(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-20
(45)【発行日】2022-07-28
(54)【発明の名称】積層体、インモールドラベル、ラベル付き成形体、ロール状インモールドラベルおよびインモールドラベル積み上げ物
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20220721BHJP
G09F 3/00 20060101ALI20220721BHJP
G09F 3/02 20060101ALI20220721BHJP
G09F 3/10 20060101ALI20220721BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
G09F3/00 D
G09F3/02 B
G09F3/10 C
(21)【出願番号】P 2021129630
(22)【出願日】2021-08-06
(62)【分割の表示】P 2020511103の分割
【原出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2018068638
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】本田 駿介
(72)【発明者】
【氏名】上野 雅彦
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2000/22601(WO,A1)
【文献】特開2017-167474(JP,A)
【文献】国際公開第2007/007803(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/074684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
G09F 3/00,3/02,3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有する積層体であって、
前記基材層が熱可塑性樹脂フィルムを有し、
前記感熱接着層が、アミノ基と脂肪酸基からなる脂肪酸アミド構造を1つだけ有していて、そのアミド基の2つの水素原子の少なくとも1つが置換基で置換された構造を有する高級脂肪酸アミドを含有し、
前記保護層がシリコーン系離型剤を含有することを特徴とする積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の積層体で構成される、インモールドラベル。
【請求項3】
内部ヘイズが50%以下であることを特徴とする、請求項2に記載のインモールドラベル。
【請求項4】
インモールドラベル法によりラベルが成形体に貼着されてなるラベル付き成形体であって、前記ラベルが請求項2または3に記載のインモールドラベルであることを特徴とする、ラベル付き成形体。
【請求項5】
前記成形体がポリエステル製であることを特徴とする、請求項4に記載のラベル付き成形体。
【請求項6】
前記成形体が容器状の成形体である、請求項4または5に記載のラベル付き成形体。
【請求項7】
請求項2または3に記載のインモールドラベルを巻き取ってなるロール状インモールドラベル。
【請求項8】
請求項2または3に記載のインモールドラベルを2枚以上積み重ねてなるインモールドラベル積み上げ物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インモールドラベル及びインモールドラベルに好適な積層体、そのインモールドラベルを用いたラベル付き成形体に関する。特に、汚れや傷がつき難く、美粧性及び視認性に優れ、ラベル同士を積み重ねたときに摩擦が起こり難く、取り扱いが容易で、成形体に対する接着強度が強いインモールドラベルに関する。
【背景技術】
【0002】
インモールドラベルは、基材層と感熱接着層を有し、その感熱接着層をキャビティ側にして樹脂成形用の金型に装着されることにより、成形体とほぼ一体となって成形体に直接印刷したように見えるラベルである。インモールドラベルは、容器状の成形体、例えばシャンプー、洗剤などの水回りで使用される容器、冷凍食品、乳製品などの容器用のラベルとして幅広く用いられている。
ここで、インモールドラベルには、通常、オフセット印刷やグラビア印刷などにより、文字や絵柄などの意匠が基材層に印刷される(特許文献1参照)。インモールドラベルの基材層には、その表面を保護するために保護層を設けることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1:特開平8-254956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、保護層を設けられたインモールドラベルが知られている。しかしながら、インモールドラベルの保護層の性能については、これまで十分な検討がなされてこなかった。
【0005】
そこで、本発明者らが様々な組成の保護層を形成し、そのインモールドラベル用保護層としての性能を調べたところ、いずれもインモールドラベル用保護層としては十分に満足のいくものとは言えないことが判明した。例えば、光硬化性アクリル系樹脂を主材料とするオーバープリントニス(略してOPニス)を塗工して保護層として設けると、美粧性(いわゆる艶出し)、硬さおよび表面平滑性は向上するが、インモールドラベル同士が接触した場合における摩擦係数が高くなり、ラベル搬送時にインモールドラベルが複数枚重なって供給、搬送される、いわゆる2枚取りや重送が起こりやすくなるという問題が生じてしまう。
【0006】
本発明は、かかるインモールドラベルについての現状に鑑みてなされたものである。すなわち、汚れや傷がつき難く、美粧性及び視認性に優れ、ラベル同士を積み重ねたときに摩擦が起こり難く、取り扱いが容易で、成形体に対する接着強度が強いインモールドラベル、インモールドラベルとして有用な積層体、並びに、ロール状インモールドラベル及びインモールドラベル積み上げ物を提供することを課題とする。さらに、ラベル部分に汚れや傷がつき難く、美粧性及び視認性に優れるとともに、ラベルが剥がれ難いラベル付き成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のようなラベル搬送時のトラブルを減少させるべく、保護層の種類と感熱接着層の組成に着目して検討を行った。この結果、有機ケイ素化合物(シリコーン系離型剤)が配合された保護層を用いることにより、ラベル搬送時のトラブルを軽減できることが判明した。しかしながら、シリコーン系離型剤を保護層に配合すると、今度は、インモールドラベルの成形体に対する接着強度が低下してしまう問題が生じた。そこで、本発明者らが、さらに、このシリコーン系離型剤の使用による接着強度の低下について検討を行ったところ、高級脂肪酸アミドを配合した感熱接着層を、シリコ-ン系離型剤を配合した保護層と組み合わせることにより、ラベル搬送時のトラブルが抑えられるとともに、成形体に対するラベルの接着強度も確保できるとの知見を得るに至った。本発明は、これらの知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0008】
[1] 少なくとも感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有する積層体であって、前記基材層が熱可塑性樹脂フィルムを有し、前記感熱接着層が高級脂肪酸アミドを含有し、前記保護層がシリコーン系離型剤を含有することを特徴とする積層体。
[2] 前記高級脂肪酸アミドがモノアミドを含む、[1]に記載の積層体。
[3] 前記高級脂肪酸アミドが置換アミドを含む、[1]に記載の積層体。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の積層体で構成される、インモールドラベル。
[5] 内部ヘイズが50%以下であることを特徴とする、[4]に記載のインモールドラベル。
[6] インモールドラベル法によりラベルが成形体に貼着されてなるラベル付き成形体であって、前記ラベルが[4]または[5]に記載のインモールドラベルであることを特徴とする、ラベル付き成形体。
[7] 前記成形体がポリエステル製であることを特徴とする、[6]に記載のラベル付き成形体。
[8] 前記成形体が容器状の成形体である、[6]または[7]に記載のラベル付き成形体。
[9] [4]または[5]に記載のインモールドラベルを巻き取ってなるロール状インモールドラベル。
[10] [4]または[5]に記載のインモールドラベルを2枚以上積み重ねてなるインモールドラベル積み上げ物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、汚れや傷がつき難く、美粧性及び視認性に優れ、ラベル同士を積み重ねたときに摩擦が起こり難く、取り扱いが容易で、成形体に対する接着強度が強いインモールドラベルを提供することができる。本発明のインモールドラベルを用いることにより、ラベル部分に汚れや傷がつき難く、美粧性及び視認性に優れるとともに、ラベルが剥がれ難いラベル付き成形体を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値または物性値を含む表現として用いるものとする。本明細書において「主成分」とは、その組成物における含有量が50%超であるものをいう。
【0011】
<積層体>
本発明の積層体は、少なくとも感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有し、基材層が熱可塑性樹脂フィルムを有し、感熱接着層が高級脂肪酸アミドを含有し、保護層がシリコーン系離型剤を含有することを特徴とする。本発明の積層体は、シリコーン系離型剤を含有する保護層を有することにより、硬度が高くなって、汚れや傷がつき難く、美粧性および表面平滑性に優れている。また、積層体同士の接触した状態での摩擦係数が低く、接触状態からの積層体の2枚取りや重送の発生が抑えられ、取り扱い性が良好である。更に、本発明の積層体は、感熱接着層が高級脂肪酸アミドを含有することにより、保護層がシリコーン系離型剤を含有していても、インモールド成形にて、成形体に高い接着強度で接着することができる。これは以下の理由によるものと推測している。
すなわち、本発明者らが、積層体にシリコーン系離型剤を含有する保護層を設けたところ、上記のような優れた効果が得られた一方で、インモールドラベルとしての、成形体に対する接着強度が小さくなる現象が見られた。この接着強度の低下について、積層体の層構成、各層の組成、製造方法や製造条件、搬送方法なども含め詳細に検討を行った。この結果、特に、積層体の製造時、搬送時または保存時に、積層体の保護層と感熱接着層が接触した状態におかれた場合に、インモールドラベルとしての接着強度が低下する現象が現れることが判明した。そこで、積層体を重ねて保護層と感熱接着層を接触させた後、保護層と感熱接着層の表面Si原子濃度を測定したところ、感熱接着層の表面においてSi原子の存在が認められ、このことから、保護層と感熱接着層の接触により、保護層中のシリコーン系離型剤が感熱接着層の表面に転写され、これが感熱接着層の成形体に対する接着強度を低下させているとの確信を得るに至った。
そして、更に、こうした接着強度の低下を克服すべく検討を行ったところ、感熱接着層に高級脂肪酸アミドを含有させると、保護層と感熱接着層を接触させた後に、積層体をインモールド成形に供した場合でも、積層体が成形体に十分な接着強度で接着することを見出した。これは、感熱接着層の高級脂肪酸アミドが、保護層から感熱接着層へのシリコーン系離型剤の転写を抑制する作用を奏するためであると推定された。
以上のことから、本発明の積層体は、保護層がシリコーン系離型剤を含有していることにより、汚れや傷がつき難く、美粧性および表面平滑性に優れ、積層体同士を積み重ねたときに摩擦が起こり難く、取り扱いが容易であるという効果が得られるとともに、感熱接着層が高級脂肪酸アミドを含有することにより、インモールド成形にて、成形体に強い接着強度で接着することができる。そのため、本発明の積層体は、インモールドラベルとして効果的に用いることができる。
以下において、本発明の積層体を構成する各層について説明する。
【0012】
[基材層]
本発明の積層体に用いる基材層は、熱可塑性樹脂フィルムを有する。
【0013】
(熱可塑性樹脂フィルム)
基材層に用いる熱可塑性樹脂フィルムは、積層体を構成する各層を支持する支持体として機能する。熱可塑性樹脂フィルムは、支持体として機能する強度や厚みを有するものであればよく、特に限定されないが、印刷時やインモールドラベルとして金型内に挿入する際に、ハンドリング性が得られる程度の剛度(コシ)を有することが好ましい。
【0014】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂フィルムに用いる熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル-1-ペンテン、エチレン-環状オレフィン共重合体等のオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、ナイロン-6,12等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン;ポリカーボネート等が挙げられる。これらの中でも製造の簡便さの観点から、熱可塑性樹脂フィルムに用いる熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分とすることが好ましく、ポリプロピレン系樹脂を主成分とすることがより好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
また、感熱接着層との融点差を生じ、インモールド成形時に熱可塑性樹脂フィルムが不要な変形を生じない観点から、熱可塑性樹脂フィルムに含まれる熱可塑性樹脂は、感熱接着層が含むヒートシール性樹脂の融点より15℃以上高い融点を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。具体的には融点が130~280℃の範囲である熱可塑性樹脂が好ましい。
また、本発明の積層体に好適な熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリプロピレン系無延伸フィルム(CPPフィルム)、ポリプロピレン系二軸延伸フィルム(BOPPフィルム)、ポリエチレンテレフタレート系無延伸フィルム(CPETフィルム)、ポリエチレンテレフタレート系二軸延伸フィルム(BOPETフィルム)などが挙げられる。また、本発明の積層体は、後述するとおり透明であることが好ましい。したがって、基材層に用いる熱可塑性樹脂フィルムも透明であることが好ましく、透明なCPPフィルム、透明なBOPPフィルム、透明なCPETフィルムおよび透明なBOPETフィルムなどを熱可塑性樹脂フィルムに用いることが特に好ましい。
なお、基材層に用いる熱可塑性樹脂フィルムに2種類以上の熱可塑性樹脂が含まれている場合には、その熱可塑性樹脂の全質量に対して50質量%以上のものが、上記に例示した熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0015】
(フィラー)
基材層に用いる熱可塑性樹脂フィルムは、有機フィラーや無機フィラーを含んでもよい。この場合、熱可塑性樹脂フィルムが含むフィラーは、有機フィラーのみであっても無機フィラーのみであってもよく、有機フィラーと無機フィラーの組み合わせであってもよい。
熱可塑性樹脂フィルムがフィラーを含む場合、そのフィラーを含む熱可塑性樹脂フィルムを延伸することによって白色不透明化することができる。白色不透明化した熱可塑性樹脂フィルムを基材層に用いることにより、積層体に、白地に映える色で印刷を施して印刷の視認性を高めることができる。
また、熱可塑性樹脂フィルムが、フィラーを含まないか、そのフィラーの含有量が少ない場合には、積層体を製造する際、基材層を均一に成形しやすく、且つ、積層体の透明性が高くなる。これにより、積層体をインモールドラベルとして用いたラベル付き成形体において、ラベルが目立たず、あたかも成形体に直接印刷したかのような視認性を得ることができる。
熱可塑性樹脂フィルムにフィラーを添加するか否か、さらには熱可塑性樹脂フィルムにおけるフィラーの含有量は、本発明の積層体、および、積層体からなるインモールドラベルに求められるデザイン性等に応じて適宜選択することが好ましい。
但し、本発明の積層体は、成形性に優れており、成形体に接着したときに外形が目立たず、あたかも成形体に直接印刷したかのような視認性を発揮できるという特長がある。そのため、こうした長所を活かすべく、本発明の積層体は透明にして用いることが好ましく、熱可塑性樹脂フィルムも透明であることが好ましい。したがって、熱可塑性樹脂フィルムはフィラーを含まないか、フィラーの含有量が少ないことが好ましい。
【0016】
熱可塑性樹脂フィルムに用いる無機フィラーとしては、炭酸カルシウム(好ましくは重質炭酸カルシウム)、焼成クレイ、シリカ、珪藻土、白土、タルク、酸化チタン(好ましくはルチル型二酸化チタン)、硫酸バリウム、アルミナ、ゼオライト、マイカ、セリサイト、ベントナイト、セピオライト、バーミキュライト、ドロマイト、ワラストナイト、ガラスファイバー等が挙げられる。無機フィラーは、その表面を脂肪酸等で表面処理されていてもよい。これらの無機フィラーは、2種以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0017】
有機フィラーには、その融点またはガラス転移点が、熱可塑性樹脂フィルムを形成する熱可塑性樹脂(フィラーが分散されるマトリックスとしての熱可塑性樹脂)よりも高い樹脂からなる、樹脂フィラーを用いることができる。
熱可塑性樹脂フィルムに含まれる熱可塑性樹脂がプロピレン系樹脂である場合、有機フィラーの融点またはガラス転移点は、120~300℃であることが好ましい。好適な有機フィラーとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状オレフィン単独重合体、エチレン-環状オレフィン共重合体、ポリエチレンサルファイド、ポリイミド、ポリメタクリレート、ポリエチルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの有機フィラーは、2種以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0018】
熱可塑性樹脂フィルムにおけるフィラーの含有量は、熱可塑性樹脂フィルムを構成する各成分の合計質量に対して10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。これにより、熱可塑性樹脂フィルムが白色不透明になり、白地に映える色での印刷の視認性を高めることができる。また、熱可塑性樹脂フィルムにおけるフィラーの含有量は、熱可塑性樹脂フィルムを構成する各成分の合計質量に対して70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。これにより、熱可塑性樹脂フィルムを均一に成形しやすくなり、また、ラベルが目立たず成形体に直接印刷したかのような視認性を得ることができる。
【0019】
(その他の成分)
基材層に用いる熱可塑性樹脂フィルムには、必要な物性に応じて、立体障害フェノール系、リン系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤;立体障害アミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の光安定剤;分散剤、帯電防止剤等の成分が含まれていてもよい。熱可塑性樹脂フィルムにこれらの成分が含まれる場合の各成分の含有量は、熱可塑性樹脂フィルムを構成する各成分の合計質量に対して各々0.001~1質量%であることが好ましい。
【0020】
(層構成)
基材層に用いる熱可塑性樹脂フィルムは、単層構成であってもよいし、2層以上の層からなる多層構成であってもよい。基材層が多層構成であることにより、積層体の成形性等を向上させることができる。
【0021】
[保護層]
本発明の積層体において、保護層はシリコーン系離型剤を含有し、基材層の一方の側に設けられる。
本発明における「シリコーン系離型剤」とは、主鎖に複数のシロキサン結合を有する高分子化合物(有機ケイ素化合物、所謂シリコーン)を含有する離型剤のことをいう。
本発明の積層体は、シリコーン系離型剤を含有する保護層を有することにより、硬度が高くなって、汚れや傷がつき難く、美粧性および表面平滑性に優れている。また、積層体同士が接触した場合における摩擦係数が低く、インモールドラベルとしてのラベル搬送時に、ラベルの2枚取りや重送が起こり難く、取り扱い易い。
シリコーン系離型剤の具体例として、両末端シラノール官能性長鎖ジメチルシロキサンなどの縮合反応型シリコーン;ビニル基を両末端または両末端及び側鎖に有する直鎖状メチルビニルポリシロキサンなどの付加反応型シリコーン;アクリロイル基を有するシリコーンなどの紫外線硬化型シリコーン等を例示することができる。これらのシリコーン系離型剤は、2種以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0022】
保護層は、シリコーン系離型剤を含む塗料を用いて、塗工法により形成することが好ましい。シリコーン系離型剤を含む塗料として、シリコーン系離型剤を含むオーバープリントニス(OPニス)を好適に用いることができる。ここで、「OPニス」とは、一般的に、印刷物の表面を保護する目的で用いられる透明性の高い塗料であり、基材表面に塗布した後、可視光線や紫外線の照射、または酸化重合等によって硬化して膜を形成するものである。保護層の形成に用いる保護層用塗料は、OPニスを調製するための各成分とシリコーン系離型剤を所望の割合で混合して調製したものであってもよいし、市販のシリコーン系離型剤を含むOPニスであってもよいし、シリコーン系離型剤を含まない市販のOPニスにシリコーン系離型剤を含有する材料を混合して調製したものであってもよい。これらのうち、シリコーン系離型剤の濃度を任意に調整できることから、シリコーン系離型剤を含まない市販のOPニスに、シリコーン系離型剤を含有する材料を混合して調製したものを用いることが好ましい。
【0023】
シリコーン系離型剤を含み、可視光線や紫外線によって硬化するタイプのOPニスは、通常、ラジカル反応性モノマー40~80質量%とラジカル反応基を有するポリマー20~60質量%の混合物100質量部に対して、架橋剤を0.5~3質量部、光反応開始剤を1~5質量部、シリコーン系離型剤を混合することにより得ることができる。
【0024】
可視光線や紫外線によって硬化するタイプのOPニスの市販品として、例えば、T&K TOKA(株)製「Lカートン OPニス KS」および「UVフレキソTH-3」などを挙げることができる。これらは、何れもシリコーン系離型剤を含まないOPニスである。そこで、これらのOPニスに、シリコーン系離型剤を含有する材料を混合することにより、シリコーン系離型剤を含有する保護層用塗料を調製することができる。
【0025】
シリコーン系離型剤を含有し、酸化重合等によって硬化するタイプのOPニスは、通常、樹脂成分としてのウレタン樹脂またはフェノールマレイン酸樹脂等を80~99質量%に、セルロース誘導体、塩化ビニルまたは酢酸ビニル共重合体等を1~20質量%を混合した混合物100質量部に、鉱油、植物油、2-プロパーノール等のアルコール類、酢酸プロピル等のエステル類およびメチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等の溶剤成分を50~250質量部配合した、いわゆる油性OPニスに、シリコーン系離型剤を混合することにより得ることができる。
【0026】
保護層の厚みは、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。これにより、積層体の強度が高くなって、汚れや傷を防止しやすくなり、また、より平滑な表面を得ることができる。また、保護層の厚みは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。これにより、硬化度の高い保護層を得やすくなる。
保護層の厚みは、走査型電子顕微鏡による断面観察により測定することができる。厚みの測定方法の詳細については、後述する実施例の(ラベルおよび各層の厚み)の欄の記載を参照することができる。
【0027】
保護層は、単層であっても、2層以上の層からなる多層構成であってもよい。保護層が多層構成である場合、その合計厚みが上述の範囲であることが好ましい。また、本発明に係る保護層が多層構成である場合、少なくとも最表面を構成する保護層にシリコーン系離型剤が含まれていることが好ましい。具体的には、例えば、シリコーン系離型剤を含まない層の上に、シリコーン系離型剤を含む層を形成して保護層を構成してもよい。
【0028】
[感熱接着層]
本発明の積層体において、感熱接着層は高級脂肪酸アミドを含有し、基材層の保護層と反対側に設けられている。
感熱接着層は、本発明の積層体をインモールドラベルとして、容器等の成形体に貼着する際に、積層体(ラベル)と成形体を接着する接着剤として機能する。具体的には、感熱接着層はヒートシール性樹脂を含有しており、インモールド成形用の金型内において、パリソン(成形用樹脂)の熱により溶融した後、冷却されて固化することにより積層体と成形体を接着する。
そして、本発明の積層体では特に、感熱接着層が高級脂肪酸アミドを含有することにより、積層体が積み重ねられて、シリコーン系離型剤を含有する保護層に感熱接着層が接触しても、その保護層から感熱接着層へのシリコーン系離型剤の転写が抑えられる。これにより、その後のインモールド成形の際、感熱接着層のヒートシール性が効果的に働いて、積層体と成形体を強い接着強度で接着することができる。
【0029】
(高級脂肪酸アミド)
本発明で感熱接着層に用いる高級脂肪酸アミドは、高級脂肪酸の水酸基が、置換もしくは無置換のアミノ基で置換された脂肪酸アミド構造を有する。以下の説明では、この脂肪酸アミド構造から、置換もしくは無置換のアミノ基を除いた残りの部分を脂肪酸基という。
感熱接着層に含有される高級脂肪酸アミドが有する脂肪酸基の炭素数は、8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。これにより、室温における高級脂肪酸アミドのべたつきを抑えることができる。また、高級脂肪酸アミドが有する脂肪酸基の炭素数は、54以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましい。これにより、感熱接着層のヒートシール性を維持することができる。なお、高級脂肪酸アミドが下記のビスアミドである場合には、第1脂肪酸基と第2脂肪酸基の炭素数の合計が、ここでいう「高級脂肪酸アミドが有する脂肪酸基の炭素数」であることが好ましい。
高級脂肪酸アミドとして、例えばモノアミド、置換アミド、ビスアミド等を用いることができる。
【0030】
モノアミド
モノアミドは、アミノ基と脂肪酸基からなる脂肪酸アミド構造を1つ有する高級脂肪酸アミドであり、アミド基(-CO-NH2)を有する炭化水素ということもできる。ここで、炭化水素部分は、少なくとも1つの水素原子が置換基で置換されていてもよい。高級脂肪酸アミドとしてモノアミドを用いることにより、成形体に対してより優れた接着強度が得られる傾向がある。
脂肪酸基における炭化水素基は、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれであってもよいが、接着強度の観点から、不飽和炭化水素基であることが好ましい。炭化水素基に二重結合を導入することにより、高級脂肪酸アミドの分子構造を屈曲させて、結晶化を抑制することができ、一層高いヒートシール性が得られる傾向がある。炭化水素基における二重結合の数は、特に制限されないが、1以上であることが好ましい。当該二重結合の数はまた、6以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2以下であることが更に好ましい。モノアミドにおける脂肪酸基の炭素数は、当該脂肪酸基が二重結合を有する場合には、14~25であることが好ましい。
【0031】
置換アミド
置換アミドは、モノアミドにおける、アミド基の2つの水素原子の少なくとも1つが置換基で置換された構造を有する高級脂肪酸アミドであり、そのアミド基の2つの水素原子のうちの1つが置換基で置換された構造を有することが好ましい。高級脂肪酸アミドとして置換アミドを用いることにより、感熱接着層のべたつきを抑制することができ、感熱接着層を基材層に積層する際の、周辺装置等への貼り付きが防止されるなど、より安定した積層体の製造が可能となる。
アミド基の水素原子と置換させる置換基(以下、「アミド基の置換基」という)としては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれであってもよく、少なくとも1つの水素原子が置換基で置換されていてもよい。
また、置換基としての炭化水素基の炭素数は、8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、14以上であることが更に好ましい。当該炭素数はまた、54以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることが更に好ましい。置換アミドにおける脂肪酸基の炭素数は、当該脂肪酸基が二重結合を有する場合には、14~25であることが好ましい。
【0032】
アミド基の置換基の炭素数(C1)は、脂肪酸基の炭素数(C2)との比(C1/C2)が0.05~5.0の範囲になる数であることが好ましい。さらに、この炭素数比(C1/C2)は、0.10~0.95又は1.05~4.5であることがより好ましく、0.2~0.9又は1.1~4.0であることがさらに好ましい。炭素数比(C1/C2)が上記の範囲内にあることにより、高級脂肪酸アミドの分子構造の対称性を低下させて結晶化を抑制することができ、ヒートシール性の低下を抑制できる傾向がある。
【0033】
また、アミド基の置換基の不飽和度(HD1)と、脂肪酸基の不飽和度(HD2)とは互いに異なることが好ましく、これらの差の絶対値(|HD1-HD2|)が1.0以上であることがより好ましい。分子中に二重結合を導入することにより、高級脂肪酸アミドの分子構造を屈曲させることができ、さらにHD1とHD2が互いに異なることにより分子構造の対称性を低下させることができる。その結果、高級脂肪酸アミドの結晶化が抑制されて、より高いヒートシール性が得られる傾向がある。ここで、不飽和度HD1およびHD2は、それぞれ、置換基としての炭化水素基、脂肪酸基における炭化水素基について、下記式(1)により求められる値(不飽和度HD)である。
HD=(2×NC+2-NH-NX-NN)/2 式(1)
式(1)中、NC、NH、NX、NNは、それぞれ炭化水素基を構成する原子種の数を表し、NCは炭素原子数、NHは水素原子数、NXはハロゲン原子数、NNは窒素原子数である。
具体的には、アミド基の置換基の不飽和度(HD1)は、0.5以上であることが好ましい。当該不飽和度(HD1)はまた、8以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、2以下であることが更に好ましい。また、脂肪酸基の不飽和度(HD2)は、0.5以上であることが好ましい。当該不飽和度(HD2)はまた、8以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、2以下であることが更に好ましい。
【0034】
ビスアミド
ビスアミドは、2つのモノアミドが連結基を介して連結した構造を有する高級脂肪酸アミドである。より詳しくは、2つのモノアミドにおいて、それぞれ、そのアミド基の1つ水素原子が共通の連結基で置換されることにより、これらモノアミドが互いに連結した構造を有するものである。以下の説明では、ビスアミドを形成する2つのモノアミドの一方の脂肪酸基を「第1脂肪酸基」といい、他方の脂肪酸基を「第2脂肪酸基」という。第1脂肪酸基と第2脂肪酸基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
連結基としては、例えば2価の炭化水素基が挙げられ、その炭素数は1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。
【0035】
ビスアミドの第1脂肪酸基の炭素数(C3)と第2脂肪酸基の炭素数(C4)の比(C3/C4)は0.05~5.0であることが好ましく、0.10~0.95又は1.05~4.5であることがより好ましく、0.2~0.9又は1.1~4.0であることがさらに好ましい。炭素数比(C3/C4)が上記の範囲内にあることにより、高級脂肪酸アミドの分子構造の対称性を低下させて結晶化を抑制することができ、ヒートシール性の低下を抑制できる傾向がある。
【0036】
また、ビスアミドの第1脂肪酸基の不飽和度(HD3)と、第2脂肪酸基の不飽和度(HD4)とは互いに異なることが好ましく、これらの差の絶対値(|HD3-HD4|)が1.0以上であることがより好ましい。分子中に二重結合を導入することにより、高級脂肪酸アミドの分子構造を屈曲させることができ、さらにHD3とHD4が互いに異なることにより分子構造の対称性を低下させることができる。その結果、高級脂肪酸アミドの結晶化が抑制されて、より高いヒートシール性が得られる傾向がある。
ここで、不飽和度HD3およびHD4は、それぞれ、第1脂肪酸基における炭化水素基、第2脂肪酸基における炭化水素基について、上記の式(1)により求められる値(不飽和度HD)である。
具体的には、第1脂肪酸基の不飽和度(HD3)は、0.5以上であることが好ましい。当該不飽和度(HD3)はまた、8以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、2以下であることが更に好ましい。また、第2脂肪酸基の不飽和度(HD4)は、0.5以上であることが好ましい。当該不飽和度(HD4)はまた、8以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、2以下であることが更に好ましい。
【0037】
感熱接着層に用いる高級脂肪酸アミドは、上記の飽和脂肪酸モノアミド、不飽和脂肪酸モノアミド、飽和置換アミド、不飽和置換アミド、飽和脂肪酸ビスアミド、又は不飽和脂肪酸ビスアミドが好ましい。
【0038】
感熱接着層に含有される高級脂肪酸アミドとしては、具体的には、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド等のモノアミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-メチロールアクリルアミド、N-ステアリルエルカ酸アミド等の置換アミド、およびN,N-メチレンビスオレイン酸アミド、N,N-エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド等のビスアミドが好ましく、N,N-メチレンビスオレイン酸アミド、N,N-エチレンビスオレイン酸アミド等のビスアミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エルカ酸アミドがより好ましく、N-ステアリルエルカ酸アミド、エルカ酸アミドが更に好ましい。
【0039】
ここで、感熱接着層に用いる高級脂肪酸アミドは、1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせ用いてもよい。
【0040】
感熱接着層における高級脂肪酸アミドの含有量は、感熱接着層を構成する各成分の合計質量に対して0.03質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。また、感熱接着層における高級脂肪酸アミドの含有量は、感熱接着層を構成する各成分の合計質量に対して3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。これにより、感熱接着層が保護層と接触状態に置かれる前のインモールド成形、および、感熱接着層が保護層と接触状態に置かれた後のインモールド成形のいずれにおいても、積層体と成形体をより高い接着強度で接着することができる。
【0041】
(ヒートシール性樹脂)
感熱接着層に用いるヒートシール性樹脂には、公知のインモールドラベルに用いられているヒートシール性樹脂を用いることができる。ヒートシール性樹脂は、成形加工性、安価、透明性、柔軟性の制御のしやすさ、耐熱性、耐薬品性に優れることからオレフィン系樹脂が好ましい。
ヒートシール性樹脂として好適なオレフィン系樹脂としては、例えば、オレフィンの単独重合体及び共重合体、並びにオレフィン及びその他のコモノマーから形成される共重合体などが挙げられる。オレフィンとしては、具体的には、例えば、エチレン及びプロピレン等が挙げられる。これらの中でも、適度な結晶化度が得やすく、且つ、ヒートシール性を調整しやすいため、エチレンが好ましい。また、本発明の積層体をインモールドラベルとして成形体に貼着した場合における、成形体に対する接着強度が強くなりやすいため、ヒートシール性樹脂は、エチレンとその他のコモノマーから形成される共重合体が好ましい。
ヒートシール性樹脂に用いられるその他のコモノマーとしては、例えば、アルケン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル及び無水マレイン酸などが挙げられる。これらのうち、ポリエステル製成形体に対する接着強度、特に低温でもヒートシール性を示すことから、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数が1~8のメタクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アルキル基の炭素数が1~3のメタクリル酸アルキルエステルが更に好ましく、メタクリル酸メチルエステルが最も好ましい。即ち、感熱接着層に用いるヒートシール性樹脂としては、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体が特に好ましい。
また、ヒートシール性樹脂の融点は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、75℃以上であることが更に好ましい。これにより、積層体同士のブロッキングが起きにくくなる。また、ヒートシール性樹脂の融点は、110℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることが更に好ましい。これにより、インモールド成形時にヒートシール性樹脂が溶融しやすく、接着強度を高めやすくなる。
【0042】
(その他の成分)
感熱接着層には、ヒートシール性を大幅に損なわない範囲で、ヒートシール性樹脂および高級脂肪酸アミド以外の公知の樹脂添加剤が含まれていてもよい。樹脂添加剤としては、粘着付与剤、ワックス類、アンチブロッキング剤などが挙げられる。
粘着付与剤としては、例えば、ロジン及びその誘導体、テルペン及びその誘導体、石油樹脂、並びにこれらの水素添加物などが挙げられる。ワックス類としては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス及びフィッシャートップスワックス等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては、例えば、シリカ、タルク及びゼオライト等の無機粉末等が挙げられる。
これらの添加剤は、通常、感熱接着層を構成する各成分の合計質量に対して、各々、0.01~5質量%の範囲で用いることができる。
【0043】
(厚み)
感熱接着層の厚みは、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることが更に好ましく、1.5μm以上であることが特に好ましく、5μm以上であることが特により好ましい。これにより、本発明の積層体をインモールドラベルとして、成形体に接着する場合の接着強度をより高くすることができる。また、感熱接着層の厚みは、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。これにより、インモールドラベルの材料コストを低く抑えることができる。
感熱接着層の厚みは、走査型電子顕微鏡による断面観察により測定することができる。厚みの測定方法の詳細については、後述する実施例の(ラベルおよび各層の厚み)の欄の記載を参照することができる。
【0044】
[印刷および加飾]
本発明の積層体には、基材層の感熱接着層を設けていない側に印刷を施すことができる。印刷方法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、シール印刷、スクリーン印刷等の公知の各種印刷法が挙げられる。印刷情報としては、バーコード、製造元、販売会社名、キャラクター、商品名、使用方法等が挙げられる。
また、本発明の積層体に、転写箔およびホログラム等の加飾を施してもよい。スレッド等のセキュリティ要素も加飾に含まれる。本発明の積層体には、印刷と加飾との両方を施してもよい。
本発明の積層体およびインモールドラベルに印刷や加飾を施す場合、保護層は、通常、基材層に印刷または加飾を施した後、それらを施した面の上に積層される。
【0045】
[積層体の物性]
(表面Si原子濃度)
本明細書中における「表面Si原子濃度」とは、X線光電子分光法により測定される層表面のSi原子濃度のことをいう。このSi原子は、主として、保護層に含有されるシリコーン系離型剤、または、保護層から感熱接着層に転写されたシリコーン系離型剤に由来する。
保護層における表面Si原子濃度は、3atm%以上であることが好ましく、5atm%以上であることがより好ましい。これにより、積層体同士を積み重ねたときの摩擦をより効果的に抑えることができる。また、保護層における表面Si原子濃度は、25atm%以下であることが好ましく、20atm%以下であることがより好ましい。これにより、積層体同士を積み重ねた後においても、インモールド成形における積層体と成形体の接着強度をより高くすることができる。
感熱接着層における表面Si原子濃度は、9atm%以下であることが好ましく、5atm%以下であることがより好ましい。これにより、積層体同士を積み重ねた後においても、インモールド成形における積層体と成形体の接着強度をより高くすることができる。なお、保護層との接触により、保護層から感熱接着層へシリコーン系離型剤が転写された場合の感熱接着層の表面Si原子濃度の下限は、通常0.4atm%である。
【0046】
感熱接着層における表面Si原子濃度(Csih)と保護層における表面Si原子濃度(Csip)の比(Csih/Csip)は小さいことが好ましい。これにより、積層体同士を積み重ねたときに摩擦が起こり難くなり、且つ、インモールド成形における積層体と成形体の接着強度を高くすることができる。具体的には、感熱接着層の表面Si原子濃度と保護層の表面Si原子濃度の比(Csih/Csip)は、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。なお、表面Si原子濃度の比(Csih/Csip)の下限値については、上記の感熱接着層における表面Si原子濃度の下限にも依存しており、0.001以上であってよく、0.01以上であってもよく、0.05以上であってもよい。
【0047】
また、本発明の積層体は、2枚の積層体を所定の条件で接触させる接触試験後においても、保護層の表面Si原子濃度(Csip)、感熱接着層の表面Si原子濃度(Csih)、および感熱接着層の表面Si原子濃度と保護層の表面Si原子濃度の比(Csih/Csip)が上述の範囲であることが好ましい。
ここで、接触試験とは、2枚の積層体を、一方の保護層と他方の感熱接着層が接触するよう積み重ね、2.5Mpaの圧力をかけた状態で、40℃で3分間維持することをいう。
この接触試験後において、保護層および感熱接着層の各表面Si原子濃度および表面Si原子濃度の比(Csih/Csip)が上述の範囲にある積層体では、積層体同士が積み重ねられて感熱接着層がシリコーン系離型剤を含む保護層と接触した状態におかれた場合でも、その積層体と成形体との間で、実用的な接着強度を得ることができる。
【0048】
(透明性)
本発明の積層体は、製造時に均一に成形しやすく、且つ、その積層体をインモールドラベルとして成形体に貼着したラベル付き成形体において、ラベルが目立たずあたかも成形体に直接印刷したかのような視認性を発揮できることから、透明であることが好ましい。具体的には、積層体は、JIS P 8149:2000「紙及び板紙-不透明度試験方法(紙の裏当て)-拡散照明法」に準拠して測定した不透明度が50%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましい。なお、この不透明度の下限は、通常3%である。また、積層体は、JIS-K-7136に準じて測定される内部ヘイズが50%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、15%以下であることが更に好ましい。なお、内部ヘイズの下限は、通常3%である。
【0049】
[積層体のインモールドラベルとしての性能]
本発明の積層体は、インモールドラベルとして効果的に用いることができる。本発明の積層体をインモールドラベルとしてインモールド成形を行うには、積層体を、感熱接着層側が金型のキャビティ側になるように金型に装着して、該金型内に成形用樹脂を投入し、加熱後、冷却する。これにより、成形用樹脂が成形されると同時に、積層体(インモールドラベル)と成形体が接着し、ラベル付き成形体が得られる。以下では、本発明の積層体のインモールドラベルとしての性能について説明する。この項の説明では、本発明の「積層体」を「インモールドラベル」ということがある。
【0050】
(接着強度)
本明細書中において、インモールドラベルの成形体に対する「接着強度」は、JIS K6854-2:1999「接着剤-はく離接着強さ試験方法-第2部:180度はく離」に従って測定される接着強度のことをいう。
インモールドラベルの成形体に対する接着強度は、100gf/15mm以上であることが好ましく、200gf/15mm以上であることがより好ましい。インモールドラベルの成形体に対する接着強度の上限は特に限定されない。但し、ラベルの何れの層においても凝集破壊が起こり難いことから、接着強度は2500gf/15mm以下であることが好ましい。
【0051】
(摩擦係数)
本明細書中において、インモールドラベルの感熱接着層と保護層との間の「摩擦係数」は、JIS-K-7125に準拠して測定される摩擦係数のことをいう。具体的には、摩擦係数(動摩擦係数、静摩擦係数)は、例えば東洋精機製作所(株)製の摩擦測定機「TR-2」を用い、ロードセル:1kgf、移動速度:150mm/分の条件で、200gスレッドを使用して測定する。
本発明のインモールドラベルは、感熱接着層と保護層との間の動摩擦係数が0.2以上であることが好ましい。また、本発明のインモールドラベルは、感熱接着層と保護層との間の動摩擦係数が1.2以下であることが好ましい。また、本発明のインモールドラベルは、感熱接着層と保護層との間の静摩擦係数が0.2以上であることが好ましい。また、本発明のインモールドラベルは、感熱接着層と保護層との間の静摩擦係数が1.2以下であることが好ましい。動摩擦係数および静摩擦係数が上記の下限値以上であることにより、オフセット印刷時において、ラベル滑りによる給紙トラブルの発生を抑えることができる。また、動摩擦係数および静摩擦係数が上記の上限値以下であることにより、印刷時において、ラベルの滑り性不足による給紙トラブルの発生を抑えることができる。
【0052】
[印刷耐久性]
本発明の積層体では、例えば基材層の感熱接着層と反対側に印刷を施すことができる。ここで、この積層体には、基材層の感熱接着層と反対側に、シリコーン系離型剤を含有する保護層が設けられていることにより、印刷を施した場合における印刷の耐久性に優れる。具体的には、本発明の積層体の保護層側に、擦過試験やテープ剥離によるインキの密着性評価を施しても、印刷が擦れたり、インキが剥がれたりし難く、高い印刷耐久性が得られる。
【0053】
[積層体の製造方法]
本発明の積層体は、基材層の一方の面側に感熱接着層を積層し、他方の面側に保護層を積層することにより製造することができる。
基材層として、単層のフィルムを成形する方法としては、Tダイによる押出し成形(キャスト成形)、Oダイによるインフレーション成形および圧延ロールによるカレンダー成形等が挙げられる。また、基材層として、多層のフィルムを成形する方法としては、多層ダイス構成のTダイやOダイを用いて製造する方法が挙げられる。具体的には、例えば、各層に用いる熱可塑性樹脂組成物を各押出機に供給し、各押出機から吐出された溶融熱可塑性樹脂組成物を多層ダイスに供給し、ダイス内で積層してフィルム状に吐出する方法が挙げられる。また、基材層は、単層または複層のシートに熱可塑性樹脂組成物を押出ラミネートすることにより製造することもできる。
基材層に感熱接着層を積層する方法としては、共押出法、押出ラミネート法、塗布法およびフィルム貼合法等が挙げられる。共押出法は、多層ダイスに基材層用の熱可塑性組成物と、感熱接着層用の熱可塑性組成物(各々複数種用いてもよい)とを供給し、多層ダイス内で積層して押し出す方法であり、成形と同時に積層が行われる。押出ラミネート法は、先に成形した基材層に溶融した感熱接着層用の熱可塑性組成物を積層し、冷却しながらロールでニップする方法であり、成形と積層とは別工程で行なわれる。塗布法は、先に成形した基材層に感熱接着剤層用の熱可塑性組成物を含む塗布液を塗布する方法であり、溶剤塗工法および水系塗工法などがある。フィルム貼合法は、基材層と感熱接着層とを各々フィルム成形し、感圧接着剤を介して両者を貼りあわせる方法であり、成形と積層とは別工程で行なわれる。これら積層法の中でも、各層を強固に接着できる観点から、共押出法が好ましい。
基材層に保護層を積層する方法としては、簡便で、市販品等から任意の組成の保護層材料を調製しやすいため、塗工法により設けることが好ましい。
【0054】
<インモールドラベル>
次に、本発明のインモールドラベルについて説明する。
本発明のインモールドラベルは、少なくとも感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有し、基材層が熱可塑性樹脂フィルムを有し、感熱接着層が高級脂肪酸アミドを含有し、保護層がシリコーン系離型剤を含有することを特徴とする。各層の説明、好ましい範囲および具体例については、<積層体>の欄の対応する記載を、「積層体」を「インモールドラベル」に読み替えて参照することができる。
本発明のインモールドラベルは、<積層体>の欄で説明したように、シリコーン系離型剤を含有する保護層を有することにより、硬度が高くなり、保護層表面に汚れや傷がつき難く、美粧性および表面平滑性に優れている。また、積層体同士が接触した状態での摩擦係数が低く、取り扱い易いという効果も得られる。更に、本発明のインモールドラベルは、感熱接着層が高級脂肪酸アミドを含有することにより、保護層と感熱接着層が接触した状態に置かれた場合でも、保護層から感熱接着層へのシリコ-ン系離型剤の転写が抑えられ、感熱接着層のヒートシール性により成形体に対して高い接着強度で接着することができる。
【0055】
<ロール状インモールドラベルおよびインモールドラベル積み上げ物>
次に、本発明のロール状インモールドラベルおよび本発明のインモールドラベル積み上げ物について説明する。
本発明のロール状インモールドラベルは、本発明のインモールドラベルを巻き取ってなるものである。
本発明のインモールドラベル積み上げ物は、2枚以上の本発明のインモールドラベルを積み重ねてなるものである。本発明のインモールドラベル積み上げ物は、2枚以上の本発明のインモールドラベルの束であり、印刷業界での所謂、棒積みである。
本発明のロール状インモールドラベルおよび本発明のインモールドラベル積み上げ物で用いる本発明のインモールドラベルの説明、好ましい範囲および具体例については、<積層体>、<インモールドラベル>の欄の対応する記載を参照することができる。
これらのインモールドラベルの形態(ロール状、積み上げ状)は、製造されたインモールドラベルを保管、流通、販売する際の製品形態として有用である。これらの形態のうち、生産性の観点からは、ロール状インモールドラベルの形態を採用することが好ましく、生産するインモールドラベルが少量である場合には、簡単に形成できることから、インモールドラベル積み上げ物の形態を採用することが好ましい。
ここで、本発明のロール状インモールドラベルおよび本発明のインモールドラベル積み上げ物では、いずれもインモールドラベルの保護層と感熱接着層が互いに接触した状態におかれる。具体的には、ロール状インモールドラベルでは、内側の周の保護層(または感熱接着層)がその次の周の感熱接着層(または保護層)と接し、インモールドラベル積み上げ物では、下側のインモールドラベルの保護層(または感熱接着層)がその上に置かれたインモールドラベルの感熱接着層(または保護層)と接する。このとき、本発明のインモールドラベルでは、保護層にシリコ-ン系離型剤が含まれていることにより、ラベル同士の摩擦が起こり難い。そのため、これらの形態を形成し易く、また、これらの形態から容易にラベルを取り出して、インモールド成形に供することができる。また、感熱接着層に高級脂肪酸アミドが含まれていることにより、保護層が含むシリコーン系離型剤の感熱接着層への転写が抑えられる。そのため、インモールド成形の際、感熱接着層のヒートシール性が効果的に働いて、インモールドラベルと成形体を高い接着強度で接着することができる。その結果、ラベル表面に汚れや傷がつき難く、美粧性及び視認性に優れ、ラベルが剥がれ難く、実用性に優れたラベル付き成形体を得ることができる。
【0056】
<ラベル付き成形体>
次に、本発明のラベル付き成形体について説明する。
本発明のラベル付き成形体は、インモールドラベル法により、ラベルが成形体に貼着されてなるラベル付き成形体であって、ラベルが本発明のインモールドラベルであることを特徴とする。また、成形体の好ましい形状として、容器状であるものを挙げることができる。
本発明のインモールドラベルの説明、好ましい範囲および具体例については、<積層体>、<インモールドラベル>の欄の対応する記載を参照することができる。
【0057】
(インモールドラベル法)
本発明における「インモールドラベル法」とは、インモールド成形にて、成形用樹脂を金型の形状に成形すると同時に、成形された成形体に、本発明のインモールドラベルを貼着する方法のことをいう。
インモールドラベル法によるラベル付き成形体は、例えば、以下の工程により製造することができる。
先ず、本発明のインモールドラベルを、感熱接着層側が金型のキャビティ側になるように金型内に装着する。次に、加熱溶融させた成形用樹脂を金型内に注入し、その成形用樹脂との接触により、インモールドラベルの感熱接着層を溶融させる。その後、冷却することにより、成形用樹脂と感熱接着層を固化させる。これにより、成形用樹脂が金型の形状に固定されて成形体が形成されると同時に、その成形体にラベルが接着されてラベル付き成形体が得られる。
本発明で用いるインモールド成形法の好ましい例としては、ストレッチブロー成形法、ダイレクトブロー成形法、インジェクション成形法および差圧成形法等が挙げられる。
【0058】
(成形体の材質)
本発明のラベル付き成形体に用いる成形体の材質は、インモールドラベル法により成形可能な材料であれば特に制限は無く、例えば熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂やその共重合体;ポリカーボネート系樹脂;アクリロニトリル-スチレン樹脂;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂;メチルメタクリレート-スチレン樹脂等などの極性樹脂、およびポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂等の非極性樹脂などを挙げることができる。これらの内、ストレッチブロー成形が行い易く、成形後の収縮変形が小さいことから、ポリエステル系樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【実施例】
【0059】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明の特徴を更に具体的に説明する。但し、実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。すなわち、本発明の範囲は、以下に示す実施例等により限定的に解釈されるべきものではない。
【0060】
[評価方法]
本実施例で行った評価方法を以下に示す。
(ラベルおよび各層の厚み)
積層体(インモールドラベル)の厚み(全体厚み)は、JIS K7130:1999に準拠し、定圧厚さ測定器((株)テクロック製、型式名:PG-01J)を用いて測定した。また、積層体が有する各層の厚みは、走査型電子顕微鏡による断面観察により、積層体の厚み(全体厚み)に対する各層の相対的な厚みを見積り、積層体の厚み(全体厚み)にこの各層の相対的な厚みを乗じることにより算出した。断面観察用試料は、積層体を、液体窒素を用いて-60℃以下に冷却後にガラス板上に置き、カミソリ刃(シック・ジャパン(株)製、型式名:プロラインブレード)を直角に当てて切断することにより作製した。試料の断面観察は、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、型式名:JSM-6490)を用いて行った。インモールドラベル断面における各層の境界線は、断面形状の外観から判別した。
【0061】
(接触試験)
接触試験は、2枚の積層体を、一方の保護層と他方の感熱接着層が接触するよう積み重ね、2.5Mpaの圧力をかけ、40℃で3分間維持することで行った。
【0062】
(表面Si原子濃度)
感熱接着層および保護層における表面Si原子濃度は、X線光電子分光法(XPS)により測定した。具体的には、積層体をアパーチャー径400μmのサンプルホルダに収まる寸法に打ち抜き、XPS測定用の試験片を3枚ずつ作製した。次いでXPS測定装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名「K-ALPHA」)を用い、感熱接着層および保護層の表面における全原子の量を、1試験片毎に3点ずつ3回測定した。全原子の量の測定結果を100%としたときのケイ素原子の割合を計算し、3点の3回の計算結果の平均値をSi原子濃度とした。
この表面Si原子濃度測定は、上述の接触試験を施した後の積層体について行った。すなわち、2枚の積層体を、一方の保護層と他方の感熱接着層が接触するよう積み重ね、2.5Mpaの圧力をかけ、40℃で3分間維持した後の、感熱接着層および保護層における表面Si原子濃度をXPSにより測定した。
【0063】
(透明性)
積層体の透明性は、JIS P 8149:2000「紙及び板紙-不透明度試験方法(紙の裏当て)-拡散照明法」に準拠して測定した。また、JIS-K-7136に準じて測定される内部ヘイズについても測定を行った。
(接着強度)
積層体(インモールドラベル)の成形体(本実施例では容器である)に対する接着強度は、JIS K6854-2:1999「接着剤-はく離接着強さ試験方法-第2部:180度はく離」に従って測定した。また、接着強度測定は、後述する実施例で作製したラベル付き容器を、23℃で、相対湿度50%の環境下に2日間保管した後に測定した。
インモールドラベルの容器に対する接着強度は、具体的には、以下の手順で測定した。先ず、容器のラベル貼着部分をラベルごとカッターで切り取った。2つの容器から、各々、容器の胴の周方向に長さ12cm(ラベルの貼着部分は9cm、非貼着部分は3cm)×周方向の垂直方向に幅1.5cm(全幅にラベルが貼着)の容器辺を3個ずつ、合計6個切り取った。この容器辺について、ラベル貼着部分のラベルを、ラベル非貼着部分側から容器の胴の周方向に1cm剥離した。この剥離された幅1.5cmのラベルの端と、幅1.5cmで厚みが50μmのPETフィルムの端を重ねた。ラベルとPETフィルムを粘着剤を用いて接着することにより、接着強度測定用試料とした。
引張試験機(島津製作所社製、型式名:オートグラフAGS-5kNJ)を用いて、JIS K6854-2:1999に基づき、剥離速度300mm/分で180度剥離試験を実施した。剥離長さ25mm~75mmにおける剥離力を測定し、その平均値を得た。6個の試料の平均値を平均して得られた値を接着強度とした。接着強度の単位は、gf/15mmとした。
【0064】
(摩擦係数)
積層体の感熱接着層と保護層との間の摩擦係数は、JIS-K-7125に準拠して測定した。具体的には、東洋精機製作所(株)製の摩擦測定機「TR-2」を用い、インモールドラベル間の摩擦測定(静摩擦係数、動摩擦係数)をロードセル:1kgf、移動速度:150mm/分の条件で、200gスレッドを使用して測定した。
【0065】
(印刷耐久性)
積層体の印刷耐久性は、積層体の保護層側にテープ剥離試験を行うことにより評価した。具体的には、積層体の保護層側に、ニチバン社製の「セロテープ(登録商標)CT-18」を貼り付けた後に手で剥がし、テープに印刷の内容が付くかどうかで評価した。
【0066】
(ブロッキングの評価)
ブロッキングの評価は、感熱接着層と保護層が接するように重ね合わせた2枚の積層体を加圧してブロッキング評価用試料を作製し、その試料の剥離に要する力(剥離力)を測定することで評価した。
具体的には、まず、感熱接着層と保護層とが接するように重ね合わせた2枚の積層体を、熱傾斜試験機(東洋精機社製:熱傾斜試験機HG-100-2)に付属するシリコーン台紙上に設置した。続いて、温度60℃で30秒間、1MPaの圧力が加圧部に加わるように加圧して、ブロッキング評価用試料を作製した。この時、加圧面積は10mm×25mmとした。次に、作製したブロッキング評価用試料について、引張試験機(島津製作所社製、型式名:オートグラフAGS-5kNJ)を用い、JIS K6854-2:1999に準拠した条件で、剥離速度300mm/分で180度剥離試験を行い、剥離長さ10mmにおける剥離力の平均値を求めた。この剥離力の平均値を2つの試料について求め、それらの平均値を平均した値を25mm幅から15mm幅に変換して、ブロッキング強度(gf/15mm)とした。ブロッキング強度が小さいもの程、ブロッキングが起き難いことを意味する。
【0067】
(擦過試験)
積層体の擦過試験は、積層体をスガ試験機(株)製の学振型摩擦堅ろう度試験機「FR-2」に取付け、積層体の保護層側を、水に湿らせた白綿布で、荷重500gで100回擦る摩擦試験を行い、印刷の内容が擦れるかどうかで評価した。
【0068】
[実施例1]
基材層の材料として、プロピレン単独重合体を用意し、これを210℃に加熱した押出機を用いて溶融混練した後に2層ダイスに供給した。
感熱接着層の材料として、ポリエチレン20質量部、エチレン-メチルメタクリレート共重合体59.4質量部、粘着付与剤20質量部およびN-ステアリルエルカ酸アミド0.6質量部を用意し、これらを150℃に加熱した押出機を用いて溶融混練した後に、上記の基材層の材料を供給した2層ダイスに供給した。
2層ダイスの中で、基材層の材料と感熱接着層の材料を積層し、2層フィルムとしてTダイから押し出した。押し出した2層フィルムの基材層側を、40℃の冷却水により温度調整されたメタルロールに沿わせ、且つ、感熱接着層側に35℃の冷却水により温度調整されたテフロン(登録商標)ロールを0.2MPaの圧力で押し付けて搬送し、これを冷却することにより、2層構造の積層体を得た。この2層構造の積層体は、基材層の厚みが77μmであり、感熱接着層の厚みが10μmであった。
シリコーン系離型剤を10質量%含有する紫外線硬化型のOPニスとシリコーン系離型剤を0.3質量%含有する紫外線硬化型のOPニスを混合することにより、シリコーン系離型剤を5質量%含む保護層用塗料を調製した。
先に作製した2層構造の積層体の基材層側表面に、処理量50kW/m2でコロナ放電処理を施した。次いで、この上に、保護層用塗料を輪転印刷機を用いて塗工した後、100mJ/m2のエネルギー量の紫外線ランプを照射することにより、保護層を硬化させ、感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有する積層体を得た。硬化後の保護層の厚みは2μmであった。
この積層体の内部ヘイズは、10%であった。また、この積層体の保護層側に擦過試験を行った。この結果、擦過試験を行っても、目視で印刷に変化が認められなかった。
【0069】
[実施例2]
感熱接着層において、エチレン-メタクリレート共重合体とN-ステアリルエルカ酸アミドの配合量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有する積層体を得た。
【0070】
[実施例3]
感熱接着層の材料において、N-ステアリルエルカ酸アミドの代わりに、エルカ酸アミドを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有する積層体を得た。
【0071】
[実施例4]
感熱接着層の材料において、N-ステアリルエルカ酸アミドの代わりに、エチレンビスオレイン酸アミドを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有する積層体を得た。
【0072】
[比較例1]
感熱接着層の材料において、N-ステアリルエルカ酸アミドの代わりに、低分子量ポリオレフィン(三井化学のエクセレックス30050B)を用いた以外は、実施例1と同様にして、感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有する積層体を得た。ここで使用した低分子量ポリオレフィンは、公知のスリップ剤である。
【0073】
[比較例2]
感熱接着層の材料がN-ステアリルエルカ酸アミドを含まないこと以外は、実施例1と同様にして、感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有する積層体を得た。
【0074】
[比較例3]
感熱接着層の材料がN-ステアリルエルカ酸アミドを含まず、また、シリコーン系離型剤含有紫外線硬化型OPニスの代わりに、シリコーン系離型剤を含まない紫外線硬化型OPニスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、感熱接着層、基材層および保護層をこの順に有する積層体を得た。
実施例1~4、比較例1~3で作製した積層体の各層の材料を表1にまとめて示す。
【0075】
【0076】
(評価1)接触試験後の表面Si原子濃度
実施例1~4および比較例1~3で作製した積層体に、それぞれ接触試験を行い、その後に、感熱接着層および保護層における表面Si原子濃度をX線光電子分光法により測定した。
(評価2)接触試験前の接着強度
実施例1~4および比較例1~3で作製した積層体を、それぞれ、長辺8cm及び短辺6cmの矩形に打ち抜いた。これらの積層体を、それぞれインモールドラベルに用いて、以下の工程で、成形体が容器状のラベル付き成形体(以下、「ラベル付き容器」という)を製造した。
打ち抜いた積層体に静電気帯電装置を用いて帯電させた。帯電させた積層体を、ストレッチブロー成形機(ヨーキ産業社製「半自動式PETブロー成形機」)の金型内に設置した後、金型を型締めした。ここで、積層体は、感熱接着層がキャビティ(空洞)側になり、保護層が金型に接するようにして、且つ、金型内での積層体の長辺が、金型の容器形成用の空洞の、胴体周方向に平行になるように設置した。また、ポリエチレンテレフタレート製のプリフォームを100℃に予熱した。そして、このプリフォームを、先の積層体を設置した金型に注入し、5~40kg/cm2のブロー圧力で、6秒間ストレッチブロー成形を行った。その後、15秒間で50℃まで冷却した。金型を開き、7cm×7cnの角型の胴部を有し、高さ12cmのラベル付き容器を取り出した。
取り出したラベル付き容器について、インモールドラベル(積層体)の容器に対する接着強度を測定した。
【0077】
(評価3)接触試験後の接着強度
実施例1~4および比較例1~3で製造した積層体に、それぞれ接触試験を行った。その後、(評価2)と同様にしてラベル付き容器を作製し、そのインモールドラベル(積層体)の容器に対する接着強度を測定した。
【0078】
(評価4)ブロッキングの評価
実施例1~4および比較例1~3で製造した積層体を用いてブロッキング評価用試料を作製し、ブロッキング強度(gf/15mm)を測定した。
【0079】
(評価5)成形性評価
実施例1~4および比較例1~3の積層体を製造するに際し、Tダイから押し出された2層フィルムの搬送及び冷却の工程を10分程度継続したところ、テフロン(登録商標)ロールの表面温度は80℃で安定した。さらに、20分経過後のテフロン(登録商標)ロールに対する2層フィルム(感熱接着層)の貼り付きを評価した。
テフロン(登録商標)ロールに流した冷却水の温度を変えて、テフロン(登録商標)ロールの表面温度を変えたこと以外は上記と同様にして、各表面温度における貼り付きを評価した。実施例1~4および比較例1~3の積層体の製造工程で得られる各2層フィルムに対して、上記成形性評価を行い、貼り付きが発生した表面温度を成形性として評価した。
【0080】
各積層体について測定した接触試験後の感熱接着層における表面Si原子濃度(Csih)および保護層における表面Si原子濃度(Csip)、それらの比(Csih/Csip)、接触試験前の接着強度、接触試験後の接着強度、接触試験後の接着強度の維持率、積層した際のブロッキング強度、成形性の評価結果を表2に示す。ここで、接触試験後の接着強度の維持率は、([接触試験後の接着強度]/[接触試験前の接着強度])×100(%)の計算式により求めた値である。また、成形性におけるロール状冷却装置の表面温度は60℃から110℃まで10℃おきに変更し、110℃でも貼り付きがなかったときは「>110」と示した。表面温度80℃で貼り付きがない場合に、成形性に優れると判断した。
【0081】
【0082】
表2に示したように、高級脂肪酸アミドであるN-ステアリルエルカ酸アミド(置換アミド)を感熱接着層に含有する実施例1、2の積層体、エルカ酸アミド(モノアミド)を感熱接着層に含有する実施例3の積層体、および、エチレンビスオレイン酸アミド(ビスアミド)を感熱接着層に含有する実施例4の積層体は、いずれも感熱接着層に高級脂肪酸アミドを含まない比較例2の積層体、および、高級脂肪酸アミドの代わりに公知のスリップ剤を用いた比較例1の積層体に比べて、感熱接着層における表面Si原子濃度(Csih)が顕著に低く、保護層から感熱接着層へのシリコーン系離型剤の転写が抑えられていた。そして、実施例1~4の積層体は、比較例1、2の積層体に比べて、接触試験後の接着強度が各段に高いものであった。特に、モノアミドであるエルカ酸アミドを用いた実施例3の積層体は、同じ量で他の種類の高級脂肪酸アミドを用いた実施例2、4の積層体よりもシリコーン系離型剤の転写量が少なく、接触試験前後でより高い接着強度が得られた。このことから、接着性の点では、高級脂肪酸アミドの中でも、特にモノアミドが好ましいことがわかった。
また、表2に示したように、実施例1~4の積層体は、ブロッキング強度が0であり、保護層にシリコーン系離型剤を含まない比較例3の積層体よりもブロッキングが起き難いものであった。
実際に、実施例1~4で作製した積層体をロール状に巻き取ってロール状インモールドラベルを作製し、ラベル搬送性を評価したところ、摩擦による不具合を生じることなく、ラベルをロールからスムーズに巻き出して走行させることができた。
また、実施例1~4で作製した積層体を、長辺8cm及び短辺6cmの矩形に打ち抜いて複数枚の小片とし、その小片10枚を積み重ねて形成したインモールドラベル積み上げ物について、ラベルを一枚ずつ取り出す試験を行ったところ、2枚取りを起こすことなく、容易にラベルを取り出すことができた。
さらに、実施例1~4、比較例1~3で作製した積層体について成形性を評価したところ、実施例1~4では、その押出成形の際、テフロン(登録商標)ロールの表面温度が80℃以上でも感熱接着層が周辺装置等へ貼り付き難く、トラブルを生じることなく成形を行うことができた。特に、置換アミドであるN-ステアリルエルカ酸アミドを感熱接着層に用いた実施例1、2では、より高い表面温度においてもこうした感熱接着層の貼り付きが抑えられ、表面温度80℃においてのトラブル発生をより安定的に抑制できることから、非常に良好な成形性が得られた。このことから、成形性の点では、高級脂肪酸アミドの中でも、特に置換アミドが好ましいことがわかった。
また、上記のように、実施例1の積層体は、内部ヘイズが10%と低く、擦過試験による印刷劣化も認められなかった。また、これらの特性について、実施例2~4の積層体は、実施例1の積層体と同等であった。
以上の結果から、本発明の積層体およびインモールドラベルは、透明性に優れ、ラベルに施した印刷が擦れ難く、ラベル同士を積み重ねたときに摩擦やブロッキングが起こり難く、取り扱いが容易で、成形体に対する接着強度が強いことが裏付けられた。また、本発明の積層体およびインモールドラベルは、高級脂肪酸アミドを含有する感熱接着層を有するため、感熱接着層がシリコーン系離型剤を含む保護層と接触しても実用的な接着強度が維持されることが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、汚れや傷がつき難く、美粧性及び視認性に優れ、ラベル同士を積み重ねたときに摩擦が起こり難く、取り扱いが容易であるとともに、インモールド成形にて、成形体に高い接着強度で接着するインモールドラベルを実現することができる。よって、本発明は産業上の利用可能性が高い。