(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20220721BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20220721BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20220721BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C5/00 H
B60C11/03 100C
B60C11/13 C
B60C11/12 D
B60C11/13 B
(21)【出願番号】P 2019024595
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100202636
【氏名又は名称】鈴木 麻菜美
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴光
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-168911(JP,A)
【文献】特開2016-150601(JP,A)
【文献】特開2017-24454(JP,A)
【文献】特開2016-49879(JP,A)
【文献】特開2014-531365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
B60C 5/00
B60C 11/03
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド踏面に、該トレッドの周方向に延びる周方向溝又は周方向溝及びトレッド端にて区画される陸部の4つが前記トレッドの幅方向に並列する、陸部列を有し、
前記陸部列の一端側の陸部に、隣接する陸部側の周方向溝に開口する、凹部を有し、
前記凹部に対応する位置から始端して、前記一端側の陸部を除く3列の陸部に跨って、前記トレッドの幅方向へ交わる向きへ、前記周方向溝で途切れることによって断続して延びる、断続サイプを有し、
前記断続サイプは、前記3列の各陸部の表面から前記断続サイプに向かう斜面を介して前記各陸部の表面に開口することを特徴とする、タイヤ。
【請求項2】
前記凹部を区画する側壁は、前記一端側の陸部の表面から前記周方向溝の底部に向かう斜面を有する、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記断続サイプの延長線上に、前記凹部を区画する側壁の少なくとも一部がある、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記断続サイプは、前記陸部列の他端側の陸部内にて終端する、請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
前記他端側の陸部に、
前記断続サイプの終端から前記断続サイプよりも前記トレッドの周方向寄りに延びて、前記他端側の陸部内で終端する、周方向細溝を有する、請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記周方向細溝は、前記他端側の陸部の表面から前記タイヤの径方向内側に向かって傾斜する傾斜壁を有する、請求項5に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記一端側の陸部に、
前記断続サイプの延長線上に始端があり、前記凹部と離隔して、前記トレッドの幅方向に対して交わる向きに延びる横溝を有する、請求項3に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記凹部と前記横溝との前記トレッドの幅方向における距離は、前記凹部の前記トレッドの幅方向における最大幅よりも小さい、請求項7に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タイヤ、特に、排水性能を向上させることによって、湿潤路面における操縦安定性を高めたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、降雨時等の濡れた路面を走行する際、トレッド踏面と路面との間に水膜が存在すると、トレッド踏面の接地面積が減少し、スリップが発生することがある。タイヤがスリップするのを防止するには、タイヤのトレッド踏面に、タイヤの赤道に沿って延びる周方向溝を設けて、トレッド接地域内の排水性能を確保するのが通例である。
【0003】
さらに、排水性能向上の観点から、周方向溝等によって区画されたリブやブロック等の陸部に、切込みによる細溝である、いわゆるサイプを設けることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、リブ内に複数本のサイプを設け、排水性能を向上させたタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたタイヤでは、リブ内にトレッド幅方向に延びる複数のサイプを設けた上で、排水性能をより向上させることを所期して、一部のサイプは、その開口縁に面取り部を有するものとしている。サイプの開口縁に面取り部を設けることによって、面取り部を排水路として機能させている。
しかしながら、特許文献1に開示されたタイヤでは、サイプの内部に取り込まれた水分の排出が十分でない場合があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、トレッド接地域内の排水性能を向上させたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、前記課題を解決する手段について鋭意究明した。その結果、サイプについて複数の陸部に跨る連続性を持たせることによって、サイプによる排水性能をより高められることを新たに知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)本発明のタイヤは、タイヤのトレッド踏面に、該トレッドの周方向に延びる周方向溝又は周方向溝及びトレッド端にて区画される陸部の4つが前記トレッドの幅方向に並列する、陸部列を有し、前記陸部列の一端側の陸部に、隣接する陸部側の周方向溝に開口する、凹部を有し、前記凹部に対応する位置から始端して、前記一端側の陸部を除く3列の陸部に跨って、前記トレッドの幅方向へ交わる向きへ、前記周方向溝で途切れることによって断続して延びる、断続サイプを有し、前記断続サイプは、前記3列の各陸部の表面から前記断続サイプに向かう斜面を介して前記各陸部の表面に開口することを特徴とする。
ここで、「トレッド踏面」とは、リムに組み付けるとともに所定の内圧を充填したタイヤを、最大負荷荷重を負荷した状態で転動させた際に、路面と接触することになる、タイヤの全周に亘る外周面を意味し、「トレッド端」とは、トレッド踏面のタイヤ幅方向端を意味する。
上記の「リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO (The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA (The Tire and Rim Association, Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指す(すなわち、上記の「リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含む。「将来的に記載されるサイズ」の例としては、ETRTOのSTANDARDS MANUAL 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズを挙げることができる。)が、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。また、「所定の内圧」とは、上記のJATMA YEAR BOOK等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいい、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、「所定の内圧」は、タイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。さらに、「最大負荷荷重」とは、上記最大負荷能力に対応する荷重をいうものとする。なお、ここでいう空気は、窒素ガス等の不活性ガスその他に置換することも可能である。
なお、サイプが「周方向溝で途切れることによって断続して延びる」とは、一連、即ちひと続きに延びるサイプが、陸部を区画する周方向溝によって分断されている状態であり、陸部内で、複数のサイプに分断されている場合は含まれず、陸部内では連続していることが重要である。
【0010】
(2)前記凹部を区画する側壁は、前記一端側の陸部の表面から前記周方向溝の底部に向かう斜面を有する、上記(1)に記載のタイヤ。
【0011】
(3)前記断続サイプの延長線上に、前記凹部を区画する側壁の少なくとも一部がある、上記(1)又は(2)に記載のタイヤ。
【0012】
(4)前記断続サイプは、前記陸部列の他端側の陸部内にて終端する、上記(1)~(3)のいずれかに記載のタイヤ。
【0013】
(5)前記他端側の陸部に、前記断続サイプの終端から前記断続サイプよりも前記トレッド周方向寄りに延びて、前記他端側の陸部内で終端する、周方向細溝を有する、上記(4)に記載のタイヤ。
【0014】
(6)前記周方向細溝は、前記他端側の陸部の表面から前記タイヤの径方向内側に向かって傾斜する傾斜壁を有する、上記(5)に記載のタイヤ。
【0015】
(7)前記一端側の陸部に、前記断続サイプの延長線上に始端があり、前記凹部と離隔して、前記トレッドの幅方向に対して交わる向きに延びる横溝を有する、上記(3)に記載のタイヤ。
【0016】
(8)前記凹部と前記横溝との前記トレッドの幅方向における距離は、前記凹部の前記トレッドの幅方向における最大幅よりも小さい、上記(7)に記載のタイヤ。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、トレッド接地域内の排水性能を向上させたタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤの、トレッド踏面の一部を展開した図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿う断面を示す図である。
【
図3】
図1のIII-III線に沿う断面を示す図である。
【
図4】
図1のIV-IV線に沿う断面を示す図である。
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明のタイヤを、その実施形態を例示して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ1のトレッド踏面2の一部をトレッド幅方向に展開して示しており、
図2は、
図1のII-II線に沿う断面を示している。なお、図示例において、CLはタイヤ赤道であり、Tcはトレッド周方向、Twはトレッド幅方向である。
なお、図示は省略するが、このタイヤ1は、一対のビード部間に跨るカーカスを骨格として、該ビード部のタイヤ径方向外側に、一対のサイドウォール部と、該サイドウォール部間に跨るトレッドとを有している。
【0021】
タイヤ1は、トレッド踏面2に、該トレッドの周方向に延びる周方向溝又は周方向溝及びトレッド端にて区画される陸部の4つ、図示例では、周方向溝3a、3b、3c、3d及びトレッド端TE1にて区画される4つの陸部、4a、4b、4c及び4dがトレッド幅方向に並列する、陸部列40を有している。なお、
図1では、陸部4dに隣接して、周方向溝3d及びトレッド端TE2にて区画される陸部5が配置されている。
【0022】
ここで、陸部列40の一端側の陸部4aに、隣接する陸部4b側の周方向溝3aに開口する、凹部7が形成されている。図示例において、凹部7は、側壁7a及び7bによって区画され、陸部4aがトレッド幅方向内側に凹むように形成されている。
図1において、凹部7は、陸部4a内から、周方向溝3aに向かって、側壁7a及び7bが略V字状に開口する形状が示されているが、形状は特に限定されない。例えば、トレッド踏面の展開視にて、略多角形状にて開口する形状や、半円状に開口する形状としてもよい。後述する、水流を制御して排水性能を向上させる観点からは、図示の形状又は略多角形状とすることが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、周方向溝3aに凹部7が開口し、凹部7と周方向溝3aとが連通して、周方向溝3aのトレッド踏面における面積を広げることができることから、より多くの路面上の水分の取り込み及び排出が可能となり、排水性能を高めることができる。
【0024】
なお、凹部7の深さd1は、凹部7と周方向溝3aとが連通して、一体として排水性能の向上に寄与するため、周方向溝3aと同様の深さであることが好ましいが、特に限定されない。なお、凹部7の深さd1とは、凹部7の最大深さを指し、周方向溝3aの溝深さd10とは、周方向溝3aの最大深さを指すものとする。
【0025】
また、凹部7の、トレッド周方向における最大長さp1は、特に限定されないが、後述する断続サイプ9の溝幅w1よりも大きいことが好ましい。例えば、溝幅w1に対して、110%~200%とすることができる。
【0026】
さらに、凹部7のトレッド幅方向における最大長さw10は、周方向溝3aの溝幅w20に対して、120%~300%であることが好適である。周方向溝3aの溝幅w20に対する最大長さw10の比を120%以上とすることによって、トレッド踏面における排水性能を十分に向上させることができ、300%以下とすることによって、陸部4aの剛性を維持することができる。
【0027】
また、本実施形態において、凹部7を区画する側壁7a及び7bは、陸部4aの表面から周方向溝3aの底部に向かう斜面を有することが好ましい。
図2に示すとおり、凹部7の側壁7aは、陸部4aの表面から周方向溝3aの底部に向かい、タイヤ径方向内側に深さが漸増して、傾斜する形状を有する斜面8Aを有し、側壁7bは、陸部4aの表面から周方向溝3aの底部に向かい、タイヤ径方向内側に深さが漸増して、傾斜する形状を有する斜面8Bを有している。
【0028】
上記構成によれば、陸部4aの表面から、斜面8A及び8Bの傾斜に沿って、凹部7に向かってより効率的に水分を取り込むとともに、凹部7から陸部4aの表面に向かい、斜面8A及び8Bの傾斜に沿って、より効率的に水分を排出することができる。
【0029】
なお、斜面8A及び8Bの深さd2及びd3は、凹部7の深さd1に対して、10%~70%であることが好ましい。なお、斜面8A及び8Bの深さとは、それぞれ、斜面8A及び8Bの最大深さを指すものとする。深さd2及びd3を、凹部7の深さd1に対して、それぞれ10%以上とすることによって、排水性能を効率的に向上させることができ、70%以下とすることによって、凹部7周辺の剛性低下を防止することができる。
【0030】
なお、陸部4aの表面における、斜面8A及び陸部4aの表面の境界における接線L1と、斜面8Aとがなす角度θ1、並びに斜面8B及び陸部4aの表面との境界における接線L2と、斜面8Bとがなす角度θ2は、それぞれ、5°~70°とすることが好ましい。角度θ1及びθ2をそれぞれ5°以上とすることによって、凹部7の排水性能の向上に十分に寄与することができ、70°以下とすることによって、陸部の路面との接地性を維持することができる。
【0031】
なお、斜面8A及び8Bのトレッド周方向における最大長さp2及びp3は、異なる長さであってもよい。また、最大長さp2及びp3は、それぞれ、凹部7の最大長さp1に対して、25%~150%であることが好ましい。凹部7の最大長さp1に対する比を、それぞれ25%以上とすることによって、凹部7の排水性能の向上に十分に寄与することができ、150%以下とすることによって、陸部4aの剛性低下を防止することができる。
【0032】
ここで、3列の陸部4b、4c及び4dは、一端側の陸部4aに隣接して、順に配置されている。陸部4b、4c及び4dには、凹部7に対応する位置から始端して、陸部4b、4c及び4dに跨って、トレッド幅方向へ交わる向きへ、周方向溝3b及び3cで途切れることによって断続して延びる、断続サイプ9が設けられている。ここで、凹部7に対応する位置から始端するとは、断続サイプ9の始端91eが、トレッド周方向において、凹部7が配置されている領域に位置していることを指す。断続サイプ9は、始端91eにおいて周方向溝3aに開口し、陸部4b及び4cを横断して、陸部4dまで延びて、滑らかにひと続きに延びている。図示例では、断続サイプ9のうち、陸部4bにおいて延びている部分を小サイプ9a、陸部4cにおいて延びている部分を小サイプ9b、陸部4dにおいて延びている部分を小サイプ9cとして示し、小サイプ9a、9b及び9cは、周方向溝3b及び3cを介して、滑らかに一体として延びている。
【0033】
上記構成によれば、サイプを、複数の陸部に跨る連続性をもって、排水性能を発揮させることができる。即ち、各小サイプ9a、9b及び9cにそれぞれに取り込まれた水分は、断続サイプ9に沿って複数の陸部を横断することができ、小サイプ9a、9b及び9cの間で、隣り合う小サイプから流入した水分の流れによって、サイプ内の水分の流れが滞ることなく促進され、サイプから、連通する周方向溝への水流が促進される。そして、断続サイプ9から、対応する位置にある凹部7へ、周方向溝3aを介し水分が流入すると、凹部7の形状に沿って、断続サイプ9側に水分が逆流し、凹部7からトレッド踏面2の外側や陸部の表面へ水が放出される。あるいは、周方向溝3a内で、逆流した水分と、断続サイプ9から流入した水分がぶつかり合い、周方向溝3aから、トレッド踏面2の外側へ水分が排出される。このように、断続サイプ9と凹部7とが、複数の陸部に跨る連続性をもって、水分の流れを制御して、水分の排出をさらに促進することができる。
【0034】
なお、断続サイプ9の延長線上に、凹部7を区画する側壁の少なくとも一部があることが好ましい。即ち、図示例では、断続サイプ9の延在する向きに従って延長した仮想線である延長線m1上に、凹部7を区画する側壁7bが存在している。上記構成によれば、断続サイプ9と凹部7との一体性がさらに高まり、排水性能のさらなる向上が可能となる。
【0035】
なお、図示例では、断続サイプ9は、僅かに大きく弧を描くように湾曲して延びているが、滑らかにひと続きとなる形状であれば特に限定されず、直線状に延びていてもよい。
【0036】
また、断続サイプ9は、連通する周方向溝、図示例では、周方向溝3a、3b及び3cに水分を排出する観点から、トレッド幅方向に対して交わる向きに延びていればよく、傾斜角度は特に限定されない。
【0037】
また、断続サイプ9は、図示例では、陸部4d内で終端しているが、終端92eの位置は特に限定されず、サイプ9cが陸部4dを横断していてもよい。
【0038】
なお、断続サイプ9は、始端91eから終端92eまでのトレッド幅方向における長さw30が、トレッド踏面2のトレッド幅方向長さWDに対して、30%~80%であることが好適である。トレッド幅方向長さWDに対するトレッド幅方向長さw30の比を30%以上とすることによって、トレッド踏面における排水性能を十分に向上させることができ、80%以下とすることによって、トレッド踏面2の剛性を維持することができる。
【0039】
断続サイプ9は、一定の溝幅w1にて延びているが、例えば、溝幅が始端91eから終端92eにかけて漸増又は漸減する等、他の形状とすることもできる。
なお、ここで、「溝幅」とは、断続サイプ9の延在方向に直交する断面における溝幅をいうものとする。溝幅w1は、0.1mm~1.0mmとすることが好ましい。
【0040】
さらに、断続サイプ9は、一定の溝深さd4にて延びているが、例えば、溝深さが始端91eから終端92eにかけて漸増又は漸減する等、他の形状とすることもできる。
なお、ここで、「溝深さ」とは、断続サイプ9の最大深さをいうものとする。溝深さd4は、2.0mm~8.0mmとすることが好ましい。
【0041】
なお、上記のとおり連続するように構成された断続サイプ9及び凹部7は、図示するとおり、トレッド周方向に等間隔にて複数配置されていることが好ましい。例えば、トレッド踏面2の全周において、断続サイプ9と凹部7とのセットを20つ以上配置していることが好適である。
【0042】
また、断続サイプ9は、3列の各陸部4b、4c及び4dの表面から断続サイプ9に向かう斜面を介して、各陸部4b、4c及び4dの表面に開口している。図示例では、陸部4b、4c及び4dの表面から、それぞれ、断続サイプ9に向かう、タイヤ径方向内側に傾斜した斜面10A、10B、10C、10D、10E及び10Fが設けられている。
【0043】
上記斜面について、斜面10A及び10Bを典型例として説明する。
図3は、
図1のIII-III線に沿う断面であり、断続サイプ9の延在方向に直交する断面を示している。図示するとおり、斜面10A及び10Bは、陸部4bの表面から、断続サイプ9に向かって、タイヤ径方向深さが漸増し、傾斜する形状を有している。斜面10A及び10Bは、断続サイプ9を挟んで対向することによって、略V字状の空間を形成している。このように形成された空間により、断続サイプ9に効果的に水分を取り込むことができる。さらに、車両の制動時及び加速時には、接地面におけるサイプの開口端縁がめくれ上がるように変形しやすいが、断続サイプ9が、斜面を介して陸部の表面に開口することによって、このような変形を防止できることからも、トレッド接地域内での排水性能をより向上させることができる。また、断続サイプ9の変形を防止することで、ひいては、陸部4bの変形による陸部4bの接地性の悪化も抑制することができる。
【0044】
図1に示すとおり、斜面10A、10C及び10Eは、断続サイプ9の延びる向きに従い、凹部7に対応する位置から始端して、3列の陸部4b、4c及び4dに跨って断続していることが好ましい、同様に、斜面10B、10D及び10Fについても、同様に、陸部4b、4c及び4dに跨って断続していることが好ましい。上記構成によれば、断続サイプ9に、より効率的に水分を取り込むとともに、取り込まれた水分を、より効率的に断続サイプ9に沿って複数の陸部を横断するようにできる。よって、断続サイプ9に沿って水流をより効率的に制御して、水分の排出をさらに促進することができる。
【0045】
なお、斜面10A及び10Bは、断続サイプ9に直交する向きにおける最大長さw2及びw3をそれぞれ有している。最大長さw2及びw3は、始端91eから終端92eにかけて一定であってもよいが、漸減していることが好ましい。凹部7に近い、始端91e側の最大長さw2をより大きくすることによって、断続サイプ9から、後述する凹部7側への水分の排出を効率的に行うことができる。
【0046】
また、斜面10A及び10Bの最大長さw2及びw3は、断続サイプ9の溝幅w1に対して、それぞれ、300%~1600%であることが好ましい。最大長さw2及びw3の溝幅w1に対する比を300%以上とすることによって、排水性能を効率的に向上させることができ、1600%以下とすることによって、断続サイプの変形を十分に抑制することができる。
【0047】
さらに、斜面10A及び10Bは、一定の深さd5及びd6にて延びているが、例えば、深さが始端91eから終端92eにかけて漸増又は漸減する等、他の形状とすることもできる。また、図示例では、斜面10A及び10Bの深さd5及びd6は同一であるが、それぞれ異なる深さを有するものとしてもよい。
なお、ここで、斜面の「深さ」とは、斜面の最大深さを指す。
【0048】
斜面10A及び10Bの深さd5及びd6は、断続サイプ9の溝深さd4に対して、10%~50%であることが好ましい。深さd5及びd6の、溝深さd4に対する比を、それぞれ10%以上とすることによって、排水性能を効率的に向上させることができ、50%以下とすることによって、断続サイプ9の変形を十分に抑制することができる。
【0049】
なお、陸部4aの表面における、斜面10A及び陸部4aの表面の境界における接線L3と、斜面10Aとがなす角度θ3、並びに斜面10B及び陸部4aの表面の境界における接線L4と、斜面10Bとがなす角度θ4は、それぞれ、5°~50°とすることが好ましい。角度θ3及びθ4をそれぞれ5°以上とすることによって、断続サイプ9の排水性能の向上に十分に寄与することができ、50°以下とすることによって、陸部の路面との接地性を維持することができる。
【0050】
ここで、上述のとおり、断続サイプ9の終端92eの位置は特に限定されないが、
図1においては、陸部4d内で終端している。
【0051】
断続サイプ9が陸部4d内で終端するとき、陸部4dに、断続サイプの終端92eから、断続サイプ9よりもトレッド周方向寄りに延びて、陸部4d内で終端する、周方向細溝11を有していることが好ましい。
図1に示すとおり、周方向細溝11は、終端92eと連通する一端部111eから、トレッド幅方向に交わる向きに延びる断続サイプ9よりも、トレッド周方向寄りの傾斜角度にて延びて、他端部112eにて終端している。上記構成によれば、タイヤの転動に伴い、断続サイプ9において、始端91e側から終端92e側へ向かう水分の流れが生じたときに、周方向細溝11に水分が流れ込み、周方向細溝11の他端部112eに水分がぶつかって、周方向溝3c側に水分が逆流し、断続サイプ9及び凹部7側へ向かう水分の流れが促進され、排水性能をさらに効率的に高めることができる。
【0052】
また、周方向溝3cから、断続サイプ9を介して、周方向細溝11を設けることによって、周方向溝3cから発生する気柱共鳴を周方向細溝11に分散させて、タイヤの騒音を低減することができる。
【0053】
なお、周方向細溝11の形状は任意であるが、
図4では、略タイヤ径方向に沿って延びる側壁12a及び12bによって区画され、側壁12a及び12bの間に溝底12cを有している。側壁12bは、陸部4dの表面まで延びている形状を有し、側壁12aは、傾斜壁120Aを介して陸部4dの表面に連続している。傾斜壁120Aは、陸部4dの表面から、タイヤの径方向内側、即ち溝底12cに向かって傾斜している形状である。上記構成によれば、断続サイプ9及び断続サイプ9の斜面からの水分の流入を促進することができる。さらに、水分が周方向溝11の他端部112eにぶつかって、周方向溝3c側へと逆流する水分の流れも促進される。
【0054】
なお、陸部4dの表面における、陸部4dの表面及び傾斜壁120Aの境界における接線L5と、傾斜壁120Aとがなす角度θ5は、特に限定されないが、断続サイプ9に隣接する斜面10Eとの連続性の観点から、5°以上50°以下とすることが好適である。また、角度θ5は、周方向溝11の一端部111e側から他端部112e側に亘り、一定の角度としてもよく、漸減又は漸増等、変化する角度としてもよい。
【0055】
また、周方向細溝11の傾斜壁120Aの深さd7は、斜面10Eの深さと同様であることが好ましい。上記構成によれば、断続サイプ9に隣接する斜面と、周方向細溝11との間で、水分の流れを連続的に制御しやすい。さらに、周方向細溝11の最大深さd8は、断続サイプ9の溝深さd4と同様であることが好ましい。
【0056】
また、
図1に示すように、一端側の陸部4aには、横溝13を設けることが好ましい。横溝13は、断続サイプ9の延長線m1上に、始端131eがあり、凹部7と離隔して、トレッドの幅方向に対して交わる向きに延びる形状である。図示例では、断続サイプ9と、凹部7の側壁7bと、始端131eとが断続している。上記構成によれば、多量の水分が路面に存在する際等、断続サイプ9から、凹部7を介して、水分が陸部4a上に流れ出た際に、陸部4aの表面に水分が留まることなく、横溝13内に流れ込み、排水性能をさらに向上させることができる。
【0057】
なお、断続サイプ9からの水流の流れに沿って、横溝13に水分が円滑に流れ込むようにする観点から、横溝13は、始端131e及び終端132eの両方が、延長線m1上に位置していることが好ましい。
【0058】
また、凹部7と横溝13とのトレッド幅方向における距離r1は、凹部7のトレッド幅方向における最大長さw10よりも小さいことが好適である。凹部7の最大長さw10よりも小さい距離に横溝13を配置することによって、凹部7から流れ出た水分が陸部4aの表面上で様々な方向へ向かうことなく、横溝13内に流れ込むことができる。
【0059】
横溝13の形状は任意であるが、図示するとおり、タイヤの赤道CL側からトレッド端TE1側に向かって、溝幅が漸増したのち、トレッド端TE1付近から溝幅が漸減する形状とすることが好ましい。上記構成によれば、トレッド踏面2の内側から外側に向かう水分の流れを促進して、排水性能をさらに向上できるとともに、トレッド端TE1付近における剛性の低下を抑制することができる。
【0060】
また、周方向に隣り合う2つの横溝13の間には、溝14を配置してもよい。図示例において、溝14は、横溝部14aと、細溝部14bとからなる形状である。横溝部14aは、陸部4a内から始端し、トレッド幅方向に対して交わる向きに延びて、トレッド端TE1に開口している。細溝部14bは、トレッド端TE1から、トレッド幅方向外側に向かって延在し、略トレッド周方向側に屈曲して、横溝部14aと鋭角を形成する向きに延びている。
溝14を設けることによって、トレッド端TE1側への水分の排出を促進することができ、タイヤ1の排水性能をより向上させることができる。
【0061】
さらに、
図1に示すとおり、陸部4dに、周方向溝3dに開口し、トレッド幅方向に交わる向きに延び、陸部4d内で終端する、細溝15を設けてもよい。図示例では、周方向細溝11が陸部4d内で終端しているため、周方向細溝11よりもトレッド端TE2側における排水性能をさらに向上させることができる。細溝15の形状は任意であり、サイプと、サイプに向かう斜面とからなる形状としてもよく、複数の面からなる溝としてもよい。
【0062】
また、陸部5の構成は特に限定されないが、
図1に示すように、陸部5内から始端し、トレッド端TE2を超えて、略トレッド幅方向外側に延びる、幅方向溝16を配置してもよい。幅方向溝16によって、トレッド端TE2側への水分の排出を促進することができ、タイヤ1の排水性をより向上させることができる。
【0063】
なお、タイヤ1の車両への装着方向は特に限定されないが、トレッド端TE1側を装着方向外側として装着することが好ましい。即ち、タイヤの転動時には、トレッド踏面2の溝やサイプに取り込まれた水分は、装着方向内側から外側へと流れやすい傾向があり、断続サイプ9から凹部7に向かう水分の流れにおいて、より効率的に水分の排出機能を発揮させることができる。
【0064】
ここで、トレッド端TE1側を装着方向外側とするとき、周方向溝3aの溝幅w20及び溝深さd10を、周方向溝3b、3c及び3dの溝幅及び溝深さに比して小さくすることが好ましい。車両の旋回時等においては、タイヤの装着方向内側に比して装着方向外側の接地圧が高まる傾向があるため、装着方向外側に配置された周方向溝3の溝幅及び溝深さを相対的に小さくすることによって、トレッド踏面2の剛性を強化することができる。
例えば、周方向溝3aの溝幅w20を、周方向溝3b、3c及び3dの溝幅に対して、10%~50%とし、周方向溝3aの溝深さd10を、周方向溝3b、3c及び3dの溝深さに対して、50%~100%としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1:タイヤ、 2:トレッド踏面、 3a、3b、3c、3d:周方向溝、 4a、4b、4c、4d、5:陸部、 7:凹部、 7a、7b:側壁、 8A、8B:斜面、 9:断続サイプ、 9a、9b、9c:小サイプ、 91e:始端、 92e:終端、 10A、10B、10C、10D、10E、10F:斜面、 11:周方向細溝、 111e:一端部、 112e:他端部、 12a、12b:側壁、 12c:溝底、 120A:傾斜壁、 13:横溝、 14:溝、 131e:始端、 132e:終端、 14a:横溝部、 14b:細溝部、 15:細溝、 16:幅方向溝、 TE1、TE2:トレッド端、 CL:タイヤ赤道