(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】ウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 299/06 20060101AFI20220721BHJP
C08G 18/67 20060101ALI20220721BHJP
C08G 18/81 20060101ALI20220721BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220721BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C08F299/06
C08G18/67 010
C08G18/81 016
B32B27/30 A
C08F290/06
(21)【出願番号】P 2017192288
(22)【出願日】2017-09-30
【審査請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】内貴 英人
(72)【発明者】
【氏名】小野 真司
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-237332(JP,A)
【文献】特開2011-138037(JP,A)
【文献】特開2008-150502(JP,A)
【文献】特開2002-284829(JP,A)
【文献】特表2010-515098(JP,A)
【文献】特開2017-159576(JP,A)
【文献】特開昭63-225670(JP,A)
【文献】特開2012-072327(JP,A)
【文献】特開2013-028708(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156423(WO,A1)
【文献】特開平01-043516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 299/06
C08F 290/06
C08G 18/67
C08F 220/28
C08G 18/81
C09D 175/16
C09D 133/00
C09D 4/02
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンアクリレートを含む硬化性樹脂組成物であって、
(1)側鎖にラジカル重合性基を有
し、ラジカル重合性基当量が100~1000g/molであるポリウレタンアクリレートA、
(2)ラジカル重合性基を有
し、ラジカル重合性基当量が300~1300g/molであるアクリル系ポリマーB1、及び
(3)ラジカル重合性基を有し、
ラジカル重合性基当量が1000~5000g/molであり、かつ、前記アクリル系ポリマーB1のラジカル重合性基当量よりも300
~2700g/mol大きいラジカル重合性基当量を有するアクリル系ポリマーB2
を含
み、
(4)ポリウレタンアクリレートA100重量部に対し、アクリル系ポリマーB1が10~50重量部、アクリル系ポリマーB2が10~50重量部含まれる、
ことを特徴とするウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに単官能アクリル系モノマーを含む、
請求項1に記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
活性エネルギー線硬化性である、
請求項1又は2に記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに有機溶剤を含み、性状が液状である、
請求項1~3のいずれかに記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物を含む塗膜を硬化してなる硬化膜。
【請求項6】
請求項5に記載の硬化膜を含む積層体。
【請求項7】
請求項5に記載の硬化膜と樹脂含有成形物とが一体化してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品等の工業製品の内装又は外装には、その耐擦傷性(耐スクラッチ性)、意匠性等を高めるために表面コーティング技術が適用されている。従前は、コーティング技術として、塗装方法のほか、予め印刷を施した水溶性フィルムを水面上に展開することでその印刷層を製品に転写する水圧転写工法等が採用されてきたが、近年ではフィルムをハードコート材として用い、これを別途に用意された樹脂組成物とともに一体的に成形するインサート成形等が広く用いられている。
【0003】
より具体的には、例えばインサート成形では、
図1に示すように、基材フィルム11上に機能層12(硬化膜(ハードコート層))が積層された積層フィルム10を金型として雄型21a及び雌型21bの間に配置した後(
図1(a))、溶融した樹脂13aを金型内に流し込んで射出成形する(
図1(b))。樹脂が硬化した後、基材フィルム11の不要部分を切除(トリミング)し、樹脂層13/基材フィルム11/機能層12からなる成形体30(製品)を金型から取り出す(
図1(c))。このようなインサート成形に用いられる上記機能層(硬化膜)としては、透明性、光沢性、耐擦傷性等に比較的優れているという点で、例えばポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂が汎用されている。
【0004】
この場合、
図1(b)のA部分に示すように、特に成形体30がその厚み方向に曲がる部位を有する場合、当該部位では機能層12が基材フィルム11に追従することが必要である。追従できない場合は、機能層12が経時的に基材フィルム11から剥離したり、機能層12にクラックが生じる等の問題が起こる。このため、機能層12は、基材フィルムに対する密着性に優れるとともに、高い延伸性等を有することが必要とされる。
【0005】
このような成形に適した硬化性組成物として種々の組成物が提案されている。例えば、特定の成分を反応させて得られるポリウレタン化合物(A)、化合物(A)以外のエチレン性不飽和化合物(B)、及び光重合開始剤(C)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物がある(特許文献1)。
【0006】
また例えば、少なくとも(A)1分子中に2個の水酸基と1個のラジカル重合性基を有する化合物と、(B)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物が連結された分子構造を有するラジカル重合性基含有ウレタンプレポリマーであって、(A)成分由来の側鎖ラジカル重合性基当量が1500g/mol以下であるラジカル重合性基含有ウレタンプレポリマーが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-275339
【文献】特開2012-72327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これら従来技術の硬化性組成物においても、基材フィルムとの追従性という点においてさらなる改善の余地が残されている。特に、特許文献1の硬化性組成物では、高架橋樹脂及び無機微粒子を比較的多く含有させる必要があるため、延伸性(伸度)が低くなるという問題がある。また、特許文献2の光硬化性組成物では、基材フィルムと化学構造的に相互作用する性質が低いため、基材フィルムとの密着性が損なわれるおそれがある。
【0009】
従って、本発明の主な目的は、特に基材フィルムに対する追従性に優れた硬化膜を形成できる硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成からなる組成物を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物に係る。
1. ポリウレタンアクリレートを含む硬化性樹脂組成物であって)、
(1)側鎖にラジカル重合性基を有するポリウレタンアクリレートA、
(2)ラジカル重合性基を有するアクリル系ポリマーB1、及び
(3)ラジカル重合性基を有し、かつ、前記アクリル系ポリマーB1のラジカル重合性基当量よりも300g/mol以上大きいラジカル重合性基当量を有するアクリル系ポリマーB2
を含むことを特徴とするウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
2. ウレタンアクリレートAの側鎖に有するラジカル重合性基当量が1000g/mol以下である、請求項1に記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
3. アクリル系ポリマーB1のラジカル重合性基当量が300~1300g/molであり、アクリル系ポリマーB2のラジカル重合性基当量が1000~5000g/molである、前記項1又は2に記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
4. ポリウレタンアクリレートA100重量部に対し、アクリル系ポリマーB1が10~50重量部、アクリル系ポリマーB2が10~50重量部含まれる、前記項1~3のいずれかに記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
5. さらに単官能アクリル系モノマーを含む、前記項1~4のいずれかに記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
6. 活性エネルギー線硬化性である、前記項1~5のいずれかに記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
7. さらに有機溶剤を含み、性状が液状である、前記項1~6のいずれかに記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物。
8. 前記項1~7のいずれかに記載のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物を含む塗膜を硬化してなる硬化膜。
9. 前記項7に記載の硬化膜を含む積層体。
10. 前記項7に記載の硬化膜と樹脂含有成形物とが一体化してなる成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特に基材フィルムに対する追従性に優れた硬化膜を形成できるウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【0013】
特に、本発明組成物は、ラジカル重合性基当量が特定の範囲内で互いに異なる2種のアクリル系ポリマーの組み合わせを採用しているので、優れた密着性、延伸性等とともに、高い耐擦傷性、透明性等を兼ね備えた硬化膜を得ることができる。このため、本発明組成物から得られる硬化膜と樹脂含有成形物とが一体化された成形品(製品)において、当該成形品が曲がるような部位(湾曲部、屈曲部等)を有していても、そのような曲がりに硬化膜は基材フィルムに確実に追従することができるので、信頼性の高い製品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】インサート成形により積層体(成形体)を製造する工程例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.硬化性樹脂組成物
本発明のウレタンアクリレート系硬化性樹脂組成物(本発明組成物)は、ポリウレタンアクリレートを含む硬化性樹脂組成物であって)、
(1)側鎖にラジカル重合性基を有するポリウレタンアクリレートA、
(2)ラジカル重合性基を有するアクリル系ポリマーB1、及び
(3)ラジカル重合性基を有し、かつ、前記アクリル系ポリマーB1のラジカル重合性基当量よりも300g/mol以上大きいラジカル重合性基当量を有するアクリル系ポリマーB2
を含むことを特徴とする。
【0016】
(1)ポリウレタンアクリレートA
ポリウレタンアクリレートAは、側鎖にラジカル重合性基を有する。また、ポリウレタンアクリレートAは、官能基(ラジカル重合性基)を3個以上有する多官能性であることが好ましい。
【0017】
ラジカル重合性基としては、特に限定されず、例えばビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。特に、高いUV硬化性等を発現できるという見地より、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくとも1種を有することが望ましい。
【0018】
なお、本発明では、以下において、特にことわりのない限り、アクリロイル基又はメタクリロイル基を「(メタ)アクリロイル基」と総称する。また、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を「(メタ)アクリロイルオキシ基」と総称する。さらに、アクリレート又はメタクリレートを「(メタ)アクリレート」と総称し、アクリル酸又はメタクリル酸を「(メタ)アクリル酸」と総称する。
【0019】
ポリウレタンアクリレートAが有するラジカル重合性基当量は特に限定されないが、通常は1000g/mol以下とすることが好ましい。この場合のラジカル重合性基当量の下限値は限定されないが、通常は100g/mol程度とすれば良い。
【0020】
本発明において、ポリウレタンアクリレートAのラジカル重合性基当量(RA)とは、ポリマー中におけるラジカル重合性基1モルあたりの分子量を示すものである。
【0021】
RA値は、公知の測定方法により測定することが可能である。例えば1H-NMRによる二重結合プロトンとプロトン全体のピーク比のほか、ヨウ素価滴定等により算出することができる。これらは、公知又は市販の測定装置を用いて実施することができる。
【0022】
また、ポリウレタンアクリレートAの合成方法が特定できる場合は、使用するモノマーの分子量及び仕込み量に基づいて計算により求めることもできる。例えば、後記の「合成品A-1」では、下記のようにして求めることができる。
1分子当たりのラジカル重合性基当量=[Mw-(Mw(X)×2)-(Mw(Y))]/(Mw(Y)+Mw(Z))=約21
RA=Mw/21=9200/21=約438
(MwはポリウレタンアクリレートAの分子量、Mw(x)は2-ヒドロキシエチルメタクリレートの分子量、Mw(Y)はジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネートの分子量、Mw(z)はグリセリンモノメタクリレートの分子量を示す。)
【0023】
また、ポリウレタンアクリレートAの重量平均分子量は、特に限定されないが、5000~50000の範囲とすることが好ましく、特に8000~20000の範囲とすることがより好ましい。このような範囲に設定することによって、より高い延伸性等を得ることができる。
【0024】
ポリウレタンアクリレートA自体は、公知又は市販のものを使用することができるほか、公知の製造方法に従って合成することもできる。
【0025】
ポリウレタンアクリレートAを合成する場合は、例えば、1)ラジカル重合性基と2個以上の水酸基とを有する化合物(a1)とジイソシアネート化合物(a2)とを反応させることにより反応生成物を得る第1工程、2)イソシアネート基と反応する化合物(a3)を前記反応生成物と反応させる第2工程を含む方法によって好適にポリウレタンアクリレートを調製することができる。
【0026】
第1工程
第1工程では、ラジカル重合性基と2個以上の水酸基とを有する化合物(a1)とジイソシアネート化合物(a2)とを反応させることにより反応生成物を得る。
【0027】
前記(a1)成分としては、特に限定されず、例えばグリセリンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンモノ(メタ)アクリレート、1,2,6-ヘキサントリオールモノ(メタ)アクリレート、1,2,3-ヘプタントリオールモノ(メタ)アクリレート、1,2,4-ブタントリオールモノ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0028】
前記(a2)成分としては、特に限定されず、例えばジシクロヘキシルメタン4,4′-ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0029】
第1工程は、例えば有機溶媒中で行うことが望ましい。有機溶媒としては、(a1)~(a3)成分と反応しないものであれば良く、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。
【0030】
第1工程の反応条件は、特に制限されないが、例えば反応温度は40~80℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。また、第1工程における前記化合物(a1)と前記化合物(a2)との比率は、通常はa1:a2=50モル%:50モル%~60モル%:40モル%程度の範囲内とすれば良い。
【0031】
本発明では、上記反応において、必要に応じて触媒等を用いることができる。触媒としては、特に限定されず、公知の触媒から適宜選択することができる。例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、オクタン酸錫、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛等の有機金属化合物を好適に用いることができる。
【0032】
第2工程
第2工程においては、イソシアネート基と反応する化合物(a3)を前記反応生成物と反応させる。これにより、前記反応生成物の末端のイソシアネート基と反応させることにより、末端にもラジカル重合性基が導入される。
【0033】
前記(a3)成分としては、特に限定されないが、分子中に水酸基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。より具体的には、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
第2工程の反応条件は、特に制限されないが、例えば反応温度は40~80℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。また、第2工程における前記化合物(a3)の配合比率は、限定的ではないが、通常は前記反応生成物100モル%に対して100~220モル%程度とすれば良い。
【0035】
本発明組成物中におけるポリウレタンアクリレートAの含有量(固形分比率)は、用いるポリウレタンアクリレートAの種類、得られる硬化膜の特性等に応じて適宜設定できるが、通常40~70重量%程度とし、特に45~65重量%とすることが好ましく、その中でも50~63重量%とすることがより好ましい。
【0036】
(2)アクリル系ポリマーB1,B2
本発明組成物では、1)ラジカル重合性基を有するアクリル系ポリマーB1及び2)ラジカル重合性基を有し、かつ、前記アクリル系ポリマーB1のラジカル重合性基当量よりも300g/mol以上大きいラジカル重合性基当量を有するアクリル系ポリマーB2という2種のアクリル系ポリマーを用いる。両者はラジカル重合性基当量の数値範囲以外の点では共通するので、以下両者をまとめて「アクリル系ポリマーB」として説明する。
【0037】
アクリル系ポリマーBは、官能基を2個以上有することが好ましく、特に3個以上有する多官能であることが好ましい。この場合、各官能基は互いに同じものであっても良いし、互いに異なるものであっても良い。官能基としては、ラジカル重合性の官能基であれば特に限定されず、例えばビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。特に、高いUV硬化性等を発現できるという見地より、(メタ)アクリロイル基を有することが望ましい。
【0038】
アクリル系ポリマーBは、上記のようなラジカル重合性基を有しており、そのラジカル重合性基当量は、アクリル系ポリマーB1とB2で互いに異なる値をとることを特徴とする。すなわち、アクリル系ポリマーB2は、アクリル系ポリマーB1のラジカル重合性基当量よりも300g/mol以上大きいラジカル重合性基当量を有することを特徴とする。アクリル系ポリマーB2のラジカル重合性基当量RB2とアクリル系ポリマーB1のラジカル重合性基当量RB1との差ΔR=(RB2-RB1)(但し、RB2>RB1)が300g/mol未満の場合は、所望の耐擦傷性、密着性等が得られなくなることがある。前記ΔRは、通常は300g/mol以上とすれば良いが、特に300~2700g/molとすることが好ましい。
【0039】
上記のようなΔRを満たす限り、前記RB1,RB2の値は限定されないが、以下のような数値範囲をとることが好ましい。すなわち、アクリル系ポリマーB1のラジカル重合性基当量RB1は、通常300~1300g/mol程度とし、特に300~1000g/molとすることが好ましい。また、アクリル系ポリマーB2のラジカル重合性基当量RB2は、通常1000~5000g/mol程度とし、特に1000~3000g/molとすることが好ましい。
【0040】
本発明において、アクリル系ポリマーBのラジカル重合性基当量(RB)とは、ポリマー中におけるラジカル重合性基1モルあたりの分子量を示すものである。なお、RBは、前記RB1,RB2を総称したものである。
【0041】
RB値は、公知の測定方法により測定することが可能である。例えば1H-NMRによる二重結合プロトンとプロトン全体のピーク比のほか、ヨウ素価滴定等により算出することができる。これらは、公知又は市販の測定装置を用いて実施することができる。
【0042】
また、アクリル系ポリマーBの合成方法が特定できる場合は、使用するモノマーの分子量及び仕込み量に基づいて計算により求めることもできる。すなわち、ラジカル重合性基を与えるモノマーの分子量Mw(Z)及びその仕込み量Zを基準として算出することができる。例えば、後記の「合成品B-2」では、下記のようにして求めることができる。
RB=[(Mw(X)×X)/Z]+[(Mw(Y)×Y)/Z]+[(Mw(Z)]
(Mw(X)はメチルメタクリレートの分子量、Mw(Y)は2-ヒドロキシエチルメタクリレートの分子量、Mw(Z)は2-イソシアナトエチルアクリレートの分子量、X,Y,Zは仕込んだ化合物(メチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレート)の物質量比を示す。)この方法に従って計算すると、RB=[(100×0.429)/0.0574]+[(130×0.0715)/0.0574]+[141]=約1050となる。
【0043】
また、アクリル系ポリマーBの重量平均分子量は、特に限定されないが、5000~50000の範囲とすることが好ましく、特に8000~20000の範囲とすることがより好ましい。このような範囲に設定することによって、より高い延伸性等を得ることができる。アクリル系ポリマーB1,B2の重量平均分子量は、互いに同じであっても、あるいは互いに異なっていても良い。
【0044】
アクリル系ポリマーB自体は、公知又は市販のものを使用することができるほか、公知の製造方法に従って合成することもできる。例えば、アクリル系ポリマーB1に対して分子中にイソシアネート基及びラジカル重合性基を有する化合物B2を反応させることによって好適に調製することができる。
【0045】
前記ポリマーB1は、例えば1)水酸基を有しない(メタ)アクリレート系化合物B1aと、分子中に少なくとも1個の水酸基を有する(メタ)アクリレート系化合物B1bとを含む原料を液相中で反応させる工程を含む方法、2)水酸基を有さない(メタ)アクリレート系化合物B1aの1種又は2種以上を含む原料を液相中で反応させる工程を含む方法等によって得ることができる。
【0046】
水酸基を有しない(メタ)アクリレート系化合物B1aとしては、特に単官能であることが好ましい。このような化合物としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0047】
分子中に少なくとも1個の水酸基を有する(メタ)アクリレート系化合物B1bとしては、限定的ではなく、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
液相を構成する溶媒としては、原料と反応しないものであれば特に限定されず、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。
【0049】
上記原料中には、必要に応じて重合開始剤(光重合開始剤)、重合調整剤等の公知の添加剤を配合することもできる。
【0050】
重合開始剤としては、例えばジメチル-2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4-フェニルベンゾフェノン、t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、メチルベンゾイルホルメート、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-4-モルホリノブチロフェノン、2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン等が挙げられる。
【0051】
重合調整剤としては、例えば連鎖移動剤、pH緩衝剤等として知られている物質を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;n-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のメルカプタン類等が挙げられる。またpH緩衝剤としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0052】
液相中での反応条件としては、特に制限されないが、例えば反応温度は40~80℃程度の範囲内、反応時間は1~10時間程度の範囲内で適宜設定することができる。また、前記化合物B1aと前記化合物B1bとの配合比率は、限定的ではないが、通常は20モル%:80モル%~80モル%:20モル%程度の範囲内とすれば良い。さらに、前記化合物B1aどうし(互いに同一又は異なる化合物)の場合の配合比率は、通常は20モル%:80モル%~80モル%:20モル%程度の範囲内とすれば良い。
【0053】
このようにして得られたアクリル系ポリマーB1は、前記化合物B2と反応させることによってアクリル系ポリマーBを得ることができる。
【0054】
前記化合物B2としては、分子中にイソシアネート基及びラジカル重合性基を有する化合物であれば限定されず、例えば2-イソシアナトエチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、特に分子中にイソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を好適に用いることができる。従って、前記化合物A2として、例えば2-イソシアナトエチルアクリレートを好適に用いることができる。
【0055】
液相中での反応条件としては、限定的ではないが、例えば反応温度は40~80℃程度の範囲内、反応時間は1~15時間程度の範囲内で適宜設定することができる。また、アクリル系ポリマーB1と分子中にイソシアネート基及びラジカル重合性基を有する化合物B2との配合比率は、例えばB1:B2=25モル%:75モル%~5モル%:95モル%程度の範囲とすれば良いが、これに限定されない。
【0056】
本発明組成物中におけるアクリル系ポリマーB1,B2の含有量(固形分比率)は、用いるアクリル系ポリマーB1,B2の種類、得られる硬化膜の特性等に応じて適宜設定できるが、それぞれ同一又は異なって通常5~35重量%程度とし、特に6~30重量%とすることが好ましく、その中でも7~25重量%とすることがより好ましい。
【0057】
また、本発明組成物中におけるアクリル系ポリマーB1,B2の比率は、ポリウレタンアクリレートA100重量部に対し、アクリル系ポリマーB1は10~50重量部程度とし、特に10~30重量部とすることが好ましい。アクリル系ポリマーB2は、ポリウレタンアクリレートA100重量部に対して10~50重量部程度とし、特に10~30重量部とすることが好ましい。
【0058】
(3)アクリレートモノマー
本発明組成物では、さらにアクリレートモノマーを配合することが好ましい。アクリレートモノマーを配合することによって、得られる硬化膜の外観等をより高めることができる。
【0059】
アクリレートモノマーとしては、単官能アクリルモノマーが好ましい。従って、例えばN-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、フェノールEO変性(n≒2)アクリレート、ノニルフェノールEO変性(n≒4)アクリレート、2-エチルヘキシルEO変性(n≒2)アクリレート等が挙げられる。これらはいずれも市販品を用いることもできる。この中でも、イミド基含有アクリレートであるN-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドを好適に用いることができる。
【0060】
本発明組成物中におけるアクリレートモノマーの含有量は、特に制限されないが、通常は10~30重量%程度とし、特に15~25重量%とすることが好ましく、その中でも15~20重量%とすることがより好ましい。
【0061】
(4)任意成分
さらに、本発明組成物では、本発明の効果を妨げない範囲内で、任意成分として公知のハードコートに含まれている添加剤を適宜配合することができる。例えば、架橋剤、反応性希釈剤(例えば単官能モノマー等)、無機微粒子(シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物微粒子)、防汚剤(スリップ剤)、表面調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤(界面活性剤)、湿潤剤、増粘剤、酸化防止剤、重合禁止剤、シランカップリング剤、着色剤等が挙げられる。
【0062】
また、本発明組成物の性状は限定的ではないが、通常は液状の形態をとることが好ましい。従って、この場合は、有機溶剤を配合すれば良い。有機溶剤としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等の各種の有機溶剤を用いることができる。特に、本発明では、密着性等の見地より、ケトン系溶媒を用いることが好ましい。
【0063】
有機溶剤を用いる場合、有機溶剤の使用量は限定的ではなく、例えば固形分含有量が25~95重量%程度の範囲内、好ましくは50~90重量%の範囲内において、用いるポリウレタンアクリレート、アクリル系ポリマー等の種類、所望の粘度等に応じて適宜設定すれば良い。
【0064】
2.硬化膜
本発明は、本発明組成物を含む塗膜を硬化してなる硬化膜を包含する。この硬化膜は、熱硬化のほか、活性エネルギー線による硬化等のいずれによる硬化膜であっても良い。
【0065】
その中でも、本発明組成物は、前記のとおり、一定のラジカル重合性基を含んでいることから、それによる活性エネルギー線硬化性を有していることが好ましい。これによって、速硬化性による優れた生産性が得られるほか、硬化するための設備の小型化、加熱乾燥の省略化等を図ることができる。
【0066】
本発明の硬化膜は、厚みは限定されないが、一般的には3~15μm程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0067】
また、本発明の硬化膜は、通常は透明であり、それ自体(基材フィルムがない場合)のヘイズ値も通常0.1~0.6%程度の範囲内にあることが好ましい。
【0068】
本発明の硬化膜は、耐擦傷性に優れている。従って、後記の耐擦傷性の試験においても、その試験後のヘイズ値が通常0.1~4.0%程度の範囲を維持することができる。
【0069】
本発明の硬化膜は、例えば1)液状の本発明組成物の塗膜を形成する工程(第1工程)及び2)前記塗膜に活性エネルギー線を照射することにより塗膜を硬化させる工程(第2工程)を含む方法によって好適に製造することができる。
【0070】
第1工程
第1工程では、液状の本発明組成物の塗膜を形成する。例えば、液状の本発明組成物を基材フィルム上に塗布することにより塗膜を好適に形成することができる。
【0071】
液状の本発明組成物は、前記「(4)任意成分」で示したように、適当な有機溶剤を本発明組成物中に含有させることにより所望の粘度をもつ塗工液として調製することができる。
【0072】
基材フィルムとしては、限定的でなく、各種の樹脂フィルムの単層又は積層体を用いることができる。例えば、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、セルロース系(セロハン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂等を挙げることができる。その厚みも、例えば10~300μm程度とすることもできるが、これに限定されない。
【0073】
本発明では、塗工液による塗膜と基材フィルムとの密着性をより高めるため、塗膜と基材フィルムとの間にアクリル樹脂層を介在させることもできる。すなわち、基材フィルムとして、芯材フィルムに予めアクリル樹脂層が積層されてなる積層フィルムを基材フィルムとして好適に用いることができる。
【0074】
さらに、本発明では、塗工液による塗膜と基材フィルムとの密着性をより高めるため、必要に応じて各種の表面処理を基材フィルム表面(塗工面)に施すこともできる。例えば、サンドブラスト処理、溶剤処理、コロナ放電処理等の公知の方法を採用することができる。
【0075】
塗工液を塗布する方法は、特に限定されず、例えばスプレーコート、スピンコート、ドクターブレードコート、ローラーコート、バーコートの等の公知の方法を適宜採用することができる。
【0076】
塗布量は、例えば所望の硬化膜の厚みとなるような量とすれば良く、通常は得られる硬化膜の厚みが1~50μm程度の範囲内(好ましくは3~15μmの範囲内)で適宜設定することができる。
【0077】
塗布により形成された塗膜は、必要に応じて乾燥させることもできる。乾燥する場合は、自然乾燥又は強制乾燥(加熱乾燥)のいずれでも良い。加熱乾燥する場合は、基材フィルムに悪影響を及ぼさない範囲内とすれば良く、例えば70~120℃程度で加熱することができる。
【0078】
第2工程
第2工程では、塗膜に活性エネルギー線を照射することにより塗膜を硬化させる。なお、第2工程は、どの段階で実施しても良い。例えば、a)塗膜を他の層と積層する前、b)塗膜を他の層と積層した後、c)塗膜を他の成形物と一体化する前、b)塗膜を他の成形物と一体化した後等のいずれの段階であっても良い。
【0079】
塗膜を硬化させるために用いる活性エネルギー線としては、塗膜に重合反応を生じさせて硬化させるものであれば特に限定されず、例えば電子線(EB)、紫外線(UV)、赤外線(IR)等が挙げられる。
【0080】
本発明では、特に、比較的簡易に硬化を実施できるという点で紫外線を好適に用いることができる。また、紫外線を照射する場合、その光源も限定的でなく、例えば高圧水銀ランプ、鉄ドープのメタルハライドランプ、ガリウムランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、紫外線レーザ、LED等が挙げられる。従って、これらを備えた公知又は市販の装置を用いて硬化させることができる。
【0081】
紫外線を照射する場合は、例えば100~400nm程度の波長領域であって、100~5000mJ/cm2のエネルギーを有する紫外線を照射することができるが、これに限定されない。
【0082】
第2工程において硬化膜が基材フィルム上に形成された場合は、必要に応じて基材フィルムから硬化膜を剥離して回収しても良いし、あるいは上記基材フィルム及び硬化膜からなる積層体をそのまま成形体の製造に用いることもできる。また、後記3に示すように、硬化膜と他の層とを含む積層体とすることもできる。さらに、後工程としてインモールド成形を採用する場合は、硬化膜と基材フィルムとを含む積層体の硬化膜側に溶融樹脂を流し込んで硬化膜と樹脂を圧着した後、基材フィルムのみを剥離することにより、硬化膜が樹脂成形物表面に転写された成形体を得ることができる。
【0083】
3.硬化膜を含む成形体
本発明は、本発明の硬化膜を含む積層体又成形体も包含する。特に、積層体の表面又は成形体の表面を保護するための保護層(ハードコート層)として本発明の硬化膜を好適に用いることができる。
【0084】
積層体としては、本発明の硬化膜の1層又は2層以上と他の層の1層以上とを含む積層体が挙げられる。特に、本発明の硬化膜は、積層体の少なくとも一方の面に最外層として配置されていることが好ましい。
【0085】
また、他の層としては、各種の機能層(例えば、基材層、帯電防止層、水分遮蔽層、接着剤層、アンカーコート層、プライマー層、印刷層、反射防止層等)を少なくとも1層積層することができる。これらの層は、前記の基材フィルムに適用される樹脂のほか、金属(金属粒子、金属箔、金属蒸着膜等)、無機材料等が使用できる。また、これらの複合材料を用いることもできる。
【0086】
本発明の成形体としては、限定的ではないが、特に本発明の硬化膜と樹脂含有成形物とが一体化してなる成形体が挙げられる。
【0087】
樹脂含有成形物に含まれる樹脂としては、成形体の用途等に応じて各種の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂から少なくとも1種を適宜選択することができる。例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)等の汎用プラスチックスのほか、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセタール、フッ素樹脂等のエンジニアリングプラスチックスが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0088】
樹脂含有成形物には、これらの樹脂以外にも、必要に応じて各種の添加剤が含まれていても良い。添加剤としては、前記「(4)任意成分」で示したものと同様のものを使用することができる。
【0089】
成形体の製造方法は、本発明の硬化膜と樹脂含有成形物とを一体化できる限り、特に限定されないが、少なくとも樹脂含有成形物の成形と同時に一体化できる方法を好適に採用することができる。ここで、「一体化」とは、本発明組成物の塗膜又はその硬化膜と樹脂含有成形物とを(好ましくは直接的に)接合して固定化することをいう。従って、例えばインサート成形、インモールド成形、貼り合わせ法(TOM(Three dimension Overlay Method)工法)等の公知の成形方法を好適に採用することができる。
【0090】
例えば、代表例としてインサート成形により本発明の硬化膜と樹脂含有成形物とを一体化する場合は、
図1に示す方法に従って実施することができる。すなわち、基材フィルム11上に硬化膜12(ハードコート層)が積層された積層フィルム10を金型21a,21b内に配置する第1工程(
図1(a))、溶融した樹脂13aを金型内に流し込んで射出成形する第2工程(
図1(b))、及び樹脂が硬化した後、樹脂層13(樹脂含有成形物)/基材フィルム11/機能層12からなる成形体30(製品)を得る第3工程を含む方法を好適に採用することができる。
【0091】
この場合、公知のインサート成形と同様、上記工程のほかにも、第1工程に先立って上記の積層フィルム又は硬化膜を予め加熱して軟化させる工程、第2工程に先立って予め積層フィルムを予備成形する工程、不要な部分を切除する(トリミング)する工程等が追加的に含まれていても良い。
【0092】
また、上記の方法では硬化膜が使用されているが、これを(硬化前の)本発明組成物の塗膜に代えることもできる。この場合は、例えば、成形体を金型から取り出す前又は取り出した後に、成形体に紫外線等を照射することにより当該塗膜を硬化させることにより硬化膜としても良い。
【0093】
本発明の成形体は、自動車、家電製品等の内装又は外装をはじめとする各種の製品として用いることができる。より具体的には、自動車、鉄道、航空機等の各種の車両の外装材(ドアハンドル、バンパー、フロントグリル、サイドモール、ホイールキャップ、ミラーハウジングフロントアンダーカバー等)又は内装材(メーターパネル、シフトノブ、スイッチ類、センターコンソール、ドアオーナメント等)が挙げられる。また、家電製品としては、例えば冷蔵庫、洗濯機、掃除機、パソコン、タブレット、プリンター、複合機、携帯電話、オーディオ製品等が挙げられる。
【実施例】
【0094】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0095】
実施例1~3及び比較例1~5
表1に示す成分を用い、各成分を均一に混合することによって各硬化性樹脂組成物を調製した。なお、表1の各成分の含有量の数値は「重量部」を示す。
【0096】
【0097】
表1に示す各成分の表記は、それぞれ以下のものを示す。
【0098】
(1)合成品A
以下の方法によって合成したものを用いた。500mLのナス型フラスコに、(a1)成分としてグリセリンモノメタクリレート(日油株式会社製、商品名:ブレンマーGLM)44.8重量部と、(a2)成分としてジシクロヘキシルメタン 4,4′-ジイソシアネート77.7重量部と、反応溶剤である酢酸エチル150.0重量部と、触媒であるジブチル錫ジラウネート0.004重量部とを仕込み、攪拌しながら60℃で6時間反応した。反応終了後、(a3)成分として2-ヒドロキシエチルメタクリレート2.6重量部を加え、60℃で6時間反応させ、側鎖にラジカル重合性基を有するポリウレタンアクリレートを得た。これを「合成品A」として用いた。合成品Aは、重量平均分子量=9200、不揮発分=40%、側鎖ラジカル重合性基当量(計算)=438g/molであった。
【0099】
(2)合成品B-1
以下の方法によって合成したものを用いた。500mLの4つ口フラスコに、メチルメタクリレート46.2重量部と、アクリロイルモルホリン23.1重量部と、重合開始剤としてジメチル-2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオネート)0.7重量部と、重合調整剤としてチオグリセロール1.7重量部と、反応溶剤であるメチルエチルケトン140.0重量部とを仕込み、攪拌しながら60℃で6時間反応した。反応終了後、2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、商品名:カレンズAOI)3.3重量部を加え、60℃で6時間反応させ、ラジカル重合性基を含有するアクリルポリマーを得た。これを「合成品B-1」として用いた。合成品B-1は、重量平均分子量=10000、不揮発分=33%、ラジカル重合性基当量(計算)=3333g/molであった。
【0100】
(3)合成品B-2
以下の方法によって合成したものを用いた。500mLの4つ口フラスコに、メチルメタクリレート42.9重量部と、2-ヒドロキシエチルメタクリレート9.3重量部と、重合開始剤としてジメチル-2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオネート)0.6重量部と、重合調整剤としてチオグリセロール1.1重量部と、反応溶剤である酢酸エチル93.0重量部とを仕込み、攪拌しながら60℃で6時間反応した。反応終了後、2-イソシアナトエチルアクリレート(昭和電工株式会社製、商品名:カレンズAOI)8.1重量部を加え、60℃で6時間反応させ、ラジカル重合性基を含有するアクリルポリマーを得た。これを「合成品B-2」として用いた。合成品B-2は、 重量平均分子量=10000、不揮発分=40%、ラジカル重合性基当量(計算)=1050g/molであった。
【0101】
(4)合成品B-3
以下の方法によって合成したものを用いた。500mLの4つ口フラスコに、メチルメタクリレート40.0重量部と、2-ヒドロキシエチルメタクリレート15.6重量部と、重合開始剤としてジメチル-2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオネート)0.28重量部と、重合調整剤としてチオグリセロール1.1重量部と、反応溶剤である酢酸エチル133.0重量部とを仕込み、攪拌しながら60℃で6時間反応した。反応終了後、2-イソシアナトメチルアクリレート(昭和電工株式会社製、商品名:カレンズAOI)13.5重量部を加え、60℃で6時間反応させ、反応終了後に溶剤を取り除くことで、ラジカル重合性基を含有するアクリルポリマーを得た。これを「合成品B-3」として用いた。合成品B-3は、重量平均分子量=10000、不揮発分=100%、ラジカル重合性基当量(計算)=720g/molであった。
【0102】
(5)アロニックスM-140
製品名「アロニックスM-140」(アクリレートモノマー、固形分濃度100%、東亞合成製)を用いた。
【0103】
(6)Irgcure907
製品名「Irgcure907」(光重合開始剤、固形分濃度100%、BASF社製)
【0104】
(7)MEK
メチルエチルケトン(有機溶剤)
【0105】
試験例1
最表層がアクリル樹脂で覆われているポリカーボネートフィルム基材上に対し、各実施例及び比較例で調製された硬化性樹脂組成物を塗布した。塗布はバーコート法で行い、硬化性樹脂組成物が硬化した後の硬化膜の厚さが3μmとなるように調整した。硬化性樹脂組成物が塗布された基材を100℃のオーブンに入れ、1分乾燥し、活性エネルギー線として紫外線を照射することにより、硬化性樹脂組成物を硬化させ、各種成形用フィルムAを得た。同様に、硬化性樹脂組成物の塗膜を形成する基材として易接着処理ポリエチレンテレフタラートフィルムを用いたほかは、上記成形用フィルムAと同様にして、成形用フィルムBを得た。
成形用フィルムAを用いて、塗膜外観、密着性、加熱後密着性、煮沸後密着性、耐擦傷性の評価を行い、成形用フィルムBを用いて延伸性(破断点伸度)の評価を行った。その結果を表1に示す。各物性の評価方法は、以下のとおりである。
【0106】
(1)塗膜外観評価
成形用フィルムAについて、「JIS K 7136」に対応したヘイズメーターを用いてヘイズ値(単位:%)を測定した。
【0107】
(2)密着性評価
「JIS K 5600-5-6」に準拠して、成形フィルムAにおける塗膜の剥離の有無を目視によって次の通り評価した。表中の分数表記は、分母は碁盤目状にカットしたマス数(100)を表し、分子はテープ剥離後に残存した塗膜のマス数を示す。
【0108】
(3)耐擦傷性の評価
得られた成形フィルムAについて、スチールウール#0000上に250g/cm2の荷重をかけて10往復させ、ヘイズメーターを用いてヘイズ値(単位:%)を測定した。
【0109】
(4)延伸性の評価
得られた成形フィルムBについて、引張試験(サンプル寸法:200mm×10mm、チャック間距離:110mm、引張速度:50mm/分)を行い、目視により塗膜にクラックが発生した時点の破断点伸度(単位:%)を測定した。
【0110】
表1の結果からも明らかなように、実施例の硬化膜は、すべての所望の特性を満足できることがわかる。これに対し、比較例1、4では合成品B-2又はB-3を加えていないことから、耐擦傷性が不足している。比較例2では、成分Bの所定の2種が併用されていないことから、塗膜外観が劣っている。比較例3は、成分Bが全く添加されていないため、密着性が不足していた。比較例4では、合成品B-1を加えていないことから、延伸性が不足している。比較例5では、合成品B-1又はB-2を加えていないことから、延伸性が不足している。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明組成物は、優れた耐擦傷性、密着性等を有することから、自動車内外装、電化製品等のように擦り傷性が必要な成形品の保護層として用いることができる。また、延伸性を併せ持つため、例えばインサート成形、インモールド成形、張り合わせ工法(TOM工法)等のようにフィルムと樹脂成形物とを一体化する成形方法にも好適に用いることができる。