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7108626無線通信システムの端末を位置特定する方法およびシステム
<図1>
  • -無線通信システムの端末を位置特定する方法およびシステム 図1
  • -無線通信システムの端末を位置特定する方法およびシステム 図2
  • -無線通信システムの端末を位置特定する方法およびシステム 図3
  • -無線通信システムの端末を位置特定する方法およびシステム 図4
  • -無線通信システムの端末を位置特定する方法およびシステム 図5
  • -無線通信システムの端末を位置特定する方法およびシステム 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】無線通信システムの端末を位置特定する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20220721BHJP
   H04W 64/00 20090101ALI20220721BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
H04W64/00 110
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019550791
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2018056584
(87)【国際公開番号】W WO2018167231
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】1752090
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512315706
【氏名又は名称】シグフォックス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】イソン,オリヴィエ
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0191775(US,A1)
【文献】特表2016-517518(JP,A)
【文献】特開2017-015562(JP,A)
【文献】特開2004-325440(JP,A)
【文献】特開2009-055138(JP,A)
【文献】特開2014-013240(JP,A)
【文献】特表2015-531053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0302032(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信システム(60)の「関心端末」と称される端末(70)を位置特定する方法(10)であって、
-様々な既知の地理的位置にそれぞれが関連付けられている無線特性を確定する工程(22)であって、各々の無線特性が、前記既知の地理的位置の1つにある較正装置(71)と前記無線通信システム(60)の複数の基地局(81)との間に存在する無線リンクの品質を表す一連の値に該当し、前記無線特性および前記無線特性に関連するそれぞれの既知の地理的位置が基準データセットを形成する、無線特性を確定する工程(22)と、
-推定対象の地理的位置にある前記関心端末の無線特性を確定する工程(32)と、
含む、位置特定する方法(10)において、
無線特性を確定する各工程(22、32)は、
-前記複数の基地局(81)の各基地局に対して、前記較正装置(71)または前記関心端末(70)と、前記基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す値を測定する工程(221、321)と、
-一連の測定値からN個の値を選択する工程(222、322)であって、前記Nは、前記複数の基地局(81)の総数より少ない正の整数である、工程と、
-選択された前記N個の値、および選択された前記N個の値を測定するのに使用したN個の基地局のそれぞれの地理的位置を含む、前記無線特性を形成する工程(223、323)と
を含み、
-前記位置特定する方法(10)は、前記関心端末(70)の前記無線特性と、前記基準データセットにおける前記無線特性と、前記基準データセットにおける前記無線特性に関連する前記既知の地理的位置とに基づいて、回帰監視学習アルゴリズムを使用して前記関心端末(70)の地理的位置を推定する工程(34)を含む、
位置特定する方法。
【請求項2】
選択された前記N個の値は、前記基地局(81)に対して測定した最良の無線リンクの品質を表すN個の値に該当する、請求項1に記載の位置特定する方法(10)。
【請求項3】
選択された前記N個の値は、無線リンクの品質を降順に並べられる、請求項2に記載の位置特定する方法(10)。
【請求項4】
前記無線リンクは、前記無線通信システム(60)の前記基地局(81)へのアップリンクである、請求項1から3のいずれかに記載の位置特定する方法(10)。
【請求項5】
較正装置(71)は、「較正端末」と称される、前記無線通信システム(60)の端末(72)であり、既知の地理的位置にある前記較正端末の前記無線特性を確定する前記工程(22)は、
-前記較正端末(72)によって前記複数の基地局(81)にメッセージを送信する工程(220)と、
-前記複数の基地局(81)の各基地局に対して、前記較正端末と前記基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す値を前記較正端末から受信したメッセージに基づいて測定する工程(221)と、
-前記基地局とに接続されたサーバ(82)によって、前記一連の測定値からN個の値を選択する工程(222)と、
-選択された前記N個の値、および選択された前記N個の値を測定するのに使用した基地局の地理的位置を含む、前記較正端末の前記無線特性を、前記サーバ(82)によって形成する工程(223)とを含む、請求項4に記載の位置特定する方法(10)。
【請求項6】
前記較正端末(72)は、位置把握システムを備え、前記較正端末(72)の前記無線特性を確定する工程(22)は、
-前記較正端末(72)によって前記複数の基地局(81)に送信される前記メッセージに、前記位置把握システムによって測定された前記較正端末の最新の地理的位置を含める工程と、
-前記メッセージに含まれる前記地理的位置を前記サーバ(82)によって抽出する工程(224)と
を含む、請求項5に記載の位置特定する方法(10)。
【請求項7】
複数の較正端末(72)は、前記基準データセットを形成するために所定時間にわたって作動する、請求項5または6に記載の位置特定する方法(10)。
【請求項8】
前記基準データセットは、較正端末(72)から送信される新たなデータで常に補強される、請求項5または6に記載の位置特定する方法(10)。
【請求項9】
推定対象の地理的位置にある前記関心端末の前記無線特性を確定する工程(32)は、
-前記関心端末(70)によって、前記複数の基地局(81)にメッセージを送信する工程(320)と、
-前記複数の基地局(81)の各基地局に対して、前記関心端末と前記基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す値を、前記関心端末から受信した前記メッセージに基づいて測定する工程(321)と、
-前記基地局に接続されたサーバ(82)によって、前記一連の測定値からN個の値を選択する工程(322)と、
-選択された前記N個の値、および選択された前記N個の値を測定するのに使用した基地局の地理的位置を含む前記関心端末の前記無線特性を、前記サーバ(82)によって形成する工程(323)とを含む、請求項4から8のいずれかに記載の位置特定する方法(10)。
【請求項10】
端末(70、72)または較正装置(71)と、基地局(81)との間に存在する前記無線リンクの品質を表す値は、前記基地局と、前記端末(70、72)または前記較正装置(71)との間でやりとりされた無線信号に対する受信信号強度インジケータである、請求項1から9のいずれかに記載の位置特定する方法(10)。
【請求項11】
前記無線リンクは、超狭帯域の通信チャネルである、請求項1から10のいずれかに記載の位置特定する方法(10)。
【請求項12】
前記関心端末の推定地理的位置および推定地理的位置に関連する前記無線特性が、前記基準データセットに追加される、請求項1から11のいずれかに記載の位置特定する方法(10)。
【請求項13】
無線特性を確定する際に選択される値の数Nは、5~20の範囲内にある正の整数である、請求項1から12のいずれかに記載の位置特定する方法(10)。
【請求項14】
端末(70)および、サーバ(82)に接続された複数の基地局(81)を含むアクセスネットワーク(80)を含む無線通信システム(60)であって、前記無線通信システムは、基準データセットを保存しているデータベースを含み、各基準データは、既知の地理的位置に関連付けられた無線特性に該当し、各無線特性は、前記既知の地理的位置の1つにある較正装置(71)とN個の基地局(81)との間に存在する無線リンクの品質を表すN個の値、および前記N個の基地局の地理的位置を含み、
前記アクセスネットワーク(80)は、
-各基地局(81)と、地理的位置を推定しなければならない「関心端末」と称される端末(70)との間に存在する無線リンクの品質を表す値を測定するように構成され、
-前記関心端末に対する一連の測定値からN個の値を選択するように構成され、前記Nは、前記複数の基地局(81)の総数より少ない正の整数であり、
-一連の選択された前記N個の値、および選択された前記N個の値を測定するのに使用した基地局の地理的位置に該当する無線特性を形成し、
前記関心端末(70)の前記無線特性と、前記基準データセットにおける前記無線特性と、前記基準データセットにおける前記無線特性に関連する前記既知の地理的位置とに基づいて、回帰監視学習アルゴリズムを使用して前記関心端末(70)の地理的位置を推定するように構成される、無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置特定(geolocation)の分野に関する。特に、本発明は、無線通信システムの端末を位置特定する方法に関する。本発明は特に、モノのインターネット用のネットワークに接続されているオブジェクトの位置特定に適用される。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信システムの使用が増加していることから、ユーザの地理的位置に基づいたサービスの開発が自然と行われている。オブジェクトの位置に関する情報を使用して、ユーザの安全確保(例えば危機的状況にいる人々の補佐)、ナビゲーション支援、交通管理、商品追跡、および一般的な遠隔測定法などを行うことができる。
【0003】
GPS(Global Positioning System:全地球位置把握システム)などの衛星による位置把握システムは、最も知られた位置特定方法の一部となっている。これらのシステムは、専用の衛星から送信される無線信号を受信端末で活用することによるものである。GPSによる位置特定は、特に正確だが、このシステムにはいくつかの重大な欠点がある。特に、GPS受信機をオブジェクトに組み入れるには、電子ハードウェアおよび特定のソフトウェアが必要であり、これには問題となるオブジェクトの大幅なコスト増につながるおそれがある。その一方で、そのような受信機の電力消費は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)型で接続したオブジェクトでは禁止されていることが多く、その電力消費は可能な限り低減しなければならない。最後に、建物内部または障害物を介してのGPS信号の透過率は低いため、閉鎖領域または密集領域でのオブジェクトの位置特定にGPSを使用することは不適切になる。
【0004】
端末が接続されているアクセスネットワークの基地局とやりとりした信号から端末を位置特定する他の技術が存在する。例えばGSM(登録商標)(Global System for Mobile Communications:モバイル通信用グローバルシステム)などのセルラーネットワークの場合、公知の方法では、端末の位置は、その端末が現在関連付けられている基地局の位置であると推定する。つまり、端末は一般に、その端末に最も近い基地局と関連付けられているということである。しかしながら、この方法を用いる位置特定の正確さは限られている。なぜなら、基地局のカバレッジエリアの半径は、最大で数キロメートル、さらには数十キロメートルである可能性があるからである。
【0005】
他の方法は、これらのエンティティ間でやりとりされた信号の到着時間(TOA)または到着時間差(TDOA)を計算することによって、端末が複数の基地局から離れている距離を推定して、その端末の位置を三辺測量によって割り出すというものである。類似の方法は、信号の到着角度に基づいている(三角測量として知られている)か、あるいは当然ながら、信号の到着周波数差(FDOA)の計算に基づいている。ただし、後者はドップラー効果に基づいているため、位置を求める対象である端末が観測点に対して移動している必要がある。これらの様々な方法はすべて、特定のハードウェアおよびソフトウェアを必要とするという欠点を抱えている。第二に、これらの方法は、観測点として作用している様々な基地局が費用のかかる同期を必要とすることが多い。その上、これらの方法はいわゆるマルチパス現象を特に受けやすく、この現象は、遭遇する障害物に反射、屈折および回折現象が起こる結果、同じ無線信号が複数の経路で伝播することに該当する。
【0006】
他の位置特定方法は、端末と基地局との間でやりとりされる信号の受信信号強度インジケータ(RSSI)レベルに基づいている。これらの方法は、セルラーネットワーク型(例えばGSM)の無線通信システムに大変適している。というのも、RSSI情報は、通信システム自体に使用されるため、直接利用できるからである。これらの方法は、無線信号が大気中で減衰されるということと、それによって受信機が受信する信号のRSSIレベルが信号受信機と信号送信機とを隔てている距離に応じて変化するということとを利用するものである。そのため、端末の地理的位置は、基地局が測定するRSSIレベルに基づいて、端末とその端末を取り巻いている様々な基地局とを隔てている距離を推定することによる三辺測量によって確定できる。RSSIレベルに基づく三辺測量によるこのような位置特定方法の欠点は、信号の減衰に影響を及ぼす多くのパラメータ(障害物、無線干渉、端末の移動など)があることによって不正確になり、これによってRSSIレベルに基づいて距離を決める機能がきわめて複雑になることである。
【0007】
このような理由から、信号減衰の問題を利点に変えるために、RSSIレベルに基づく新たな位置特定方法が開発されてきた。これらの新たな方法は、三辺測量方法を採り入れていないため、基地局の地理的位置というそれまでの知識を必要としない。しかしながら、これらの方法は、所与の点でのRSSIレベルが時間面で安定しているという仮定に基づいており、対象となる地理的領域内の位置と指紋を関連付ける機械学習法を利用するものである。具体的には、これには、最初の較正段階(「オフライン」学習段階とも称される)で、既知の地理的位置を「無線特性」と関連付けるデータベースを構築することが必要であり、無線特性は、システムの基地局の集合の対象となる位置にある端末に対して測定された一連のRSSIレベルに該当する。次に、探索段階(「オンライン」段階とも称される)で、未知の位置にある端末に対して観測された無線特性をデータベースの一連の特性と比較して、最も近い1つ以上の特性に該当する1つ以上の位置に基づいて端末の位置を推定する。
【0008】
このためにいくつかの機械学習法が使用されてきた。文献名Reliable indoor location prediction using conformal prediction-Khuong An Nguyen,Zhiyuan Luo-Springer Science+Business Media Dordrecht 2013には、例えば、2つの異なる観点から監視した機械学習方法の使用が記載されている。一方では、この文献は、「分類」手法の問題を提示しており、この学習方法は、観測された無線特性を、この観測された特性と最も似ているデータベース内の1つ以上の無線特性と合わせようとする。他方では、この文献は、「回帰」手法の問題を提示しており、この学習方法は、データベースに含まれる情報に基づいて、無線特性に応じて地理的位置を最良に決定する関数を確定しようとする。一方、文献名CellSense:An Accurate Energy-Efficient GSM Position System-Mohamed Ibrahim,Moustafa Youssef-IEEE 2011には、確率的手法を用いるという点がやや異なる分類学習方法が記載されている。対象となる地理的領域はセルに分割され、所与の基地局の特定のRSSIレベルを得る確率は、各セルに対して決定される。したがって、これには、観測された無線特性を含む確率が最大であるセルを確定することが必要である。
【0009】
RSSIレベルに基づくこれらの機械学習法はすべて同じ欠点を有している。第一に、較正段階は、とりわけカバーする地理的領域が広範囲にわたる場合、特に厄介で費用がかかる。この較正段階を実行する公知の方法では、カバーする領域の周辺を走る全車両に機器を搭載する必要があり、前記機器は、様々な地点での通信システムの基地局の地理的位置およびRSSIレベルを正確に提供できるように適応していて、この方法は、「ウォードライビング」として知られている。地点の数が多いほど、位置特定方法の成果は正確さの点でよりよくなるが、較正段階は長くなって費用が高くなる。したがって、カバーする地理的領域が大きく、かつデータベースで計算に入れる基地局の数が多くなるほど、使用する機械学習アルゴリズムの複雑さは増す。このことから、RSSIレベルに基づく公知の位置特定方法がなぜ一般には閉鎖領域(例えば建物の内部)に適用されるのか、あるいは当然ながら限られた地理的領域(例えば数km2を超えない都市領域)に適用されるのかがわかる。最後に、もう1つの主な欠点は、RSSIレベルに基づく公知の位置特定方法で使用される無線特性が、較正段階を実行する時点でネットワークのトポロジに完全に依存しているという点にある。さらに詳細には、このような方法では、qが較正段階を実行する時点での通信システムの基地局の数を表すとすると、無線特性は、ベクトルs=(s1,s2,…,sq)となり、式中siは基地局iのRSSIレベルを表す。よって、無線特性を確定できる基地局の集合
【0010】
【数1】
【0011】
は、事前に決定している確定した集合である。その結果、基地局が一時的に使用不可能な場合(例えばメンテナンス中のとき)、この位置特定方法は適用不可能になる可能性がある。さらに、ネットワークのトポロジに永続的な変更が起きた場合(新たな基地局の展開、既存局の取り外しまたは取り換え)、探索段階を有効にするために新たな較正段階を実行しなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Reliable indoor location prediction using conformal prediction-Khuong An Nguyen,Zhiyuan Luo-Springer Science+Business Media Dordrecht 2013
【文献】CellSense:An Accurate Energy-Efficient GSM Position System-Mohamed Ibrahim,Moustafa Youssef-IEEE 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、先行技術の欠点の全部または一部、特に上記の欠点を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
さらに具体的には、第1の態様によれば、本発明は、無線通信システムの「関心端末」と称される端末を位置特定する方法であって、
-様々な既知の地理的位置にそれぞれが関連付けられている無線特性を確定する工程であって、各々の無線特性が、前記既知の地理的位置の1つにある較正装置と前記無線通信システムの複数の基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す一連の値に該当し、無線特性およびその無線特性に関連するそれぞれの既知の地理的位置が基準データセットを形成する、工程と、
-推定対象の地理的位置にある前記関心端末の無線特性を確定する工程と、
-前記関心端末の無線特性および基準データセットに基づいて前記関心端末の地理的位置を推定する工程と
を含む方法に関する。
【0015】
無線特性を確定することはそれぞれ、
-複数の基地局の各基地局に対して、較正装置または関心端末と対象となる基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す値を測定する工程と、
-一連の測定値からN個の値を選択する工程と、
-N個の選択値、および前記N個の選択値を測定するのに使用したN個の基地局のそれぞれの地理的位置を含む無線特性を形成する工程と
を含む。
【0016】
そのため、求められている地理的位置を推定するのに使用する学習アルゴリズムの複雑さは、無線特性のサイズが限定されているため、軽減される。さらに詳細には、測定用に選択した基地局の数Nは、システムの基地局の総数よりも大幅に少ないことがある。例えば、数百さらには数千の基地局を有するシステムに対してわずか10個の測定値を使用することを考えられる。本位置特定方法は、このように広大な地理的領域に適している。
【0017】
無線信号は、測定用に選択した基地局の地理的位置を含んでいるため、このように限定された無線特性は決定的なものではなくなるという点が埋め合わされる。なぜなら、無線特性の決定に使用した基地局の集合は確定されなくなるからである。つまり、基地局の集合は、無線特性が観測される地理的位置に応じて変化する。さらに、これによって学習方法はアクセスネットワークのトポロジの変化に耐えることが可能になる。さらに詳細には、基地局が追加されても、削除されても、取り換えられても、このように確定した無線特性は適切なまま残り、これは、確定して順番通りになっている事前に決定している基地局の集合に基づいて無線特性が作成される公知の学習方法とは異なる。
【0018】
本発明を実施する特定の方法では、本発明はさらに、以下の特徴を1つ以上含むことができ、この特徴は、単独で、または技術的に可能な任意の組み合わせに従って検討する必要がある。
【0019】
本発明を実施する特定の方法では、N個の選択値は、基地局に対して測定した最良の無線リンクの品質を表すN個の値に該当し、この値は、降順に並べられる可能性がある。
【0020】
本発明を実施する好適な方法では、無線リンクは、無線通信システムの基地局へのアップリンクであり、位置把握システムを備えている無線通信システムの端末は較正装置として作用する。そのためこれらの端末を「較正端末」と称する。地理的位置にある較正端末の無線特性を確定することは、
-較正端末によって、位置把握システムで測定した最新の地理的位置を含むメッセージを複数の基地局に送信する工程と、
-複数の基地局の各基地局によって、前記較正端末と対象となる基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す値を、前記較正端末から受信したメッセージに基づいて測定する工程と、
-基地局に接続されたサーバによって、一連の測定値からN個の値を選択する工程と、
-前記最新の地理的位置にあり、N個の選択値およびN個の選択値を測定するのに使用した基地局の地理的位置を含む較正端末の無線特性を、サーバによって形成する工程と、
-前記メッセージに含まれる地理的位置をサーバによって抽出する工程と
を含む。
【0021】
そのため、通信システムのいくつかの端末が、その地理的位置を把握し、特定のメッセージで地理的位置をアクセスネットワークに送信する能力を有していると仮定することで、較正段階を完全に自動で行うことができる。すなわち、全車両の機器を搭載することからなり、前記機器が地理的位置とそれに関連する無線特性の両方を測定して基準データを取得するのに適している、高価なウォードライビング方法を必要としない。さらに、較正端末は、本位置特定方法に特殊な方法で必ずしも関わるわけではない。さらに詳細には、較正端末によって送られるメッセージは、位置特定方法とは無関係に、すなわち位置特定方法に関わる目的とは別の目的で送信されてよい。そのため、端末の電力消費および製造費は、位置特定方法に影響されない。
【0022】
本発明を実施する特定の方法では、較正端末は、基準データセットを形成するために所定時間にわたって作動する。あるいは基準データセットは、較正端末から送信される新たなデータで常に補強される。
【0023】
本発明を実施する好適な方法では、推定対象の地理的位置にある関心端末の無線特性を確定することは、
-関心端末によって、複数の基地局にメッセージを送信する工程と、
-複数の基地局各基地局によって、前記関心端末と対象となる基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す値を、前記関心端末から受信したメッセージに基づいて測定する工程と、
-基地局に接続されたサーバによって、一連の測定値からN個の値を選択する工程と、
-N個の選択値およびN個の選択値を測定するのに使用した基地局の地理的位置を含む関心端末の無線特性を、サーバによって形成する工程と
を含む。
【0024】
本発明を実施する特定の方法では、関心端末の推定地理的位置およびそれに関連する無線特性は、基準データセットに追加される。
【0025】
本発明を実施する好適な方法では、本発明はさらに、以下の特徴を1つ以上含むことができ、この特徴は、単独で、または技術的に可能な任意の組み合わせに従って検討する必要がある。
-端末または較正装置と基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す値は、前記基地局と前記端末または前記較正装置との間でやりとりされた無線信号に対する受信信号強度インジケータである。
-無線リンクは、超狭帯域の通信チャネルである。
-無線特性を確定する際に選択される値の数Nは、5~20の範囲内にある正の整数である。
-関心端末の地理的位置の推定には、回帰監視学習アルゴリズムを使用する。
【0026】
第2の態様によれば、本発明は、端末と、サーバに接続した複数の基地局を含むアクセスネットワークとを含む無線通信システムに関する。本システムはさらに、基準データセットを保存しているデータベースを含み、各基準データは、既知の地理的位置に関連付けられた無線特性に該当し、各無線特性は、前記既知の地理的位置の1つにある較正装置とN個の基地局との間に存在する無線リンクの品質を表すN個の値、および前記N個の基地局の地理的位置を含む。さらに、アクセスネットワークは、
-各基地局と、位置を推定しようとする「関心端末」と称される端末との間に存在する無線リンクの品質を表す値を測定するように構成され、
-前記関心端末に対する一連の測定値からN個の値を選択するように構成され、
-一連のN個の選択値、およびN個の選択値を測定するのに使用した基地局の地理的位置に該当する無線特性を形成するように構成され、
-前記関心端末の無線特性およびデータベースに保存されている基準データセットに応じて、前記関心端末の地理的位置を推定するように構成される。
【0027】
本発明は、例示目的のみであることを意図し、本発明の範囲を限定することを意図してはいない以下の説明を、図1図6を参照して読むとよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】較正装置を備えている無線通信システムの概略図である。
図2】無線通信システムの端末を位置特定する方法の主な工程を示す図である。
図3】較正装置が位置把握システムを備えた端末である好適な実施形態の概略図である。
図4】位置特定方法を実行する好適な方法の較正段階の主な工程の概略図である。
図5】位置特定方法を実行する好適な方法の探索段階の主な工程の概略図である。
図6】2つの異なるN個の値に対する2つの位置特定誤差分布曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
これらの図では、1つの図または別の図にある同じ符号は、同じまたは同様の要素を指している。明瞭にするため、特に明記していない限り、図示した要素は原寸通りではない。
【0030】
上記のように、本発明は、ある学習方法を用いて無線通信システムのいわゆる「関心端末」を位置特定することを目的とし、この学習方法は、前記端末と前記無線通信システムの基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す情報に基づくものである。
【0031】
図1は、複数の端末70を含む無線通信システム60、およびサーバ82に接続している複数の基地局81を含むアクセスネットワーク80を概略的に示している。このようなシステムでは、通信は一般に双方向となり得る。すなわち、データは、無線ダウンリンクを介してアクセスネットワークから端末に送信するか、無線アップリンクを介して端末からアクセスネットワークに送信することが可能である。さらに、端末とアクセスネットワークの基地局との間に存在する無線リンクの品質の測定は、例えばこれらのエンティティのいずれかによって実行され得る。
【0032】
さらに、最新の地理的位置を、例えばGPS受信機などの位置把握システムを用いて正確に確定するように適応した1つ以上の較正装置71を、無線通信システム60の中に挿入できる。この較正装置はさらに、この較正装置自体と測定対象のアクセスネットワークの基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す値を得られるように構成された手段を有する。上記のように、この測定は、例えば、ダウンリンクを介して、またはアクセスネットワークの基地局によってアップリンクを介して、較正装置自体によって実行され得る。測定がダウンリンクを介して較正装置によって実行される場合、この測定は、例えば、較正装置とは別のシステムの他の端末に対して無線信号上で行うことができる。
【0033】
端末または較正装置と基地局との間に存在する無線リンクの品質を表す値は、サーバ82に送信され、サーバが位置特定方法の特定の工程を実施できるようにする。
【0034】
図2は、無線通信システム60の関心端末70を位置特定するためのこのような方法10の主な段階を示している。
【0035】
第1の較正段階20(「オフライン」学習段階とも称される)は、
-既知の地理的位置にそれぞれが関連付けられている無線特性を確定する工程であって、各々の無線特性が、地理的位置がわかっている較正装置71と、無線通信システム60のアクセスネットワーク80の複数の基地局81との間に存在する無線リンクの品質を表す一連の値に該当する、工程22と、
-基準データセット内に、確定した各々の無線特性および較正装置71に関連付けられた地理的位置を保存する工程24と
を含む。
【0036】
「地理的位置」という用語は、本明細書では、例えば、少なくとも2つの座標の系を意味すると理解し、この座標は、緯度および経度であることが多く、これには第3の座標、すなわち平均海面に対する高度(標高)を任意で追加できる。
【0037】
要約すると、これは、この較正段階20で、対象となる地理的領域の一種の無線地図を作成するということである。
【0038】
次に、探索段階30(「オンライン」学習段階とも称される)は、
-推定する地理的位置に位置している前記関心端末70に対する無線特性を確定する工程32と、
-確定した無線特性および較正段階20で取得した基準データに基づいて、前記関心端末の地理的位置を推定する工程34と
を含む。
【0039】
以下の説明では、例示として非限定的に、超狭帯域無線通信システム60の事例を検討する。「超狭帯域」またはUNBという用語は、本明細書では、端末によって送信された無線周波数信号の瞬間周波数スペクトルの周波数帯域幅が、2キロヘルツ未満、さらには1キロヘルツ未満であることを意味すると理解する。「無線周波数信号」という用語は、本明細書では、有線ではない手段を介して伝播する電磁場を意味すると理解すべきであり、その周波数は、無線周波数波の従来のスペクトルにある(数ヘルツから数百ギガヘルツ)。このようなUNB無線通信システムは、M2M(マシーンツーマシーン)型またはIoT(モノのインターネット)型の用途に特に適している。
【0040】
このような無線通信システム60では、データ交換は本質的に単方向であり、この場合は、アップリンクを介して端末70から前記無線通信システムのアクセスネットワーク80への単方向である。端末から送信されるメッセージを失うリスクを最小限に抑えるために、アクセスネットワークは、所与の地理的領域が複数の基地局81に同時にカバーされ、端末から送信されるメッセージを複数の基地局が受信できるように計画されることが多い。
【0041】
各基地局81は、基地局の範囲内に位置している端末70からメッセージを受信するように適している。そのようにして受信された各メッセージは、例えば、アクセスネットワーク80のサーバ82へ送信されるが、他の情報、例えばそのメッセージを受信した基地局の識別子、メッセージを運ぶ無線信号の品質を表す値、およびメッセージを受信した中心周波数などを添えている可能性がある。サーバ32は、例えば、様々な基地局81から受信したメッセージをすべて処理する。サーバ32は、特に、システムの端末を位置特定する方法10を実施するために使用され得る。
【0042】
図3は、そのようなシステム60の1つの好適な実施形態を概略的に示しており、無線通信システム60の「較正端末」と称される特定の端末72は位置把握システム(例えばGPS受信機)を有し、この位置把握システムにより、端末の地理的位置を正確に取得できる(例えば端末が前記位置把握システムの衛星からの信号を検知できる場所にある場合)。これらの較正端末72は、無線通信システム60でのその正規の機能を実施するほかに、上記の較正装置71として作用する。
【0043】
図4は、無線通信システム60の関心端末70を位置特定する方法10を実施する1つの好適な方法の較正段階20の主な工程を示している。
【0044】
この較正段階では、地理的位置を確定してその位置での無線リンクの品質を表す値を測定するように適した特定の機器を用いてカバーすべき地理的領域の辺りで意図的に作動させるのではなく、その機能を果たすシステムの特定の端末の潜在的可能性を用いることが好ましく(この方が安価で迅速なため)、これが較正端末72の事例である。
【0045】
そのため、較正段階20の工程は、較正端末72によって、最新の地理的位置を含むメッセージを無線通信システム60のアクセスネットワーク80に送信する220ことからなる。このメッセージは、位置特定方法とは無関係に送信されてよいことに注意されたい。例えば、このメッセージは、最新の地理的位置を含んでいて最初から位置特定方法10の較正段階20に加わることを意図してはいない従来の遠隔測定法のメッセージであってよい。
【0046】
このように、前記メッセージを含む信号を受信したアクセスネットワーク80の基地局81は、メッセージが送信された無線リンクの品質の測定221を実施する。本発明を実施する1つの好適な方法では、また、非限定的な例として挙げる以下の説明では、使用する無線リンクの品質を表す値は、平均的な受信信号強度インジケータ(RSSI)であり、例えばデシベルで表記され、前記メッセージを運ぶ信号に対する基地局によって受信される。例えば端末が遠く離れすぎていて基地局の無線カバレッジ内に位置していないなどの理由でメッセージを受信しなかった基地局に対しては、例えば-160 dBのデフォルト値が使用される。
【0047】
無線リンクの品質を表す他の値、例えば信号減衰、信号雑音比(SNR)、またはチャネル品質インジケータ(CQI)などを使用してもよいことに注意されたい。
【0048】
様々な基地局81で測定されたRSSIレベルはサーバ82に送信され、それによってサーバは対象となる地理的位置で観測された無線特性を決定できる。
【0049】
無線特性を決定する先行技術の公知の方法は、無線通信システムの事前に決定している確定した基地局の集合に対してRSSIレベルのそれぞれの値を検討することを必要とし、無線通信システムの無線カバレッジは、対象となる地理的領域とのゼロではない交点を有する。位置特定方法が一国全体をカバーするか、さらには広域ネットワーク(WAN)の場合であり得るように数ヵ国の集まりをカバーするよう意図されている場合、数百さらには数千の基地局を検討する必要がある可能性があり、機械学習アルゴリズムの複雑さは跳ね上がるおそれがある。
【0050】
逆に、今説明した本発明を実施する方法で決定する無線特性は、測定したRSSIレベルからN個の値のみを選択する工程222を介してこの複雑さを低減する。
【0051】
本発明を実施する1つの好適な方法では、また、非限定的な例として挙げる以下の説明では、N個の選択値は、無線通信システムの基地局で測定された最良のRSSIレベルを表すN個の値に該当する。ただし、他の選択方法を検討してもよいことに注意されたい。例えば、選択は、最も直近に測定した値を優先することがあるか、あるいは関連性の基準に従って行われることがあり、その意図は、最も識別できる値を用いてモデルを構築することである。別の例では、N個の選択値は、降順に並べられてよい。
【0052】
ただし、無線特性の要素数をこのように限定することで、無線特性の構造が決定的にならなくなる。なぜなら、無線特性を決定するのに使用される基地局の集合が確定されなくなるからである。つまり、基地局の集合は、無線特性が観測される地理的位置に応じて変化するため、2つの異なる地理的位置に対して2つの無線特性が確定した場合は必ずしも同じではなくなる。さらに、2つの無線特性は必ずしも同じ基地局から得られた測定から作成されてはいないため、1つの無線特性を別の無線特性と直接比較できない。この決定性の損失を克服するためには、追加情報を加えなければならない。このような理由から、無線特性を形成する工程223では、N個の選択値を測定するのに使用されるN個の基地局の地理的位置は、N個の選択値に加えて無線特性にも含まれる。無線通信システム60のアクセスネットワーク80の各基地局81の地理的位置は、例えばアクセスネットワークの展開段階で、かつ新たな基地局が追加されるか移動するたびに、サーバ82に送信されることが可能である。
【0053】
このように、無線特性は、事前に決まっていない基地局の集合に対して実行された一連の測定によって有利に決定され、各々の測定は、その測定に使用された基地局の地理的位置と関連付けられる。その結果、アクセスネットワークのトポロジが変化したとしても、例えば無線特性の測定に使用された基地局が削除されても、あるいは新たな基地局が追加されても、無線特性は、対象となる地理的位置にある「可能性のある」基地局に対して測定されるRSSIレベルを常に表しているため、関連性が残ることになる。
【0054】
非限定的な例として、基地局の地理的位置がその基地局の緯度および経度によって決定されることを検討すると、所与の地理的位置で観測された無線特性を3.N次元のベクトルS:
S=(RSSI1,Lat1,Lng1,RSSI2,Lat2,Lng2,...,RSSIN,LatN,LngN)[1]
で表すことができる。この式で、
【0055】
【数2】
【0056】
である場合、
-RSSIiは、基地局によって測定されたN個の最高のRSSIレベルの集合にあるi番目の値であり、
-Latiは、RSSIiと測定された基地局の緯度であり、
-Lngiは、RSSIiと測定された基地局の経度である。
【0057】
無線特性にある緯度および経度のパラメータの順序は、必ずしも重要ではないことに注意されたい。例えば、特性は、以下のベクトルS1:
S1=(RSSI1,RSSI2,...,RSSIN,Lat1,Lng1,Lat2,Lng2,...,LatN,LngN)[2]
またはベクトルS2:
S2=(RSSI1,RSSI2,...,RSSIN,Lat1,Lat2,...,LatN,Lng1,Lng2,...,LngN)[3]
で表すこともできる。
【0058】
本発明を実施する1つの好適な方法では、メッセージを受信した基地局がN個未満であれば、無線特性に含まれる-160dBのRSSI値に関連付けられている緯度および経度は、ゼロの任意値に設定される。本発明を実施する他の方法では、メッセージを受信した基地局の最も近くにある基地局の地理的位置を使用できる。この選択は、使用する機械学習アルゴリズムに応じて、多かれ少なかれ重要な効果を有し得る。
【0059】
サーバ82は、較正端末72によって送信されたメッセージに含まれる地理的位置に関する情報も抽出する224(このメッセージは、メッセージを受信した基地局81によってあらかじめサーバ82に送信されていたことに留意されたい)。
【0060】
最後に、最終工程では、較正端末72の地理的位置と関連する無線特性とで形成される情報のペアは、較正段階で取得された一連の基準データに追加される。例えば、この工程は、地理的位置と関連する無線特性とで形成される情報のペアを、サーバ82に保存されているデータベースに保存する24ことからなる。
【0061】
本発明を実施する特定の方法では、上記の較正段階20の工程は、大量の情報、すなわちカバーする領域の正確な地図を含んでいる基準データセットを得るために、所定期間、例えば数日間、さらには数週間または数ヵ月にわたって、無線通信システム60の較正端末72に対して繰り返される。他の例では、較正段階20の工程は、所定量の基準データが得られるまで繰り返されてよい。
【0062】
本発明を実施する好適な方法では、基準データセットは、較正端末から送信される新たなデータで常に補強される。そのため、アクセスネットワークのトポロジが変化した場合(例えば基地局が削除されたり、新たな基地局が展開されたりした場合)、基準データセットは、モデルをより現実に似せて近づけてそれによって探索段階で行われた推定の正確さを上げる新たな情報で更新される。
【0063】
較正端末72は、移動型であってよいため、様々な地理的位置に対応する基準データを提供できることに注意されたい。
【0064】
本発明を実施する方法の他の例によれば、較正端末72の最新の地理的位置に関する情報は、前記較正端末の無線特性を決定するためにRSSI測定が実行された際の通信システムとは別の通信システムによって送信されてよいことにも注意されたい。例えば、較正端末72の最新の地理的位置は、GSM、UMTSまたはLTE型の移動型電話ネットワークを介してサーバ82に送信でき、RSSI測定を実行さする対象のメッセージは、我々の例ではUNB無線通信システム60のアクセスネットワーク80に送信される。較正端末72に対して確定した無線特性を最新の地理的位置と関連付けるのを容易にするため、サーバ82では、最新の地理的位置に関する情報を運ぶメッセージおよびUNB無線通信システムに送信されるメッセージには、例えばタイプスタンプを付けることができる。
【0065】
図5は、無線通信システム60の関心端末70を位置特定する方法10を実施する1つの好適な方法の探索段階30の主な工程を示している。
【0066】
この探索段階30は、関心端末70によってメッセージを無線通信システム60のアクセスネットワーク80に送信する320ことから始まる。このメッセージは、端末を位置特定する方法とは無関係に送信されるものであればどのようなメッセージでもよい。例えば、このメッセージは、端末の位置特定とは関係ない遠隔測定法を目的として送信され得る。あるいは、このメッセージは、端末を位置特定することを目的に意図的に送信され得る。いずれの場合でも、メッセージの内容は、探索段階30では必ずしも重要ではない。
【0067】
較正段階20で行われることと同様に、前記メッセージを受信したアクセスネットワーク80の基地局81は、メッセージを運ぶ信号のRSSIレベルを測定する321。
【0068】
様々な基地局によって測定されたRSSIレベルは、サーバ82へと送信され、そこでサーバは、探索した地理的位置で観測された無線特性を決定できる。探索段階30での無線特性の決定は、例えば較正段階20の場合と同じ方法で、つまり、測定した最高値のRSSIレベルに該当するN個の値を選択する工程322、およびN個の選択値に加えて、N個の選択値を測定するのに使用したN個の基地局の地理的位置を含む無線特性を形成する工程323によって実行される。本発明を実施する今説明している好適な方法では、観測された無線特性は、式[1]のベクトルSと同じ構造を有する。
【0069】
送信されたメッセージを有する端末70の地理的位置の推定34はこのように、較正段階20で取得した基準データセットに基づくとともに、地理的位置を推定する必要がある関心端末に対して確定した無線特性にも基づいて実行される。
【0070】
本発明を実施する好適な方法では、ランダムフォレスト技術に基づく回帰機械学習アルゴリズムを用いて、基準データセットに対応するモデルに基づいて、無線特性から地理的位置を最もよく予測する機能を推定する。他の機械学習技術(例えばニュートラルネットワークアルゴリズム、多項式または線形回帰アルゴリズム、またはリッジ回帰アルゴリズムなど)を使用してもよいが、これらの技術は本発明を実施する代替方法となるにすぎないことに注意されたい。
【0071】
換言すれば、Mが基準データの総数、すなわち較正段階で取得した、ペア(Pj,Sj)、
【0072】
【数3】
【0073】
の数であり、式中Pjが較正装置71の既知の地理的位置で、Sjが関連づけられた無線特性であり、
j=(RSSIj,1,Latj,1,Lngj,1,...,RSSIj,k,Latj,k,Lngj,k,...,RSSIj,N,Latj,N,Lngj,N
j=(Latj,Lngj
である場合、回帰アルゴリズムは、以下のように定義される一連の行列方程式を最もよく満たす推定関数fを提供する。
【0074】
【数4】
【0075】
これらの式で、
【0076】
【数5】
【0077】
である場合、
-RSSIj,kは、地理的位置Pjにある端末に対して基地局によって測定されたN個の最高のRSSIレベルの集合にあるk番目の値であり、
-Latj,kは、RSSIj,kと測定された基地局の緯度であり、
-Lngj,kは、RSSIj,kと測定された基地局の経度であり、
-Latjは、地理的位置Pjの緯度であり、
-Lngjは、地理的位置Pjの経度である。
【0078】
このように、探索した地理的位置PRにある関心端末に対して観測された無線特性SRに基づいて、PRはPR=f(SR)であると推定できる。
【0079】
本発明を実施する特定の方法では、端末の地理的位置PRが探索段階30でその端末と関連する無線特性SRに基づいて推定される場合、ペア(PR,SR)は基準データセットに追加される。そのため、基準データセットは、新たなデータで常に補強され、モデルがさらに包括的になり、それによって次の予測がさらに正確になる。
【0080】
上記の本発明を実施する好適な実施形態および方法に対してシミュレーションを実施した。このシミュレーションは、複雑さの軽減および位置特定の正確さの点で性能の向上が際立っている。
【0081】
複雑さの軽減に関して、これらのシミュレーションは、端末の地理的位置を推定する工程34に必要な計算時間が、無線特性を確定する工程22および32の工程222および322で選択された値の数Nに応じてほぼ線形的に変化することをさらに詳細に示している。換言すると、選択値の数が100で割られると、計算時間も実質的に100で割られる。
【0082】
位置特定の正確さに関して、シミュレーションは、この正確さがNとともにN=10まで有意に増加し、10以降は改良点が微々たるものになることを示している。そのため、値N=10は、複雑さと正確さとの最良の折り合い点を得る値である。Nの値が大きくなると(例えば数百を超えると)、位置特定の正確さは低下する。
【0083】
さらに詳細には、図6は、2つの位置特定誤差分布曲線を示し、1つの曲線91は値N=1,000に該当し、1つの曲線92は値N=10に該当する。この結果は、N=1,000の場合、位置特定誤差は90%の事例で5キロメートル未満であるのに対し、N=10の場合、位置特定誤差は90%の事例で3.5キロメートル未満であることを示している。
【0084】
位置特定の正確さが約1キロメートルというのは、例えば1つ以上の国に及ぶ商品追跡など、検討する通信システムにつながっている多数のアプリケーションに完全に許容されるものである。
【0085】
上記の本発明を実施する実施形態および方法は、先行技術の説明で述べた問題を克服し、さらには追加の利点を得るものである。
【0086】
特に、選択値の数Nを限定することで、記載した位置特定方法は、きわめて広大な地理的領域、すなわち一国全体、さらには数ヵ国をカバーするのに適していると同時に、標的のアプリケーショに対する複雑さ(計算時間)および位置特定の正確さの点で完全に満足のいく性能レベルを維持している。
【0087】
さらに、無線特性を決定するために事前に決定している確定した基地局の集合を使用する必要がなくなることで、また、N個の選択値に対応する基地局の地理的位置を無線特性に追加することで、本位置特定方法は、基地局が削除されたり追加されたりしても無線特性の関連性が残るため、特にアクセスネットワークトポロジへの変化に耐えることが可能である。
【0088】
さらに、このような位置特定方法を例として記載したようにして無線通信システム内に設定することは、特に安価である。さらに詳細には、通信システムに位置把握システムを備えている端末があることにより、端末または基地局に追加で特定のハードウェアを備える必要がなく、較正段階を完全に自動化することが可能になり、アクセスネットワークの更新(基地局の追加または削除)にはほとんど影響を及ぼさない。
【0089】
最後に、記載した好適な実施形態では、本位置特定方法は、無線通信システムの端末または基地局の電力消費にまったく影響を与えないことに注意することが重要である。なぜなら、端末または基地局によって実行され位置特定方法で用いられる工程は、通信システムの動作での普通の工程であり、必ずしも本位置特定方法を実施するのに寄与するために行われるわけではないからである。
【0090】
本発明を実施する実施形態および方法は、非限定的な例として記載したものであり、代替の実施形態が可能である。
【0091】
特に、本発明は、IoT型のアプリケーションに適している超狭帯域の無線ラジオ通信システムについて説明したものだが、これは、本発明による位置特定方法を他の種類の通信システム、例えばGSM、UMTS、LTE、またはWi-Fiセルラーネットワークなどに対して実施することを妨げるものではない。
【0092】
無線特性を形成するために使用する無線リンクの品質レベルを表す測定は、無線アップリンクを介して基地局で実行できるが、無線ダウンリンクを介して端末でも実行できる。測定値は、例えばサーバに送信され、それからサーバが本位置特定方法の工程を実行する。他の例によれば、無線リンクの品質レベルを表す測定は、端末または基地局から受信する情報に基づいてサーバ自体で実行してよい。
【0093】
上記のように、無線リンクの品質を表す値は、RSSIレベルとは異なっていてよい。これは、例えば、信号減衰レベル、信号対雑音比、または別の無線チャネルの品質インジケータであってよい。ただし、この値は、所与の地理的位置で対象となるシステムに対して時間的に安定しているとみなされる。
【0094】
様々な機械学習アルゴリズムを使用して端末の地理的位置をその無線特性および基準データセットに基づいて推定できる。これらのアルゴリズムの1つまたは別の1つを使用することは、本発明を実施する代替の方法となるにすぎない。
【0095】
最後に、最適な方法で無線特性を確定するために選択された選択方法および測定数Nは、対象となる通信システムに応じて変化し得る。したがって、本明細書で使用した該当例を限定的に捉えてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6