(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】放射線検出器、放射線検出器の製造方法および装置、並びにシンチレータパネル、シンチレータパネルの製造方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20220721BHJP
G21K 4/00 20060101ALI20220721BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
G01T1/20 B
G21K4/00 A
G01T1/20 L
G01T1/20 E
G01T1/20 G
G01T1/20 D
C23C14/24 C
C23C14/24 U
(21)【出願番号】P 2018165281
(22)【出願日】2018-09-04
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 篤也
(72)【発明者】
【氏名】堀内 弘
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-051793(JP,A)
【文献】特開昭62-235600(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150576(WO,A1)
【文献】特開2009-084471(JP,A)
【文献】特開2007-114134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
G21K 4/00
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換基板と、
前記光電変換基板上に真空蒸着法により
柱状結晶の構造に形成され、主材料とドープ材を含むシンチレータ層と、
前記シンチレータ層の表面側に、前記シンチレータ層の表面形状に沿って形成された反射層または防湿層と、
を備えた放射線検出器において、
前記シンチレータ層は、前記光電変換基板上に形成された前記主材料と前記ドープ材の混合層部と、この混合層部の表面側に形成された前記ドープ材のみのドープ材層部とを有し、
少なくとも前記ドープ材層部の表面は、凹凸形状に形成され
、この凹凸の周期が前記柱状結晶の周期よりも小さい
ことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
真空中で、光電変換基板と主材料を収納した第1の蒸発源およびドープ材を収納した第2の蒸発源とを対向させ、これら第1の蒸発源および第2の蒸発源を第1の加熱部および第2の加熱部で加熱する真空蒸着法により、前記光電変換基板上にシンチレータ層を形成する放射線検出器の製造方法において、
前記第1の蒸発源の温度を測定する温度測定工程と、
測定された前記第1の蒸発源の温度に基づいて前記第1の加熱部に供給する電力を制御する電力制御工程と、
前記第1の加熱部に供給する電力の直近短時間τ
1における短時間移動平均をP(τ
1)、直近短時間τ
1よりも長い直近長時間τ
2における長時間移動平均をP(τ
2)、係数をK(0<K≦1)とし、P(τ
1)>K・P(τ
2)の関係からP(τ
1)≦K・P(τ
2)の関係に移行したことを判定する蒸着終了判定工程と、
P(τ
1)≦K・P(τ
2)の関係に移行としたところで、前記第2の蒸発源からの蒸着を停止させる蒸着停止制御工程と
を具備することを特徴とする放射線検出器の製造方法。
【請求項3】
真空中で、光電変換基板と主材料を収納した第1の蒸発源およびドープ材を収納した第2の蒸発源とを対向させ、これら第1の蒸発源および第2の蒸発源を第1の加熱部および第2の加熱部で加熱する真空蒸着法により、前記光電変換基板上にシンチレータ層を形成する放射線検出器の製造装置において、
前記第1の蒸発源の温度を測定する温度測定部と、
測定された前記第1の蒸発源の温度に基づいて前記第1の加熱部に供給する電力を制御する電力制御部と、
前記第1の加熱部に供給する電力の直近短時間τ
1における短時間移動平均をP(τ
1)、直近短時間τ
1よりも長い直近長時間τ
2における長時間移動平均をP(τ
2)、係数をK(0<K≦1)とし、P(τ
1)>K・P(τ
2)の関係からP(τ
1)≦K・P(τ
2)の関係に移行したことを判定する蒸着終了判定部と、
P(τ
1)≦K・P(τ
2)の関係に移行したことが判定されることで、前記第2の蒸発源からの蒸着を停止させる蒸着停止制御部と
を具備することを特徴とする放射線検出器の製造装置。
【請求項4】
放射線が透過する基板と、
前記基板上に真空蒸着法により
柱状結晶の構造に形成され、主材料とドープ材を含むシンチレータ層と、
前記シンチレータ層の表面側に、前記シンチレータ層の表面形状に沿って形成された防湿層と、
を備えたシンチレータパネルにおいて、
前記シンチレータ層は、前記基板上に形成された前記主材料と前記ドープ材の混合層部と、この混合層部の表面側に形成された前記ドープ材のみのドープ材層部とを有し、
少なくとも前記ドープ材層部の表面は、凹凸形状に形成され
、この凹凸の周期が前記柱状結晶の周期よりも小さい
ことを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項5】
真空中で、放射線が透過する基板と主材料を収納した第1の蒸発源およびドープ材を収納した第2の蒸発源とを対向させ、これら第1の蒸発源および第2の蒸発源を第1の加熱部および第2の加熱部で加熱する真空蒸着法により、前記基板上にシンチレータ層を形成するシンチレータパネルの製造方法において、
前記第1の蒸発源の温度を測定する温度測定工程と、
測定された前記第1の蒸発源の温度に基づいて前記第1の加熱部に供給する電力を制御する電力制御工程と、
前記第1の加熱部に供給する電力の直近短時間τ
1における短時間移動平均をP(τ
1)、直近短時間τ
1よりも長い直近長時間τ
2における長時間移動平均をP(τ
2)、係数をK(0<K≦1)とし、P(τ
1)>K・P(τ
2)の関係から、P(τ
1)≦K・P(τ
2)の関係に移行したことを判定する蒸着終了判定工程と、
P(τ
1)≦K・P(τ
2)の関係に移行としたところで、前記第2の蒸発源からの蒸着を停止させる蒸着停止制御工程と
を具備することを特徴とするシンチレータパネルの製造方法。
【請求項6】
真空中で、放射線が透過する基板と主材料を収納した第1の蒸発源およびドープ材を収納した第2の蒸発源とを対向させ、これら第1の蒸発源および第2の蒸発源を第1の加熱部および第2の加熱部で加熱する真空蒸着法により、前記基板上にシンチレータ層を形成するシンチレータパネルの製造装置において、
前記第1の蒸発源の温度を測定する温度測定部と、
測定された前記第1の蒸発源の温度に基づいて前記第1の加熱部に供給する電力を制御する電力制御部と、
前記第1の加熱部に供給する電力の直近短時間τ
1における短時間移動平均をP(τ
1)、直近短時間τ
1よりも長い直近長時間τ
2における長時間移動平均をP(τ
2)、係数をK(0<K≦1)とし、P(τ
1)>K・P(τ
2)の関係からP(τ
1)≦K・P(τ
2)の関係に移行したことを判定する蒸着終了判定部と、
P(τ
1)≦K・P(τ
2)の関係に移行したことが判定されることで、前記第2の蒸発源からの蒸着を停止させる蒸着停止制御部と
を具備することを特徴とするシンチレータパネルの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線を検出する放射線検出器、放射線検出器の製造方法および装置、並びにシンチレータパネル、シンチレータパネルの製造方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出器やシンチレータパネルが備える例えばタリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI/Tl)のシンチレータ層を形成するには、主材料としてのヨウ化セシウム(CsI)とドープ材としてのヨウ化タリウム(TlI)の2元蒸着法が有効である。なお、アニオン元素をそろえるために、タリウム(Tl)はヨウ化物であるヨウ化タリウム(TlI)としてドープされる。
【0003】
Tl濃度(TlI濃度)を調整することにより、MTF特性向上、放射線による感度劣化抑制、およびゴースト特性の改善など、シンチレータ層の特性を調整することが知られている。
【0004】
そして、シンチレータ層の表面側には、放射線の入射によりシンチレータ層によって変換された蛍光を例えば光電変換基板の方向に反射させる反射層、または空気中に含まれる水蒸気などからシンチレータ層を保護する防湿層が、シンチレータ層の表面形状に沿って形成される。シンチレータ層と反射層または防湿層との膜剥がれを抑制するには、シンチレータ層と反射層または防湿層との付着力が高いことが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シンチレータ層と反射層または防湿層との付着力を向上できる放射線検出器、放射線検出器の製造方法および装置、並びにシンチレータパネル、シンチレータパネルの製造方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の放射線検出器は、光電変換基板と、光電変換基板上に真空蒸着法により柱状結晶の構造に形成され、主材料とドープ材を含むシンチレータ層と、シンチレータ層の表面側に、シンチレータ層の表面形状に沿って形成された反射層または防湿層とを備える。シンチレータ層は、光電変換基板上に形成された主材料とドープ材の混合層部と、混合層部の表面側に形成されたドープ材のみのドープ材層部とを有する。少なくともドープ材層部の表面は、凹凸形状に形成され、この凹凸の周期が前記柱状結晶の周期よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態を示す放射線検出器の模式断面図である。
【
図2】同上放射線検出器の製造装置の模式構成図である。
【
図3】同上製造装置の電力および温度の時間変化を表すグラフである。
【
図4】同上製造装置の電力および温度の時間変化を表すグラフである。
【
図5】第2の実施形態を示すシンチレータパネルの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、第1の実施形態を、
図1ないし
図4を参照して説明する。
【0010】
【0011】
放射線検出器10は、放射線画像であるX線画像を検出するX線平面検出器である。放射線検出器10は、例えば、一般医療用途などに用いることができる。ただし、放射線検出器10の用途は、一般医療用途に限定されるわけではない。
【0012】
放射線検出器10は、光電変換基板11、この光電変換基板11上に形成されたシンチレータ層12、このシンチレータ層12上に形成された反射層13、およびシンチレータ層12および反射層13を覆う防湿体14などを備えている。
【0013】
光電変換基板11は、基板15上に画素を構成するフォトダイオードなどの複数の光電変換素子16がマトリクス状に形成されている。光源変換素子16により、シンチレータ層12から入射する蛍光を電気信号に変換して出力する。
【0014】
シンチレータ層12は、タリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI/Tl)によって形成されている。シンチレータ層12は、真空蒸着法で、主材料であるヨウ化セシウム(CsI)とドープ材であるヨウ化タリウム(TlI)を含み、柱状に堆積されて成膜されている。すなわち、シンチレータ層12は、光電変換基板11の面方向に複数の短冊状の柱状結晶17が形成された柱状結晶構造に形成されている。そして、シンチレータ層12は、防湿体14側から入射する放射線を蛍光に変換する。
【0015】
シンチレータ層12は、光電変換基板11上に形成された主材料であるヨウ化セシウムとドープ材であるヨウ化タリウムで構成される混合層部12aと、この混合層部12aの表面側に形成されたドープ材であるヨウ化タリウムのみのドープ材層部12bとを有している。そして、混合層部12aの表面は主材料であるヨウ化セシウムとドープ材であるヨウ化タリウムが混ざり合って滑らかな形状であるのに対して、ドープ材層部12bの表面はドープ材であるヨウ化タリウムの結晶粒によって微細な凹凸が生じている形状に形成されている。つまり、ドープ材層部12bの表面は、混合層部12aの表面よりも凹凸形状の粗面に形成されている。
【0016】
反射層13は、シンチレータ層12の表面側に、シンチレータ層12の表面形状に沿って形成されている。つまり、反射層13は、シンチレータ層12のドープ材層部12bの表面に付着されている。反射層13は、シンチレータ層12で変換された蛍光を光電変換基板11へ向けて反射させる。
【0017】
防湿体14は、空気中に含まれる水蒸気により、シンチレータ層12や反射層13の特性が劣化するのを抑制するために設けられる。防湿体14は、ハット形状を呈し、例えば、アルミニウム合金などから形成されている。防湿体14の周辺の鍔部14aが接合層18を介して光電変換基板11に接合されている。
【0018】
次に、
図2に、放射線検出器10のシンチレータ層12を形成する製造装置20の模式構成図を示す。
【0019】
製造装置20は、蒸着装置21および制御装置22を備え、これら蒸着装置21と制御装置22とが電源用や信号用の各種のケーブル23で接続されている。
【0020】
蒸着装置21は、真空槽24を有している。この真空槽24内の上部側に、光電変換基板11が蒸着マスク25に装着された状態で配置される。蒸着マスク25は回転軸26に接続されている。回転軸26は、真空槽24に設けられる図示しない回転導入フランジを通じて大気中に設置された基板回転用モータ27に連結されている。なお、蒸着マスク25に装着された光電変換基板11を加熱する図示しない基板加熱部を備えている。
【0021】
真空槽24内の下部側には、光電変換基板11に対向するように、主材料を収納する第1のるつぼである第1の蒸発源28が配置されている。この第1の蒸発源28には、光電変換基板11の方向に主材料蒸気が噴出する煙突29が配置されている。第1の蒸発源28の周囲には、この第1の蒸発源28を加熱するヒータなどの第1の加熱部30が配置されている。第1の蒸発源28の上方には、光電変換基板11に主材料蒸気が到達するしないを制御する第1のシャッタ31が開閉可能に配置されている。さらに、第1の蒸発源28には、第1の蒸発源28の温度を測定する温度測定部(第1の温度測定部)32が配置されている。
【0022】
真空槽24内で第1の蒸発源28と光電変換基板11との間には、光電変換基板11に対向するように、ドープ材を収納する第2のるつぼである第2の蒸発源33が配置されている。この第2の蒸発源33も、上部からドープ材蒸気が噴出する構造となっている。第2の蒸発源33の周囲には、この第2の蒸発源33を加熱するヒータである第2の加熱部34が配置されている。第2の蒸発源33の上方には、光電変換基板11にドープ材蒸気が到達するしないを制御する第2のシャッタ35が開閉可能に配置されている。
【0023】
第2の蒸発源33は、第2の蒸発源33の質量を測定するためのひずみゲージ36に取り付けられている。ひずみゲージ36は、アルミニウムのブロックからなり、
図2上では、左端および右端にそれぞれ鉛直下方および鉛直上方にかかる力により生じるブロックのひずみを検知し、電圧信号として出力する機能を備えたものである。本実施形態では、ひずみゲージ36は、左端に第2の蒸発源33の全質量がかかるようにし、右端はテーブル37を介して真空槽24内に固定されており、結果的に、第2の蒸発源33の質量に応じてひずみゲージ36のひずみ量が変動するようになっている。さらに、第2の蒸発源33には、第2の蒸発源33の温度を測定する図示しない第2の温度測定部が配置されている。
【0024】
また、制御装置22は、第2の蒸発源33の質量を測定する質量計である質量測定部40、および製造装置20による製造工程を制御する制御部41などを備えている。なお、制御装置22は、基板回転用モータに駆動電力を供給したり各加熱部30,34に電力を供給する図示しない電源部を備えていてもよい。
【0025】
質量測定部40は、第2の蒸発源33の質量に応じたひずみゲージ36からの電圧信号を入力し、質量データに変換する。質量測定部40は、第2の蒸発源33の質量を測定し、質量値をリアルタイムで制御部41にBCD信号として転送する。
【0026】
制御部41には、質量測定部40以外からも、各蒸発源28,33の温度(温度測定部32からの温度情報を含む)、各加熱部30,34の電流および電圧、光電変換基板11の温度、各シャッタ31,35の開閉状態、真空槽24内の圧力、その他バルブの開閉状態など、蒸着装置21の駆動に関わる信号が取り込まれる。さらに、各加熱部30,34のオン・オフおよびオン時の電力、光電変換基板11の基板加熱部のオン・オフおよびオン時の電力、各シャッタ31,35の開閉、各バルブの開閉などを蒸着装置21の各機器に制御指令を出している。
【0027】
制御部41は、制御指令の元となるプログラムを記憶し、各種の機能を有している。そして、制御部41には次の機能が含まれる。
【0028】
温度測定部32で測定された第1の蒸発源28の温度に基づいて第1の加熱部30に供給する電力を制御する電力制御部42の機能。
【0029】
第1の加熱部30に供給する電力の直近短時間τ1における短時間移動平均をP(τ1)、直近短時間τ1よりも長い直近長時間τ2における長時間移動平均をP(τ2)、係数をK(0<K≦1)とし、P(τ1)>K・P(τ2)の関係からP(τ1)≦K・P(τ2)の関係に移行したこと、つまり蒸着終了を判定する蒸着終了判定部43の機能。
【0030】
P(τ1)≦K・P(τ2)の関係に移行したことが判定されることで、第2の蒸発源33からの蒸着を停止させる蒸着停止制御部44の機能。
【0031】
次に、シンチレータ層12の成膜工程について説明する。
【0032】
主材料とドープ材の2元蒸着を行う場合、蒸着終了プロセスの設計が重要である。つまり主材料とドープ材の光電変換基板11への供給を止めるタイミングを適切に制御する必要がある。
【0033】
蒸着終了の有力な手段として、1工程で全材料の蒸発を完了させる、いわゆる「飛ばし切り」の方法がある。この方式は、予め計量して各蒸発源28,33に仕込んだ全材料を蒸発に使うため、光電変換基板11に付着したシンチレータ層12の膜厚の再現性を良くする有効な方法である。このときは、全材料が無くなったときが蒸着終了ということになる。ただし、主材料とドープ材の両方を飛ばし切り方式にすることはできない。なぜならば、各蒸発源28,33に収納した主材料とドープ材を飛ばし切る時間差を、バッチ毎に所望の通りにすることは難しいからである。従って、一方を飛ばし切り、他方をシャッタ開閉で制御するというのが現実的な方法である。
【0034】
主材料の方を前述の飛ばしきりであるとして考えると、ドープ材の蒸着が終了するタイミングが主材料の蒸着終了に対して相対的に早すぎたとき、同時のとき、遅すぎたときで、それぞれ異なる不具合が起こることが考えられる。
【0035】
まず、早すぎたときは、主材料のみ蒸着される時間帯が生じる。このとき、シンチレータ層12の最表面にドープ材欠乏層が形成される。ドープ材欠乏層の存在は、シンチレータ層12の感度低下、および感度ゴーストの増大の可能性がある。
【0036】
同時のときは、特性的には問題ないが、柱状結晶17の最表面が円滑形状になる。これは、シンチレータ層12を構成する柱状結晶17の上に何も形成しなければ問題ないが、反射層13などを形成するときは膜剥がれの問題が生じやすくなる。これは、前述の早すぎたときも同じである。
【0037】
遅すぎたときは、多量のドープ材の層がシンチレータ層12の表面に形成され、これがシンチレータ層12で生じた発光を吸収するのでシンチレータ層12の感度が低下する。
【0038】
本実施形態の成膜工程では、ドープ材層部12bの膜厚を適切に設定する。
【0039】
本実施形態では、
図3および
図4を参照して第1の蒸発源28の加熱状態についても説明する。
図3および
図4の上段は、第1の蒸発源28の第1の加熱部30に加えられる電力の時間変化を表すグラフである。曲線Gは直近(最近)の短時間τ
1=1分間における短時間移動平均の値であり、曲線Jは直近(最近)の長時間τ
2=30分間における長時間移動平均の値であり、曲線Hは曲線Jに係数K=0.85を乗じた値である。これらの値は、蒸着工程の進行とともにリアルタイムで算出され、後述の蒸着終了の判定にいつでも使える状態になっている。また、
図3および
図4の下段は、第1の蒸発源28の温度の時間変化を表すグラフである。
【0040】
そして、第1の蒸発源28に主材料を収納し、第2の蒸発源33にドープ材を収納する。光電変換基板11を蒸着マスク25に取り付け、この蒸着マスク25を回転軸26に取り付ける。
【0041】
この状態で、真空槽24を閉じ、図示しない真空ポンプで真空槽24内の圧力を10
-3Paに減圧させる。減圧が終了したら、
図4における蒸着工程の第1段階に入る。第1段階は、真空槽24内の各部分の予備加熱を行う段階である。
【0042】
まず、基板回転用モータ27で光電変換基板11を回転させながら、図示しない基板加熱部で光電変換基板11を加熱する。同時に、第1の加熱部30および第2の加熱部34に電力を投入し、第1の蒸発源28および第2の蒸発源33の加熱を開始する。第1の蒸発源28の加熱に当たっては温度制御法を用いる。すなわち、第1段階では、第1の蒸発源28の温度を常温から例えば700℃まで120分かけて一定のレートで昇温させる制御を行う。このとき、
図3に示すように、短時間移動平均の曲線Gは激しく上下動する。なお、
図3および
図4では省略しているが、第2の蒸発源33も同様に温度制御を行っている。
【0043】
続いて、蒸着工程の第2段階では、第1の蒸発源28および第2の蒸発源33の温度がそれぞれ例えば700℃および410℃という所定の温度に到達したら、その温度を一定の温度に維持する。同時期に、各シャッタ31,35が開放され、各蒸発源28,33から主材料蒸気およびドープ材蒸気が光電変換基板11に向かって噴出し、光電変換基板11上にシンチレータ層12を構成する主材料とドープ材の混合層12aの蒸着が始まる。
【0044】
第2段階の間は、第1の蒸発源28の温度は700℃で一定と安定しているので、特に真空槽24内で変動要因もなく、第1の加熱部30に供給する電力もある値(例えば、4200W)で略一定となる。ただし、時々、温度のわずかな上下動に反応して、リップルgがみられる。もし、リップルgなどが原因で、短時間移動平均の曲線Gの値が一瞬でも曲線Hの値を下回ると、ソフトウェア上そこで蒸着終了と判断し、蒸着装置の誤動作につながる。そこで、Kの値を1以下の適切な値に設定することにより、リップルgが発生しても、曲線Gが決して曲線Hを下回ることはないようにした。例えば、今回はK=0.85に設定した。
【0045】
あるいは、第2段階を
図3中の区間Aと区間Bの2以上のステップに分け、まだ大きめのリップルgがみられたり、経験上、第1の蒸発源28の主材料が枯渇することがあり得ないと考えられたりする時間帯としての区間Aを設け、そこではリップルgが曲線Hを下回っても、蒸着終了と判断しないようにプログラムすることもできる。
【0046】
第2段階、あるいは第2段階の区間Bにおいて、第1の蒸発源28に収納された主材料が全量蒸発し、第1の蒸発源28の中の主材料が枯渇すると、今まで加熱電力のうち、主材料の蒸発熱に消費されていた分が第1の蒸発源28に残るので、
図4の区間Cに示すように、第1の蒸発源28の温度(曲線L)がわずかに上昇する。
【0047】
元々設定値700℃で一定温度制御していた第1の蒸発源28の温度が上昇すると、温度を元の値に戻そうとして、第1の加熱部30に供給する電力は急激に減少する。第1の加熱部30に供給する電力が急激に減少すると、短時間移動平均の曲線Gの値もそれに追随して速やかに減少する。しかし、長時間移動平均の曲線Jの値は急にはそれほど低下しない。結果的に、短時間移動平均の曲線Gの値が曲線Hの値を
図4の点Eで下回ることになる。
【0048】
このとき、制御部41の蒸着終了判定部43では、第1の加熱部30に供給する電力の直近短時間τ
1における短時間移動平均をP(τ
1)、直近短時間τ
1よりも長い直近長時間τ
2における長時間移動平均をP(τ
2)、係数をK(0<K≦1)とし、P(τ
1)>K・P(τ
2)の関係からP(τ
1)≦K・P(τ
2)の関係に移行したかどうかを監視している。そのため、蒸着終了判定部43は、
図4の点Eで、P(τ
1)>K・P(τ
2)の関係からP(τ
1)≦K・P(τ
2)の関係に移行したと判定し、つまり蒸着終了と判定する。
【0049】
制御部41の蒸着停止制御部44は、P(τ1)≦K・P(τ2)の関係に移行したことが判定されることで、第2の蒸発源33からの蒸着を停止させる。蒸着の停止は、光電変換基板11にドープ材蒸気が到達しないように第2のシャッタ35を閉じる。さらに、制御部41は、蒸着装置21の各加熱部30,34への電力の供給を停止し、冷却区間に全体の加熱を終了させる。
【0050】
また、区間Cの間は、主材料が枯渇し、ドープ材だけが蒸着され、シンチレータ層12の混合層部12aの表面側にドープ材層部12bが形成される。従って、区間Cの時間は、ドープ材層部12bの膜厚に比例する。この区間Cの長さは、長時間移動平均に乗じる係数Kの大きさ、および、短期移動平均の平均時間τ
1により変動する。Kが小さいほど、τ
1が大きいほど区間Cは長くなる。従って、これらの値の増減により、ドープ材層部12bの膜厚を適切に調整することができる。本実施形態では、τ
1=1分、K=0.85と設定することにより、
図1のように、ドープ材層部12bの膜厚を0.1~0.3μm程度に抑え、かつ、ドープ材層部12bの表面が混合層部12aの表面よりも凹凸形状に形成される。これ以上の厚膜は、ドープ材層部12bが光吸収層となり、特性の劣化を引き起こすことを見出した。
【0051】
なお、ドープ材層部12bの表面の凹凸の空間的周期は、シンチレータ層12の表面側の凹凸の空間的周期つまり複数の柱状結晶17の先端間の凹凸の空間的周期よりも十分小さくないと、反射層13の付着力を向上させる効果は小さい。そのため、ドープ材層部12bの表面の凹凸の空間的周期は、シンチレータ層12の表面側の凹凸の空間的周期つまり複数の柱状結晶17の先端間の凹凸の空間的周期の1/5以下となることが望ましい。例えば、シンチレータ層12の柱状結晶17の径が10μmである場合、ドープ材層部12bの凹凸の空間的周期は2μm以下となるため、ドープ材層部12bの表面側に形成される反射層13の付着力が向上する効果が得られる。
【0052】
また、第2段階が終了すると、冷却段階となる。冷却が終わったところで、真空槽24内にアルゴンガスを導入し、圧力が大気圧に戻ったら、光電変換基板11を取り出す。
【0053】
そして、真空蒸着工程を経た光電変換基板11は、シンチレータ層12の表面側に反射層13を塗布形成する。次に、防湿体14をシンチレータ層12と反射層13を包み込むように配置し、光電変換基板11と一体になるように、防湿体14の鍔部14aと光電変換基板11とを接合層18を介して接合する。
【0054】
上記で光電変換基板11を基板とする放射線検出器10が完成する。
【0055】
このように、放射線検出器10によれば、シンチレータ層12は、主材料とドープ材で構成される混合層部12aと、この混合層部12aの表面側に形成されたドープ材のみのドープ材層部12bとを有し、混合層部12aの表面は主材料とドープ材が混ざり合って滑らかな形状であるのに対して、ドープ材層部12bの表面はドープ材の結晶粒によって微細な凹凸が生じている形状に形成され、つまり、ドープ材層部12bの表面は、混合層部12aの表面よりも凹凸形状に形成されている。そのため、シンチレータ層12の表面側に形成される反射層13は、ドープ材層部12bの表面に形成され、シンチレータ層12に対する付着力を向上でき、膜剥がれを抑制することができる。
【0056】
さらに、放射線検出器10の製造方法および製造装置20によれば、第1の蒸発源28の温度を測定する温度測定工程と、温度測定部32で測定された第1の蒸発源28の温度に基づいて第1の加熱部30に供給する電力を制御する電力制御工程と、第1の加熱部30に供給する電力の直近短時間τ1における短時間移動平均をP(τ1)、直近短時間τ1よりも長い直近長時間τ2における長時間移動平均をP(τ2)、係数をK(0<K≦1)とし、P(τ1)>K・P(τ2)の関係からP(τ1)≦K・P(τ2)の関係に移行したこと、つまり蒸着終了を判定する蒸着終了判定工程と、P(τ1)≦K・P(τ2)の関係に移行したことが判定されることで、第2の蒸発源33からの蒸着を停止させる蒸着停止制御工程とを含むため、主材料とドープ材で構成される混合層部12aと、この混合層部12aの表面側に形成されたドープ材のみのドープ材層部12bとを有するシンチレータ層12を形成することができる。このように形成されたシンチレータ層12の表面側に反射層13を形成することにより、反射層13は、ドープ材層部12bの表面に形成され、シンチレータ層12に対する付着力を向上でき、シンチレータ層12との密着性を確保できる。
【0057】
そして、シンチレータ層12と反射層13との付着力が向上することにより、シンチレータ層12と反射層13との間に接着材などを介在させる必要がなく、コスト削減および、接着材での光散乱を防止し、解像度特性の向上に寄与することになる。
【0058】
なお、シンチレータ層12の表面側には、反射層13に代えて、防湿層をシンチレータ層12の表面形状に沿って形成してもよい。防湿層を形成した場合にも、防湿層は、ドープ材層部12bの表面に形成され、シンチレータ層12に対する付着力を向上でき、シンチレータ層12との密着性を確保できる。
【0059】
【0060】
第1の実施形態のシンチレータ層12の構造、製造方法および製造装置20は、シンチレータパネル50、およびこのシンチレータパネル50の製造にも適用できる。
【0061】
シンチレータパネル50は、放射線が透過する基板51、この基板51上に形成されたシンチレータ層12、およびこのシンチレータ層12を覆う防湿層52などを備えている。シンチレータ層12は、第1の実施形態と同じく、混合層部12aとドープ材層部12bを有している。
【0062】
防湿層52は、例えばポリパラキシリレンのCVD法によって形成されている。
【0063】
そして、基板51を蒸着マスク25に装着して真空槽24内に配置し、上述した真空蒸着法により、基板51上にシンチレータ層12を形成する。
【0064】
このように形成されたシンチレータパネル50は、防湿層52の表面側(基板51と反対側)に例えば光電変換基板を組み合わせて放射線検出器として構成される。シンチレータパネル50は、基板51側から入射する放射線をシンチレータ層12で蛍光に変換する。
【0065】
従って、シンチレータパネル50、およびこのシンチレータパネル50の製造方法および製造装置20においても、第1の実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0066】
なお、各実施形態のシンチレータ層12の材料としては、タリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI/Tl)、ユーロピウム賦活臭化セシウム(CsBr/Eu)、ナトリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI/Na)、タリウム賦活ヨウ化ナトリウム(NaI/Tl)などのいずれでもよい。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
10 放射線検出器
11 光電変換基板
12 シンチレータ層
12a 混合層部
12b ドープ材層部
13 反射層
17 柱状結晶
20 製造装置
28 第1の蒸発源
30 第1の加熱部
32 温度測定部
33 第2の蒸発源
34 第2の加熱部
42 電力制御部
43 蒸着終了判定部
44 蒸着停止制御部
50 シンチレータパネル
51 基板
52 防湿層