(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】ウェアラブルな電気回路一体化成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20220721BHJP
H01Q 1/22 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
B29C45/14
H01Q1/22 Z
(21)【出願番号】P 2020035951
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2022-04-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149216
【氏名又は名称】浅津 治司
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【氏名又は名称】吉田 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】100121120
【氏名又は名称】渡辺 尚
(72)【発明者】
【氏名】谷口 忠壮
(72)【発明者】
【氏名】面 了明
(72)【発明者】
【氏名】川島 永嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 潤
(72)【発明者】
【氏名】坂田 喜博
(72)【発明者】
【氏名】藤村 俊次
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/083316(WO,A1)
【文献】特開2002-288619(JP,A)
【文献】特開平11-136704(JP,A)
【文献】特開2015-233228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
H04N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の皮膚に直接接触する接触部分を有するウェアラブルな電気回路一体化成形品であって、
立体的な所定形状に成形されている成形体と、
前記成形体の表面の少なくとも一部を覆う保護膜と、
前記成形体と一体成形され且つ導電層を有する回路フィルム及び成形回路部品のうちの少なくとも一方と、
前記導電層に装置され、成形品外部に物理的な変化を生じさせる電気回路または成形品外部の物理的な変化に応じて電気信号を発生させる電気回路とを備え、
前記保護膜及び前記回路フィルムのうちの少なくとも一方は、前記接触部分の表面全体に配置されている接触領域を有し、
前記成形体は、前記接触領域の裏側に配置され、前記接触領域の立体形状に合わせて形成されたホットメルト接着剤を含み、
前記ホットメルト接着剤は、前記回路フィルム及び前記成形回路部品のうちの少なくとも一方の少なくとも一部を覆
い、
前記回路フィルムに実装されている集積回路を備え、
前記電気回路は、前記集積回路に接続されているアンテナ、LED、ヒータ及びタッチセンサのうちの少なくとも一つのデバイスを含み、
前記回路フィルムは、前記ホットメルト接着剤の表面に、断面U字形、断面J字形または断面L字形に形成され、
前記集積回路と前記デバイスは、前記回路フィルムの別の場所であって前記成形体の異なる面に配置されて前記ホットメルト接着剤に覆われている、ウェアラブルな電気回路一体化成形品。
【請求項2】
前記保護膜のみが、前記接触領域を有する、請求項1に記載のウェアラブルな電気回路一体化成形品。
【請求項3】
前記ホットメルト接着剤は、射出圧力が0.2~6MPaで且つ射出温度が180℃以上240℃以下の低温低圧で射出成形ができる材料である、請求項1または2に記載のウェアラブルな電気回路一体化成形品。
【請求項4】
前記保護膜及び前記回路フィルムのうちの少なくとも一方が、前記成形体のうちの前記ホットメルト接着剤が露出する箇所の全てを覆う、請求項1から3のいずれかに記載のウェアラブルな電気回路一体化成形品。
【請求項5】
前記保護膜が、加飾フィルムまたは転写層である、請求項1から4のいずれか一項に記載のウェアラブルな電気回路一体化成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に装着した際に人体の皮膚に直接接触する接触部分を有するウェアラブルな電気回路一体化成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体に装着して使用する電気機器の開発が盛んに行われている。例えば、特許文献1には、眼鏡に無線装置を組み込んだ眼鏡型無線装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている眼鏡型無線装置のように、ウェアラブルな電気機器を製造するには、非常に小さな筐体に電気機器を組み込むことが必要になる場合がある。また、人体に装着することから、ウェアラブルな電気機器には重さの制限も加わる。このようなウェアラブルな電気機器を構成するための成形品は、量産に適したものであることを要求されることはもちろんであるが、人体から生じる汗及び皮脂などの分泌物に対しても耐性を有していることが要求される。
【0005】
本発明の課題は、量産に適し、防水性が高く且つ小型軽量なウェアラブルな電気回路一体化成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係るウェアラブルな電気回路一体化成形品は、人体の皮膚に直接接触する接触部分を有するウェアラブルな電気回路一体化成形品であって、成形体と、保護膜と、回路フィルム及び成形回路部品のうちの少なくとも一方と、電気回路とを備えている。成形体は、立体的な所定形状に成形されている。保護膜は、成形体の表面の少なくとも一部を覆う。回路フィルム及び成形回路部品のうちの少なくとも一方は、成形体と一体成形され且つ導電層を有する。電気回路は、導電層に装置され、成形品外部に物理的な変化を生じさせるか、または成形品外部の物理的な変化に応じて電気信号を発生させる。保護膜及び回路フィルムのうちの少なくとも一方は、接触部分の表面全体に配置されている接触領域を有する。成形体は、接触領域を挟んで皮膚とは反対側の成形体の表面に配置されて、所定形状のうちの接触領域の立体形状を規定しているホットメルト接着剤を含む。ホットメルト接着剤は、回路フィルム及び成形回路部品のうちの少なくとも一方の少なくとも一部を覆う。
このような構成を備えるウェアラブルな電気回路一体化成形品は、立体形状を有するホットメルト接着剤によって、回路フィルム及び成形回路部品のうちの少なくとも一方の少なくとも一部を覆って、回路フィルム及び成形回路部品のうちの少なくとも一方の配線の防水性を向上させることができる。また、ホットメルト接着剤により精密な立体形状を形成することができる。ホットメルト接着剤が成形体の表面に露出して皮膚に対向している成形品の接触部分は、保護膜及び回路フィルムの少なくとも一方の接触領域で覆われて、ホットメルト接着剤が皮膚に接触するのが妨げられる。
【0007】
上述のウェアラブルな電気回路一体化成形品は、保護膜のみが、接触領域を有するように構成されてもよい。このように構成されている電気回路一体化成形品は、接触領域の部分が精細且つ立体的な形状であっても、保護膜によってそのような精細且つ立体的な形状に十分に対応できる。
上述のウェアラブルな電気回路一体化成形品は、回路フィルムに実装されている集積回路を備え、電気回路が、集積回路に接続されているアンテナ、LED、ヒータ及びタッチセンサのうちの少なくとも一つのデバイスを含み、回路フィルムが、ホットメルト接着剤の表面に、断面U字形、断面J字形または断面L字形に形成され、集積回路とデバイスは、断面U字形、断面J字形または断面L字形の回路フィルムの別の場所であって成形体の異なる面に配置されホットメルト接着剤に覆われている構成にしてもよい。このように構成されている電気回路一体化成形品は、集積回路が配置されている面よりも他の面がデバイスに適したところにある場合には、その適した位置にデバイスを配置できる。
【0008】
上述のウェアラブルな電気回路一体化成形品のホットメルト接着剤は、射出圧力が0.2~6Mpaで且つ射出温度が180℃以上240℃以下の低温低圧で射出成形ができる材料で構成されてもよい。このように構成されている電気回路一体化成形品は、電気回路に接続されている例えば集積回路に、ホットメルト接着剤から与えられるダメージを小さくすることができる。
上述のウェアラブルな電気回路一体化成形品は、保護膜及び回路フィルムのうちの少なくとも一方が、成形体のうちのホットメルト接着剤が露出する箇所の全てを覆う、ように構成されてもよい。このように構成されている電気回路一体化成形品は、保護膜及び回路フィルムのうちの少なくとも一方によって、ホットメルト接着剤が露出する箇所の全てが覆われ、ホットメルト接着剤が露出しない。そのため、成形品の取り扱い時に、人体にホットメルト接着剤が触れるのを防止することができ、ホットメルト接着剤が人体に触れることによる不具合を防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るウェアラブルな電気回路一体化成形品は、防水性が高く且つ小型軽量でありながら量産に適したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の電気回路一体化成形品が適用されている眼鏡の斜視図。
【
図2】
図1のI-I線に沿って切断したツルの断面図。
【
図3】電気回路のアンテナと集積回路とを示す部分拡大断面図。
【
図4】
図1のII-II線に沿って切断したモダンの断面図。
【
図5】回路フィルムに接続されているフレキシブル回路基板を示す斜視図。
【
図7】変形例4のフィルム一体化成形品を説明するためのツルの断面図。
【
図8】変形例5のフィルム一体化成形品の一例を説明するためのツルの断面図。
【
図9】変形例5のフィルム一体化成形品の他の例を説明するためのツルの断面図。
【
図10】変形例5のフィルム一体化成形品の他の例を説明するためのツルの断面図。
【
図11】変形例6のフィルム一体化成形品の一例を説明するためのツルの断面図。
【
図12】変形例7のフィルム一体化成形品の一例を説明するためのツルの断面図。
【
図13】第2実施形態の電気回路一体化成形品を含む防水型音楽プレイヤの使用状態を示す概念図。
【
図14】電気回路一体化成形品である本体部を示す部分拡大正面図。
【
図15】
図14のIII-III線に沿って切断した本体部の断面図。
【
図16】
図14のIV-IV線に沿って切断した本体部の断面図。
【
図18】アンテナを説明するための本体部の部分拡大正面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
(1)全体構成
図1には、本発明の第1実施形態に係るウェアラブルな電気回路一体化成形品が適用されている眼鏡が示されている。
図1に示されている眼鏡1において、耳に掛かるモダン3と、ツル2と、ヒンジ4の部分が、ウェアラブルな電気回路一体化成形品10(以下、成形品10のように省略して記載する場合がある。)である。ここでは、モダン3とツル2のうちの使用者の頭部に向いた内側面に、人体の皮膚に直接接触する接触部分Pa1がある。モダン3とツル2の表面のうちの接触部分Pa1以外の部分は、例えば眼鏡1の脱着の際に、使用者が手で触れる部分である。しかし、このような部分が常に皮膚に接触する箇所ではないため、接触部分Pa1以外のモダン3とツル2とヒンジ4の箇所で使用者が手で触れる部分を準接触部分Pa2と呼ぶ。
図2には、
図1のI-I線で示されている箇所で切断した成形品10の断面が示されている。成形品10の立体的形状は、主に、成形体20によって形作られる。そのため、成形体20は、立体的な所定形状に成形されている。第1実施形態では、成形体20が、ホットメルト接着剤のみで形成されている場合について説明する。例えば成形品10の内部に集積回路60などの電気部品が実装されている場合などにおいて、ホットメルト接着剤を用いることで、成形品10の最も薄い部分の厚さを、例えば、0.4mm程度まで薄くすることができる。
図2に示されているように、保護膜30が、成形体20の表面の一部を覆っている。また、
図2に示されているように、回路フィルム40が成形体20と一体成形されている。回路フィルム40は、導電層46を有している。回路フィルム40の導電層46には、電気回路50が装置されている。第1実施形態では、電気回路50が、
図3に示されているアンテナを含んでいる。このアンテナとして機能する電気回路50は、成形品10の外部に電磁波を発生させるという物理的な変化を生じさせる。また、アンテナとして機能する電気回路50は、成形品10の外部に生じた電磁波(物理的な変化)を受信して電気信号を発生させる。
【0012】
この第1実施形態では、ツル2の部分において、保護膜30が、接触部分Pa1の表面全体に配置されている接触領域Ar1を有している。ツル2の部分の成形体20は、保護膜30の接触領域Ar1を挟んで皮膚とは反対側に配置されているホットメルト接着剤である。成形体20を構成するホットメルト接着剤は、断面の形状が略長方形状である立体形状を有する。
図2に示されているホットメルト接着剤(成形体20)の形状により、ツル2の立体形状(略直方体状の形状)が規定されている。ここで、ホットメルト接着剤が立体形状を規定するとは、ホットメルト接着剤が薄く層状に塗布して使用されるのではなく(平面的でなく)、ホットメルト接着剤が層状以外の立体的な形状(いくつかの平面及び/または曲面で囲まれて3次元的な空間を占めている形状)を持っていることを意味する。
また、
図2に示されているホットメルト接着剤で形成された成形体20は、モダン3及びヒンジ4の内部にまで及んでいる。
図1のII-II線に沿ったモダン3の部分の断面が
図4に示されている。
図4に示されているモダン3の部分の成形体20もホットメルト接着剤からなる。モダン3の部分の回路フィルム40には配線41が形成されている。モダン3の部分においても、保護膜30が、接触部分Pa1の表面全体に配置されている接触領域Ar1を有している。モダン3の部分の成形体20も、保護膜30の接触領域Ar1を挟んで皮膚とは反対側に配置されているホットメルト接着剤である。
図4に示されているモダン3の部分を構成するホットメルト接着剤(成形体20)は、
図2に示されている断面形状より小さい断面略長方形状の立体形状を有する。このように、成形体20は、成形品10の表面を除く内部の立体的な所定形状を構成している。
【0013】
ホットメルト接着剤は、回路フィルム40の一部を覆っている。特に、集積回路60と接続される配線41をホットメルト接着剤が覆っている。集積回路60は、電気回路50の構成要素とみなすこともできる。この配線41は、例えば、集積回路60がリード線を有する場合には、リード線と接続される金属端子である。集積回路60のリード線及び回路フィルム40の金属端子は湿気によって錆びたりするので、ホットメルト接着剤により覆われたリード線及び金属端子は、防水性が向上し、錆びの発生などの不具合が防止される。特にホットメルト接着剤は、金属との接着性に優れているので、金属との間に隙間を生じさせ難い。このように、成形体20は、回路フィルム40と一体化されてその一部を覆いながら、眼鏡1のツル2とモダン3とヒンジ4の部分の小さくて複雑な形状を規定することができている。第1実施形態では、電気回路50もホットメルト接着剤で覆われている。
ホットメルト接着剤は、使用者が触れると使用者にタック性を感じさせてしまう。ここで、タック性とは、触れた者にねばりつくような感覚を生じさせる性質である。接触部分Pa1に配置されているホットメルト接着剤の表面を保護膜30の接触領域Ar1が覆っている。そのため、眼鏡1を使用する使用者は、ホットメルト接着剤特有のタック性を感じることがなく、快適な装着感を得ることができる。
図2から
図4に示されている成形品10は、保護膜30のみが接触領域Ar1を有する。言い換えると、第1実施形態では、回路フィルム40が、接触領域を有していない。
集積回路60と外部の装置または電源などとは、例えば、
図5に示されているフレキシブル回路基板70によって接続することができる。フレキシブル回路基板70は、例えば、モダン3の先端部に配置される。フレキシブル回路基板70と回路フィルム40の配線41とは、例えば、異方性導電膜75によって接続される。ここでは、フレキシブル回路基板70により、回路フィルム40と外部の電気機器との接続を図っている。しかし、フレキシブル回路基板70以外の例えばフラットケーブルなどの他の配線部材を用いることもできる。
【0014】
(2)詳細構成
(2-1)成形体20
成形体20は、ホットメルト接着剤を立体形状に成形したものである。成形体20は、透明であってもよく、半透明であってもよく、あるいは不透明であってもよい。ホットメルト接着剤は、例えば、トランスファー成形法によって所定形状に成形される。そのため、ホットメルト接着剤は、1液性の熱可塑性ホットメルト接着剤であることが好ましい。また、ホットメルト接着剤は、射出圧力が0.2~6MPaで且つ射出温度が180℃以上240℃以下の低温低圧で射出成形ができる材料であることが好ましい。成形体20は、例えば、金型の中に保護膜30を形成するための加飾フィルムまたは転写シートと回路フィルム40とをセットして成形される。加飾フィルムまたは転写シートと回路フィルム40とがセットされたキャビティに、溶融したホットメルト接着剤を射出して冷却・固化することで、成形体20が成形される。このときの射出成形の条件は、射出圧力が0.2~6MPaで且つ射出温度が180℃以上240℃以下の低温低圧から選択されることが好ましい。このような低温低圧の射出成形でも、転写シートによるホットメルト接着剤への転写は可能である。
このようなホットメルト接着剤には、ヘンケルジャパン株式会社製のテクノメルト(登録商標)がある。ホットメルト接着剤としては、例えば、ポリアミド系のホットメルト接着剤、ポリオレフィン系のホットメルト接着剤、ポリウレタン系のホットメルト接着剤がある。例えば、ポリアミド系のホットメルト接着剤としてはテクノメルトPAがあり、ポリオレフィン系のホットメルト接着剤としてはテクノメルトASがあり、ポリウレタン系のホットメルト接着剤としてはテクノメルトPURがある。このようなホットメルト接着剤をテクノメルトの型番で示すと、例えば、6208、6208S、633、638、652、657、673、678、341、648、2384、2384S、またはAS-5375になる。
成形体20は、ホットメルト接着剤の最も薄肉の部分が0.2mm以上であることが好ましい。成形体20には、例えば、ガラス繊維、無機フィラーなどの補強剤を添加することもできる。
【0015】
(2-2)保護膜30
保護膜30は、加飾フィルムまたは転写層である。保護膜30が加飾フィルムである場合、加飾フィルムは、例えば、ベースフィルムと図柄層と接着層とを備えている。ここで示す保護膜30では、ベースフィルムと図柄層と接着層とは層構造を成し、成形品10の最外部に配置されるのが、ベースフィルムである。ベースフィルムよりも成形体20に近い側に図柄層が配置される。図柄層と成形体20の間に接着層が配置される。要するに、成形品10の外側から成形体20に向かって、ベースフィルム、図柄層、接着層の順に配置される。なお、図柄層は、一部または全部を省いてもよい。また、ベースフィルムの外側に、耐久性を高めるためにコート層が設けられてもよい。ベースフィルムの厚さは、例えば10μm~500μmの範囲から選択されるのが一般的である。ベースフィルムの厚さは、成形体20の立体形状に追従しやすくするために、好ましくは、15μm~100μmである。なお、成形品10の外側から成形体20に向かって、図柄層、ベースフィルム、接着層であってもよい。図柄層の外側に、コート層が設けられてもよい。また、ベースフィルムが接着層を兼ねてもよい。
ベースフィルムには、例えば、樹脂及びエラストマーの少なくとも一方が使用される。樹脂製のベースフィルムは、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、スチレン樹脂若しくはABS樹脂からなる樹脂フィルム、アクリル樹脂とABS樹脂の多層フィルム、またはアクリル樹脂とポリカーボネート樹脂の多層フィルムから選択される。また、ベースフィルムに用いられるエラストマーとしては、例えば、熱可塑性エラストマー(TPE)を用いることができる。熱可塑性エラストマーには、例えば、アミド系TPE(TPA)、エステル系TPE(TPC)、オレフィン系TPE(TPO)、スチレン系TPE(TPS)、ウレタン系TPE(TPU)がある。なお、樹脂フィルムとエラストマーフィルムとを積層したベースフィルムを用いてもよい。
【0016】
図柄層は、図柄などの意匠を表現するための層である。図柄層は、ベースフィルムに例えばグラビア印刷法またはスクリーン印刷法によって形成される。図柄層を構成する材料は、例えば、アクリル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、熱可塑性ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などの樹脂と、樹脂に添加される顔料または染料を含むものである。また、図柄層は、例えば印刷法または金属蒸着法を使用して金属調意匠が施されたものであってもよい。印刷法では、例えばアルミペーストまたはミラーインキを用いることができる。また、金属蒸着法では、例えばアルミ、スズ、インジウム、またはクロムなどの金属材料を用いることができる。なお、図柄層の保護のためのコート層が、ベースフィルムとは反対の側の図柄層の上に設けられてもよい。
接着層には、例えば、熱可塑性樹脂が使用できる。接着層に使用される熱可塑性樹脂としては、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂が挙げられる。接着層は、溶融樹脂の熱によって接着性を発現し、成形体20との間の接着力を向上させる。接着層の厚さは、例えば乾燥後の膜厚で2μm~20μmである。ホットメルト接着剤の発現する接着力だけでも加飾フィルムの接着に十分な場合には、接着層を省いてもよい。
【0017】
保護膜30が転写層で形成される場合は、転写シートを金型の中に入れて、成形と同時に転写層を形成する。転写シートは、例えば、基体シートと転写層と接着層とを備えている。転写によって、転写層と接着層が、基体シートから成形体20の表面に移されて、成形体20の表面を保護する保護膜30となる。
基体シートは、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂または特殊多層構造フィルムで形成される。
転写層には、例えば、図柄層及び基体シートから転写層を剥離するための剥離層が含まれている。剥離層は、図柄層を保護するコート層として機能するように構成されてもよい。また、剥離層とは別にコート層が設けられてもよい。転写層の図柄層には、加飾フィルムの図柄層と同様のものを用いることができる。
転写層を接着する接着層には、加飾フィルムの接着層と同様のものを用いることができる。
【0018】
(2-3)回路フィルム40
回路フィルム40は、
図6に示されているように、例えば、熱可塑性の絶縁フィルム45と、導電層46と、図柄層47,48と、コート層49とを備えている。
熱可塑性の絶縁フィルム45には、例えば、熱可塑性樹脂製のフィルム、熱可塑性エラストマー製のフィルムまたはそれらの積層フィルムを用いることができる。熱可塑性樹脂製のフィルムは、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、スチレン樹脂若しくはABS樹脂からなる樹脂フィルム、アクリル樹脂とABS樹脂の多層フィルム、またはアクリル樹脂とポリカーボネート樹脂の多層フィルムである。また、ベースフィルムに用いられるエラストマーとしては、例えば、熱可塑性エラストマー(TPE)を用いることができる。熱可塑性エラストマーには、例えば、TPA、TPC、TPO、TPS、TPUがある。絶縁フィルム45の厚さは、例えば、30μm~500μmの範囲から選択される。
導電層46は、例えば、導電材料を絶縁フィルム45及び/または図柄層47の表面に形成した後にパターニングして形成される。あるいは、導電層46は、例えば、絶縁フィルム45及び/または図柄層47の表面に、導電性インキを厚膜印刷で印刷して形成される。導電層46を構成する導電性材料には、例えば、金属材料、及び半導体材料がある。金属材料としては、例えば、銅、アルミニウム、炭素、ニッケル、金、銀、または錫を用いることができる。半導体の材料には、例えば、金属酸化物、及び導電性ポリマーがある。
【0019】
図柄層47,48は、図柄などの意匠を表現するための層である。図柄層47,48は、絶縁フィルム45に例えばグラビア印刷法またはスクリーン印刷法によって形成される。図柄層47,48を構成する材料は、例えば、アクリル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、熱可塑性ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などの樹脂と、樹脂に添加される顔料または染料を含むものである。また、図柄層47,48は、例えば絶縁処理されたアルミペーストまたはミラーインキを使用して金属調意匠が施されたものであってもよい。また、図柄層48に凹凸を形成してもよい。なお、ここでは、2層の図柄層47,48を配置する場合について説明しているが、図柄層47,48の一方または両方が形成されていない回路フィルム40を用いることもできる。
コート層49は、例えば、回路フィルム40の耐久性を向上させるための層である。コート層49は、一体成形のときに成形体20と接着できる材料で構成される。コート層49には、例えば、UV(紫外線)硬化樹脂、熱硬化樹脂が用いられる。回路フィルム40は、コート層49を設けない構成とすることもできる。
【0020】
<第2実施形態>
(3)全体構成
図13には、本発明の第2実施形態に係るウェアラブルな電気回路一体化成形品が適用されている防水型音楽プレイヤが示されている。
図13に示されている防水型音楽プレイヤ101において、耳に対向している2つの本体部110が、ウェアラブルな電気回路一体化成形品である。防水型音楽プレイヤ101には、本体部110以外に、掛止部102を有している。掛止部102は、耳に掛かる部分と左右の耳に配置されている2つの本体部110をつなぐ紐の部分とからなる。本体部110と掛止部102は、例えば、本体部110と掛止部102とが別々に成形されて、各々の成形後に接着される。
図14には、
図13に示されている防水型音楽プレイヤ101の本体部110が拡大して示されている。
図14におけるIII-III線に沿った断面が
図15に示され、
図14におけるIV-IV線に沿った断面が
図16に示され、
図14のV-V線に沿った断面が
図17に示されている。本体部110のうちの使用者の頭部に向いた内側面に、人体の皮膚に直接接触する接触部分Pa1がある。
本体部110の表面のうちの接触部分Pa1以外の部分は、例えば防水型音楽プレイヤ101の脱着の際に、使用者が手で触れる部分である。しかし、常に皮膚に接触する箇所ではないため、接触部分Pa1以外の箇所で使用者が手で触れる部分を準接触部分Pa2と呼ぶ。
成形品である本体部110の立体的形状は、主に、成形体120と成形回路部品140によって形作られる。そのため、成形体120は、立体的な所定形状に成形されている。第2実施形態では、成形体120が、ホットメルト接着剤のみで形成されている場合について説明する。例えば本体部110の内部に、LED160、スピーカ170及びアンテナ190などのデバイスが実装されている場合などにおいて、ホットメルト接着剤を用いることで、成形体120の最も薄い部分の厚さを、例えば、0.4mm程度まで薄くすることができる。成形回路部品140には、LED160から照射される光を導くための導光路121が透明な樹脂で形成されている。また、スピーカ170の後部には、装飾を兼ねて、貫通孔が形成されている導波部材122が嵌め込まれている。スピーカ170は成形回路部品140と接続されている部分(図示せず)を含め、成形体120で覆われている。
図15から
図17に示されているように、保護膜130が、成形体120の表面の一部を覆っている。また、
図15から
図17に示されているように、成形回路部品140が成形体20と一体成形されている。成形回路部品140は、導電層146を有している。成形回路部品140の導電層146には、電気回路150が装置されている。
第2実施形態でも、電気回路150が、
図18に示されているアンテナ190を含んでいる。このアンテナ190(電気回路150)は、本体部110の外部に電磁波を発生させる。また、アンテナ190は、本体部110の外部に生じた電磁波を受信して電気信号を発生させる。成形回路部品140の外面に、塗膜180が形成されている。この塗膜180は、成形回路部品140の耐久性を向上させるためのコート層であってもよい。なお、この塗膜180の形成は省いてもよい。
また、第2実施形態の成形体120であるホットメルト接着剤は、耳の穴の中に嵌め込まれる柔らかいエラストマー製のイヤーピース185の一部を覆っている。エラストマー製のイヤーピース185の一部を覆っている成形体120がホットメルト接着剤であることから、柔らかいイヤーピース185を確実に固定することができる。
【0021】
第2実施形態では、本体部110において、保護膜130が、例えば、
図15に示されているように、接触部分Pa1の表面全体に配置されている接触領域Ar1を有している。本体部110の成形体120は、保護膜130の接触領域Ar1を挟んで皮膚とは反対側に配置されているホットメルト接着剤である。成形体120を構成するホットメルト接着剤は、耳の凹凸に合わせた複雑な立体形状を有する。
図15から
図17に示されているホットメルト接着剤(成形体120)の形状により、本体部110の耳に当接する側の立体形状が規定されている。
【0022】
ホットメルト接着剤は、成形回路部品140の一部を覆っている。特に、LED160と接続される配線141をホットメルト接着剤が覆っている。配線141は、例えば、成形回路部品140の導電層146により形成される。LED160は、電気回路150の構成要素とみなすことができる。言い換えると、LED160は、本体部110に実装されたデバイスである。電気回路150の一部であるLED160は、成形品10の外部に光を発生させるという物理的な変化を生じさせる。ここでは、LED160を電気回路150に形成する場合について説明したが、例えば、フォトダイオードを電気回路150に設けてもよい。フォトダイオードは、成形品10の外部に生じた赤外線の変化(物理的な変化)を受信して電気信号を発生させる。
前述の金属製の配線141は通常湿気によって錆びるものである。しかし、ホットメルト接着剤により覆われた配線141は、防水性が向上し、錆びの発生などの不具合が防止される。特にホットメルト接着剤は、金属との接着性に優れているので、金属との間に隙間を生じさせ難い。このように、成形体120は、成形回路部品140と一体化されてその一部を覆いながら、耳の形状に合わせて本体部110の小さくて複雑な形状を規定することができている。
また、スピーカ170と接続される配線(図示せず)をホットメルト接着剤が覆っている。スピーカ170と接続された配線は、例えば、成形回路部品140の導電層146により形成される。スピーカ170は、電気回路150の構成要素とみなすことができる。言い換えると、スピーカ170は、本体部110に実装されたデバイスである。電気回路150の一部であるスピーカ170は、成形品10の外部に音を発生させるという物理的な変化を生じさせる。ここでは、スピーカ170を電気回路150に形成する場合について説明したが、例えば、マイクロフォンを電気回路150に設けてもよい。マイクロフォンは、成形品10の外部に生じた音(物理的な変化)を受信して電気信号を発生させる。
ホットメルト接着剤は、使用者が触れると使用者にタック性を感じさせてしまう。接触部分Pa1に配置されているホットメルト接着剤の表面を保護膜130の接触領域Ar1が覆っている。そのため、防水型音楽プレイヤ101を使用する使用者は、ホットメルト接着剤特有のタック性を感じることがなく、快適な装着感を得ることができる。
図15から
図17に示されている本体部110は、保護膜130のみが接触領域Ar1を有する。言い換えると、第2実施形態では、成形回路部品140が、接触領域を有していない。
LED160及びスピーカ170と外部の装置または電源などとは、例えば、ケーブル(図示せず)によって接続することができる。あるいは、本体部110の中に、外部から電磁波を用いて充電できる電源を設けて、防水型音楽プレイヤ101が外部の装置または電源と有線で接続することなく動作するように構成してもよい。また、本体部110を、集積回路(図示せず)を含むように構成してもよい。
【0023】
(4)詳細構成
(4-1)成形体120
第2実施形態の成形体120は、ホットメルト接着剤を立体形状に成形したものである。この成形体120は、第1実施形態の成形体20と同じ材料を用いて、同じ成形方法で成形することができる。第2実施形態の成形体120の成形工程では、金型のキャビティの中に、回路フィルム40及び集積回路60に代えて、メッキが施された後の成形回路部品140、LED160及びスピーカ170がセットされる。メッキが施された後の成形回路部品140、LED160及びスピーカ170がセットされた金型のキャビティの中に、トランスファー成形法によってホットメルト接着剤が射出される。ホットメルト接着剤の材質及び射出の条件は、例えば、第1実施形態の成形体20の製造方法と同じに設定できる。
【0024】
(4-2)保護膜130
第2実施形態の保護膜130は、加飾フィルムまたは転写層である。第2実施形態の保護膜130は、第1実施形態の保護膜30と同様の構成とすることができるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
(4-3)成形回路部品140
成形回路部品140は、樹脂成形部品の上に導電層146が形成された部品である。導電層146は、樹脂成形部品の表面に、例えば、レーザダイレクトストラクチャリング(LDS)プロセスを用いて形成することができる。LDSプロセスでは、例えば、無機充填剤を含む樹脂成型部品の表面に赤外線レーザを照射して無機充填剤を活性化させる。活性化された無機充填剤が配置されている部分には、例えば無電解メッキにより金属被覆が可能になる。この金属被覆された部分が導電層146になる。
成形回路部品140の材料は、射出成型が可能な材料である。成形回路部品140の材料には、例えば、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーを用いることができる。熱可塑性樹脂には、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、スチレン樹脂及びABS樹脂がある。熱可塑性エラストマーには、例えば、TPA、TPC、TPO、TPS、TPUがある。
なお、成形回路部品140には、集積回路が実装されてもよい。
【0025】
(5)変形例
以上、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
(5-1)変形例1
上記第1実施形態では、成形体20がホットメルト接着剤のみで形成されている場合について説明した。しかし、成形体20は、ホットメルト接着剤以外の材料と組み合わせて形成されてもよい。成形体20は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂または熱可塑性エラストマーで形成された成形部品と立体的な形状を有するホットメルト接着剤からなる立体形状の部分とを組み合わせて構成してもよい。また、立体的な形状を有するホットメルト接着剤と組み合わせる成形部品は、樹脂以外の材料で構成されてもよく、例えば、金属、セラミックであってもよい。
このようにホットメルト接着剤と成形部品とを組み合わせて成形体20を構成する場合、成形部品は第2実施形態の成形回路部品140のように導電層146を有するものでなくてもよい。また、ホットメルト接着剤と組み合わせる成形部品は、複数であってもよく、成形回路部品140と成形回路部品以外の成形部品とホットメルト接着剤とを組み合わせて成形品を構成してもよい。
ホットメルト接着剤とホットメルト接着剤以外の成型部品とを組み合わせる場合には、例えば、金型のキャビティ内に成形部品と、回路フィルム40と、保護膜30とをセットしてから、溶融したホットメルト接着剤をキャビティの中に射出して成形品を成形する。あるいは、ホットメルト接着剤とホットメルト接着剤以外であって且つ成形回路部品140以外の成型部品とを組み合わせる場合には、例えば、金型のキャビティ内に成形部品と、成形回路部品140と、保護膜130をとセットしてから、溶融したホットメルト接着剤をキャビティの中に射出して成形品を成形する。
(5-2)変形例2
上記第1実施形態及び第2実施形態では、成形品として、眼鏡1及び防水型音楽プレイヤ101に適用される成形品10及び本体部110を例に挙げて説明した。しかし、ウェアラブルな電気回路一体化成形品は、眼鏡1及び防水型音楽プレイヤ101に適用されるものには限られない。ウェアラブルな電気回路一体化成形品は、例えば、人体に接触させるウェアラブルな血圧計、ウェアラブルな脈拍計、ウェアラブルな血糖値測定器に適用されるものであってもよい。
【0026】
(5-3)変形例3
上記第1実施形態では、電気回路50が、デバイスとしてアンテナを含んでいる場合について説明した。しかし、電気回路50が含むデバイスは、アンテナには限られない。電気回路50に含まれるデバイスは、例えば、LED、ヒータ及びタッチセンサのうちの少なくとも一つであってもよい。デバイスがLEDであり、LEDがホットメルト接着剤に覆われる場合には、ホットメルト接着剤は、透明または半透明であってもよい。また、保護膜30及び/または回路フィルム40も透明または半透明であってもよい。また、電気回路50にタッチセンサを設ける場合には、透明電極を用いてもよい。透明電極は、例えば、金属酸化物、透明導電性ポリマーまたは透明導電インキで形成される。金属酸化物としては、例えば、酸化インジウム錫(ITO)及び酸化インジウム亜鉛(IZO)が挙げられる。透明導電性ポリマーとしては、例えば、PEDOT/PSS(poly-3,4-エチレンジオキシチオフェン/ポリスルフォン酸)が挙げられる。また、透明導電インキとしては、例えば、カーボンナノチューブまたは銀ナノファイバーをバインダー中に含むものが挙げられる。
また、第2実施形態では、電気回路150が、デバイスとして、LED160、スピーカ170、アンテナ190を含む場合について説明した。しかし、電気回路150に含まれるデバイスは、LED160、スピーカ170、アンテナ190には限られない。電気回路150に含まれるデバイスは、例えば、フォトダイオード、マイクロフォン、ヒータ及びタッチセンサのうちの少なくとも一つであってもよい。
【0027】
(5-4)変形例4
上記第1実施形態の成形品10は、回路フィルム40に実装されている集積回路60を備えている。デバイスであるアンテナを含む電気回路50が、集積回路60が実装されている面と同じ面に配置されている。しかし、アンテナと集積回路60は、成形体20が持つ複数の面のうちの異なる面に配置されてもよい。
図7に示されている回路フィルム40は、ホットメルト接着剤である成形体の表面に、断面J字形に形成されている。集積回路60と電気回路50のアンテナは、断面J字形の回路フィルム40の別々の場所に配置されている。また、集積回路60とデバイスであるアンテナは、成形体20の異なる面に配置されている。これら集積回路60とアンテナは、ホットメルト接着剤に覆われている。この場合の異なる面というのは、言い換えると、
図7の成形体20において、互いに対向する第1面F1と第2面F2である。アンテナから電磁波を放射したり、アンテナで電磁波を受けたりするため、アンテナは、使用者の頭部から遠い位置に配置される方が好ましく、アンテナは、第1面F1に配置されるよりも、第2面F2に配置される方が好ましい。
図7には、回路フィルム40が断面J字形に形成されている場合が示されている。しかし、成形体20の異なる面に集積回路60と電気回路50のデバイスを配置するための回路フィルム40の形状は、他の形状であってもよく、例えば、断面U字形または断面L字形であってもよい。
回路フィルム40の形状が断面L字形の場合に、成形体20の異なる面に集積回路60とデバイスとを配置するには、成形体20の複数の面のうちの回路フィルム40が配置された互いに隣接する面に、集積回路60と電気回路50(デバイス)とが配置される。
【0028】
(5-5)変形例5
上記第1実施形態では、回路フィルム40が成形品10の表面に露出して配置される場合について説明した。しかし、回路フィルム40は、成形品10の表面に露出しないように配置されてもよい。
例えば、
図8に示されているように、成形体20を半分に分割して、成形品10の外周に対応する部分に保護膜30を一体成形した2つの部品をまずつくる。その一体成形の際に、回路フィルム40と電気回路50と集積回路60を一方の部品の成形体20の中に埋め込むように成形体20と一体成形する。これらの2つの部品を接着して、成形品10の外周の全周が保護膜30で覆われるように構成する。それにより、成形体20の内部に回路フィルム40が埋め込まれ、表面に回路フィルム40が露出しない成形品10が形成される。
回路フィルム40と電気回路50が埋め込まれる場所は、
図9に示されているように、成形体20の表面であってもよい。成形体20の表面に露出した回路フィルム40のさらに外側を保護膜30で覆うことで、成形品10の表面には回路フィルム40が露出しない成形品10を構成することができる。
また、
図10に示されているように、回路フィルム40を断面U字型に形成して、回路フィルム40、電気回路50及び成形体20の外周の全周を保護膜30で覆うように構成してもよい。この場合、
図8に示したように、2つに分割した成形体20を接着剤で接続するようにして形成することができる。
また、上記第2実施形態では、成形回路部品140が成形品である本体部110の表面に露出して配置される場合について説明した。しかし、成形回路部品140は、成形品の表面に露出しないように配置されてもよい。例えば、成形回路部品がホットメルト接着剤に包埋されるように構成されてもよい。
【0029】
(5-6)変形例6
上記第1実施形態では、保護膜30が接触領域Ar1を有する場合について説明した。しかし、回路フィルムが接触領域を有するように構成することもできる。例えば、
図11に示されている電気回路一体化成形品10は、2枚の回路フィルム40A,40Bを備えており、回路フィルム40Aに接触領域Ar1が設けられている。この場合、一方の回路フィルム40Aは、第1面F1に配置されて、回路フィルム40Aには集積回路60が実装されている。他方の回路フィルム40Bは、第2面F2に配置されて、回路フィルム40Bには電気回路50の一部であるアンテナが配置されている。なお、集積回路60と電気回路50とは、成形体20の内部で接続してもよく、成形体20の外部で接続してもよい。
(5-7)変形例7
上記第1実施形態では、回路フィルム40が片面にのみ導電層46が設けられている場合について説明した。しかし、回路フィルム40の両面に導電層が設けられていてもよい。
図12に示されている回路フィルム40は、スルーホール42で配線41と電気回路50のアンテナとを接続している。アンテナは、回路フィルム40の2つの主面のうちの成形体20に接触する面とは反対側の面に形成されている。このアンテナを含む電気回路50は、コート層49によって覆われて保護されている。
【0030】
(6)特徴
(6-1)
上記実施形態及び変形例で説明したように、ウェアラブルな電気回路一体化成形品10及び回路一体化成形品である本体部110は、立体的な所定形状を有する成形体20,120の一部または全てが、ホットメルト接着剤の立体形状で規定されている。
図1に示されている眼鏡1では、ツル2とモダン3とヒンジ4の立体的な形状が、成形体20の有する立体的な所定形状である。
図15から
図17に示されている防水型音楽プレイヤ101の本体部110の立体的な形状のうち耳に対応する部分の形状が、主に、成形体120の有する立体的な所定形状である。
上記第1実施形態及び第2実施形態では、成形体20,120の所定形状の全てがホットメルト接着剤の立体形状で規定されている。また、変形例1で説明したように、成形体20,120が成型部品とホットメルト接着剤から構成されている場合には、成型部品以外の立体形状がホットメルト接着剤で規定される。
成形体20,120のホットメルト接着剤は、少なくとも、接触部分Pa1(
図2及び
図15参照)の成形体20の表面に配置されている。この接触部分Pa1は、保護膜30,130または回路フィルム40Aの接触領域Ar1で覆われている。もし、この接触部分Pa1が、保護膜30,130または回路フィルム40Aで覆われていなければ、ホットメルト接着剤が使用者の皮膚に直接接触することになる。接触部分Pa1の成形体20のホットメルト接着剤が保護膜30,130または回路フィルム40Aの接触領域Ar1で覆われることで、ホットメルト接着剤が皮膚に直接接触するのが防がれ、ホットメルト接着剤が皮膚に触れることによる不具合を防止することができる。
例えば、眼鏡1の使用者には、ホットメルト接着剤の表面の触感ではなく、保護膜30または回路フィルム40Aの触感が与えられ、使用者が快適に眼鏡1を着用することができる。例えば、防水型音楽プレイヤ101の使用者には、ホットメルト接着剤の表面の触感ではなく、保護膜130の触感が与えられ、使用者が快適に防水型音楽プレイヤを着用することができる。
図2、
図7から
図12に示されている回路フィルム40,40A,40Bの一部がホットメルト接着剤で覆われている。その結果、ホットメルト接着剤で覆われた回路フィルム40,40A,40Bの導電層の防水性が向上している。特に、アンテナ、LED、ヒータまたはタッチセンサを含む電気回路50がホットメルト接着剤で覆われている場合には、アンテナ、LED、ヒータまたはタッチセンサの防水性が向上する。
図15から
図17に示されている成形回路部品140の一部がホットメルト接着剤で覆われている。その結果、ホットメルト接着剤で覆われた成形回路部品140の導電層146の防水性が向上している。特に、LED160、スピーカ170、アンテナ190、フォトダイオード、ヒータまたはタッチセンサを含む電気回路150がホットメルト接着剤で覆われている場合には、LED、アンテナ、スピーカ、ヒータまたはタッチセンサの防水性が向上する。
【0031】
(6-2)
導電層46を有する回路フィルム40,40A,40Bに比べて保護膜30には、高い柔軟性を持たせ易い。例えば、
図2に示されているように、保護膜30のみが接触領域Ar1を有するように構成されている場合には、高い柔軟性を持つ保護膜30を成形体20の表面形状に沿わせればよい。そのため、電気回路一体化成形品10は、接触部分Pa1の部分が精細且つ立体的な形状であっても、保護膜30が高い柔軟性を持つため、そのような精細且つ立体的な形状を形成し易くなる。保護膜30によって精細且つ立体的な形状に十分に対応できれば、意匠性の高い電気回路一体化成形品10の提供が可能になる。
また、導電層146を有する成形回路部品140に比べて保護膜130には、高い柔軟性を持たせ易い。そのため、例えば、
図15から
図17に示されているように、保護膜130のみが接触領域Ar1を有するように構成されている場合には、高い柔軟性を持つ保護膜130を成形体120の表面形状に沿わせればよい。そのため、電気回路一体化成形品である本体部110は、接触部分Pa1の部分が精細且つ立体的な形状であっても、保護膜130が高い柔軟性を持つため、そのような精細且つ立体的な形状を形成し易くなる。保護膜130によって精細且つ立体的な形状に十分に対応できれば、意匠性の高い本体部110の提供が可能になる。
(6-3)
例えば、
図7に示されているウェアラブルな電気回路一体化成形品10は、回路フィルム40に実装されている集積回路60を備えている。電気回路50は、集積回路60に接続されているアンテナを含んでいる。回路フィルム40が、ホットメルト接着剤の表面に、断面J字形に形成されている。集積回路60が配置されている第1面F1は使用者の頭部に近く、他の第2面F2は頭部よりも遠い位置にある。そのため、アンテナを配置するには、第2面F2の方が第1面F1よりも適している。このように、回路フィルム40を断面J字形として集積回路60と電気回路50のアンテナを成形体20の異なる面に配置することで、アンテナを適した位置に配置できている。
回路フィルム40を断面U字形または断面L字形とする場合にも、電気回路一体化成形品10は、断面J字形の場合と同様の効果を得ることができる。
【0032】
(6-4)
電気回路一体化成形品10及び本体部110の成形体20,120を構成しているホットメルト接着剤は、射出圧力が0.2~6MPaで且つ射出温度が180℃以上240℃以下の低温低圧で射出成形ができる材料で構成されている。
このように構成されている電気回路一体化成形品10は、電気回路50に接続されている例えば集積回路60に、ホットメルト接着剤から与えられるダメージを小さくすることができる。射出成形時に樹脂から受ける圧力によって、例えば、集積回路60と配線41との接続が切断されるなどの不具合を防止することができる。例えば、集積回路60の耐熱性が低い場合に、集積回路60が射出成形時の温度によって破壊されるのを防止することができる。
このように構成されている電気回路一体化成形品である本体部110は、電気回路150に含まれる例えばLED160及びスピーカ170に、ホットメルト接着剤から与えられるダメージを小さくすることができる。射出成形時に樹脂から受ける圧力によって、例えば、LED160と配線141との接続が切断されるなどの不具合を防止することができる。例えば、LED160の耐熱性が低い場合に、LED160が射出成形時の温度によって破壊されるのを防止することができる。
(6-5)
図2、
図7から
図12の電気回路一体化成形品10は、保護膜30及び回路フィルム40,40A,40Bのうちの少なくとも一方が、成形体20のうちのホットメルト接着剤が露出する箇所の全てを覆っている。その結果、保護膜30及び回路フィルム40,40A,40Bのうちの少なくとも一方によって、電気回路一体化成形品10ではホットメルト接着剤が露出しない。例えば、
図1の眼鏡1を用いて説明した準接触部分Pa2を使用者が手で触っても、使用者がホットメルト接着剤に触れることがなくなる。このように、成形品10の取り扱い時に、人体にホットメルト接着剤が触れるのを防止することができ、ホットメルト接着剤が人体に触れることによる不具合を防止することができる。
図15から
図17の本体部110は、保護膜130が、成形体120のうちのホットメルト接着剤が露出する箇所の全てを覆っている。その結果、本体部110ではホットメルト接着剤が露出しない。例えば、
図15の本体部110の準接触部分Pa2を使用者が手で触っても、使用者がホットメルト接着剤に触れることがなくなる。このように、本体部110の取り扱い時に、人体にホットメルト接着剤が触れるのを防止することができ、ホットメルト接着剤が人体に触れることによる不具合を防止することができる。
ホットメルト接着剤にも数種グレードがあり、特に金属回路など電子部品と接着性のよいホットメルト接着剤は表面にタック性をもつ。ホットメルト接着剤が人体に触れるのを防ぐために、人体に触れる製品ではホットメルト接着剤の表面に保護膜を設けることが必要である。
【符号の説明】
【0033】
1 眼鏡
2 ツル
3 モダン
4 ヒンジ
10 電気回路一体化成形品
20,120 成形体
30,130 保護膜
40,40A,40B 回路フィルム
46,146 導電層
50,150 電気回路
101 防水型音楽プレイヤ
110 本体部(電気回路一体化成形品の例)