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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】乗客コンベア診断装置固定治具
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20220721BHJP
【FI】
B66B31/00 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020029317
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021134018
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三之宮 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 良史
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-48585(JP,A)
【文献】特開2019-210076(JP,A)
【文献】特開2018-193245(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0332368(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0148300(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0095146(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの診断装置を固定する乗客コンベア診断装置固定治具において、
前記乗客コンベアの踏板上面の幅方向に並んで複数形成されたクリートに対して、携帯型端末を所定位置に保持するものであり、
前記携帯型端末の下面を支持する台座部と、
前記台座部の上側に設けられて前記携帯型端末の側端部を把持する端末把持部と、
前記台座部の下側の幅方向両側に設けられて前記クリートを把持するクリート把持部と、
を備え、
前記クリート把持部は、弾性変形した状態で複数の前記クリート間に挿入され、
前記クリート把持部の側面が、復元力によって前記クリートの側面を押し付けることを特徴とする乗客コンベア診断装置固定治具。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベア診断装置固定治具において、
前記台座部は、定常状態のときに曲面状であり、前記クリート把持部を前記クリート間に挿入したときに平面状であることを特徴とする乗客コンベア診断装置固定治具。
【請求項3】
請求項2に記載の乗客コンベア診断装置固定治具において、
前記台座部は、定常状態のときに幅方向中央が上方に凸な曲面を有することを特徴とする乗客コンベア診断装置固定治具。
【請求項4】
請求項1に記載の乗客コンベア診断装置固定治具において、
前記クリート把持部は、前記クリートの底面に向かって細くなる形状を有することを特徴とする乗客コンベア診断装置固定治具。
【請求項5】
請求項1に記載の乗客コンベア診断装置固定治具において、
前記クリート把持部の少なくとも一部は、前記携帯型端末の側端部よりも外側に位置することを特徴とする乗客コンベア診断装置固定治具。
【請求項6】
請求項1に記載の乗客コンベア診断装置固定治具において、
前記台座部の下側の幅方向両側であって、前記クリート把持部よりも外側に、手掛け部を有することを特徴とする乗客コンベア診断装置固定治具。
【請求項7】
請求項1に記載の乗客コンベア診断装置固定治具において、
前記端末把持部は、前記台座部の上側の幅方向両側に設けられた爪部で形成されることを特徴とする乗客コンベア診断装置固定治具。
【請求項8】
請求項7に記載の乗客コンベア診断装置固定治具において、
前記爪部は、幅方向の異なる位置に対して着脱可能であることを特徴とする乗客コンベア診断装置固定治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの診断装置を固定する治具に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアは、建築構造物に設置される枠体と、この枠体内に設けられて循環移動する無端状に連結された複数のステップと、を備えている。複数のステップには、無端状のチェーンが連結されており、このチェーンが回転駆動することで、複数のステップが枠体に設置されたレールに沿って循環移動する。この循環移動によって、乗客コンベアは、ステップ上の乗客を一方の乗降口から他方の乗降口へと輸送する。
【0003】
このような乗客コンベアにおいては、従来、循環移動しているステップの上に技術者が乗り、技術者の目視や体感、聴覚によって、稼働時の振動や異常音の点検が行われている。
【0004】
また、特許文献1には、カメラ、マイクロフォン及び加速度センサーを備えたスマートフォン等の携帯型端末を技術者が操作して、乗客コンベアの乗り心地データ(振動、動作音等)を取得し、乗り心地診断を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-193245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術では、乗り心地データを収集する際に、携帯型端末を、ハンドレール(手すり)付近に位置させるか、ハンドレールに当てて置くなどしており、ステップの振動については診断できない。また、技術者が携帯型端末を手で支えているため、技術者の身体の振動とハンドレールの振動との区別が困難であるだけでなく、ハンドレールの振動が技術者の身体によって減衰してしまう。
【0007】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、ステップの振動を正確かつ簡易に診断できる乗客コンベア診断装置固定治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、乗客コンベアの診断装置を固定する乗客コンベア診断装置固定治具において、前記乗客コンベアの踏板上面の幅方向に並んで複数形成されたクリートに対して、携帯型端末を所定位置に保持するものであり、前記携帯型端末の下面を支持する台座部と、前記台座部の上側に設けられて前記携帯型端末の側端部を把持する端末把持部と、前記台座部の下側の幅方向両側に設けられて前記クリートを把持するクリート把持部と、を備え、前記クリート把持部は、弾性変形した状態で複数の前記クリート間に挿入され、前記クリート把持部の側面が、復元力によって前記クリートの側面を押し付ける。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステップの振動を正確かつ簡易に診断できる乗客コンベア診断装置固定治具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態のエスカレーターの概略構成図である。
図2】ステップの概略構成を示す斜視図である。
図3】踏板をx方向から見た断面図であり、(a)は折り曲げ構造の踏板、(b)は削り出し構造の踏板、を示す。
図4】実施例1に係る乗客コンベア診断装置固定治具の構造を示す斜面図である。
図5】乗客コンベア診断装置固定治具を用いて携帯型端末をステップ上に取付ける手順を示した断面図である。
図6】実施例2に係る乗客コンベア診断装置固定治具の構造を示す斜面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態に係る乗客コンベア診断装置固定治具は、エスカレーターや動く歩道等の乗客コンベアの振動や移動音などについて、携帯型端末を用いて診断するのを支援するものであり、具体的には、乗客コンベアの踏板上面の幅方向に並んで複数形成されたクリートに対して、携帯型端末を所定位置に保持するものである。以下では、乗客コンベアとして、エスカレーターを例に説明する。
【0012】
まず、本実施形態に係る乗客コンベア診断装置固定治具が適用されるエスカレーター1について説明する。図1は、本実施形態のエスカレーター1の概略構成図である。図1に示すように、本実施形態のエスカレーター1は、図示しない建築構造物に設置された枠体2と、制御盤3と、欄干部4と、ステップ5と、レール13と、ハンドレール6と、駆動機構7と、伝達チェーン8と、ドライビングチェーン9と、ハンドレール駆動装置10と、駆動スプロケット11と、従動スプロケット12と、を備えている。なお、以下の説明では、ステップ5の進行方向をx軸、ステップ5の幅方向をy軸、鉛直方向をz軸とする座標系を用いる。
【0013】
枠体2における上階床側には、制御盤3、駆動機構7及び駆動スプロケット11が配置されていて、下階床側には、従動スプロケット12が配置されている。
【0014】
駆動機構7は、電動機及び減速機により構成されている。電動機には制御盤3から電力が供給され、電動機は制御盤3によりその動作が制御される。電動機と減速機には、ベルト部材14が巻き掛けられ、電動機の回転力は、ベルト部材14を介して減速機に伝達される。
【0015】
さらに減速機と駆動スプロケット11には、伝達チェーン8が巻き掛けられ、駆動機構7の駆動力が伝達チェーン8を介して駆動スプロケット11に伝達され、駆動スプロケット11が回転する。
【0016】
駆動スプロケット11及び従動スプロケット12には、1対のドライビングチェーン9が巻き掛けられ、駆動スプロケット11が回転することで、従動スプロケット12及びドライビングチェーン9が回転する。
【0017】
また、駆動スプロケット11には、ハンドレール駆動チェーン15が巻き掛けられている。ハンドレール駆動チェーン15は、複数の伝達プーリ16に巻き掛けられると共に、ハンドレール駆動装置10に巻き掛けられている。
【0018】
枠体2の幅方向には、1対のレール13が配置され、複数のステップ5は、この1対のレール13に移動可能に支持される。また、複数のステップ5は、1対のドライビングチェーン9を介して無端状に連結され、レール13に案内されて往路側と復路側を循環移動する。
【0019】
欄干部4は、枠体2の上部に支持されており、枠体2の幅方向の両側に配置されている。欄干部4には、無端状のハンドレール6が取り付けられている。ハンドレール6は、欄干部4に移動可能に支持され、ハンドレール駆動装置10によって、複数のステップ5と同一方向に同期して循環移動する。これにより、エスカレーター1では、ステップ5上に乗ってハンドレール6を把持している乗客を安全に搬送できる。
【0020】
次に、ステップ5について具体的に説明する。図2は、ステップ5の概略構成を示す斜視図である。本実施形態のステップ5は、レール13に支持されるフレーム17と、このフレーム17の上部に固定される踏段18と、を備える。さらに踏段18は、乗客が乗る踏板19と、この踏板19の後方端に連結されたライザー37と、を有する。さらに踏板19及びライザー37の表面には、踏板19の進行方向に沿って平行に複数のクリート20が形成されており、踏板19及びライザー37の強度を向上させている。なお、このクリート20は、乗降口の床板に設けられたくし板と噛合うようになっている。
【0021】
次に、踏板19について具体的に説明する。図3は、踏板19をx方向から見た断面図であり、踏板19は(a)(b)の二種類の構造に大別できる。図3(a)は、折り曲げ構造の踏板19aを示しており、薄板を折り曲げて形成したクリート20aを、踏板19aに対して溶接等の接着手段で固定した構造となっている。一方、図3(b)は、削り出し構造の踏板19bを示しており、クリート20bと踏板19bとを、材料の削り出しにより一体成形した構造となっている。
【0022】
ここで、折り曲げ構造の踏板19aにおけるクリート20a上面のy軸方向(幅方向)寸法21aと、削り出し構造の踏板19bにおけるクリート20b上面のy軸方向寸法21bは、およそ同等の寸法で設計されている。また、折り曲げ構造の踏板19aにおける隣接するクリート20a上面の間隔22aと、削り出し構造の踏板19bにおける隣接するクリート20b上面の間隔22bも、およそ同等の寸法で設計されている。しかしながら、折り曲げ構造の踏板19aにおけるクリート20aは、z軸方向にテーパ形状(具体的には底面に向かって太くなる形状)であるのに対し、削り出し構造の踏板19bにおけるクリート20bは、z軸方向に平行(底面に向かって同寸法)である点で異なる。
【0023】
本実施形態に係る乗客コンベア診断装置固定治具は、一つの治具で、折り曲げ構造の踏板19aと、削り出し構造の踏板19bと、の両構造に取付け可能である。
【実施例1】
【0024】
図4は、実施例1に係る乗客コンベア診断装置固定治具23の構造を示す斜面図である。図4に示すように、本実施例に係る乗客コンベア診断装置固定治具23は、携帯型端末28の下面を支持する台座部27と、台座部27の上側に設けられて携帯型端末28の側端部を把持する端末把持部25と、台座部27の下側の幅方向両側に設けられてクリート20を把持するクリート把持部26と、を備える。
【0025】
本実施例に係る乗客コンベア診断装置固定治具23は、全体として板ばねのような構造となっている。そして、台座部27は、定常状態のときには曲面状であり、乗客コンベア診断装置固定治具23を踏板19上面に取付けたときには平面状となる。乗客コンベア診断装置固定治具23の材料としては、例えばポリアセタールのように、硬く(ロックウェル硬度M78-M94程度)、靱性を持ちつつ、弾性変形できる材料が用いられる。なお、同様の特性を持つ材料であれば、ポリカーボネートなど他の材料であっても構わない。
【0026】
端末把持部25は、携帯型端末28の側端部上面を係止するために、爪部24を有している。また、携帯型端末28の側端部は一般に面取りが施されているため、爪部24を含む端末把持部25の内側面は凹状となっている。したがって、本実施例の端末把持部25によれば、携帯型端末28との接触面積が増加し、携帯型端末28を安定的に支持できる。なお、端末把持部25は、携帯型端末28がz軸方向に脱離しないよう把持できれば、他の構造であっても良く、例えば、L字状(鉤型)としたり、ゴム板のような摩擦係数の高い弾性体で成形したりしても良い。
【0027】
さらに、端末把持部25は、台座部27のy軸方向の両端において、x軸方向に沿って連続的に形成される構造に限らない。例えば、x軸方向に沿って間隔を置いて配置される複数の爪部等により端末把持部25を形成し、各爪部がy軸方向の両側に対向して配置されるような構造であっても良い。
【0028】
次に、クリート把持部26は、台座部27の下面、すなわち、端末把持部25とは反対側の面に形成され、所定の間隔で複数形成されたクリート20の間に挿入される。図4に示す本実施例の乗客コンベア診断装置固定治具23では、台座部27のy軸方向の両端付近において、x軸方向に沿って連続的に形成されるクリート把持部26を採用しているが、これに限らない。例えば、台座部27のx軸方向のうち一部の箇所のみにクリート把持部26を形成しても良い。また、タブレット型PCのように、携帯型端末28が大きい場合には、y軸方向の両側だけでなく、その間にも1つ以上のクリート把持部26を設け、把持力を高めても良い。
【0029】
さらに、本実施例のクリート把持部26は、z軸方向にテーパ形状、具体的にはクリート20の底面に向かって細くなる形状を有している。このため、隣接するクリート20の間へクリート把持部26を挿入し易いだけでなく、ステップ5が削り出し構造の踏板19bを採用している場合にも、クリート把持部26の挿入量を調整できる。また、ステップ5が折り曲げ構造の踏板19aを採用している場合は、クリート把持部26のテーパ形状は、クリート20aのテーパ形状と実質的に同じ形状とするのが望ましい。このようにクリート把持部26とクリート20aのテーパ形状をそろえることで、クリート把持部26の側面26a(x軸方向に平行な面)とクリート20aの側面との接触面積を増加し、クリート20aの把持力を高めることが可能となるためである。なお、クリート把持部26の側面26aにローレット加工等の滑り止め処理を施したり、クリート把持部26をゴム板のような摩擦係数の高い弾性体で形成したりすれば、クリート20をより確実に把持することが可能となる。
【0030】
本実施例では、乗客コンベア診断装置固定治具23の全体を樹脂で形成したが、これに限らない。例えば、人力で弾性変形が可能なものであれば、材質に金属を採用して、台座部27の板厚を薄くしても良い。また、端末把持部25と、クリート把持部26と、台座部27と、をそれぞれ特性の異なる材質で形成しても良い。このような構造の乗客コンベア診断装置固定治具23は、例えば3Dプリンタを用いて制作することが考えられる。
【0031】
図5(a)~(c)は、本実施例の乗客コンベア診断装置固定治具23を用いて、携帯型端末28をステップ5上に取付ける手順を示した断面図である。
【0032】
図5(a)は、乗客コンベア診断装置固定治具23に、携帯型端末28を挿入したときの状態を示す断面図である。まず、技術者は、図5(a)に示す通り、乗客コンベア診断装置固定治具23の台座部27の上面に、ディスプレイを上方に向けた状態で携帯型端末28を挿入する。このとき、乗客コンベア診断装置固定治具23の台座部27は、所定の曲率半径32を有するアーチ形状であるため、y軸方向両側の端末把持部25間の開口幅寸法30aは、携帯型端末28の幅寸法より大きく、携帯型端末28が挿入可能となっている。すなわち、乗客コンベア診断装置固定治具23を設計するにあたっては、定常状態における開口幅寸法30aが、把持対象の携帯型端末28の幅寸法より例えば1mm程度大きくなるような、曲率半径32を選択する。また、乗客コンベア診断装置固定治具23が定常状態のとき、すなわち、台座部27が上記曲率半径32のアーチ形状であるとき、クリート把持部26の幅方向内側の下端間の距離31aは、挟み込むクリート20の幅方向外側の上端間の距離38より小さく設計する。なお、台座部27の下側の幅方向両側であって、クリート把持部26よりも外側には、手掛け部36が形成されている。
【0033】
図5(b)は、技術者が、両手の指で力を加えて乗客コンベア診断装置固定治具23を変形させたときの状態を示す断面図である。例えば、技術者は、もともとアーチ形状であった台座部27が平坦となるように、両手の人差し指等で手掛け部36に上方へ引力33を加えつつ、両手の親指で携帯型端末28の上方から下方へ押力34を加える。この変形により、端末把持部25間の開口幅寸法が30bに狭まり、携帯型端末28の幅寸法より小さくなることで、携帯型端末28が把持可能となっている。一方で、クリート把持部26の幅方向内側の下端間の距離は31bに広がる。
【0034】
本実施例の台座部27は、定常状態のときに幅方向中央が上方に凸な曲面を有するアーチ形状としたため、上述のように台座部27の上面に携帯型端末28を乗せた状態で、携帯型端末28を下方へ押し付けるだけの簡単な作業で、携帯型端末28をセットできる。また、乗客コンベア診断装置固定治具23の下側両端に手掛け部36があるため、上述の図5(b)での押し付け作業が容易になるだけでなく、乗客コンベア診断装置固定治具23を踏板19の上面へ持ち運ぶ作業も容易になる。
【0035】
図5(c)は、乗客コンベア診断装置固定治具23を、折り曲げ構造の踏板19aに取付けたときの状態を示す断面図である。技術者は、上述の引力33及び押力34を加えながら、クリート把持部26を、複数のクリート20a間に挿入する。このとき、乗客コンベア診断装置固定治具23には、定常状態であるアーチ形状に戻ろうとする復元力35が発生しており、各クリート把持部26の幅方向内側面が、クリート20の幅方向外側面をy軸方向に押し付けることで、クリート把持部26がクリート20を把持する。クリート把持部26のクリート20a間への挿入後も、爪部24は携帯型端末28の側端部の上面側を係止し、端末把持部25が携帯型端末28の面取り部を覆っているため、携帯型端末28は乗客コンベア診断装置固定治具23に把持されている。
【0036】
本実施例の乗客コンベア診断装置固定治具23は、低コストで製造できる簡単な構造であっても、エスカレーター1の乗り心地診断中に、表面積の小さなクリート上面を携帯型端末28が滑って移動しないよう保持できる。また、クリート把持部26の少なくとも一部は、携帯型端末28の側端部よりも幅方向外側に位置しており、対向するクリート把持部26が離れた位置にあるので、踏板19aに対して安定的に支持できる。
【0037】
ここで、携帯型端末28を用いた、エスカレーター1の乗り心地診断の作業手順について説明する。なお、携帯型端末28には、加速度を検出する加速度センサ、音声を検出するマイク、などが搭載されている。まず、技術者が、エスカレーター1を操作して運転を停止させる。次に、技術者は、乗客コンベア診断装置固定治具23に携帯型端末28をセットし、その乗客コンベア診断装置固定治具23を一方の乗降口に近いステップ5上に取付ける。その後、技術者がエスカレーター1を操作して運転させ、携帯型端末28によってエスカレーター1の振動や騒音が測定される。そして、乗客コンベア診断装置固定治具23を取付けたステップ5が他方の乗降口に近づいたときに、技術者は、エスカレーター1を操作して停止させる。
【0038】
乗客コンベア診断装置固定治具23をステップ5から取外す際には、技術者が手掛け部36を持って乗客コンベア診断装置固定治具23を上方へ引き抜くことで、容易に取外しが可能である。すなわち、本実施例の乗客コンベア診断装置固定治具23によれば、工具等を用いなくても、簡単な操作で、ステップ5に対して携帯型端末28を所定位置に保持したり取り外したりできるため、作業性の観点で優れている。
【0039】
また、仮に、乗客コンベア診断装置固定治具23をステップ5に取り付けたまま乗降口に達してしまい、乗客コンベア診断装置固定治具23がくし板と衝突した場合であっても、くし板が、複数のクリート20aの隙間からクリート把持部26を押し上げることで、クリート把持部26がクリート20aから容易に外れる。すなわち、本実施例の乗客コンベア診断装置固定治具23は、乗り心地診断中に万一くし板に接触しても、くし板やステップ5等が破損するのが防止できるため、フェイルセーフの観点でも優れている。なお、くし板と接触したときに持ち上がり易いように、クリート把持部26のx軸方向端部もテーパ状としても良い。
【0040】
さらに、本実施例の乗客コンベア診断装置固定治具23は、硬く靭性を持つポリアセタール等の材料で形成したので、ステップ5の振動を減衰させずに、携帯型端末28へ伝えることができ、エスカレーター1の正確な乗り心地診断が実現できる。
【実施例2】
【0041】
図6は、実施例2に係る乗客コンベア診断装置固定治具23aの構造を示す斜面図である。図6に示すように、本実施例に係る乗客コンベア診断装置固定治具23aは、多様な幅寸法を有する携帯型端末28に対しても、1つの装置で対応できる構造となっている。具体的には、実施例1では幅方向両端にそれぞれ固定されていた端末把持部25について、実施例2では一方の端末把持部25aを幅方向の異なる位置に対して着脱可能とした点が特徴である。
【0042】
本実施例の乗客コンベア診断装置固定治具23aは、図6に示すように、着脱可能な端末把持部25aの底部に、台座部27aの板厚と同等のz軸方向寸法を有する凸部39が設けられている。一方、台座部27aの上面には、凸部39と同じ数のスライド孔29が形成されている。このスライド孔29は、y軸方向に伸びる長孔29aと、x軸方向に伸びる長孔29bと、で構成された鉤型の形状となっている。技術者は、スライド孔29に凸部39を挿入する際、携帯型端末28の幅寸法に応じて、適した位置にある長孔29bを選択する。なお、スライド孔29は、台座部27表面のy軸方向に所定の間隔で配置する複数の丸孔で代用しても良い。また、幅方向両端の2つの端末把持部25を着脱可能としても良い。
【0043】
なお、本発明は、上述の実施例1,2に限定されるものではなく、種々な変形例が含まれる。例えば、端末把持部25及び台座部27は、携帯型端末28の周囲を覆うケース状のものであっても良い。
【0044】
また、上述の実施例1では、エスカレーター1の乗り心地診断に乗客コンベア診断装置固定治具を利用する例について説明したが、他の目的でも利用できる。例えば、ステップ固定用のボルトをアナログトルクレンチで締結した際の音と振動について、上述の乗客コンベア診断装置固定治具によって検知することで、ボルトの締付状態を診断することも可能である。
【0045】
さらに、上述の実施例1では、台座部27が、定常状態のときに幅方向中央が上方に凸な曲面となっているが、下方に凸な曲面であっても良い。この場合は、クリート把持部26がクリート20間に挿入されて台座部27が平面状となったとき、クリート把持部26は幅方向外側へ変形しようとし、クリート把持部26の幅方向外側の側面が、復元力によってクリート20の幅方向内側の側面を押し付ける。
【0046】
そして、上述の実施例1では、乗客コンベア診断装置固定治具23をステップ5へ取付ける際、特に台座部27が大きく弾性変形することになるため、クリート把持部26自体の変形量は小さい。しかし、台座部27は弾性変形させず、クリート把持部26自体を大きく弾性変形させた状態で、複数のクリート20間に挿入し、乗客コンベア診断装置固定治具23をステップ5へ取付ける構造であっても良い。
【符号の説明】
【0047】
1 エスカレーター
2 枠体
3 制御盤
4 欄干部
5 ステップ
6 ハンドレール
7 駆動機構
8 伝達チェーン
9 ドライビングチェーン
10 ハンドレール駆動装置
11 駆動スプロケット
12 従動スプロケット
13 レール
14 ベルト部材
15 ハンドレール駆動チェーン
16 伝達プーリ
17 フレーム
18 踏段
19a、19b 踏板
20a、20b クリート
23、23a 乗客コンベア診断装置固定治具
24 爪部
25 端末把持部
26 クリート把持部
26a 側面
27、27a 台座部
28 携帯型端末
29 スライド孔
29a、29b 長孔
36 手掛け部
37 ライザー
39 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6