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  • 特許-非共沸性洗浄用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】非共沸性洗浄用組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/50 20060101AFI20220721BHJP
   C23G 5/028 20060101ALI20220721BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20220721BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
C11D7/50
C23G5/028
B08B3/08 A
H01L21/304 647A
H01L21/304 642E
H01L21/304 648G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018101384
(22)【出願日】2018-05-28
(65)【公開番号】P2019206609
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】松本 剛徳
(72)【発明者】
【氏名】菊地 秀明
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/033257(WO,A1)
【文献】特表2006-521460(JP,A)
【文献】特表2012-528922(JP,A)
【文献】特開2017-110034(JP,A)
【文献】特開2001-240897(JP,A)
【文献】特表2006-516296(JP,A)
【文献】国際公開第2016/182700(WO,A1)
【文献】特表2013-529233(JP,A)
【文献】特開2016-069632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00 -9/00
C09K 3/00
C09K 3/30
B08B 3/00 -3/14
C23G 1/00 -5/06
H01L 21/0304
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が25~65℃であるハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロオレフィン又はハイドロクロロフルオロオレフィンである成分Aと、
成分Aより高沸点であって、沸点が65~120℃であるハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロオレフィン又はハイドロクロロフルオロオレフィンである成分Bと、
水溶性有機溶媒である成分Cとを含み、
非共沸性であって、成分Aと成分Cが共沸組成を形成でき、かつ、成分Bと成分Cが共沸組成を形成できることを特徴とする、洗浄用組成物。
【請求項2】
成分Aが(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO1336mzzZ)である、請求項1に記載の洗浄用組成物。
【請求項3】
成分Aが50~80wt%であり、成分Bが10~30wt%であり、成分Cが5~25wt%である、請求項1または2に記載の洗浄用組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の洗浄用組成物を用いる洗浄方法。
【請求項5】
洗浄槽(液層)での洗浄工程とリンス層(蒸気層)でのリンス工程を含み、洗浄槽(液層)とリンス層(蒸気層)との温度差が20℃以上である、請求項に記載の洗浄方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の洗浄用組成物を用いる、精密機械部品洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体関連部品、光学関連部品をはじめとする精密機械部品の洗浄に適する、非共沸性混合物である洗浄用組成物、ならびにそれを用いた洗浄方法および洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
精密機械部品、例えば、半導体関連部品の分野では、半導体デバイスの回路パターンの微細化・高密度化・高集積化、及び配線の多層化が進むにつれ、半導体デバイスの回路パターンにおいて欠陥とされるサイズも益々小さくなっており、パーティクル(異物微粒子)や、金属不純物、化学汚染物質などの微小(微量)な汚染物質が、半導体製品の歩留まりや信頼性にますます大きな影響を及ぼすようになっている。パーティクルの場合、サブミクロンサイズ(1μm以下)の微細なものであってもウェハ表面に付着すると不良につながる欠陥の原因となりうることから、サブミクロンサイズのパーティクルの除去までもが必要とされる。
【0003】
一般的に、半導体関連部品や光学関連部品のような精密機械部品のパーティクル等の汚染物質を洗浄する工程は、洗浄剤で満たされた洗浄槽(液層)と蒸留槽(蒸気発生槽)を備えた蒸気洗浄装置において、洗浄槽(液層)に部品を浸漬して超音波洗浄を行った後、引き上げて、蒸留槽(蒸気発生槽)から発生する蒸気により形成されるリンス層(蒸気層)で部品表面に凝縮生成されたクリーンな加熱蒸気によってリンスされる(すすがれる)2段階の工程からなる(特許文献1)。超音波洗浄工程とリンス工程に使用される洗浄剤は、従来、フッ素系有機溶剤が用いられ、さらに、通常、フッ素系有機溶剤は絶縁性が高いため、単体では静電気による再付着が起きやすく、洗浄性が低くなることから、アルコール類などの水溶性有機溶媒が混合される。
【0004】
そしてこのような混合物からなる洗浄用組成物は、洗浄工程で使用中に分留して液層と蒸気層の組成が変化してしまわないことが望ましく、また、フッ素系有機溶剤は、比較的高価なため、その再利用が強く望まれていることからも、使用中または回収時の蒸留中に分留されない組成物、すなわち、定沸点特性および沸騰または蒸発時に分留しない性質を有する共沸性混合物であることがこれまでの常識であった(特許文献2、特許文献3)。
【0005】
ところが、近年、精密機械部品の分野においてサブミクロンサイズの微細なパーティクルの除去が求められている一方、従来のこのようなフッ素系有機溶剤とアルコール類の共沸性混合物からなる洗浄用組成物では、そのような微細なパーティクルに対する除去効果が不十分であった。
【0006】
したがって、精密機械部品の洗浄に適した、部品表面のサブミクロンサイズの微細なパーティクルまでも効果的に除去することができる改善された洗浄用組成物が求められている。さらに、洗浄用組成物に含まれるフッ素系有機溶剤は、環境負荷が小さく、各国の法規制に対応できるものが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国第3881949号明細書
【文献】特許第5784591号公報
【文献】特開2017-110034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、上記従来技術の問題を解決するため、鋭意研究を行った結果、沸点の異なる2種類のフッ素系有機溶剤と水溶性有機溶媒とを含む、3成分非共沸性混合物が、精密機械部品の洗浄に適した高い洗浄性を有し、さらに、環境負荷が少なく、かつ安全性、経済性にも優れた洗浄用組成物として利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下の点を特徴とする。
1.ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロオレフィン又はハイドロクロロフルオロオレフィンである成分Aと、
成分Aより高沸点である、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロオレフィン又はハイドロクロロフルオロオレフィンである成分Bと、
水溶性有機溶媒である成分Cとを含み、
非共沸性であることを特徴とする、洗浄用組成物。
2.成分Aと成分Cが共沸組成を形成でき、かつ、
成分Bと成分Cが共沸組成を形成できることを特徴とする、上記1.に記載の洗浄用組成物。
3.成分Aの沸点が25~65℃である、上記1.または上記2.に記載の洗浄用組成物。
4.成分Bの沸点が65~120℃である、上記1.~上記3.のいずれかに記載の洗浄用組成物。
5.成分Aが(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO1336mzzZ)である、上記1.~上記4.のいずれかに記載の洗浄用組成物。
6.成分Aが50~80wt%であり、成分Bが10~30wt%であり、成分Cが5~25wt%である、上記1.~上記5.のいずれかに記載の洗浄用組成物。
7.上記1.~上記6.のいずれかに記載の洗浄用組成物を用いる洗浄方法。
8.洗浄槽(液層)での洗浄工程とリンス層(蒸気層)でのリンス工程を含み、洗浄槽(液層)とリンス層(蒸気層)との温度差が20℃以上である、上記7.に記載の洗浄方法。
9.上記1.~上記6.のいずれかに記載の洗浄用組成物を用いる、精密機械部品洗浄装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体関連部品、光学関連部品をはじめとする精密機械部品の洗浄に適した洗浄用組成物を提供することができ、特に、部品表面のサブミクロンサイズ(1μm以下)の微細なパーティクルまでも効果的に除去することができる。
また、本発明によれば、使用工程に蒸留操作があっても、成分の組成変化を少なくすることができることから、組成物の特性を維持することができ、また、組成物の回収や再利用にも都合の良い経済性にも優れる洗浄用組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、オゾン破壊係数が0であり、地球温暖化係数の非常に低い洗浄用組成物を提供することができ、また、引火の危険性が低く、安全性にも優れる洗浄用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の3成分非共沸性混合物について、洗浄槽(液層)の安定した組成を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の洗浄用組成物は、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロオレフィン又はハイドロクロロフルオロオレフィンである成分Aと、成分Aより高沸点である、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロオレフィン又はハイドロクロロフルオロオレフィンである成分Bと、水溶性有機溶媒である成分Cとを含み、非共沸性であることを特徴とする。
【0013】
本発明で使用されるハイドロフルオロカーボン(HFC)は、炭素、水素、フッ素を含む化合物であり、ハイドロフルオロエーテル(HFE)は、炭素、水素、フッ素を含み、さらにエーテル結合を含む化合物であり、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)は、炭素、水素、フッ素を含み、さらに2重結合を含む化合物であり、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)は、炭素、水素、フッ素、塩素を含み、さらに2重結合を含む化合物である。
【0014】
本発明で使用される成分Aは、好ましくは炭素数3~6、より好ましくは3~5の、ハイドロフルオロカーボン(例えば1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロブタン)ハイドロフルオロエーテル(例えばメチルパーフルオロプロピルエーテル、ノナフルオロブチルメチルエーテル)、ハイドロフルオロオレフィン(例えばZ-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzzZ)、1,1,1,2,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-2-ペンテン、1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-2-ペンテン、(2E)-1,1,1,4,5,5,5-ヘプタフルオロ-4-トリフルオロメチル-2-ペンテン)、ハイドロクロロフルオロオレフィン(例えばシス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)などが好適に用いられ、中でも好ましくはハイドロフルオロオレフィンであり、とりわけ、沸点が室温に近く、低温度で超音波効果が発揮できることから、HFO-1336mzzZ、1,1,1,2,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-2-ペンテン、1,1,1,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロ-2-ペンテンが好ましく、HFO-1336mzzZが特に好ましい。
【0015】
成分Aの沸点は、25~65℃であることが好ましく、より好ましくは30~40℃である。沸点が低すぎると、蒸気層中の成分Aが増加するため、蒸気層温度が低下し、被洗物表面上の凝縮量が減少し、蒸気リンス効果が低下する。沸点が高すぎると、洗浄槽での成分Aが減少し、洗浄槽中の組成物の沸点が上昇し、低温洗浄を試みる場合、溶存酸素濃度が増加し、超音波効果が低減することから、洗浄パフォーマンスの低下を招く。
【0016】
本発明で使用される成分Bは、成分Aより高沸点であり、好ましくは炭素数3~9、より好ましくは5~8の、ハイドロフルオロカーボン(例えば1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン、1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロヘプタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロヘプタン)、ハイドロフルオロエーテル(例えば1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)ペンタン、ヘプタフルオロプロピル-2-(1,2,2,2-テトラフルオロエトキシ)-1-トリフルオロメチル-1,2,2-トリフルオロエチルエーテル)、ハイドロフルオロオレフィン(例えばメトキシパーフルオロヘプテン、1,1,1,2,2,5,5,6,6,7,7,7-ドデカフルオロ-3-ペンテン、1,1,1,2,2,3,3,6,6,7,7,8,8,8-テトラデカフルオロ-4-オクテン)、ハイドロクロロフルオロオレフィン(例えば2-クロロ-3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキセン、1-クロロ-3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキセン)であり、好ましくはハイドロフルオロオレフィンであり、中でも、メトキシパーフルオロヘプテン、1,1,1,2,2,3,3,
6,6,7,7,8,8,8-テトラデカフルオロ-4-オクテンが好ましく、メトキシパーフルオロヘプテンが特に好ましい。
【0017】
成分Bの沸点は、65~120℃であることが好ましく、より好ましくは100~120℃である。沸点が高すぎると、蒸留槽(蒸気発生槽)からの揮発するB成分が減少し、蒸気層形成を維持するために必要な蒸気量が減少し、最終蒸気リンス効果の低下を招く。これは蒸気層形成を維持するために蒸留槽(蒸気発生槽)のヒーターを増強することで解決されるが、ヒーター能力増強による電力消費の増加、蒸気層温度の高温化による被洗物の材質への影響を生じる。また、洗浄槽中のB成分が増加し、洗浄槽の沸点が上昇すると、溶存酸素量が増加し、これにより超音波効果が低下する。そして、これを避けるために洗浄槽温度を上昇させると、被洗物への影響を生じ、また、高温になりすぎると後の工程の間に冷却工程が必要となり、さらに、蒸気層温度、洗浄槽温度の上昇に伴って凝縮管能力の増強も必要となる。沸点が低すぎると、蒸気層温度が低下し、それに伴って凝縮量が減少するため、蒸気リンス効果の低下を招く。
【0018】
本発明で使用される成分Cの水溶性有機溶媒は、水溶性の有機系溶剤であり、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、1-プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリン)、エーテル類(例えばジエチルエーテル(完全相溶ではない)、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン)、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン)、アルデヒド類(例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド)、エステル(例えば酢酸メチル、酢酸エチル等)、カルボン酸(例えばギ酸、酢酸等)が挙げられ、好ましくは、アルコール類であり、中でも、エタノール、IPAが好ましく、エタノールが特に好ましい。成分Cの添加により、洗浄用組成物の体積抵抗率を低下させ、静電気によるパーティクルの付着・再付着を抑制できる。
【0019】
成分Cの沸点は、30~120℃であることが好ましく、より好ましくは70~90℃である。沸点が高すぎると、蒸気温度が上昇して、本発明の主な洗浄対象物である精密電子デバイスや光学部品へのダメージが懸念される。また、乾燥に熱や時間がよりかかるようになることから、洗浄後の乾燥性が悪化する。沸点が低すぎると、室温付近で蒸発してしまうため、常温におけるハンドリングが悪化する。
【0020】
本発明の洗浄用組成物は、必要に応じて安定化剤を含んでいてもよい。安定化剤としては、ニトロアルカン類、エポキシド類、フラン類、ベンゾトリアゾール類、フェノール類、アミン類、ホスフェイト類から選ばれる少なくとも1種を含むことができる。安定化剤としては、従来クロロフルオロカーボン類に用いられてきたものから、適宜選択して用いることができる。これらの安定化剤の配合量は、組成物に対して0.01~5wt%、好ましくは0.05~0.5wt%である。
【0021】
目的に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で第3、第4のフッ素系有機溶剤や、水溶性有機溶媒を添加してもよく、また例えばレジスト等有機系異物が微粒子と併せて存在する場合には、それらの除去を目的としてそれらに対する親和性が強いフッ素系有機溶剤を添加しても良い。
【0022】
本発明の洗浄用組成物は、成分Aと成分Bと成分Cの3成分の非共沸性混合物であることを特徴とする。本発明において、非共沸性である組成物とは、共沸またはそれに近い挙動(共沸様)を示さない組成物を意味する。
【0023】
共沸を示す組成物(共沸組成物)とは、2つ以上の異なる成分の混合剤であり、それは、所与の圧力下で液体形態にあるとき、実質的に一定温度で沸騰し、その温度は、個々の
成分の沸騰温度より高いかまたは低くてもよく、かつ、それは沸騰中の全体液体組成と本質的に同一である蒸気組成を提供する組成物である(例えば、M.F.DohertyandM.F.Malone、ConceptualDesignofDistillationSystems、McGraw-Hill(NewYork)、2001年、185~186、351~359頁を参照されたい)。
【0024】
また、共沸に近い挙動(共沸様)を示す組成物(共沸様組成物)とは、実質的に温度差なしの液相線および気相線を示す組成物である。すなわち、所与の圧力下での液相温度と気相温度との差は小さな値であり、(最低共沸点を基準として)2℃以下の液相温度との差の組成物は共沸様組成物であると考えられる。
【0025】
さらに、あるシステムの相対揮発度が1.0に近づくときに、そのシステムが共沸もしくは共沸様組成物を形成すると定義されることはこの分野で認められている。相対揮発度は、成分1の揮発度対成分2の揮発度の比である。蒸気中のある成分のモル分率対液体中のそれの比がその成分の揮発度である。
【0026】
本発明の洗浄用組成物は、成分Aと成分Bと成分Cの3成分の非共沸性混合物であればよく、組成の安定性の観点から、成分Aと成分Cが共沸組成を形成でき、かつ、成分Bと成分Cが共沸組成を形成できる組成物が好ましい。この場合、蒸留槽(蒸気発生槽)の組成が万一ずれても、リンス層(蒸気層)、洗浄槽の組成を一定に保つことができ、逆に組成のずれは蒸留槽のみであり、蒸留槽がいわばバッファーの役目を果たす。
【0027】
本発明の洗浄用組成物に含まれる成分A、成分B、成分Cの配合量は、組成物が非共沸であれば特に限定されず、好ましくは、組成物に対して成分Aが50~80wt%であり、成分Bが10~30wt%であり、成分Cが5~25wt%である。
【0028】
成分Aが少なすぎる場合、蒸気層および洗浄槽の主成分が成分B及び成分Cとなり、成分Bと成分Cが共沸を形成できないと、成分Cが主成分となるため、成分Cとしてアルコール類等を使用した場合、蒸気層で引火の危険性が増す。さらに、洗浄槽で成分Aと成分Bのフッ素系溶剤の特徴でありかつパーティクル除去洗浄のキー要因である、低粘度、低表面張力、高密度という特性が失われ、洗浄性能の低下を招く。一方、成分Aが多すぎる場合、成分Cとしてアルコール類等を使用すると、アルコール分が殆ど成分Aとの共沸で循環してしまい、成分Bはアルコールとの共沸化合物を形成することができず、蒸気発生槽(沸騰槽)内にとどまる。すなわち、蒸気層中の成分Bの存在量が低下し、蒸気層温度が低下するため、最終リンス工程における蒸気凝縮量の低下を招き、リンス効果が低下する。
【0029】
成分Bが少なすぎる場合、蒸気温度が低くなり、洗浄槽と蒸気層の温度差が少なくなり、蒸気リンス効果が低下する。また、大気中に水分を呼び込みやすくなり、品質の低下を招く。一方、成分Bが多すぎる場合、蒸気温度が上昇して、本発明の主な洗浄対象物である精密機械部品へのダメージが懸念される。
【0030】
成分Cが少なすぎる場合、静電気抑制が不十分となり、汚染物質の再付着により洗浄性が低下する。また、大気等から混入した水分が洗浄プロセス中に被洗物に付着すると、水溶性有機溶媒である成分Cにより溶解されず、被洗物表面に残留するといった不具合が起こる可能性がある。成分Cが多すぎる場合、組成物が引火性となり、安全性に懸念が生じる。また、組成物の粘度や表面張力が上昇し、洗浄効果が低下するほか、組成物の比重の低下によっても、洗浄効果が低下する。
【0031】
本発明の洗浄用組成物は、環境的に許容することができ、地球の成層圏オゾン層の破壊
に寄与しないことが好ましい。成分A、成分B及び本発明の洗浄用組成物は、小さいオゾン層破壊係数(ODP)、好ましくは約0.1以下、より好ましくは約0.05以下、更に好ましくは約0.02以下、最も好ましくは約0のODP;及び/又は約100以下の地球温暖化係数(GWP)、好ましくは約50以下、より好ましくは約10以下のGWPを有する。好ましくは、ODPとGWPの両方の基準が本組成物によって満足される。
【0032】
本明細書において用いるODPは、世界気象協会のレポートである"Scientific Assessment of Ozone Depletion, 2002"(参照により本明細書中に包含する)において定義されている。
【0033】
本明細書において用いるGWPは、二酸化炭素のものに対して100年間の時間範囲にわたって定義されるものであり、上記のODPに関するものと同じ参照文献において定義されている。
【0034】
本発明の洗浄用組成物は、精密機械部品、例えば、半導体関連部品、光学関連部品、電子部品、表面処理部品等、特に、半導体関連部品、光学関連部品の、パーティクル(異物微粒子)、油脂、フラックスなどの洗浄に使用することができ、特に、部品表面のサブミクロンサイズ(1μm以下)の微細なパーティクルを効果的に除去することができる。
【0035】
洗浄方法としては、常温洗浄法での拭い落とし、浸漬、はけ洗い、フラッシュ、スプレー、超音波洗浄、又は加熱洗浄法での沸騰状態での浸漬、蒸気すすぎ、蒸気洗浄等、従来から用いられている方法を採用でき、これらを適宜組み合わせることにより更に効果的に洗浄することができる。本発明の洗浄用組成物は、特に、超音波洗浄、蒸気すすぎ、蒸気洗浄に好適に用いることができる。
【0036】
例えば、本発明の洗浄方法は、本発明の洗浄用組成物で満たされた洗浄槽(液層)と蒸留槽(蒸気発生槽)を備えた洗浄装置において、洗浄槽(液層)に被洗物を浸漬して超音波洗浄を行う洗浄工程と、洗浄工程後に引き上げて、蒸留槽(蒸気発生槽)から発生する蒸気により形成されるリンス層(蒸気層)でリンスする(すすぐ)リンス工程を含む。リンス工程において、被洗物表面に凝縮生成されたクリーンな加熱蒸気により洗浄効果が得られる。
【0037】
洗浄槽の温度は、15~35℃が好ましく、より好ましくは20~25℃である。蒸気リンス層の温度は、35~65℃が好ましく、より好ましくは40~60℃である。
【0038】
洗浄槽とリンス層との温度差は、20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明の組成物は、不燃性のフッ素系有機溶剤(成分A及び成分B)を多く含む(好ましくは75wt%以上)ことから、引火性を低くすることができ、安全性にも優れる。
【実施例
【0040】
以下に本発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、これらの説明は本発明を限定するものではない。
【0041】
本実施例及び比較例には、以下の試薬を使用した。
成分A
Z-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzzZ)(Chemours社製 OpteonTM1100)<沸点:33℃>
成分B
メトキシパーフルオロヘプテン(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製 OpteonTMSF10)<沸点:110.5℃>
成分C
エタノール(和光1級)<沸点:78.37℃>
【0042】
本実施例及び比較例には、以下の方法を使用した。
パーティクル除去能測定方法
市販の6インチのシリコンベアウェハー(アドバンスマテリアルテクノロジ株式会社より購入)に、ステンレス(SUS)板を切削して製造したSUS粉末1gを100mlのIPA(和光特級)に分散させて得られた分散液2mlを、コータ(共同インターナショナル、多目的スピンコータ POLOS)を使用して1000-2000rpmで回転させながら滴下して、パーティクルで汚染したシリコンウェハーを作成した。
ウェハ検査装置(山梨技術工房製、YPI-MX-Θ)にて、ウェハ上の金属粉数(パーティクル数)を計測した。
次いで、ベーパーディグリーザー(YMP製2槽式洗浄機 SK-14Y-1617)にて以下の条件でウェハ洗浄を行った。
条件:
・超音波周波数:170kHz(第1洗浄槽及び第2洗浄槽)
・超音波出力:150W(第1洗浄槽)、250W(第2洗浄槽)
・超音波洗浄時間:120秒(第1洗浄槽及び第2洗浄槽)
・蒸気洗浄時間:60秒
洗浄後のウェハについて、同様にウェハ検査装置にてウェハ上のパーティクル数を計測し、洗浄前後のパーティクル数の差異をパーティクル除去能とした。
【0043】
洗浄用組成物の組成経時変化測定方法
連続運転中のベーパーディグリーザーの第1洗浄槽及び第2洗浄槽から洗浄用組成物をサンプリングし、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製 GC2014A)を用いて検量線法にて組成を分析した。
【0044】
実施例1
成分A、成分B、成分Cを60:25:15の質量比で混合し、非共沸性混合物を得た。得られた混合物は、3成分では非共沸性であるが、成分Aと成分Cは97:3で共沸組成を形成でき、成分Bと成分Cは60:40で共沸組成を形成できる。
得られた非共沸性混合物を使用してパーティクル除去能を測定した。結果を下表1に示す。
また、得られた非共沸性混合物について、第1及び第2洗浄槽(液層)での組成経時変化を図1に示す。
【0045】
実施例2
成分A、成分B、成分Cを70:15:15の質量比で混合し、非共沸性混合物を得た。
得られた非共沸性混合物を使用してパーティクル除去能を測定した。結果を下表1に示す。
【0046】
比較例1
成分A、成分Cを97:3の質量比で混合し、共沸性混合物を得た。
得られた混合物を使用してパーティクル除去能を測定した。結果を下表1に示す。
【0047】
比較例2
成分A、成分Cを含む市販の共沸様混合物(3M社製 NovecTM 71IPA、成分A:NovecTM 7100 ハイドロフルオロエーテル C49OCH395%、及び、成分C:イソプロピルアルコール5%からなる共沸様組成物)を使用してパーティクル除去能を測定した。結果を下表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例1、2の非共沸性混合物は、比較例1、2の混合物と比較して、特に、より微細なパーティクル(サブミクロンサイズのパーティクル)に対する除去率が高かった。
図1