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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20220721BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
B60C11/13 A
B60C11/03 100C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019559628
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2018045346
(87)【国際公開番号】W WO2019117090
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2017239024
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】冨田 達也
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-509213(JP,A)
【文献】特表2013-539735(JP,A)
【文献】特開2017-185889(JP,A)
【文献】特開2013-126842(JP,A)
【文献】特開2015-214303(JP,A)
【文献】特開2013-86683(JP,A)
【文献】特開2010-280266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド踏面に、タイヤ周方向に連続して延びる周方向主溝によって少なくともタイヤ幅方向一方側が区画された、複数の陸部を有し、該陸部に、該陸部内で終端する副溝と、前記副溝と前記周方向主溝とを連通する少なくとも1本の枝溝と、を含む共鳴器を備える、タイヤであって、
前記副溝の少なくとも一部に、トレッド踏面における開口幅が溝底の溝幅よりも小さくされた、隠れ溝部が設けられており、
前記副溝が、前記隠れ溝部と、該隠れ溝部を除いた顕れ溝部とから構成されていること、を特徴とするタイヤ。
【請求項2】
トレッド踏面に、タイヤ周方向に連続して延びる周方向主溝によって少なくともタイヤ幅方向一方側が区画された、複数の陸部を有し、該陸部に、該陸部内で終端する副溝と、前記副溝と前記周方向主溝とを連通する少なくとも1本の枝溝と、を含む共鳴器を備える、タイヤであって、
前記副溝の少なくとも一部に、トレッド踏面における開口幅が溝底の溝幅よりも小さくされた、隠れ溝部が設けられており、
前記副溝の少なくとも延在方向中央部分に、当該副溝における溝深さが最大となる溝最深部を有すること、を特徴とするタイヤ。
【請求項3】
トレッド踏面に、タイヤ周方向に連続して延びる周方向主溝によって少なくともタイヤ幅方向一方側が区画された、複数の陸部を有し、該陸部に、該陸部内で終端する副溝と、前記副溝と前記周方向主溝とを連通する少なくとも1本の枝溝と、を含む共鳴器を備える、タイヤであって、
前記副溝の少なくとも一部に、トレッド踏面における開口幅が溝底の溝幅よりも小さくされた、隠れ溝部が設けられており、
前記トレッド踏面の展開視で、前記副溝の延在長さに対する、前記隠れ溝部の延在長さの比が、0.15以上0.75以下であること、を特徴とするタイヤ。
【請求項4】
前記隠れ溝部が、前記副溝のタイヤ周方向一方側の端部にのみ設けられている、請求項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記枝溝が、前記副溝のタイヤ周方向一方側の端部に隣接して設けられている、請求項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記顕れ溝部の、前記トレッド踏面における開口幅が、該顕れ溝部のタイヤ周方向一方端から当該顕れ溝部の最大幅位置に向けて漸増し、該最大幅位置から該顕れ溝部のタイヤ周方向他方端に向けて漸減する、請求項またはに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいては、車両走行時の騒音を低減し、静粛性を高めることが要求されている。これに対し、気室部と狭窄ネック部とからなる共鳴器(いわゆる、ヘルムホルツ共鳴器)によって、タイヤのトレッド踏面に設けた周方向主溝から生じる気柱共鳴音(一般的な乗用車では、800~1200Hz程度に観測されることが多い)などの車外騒音を低減させたタイヤが各種提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-171835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、トレッドの陸部にヘルムホルツ共鳴器を設けると、陸部の剛性分布が不均一になる傾向にあり、トレッドに偏摩耗が生じ易い。そのため、気柱共鳴音を低減しつつも、トレッドの偏摩耗を抑制することが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、気柱共鳴音を低減しつつも、トレッドにおける偏摩耗を抑制可能なタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のタイヤは、トレッド踏面に、タイヤ周方向に連続して延びる周方向主溝によって少なくともタイヤ幅方向一方側が区画された、複数の陸部を有し、該陸部に、該陸部内で終端する副溝と、前記副溝と前記周方向主溝とを連通する少なくとも1本の枝溝と、を含む共鳴器を備える、タイヤであって、前記副溝の少なくとも一部に、トレッド踏面における開口幅が溝底の溝幅よりも小さくされた、隠れ溝部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
ここで、本明細書において、「トレッド踏面」とは、リムに組み付けるとともに所定の内圧を充填したタイヤを、最大負荷荷重を負荷した状態で転動させた際に路面と接触することになる、タイヤの全周に亘る外周面を意味し、「トレッド接地端」とは、トレッド踏面のタイヤ幅方向端を意味する。
【0008】
また、本明細書において、「開口幅」および「溝幅」等は、下記基準状態において、溝の延在方向に直交する方向に沿って測った幅をいうものとする。以下、特に断りのない限り、溝等の各要素の寸法等は、基準状態で測定されるものとする。
【0009】
また、本明細書において、「基準状態」とは、タイヤをリムに組み付け、所定の内圧を充填し、無負荷とした状態を指す。
【0010】
なお、上記の「リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO (The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA (The Tire and Rim Association, Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指す(すなわち、上記の「リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含む。「将来的に記載されるサイズ」の例としては、ETRTOのSTANDARDS MANUAL 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズを挙げることができる。)が、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。また、「所定の内圧」とは、上記のJATMA YEAR BOOK等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいい、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、「所定の内圧」は、タイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。さらに、「最大負荷荷重」とは、上記最大負荷能力に対応する荷重をいうものとする。なお、ここでいう空気は、窒素ガス等の不活性ガスその他に置換することも可能である。
【0011】
なお、本明細書において、上記「副溝の少なくとも延在方向中央部分」とは、副溝の端部を除く部分をいう。
【0012】
なお、本発明において、上記「延在長さ」とは、副溝の開口中心に引いた直線または曲線の長さをいうものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、気柱共鳴音を低減しつつも、トレッドにおける偏摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤのトレッド踏面の部分展開図である。
図2図1に示すトレッド踏面の部分拡大図である。
図3図2に示すa-a線に沿う断面図である。
図4図2に示すb-b線に沿う断面図である。
図5図2に示すc-c線に沿う断面図である。
図6図2に示すd-d線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しながら、本発明に係るタイヤの実施形態を例示説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ1の、トレッド踏面2を示す部分展開図である。この実施形態のタイヤ1は、図示を一部省略するが、ビード部間にトロイダル状に延びるラジアル構造を有するカーカスと、トレッド部のカーカスのタイヤ径方向外側に配設されるベルトと、ベルトのタイヤ径方向外側に配設されてトレッド踏面2を形成するトレッドゴムと、を備えている。
【0016】
このタイヤ1は、図1に示すように、トレッド踏面2に、タイヤ周方向に連続して延びる(本実施形態では4本の)周方向主溝3によって少なくともタイヤ幅方向一方側が区画された、複数(本実施形態では5つ)の陸部4が区画されている。より具体的には、トレッド踏面2に、タイヤ赤道面CLを挟んで隣り合う2本の周方向主溝31a,31bによって区画された中央陸部41と、タイヤ赤道面CLの一方側のタイヤ半部HA(図1では、紙面左側)に延びる2本の周方向主溝31a,32aによって区画された中間陸部42aと、該タイヤ半部HAの接地端TE及び該接地端TE側の周方向主溝32aによって区画されたショルダー陸部43aと、タイヤ赤道面CLの他方側のタイヤ半部HB(図1では、紙面右側)に延びる2本の周方向主溝31b,32bによって区画された中間陸部42bと、該タイヤ半部HBの接地端TE及び該接地端TE側の周方向主溝32bによって区画されたショルダー陸部43bと、が形成されている。
【0017】
なお、このタイヤ1における周方向主溝31a,31b,32a,32bは、いずれもタイヤ周方向に沿って直線状に連続して延びているが、他の例において周方向主溝3は、ジグザグ状または波状等の延在形態とすることができる。また、この例における陸部41,42a,42b,43a,43bは、いずれもタイヤ周方向に連続して延びるリブ状の陸部であるが、他の例において陸部4は、ブロック陸部等とすることができる。
【0018】
このタイヤ1では、陸部4に、該陸部4内で終端する副溝51と、副溝51と周方向主溝3とを連通する少なくとも1本(本実施形態では2本)の枝溝52と、を含む共鳴器(図示例では、ヘルムホルツ型の共鳴器)5が形成されている。
【0019】
より具体的には、本実施形態の共鳴器5は、一方側のタイヤ半部HAの中間陸部42aに形成されており、該中間陸部42a内で終端する副溝51と、副溝51とタイヤ接地端TE側の周方向主溝32aとを連通する第1枝溝52aと、副溝51とタイヤ赤道面CL側の周方向主溝31aとを連通する第2枝溝52bと、を含んでいる。ただし、本発明のタイヤでは、共鳴器が、第1枝溝または第2枝溝のいずれか一方の枝溝のみを含む構成とすることもできる。すなわち、共鳴器が、陸部を区画するタイヤ幅方向一方側の周方向主溝にのみ連通する構成とすることもできる。また、本発明のタイヤでは、共鳴器が、3本、4本、またはそれ以上の枝溝を含む構成とすることもできる。
【0020】
この共鳴器5において、副溝51は、タイヤ周方向に延びている。すなわち、副溝51は、タイヤ幅方向長さよりもタイヤ周方向長さが大きい形状を有している。
【0021】
さらに、この共鳴器5では、第1枝溝52aが、副溝51のタイヤ周方向一方側の端部(図1では、紙面上側)51Eaに隣接して設けられ、第2枝溝52bが、副溝51のタイヤ周方向他方側の端部(図1では、紙面下側)51Ebに隣接して設けられている。すなわち、この例では、第1枝溝52aの一方端が、タイヤ半部HAの接地端TE側の周方向主溝32aに開口し、第1枝溝52aの他方端が、副溝51のタイヤ周方向一方側の端部51Eaに開口している。また、同様に、第2枝溝52bの一方端が、タイヤ半部HAのタイヤ赤道面CL側の周方向主溝31aに開口し、第2枝溝52bの他方端が、副溝51のタイヤ周方向他方側の端部51Ebに開口している。ただし、本発明のタイヤでは、枝溝52が、副溝51のタイヤ周方向端部以外の部分、例えば、副溝1のタイヤ周方向中央部分に隣接して設けられていてもよい。
【0022】
また、この共鳴器5では、副溝51の溝容積が、該副溝51に接続する第1枝溝52aおよび第2枝溝52bのいずれの溝容積よりも大きい。また、副溝51のトレッド踏面2への開口面積が、該副溝51に接続する第1枝溝52aおよび第2枝溝52bのいずれのトレッド踏面2への開口面積よりも大きい。
【0023】
また、図2は、図1に示すトレッド踏面2の部分拡大図であり、共鳴器5および共鳴器5の周辺部分を拡大して示している。この共鳴器5では、副溝51の少なくとも一部に、トレッド踏面2における開口幅が溝底の溝幅よりも小さくされた、隠れ溝部51Hが設けられており、図中、当該隠れ溝部51Hの溝壁を破線で示している。この実施形態では、隠れ溝部51Hが、副溝51のタイヤ周方向一方側の端部51Eaにのみ設けられている。この隠れ溝部51Hは、副溝51のタイヤ周方向一方側の端部51Eaから該副溝51の延在方向に沿って、該副溝51の延在長さに対して所定の割合を有する部分に延在している。
【0024】
このように、本実施形態のタイヤ1における副溝51は、隠れ溝部51Hと、該隠れ溝部51Hを除いた顕れ溝部51Gと、から構成されている。
【0025】
なお、本発明のタイヤでは、隠れ溝部を副溝の全体に設けることもできる。すなわち、副溝を、隠れ溝部のみから構成することもできる。また、本発明のタイヤでは、隠れ溝部を副溝のタイヤ周方向両側の端部に設けてもよい。以下に、本実施形態のタイヤ1における、副溝51の隠れ溝部51Hおよび顕れ溝部51Gについて詳述する。
【0026】
図3~5は、副溝51の断面図である。すなわち、図3は、図2のa-a線に沿う断面図であり、図4は、図2のb-b線に沿う断面図であり、図5は、図2のc-c線に沿う断面図である。より具体的には、図2は、副溝51の顕れ溝部51Gの、該副溝51の延在方向に直交する面の断面図であり、図4,5は、副溝51の隠れ溝部51Hの、該副溝51の延在方向に直交する面の断面図である。
【0027】
図3に示すように、副溝51の顕れ溝部51Gでは、トレッド踏面2における開口幅W51が、溝深さD51よりも小さく、溝底51Bにおける溝幅W51Bよりも大きいか、または等しい。
【0028】
また、図4,5に示すように、副溝51の隠れ溝部51Hでは、トレッド踏面2における開口幅W51Hが、溝深さD51Hよりも小さく、溝底51HBにおける溝幅W51HBよりも小さい。
【0029】
また、隠れ溝部51Hのトレッド踏面2における開口幅W51Hは、顕れ溝部51Gのトレッド踏面2における開口幅W51よりも小さい。さらに、隠れ溝部51Hの溝深さD51Hは、顕れ溝部51G側で第1枝溝52a側よりも小さくなっている。
【0030】
なお、この共鳴器5における隠れ溝部51Hは、図4,5に示すように、副溝51の延在方向に直交する面の断面視で、トレッド踏面2側から順に、該トレッド踏面2における開口幅W51Hと同様の溝幅がタイヤ径方向内側(溝深さ方向)方向に維持された、開口側部51Haと、該開口幅W51Hよりも広幅の溝幅が溝深さ方向に連続する、溝底側部51Hbと、から構成されている。
【0031】
この共鳴器5では、隠れ溝部51Hの開口側部51Haの溝幅は一定である一方で、隠れ溝部51Hの溝底側部51Hbの溝幅は、トレッド踏面2側から溝底51HB側に向かって溝底側部51Hbの中間付近までの間で漸増した後、該溝底側部51Hbの中間付近から溝底51HBまでの間では漸減しているか、または一定に維持されている。すなわち、この例における溝底側部51Hbは、副溝51の延在方向に直交する面の断面視で、変形六角形状である。
【0032】
ただし、本発明の共鳴器において、隠れ溝部51Hの溝底側部51Hbは、当該断面視で、トレッド踏面2側から溝底51HB側に向かって、溝幅が漸増および漸減する形状(例えば、円形、楕円形または菱形)、トレッド踏面2側から溝底51HB側に向かって、溝幅が一定である形状(例えば、四角形状)、または、トレッド面2から溝底51Hb側に向かって、溝幅が常に漸増する形状(例えば、三角形状または半円状)等とすることもできる。
【0033】
また、本発明の共鳴器において、隠れ溝部51Hは、開口側部51Haを有しない構成であってもよい。すなわち、隠れ溝部51Hは、溝幅がトレッド踏面2側から溝底51HB側に向かって漸増することにより、トレッド踏面2における開口幅W51Hが、溝底51HB側の溝幅W51HBよりも小さくなる構成であってもよい。
【0034】
また、図6は、図2のd-d線に沿う断面図である。ここでは、副溝51の開口中心に沿う面の断面を展開して図示している。副溝51は、該副溝51の少なくとも延在方向中央部分に、当該副溝51における溝深さが最大となる溝最深部51Dpを有している。
【0035】
この共鳴器5では、溝最深部51Dpが、副溝51の顕れ溝部51Gのタイヤ周方向一方側(副溝51の隠れ溝部51H側)の端部51Gaに隣接して設けられており、副溝51の溝深さD51が、溝最深部51Dpにて局所的に深くなっている。さらに、この共鳴器5では、副溝51の顕れ溝部51Gにおける溝深さD51が、該溝最深部51Dpから該顕れ溝部51Gのタイヤ周方向他方側(第2枝溝52b側)の端部51Gb側に向かって漸増している。なお、この共鳴器5では、溝最深部51Dpが、局所的に大きな溝深さを有しているが、本発明のタイヤでは、副溝のタイヤ周方向一方側の端部および他方側の端部から該副溝の延在方向中央部分に向かって、該副溝の溝深さが漸増することにより、溝最深部を有する構成とすることもできる。この場合、副溝51の平均深さの2倍を超える溝深さを有する部分を、溝最深部とする。
【0036】
また、この共鳴器5では、溝最深部51Dpが副溝51の顕れ溝部51Gの溝底に設けられているが、他の例では、溝最深部51Dpを副溝51の隠れ溝部51Hの溝底に設けることや、顕れ溝部51Gおよび隠れ溝部51Hの双方の溝底に設けることもできる。
【0037】
また、この共鳴器5では、図2に示すように、副溝51の顕れ溝部51Gのトレッド踏面2における開口幅W51が、該顕れ溝部51Gのタイヤ周方向一方端51Gaから当該顕れ溝部51Gの最大幅位置に向けて漸増し、該最大幅位置から該顕れ溝部51Gのタイヤ周方向他方端51Gbに向けて漸減している。
【0038】
ただし、本発明の共鳴器では、トレッド踏面2の展開視で、顕れ溝部51Gを、該顕れ溝部51Gのトレッド踏面2における開口幅が、当該顕れ溝部51Gの延在長さに亘って一定である形状とすることや、当該顕れ溝部51Gの一方端から他方端に向かって漸増もしくは漸減する形状、一定のピッチで増減を繰り返す形状、または、不規則に増減する形状等とすることができる。
【0039】
続いて、この実施形態に係るタイヤ1による作用・効果を説明する。
このタイヤ1では、上述のように、陸部4(本実施形態では、中間陸部42a)に、該陸部42a内で終端する副溝51と、副溝51と周方向主溝3とを連通する少なくとも1本の枝溝(本実施形態では、副溝51と周方向主溝32aとを連通する第1枝溝52aと、副溝51と周方向主溝31aとを連通する第2枝溝52bと、の2本の枝溝)52と、を含む共鳴器5が形成されているため、周方向主溝31a,32aで生じる気柱共鳴音を、該共鳴器5によって低減することができる。
【0040】
さらに、このタイヤ1では、副溝51の少なくとも一部に、トレッド踏面2における開口幅が溝底の溝幅よりも小さくされた、隠れ溝部51Hが設けられている。隠れ溝部51Hでは、トレッド踏面2における開口幅W51Hが、溝底51HBの溝幅W51HBよりも小さくされているため、トレッド踏面2に共鳴器5を設けたことによる陸部剛性の過剰な低下を抑制し、もってトレッドにおける偏摩耗を抑制することができる。
【0041】
また、この構成を有する共鳴器5では、隠れ溝部51Hの溝底51HB側では、気室容積を十分に確保できるため、共鳴器5の周波数帯域を気柱共鳴音の低減に有効範囲内に維持しつつ、トレッドにおける偏摩耗を抑制することができる。さらにまた、この共鳴器5を備えるタイヤ1では、該共鳴器5が形成された陸部4(本実施形態では、中間陸部4a)の剛性が低減し難いため、旋回時の操縦安定性を向上させることができる。
【0042】
また、このタイヤ1では、隠れ溝部51Hに、トレッド踏面2における開口幅W51Hと同様の溝幅がタイヤ径方向内側(溝深さ方向)方向に維持された、開口側部51Haが設けられているため、共鳴器5周辺のトレッドにおける偏摩耗をより確実に抑制することができる。
【0043】
また、このタイヤ1では、副溝51が、隠れ溝部51Hと、該隠れ溝部51Hを除いた顕れ溝部51Gとから構成されている。この構成によれば、副溝51が隠れ溝部51Hのみから構成される場合に比し、副溝1の溝容積が比較的大きく確保されるため、タイヤ1の排水性を向上させることができる。さらに、トレッド踏面2における副溝51の開口面積が比較的大きく確保されるため、タイヤ1の耐石噛み性等を向上させることができる。
【0044】
なお、本発明のタイヤでは、副溝51を、隠れ溝部51Hのみにより構成することもでき、この場合、共鳴器5を設けた陸部の剛性がより低下し難くなるため、トレッドにおける偏摩耗をさらに確実に抑制することができる。
【0045】
また、このタイヤ1では、隠れ溝部51Hが、副溝51のタイヤ周方向一方側の端部51Eaにのみ設けられている。この構成によれば、タイヤの負荷転動時に、隠れ溝部51Hがポンプとして作用し(すなわち、タイヤの負荷転動時に、隠れ溝部51Hの溝壁が倒れ込み、副溝1内の空気や水を押出す)、副溝51内に入り込んだ水が効率的に排水されるため、タイヤ1の排水性を向上させることができる。
【0046】
また、このタイヤ1では、隠れ溝部51Hが、副溝51のタイヤ周方向一方側の端部51Eaにのみ設けられ、かつ枝溝52(本実施形態では、第1枝溝52a)が、該副溝51のタイヤ周方向一方側の端部51Eaに隣接して設けられている。この構成では、隠れ溝部51のタイヤ周方向の両側がトレッド踏面2に開口することになるため、該隠れ溝部51の溝壁がより適度に倒れ込み易くなる。そのため、隠れ溝部51における上述のポンプ効果をより好適に得て、タイヤ1の排水性をより向上させることができる。
【0047】
なお、本発明のタイヤでは、隠れ溝部51Hが副溝51のタイヤ周方向一方側の端部51Eaおよびタイヤ周方向他方側の端部51Ebのそれぞれに設けられていてもよい。この場合、共鳴器5が形成された陸部4の剛性を好適に維持し易くなるが、副溝51の溝容積を十分に確保し難くなる場合がある。そのため、隠れ溝部51Hは、副溝51のタイヤ周方向一方側の端部51Eaまたはタイヤ周方向他方側の端部51Ebのいずれか一方にのみ設けられていることが好ましい。
【0048】
また、このタイヤ1では、顕れ溝部51Gの、トレッド踏面2における開口幅W51が、該顕れ溝部51Gのタイヤ周方向一方端から当該顕れ溝部51Gの最大幅位置に向けて漸増し、該最大幅位置から該顕れ溝部51Gのタイヤ周方向他方端に向けて漸減している。この場合、タイヤの負荷転動時に、副溝51のタイヤ周方向中央部分の溝幅51が変化し易くなり、副溝51内に入り込んだ水を効率的に排水することができるため、排水性をさらに向上させることができる。
【0049】
また、このタイヤ1では、副溝51の少なくとも延在方向中央部分に、当該副溝51における溝深さD51が最大となる溝最深部51Dpを有している。溝最深部51Dpを設ければ、副溝51の溝容積を確保し易くなるため、排水性をさらに向上させることができる。
【0050】
なお、本実施形態のタイヤ1がそうであるように、溝最深部51Dpを、副溝51の深さが該溝最深部51Dpにて局所的に深くなるように構成すれば、溝最深部51Dpを、副溝51の深さが徐々に深くして構成した場合に比し、共鳴器5が設けられた陸部(本実施形態では、中間陸部42a)の剛性を維持し易く、トレッドにおける偏摩耗をより確実に抑制できる。
【0051】
また、このタイヤ1では、トレッド踏面2の展開視で、副溝51の延在長さに対する、隠れ溝部51Hの延在長さの比が、0.15以上0.75以下であることが好ましい。0.15以上であれば、共鳴器5が設けられた中間陸部42aの剛性を好適に維持して、トレッドにおける偏摩耗をより確実に抑制することができる。また、0.75以下であれば、共鳴器5の副溝51の溝容積を十分に確保して、排水性をさらに向上させることができる。
【0052】
なお、トレッドにおける偏摩耗をより確実に抑制しつつ、排水性をさらに向上させる観点から、トレッド踏面2の展開視で、副溝51の延在長さに対する、隠れ溝部51Hの延在長さの比は、0.30以上0.60以下であることがより好ましく、0.35以上0.55以下であることがさらに好ましい。
【0053】
なお、本発明のタイヤでは、副溝51の隠れ溝部51Hのトレッド踏面2における開口幅が、0.2mm以上1.0mm以下であることが好ましい。0.2mm以上であれば、タイヤの製造時において、副溝51の隠れ溝部51Hを成形する金型の引き抜きが容易になり、1.0mm以下であれば、タイヤの接地時に、副溝51が隠れ溝部51Hの開口端にて閉塞し易く、該隠れ溝部51Hを区画する溝壁が相互に支え合うため、共鳴器5が形成された中間陸部42aの剛性(特に、せん断剛性)をより好適に維持することができるからである。
【0054】
また、本発明のタイヤでは、副溝51の隠れ溝部51Hの、開口側部51Haの溝深さ(トレッド踏面Tの法線方向に沿う長さ)D51Haが、1.0mm以上4.0mm以下であることが好ましい。1.0mm以上であれば、開口側部51Haにおける剛性をより好適に確保することができる。また、4.0mm以下であれば、溝底側部51Hbの溝深さD51Hbを十分に設けて、副溝51の溝容積の確保が容易になる。
【0055】
また、本実施形態に係るタイヤ1では、上述した共鳴器5の複数個が、中間陸部42aに、タイヤ周方向に亘って等間隔に配設されている。そのため、タイヤ周方向に亘って、気柱共鳴音を低減するとともに、トレッドにおける偏摩耗を抑制することができる。
【0056】
なお、図示例では、中間陸部42aにのみ上述の共鳴器5が設けられているが、本発明のタイヤでは、他の陸部4にも上述の共鳴器5を設けてもよい。この場合、該共鳴器5が連通する他の周方向主溝3における気柱共鳴音もまた低減されるため、タイヤに生じる気柱共鳴音の総和を低減することができる。
【0057】
ここで、車両装着内側半部HAにおいて、内側ショルダー陸部43aの接地幅(タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、最大負荷荷重を負荷した際の接地面の接地端間のタイヤ幅方向距離)は、内側中間陸部42aの接地幅より小さいことが好ましい。
また、車両装着外側半部HBにおいて、外側ショルダー陸部43bの接地幅は、外側中間陸部42bの接地幅より小さいことが好ましい。
また、図1に示した実施形態にように、中央陸部41が形成されている場合には、複数の陸部のうち、中央陸部41の接地幅が最小であることが好ましい。
【0058】
本発明では、複数の周方向主溝のうち、タイヤ幅方向最外側に位置する内側周方向主溝32aの溝幅が最大であることが好ましい。車両装着内側は、走行時に接地長が伸びやすく、ハイドロプレーニング性能への寄与が大きいため、効果的にハイドロプレーニング性能を向上させることができるからである。
【0059】
本発明においては、単位面積当たりのタイヤ幅方向のエッジ長さは、外側ショルダー陸部43bの単位面積当たりのタイヤ幅方向のエッジ長さが、内側ショルダー陸部43aの単位面積当たりのタイヤ幅方向のエッジ長さより大きいことが好ましい。
また、単位面積当たりのタイヤ幅方向のエッジ長さは、外側中間陸部42bの単位面積当たりのタイヤ幅方向のエッジ長さが、内側中間陸部42aの単位面積当たりのタイヤ幅方向のエッジ長さより大きいことが好ましい。
また、単位面積当たりのタイヤ周方向のエッジ長さは、内側ショルダー陸部43aの単位面積当たりのタイヤ周方向のエッジ長さが、外側ショルダー陸部43bの単位面積当たりのタイヤ周方向のエッジ長さより大きいことが好ましい。
接地長を最適化して、共鳴器の性能をより効果的に発揮して、静粛性をさらに向上させることができるからである。
【実施例
【0060】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
発明例タイヤおよび比較例タイヤ(ともに、タイヤサイズは215/55R17)を表1に示す仕様のもと試作し、気柱共鳴音の低減効果(静粛性)及び耐偏摩耗性を評価した。
【0062】
発明例タイヤ1は、図1に示すトレッドパターンおよび図1~5に示す共鳴器を備えている。
【0063】
比較例タイヤ1は、陸部に共鳴器を備えていないこと以外は、発明例タイヤ1と同様のタイヤである。
【0064】
比較例タイヤ2は、陸部に従来の共鳴器(副溝に隠れ溝部を有していない)を備えていること以外は、発明例タイヤ1と同様のタイヤである。
【0065】
発明例タイヤ2は、共鳴器の副溝が隠れ溝部のみからなること以外は、発明例タイヤ1と同様のタイヤである。
【0066】
発明例タイヤ3は、共鳴器の副溝の隠れ溝部が、副溝の中央部分に設けられていること以外は、発明例タイヤ1と同様のタイヤである。
【0067】
発明例タイヤ4は、隠れ溝部が、副溝のタイヤ周方向両側の端部に設けられていること以外は、発明例タイヤ1と同様のタイヤである。
【0068】
発明例タイヤ5は、枝溝が副溝のタイヤ周方向一方側の端部に隣接して設けられていないこと以外は、発明例タイヤ1と同様のタイヤである。
【0069】
発明例タイヤ6は、トレッド踏面における顕れ溝部の形状が、長方形であること以外は、発明例タイヤ1と同様のタイヤである。
【0070】
発明例タイヤ7は、副溝内に溝最深部を有しないこと以外は、発明例タイヤ1と同様のタイヤである。
【0071】
発明例タイヤ8は、副溝内の溝最深部が、該副溝の溝深さが徐々に深くなることにより形成されていること以外は、発明例タイヤ1と同様のタイヤである。
【0072】
発明例タイヤ9~12は、副溝の延在長さに対する、隠れ溝部の延在長さの比が異なること以外は、発明例タイヤ1と同様のタイヤである。
【0073】
[気柱共鳴音の低減効果]
各供試タイヤをリム7.5Jに組み付けてタイヤ車輪とし、空気圧230kPa(相当圧)、タイヤ負荷荷重4.46kNを適用し、時速80km/hにて、室内ドラム試験機上で走行させた際のタイヤ側方音を、JASO C606規格にて定める条件で測定して、1/3オクターブ中心周波数800-1000-1250Hz帯域における、パーシャルオーバーオール値を演算し、気柱共鳴音を算出した。結果は、表1に、比較例タイヤ1に対する気柱共鳴音の低減量(%)を示した。パーセンテージが大きい方が、気柱共鳴音の低減量が大きいことを示している。
【0074】
[耐偏摩耗性]
各供試タイヤをリム7.5Jに組み付けてタイヤ車輪とし、空気圧230kPa(相当圧)、タイヤ負荷荷重4.46kNを適用し、時速80km/hにて、室内ドラム試験機上で10000km走行させた後の、トレッド踏面の摩耗状態を目視にて確認した。結果は、表1に、比較例タイヤ1の偏摩耗量による耐偏摩耗性を1として5段階評価した。数値が大きい方が、耐偏摩耗性能に優れていることを示している。
【0075】
[排水性]
各供試タイヤをリム(7.5J)に組み付けて車輪とし、空気圧230kPa(相当圧)を充填して乗用車に装着した。その後、舗装路面上に水深が7mmとなるまで水を散布した評価コースで徐行状態から加速し、タイヤのスリップ率が10%となったときの車体速度(タイヤが水の上で空転したときの速度)を求め、排水性(耐ハイドロプレーニング性)を評価した。結果は、表1に、比較例タイヤ1の上記車体速度による排水性を100として指数化して評価した。数値が大きい方が、排水性に優れていることを示している。
【0076】
【表1】
【符号の説明】
【0077】
1:タイヤ、 2:トレッド踏面、 3,31a,31b,32a,32b:周方向主溝、 4:陸部、 41:中央陸部、 42a,42b:中間陸部、 43a,43b:ショルダー陸部、 5:共鳴器、 51:副溝、 51Ea:副溝のタイヤ周方向一方側の端部、 51Eb:副溝のタイヤ周方向他方側の端部、 51Dp:溝最深部、 51G:顕れ溝部、 51H:隠れ溝部、 52:枝溝、 52a:第1枝溝、 52b:第2枝溝、 CL:タイヤ赤道面、 HA:一方側のタイヤ半部、 HB:他方側のタイヤ半部、 TE:トレッド端
図1
図2
図3
図4
図5
図6