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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20220721BHJP
【FI】
A61M1/36 145
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019530960
(86)(22)【出願日】2018-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2018025578
(87)【国際公開番号】W WO2019017212
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2017142027
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】後藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】豊田 将弘
(72)【発明者】
【氏名】村上 智也
(72)【発明者】
【氏名】秋田 邦彦
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-512101(JP,A)
【文献】特開2010-155109(JP,A)
【文献】特表2010-502323(JP,A)
【文献】特開2010-12286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に穿刺可能な動脈側穿刺針が先端に取り付けられた動脈側血液回路と、
患者に穿刺可能な静脈側穿刺針が先端に取り付けられた静脈側血液回路と、
前記動脈側血液回路の基端及び静脈側血液回路の基端に接続され、当該動脈側血液回路及び静脈側血液回路で体外循環する患者の血液を浄化可能な血液浄化手段と、
を有する血液浄化装置において、
前記動脈側血液回路に備えられた動脈側電極と、
前記静脈側血液回路に備えられた静脈側電極と、
前記動脈側電極と静脈側電極との間で電圧を印加して、患者の血管に穿刺された前記動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を介して前記患者の血液に所定の周波数の交流電流を流し得るとともに、当該交流電流を複数の周波数に切り替え可能な発振手段と、
前記発振手段により交流電流が流された流路の周波数毎のインピーダンスを測定可能な測定手段と、
前記測定手段により測定された周波数毎のインピーダンスに基づいてインピーダンスの周波数特性を取得可能な計測手段と、
前記動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されている場合のインピーダンスの周波数特性を記憶可能な記憶手段と、
前記計測手段により取得されたインピーダンスの周波数特性と、前記記憶手段で記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて前記動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能な判定手段と、
を具備し、前記判定手段は、インピーダンスの周波数特性を構成する抵抗成分と容量成分のそれぞれの相互相関関係を利用して判定することを特徴とする血液浄化装置。
【請求項2】
患者に穿刺可能な動脈側穿刺針が先端に取り付けられた動脈側血液回路と、
患者に穿刺可能な静脈側穿刺針が先端に取り付けられた静脈側血液回路と、
前記動脈側血液回路の基端及び静脈側血液回路の基端に接続され、当該動脈側血液回路及び静脈側血液回路で体外循環する患者の血液を浄化可能な血液浄化手段と、
を有する血液浄化装置において、
前記動脈側血液回路に備えられた動脈側電極と、
前記静脈側血液回路に備えられた静脈側電極と、
前記動脈側電極と静脈側電極との間で電圧を印加して、患者の血管に穿刺された前記動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を介して前記患者の血液に所定の周波数の交流電流を流し得るとともに、当該交流電流を複数の周波数に切り替え可能な発振手段と、
前記発振手段により交流電流が流された流路の周波数毎のインピーダンスを測定可能な測定手段と、
前記測定手段により測定された周波数毎のインピーダンスに基づいてインピーダンスの周波数特性を取得可能な計測手段と、
前記動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されている場合のインピーダンスの周波数特性を記憶可能な記憶手段と、
前記計測手段により取得されたインピーダンスの周波数特性と、前記記憶手段で記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて前記動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能な判定手段と、
を具備し、前記判定手段は、前記計測手段により取得されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性と、前記記憶手段で記憶されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて前記動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能とされたことを特徴とする血液浄化装置。
【請求項3】
前記発振手段は、低周波数及び高周波数に亘って交流電流の周波数を切り替え可能とされたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、前記動脈側血液回路及び静脈側血液回路に患者の血液を導入した後であって血液浄化治療を開始する前において前記計測手段で取得されたインピーダンスの周波数特性を記憶し得ることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記発振手段による複数の周波数に切り替えられた交流電流の付与、前記計測手段によるインピーダンスの周波数特性の取得、及び前記判定手段による判定は、血液浄化治療の開始から終了に亘って継続的又は間欠的に行われることを特徴とする請求項記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記記憶手段で記憶されたインピーダンスの周波数特性を血液浄化治療毎に逐次記憶して過去のインピーダンスの周波数特性データとして保存し得る保存手段と、
前記保存手段で保存された過去のインピーダンスの周波数特性データと、現在の血液浄化治療において前記記憶手段に記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較して、その周波数特性の変化を監視し得る監視手段と、
を具備したことを特徴とする請求項記載の血液浄化装置。
【請求項7】
前記判定手段で前記動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が血管に対して正常に穿刺されていないと判定されたことを報知する報知手段を具備したことを特徴とする請求項1~の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【請求項8】
前記動脈側電極及び静脈側電極は、前記動脈側血液回路及び静脈側血液回路を構成する可撓性チューブの外周面に接触して形成された電極から成り、当該動脈側血液回路及び静脈側血液回路を流れる液体に対して接液することなく電圧を印加可能とされたことを特徴とする請求項1~7の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈側血液回路及び静脈側血液回路で体外循環する患者の血液を浄化可能な血液浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、透析治療においては、患者の血液を体外循環させるための血液回路と、該血液回路の途中に接続されたダイアライザと、しごき型の血液ポンプと、ダイアライザとの間で透析液の導入又は導出を行って血液透析処理を行いつつ除水可能な透析装置本体とを有した透析治療装置が用いられる。このような透析治療装置により行われる透析治療は、通常、1日おきに約4時間行われることから、治療中の患者の血行動態が大きく変化することとなり、特に、余剰水分の除去(除水)による血圧低下の防止を有効且つ確実に行うことは、重要な課題となっている。
【0003】
一方、血液浄化治療では、患者に動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を穿刺し、動脈側穿刺針から患者の血液を採取して血液回路にて体外循環させつつ血液浄化治療した後、その浄化された血液を静脈側穿刺針から患者に戻す必要がある。しかるに、血液を体外循環させる過程において、例えば体動等によって、穿刺針が患者の穿刺部から意図せずに抜けて離脱してしまい、特に静脈側穿刺針が抜けた場合は、血液が外部に漏れる虞がある。このような穿刺針の離脱を検知するために、従来、血液回路に交流電流を流すことによって、穿刺針の抜針状態を判定し得る血液浄化装置が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-12286号公報
【文献】特開2010-155109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術においては、動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の体から完全に外れてしまった場合の抜針状態を判定することができるものの、動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の体に穿刺されつつ血管に対して正常に穿刺されていない状態(血管に対して正常でない穿刺状態)を検出することができないという問題があった。このような血管に対して正常でない穿刺状態は、穿刺針が患者の体から完全に外れてしまう予兆であることから、これを判定して医療従事者に注意を促すことが重要である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針の血管に対する正常でない穿刺状態を検出することができる血液浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、患者に穿刺可能な動脈側穿刺針が先端に取り付けられた動脈側血液回路と、患者に穿刺可能な静脈側穿刺針が先端に取り付けられた静脈側血液回路と、前記動脈側血液回路の基端及び静脈側血液回路の基端に接続され、当該動脈側血液回路及び静脈側血液回路で体外循環する患者の血液を浄化可能な血液浄化手段とを有する血液浄化装置において、前記動脈側血液回路に備えられた動脈側電極と、前記静脈側血液回路に備えられた静脈側電極と、前記動脈側電極と静脈側電極との間で電圧を印加して、患者の血管(バスキュラーアクセス等)に穿刺された前記動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を介して前記患者の血液に所定の周波数の交流電流を流し得るとともに、当該交流電流を複数の周波数に切り替え可能な発振手段と、前記発振手段により交流電流が流された流路の周波数毎のインピーダンスを測定可能な測定手段と、前記測定手段により測定された周波数毎のインピーダンスに基づいてインピーダンスの周波数特性を取得可能な計測手段と、前記動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されている場合のインピーダンスの周波数特性を記憶可能な記憶手段と、前記計測手段により取得されたインピーダンスの周波数特性と、前記記憶手段で記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて前記動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能な判定手段とを具備し、前記判定手段は、インピーダンスの周波数特性を構成する抵抗成分と容量成分のそれぞれの相互相関関係を利用して判定することを特徴とする。
請求項2記載の発明は、患者に穿刺可能な動脈側穿刺針が先端に取り付けられた動脈側血液回路と、患者に穿刺可能な静脈側穿刺針が先端に取り付けられた静脈側血液回路と、前記動脈側血液回路の基端及び静脈側血液回路の基端に接続され、当該動脈側血液回路及び静脈側血液回路で体外循環する患者の血液を浄化可能な血液浄化手段とを有する血液浄化装置において、前記動脈側血液回路に備えられた動脈側電極と、前記静脈側血液回路に備えられた静脈側電極と、前記動脈側電極と静脈側電極との間で電圧を印加して、患者の血管に穿刺された前記動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を介して前記患者の血液に所定の周波数の交流電流を流し得るとともに、当該交流電流を複数の周波数に切り替え可能な発振手段と、前記発振手段により交流電流が流された流路の周波数毎のインピーダンスを測定可能な測定手段と、前記測定手段により測定された周波数毎のインピーダンスに基づいてインピーダンスの周波数特性を取得可能な計測手段と、前記動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されている場合のインピーダンスの周波数特性を記憶可能な記憶手段と、前記計測手段により取得されたインピーダンスの周波数特性と、前記記憶手段で記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて前記動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能な判定手段とを具備し、前記判定手段は、前記計測手段により取得されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性と、前記記憶手段で記憶されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて前記動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能とされたことを特徴とする。
【0008】
請求項記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置において、前記発振手段は、低周波数及び高周波数に亘って交流電流の周波数を切り替え可能とされたことを特徴とする。
【0009】
請求項記載の発明は、請求項1~3の何れか1つに記載の血液浄化装置において、前記記憶手段は、前記動脈側血液回路及び静脈側血液回路に患者の血液を導入した後であって血液浄化治療を開始する前において前記計測手段で取得されたインピーダンスの周波数特性を記憶し得ることを特徴とする。
【0010】
請求項記載の発明は、請求項記載の血液浄化装置において、前記発振手段による複数の周波数に切り替えられた交流電流の付与、前記計測手段によるインピーダンスの周波数特性の取得、及び前記判定手段による判定は、血液浄化治療の開始から終了に亘って継続的又は間欠的に行われることを特徴とする。
【0011】
請求項記載の発明は、請求項記載の血液浄化装置において、前記記憶手段で記憶されたインピーダンスの周波数特性を血液浄化治療毎に逐次記憶して過去のインピーダンスの周波数特性データとして保存し得る保存手段と、前記保存手段で保存された過去のインピーダンスの周波数特性データと、現在の血液浄化治療において前記記憶手段に記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較して、その周波数特性の変化を監視し得る監視手段とを具備したことを特徴とする。
【0012】
請求項記載の発明は、請求項1~の何れか1つに記載の血液浄化装置において、前記判定手段で前記動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が血管に対して正常に穿刺されていないと判定されたことを報知する報知手段を具備したことを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項1~7の何れか1つに記載の血液浄化装置において、前記動脈側電極及び静脈側電極は、前記動脈側血液回路及び静脈側血液回路を構成する可撓性チューブの外周面に接触して形成された電極から成り、当該動脈側血液回路及び静脈側血液回路を流れる液体に対して接液することなく電圧を印加可能とされたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、2の発明によれば、インピーダンスの周波数特性の変化に応じて動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定することができるので、動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針の血管に対する正常でない穿刺状態を検出することができる。
また、判定手段は、計測手段により取得されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性と、記憶手段で記憶されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能とされることにより、抵抗成分のみに基づいて容易に、動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針の血管に対する正常でない穿刺状態を判定することができる。
【0016】
請求項の発明によれば、発振手段は、低周波数及び高周波数に亘って交流電流の周波数を切り替え可能とされたので、広い周波数領域に亘るインピーダンスの周波数特性を取得することができ、動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針の血管に対する正常でない穿刺状態を精度よく判定することができる。
【0017】
請求項の発明によれば、記憶手段は、動脈側血液回路及び静脈側血液回路に患者の血液を導入した後であって血液浄化治療を開始する前において計測手段で取得されたインピーダンスの周波数特性を記憶し得るので、血液浄化治療中のインピーダンスの周波数特性の変化を確実に検出して判定手段による正確な判定を行わせることができる。
【0018】
請求項の発明によれば、発振手段による複数の周波数に切り替えられた交流電流の付与、計測手段によるインピーダンスの周波数特性の取得、及び判定手段による判定は、血液浄化治療の開始から終了に亘って継続的又は間欠的に行われるので、動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針の血管に対する正常でない穿刺状態を血液浄化治療中において確実に判定することができる。
【0019】
請求項の発明によれば、記憶手段で記憶されたインピーダンスの周波数特性を血液浄化治療毎に逐次記憶して過去のインピーダンスの周波数特性データとして保存し得る保存手段と、保存手段で保存された過去のインピーダンスの周波数特性データと、現在の血液浄化治療において記憶手段に記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較して、その周波数特性の変化を監視し得る監視手段とを具備したので、患者のバスキュラーアクセス(図7、8等で示す患者の血管A)の状態を監視することができるとともに、現在の血液浄化治療の開始前における動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針の血管に対する正常でない穿刺状態を判定することができる。
【0020】
請求項の発明によれば、判定手段で動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が血管に対して正常に穿刺されていないと判定されたことを報知する報知手段を具備したので、動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が血管に対して正常に穿刺されていない状態であることを素早く周囲の医療従事者等に把握させることができ、その対処のための作業を素早く行わせることができる。
【0022】
請求項8の発明によれば、動脈側電極及び静脈側電極は、動脈側血液回路及び静脈側血液回路を構成する可撓性チューブの外周面に接触して形成された電極から成り、当該動脈側血液回路及び静脈側血液回路を流れる液体に対して接液することなく電圧を印加可能とされたので、動脈側血液回路及び静脈側血液回路の血液の流路に電極を臨ませて取り付ける必要がなく、血液の流路に電極を取り付けるための凹凸が形成されてしまうのを回避して円滑な流れを保持することができる。また、血液に対して接液することなく電圧を印加することができるので、生体適合性が低い金属を電極として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る血液浄化装置を示す全体模式図
図2】同血液浄化装置における穿刺針(動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針)を示す模式図
図3】同血液浄化装置における電極(動脈側電極又は静脈側電極)を示す模式図
図4】同血液浄化装置における記憶手段で記憶されたインピーダンスの周波数特性を示すグラフ
図5】穿刺針が血管に対して正常に穿刺されていない場合に同血液浄化装置における計測手段で取得されたインピーダンスの周波数特性を示すグラフ
図6図5で示すインピーダンスの周波数特性に対応する等価回路を示す回路図
図7】同血液浄化装置における動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針が血管に対して正常に穿刺された状態を示す模式図
図8】同血液浄化装置における動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針(本図においては静脈側穿刺針)が血管に対して正常に穿刺されていない状態を示す模式図
図9】本発明の他の実施形態に係る血液浄化装置を示す全体模式図
図10】本発明の更に他の実施形態に係る血液浄化装置における記憶手段で記憶されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性と、穿刺針が血管に対して正常に穿刺されていない場合に同血液浄化装置における計測手段で取得されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性とを示すグラフ
図11】同血液浄化装置における他の形態の電極(動脈側電極又は静脈側電極)を示す側面図
図12図11におけるXII-XII線断面図
図13】同他の形態の電極(動脈側電極又は静脈側電極)を示す斜視図
図14】同血液浄化装置における更に他の形態の電極(動脈側電極又は静脈側電極)を示す側面図
図15図14におけるXV-XV線断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、患者の血液を体外循環させつつ血液透析治療及び除水を行うための血液透析装置から成り、図1に示すように、血液回路1と、血液回路1に接続された血液浄化手段としてのダイアライザ2と、装置本体Bに配設された透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2と、動脈側電極D1及び静脈側電極D2と、発振手段8と、測定手段9と、計測手段10と、記憶手段11と、判定手段12と、報知手段13とを有して構成されている。
【0025】
血液回路1は、血液等の液体を流通させ得る可撓性チューブから成り、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bを有して構成されている。動脈(脱血または採血)側血液回路1aには、その先端に動脈側穿刺針a(図1、2参照)が接続可能とされているとともに、途中にしごき型の血液ポンプ3が配設される。一方、静脈(返血)側血液回路1bには、その先端に静脈側穿刺針b(図1、2参照)が接続されているとともに、途中に除泡用のエアトラップチャンバ4が接続されている。なお、本明細書においては、血液を脱血(採血)する穿刺針の側を「動脈側」と称し、血液を返血する穿刺針の側を「静脈側」と称しており、「動脈側」及び「静脈側」とは、穿刺の対象となる血管が動脈及び静脈の何れかによって定義されるものではない。
【0026】
本実施形態に係る動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bは、患者に穿刺可能な穿刺針(アクセス手段)を構成するもので、図2に示すように、硬質樹脂等から成る先端部fに取り付けられたカニューレ(血管内留置針)から成る。また、先端部fは、鉗子用可撓性チューブgを介して硬質樹脂等から成る接手cが連結されており、同図(a)に示すように、これら先端部f、鉗子用可撓性チューブg及び接手cが一体化されている。
【0027】
一方、動脈側血液回路1aの先端及び静脈側血液回路1bの先端には、それぞれ硬質樹脂等から成る接手dが形成されており、同図(b)に示すように、当該接手dに穿刺針側の接手cを嵌合させた状態で、ロックリングRにてネジ止めすることにより嵌合状態をロック可能とされている。なお、鉗子用可撓性チューブgを鉗子にて挟持することにより、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bと動脈側血液回路1a又は静脈側血液回路1bとの間の流路を遮断し得るようになっている。
【0028】
そして、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者に穿刺した状態で、血液ポンプ3を駆動させると、動脈側穿刺針aから採取された患者の血液は、動脈側血液回路1aを通ってダイアライザ2に至り、該ダイアライザ2によって血液浄化が施された後、エアトラップチャンバ4で除泡がなされつつ静脈側血液回路1bを通り、静脈側穿刺針bを介して患者の体内に戻る。これにより、患者の血液を血液回路1にて体外循環させつつダイアライザ2にて浄化することができる。
【0029】
ダイアライザ2は、その筐体部に、血液導入ポート2a、血液導出ポート2b、透析液導入ポート2c及び透析液導出ポート2dが形成されており、このうち血液導入ポート2aには動脈側血液回路1aの基端が、血液導出ポート2bには静脈側血液回路1bの基端がそれぞれ接続されている。また、透析液導入ポート2c及び透析液導出ポート2dは、装置本体Bから延設された透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2とそれぞれ接続されている。
【0030】
ダイアライザ2の筐体部内には、複数の中空糸が収容されており、該中空糸内部が血液の流路とされるとともに、中空糸外周面と筐体部の内周面との間が透析液の流路とされている。中空糸には、その外周面と内周面とを貫通した微少な孔(ポア)が多数形成されて中空糸膜を形成しており、該膜を介して血液中の不純物等が透析液内に透過し得るよう構成されている。
【0031】
装置本体Bには、図1に示すように、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2に跨って形成された複式ポンプ7と、透析液排出ラインL2において複式ポンプ7を迂回するバイパスラインに接続された除水ポンプ6とを有して構成されている。そして、透析液導入ラインL1の一端がダイアライザ2(透析液導入ポート2c)に接続されるとともに、他端が所定濃度の透析液を調製する透析液供給装置(不図示)に接続されている。また、透析液排出ラインL2の一端は、ダイアライザ2(透析液導出ポート2d)に接続されるとともに、他端が排液手段(不図示)と接続されており、透析液供給装置から供給された透析液が透析液導入ラインL1を通ってダイアライザ2に至った後、透析液排出ラインL2を通って排液手段に送られるようになっている。
【0032】
除水ポンプ6は、ダイアライザ2中を流れる患者の血液から水分を除去するためのものである。すなわち、除水ポンプ6を駆動させると、透析液導入ラインL1から導入される透析液量よりも透析液排出ラインL2から排出される液体の容量が多くなり、その多い容量分だけ血液中から水分が除去されるのである。なお、複式ポンプ7以外の手段(例えば所謂バランシングチャンバ等を利用するもの)にて患者の血液から水分を除去するようにしてもよい。
【0033】
気泡検出手段5は、動脈側血液回路1aを構成する可撓性チューブを流れる気泡(エア)を検出可能なセンサから成り、例えば圧電素子から成る超音波振動素子と、圧電素子から成る超音波受信素子とを具備している。そして、動脈側血液回路1aを構成する可撓性チューブに向けて超音波振動素子から超音波を照射させ得るとともに、その振動を超音波受信素子にて受け得るようになっている。
【0034】
かかる超音波受信素子は、その受信した振動に応じて電圧が変化するよう構成されており、検出される電圧が所定の閾値を超えたことにより気泡が流動したことを検出し得るよう構成されている。すなわち、血液や置換液に比べ気泡の方が超音波の減衰率が高いので、液体を透過した超音波を検出することで、検出された電圧が所定の閾値を超えたことにより、気泡(気体)が流動したことが検出されるのである。
【0035】
本実施形態においては、動脈側電極D1及び静脈側電極D2を具備している。このうち、動脈側電極D1は、動脈側血液回路1a(血液ポンプ3の配設位置と動脈側穿刺針aとの間の部位)に取り付けられた電極から成る。また、静脈側電極D2は、静脈側血液回路1b(エアトラップチャンバ4の接続位置と静脈側穿刺針bとの間の部位)に取り付けられた電極から成る。
【0036】
これら動脈側電極D1及び静脈側電極D2は、図3に示すように、可撓性チューブに接続された導電体から成り、発振手段8に対してワニ口クリップ等の接続手段によって電気的に接続され、内部を流れる血液に対して所定の電圧が印加可能とされている。なお、動脈側電極D1及び静脈側電極D2は、図3に示すようなものに限らず、動脈側血液回路1aを流れる血液及び静脈側血液回路1bを流れる血液に対して、発振手段8からの電圧を印加し得るものであれば、他の形態のもの(血液に直接触れない形態のもの含む)としてもよい。
【0037】
血液に直接触れない形態の電極として、図11~13に示すように、動脈側電極D1’及び静脈側電極D2’が挙げられる。かかる動脈側電極D1’及び静脈側電極D2’は、例えば円筒状に成形された金属パイプ(例えばステンレス製パイプ等)、導電性ゴム又は導電性プラスチックから成るパイプ等から成り、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bを構成する可撓性チューブの外周面に接触して取り付けられるとともに、当該動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bを流れる液体に対して接液することなく電圧を印加可能とされている。
【0038】
また、血液に直接触れない他の形態の電極として、図14、15に示すように、動脈側電極(D1a、D1b)及び静脈側電極(D2a、D2b)が挙げられる。かかる動脈側電極(D1a、D1b)及び静脈側電極(D2a、D2b)は、例えば板状の電極から成り、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bを構成する可撓性チューブの外周面を挟んで接触して取り付けられるとともに、当該動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bを流れる液体に対して接液することなく電圧を印加可能とされている。この場合、簡易的な構成にて電極を形成することができるので、外径の異なる可撓性チューブに対しても容易に適用することができる。
【0039】
このように、動脈側電極(D1’、D1a、D1b)及び静脈側電極(D2’、D2a、D2b)は、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bを構成する可撓性チューブの外周面に接触して形成された電極から成り、当該動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bを流れる液体に対して接液することなく電圧を印加可能とされたので、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bの血液の流路に電極を臨ませて取り付ける必要がなく、血液の流路に電極を取り付けるための凹凸が形成されてしまうのを回避して円滑な流れを保持することができる。また、血液に対して接液することなく電圧を印加することができるので、生体適合性が低い金属を電極として使用することができる。
【0040】
なお、動脈側電極(D1’、D1a、D1b)及び静脈側電極(D2’、D2a、D2b)は、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bに固着されたものであってもよく、或いは脱着可能なものであってもよい。脱着可能なものとした場合、動脈側電極(D1’、D1a、D1b)及び静脈側電極(D2’、D2a、D2b)を複数の治療に亘って流用することができるので、コストを低減させることができる。
【0041】
発振手段8は、動脈側電極D1と静脈側電極D2との間で電圧を印加して、患者の血管に穿刺された動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを介して患者の血液に所定の周波数の交流電流を流し得るとともに、当該交流電流を複数の周波数に切り替え可能なものである。より具体的には、発振手段8は、それぞれ配線を介して動脈側電極D1及び静脈側電極D2に接続されており、低周波数(例、数10Hz)及び高周波数(例、数MHz)に亘って交流電流の周波数を切り替えつつ交流電流を流し得るよう構成されている。
【0042】
測定手段9は、発振手段8と動脈側電極D1及び静脈側電極D2とを電気的に接続する配線に接続され、発振手段8により交流電流が流された流路(動脈側電極D1及び静脈側電極D2の間における動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを介する流路)の周波数毎のインピーダンスを測定可能なものである。なお、測定手段9は、発振手段8により交流電流が流された流路の周波数毎のインピーダンスを測定可能な位置であれば、他の位置に接続されていてもよい。
【0043】
計測手段10は、測定手段9と電気的に接続された演算回路等から成り、測定手段9により測定された周波数毎のインピーダンスに基づいてインピーダンスの周波数特性を取得可能なものである。この計測手段10で取得されるインピーダンスの周波数特性は、各インピーダンスの抵抗成分と各インピーダンスの容量成分との関係を示すインピーダンス分布から成るものである。
【0044】
例えば、図7に示すように、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bが血管A(バスキュラーアクセス等)に対して正常に穿刺されている場合、血液のみが導電体となると考えられるため、インピーダンスを構成する要素としては、電極及び血液となる。この場合、発振手段8により交流電流が流れる流路の周波数毎のインピーダンスを測定し、各インピーダンスの抵抗成分を横軸、各インピーダンスの容量成分を縦軸として周波数の切り替えに伴って順次プロットすると、例えば図4に示すようなインピーダンス分布(すなわち、インピーダンスの周波数特性)を得ることができる。
【0045】
一方、図8に示すように、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bの何れか一方或いは両方(同図においては静脈側穿刺針bのみ)が血管A(バスキュラーアクセス等)に対して正常に穿刺されていない場合(患者の体に対する穿刺は維持されているものの血管Aに対する穿刺が正常に行われていない場合)、血液以外の生体組織(例えば同図に示す皮膚H、皮下組織I或いは筋肉など)、若しくは穿刺針を固定するための部材(ガーゼやテープなど)が導電体に含まれると考えられるため、インピーダンスを構成する要素が雑多且つ複雑となる。
【0046】
この場合、発振手段8により交流電流が流れる流路の周波数毎のインピーダンスを測定し、各インピーダンスの抵抗成分を横軸、各インピーダンスの容量成分を縦軸として周波数の切り替えに伴って順次プロットすると、例えば図5に示すようなインピーダンス分布(すなわち、インピーダンスの周波数特性)を得ることができる。なお、図5で示されたインピーダンス分布(インピーダンスの周波数特性)における等価回路の例を図6に示す。
【0047】
記憶手段11は、図7に示すように、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bが患者の血管Aに対して正常に穿刺されている場合のインピーダンスの周波数特性を記憶可能なもので、本実施形態においては、計測手段10に対して電気的に接続され、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bに患者の血液を導入した後(脱血後)であって血液浄化治療を開始する前において計測手段10で取得されたインピーダンスの周波数特性を記憶し得るよう構成されている。
【0048】
すなわち、記憶手段11は、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bに患者の血液を導入した後(脱血後)であって血液浄化治療を開始する前において計測手段10で取得されたインピーダンスの周波数特性を、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bが患者の血管Aに対して正常に穿刺されている場合のインピーダンスの周波数特性として記憶するよう構成されているのである。
【0049】
判定手段12は、計測手段10及び記憶手段11と電気的に接続されたもので、計測手段10により取得されたインピーダンスの周波数特性と、記憶手段11で記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針b(動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bの何れか一方又は両方)が患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能とされている。
【0050】
すなわち、血液浄化治療前、図7に示すように、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bが血管Aに対して正常に穿刺され、血液浄化治療中、図8に示すように、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bの何れか一方或いは両方が血管Aに対して正常に穿刺されなくなった場合、計測手段10で取得されるインピーダンスの周波数特性は、図4で示す初期の分布から変化し、例えば図5で示す分布となるので、その変化が一定以上になったことを判定することにより、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが血管に対して正常に穿刺されていないと判定できるのである。
【0051】
なお、血液浄化治療中、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bが血管Aに対して正常に穿刺されている場合、計測手段10で取得されるインピーダンスの周波数特性は、図4で示す初期の分布からあまり変化しないので、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bが血管Aに対して正常に穿刺されていると判定することができる。さらに、血液浄化治療中、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bが患者の体から完全に外れて抜針した場合は、測定手段9にてインピーダンスを測定することができず、計測手段10にてインピーダンスの周波数特性を取得できないので、それに基づいて当該抜針状態を判定手段12により判定することができる。
【0052】
また、判定手段12による判定方法として、インピーダンスの周波数特性を構成する抵抗成分と容量成分のそれぞれの相互相関関係を利用することができ、その一例を以下に説明する。
抵抗成分をR、容量成分をC、測定時の周波数をxとするとともに、穿刺状態が血管Aに対して正常の場合の周波数特性における抵抗成分をRref(x)、穿刺状態が正常の場合の周波数特性における容量成分をCref(x)、比較対象の周波数特性における抵抗成分をRcur(x)、比較対象の周波数特性における容量成分をCcur(x)とすると、以下の演算式を得ることができる。なお、a、bは、切り替えられる周波数のうち、最低の周波数及び最高の周波数である。
【0053】
【数1】
【0054】
【数2】
【0055】
しかして、式1で求められるR及び式2で求められるCのそれぞれの値が0に近いほど、穿刺状態が正常の場合の周波数特性と比較対象の周波数特性とが近似している(すなわち、周波数特性があまり変化していない)ことが判別でき、比較対象の穿刺状態が血管Aに対して正常であると判定することができる。また、式1で求められるR及び式2で求められるCの何れか一方若しくは両方が所定の閾値を超えた場合、穿刺状態が正常の場合の周波数特性と比較対象の周波数特性とが近似していない(すなわち、周波数特性が変化している)ことが判別でき、比較対象の穿刺状態が血管Aに対して正常でないと判定することができる。
【0056】
なお、判定手段12による判定方法は、上記のものに限定されず、例えば穿刺状態が正常の場合の周波数特性と比較対象の周波数特性とを比較し得る他のパターンマッチング等としてもよい。また、本実施形態においては、各インピーダンスの抵抗成分を横軸、各インピーダンスの容量成分を縦軸として周波数の切り替えに伴って順次プロットすることによりインピーダンスの周波数特性を示す分布(グラフ)を得ているが、例えば各インピーダンスの抵抗成分を縦軸、各インピーダンスの容量成分を横軸として周波数の切り替えに伴って順次プロットすることによりインピーダンスの周波数特性を示す分布を得るようにしてもよく、それら分布のパターンマッチングを行って判定手段12による判定を行うようにしてもよい。
【0057】
さらに、本実施形態においては、発振手段8による複数の周波数に切り替えられた交流電流の付与、計測手段10によるインピーダンスの周波数特性の取得、及び判定手段12による判定は、血液浄化治療の開始から終了に亘って継続的又は間欠的に行われるよう構成されている。これにより、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bの血管に対する正常でない穿刺状態を血液浄化治療中において確実に判定することができる。
【0058】
報知手段13は、判定手段12で動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが血管Aに対して正常に穿刺されていないと判定されたことを報知するもので、所定の報知(例えば、モニタ等の表示手段への表示、音声や効果音の出力、警告灯の点灯又は点滅等)を行って周囲の医療従事者に対し、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが血管Aに対して正常に穿刺されていないことを把握させるようになっている。
【0059】
また、報知手段13は、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが血管Aに対して正常に穿刺されていない場合(患者の体に対する穿刺は維持されているものの血管Aに対する穿刺が正常に行われていない場合)の報知に加え、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが患者の体から完全に外れた場合にも報知するよう構成されている。これにより、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが患者の体から外れた場合に加え、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが患者の体から外れることの予兆を報知することができる。
【0060】
上記実施形態によれば、インピーダンスの周波数特性の変化に応じて動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが血管Aに対して正常に穿刺されているか否かを判定することができるので、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bの血管Aに対する正常でない穿刺状態を検出することができる。特に、本実施形態に係る発振手段8は、低周波数及び高周波数に亘って交流電流の周波数を切り替え可能とされたので、広い周波数領域に亘るインピーダンスの周波数特性を取得することができ、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bの血管Aに対する正常でない穿刺状態を精度よく判定することができる。
【0061】
また、本実施形態に係る記憶手段11は、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bに患者の血液を導入した後であって血液浄化治療を開始する前において計測手段10で取得されたインピーダンスの周波数特性を記憶し得るので、血液浄化治療中のインピーダンスの周波数特性の変化を確実に検出して判定手段12による正確な判定を行わせることができる。
【0062】
さらに、判定手段12で動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが血管Aに対して正常に穿刺されていないと判定されたことを報知する報知手段13を具備したので、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが血管Aに対して正常に穿刺されていない状態であることを素早く周囲の医療従事者等に把握させることができ、その対処のための作業を素早く行わせることができる。
【0063】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、上記実施形態と同様、患者の血液を体外循環させつつ血液透析治療及び除水を行うための血液透析装置から成り、図9に示すように、血液回路1と、血液浄化手段としてのダイアライザ2と、装置本体Bに配設された透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2と、動脈側電極D1及び静脈側電極D2と、発振手段8と、測定手段9と、計測手段10と、記憶手段11と、判定手段12と、報知手段13と、保存手段14と、監視手段15とを有して構成されている。なお、上記実施形態と同様の構成要素には、同一の符号を付すこととし、それらの詳細な説明を省略する。
【0064】
保存手段14は、記憶手段11に電気的に接続され、記憶手段11で記憶されたインピーダンスの周波数特性を血液浄化治療毎に逐次記憶して過去のインピーダンスの周波数特性データとして保存し得るものである。具体的には、本実施形態に係る保存手段14は、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bに患者の血液を導入した後(脱血後)であって血液浄化治療を開始する前において計測手段10で取得されたインピーダンスの周波数特性を血液浄化治療毎に逐次記憶し、過去のインピーダンスの周波数特性データとして保存するよう構成されている。
【0065】
監視手段15は、記憶手段11及び保存手段14に電気的に接続され、保存手段14で保存された過去のインピーダンスの周波数特性データと、現在の血液浄化治療において記憶手段11に記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較して、その周波数特性の変化を監視し得るものである。なお、監視手段15による監視方法として、上記実施形態における判定手段12による判定方法と同様、インピーダンスの周波数特性を構成する抵抗成分と容量成分のそれぞれの相互相関関係を利用することができる(式1、式2参照)。
【0066】
本実施形態によれば、記憶手段11で記憶されたインピーダンスの周波数特性を血液浄化治療毎に逐次記憶して過去のインピーダンスの周波数特性データとして保存し得る保存手段14と、保存手段14で保存された過去のインピーダンスの周波数特性データと、現在の血液浄化治療において記憶手段11に記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較して、その周波数特性の変化を監視し得る監視手段15とを具備したので、患者のバスキュラーアクセスの状態(狭窄状態等)を監視することができるとともに、現在の血液浄化治療の開始前における動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bの血管A(バスキュラーアクセス)に対する正常でない穿刺状態を判定することができる。
【0067】
すなわち、記憶手段11で記憶されたインピーダンスの周波数特性を血液浄化治療毎に逐次記憶して過去のインピーダンスの周波数特性データとして保存するので、これから始める血液浄化治療の開始前におけるインピーダンスの周波数特性を過去のインピーダンスの周波数特性と比べてその変化を監視するようにすれば、患者のバスキュラーアクセスが経時的に狭窄状態となったことを検出することができ、或いは血液浄化治療の開始前において、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bの血管A(バスキュラーアクセス)に対する穿刺状態が正常でないことを検出することができるのである。
【0068】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば発振手段8は、低周波数及び高周波数に亘って交流電流の周波数を切り替え可能なものに限らず、低周波数領域における複数の周波数に切り替え可能、或いは高周波数領域における複数の周波数に切り替え可能なものであってもよい。また、本実施形態においては、動脈側血液回路1a及び静脈側血液回路1bに患者の血液を導入した後であって血液浄化治療を開始する前において計測手段10で取得されたインピーダンスの周波数特性を記憶手段11に記憶し、これを血管に対して正常に穿刺された状態の周波数特性としているが、他の時点(血液浄化治療の初期や穿刺針が血管に対して正常に穿刺された状態を確認できた時点等)で得られた周波数特性を記憶手段11に記憶し、血管に対して正常に穿刺された状態の周波数特性とするものとしてもよい。
【0069】
加えて、判定手段12は、計測手段10により取得されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性と、記憶手段11で記憶されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能とされたものであってもよい。例えば、図10に示すように、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bが患者の血管に対して正常に穿刺されている場合のインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性をP1として記憶手段11にて記憶するとともに、測定手段9により測定された周波数毎のインピーダンスの抵抗成分に基づいて当該抵抗成分の周波数特性をP2として取得することにより、周波数特性P2が周波数特性P1と合致する場合は、正常状態(正常な穿刺状態)であると判定し、合致しない場合は、抜針状態(正常でない穿刺状態)であると判定することができる。
【0070】
このように、判定手段12は、計測手段10により取得されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性と、記憶手段11で記憶されたインピーダンスの抵抗成分のみの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bが患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能とすることにより、抵抗成分のみに基づいて容易に、動脈側穿刺針a又は静脈側穿刺針bの血管に対する正常でない穿刺状態を判定することができる。
【0071】
さらに、本実施形態においては、発振手段8、測定手段9、計測手段10、記憶手段11、判定手段12等(他の実施形態においては、保存手段14及び監視手段15)が装置本体B内に配設されているが、装置本体Bとは別個の装置(パーソナルコンピュータ等を含む)内に配設されるものとしてもよい。またさらに、適用される血液浄化装置は、血液透析装置に限らず、他の血液浄化治療を施す装置であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
計測手段により取得されたインピーダンスの周波数特性と、記憶手段で記憶されたインピーダンスの周波数特性とを比較し、その周波数特性の変化に応じて動脈側穿刺針又は静脈側穿刺針が患者の血管に対して正常に穿刺されているか否かを判定可能な判定手段を具備した血液浄化装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 血液回路
1a 動脈側血液回路
1b 静脈側血液回路
2 ダイアライザ(血液浄化手段)
3 血液ポンプ
4 エアトラップチャンバ
5 気泡検出手段
6 除水ポンプ
7 複式ポンプ
8 発振手段
9 測定手段
10 計測手段
11 記憶手段
12 判定手段
13 報知手段
14 保存手段
15 監視手段
D1 動脈側電極
D2 静脈側電極
a 動脈側穿刺針
b 静脈側穿刺針
B 装置本体
L1 透析液導入ライン
L2 透析液排出ライン
R ロックリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15