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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220721BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H55/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021010600
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2022-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 哲
(72)【発明者】
【氏名】石塚 一男
(72)【発明者】
【氏名】白澤 友樹
(72)【発明者】
【氏名】神山 遼
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-243565(JP,A)
【文献】特開平5-332403(JP,A)
【文献】実開平5-92557(JP,U)
【文献】特開平2-275166(JP,A)
【文献】特開2006-46369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 55/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、
可撓性を有しているとともに前記内歯歯車の内周側に配置される外歯歯車と、
前記外歯歯車の内周に組み付けられることによって前記外歯歯車を非円形に撓ませて当該外歯歯車に前記内歯歯車との噛み合い部分を形成させるとともに当該噛み合い部分を前記内歯歯車の周方向に移動させる波動発生器と、を備えており、
前記波動発生器は、前記噛み合い部分が前記外歯歯車の周方向の3か所以上に形成されるように構成されており、
前記外歯歯車を前記波動発生器に組み付ける前の状態において、前記外歯歯車の噛み合いピッチ円直径DpF を当該外歯歯車の歯数ZF で除した値(DpF / ZF )は、前記内歯歯車の噛み合いピッチ円直径DpR を当該内歯歯車の歯数ZR で除した値(DpR / ZR )よりも大きく、
前記内歯歯車の、歯先円直径Da R 、歯底円直径Dd R 及び歯数Z R と、
前記外歯歯車の、歯先円直径Da F 、歯底円直径Dd F 及び歯数Z F と、
前記外歯歯車を前記波動発生器に組み付けることによって生じた当該外歯歯車の噛み合いピッチ円のリフト量Dと、は、
1 < { Z R ・ ( Da R + Dd R + Da F + Dd F - 4D ) } / { Z F ・ ( Da R + Dd R + Da F + Dd F + 4D ) } ≦ 1.11
の関係を満たしている、波動歯車装置。
【請求項2】
前記内歯歯車と前記外歯歯車との少なくともいずれか一方は、樹脂材を含んでいる、請求項に記載された波動歯車装置。
【請求項3】
前記内歯歯車と前記外歯歯車との少なくともいずれか一方の歯には、摩擦低減処理が施されている、請求項1または2に記載された波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波動歯車装置の動力伝達効率を向上させる方法としては、例えば、内歯歯車と外歯歯車との噛み合いに着目し、内歯歯車の歯形と外歯歯車の歯形とを設定している(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0003】
また、従来の波動歯車装置には、前記内歯歯車と前記外歯歯車との噛み合い部分が3か所となる、3ローブ形状の波動発生器を備えたものがある(例えば、特許文献3参照。)。前記噛み合い部分が3か所以上の波動歯車装置の場合、ねじりに対する剛性向上に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-166649号公報
【文献】特開2018-159458号公報
【文献】再表2018/025296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記噛み合い部分を3か所以上とした場合、可撓性を有する外歯歯車と、波動発生器の一部を構成している弾性ベアリングとにおいて、それぞれ、大きな変形が生じる。このため、3か所以上の噛み合い部分を有する波動歯車装置にも依然として、動力伝達効率の向上に改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、波動歯車装置全体としての剛性を高めつつ、動力伝達効率を向上させた、波動歯車装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る波動歯車装置は、内歯歯車と、可撓性を有しているとともに前記内歯歯車の内周側に配置される外歯歯車と、前記外歯歯車の内周に組み付けられることによって前記外歯歯車を非円形に撓ませて当該外歯歯車に前記内歯歯車との噛み合い部分を形成させるとともに当該噛み合い部分を前記内歯歯車の周方向に移動させる波動発生器と、を備えており、前記波動発生器は、前記噛み合い部分が前記外歯歯車の周方向の3か所以上に形成されるように構成されており、前記外歯歯車を前記波動発生器に組み付ける前の状態において、前記外歯歯車の噛み合いピッチ円直径DpF を当該外歯歯車の歯数ZF で除した値(DpF / ZF )は、前記内歯歯車の噛み合いピッチ円直径DpR を当該内歯歯車の歯数ZR で除した値(DpR / ZR )よりも大きい。本発明に係る波動歯車装置によれば、波動歯車装置全体としての剛性を高めつつ、噛み合い時に必要となる変形量を低減させることによって、動力伝達効率を向上させることができる。
【0008】
本発明に係る波動歯車装置において、前記内歯歯車の、歯先円直径DaR 、歯底円直径DdR 及び歯数ZR と、前記外歯歯車の、歯先円直径DaF 、歯底円直径DdF 及び歯数ZF と、 前記外歯歯車を前記波動発生器に組み付けることによって生じた当該外歯歯車の噛み合いピッチ円のリフト量Dと、は、
1 < { ZR ・ ( DaR + DdR + DaF + DdF- 4D ) } / { ZF ・ ( DaR + DdR + DaF + DdF + 4D ) } ≦ 1.11
の関係を満たしていることが好ましい。この場合、3か所以上の噛み合い部分を確実に確保しつつ、動力伝達効率を向上させることができる。
【0009】
本発明に係る波動歯車装置において、前記内歯歯車と前記外歯歯車との少なくともいずれか一方に、樹脂材を含む材料を使用することができる。この場合、波動歯車装置の軽量化を図るとともに波動歯車装置のコストを削減することができる。
【0010】
本発明に係る波動歯車装置において、前記内歯歯車と前記外歯歯車との少なくともいずれか一方の歯には、摩擦低減処理が施されていることが好ましい。この場合、動力伝達効率をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、波動歯車装置全体としての剛性を高めつつ、動力伝達効率を向上させた、波動歯車装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である、波動歯車装置を概略的に示す図である。
図2】内歯歯車及び外歯歯車を、当該外歯歯車を波動発生器に組み付ける前の状態で、概略的に示した図である。
図3図2の外歯歯車の一部を拡大して示す図である。
図4図2の内歯歯車の一部を拡大して示す図である。
図5】内歯歯車の噛み合いピッチ円直径DpR と、外歯歯車の噛み合いピッチ円直径DpF とを変化させたときの、パラメータXに対する、歯先間隔Cを示すグラフである。
図6】歯車の、歯末たけと、歯元たけとを説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である、波動歯車装置について説明をする。
【0014】
図1中、符号1は、本発明の一実施形態である、波動歯車装置である。波動歯車装置1は、内歯歯車2と、可撓性を有しているとともに内歯歯車2の内周側に配置される外歯歯車3と、波動発生器4と、を備えている。波動発生器4は、外歯歯車3の内周に組み付けられることによって外歯歯車3を非円形に撓ませて当該外歯歯車3に内歯歯車2との噛み合い部分Pを形成させるとともに当該噛み合い部分Pを内歯歯車2の周方向に移動させる。
【0015】
波動発生器4は、噛み合い部分Pが外歯歯車3の周方向の3か所以上に形成されるように構成されている。図1を参照すれば、本実施形態において、外歯歯車3は、3つの噛み合い部分Pを有している。本実施形態において、内歯歯車2と外歯歯車3とは、軸線Oを同一軸線として同軸に配置されている。すなわち、本実施形態において、内歯歯車2及び外歯歯車3の周方向は、軸線Oの周りの方向と一致している。
【0016】
図2には、内歯歯車2及び外歯歯車3を、当該外歯歯車3を波動発生器4に組み付ける前の状態で概略的に示す。
【0017】
図2を参照すれば、内歯歯車2は、複数の内歯2aと、円環状本体2bと、を有している。複数の内歯2aは、円環状本体2bの内周から径方向内側に突出している。本実施形態において、内歯歯車2は、例えば、波動歯車装置1のハウジングに固定されている。すなわち、本実施形態において、内歯歯車2は、固定歯車である。さらに、本実施形態において、内歯歯車2は、高い剛性を有する剛性歯車である。内歯歯車2は、例えば、鋳鉄、合金鋼、炭素鋼などの鉄系材料やマグネシウム合金、アルミ合金、チタン合金などの軽金属材料、PEEK、PPS、POMなどのエンジニアリングプラスチックなど樹脂材によって形成されている。
【0018】
また、図2を参照すれば、外歯歯車3は、複数の外歯3aと、円環状本体3bと、を有している。複数の外歯3aは、円環状本体3bの外周から径方向外側に突出している。外歯歯車3は、可撓性を有する可撓性歯車である。外歯歯車3は、例えば、円環状本体3bを薄肉に形成することによって機械的に変形及び復元をさせることができる。円環状本体3bを薄肉に形成した場合、外歯歯車3を形成するための材料は、金属、樹脂材を用いることができる。また、外歯歯車3は、例えば、可撓性を有する材料(例えば、合金鋼、炭素鋼、軽金属からなる薄肉材料や、エンジニアリングプラスチックなどの樹脂材料)によって材質的に変形及び復元をさせることができる。
【0019】
翻って図1を参照すれば、本実施形態において、波動発生器4は、波動生成コア5と弾性ベアリング6とを備えている。
【0020】
波動生成コア5は、モータ(図示省略。)などの動力源に接続されている。波動生成コア5は、例えば、カムのように機能する。本実施形態において、前記モータの回転軸線は、軸線Oと同軸である。これによって、波動生成コア5は、軸線Oの周りに回転することができる。波動生成コア5は、非円形の形状を有している。本実施形態において、波動生成コア5は、径方向外向きに凸の、3つの頂部5aを有した形状、いわゆる、3ローブ(スリーローブ)形状を有している。本実施形態において、波動生成コア5は、内歯歯車2と同様、高い剛性を有する部材である。
【0021】
弾性ベアリング6は、外歯歯車3の内周と波動生成コア5の外周との間の相対回転を許容する。本実施形態において、弾性ベアリング6は、内輪6a、外輪6b及び玉6cを有する玉軸受である。前記玉軸受としては、例えば、深溝玉軸受が挙げられる。本実施形態において、内輪6a及び外輪6bは、可撓性を有している。これによって、内輪6a及び外輪6bは、それぞれ、取り付けられる部材の輪郭形状に合わせて変形させることができる。
【0022】
弾性ベアリング6の内輪6aは、波動生成コア5の外周に取り付けられている。これによって、弾性ベアリング6は、当該弾性ベアリング6の形状が波動生成コア5の輪郭形状となるように当該波動生成コア5に組み付けられる。また、弾性ベアリング6の外輪6bは、外歯歯車3の内周に取り付けられている。外歯歯車3は可撓性を有している。これによって、外歯歯車3は、当該外歯歯車3の形状が波動生成コア5の輪郭形状となるように当該波動生成コア5に弾性ベアリング6を介して組み付けられる。したがって、本実施形態において、外歯歯車3は、図1に示すように、波動生成コア5の外周形状にしたがって、非円形の3ローブ(スリーローブ)形状に撓む。これによって、外歯歯車3には、当該外歯歯車3の周方向の3か所に、120度の間隔で、内歯歯車2との噛み合い部分Pが形成される。
【0023】
波動歯車装置1において、波動発生器4を回転させると、当該波動発生器4の波動生成コア5は、外歯歯車3に対して相対回転させることができる。波動歯車装置1において、外歯歯車3の外歯3aの歯数ZF と、内歯歯車2の内歯2aの歯数ZR と、の間には、歯数差がある。このため、波動発生器4を回転させると、内歯歯車2と外歯歯車3との間には、前記歯数差に起因した相対回転が生じる。本実施形態において、内歯歯車2は固定されている。これによって、波動発生器4を回転させると、外歯歯車3の噛み合い部分Pは、内歯歯車2の周方向において、波動発生器4の回転方向と反対方向に移動する。本実施形態において、噛み合い部分Pは、波動生成コア5が軸線Oの周りを120度回転する毎に、内歯歯車2に対して波動発生器4の回転方向と反対方向に移動する。すなわち、本実施形態において、波動発生器4からの入力回転は、外歯歯車3からの減速回転として反転出力される。
【0024】
図3には、図2の外歯歯車3の一部を拡大して示す。図3には、外歯歯車3が円環状である状態の、当該外歯歯車3の歯先円、歯底円及び噛み合いピッチ円が示されている。また、図3中、符号DpF は、外歯歯車3の噛み合いピッチ円直径である。
【0025】
図4には、図2の内歯歯車2の一部を拡大して示す。図4には、当該内歯歯車2の歯先円、歯底円及び噛み合いピッチ円が示されている。また、図4中、符号DpR は、内歯歯車2の噛み合いピッチ円直径である。
【0026】
図2に示すように、外歯歯車3を波動発生器4に組み付ける前の状態において、外歯歯車3の噛み合いピッチ円直径DpF を当該外歯歯車3の歯数ZF で除した値(DpF / ZF )は、内歯歯車2の噛み合いピッチ円直径DpR を当該内歯歯車2の歯数ZR で除した値(DpR / ZR )よりも大きい。数式で表すと次のとおりである。
【0027】
DpF / ZF > DpR / ZR ・・・(1)
【0028】
従来の波動歯車装置は、内歯歯車2の噛み合いピッチ円直径DpR と、外歯歯車3の噛み合いピッチ円直径DpFと、の関係について着目したものではなかった。
【0029】
これに対し、本実施形態の波動歯車装置1は、内歯歯車2の噛み合いピッチ円直径DpR と、外歯歯車3の噛み合いピッチ円直径DpF と、の関係に基づいて設定された、新規な波動歯車装置である。波動歯車装置1によれば、具体的には、以下の効果を奏する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の波動歯車装置1によれば、噛み合い部分Pが3か所以上(本実施形態では、3か所)となる。したがって、本実施形態において、内歯歯車2と外歯歯車3との噛み合い個所は、噛み合い部分Pが2か所の、いわゆる、2ローブ形状の波動歯車装置に比べて多くなる。すなわち、3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置によれば、2ローブ形状の波動歯車装置に比べて、波動歯車装置1全体の噛み合い個所が広くなる。また、3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置によれば、当該波動歯車装置全体の噛み合い個所が広くなるため、歯車全体としての加工精度が平均化される。したがって、3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置によれば、当該波動歯車装置によって実行される角度伝達の精度が良好なものとなる。さらに、3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置によれば、噛み合い部分Pが3か所以上(本実施形態では、3か所)となることにより、当該波動歯車装置全体に生じるねじれが低減される。すなわち、3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置によれば、波動歯車装置全体に生じるねじれに対する剛性を高めることができる。
【0031】
したがって、3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置1によれば、噛み合い部分Pが2か所の波動歯車装置と比べて、角度伝達精度及び耐衝撃性を向上させることができる。具体的には、噛み合い部分Pが3か所以上となることによって、噛み合い部分Pが2か所の波動歯車装置と比べて、外歯歯車2に生じ得るねじれに対する剛性とともに、波動発生器4の一部を構成する弾性ベアリング6に生じ得るねじれに対する剛性を高めることができる。これによって、波動歯車装置1によれば、噛み合い部分Pが2か所の波動歯車装置と比べて、角度伝達精度及び耐衝撃性を向上させることができる。
【0032】
一方、図1を参照して説明すると、3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置の場合、噛み合い部分Pにおいて、弾性ベアリング6に生じる変形は、曲率半径が小さな変形、すなわち、大きな曲げ変形となる。この場合、弾性ベアリング6内には大きな曲げ応力が生じるため、当該弾性ベアリング6の耐久性、したがって、波動歯車装置の耐久性に改善の余地がある。また、こうした大きな曲げ変形は、弾性ベアリング6内において、玉6cの軌道を大きく変化させる。このため、3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置では、玉6cが移動することによって生じる抵抗が増加する。すなわち、3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置には依然として、当該波動歯車装置の動力伝達効率に改善の余地があった。
【0033】
これに対し、本実施形態の波動歯車装置1によれば、内歯歯車2と外歯歯車3とを上記式(1)を満たすように設定したことによって、弾性ベアリング6に生じる変形を低減することができる。これによって、本実施形態の波動歯車装置1によれば、上記式(1)を満たすように設定しない、3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置と比べて、動力伝達効率を向上させることができる。具体的には、内歯歯車2と外歯歯車3とを上記式(1)を満たすように設定したことによって、噛み合い部分Pが2か所の波動歯車装置と比べて、外歯歯車3に生じ得る変形量とともに、弾性ベアリング6に生じ得る変形量を抑制することができる。これによって、波動歯車装置1によれば、上記式(1)を満たすように設定しない3ローブ以上の形状を有した波動歯車装置と比べて、動力伝達効率を向上させることができる。
【0034】
したがって、本実施形態の波動歯車装置1によれば、波動歯車装置全体としての剛性を高めつつ、動力伝達効率を向上させることができる。
【0035】
本実施形態において、内歯歯車2の、歯先円直径DaR 、歯底円直径DdR 及び歯数ZR と、外歯歯車3の、歯先円直径DaF 、歯底円直径DdF 及び歯数ZF と、外歯歯車3を波動発生器4に組み付けることによって生じた当該外歯歯車3の噛み合いピッチ円のリフト量D(図1参照。)と、は、以下の関係を満たしていることが好ましい。例えば、図1及び2を参照すれば、リフト量Dは、外歯歯車3の内周に波動発生器4を挿入したときの、外歯歯車3の長軸部における、外歯3aの歯先円半径(図1の長半径R3a)と、外歯歯車3の内周に波動発生器4を挿入する前の、真円状態における外歯歯車3の、外歯3aの歯先円半径(図2の歯先円半径r3)と、の差である。
【0036】
1 < { ZR ・ ( DaR + DdR + DaF + DdF - 4D ) } / { ZF ・ ( DaR + DdR + DaF + DdF+ 4D ) } ≦ 1.11
・・・(2)
【0037】
式(2)の関係を満たす場合、3か所以上の噛み合い部分を確実に確保しつつ、動力伝達効率を向上させることができる。
【0038】
一般的に、内歯歯車2の噛み合いピッチ円直径DpR と、外歯歯車3の噛み合いピッチ円直径DpF と、は、式(3a)から式(6b)のように表せる。
【0039】
内歯歯車2の噛み合いピッチ円直径DpR と、外歯歯車3の噛み合いピッチ円直径DpF と、を算出するための、基本的な算出式である。
外歯歯車:DpF = ( DaR + DdR + DaF+ DdF ) / 4 - D・・・(3a)
内歯歯車:DpR= ( DaR + DdR + DaF + DdF ) / 4 + D・・・(3b)
【0040】
内歯歯車2の噛み合いピッチ円直径DpR と、外歯歯車3の噛み合いピッチ円直径DpF と、を算出するための、他の算出式である。
外歯歯車:DpF= DaF - 2 ・ fha ・ m = ( DaR + DaF ) / 2 - D・・・(4a)
内歯歯車:DpR= DaR + 2 ・ fha ・ m = ( DaR + DaF ) / 2 + D・・・(4b)
【0041】
内歯歯車2の噛み合いピッチ円直径DpR と、外歯歯車3の噛み合いピッチ円直径DpF と、を算出するための、他の算出式である。
外歯歯車:DpF= DdF + 2 ・ fhd ・ m = ( DdR + DdF ) / 2 - D・・・(5a)
内歯歯車:DpR= DdR - 2 ・ fhd ・ m = ( DdR + DdF ) / 2 + D・・・(5b)
【0042】
さらに、内歯歯車2の噛み合いピッチ円周長と、外歯歯車3の噛み合いピッチ円周長と、は、次のように表せる。
【0043】
外歯歯車3の噛み合いピッチ円周長:π ・ DpF・・・(6a)
内歯歯車2の噛み合いピッチ円周長:π ・ DpR・・・(6b)
なお、式(6a)と式(6b)において、πは円周率である。
【0044】
さらに、内歯歯車2の内歯2aの間隔と、外歯歯車3の外歯3aの間隔と、は、次のように表せる。
【0045】
外歯歯車3の歯3aの間隔:π ・ DpF / ZF = π ・ ( m3 + 2 ・ xF・ m3 / ZF) ・・・(7a)
内歯歯車2の歯2aの間隔:π ・ DpR / ZR = π ・( m2 - 2 ・ xR・ m2 / ZR) ・・・(7b)
【0046】
式(7a)と式(7b)において、π は円周率である。したがって、式(7a)と式(7b)とのπ は共通である。また、式(7a)中、m3 は、外歯歯車3のモジュールである。また、式(7b)中、m2 は、内歯歯車2のモジュールである。内歯歯車2と外歯歯車3とは噛み合いを前提にしていることから、モジュールm2とモジュールm3 とは、円周率πと同様に共通(m2 =m3 )である。なお、xFは、外歯歯車3の歯3aの転位係数である。また、xRは、内歯歯車2の歯2aの転移係数である。
【0047】
すなわち、式(1)が成り立つ条件においては、式(7a)及び式(7b)から明らかなように、本発明の波動歯車装置において、外歯歯車3の外歯3aの間隔は、内歯歯車2の内歯2aの間隔よりも広い。つまり、外歯歯車3が波動歯車装置1の一要素として当該波動歯車装置1に組み込まれたときには、当該外歯歯車3の外歯3aのかみ合い位置がより先端方向(内歯歯車2に近い方向)にシフトした位置で、内歯歯車2とかみ合わされるということになる。したがって、噛み合いピッチ円のリフト量Dは、小さな値であってもよい。すなわち、本発明によれば、噛み合いピッチ円のリフト量Dを小さな値とし、噛み合い時に必要となる変形量を低減させることができ、結果として、波動歯車装置1の動力伝達効率が向上する。
【0048】
なお、式(1)を成立させる一つの例としては、m2 =m3 の場合においては、xF / ZF + xR / ZR >0を満たすような転位係数を内歯歯車2と外歯歯車3に適用すれば良い。
【0049】
さらに、パラメータX= ( DpF/ ZF ) / ( DpR / ZR )の上限値は、X =1.11であることが好ましい。
【0050】
上記式(1)を( DpR / ZR )で除した場合、パラメータXは、以下のとおりである。
X > 1・・・(8)
【0051】
次いで、図1を参照して説明すると、外歯歯車3の噛み合い部分Pの周方向間の、内歯歯車2の内歯2aの歯先と、外歯歯車3の外歯3aの歯先との間の、径方向隙間のうちの最大間隔 (以下、「最大歯先間隔」ともいう、)をCとし、内歯歯車2の噛み合いピッチ円直径DpR と、外歯歯車3の噛み合いピッチ円直径DpF とを変化させたときの、最大歯先間隔CとパラメータXとの関係を計算した。図5には、前記計算結果を、最大歯先間隔CとパラメータXとの関係でグラフに示す。
【0052】
なお、上記計算では、歯車のモジュールmは、内歯歯車2のモジュールm2 及び外歯歯車3のモジュールm3 で等しく、m=0.3である。外歯歯車3の外歯3aの歯数ZF は、ZF =48である。内歯歯車2の内歯2aの歯数ZR は、ZR =51である。歯車の歯末たけ係数fha は、内歯歯車2の内歯2aの歯末たけ係数fha2 と、外歯歯車3の外歯3aの歯末たけ係数fha3 とは等しく、fha =1である。歯車の歯元たけ係数fhd は、内歯歯車2の内歯2aの歯元たけ係数fhd2と、外歯歯車3の外歯3aの歯元たけ係数fhd3とは等しく、fhd =1.25である。
【0053】
図5のグラフを参照すれば、縦軸が0(ゼロ)では、最大歯先間隔CがC=0(ゼロ)となるため、本来、隙間を生じるべき部分においても、内歯歯車2の内歯2aの歯先と外歯歯車3の外歯3aの歯先とがと突き当たることになる。図1を参照して説明すれば、パラメータXがX =1.11に接近すると、外歯歯車3の内周に波動発生器4を挿入したときの、外歯歯車3の短軸部における、外歯3aの歯先円半径(図1の短半径R3b)が大きくなることで、径方向最大隙間Cが減少する。すなわち、縦軸が0(ゼロ)では、内歯歯車2の内歯2aの歯先と外歯歯車3の外歯3aの歯先とが噛み合い部分P以外の部分で干渉することになる。このため、径方向最大隙間CがC=0(ゼロ)となる場合には、波動歯車装置1として機能しなくなる。図5を参照すれば、X =1.11を超えると、縦軸が0以下となる。したがって、上記式(2)を満たせば、3か所以上の噛み合い部分Pを確実に確保することができる。これによって、式(2)の関係を満たす場合、3か所以上の噛み合い部分を確実に確保しつつ、動力伝達効率を向上させることができる。
【0054】
図6は、歯車の、歯末たけfha・ mと、歯元たけfhd・ mとを概略的に示す図である。図6に示すように、本実施形態において、歯車の歯末たけは、fha・ mによって表され、歯元たけは、fhd・ mによって表される。
【0055】
本実施形態において、内歯歯車2と外歯歯車3との少なくともいずれか一方は、樹脂材を含んでいることが好ましい。この場合、波動歯車装置の軽量化を図ることができるとともに、当該波動歯車装置のコストを削減することができる。
【0056】
上述したとおり、噛み合い部分Pが3か所以上となる場合、波動歯車装置全体としてのねじりに対する剛性が高まることによって、波動歯車装置全体としてのねじれを生じ難くなる。これによって、噛み合い部分Pが3か所以上となる場合、内歯歯車2と外歯歯車3との少なくともいずれか一方に、少なくとも樹脂材を含ませることができる。この場合、内歯歯車2と外歯歯車3との少なくともいずれか一方に樹脂材が含まれることによって、波動歯車装置1の軽量化を図ることができる。また、この場合、内歯歯車2と外歯歯車3との少なくともいずれか一方に樹脂材が含まれることによって、波動歯車装置1のコストを削減することができる。
【0057】
前記樹脂材としては、例えば、PEEK、PPS,POMなどのエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。また、「内歯歯車2と外歯歯車3との少なくともいずれか一方は、樹脂材を含んでいる」とは、当該樹脂材と異材質の材料との組み合わせを許容することを意味する。例えば、内歯歯車2と外歯歯車3との少なくともいずれか一方は、前記樹脂材と金属との複合材によって形成することができる。具体的には、例えば、歯車の円環状本体と歯とを異なる材料で形成することができる。
【0058】
また、内歯歯車2と外歯歯車3との少なくともいずれか一方の歯には、摩擦低減処理が施されていることが好ましい。この場合、動力伝達効率をより向上させることができる。
【0059】
本実施形態において、内歯歯車2の内歯2aに低摩擦コーティングを行うことによって、内歯2aの表面に低摩擦層を設けることができる。低摩擦層は、例えば、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)によって形成することができる。なお、歯車の歯に摩擦低減処理を施した場合、式(1)及び式(2)は、摩擦低減処理が行われた後の寸法で考慮する。
【0060】
上述したところは、本発明の一実施形態を例示したにすぎず、特許請求の範囲に従えば、様々な変更が可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1:波動歯車装置, 2:内歯歯車, 2a:内歯, 2b:円環状本体, 3:外歯歯車, 3a:外歯, 3b:円環状本体, 4:波動発生器, 5:波動生成コア, 5a:頂部, 6:弾性ベアリング, 6a:内輪, 6b:外輪, 6c:玉, O:軸線, P:噛み合い部分
【要約】
【課題】波動歯車装置全体としての剛性を高めつつ、動力伝達効率を向上させた当該波動歯車装置を提供する。
【解決手段】内歯歯車2と、可撓性を有している外歯歯車3と、外歯歯車3に内歯歯車2との噛み合い部分Pを形成させるとともに当該噛み合い部分Pを内歯歯車2の周方向に移動させる波動発生器4と、を備えている。波動発生器4は、噛み合い部分Pが外歯歯車3の周方向の3か所以上に形成されるように構成されている。外歯歯車3の噛み合いピッチ円直径DpF を歯数ZF で除した値(DpF / ZF )は、内歯歯車2の噛み合いピッチ円直径DpR を歯数ZR で除した値(DpR / ZR )よりも大きい。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6