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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】連結構造および軽量盛土構造物
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/18 20060101AFI20220721BHJP
   E02D 29/02 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
E02D17/18 Z
E02D29/02 308
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018024464
(22)【出願日】2018-02-14
(65)【公開番号】P2019138108
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】394014641
【氏名又は名称】カネカケンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】原口 望
(72)【発明者】
【氏名】津田 暁
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-232706(JP,A)
【文献】特開2002-030664(JP,A)
【文献】特開2004-244864(JP,A)
【文献】実開昭53-038102(JP,U)
【文献】特開2003-074059(JP,A)
【文献】特開2003-064683(JP,A)
【文献】特開2015-048597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/18
E02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造と、コンクリート床版および発泡樹脂材を備える、上記既設構造に増設される軽量盛土構造とが、連結金具を用いて連結されてなる連結構造であって、
上記連結金具は、上記既設構造に固定される、上下方向に長穴を有する固定金具と、上記軽量盛土構造のコンクリート床版に固定される、上下方向に移動する移動部材を有する移動金具と、上記移動金具の移動領域を保護する型枠と、
上記既設構造に埋設されて上記固定金具を固定するアンカーと、を備え、
上記固定金具と上記移動金具とが連結しており
上記型枠は、直方体から、上記移動金具の移動領域、および上記アンカーにおける上記固定金具の固定部から突出している部分との衝突を回避する領域を除いた形状である、連結構造。
【請求項2】
上記既設構造に固定された固定金具の固定部における上下方向の中心よりも、上記長穴の中心が上に位置する、請求項1に記載の連結構造。
【請求項3】
上記型枠の周囲に路盤材の流入を防止する路盤材流入防止材をさらに備える、請求項1または2に記載の連結構造。
【請求項4】
上記既設構造と上記軽量盛土構造のコンクリート床版との間に仕切り材をさらに備える、請求項1~の何れか一項に記載の連結構造。
【請求項5】
請求項1~の何れか一項に記載の連結構造を含む軽量盛土構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設構造と、上記既設構造に増設される、EPS盛土工法における軽量盛土構造とが、連結金具を用いて連結されてなる連結構造および軽量盛土構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
道路等の既設構造に、EPS盛土工法における軽量盛土構造を増設した構造が知られている。当該構造としては、例えば、既設道路の拡幅、既設道路への歩道や自転車道の新設、軽量盛土構造の二段階施工等の目的に係る構造が知られている。当該構造において、上載荷重が作用すると、軽量盛土構造の発泡樹脂材が圧縮変形してコンクリート床版が沈下することにより、既設構造と軽量盛土構造との連結金具に応力が負荷され、連結金具および既設構造に損傷を与えるおそれがある。また、既設の軽量盛土構造を拡幅する場合、既設の軽量盛土構造の発泡樹脂材が圧縮変形してコンクリート床版が沈下することにより、既設の軽量盛土構造のコンクリート床版と、増設される軽量盛土構造のコンクリート床版との間に段差が生じる。当該段差によっても、連結金具に応力が負荷され、連結金具およびコンクリート床版に損傷を与えるおそれがある。つまり、コンクリート床版が沈下することにより、連結金具、既設構造およびコンクリート床版に損傷を与え、連結部分が破断するおそれがあるという問題があった。
【0003】
一方、例えば、特許文献1には、連結金具の先端部に、上下方向に細長い長穴を有する移動金具を設け、支柱に固定した支持金具に、上記長穴に沿ってスライド可能なスライド部材を設けて、連結金具の先端部を支柱に対して上下方向に移動可能に連結した連結構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-244864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の連結構造を上述した問題を解決するために転用しようとすると、当該連結構造では、移動金具の可動領域にコンクリート床版を形成するための生コンクリートが流入してしまうおそれがある。本願発明者らは、コンクリート床版を形成するための生コンクリートが移動金具の可動領域に流入して硬化すると、スライド部材が上下方向に正常にスライドすることができなくなるため、既設構造および連結金具への応力の負荷を低減することができないという不具合が生じることを見出した。
【0006】
本発明の一態様は、軽量盛土構造の発泡樹脂材の圧縮変形が生じてコンクリート床版が沈下することによる、既設構造および連結金具への応力の負荷を低減することができ、かつ、移動金具の移動領域を保護して移動金具の位置決めを行うことができる連結構造、および当該連結構造を含む軽量盛土構造物を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る連結構造は、既設構造と、コンクリート床版および発泡樹脂材を備える、上記既設構造に増設される軽量盛土構造とが、連結金具を用いて連結されてなる連結構造であって、上記連結金具は、上記既設構造に固定される、上下方向に長穴を有する固定金具と、上記軽量盛土構造のコンクリート床版に固定される、上下方向に移動する移動部材を有する移動金具と、上記移動金具の移動領域を保護する型枠と、を備え、上記固定金具と上記移動金具とが連結していることを特徴としている。
本発明の一態様に係る連結構造は、上記既設構造に埋設されて上記固定金具を固定するアンカーをさらに備えることがより好ましい。
本発明の一態様に係る連結構造は、上記既設構造に固定された固定金具の固定部における上下方向の中心よりも、上記長穴の中心が上に位置することがより好ましい。
本発明の一態様に係る連結構造は、上記型枠の周囲に路盤材の流入を防止する路盤材流入防止材をさらに備えることがより好ましい。
本発明の一態様に係る連結構造は、上記既設構造と上記軽量盛土構造のコンクリート床版との間に仕切り材をさらに備えることがより好ましい。
本発明の一態様に係る軽量盛土構造物は、上述した連結構造を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、軽量盛土構造の発泡樹脂材の圧縮変形が生じてコンクリート床版が沈下することによる、既設構造および連結金具への応力の負荷を低減することができ、かつ、移動金具の移動領域を保護することができる連結構造、および当該連結構造を含む軽量盛土構造物を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係る連結構造の構成を示す断面図である。
図2】(a)は本発明の一実施の形態に係る連結構造の構成を示す水平方向の断面図であり、(b)は上記連結構造の構成を示すA-A線断面図である。
図3図2の(b)の連結構造の上面に路盤材を施工後、最上部のコンクリート床版が沈下した状態を示すA-A線断面図である。
図4図2,3の連結構造の連結金具、アンカー、および仕切り材の構成を示す、(a)は平面図であり、(b)は斜視図であり、(c)は側面図である。
図5】本発明の他の実施の形態に係る連結構造の連結金具、アンカー、および仕切り材の構成を示す側面図である。
図6】(a)は本発明の一実施の形態に係る連結構造の型枠を示す斜視図であり、(b)は上記型枠の構成部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」とは同義語であると見なす。
【0011】
〔連結構造〕
本発明の一実施の形態における連結構造は、既設構造と、コンクリート床版および発泡樹脂材を備える、上記既設構造に増設される軽量盛土構造とが、連結金具を用いて連結されてなる連結構造であって、上記連結金具は、上記既設構造に固定される、上下方向に長穴を有する固定金具と、上記軽量盛土構造のコンクリート床版に固定される、上下方向に移動する移動部材を有する移動金具と、上記移動金具の移動領域を保護する型枠と、を備え、上記固定金具と上記移動金具とが連結している。
【0012】
以下、本発明の一実施の形態における連結構造に関して、図1図6を参照して説明する。
【0013】
(EPS盛土工法)
図1および図2の(b)に示すように、EPS盛土工法は、発泡ポリスチレン等の、軽量であり、かつ、強度および柔軟性を有する発泡樹脂材4の上に最上部のコンクリート床版3が設けられ、複数ある発泡樹脂材4の間に、後述するように必要に応じて中間のコンクリート床版3が設けられている軽量盛土構造2を施工(製造)する方法である。
【0014】
(既設構造1)
既設構造1は、後述する軽量盛土構造と同様の軽量盛土構造であってもよく、軽量盛土構造でなくてもよい。既設構造1が軽量盛土構造である場合には、既設構造1の軽量盛土構造のコンクリート床版に連結金具の固定金具10を取り付けることが好ましい。軽量盛土構造でない既設構造1としては、例えば、コンクリート擁壁などで形成される道路、駐車場等が挙げられる。
(軽量盛土構造2)
図2の(a),(b)に示すように、軽量盛土構造2は、コンクリート床版3と発泡樹脂材4とを備えている。軽量盛土構造2は、例えば、「EDO-EPS工法設計・施工基準書(案)」に定められている工法により施工される。
【0015】
発泡樹脂材4は、所定の軽量性および強度を備えていれば特に限定されないが、例えば、発泡ポリスチレン(EPS)であることが好ましい。発泡樹脂材4は、複数の発泡樹脂ブロックを積み上げてなる積層体であることが好ましい。これにより、発泡樹脂材4を簡易に施工することができる。
【0016】
コンクリート床版3は、その内部に基盤材として格子状の鉄筋5が埋設されていることが好ましい。これにより、コンクリート床版3の強度を向上することができる。コンクリート床版3の厚さは、100~300mmであることが好ましい。これにより、所定の強度を有し、かつ連結金具の移動金具20の固定部21を埋設することができる。また、鉄筋5の被り厚さは、鉄筋の酸化による劣化防止の観点から、20mm以上であることが好ましい。
【0017】
コンクリート床版3は、不陸調整、荷重分散、発泡樹脂ブロックの固定、および浮力対策のために、発泡樹脂材4の最上部に最上部のコンクリート床版が設けられると共に、複数ある発泡樹脂材4の間に中間のコンクリート床版が必要に応じて設けられる。複数ある発泡樹脂材4の間に設けられる中間のコンクリート床版3は、「EDO-EPS工法設計・施工基準書(案)」等に基づき、発泡樹脂材4の高さ3m毎に設置される。発泡樹脂材4の高さが3mに満たない場合には、中間のコンクリート床版は設けなくてもよい。
【0018】
増設される軽量盛土構造2は、連結構造100において、既設構造1に対して連結される。
【0019】
(連結金具)
図2の(a),(b)に示すように、連結金具は、固定金具10と、移動金具20と、型枠30とを備えている。連結金具の個数、つまり、連結構造100の個数は、軽量盛土構造2の大きさにもよるが、複数であることが好ましい。具体的には、連結金具一つ当たりの耐力を構造計算で求め、必要に応じて実証試験や解析を実施し、地震時における水平方向の移動の抑止力および上載荷重による接続面の目地開きの抑止力のそれぞれを上回る、連結金具の個数、つまり、連結構造100の個数であることが好ましい。また、複数の連結金具は、構造計算や実証試験を実施し、地震時における水平方向の移動の抑止力および上載荷重による接続面の目地開きの抑止力を充分に発揮することができる位置に設置(配置)されることが好ましい。これにより、複数の連結金具への応力の負荷を分散することができるため、各連結金具への応力の負荷を低減することができ、既設構造と軽量盛土構造を安定して連結することができる。固定金具10および移動金具20の材質としては、例えば、橋梁等の各種構造物に使用されるCT型鋼等が挙げられる。固定金具10および移動金具20は、防食メッキ処理を施されていることが好ましい。さらに、移動金具20がスムーズに移動することができるように、樹脂コーティングを施されていてもよい。
【0020】
連結金具、つまり、連結構造100は、既設構造と軽量盛土構造の最上部のコンクリート床版とを少なくとも連結していればよいが、さらに既設構造と軽量盛土構造の中間のコンクリート床版とを連結していることがより好ましい。
【0021】
(固定金具10)
図2の(a),(b)に示すように、固定金具10は、既設構造1に固定される。図4の(a)~(c)に示すように、固定金具10は、既設構造1に固定される固定部11と、軽量盛土構造2に固定される移動金具20と連結する連結部12とを備える。
【0022】
固定金具10は、固定部11をアンカー6によって既設構造1に固定されることが好ましい。即ち、連結構造100は、既設構造1に埋設されて固定金具10の固定部11を固定するアンカー6をさらに備えていることが好ましい。アンカー6は、固定金具10の固定部11を既設構造1に固定することができれば特に制限されないが、当該固定部11の左右に少なくとも一つずつ配設されていることが好ましい。これにより、固定金具10を既設構造1に安定して固定することができる。
【0023】
固定金具10の連結部12は、上下方向に長穴13を有する。長穴13とは、移動金具20の移動部材24が上下方向に移動することができる、上下方向に長く形成された穴である。長穴13の上下方向の長さは、軽量盛土構造2の発泡樹脂材4が最上部および中間のコンクリート床版3や路盤材50等の上載荷重や交通荷重等によって、長期に亘って徐々に圧縮変形する圧縮変形前後の発泡樹脂材4の厚さの差、および発泡樹脂材4の圧縮変形に伴う移動金具20の上から下方向への移動距離を想定した上で、設計することが好ましい。図4の(c)に示すように、長穴13の中心は、固定金具10の固定部11における上下方向の中心よりも上に位置することが好ましい。これにより、想定される圧縮変形前後の発泡樹脂材4の厚さの差、および発泡樹脂材4の圧縮変形に伴う移動金具20の上から下方向への移動距離が大きくても、移動後の移動金具20の位置を既設構造1のアンカー6の位置とほぼ揃えることができる。これにより、発泡樹脂材4の圧縮変形による最上部および中間のコンクリート床版3の沈下が進行するほど、移動金具20の固定部21の位置と既設構造1側のアンカー6の位置とが近くなるため、既設構造1および連結金具(特にアンカー6および固定金具10)への応力の負荷を低減することができる。また、軽量盛土構造2が例えば道路である場合、発泡樹脂材4の圧縮変形による最上部および中間のコンクリート床版3の沈下が進行しても、既設構造1と軽量盛土構造とが連結した状態を保持することができる。
【0024】
尚、長穴13の中心は、既設構造1に固定された固定金具10の固定部11における上下方向の中心よりも下に位置してもよく、同じ高さに位置してもよい。連結構造100は、例えば図5に示すように、固定金具10の替わりに、既設構造1に固定された固定金具10’の固定部11における上下方向の中心よりも、長穴13の中心が下に位置する連結部12’を有する固定金具10’を備えていてもよい。
【0025】
長穴13は、図4の(b),(c)に示すような、長穴13の上および下の部位が閉じられた構造であってもよく、長穴13の上または下を切り欠いた構造であってもよい。長穴13がその上または下を切り欠いた構造である場合、連結部12の強度を保つことができれば、切り欠いた構造のままでもよいが、必要に応じて、切り欠いた部位に、水平方向の引張力に対抗する部材を取り付けてもよい。
【0026】
(移動金具20)
図2の(a),(b)に示すように、移動金具20は、軽量盛土構造2に固定される。図4の(a)に示すように、移動金具20は、軽量盛土構造2に固定される固定部21と、固定金具10と連結する連結部22とを備える。
【0027】
移動金具20の固定部21は、軽量盛土構造2の最上部および中間のコンクリート床版3内の鉄筋5上に固定されて埋設されている。これにより、移動金具20を軽量盛土構造2の最上部および中間のコンクリート床版3に安定して固定することができる。移動金具20の固定部21の長さは、移動金具20を軽量盛土構造2の最上部および中間のコンクリート床版3に安定的に固定することができれば特に制限されない。
【0028】
移動金具20の固定部21と連結部22は、両者の中心軸が一直線になるように、長ナット26を用いて互いに連結されている。
【0029】
移動金具20の連結部22は、U字部材23と、移動部材24と、締結部材25とを備える。移動部材24はボルト状であり、ナット状の締結部材25によって、U字部材23に固定されている。これにより、移動部材24を固定金具10の長穴13内に通すことができる。
【0030】
移動部材24は固定金具10の連結部12の長穴13内を上下方向に移動する。これにより、軽量盛土構造2の発泡樹脂材4に圧縮変形が生じて最上部および中間のコンクリート床版3が沈下しても、移動部材24が長穴13内を下方向に移動することによって移動金具20が最上部および中間のコンクリート床版3と共に移動することができるようになっている。それゆえ、既設構造1および連結金具への応力の負荷を低減することができる。
【0031】
本発明の一実施の形態における連結構造は、よりコンパクトかつより強固な構造にすると共に、安価に作製するために、長穴を有する固定金具は既設構造に固定され、移動部材を有する移動金具は増設される軽量盛土構造のコンクリート床版に固定される。増設される軽量盛土構造のコンクリート床版に移動金具が固定されることにより、移動金具の長ナットを含む部分を新たに設置される上記コンクリート床版に埋設することができる。これにより、本発明の一実施の形態における連結構造は、上記移動金具に相当する、長穴内に通すための部材を有する金具が既設構造に固定され、増設される軽量盛土構造のコンクリート床版に上記固定金具に相当する、長穴を有する金具が固定される連結構造(固定金具と移動金具の固定位置が入れ替わっている構造、以下、「比較連結構造」と称する)と比較して、既設構造と固定金具との間に形成される空間をよりコンパクトにすることができる。また、比較連結構造の場合には、増設される軽量盛土構造のコンクリート床版に固定金具が固定されるため、軽量盛土構造の発泡樹脂材の圧縮変形によって固定金具の固定が不安定になり、長穴の垂直性(上下方向)を維持することができないおそれがある。これに対して、本発明の一実施の形態における連結構造は、安定な既設構造に固定金具を固定するため、比較連結構造とは異なり、長穴の垂直性を維持することができる。これにより、例え軽量盛土構造の発泡樹脂材が圧縮変形しても、移動金具は上下方向にスムーズに移動することができる。
【0032】
(型枠30)
図2の(a),(b)に示すように、連結構造100において、型枠30は、移動金具20の移動領域の周囲を取り囲むように、および固定金具10の固定部11と接触するようにして配設され、軽量盛土構造2に埋設されている。型枠30により、移動金具20の移動領域を保護して当該移動領域に路盤材50(図3)が流入することを防止することができる。それゆえ、発泡樹脂材4の圧縮変形による最上部および中間のコンクリート床版3の沈下が進行するほど、型枠30が移動金具20の移動領域を保護しながら移動金具20の固定部21の位置と既設構造1側のアンカー6の位置とが近くなるため、既設構造1および連結金具への応力の負荷を低減することができる。
【0033】
図6の(a)に示すように、型枠30の形状は、直方体から、移動金具20の移動領域、およびアンカー6における固定金具10の固定部11から突出している部分との衝突を回避する領域とを除いた形状となっている。つまり、型枠30において直方体の形状から除去されている領域は、型枠30の上面から見て凸型形状となっている。これにより、型枠30を設置しても、移動金具20の移動を妨げることなく、移動金具20の移動領域を保護することができる。また、型枠30は、移動金具20の連結部22が通過する例えば矩形状の孔31を有している。それゆえ、移動金具20の移動領域を保護しつつ、移動金具20の移動と連動して型枠30も同じように移動することができる。
【0034】
型枠30は、例えば、図6の(a),(b)に示すように、二つの型枠部材32,33から構成されていてもよい。これにより、型枠部材32を取り付けた後に、移動金具20のU字部材23を取り付けることができる。移動金具20のU字部材23を取り付けた後、最上部および中間のコンクリート床版3を形成するための生コンクリートを打設する前に、型枠部材33を図6の(a)に示すように型枠部材32に取り付ける。これにより、二つの型枠部材32,33から構成される型枠30を連結構造100に配設することができる。型枠30が二つの型枠部材32,33から構成される場合には、型枠30が分解するのを防ぐために、型枠部材32と型枠部材33とをテープ、接着剤等によって接着することが好ましい。しかしながら、型枠30の形状および大きさは、路盤材50(図3)を打設したときに移動金具20が移動することができる空間を確保することができれば、特に制限されない。
【0035】
また、型枠30は、最上部および中間のコンクリート床版3を形成するための生コンクリートを打設するときに、移動金具20の位置決めを行うことができる部材でもある。言い換えると、型枠30の孔31の下部に移動金具20のU字部材23が載っている状態で最上部および中間のコンクリート床版3を形成するための生コンクリートを打設することができるため、移動金具20を相応しい位置で最上部および中間のコンクリート床版3に固定することができる。
【0036】
また、型枠30は、図3に示すように、軽量盛土構造2上に路盤材50を打設した後においても、或る程度形状を保持した状態で移動金具20の移動領域を保護することができる材質で構成されていればよい。型枠30の材質としては、例えば、発泡ポリスチレン(EPS)等の発泡樹脂、クロロプレン(CR)ゴム等の弾性体等が挙げられる。
【0037】
(路盤材流入防止材7)
連結構造100は、図2の(b)に示すように、型枠30の上方を含む周囲に、路盤材50の流入を防止する路盤材流入防止材7をさらに備えていることがより好ましい。路盤材流入防止材7は、型枠30の少なくとも上方に、好ましくは型枠30に接触して配設され、型枠30と共に移動金具20の移動領域を覆っている。これにより、図3に示すように、軽量盛土構造2の最上部のコンクリート床版3上に路盤材50を打設したときに、移動金具20の移動領域に路盤材50が流入するのを防止することができる。つまり、移動金具20が移動することができる空間を確保することができる。
【0038】
路盤材流入防止材7の形状および大きさは、型枠30の形状および大きさにもよるが、路盤材50を打設したときに移動金具20が移動することができる空間を確保することができれば、特に制限されない。
【0039】
また、路盤材流入防止材7は、軽量盛土構造2上に路盤材50を打設した後においても、或る程度形状を保持した状態で移動金具20の移動を妨げない材質で構成されていればよい。路盤材流入防止材7の材質としては、例えば、変成シリコーン系目地材、ウレタン系目地材、アクリル系目地材、エポキシ系目地材等の目地材、ポリエチレン等の発泡樹脂目地材、天然ゴム、クロロプレンゴム、瀝青目地材等が挙げられる。
【0040】
(仕切り材8)
連結構造100は、図2の(a)に示すように、既設構造1と最上部および中間のコンクリート床版3との間に、仕切り材8をさらに備えていることがより好ましい。これにより、既設構造1と軽量盛土構造2の最上部および中間のコンクリート床版3との間に形成される隙間を縮小させる、または満たすことができる。
【0041】
仕切り材8は、既設構造1または軽量盛土構造2の最上部もしくは中間のコンクリート床版3の何れか一方にのみ固定されていることが好ましい。これにより、既設構造1に対して連結された軽量盛土構造2が下方向に変形することができる。
【0042】
仕切り材8の材質としては、例えば、変成シリコーン系目地材、ウレタン系目地材、アクリル系目地材、エポキシ系目地材等の目地材、ポリエチレン等の発泡樹脂目地材、天然ゴム、クロロプレンゴム、瀝青目地材等が挙げられる。尚、仕切り材8は、連結金具の取り付け位置に切り欠きが形成されていることがより好ましい。
【0043】
(路盤材50)
本発明の一実施の形態における連結構造においては、図3に示すように、軽量盛土構造2の最上部のコンクリート床版3上に、路盤材50が打設されている。当該連結構造においては、打設した路盤材50の重量により発泡樹脂材4が圧縮変形して最上部および中間のコンクリート床版3が沈下するのと連動して、移動金具20が下方向に移動することができるため、既設構造1および連結金具への応力の負荷を低減することができる。
【0044】
以上のように、本発明の一実施の形態における連結構造は、道路、駐車場等の既設構造の軽量盛土構造による拡幅、既設道路への軽量盛土構造の歩道や自転車道の新設、軽量盛土構造の二段階施工(例えば、片側車線ごとの区分け施工)等に好適に用いられる。
【0045】
〔軽量盛土構造物〕
本発明の一実施の形態における軽量盛土構造物は、上述した連結構造を含む。これにより、軽量盛土構造の発泡樹脂材の圧縮変形が生じて最上部および中間のコンクリート床版が沈下することによる、既設構造および連結金具への応力の負荷を低減することができ、かつ、移動金具の移動領域を保護することができる。
【0046】
〔連結構造の施工(製造)方法〕
本発明の一実施の形態における連結構造の施工方法は、既設構造に、上下方向に長穴を有する固定金具を取り付ける固定金具取り付け工程と、上記既設構造に、最上部および中間のコンクリート床版並びに発泡樹脂材を備える軽量盛土構造を増設する軽量盛土構造増設工程と、増設された軽量盛土構造の上記最上部および中間のコンクリート床版に、上下方向に移動する移動部材を有する移動金具を取り付けて、上記固定金具と上記移動金具とを連結する移動金具取り付け工程と、型枠取り付け工程と、路盤材打設工程とを含む方法である。また、連結構造の施工方法は、路盤材流入防止材取り付け工程および/または仕切り材取り付け工程をさらに含む方法である。
【0047】
以下、連結構造の施工方法に関して説明する。但し、上述した連結構造において説明した内容と重複する内容に関しては、その説明を簡略化または省略することとする。
【0048】
<固定金具取り付け工程>
固定金具取り付け工程は、既設構造に、上下方向に長穴を有する固定金具を取り付ける工程である。固定金具取り付け工程では、上記既設構造に穴を開け、当該穴にアンカーを、上記固定金具を介して差し込み、例えば接着剤等によって固定して取り付ける。連結構造を軽量盛土構造の二段階施工に用いる場合には、既設構造側となる軽量盛土構造の最上部および中間のコンクリート床版に、上記アンカーを予め埋設して取り付けておいてもよい。
【0049】
<軽量盛土構造増設工程>
軽量盛土構造増設工程は、既設構造に、最上部および中間のコンクリート床版並びに発泡樹脂材を備える軽量盛土構造を増設する工程である。
【0050】
具体的には、軽量盛土構造増設工程では、例えば、発泡樹脂材の高さ3m毎に中間のコンクリート床版を施工する。そして、中間のコンクリート床版の上に設置した発泡樹脂材の最上部には、最上部のコンクリート床版を施工する。最上部および中間のコンクリート床版は、鉄筋を格子状に設置し、コンクリートを打設して施工する。
【0051】
<移動金具取り付け工程>
移動金具取り付け工程は、軽量盛土構造のコンクリート床版に、上下方向に移動する移動部材を有する移動金具を取り付けて、上記固定金具と上記移動金具とを連結する工程である。固定金具の長穴内に移動部材を通して、締結部材により移動部材を移動金具に固定することにより、固定金具と移動金具とを連結する。
【0052】
移動金具取り付け工程では、増設された軽量盛土構造のコンクリート床版に穴を開け、当該穴に上記移動金具の固定部を差し込み、例えば接着剤等によって固定して取り付ける。これにより、移動金具を軽量盛土構造のコンクリート床版に安定的に固定することができる。
【0053】
<型枠取り付け工程>
型枠取り付け工程は、路盤材の流入を防止する型枠を移動金具の移動領域の周囲に取り付ける工程である。これにより、移動金具の移動領域にコンクリート床版を形成するための生コンクリートが流入するのを防止することができ、型枠によって移動金具の移動領域を保護することができる。型枠取り付け工程では、型枠部材同士を接着して型枠を組み立てることが好ましい。これにより、連結金具を連結した後に、移動金具の移動領域の周囲に型枠を取り付けることができる。
【0054】
<路盤材流入防止材取り付け工程>
路盤材流入防止材取り付け工程は、型枠の上方を含む周囲に、路盤材の流入を防止する路盤材流入防止材を取り付ける工程である。これにより、軽量盛土構造の最上部のコンクリート床版上に路盤材を打設したときに、移動金具の移動領域に路盤材が流入するのを防止することができる。それゆえ、移動金具が移動することができる空間を確保することができる。
【0055】
<仕切り材取り付け工程>
仕切り材取り付け工程は、既設構造に仕切り材を取り付ける工程である。仕切り材取り付け工程は、軽量盛土構造増設工程を行うよりも前に仕切り材取り付け工程を実施することが好ましい。
【0056】
<路盤材打設工程>
路盤材打設工程は、本発明の一実施の形態に係る連結構造を施工した後に、当該連結構造の最上部のコンクリート床版上に路盤材を打設する工程である。
【0057】
本発明の一実施の形態における施工方法で施工された連結構造は、打設した路盤材の重量により発泡樹脂材が圧縮変形してコンクリート床版が沈下するのと連動して、移動金具が下方向に移動することができるため、既設構造および連結金具への応力の負荷を低減することができる。
【0058】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の一態様に係る連結構造は、軽量盛土構造の発泡樹脂材の圧縮変形が生じてコンクリート床版が沈下することによる、既設構造および連結金具への応力の負荷を低減することができるので、道路、駐車場等の既設構造の軽量盛土構造による拡幅、既設道路への軽量盛土構造の歩道や自転車道の新設、軽量盛土構造の二段階施工等に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0060】
1 既設構造
2 軽量盛土構造
3 コンクリート床版
4 発泡樹脂材
5 鉄筋
6 アンカー
7 流入防止材
8 仕切り材
10,10’ 固定金具
11 (固定金具の)固定部
12,12’ (固定金具の)連結部
13 長穴
20 移動金具
21 (移動金具の)固定部
22 (移動金具の)連結部
23 U字部材
24 移動部材
25 締結部材
26 長ナット
30 型枠
31 孔
32,33 型枠部材
50 路盤材
100 連結構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6