(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】手術器具
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20220721BHJP
【FI】
A61F9/007 130G
(21)【出願番号】P 2018559461
(86)(22)【出願日】2017-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2017046437
(87)【国際公開番号】W WO2018123973
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2016253671
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【氏名又は名称】西本 博之
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】矢部 努
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳雄
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-529402(JP,A)
【文献】国際公開第2008/108425(WO,A1)
【文献】米国特許第06428539(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0053759(US,A1)
【文献】特開2013-052168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科用の手術器具であって、
液体を吸引可能なノズル部と、
前記ノズル部に固定された保持部と、を備え、
前記ノズル部は、
液体が通過する内側貫通孔が設けられた内管と、
前記液体が通過する外側貫通孔が設けられると共に、前記内管を収容し、且つ前記内管と共通の軸線を有する外管と、を備え、
前記保持部は、
前記内管に固定されると共に前記内管に連通する内流路が形成された可動体と、
前記外管に固定されると共に前記可動体を収容して前記可動体を回転自在に支持する筐体部と、を備え、
前記内側貫通孔の移動軌跡上に、前記外側貫通孔の少なくとも一部分が重なって配置されており、
前記可動体には、軸線に対して直交する方向に突出すると共に、前記筐体部を貫通して前記筐体部から露出した操作部が設けられており、
前記操作部には、前記軸線に沿った方向に貫通し、且つ前記軸線に沿った方向から見た場合に前記軸線を中心とした回転方向に沿って長いガイド孔が設けられており、
前記筐体部は、前記ガイド孔に挿通されて、前記ガイド孔内で相対移動可能なガイドロッドを備え、
前記ガイド孔は、前記軸線を中心とした回転方向に沿って延在する第1のガイド面と、前記第1のガイド面よりも前記軸線から離れており、且つ前記第1のガイド面に対向して延在する第2のガイド面と、前記第1のガイド面及び前記第2のガイド面の両端に設けられ、前記ガイドロッドに当接して前記ガイドロッドの相対移動を規制する一対のストッパ面とによって形成されており、
前記内管には、第1の前記内側貫通孔と第2の前記内側貫通孔が設けられており、
前記一対のストッパ面のうち、一方の前記ストッパ面に前記ガイドロッドが当接する位置では、前記第1の内側貫通孔と前記外側貫通孔とが重なっており、他方の前記ストッパ面に前記ガイドロッドが当接する位置では、前記第2の内側貫通孔と前記外側貫通孔とが重なっている、手術器具。
【請求項2】
前記内流路は、前記内管よりも内径が大きい拡大流路部を備え、
前記拡大流路部の前記軸線に沿った方向の長さは、前記内管の長さよりも長い、請求項
1記載の手術器具。
【請求項3】
前記第1の内側貫通孔と前記第2の内側貫通孔とは、前記軸線を中心に回転角が180°の位置に設けられている、請求項
1記載の手術器具。
【請求項4】
前記筐体部と前記可動体とは分離可能であり、
前記筐体部は、前記外管が固定された第1のケーシングと、前記操作部を挟んで前記第1のケーシングとは反対側の第2のケーシングとを備え、
前記ガイドロッドは、前記第1のケーシングに固定されたロッド本体と、前記ロッド本体の端に設けられ、前記第2のケーシングに着脱自在に取り付けられている頭部とを備える請求項
1または3記載の手術器具。
【請求項5】
前記ロッド本体は前記軸線に沿って延在する直線状であり、
前記頭部の外径は、前記ロッド本体の最大外径よりも大きく、
前記ガイド孔は、第1のガイド面と前記第2のガイド面との距離が、前記ロッド本体の最大外径よりも大きく、且つ前記頭部の外径よりも小さい第1の領域と、前記第1のガイド面と前記第2のガイド面との距離が、前記頭部の外径よりも大きい第2の領域とを備え、
前記第2の領域は、前記軸線を中心とした回転方向において、前記第1の領域よりも狭く、且つ前記軸線に沿って延在する、請求項
4記載の手術器具。
【請求項6】
前記可動体は、前記操作部から突出され、前記軸線に沿って前記第1のケーシングに着脱自在に収容される突出軸体と、前記突出軸体に装着され、前記第1のケーシングに接する環状のシール部材と、を備え、
前記第1のケーシングは、前記突出軸体を収容し、且つ前記シール部材に接する凹部を備え、
前記ロッド本体は、前記操作部と前記頭部との間に隙間を形成する余り部を備え、
前記シール部材から前記凹部の前記操作部側の端部までの距離は、前記余り部の前記軸線に沿った方向の長さ以上である、請求項
5記載の手術器具。
【請求項7】
前記シール部材から前記凹部の前記操作部側の端部までの距離は、前記余り部の前記軸線に沿った方向の長さと同一である、請求項
6記載の手術器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用の手術器具に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障手術(水晶体再建術)にて使用されるハンドピースが知られている(特許文献1参照)。水晶体再建術では、例えば、超音波ハンドピースのノズル先端を眼球の房室内に差し入れ、水晶体核を破砕吸引する。この場合、房室内は形状保持のために粘弾性物質が注入されている。その後、超音波ハンドピースのノズルを灌流用ハンドピースのノズルに交換し、超音波ハンドピースで取り切れなかった皮質もしくは皮質及び水晶体核を灌流で洗いながら吸引する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、灌流吸引の際、房室内に注入された粘弾性物質の残量によって粘性が変化したり、皮質の残量によって好適な吸引量が変化したりする可能性があるが、通常は患者への負担を考慮し、房室内からノズルを抜き差ししてノズル交換を頻繁に行うようなことはない。一方、ノズル交換を行わないので、状況に応じた吸引量の調整は難しく、灌流等に要する時間が増えて、結果的に患者に負担をかけてしまう可能性がある。
【0005】
本発明の一側面は、眼科手術の際に、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる眼科用の手術器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、液体を吸引可能なノズル部を備えた眼科用の手術器具であって、ノズル部は、液体が通過する内側貫通孔が設けられた内管と、内管を収容すると共に、液体が通過する外側貫通孔が設けられた外管と、を備え、外管と内管とは相対移動可能に配置されており、外側貫通孔と内側貫通孔とは、外管と内管との相対移動により、重複領域が変化可能に配置されている。
【0007】
上記の手術器具では、外管と内管とを相対移動させることにより、外側貫通孔と内側貫通孔との重複領域を変化させることができる。重複領域が拡大すると、吸引量は増え、逆に縮小すると減る。つまり、重複領域の調整により、患者に対して過度の負担を強いることなく、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる。
【0008】
上記の手術器具において、外側貫通孔および内側貫通孔のうち、少なくとも移動する側の一方の移動軌跡上に、他方の少なくとも一部分が重なって配置されていてもよい。この形態では、一方を移動させることで、他方の少なくとも一部分に対する重複領域を確実に形成でき、またこの重複領域を変化させ易くなって調整が容易である。
【0009】
上記の手術器具において、内管は外管に対して移動可能であり、外側貫通孔の少なくとも一部分は、内側貫通孔の移動軌跡上に重なって配置されていてもよい。外管を移動させることなく、内管のみを移動させて吸引量の調整を行うことができるので、患者への負担を更に低減できる。
【0010】
上記の手術器具において、外側貫通孔は外管の側部に設けられており、内側貫通孔は内管の側部に設けられていてもよい。外管及び内管の先端側からでは無く、側部側から効果的に液体の吸引及び吸引量の調整を行うことができる。
【0011】
上記の手術器具において、外管と内管とは、共通の軸線を有し、外管と内管とを軸線に対する回転方向に相対移動可能に保持する保持部を更に備えていてもよい。軸線方向ではなく、回転方向への相対移動により吸引量の調整を行うことができれば、軸線方向への移動分を考慮した設計負担は不要となり、軸線方向のコンパクト化に有利である。
【0012】
上記の手術器具において、外側貫通孔は、内側貫通孔よりも大きく、外側貫通孔と内側貫通孔とが完全に重なり合った状態で、内側貫通孔は外側貫通孔内に収まる態様とすることができる。最大吸引量は内側貫通孔の径に依存するが、重なり合った状態で内側貫通孔が外側貫通孔内に収まるので、外管が邪魔すること無く、内側貫通孔の径に応じた所望の最大吸引量を適切に得ることができる。
【0013】
この手術器具において、内管には、大きさの異なる複数の内側貫通孔が設けられていてもよい。大きさの異なる複数の内側貫通孔を内管に設けることで、段階的な吸引量の調整を容易に行うことができ、操作性が向上する。
【0014】
上記の手術器具において、内管に固定されると共に内管に連通する内流路が形成された可動体と、外管に固定されると共に可動体を収容して可動体を回転自在に支持する筐体部と、を更に備え、可動体には、軸線に対して直交する方向に突出すると共に、筐体部を貫通して筐体部から露出したハンドル部が設けられていてもよい。ハンドル部を回転させることで、簡単に吸引量の調整を行うことができ、操作性を向上できる。
【0015】
また、本発明の一側面は、眼科用の手術器具であって、液体を吸引可能なノズル部と、ノズル部に固定された保持部と、を備え、ノズル部は、液体が通過し、且つ大きさの異なる複数の内側貫通孔が設けられた内管と、液体が通過する外側貫通孔が設けられると共に、内管を収容し、且つ内管と共通の軸線を有する外管と、を備え、保持部は、内管に固定されると共に内管に連通する内流路が形成された可動体と、外管に固定されると共に可動体を収容して可動体を回転自在に支持する筐体部と、を備え、複数の内側貫通孔の移動軌跡上に、外側貫通孔の少なくとも一部分が重なって配置されている。
【0016】
上記の手術器具では、外管に対して内管を回転させることにより、外側貫通孔の少なくとも一部分を、大きさの異なるいずれかの内側貫通孔に重ねることができる。例えば、大きさの異なる二つの内側貫通孔が設けられている形態において、外側貫通孔を大きい方の内側貫通孔に重ねると液体の吸引量は増え、小さい方の内側貫通孔に重ねると減る。つまり、外側貫通孔を重ねる内側貫通孔の選択により、患者に対して過度の負担を強いることなく、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる。
【0017】
上記手術器具において、内流路は、内管よりも内径が大きい拡大流路部を備え、拡大流路部の上記軸線に沿った方向の長さは、内管の長さよりも長くてもよい。内管の内径は拡大流路部の内径よりも小さいので、内管の方が拡大流路部よりも液体が通過する際の抵抗が大きくなる。しかしながら、拡大流路部の軸線方向の長さは内管の長さよりも長いので、内管及び内流路全体での抵抗を小さくでき、内側貫通孔を通過する液体の流量を増加させ易い。
【0018】
上記の手術器具において、複数の内側貫通孔は、第1の内側貫通孔と第1の内側貫通孔よりも大きい第2の内側貫通孔であり、可動体には、軸線に対して直交する方向に突出すると共に、筐体部を貫通して筐体部から露出したハンドル部が設けられており、ハンドル部には、軸線に沿った方向に貫通し、且つ軸線に沿った方向から見た場合に軸線を中心とした回転方向に沿って長いガイド孔が設けられており、筐体部は、ガイド孔に挿通されて、ガイド孔内で相対移動可能なガイドロッドを備え、ガイド孔は、軸線を中心とした回転方向に沿って延在する第1のガイド面と、第1のガイド面よりも軸線から離れており、且つ第1のガイド面に対向して延在する第2のガイド面と、第1のガイド面及び第2のガイド面の両端に設けられ、ガイドロッドに当接してガイドロッドの相対移動を規制する一対のストッパ面とによって形成され、一対のストッパ面のうち、一方のストッパ面にガイドロッドが当接する位置では、第1の内側貫通孔と外側貫通孔とが重なっており、他方のストッパ面にガイドロッドが当接する位置では、第2の内側貫通孔と外側貫通孔とが重なっていてもよい。
【0019】
ガイドロッドが一方のストッパ面に当接すると第1の内側貫通孔と外側貫通孔とが重なるように位置合わせされ、ガイドロッドが他方のストッパ面に当接すると第2の内側貫通孔と外側貫通孔とが重なるように位置合わせされる。その結果、第1の内側貫通孔と外側貫通孔との位置合わせ、及び第2の内側貫通孔と外側貫通孔との位置合わせが楽になり、操作性が向上する。
【0020】
上記手術器具において、第1の内側貫通孔と第2の内側貫通孔とは、軸線を中心に回転角が180°の位置に設けられていてもよい。つまり、第1の内側貫通孔と第2の内側貫通孔とは、軸線を中心に対向する位置に設けられている。第1の内側貫通孔と第2の内側貫通孔とが対向していると大きさを広げやすくなり、第1の内側貫通孔及び第2の内側貫通孔を通過する液体の流量を増加させ易くなる。
【0021】
上記手術器具において、筐体部と可動体とは分離可能であり、筐体部は、外管が固定された第1のケーシングと、ハンドル部を挟んで第1のケーシングとは反対側の第2のケーシングとを備え、ガイドロッドは、第1のケーシングに固定されたロッド本体と、ロッド本体の端に設けられ、第2のケーシングに着脱自在に取り付けられている頭部とを備えていてもよい。筐体部を第1のケーシングと第2のケーシングとに分解することができる。
【0022】
上記手術器具において、ロッド本体は軸線に沿って延在する直線状であり、頭部の外径は、ロッド本体の最大外径よりも大きく、ガイド孔は、第1のガイド面と第2のガイド面との距離が、ロッド本体の最大外径よりも大きく、且つ頭部の外径よりも小さい第1の領域と、第1のガイド面と第2のガイド面との距離が、頭部の外径よりも大きい第2の領域とを備え、第2の領域は、軸線を中心とした回転方向において、第1の領域よりも狭く、且つ軸線に沿って延在していてもよい。第1のケーシングと第2のケーシングとを分解し、ガイド孔からガイドロッドを引き抜こうとした際、ガイドロッドの頭部は、第2の領域は通過できるが、第1の領域は通過できない。更に第2の領域は軸線に沿って延在するので、ガイドロッドを軸線に沿った方向に引き抜くことができる。その結果、可動体に対して第1のケーシングを軸線に沿った方向に分離することができる。
【0023】
上記手術器具において、可動体は、ハンドル部から突出され、軸線に沿って第1のケーシングに着脱自在に収容される突出軸体と、突出軸体に装着され、第1のケーシングに接する環状のシール部材と、を備え、第1のケーシングは、突出軸体を収容し、且つシール部材に接する凹部を備え、ロッド本体は、ハンドル部と頭部との間に隙間を形成する余り部を備え、シール部材から凹部のハンドル部側の端部までの距離は、余り部の軸線に沿った方向の長さ以上であってもよい。
【0024】
可動体から第1のケーシングを分離する際、第1のケーシングの移動が軸線に沿った方向からずれると、内管が外管に干渉し、内管を破損等させてしまう可能性がある。このずれは、シール部材が第1のケーシングの凹部から外れ、シール部材にかかっていた負荷が解かれたタイミングで生じやすい。上記の手術器具では、可動体に対し、第1のケーシングをロッド本体の余り部の長さだけ移動させると、ガイドロッドの頭部はガイド孔まで到達する。この移動に対応し、可動体側のシール部材は逆方向に移動する。ここで、シール部材から凹部のハンドル部側の端部までの距離は、余り部の長さ以上である。つまり、頭部がガイド孔に到達したタイミングにおいて、シール部材は、まだ凹部から外れていない。次に、頭部は、ガイド孔に到達しても、到達位置が第1の領域であれば、ガイド孔を通過できず、可動体の移動は規制される。従って、可動体を更に移動させるためには、可動体を回転させ、頭部が第2の領域に達するように位置を調整する必要がある。従って、上記の手術器具では、シール部材が凹部から外れてしまう前に、操作者に頭部の位置調整の機会を提供できる可能性があり、第1のケーシング等の慎重な移動操作を促して内管の破損を抑制し易くなる。
【0025】
上記手術器具において、シール部材から凹部のハンドル部側の端部までの距離は、余り部の軸線に沿った方向の長さと同一であってもよい。この手術器具では、シール部材が凹部から外れてしまう直前に、操作者に頭部の位置調整の機会を提供できる可能性があり、より適切に第1のケーシング等の慎重な移動操作を促して内管の破損を抑制し易くなる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、眼科手術の際に患者に対して過度の負担を強いることなく、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、一実施形態に係り、(a)図はI/Aハンドピースにスリーブが装着された状態を示す正面図であり、(b)図はスリーブが取り外された状態を示すI/Aハンドピースの正面図である。
【
図2】
図2は、I/Aハンドピースを分解して示す正面図である。
【
図3】
図3は、I/Aハンドピースの把持部を拡大して示す断面図である。
【
図5】
図5は、I/Aハンドピースのノズル部を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図6は、外側貫通孔を示す図であり、(a)図は正面図であり、(b)図は(a)図のb-b線に沿った断面図である。
【
図7】
図7は、内側貫通孔を示す図であり、(a)図は第1の内側貫通孔を示す正面図であり、(b)図は第2の内側貫通孔を示す正面図である。
【
図8】
図8は、内管の断面図であり、(a)図は内管の軸線に直交し、第1の内側貫通孔及び第2の内側貫通孔の中心を通る平面で切断した断面図であり、(b)図は(a)図のb-b線に沿った断面図であり、(c)図は(a)図のc-c線に沿った断面図である。
【
図9】
図9は、ノズル部の先端付近を拡大して示す図であり、(a)図は、第1の内側貫通孔が外側貫通孔に重なり合う状態を示す正面図であり、(b)図は、第2の内側貫通孔が外側貫通孔に重なり合う状態を示す正面図である。
【
図10】
図10は、白内障手術の一工程であり皮質を含む灌流液を吸引している状態を示す図であり、(a)図は斜視図であり、(b)図は模式的な平面図である。
【
図11】
図11は、一実施形態に係るI/Aハンドピースの正面図である。
【
図12】
図12は、一実施形態に係るI/Aハンドピースの左側面図である。
【
図13】
図13は、一実施形態に係るI/Aハンドピースの右側面図である。
【
図14】
図14は、一実施形態に係るI/Aハンドピースの背面図である。
【
図15】
図15は、一実施形態に係るI/Aハンドピースの底面図である。
【
図16】
図16は、一実施形態に係るI/Aハンドピースの平面(上面)図である。
【
図17】
図17は、第2の実施形態に係るI/Aハンドピースを模式的に示す図であり、(a)図は内管の鋭角部が外側貫通孔に重なっている状態を示す模式的な断面図であり、(b)図は内管の鈍角部が外側貫通孔に重なっている状態を示す模式的な断面図である。
【
図18】
図18は、第3の実施形態に係るI/Aハンドピースを模式的に示す図であり、(a)図は内側貫通孔と外側貫通孔との重複領域が形成されていない状態を示す模式的な端面図及び断面図であり、(b)図は半分の重複領域が形成された状態を示す模式的な端面図及び断面図であり、(c)図は内側貫通孔が外側貫通孔内に収まった状態を示す模式的な端面図及び断面図である。
【
図19】
図19は、第4の実施形態に係るI/Aハンドピースのノズル部を模式的に示す図であり、(a)図は重複領域が形成されていない状態を示す模式的な正面図であり、(b)図は内側貫通孔が外側貫通孔内に収まった状態を示す模式的な正面図である。
【
図20】
図20は、第5の実施形態に係るI/Aハンドピースを示す図であり、軸線を通る面で切断した断面図である。
【
図21】
図21は、第5の実施形態に係るI/Aハンドピースの吐出側ケーシング及び外管を示す断面図である。
【
図22】
図22は、第5の実施形態に係るI/Aハンドピースの可動体及び内管を示す断面図である。
【
図23】
図23は、第5の実施形態に係るI/Aハンドピースの可動体と筐体部の連結部とを拡大して示す図であり、(a)図は可動体と筐体部とが結合している状態を示す図であり、(b)図は筐体部と可動体とを分離している途中の状態を示す図である。
【
図24】
図24は、第5の実施形態に係るI/Aハンドピースのノズル部を拡大して示す断面図である。
【
図27】
図27は、ノズル部の先端付近を拡大して示す図であり、(a)図は、第2の内側貫通孔が外側貫通孔に重なり合う状態を示す正面図であり、(b)図は、第1の内側貫通孔が外側貫通孔に重なり合う状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。便宜上、実質的に同一の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、以下の説明において、「先端」あるいは「先端側」とは、後述のノズル部の先端、あるいは先端に近い側を意図しており、「基端」あるいは「基端側」はノズル部の先端とは反対側となる端部、あるいは先端から遠い側を意図する概念である。軸線とは、内管の軸線、外管の軸線等をそれぞれ意味するが、以下の実施形態では全て共通するため、共通の軸線として説明する。
【0029】
I/Aハンドピース1Aは本実施形態に係る眼科用の手術器具の一例であり、一般的に眼科用灌流・吸引チューブと呼ばれることもある。
図1(a)に示されるように、I/Aハンドピース1Aは施術者が把持する把持部(保持部)2と、液体(吸引液)Laを吸引可能なノズル部3Aと、I/Aハンドピース1Aに送り込まれ、把持部2を通過して吐出する液体(灌流液)Lbをノズル部3Aの先端側にまで案内するスリーブ6とを備えている。吸引液Laはノズル部3Aで吸引される液体の一例である。
【0030】
ノズル部3Aは二重管であり、把持部2の先端側に取り付けられている。把持部2内には、灌流液Lbを受け入れて先端側に送る供給経路R1と、ノズル部3Aを介して吸引した吸引液Laを基端側に送る排出経路R2とが設けられている。スリーブ6は、ノズル部3Aを内側に通しながら把持部2の先端に被せられ、把持部2に設けられた螺子部2aに螺合される。スリーブ6の先端は開放されてノズル部3Aの先端が露出している。スリーブ6の先端近傍には、灌流液Lbが排出される排出口6aが設けられている。
【0031】
以下、
図1(b)、
図2、
図3及び
図4を参照し、スリーブ6が取り外された状態の基本形態を中心に、各部の構造を詳細に説明する。把持部2は、ノズル部3Aの内管4が固定された可動体7と、ノズル部3Aの外管5が固定され、可動体7を収容して可動体7を回転自在に支持する筐体部8とを備えている。可動体7(
図3参照)には、内管4に連通する内流路Raと、灌流液Lbが通過する外流路Rbとが形成されている。
【0032】
可動体7は、筒状の胴体部11と、胴体部11から径方向に張り出したハンドル部12とを備えている。径方向とは、回転移動する可動体7の軸線Sfに対して直交する方向(遠心方向)を意味する。本実施形態に係るハンドル部12は円板状であるが、施術者の操作性を考慮して様々な形状を採用することができる。胴体部11の外周には、ハンドル部12を挟むようにして先端側と基端側とにそれぞれOリング(シール部材)13a、13bが装着されている。また、胴体部11の先端側には小径の先端管11aが突き出ており、基端側には小径の基端管11bが突き出ている。先端管11aおよび基端管11bの外周には、それぞれOリング(シール部材)14a、14bが装着されている。また、先端管11aには、更に小径の先端取付管11cが設けられており、先端取付管11cには同一の軸線Sfとなるようにノズル部3Aの内管4が固定されている(
図5参照)。
【0033】
筐体部8は、灌流液Lbを受け入れる基端側に配置された導入側ケーシング22と、灌流液Lbを吐出する先端側に配置された吐出側ケーシング21とを備えている。導入側ケーシング22には、胴体部11の基端側の一部分を収容する導入側凹部22aと、導入側凹部22aの中央に連通する吸引通路22bとが形成されている。導入側凹部22aと吸引通路22bとは、可動体7の胴体部11に対して同一の軸線Sf上となるように連通している。また、導入側ケーシング22には、吸引通路22bを避けて導入通路22cが設けられており、導入通路22cは、灌流液Lbの導入口2b(
図1参照)と導入側凹部22aとを連通可能に接続する。
【0034】
導入側凹部22a内には胴体部11が隙間を空けて挿入され、その隙間は、胴体部11の外周に装着されたOリング13bによって液密に塞がれている。また、胴体部11の基端管11bは吸引通路22bに挿入され、吸引通路22bと基端管11bとの間はOリング14bによって液密に塞がれている。その結果、導入側凹部22aと胴体部11との間には、灌流液Lbが通過するために液密に保持された空間が形成されている。
【0035】
吐出側ケーシング21には、胴体部11の先端側の一部分を収容する吐出側凹部21aと、吐出側凹部21aの中央に連通する内管挿入孔21bとが形成されている。吐出側凹部21aと内管挿入孔21bとは、可動体7の胴体部11に対して同一の軸線Sf上となるように連通している。また、吐出側ケーシング21には、内管挿入孔21bを避けて吐出通路21cが設けられており、吐出通路21cは、灌流液Lbの吐出口2c(
図1、
図5参照)と吐出側凹部21aとを連通可能に接続する。
【0036】
内管挿入孔21bは、先端管11aが挿入される挿入孔部21dと、先端取付管11cが回転自在に挿入される連絡孔部21eとを備えている。先端取付管11cに固定された内管4は連絡孔部21eから突き出し、外管5内に回転自在に挿入される。
【0037】
吐出側凹部21a内には胴体部11が隙間を空けて挿入され、その隙間は、胴体部11の外周に装着されたOリング13aによって塞がれている。また、胴体部11の先端管11aは内管挿入孔21bに挿入され、内管挿入孔21bと先端管11aとの隙間はOリング14aによって塞がれている。つまり、胴体部11の外周に装着されたOリング13aと先端管11aの外周に装着されたOリング14aとにより、吐出側凹部21aと胴体部11との間には、灌流液Lbが通過するために液密に保持された空間が形成されている。
【0038】
吐出側ケーシング21と導入側ケーシング22とは連結部23を介して隙間を空けて配置されており、連結部23と連結溝24との嵌合によって一体に結合されている。具体的には、吐出側ケーシング21には、基端側に向けて突き出た柱状の二本(複数)の連結部23が設けられている。二本の連結部23は、可動体7の軸線Sfに対して対称となるように対向配置されている。一方、導入側ケーシング22には、連結部23に嵌合して結合される二個の連結溝24が設けられている。可動体7の胴体部11を収容した吐出側ケーシング21と導入側ケーシング22とは、連結部23と連結溝24との嵌合により結合して一体となり、筐体部8を形成する。連結溝24に嵌合される連結部23の先端は頭部である。
【0039】
可動体7のハンドル部12は、軸線Sfに対して直交する方向に突出しており、吐出側ケーシング21と導入側ケーシング22との間の隙間を貫通して露出している。また、ハンドル部12には、連結部23との干渉を避けるための回避孔12aが形成されている。回避孔12aは連結部23の数に対応して二個(複数)形成されている。回避孔12aは、筐体部8に対して可動体7を回転させる際に、連結部23との干渉が生じるハンドル部12上の領域に沿って形成されていれば良く、本実施形態では、円弧状の二個の回避孔12aが、軸線Sfを挟んで対称となるように設けられている。
【0040】
ハンドル部12は、筐体部8を貫通して突き出しているため、可動体7の軸線Sf方向への移動を規制する軸方向ストッパとして機能する。また、可動体7を回転させ過ぎると、吐出側ケーシング21の連結部23はハンドル部12に設けられた回避孔12aに干渉して回転を規制する。つまり、回避孔12aと連結部23とは可動体7の回転移動を規制する回転ストッパとして機能する。
【0041】
次に、ノズル部3Aについて
図5、
図6、
図7、
図8及び
図9を参照して説明する。ノズル部3Aは、二重管であり、内側貫通孔41,42が設けられた内管4と、内管4を収容すると共に、外側貫通孔51が設けられた外管5と、を備えている。上述の通り、本実施形態では、可動体7に固定された内管4が、筐体部8に固定された外管5に対して回転可能である。しかしながら、外管5と内管4とは相対的に移動可能であればよく、内管4に対して外管5を回転可能にする態様であってもよい。
【0042】
図6に示されるように、外管5の先端5aは湾曲して封止されており、外側貫通孔51は外管5の先端5a近傍の側部5bに設けられている。外側貫通孔51は、外管5の内側と外側とを連通可能に貫通している。I/Aハンドピース1Aに接続されるベンチュリーポンプ等の吸引装置(図示省略)の駆動により、例えば、房室B内の皮質を含む吸引液Laが通過する。なお、後述の通り、内管4の先端が封止されていることを前提にするのであれば、設計上、または製造上の利便性、優位性も考慮し、外管5の先端は開放されていてもよい。この場合、先端の開放は、内管4の内側貫通孔41,42の移動軌跡K上に重なるように配置されているとは言えず、外側貫通孔51の機能とは異なる。
【0043】
内管4の先端4aは湾曲して封止されており、内側貫通孔41,42は内管4の先端4a近傍の側部4bに設けられている。内側貫通孔41,42は二種類が設けられており、第1の内側貫通孔41は真円形状であり、第2の内側貫通孔42は軸線Sf方向に長い略楕円形状である。第1の内側貫通孔41の直径と第2の内側貫通孔42の短径とは略同じであり、従って、第2の内側貫通孔42の面積の方が第1の内側貫通孔41の面積よりも大きい。内側貫通孔41,42は、内管4の内側と外側とを連通可能に貫通している。I/Aハンドピース1Aに接続される吸引装置(図示省略)の駆動により、例えば、房室B(
図10参照)内の皮質を含む吸引液Laが通過する。
【0044】
第1の内側貫通孔41の中心と第2の内側貫通孔42の中心との軸線Sf方向に沿った位置(先端4aからの距離)は略等しい(
図7(a)、(b)、
図8(b)、(c)参照)。また、第1の内側貫通孔41の中心と第2の内側貫通孔42の中心とは、軸線Sf周りで位相角αだけずれている(
図8(a)参照)。位相角αは内側貫通孔41,42の内径や形状、更に微調整のための操作性に応じて任意に設定できるが、例えば、60°~180°の範囲に設定するこができ、90°~110°の範囲に設定することができる。
【0045】
図9に示されるように、外側貫通孔51は、回転移動する内管4に設けられた第1の内側貫通孔41および第2の内側貫通孔42の移動軌跡K上に重なるように配置されている。移動軌跡K上に重なるとは、内管4の回転に伴って移動する第1の内側貫通孔41または第2の内側貫通孔42の軌跡(移動領域)を仮定した場合に、その移動領域の少なくとも一部に外側貫通孔51の少なくとも一部が重なることを意味する。
【0046】
外側貫通孔51は、四隅を湾曲させた略四角形状であり、第1の内側貫通孔41よりも面積は大きく、また、第2の内側貫通孔42よりも面積は大きい。更に、外側貫通孔51と第1の内側貫通孔41とが完全に重なった状態において、第1の内側貫通孔41は外側貫通孔51内に収まる。また、外側貫通孔51と第2の内側貫通孔42とが完全に重なった状態において、第2の内側貫通孔42は外側貫通孔51内に収まる。なお、第1の内側貫通孔41または第2の内側貫通孔42が外側貫通孔51内に収まるとは、第1の内側貫通孔41または第2の内側貫通孔42が外側貫通孔51を介して完全に露出する態様を意味し、例えば、形状及び内径が同一であり、完全に重なった状態において、外縁が重なる態様も含まれる。上記の外側貫通孔51や内側貫通孔41,42の形状は一例に過ぎず、外側貫通孔51が内側貫通孔41,42の移動軌跡K上に重なるように配置されているのであれば、その他の様々な形状であっても良い。例えば、外側貫通孔51を円形や楕円形にすることもでき、逆に、内側貫通孔41,42を略四角形状にすることもできる。
【0047】
次に、本実施形態に係るI/Aハンドピース1Aの作用、効果について説明する。最初に、白内障手術(水晶体再建術)の簡単な流れについて概略を説明する。眼の組織は、三つの膜と眼球内容物から構成される。眼の大きさは約24mmほどである。三つの膜の一番外側は「角膜」と「強膜」からなる。真ん中の膜は「脈絡膜」、「毛様体」および「虹彩」からなるブドウ膜である。また、一番内側の膜は「網膜」である。眼球の内容物は膜の内側に存在する組織であり、レンズの役目を担う組織、眼球の形状を維持する役目を担う組織、光を取り込む量の調節の役目を担う組織など、様々なものが存在する。なお、房室Bには前房B1と後房B2とがあり、水晶体Eは後房B2内にある。
【0048】
水晶体再建術では、先ず麻酔を施す。麻酔は目薬のような点眼麻酔もしくは針先を眼の後ろに持っていくテノン嚢下麻酔になる。次に、結膜を切開して止血する。次に、ストレートナイフを強膜に垂直に刃先をあてて、一面目の切開を施し、次に先端部分が丸くなったクレセントナイフで強膜にトンネルを作る。これが二面目の切開である。この状態では、まだ、眼の中までの切開は行わない。次に、ストレートナイフを使い、前嚢切開用と補助器具の出し入れをするサイドポートをあける切開を行う。
【0049】
次に、粘弾性物質を注入して、前房B1空間の形成保持を行い、次に、チストトームと呼ばれる針で前嚢切開を実施する。次に、スリットナイフという槍のようなナイフを使用し、三面目の切開を実施する。このとき眼の中側と外側とが開通する。水晶体Eの嚢という膜と皮質とを水を使って分離し、手術を行いやすくする。この状態で、仮に前房B1から粘弾性物質が抜け出ている場合には、角膜内皮の保護を目的に2回目の粘弾性物質の注入を行う。
【0050】
続いて、超音波ハンドピースを用いて水晶体核を破砕する。水晶体核の破砕が完了すると、超音波ハンドピースを房室Bから引き抜き、代わりに本実施形態に係るI/Aハンドピース1Aのノズル部3Aの先端を房室B内に差し入れる(
図10(a)、10(b)参照)。ここでは、灌流液Lbを房室B内に送り込み、代わりに皮質と一緒に吸引液Laを吸引する。
【0051】
ここで、房室B内に皮質が多く含まれている吸引初期の状態では、皮質の残量も多く、粘性も大きいので吸引の際の抵抗が大きくなり易い。そこで、施術者は、例えば、第1の内側貫通孔41よりも面積の大きい第2の内側貫通孔42を選択し、第2の内側貫通孔42が外側貫通孔51に重なるようにハンドル部12を調整して吸引量を多くしながら初期吸引を手早く済ませる。
【0052】
ある程度、吸引が進むと皮質の残量も低下し、仕上げ吸引の段階に至る。この状態では、例えば、吸引する孔を絞り、最適な流量にて吸引を行う仕上げの処置が好適である。そこで、施術者は、第1の内側貫通孔41が外側貫通孔51に重なるようにハンドル部12を調整し、吸引量を小さくして仕上げの処置を行う。
【0053】
なお、上述の第1の内側貫通孔41と第2の内側貫通孔42との調整は一例に過ぎず、房室B内の液体の状態や施術者にとっての利便性や好み、その他の操作性を考慮し、適宜に選択することもできる。更に、第1の内側貫通孔41や第2の内側貫通孔42と外側貫通孔51との重なり具合によって吸引量は変化するため、例えば、第1の内側貫通孔41と外側貫通孔51とが完全に重なり合うのでは無く、部分的に重なり合うような状態で吸引量を抑えるような操作も可能である。つまり、内管4には必ずしも複数の内側貫通孔41,42を設ける必要は無く、単体であっても良い。
【0054】
ここで、本実施形態に係るI/Aハンドピース1Aに比較すべく、例えば、吸引量の調整ができないI/Aハンドピース(以下、「比較形態」という)を使用する場合について検討する。なお、従来においては、例えば、初期吸引と仕上げ吸引とで吸引量を調整する必要性や課題についての着想自体が無く、比較形態を使用することについて、特に、問題視等されるようなことも想定されなかった。
【0055】
比較形態において、例えば、初期吸引を優先するのであればノズル先端の吸引孔径の大きなI/Aハンドピースを使用する必要がある。しかしながら、この種のI/Aハンドピースでは、仕上げの処置に際しては逆に手間がかかって不便になる可能性がある。一方で、仕上げ吸引を優先すれば、初期吸引に係る時間が大幅に増え、患者負担は大きくなる。特に、白内障手術(水晶体再建術)においては、僅か数十秒程度の違いであっても、患者に与える負担は非常に大きい。
【0056】
一方、このような時間的な負担を軽減するために、吸引孔径が異なる複数種類の比較形態を用意し、吸引初期や仕上げ吸引などで使い分けることも考えられる。しかしながら、このような使い分けを行った場合、房室B内から頻繁にノズルを抜き差しする必要が生じ、違った側面で患者への負担が大きくなる。
【0057】
この比較形態に対し、本実施形態に係るI/Aハンドピース1Aによれば、ハンドル部12を操作するだけで簡単に吸引量を調整できる。つまり、患者に対して過度の負担を強いることなく、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる。その結果、施術時間の短縮に有利であり、また、皮質の適切な吸引処置という側面からも有利である。特に、本実施形態では、大きさの異なる第1の内側貫通孔41と第2の内側貫通孔42とが設けられているので、段階的な吸引量の調整を容易に行うことができ、単一の内側貫通孔を設ける場合に比べて操作性が高い。
【0058】
皮質の吸引が完了すると、眼内レンズを移植する工程に移る。この工程では、眼内レンズを移植するための十分な空間を嚢内に作るために、三回目の粘弾性物質の注入を行う。次に、眼内レンズを嚢内に固定して、眼内の粘弾性物質を吸引除去する。この吸引除去においても、本実施形態に係るI/Aハンドピース1Aを使用することで、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる。
【0059】
以上、本実施形態に係るI/Aハンドピース1Aによれば、外管5と内管4とを相対移動させることにより、外側貫通孔51と内側貫通孔との重複領域を変化させることができる。重複領域が拡大すると、吸引量は増え、逆に縮小すると減る。つまり、重複領域の調整により、患者に対して過度の負担を強いることなく、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる。
【0060】
また、本実施形態では、内側貫通孔41,42の移動軌跡K上に、外側貫通孔51の少なくとも一部分が重なって配置されている。つまり、内側貫通孔41,42を移動させることで、外側貫通孔51の少なくとも一部分に対する重複領域を確実に形成でき、またこの重複領域を変化させ易くなって調整が容易である。特に、本実施形態では、内側貫通孔41,42が移動対象であるので、外管5を移動させることなく、内管4のみを移動させて吸引量の調整を行うことができるので、患者への負担を更に低減できる。
【0061】
また、本実施形態では、外側貫通孔51は外管5の側部5bに設けられており、内側貫通孔は内管4の側部4bに設けられている。つまり、外管5及び内管4の先端側からでは無く、側部4b,5b側から効果的に吸引液Laの吸引及び吸引量の調整を行うことができる。
【0062】
また、本実施形態において、外管5と内管4とは、共通の軸線Sfを有し、外管5と内管4とを軸線Sfに対する回転方向に相対移動可能に保持する把持部(保持部)2を備えている。つまり、本実施形態では、軸線Sf方向ではなく、回転方向への相対移動により吸引量の調整を行うことができる。その結果、少なくとも、軸線Sf方向への移動分を考慮した設計負担は不要となり、軸線Sf方向のコンパクト化に有利である。
【0063】
また、本実施形態では、第1の内側貫通孔41または第2の内側貫通孔42は完全に重なり合った状態で外側貫通孔51内に収まる。I/Aハンドピース1Aの最大吸引量は内管4の径に依存するが、第1の内側貫通孔41または第2の内側貫通孔42が外側貫通孔51に重なり合った状態で外側貫通孔51内に収まるので、外管5が邪魔すること無く、内管4の径に応じた所望の最大吸引量を適切に得ることができる。
【0064】
また、本実施形態に係る可動体7には、軸線Sfに対して直交する方向に突出すると共に、筐体部8を貫通して筐体部8から露出したハンドル部12が設けられている。その結果、ハンドル部12を回転させることで、簡単に吸引量の調整を行うことができ、操作性を向上できる。
【0065】
【0066】
次に、
図17を参照し、第2の実施形態に係るI/Aハンドピース1Bについて説明する。本実施形態に係るI/Aハンドピース1Bは、基本的に第1の実施形態に係るI/Aハンドピース1Aと同様の要素や構造を備えている。従って、以下の説明では、第1の実施形態に係るI/Aハンドピース1Aに対する相違点を中心に説明し、同様の要素や構造については同一の符号を付して詳細な説明等を省略する。
【0067】
I/Aハンドピース1Bは、施術者が把持する把持部(保持部)2と、灌流のための液体が通過するノズル部3Bと、把持部2を通過して吐出する吸引液Laをノズル部3Bの先端側にまで案内するスリーブ6とを備えている。
【0068】
ノズル部3Aは、二重管であり、内側貫通孔44が設けられた内管4と、内管4を収容すると共に、外側貫通孔52が設けられた外管5と、を備えている。本実施形態では、可動体7に固定された内管4が、筐体部8に固定された外管5に対して回転可能である。
【0069】
内管4の先端は、内管4の軸線Sfに対する傾斜面で切断されたような形状であり、先端に内側貫通孔44が形成されている。外管5は、先端の半分が切り欠かれたような形状であり、内管4同様に先端に外側貫通孔52が形成されている。内側貫通孔44が形成された内管4の先端は、軸線Sf方向に沿って突き出た鋭角部4dと反対側の鈍角部4fとを有する。内側貫通孔44が軸線Sf回りに回転し、鋭角部4dが外側貫通孔52に重なると、鋭角部4dは外側貫通孔52の一部を塞ぐように突き出る(
図17(a)参照)。逆に、鈍角部4fが外側貫通孔52に重なると、鈍角部4fは外側貫通孔52を避けるように没入する(
図17(b)参照)。その結果、鋭角部4dが外側貫通孔52に重なると内側貫通孔44と外側貫通孔52との重複領域は小さくなり、鈍角部4fが外側貫通孔52に重なると内側貫通孔44と外側貫通孔52との重複領域は大きくなる。
【0070】
つまり、本実施形態によれば、内管4を外管5に対して相対的に回転移動させることにより、外側貫通孔51と内側貫通孔44との重複領域を変化させることができる。この重複領域の調整により、患者に対して過度の負担を強いることなく、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる。また、本実施形態によれば、第1の実施形態に係るI/Aハンドピース1Aと同様の要素や構造に基づく同様の作用、効果についても享受し得る。
【0071】
次に、
図18を参照し、第3の実施形態に係るI/Aハンドピース1Cについて説明する。本実施形態に係るI/Aハンドピース1Cは、基本的に第1または第2の実施形態に係るI/Aハンドピース1A,1Bと同様の要素や構造を備えている。従って、以下の説明では、第1または第2の実施形態に係るI/Aハンドピース1A,1Bに対する相違点を中心に説明し、同様の要素や構造については同一の符号を付して詳細な説明等を省略する。
【0072】
I/Aハンドピース1Cは、施術者が把持する把持部(保持部)2と、灌流のための液体が通過するノズル部3Cと、把持部2を通過して吐出する灌流液Lbをノズル部3Cの先端側にまで案内するスリーブ6とを備えている。
【0073】
ノズル部3Cは、二重管であり、内側貫通孔45が設けられた内管4と、内管4を収容すると共に、外側貫通孔53が設けられた外管5と、を備えている。本実施形態では、可動体7に固定された内管4が、筐体部8に固定された外管5に対して回転可能である。
【0074】
内管4の先端の半分が切断されたような形状であり、先端に半円形の内側貫通孔45が形成されている。外管5は、先端の半分が切り欠かれたような形状であり、内管4同様に先端に外側貫通孔53が形成されている。本実施形態では、内側貫通孔45の移動軌跡上に、外側貫通孔53の少なくとも一部分が重なって配置されている。具体的には、内側貫通孔45が外管5の先端の裏側に隠れている状態では、内側貫通孔45と外側貫通孔53との間に重複領域は形成されていない(
図18(a)参照)。次に、内管4が平面視で時計回り方向に90°回転移動すると(
図18(b)参照)、内側貫通孔45の半分が外側貫通孔53に重なり合い、半分の重複領域が形成される。更に、内管4が時計回り方向に90°回転移動すると(
図18(c)参照)、内側貫通孔45と外側貫通孔53とが完全に重なり合い、外側貫通孔53内に内側貫通孔45が収まる状態が形成される。内側貫通孔45が外側貫通孔53内に収まる状態の方が半分の重複領域に比べて重複領域は大きくなる。
【0075】
つまり、本実施形態によれば、内管4を外管5に対して相対的に回転移動させることにより、外側貫通孔53と内側貫通孔45との重複領域を変化させることができる。この重複領域の調整により、患者に対して過度の負担を強いることなく、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる。また、本実施形態によれば、第1の実施形態に係るI/Aハンドピース1Aと同様の要素や構造に基づく同様の作用、効果についても享受し得る。
【0076】
次に、
図19を参照し、第4の実施形態に係るI/Aハンドピース1Dについて説明する。本実施形態に係るI/Aハンドピース1Dは、基本的に第1~第3の実施形態に係るI/Aハンドピース1A,1B,1Cと同様の要素や構造を備えている。従って、以下の説明では、第1~第3の実施形態に係るI/Aハンドピース1A,1B,1Cに対する相違点を中心に説明し、同様の要素や構造については同一の符号を付して詳細な説明等を省略する。
【0077】
I/Aハンドピース1Dは、施術者が把持する把持部(保持部)2と、吸引液Laが通過するノズル部3Dと、把持部2を通過して吐出された灌流液Lbをノズル部3Dの先端側にまで案内するスリーブ6とを備えている。
【0078】
ノズル部3Dは、二重管であり、内側貫通孔46が設けられた内管4と、内管4を収容すると共に、外側貫通孔54が設けられた外管5と、を備えている。本実施形態では、可動体7に固定された内管4が、筐体部8に固定された外管5に対して軸線Sf方向に沿って相対的にスライド移動可能である。
【0079】
内管4の側部4bには内側貫通孔46が形成されており、外管5の側部5bには外側貫通孔54が形成されている。本実施形態では、軸線Sf方向に沿って移動する内側貫通孔46の移動軌跡K上に、外側貫通孔54の少なくとも一部分が重なって配置されている。具体的には、外管5の先端から内側貫通孔46が離れている状態では、内側貫通孔46が外管5の裏側に隠れており、内側貫通孔46と外側貫通孔51との間に重複領域は形成されていない(
図19(a)参照)。次に、内管4がスライド移動して内側貫通孔46が外管5の先端に近づき、所定位置まで到達すると、内側貫通孔46と外側貫通孔54とが完全に重なり合い、外側貫通孔51内に内側貫通孔46が収まる状態が形成される。内側貫通孔46が外側貫通孔51内に収まる状態は、所定位置に到達するまでの途中状態に比べて重複領域は大きくなる。
【0080】
つまり、本実施形態によれば、内管4を外管5に対して相対的にスライド移動させることにより、外側貫通孔51と内側貫通孔46との重複領域を変化させることができる。その結果、重複領域の調整により、患者に対して過度の負担を強いることなく、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる。また、本実施形態によれば、第1の実施形態に係るI/Aハンドピース1Aと同様の要素や構造に基づく同様の作用、効果についても享受し得る。
【0081】
次に、
図20~27を参照し、第5の実施形態に係るI/Aハンドピース1Eについて説明する。本実施形態に係るI/Aハンドピース1Eは、基本的に第1の実施形態に係るI/Aハンドピース1Aと同様の要素や構造を備えている。従って、以下の説明では、第1の実施形態に係るI/Aハンドピース1Aに対する相違点を中心に説明し、同様の要素や構造については同一の符号を付して詳細な説明等を省略する。なお、以下の説明において軸線方向とは、軸線Sfに沿った方向を意味する。
【0082】
図20に示されるように、I/Aハンドピース1Eは、施術者が把持する把持部(保持部)2と、灌流のための液体が通過するノズル部3Eと、把持部2を通過して吐出する吸引液Laをノズル部3Eの先端側にまで案内するスリーブ6(
図20では省略)とを備えている。
【0083】
把持部2は、ノズル部3Eの内管4が固定された可動体7と、ノズル部3Eの外管5が固定された筐体部8とを備えている。筐体部8は、可動体7とは分離可能であり、可動体7を収容して可動体7を回転自在に支持している。可動体7には、内管4に連通する内流路Raと、灌流液Lbが通過する外流路Rbとが形成されている。
【0084】
内流路Raは、内管4の内径よりも内径が大きな拡大流路部Rcを備えている(
図22参照)。拡大流路部Rcの軸線方向の長さLyは、内管4の軸線方向の長さLxよりも長くなっている。
【0085】
可動体7は、筒状の胴体部11と、胴体部11から径方向に張り出したハンドル部12とを備えている。胴体部11は、ハンドル部12から先端側に突出した第1の突出部61と、基端側に突出した第2の突出部62とを備えている。第1の突出部61及び第2の突出部62は、軸線方向に突出している。第1の突出部61は、「突出軸体」の一例である。
【0086】
第1の突出部61にはOリング(環状のシール部材)13aが装着されており、第2の突出部62にはOリング13bが装着されている。また、第1の突出部61の先端側には小径の先端管11aが突き出ており、第2の突出部62には小径の基端管11bが突き出ている。先端管11aには内管4が固定されている。
【0087】
筐体部8は、灌流液Lbを吐出する先端側に配置された吐出側ケーシング(第1のケーシング)21と、灌流液Lbを受け入れる基端側に配置された導入側ケーシング(第2のケーシング)22とを備えている。導入側ケーシング22は、ハンドル部12を挟んで吐出側ケーシング21とは反対側に配置されている。
【0088】
吐出側ケーシング21(
図21参照)には、胴体部11の第1の突出部61を収容する吐出側凹部(凹部)21aと、吐出側凹部21aの中央に連通する内管挿入孔21bと、が形成されている。吐出側凹部(凹部)21aには、Oリング13aが接し、内管挿入孔21bにはOリング14aが接する。本実施形態において、吐出側凹部21aは、「突出軸体を収容し、且つシール部材に接する凹部」の一例である。また、吐出側ケーシング21には、内管挿入孔21bを避けて吐出通路21c(
図3参照)が設けられており、吐出通路は、灌流液Lbの吐出口2c(
図1、
図5参照)と吐出側凹部21aとを連通可能に接続する。なお、
図20及び
図21では、便宜上、吐出通路21cが省略されている。
【0089】
導入側ケーシング22には、胴体部11の第2の突出部62を収容する導入側凹部22aと、導入側凹部22aの中央に連通する吸引通路22bと、が形成されている。導入側凹部22aには、Oリング13bが接し、吸引通路22bにはOリング14bが接する。
【0090】
吐出側ケーシング21と導入側ケーシング22とは連結部23Eを介して隙間を空けて配置されている。吐出側ケーシング21と導入側ケーシング22とは、連結部23Eと連結孔24Eとの嵌合によって一体に結合され、筐体部8を形成する。連結部23Eは単体であり、「ガイドロッド」の一例である。
【0091】
連結部23Eは、吐出側ケーシング21に固定されたロッド本体23aと、ロッド本体23aの端に設けられた頭部23bとを備えている。ロッド本体23aの端とは、ロッド本体23aにおいて、吐出側ケーシング21に固定された根本に対して反対側となる端を意味する。頭部23bは、導入側ケーシング22の連結孔24Eに着脱自在に嵌め込まれて取り付けられている。
【0092】
ロッド本体23aは、軸線方向に延在する直線状であり、例えば、円柱状の部材である。頭部23bは、例えば円柱状の部材であり、頭部23bの外径dyは、ロッド本体23aの最大外径dxよりも大きい(
図26参照)。なお、本実施形態では、ロッド本体23aの外径は一定であるが、異なっていても良い。
【0093】
ハンドル部12(
図22、及び
図26参照)には、軸線方向に貫通し、且つ軸線方向から見た場合に軸線Sfを中心とした回転方向Drに沿って長い回避孔(ガイド孔)71が設けられている。回避孔71には、連結部23Eのロッド本体23aが挿通されている。回避孔71は、連結部23Eのロッド本体23aとの干渉を避けるための孔である。回避孔71は連結部23Eの数に対応して一個(単数)形成されている。
【0094】
回避孔71は、第1のガイド面71a、第2のガイド面71b、及び一対のストッパ面71c、71dによって形成されている。第1のガイド面71aは、軸線Sfを中心とした回転方向Drに沿って延在する面である。第2のガイド面71bは、第1のガイド面71aよりも軸線Sfから離れており、且つ第1のガイド面71aに対向して延在する面である。一対のストッパ面71c、71dは、第1のガイド面71a及び第2のガイド面71bの両端に設けられ、連結部23Eのロッド本体23aに当接して連結部23Eの相対移動を規制する面である。
【0095】
回避孔71は、第1の領域72と第2の領域73とを備えている。第1の領域72は、第1のガイド面71aと第2のガイド面71bとの距離Waが、ロッド本体23aの最大外径dxよりも大きく、且つ頭部23bの外径dyよりも小さい領域である。第2の領域73は、第1のガイド面71aと第2のガイド面71bとの距離Wbが、頭部23bの外径dyよりも大きい領域である。また、第2の領域73は、軸線Sfを中心とした回転方向Drにおいて、第1の領域72よりも狭く、本実施形態では第1の領域72の回転方向Drにおける略中央に設けられている。また、第2の領域73は、軸線Sfに沿って直線状に延在している。
【0096】
回避孔71の軸線方向の長さ、つまりハンドル部12の厚さは(
図23参照)、ロッド本体23aの軸線方向の長さよりも短い。従って、回避孔71に挿通されたロッド本体23aは、頭部23b側の一部が突き出している。この一部は、ロッド本体23aの余り部23cである。余り部23cにより、ハンドル部12と頭部23bとの間には、隙間が形成される。
【0097】
さらに、Oリング13aから吐出側凹部(凹部)21aのハンドル部12側の端部までの距離Dxは、余り部23cの軸線方向の長さDy以上である。なお、距離Dxは、実質的には、Oリング13aと吐出側凹部(凹部)21aとの接触部分のうち、軸線方向において中心となる位置から吐出側凹部21aのハンドル部12側の端部までの距離を意味する。
【0098】
一般的に、可動体から吐出側ケーシングを分離する際、吐出側ケーシングの移動が軸線方向からずれると、内管が外管に干渉し、内管を破損等させてしまう可能性がある。このずれは、Oリングが吐出側凹部から外れ、Oリングにかかっていた負荷が解かれたタイミングで生じやすい。
【0099】
これに対し、本実施形態では、可動体7に対し、吐出側ケーシング21をロッド本体23aの余り部23cの長さDyだけ移動させると、連結部23Eの頭部23bは回避孔71まで到達する(
図23の(b)図参照)。この移動に対応し、可動体7側のOリング13aは逆方向に移動する。ここで、Oリング13aから吐出側凹部21aのハンドル部12側の端部までの距離Dxは、余り部23cの長さDy以上である。つまり、頭部23bが回避孔71に到達したタイミングにおいて、Oリング13aは、まだ吐出側凹部21aから外れていない。
【0100】
次に、頭部23bは、回避孔71に到達しても、到達位置が上述の第1の領域72(
図26参照)であれば、回避孔71を通過できず、可動体7の移動は規制される。従って、可動体7を更に移動させるためには、可動体7を回転させ、頭部23bが第2の領域73に達するように位置を調整する必要がある。従って、本実施形態では、Oリング13aが吐出側凹部21aから外れてしまう前に、操作者に頭部23bの位置調整の機会を提供できる可能性があり、吐出側ケーシング21等の慎重な移動操作を促して内管4の破損を抑制し易くなる。
【0101】
特に、本実施形態では、Oリング13aから吐出側凹部21aのハンドル部12側の端部までの距離Dxは、余り部23cの軸線方向の長さDyと同一である。従って、本実施形態では、Oリング13aが吐出側凹部21aから外れてしまう直前に、操作者に頭部23bの位置調整の機会を提供できる可能性があり、より適切に吐出側ケーシング21等の慎重な移動操作を促して内管4の破損を抑制し易くなる。
【0102】
次に、ノズル部3Eについて説明する。
図24及び
図25に示されるように、ノズル部3Eは、二重管であり、内管4と、内管4を収容すると共に、外側貫通孔51が設けられた外管5と、を備えている。内管4には、第1の内側貫通孔47と、第2の内側貫通孔48とが設けられている。第2の内側貫通孔48は、第1の内側貫通孔47よりも流路面積が大きい。本実施形態では、可動体7に固定された内管4が、筐体部8に固定された外管5に対して回転可能である。
【0103】
外管5の先端5aは湾曲して封止されており、外側貫通孔51は外管5の先端5a近傍の側部5bに設けられている。外側貫通孔51は、外管5の内側と外側とを連通可能に貫通している。
【0104】
内管4の先端4aは湾曲して封止されており、第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とは、内管4の先端4a近傍の側部4bに設けられている。第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とは真円形状である。第1の内側貫通孔47の直径は第2の内側貫通孔48の直径よりも小さい。従って、第2の内側貫通孔48の面積の方が第1の内側貫通孔47の面積よりも大きい。第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とは、内管4の内側と外側とを連通可能に貫通している。
【0105】
第1の内側貫通孔47の中心と第2の内側貫通孔48の中心との軸線Sf方向に沿った位置(先端4aからの距離)は略等しい。また、第1の内側貫通孔47の中心と第2の内側貫通孔48の中心とは、軸線Sf周りで位相角180°だけずれている(
図25参照)。つまり、第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とは、軸線Sfを中心に回転角が180°の位置に設けられている。
【0106】
外側貫通孔51(
図27参照)は、回転移動する内管4に設けられた第1の内側貫通孔47および第2の内側貫通孔48の移動軌跡K上に重なるように配置されている。移動軌跡K上に重なるとは、内管4の回転に伴って移動する第1の内側貫通孔47または第2の内側貫通孔48の軌跡(移動領域)を仮定した場合に、その移動領域の少なくとも一部に外側貫通孔51の少なくとも一部が重なることを意味する。
【0107】
外側貫通孔51と第1の内側貫通孔47とが完全に重なった状態において、第1の内側貫通孔47は外側貫通孔51内に収まる。また、外側貫通孔51と第2の内側貫通孔48とが完全に重なった状態において、第2の内側貫通孔48は外側貫通孔51内に収まる。外側貫通孔51、第1の内側貫通孔47、及び第2の内側貫通孔48の形状は一例に過ぎず、外側貫通孔51が第1の内側貫通孔47及び第2の内側貫通孔48の移動軌跡K上に重なるように配置されているのであれば、その他の様々な形状であっても良い。例えば、外側貫通孔51を円形や楕円形にすることもでき、逆に、第1の内側貫通孔47や第2の内側貫通孔48を略四角形状にすることもできる。
【0108】
上述の通り、連結部23Eのロッド本体23aは、回避孔71に挿通されている。吐出側ケーシング21に対し、可動体7を回転させると、ロッド本体23aは、回避孔71内を移動する。連結部23E(具体的にはロッド本体23a)が一対のストッパ面71c、71dに当接すると、可動体7の移動が規制される。ここで、一対のストッパ面71c、71dのうち、一方のストッパ面71cに連結部23Eが当接する位置では、第1の内側貫通孔47と外側貫通孔51とが重なっている。また、他方のストッパ面71dに連結部23Eが当接する位置では、第2の内側貫通孔48と外側貫通孔51とが重なっている。
【0109】
つまり、可動体7を回転させた際、連結部23Eが一方のストッパ面71cに当接すると第1の内側貫通孔47と外側貫通孔51とが重なるように位置合わせされ、連結部23Eが他方のストッパ面71dに当接すると第2の内側貫通孔48と外側貫通孔51とが重なるように位置合わせされる。その結果、第1の内側貫通孔47と外側貫通孔51との位置合わせ、及び第2の内側貫通孔48と外側貫通孔51との位置合わせが楽になり、操作性が向上する。
【0110】
また、第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とは、軸線Sfを中心に回転角が180°の位置に設けられている。つまり、第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とは、軸線Sfを中心に対向する位置に設けられている。第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とが対向していると大きさを広げやすくなり、第1の内側貫通孔47及び第2の内側貫通孔48を通過する液体の流量を増加させ易くなる。
【0111】
本実施形態によれば、外管5に対して内管4を回転させることにより、外側貫通孔51の少なくとも一部分を、大きさの異なるいずれかの内側貫通孔に重ねることができる。例えば、本実施形態では、第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とが設けられており、外側貫通孔51を大きい方の第2の内側貫通孔48に重ねると液体の吸引量は増え、小さい方の第1の内側貫通孔47に重ねると減る。つまり、外側貫通孔51を重ねる内側貫通孔47、48の選択により、第1の内側貫通孔47または第2の内側貫通孔48と外側貫通孔51との重複領域を変化させることができる。つまり、この重複領域の調整により、患者に対して過度の負担を強いることなく、状況に応じた吸引量の調整を行うことができる。また、本実施形態によれば、第1の実施形態に係るI/Aハンドピース1Aと同様の要素や構造に基づく同様の作用、効果についても享受し得る。
【0112】
また、本実施形態において、可動体7に設けられた内流路Raは、内管4よりも内径が大きい拡大流路部Rcを備え、拡大流路部Rcの軸線方向の長さLyは、内管4の長さLxよりも長い。内管4の内径は拡大流路部Rcの内径よりも小さいので、内管4の方が拡大流路部Rcよりも抵抗が大きくなる。しかしながら、拡大流路部Rcの軸線方向の長さLyは内管4の長さLxよりも長いので、内管4及び内流路Ra全体での抵抗を小さくでき、第1の内側貫通孔47または第2の内側貫通孔48を通過する液体の流量を増加させ易い。
【0113】
また、本実施形態では、連結部(ガイドロッド)23Eが一方のストッパ面71cに当接すると第1の内側貫通孔47と外側貫通孔51とが重なるように位置合わせされ、連結部23Eが他方のストッパ面71dに当接すると第2の内側貫通孔48と外側貫通孔51とが重なるように位置合わせされる。その結果、第1の内側貫通孔47と外側貫通孔51との位置合わせ、及び第2の内側貫通孔48と外側貫通孔51との位置合わせが楽になり、操作性が向上する。
【0114】
また、本実施形態において、第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とは、軸線Sfを中心に回転角が180°の位置に設けられている。つまり、第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とは、軸線Sfを中心に対向する位置に設けられている。その結果、第1の内側貫通孔47と第2の内側貫通孔48とが干渉しない範囲で、大きさを広げやすくなり、第1の内側貫通孔47及び第2の内側貫通孔48を通過する液体の流量を増加させ易くなる。
【0115】
また、本実施形態では、吐出側ケーシング(第1のケーシング)21と導入側ケーシング(第2のケーシング)22とを分解し、回避孔(ガイド孔)71から連結部(ガイドロッド)23Eを引き抜こうとした際、連結部23Eの頭部23bは、第2の領域73は通過できるが、第1の領域72は通過できない。更に第2の領域73は軸線Sfに沿って延在するので、連結部23Eを軸線Sfに沿った方向に引き抜くことができ、その結果、可動体7に対して吐出側ケーシング21を軸線Sfに沿った方向に分離することができる。
【0116】
以上、第5の実施形態に係るI/Aハンドピース1Eについて説明したが、上記の第1~第4の実施形態に係るI/Aハンドピース1A~1Dに対し、I/Aハンドピース1Eの構造を適用することも可能である。例えば、I/Aハンドピース1A~1Dの可動体7に形成された内流路Raに拡大流路部Rcを形成し、拡大流路部Rcの軸線方向の長さを内管4の長さよりも長くすることも可能である。また、第1~第4の実施形態に係るI/Aハンドピース1A~1Dに、第5の実施形態に係る連結部23E及び回避孔71を適用することも可能である。
【実施例】
【0117】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0118】
実施例1は、I/Aハンドピースに適用される二種類の異なる内管を用いて吸引量を比較検証した結果である。第1の内管の内側貫通孔(第1の内側貫通孔)の径は0.3mmであり、第2の内管の内側貫通孔(第2の内側貫通孔)の径は0.4mmであった。吸引する液体は、眼灌流液であった。吸引は、ベンチュリーポンプ(吸引装置の一例)にて行い、吸引圧力を変えながら1分当たりの吸引量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0119】
【符号の説明】
【0120】
1A、1B、1C、1D、1E…I/Aハンドピース(手術器具)、2…把持部(保持部)、3A、3B、3C、3D、3E…ノズル部、4…内管、4b…側部、5…外管、5b…側部、7…可動体、8…筐体部、12…ハンドル部、13a…Oリング(リング部材)、21…吐出側ケーシング(第1のケーシング)、21a…吐出側凹部(凹部)、22…導入側ケーシング(第2のケーシング)、23a…ロッド本体、23b…頭部、23c…余り部、23E…連結部(ガイドロッド)、41、42、44、45、46…内側貫通孔、47…第1の内側貫通孔、48…第2の内側貫通孔、51、52、53、54…外側貫通孔、71…回避孔(ガイド孔)、Dr…回転方向、71a…第1のガイド面、71b…第2のガイド面、71c、71d…ストッパ面、K…移動軌跡、La…吸引液、Sf…軸線、Ra…内流路、Rc…拡大流路部、Ly…拡大流路部の長さ、Lx…内管の長さ、Dx…Oリングから吐出側凹部の端部までの距離、Dy…余り部の長さ、Wa…第1の領域の第1のガイド面と第2のガイド面との距離、Wb…第2の領域の第1のガイド面と第2のガイド面との距離、dx…ロッド本体の最大外径、dy…頭部の外径。