(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】ポリエステルテキスタイル上へのインクジェット印刷
(51)【国際特許分類】
D06M 10/02 20060101AFI20220721BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220721BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220721BHJP
D06P 5/20 20060101ALI20220721BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20220721BHJP
【FI】
D06M10/02 C
B41J2/01 125
B41J2/01 501
B41J2/01 121
B41M5/00 114
B41M5/00 100
D06P5/20 E
D06M101:32
(21)【出願番号】P 2020514335
(86)(22)【出願日】2018-05-17
(86)【国際出願番号】 EP2018062866
(87)【国際公開番号】W WO2018210996
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-12-17
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519408537
【氏名又は名称】サン・ケミカル・アドバンスト・マテリアルズ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】グレナ,クレア
(72)【発明者】
【氏名】ソリーゴ,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】グロッソ,ルディ
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-099081(JP,A)
【文献】特開平09-279490(JP,A)
【文献】特表2010-519701(JP,A)
【文献】特開平01-207475(JP,A)
【文献】特開昭61-118473(JP,A)
【文献】特開2003-183984(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0169901(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00-15/715
C09D 11/00-11/54
D06B 1/00-23/30
B41J 2/01
B41M 5/00-5/52
D06J 1/00-1/12
D06C 3/00-29/00
D06G 1/00-5/00
D06H 1/00-7/24
D06P 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系分散染料インク組成物を用いたインクジェット印刷のためにポリエステルテキスタイルを前処理する方法であって、前記ポリエステルテキスタイルの表面の疎水性を増大させるために、該ポリエステルテキスタイルの表面の少なくとも一部を処理することを含
み、
前記前処理が、ケイ素含有化合物の1つ若しくは複数、又は、フッ素含有化合物の1つ若しくは複数、を用いた大気圧プラズマ法を含む、方法。
【請求項2】
疎水性ポリマーコーティングを前記表面上に形成することを含
み、
該疎水性コーティングが、
15ダイン/cm(15mN/m)~35ダイン/cm(35mN/m)の測定可能な表面自由エネルギーを付与する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリエステルテキスタイルが、10g/m
2~100g/m
2の単位面積当たり重量のポリエステル織布である、請求項1
又は請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
ポリエステルテキスタイルのデジタル印刷の方法であって、
疎水性を増加させるために前記ポリエステルテキスタイルの表面の少なくとも一部を前処理すること、
を含み、該前処理が、ケイ素含有化合物の1つ若しくは複数、又は、フッ素含有化合物の1つ若しくは複数、を用いた大気圧プラズマ法を含み、
前記方法が、さらに、
前記ポリエステルテキスタイルの前記処理された表面上に水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷すること、及び、
前記ポリエステルテキスタイルの前記処理された表面上の前記印刷された画像を定着させるために前記印刷されたポリエステルテキスタイルを加熱すること
、
を含む、方法。
【請求項5】
前記前処理が請求項1から請求項
3のいずれかに記載の前処理を含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記インクジェット印刷が、35ダイン/cm(40mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)の表面張力を有する水系分散染料インク組成物を前記ポリエステルテキスタイルの前記前処理された表面上にインクジェット印刷することを含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱が、前記インクジェット印刷の完了の60秒以内に、100℃~130℃の温度に前記印刷されたポリエステルテキスタイルを加熱することを含む、請求項
4から請求項
6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記加熱が、熱源を前記印刷されたポリエステルテキスタイルと直接接触させることのない乾式加熱を含む、請求項
4から請求項
7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記ポリエステルテキスタイルが、10g/m
2~100g/m
2の単位面積当たり重量のポリエステル織布である、請求項
4から請求項
8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ケイ素含有化合物の1つ若しくは複数、又は、フッ素含有化合物の1つ若しくは複数、を用いた大気圧プラズマ法により少なくとも部分的に処理された表面を有するポリエステルテキスタイルに印刷する方法であって、
前記ポリエステルテキスタイルの前記処理された
表面上に水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷すること、及び、
前記ポリエステルテキスタイルの前記処理された表面上の前記印刷された画像を定着させるために前記印刷されたポリエステルテキスタイルを加熱すること
を含む、方法。
【請求項11】
前記処理された表面が、前記水系分散染料組成物の前記表面張力より低い、5ダイン/cm(5mN/m)~30ダイン/cm(30mN/
m)の測定可能な表面自由エネルギーを有する、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記インクジェット印刷が、35ダイン/cm(35mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)の表面張力を有する水系分散染料インク組成物を前記ポリエステルテキタイルの前記前処理された表面上にインクジェット印刷することを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記加熱が、前記インクジェット印刷の完了の60秒以内に、100℃~130℃の温度に前記印刷されたポリエステルテキスタイルを加熱することを含む、請求項
10から請求項
12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記ポリエステルテキスタイルが、10g/m
2~100g/m
2の単位面積当たり重量のポリエステル織布である、請求項
10から請求項
13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
ケイ素含有化合物の1つ若しくは複数、又は、フッ素含有化合物の1つ若しくは複数、を用いた大気圧プラズマ法により、疎水性コーティングで処理された表面を少なくとも一部に含む印刷されたポリエステルテキスタイルであって、前記処理された表面が、前記ポリエステルテキスタイルの前記処理された表面上に水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷することによって形成された印刷された画像を有する、印刷されたポリエステルテキスタイル。
【請求項16】
15ダイン/cm(15mN/m)~35ダイン/cm(35mN/
m)の測定可能な表面自由エネルギーを有する、請求項
15に記載の印刷されたポリエステルテキスタイル。
【請求項17】
10g/m
2~100g/m
2の単位面積当たり重量を有するポリエステル織布を含む、請求項
16に記載の印刷されたポリエステルテキスタイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的には、ポリエステルテキスタイル上に水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷する方法及び該方法によって得られた印刷されたポリエステルテキスタイルに関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的なテキスタイル印刷は、通例、莫大な量の水を必要とする。印刷された染料の定着工程の間に水が関わっており、定着工程後に残存する過剰な染料及び補助化学物質をテキスタイルから洗い落とすために、極めて大量の水が使用される。
【0003】
インクジェット印刷などのデジタルテキスタイル印刷法は、水の消費量を軽減する可能性をもたらす。デジタル印刷では、テキスタイルの表面と化学物質の接触がより少なくなり、したがって、伝統的なテキスタイル印刷と比べて洗浄がより少なくなる。
【0004】
しかしながら、一般に、デジタルテキスタイル印刷は、従来のテキスタイル印刷に使用されていたものと比べて、ずっと低い粘度のインクを必要とする。その結果、印刷されたインクが十分な染色堅牢度を有し、残存する着色剤を除去するために過剰なすすぎが必要とならないようにするために、テキスタイルには、通常、印刷の前に処理が施される。
【0005】
テキスタイルの前処理は、浸漬又は噴霧コーティングなどの湿式法を含むことができ、その後に乾燥される。あるいは、前処理は、コロナ又はプラズマ処理などの乾式法を含むことができる。
【0006】
ポリエステルテキスタイルの前処理は、デジタル印刷されるべきインクの種類に依存する。顔料インクが使用されるべき場合には、前処理は、特に、陽イオン性ポリウレタンなどの陽イオン性ポリマーでポリエステルテキスタイルをコーティングすること(例えば、国際公開第2014/039306号及びその中の参考文献を参照)又は不活性ガスと酸素含有ガスの混合物から生成された大気圧プラズマを用いてエッチングすること(例えば、チャン・シー(Zhang C.)及びファン・ケー(Fang K)著,「サーフェス・アンド・コーティングス・テクノロジー(Surface and Coatings Technology)」,2009年,203,p.2058-2063参照)を含み得る。
【0007】
したがって、鮮明な画像解像度及び画像の鮮やかさを保証するために布地が前処理される点、印刷された画像が蒸気処理によって定着される点(通例、102℃の飽和蒸気中で20分間)、並びに定着されていない染料及び化学物質を除去するために、布地が洗浄され、乾燥される点で、ポリエステルテキスタイルへのデジタルテキスタイル印刷は、伝統的なテキスタイル印刷と類似し得る。
【0008】
国際公開第2014/127050号は、前処理又は蒸気での画像の処理が必要なく、ポリエステルテキスタイルのデジタルテキスタイル印刷に適した分散染料インク組成物を開示している。
【0009】
相対的に高い表面張力を有し、分散染料と少なくとも5個の炭素原子を有する(モノマーの)ポリオールを含む水性担体とを含むインク組成物は、伝統的なテキスタイル印刷と比べて定着時間が短縮され、すすぎなしにOeko-Tex(R)Standard100試験に合格する印刷品質を有するポリエステルテキスタイルの直接デジタル印刷をもたらし得る。
【0010】
したがって、これらのインク組成物は、ポリエステルテキスタイルの伝統的な印刷と比べて水が実質的に使用されない様式でのポリエステルテキスタイルの印刷をもたらし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2014/039306号
【文献】国際公開第2014/127050号
【非特許文献】
【0012】
【文献】チャン・シー(Zhang C.)及びファン・ケー(Fang K)著,「サーフェス・アンド・コーティングス・テクノロジー(Surface and Coatings Technology)」,2009年,203,p.2058-2063
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本開示は、ポリエステルテキスタイルへのデジタル印刷に関し、とりわけ、国際公開第2014/127050号に開示されているものなどの高い表面張力を有する水系分散染料インク組成物での改善された装飾を可能にするポリエステルテキスタイルの前処理に関する。
【0014】
この前処理は、ファストファッション産業においてみられるものなどの、低い商業等級のポリエステルテキスタイル上での水系分散染料組成物のインクジェット印刷に特に適している。
【0015】
この前処理によって、処理されたポリエステルテキスタイルの表面はより滑らかとなり、処理されていないポリエステルテキスタイルの表面自由エネルギーと比べて低い表面自由エネルギーを有するようになる。したがって、プラズマ処理はテキスタイルの表面の粗さ及び表面自由エネルギーを増加させるので、この前処理は上述したプラズマ処理とは異なることに留意されたい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、第一の態様において、本開示は、水系分散染料インク組成物を用いたインクジェット印刷のためにポリエステルテキスタイルを前処理する方法であって、テキスタイルの表面の疎水性を増加させるためにテキスタイルの表面の少なくとも一部を処理することを含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一実施形態において、この方法は、表面にポリマーの疎水性コーティングを付与するために表面を処理することを含む。
【0018】
テキスタイル上に疎水性コーティングを形成するために、あらゆる適切な方法が使用され得る。適切な方法には、湿式前処理が含まれるが、水の消費を最小限に抑え又は避けるために乾式前処理が好ましい。
【0019】
複数の実施形態において、前記方法は、フッ素含有ポリマー又はケイ素含有ポリマーの化学蒸着によって疎水性コーティングを形成することを含む。
【0020】
フッ素含有ポリマーは、フッ素含有モノマーから直接形成され得る。又は、フッ素含有ポリマーは、CF4などのフッ素含有化合物でのフッ素を含有していない有機ポリマーのプラズマ処理によって形成され得る。
【0021】
一実施形態において、前記方法は、ケイ素含有又はフッ素含有モノマーを用いたプラズマ法によって疎水性コーティングを形成することを含む。前記方法は、特に、誘導体バリア放電プラズマ法、圧電直接放電プラズマ法、コロナ放電プラズマ法、プラズマトーチ法又はプラズマジェット法などの大気圧プラズマ法を使用し得る。
【0022】
好ましい実施形態において、前記方法は、ケイ素含有化合物の1つ又は複数を用いて、不活性ガス(ヘリウム又はアルゴンなど)中で又は不活性ガスと酸素(又は空気)の混合物中での誘導体バリア放電(DBD)プラズマ法によってポリエステルテキスタイル上に疎水性ポリマーのコーティングを形成することを含む。
【0023】
ケイ素含有化合物は、トリメチルシラノール若しくはトリエチルシラノールなどのシラノール、又はヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、テトラデカメチルヘプタシロキサン、2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどのシロキサンであり得る。
【0024】
工程の条件によっては、テキスタイルの表面上にポリマーの連続的コーティングが付与され得る。しかし、疎水性コーティングは連続的である必要はなく、布地の印刷面を形成している糸の主要部分を覆っていれば十分である。
【0025】
工程の条件によっては、糸上の疎水性コーティングに対して0.5μm~5μm、例えば、1μm又は2μmの厚さが付与され得る。
【0026】
前処理は、例えばヘキサメチルジシロキサンを含有する空気への誘導体バリア放電によって生成されたプラズマにポリエステルテキスタイルが曝露される、バッチ又はロール・ツー・ロール法を含み得る。
【0027】
曝露は、短期間の反復された曝露を含み得る。ただし、合計の曝露は、シリカ様(SiO2)コーティングを形成することによって、処理された表面の表面自由エネルギーを上昇させるほどには大きくするべきではない。
【0028】
一実施形態において、ロール・ツー・ロール法は、例えばヘキサメチルジシロキサンを含有する空気流に接続されたプラズマ源にポリエステルテキスタイルを給送する。
【0029】
また、工程の条件及び曝露の数は、疎水性コーティングが、ポリエステルテキスタイルの印刷面上のデジタル印刷された画像に対して、処理されていないポリエステルテキスタイル上の対応するように印刷された画像の鮮明度より良好な鮮明度を与えるように選択され得る。
【0030】
ロール・ツー・ロール法を含む一実施形態において、曝露の温度は120℃~200℃(例えば、140℃)であり得、電力は200W~1000W(例えば、690W)であり得、プラズマ源への空気混合物の流速は0.75mL/分~1.5mL/分(例えば、1.2mL/分)であり得、プラズマ源への布地の給送速度は5m/分~10m/分(例えば、8m/分)であり得る。
【0031】
本明細書におけるポリエステルテキスタイルという表記は、ポリエステル繊維のみを含むテキスタイル又はポリエステル繊維と綿又はLycra(R)などの別の繊維との混合物であって、テキスタイル中のポリエステルの量が50w/w%超、特に80w/w%、90w/w%又は95w/wt%超である混合物を含むテキスタイルを表すことに留意されたい。
【0032】
さらに、前記方法は、ポリエステルテキスタイルの重量又は厚さによって限定されないことに留意されたい。ポリエステルテキスタイルは、5g/m2~250g/m2の単位面積当たり重量を有し得る。ポリエステルテキスタイルは、ポリエステル織布又はポリエステル編み布を含み得る。ポリエステルテキスタイルは、低い商業等級のポリエステルテキスタイル、特に、10g/m2~100g/m2の単位面積当たり重量を有するポリエステル織布を含み得る。
【0033】
いくつかの実施形態において、ポリエステルテキスタイルは、50g/m2~90g/m2、例えば、60g/m2、70g/m2又は80g/m2の単位面積当たり重量のポリエステル織布を含む。
【0034】
前処理はポリエステルテキスタイルの表面を平らにするだけでなく、ポリエステルテキスタイルの表面自由エネルギーを低下させるので、高い表面張力の水系分散染料インク組成物を用いたインクジェット印刷による装飾の改善をもたらす。
【0035】
前処理がないと、高い表面張力の水系分散染料インク組成物のブリーディング及び過剰浸透が起こることがあり、テキスタイルの印刷面上に印刷された画像の鮮明さ及び/又は色密度が不十分となるのみならず、ポリエステルテキスタイルの裏面方向に又は裏面上に印刷された画像が生成される。
【0036】
ポリエステルテキスタイルの印刷面上のデジタル印刷された画像の鮮明度は、水系分散染料インク組成物の表面張力とポリエステルテキスタイルの表面自由エネルギーの差と相関し得る。
【0037】
この差は、堆積されるべきポリマーの選択及び/又はポリマーをポリエステルテキスタイル上に堆積する工程の条件(例えば、大気プラズマ法における電力、時間及びモノマーの流速)によって管理され得る。
【0038】
ただし、前処理は、インクジェット印刷を妨げる程度まで、ポリエステルテキスタイルの表面自由エネルギーを低下させるべきではない。
【0039】
この差は、水系分散染料インク組成物の選択によっても管理され得る。しかし、水系分散染料インク組成物の表面張力は、適切なインクジェットプリンタを用いたインクジェット印刷に適さないほどに高くなるべきではない。
【0040】
ただし、前処理は、処理されたポリエステルテキスタイルの表面自由エネルギーが測定されることを、又は測定可能であることさえ必ずしも要求しない。前処理の適切性は、参照水系分散染料インク組成物を用いたインクジェット印刷によって(例えば、下表4の黒の水系分散染料インク組成物を用いてグレースケールを印刷することによって)決定することができる。
【0041】
これに関して、水又は水系溶媒に対するポリエステルテキスタイルの浸透性は測定可能な表面接触角を有する滴を確立させ得ないので、低い商業等級のポリエステルテキスタイル(例えば、10g/m2と100g/m2の単位面積当たり重量を有するもの)の表面自由エネルギーは通常測定できないことに留意されたい。
【0042】
ただし、処理されていないポリエステル織物の表面と比べて表面の疎水性が大幅に高いので、前記方法によって、処理されたポリエステルテキスタイルは測定可能な表面自由エネルギーを有するようになり得る。
【0043】
水系分散染料インク組成物は、35ダイン/cm(35mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)、特に、40ダイン/cm(43mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)、例えば、43ダイン/cm(43mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)の表面張力を有し得る。
【0044】
いくつかの実施形態において、前処理は、水系分散染料インク組成物の表面張力より低い、5ダイン/cm(5mN/m)~30ダイン/cm(30mN/m)、例えば、10ダイン/cm(10mN/m)~15ダイン/cm(15mN/m)の測定可能な表面自由エネルギーをポリエステルテキスタイルに付与する疎水性ポリマーコーティングをもたらす。
【0045】
したがって、いくつかの実施形態において、前記方法は、15ダイン/cm(15mN/m)~35ダイン/cm(35mN/m)である測定可能な表面自由エネルギーをポリエステルテキスタイルに付与し得る。
【0046】
ある実施形態において、前記方法は、ポリエステルテキスタイルが15ダイン/cm(15mN/m)~35ダイン/cm(35mN/m)の測定可能な表面自由エネルギーを有するように、単位面積当たり重量10g/m2~100g/m2の織布を含むポリエステルテキスタイルを前処理することを含む。
【0047】
本明細書における測定可能な表面自由エネルギー値という表記は、接触角、表面張力及び表面自由エネルギー間の関係を記述するヤングの方程式において(水とジヨードメタンによって測定される)極性と分散の寄与を反映する作業モデルに基づく液滴形状分析(Owens,D,and Wendt,R. in J.Appl.Polym.Sci.1969,13,1741-1747)によって室温(22℃)で測定された表面自由エネルギー値を表す。
【0048】
Kruss(ハンブルグ、ドイツ)のMobile Surface Analyser(MSA)及びその付属ソフトウェアADVANCEは、処理されたポリエステル布地の表面エネルギーを測定するのに特に適している。
【0049】
ただし、前処理後の表面自由エネルギーの測定は、低い商業等級のポリエステルテキスタイルでは厄介なことがあることに留意されたい。しかも、いくつかの事例では、インクジェット印刷のための適切な前処理は試行錯誤によって最も上手く取得され得る。
【0050】
第二の態様において、本開示は、ポリエステルテキスタイルに印刷する方法であって、ポリエステルテキスタイルの表面の疎水性を増加させるためにポリエステルテキスタイルの表面の少なくとも一部を前処理すること、ポリエステルテキスタイルの処理された表面上に水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷すること、及びポリエステルテキスタイルの処理された表面上の印刷された画像を定着させるためにポリエステルテキスタイルを加熱することを含む、方法を提供する。
【0051】
上述したように、前処理は、ポリエステルテキスタイルの表面に疎水性コーティングを付与し得る。前処理は、このようにするための任意の適切な方法を使用し得るが、乾式の前処理が好ましい。
【0052】
一実施形態において、前記方法は、フッ素含有ポリマー又はケイ素含有ポリマーの化学蒸着によって疎水性コーティングを形成することを含む。
【0053】
フッ素含有ポリマーは、フッ素含有モノマーから直接形成され得る。又は、フッ素含有ポリマーは、CF4などのフッ素含有化合物でのフッ素を含有していない有機ポリマーのプラズマ処理によって形成され得る。
【0054】
一実施形態において、前記方法は、ケイ素含有又はフッ素含有モノマーを用いたプラズマ法によって疎水性コーティングを形成することを含む。前記方法は、特に、誘導体バリア放電プラズマ法、圧電直接放電プラズマ法、コロナ放電プラズマ法、プラズマトーチ法又はプラズマジェット法などの大気圧プラズマ法を使用し得る。
【0055】
好ましい実施形態において、前記方法は、ケイ素含有化合物の1つ又は複数を用いて、不活性ガス(ヘリウム又はアルゴンなど)中での又は不活性ガスと酸素(又は空気)の混合物中での誘導体バリア放電(DBD)プラズマ法によってポリエステルテキスタイル上に疎水性ポリマーのコーティングを形成することによって表面を前処理することを含む。
【0056】
ケイ素含有化合物は、トリメチルシラノール若しくはトリエチルシラノールなどのシラノール、又はヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、テトラデカメチルヘプタシロキサン、2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどのシロキサンであり得る。
【0057】
工程の条件によっては、テキスタイルの表面上にポリマーの連続的コーティングが付与され得る。しかし、疎水性コーティングは連続的である必要はなく、布地の印刷面を形成している糸の主要部分を覆っていれば十分である。
【0058】
工程の条件によっては、コーティングに対して0.5μm~5μm、例えば、1μm又は2μmの厚さが付与され得る。
【0059】
前処理は、特に、例えばヘキサメチルジシロキサンを含有する空気への誘導体バリア放電によって生成された大気プラズマへポリエステルテキスタイルが曝露される、バッチ又はロール・ツー・ロール法を含み得る。
【0060】
曝露は、短期間の反復された曝露を含み得る。いずれの場合においても、合計の曝露は、シリカ様(SiO2)コーティングを形成することによって、処理された表面の表面エネルギーを上昇させるほどには大きくするべきではない。
【0061】
一実施形態において、ロール・ツー・ロール法は、ヘキサメチルジシロキサンを含有する空気流に接続されたプラズマ源にポリエステルテキスタイルを給送する。
【0062】
また、疎水性コーティングが、処理されていないポリエステルテキスタイル上の対応するように印刷された画像の鮮明度より良好な鮮明度を印刷面ポリエステルテキスタイル上のデジタル印刷された画像に与えるように、工程の条件及び曝露の数が選択され得る。
【0063】
ロール・ツー・ロール法を含む一実施形態において、曝露の温度は120℃~200℃(例えば、140℃)であり得、電力は200W~1000W(例えば、690W)であり得、プラズマ源への空気混合物の流速は0.75mL/分~1.5mL/分(例えば、1.2mL/分)であり得、プラズマ源への布地の給送速度は5m/分~10m/分(例えば、8m/分)であり得る。
【0064】
複数の実施形態において、前記方法は、ポリエステル繊維のみを含む、又はポリエステル繊維と綿又はLycra(R)などの別の繊維との混合物であって、テキスタイル中のポリエステルの量が50%w/w%超、特に80w/w%、90w/w%又は95w/w%超である混合物を含むポリエステルテキスタイル上にインク組成物をインクジェット印刷することに向けられる。
【0065】
上述のように、ポリエステルテキスタイルは、5g/m2~250g/m2の単位面積当たり重量を有し得る。ポリエステルテキスタイルは、ポリエステル織布又はポリエステル編み布を含み得る。ポリエステルテキスタイルは、低い商業等級のポリエステルテキスタイル、特に、10g/m2~100g/m2の単位面積当たり重量を有するポリエステル織布を含み得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、ポリエステルテキスタイルは、50g/m2~90g/m2、例えば、60g/m2、70g/m2又は80g/m2の単位面積当たり重量のポリエステル織布を含む。
【0067】
上述されているように、ポリエステルテキスタイルの印刷面上のデジタル印刷された画像の鮮明度は、水系分散染料インク組成物の表面張力とポリエステルテキスタイルの表面自由エネルギーの差と相関し得る。
【0068】
この差は、堆積されるべきポリマーの選択及び/又はポリマーをポリエステルテキスタイル上に堆積する工程の条件(例えば、大気プラズマ法における電力、時間及びモノマーの流速)によって管理され得る。
【0069】
ただし、前処理は、インクジェット印刷を妨げる程度まで、ポリエステルテキスタイルの表面自由エネルギーを低下させるべきではない。
【0070】
この差は、水系分散染料インク組成物の選択によっても管理され得る。しかし、水系分散染料インク組成物の表面張力は、適切なインクジェットプリンタを用いたインクジェット印刷に適さないほどに高くなるべきではない。
【0071】
ただし、前処理は、処理されたポリエステルテキスタイルの表面自由エネルギーが測定されることを、又は測定可能であることさえ必ずしも要求しない。前処理の適切性は、参照水系分散染料インク組成物を用いたインクジェット印刷によって(例えば、下表4の黒の水系分散染料インク組成物を用いてグレースケールを印刷することによって)決定することができる。
【0072】
これに関して、水又は水系溶媒に対するポリエステルテキスタイルの浸透性は測定可能な表面接触角を有する滴を確立させ得ないので、低い商業等級のポリエステルテキスタイル(例えば、10g/m2と100g/m2の単位面積当たり重量を有するもの)の表面自由エネルギーは通常測定できないことに留意されたい。
【0073】
ただし、処理されていないポリエステル織物の表面と比べて表面の疎水性が大幅に高いので、前記方法によって、処理されたポリエステルテキスタイルは測定可能な表面自由エネルギーを有するようになり得る。
【0074】
いくつかの実施形態において、インクジェット印刷において使用される水系分散染料インク組成物は、35ダイン/cm(35mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)、特に、40ダイン/cm(43mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)、例えば、43ダイン/cm(43mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)の表面張力を有し得る。
【0075】
いくつかの実施形態において、前処理は、水系分散染料インク組成物の表面張力より低い、5ダイン/cm(5mN/m)~30ダイン/cm(30mN/m)、例えば、10ダイン/cm(10mN/m)~15ダイン/cm(15mN/m)の測定可能な表面自由エネルギーをポリエステルテキスタイルに付与する疎水性ポリマーコーティングをもたらす。
【0076】
したがって、いくつかの実施形態において、前記方法は、15ダイン/cm(15mN/m)~35ダイン/cm(35mN/m)である測定可能な表面自由エネルギーをポリエステルテキスタイルに付与し得る。
【0077】
ある実施形態において、前記方法は、ポリエステルテキスタイルが15ダイン/cm(15mN/m)~35ダイン/cm(35mN/m)の測定可能な表面自由エネルギーを有するように、単位面積当たり重量10g/m2~100g/m2の織布を含むポリエステルテキスタイルを前処理することを含む。
【0078】
インクジェット印刷は、処理されるポリエステルテキスタイル上に直接インクジェット印刷すること(「直接印刷」)、又は転写紙上にインクジェット印刷し、印刷された画像を転写紙から処理されるポリエステルテキスタイル上に転写すること(「間接印刷」)を含み得る。
【0079】
インクジェット印刷は、ポリエステルテキスタイルの処理された表面上の印刷された画像を定着させるために、約100℃からポリエステルテキスタイルのほぼ融点までポリエステルテキスタイルを加熱することをさらに含み得る。
【0080】
インクジェット印刷は、テキスタイル上に画像をデジタル印刷するのに適したあらゆるインクジェットプリンタを使用し得る。適切なプリンタには、Nassenger Pro 60又はNassenger Pro 1000インクジェットプリンタ(Konica Minoltaから入手可能)の他、MS LaRioインクジェットプリンタ(MS Printing Solutionsから入手可能)及びReggiani ReNOIRコンパクトインジェクト(inject)プリンタ(EFI Reggianiから入手可能)が含まれる。
【0081】
インクジェット印刷は、特に、300ドット/インチ(dpi)~800ドット/インチ(例えば、600ドット/インチ)の解像度(x及びy方向)になるように実施され得る。印刷速度は、シングルパス印刷方式では35リニアメーター/分~75リニアメーター/分又はスキャン方式では10m2/時間~600m2/時間であり得る。
【0082】
インクジェット印刷とポリエステルテキスタイルの処理された表面上の印刷された画像を定着させるための加熱との可能な最短の間隔は、
ポリエステルテキスタイル上の水系分散染料インク組成物のブリーディング及び過剰浸透の制御も可能にし得る。
【0083】
したがって、好ましい実施形態において、インクジェット印刷は、処理されたポリエステルテキスタイル上に直接インクジェット印刷すること、及びインクジェット印刷の完了の60秒以内に、少なくとも100℃の温度に、例えば、120℃又は130℃にポリエステルテキスタイルを加熱することを含む。
【0084】
ロール・ツー・ロール法を含む実施形態では、加熱のためにロールを除去する必要がないように、前記方法は「インラインヒータ」などの装置を使用し得る。
【0085】
湿式加熱が使用され得るが、水の消費を最小限に抑え又は避けるために、好ましくは、前記方法は乾式加熱を使用する。
【0086】
加熱の継続時間は、約1秒~約1時間、特に、約5秒~約5分、例えば、約15秒~200秒、特に約15秒~約30秒まで変動し得る。
【0087】
加熱の間にポリエステルテキスタイルに接触しない熱源の使用によって、ポリエステルテキスタイル上の水系分散染料インク組成物のブリーディング及び過剰浸透の制御も可能となり得る。
【0088】
前記方法は、(10秒~60秒の接触時間を有する)カレンダーを加熱のために使用し得るが、好ましくは、加熱の間にポリエステルテキスタイルに接触しない乾式熱源を使用する。
【0089】
したがって、加熱は、近赤外線(NIR)ランプなど、遠隔の乾式熱源を用いて、印刷されたポリエステルテキスタイルを加熱することを含み得る。
【0090】
前記方法は、すすぎを行わないISO105-E01:2010にしたがって、少なくとも1~少なくとも3の対水染色堅牢度、すすぎを行わないISO105-X12:2001にしたがって、少なくとも3の対湿摩擦染色堅牢度又は少なくとも4の染色堅牢度、及びすすぎを行わないISO105-E04:2008にしたがって、少なくとも3の対酸性汗液染色堅牢度又は対アルカリ性汗液染色堅牢度を有する印刷されたポリエステルテキスタイルを製造し得る。
【0091】
上述したように、インクジェット印刷は、高い表面張力を有する水系分散染料インク組成物、特に、国際公開第2014/127050号に記載されている水系分散染料インク組成物を使用し得る。
【0092】
したがって、水系分散染料インク組成物は、少なくとも5個の炭素原子を有する1つ又は複数のポリオールを含み得る。この組成物は、例えば、少なくとも5個の炭素原子を有する、単一のポリオール又は2つの異なるポリオールを含み得る。
【0093】
第一のポリオール及び第二のポリオールは、それぞれ、単純な炭水化物、特に、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、アラビトール、リビトール及びズルシトールからなる炭水化物の群から選択され得る。
【0094】
複数の実施形態において、分散染料は、組成物の重量の約0.1%~約10%の量で存在し得る。
【0095】
分散染料は、特に、 Disperse Blue 14、Disperse Blue 19、Disperse Blue 72、Disperse Blue 334、Disperse Blue 359、Disperse Blue 360、Disperse Orange 25、Disperse Yellow 54、Disperse Yellow 64、Disperse Red 55、Disperse Red 60、Macrolex Red H、Disperse Brown 27、Solvent Blue 67、Solvent Blue 70、Solvent Red 49、Solvent Red 160、Solvent Yellow 162、Solvent Violet 10、Solvent Black 29及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0096】
水系インク組成物用の水性担体は、組成物の重量の約6%~約30%の、少なくとも5個の炭素原子を有するポリオールの総量を含み得る。
【0097】
水性担体中の第一のポリオールの量は組成物の重量の約1%~約25%の間で変動し得、第二のポリオールの量は組成物の重量の約1%~約25%の間で変動し得る。
【0098】
水性担体は、組成物の重量の約0.1%~約6%の量で陰イオン性界面活性剤をさらに含み得る。
【0099】
適切な陰イオン性界面活性剤には、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、アルキルアリールスルホネート(例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホネート)、α-オレフィンスルホネート、アルキルサルフェートのアルカリ金属又はアンモニウム塩、アルキルエーテルサルフェートのアルカリ金属又はアンモニウム塩、アルキルホスフェート、シリコーンホスフェート、アルキルグリセロールスルホネート、アルキルスルホサクシネート、アルキルタウレート、アルキルサルコシネート、アシルサルコシネート、スルホアセテート、アルキルリン酸エステル、モノアルキルマレエート、アシルイソチオネート、アルキルカルボキシレート、リン酸エステル、スルホサクシネート、リグノスルホネート及びこれらの組み合わせが含まれる。他の適切な陰イオン性界面活性剤には、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリルスルホコハク酸アンモニウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリルエーテル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼン硫酸トリエタノールアミン、ココイルイソチオン酸ナトリウム(sodium cocoyl isothionate)、ラウロイルイソチオン酸ナトリウム及びN-ラウリルサルコシン酸ナトリウムが含まれる。
【0100】
しかしながら、対水染色堅牢度に対する試験において、着色されたリグノスルホネートが出現し得ると考えられているので、組成物中のリグノスルホネートの総量は組成物の3重量%を超過し得ないことに留意されたい。
【0101】
水性担体は、組成物の重量の約15%~約45%の量で保湿剤をさらに含み得る。
【0102】
適切な保湿剤は、高い吸湿性と水溶性を有する物質から選択され得る。適切な保湿剤には、グリセロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、2-ピロリドン、尿素、1,3-ジメチルイミダゾリノン、モノプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、N-エチルアセトアミド、3-アミノー1,2-プロパンジオール、炭酸エチレン及び1,5-ペンタンジオールが含まれる。
【0103】
水性担体は、組成物の重量の最大約4%の量で非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。
【0104】
適切な非イオン性界面活性剤は、モノ及びジアルカノールアミド、アミンオキシド、アルキルポリグルコシド、エトキシ化シリコーン、エトキシ化アルコール、エトキシ化カルボン酸、エトキシ化脂肪酸、エトキシ化アミン、エトキシ化アミド、エトキシ化アルキロールアミド、エトキシ化アルキルフェノール、エトキシ化グリセリルエステル、エトキシ化ソルビタンエステル、エトキシ化リン酸エステル、ブロックコポリマー(例えば、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロックコポリマー)、ステアリン酸グリコール、ステアリン酸グリセリル及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0105】
水性担体は、組成物の重量の約20%~約70%の量で水を含み得る。水性担体は、界面活性剤、消泡剤、殺生物剤及びpH調整剤などの1つ又は複数の追加成分をさらに含み得る。
【0106】
インク組成物は、インクジェット印刷に適した粘度を有するべきである。インク組成物は、特に、35℃で、約1センチポアズ(1mPa・s)~約50センチポアズ(50mPa・s)の粘度を有し得る。しかしながら、好ましくは、粘度は、この温度において、20センチポアズ(20mPa・s)を下回る、例えば、15センチポアズ(15mPa・s)又は10センチポアズ(10mPa・s)以下である。
【0107】
上述されているように、インク組成物は、特に、35ダイン/cm(35mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)、特に、40ダイン/cm(40mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)、例えば、43ダイン/cm(43mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)の表面張力を有し得る。
【0108】
第三の態様において、本開示は、テキスタイルが、疎水性コーティングで処理された表面を少なくとも一部分に有するブランクポリエステルテキスタイルを提供する。
【0109】
本明細書において、ブランクポリエステルテキスタイルという表記は、その上に印刷されていないが、疎水性コーティングでの処理前に、何らかの方法で処理されていてもよいポリエステルテキスタイルを表す。
【0110】
第三の態様の実施形態は、本開示の第一の態様の実施形態から明らかであろう。
【0111】
ポリエステルテキスタイルの印刷面上のデジタル印刷された画像に対する鮮明度が、処理されていないポリエステルテキスタイル上の対応するように印刷された画像の鮮明度より良好であれば、ブランクポリエステルテキスタイルは疎水性コーティングを有し得る。
【0112】
上述されているように、ポリエステルテキスタイルの印刷面上のデジタル印刷された画像の鮮明度は、ポリエステルテキスタイルの表面自由エネルギーと水系分散染料インクの表面張力の差と相関し得る。
【0113】
この差は、疎水性コーティングを形成するポリマーの選択及び/又はポリエステルテキスタイル上にポリマーを堆積する工程の条件(例えば、大気プラズマ法における電力、時間及びモノマーの流速)によって管理され得る。
【0114】
この選択は、特に、高い表面張力を有する水系分散染料組成物をインクジェット印刷するために最適化された、ブランクポリエステルテキスタイルのための疎水性コーティングを提供し得る。
【0115】
一実地形態において、このブランクポリエステルテキスタイルは、国際公開第2014/127050号に記載されている水系分散染料インク組成物のインクジェット印刷のために選択された測定可能な表面自由エネルギーを付与する疎水性コーティングを有する。
【0116】
複数の実施形態において、ブランクポリエステルテキスタイルは、水系分散染料インク組成物の表面張力より低い、5ダイン/cm(5mN/m)~30ダイン/cm(30mN/m)、例えば、10ダイン/cm(10mN/m)~15ダイン/cm(15mN/m)である測定可能な表面自由エネルギーを付与する疎水性コーティングを有する。ポリエステルテキスタイルの測定可能な表面自由エネルギーは、特に、15ダイン/cm(15mN/m)~35ダイン/cm(35mN/m)であり得る。
【0117】
ある実施形態において、ブランクポリエステルテキスタイルは、10g/m2~100g/m2の単位面積当たり重量のポリエステル織布を含み得る。
【0118】
第四の態様において、本開示は、ポリエステルテキスタイルの印刷方法であって、テキスタイルの表面の疎水性を増加させるために、少なくとも一部分が処理されたポリエステルテキスタイルの表面上に水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷すること、及びポリエステルテキスタイルの処理された表面上に、印刷された画像を定着させるためにポリエステルテキスタイルを加熱することを含む、方法を提供する。
【0119】
第四の態様の実施形態は、本開示の第一、第二及び第三の態様の実施形態から明らかであろう。
【0120】
この方法は、処理されていないポリエステルテキスタイル上の対応するように印刷された画像の鮮明度より良好な印刷された画像の鮮明度で、ポリエステルテキスタイルの表面上に水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷することを可能にし得る。
【0121】
いくつかの実施形態において、前記方法は、35ダイン/cm(35mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)、特に、40ダイン/cm(43mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)、例えば、43ダイン/cm(43mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)の表面張力を有する水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷することを含む。
【0122】
いくつかの実施形態において、前記方法は、水系分散染料インク組成物の表面張力より低い、5ダイン/cm(5mN/m)~30ダイン/cm(30mN/m)、例えば、10ダイン/cm(10mN/m)~15ダイン/cm(15mN/m)の測定可能な表面自由エネルギーを付与する疎水性コーティングを与えられたポリエステルテキスタイルの表面上に水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷することを含む。
【0123】
ある実施形態において、このインクジェット印刷は、15ダイン/cm(15mN/m)~35ダイン/cm(35mN/m)である表面自由エネルギーを付与する疎水性コーティングが与えられている、10g/m2~100g/m2の単位面積当たり重量を有するポリエステルテキスタイルの表面上に行われ得る。
【0124】
このインクジェット印刷は、ポリエステルテキスタイル上に直接インクジェット印刷すること、又は転写紙上にインクジェット印刷し、処理されたポリエステルテキスタイルに転写紙から印刷された画像を転写することを含み得る。
【0125】
前記方法は、ポリエステルテキスタイルの処理された表面上に、印刷された画像を定着させるために、約100℃からポリエステルテキスタイルのほぼ融点までポリエステルテキスタイルを加熱することを含み得る。
【0126】
この印刷は、処理されたポリエステルテキスタイル上に直接インクジェット印刷すること、及びインクジェット印刷の完了の60秒以内に、少なくとも100℃の温度に、例えば、120℃又は130℃にポリエステルテキスタイルを乾式又は湿式加熱することを含み得る。
【0127】
加熱の継続時間は、約1秒~約1時間、特に、約5秒~約5分、例えば、約15秒~200秒、特に約15秒~約30秒まで変動し得る。
【0128】
前記方法は、(10秒~60秒の接触時間を有する)カレンダーを加熱のために使用し得るが、好ましくは、加熱の間にポリエステルテキスタイルに接触しない乾式熱源を使用する。
【0129】
したがって、加熱は、近赤外線(NIR)ランプなど、遠隔の乾式熱源を用いて、印刷されたポリエステルテキスタイルを加熱することを含み得る。
【0130】
第五の態様において、本開示は、疎水性コーティングを有する表面と高い表面張力の水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷することによって形成された印刷された画像とを少なくとも一部分に有するポリエステルテキスタイルを提供する。
【0131】
第五の態様の実施形態は、本開示の第一から第四の態様の実施形態から明らかであろう。
【0132】
特に、ポリエステルテキスタイルは、35ダイン/cm(35mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)、特に、40ダイン/cm(43mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)、例えば、43ダイン/cm(43mN/m)~50ダイン/cm(50mN/m)の表面張力を有する水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷することによって形成された印刷された画像を疎水性コーティング上に有し得る。
【0133】
ポリエステルテキスタイルの測定可能な表面自由エネルギーは、疎水性コーティングで処理されているブランクポリエステルテキスタイルの表面の測定可能な表面自由エネルギーと実質的に類似してもよいことに留意されたい。
【0134】
いくつかの実施形態において、ポリエステルテキスタイルの測定可能な表面自由エネルギーは、特に、15ダイン/cm(15mN/m)~35ダイン/cm(35mN/m)であり得る。
【0135】
ある実施形態において、ポリエステルテキスタイルは、10g/m2~100g/m2の単位面積当たり重量のポリエステル織布を含み得る。
【0136】
ここで、以下の実施例及び添付の図面を参照しながら、本開示をさらに詳しく記述する。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【
図1】
図1は、標準的な毛管上昇試験(DIN53924)の間に、処理されていない及び表面処理された薄いポリエステル織布の縦糸方向の毛管上昇の高さを時間に対してプロットしたものを示すグラフである。
【
図2】
図2は、標準的な毛管上昇試験(DIN53924)の間に、処理されていない及び表面処理された薄いポリエステル織布の横糸(welt)方向の毛管上昇の高さを時間に対してプロットしたものを示すグラフである。
【
図3】
図3は、洗浄前及び洗浄後において、処理されていない及び表面処理された薄いポリエステル織布上にインクジェット印刷された、分散染料と少なくとも5個の炭素原子を有するポリオールを含む水性担体とを含むインク組成物の百分率に対して、光の吸収/散乱(K/S)をプロットしたものを示す、光反射率実験によって得られたグラフである。
【
図4】
図4は、洗浄前及び洗浄後において、処理されていない及び表面処理された薄いポリエステル織布上にインクジェット印刷されたインク組成物のCIELAB色空間の2次元プロット(a*対b*)を示す、光反射率実験によって得られたグラフである。
【
図5】
図5は、洗浄前及び洗浄後における、処理されていない及び表面処理された薄いポリエステル織布上にインクジェット印刷されたインク組成物の百分率に対して、表及び裏の吸収/散乱(K/S))比率をプロットしたものを示す、光反射率実験によって得られたグラフである。
【
図6】
図6は、分散染料と少なくとも5個の炭素原子を有するポリオールを含む水性担体とを含むインク組成物をインクジェット印刷した後、カレンダーを用いた加熱と比較した近赤外線ランプを用いた加熱によって形成されたタッチサテンポリエステル布地上に10のパッチ(10%~100%)を有する直線化試験パターンの光学密度(縦座標;OD=log
10(1/R)、Rは反射率である。)に対してインクの百分率(横座標)をプロットしたグラフを示している。
【
図7】
図7は、分散染料と少なくとも5個の炭素原子を有するポリオールを含む水性担体とを含むインク組成物をインクジェット印刷した後、カレンダーを用いた加熱と比較した近赤外線ランプを用いた加熱によって形成されたタッチサテンポリエステル布地上に10のパッチ(10%~100%)を有する直線化試験パターンの表と裏の光学密度比(OD
裏/OD
表)(縦座標)に対してインクの百分率(横座標)をプロットしたグラフを示している。
【0138】
[実施例1]
本明細書においてPES Penang 60g及びPES Satin 80gと表記される2つの市販の薄いポリエステル織物に対して、大気圧プラズマ処理を実施した。
【0139】
PES Satin 80gは、中国の多くの供給業者から購入することができる、単位面積当たり重量80g/m2の織物様式100%ポリエステルサテン布地である。
【0140】
PES Penang 60gは、中国及びインドネシアの供給業者から購入することができる、単位面積当たり重量60g/m2の織物様式100%ポリエステル布地である。これらのポリエステル(PES)テキスタイルに対する技術データは、表1に示されている。
【0141】
処理には、表面積50cm2の電極間に誘導体バリア放電を与えるプラズマ源を通じてテキスタイルのロール・ツー・ロール加工を提供するPLATEX(R)大気プラズマ技術装置(GRINP(R)s.r.l.、イタリア)を使用した。
【0142】
ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)を含有する空気中における(690Wでの)連続的誘導体バリア放電によって、140℃の温度で生成されたプラズマに、各テキスタイルの試料を曝露した。プラズマ源への空気混合物の流速は、1.2mL/分に保った。電極間への各テキスタイルの給送は8m/分に保ち、16のロール・ツー・ロールサイクルを反復した。
【表1】
【0143】
蒸留水とイソプロパノール(IPA)の混合物を使用した液滴試験によって、この処理が薄いポリエステル織物の表面エネルギーを低下させることが明らかとなった。
【0144】
この試験では、処理されたポリエステルテキスタイル上での混合物の接触角は光学顕微鏡を用いて大まかに測定され、処理されていないポリエステルテキスタイル上での混合物の接触角と比較された。表2は、試験の結果を表形式で表したものである。
【表2】
【0145】
表に示されているように、処理されていないPES Penang 60g上では、すべての混合物の接触角がゼロであった。処理されていないPES Satin 80g上での蒸留水の接触角は45°未満であり、30秒以内に浸透が起こった。処理されていないPES Satin 80g上での水とイソプロパノールの98:2混合物の接触角も45°未満であったが、浸透は5秒以内に起こった。
【0146】
イソプロパノール百分率が10%未満である水とイソプロパノールの混合物は、処理されたPES Satin 80g及び処理されたPES Penang 60g上で90°を上回る接触角を示した。これらの結果は、処理されたポリエステルテキスタイルは、処理されていないポリエステルテキスタイルと比べて、ほとんど又は全く濡れ性を示さなかったことを示している。
【0147】
PES Satin 80g及びPES Penang 60gの処理された及び処理されていない試料に対する毛管上昇試験は、DIN53924にしたがって実施した。試料は、試験の前に12時間、25℃の温度で、35%の相対湿度の条件に置いた。青色の染料(CI RB49)を含有し、40ダイン/cm(40mN/m)の表面張力を有する脱イオン水とイソプロパノール(又は1,5-ペンタジオール)の混合物中に、処理された試料の片3つを垂直に吊るした。30秒の間隔で、5分にわたって、試料の縦糸及び横糸方向への毛管の高さの上昇を調べた。
【0148】
図1及び2は、これらの試験の結果のプロットを示している。全期間を通じて、処理された試料の各方向への吸い上げ高さはほぼゼロであるのに対して、処理されていない試料の吸い上げ高さは急速に上昇することが明らかである。
【0149】
[実施例2]
Reggiani ReNOIR Compact 180(600dpi×600dpi)インクジェットプリンタと5個より多い炭素原子を有するポリオールを含む黒の水系分散染料インク組成物とを用いて、PES Satin 80gの処理された及び処理されていない試料をインクジェット印刷に供した。
【0150】
黒の水系分散染料インク組成物及び他の適切な分散染料インク組成物が表3及び4に記載されている。210℃の温度で、30秒間の乾式加熱による定着の前に、インクジェット印刷は、1分の(カレンダー)接触時間を与えた。
【0151】
印刷された試料のいくつかは、印刷直後に洗浄に供した。洗浄は、40℃の温度で30分間、撹拌しながら、水の中に浸漬することによって実施した。洗浄の後に、印刷された表面上の色強度と色相及び色の浸透の程度を洗浄後に調べ、洗浄されていない印刷された試料と比較した。
【0152】
図3は、(X-Rite Europe GmbH、SwitzerlandのKeyWizard V2.5ソフトウェアを備えたGretagMacbeth Spectrolino(R)分光計D19C、D196、D118、RD-19、SPM50/55/60/100上での)光反射率実験によって得られた、PES Satin 80gの処理された及び処理されていない10の試料の印刷された表面上での吸収/散乱(K/S)のプロットを示しているグラフであり、インク組成物中の染料の百分率は、洗浄の前後で変動する。
【0153】
図から明らかなように、洗浄の前後両方で、処理されていない試料の印刷された表面と比べて、処理された試料の印刷された表面上での色強度は、著しく大きかった(最大25%)。
【表3】
【0154】
図4は、光反射率実験によって得られたグラフであり、洗浄前及び洗浄後における、PES Satin 80gの処理された及び処理されていない試料の印刷された表面上でのCIELAB色空間の2次元プロット(a*対b*;表2及び3のインク組成物)を示している。
【表4】
【0155】
図から明らかなように、洗浄前後の両方で、処理されていない試料の印刷された表面と比べて、処理された試料の印刷された表面上で色相は著しく優れていた。
【0156】
図5は、光反射率実験によって得られたグラフであり、洗浄前及び洗浄後において、処理されていない及び表面処理された薄いポリエステル織布上にインクジェット印刷されたインク組成物の百分率に対して、表及び裏の吸収/散乱(K/S))比率をプロットしたものを示している。
【0157】
図から明らかなように、処理されていない試料と比べて、処理された試料に対する比率は著しく高く(最大25%高い)、インク組成物の望ましくない浸透は、処理されていない試料と比べて、処理された試料上で著しく少ないことを示している。
【0158】
[実施例3]
180g/m2の単位面積当たり重量を有する表面処理された(タッチサテン)ポリエステルテキスタイル(100%)上への、異なる表面張力の3つの水系分散染料インク組成物(A~C)のインクジェット印刷を調べた。
【0159】
インク組成物Bは表4の黒に相当し、インク組成物AとBは、表面張力を低下させるエトキシ化非イオン性界面活性剤の添加量のみが異なる(インク組成物Aについては0.20%、インク組成物Cについては0.50%)。
【0160】
インク組成物A~Cの(静的)表面張力は、Bについては38~39ダイン/cm(38~39mN/m)、Aについては31~32ダイン/cm(31~32mN/m)、Cについては27~28ダイン/cm(27~28mN/m)と(Du Nouy輪環法を用いて)の測定された(すなわち、B>A>C)。
【0161】
第一の実験では、表面積50cm
2の電極間に誘導体バリア放電を与えるプラズマ源を通じてテキスタイルのロール・ツー・ロール加工を提供する大気プラズマ技術装置(GRINP(R)s.r.l.、イタリアのPLATEX(R)1000LAB)中で、ヘリウム中にヘキサメチルジシロキサン(HMDS)を含有するプラズマ(プラズマ1)への曝露によって、ポリエステルテキスタイルを処理した。
【表5】
【0162】
第二の実験では、同じ装置中で、ただし、第一の実験と比べて異なる実験下で、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)を含有するプラズマ(プラズマ2)への曝露によって、ポリエステルテキスタイルを処理した。第一及び第二の実験における具体的な条件は、表5に記されている。
【0163】
処理されたポリエステルテキスタイルのそれぞれへの印刷は、Reggiani ReNOIR Compact180インクジェットプリンタ(600×600dpi;IL300%)を用いて、水系分散染料インク組成物をインクジェット印刷し、直ちに、210℃及び1.9バールで30秒間、カレンダー(Monti Antonio S.p.A.、イタリア;モデル72-2600)上で加熱することによって行った。
【0164】
BS EN ISO105-X12:2016に従って、得られた試料(各水系分散染料インク組成物に対して1つ)を耐摩耗性について調べ、最良事例(第一の実験)で、各試料に対してインク組成物の光学密度(OD)と浸透(P)を決定した。
【0165】
表6は、処理されていないポリエステルテキスタイルと比較して、各試料における光学密度と浸透の相対パーセント変化を表形式で示している。
【0166】
表から明らかなように、最高の表面張力を有するインク組成物(B)は、処理されていないポリエステルテキスタイル上でのインクジェット印刷と比較して、印刷された画像で最高の光学密度と最低の浸透を示す。
【0167】
光学密度は印刷された画像の鮮明さの絶対的な指標ではないが、(
図1及び2から推測できるように)より少ないポリエステルテキスタイルの浸透を示すインク組成物ほど、より少ないドットゲインを示すと思われるので、一般的には鮮明さを表すことに留意されたい。
【表6】
【0168】
[実施例4]
実施例3の処理されたポリエステルテキスタイル(第一の実験)上での類似の表面張力の異なる水系分散染料組成物(シアン、マゼンタ、黄色及び黒)の浸透に対する(直径50mm又は75mmの)1つ又は2つの近赤外線ランプを用いた加熱の影響を調べた。
【0169】
近赤外線ランプは、1.4μm~1.6μmの放射ピーク、定格電力の最大密度50W/cm及び最大表面電力密度130kW/m2を有する高速中波放射型であった。
【0170】
(実施例3による)インクジェット印刷は、インク組成物密度が7~8g/m2である画像を(選択された領域の100%にわたって)印刷した。
【0171】
1つ若しくは複数の赤外線ランプの近傍に、ポリエステルを(1mオーブン中で)静止した状態に保ち、又は6m/分のポリエステルテキスタイルの通過速度で通過させる、様々な条件下で加熱を実施した。
【0172】
このようにして得られた試料の光学密度を、実施例3に記載されているようにカレンダー上での加熱から得られた光学密度と比較した。
【0173】
図6及び
図7は、それぞれ、光学密度(OD=log
10(1/R)、Rは反射率である。)に対して百分率インクをプロットしたグラフ、並びに各インク組成物及びタッチサテンポリエステル布地に対する各加熱条件について、10のパッチ(10%~100%)を有する直線化試験パターンの表と裏の光学密度比(OD
裏/OD
表)に対してインクの百分率をプロットしたグラフを示している。
【0174】
図から明らかなように、印刷された画像の光学密度は著しく異なるように見受けられないが、処理されたポリエステルテキスタイル上でのインク組成物の浸透は、カレンダーを用いた加熱と比べて、1つ又は複数の近赤外線ランプを用いた加熱によって、20%~50%の量で低下する。
【0175】
[実施例5]
6メートル/分のポリエステルテキスタイルの通過速度で、(直径75mmと50mmの)2つの近赤外線ランプ下でポリエステルテキスタイルを加熱することによって得られた実施例4の試料の染色堅牢度を、BS EN IS)105-X12:2016 Rubbingに従った摩擦試験で、カレンダー加熱によって得られた試料の染色堅牢度と比較した。
【0176】
近赤外線加熱された試料の乾燥及び湿潤染色堅牢度(表面と長さ)は、カレンダー加熱された試料(4~5)の乾燥及び湿潤染色堅牢度と概ね同等であった。
【0177】
さらに、実施例3でのポリエステルテキスタイル上での、実施例4の水系分散染料インク組成物の二成分及び四成分混合物から得られた近赤外線加熱された試料の染色堅牢度も、対応するカレンダー加熱された試料(4~5)の乾燥及び湿潤染色堅牢度と概ね同等であった。
【0178】
本開示は、ポリエステルテキスタイル上への水系分散染料のデジタル印刷のための改良された方法を提供する。
【0179】
この方法は、低い商業等級のポリエステルテキスタイルに相対的に高い表面張力を有する水系分散染料をデジタル印刷するのに特に有用であり、これらのポリエステルテキスタイル上での水系分散染料インク組成物の正確なXYZ軸位置調整が可能になる。
【0180】
本開示は、国際公開第2014/127050号に記載されている印刷されたポリエステルテキスタイルと類似するポリエステルテキスタイル上において、水に対する染色堅牢度、湿式及び乾式摩擦に対する染色堅牢度並びに光に対する染色堅牢度を有する印刷されたポリエステルテキスタイルを提供し得る。
【0181】
本開示は、ポリエステルテキスタイルへの、実質的に水を用いない印刷を提供する。この水を用いない印刷は、ファッションウェアやスポーツウェアとして使用されることが予定される低等級の商業用ポリエステルテキスタイルの装飾に特に適している。
【0182】
本明細書に開示されている方法及びポリエステルテキスタイルを、限られた数の実施形態及び実施例を考慮して詳しく記載してきた。しかしながら、添付の特許請求の範囲に属する限り、本明細書に詳しく記載されていないその他の実施形態及び実施例が可能であることが理解されるであろう。
【0183】
本明細書において言及されている表面張力の値は、文献で公知であるか、又はDu Nouyの輪環法などの公知の標準的な方法(又はDIN)にしたがって測定することができる静的表面張力の値を表していることに留意されたい。
【0184】
さらに、本明細書中で定義される範囲は最初の値と最後の値を含んでおり、「約」という表記は、正確な値及び同じ結果を達成する値を含む値を指すことに留意されたい。このような値は、例えば、正確な値の少数第一位以内であり得る。