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特許7108599熱サイクルシステム用組成物および熱サイクルシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】熱サイクルシステム用組成物および熱サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20220721BHJP
   C10M 111/02 20060101ALI20220721BHJP
   C10M 105/02 20060101ALI20220721BHJP
   C10M 111/04 20060101ALI20220721BHJP
   C10M 105/00 20060101ALI20220721BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20220721BHJP
   F25B 1/053 20060101ALI20220721BHJP
   C10M 105/04 20060101ALN20220721BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20220721BHJP
   C10M 105/06 20060101ALN20220721BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20220721BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20220721BHJP
   C10M 107/24 20060101ALN20220721BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20220721BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20220721BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20220721BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220721BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
C09K5/04 C
C10M111/02
C10M105/02
C10M111/04
C10M105/00
F25B1/00 396Z
F25B1/053 Z
C10M105/04
C10M101/02
C10M105/06
C10M107/02
C10M105/38
C10M107/24
C10M107/34
C10N20:02
C10N40:30
C10N30:06
C10N30:00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019506289
(86)(22)【出願日】2018-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2018010412
(87)【国際公開番号】W WO2018169039
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2017053587
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591084816
【氏名又は名称】日本サン石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 正人
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 玲
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-031239(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171264(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/171256(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/182173(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/04
C10M 101/02
C10M 105/06
C10M 107/02
C10M 105/38
C10M 107/24
C10M 107/34
F25B 1/00
F25B 1/053
C10N 20/02
C10N 30/00
C10N 30/06
C10N 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a)で表されるヒドロクロロフルオロオレフィンおよびクロロフルオロオレフィンから選ばれる少なくとも1つの化合物を含む熱サイクル用作動媒体と、
ナフテン系鉱物油と、パラフィン系鉱物油、アルキルベンゼン、オレフィン重合体、ポリオールエステル系冷凍機油、ポリビニルエーテル系冷凍機油およびポリアルキレングリコール系冷凍機油から選ばれる少なくとも1つの冷凍機油と、を含む混合冷凍機油と、
を含む熱サイクルシステム用組成物であって、
前記混合冷凍機油の40℃における動粘度が300mm/s以下であり、
前記熱サイクル用作動媒体の濃度が10質量%の前記熱サイクル用作動媒体と前記混合冷凍機油との混合物(混合組成物1)の60℃における粘度が10.5mPa・s以上であり、
前記混合冷凍機油の濃度が5質量%の前記熱サイクル用作動媒体と前記混合冷凍機油との混合物(混合組成物2)の二相分離温度が0℃以下であり、
前記ナフテン系鉱物油の含有量が、前記混合冷凍機油の全量に対して40質量%以上である、ことを特徴とする熱サイクルシステム用組成物。
【化1】
(ただし、式中、Rはそれぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Rは(CR Yであり、YはCFであり、nは0又は1であり、Rのうち少なくとも1つは塩素原子である。)
【請求項2】
前記混合冷凍機油が、ナフテン系鉱物油と、パラフィン系鉱物油、オレフィン重合体およびポリオールエステル系冷凍機油から選ばれる少なくとも1つと、を含む請求項1に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項3】
前記熱サイクル用作動媒体の含有量が、前記熱サイクルシステム組成物の全量に対して40~95質量%である請求項1または2に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項4】
前記混合冷凍機油の含有量が、前記熱サイクルシステム組成物の全量に対して5~60質量%である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項5】
前記ナフテン系鉱物油の含有量が、前記混合冷凍機油の全量に対して50~90質量%である請求項1~4のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項6】
前記熱サイクル用作動媒体が、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む請求項1~5のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項7】
前記1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンにおける(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの割合は、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン:(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンで示される質量比で、51:49~100:0である請求項6に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項8】
前記熱サイクル用作動媒体の100質量%に対する1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有量が10質量%以上である請求項6または7に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項9】
前記熱サイクル用作動媒体の100質量%に対する1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有量が20~95質量%である請求項6~8のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項10】
前記ナフテン系鉱物油の15℃における密度は、0.89g/cm 以上である請求項1~9のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項11】
前記ナフテン系鉱物油のアニリン点は、95℃以下である請求項1~10のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の熱サイクルシステム用組成物を用いた、熱サイクルシステム。
【請求項13】
前記熱サイクルシステムが、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置または二次冷却機である請求項12に記載の熱サイクルシステム。
【請求項14】
前記熱サイクルシステムが、遠心式冷凍機である請求項12に記載の熱サイクルシステム。
【請求項15】
前記熱サイクルシステムが、低圧型遠心式冷凍機である請求項12に記載の熱サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱サイクルシステム用組成物および該組成物を用いた熱サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍機用冷媒、空調機器用冷媒、発電システム(廃熱回収発電等)用作動媒体、潜熱輸送装置(ヒートパイプ等)用作動媒体、二次冷却媒体等の熱サイクルシステム用の作動媒体としては、クロロトリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン等のクロロフルオロカーボン(CFC)、クロロジフルオロメタン等のヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が用いられてきた。しかし、CFCおよびHCFCは、成層圏のオゾン層への影響が指摘され、現在、規制の対象となっている。
【0003】
このような経緯から、熱サイクルシステム用作動媒体としては、CFCやHCFCに代えて、オゾン層への影響が少ない、ジフルオロメタン(HFC-32)、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC-125)等のヒドロフルオロカーボン(HFC)が用いられるようになった。例えば、R410A(HFC-32とHFC-125の質量比1:1の擬似共沸混合物)等は従来から広く使用されてきた冷媒である。しかし、HFCは、地球温暖化の原因となる可能性が指摘されている。
【0004】
たとえば、自動車空調機器用冷媒として用いられている1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)は、地球温暖化係数が1430(100年値)と大きい。しかも、自動車空調機器においては、接続ホース、軸受け部等から冷媒が大気中へ漏洩する確率が高い。
【0005】
HFC-134aに代わる冷媒としては、二酸化炭素、HFC-134aに比べて地球温暖化係数が124(100年値)と小さい1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)が検討されている。
【0006】
しかし、二酸化炭素は、HFC-134aに比べて機器圧力が極めて高くなるため、全ての自動車へ適用するためには、多くの解決すべき課題を有する。HFC-152aは、燃焼範囲を有しており、安全性を確保するための課題を有する。
【0007】
また、HFC-134aは、遠心式冷凍機(ターボ冷凍機とも呼ばれている)の作動媒体としても用いられている。遠心式冷凍機は、ビルの冷暖房用、工業用の冷水製造プラントなどに用いられるものである。遠心式冷凍機の作動媒体としては、CFC-11等のフロンが使用されてきたが、近年のオゾン層破壊問題に関連し、国際的にフロンの生産及び使用が規制されているため、例えば、テトラフルオロエタン(HFC-134a)やペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)などの、塩素を含有しない水素含有フロン作動媒体に転換されてきている。
【0008】
ここで、HFC-134aは、地球温暖化係数が1430(100年値)と大きい。また、HFC-245faは、地球温暖化係数は1030(100年値)であるが、毒性が高い。遠心式冷凍機では、他の冷凍機やヒートポンプに比べて作動媒体の充填量が多い。例えば、能力が500冷凍トンクラスの遠心式冷凍機においては、700~800kg程度の作動媒体が充填されている。遠心式冷凍機は建屋内の機械室に据付けられる場合が多いが、万一事故等によって作動媒体の漏れが発生した場合には、大気中に作動媒体が大量に放出されてしまう可能性がある。このように、遠心式冷凍機に用いる作動媒体には、環境面で地球温暖化係数が小さいということだけでなく、毒性が低いことや燃焼性が低いといった安全性も高いことが特に強く求められている。
【0009】
最近、炭素-炭素二重結合を有しその結合が大気中のOHラジカルによって分解されやすいことから、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が少ない作動媒体である、ヒドロフルオロオレフィン(HFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)およびクロロフルオロオレフィン(CFO)等、炭素-炭素二重結合を有する化合物に期待が集まっている。本明細書においては、特に断りのない限り飽和のHFCをHFCといい、HFOとは区別して用いる。また、HFCを飽和のヒドロフルオロカーボンのように明記する場合もある。
【0010】
上記した炭素-炭素二重結合を有するHFO、HCFO、CFOのなかでも、HCFOおよびCFOは、一分子中のハロゲンの割合が多いため、燃焼性が抑えられた化合物である。そのため、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が少なく、さらに、燃焼性を抑えた作動媒体として、HCFO、CFOを用いることが検討されている。このような作動媒体として、例えば、ヒドロクロロフルオロプロペンである、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下、「HCFO-1224yd」という。)(例えば、特許文献1参照。)等が知られている。
【0011】
熱サイクルシステム用組成物は、作動媒体と冷凍機油とを混合して熱サイクルシステム用組成物とするのが一般的であるが、HCFOやCFO等の塩素原子を含有する作動媒体は、冷凍機油との相溶性、また作動媒体と冷凍機油との混合物の溶解粘度等を所定の範囲に調整するのが難しい。例えば、熱サイクルシステムの停止状態から起動状態とする際には、冷凍機油の粘度が著しく低下していることから、起動時に適切な潤滑性を維持することができる熱サイクルシステム用組成物が求められる。しかしながら、上記作動媒体における実用的な冷凍機油との組み合わせは、特定の一部のものしか知られていない。
【0012】
そこで、HCFOやCFO等を作動媒体として使用する熱サイクルシステムにおいて、その優れたサイクル性能を充分に活かしながら、潤滑性を維持し、熱サイクルシステムの動作を円滑に、かつ、長期間安定して稼働できる方法が求められていた。
【0013】
なお、本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、上記のように化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2012/157763号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記観点からなされたものであって、HCFOやCFOを含む熱サイクルシステム用組成物において、HCFOやCFOの有する低い地球温暖化係数および優れたサイクル性能を充分に活かしながら、安定性及び潤滑性に優れた熱サイクルシステム用組成物、および該組成物を用いた、地球温暖化への影響が少なく、かつ高いサイクル性能を兼ね備え、さらに安定性に優れた熱サイクルシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下の[1]~[13]に記載の構成を有する熱サイクル用作動媒体、熱サイクルシステム用組成物および熱サイクルシステムを提供する。
【0017】
[1]下記一般式(a)で表されるヒドロクロロフルオロオレフィンおよびクロロフルオロオレフィンから選ばれる少なくとも1つの化合物を含む熱サイクル用作動媒体と、ナフテン系鉱物油と、パラフィン系鉱物油、アルキルベンゼン、オレフィン重合体、ポリオールエステル系冷凍機油、ポリビニルエーテル系冷凍機油およびポリアルキレングリコール系冷凍機油から選ばれる少なくとも1つの冷凍機油とを含む混合冷凍機油と、を含む熱サイクルシステム用組成物であって、前記混合冷凍機油の40℃における動粘度が300mm/s以下であり、前記熱サイクル用作動媒体の濃度が10質量%の前記熱サイクル用作動媒体と前記混合冷凍機油との混合物(混合組成物1)の60℃における粘度が10.5mPa・s以上であり、前記混合冷凍機油の濃度が5質量%の前記熱サイクル用作動媒体と前記混合冷凍機油との混合物(混合組成物2)の二相分離温度が0℃以下であることを特徴とする熱サイクルシステム用作動媒体。
【化1】
(ただし、式中、Rはそれぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Rは(CR Yであり、YはCFであり、nは0又は1であり、Rのうち少なくとも1つは塩素原子である。)
【0018】
[2]前記混合冷凍機油が、ナフテン系鉱物油と、パラフィン系鉱物油、オレフィン重合体およびポリオールエステル系冷凍機油から選ばれる少なくとも1つと、を含む[1]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[3]前記熱サイクル用作動媒体の含有量が、前記熱サイクルシステム組成物の全量に対して40~95質量%である[1]または[2]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[4]前記混合冷凍機油の含有量が、前記熱サイクルシステム組成物の全量に対して5~60質量%である[1]~[3]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[5]前記ナフテン系鉱物油の含有量が、前記混合冷凍機油の全量に対して50~90質量%である[1]~[4]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
[6]前記熱サイクル用作動媒体が、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む[1]~[5]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0019】
[7]前記1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンにおける(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの割合は、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン:(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンで示される質量比で、51:49~100:0である[6]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[8]前記熱サイクル用作動媒体の100質量%に対する1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有量が10質量%以上である[6]または[7]に記載の熱サイクルシステム用組成物。
[9]前記熱サイクル用作動媒体の100質量%に対する1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの含有量が20~95質量%である[6]~[8]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物。
【0020】
[10][1]~[9]のいずれかに記載の熱サイクルシステム用組成物を用いた、熱サイクルシステム。
[11]前記熱サイクルシステムが、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置または二次冷却機である[10]に記載の熱サイクルシステム。
[12]前記熱サイクルシステムが、遠心式冷凍機である[10]に記載の熱サイクルシステム。
[13]前記熱サイクルシステムが、低圧型遠心式冷凍機である[10]に記載の熱サイクルシステム。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、HCFOやCFOの有する低い地球温暖化係数および優れたサイクル性能を充分に活かしながら、安定性および潤滑性に優れた熱サイクルシステム用組成物が提供できる。
【0022】
本発明の熱サイクルシステムは、地球温暖化への影響が少なく、かつ高いサイクル性能を兼ね備え、さらに熱サイクル用作動媒体の潤滑特性を改善した熱サイクルシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の熱サイクルシステムの一実施形態である冷凍サイクルシステムを示した概略構成図である。
図2図1の冷凍サイクルシステムにおける作動媒体の状態変化を圧力-エンタルピ線図上に記載したサイクル図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の熱サイクルシステム用組成物および熱サイクルシステムの実施の形態について説明する。
【0025】
[熱サイクルシステム用組成物]
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物は、HCFOおよびCFOから選ばれる少なくとも1つの化合物を含む熱サイクル用作動媒体と、ナフテン系鉱物油に、パラフィン系鉱物油、アルキルベンゼン、オレフィン重合体、ポリオールエステル系冷凍機油、ポリビニルエーテル系冷凍機油およびポリアルキレングリコール系冷凍機油から選ばれる少なくとも1つの冷凍機油を含む混合冷凍機油と、を含んで構成される。
【0026】
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物が適用される熱サイクルシステムとしては、凝縮器や蒸発器等の熱交換器による熱サイクルシステムが特に制限なく用いられる。熱サイクルシステム、例えば、冷凍サイクルにおいては、気体の作動媒体を圧縮機で圧縮し、凝縮器で冷却して圧力が高い液体をつくり、膨張弁で圧力を下げ、蒸発器で低温気化させて気化熱で熱を奪う機構を有する。
【0027】
このような熱サイクルシステムにHCFOやCFOを作動媒体として用いるには、HCFOやCFOを含む熱サイクルシステム用組成物の粘度を、装置の使用条件によって、十分に潤滑させることが求められる。しかし、これらのフッ素原子を有する作動媒体は鉱物系冷凍機油に溶けにくい傾向にあり、これら作動媒体を用いた熱サイクルシステム用組成物を実用的な粘度に調整することが難しい場合が多い。
【0028】
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物においては、以下に説明するように、特定の冷凍機油と混合することで、HCFOやCFOの熱サイクル用作動媒体としての潤滑特性を最適化し、効率的なサイクル性能を発揮することを可能とした。
【0029】
なお、ここで得られる熱サイクルシステム用組成物においては、該熱サイクルシステム用組成物を構成する作動媒体および混合冷凍機油とを、それぞれ所定割合で混合して得られる混合組成物が、以下の2つの特性を満たすものである。これらの特性を満たすことで、熱サイクルシステム用組成物として好適な特性を有し、熱サイクルシステムを円滑に、かつ、長期間に亘って安定的に稼働させることができる。
【0030】
(1)混合冷凍機油に作動媒体の濃度が10質量%となるように作動媒体を加えた混合物(混合組成物1)のとき、該混合組成物1の60℃における粘度が10.5mPa・s以上であり、この粘度は好ましくは10.5~15.0mPa・sである。
【0031】
このような粘度特性とすることにより熱サイクルシステム用組成物の熱サイクルシステム稼働時における潤滑特性を評価できる。すなわち、上記混合組成物1の動粘度が10.5mPa・s以上であれば、これらの組み合わせで熱サイクルシステム組成物を構成し、熱サイクルシステム内に、該熱サイクルシステム用組成物を循環させたとき、特に起動時における粘度を改善し、循環に適度な粘度とし円滑に循環させることができる。
【0032】
(2)作動媒体に混合冷凍機油の濃度が5質量%となるように混合冷凍機油を加えた混合物(混合組成物2)のとき、該混合組成物2の2相分離温度が0℃以下であり、この2相分離温度は好ましくは-10℃以下である。ここで、2相分離温度は、JIS K 2211に準じて測定することができる。
【0033】
このような溶解特性とすることにより熱サイクルシステム用組成物の熱サイクルシステム稼働時における冷凍機油の潤滑特性を評価できる。すなわち、上記混合組成物2の2相分離温度が0℃以下であれば、熱サイクルシステム内に、該熱サイクルシステム用組成物を循環させたとき、特に冷凍機油が循環経路の途中で分離、脱落することがなく、熱サイクルシステム用組成物の安定性を確保できる。
【0034】
以下、本実施形態の熱サイクルシステム用組成物が含有する各成分を説明する。
<熱サイクル用作動媒体>
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物は、熱サイクル用作動媒体(以下、単に「作動媒体」ともいう。)として、炭素-炭素二重結合を有し、水素原子、炭素原子、フッ素原子及び塩素原子から構成されるヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)および炭素-炭素二重結合を有し、炭素原子、フッ素原子及び塩素原子から構成されるクロロフルオロオレフィン(CFO)から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0035】
このような作動媒体は、燃焼性を抑えるハロゲンと、大気中のOHラジカルによって分解されやすい炭素-炭素二重結合をその分子中に有しており、燃焼性が抑えられ、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が少ない熱サイクル用作動媒体である。
【0036】
この作動媒体としては、次の一般式(a)で表されるHCFOおよびCFOから選ばれる少なくとも1つの化合物を含有する作動媒体であることが好ましい。
【0037】
【化2】
(ただし、式中、Rはそれぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Rは(CR Yであり、YはCFであり、nは0又は1であり、Rのうち少なくとも1つは塩素原子である。)
なお、上記一般式(a)において、炭素-炭素二重結合の炭素原子と結合するRのうち少なくとも1つがフッ素原子または塩素原子であることが好ましい。
【0038】
上記一般式(a)で表される作動媒体には、その構造によってE体とZ体の2つの幾何異性体が存在する場合がある。本明細書においては、幾何異性体の存在する化合物において、(E)や(Z)等の異性体表記がないものは、E体、Z体、および、E体とZ体との任意の割合の混合物、のいずれかであることを示す。
作動媒体の含有量は、熱サイクルシステム用組成物の全量に対して、40~95質量%が好ましく、50~90質量%がより好ましい。
【0039】
HCFOとしては、例えば、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレン(HCFO-1122)、1,2-ジクロロフルオロエチレン(HCFO-1121)、1-クロロ-2-フルオロエチレン(HCFO-1131)、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd)、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)、1-クロロ‐3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1233zd)等が挙げられる。
【0040】
なかでも、高い臨界温度を有し、耐久性、成績係数が優れる点から、HCFO-1224yd、HCFO-1233zdが好ましく、HCFO-1224ydがより好ましい。これらのHCFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
CFOとしては、例えば、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロエチレン等が挙げられる。作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、CFOとしては、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFO-1214ya)、1,3-ジクロロ-1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(CFO-1214yb)、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン(CFO-1112)が好ましい。
CFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
上記したHCFOおよびCFOは、それぞれ単独で用いることができ、さらに、同種の作動媒体を組み合わせて混合してもよいし、異種の作動媒体を組み合わせて混合してもよい。
HCFOおよびCFOから選ばれる少なくとも1つの化合物の合計量の割合は、作動媒体の100質量%に対して、10質量%以上が好ましく、20~100質量%がより好ましく、20~95質量%がさらに好ましく、40~95質量%が特に好ましく、60~95質量%が最も好ましい。前記下限値以上であれば、地球温暖化への影響が少なく、サイクル性能に優れる。
【0043】
ここでは、作動媒体としてHCFO-1224ydを用いる場合を例に以下説明する。
まず、HCFO-1224ydの含有量は、作動媒体の100質量%に対して、10質量%以上が好ましく、20~100質量%がより好ましく、20~95質量%がさらに好ましく、40~95質量%が特に好ましく、60~95質量%が最も好ましい。
【0044】
HCFO-1224ydには、E体(HCFO-1224yd(E))とZ体(HCFO-1224yd(Z))の2つの幾何異性体が存在する。HCFO-1224yd(Z)は、HCFO-1224yd(E)よりも化学的安定性が高く、熱サイクル用作動媒体として好ましい。そのため、HCFO-1224ydにおける各異性体の比は、HCFO-1224yd(Z):HCFO-1224yd(E)で示される質量比が51:49~100:0であることが好ましく、80:20~90:10であることがより好ましい。この異性体の比が上記範囲の下限値以上であれば、HCFO-1224ydがHCFO-1224yd(Z)を多く含むために、より長期間安定な熱サイクルシステム用組成物が得られる。また、この異性体の比が上記範囲の上限値以下であることで、HCFO-1224ydのZ体とE体の蒸留分離等による製造コストの増大を抑制することができる。
【0045】
HCFO-1224ydの作動媒体としての特性を、HFC-245fa、HFC-134aとの相対比較において表1に示す。サイクル性能は、後述する方法で求められる成績係数と冷凍能力で示される。HCFO-1224ydの成績係数と冷凍能力は、HFC-245faを基準(1.000)とした相対値(以下、それぞれ「相対成績係数」、「相対冷凍能力」という)で示す。地球温暖化係数(GWP)は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)に示される、または該方法に準じて測定された100年の値である。本明細書において、GWPは特に断りのない限りこの値をいう。
【0046】
【表1】
【0047】
そして、上記したように、HCFO-1224yd以外の作動媒体を含有してもよい。ここで含有させる化合物としては、上記した、HCFO-1224yd以外のHCFO、CFOが挙げられる。
【0048】
HCFO-1224yd以外のHCFOを含有させる場合、その含有量は、作動媒体(100質量%)中、1~90質量%が好ましく、1~40質量%がより好ましい。
【0049】
作動媒体がCFOを含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満であり、1~8質量%が好ましく、2~5質量%がさらに好ましい。CFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。CFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0050】
上記したようなHCFOおよびCFOは、HFCに比べてGWPが桁違いに低い。したがって、これらの作動媒体は、GWPを特別に考慮することなく、作動媒体としてのサイクル性能を向上させ、かつ温度勾配を適切な範囲にとどめることに留意して、適宜選択できる。さらに、これらの作動媒体を混合して使用する場合も同様の観点から組み合わせる作動媒体を適宜選択できる。
【0051】
(温度勾配)
作動媒体が複数の作動媒体を混合したものである場合、共沸組成である場合を除いて相当の温度勾配を有する。作動媒体の温度勾配は、混合成分の種類および混合割合により異なる。
【0052】
作動媒体として混合物を用いる場合、通常、共沸またはR410Aのような擬似共沸の混合物が好ましく用いられる。非共沸組成物は、圧力容器から冷凍空調機器へ充てんされる際に組成変化を生じる問題点を有している。さらに、冷凍空調機器からの冷媒漏えいが生じた場合、冷凍空調機器内の作動媒体組成が変化する可能性が極めて大きく、初期状態への作動媒体組成の復元が困難である。一方、共沸または擬似共沸の混合物であれば上記問題が回避できる。
【0053】
混合物の作動媒体における使用可能性をはかる指標として、一般に「温度勾配」が用いられる。温度勾配は、熱交換器、例えば、蒸発器における蒸発の、または凝縮器における凝縮の、開始温度と終了温度が異なる性質、と定義される。共沸混合物においては、温度勾配は0であり、擬似共沸混合物では、例えばR410Aの温度勾配が0.2であるように、温度勾配は極めて0に近い。
【0054】
温度勾配が大きいと、例えば、蒸発器における入口温度が低下することで着霜の可能性が大きくなり問題である。さらに、熱サイクルシステムにおいては、熱交換効率の向上をはかるために熱交換器を流れる作動媒体と水や空気等の熱源流体を対向流にすることが一般的であり、安定運転状態においては該熱源流体の温度差が小さいことから、温度勾配の大きい非共沸混合媒体の場合、エネルギー効率のよい熱サイクルシステムを得ることが困難である。このため、混合物を作動媒体として使用する場合は適切な温度勾配を有する作動媒体が望まれる。
【0055】
本実施形態に用いる作動媒体は、本実施形態の効果を損なわない範囲で上記HCFO、CFO以外に、通常作動媒体として用いられる化合物を任意に含有してもよい。このような任意の化合物(任意成分)としては、例えば、HFC、HFO、これら以外のHCFOやCFOとともに気化、液化する他の成分等が挙げられる。
【0056】
HFCは、熱サイクルシステムのサイクル性能(能力)を向上させる成分である。HFCは、HCFOやCFOと比べてGWPが高いことが知られている。したがって、HCFOやCFOと組み合わせるHFCとしては、上記作動媒体としてサイクル性能を向上させ、かつ温度勾配を適切な範囲にとどめることに加えて、特にGWPを許容の範囲にとどめる観点から、適宜選択されることが好ましい。
【0057】
オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さいHFCとして具体的には炭素数1~5のHFCが好ましい。HFCは直鎖状であっても、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0058】
HFCとしては、ジフルオロメタン、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が挙げられる。
【0059】
なかでも、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい点から、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc)が好ましく、HFC-134a、HFC-245fa、HFC-365mfcがより好ましい。
HFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
作動媒体(100質量%)中のHFCの含有量は、たとえば、下記の通りである。HFCがHFC-134aの場合、1~90質量%の範囲で成績係数の大きな低下を生じることなく冷凍能力が向上する。HFC-245faの場合、1~60質量%の範囲で成績係数の大きな低下を生じることなく、冷凍能力が向上する。作動媒体の要求特性に応じてHFC含有量の制御を行うことができる。
【0061】
HFOは、熱サイクルシステムのサイクル性能(能力)を向上させる成分である。
HFOのGWPはHFCに比べて桁違いに低い。したがって、HCFO-1224ydと組合せるHFOとしては、GWPを考慮するよりも、上記作動媒体としてのサイクル性能を向上させ、かつ温度勾配を適切な範囲にとどめることに特に留意して、適宜選択されることが好ましい。
【0062】
HFOとしては、ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロブテン等が挙げられる。なかでも、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい点から、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、2-フルオロプロペン(HFO-1261yf)、1,1,2-トリフルオロプロペン(HFO-1243yc)、(E)-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye(E))、(Z)-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye(Z))、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(E))、(Z)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(Z))、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)、(E)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz(E))、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz(Z))が好ましく、HFO-1234yf、HFO-1234ze(E)、HFO-1234ze(Z)、HFO-1336mzz(Z)がより好ましい。
HFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
HFOの含有量は、作動媒体(100質量%)中、1~90質量%が好ましく、1~40質量%がより好ましい。HFOの含有量が1~40質量%であれば、HCFOやCFOの作動媒体の単独使用に比べ、サイクル性能(効率および能力)に優れる熱サイクルシステムを与える。
【0064】
〈その他の任意成分〉
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物に用いる作動媒体は、上記任意成分以外に、二酸化炭素、炭化水素、等を含有してもよい。その他の任意成分としてはオゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい成分が好ましい。
【0065】
炭化水素としては、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン等が挙げられる。炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
上記作動媒体が炭化水素を含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満であり、1~5質量%が好ましく、3~5質量%がさらに好ましい。炭化水素が下限値以上であれば、作動媒体への鉱物系冷凍機油の溶解性がより良好になる。
【0067】
任意成分としては、HCFOやCFOと組み合わせて熱サイクルに用いた際に、上記相対成績係数、相対冷凍能力をより高める作用を有しながら、GWPや温度勾配を許容の範囲にとどめられる化合物が好ましい。作動媒体がHCFOやCFOとの組合せにおいてこのような化合物を含むと、GWPを低く維持しながら、より良好なサイクル性能が得られるとともに、温度勾配による影響も少ない。
【0068】
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物に用いる作動媒体が上記のようなその他の任意成分を含有する場合、作動媒体におけるその他の任意成分の合計含有量は、作動媒体100質量%に対して10質量%未満が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0069】
<混合冷凍機油>
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物には、上記作動媒体に加え、該作動媒体の潤滑特性を改善可能な混合冷凍機油を含んでなる。本実施形態に使用する混合冷凍機油は、鉱油系冷凍機油であるナフテン系鉱物油を必須成分とし、さらに、他の鉱油系冷凍機油または合成油系冷凍機油を混合した混合冷凍機油である。
【0070】
ここで、混合冷凍機油は熱サイクル系内を作動媒体とともに循環することが求められる。混合冷凍機油は作動媒体と溶解することが最も好ましい形態だが、熱サイクル系内を混合冷凍機油と作動媒体が循環できる混合冷凍機油を選定すれば、溶解性が低い混合冷凍機油を本実施形態の冷凍機油として使用することもできる。混合冷凍機油が熱サイクル系内を循環するためには、混合冷凍機油の動粘度が小さいことが求められ、本発明において、上記の混合冷凍機油の40℃における動粘度は、300mm/s以下であり、1~200mm/sが好ましく、特に好ましくは1~150mm/sである。
【0071】
このような混合冷凍機油は、作動媒体と混合して熱サイクルシステム用組成物として使用され、このとき、混合冷凍機油の含有割合は、熱サイクルシステム用組成物全量に対して5~60質量%が望ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0072】
次に、本実施形態の混合冷凍機油を構成する個々の冷凍機油について、以下に説明する。
【0073】
[ナフテン系鉱物油]
ナフテン系鉱物油は、環状飽和炭化水素(ナフテン環)成分を多く含む鉱物油であり、他の鉱物油に比べて電気絶縁性、低吸湿性、耐加水分解性、潤滑性、工程油剤等の不純物に対する溶解性、油戻り性等に特に優れ、本実施形態においてベースとなる基油として用いるものである。
こうした特性を更に良好に発現するために、ナフテン系鉱物油の15℃における密度は0.89g/cm以上であることが好ましく、より好ましくは0.90g/cm以上である。この密度が0.89g/cm未満では潤滑性や油戻り特性に劣るようになる。
【0074】
またナフテン系鉱物油は、不純物に対する溶解性を高めるため、アニリン点が95℃以下であることが好ましく、88℃以下であることがより好ましい。このナフテン系鉱物油は、HCFOやCFOからなる作動媒体と相溶性が高い。
ナフテン系鉱物油は、ナフテン系原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、および白土処理などの精製処理を適宜組み合わせて精製したナフテン系鉱物油などが使用できる。
【0075】
上記の混合冷凍機油が上記のような動粘度が求められることから、ここで用いるナフテン系鉱物油の40℃における動粘度も、1~300mm/sが好ましく、特に好ましくは1~150mm/sである。
【0076】
このナフテン系鉱物油の、混合冷凍機油中における含有割合は、冷凍機油全量に対して50~90質量%が好ましく、60~80質量%がより好ましい。
【0077】
ナフテン系鉱物油を50質量%以上含有することで、作動媒体と混合冷凍機油との相溶性が良好となり、90質量%以下含有することで、混合冷凍機油の粘度特性を改善することができる。
【0078】
[他の鉱油系冷凍機油]
鉱油系冷凍機油としては、ナフテン系鉱物油以外の鉱油系冷凍機油、例えば、パラフィン系鉱物油が挙げられる。
【0079】
パラフィン系鉱物油は、鎖状飽和炭化水素(飽和脂肪鎖)成分を多く含む鉱物油であり、パラフィン系原油を常圧または減圧蒸留して得られた潤滑油成分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、白土処理などの精製処理を適宜組み合わせて精製したものであり、他の鉱物油に比べ、電気絶縁性、低吸湿性、耐加水分解性、粘度指数に優れる。また、パラフィン系鉱物油はHCFOやCFOからなる作動媒体と相溶性がやや低いので、ナフテン系鉱物油とHCFOやCFOの相溶性を調節することができ、HCFOやCFOと冷凍機油が相溶した状態の粘度(冷媒溶解粘度)にすることができる。
【0080】
このパラフィン系鉱物油の、混合冷凍機油中における含有割合は、冷凍機油全量に対して10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。
【0081】
パラフィン系鉱物油を50質量%以下含有することで、作動媒体と混合冷凍機油との相溶性を維持し、10質量%以上含有することで、冷凍機油の粘度特性を改善することができる。
【0082】
[合成油系冷凍機油]
また、合成油系冷凍機油では代表的なものとしてエステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油、ポリグリコール系冷凍機油、炭化水素系冷凍機油等が挙げられる。
【0083】
その中でも、作動媒体成分であるHCFOやCFOとの相溶性の観点からエステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油、ポリグリコール系冷凍機油等の含酸素系合成冷凍機油、炭化水素系冷凍機油、が好ましく、エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油がより好ましく、エステル系冷凍機油が特に好ましい。なかでも、ポリオールエステル系冷凍機油が最も好ましい。
【0084】
これらの冷凍機油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに合成油系冷凍機油の40℃における動粘度は、潤滑性や圧縮機の密閉性が低下せず、低温条件下で作動媒体に対して相溶性が満足にあり、冷凍機圧縮機の潤滑不良の抑制や蒸発器における熱交換を十分に行うという観点から、1~750mm/sが好ましく、1~400mm/sがより好ましい。また、100℃における動粘度は、消費電力および耐摩耗性を適正な範囲に維持できる観点から、1~100mm/sが好ましく、1~50mm/sであることがより好ましい。そして、上記のナフテン系鉱物油と混合した後には、上記所定の粘度特性を満足するものが用いられる。
【0085】
特に、エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油の場合には、冷凍機油を構成する原子として炭素原子と酸素原子が代表的に挙げられる。この炭素原子と酸素原子の比率(炭素/酸素モル比)により、小さすぎると吸湿性が高くなり、大きすぎると作動媒体との相溶性が低下する問題がある。この観点より、冷凍機油の炭素原子と酸素原子の比率はモル比で2~7.5が適している。
【0086】
さらに、炭化水素系冷凍機油では熱サイクル系内を作動媒体および冷凍機油が共に循環することが求められる。冷凍機油は作動媒体と溶解することが最も好ましい形態だが、熱サイクル系内を冷凍機油と作動媒体が循環できる冷凍機油を選定すれば、溶解性が低い冷凍機油(例えば、特許第2803451号公報に記載されている冷凍機油)を本実施形態の熱サイクルシステム用組成物の一成分として使用することができる。冷凍機油が熱サイクル系内を循環するためには、冷凍機油の動粘度が小さいことが求められる。本発明において、炭化水素系冷凍機油の動粘度は、40℃において1~50mm/sであることが好ましく、特に好ましくは1~25mm/sである。そして、上記のナフテン系鉱物油と混合した後には、上記所定の粘度特性を満足するものが用いられる。
【0087】
〈エステル系冷凍機油〉
エステル系冷凍機油としては、化学的な安定性の面で、二塩基酸と1価アルコールとの二塩基酸エステル系冷凍機油、ポリオールと脂肪酸とのポリオールエステル系冷凍機油、またはポリオールと多価塩基酸と1価アルコール(又は脂肪酸)とのコンプレックスエステル系冷凍機油、ポリオール炭酸エステル系冷凍機油等が基油成分として挙げられる。
【0088】
(二塩基酸エステル系冷凍機油)
二塩基酸エステル系冷凍機油としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の二塩基酸、特に、炭素数5~10の二塩基酸(グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)と、直鎖または分岐アルキル基を有する炭素数1~15の一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール等)とのエステルが好ましい。この二塩基酸エステル系冷凍機油としては、具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0089】
(ポリオールエステル系冷凍機油)
ポリオールエステル系冷凍機油とは、多価アルコールと脂肪酸(カルボン酸)とから合成されるエステルであり、炭素/酸素モル比が2以上7.5以下、好ましくは3.2以上5.8以下のものである。
【0090】
ポリオールエステル系冷凍機油を構成する多価アルコールとしては、ジオール(エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等)、水酸基を3~20個有するポリオール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2~3量体)、1,3,5-ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレンジトースなどの糖類、ならびにこれらの部分エーテル化物等)が挙げられ、エステルを構成する多価アルコールとしては、上記の1種でもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0091】
ポリオールエステル系冷凍機油を構成する脂肪酸としては、特に炭素数は制限されないが、通常炭素数1~24のものが用いられる。直鎖の脂肪酸、分岐を有する脂肪酸が好ましい。直鎖の脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、カルボキシル基に結合する炭化水素基は、全て飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素を有していてもよい。さらに、分岐を有する脂肪酸としては、2-メチルプロパン酸、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、2,2-ジメチルプロパン酸、2-メチルペンタン酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、2,2-ジメチルブタン酸、2,3-ジメチルブタン酸、3,3-ジメチルブタン酸、2-メチルヘキサン酸、3-メチルヘキサン酸、4-メチルヘキサン酸、5-メチルヘキサン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、2,3-ジメチルペンタン酸、2,4-ジメチルペンタン酸、3,3-ジメチルペンタン酸、3,4-ジメチルペンタン酸、4,4-ジメチルペンタン酸、2-エチルペンタン酸、3-エチルペンタン酸、2,2,3-トリメチルブタン酸、2,3,3-トリメチルブタン酸、2-エチル-2-メチルブタン酸、2-エチル-3-メチルブタン酸、2-メチルヘプタン酸、3-メチルヘプタン酸、4-メチルヘプタン酸、5-メチルヘプタン酸、6-メチルヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、3-エチルヘキサン酸、4-エチルヘキサン酸、2,2-ジメチルヘキサン酸、2,3-ジメチルヘキサン酸、2,4-ジメチルヘキサン酸、2,5-ジメチルヘキサン酸、3,3-ジメチルヘキサン酸、3,4-ジメチルヘキサン酸、3,5-ジメチルヘキサン酸、4,4-ジメチルヘキサン酸、4,5-ジメチルヘキサン酸、5,5-ジメチルヘキサン酸、2-プロピルペンタン酸、2-メチルオクタン酸、3-メチルオクタン酸、4-メチルオクタン酸、5-メチルオクタン酸、6-メチルオクタン酸、7-メチルオクタン酸、2,2-ジメチルヘプタン酸、2,3-ジメチルヘプタン酸、2,4-ジメチルヘプタン酸、2,5-ジメチルヘプタン酸、2,6-ジメチルヘプタン酸、3,3-ジメチルヘプタン酸、3,4-ジメチルヘプタン酸、3,5-ジメチルヘプタン酸、3,6-ジメチルヘプタン酸、4,4-ジメチルヘプタン酸、4,5-ジメチルヘプタン酸、4,6-ジメチルヘプタン酸、5,5-ジメチルヘプタン酸、5,6-ジメチルヘプタン酸、6,6-ジメチルヘプタン酸、2-メチル-2-エチルヘキサン酸、2-メチル-3-エチルヘキサン酸、2-メチル-4-エチルヘキサン酸、3-メチル-2-エチルヘキサン酸、3-メチル-3-エチルヘキサン酸、3-メチル-4-エチルヘキサン酸、4-メチル-2-エチルヘキサン酸、4-メチル-3-エチルヘキサン酸、4-メチル-4-エチルヘキサン酸、5-メチル-2-エチルヘキサン酸、5-メチル-3-エチルヘキサン酸、5-メチル-4-エチルヘキサン酸、2-エチルヘプタン酸、3-メチルオクタン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、2-エチル-2,3,3-トリメチル酪酸、2,2,4,4-テトラメチルペンタン酸、2,2,3,3-テトラメチルペンタン酸、2,2,3,4-テトラメチルペンタン酸、2,2-ジイソプロピルプロパン酸などが挙げられる。脂肪酸は、これらの中から選ばれる1種または2種以上の脂肪酸とのエステルでも構わない。
【0092】
エステルを構成するポリオールは1種類でもよく、2種以上の混合物でもよい。また、エステルを構成する脂肪酸は、単一成分でもよく、2種以上の脂肪酸とのエステルでもよい。および脂肪酸は、各々1種類でもよく、2種類以上の混合物でもよい。また、ポリオールエステル系冷凍機油は、遊離の水酸基を有していてもよい。
【0093】
具体的なポリオールエステル系冷凍機油としては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールのエステルがより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンおよびペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)のエステルがさらにより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)等と炭素数2~20の脂肪酸とのエステルが好ましい。
【0094】
このような多価アルコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸において、脂肪酸は直鎖アルキル基をもつ脂肪酸のみでもよいし、分岐構造をもつ脂肪酸から選ばれてもよい。また、直鎖と分岐脂肪酸の混合エステルでもよい。さらに、エステルを構成する脂肪酸は、上記脂肪酸から選ばれる2種類以上が用いられていてもよい。
【0095】
具体的な例として、直鎖と分岐脂肪酸の混合エステルの場合には、直鎖を有する炭素数4~6の脂肪酸と分岐を有する炭素数7~9の脂肪酸のモル比は、15:85~90:10であり、好ましくは15:85~85:15であり、より好ましくは20:80~80:20であり、さらに好ましくは25:75~75:25であり、最も好ましくは30:70~70:30である。また、多価アルコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の全量に占める直鎖を有する炭素数4~6の脂肪酸および分岐を有する炭素数7~9の脂肪酸の合計の割合は20モル%以上である。脂肪酸組成に関しては、作動媒体との十分な相溶性、および冷凍機油として必要な粘度とを両立することを考慮して選定されるべきである。なお、ここでいう脂肪酸の割合とは、冷凍機油に含まれる多価アルコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸全量を基準とした値である。
【0096】
(コンプレックスエステル系冷凍機油)
コンプレックスエステル系冷凍機油とは、脂肪酸および二塩基酸と、一価アルコールおよびポリオールとのエステルである。脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、上述と同様のものを用いることができる。
【0097】
脂肪酸としては、上記ポリオールエステルの脂肪酸で示したものが挙げられる。
【0098】
二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。
【0099】
ポリオールとしては、上記ポリオールエステルの多価アルコールとして示したものが挙げられる。コンプレックスエステルは、これらの脂肪酸、二塩基酸、ポリオールのエステルであり、各々単一成分でもよいし、複数成分からなるエステルでもよい。
【0100】
(ポリオール炭酸エステル系冷凍機油)
ポリオール炭酸エステル系冷凍機油とは、炭酸とポリオールとのエステルである。
【0101】
ポリオールとしては、ジオール(上述と同様のもの)を単独重合または共重合したポリグリコール(ポリアルキレングリコール、そのエーテル化合物、それらの変性化合物等)、ポリオール(上述と同様のもの)、ポリオールにポリグリコールを付加したもの等が挙げられる。
【0102】
ポリアルキレングリコールとしては、炭素数2~4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を、水や水酸化アルカリを開始剤として重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレングリコールの水酸基をエーテル化したものであってもよい。ポリアルキレングリコール中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。また、ポリオール炭酸エステル系冷凍機油としては、環状アルキレンカーボネートの開環重合体であってもよい。
【0103】
〈エーテル系冷凍機油〉
エーテル系冷凍機油としては、ポリビニルエーテル系冷凍機油、ポリアルキレングリコール系冷凍機油等が挙げられる。
【0104】
(ポリビニルエーテル系冷凍機油)
ポリビニルエーテル系冷凍機油としては、ビニルエーテルモノマーを重合して得られたもの、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合して得られたもの、およびポリビニルエーテルと、アルキレングリコールもしくはポリアルキレングリコール、またはそれらのモノエーテルとの共重合体がある。
【0105】
ポリビニルエーテル系冷凍機油の炭素/酸素モル比は、2以上7.5以下であり、好ましくは2.5以上5.8以下である。炭素/酸素モル比がこの範囲未満では吸湿性が高くなり、この範囲を超えると相溶性が低下する。また、ポリビニルエーテルの重量平均分子量は、好ましくは200以上3000以下、より好ましくは500以上1500以下である。40℃における動粘度は、40℃における動粘度が1~750mm/sが好ましく、1~400mm/sがより好ましい。また、100℃における動粘度は1~100mm/sが好ましく、1~50mm/sであることがより好ましい。そして、上記のナフテン系鉱物油と混合した後には、上記所定の粘度特性を満足するものが用いられる。
【0106】
・ポリビニルエーテル系冷凍機油の構造
ビニルエーテルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとしては、エチレン、プロピレン、各種ブテン、各種ペンテン、各種ヘキセン、各種ヘプテン、各種オクテン、ジイソブチレン、トリイソブチレン、スチレン、α-メチルスチレン、各種アルキル置換スチレン等が挙げられる。オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0107】
ポリビニルエーテル共重合体は、ブロックまたはランダム共重合体のいずれであってもよい。ポリビニルエーテル系冷凍機油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
好ましく用いられるポリビニルエーテル系冷凍機油は、下記一般式(1)で表される構造単位を有する。
【0109】
【化3】
(式中、R、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1~8の炭化水素基を示し、Rは炭素数1~10の2価の炭化水素基または炭素数2~20の2価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を示し、Rは炭素数1~20の炭化水素基を示し、mは上記ポリビニルエーテルについてのmの平均値が0~10となるような数を示し、R~Rは構造単位ごとに同一であっても異なっていてもよく、一の構造単位においてmが2以上である場合には、複数のROは同一でも異なっていてもよい。)
【0110】
上記一般式(1)におけるR、RおよびRは、少なくとも1つが水素原子、特には全てが水素原子であることが好ましい。一般式(1)におけるmは0以上10以下、特には0以上5以下が、さらには0であることが好ましい。一般式(1)におけるRは炭素数1~20の炭化水素基を示す。この炭化水素基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基などのアルキル基、シクロペンチル基,シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基などのアリール基、ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基などのアリールアルキル基などが挙げられ、アルキル基、特には炭素数1以上5以下のアルキル基が好ましい。
【0111】
本実施形態におけるポリビニルエーテル系冷凍機油は、一般式(1)で表される構造単位が同一である単独重合体であっても、2種以上の構造単位で構成される共重合体であってもよい。共重合体はブロック共重合体またはランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0112】
本実施形態に係るポリビニルエーテル系冷凍機油は、上記一般式(1)で表される構造単位のみで構成されるものであってもよいが、下記一般式(2)で表される構造単位をさらに含む共重合体であってもよい。この場合、共重合体はブロック共重合体またはランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0113】
【化4】
(式中、R~Rは互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を示す。)
【0114】
(ポリビニルエーテルモノマー)
ビニルエーテル系モノマーとしては、下記一般式(3)の化合物が挙げられる。
【0115】
【化5】
(式中、R、R、R、R、Rおよびmは、それぞれ一般式(1)中のR、R、R、R、Rおよびmと同一の定義内容を示す。)
【0116】
ビニルエーテル系モノマーとしては、上記ポリビニルエーテル系化合物に対応する各種のものがあるが、例えば、ビニルメチルエーテル;ビニルエチルエーテル;ビニル-n-プロピルエーテル;ビニル-イソプロピルエーテル;ビニル-n-ブチルエーテル;ビニル-イソブチルエーテル;ビニル-sec-ブチルエーテル;ビニル-tert-ブチルエーテル;ビニル-n-ペンチルエーテル;ビニル-n-ヘキシルエーテル;ビニル-2-メトキシエチルエーテル;ビニル-2-エトキシエチルエーテル;ビニル-2-メトキシ-1-メチルエチルエーテル;ビニル-2-メトキシ-プロピルエーテル;ビニル-3,6-ジオキサヘプチルエーテル;ビニル-3,6,9-トリオキサデシルエーテル;ビニル-1,4-ジメチル-3,6-ジオキサヘプチルエーテル;ビニル-1,4,7-トリメチル-3,6,9-トリオキサデシルエーテル;ビニル-2,6-ジオキサ-4-ヘプチルエーテル;ビニル-2,6,9-トリオキサ-4-デシルエーテル;1-メトキシプロペン;1-エトキシプロペン;1-n-プロポキシプロペン;1-イソプロポキシプロペン;1-n-ブトキシプロペン;1-イソブトキシプロペン;1-sec-ブトキシプロペン;1-tert-ブトキシプロペン;2-メトキシプロペン;2-エトキシプロペン;2-n-プロポキシプロペン;2-イソプロポキシプロペン;2-n-ブトキシプロペン;2-イソブトキシプロペン;2-sec-ブトキシプロペン;2-tert-ブトキシプロペン;1-メトキシ-1-ブテン;1-エトキシ-1-ブテン;1-n-プロポキシ-1-ブテン;1-イソプロポキシ-1-ブテン;1-n-ブトキシ-1-ブテン;1-イソブトキシ-1-ブテン;1-sec-ブトキシ-1-ブテン;1-tert-ブトキシ-1-ブテン;2-メトキシ-1-ブテン;2-エトキシ-1-ブテン;2-n-プロポキシ-1-ブテン;2-イソプロポキシ-1-ブテン;2-n-ブトキシ-1-ブテン;2-イソブトキシ-1-ブテン;2-sec-ブトキシ-1-ブテン;2-tert-ブトキシ-1-ブテン;2-メトキシ-2-ブテン;2-エトキシ-2-ブテン;2-n-プロポキシ-2-ブテン;2-イソプロポキシ-2-ブテン;2-n-ブトキシ-2-ブテン;2-イソブトキシ-2-ブテン;2-sec-ブトキシ-2-ブテン;2-tert-ブトキシ-2-ブテン等が挙げられる。これらのビニルエーテル系モノマーは公知の方法により製造することができる。
【0117】
・ポリビニルエーテルの末端
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物に冷凍機油として用いられる上記一般式(1)で表される構成単位を有するポリビニルエーテル系化合物は、その末端を本開示例に示す方法及び公知の方法により、所望の構造に変換することができる。変換する基としては、飽和の炭化水素,エーテル,アルコール,ケトン,アミド,ニトリルなどを挙げることができる。
【0118】
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物に冷凍機油として用いられるポリビニルエーテル系化合物は、次の式(4)~(8)に示す末端構造を有するものが好適である。
【0119】
【化6】
(式中、R11、R21およびR31は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1~8の炭化水素基を示し、R41は炭素数1~10の二価の炭化水素基または炭素数2~20の二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を示し、R51は炭素数1~20の炭化水素基を示し、mはポリビニルエーテルについてのmの平均値が0~10となるような数を示し、mが2以上の場合には、複数のR41Oは同一でも異なっていてもよい。)
【0120】
【化7】
(式中、R61、R71、R81およびR91は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を示す。)
【0121】
【化8】
(式中、R12、R22およびR32は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1~8の炭化水素基を示し、R42は炭素数1~10の二価の炭化水素基または炭素数2~20の二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を示し、R52は炭素数1~20の炭化水素基を示し、mはポリビニルエーテルについてのmの平均値が0~10となるような数を示し、mが2以上の場合には、複数のR42Oは同一でも異なっていてもよい。)
【0122】
【化9】
(式中、R62、R72、R82およびR92は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を示す。)
【0123】
【化10】
(式中、R13、R23およびR33は互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1~8の炭化水素基を示す。)
【0124】
(ポリビニルエーテル系冷凍機油の製法)
本実施形態におけるポリビニルエーテル系冷凍機油は、上記したモノマーをラジカル重合、カチオン重合、放射線重合などによって製造することができる。重合反応終了後、必要に応じて通常の分離・精製方法を施すことにより、目的とする一般式(1)で表される構造単位を有するポリビニルエーテル系化合物が得られる。
【0125】
(ポリアルキレングリコール系冷凍機油)
ポリアルキレングリコール系冷凍機油としては、炭素数2~4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を、水や水酸化アルカリを開始剤として重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレングリコールの水酸基をエーテル化したものであってもよい。ポリアルキレングリコール系冷凍機油中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。
【0126】
具体的なポリオキシアルキレングリコール系冷凍機油としては、例えば次の一般式(9)
101-[(OR102-OR103 …(9)
(式中、R101は水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアシル基又は結合部2~6個を有する炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、R102は炭素数2~4のアルキレン基、R103は水素原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数2~10のアシル基、lは1~6の整数、kはk×lの平均値が6~80となる数を示す。)で表される化合物が挙げられる。
【0127】
上記一般式(9)において、R101、R103におけるアルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができる。このアルキル基の炭素数が10を超えると作動媒体との相溶性が低下し、粗分離を生じる場合がある。好ましいアルキル基の炭素数は1~6である。
【0128】
また、R101、R103における該アシル基のアルキル基部分は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アシル基のアルキル基部分の具体例としては、上記アルキル基の具体例として挙げた炭素数1~9の種々の基を同様に挙げることができる。該アシル基の炭素数が10を超えると作動媒体との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。好ましいアシル基の炭素数は2~6である。
【0129】
101及びR103が、いずれもアルキル基又はアシル基である場合には、R101とR103は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
さらにlが2以上の場合には、1分子中の複数のR103は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0130】
101が結合部位2~6個を有する炭素数1~10の脂肪族炭化水素基である場合、この脂肪族炭化水素基は鎖状のものであってもよいし、環状のものであってもよい。結合部位2個を有する脂肪族炭化水素基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられる。また、結合部位3~6個を有する脂肪族炭化水素基としては、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール;1,2,3-トリヒドロキシシクロヘキサン;1,3,5-トリヒドロキシシクロヘキサンなどの多価アルコールから水酸基を除いた残基を挙げることができる。
【0131】
この脂肪族炭化水素基の炭素数が10を超えると作動媒体との相溶性が低下し、相分離が生じる場合がある。好ましい炭素数は2~6である。
【0132】
上記一般式(9)中のR102は炭素数2~4のアルキレン基であり、繰り返し単位のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。1分子中のオキシアルキレン基は同一であってもよいし、2種以上のオキシアルキレン基が含まれていてもよいが、1分子中に少なくともオキシプロピレン単位を含むものが好ましく、特にオキシアルキレン単位中に50モル%以上のオキシプロピレン単位を含むものが好適である。
【0133】
上記一般式(9)中のlは1~6の整数で、R101の結合部位の数に応じて定められる。例えばR101がアルキル基やアシル基の場合、lは1であり、R101が結合部位2,3,4,5及び6個を有する脂肪族炭化水素基である場合、lはそれぞれ2,3,4,5及び6となる。また、kはk×lの平均値が6~80となる数であり、k×lの平均値が前記範囲を逸脱すると本実施形態の目的は十分に達せられない。
【0134】
ポリアルキレングリコールの構造は、下記一般式(10)で表されるポリプロピレングリコールジメチルエーテル、並びに下記一般式(11)で表されるポリエチレンポリプロピレングリコールジメチルエーテルが経済性および前述の効果の点で好適であり、また、下記一般式(12)で表されるポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、さらには下記一般式(13)で表されるポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、下記一般式(14)で表されるポリエチレンポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、下記一般式(15)で表されるポリエチレンポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、下記一般式(16)で表されるポリプロピレングリコールジアセテートが、経済性等の点で好適である。
【0135】
CHO-(CO)-CH …(10)
(式中、hは6~80の数を表す。)
CHO-(CO)-(CO)-CH …(11)
(式中、iおよびjはそれぞれ1以上であり且つiとjとの合計が6~80となる数を表す。)
O-(CO)-H …(12)
(式中、hは6~80の数を示す。)
CHO-(CO)-H …(13)
(式中、hは6~80の数を表す。)
【0136】
CHO-(CO)-(CO)-H …(14)
【0137】
(式中、iおよびjはそれぞれ1以上であり且つiとjとの合計が6~80となる数を表す。)
O-(CO)-(CO)-H …(15)
(式中、iおよびjはそれぞれ1以上であり且つiとjとの合計が6~80となる数を表す。)
CHCOO-(CO)-COCH …(16)
(式中、hは6~80の数を表す。)
このポリオキシアルキレングリコール類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0138】
上記一般式(9)で表されるポリアルキレングリコールの40℃における動粘度は、40℃における動粘度が1~750mm/sが好ましく、1~400mm/sがより好ましい。また、100℃における動粘度は1~100mm/sが好ましく、1~50mm/sであることがより好ましい。そして、上記のナフテン系鉱物油と混合した後には、上記所定の粘度特性を満足するものが用いられる。
【0139】
〈炭化水素系合成冷凍機油〉
炭化水素系合成冷凍機油としては、アルキルベンゼンを用いることができる。
アルキルベンゼンとしては、フッ化水素などの触媒を用いてプロピレンの重合物とベンゼンを原料として合成される分岐アルキルベンゼン、また同触媒を用いてノルマルパラフィンとベンゼンを原料として合成される直鎖アルキルベンゼンが使用できる。アルキル基の炭素数は、潤滑油基油として好適な粘度とする観点から、好ましくは1~30、より好ましくは4~20である。また、アルキルベンゼン1分子が有するアルキル基の数は、アルキル基の炭素数によるが粘度を設定範囲内とするために、好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。
【0140】
また、炭化水素系合成冷凍機油としては、オレフィン重合体を用いることもできる。
オレフィン重合体としては、例えば、デセンやドデセン等の重合物であるポリアルファオレフィンが挙げられ、このようなポリアルファオレフィンは、高い粘度指数と低温流動性を示す。
【0141】
さらに、冷凍機油は熱サイクル系内を作動媒体とともに循環することが求められる。冷凍機油は作動媒体と溶解することが最も好ましい形態だが、熱サイクル系内を冷凍機油と作動媒体が循環できる冷凍機油を選定すれば、溶解性が低い冷凍機油を本実施形態の冷凍機油組成物として使用することができる。冷凍機油が熱サイクル系内を循環するためには、冷凍機油の動粘度が小さいことが求められる。本発明において、アルキルベンゼンの40℃における動粘度は、1~100mm/sが好ましく、特に好ましくは1~50mm/sである。そして、上記のナフテン系鉱物油と混合した後には、上記所定の粘度特性を満足するものが用いられる。
【0142】
これらの冷凍機油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明に用いる混合冷凍機油は、ナフテン系鉱物油に、パラフィン系鉱物油、アルキルベンゼン、オレフィン重合体、ポリオールエステル系冷凍機油、ポリビニルエーテル系冷凍機油およびポリアルキレングリコール系冷凍機油から選ばれる少なくとも1つの冷凍機油を、混合してなる混合冷凍機油であり、特に好ましくは、混合冷凍機油が、ナフテン系鉱物油に、パラフィン系鉱物油、オレフィン重合体およびポリオールエステル系冷凍機油から選ばれる少なくとも1つを混合してなる混合冷凍機油である。このような混合冷凍機油を用いることにより、より一層安定性及び潤滑性に優れた熱サイクル用組成物とすることができる。
本発明に用いる混合冷凍機油は、混合冷凍機油中に、ナフテン系鉱物油が50~90質量%含有しているのが好ましく、これにより、より一層安定性及び潤滑性に優れた熱サイクル用組成物とすることができる。
【0143】
また、混合冷凍機油は、冷凍機油に通常添加される各種添加剤(酸化防止剤、消泡剤、耐熱性向上剤、金属不活性化剤、油性剤、耐摩耗性向上剤)を含んでいてもよい。添加剤の含有量は、本実施形態の効果を著しく低下させない範囲であればよく、熱サイクルシステム用組成物(100質量%)中、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましい。
【0144】
熱サイクルシステム用組成物における、混合冷凍機油の含有量は、本実施形態の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、20~50質量部がより好ましい。
【0145】
<その他任意成分>
熱サイクルシステム用組成物は、その他、本実施形態の効果を阻害しない範囲で公知の任意成分を含有できる。このような任意成分としては、例えば、漏れ検出物質が挙げられ、この任意に含有する漏れ検出物質としては、紫外線蛍光染料、臭気ガスや臭いマスキング剤等が挙げられる。
【0146】
紫外線蛍光染料としては、米国特許第4249412号明細書、特表平10-502737号公報、特表2007-511645号公報、特表2008-500437号公報、特表2008-531836号公報に記載されたもの等、従来、ハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の紫外線蛍光染料が挙げられる。
【0147】
臭いマスキング剤としては、特表2008-500437号公報、特表2008-531836号公報に記載されたもの等、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の香料が挙げられる。
【0148】
漏れ検出物質を用いる場合には、作動媒体への漏れ検出物質の溶解性を向上させる可溶化剤を用いてもよい。
【0149】
可溶化剤としては、特表2007-511645号公報、特表2008-500437号公報、特表2008-531836号公報に記載されたもの等が挙げられる。
【0150】
熱サイクルシステム用組成物における、漏れ検出物質の含有量は、本実施形態の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0151】
[熱サイクルシステム]
本実施形態の熱サイクルシステムは、本実施形態の熱サイクルシステム用組成物を用いたシステムである。この熱サイクルシステムは、凝縮器で得られる温熱を利用するヒートポンプシステムであってもよく、蒸発器で得られる冷熱を利用する冷凍サイクルシステムであってもよい。
【0152】
本実施形態の熱サイクルシステムとして、具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機等が挙げられる。なかでも、本実施形態の熱サイクルシステムは、より高温の作動環境でも効率的に熱サイクル性能を発揮できるため、屋外等に設置されることが多い空調機器として用いられることが好ましい。また、本実施形態の熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器として用いられることも好ましい。
【0153】
発電システムとしては、ランキンサイクルシステムによる発電システムが好ましい。
発電システムとして、具体的には、蒸発器において地熱エネルギー、太陽熱、50~200℃程度の中~高温度域廃熱等により作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、該断熱膨張によって発生する仕事によって発電機を駆動させ、発電を行うシステムが例示される。
【0154】
また、本実施形態の熱サイクルシステムは、熱輸送装置であってもよい。熱輸送装置としては、潜熱輸送装置が好ましい。
【0155】
潜熱輸送装置としては、装置内に封入された作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮等の現象を利用して潜熱輸送を行うヒートパイプおよび二相密閉型熱サイフォン装置が挙げられる。ヒートパイプは、半導体素子や電子機器の発熱部の冷却装置等、比較的小型の冷却装置に適用される。二相密閉型熱サイフォンは、ウィッグを必要とせず構造が簡単であることから、ガス-ガス型熱交換器、道路の融雪促進および凍結防止等に広く利用される。
【0156】
冷凍・冷蔵機器として、具体的には、ショーケース(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース等)、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等が挙げられる。
【0157】
空調機器として、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン(店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン等)、熱源機器チリングユニット、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等が挙げられる。
【0158】
熱源機器チリングユニットとしては、例えば、容積圧縮式冷凍機、遠心式冷凍機が挙げられる。次に説明する遠心式冷凍機は作動媒体の充填量が多いので本実施形態の効果をより顕著に得ることができるため好ましい。
【0159】
ここで、遠心式冷凍機は、遠心式圧縮機を用いた冷凍機である。遠心式冷凍機は、蒸気圧縮式の冷凍機の一種であり、通常、ターボ冷凍機とも言われる。遠心式圧縮機は、羽根車を備えており、回転する羽根車で作動媒体を外周部へ吐き出すことで圧縮を行う。遠心式冷凍機は、オフィスビル、地域冷暖房、病院での冷暖房の他、半導体工場、石油化学工業での冷水製造プラント等に用いられている。
【0160】
遠心式冷凍機としては、低圧型、高圧型のいずれであっても良いが、低圧型の遠心式冷凍機であることが好ましい。なお、低圧型とは、例えば、CFC-11,HCFC-123,HFC-245faのような高圧ガス保安法の適用を受けない作動媒体、すなわち、「常用の温度において、圧力0.2MPa以上となる液化ガスで現にその圧力が0.2MPa以上であるもの、又は圧力が0.2MPa以上となる場合の温度が35℃以下である液化ガス」に該当しない作動媒体を用いた遠心式冷凍機をいう。
【0161】
以下、本実施形態の熱サイクルシステムの一例として、冷凍サイクルシステムについて、上記で大枠を説明した図1に概略構成図が示される冷凍サイクルシステム10を例として説明する。冷凍サイクルシステムとは、蒸発器で得られる冷熱を利用するシステムである。
【0162】
図1に示す冷凍サイクルシステム10は、作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14と、蒸発器14に負荷流体Eを供給するポンプ15と、凝縮器12に流体Fを供給するポンプ16とを具備して概略構成されるシステムである。
【0163】
冷凍サイクルシステム10においては、以下の(i)~(iv)のサイクルが繰り返される。
(i)蒸発器14から排出された作動媒体蒸気Aを圧縮機11にて圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする(以下、「AB過程」という。)。
(ii)圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを凝縮器12にて流体Fによって冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする。この際、流体Fは加熱されて流体F’となり、凝縮器12から排出される(以下、「BC過程」という。)。
(iii)凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張弁13にて膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする(以下、「CD過程」という。)。
(iv)膨張弁13から排出された作動媒体Dを蒸発器14にて負荷流体Eによって加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする。この際、負荷流体Eは冷却されて負荷流体E’となり、蒸発器14から排出される(以下、「DA過程」という。)。
【0164】
冷凍サイクルシステム10は、断熱・等エントロピ変化、等エンタルピ変化および等圧変化からなるサイクルシステムである。作動媒体の状態変化を、図2に示される圧力-エンタルピ線(曲線)図上に記載すると、A、B、C、Dを頂点とする台形として表すことができる。
【0165】
AB過程は、圧縮機11で断熱圧縮を行い、高温低圧の作動媒体蒸気Aを高温高圧の作動媒体蒸気Bとする過程であり、図2においてAB線で示される。
【0166】
BC過程は、凝縮器12で等圧冷却を行い、高温高圧の作動媒体蒸気Bを低温高圧の作動媒体Cとする過程であり、図2においてBC線で示される。この際の圧力が凝縮圧である。圧力-エンタルピ線とBC線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tが凝縮温度であり、低エンタルピ側の交点Tが凝縮沸点温度である。ここで、HCFO-1224ydが他の作動媒体との混合媒体であって非共沸混合媒体である場合の温度勾配はTとTの差として示される。
【0167】
CD過程は、膨張弁13で等エンタルピ膨張を行い、低温高圧の作動媒体Cを低温低圧の作動媒体Dとする過程であり、図2においてCD線で示される。なお、低温高圧の作動媒体Cにおける温度をTで示せば、T-Tが(i)~(iv)のサイクルにおける作動媒体の過冷却度(以下、必要に応じて「SC」で示す。)となる。
【0168】
DA過程は、蒸発器14で等圧加熱を行い、低温低圧の作動媒体Dを高温低圧の作動媒体蒸気Aに戻す過程であり、図2においてDA線で示される。この際の圧力が蒸発圧である。圧力-エンタルピ線とDA線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tは蒸発温度である。作動媒体蒸気Aの温度をTで示せば、T-Tが(i)~(iv)のサイクルにおける作動媒体の過熱度(以下、必要に応じて「SH」で示す。)となる。なお、Tは作動媒体Dの温度を示す。
【0169】
ここで、作動媒体のサイクル性能は、例えば、作動媒体の冷凍能力(以下、必要に応じて「Q」で示す。)と成績係数(以下、必要に応じて「COP」で示す。)で評価できる。作動媒体のQとCOPは、作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態における各エンタルピ、h、h、h、hを用いると、下式(A)、(B)からそれぞれ求められる。
Q=h-h …(A)
COP=Q/圧縮仕事=(h-h)/(h-h) …(B)
なお、COPは冷凍サイクルシステムにおける効率を意味しており、COPの値が高いほど少ない入力、例えば圧縮機を運転するために必要とされる電力量、により大きな出力、例えば、Qを得ることができることを表している。
【0170】
一方、Qは負荷流体を冷凍する能力を意味しており、Qが高いほど同一のシステムにおいて、多くの仕事ができることを意味している。言い換えると、大きなQを有する場合は、少量の作動媒体で目的とする性能が得られることを表しており、システムの小型化が可能となる。
【0171】
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物を用いた熱サイクルシステムによれば、例えば、図1に示される冷凍サイクルシステム10において、従来から空調機器等で一般的に使用されているHFC-134aを用いた場合に比べて、地球温暖化係数を格段に低く抑えながら、QとCOPをともに高いレベル、すなわち、HFC-134aと同等またはそれ以上のレベルに設定することが可能である。
【0172】
さらに、用いる熱サイクルシステム用組成物が含有する作動媒体の温度勾配を一定値以下に抑える組成とすることも可能であり、その場合、圧力容器から冷凍空調機器へ充てんされる際の組成変化や冷凍空調機器からの作動媒体の漏えいが生じた場合の冷凍空調機器内の作動媒体の組成変化を低いレベルに抑えることができる。また、本実施形態の熱サイクルシステム用組成物によれば、これに含まれる作動媒体の潤滑特性を向上できることから、該組成物を用いた熱サイクルシステムは従来よりも作動媒体の効率的な循環状態を維持でき、システムの安定した稼働が可能である。
【0173】
なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
【0174】
熱サイクルシステム内に水分が混入すると、特に低温で使用される際に問題が生じる場合がある。例えば、キャピラリーチューブ内での氷結、作動媒体や冷凍機油の加水分解、サイクル内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生等の問題が発生する。特に、冷凍機油がポリグリコール系冷凍機油、ポリオールエステル系冷凍機油等を含む場合は、吸湿性が極めて高く、また、加水分解反応を生じやすく、冷凍機油としての特性が低下し、圧縮機の長期信頼性を損なう大きな原因となる。したがって、冷凍機油の加水分解を抑えるためには、熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する必要がある。
【0175】
熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する方法としては、乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト等)等の水分除去手段を用いる方法が挙げられる。乾燥剤は、液状の熱サイクルシステム用組成物と接触させることが、脱水効率の点で好ましい。例えば、凝縮器12の出口、または蒸発器14の入口に乾燥剤を配置して、熱サイクルシステム用組成物と接触させることが好ましい。
【0176】
乾燥剤としては、乾燥剤と熱サイクルシステム用組成物との化学反応性、乾燥剤の吸湿能力の点から、ゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0177】
ゼオライト系乾燥剤としては、従来の鉱物系冷凍機油に比べて吸湿量の高い冷凍機油を用いる場合には、吸湿能力に優れる点から、下式(C)で表される化合物を主成分とするゼオライト系乾燥剤が好ましい。
2/nO・Al・xSiO・yHO …(C)
ただし、Mは、Na、K等の1族の元素またはCa等の2族の元素であり、nは、Mの原子価であり、x、yは、結晶構造にて定まる値である。Mを変化させることにより細孔径を調整できる。
乾燥剤の選定においては、細孔径および破壊強度が重要である。
【0178】
熱サイクルシステム用組成物が含有する作動媒体や冷凍機油の分子径よりも大きい細孔径を有する乾燥剤を用いた場合、作動媒体や冷凍機油が乾燥剤中に吸着され、その結果、作動媒体や冷凍機油と乾燥剤との化学反応が生じ、不凝縮性気体の生成、乾燥剤の強度の低下、吸着能力の低下等の好ましくない現象を生じることとなる。
【0179】
したがって、乾燥剤としては、細孔径の小さいゼオライト系乾燥剤を用いることが好ましい。特に、細孔径が3.5オングストローム以下である、ナトリウム・カリウムA型の合成ゼオライトが好ましい。作動媒体や冷凍機油の分子径よりも小さい細孔径を有するナトリウム・カリウムA型合成ゼオライトを適用することによって、作動媒体や冷凍機油を吸着することなく、熱サイクルシステム内の水分のみを選択的に吸着除去できる。言い換えると、作動媒体や冷凍機油の乾燥剤への吸着が起こりにくいことから、熱分解が起こりにくくなり、その結果、熱サイクルシステムを構成する材料の劣化やコンタミナンツの発生を抑制できる。
【0180】
ゼオライト系乾燥剤の大きさは、小さすぎると熱サイクルシステムの弁や配管細部への詰まりの原因となり、大きすぎると乾燥能力が低下するため、約0.5~5mmが好ましい。形状としては、粒状または円筒状が好ましい。
【0181】
ゼオライト系乾燥剤は、粉末状のゼオライトを結合剤(ベントナイト等。)で固めることにより任意の形状とすることができる。ゼオライト系乾燥剤を主体とするかぎり、他の乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ等。)を併用してもよい。
【0182】
熱サイクルシステム用組成物に対するゼオライト系乾燥剤の使用割合は、特に限定されない。
【0183】
さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や冷凍機油と反応し、分解を促進する。
【0184】
不凝縮性気体濃度は、作動媒体の気相部において、作動媒体に対する容積割合で1.5体積%以下が好ましく、0.5体積%以下が特に好ましい。
【0185】
以上説明した本実施形態の熱サイクルシステムにあっては、本実施形態の熱サイクルシステム用組成物を用いることで、地球温暖化への影響を抑えつつ、潤滑性が良好なことから高いサイクル性能が得られるとともに、安定性に優れる。
【実施例
【0186】
以下、本発明について、実施例および比較例を参照しながらさらに詳細に説明する。
ここで、作動媒体、冷凍機油としては、以下に示すものを使用した。
【0187】
[作動媒体]
作動媒体1:HCFO-1224yd(HCFO-1224yd(E):HCFO-1224yd(Z)=15:85(質量比))
【0188】
[冷凍機油]
混合冷凍機油(基油)を構成する冷凍機油としては、以下に示すものを用いた。これらの冷凍機油の特性について表2にまとめて示した。
冷凍機油A:ナフテン系鉱物油(商品名:SUNISO 5GS、日本サン石油株式会社製品;VG100)
冷凍機油B:ナフテン系鉱物油(商品名:SUNISO 6GS、日本サン石油株式会社製品;VG150)
冷凍機油C:パラフィン系鉱物油(VG100)
冷凍機油D:ポリアルファオレフィン油(VG46)
冷凍機油E:ポリアルファオレフィン油(VG600)
冷凍機油F:ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸からなる分枝鎖ポリオールエステル油(VG68)
【0189】
冷凍機油G:ジペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸からなる分枝鎖ポリオールエステル油(VG230)
冷凍機油H:トリメチロールプロパンとn-ノナン酸からなる直鎖ポリオールエステル油(VG22)
冷凍機油I:ポリアルキレングリコール油(VG46)
冷凍機油J:ポリアルキレングリコール油(VG68)
冷凍機油K:ポリビニルエーテル油(VG50)
【0190】
【表2】
【0191】
【表3】
【0192】
(例1~17)
上記作動媒体1と冷凍機油A~Kを用い、作動媒体50gに混合冷凍機油(基油)50gを混合、溶解して熱サイクルシステム用組成物を製造した。したがって、本例における熱サイクルシステム用組成物は、作動媒体50質量%と混合冷凍機油(基油)50質量%とから構成されたものである。各例においては、冷凍機油を表4~6に示した組成となるように所定の割合で混合して混合冷凍機油(基油)とした。ここで、例1~6が実施例、例7~17が比較例である。
【0193】
得られた熱サイクルシステム用組成物については、混合冷凍機油の動粘度、熱サイクル作動媒体と混合冷凍機油との特定割合での混合物の二相分離温度および冷媒溶解粘度、熱サイクルシステム用組成物の熱化学安定性、について測定し、その結果を表4~6に併せて示した。
【0194】
【表4】
【0195】
【表5】
【0196】
【表6】
【0197】
(動粘度)
混合冷凍機油について、JIS K2283に準じて測定した。
【0198】
(二相分離温度)
作動媒体1に混合冷凍機油の濃度が5質量%となるように混合冷凍機油を加えた混合物(混合組成物2)の二相分離温度を、JIS K2211に準じて測定した。
【0199】
(冷媒溶解粘度)
撹拌装置、圧力計及びピストン式粘度計を組み込んだ圧力容器内に必要量の冷凍機油を封入、容器内を真空にした後必要量の作動媒体(冷媒)を導入し、測定温度にて撹拌により作動媒体と冷凍機油を均一に混合した状態で粘度計により60℃における粘度を測定した。ここで用いた混合物は、混合冷凍機油に作動媒体1の濃度が10質量%となるように作動媒体1を加えた混合物(混合組成物1)である。容器内の作動媒体と冷凍機油の溶解度は、別途冷凍機油と作動媒体の溶解度と圧力の関係を測定しておいた上で、容器に取り付けた圧力計の数値より算出した。
【0200】
(熱化学安定性)
熱サイクルシステム用組成物の熱化学安定性を、ASHRAE 97 シールドチューブ試験に準じて測定した。
【0201】
以上の結果から、本実施形態の所定の熱サイクル用作動媒体に、所定の混合冷凍機油を混合して得られた熱サイクルシステム用組成物は、熱サイクル用作動媒体の有する、地球温暖化への影響を抑制し、高いサイクル性能を奏する利点を維持しつつ、さらに、潤滑性および安定性を良好なものとでき、優れた熱サイクルシステム用組成物であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0202】
本実施形態の熱サイクルシステム用組成物および該組成物を用いた熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等)、空調機器(ルームエアコン、店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン、熱源機器チリングユニット、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等)、発電システム(廃熱回収発電等)、熱輸送装置(ヒートパイプ等)に利用できる。
【符号の説明】
【0203】
10…冷凍サイクルシステム、11…圧縮機、12…凝縮器、13…膨張弁、14…蒸発器、15,16…ポンプ。
図1
図2