(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 299/00 20060101AFI20220721BHJP
C08F 8/14 20060101ALI20220721BHJP
C08F 8/30 20060101ALI20220721BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C08F299/00
C08F8/14
C08F8/30
B32B27/30 A
(21)【出願番号】P 2017192287
(22)【出願日】2017-09-30
【審査請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】小野 真司
(72)【発明者】
【氏名】内貴 英人
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-254127(JP,A)
【文献】特表2010-515098(JP,A)
【文献】特開2002-284829(JP,A)
【文献】特開2017-159576(JP,A)
【文献】国際公開第2004/079454(WO,A1)
【文献】特開昭63-225670(JP,A)
【文献】特開2010-275339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 299/00
C08F 290/00
C08F 220/28
C08F 20/32
C08F 8/14
C09D 7/40
B32B 27/30
C09D 133/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性基当量が650g/mol以上1200g/mol以下である多官能アクリル系ポリマー(A)及びラジカル重合性基当量が350g/mol以上600g/mol以下である多官能アクリル系ポリマー(B)を含み、
前記多官能アクリル系ポリマー(A)の含有量(固形分比率)はX~90重量%(ただし、X=[24.0/32.7]×100である。)であり、
前記多官能アクリル系ポリマー(B)の含有量(固形分比率)は5~20重量%である、
ことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
多官能アクリル系ポリマー(A)及び多官能アクリル系ポリマー(B)の重量平均分子量が、互いに同一又は異なって5000~50000である、
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
活性エネルギー線硬化性である、
請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに有機溶剤を含み、性状が液状である、
請求項1~3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに無機微粒子を含む、
請求項1~4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を含む塗膜を硬化してなる硬化膜。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化膜を含む積層体。
【請求項8】
請求項6に記載の硬化膜と樹脂含有成形物とが一体化してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品等の工業製品の内装又は外装には、その耐擦傷性(耐スクラッチ性)、意匠性等を高めるために表面コーティング技術が適用されている。従前は、コーティング技術として、塗装による方法のほか、予め印刷を施した水溶性フィルムを水面上に展開することでその印刷層を製品に転写する水圧転写工法等が採用されてきたが、近年ではフィルムをハードコート材として用い、これを別途に用意された樹脂組成物とともに一体的に成形するインサート成形等が広く用いられている。
【0003】
より具体的には、例えばインサート成形では、
図1に示すように、基材フィルム11上に機能層12(硬化膜(ハードコート層))が積層された積層フィルム10を金型の雄型21a及び雌型21bの間に配置した後(
図1(a))、溶融した樹脂13aを金型内に流し込んで射出成形する(
図1(b))。樹脂が硬化した後、必要に応じて基材フィルム11の不要部分を切除(トリミング)し、樹脂層13/基材フィルム11/機能層12からなる成形体30(製品)を金型から取り出す(
図1(c))。このようなインサート成形に用いられる上記機能層(硬化膜)としては、透明性、光沢性、耐擦傷性等に比較的優れているという点で、例えばポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂が汎用されている。
【0004】
この場合、
図1(b)のA部分に示すように、特に成形体30がその厚み方向に曲がる部位を有する場合、当該部位では機能層12が基材フィルム11に追従することが必要である。追従できない場合は、機能層12が経時的に基材フィルム11から剥離したり、機能層12にクラックが生じる等の問題が起こる。このため、機能層12は、基材フィルムに対する密着性に優れるとともに、高い延伸性等を有することが必要とされる。
【0005】
このような成形に適した硬化性組成物として種々の組成物が提案されている。例えば、特定の成分を反応させて得られるポリウレタン化合物(A)、化合物(A)以外のエチレン性不飽和化合物(B)、及び光重合開始剤(C)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物がある(特許文献1)。
【0006】
また例えば、少なくとも(A)1分子中に2個の水酸基と1個のラジカル重合性基を有する化合物と、(B)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物が連結された分子構造を有するラジカル重合性基含有ウレタンプレポリマーであって、(A)成分由来の側鎖ラジカル重合性基当量が1500g/mol以下であるラジカル重合性基含有ウレタンプレポリマーが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-275339
【文献】特開2012-72327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これら従来技術の硬化性組成物においても、基材フィルムとの追従性という点においてさらなる改善の余地が残されている。特に、特許文献1の硬化性組成物では、高架橋樹脂及び無機微粒子を比較的多く含有させる必要があるため、延伸性(伸度)が低くなるという問題がある。また、特許文献2の光硬化性組成物では、基材フィルムと化学構造的に相互作用する性質が低いため、基材フィルムとの密着性が損なわれるおそれがある。
【0009】
従って、本発明の主な目的は、特に基材フィルムに対する追従性に優れた硬化膜を形成できる硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成からなる樹脂組成物を採用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の硬化性樹脂組成物に係る。
1. ラジカル重合性基当量が650g/mol以上である多官能アクリル系ポリマー(A)及びラジカル重合性基当量が600g/mol以下である多官能アクリル系ポリマー(B)を含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
2. 多官能アクリル系ポリマー(A)と多官能アクリル系ポリマー(B)との重量割合が、両者の合計を100重量%として、アクリル系ポリマー(A)が40~90重量であり、多官能アクリル系ポリマー(B)が60~10重量%である、前記項1に記載の硬化性樹脂組成物。
3. 多官能アクリル系ポリマー(A)及び多官能アクリル系ポリマー(B)の重量平均分子量が、互いに同一又は異なって5000~50000である、前記項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
4. 活性エネルギー線硬化性である、前記項1~3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
5. さらに有機溶剤を含み、性状が液状である、前記項1~4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
6. 前記項1~5のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を含む塗膜を硬化してなる硬化膜。
7. 前記項6に記載の硬化膜を含む積層体。
8. 前記項6に記載の硬化膜と樹脂含有成形物とが一体化してなる成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特に基材フィルムに対する追従性に優れた硬化膜を形成できる硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0013】
特に、本発明組成物は、ラジカル重合性基当量が特定の範囲内で互いに異なる2種の多官能アクリル系ポリマーの組み合わせを採用しているので、優れた密着性、延伸性等とともに、高い耐擦傷性、透明性等を兼ね備えた硬化膜を得ることができる。このため、本発明組成物から得られる硬化膜と樹脂含有成形物とが一体化された成形品(製品)において、当該成形品が曲がるような部位(湾曲部、屈曲部等)を有していても、そのような曲がりに硬化膜は基材フィルム等とともに確実に追従することができるので、信頼性の高い製品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】インサート成形により積層体(成形体)を製造する工程例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.硬化性樹脂組成物
本発明の硬化性樹脂組成物(本発明組成物)は、ラジカル重合性基当量が650g/mol以上である多官能アクリル系ポリマー(A)及びラジカル重合性基当量が600g/mol以下である多官能アクリル系ポリマー(B)を含むことを特徴とする。
【0016】
(1)多官能アクリル系ポリマー(A)
多官能アクリル系ポリマー(A)は、多官能性であり、官能基を3個以上有する。各官能基は互いに同じものであっても良いし、互いに異なるものであっても良い。官能基としては、ラジカル重合性の官能基であれば特に限定されず、例えばビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。特に、高いUV硬化性等を発現できるという見地より、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の少なくとも1種が望ましく、特にアクリロイルオキシ基及びメタクリロイルオキシ基の少なくとも1種がより望ましい。
【0017】
なお、本発明では、以下において、特にことわりのない限り、アクリロイル基又はメタクリロイル基を「(メタ)アクリロイル基」と総称する。アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を「(メタ)アクリロイルオキシ基」と総称する。また、アクリレート又はメタクリレートを「(メタ)アクリレート」と総称し、アクリル酸又はメタクリル酸を「(メタ)アクリル酸」と総称する。
【0018】
多官能アクリル系ポリマー(A)は、上記のようなラジカル重合性基を有しており、そのラジカル重合性基当量が650g/mol以上であり、特に660~1200g/molであることが好ましく、その中でも670~1100g/molであることがより好ましい。ラジカル重合性基当量が650g/mol未満となる場合は、所望の延伸性等が得られなくなる。
【0019】
本発明において、ラジカル重合性基当量とは、ラジカル重合性基1モル当たりの分子量を示すものである。
【0020】
多官能アクリル系ポリマー(A)のラジカル重合性基当量(RA)は、公知の測定方法により測定することが可能である。例えば1H-NMRによる二重結合プロトンとプロトン全体のピーク比のほか、ヨウ素価滴定等により算出することができる。これらは、公知又は市販の測定装置を用いて実施することができる。
【0021】
また、多官能アクリル系ポリマー(A)の合成方法が特定できる場合は、使用するモノマーの分子量及び仕込み量に基づいて計算により求めることもできる。すなわち、ラジカル重合性基を与えるモノマーの分子量Mw(Z)及びその仕込み量Zを基準として算出することができる。例えば、後記の「合成品A-1」では、下記のようにして求めることができる。
RA=[(Mw(X)×X)/Z]+[(Mw(Y)×Y)/Z]+[(Mw(Z)]
(Mw(X)はメチルメタクリレートの分子量、Mw(Y)は2-ヒドロキシエチルメタクリレートの分子量、Mw(Z)は2-イソシアナトエチルアクリレートの分子量、X,Y,Zは仕込んだ化合物(メチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレート)の物質量比を示す。)この方法に従って計算すると、RA=[(100×0.429)/0.0574]+[(130×0.0715)/0.0574]+[141]=約1050となる。
【0022】
また、多官能アクリル系ポリマー(A)の重量平均分子量は、特に限定されないが、5000~50000の範囲とすることが好ましく、特に8000~20000の範囲とすることがより好ましい。このような範囲に設定することによって、より高い延伸性等を得ることができる。
【0023】
多官能アクリル系ポリマー(A)自体は、公知又は市販のものを使用することができるほか、公知の製造方法に従って合成することもできる。例えば、分子中に水酸基を有するアクリル系ポリマーA1に対して分子中にイソシアネート基及びラジカル重合性基を有する化合物A2を反応させることによって調製することができる。
【0024】
前記ポリマーA1は、例えば、水酸基を有しない(メタ)アクリレート系化合物A1aと、分子中に少なくとも1個の水酸基を有する(メタ)アクリレート系化合物A1bとを含む原料を液相中で反応させることによって好適に得ることができる。
【0025】
水酸基を有しない(メタ)アクリレート系化合物A1aとしては、特に単官能であることが好ましい。このような化合物としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
分子中に少なくとも1個の水酸基を有する(メタ)アクリレート系化合物A1bとしては、限定的ではなく、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
液相を構成する溶媒としては、原料と反応しないものであれば特に限定されず、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。
【0028】
上記原料中には、必要に応じて重合開始剤(光重合開始剤)、重合調整剤等の公知の添加剤を配合することもできる。
【0029】
重合開始剤としては、例えばジメチル-2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4-フェニルベンゾフェノン、t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、メチルベンゾイルホルメート、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-4-モルホリノブチロフェノン、2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン等が挙げられる。
【0030】
重合調整剤としては、例えば連鎖移動剤、pH緩衝剤等として知られている物質を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;n-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のメルカプタン類等が挙げられる。またpH緩衝剤としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0031】
液相中での反応条件としては、特に制限されないが、例えば反応温度は40~80℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。また、前記化合物A1aと前記化合物A1bとの配合割合は、限定的ではなく、例えばA1a:A1b=20モル%:80モル%~80モル%:20モル%程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0032】
このようにして得られたアクリル系ポリマーA1は、前記化合物A2と反応させることによって多官能アクリル系ポリマー(A)を得ることができる。
【0033】
前記化合物A2としては、分子中にイソシアネート基及びラジカル重合性基を有する化合物であれば限定されず、例えば2-イソシアナトエチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、特に分子中にイソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を好適に用いることができる。従って、前記化合物A2として、例えば2-イソシアナトエチルアクリレートを好適に用いることができる。
【0034】
液相中での反応条件としては、限定的ではないが、例えば反応温度は40~80℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。また、前記化合物A1と前記化合物A2との配合割合は、限定的ではなく、例えばA1:A2=25モル%:75モル%~5モル%:95モル%程度の範囲内において適宜設定することができる。
【0035】
本発明組成物中における多官能アクリル系ポリマー(A)の含有量(固形分比率)は、用いる多官能アクリル系ポリマー(A)の種類、得られる硬化膜の特性等に応じて適宜設定できるが、通常は30~90重量%程度とし、特に70~85重量%とすることが好ましく、その中でも75~83重量%とすることがより好ましい。
【0036】
(2)多官能アクリル系ポリマー(B)
多官能アクリル系ポリマー(B)は、多官能性であり、官能基を3個以上有する。各官能基は互いに同じものであっても良いし、互いに異なるものであっても良い。官能基としては、ラジカル重合性の官能基であれば特に限定されず、例えばビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。特に、高いUV硬化性等を発現できるという見地より、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基の少なくとも1種を有することが望ましく、特に (メタ)アクリロイルオキシ基を有することがより望ましい。
【0037】
多官能アクリル系ポリマー(B)は、上記のようなラジカル重合性基を有しており、そのラジカル重合性基当量が600g/mol以下であり、特に200~580g/molであることが好ましく、その中でも240~560g/molであることがより好ましい。多官能アクリル系ポリマー(B)のラジカル重合性基当量が600g/molを超える場合は、所望の耐擦傷性等が得られなくなる。
【0038】
多官能アクリル系ポリマー(B)のラジカル重合性基当量(RB)は、前記RAと同様、公知の測定方法により測定することが可能である。例えば1H-NMRによる二重結合プロトンとプロトン全体のピーク比のほか、ヨウ素価滴定等により算出することができる。また、多官能アクリル系ポリマー(B)の合成方法が特定できる場合は、使用するモノマーの分子量及び仕込み量に基づいて計算により求めることもできる。これも、多官能アクリル系ポリマー(A)の場合と同様にして算出することができる。
【0039】
また、多官能アクリル系ポリマー(B)の重量平均分子量は、特に限定されないが、5000~50000の範囲とすることが好ましく、特に8000~20000の範囲とすることがより好ましい。このような範囲に設定することによって、より高い延伸性等を得ることができる。
【0040】
多官能アクリル系ポリマー(B)自体は、公知又は市販のものを使用することができるほか、公知の製造方法に従って合成することもできる。例えば、分子中に水酸基を有するアクリル系ポリマーB1に対して分子中にイソシアネート基及びラジカル重合性基を有する化合物B2を反応させることによって調製することができる。
【0041】
前記ポリマーB1は、例えば、水酸基を有しない(メタ)アクリレート系化合物B1aと、分子中に少なくとも1個の水酸基を有する(メタ)アクリレート系化合物B1bとを含む原料を液相中で反応させることによって好適に得ることができる。
【0042】
水酸基を有しない(メタ)アクリレート系化合物B1aとしては、特に単官能であることが好ましい。このような化合物としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0043】
分子中に少なくとも1個の水酸基を有する(メタ)アクリレート系化合物B1bとしては、限定的ではなく、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
液相を構成する溶媒としては、原料と反応しないものであれば特に限定されず、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。
【0045】
上記原料中には、必要に応じて重合開始剤(光重合開始剤)、重合調整剤等の公知の添加剤を配合することもできる。これらは、多官能アクリル系ポリマー(A)の合成において先に列挙した物質をそれぞれ用いることができる。
【0046】
液相中での反応条件としては、特に制限されないが、例えば反応温度は40~80℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。また、前記化合物B1aと前記化合物B1bとの配合割合は、限定的ではなく、例えばB1a:B1b=20モル%:80モル%~80モル%:20モル%程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0047】
このようにして得られたアクリル系ポリマーB1は、前記化合物B2と反応させることによって多官能アクリル系ポリマー(B)を得ることができる。
【0048】
前記化合物B2としては、分子中にイソシアネート基及びラジカル重合性基を有する化合物であれば限定されず、例えば2-イソシアナトエチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、特に分子中にイソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を好適に用いることができる。従って、前記化合物B2として、例えば2-イソシアナトエチルアクリレートを好適に用いることができる。
【0049】
液相中での反応条件としては、限定的ではないが、例えば反応温度は40~80℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。また、前記化合物B1と前記化合物B2との配合割合は、限定的ではなく、例えばB1:B2=25モル%:75モル%~1モル%:99モル%程度の範囲内において適宜設定することができる。
【0050】
本発明組成物中における多官能アクリル系ポリマー(B)の含有量(固形分比率)は、用いる多官能アクリル系ポリマー(B)の種類、得られる硬化膜の特性等に応じて適宜設定できるが、通常は5~55重量%程度とし、特に8~50重量%とすることが好ましく、その中でも10~20重量%とすることがより好ましい。
【0051】
また、多官能アクリル系ポリマー(A)と多官能アクリル系ポリマー(B)との重量割合が、両者の合計を100重量%として、アクリル系ポリマー(A)が40~90重量%であり、多官能アクリル系ポリマー(B)が60~10重量%であることが好ましい。
【0052】
(3)任意成分
本発明組成物としては、本発明の効果を妨げない範囲内で、任意成分として公知のハードコートに含まれている添加剤を適宜配合することができる。例えば、架橋剤、反応性希釈剤(例えば単官能モノマー等)、無機微粒子(シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物微粒子)、防汚剤(スリップ剤)、表面調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤(界面活性剤)、湿潤剤、増粘剤、酸化防止剤、重合禁止剤、シランカップリング剤、着色剤等が挙げられる。
【0053】
また、本発明組成物の性状は限定的ではないが、通常は液状の形態をとることが好ましい。従って、この場合は、有機溶剤を配合すれば良い。有機溶剤としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。特に、本発明では、密着性等の見地より、ケトン系溶媒及びエステル系溶媒の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0054】
有機溶剤を用いる場合、有機溶剤の使用量は限定的ではなく、例えば固形分含有量が25~95重量%(特に30~90重量%)の範囲内において、用いる多官能アクリル系ポリマー等の種類、所望の粘度等に応じて適宜設定すれば良い。
【0055】
2.硬化膜
本発明は、本発明組成物を含む塗膜を硬化してなる硬化膜を包含する。この硬化膜は、熱硬化のほか、活性エネルギー線による硬化等のいずれによる硬化膜であっても良い。
【0056】
その中でも、本発明組成物は、前記のとおり、一定のラジカル重合性基を含んでいることから、それによる活性エネルギー線硬化性を有していることが好ましい。これによって、速硬化性による優れた生産性が得られるほか、硬化するための設備の小型化、加熱乾燥の省略化等を図ることができる。
【0057】
本発明の硬化膜は、厚みは限定されないが、一般的には1~50μm程度の範囲内(好ましくは3~15μmの範囲内)で適宜設定することができる。
【0058】
また、本発明の硬化膜は、通常は透明であり、それ自体(基材フィルムがない場合)のヘイズ値も通常0.1~0.6%程度の範囲内にあることが好ましいが、これに限定されない。
【0059】
本発明の硬化膜は、耐擦傷性に優れている。従って、例えば、後記の耐擦傷性の試験においても、その試験後のヘイズ値が通常0.1~4.0%程度の範囲を維持することができる。
【0060】
本発明の硬化膜は、例えば1)液状の本発明組成物の塗膜を形成する工程(第1工程)及び2)前記塗膜に活性エネルギー線を照射することにより塗膜を硬化させる工程(第2工程)を含む方法によって好適に製造することができる。
【0061】
第1工程
第1工程では、液状の本発明組成物の塗膜を形成する。例えば、液状の本発明組成物を基材フィルム上に塗布することにより塗膜を好適に形成することができる。
【0062】
液状の本発明組成物は、前記「(3)任意成分」で説明したように、適当な有機溶剤を本発明組成物中に含有させることにより所望の粘度をもつ塗工液として調製することができる。
【0063】
基材フィルムとしては、限定的でなく、各種の樹脂フィルムの単層又は積層体を用いることができる。例えば、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、セルロース系(セロハン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂等を挙げることができる。その厚みも、例えば10~300μm程度とすることもできるが、これに限定されない。
【0064】
本発明では、塗工液による塗膜と基材フィルムとの密着性をより高めるため、塗膜と基材フィルムとの間にアクリル樹脂層を介在させることもできる。すなわち、基材フィルムとして、芯材フィルムに予めアクリル樹脂層が積層されてなる積層フィルムを基材フィルムとして好適に用いることができる。
【0065】
さらに、本発明では、塗工液による塗膜と基材フィルムとの密着性をより高めるため、必要に応じて各種の表面処理を基材フィルム表面(塗工面)に施すこともできる。例えば、サンドブラスト処理、溶剤処理、コロナ放電処理等の公知の方法を採用することができる。
【0066】
塗工液を塗布する方法は、特に限定されず、例えばスプレーコート、スピンコート、ドクターブレードコート、ローラーコート、バーコート等の公知の方法を適宜採用することができる。
【0067】
塗布量は、例えば所望の硬化膜の厚みとなるような量とすれば良く、通常は得られる硬化膜の厚みが1~50μm程度の範囲内(好ましくは3~15μmの範囲内)で適宜設定することができる。
【0068】
塗布により形成された塗膜は、必要に応じて乾燥させることもできる。乾燥する場合は、自然乾燥又は強制乾燥(加熱乾燥)のいずれでも良い。加熱乾燥する場合は、基材に悪影響を与えない範囲の温度であれば良い。従って、例えば70~120℃程度で加熱することもできる。
【0069】
第2工程
第2工程では、塗膜に活性エネルギー線を照射することにより塗膜を硬化させる。なお、第2工程は、どの段階で実施しても良い。例えば、a)塗膜を他の層と積層する前、b)塗膜を他の層と積層した後、c)塗膜を他の成形物と一体化する前、b)塗膜を他の成形物と一体化した後等のいずれの段階であっても良い。
【0070】
塗膜を硬化させるために用いる活性エネルギー線としては、塗膜に重合反応を生じさせて硬化させるものであれば特に限定されず、例えば電子線(EB)、紫外線(UV)、赤外線(IR)等が挙げられる。
【0071】
本発明では、特に、比較的簡易に硬化を実施できるという点で紫外線を好適に用いることができる。また、紫外線を照射する場合、その光源も限定的でなく、例えば高圧水銀ランプ、鉄ドープのメタルハライドランプ、ガリウムランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザ、LED等が挙げられる。従って、これらを備えた公知又は市販の装置を用いて硬化させることができる。
【0072】
紫外線を照射する場合は、例えば100~400nm程度の波長領域であって、100~5000mJ/cm2のエネルギーを有する紫外線を照射することができるが、これに限定されない。
【0073】
第2工程において硬化膜が基材フィルム上に形成された場合は、必要に応じて基材フィルムから硬化膜を剥離して回収しても良いし、あるいは上記基材フィルム及び硬化膜からなる積層体をそのまま成形体の製造に用いることもできる。また、後記3に示すように、硬化膜と他の層とを含む積層体とすることもできる。さらに、後工程としてインモールド成形を採用する場合は、硬化膜と基材フィルムとを含む積層体の硬化膜側に溶融樹脂を流し込んで硬化膜と樹脂を圧着した後、基材フィルムのみを剥離することにより、硬化膜が樹脂成形物表面に転写された成形体を得ることができる。
【0074】
3.硬化膜を含む成形体
本発明は、本発明の硬化膜を含む積層体又成形体も包含する。特に、積層体の表面又は成形体の表面を保護するための保護層(ハードコート層)として、本発明の硬化膜を好適に用いることができる。
【0075】
積層体としては、本発明の硬化膜の1層又は2層以上と他の層の1層以上とを含む積層体が挙げられる。特に、本発明の硬化膜は、積層体の少なくとも一方の面に最外層として配置されていることが好ましい。
【0076】
また、他の層としては、各種の機能層(例えば、基材層、帯電防止層、水分遮蔽層、接着剤層、アンカーコート層、プライマー層、印刷層、反射防止層等)を少なくとも1層積層することができる。これらの層は、前記の基材フィルムに適用される樹脂のほか、金属(金属粒子、金属箔、金属蒸着膜等)、無機材料等が使用できる。また、これらの複合材料を用いることもできる。
【0077】
本発明の成形体としては、限定的ではないが、特に本発明の硬化膜と樹脂含有成形物とが一体化してなる成形体が挙げられる。
【0078】
樹脂含有成形物に含まれる樹脂としては、特に限定されず、成形体の用途等に応じて各種の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂から少なくとも1種を適宜選択することができる。例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)等の汎用プラスチックスのほか、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセタール、フッ素樹脂等のエンジニアリングプラスチックスが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0079】
樹脂含有成形物には、これらの樹脂以外にも、必要に応じて各種の添加剤が含まれていても良い。添加剤としては、前記「(3)任意成分」で示したものと同様のものを使用することができる。
【0080】
成形体の製造方法は、本発明の硬化膜と樹脂含有成形物とを一体化できる限り、特に限定されないが、少なくとも樹脂含有成形物の成形と同時に一体化できる方法を好適に採用することができる。ここで、「一体化」とは、本発明組成物の塗膜又はその硬化膜と樹脂含有成形物とを(好ましくは直接的に)接合して固定化することをいう。従って、例えばインサート成形、インモールド成形、貼り合わせ法(TOM(Three dimension Overlay Method)工法)等の公知の成形方法を好適に採用することができる。
【0081】
代表例としてインサート成形により本発明の硬化膜と樹脂含有成形物とを一体化する場合は、例えば
図1に示す方法に従って実施することができる。すなわち、基材フィルム11上に硬化膜12(ハードコート層)が積層された積層フィルム10を金型21a,21b内に配置する第1工程(
図1(a))、溶融した樹脂13aを金型内に流し込んで射出成形する第2工程(
図1(b))、及び樹脂が硬化した後、樹脂層13(樹脂含有成形物)/基材フィルム11/機能層12からなる成形体30(製品)を得る第3工程を含む方法を好適に採用することができる。
【0082】
この場合、公知のインサート成形と同様、上記工程のほかにも、第1工程に先立って上記の積層フィルム又は硬化膜を予め加熱して軟化させる工程、第2工程に先立って予め積層フィルムを予備成形する工程、不要な部分を切除する(トリミング)する工程等が追加的に含まれていても良い。
【0083】
また、上記の方法では硬化膜が使用されているが、これを(硬化前の)本発明組成物の塗膜に代えることもできる。この場合は、例えば、成形体を金型から取り出す前又は取り出した後に、成形体に紫外線等を照射することにより当該塗膜を硬化させることにより硬化膜としても良い。
【0084】
本発明の成形体は、自動車、家電製品等の内装又は外装をはじめとする各種の製品として用いることができる。より具体的には、自動車、鉄道、航空機等の各種の車両の外装材(ドアハンドル、バンパー、フロントグリル、サイドモール、ホイールキャップ、ミラーハウジングフロントアンダーカバー等)又は内装材(メーターパネル、シフトノブ、スイッチ類、センターコンソール、ドアオーナメント等)が挙げられる。また、家電製品としては、例えば冷蔵庫、洗濯機、掃除機、パソコン、タブレット、プリンター、複合機、携帯電話、オーディオ製品等が挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0086】
実施例1~10及び比較例1~6
表1~表2に示す成分を用い、各成分を均一に混合することによって各硬化性樹脂組成物を調製した。なお、表1~表2の各成分の含有量の数値は「重量部」を示す。
【0087】
【0088】
【0089】
表1~表2に示す各成分の表記は、それぞれ以下のものを示す。
【0090】
(1)合成品A-1
以下の方法によって合成したものを用いた。500mLの4つ口フラスコに、メチルメタクリレート42.9重量部と、2-ヒドロキシエチルメタクリレート9.3重量部と、重合開始剤としてジメチル-2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオネート)0.6重量部と、重合調整剤としてチオグリセロール1.1重量部と、反応溶剤である酢酸エチル93.0重量部とを仕込み、攪拌しながら60℃で6時間反応した。反応終了後、2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、商品名:カレンズAOI)8.1重量部を加え、60℃で6時間反応させ、ラジカル重合性基を含有するアクリルポリマー(A-1)を得た。これを「合成品A-1」として用いた。合成品A-1は、重量平均分子量=10000、不揮発分=40%、ラジカル重合性基当量(計算)=1050g/molであった。
【0091】
(2)合成品A-2
以下の方法によって合成したものを用いた。500mLの4つ口フラスコに、メチルメタクリレート40.0重量部と、2-ヒドロキシエチルメタクリレート13.0重量部と、重合開始剤としてジメチル-2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオネート)0.6重量部と、重合調整剤としてチオグリセロール1.1重量部と、反応溶剤である酢酸エチル106.0重量部とを仕込み、攪拌しながら60℃で6時間反応した。反応終了後、2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、商品名:カレンズAOI)14.1重量部を加え、60℃で6時間反応させ、ラジカル重合性基を含有するアクリルポリマー(A-2)を得た。これを「合成品A-2」として用いた。合成品A-2は、重量平均分子量=10000、不揮発分=50%、ラジカル重合性基当量(計算)=671g/molであった。
【0092】
(3)合成品B-1
以下の方法によって合成したものを用いた。500mLの4つ口フラスコに、グリシジルメタクリレート71.1重量部と、重合開始剤としてジメチル-2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオネート)0.6重量部と、重合調整剤としてチオグリセロール1.1重量部と、反応溶剤である酢酸エチル160.8重量部とを仕込み、攪拌しながら60℃で6時間反応した。反応終了後、メタクリル酸34.4重量部を加え、60℃で6時間反応させ、ラジカル重合性基を含有する多官能アクリルポリマー(B)を得た。これを「合成品B-1」として用いた。合成品B-1は、重量平均分子量=10000、不揮発分=40%、ラジカル重合性基当量(計算)=264g/molであった。
【0093】
(4)SMP-250AP
製品名「SMP-250AP」(多官能アクリルポリマー、固形分濃度50%、ラジカル重合性基当量240~260g/mol、共栄社化学製)を用いた。
【0094】
(5)SMP-360AP
製品名「SMP-360AP」(多官能アクリルポリマー、固形分濃度50%、ラジカル重合性基当量350~370g/mol、共栄社化学製)を用いた。
【0095】
(6)SMP-550AP
製品名「SMP-550AP」(多官能アクリルポリマー、固形分濃度50%、ラジカル重合性基当量540~560g/mol、共栄社化学製)を用いた。
【0096】
(7)A-9550W
製品名「A-9550W」(多官能アクリレート、固形分濃度100%、新中村化学工業製)を用いた。
【0097】
(8)UA-306H
製品名「UA-306H」(多官能ウレタンアクリレート、固形分濃度100%、共栄社化学製)を用いた。
【0098】
(9)Irgcure907
製品名「Irgcure907」(光重合開始剤、固形分濃度100%、BASF社製)
【0099】
(10)NANOBYK-3610
製品名「NANOBYK-3610」(アルミナ微粒子、固形分濃度30%、BYK社製)
【0100】
(11)MEK
メチルエチルケトン(有機溶剤)
【0101】
試験例1
最表層がアクリル樹脂で覆われているポリカーボネートフィルム基材上に対し、各実施例及び比較例で調製された硬化性樹脂組成物を塗布した。塗布はバーコート法で行い、硬化性樹脂組成物が硬化した後の硬化膜の厚さが3μmとなるように調整した。硬化性樹脂組成物が塗布された基材を100℃のオーブンに入れ、1分乾燥し、活性エネルギー線として紫外線を照射することにより、硬化性樹脂組成物を硬化させ、各種成形用フィルムAを得た。同様に、硬化性樹脂組成物の塗膜を形成する基材として易接着処理ポリエチレンテレフタラートフィルムを用いたほかは、上記成形用フィルムAと同様にして、成形用フィルムBを得た。
成形用フィルムAを用いて、塗膜外観、密着性、加熱後密着性、耐擦傷性の評価を行い、成形用フィルムBを用いて延伸性(破断点伸度)の評価を行った。その結果を表1~表2に示す。各物性の評価方法は、以下のとおりである。
【0102】
(1)塗膜外観評価
成形用フィルムAについて、「JIS K 7136」に対応したヘイズメーターを用いてヘイズ値(単位:%)を測定した。
【0103】
(2)密着性評価
「JIS K 5600-5-6」に準拠して密着性を評価した。各表中の分数表記は、分母は碁盤目状にカットしたマス数(100)を表し、分子はテープ剥離後に残存した塗膜のマス数を示す。
【0104】
(3)加熱後の密着性
成形フィルムAの表面温度が215℃になるように加熱した後、「JIS K 5600-5-6」に準拠して密着性を評価した。各表中の分数表記は、分母は碁盤目状にカットしたマス数(100)を表し、分子はテープ剥離後に残存した塗膜のマス数を示す。
【0105】
(4)耐擦傷性の評価
得られた成形フィルムAについて、スチールウール#0000上に250g/cm2の荷重をかけて10往復させ、ヘイズメーターを用いてヘイズ値(単位:%)を測定した。
【0106】
(5)延伸性の評価
得られた成形フィルムBについて、引張試験(サンプル寸法:200mm×10mm、チャック間距離:110mm、引張速度:50mm/分)を行い、目視により塗膜にクラックが発生した時点の破断点伸度(単位:%)を測定した。
【0107】
表1~表2の結果からも明らかなように、実施例1、2、3、5、6は、多官能アクリレートがなくても、耐擦傷性と延伸性の両性能が良好であることがわかる。また、これら実施例は密着性も優れており、成形温度を想定した加熱後の密着性も保たれている。また、多官能アクリルポリマーを添加した実施例4は、優れた耐擦傷性を維持ししつつ、良好な延伸性が得られることもわかる。特に、実施例5は、ラジカル反応基当量の低いアクリルポリマーを含んでおり、耐擦傷性及び延伸性ともに良好な結果が得られている。実施例6は、ラジカル反応基当量の高い多官能アクリルポリマーを含んでおり、耐擦傷性及び延伸性ともに良好な結果が得られている。
また、実施例7は樹脂Aと樹脂Bを5:5の割合で混合しており、所望の性能を満たしていることがわかる。実施例8、9、10は、他の実施例に比して性能が低いものの、十分実用に耐える性能を有していることがわかる。実施例8は、合成品A-1とSMP-55APを混合しており、耐擦傷性がやや低いが、総合的には十分な実用性を有しているといえる。実施例9は、樹脂Aと樹脂Bを9:1で混合しており、耐擦傷性がやや低いが、十分実用に供することができるレベルである。実施例10は、樹脂Aと樹脂Bを4:6で混合しており、延伸性が少し低いものの、実用的には問題ない性能といえる。
これに対し、アクリルポリマーと多官能(ウレタン)アクリレートのみの比較例1、2は、所望の延伸性が得られないことがわかる。また、アクリルポリマー単独で用いた比較例3は、ラジカル重合性基当量が高いため、延伸性は高いが、耐擦傷性が低くなっている。さらに、多官能アクリルポリマー単独膜又は多官能アクリレート単独膜の比較例4、5は、ラジカル重合性基当量が低いため、耐擦傷性は高いが、延伸性が悪い結果となっている。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明組成物は、優れた耐擦傷性、密着性等を有することから、自動車内外装、電化製品等のように擦り傷性が必要な成形品の保護層として用いることができる。また、延伸性を併せ持つため、例えばインサート成形、インモールド成形、張り合わせ工法(TOM工法)等のようにフィルムと樹脂成形物とを一体化する成形方法にも好適に用いることができる。