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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】遮蔽体の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20220721BHJP
   G21F 1/00 20060101ALI20220721BHJP
   G01T 1/16 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
G21C17/00 500
G21F1/00
G01T1/16 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018243643
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020106335
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】中川 清七
(72)【発明者】
【氏名】林 知得
(72)【発明者】
【氏名】上山 正彦
(72)【発明者】
【氏名】大崎 将司
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0001430(US,A1)
【文献】特開平09-243794(JP,A)
【文献】特開2001-004747(JP,A)
【文献】特開2014-137361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00
G21F 1/00
G01T 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を遮蔽する遮蔽体の検査方法であって、
放射線源からの距離と前記放射線源から放射される放射線の線量との相関を示す線量距離相関データを取得する相関データ取得工程と、
設置すべき前記遮蔽体の設置位置から前記設置位置の第一側に離間させた放射線源で放射線を放射した場合に、前記設置位置の第二側に設定される前記放射線源からの距離が互いに異なる複数の検査位置のそれぞれにおける線量の基準値を、前記放射線源とそれぞれの前記検査位置との距離、及び前記線量距離相関データに基づいて取得する線量基準値取得工程と、
前記設置位置に設置された前記遮蔽体の第一側に前記放射線源を配置するとともに、前記遮蔽体の第二側に検出器を配置し、前記遮蔽体の第二側の複数の前記検査位置のそれぞれにおいて、前記放射線源から放射された放射線が前記遮蔽体を通過した通過線量を前記検出器により検出する通過線量検出工程と、
前記通過線量検出工程で通過線量を検出したそれぞれの前記検査位置において、前記線量基準値取得工程で取得された線量の基準値と前記通過線量検出工程で検出された通過線量とに基づいて、前記遮蔽体による放射線の減衰率を取得する減衰率取得工程と、
前記減衰率が予め定めた閾値以下か否かを判定する判定工程と、を備える
遮蔽体の検査方法。
【請求項2】
前記通過線量検出工程は、
前記放射線源を固定したまま、複数の前記検査位置における通過線量の検出を行う
請求項1の遮蔽体の検査方法。
【請求項3】
前記相関データ取得工程は、
前記放射線源から放射線を放射したときの線量を、前記設置位置に設置すべき前記遮蔽体の第二側の表面に相当する仮想面に沿った複数の位置、又は前記放射線源からの距離を直線的に変更した複数の位置で検出し、
複数の前記位置のそれぞれにおける前記線量の検出値、及びそれぞれの前記位置と前記放射線源との距離の相関関係に基づいて、複数の前記位置とは距離が異なる他の位置における線量を演算することにより、前記線量距離相関データを取得する
請求項1又は2に記載の遮蔽体の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遮蔽体の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質の保管、運搬、取り扱い等を行う場合、作業者の被曝を抑えるため、放射性物質から放射される放射線の濃度を測定している。例えば、特許文献1には、ゲルマニウム検出器により、放射線量(線量)を検出する構成が開示されている。
【0003】
このような放射性物質は、所定の放射性遮蔽性能を有した遮蔽体によって区画された収容空間に収容される。収容空間外への放射線の漏洩を抑えるため、上記遮蔽体は、所定の放射線遮蔽性能を有しているか否かの検査を行う必要がある。
【0004】
遮蔽体の検査を行うには、遮蔽体を挟んだ第一側に放射線の線源を配置し、遮蔽体を挟んだ第二側に検出器を配置する。検出器は、遮蔽体を挟んだ第二側で、線源から放射されて遮蔽体を通過した放射線の線量を検出する。線源から放射された線量と、検出器で検出された線量とから、遮蔽体による放射線の減衰率が求められる。遮蔽体が所定の放射線遮蔽性能を有しているか否かは、この減衰率に基づいて判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-230051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したような遮蔽体の検査を行う際、遮蔽体の第一側と第二側とで、放射線の線源と検出器とが、遮蔽体の表面に沿った方向にずれていると、減衰率の検出精度が低下してしまう。このため、放射線の線源と検出器とを、遮蔽体を挟んだ第一側と第二側とで正確に対向させる必要がある。遮蔽体の検査は、遮蔽体の全面にわたって行う。したがって、遮蔽体の検査位置は、遮蔽体の表面に沿って間隔をあけた多数の位置に設定される。これら多数の検査位置のそれぞれで、遮蔽体を挟んで放射線の線源と検出器とを正確に位置合わせするには、手間がかかる。また、遮蔽体の表面が平面ではなく、凹凸が設けられていたり他の壁が接続されたりしている場合等には、遮蔽体の第一側と第二側とで、線源や検出器の位置を正確に把握するのが困難となる可能性がある。
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、遮蔽体の検査を効率良く行うことができる遮蔽体の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
この発明の第一態様によれば、遮蔽体の検査方法は、放射線を遮蔽する遮蔽体の検査方法であって、相関データ取得工程と、線量基準値取得工程と、通過線量検出工程と、減衰率取得工程と、判定工程と、を備える。前記相関データ取得工程は、放射線源からの距離と前記放射線源から放射される放射線の線量との相関を示す線量距離相関データを取得する。前記線量基準値取得工程では、設置すべき前記遮蔽体の設置位置から前記設置位置の第一側に離間させた放射線源で放射線を放射した場合に、前記設置位置の第二側に設定される前記放射線源からの距離が互いに異なる複数の検査位置のそれぞれにおける線量の基準値を取得する。複数の検査位置のそれぞれにおける線量の基準値の取得は、前記放射線源とそれぞれの前記検査位置との距離、及び前記線量距離相関データに基づいて行う。前記通過線量検出工程では、前記設置位置に設置された前記遮蔽体の第一側に前記放射線源を配置するとともに、前記遮蔽体の第二側に検出器を配置する。前記通過線量検出工程では、前記遮蔽体の第二側の複数の前記検査位置のそれぞれにおいて、固定状態の前記放射線源から放射された放射線が前記遮蔽体を通過した通過線量を前記検出器により検出する。前記減衰率取得工程では、前記通過線量検出工程で通過線量を検出したそれぞれの前記検査位置において、前記線量基準値取得工程で取得された線量の基準値と前記通過線量検出工程で検出された通過線量とに基づいて、前記遮蔽体による放射線の減衰率を取得する。前記判定工程は、前記減衰率が予め定めた閾値以下か否かを判定する。
【0008】
このように構成することで、線量基準値取得工程では、放射線源から放射線を放射した場合における、遮蔽体の設置位置の第二側に設定される複数の検査位置での線量を、放射線源と各検査位置との距離と、線量距離相関データとに基づいて取得する。予め、放射線源からの距離と線量との相関を線量距離相関データとして取得しておくことで、放射線源からの距離が互いに異なる複数の検査位置のそれぞれにおいて、遮蔽体を設置していない状態での線量の基準値を得ることができる。したがって、遮蔽体の設置前に、複数の検査位置に放射線源から放射線を放射して、遮蔽体を設置していない状態での線量を計測する手間を抑えることができる。
また、通過線量検出工程では、放射線源から放射された放射線の通過線量を、遮蔽体の第二側の検査位置で検出する。ここで、線量基準値取得工程では、放射線源からの距離が互いに異なる複数の検査位置の線量の基準値を取得している。したがって、通過線量検出工程において、複数の検査位置で検出器と放射線源との距離が互いに異なっていても、減衰率取得工程での減衰率を取得することができる。これにより、各検査位置で線量の検出を行うに際し、検出器と放射線源との双方を検査位置に移動させる必要がなく、放射線源を固定状態とし、検出器のみを複数の検査位置に配置すればよい。したがって、放射線源を検査位置に応じて移動させ、検出器との位置関係を正確に調整する必要が抑えられる。その結果、遮蔽体の検査を効率良く行うことが可能となる。
【0009】
この発明の第二態様によれば、第一態様に係る前記通過線量検出工程は、前記放射線源を固定したまま、複数の前記検査位置における通過線量の検出を行うようにしてもよい。
このように構成することで、放射線源を固定したまま、複数の検査位置における通過線量の検出を行うことによって、放射線源を検査位置に応じて移動させ、検出器との位置関係を正確に調整する必要が抑えられる。その結果、遮蔽体の検査を効率良く行うことが可能となる。
【0010】
この発明の第三態様によれば、第一又は第二態様に係る前記相関データ取得工程は、前記放射線源から放射線を放射したときの線量を、前記設置位置に設置すべき前記遮蔽体の第二側の表面に相当する仮想面に沿った複数の位置、又は前記放射線源からの距離を直線的に変更した複数の位置で検出する。前記相関データ取得工程は、複数の前記位置のそれぞれにおける前記線量の検出値、及びそれぞれの前記位置と前記放射線源との距離の相関関係に基づいて、複数の前記位置とは距離が異なる他の位置における線量を演算することにより、前記線量距離相関データを取得する。
このように構成することで、仮想面に沿った複数の位置で線量を検出すれば、放射線源からの距離が互いに異なる複数の位置における線量が検出される。また、放射線源からの距離を直線的に変更した複数の位置で線量を検出すれば、放射線源からの距離が互いに異なる複数の位置における線量が検出される。その検出結果に基づき、実際に放射線を放射して線量の検出を行った複数の位置とは距離が異なる他の位置における線量を演算で補間することができる。これにより、線量距離相関データを取得するに際し、実際に放射線を放射して線量を検出する位置の数を抑えることができる。これによっても、遮蔽体の検査を効率良く行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
上記遮蔽体の検査方法によれば、遮蔽体の検査を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の一実施形態における遮蔽体の検査方法の検査対象となる遮蔽体を用いて区画された空間の一例を示す図である。
図2】上記遮蔽体の一例を示す図であり、横方向に延びる遮蔽体を示す断面図である。
図3】上記遮蔽体の他の一例を示す図であり、縦方向に延びる遮蔽体を示す断面図である。
図4】この発明の第一実施形態における遮蔽体の検査方法のフローチャートである。
図5】上記遮蔽体の検査方法の相関データ取得工程における放射線源と検出器との配置を示す図である。
図6】上記相関データ取得工程における複数の位置での線量の検出の様子を示す平面図である。
図7】上記相関データ取得工程で取得された線量距離相関データの一例を示すグラフである。
図8】上記遮蔽体の検査方法の相関データ取得工程における放射線源と検出器との配置を示す図である。
図9】上記遮蔽体の検査方法の変形例の相関データ取得工程における、放射線源からの距離を直線的に変更した複数の位置で検出する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の一実施形態における遮蔽体の検査方法を図面に基づき説明する。
図1は、この発明の一実施形態における遮蔽体の検査方法の検査対象となる遮蔽体を用いて区画された空間の一例を示す図である。図2は、上記遮蔽体の一例を示す図であり、横方向に延びる遮蔽体を示す断面図である。図3は、上記遮蔽体の他の一例を示す図であり、縦方向に延びる遮蔽体を示す断面図である。
【0014】
図1に示すように、放射性物質の保管、運搬、取り扱い等を行う空間Sは、遮蔽体20A、20Bにより区画される。
図1図2に示すように、遮蔽体20Aは、横方向に延びて設置され、例えば、空間Sの床、天井等を構成する。遮蔽体20Aは、鋼板21と、鋼板21上に所定の厚さで敷設されたコンクリートからなるコンクリート層22と、を備えている。
【0015】
図1図3に示すように、遮蔽体20Bは、縦方向に延びて設置され、例えば、空間Sの壁等を構成する。遮蔽体20Bは、水平方向に間隔をあけて設けられた二枚一対の鋼板23と、これらの鋼板23の間に打設されて充填されたコンクリート層24と、を備えている。
【0016】
ここで、遮蔽すべき放射線がガンマ線である場合には、上記のように遮蔽体20A、20Bにコンクリート層22、24を用いる。遮蔽すべき放射線が中性子線である場合には、遮蔽体20A、20Bに、コンクリート層22、24に代えて、パラフィン(ポリエチレンを含む)からなるパラフィン層22P、24Pを設ける場合もある。また、遮蔽すべき放射線が中性子線である場合においても、遮蔽体20A、20Bに、コンクリート層22、24を用いる場合もある。
【0017】
このような遮蔽体20A、20B(以下、遮蔽体20A、20Bを、単に遮蔽体20と称する)により空間Sを区画することで、空間Sの外部への放射線の漏洩を抑える。
【0018】
次に、上記したような遮蔽体20の検査方法について説明する。
図4は、この発明の第一実施形態における遮蔽体の検査方法のフローチャートである。図5は、上記遮蔽体の検査方法の相関データ取得工程における放射線源と検出器との配置を示す図である。図6は、上記相関データ取得工程における複数の位置での線量の検出の様子を示す平面図である。
図4に示すように、本実施形態に係る遮蔽体20の検査方法は、相関データ取得工程S1と、線量基準値取得工程S2と、遮蔽体設置工程S3と、通過線量検出工程S4と、減衰率取得工程S5と、判定工程S6と、を含んでいる。遮蔽体20の検査方法では、遮蔽体20が所定の放射線遮蔽性能を有しているか否かを検査する。
【0019】
図5図6に示すように、遮蔽体20の検査方法では、放射線源101と、検出器102と、を用いる。
放射線源101は、遮蔽体20の検査用の放射線として、例えばガンマ線を放射する。放射線源101は、放射線の線源を収容する線源容器101aと、伝送管101bと、コリメータ101cと、を備えている。線源容器101aに収容する線源としては、例えば、対象となる放射線がガンマ線の場合、放射性同位元素60Co(コバルト60)等を用いることができる。対象となる放射線が中性子線の場合、線源としては、放射性同位元素252Cf(カリホルニウム252)等を用いることができる。
放射線源101においては、線源容器101aに収容された線源が、伝送管101bを介してコリメータ101cに押し出されて移動する。コリメータ101cに移動した線源は、放射線を放射する。
【0020】
検出器102は、放射線の線量を検出する。対象となる放射線がガンマ線の場合、検出器102は、例えば、電離箱式サーベイメータ等を用いることができる。対象となる放射線が中性子線の場合、検出器102は、例えば、中性子サーベイメータ等を用いることができる。
【0021】
相関データ取得工程S1では、放射線源101からの距離と放射線源101から放射される放射線の線量との相関を示す線量距離相関データを取得する。相関データ取得工程S1は、遮蔽体20を設けていない状態で、放射線源101から放射された放射線の線量を、複数位置で検出する。
【0022】
相関データ取得工程S1では、放射線源101を予め定めた位置関係で配置する。具体的には、放射線源101のコリメータ101cは、設置すべき遮蔽体20の設置予定位置(設置位置)Pから、遮蔽体20の第一側(図5図6において紙面右側)に離間させた位置Rに配置する。ここで、後に実施する線量検出工程S4に備え、コリメータ101cを設置した位置Rを示すため、床面等にマーキングを施しておくようにしてもよい。
検出器102は、遮蔽体20の設置予定位置Pに対し、設置予定位置Pに設置すべき遮蔽体20の第二側(遮蔽体20を挟んで第一側の反対側)の表面20fに相当する仮想面Vに沿った位置に配置する。
【0023】
図6に示すように、このようにして放射線源101と検出器102とを配置した後、仮想面Vに沿った複数の位置Xのそれぞれで、放射線源101のコリメータ101cから放射される放射線の線量D0を、検出器102により検出する。これには、放射線源101を位置Rに固定したまま、検出器102を、仮想面Vに沿った複数の位置Xに移動させて、各位置Xで線量D0の検出を行う。
【0024】
具体的には、まず、検出器102を、放射線源101に正対した位置(放射線源101からの距離Lが最も近い位置)X1に配置する。この状態で、検出器102により、放射線源101のコリメータ101cから放射される放射線の線量D0を検出する。
【0025】
次に、検出器102を、放射線源101に正対した位置X1から、仮想面Vに沿って一方向(例えば、上下方向)に、所定寸法、例えば100~200mm離間した位置X2に移動させる。この状態で、検出器102により、放射線源101のコリメータ101cから放射される放射線の線量D0を検出する。
【0026】
この後、検出器102の位置を、仮想面Vに沿って所定寸法ずつ移動させ、それぞれの位置Xで、コリメータ101cから放射される放射線の線量を検出することを順次繰り返していく。
このようにして、位置Rに固定した放射線源101のコリメータ101cから放射される放射線の線量D0を、仮想面Vに沿って検出器102を移動させることで、複数の位置Xで検出する。
【0027】
ここで、線量D0の検出は、例えば、仮想面Vに沿う一直線上に間隔をあけた複数の位置Xで行えばよい。もちろん、線量D0の検出は、例えば、仮想面Vに沿う面内であれば、上下方向に間隔をあけた複数の位置Xで行ってもよいし、上下方向及び水平方向に間隔をあけたグリッド状の複数の位置Xで行ってもよい。
なお、上記の複数の位置Xにおける線量D0の検出は、遮蔽体20の設置場所とは異なる場所で実施してもよいが、遮蔽体20が設置されるのと空間線量が同程度の近隣区画で実施するのが好ましい。
【0028】
次に、相関データ取得工程S1では、複数の位置Xのそれぞれで検出された線量D0に基づき、放射線源101からの距離Lと放射線源101から放射される放射線の線量D0との相関を示す線量距離相関データを演算により取得する。これには、複数の位置Xのそれぞれにおける放射線源101のコリメータ101cからの距離Lと、複数の位置Xで検出された線量D0とに相関関係に基づいて、複数の位置Xとは距離Lが異なる他の位置(例えば位置X1と位置X2との間の位置)の線量を、適宜の補間演算式により演算して取得する。
【0029】
図7は、上記相関データ取得工程で取得された線量距離相関データの一例を示すグラフである。
この図7に示すように、線量距離相関データKでは、放射線源101のコリメータ101cからの距離が大きくなるにしたがって、線量は小さくなる傾向にある。
【0030】
図8は、上記遮蔽体の検査方法の相関データ取得工程における放射線源と検出器との配置を示す図である。
線量基準値取得工程S2では、通過線量検出工程S4で通過線量D2の検出を行う複数の検査位置Mのそれぞれにおける線量の基準値D1を取得する。図8に示すように、複数の検査位置Mは、仮想面Vに沿う複数位置に設定される。複数の検査位置Mは、例えば水平方向及び上下方向に間隔をあけたグリッド状に設定(計画)される。
線量基準値取得工程S2で線量の基準値D1を取得するには、遮蔽体20が無い状態で、遮蔽体20の設置予定位置Pから第一側に離間させた放射線源101で放射線を放射した場合における、検査位置Mにおける線量値を特定する。複数の検査位置Mのそれぞれにおける線量の基準値D1の取得は、放射線源101とそれぞれの検査位置Mとの距離L、及び線量距離相関データKに基づいて行う。具体的には、各検査位置Mと放射線源101のコリメータ101cを設置した位置Rとの距離Lは、設計図面情報等から算出することができる。算出された各検査位置Mにおける距離Lを元に、図7に示したような線量距離相関データKを参照することで、各検査位置Mにおける距離Lに応じた線量の基準値D1が特定できる。
【0031】
遮蔽体設置工程S3では、遮蔽体20を所定の場所に設置する。図2に示すように、遮蔽体20Aは、鋼板21上に、コンクリートを所定の厚さで打設し、所定期間養生させてコンクリート層22を形成する。図3に示すように、遮蔽体20Bは、水平方向に間隔をあけて設けられた二枚一対の鋼板23の間に、コンクリートを打設して充填し、所定期間養生させてコンクリート層24を形成する。
【0032】
通過線量検出工程S4は、図8に示すように、遮蔽体20を設置した状態で、コリメータ101cから放射され、遮蔽体20を通過した放射線の線量を、複数の検査位置Mで検出器102によって実際に検出する。
これには、遮蔽体20の第一側の位置Rに放射線源101を配置させ、遮蔽体20の第二側に検出器102を配置する。放射線源101のコリメータ101cは、線量基準値取得工程S2で施したマーキングに合わせて設置すれば、位置Rに容易に正確に位置決めできる。
【0033】
検出器102は、遮蔽体20の第二側の表面20fに密着させる。検出器102は、まず、例えば、遮蔽体20を挟んで、コリメータ101cと正対する検査位置M1に配置する。
この状態で、検出器102は、放射線源101から放射され、遮蔽体20を通過した放射線の通過線量D2を検出する。
【0034】
次いで、放射線源101を位置Rに固定したまま、検出器102の位置を、遮蔽体20の第二側の表面20fに沿う面内で移動させる。具体的には、検出器102を、表面20fに沿った面内で、検査位置M1から所定寸法、例えば50mm離間した検査位置M2に移動させる。この状態で、放射線源101のコリメータ101cから放射される放射線の通過線量D2を、検査位置M2の検出器102により検出する。
【0035】
その後、検出器102の位置を、表面20fに沿った面内で所定寸法ずつ移動させ、それぞれの検査位置Mで通過線量D2を検出することを、順次繰り返していく。
このようにして、位置Rに固定した放射線源101のコリメータ101cから放射される放射線の線量を、複数の検査位置Mにおいて検出器102で実際に検出する。
【0036】
図8においては、遮蔽体20として、縦方向に設置される遮蔽体20Bを例示した。遮蔽体20が、横方向に延びる遮蔽体20Aである場合、放射線源101、検出器102は、遮蔽体20を上下方向の第一側と第二側とに配置して通過線量D2の検出を行う。
【0037】
減衰率取得工程S5は、遮蔽体20による放射線の減衰率DLを取得する。これには、通過線量検出工程S4で検出された複数の検査位置Mにおける通過線量D2と、線量基準値取得工程S2で取得した各検査位置Mにおける線量の基準値D1とに基づき、各検査位置Mにおける減衰率DLを算出する。
減衰率DLは、取得された複数の検査位置Mにおける線量の基準値D1に対する通過線量検出工程S4での検出値(通過線量D2)の比により算出される。
すなわち、
減衰率DL=D2/D1
である。
【0038】
ここで、相関データ取得工程S1において、遮蔽体20が無い状態における、空間Sの空間線量D3を検出しておいてもよい。この場合、線量基準値取得工程S2での検出値(線量の基準値D1)、通過線量検出工程S4での検出値(通過線量D2)を、それぞれ空間線量D3で補正する。すなわち、
減衰率DL=(D2-D3)/(D1-D3)
とすることができる。
【0039】
判定工程S6は、減衰率取得工程S5で取得された遮蔽体20の複数の検査位置Mにおける減衰率DLが、予め定めた減衰率の閾値以下か否かを判定する。全ての検査位置Mにおける減衰率DLが、予め定めた閾値以下である場合、検査対象の遮蔽体20の放射線遮蔽性能が所定の基準を満たしていると判定する。全ての検査位置Mのうち、少なくとも一部の位置における減衰率DLが、予め定めた閾値以上であった場合、検査対象の遮蔽体20の放射線遮蔽性能は、所定の基準を満たしていないと判定する。ここで、遮蔽体20は、その設置場所や用途等によって、要求される放射線遮蔽性能が複数種類設定されている場合がある。その場合、遮蔽体20に求められる放射線遮蔽性能の種類に応じて、上述した「予め定めた減衰率の閾値」が複数設定されることとなる。
【0040】
この実施形態における遮蔽体20の放射線遮蔽性能の検査では、空間Sを区画する遮蔽体20(遮蔽体20A、20B)のそれぞれに対して、上記一連の工程S1~S6を順次実施する。
【0041】
上述したように、この実施形態の遮蔽体20の検査方法では、予め、相関データ取得工程S1で、放射線源101からの距離Lと線量との相関を線量距離相関データKとして取得しておく。線量基準値取得工程S2では、放射線源101から放射線を放射した場合における、複数の検査位置Mでの線量の基準値D1を、放射線源101と各検査位置Mとの距離Lと、線量距離相関データKとに基づいて取得する。これにより、放射線源101からの距離Lが互いに異なる複数の検査位置Mのそれぞれにおいて、遮蔽体20を設置していない状態での線量の基準値D1を、実際に線量の計測を必ずしも行うこと無く、容易に得ることができる。したがって、遮蔽体20の設置前に、複数の検査位置Mに放射線源101から放射線を放射して、遮蔽体20を設置していない状態での線量の基準値D1を計測する手間を抑えることができる。
【0042】
この実施形態の通過線量検出工程S4では、放射線源101から放射された放射線の通過線量D2を、遮蔽体20の第二側の検査位置Mで検出する。この線量基準値取得工程S2では、放射線源101からの距離Lが互いに異なる複数の検査位置Mの線量の基準値D1を取得している。したがって、通過線量検出工程S4において、複数の検査位置Mで検出器102と放射線源101との距離Lが互いに異なっていても、減衰率取得工程S5での減衰率DLを取得することができる。これにより、各検査位置Mで通過線量D2の検出を行うに際し、検出器102と放射線源101との双方を検査位置Mに移動させる必要がなく、検出器102のみを検査位置Mに移動させて配置すればよい。したがって、放射線源101を検査位置Mに応じて移動し、検出器102との位置関係を正確に調整する必要が抑えられる。その結果、遮蔽体20の検査を効率良く行うことが可能となる。
【0043】
この実施形態の通過線量検出工程S4では、放射線源101を固定したまま、複数の検査位置Mにおける通過線量の検出を行うことによって、遮蔽体20の検査を効率良く行うことができる。
【0044】
この実施形態の相関データ取得工程S1では、仮想面Vに沿う複数の位置Xで、実際に放射線を放射したときの線量D0を検出し、それ以外の他の位置の線量については、演算で補間することによって線量距離相関データKを取得する。これにより、線量距離相関データKを取得するに際し、実際に放射線を放射して線量を検出する位置Xの数を抑えることができる。これによっても、遮蔽体20の検査を効率良く行うことが可能となる。
【0045】
(実施形態の変形例)
上記実施形態の相関データ取得工程S1では、仮想面Vに沿う複数の位置Xで放射線を放射したときの線量D0を検出するようにしたが、これに限らない。
図9は、上記遮蔽体の検査方法の変形例の相関データ取得工程における、放射線源からの距離を直線的に変更した複数の位置で検出する方法を示す図である。
図9に示すように、この変形例の相関データ取得工程S1では、放射線源101のコリメータ101cからの距離L’を直線的に変更した複数の位置X’で、放射線の線量D0を検出する。
これにはまず、検出器102を、放射線源101のコリメータ101cから第一の距離L’1にある位置X’1に配置する。その後、放射線源101のコリメータ101cから放射される放射線の線量D0を、検出器102により検出する。
【0046】
次に、検出器102の位置を、位置X’1よりもコリメータ101cから所定寸法離間(又は接近)した位置に移動させ、コリメータ101cからの距離が第一の距離L’1とは異なる第二の距離L’2の位置X’2に配置する。その位置X’2で、放射線源101のコリメータ101cから放射される放射線の線量D0を、検出器102により検出する。
【0047】
この後、放射線源101のコリメータ101cから検出器102を直線的に所定寸法ずつ移動させ、それぞれの位置X’で、コリメータ101cから放射される放射線の線量D0を検出することを順次繰り返していく。
このようにして、位置Rに固定した放射線源101のコリメータ101cから放射される放射線の線量D0を、検出器102を直線的に変更した複数の位置X’で検出する。
【0048】
次に、相関データ取得工程S1では、複数の位置X’のそれぞれで検出された線量D0に基づき、放射線源101からの距離L’と放射線源101から放射される放射線の線量D0との相関を示す線量距離相関データを演算により取得する。これには、複数の位置X’のそれぞれにおける放射線源101のコリメータ101cからの距離L’と、複数の位置X’で検出された線量D0とに相関関係に基づいて、複数の位置X’とは距離L’が異なる他の位置(例えば位置X’1と位置X’2との間の位置)の線量を、適宜の補間演算式により演算して取得する。
このようにして、図7に示すような線量距離相関データKが取得される。
【0049】
この変形例の相関データ取得工程S1では、放射線源101からの距離L’を直線的に変更した複数の位置X’で、実際に放射線を放射したときの線量D0を検出し、それ以外の他の位置の線量については、演算で補間することによって線量距離相関データKを取得する。これにより、線量距離相関データKを取得するに際し、実際に放射線を放射して線量を検出する位置X’の数を抑えることができる。
また、複数の位置X’で線量D0を検出するには、放射線源101からの距離L’が異なるように検出器102を直線的に移動させればよい。上記実施形態のように仮想面Vに沿って検出器102を移動させる場合に比較し、検出器102の移動及び配置を容易に行うことができる。これによって、遮蔽体20の検査を、より効率良く行うことが可能となる。
【0050】
(その他の変形例)
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、通過線量検出工程S4で、放射線源101から放射された放射線の通過線量D2を、遮蔽体20の第二側の検査位置Mで検出するようにしたが、
遮蔽体20の第二側の複数の検査位置Mで、放射線の通過線量D2の検出を同時に行うようにしてもよい。
【0051】
また、例えば、上記実施形態では、遮蔽体20として、遮蔽体20A及び20Bを例示したが、その構造、形状は、上記したものに限らない。例えば、遮蔽体20の第一側や第二側の表面形状に凹凸等がある場合であっても、上記に説明した遮蔽体20の検査方法を適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
20、20A、20B 遮蔽体
20f 表面
21 鋼板
22、24 コンクリート層
22P、24P パラフィン層
23 鋼板
101 放射線源
101a 線源容器
101b 伝送管
101c コリメータ
102 検出器
D0 線量
D1 基準値
D2 通過線量
D3 空間線量
DL 減衰率
K 線量距離相関データ
L 距離
M、M1、M2 検査位置
P 設置予定位置
S 空間
S1 相関データ取得工程
S2 線量基準値取得工程
S3 遮蔽体設置工程
S4 通過線量検出工程
S4 線量検出工程
S5 減衰率取得工程
S6 判定工程
V 仮想面
X、X’ 位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9