘削時の割れを防止しても良い。
【0057】
又、頭部10aの先端平面の外周端部領域12aのショルダー部分の回転速度は極めて速いため、回転速度の増加に伴って、掘削部材11、12が必要となる。そのため、外周端部領域12aのショルダー部分に設けられる掘削部材11、12は、他の部分と比較して数を増加するように構成しても良い。
【0058】
又、頭部10aの先端平面の中心付近の回転速度はほぼ0になることから、中心付近に設けられた掘削部材11の掘削は、非常に不利に働く。そこで、中心付近の掘削部材11について、平面層の角部を丸くしたり、中心付近に補助的に超硬合金ボタンを設けたりすることで、掘削時の割れを防止しても良い。
【0059】
又、掘削時の頭部10aの高温加熱に対応するために、頭部10aに清水を補給するように構成しても良い。又、頭部10aの回転の際に、頭部10aの動バランスを調整するために、頭部10aの円筒側面に重りを適宜設けたり穴を適宜設けたりして、軸ブレを防止するように構成しても良い。
【実施例】
【0060】
以下、実施例、比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0061】
<ドリルビットの評価方法、評価結果>
図1~
図3に示すドリルビット1を試作品として作成した。ここで、
図7に示すように、先端側掘削部12における掘削部材12の平面層12bの第一の傾斜角度αを0度としたドリルビットを比較例1とし、第一の傾斜角度αを20度としたドリルビットを実施例1とし、第一の傾斜角度αを40度にしたドリルビットを実施例2とした。ここで、ドリルビット本体10の円筒の直径を61.00mmとし、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bと円筒側掘削部13における掘削部材13の平面層13bの直径を、それぞれ13.44mmとし、第二の傾斜角度βを70度にした。又、所定の距離dは、1.41mmに設定した。
【0062】
この試作品を市販の大型穴明機の回転接続部に接続し、回転数を100rpm、260rpm、360rpmのそれぞれに設定した。又、掘削対象岩石は、花崗岩を含む硬岩を対象とした。岩石に市販の小型圧縮型ロードセルを設置して、ドリルビットが岩石に衝突して掘削した際に、このロードセルからスラスト(最大押付力)(N)を測定した。又、掘削開始から掘削完了までの掘削時間を測定し、スラスト(N)と掘削時間(sec)とを乗算した力積(N・sec=1/1000KN・sec)を算出し、掘削負担を確認した。又、掘削距離(m)を掘削時間(sec)で除算した掘削速度(m/sec)を算出し、力積(N・s)と掘削速度(m/sec)とを乗算した掘削時のエネルギー(J)を算出し、更に、掘削エネルギー負担を確認した。
【0063】
図8Aには、実施例1-2における各回転数毎の力積の評価結果を示す。ここで、比較例1では、第一の傾斜角度αが0であるため、そもそも先端側掘削部12の掘削部材12としての掘削能力が無く、岩石の掘削が上手く行かず、掘削を断念した。一方、
図8Aに示すように、実施例1-2では、回転数が100rpmから360rpmまで高くなる程、力積が低くなり、掘削負担が軽減されていることが理解される。更に、実施例2では、いずれの回転数であっても、著しく力積が低くなり、更に、掘削負担が低減されたことが分かった。
【0064】
図8Bには、実施例1-2における各回転数毎のエネルギーの評価結果を示す。
図8Bに示すように、実施例1-2では、回転数が100rpmから360rpmまで高くなる程、エネルギーが低くなり、掘削負担が軽減されていることが理解される。更に、実施例2では、実施例1と比較して、いずれの回転数であっても、低いエネルギーを示しており、掘削負荷の分散が上手く行ったことが分かった。
【0065】
図9には、実施例2の掘削後の岩石の掘削穴の写真を示す。
図9に示すように、掘削穴の底面には、約0.5mmの段差が出来ている。これは、正に、円筒側掘削部13における掘削部材13の平面層13bの先端13b1が、先端側掘削部12における掘削部材12の平面層12bの先端12b1よりも所定の距離dだけ突出して出っ張っていたからである。尚、実施例1-2では、掘削時にドリルビットの頭部を回転し続けても、頭部の外周側面の軸ブレが生じなかった。これも、円筒側掘削部13における掘削部材13の平面層13bの掘削が、ドリルビット全体の掘削の安定に寄与していると考えられる。
【0066】
次に、上述した試作品について、第一の傾斜角度αを変更したドリルビット1を作成した。
図10に示すように、第一の傾斜角度αを40度にしたドリルビットの実施例2に対して、第一の傾斜角度αを50度としたドリルビットを実施例3とし、第一の傾斜角度αを30度にしたドリルビットを実施例4とした。ここで、ドリルビット本体10の円筒の直径と、先端側掘削部12の掘削部材12の平面層12bと円筒側掘削部13における掘削部材13の平面層13bの直径と、第二の傾斜角度βと、所定の距離dとは、上述と同様である。
【0067】
実施例2-4の試作品を大型穴明機の回転接続部に接続し、回転数を100rpm、260rpm、360rpmのそれぞれに設定し、掘削対象岩石を、花崗岩を含む岩石に設定し、上述と同様に、スラスト(最大押付力)(N)と、掘削時間(sec)と、掘削速度(m/sec)とを測定し、これらの測定値から、力積(N・sec=1/1000KN・sec))と、掘削時のエネルギー(J)とを算出した。
【0068】
図11Aには、実施例1-4における各第一の傾斜角度α毎の力積の評価結果を示す。
図11Aに示すように、第一の傾斜角度αが、20度~45度の範囲内である場合、回転数が100rpmから260rpm、360rpmと増加する程、力積が低下し、掘削負担が軽減されていることが理解される。
【0069】
図11Bには、実施例1-4における各第一の傾斜角度α毎のエネルギーの評価結果を示す。
図11Bに示すように、第一の傾斜角度αが、20度~45度の範囲内である場合、回転数が100rpmから260rpm、360rpmと増加する程、エネルギーが低下し、掘削負荷の分散が進んでいることが理解される。
【0070】
次に、
図5、
図6に示すドリルビット1を、スケールアップした試作品として作成した。ここで、
図12A、
図12Bには、
図5で示すなで肩型ドリルビットを3D-CADで構成し、実施例5とした。なで肩型ドリルビット1では、上述のように、先端側掘削部の掘削部材12が、頭部10aの先端平面の中心から放射状に均等に4つ配置され、円筒側掘削部の掘削部材13が、頭部10aの円筒側面の外周面に周方向に均等に4つ配置され、先端側掘削部の掘削部材12の直下に設けられている。先端側掘削部の掘削部材12から、頭部10aの先端平面の中心に向かって、第一の掘削部材11aと第二の掘削部材11bとが設けられる。頭部10aの直径は、150mmであり、頭部10aの長さは、約270mmであり、掘削部材の数は29個である。
【0071】
その他の掘削部材11は、頭部10aが回転すると、複数の掘削部材11、12、13の平面層のそれぞれが、頭部10aの半径方向に部分的に重なって、複数の掘削部材11、12、13の平面層が頭部10aの先端平面の全体を覆うように構成されている。又、複数の掘削部材11、12が、頭部10aの先端平面に設けられる場合、複数の掘削部材11、12の数は、頭部10aの半径方向に行くに従い、増加するように構成されている。又、円筒側掘削部の掘削部材13の直下にも、掘削部材11が設けられている。
【0072】
又、
図13A、
図13Bには、
図6に示すいかり肩型ドリルビットを3D-CADで構成し、実施例6とした。いかり肩型ドリルビット1では、上述のなで肩型ドリルビット1と同様に、先端側掘削部の掘削部材12と、円筒側掘削部の掘削部材13とが設けられる。その他に、複数の掘削部材11も設けられ、頭部10aの先端平面に設けられる複数の掘削部材11、12では、掘削部材11、12の平面層の先端の高さは、頭部10aの中心に行くに従い、低くなるように構成されている。又、円筒側掘削部の掘削部材13の直下にも、掘削部材11が設けられている。
【0073】
図14Aに示すように、この試作品を陸上掘削試験場へ搬送し、
図14Bに示すように、この試験品を市販の大型穴明機の回転接続部に接続し、回転数を60rpm、120rpm、180rpmのそれぞれに設定した。又、掘削対象岩石は、600mm×600mm×600mmの花崗岩(御影石)の岩石を対象とした。掘削条件は、回転数60rpmで下穴を100mm~150mmの深さまで掘削した後に、約500mmの深さまで本掘削を連続して行った。掘削深さが進行すると、回転数を増加させるとともに、スラスト(kgf)を増加させた上で、各回転数毎に掘削時間(min)を測定し、掘削速度(cm/min)を測定した。回転数が60rpmの時は、スラストは1,800kgf~1,900kgfとし、回転数が120rpmの時は、スラストは2,700kgf~3,000kgfとし、回転数が180rpmの時は、スラストは3,500kgf~3,600kgfとした。
【0074】
図15には、実施例5-6における各回転数毎の掘削速度の評価結果を示す。
図15に示すように、実施例5-6では、回転数が増加する程、掘削速度が増加し、掘削負荷が軽減された結果、掘削効率が向上していることが理解される。ここで、実施例5-6では、回転数が120pmになると、掘削速度が4cm/minを超えている。一方、ドリルビットの硬岩用の要求特性として、回転数が60rpm~120rpmで掘削速度が約4cm/minと考えられている。従って、実施例5-6の掘削速度は、驚くべきことに、回転数が120pmになると、硬岩用の要求特性の掘削速度よりも著しく向上しており、実施例5-6の掘削効率は、硬岩用の要求特性を十分満たしていることが分かった。
【0075】
このように、各位置における掘削部材11の掘削役割を明確化し、掘削負荷を分散させることで、ドリルビット1全体の掘削効率が向上したことが分かった。又、力積やエネルギーの低下具合から、ドリルビット1の長寿命化にもつながると確信している。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上のように、本発明に係るドリルビットは、海底探索はもちろん、鉱業、石油、ガス、建設、温泉掘削等のドリルビットに有用であり、各位置における掘削部材の掘削役割を明確化し、掘削負荷を分散させることで、ドリルビット全体の掘削効率の向上とドリルビットの長寿命化とを図ることが可能なドリルビットとして有効である。
【符号の説明】
【0077】
1 ドリルビット
10 ドリルビット本体
11 掘削部材
12 先端側掘削部
13 円筒側掘削部
【要約】 (修正有)
【課題】掘削効率の向上とドリルビットの長寿命化とを図ること
【解決手段】先端側掘削部12は、外周端部領域12aに設けられ、面層12bの面を、外周端部領域の面F1と直角な垂線P1に対して、ドリルビット本体10の回転方向と逆方向に第一の傾斜角度αで傾斜された掘削部材12で構成されている。円筒側掘削部13は、上端部領域13aに設けられ、面層13bの面を、上端部領域の面と直角な垂線に対して、ドリルビット本体の回転方向と逆方向に第二の傾斜角度βで傾斜された掘削部材13で構成されている。円筒側掘削部の掘削部材の面層13bが、先端側掘削部の掘削部材の面層12bの近傍に設けられ、円筒側掘削部の掘削部材の面層13bの先端が、ドリルビット本体10の頭部10aの平面視で、先端側掘削部の掘削部材の面層12bの先端よりも、所定の距離だけ外部に突出している。
【選択図】
図2