(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】イオン分離装置、水処理システムおよび淡水の製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/48 20060101AFI20220722BHJP
【FI】
C02F1/48 B
(21)【出願番号】P 2020560082
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047963
(87)【国際公開番号】W WO2020121982
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2018234828
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500512195
【氏名又は名称】株式会社理研テクノシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】514142290
【氏名又は名称】株式会社Santa Mineral
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】古▲崎▼ 孝一
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第202063756(CN,U)
【文献】特表2016-507364(JP,A)
【文献】特開平06-198286(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132477(WO,A1)
【文献】特開2002-186974(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103011354(CN,A)
【文献】特開平01-281158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46- 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場および/または電場を発生させる筒状体と、
前記筒状体の外周面の少なくとも一部に密着するように設けられた、通水用の中空部を有する絶縁性の微小流路部材と、
前記微小流路部材の終端部に設けられた二又分岐部と、
を有し、
前記筒状体が、ドーナツ型コイルを備えた、イオン分離装置。
【請求項2】
磁場および/または電場を発生させる筒状体と、
前記筒状体の外周面の少なくとも一部に密着するように設けられた、通水用の中空部を有する絶縁性の微小流路部材と、
前記微小流路部材の終端部に設けられた二又分岐部と、
を有し、
前記筒状体が、パルス電場発生能を有する筒状体を備えた、イオン分離装置。
【請求項3】
前記パルス電場発生能を有する筒状体が、絶縁性材料で形成された筒状体の表面に自己起電力を有する微粒子が配向固定されたものである、請求項2に記載のイオン分離装置。
【請求項4】
前記自己起電力を有する微粒子が、カルシウムおよび炭素を主たる構成成分として含む、メゾスコピック構造体である、請求項3に記載のイオン分離装置。
【請求項5】
前記筒状体が、ドーナツ型コイルを備えた、請求項2~4のいずれかに記載のイオン分離装置。
【請求項6】
前記微小流路部材が、前記筒状体の外周面に密着するように巻き回された絶縁性チューブである、請求項1~5のいずれかに記載のイオン分離装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のイオン分離装置を備えた、水処理システム。
【請求項8】
前記水処理システムは、海水から淡水を得るための淡水化システムである、請求項7に記載の水処理システム。
【請求項9】
さらに、前記イオン分離装置の二又分岐部の分岐点の直前に電圧を印加する電圧印加手段を備えた、請求項7または8に記載の水処理システム。
【請求項10】
前記イオン分離装置を複数備え、第1の前記イオン分離装置の前記二又分岐部の一方の流出部に、第2の前記イオン分離装置の前記微小流路部材の始端部を連通させた、請求項7~9のいずれかに記載の水処理システム。
【請求項11】
イオン分離装置を複数備えた水処理システムであり、
前記イオン分離装置が、磁場および/または電場を発生させる筒状体と、前記筒状体の外周面の少なくとも一部に密着するように設けられた、通水用の中空部を有する絶縁性の微小流路部材と、前記微小流路部材の終端部に設けられた二又分岐部と、を有し、
第1の前記イオン分離装置の前記二又分岐部の一方の流出部に、第2の前記イオン分離装置の前記微小流路部材の始端部を連通させ、
第1の前記イオン分離装置の前記二又分岐部の他方の流出部に、第3の前記イオン分離装置の前記微小流路部材の始端部を連通させた、水処理システム。
【請求項12】
請求項7~11のいずれかに記載の水処理システムを用いて、海水から淡水を製造する淡水の製造方法。
【請求項13】
下記工程(A)と、工程(B1)および/または工程(B2)と、を有する、請求項12に記載の淡水の製造方法。
工程(A):海水を、前記海水の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン濃縮水と、前記海水の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン濃縮水とに分離する工程
工程(B1):工程(A)にて分離された前記陽イオン濃縮水を、前記陽イオン濃縮水の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン超濃縮水と、淡水とに分離する工程
工程(B2):工程(A)にて分離された前記陰イオン濃縮水を、前記陰イオン濃縮水の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン超濃縮水と、淡水とに分離する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン分離装置および水処理システムに関する。また、本発明は、淡水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間が使用可能な水資源を確保するために、海水等を淡水にする海水淡水化の技術が種々研究されている。海水淡水化の技術としては、加熱による蒸発法、逆浸透(RO:Reverse Osmosis)膜を利用する逆浸透法、電気分解による電気透析法が主に知られている。この中でも、電気透析法による海水の淡水化は膨大な電気エネルギーが必要になるため、最近では、蒸発法や逆浸透法、これらと電気透析法を組み合わせた手法が主流となっている。(例えば、特許文献1~3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-198278号公報
【文献】特開2014-161844号公報
【文献】特開2015-029933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、蒸発法を利用するシステムは、大掛かりになりやすいことや、システムが複雑であり、稼働に必要な電気エネルギーが大きいといった課題があった。また、逆浸透法を利用するシステムは、ろ過膜の目詰まりなどが発生しやすく、メンテナンスを定期的に行う必要があった。実用化のためには、簡潔で安価なシステムが求められていた。
また、従来のシステムでは、フッ化物イオンなどの低減や除去が困難なイオン種もあり、その種類によらずイオン種を低減することが可能な水処理システムが求められていた。
【0005】
かかる状況下、本発明の目的は、システムが簡素で安価であり、安定した処理が可能な、イオン分離装置および水処理システムを提供することである。また、本発明の目的は、安定した製造が可能な淡水の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 磁場および/または電場を発生させる筒状体と、前記筒状体の外周面の少なくとも一部に密着するように設けられた、通水用の中空部を有する絶縁性の微小流路部材と、前記微小流路部材の終端部に設けられた二又分岐部と、を有するイオン分離装置。
<2> 前記筒状体が、パルス電場発生能を有する筒状体を備えた、前記<1>に記載のイオン分離装置。
<3> 前記パルス電場発生能を有する筒状体が、絶縁性材料で形成された筒状体の表面に自己起電力を有する微粒子が配向固定されたものである、前記<2>に記載のイオン分離装置。
<4> 前記自己起電力を有する微粒子が、カルシウムおよび炭素を主たる構成成分として含む、メゾスコピック構造体である、前記<3>に記載のイオン分離装置。
<5> 前記筒状体が、ドーナツ型コイルを備えた、前記<1>から<4>のいずれかに記載のイオン分離装置。
<6> 前記微小流路部材が、前記筒状体の外周面に密着するように巻き回された絶縁性チューブである、前記<1>から<5>のいずれかに記載のイオン分離装置。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のイオン分離装置を備えた、水処理システム。
<8> 前記水処理システムは、海水から淡水を得るための淡水化システムである、前記<7>に記載の水処理システム。
<9> さらに、前記イオン分離装置の二又分岐部の分岐点の直前に電圧を印加する電圧印加手段を備えた、前記<7>または<8>に記載の水処理システム。
<10> 前記イオン分離装置を複数備え、第1の前記イオン分離装置の前記二又分岐部の一方の流出部に、第2の前記イオン分離装置の前記微小流路部材の始端部を連通させた、前記<7>から<9>のいずれかに記載の水処理システム。
<11> 第3の前記イオン分離装置の前記微小流路部材の始端部を、第1の前記イオン分離装置の前記二又分岐部の他方の流出部に連通させた、前記<10>に記載の水処理システム。
<12> 前記<7>から<11>のいずれかに記載の水処理システムを用いて、海水から淡水を製造する淡水の製造方法。
<13> 下記工程(A)と、工程(B1)および/または工程(B2)と、を有する淡水の製造方法。
工程(A):海水を、前記海水の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン濃縮水と、前記海水の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン濃縮水とに分離する工程
工程(B1):工程(A)にて分離された前記陽イオン濃縮水を、前記陽イオン濃縮水の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン超濃縮水と、淡水とに分離する工程
工程(B2):工程(A)にて分離された前記陰イオン濃縮水を、前記陰イオン濃縮水の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン超濃縮水と、淡水とに分離する工程
<14> 絶縁性基材と、前記絶縁性基材の表面に自己起電力を有する微粒子が配向固定された層とを有する極性配向シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、システムが簡素で安価であり、安定した処理が可能な、イオン分離装置および水処理システムが提供される。また、本発明の目的は、安定した製造が可能な淡水の製造方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る水処理システム100を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施の形態2に係る水処理システム200を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施の形態3に係る水処理システム300を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施の形態4に係る水処理システム400を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施の形態5に係る水処理システム500を示す模式図である。
【
図6】本発明の実施の形態6に係る水処理システム600を示す模式図である。
【
図7】本発明の実施例で作製した樹脂製部材(L)の側縁部を示す一部省略模式図を示す。
【
図8】本発明の実施例で作製した樹脂製部材(L)の平面部を示す一部省略模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いるものとする。
【0011】
[イオン分離装置]
本発明は、磁場および/または電場を発生させる筒状体と、前記筒状体の外周面の少なくとも一部に密着するように設けられた、通水用の中空部を有する絶縁性の微小流路部材と、前記微小流路部材の終端部に設けられた二又分岐部と、を有するイオン分離装置(以下、「本発明のイオン分離装置」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0012】
本発明のイオン分離装置は、処理対象となるイオン種を含む水を微小流路部材に通液することで、水に含まれるイオン種の分離や低減をすることができる。
【0013】
本発明のイオン分離装置を構成する筒状体は、筒状体の外周面側に、筒状体の軸心に平行な一様な向きの磁場が発生するように、磁場や電場を発生させるものである。筒状体の外周面側に、筒状体の軸心に平行な向きの磁場を発生させることができればよく、磁石などを利用して磁場を発生させることができる。また、後述する電流や自己起電力を有する微粒子などによって発生する電界を利用して、磁場を発生させることができる。
本発明のイオン分離装置を構成する微小流路部材は、長手方向に連続する中空部を有し、この中空部が流路となる。また、中空部(内部)を流れる被処理水の流れ方向が筒状体の周方向と垂直にならないように、微小流路部材は設けられる。
【0014】
このようにすることで、微小流路部材の内部を被処理水が流れるときに、被処理水に含まれるイオン種に対して、筒状体と接する面方向への引力または斥力を与え続けることができる。
通常、流体が、絶縁性チューブなどの微小流路部材の内部を通過する場合、流体内は微小流路部材の接触面に由来する電場によりイオンの電気二重層を形成する。本発明のイオン分離装置で生じる、筒状体と接する面方向への引力または斥力は、微小流路部材を流れる被処理水の電気二重層内のイオンの極性分布に電磁気的影響を与え、微小流路部材の内部を流れる陰陽イオンの分流水流層を作ることができる。そのため、イオン分離装置の微小流路部材の内部を流れる被処理水は、微小流路部材を流れるに従い、陽イオンが高濃度な陽イオン濃縮層と、陰イオンが高濃度な陰イオン濃縮層との2層に分かれた流体となる。
【0015】
また、被処理水中の陽イオンと陰イオンとでは、力を受ける向きが異なるため、筒状体の外周面に設けられた微小流路部材の終端部を2つに分流することで、陽イオンと陰イオンとを分離することができる。
【0016】
結果として、被処理水を、被処理水中の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン濃縮水と、被処理水中の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン濃縮水とに分離することができる。
【0017】
本発明のイオン分離装置は、磁場や電場を利用するため、簡素で安価であり、安定した処理が可能なシステムとすることができる。
【0018】
低減対象となるイオン種としては、ナトリウムやカリウム、塩素などの海水成分や、セシウム137やヨウ素131などの放射性物質のイオン、ヒ素などの有毒イオン等を挙げることができる。本発明の水処理システムは、海水の淡水化や被処理水中のイオン種(海水成分、放射性物質のイオン、有害イオンなど)の除去、濃縮、回収などに用いることができる。その利用目的に応じて、イオン種の低減の程度は、適宜設定することができる。
【0019】
本発明のイオン分離装置は、筒状体が、パルス電場発生能を有する筒状体を備えることが好ましい。パルス電場発生能を有する筒状体は、被処理水に含まれるイオン種に対して、筒状体と接する面方向への引力または斥力を与えられるように、電界を断続的に自己発生させることができるものである。パルス電場発生能を有する筒状体より発生するパルス電場より、被処理水に含まれるイオン種に対する、筒状体と接する面方向への引力または斥力を大きなものとできる。
【0020】
パルス電場発生能を有する筒状体は、絶縁性材料で形成された筒状体の表面に自己起電力を有する微粒子が配向固定されたものであることが好ましい。このような構成とすることで、筒状体から細い電気力線を多数発生させることができ、イオン種をより効率的に分離できる。また、筒状体が中空構造である場合は、自己起電力を有する微粒子が配向固定される表面は、外周面および/または内周面である。電場の力をイオン種に伝えやすいため、自己起電力を有する微粒子は、外周面に配向固定されることが好ましい。
【0021】
なお、「自己起電力を有する微粒子」とは、その構造内に極性を有し、自由電子を空間で捕捉でき、捕捉後に極性間の断続的な電子の脱着を維持することができる微粒子のことである。このような微粒子は、電子の着脱が断続的であることから、パルス電場を発生させることができる。
【0022】
自己起電力を有する微粒子は、カルシウムと炭素を主たる構成成分とする、メゾスコピック構造体であることが好ましい。なお、メゾスコピック構造体とは、5~500nmのメゾスコピック領域の構造体である。メゾスコピック領域(特に、5~50nmのメゾスコピックの微少領域のメゾスコピック構造体)では、カルシウムと炭素を主とする元素組成は、特別な構造の状態により、その構造内に極性を有し、極性間で電子を断続的かつ継続的に脱着することができる。構造内の極性により個々に電子を補足し、他方では電子を放出することで電場をパルス状に発生させることができる。
【0023】
また、筒状体が、ドーナツ型コイルを備えることが好ましい。ドーナツ型コイルは一様な向きの磁場を効率的に発生させることができる。
【0024】
微小流路部材は、筒状体の外周面に密着するように巻き回された絶縁性チューブであることが好ましい。また、絶縁性チューブの内径が、10~500μmであることがより好ましい。このような構成とすることで、イオン分離装置を大型化せずに、流路を長くすることができる。
【0025】
イオン種の分離効率などの観点から、二又分岐部の分岐角度は20~90度であることが好ましい。なお、分岐角度とは、二又分岐部の2つ流出部のなす挟角を意味する。
【0026】
[水処理システム]
本発明は、本発明のイオン分離装置を備えた、水処理システム(以下、「本発明の水処理システム」と記載する場合がある。)に関するものである。
本発明の水処理システムを用いることで、低減対象となるイオン種(陽イオンまたは/および陰イオン)を含む被処理水から、前記イオン種を低減させた水を得ることができる。
【0027】
中でも、本発明の水処理システムは、海水から淡水を得るための淡水化システムとすることが好適である。
本発明の水処理システムを淡水化システムとして用いることで、電気透析法に比べて、副生成物の発生を抑制でき、処理のために必要な電気エネルギーも少なくできる。また、RO膜では除去されにくい、フッ化物イオンなどのイオンも低減できる。さらに、被処理水をRO膜などの濾過膜に通過させる必要がないため、目詰まりなどが発生しにくく、メンテナンスが容易である。そのため、被処理水を安定して処理することができる。また、システムが簡素であるため、安価であり、大規模設備にも対応しやすい。
【0028】
本発明の水処理システムは、さらに、イオン分離装置の二又分岐部の分岐点の直前に電圧を印加する電圧印加手段を備えることが好ましい。
電圧印加手段により二又分岐部付近に電圧を印加することで、流路内を流れる被処理水中の電場バランスをより偏らせることができる。
【0029】
本発明の水処理システムは、イオン分離装置を複数備え、第1のイオン分離装置の二又分岐部の一方の流出部に、第2のイオン分離装置の微小流路部材の始端部を連通させたものとすることが好ましい。被処理水を、複数のイオン分離装置で処理することで、被処理水中のイオン種を効率的に分離して低減することができる。
【0030】
さらに、第1のイオン分離装置の二又分岐部の他方の流出部に、第3のイオン分離装置の微小流路部材の始端部を連通させたものとすることが好ましい。
このような構成とすることで、第2のイオン分離装置および第3のイオン分離装置において、陽イオン濃縮水と陰イオン濃縮水とを同時に処理することができ、イオン種の濃度が低い水をより効率的に得ることができる。
【0031】
例えば、本発明の水処理システムは、パルス電場発生能を有する筒状体と、前記筒状体の外周面に密着するように巻き回された通水用の絶縁性チューブと、前記絶縁性チューブの終端部に連結された二又分岐管と、を有するイオン分離装置を複数備え、第1の前記イオン分離装置の前記二又分岐管の一方の流出部に、第2の前記イオン分離装置の前記絶縁性チューブの始端部を連通させた、水処理システムとすることができる。
また、パルス電場発生能を有する筒状体と、前記筒状体の外周面に密着するように巻き回された通水用の絶縁性チューブと、前記絶縁性チューブの終端部に連結された二又分岐管と、を有するイオン分離装置を複数備え、第1の前記イオン分離装置の前記二又分岐管の一方の流出部に、第2の前記イオン分離装置の前記絶縁性チューブの始端部を連通させ、第1の前記イオン分離装置の前記二又分岐管の他方の流出部に、第3の前記イオン分離装置の前記絶縁性チューブの始端部を連通させた水処理システムとすることができる。
【0032】
[淡水の製造方法]
本発明は、本発明の水処理システムを用いて、海水から淡水を製造する淡水の製造方法に関するものである。
【0033】
また、本発明は、工程(A)と、工程(B1)および/または工程(B2)と、を有する淡水の製造方法とすることができる。
工程(A):海水を、前記海水の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン濃縮水と、前記海水の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン濃縮水とに分離する工程
工程(B1):工程(A)にて分離された前記陽イオン濃縮水を、前記陽イオン濃縮水の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン超濃縮水と、淡水とに分離する工程
工程(B2):工程(A)にて分離された前記陰イオン濃縮水を、前記陰イオン濃縮水の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン超濃縮水と、淡水とに分離する工程
【0034】
本発明の淡水の製造方法は、上記の通り、被処理水を安定に処理することができる。
【0035】
以下、
図1~
図6を参照して、本発明のイオン分離装置および本発明の水処理システムについてより詳しく説明する。なお、
図1~
図6中において共通する部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0036】
<実施の態様1>
図1は、本発明の水処理システム100の模式図である。本発明の水処理システム100は、第1のイオン分離装置であるイオン分離装置10aと、第2のイオン分離装置であるイオン分離装置20aと、を備えている。イオン分離装置10aの二又分岐管13aの一方の流出部に、イオン分離装置20aの絶縁性チューブ1bの始端部が連通されており、被処理水Wは、イオン分離装置10aで処理された後、イオン分離装置20aでさらに処理される構成となっている。イオン分離装置10aの二又分岐管13aの他方の流出部には、絶縁性チューブ3aが連通されている。また、イオン分離装置20aの二又分岐管13bの一方の流出部は、絶縁性チューブ2bの始端部が連結されており、二又分岐管13bの他方の流出部は、絶縁性チューブ3bの始端部が連通されている。
【0037】
本発明の水処理システム100では、まず、イオン分離装置10aで被処理水Wが処理されることで、被処理水W中の陽イオンと陰イオンを分離し、陽イオン濃縮水が絶縁性チューブ1bへ流れ、陰イオン濃縮水が絶縁性チューブ3aへ流れる。
次いで、分離された陽イオン濃縮水をイオン分離装置20aで処理することで、陽イオン濃度がより高い陽イオン超濃縮水と、陽イオン濃度が低い水に分離することができる。この陽イオン濃度が低い水は、陰イオンも低減されているので、イオン種の濃度の低い水であり、陽イオン濃度が低い水を貯水槽(図示せず)などに収容することで、イオン種の濃度の低い水を得ることができる。
【0038】
[イオン分離装置10a]
本発明の水処理システム100において、イオン分離装置10aは、筒状体12と、筒状体12の外周面に密着するように巻き回された絶縁性チューブ1aと、絶縁性チューブ1aの終端部に連結された二又分岐管13aと、を備えている。
イオン分離装置10aは、上記の通り、被処理水Wを、被処理水W中の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン濃縮水と、被処理水W中の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン濃縮水とに分離する部分となる。
【0039】
(筒状体12)
筒状体12は、パルス電場発生能を有する部材であり、巻き回された絶縁性チューブ1aの内部に流れる被処理水W中のイオン種に対して、筒状体12の方向へ斥力または引力を与え続けるために、パルス電場を発生させる部分である。
筒状体12は、中空構造の筒状体であり、その外周面に自己起電力を有する微粒子が配向固定されたものである。また、筒状体12は、樹脂(ポリエステル、フッ素樹脂、シリコン、芳香族ポリエーテルケトン樹脂など)やゴム、ガラスなどの絶縁性材料で形成されている。なお、加工のしやすさからは、樹脂製の筒状体であることが好適である。
【0040】
筒状体12には、筒状体12に向かって自由電子が動けるように、自己起電力を有する微粒子が配向して固定されている。このように自己起電力を有する微粒子が固定されていることで、絶縁性チューブ1aから筒状体12の方向へより大きな斥力または引力を発生させることができる。
【0041】
好適な自己起電力を有する微粒子の態様は、カルシウムと炭素を主たる構成成分とする、メゾスコピック構造体である。
【0042】
また、カルシウムと炭素を主たる構成成分とする、メゾスコピック構造体は、さらに、周期表第4周期の第3族から第12族の元素からなる群から選択される1種以上を含む構造体であってもよい。例えば、さらに、Fe、Zn、およびMnからなる群から選択される1種以上を含むメゾスコピック構造体とすることができる。
【0043】
筒状体12は、絶縁性基材の表面に、自己起電力を有する微粒子を同一方向の空間に対し、極性において同様の向きとなるように配向固定した極性配向シートを、微粒子が配向固定された面が外周面となるようにロール状に加工することで形成できる。
なお、極性配向シートについて詳しくは、後述する。
【0044】
また、筒状体12の大きさは、外径が10cm~100cmであり、高さが20cm~100cmである。取り扱いのしやすさから、好適な大きさは、外径が20cm~30cmであり、高さが40cm~60cmである。
【0045】
(絶縁性チューブ1a、3a)
絶縁性チューブ1aは、その始端部から被処理水Wを導入することができ、被処理水Wの流路となる通水用のチューブである。絶縁性チューブ1aは、樹脂(ポリエステル、フッ素樹脂、シリコン、芳香族ポリエーテルケトン樹脂など)、ゴム、ガラスなどのチューブを用いることができる。なお、加工のしやすさから、絶縁性チューブ1aは、樹脂製であることが好ましく、筒状体12と同じ材質であることが好ましい。
絶縁性チューブ1aの大きさは、外径が15μm~1000μmであり、内径が10μm~500μmである。また、絶縁性チューブ1aの外径や内径が大きすぎると、筒状体12より発生するパルス電場による力を被処理水W中のイオン種に伝えにくくなり、パルス電場による力を被処理水W中のイオン種に伝えるために、より大きな電界が必要となる。このため、好適には、外径が15μm~500μmであり、内径が10μm~100μmであり、より好適には、外径が15μm~100μmであり、内径が10μm~50μmであり、さらに好適には、外径が15μm~35μmであり、内径が10μm~30μmである。
絶縁性チューブ1aの筒状体12への巻き付け回数は3回である。なお、巻き付け回数は、1~10回であってもよく、筒状体12の内径などにもよるが、好適には3~6回である。
また、絶縁性チューブ1aと二又分岐管13aを介して接続される絶縁性チューブ3aも絶縁性チューブ1aと同様の材質や大きさのものを用いることができる。
【0046】
(二又分岐管13a)
二又分岐管13aは、絶縁性チューブ1aの終端部に設けられた、絶縁性チューブ1aを2つに分流する部材である。二又分岐管13aは、筒状体12の外周面に接するように設けられている。二又分岐管13aの材質は、絶縁性チューブ1aと同様に、樹脂(ポリエステル、フッ素樹脂、シリコン、芳香族ポリエーテルケトン樹脂など)、ゴム、ガラスなどの絶縁性材料である。
また、二又分岐管13aの分岐角度は、筒状体12により発生するパルス電場に起因する力と被処理水の流れる力とにより、陽イオンおよび陰イオンのそれぞれの応力の向きに応じて、各応力の向きとなるように調整される。好適な分岐角度は、20~90度(より好適には、30~70度)である。なお、分岐角度とは、二又分岐管13aの2つ流出部のなす挟角を意味する。
【0047】
絶縁性チューブ1aの中を流れる被処理水Wは、絶縁性チューブ1aを流れるに従い、陽イオン濃縮水(陽イオン濃縮層)と陰イオン濃縮水(陰イオン濃縮層)の2層に分かれた流体となっている。陽イオン濃縮水は、二又分岐管13aを介して絶縁性チューブ1bに流れ、陰イオン濃縮水は、二又分岐管13aを介して絶縁性チューブ3aに流れる。
【0048】
[イオン分離装置20a]
イオン分離装置20aは、イオン分離装置10aに連通されたイオン分離装置であり、筒状体12と、筒状体12の外周面に密着するように巻き回された絶縁性チューブ1bと、絶縁性チューブ1bの終端部に連結された二又分岐管13bと、を備えている。絶縁性チューブ1bは、その始端部が、二又分岐管13aの一方の流出部に連通される以外は、絶縁性チューブ1aと同様の構成とすることができる。また、二又分岐管13bも、絶縁性チューブ2bおよび絶縁性チューブ3bの始端部が連通されている以外は、二又分岐管13aと同様である。絶縁性チューブ2bおよび絶縁性チューブ3bは、絶縁性チューブ1bと同様の材質や大きさのものを用いることができる。
【0049】
また、イオン分離装置20aは、イオン分離装置10aで分離された陽イオン濃縮水を処理する部分である。イオン分離装置20aでは、陽イオン濃縮水よりも陽イオン濃度が高い陽イオン超濃縮水が、二又分岐管13bを介して絶縁性チューブ2bに流れ、陽イオン濃縮水よりも陽イオン濃度が低い水が、二又分岐管13bを介して、絶縁性チューブ3bに流れる。イオン分離装置20aで処理されることで、陽イオン濃縮水中の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン超濃縮水と、陽イオン濃度が低い水とに分離され、絶縁性チューブ2bの終端部から陽イオン超濃縮水が排出され、絶縁性チューブ3bの終端部から陽イオン濃度が低い水が排出される。
【0050】
なお、イオン分離装置20aは、陰イオン濃縮水を処理するものとしてもよい。陰イオン濃縮水が処理される場合、イオン分離装置20aで処理されることで、陰イオン濃縮水中の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陽イオン超濃縮水と、陰イオン濃度が低い水とに分離される。
【0051】
<実施の態様2>
図2は、イオン分離装置を3つ連通した構成を有する、本発明の水処理システム200の模式図である。
図2で示す本発明の水処理システム200は、第1のイオン分離装置であるイオン分離装置10aと、第2のイオン分離装置であるイオン分離装置20bと、第3のイオン分離装置であるイオン分離装置30bと、貯水槽40と、貯水槽50とを備えている。また、イオン分離装置10aの二又分岐管13aの一方の流出部に、イオン分離装置20bの絶縁性チューブ1bの始端部が連通されており、イオン分離装置10aの二又分岐管13aの他方の流出部に、イオン分離装置30bの絶縁性チューブ1cの始端部が連通されている。被処理水Wは、イオン分離装置10aで処理された後、イオン分離装置20bまたはイオン分離装置30bで処理される構成となっている。
【0052】
本発明の水処理システム200のイオン分離装置10aは、本発明の水処理システム100と同様に、被処理水Wを、被処理水W中の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン濃縮水と、被処理水W中の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン濃縮水とに分離する部分である。本発明の水処理システム200のイオン分離装置10aは、二又分岐管13aの一方の流出部が、絶縁性チューブ3aの始端部でなく、イオン分離装置30bの絶縁性チューブ1cの始端部と連通されている以外は、本発明の水処理システム100のイオン分離装置10aと同じである。
【0053】
[イオン分離装置20b]
イオン分離装置20bは、イオン分離装置10aに連通されたイオン分離装置である。イオン分離装置20bは、筒状体12と、筒状体12の外周面に密着するように巻き回された絶縁性チューブ1bと、絶縁性チューブ1bの終端部に連結された二又分岐管13bと、二又分岐管13bの分岐点の直前に電圧を印加する電圧印加手段14bとを備えている。
このイオン分離装置20bは、イオン分離装置10aで分離された陽イオン濃縮水を、陽イオン濃度のより高い陽イオン超濃縮水と陽イオン濃度の低い水に分離する部分であり、二又分岐管13bの分岐点の直前に電圧を印加する電圧印加手段14bを有する点で、イオン分離装置20aと異なる構成である。
このように電圧印加手段14bを備えた構成とし、二又分岐管13bの分岐点の直前に電圧を印加することで、絶縁性チューブ1b内の電場バランスが偏り、陽イオンと水とをより分離した状態で、絶縁性チューブ2bおよび絶縁性チューブ3bへ流すことができる。
これにより、得られる陽イオン濃度の低い水は、より陽イオンが除去された水となる。
【0054】
イオン分離装置20bでは、陽イオン濃縮水よりも陽イオン濃度が高い陽イオン超濃縮水が、二又分岐管13bを介して絶縁性チューブ2bに流れ、陽イオン濃縮水よりも陽イオン濃度が低い水が、二又分岐管13bを介して、絶縁性チューブ3bに流れる。
【0055】
電圧印加手段14bは、微弱な電流を印加できる手段であればよい。印加される電圧は、大きすぎると、陽イオンが撹乱して陽イオンと水との分離が起こりにくくなるため、好適には、1.0~3.0V(より好適には1.5~2.0V)で電流を流すことが好ましい。また、筒状体12により発生するパルス電場に起因する力と被処理水の流れる力とにより、陽イオンが受ける応力に応じた電界が発生するように、電圧を印加する向きは調整される。
【0056】
[イオン分離装置30b]
イオン分離装置30bは、イオン分離装置10aに連通されたイオン分離装置である。イオン分離装置30bは、筒状体12と、筒状体12の外周面に密着するように巻き回された絶縁性チューブ1cと、絶縁性チューブ1cの終端部に連結された二又分岐管13cと、二又分岐管13cの分岐点の直前に電圧を印加する電圧印加手段14cとを備えている。絶縁性チューブ1c、二又分岐管13c、電圧印加手段14cは、絶縁性チューブ1b、二又分岐管13b、電圧印加手段14bと同様にすることができる。なお、電圧印加手段14cでは、筒状体12により発生するパルス電場に起因する力と被処理水の流れる力とにより、陰イオンが受ける応力に応じた電界が発生するように、電圧を印加する向きは調整される。
このイオン分離装置30bは、イオン分離装置10aで分離された陰イオン濃縮水を、陰イオン濃度のよりも高い陰イオン超濃縮水と陰イオン濃度の低い水に分離する部分である。電圧印加手段14cを備えた構成とすることで、より陰イオンが除去された、陰イオン濃度の低い水が得られる。
【0057】
イオン分離装置30bでは、陰イオン濃縮水よりも陰イオン濃度が高い陰イオン超濃縮水が、二又分岐管13cを介して絶縁性チューブ2cに流れ、陰イオン濃縮水よりも陰イオン濃度が低い水が、二又分岐管13cを介して、絶縁性チューブ3cに流れる。
【0058】
なお、イオン分離装置20bとイオン分離装置30bの構成は同一であっても、異なってもよい。例えば、イオン分離装置20bに変えて、イオン分離装置20aの構成としてもよいし、絶縁性チューブの材質や筒状体への巻き付け回数などを異なる構成としてもよい。
【0059】
[貯水槽40]
貯水槽40は、イオン分離装置20bにて分離された陽イオン濃度が低い水およびイオン分離装置30bにて分離された陰イオン濃度の低い水を収容する部分である。
貯水槽40の内部に、絶縁性チューブ3bおよび絶縁性チューブ3cの終端部が連結された排出用配管4の終端部がくるように配置されており、排出用配管4から排出された水を、貯水槽40に収容できるようになっている。
なお、絶縁性チューブ3bおよび絶縁性チューブ3cは、その終端部が、排出用配管4を介さずに直接、貯水槽40の内部にくるように配置した構成であってもよいし、それぞれ別の貯水槽に収容する構成であってもよい。
【0060】
[貯水槽50]
貯水槽50は、イオン分離装置20bにて分離された陽イオン超濃縮水および陰イオン分離装置30bにて分離された陰イオン超濃縮水を収容する部分である。回収される水は、低減対象となるイオン種を含むものであるが、濃縮水となるため、被処理水の液量を削減することできる。
貯水槽50の内部に、絶縁性チューブ2bおよび絶縁性チューブ2cの終端部が連結された排出用配管5の終端部がくるように配置されており、排出用配管5から排出された水を、貯水槽50に収容できるようになっている。
なお、絶縁性チューブ2bおよび絶縁性チューブ2cは、その終端部が、排出用配管5を介さずに直接、貯水槽50の内部にくるように配置した構成であってもよいし、それぞれ別の貯水槽に収容する構成であってもよい。
【0061】
<実施の態様3>
図3に、イオン分離装置を3つ連通した構成を有する、本発明の水処理システムの別の態様を示す。
図3に示す本発明の水処理システム300は、第1のイオン分離装置が、イオン分離装置10bである点で本発明の水処理システム200と異なる。
【0062】
[イオン分離装置10b]
本発明の水処理システム300において、イオン分離装置10bは、筒状体12と、筒状体12の内部に配置されたドーナツ型コイル15と、導電線16およびDCパルス電源17とからなるドーナツ型コイル15を駆動させる駆動手段と、筒状体12の外周面に密着するように巻き回された絶縁性チューブ1aと、絶縁性チューブ1aの終端部に連結された二又分岐管13aと、を備えている。イオン分離装置10bは、イオン分離装置10aと同様に、被処理水Wを、被処理水W中の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン濃縮水と、被処理水W中の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン濃縮水とに分離する部分となる。イオン分離装置10bは、筒状体12の内部に配置されたドーナツ型コイル15と、導電線16およびDCパルス電源17とからなるドーナツ型コイル15を駆動させる駆動手段を有する点で、イオン分離装置10aと異なる。
【0063】
このような構成とすれば、DCパルス電源17から導電線16を介して、ドーナツ型コイル15に直流電流を所定のパルスで流すことで電場が発生し、これが筒状体12で発生するパルス電場と共鳴することで強力な電場を発生する。これにより、絶縁性チューブ1aの内部を被処理水Wが流れるときに、被処理水Wに含まれるイオン種に対して筒状体12と接する面への、より大きな引力または斥力を与え続けることができる。これにより、被処理水W中の陽イオンと陰イオンとをより分離しやすくなる。
【0064】
なお、ドーナツ型コイル15は、その軸心が筒状体12の軸心と同一となるように配置されることが好ましい。また、DCパルス電源17のパルスの周期は、筒状体12を構成する自己起電力を有する微粒子の電磁波の周波数と合うように調整することが好ましい。
【0065】
<実施の態様4>
図4は、本発明の水処理システム400を示す模式図である。本発明の水処理システム400では、イオン分離装置10cの筒状体12に絶縁性チューブ1aが2本巻き回されており、イオン分離装置20cの筒状体12に絶縁性チューブ1bが2本巻き回されている。それぞれの絶縁性チューブ1aの終端部は、それぞれの二又分岐管13aを介して、それぞれの絶縁性チューブ1bの始端部またはそれぞれの絶縁性チューブ3aの始端部に接続されている。また、それぞれの絶縁性チューブ1bの終端部は、それぞれの二又分岐管13bを介して、それぞれの絶縁性チューブ2bの始端部またはそれぞれの絶縁性チューブ3bの始端部に接続されている。
このような構成とすることで、より多くの被処理水を1つのイオン分離装置で処理できる。
なお、筒状体12に巻き回される絶縁性チューブ1aや絶縁性チューブ1bは、3本以上であってもよい。
【0066】
本発明の水処理システムは、イオン分離装置をさらに有する構成であってもよい。低減対象となるイオン種をより効率的に低減させたり、イオン種の残存量をより低減させることができるため、本発明の水処理システムは、被処理水Wが、イオン分離装置で複数回(2~10回や、3~5回)処理される構成とすることが好ましく、イオン分離装置を3以上備えていることが好ましい。イオン分離装置の数は、3~21や、3~11、3~6などにすることができる。
【0067】
<実施の形態5>
図5は、11個のイオン分離装置を備えた本発明の水処理システムの模式図である。本発明の水処理システム500は、タンク60と、イオン分離装置10bと、イオン分離装置20b~24bと、イオン分離装置30b~34bと、貯水槽40と、貯水槽50とを備えている。イオン分離装置20b~24bは同一の構成であり、イオン分離装置30b~34bは同一の構成である。
【0068】
タンク60は、配管6を介して、イオン分離装置10bの絶縁性チューブ1aの始端部と連結されている。
イオン分離装置10bの二又分岐管(図示せず)の一方の流出部にイオン分離装置20bの絶縁性チューブ1bの始端部が連通されており、二又分岐管(図示せず)の他方の流出部にイオン分離装置30bの絶縁性チューブ1cの始端部が連通されている。
イオン分離装置20b~23bの二又分岐管(図示せず)の一方の流出部は、イオン分離装置21b~24bの絶縁性チューブ1bの始端部と連結されており、イオン分離装置20b~23bの二又分岐管(図示せず)の他方の流出部は、絶縁性チューブ2bと連結されている。また、イオン分離装置24bの二又分岐管(図示せず)の一方の流出部は、絶縁性チューブ2bの始端部と連結されており、二又分岐管(図示せず)の他方の流出部は、絶縁性チューブ3bと連結されている。
イオン分離装置30b~33bの二又分岐管(図示せず)の一方の流出部は、イオン分離装置31b~34bの絶縁性チューブ1cの始端部と連結されており、イオン分離装置30b~33bの二又分岐管(図示せず)の他方の流出部が絶縁性チューブ2cと連結されている。また、イオン分離装置34bの二又分岐管(図示せず)の一方の流出部は、絶縁性チューブ2cの始端部と連結されており、二又分岐管(図示せず)の他方の流出部は、絶縁性チューブ3cと連結されている。
【0069】
イオン分離装置24bの絶縁性チューブ3bおよびイオン分離装置34bの絶縁性チューブ3cの終端部は、排出用配管4の始端部に連結されている。排出用配管4の終端部は貯水槽40の内部にくるように配置されている。イオン分離装置20b~23bの絶縁性チューブ2bのおよびイオン分離装置30b~33bの絶縁性チューブ2cの始端部は、排出用配管5の始端部に連結されている。排出用配管5の終端部は貯水槽50の内部にくるように配置されている。
【0070】
本発明の水処理システム500では、被処理水が収容されたタンク60が配管6を介してイオン分離装置10bの絶縁性チューブ1bに導入され、イオン分離装置10bで、陽イオン濃縮水と陰イオン濃縮水とに分離され、陽イオン濃縮水がイオン分離装置20bの絶縁性チューブ1bへ、陰イオン濃縮水が絶縁性チューブ1cへ流れる。陽イオン濃縮水は、イオン分離装置20bで処理され、陽イオン超濃縮水と陽イオン濃度の低い処理水(W1)に分離される。陽イオン超濃縮水は、イオン分離装置20bの絶縁性チューブ2bへ流れ、排出用配管5を介して貯水槽50に回収される。また、処理水(W1)は、イオン分離装置21bの絶縁性チューブ1bへ流れ、イオン分離装置21bで処理されることで、処理水(W1)の陽イオンと水の成分がさらに分けられる。これにより、処理水(W1)より陽イオン濃度が高い処理水(W2)と、処理水(W1)より陽イオン濃度が低い処理水(W3)に分離される。イオン分離装置22b~24bで同様に陽イオンと水の成分がわかれることで、イオン分離装置24bの絶縁性チューブ3bから、陽イオン濃度がより低い水(イオン種の濃度がより低い水)が得られる。イオン分離装置30b~34bでも同様に、陰イオン濃縮水が処理され、陰イオン濃度がより低い水(イオン種の濃度がより低い水)が得られる。
【0071】
なお、本発明の水処理システムは、本発明の水処理システム100~500に限定されるものではなく、イオン分離装置の構成等や連通方法は適宜変更可能である。
それぞれのイオン分離装置の二又分岐管のそれぞれの流出部に連通される絶縁性チューブは、直接連通された構成であってもよいし、他の絶縁チューブなどの接続管を介して連通された構成であってもよい。
水の流路となる部材(各絶縁性チューブ、各二又分岐管など)は異なる材質で構成されてもよいし、同一の材質で構成されてもよい。イオン種が受ける電場により力を制御できるため、これらの部材の材質は同一であることが好ましい。また、これらの部材は一体化した構成であってもよい。
【0072】
水の流路となる部材は、長手方向に連続した中空部を有する長尺部材であれば、後述する帯状部材のように、絶縁性チューブ以外の部材を用いることもできる。
【0073】
<実施の形態6>
図6で示す本発明の水処理システム600は、イオン分離装置10dを備えている。
イオン分離装置10dは、本発明の水処理システム100~500と同様に、被処理水Wを、被処理水W中の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン濃縮水と、被処理水W中の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン濃縮水とに分離する部分である。
【0074】
[イオン分離装置10d]
本発明の水処理システム600において、イオン分離装置10dは、ドーナツ型コイル15dと、導電線16dおよびDC電源17dとからなるドーナツ型コイル15dを駆動させる駆動手段と、終端部に二又分岐部13dを有する帯状部材1dと、電圧印加手段14dとを備えている。帯状部材1dは、長手方向に連続する中空部を有し、長手方向(被処理水Wの流れ方向)がドーナツ型コイル15dの周方向となるように設けられている。
【0075】
(ドーナツ型コイル15d)
ドーナツ型コイル15dは、被処理水W中のイオン種に対して、ドーナツ型コイル15dの方向へ斥力または引力を与えるために磁場を発生する部分である。駆動手段を駆動させることで、ドーナツ型コイル15dの外周面側には、ドーナツ型コイル15dの軸心方向に対して平行な向きの磁界が発生する。帯状部材1dの内部を被処理水Wが流れるときに、被処理水Wに含まれるイオン種は、ドーナツ型コイル15dと接する面への引力または斥力を受け、被処理水W中の陽イオンと陰イオンとが分離される。
【0076】
ドーナツ型コイル15dは、中空構造の筒状の芯材に、導線を巻き付けたものである。
ドーナツ型コイル15dの大きさは、外径が5cm~100cmであり、高さが5cm~100cmである。取り扱いのしやすさから、好適な大きさは、外径が20cm~30cmであり、高さが40cm~60cmである。
【0077】
(帯状部材1d)
帯状部材1dは、その始端部の中空部から被処理水Wを導入することができ、被処理水Wの流路となる。帯状部材1dは、ドーナツ型コイル15dの外周面に密着するように配置されている。なお、帯状部材1dは、ドーナツ型コイル15dの外周面の少なくとも一部に接していればよい。帯状部材1dは、ドーナツ型コイル15dの外周の25%や、50%、75%と接するように配置することができる。また、帯状部材1dは、ドーナツ型コイル15dを巻き回すように配置してもよい。
帯状部材1dは、樹脂製である。帯状部材1dは、樹脂(ポリエステル、フッ素樹脂、シリコン、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、アクリル樹脂など)の他に、ゴム製やガラス製を用いてもよい。なお、加工のしやすさから、帯状部材1dは、樹脂製であることが好ましい。
【0078】
また、帯状部材1dの中空部(流路)の断面形状は、長方形である。中空部における、ドーナツ型コイル15dの外周面の法線方向の長さは、10~3000μmである。被処理水W中のイオン種に効率的に力を伝えるためには、2500μm以下や、2000μm以下、1500μm以下、1000μm以下、500μm以下、100μm以下などにできる。
【0079】
帯状部材1dの終端部は、二又分岐部13dが形成されている。二又分岐部13dの好適な分岐角度は、20~90度である。
【0080】
なお、微小流路部材として、帯状部材1dに代えて、水処理システム100~500と同様の部材を用いてもよい。
【0081】
(電圧印加手段14d)
電圧印加手段14dは、針状型電圧印加棒とパルス電源(図示せず)とを備えたものであり、パルス電圧を発生させることができるものである。パルス幅や発生電圧は被処理水W中のイオン濃度等に応じて適宜設定される。例えば、パルス幅は100ns~1000ns程度、発生電圧は1kV~50kV程度とすることができる。2本の針状型電圧印加棒は、二又分岐部13dの分岐点直前の位置と、二又分岐部の2つの流出部のなす挟角を二分割する位置とで分岐点を挟むように配置されており、電圧を印加できるようになっている。電圧を印加する向きは、分岐点においてイオン種が受ける応力に応じた電界が発生するように調整される。これにより、イオン種がより分離される。また、パルス幅で電圧を印加することで、高い電圧を印加しも、イオン種の錯乱等を抑制して、イオン種を分離することができる。
【0082】
2.淡水の製造方法
下記工程(A)と、工程(B1)および/または工程(B2)と、を有する淡水の製造方法(以下、「本発明の淡水の製造方法」と記載する場合がある。)に関する。
工程(A):海水を、前記海水の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン濃縮水と、前記海水の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン濃縮水とに分離する工程
工程(B1):工程(A)にて分離された前記陽イオン濃縮水を、前記陽イオン濃縮水の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン超濃縮水と、淡水とに分離する工程
工程(B2):工程(A)にて分離された前記陰イオン濃縮水を、前記陰イオン濃縮水の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン超濃縮水と、淡水とに分離する工程
【0083】
本発明の淡水の製造方法は、工程(A)の後に、工程(B1)および/または工程(B2)を行う淡水の製造方法であり、電場を利用して、海水中の陽イオン成分と陰イオン成分とを分離し、淡水を得る方法である。このような製造方法とすることで、少ない電力で、効率的に、安定した淡水の製造が可能である。また、フッ化物イオンなどの有害イオンの残存や混入もすくないものとなる。
本発明の淡水の製造方法は、本発明の水処理システムを用いて好適に実施できる。特に、イオン分離装置を3以上有する、本発明の水処理システムを用いて好適に実施できる。
【0084】
[工程(A)]
工程(A)は、海水を、前記海水の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン濃縮水と、前記海水の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン濃縮水とに分離する工程である。
【0085】
本発明の水処理システムを用いた場合、海水をイオン分離装置の始端部から通液し、二又分岐部の一方の流出部から陽イオン濃縮水を流出させ、二又分岐部の他方の流出部から陰イオン濃縮水を流出させる工程を、工程(A)とすることができる。
【0086】
[工程(B1)]
工程(B1)は、工程(A)にて分離された前記陽イオン濃縮水を、前記陽イオン濃縮水の陽イオン濃度よりも陽イオン濃度が高い陽イオン超濃縮水と、淡水とに分離する工程である。
【0087】
本発明の水処理システムを用いた場合、工程(A)において、イオン分離装置から流出した陽イオン濃縮水をイオン分離装置に複数回通液し、二又分岐部の一方の流出部から陽イオン超濃縮水を流出させ、二又分岐管の他方の流出部から淡水を流出される工程を、工程(B1)とすることができる。
【0088】
工程(B1)は、1つイオン分離装置を有する水処理システムを用いてバッチ式に複数回の操作を行ってもよい。この場合、二又分岐部の流出部から流出した水の回収が終了するたびに、蒸留水や淡水で洗浄することが好ましい。
効率的に淡水を製造できるため、工程(B1)は、
図1~
図5に示すように、複数のイオン分離装置を有する水処理システムを用いて連続式に複数回の操作を行うことが好ましい。
【0089】
塩濃度が淡水レベル(一般的に、0.05%以下)となる範囲で、イオン分離装置の構成等に応じてイオン分離装置に通液する回数(処理回数)は決定すればよい。例えば、2回以上や3回以上、5回以上とすることができる。また、その上限は20回以下や、10回以下、5回以下とすることができる。
【0090】
[工程(B2)]
工程(B2)は、工程(A)にて分離された前記陰イオン濃縮水を、前記陰イオン濃縮水の陰イオン濃度よりも陰イオン濃度が高い陰イオン超濃縮水と、淡水とに分離する工程である。
【0091】
本発明の水処理システムを用いた場合、工程(A)において、イオン分離装置から流出した陰イオン濃縮水をイオン分離装置に複数回通液し、二又分岐部の一方の流出部から陰イオン超濃縮水を流出させ、二又分岐管の他方の流出部から淡水を流出される工程を、工程(B2)とすることができる。
【0092】
工程(B2)は、陽イオン濃縮水に代えて陰イオン濃縮水を用いる以外は、工程(B1)と同様に行うことができる。
【0093】
工程(B1)と工程(B2)は、いずれか一方のみを行ってもよく、両方の工程を行ってもよい。より効率的に淡水を得るためには、工程(A1)の後に、工程(B1)および工程(B2)を行うことが好ましく、工程(B1)および工程(B2)を並行して行うことがより好ましい。
【0094】
以下、本発明の淡水の製造方法の一例として、本発明の水処理システム500を用いた、本発明の淡水の製造方法について説明する。
【0095】
本発明の水処理システムを用いた淡水の製造では、イオン分離装置10bで、工程(A)が行われる。
タンク60に収容された海水は、配管6を通じて、イオン分離装置10bの絶縁性チューブ1aに導入される。海水の流量は、例えば0.5~~50cc/s、1~10cc/sとなるように設定できる。
イオン分離装置10bでは、上記のように、その表面に自己起電力を有する微粒子が配向固定された樹脂製の筒状体に随時静電界が生じている。筒状体に巻き付けられた絶縁性チューブの内部の海水は流体運動することでゼータ電位が上昇し、陽イオンと陰イオンの二重層に分かれた流体傾向にある。さらに、二又分岐管において、陽イオンと陰イオンのそれぞれが受ける応力の違いにより、陽イオン(NaイオンやCaイオンなど)と陰イオン(塩化物イオンやフッ化物イオンなど)の海水成分に分かれて、それぞれの絶縁性チューブに流れる。
【0096】
次いで、イオン分離装置20b~24bで、工程(B1)が行われる。
イオン分離装置20bでは、イオン分離装置10bで分離された陽イオン成分と水が、絶縁性チューブの内部を流れる。イオン分離装置20bの分岐点直前で所定の低電圧(1.0~3.0V)を外部より印加することで、二又分岐管の流出部の一方に連通された絶縁性チューブの内部を流れる水は、陽イオンがさらに濃縮され、二又分岐管の流出部の他方に連通された絶縁性チューブの内部を流れる水は、陽イオンがさらに低減される。
【0097】
さらに、陽イオンがさらに低減された水に対して、イオン分離装置21b~24bを用いて同様の操作を4回繰り返すことで、塩濃度が淡水レベルになるまで低減された水を得ることができる。
【0098】
また、イオン分離装置30b~34bで、工程(B2)が行われる。
イオン分離装置30bでは、イオン分離装置10bで分離された陰イオン成分と水が、絶縁性チューブの内部を流れる。イオン分離装置30bの分岐点直前で所定の低電圧(1.0~3.0V)を外部より印加することで、二又分岐管の流出部の一方に連通された絶縁性チューブの内部を流れる水は、陰イオンがさらに濃縮され、二又分岐管の流出部の一方の他方に連通された絶縁性チューブの内部を流れる水は、陰イオンがさらに低減される。
【0099】
さらに、陰イオンがさらに低減された水に対して、イオン分離装置31b~34bを用いて同様の操作を4回繰り返すことで、塩濃度が淡水レベルになるまで低減された水を得ることができる。
【0100】
なお、陽イオンがさらに濃縮された水や、陰イオンがさらに濃縮された水などは、同一の容器に合流させ処理することで濃縮海水とできる。この濃縮海水も、本発明の水処理システムを用いて処理を行うことで淡水化が可能である。
【0101】
3.極性配向シート
また、本発明は、絶縁性基材と、前記絶縁性基材の表面に自己起電力を有する微粒子が配向固定された層とを有する極性配向シート(以下、「本発明のシート」と記載する場合がある。)に関するものとすることができる。
【0102】
絶縁性基材は、樹脂(ポリエステル、フッ素樹脂、シリコン、芳香族ポリエーテルケトン樹脂など)、ゴム、ガラスなどの絶縁性材料で形成したシートを用いることができる。
自己起電力を有する微粒子は、上述の通りである。本発明のシートは、自己起電力を有する微粒子が、その極性の向きが同一となるように固定された層を有するので、微粒子の配向電場が断続的に生じる。これがパルス電場となる。
本発明のシートは、シート上の電解質を含む水溶液(塩水など)など流体中のイオン種に対して微粒子の配向の状態によりシート面への引力或いは斥力を与えることができる。このようなシートは、上記のように、被処理水中のイオン種の分離や低減、除去に利用できる。
【0103】
シート形状は特に限定されず、角形、円形、楕円形など種々の形状とすることができ、平面状のまま用いてもよいし、上記のように円筒状に加工して用いてもよい。
本発明のシートを円筒状に加工した円筒シートは、本発明の水処理システムのイオン分離装置を構成する部材として好適である。
【0104】
本発明のシートは、所定の一様な磁場中で、カルシウムと炭素を主たる構成成分とするメゾスコピック構造体を含むメゾスコピック構造体含有水溶液を用いて、表面にフコースなどの接着剤を塗布した絶縁性基材を処理することで得ることができる。例えば、所定の磁場中で、表面にフコースなどの接着剤を塗布した樹脂製シートに対して、メゾスコピック構造体含有水溶液を噴霧や塗布することにより、絶縁性基材と当該メゾスコピック構造体含有水溶液とを接触させた後、水を除去することで得ることができる。さらに、絶縁性基材とメゾスコピック構造体含有水溶液とを接触させた後に、樹脂製のシートの表面を磁場配向処理することで得ることができる。
【0105】
メゾスコピック構造体含有水溶液は、本発明者が開発した特許第4817817号や特開2011-56366号公報で開示された装置を使用して、植物性原料及び化石サンゴ等の海洋動植物プランクトンの化石、石灰石、貝殻等のミネラル成分(ミネラル付与材)を原料として使用し、同文献で開示された方法に準じる方法で製造することができる。
【0106】
具体的には、メゾスコピック構造体含有水溶液として、絶縁体で被覆された導電線及びミネラル付与材を水に浸漬し、前記導電線に直流電流(電流値及び電圧値が、それぞれ0.05~0.1A及び8000~8600Vの範囲)を導通させ、前記導電線の周囲の水に前記直流電流と同方向の水流を発生させ、前記水に超音波振動を付与してミネラル水溶液を形成する工程と、前記工程を経て形成されたミネラル水溶液に遠赤外線(波長6~14μm)を照射する工程と、を経て形成されたミネラル水に、互いに種類の異なるミネラル付与材が充填された複数の通水容器のうちの1以上に水を通過させて形成されたミネラル含有水を混合させる工程を有する製造方法(P1)で得られた水溶液を用いることができる。
【0107】
中でも、ミネラル水にミネラル含有水を混合させる工程において、複数の前記通水容器として、第1通水容器から第6通水容器に至る6個の通水容器を使用し、前記第1通水容器内のミネラル付与材が二酸化ケイ素と酸化鉄を含み、前記第2通水容器内のミネラル付与材が二酸化ケイ素と活性炭を含み、前記第3通水容器内のミネラル付与材が二酸化ケイ素と窒化チタンを含み、前記第4通水容器内のミネラル付与材が二酸化ケイ素と炭酸カルシウムを含み、前記第5通水容器内のミネラル付与材が二酸化ケイ素と炭酸マグネシウムを含み、前記第6通水容器内のミネラル付与材が二酸化ケイ素とリン酸カルシウムを含む製造方法(P2)で得られた水溶液を用いることができる。
【0108】
このような製造方法(P1)や(P2)の方法で製造されることで、原料から水に溶解した、カルシウムおよび炭素といったミネラル成分が、水と融合しメゾスコピック領域の大きさの構造体を形成する。さらに、メゾスコピック構造体は電気力で刺激され極性を与えられているので、電子補足による自己起電性を形成する。
【実施例】
【0109】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0110】
<水処理システムの製造>
図6に示す水処理システムを以下の手順で製造した。
【0111】
二又分岐部を有する微小流路部材として用いる樹脂製部材(L)を製造した。
まず、幅10mm、厚み2mmの溝(中空部(M))ができるように、幅20mm、厚み2mm、長さ100mmのポリエステルシート(S1)上に、幅5mm、厚み2mm、長さ90mmのポリエステルシート(S2)を介して、幅20mm、厚み2mm、長さ100mmのポリエステルシート(S1)を貼り合わせた。なお、ポリエステルシートの長手方向の両末端は開口状態で貼り合わせた。次いで、貼り合わせたポリエステルシート部材の一方の末端からアクリル製(幅20mm、厚み0.5mm)のV字形状シート(S4)を10mm程度挿入し、ポリエステルシート(S3)を用いて水がこぼれないように側面をシールして、1mm以下の間隔の2つの開口部(J,K)を有する二又分岐部を形成することで樹脂製部材(L)を作製した。
図7に、樹脂製部材(L)の側縁部を示す一部省略模式図(幅方向(Y軸方向)から見た一部省略模式図)を示す。
図8に、樹脂製部材(L)の平面部を示す一部省略模式図(厚さ方向(Z軸方向)から見た一部省略模式図)を示す。
図9に、
図8のA-A線における断面図を示す。
【0112】
ドーナツ型コイル15として、DC電源装置を有するドーナツ型コイル(直径6cm程度)を用いた。
【0113】
樹脂製部材(L)の長手方向(X軸方向)とドーナツ型コイルの軸心が垂直となるように、樹脂製部材(L)を、ドーナツ型コイルの外周面の一部に傍接するように取り付けた。これにより、樹脂製部材(L)の中空部(M)を流れる試料水の流れ方向とドーナツ型コイルの軸心が垂直となる。二又分岐部はドーナツ型コイルの外周面とは離れるように配置した。
電圧印加手段14dとして、パルス発生電源と針状型電圧印加棒を用いた。針状型電圧印加棒は、二又分岐部の分岐点の直前の部分と、開口部(J,K)の間に設置した。なお、針状電圧印加棒の設置部位は移動調整可能とした。
【0114】
<水処理システムを用いた水処理>
DC電源装置と針状電圧印加棒を以下の条件で起動させた。
【0115】
DC電源装置
・DC24Vで、ドーナツ型コイルの軸心と平行に静電場磁界が発生する状態とした。
【0116】
パルス電源装置/針状型電圧印加棒
・一方の針状型電圧印加棒を、ポリエステルシート(S1)面と直交する姿勢を保った状態で、ポリエステルシート(S1)面内の二又分岐部の分岐点の直前部位に近づけて設置した。
・他方の針状型電圧印加棒を、試料水の流れ方向と平行となる姿勢を保ち、開口部(J)および開口部(K)と等間隔を保った状態で、二又分岐部の分岐点に近づけて配置した。
・約5mmの間隔にて挟むように、2つの針状電圧印加棒を配置した。
・高電圧パルス幅は500nsとし、発生電圧は20kVとした。
【0117】
(処理1回目)
DC電源装置、パルス電源装置および針状型電圧印加棒を駆動させた状態で、樹脂製部材(L)の開口部(I)より、試料水(3%塩水)を1cc/secで注入した。分岐した2つの開口部(J)、(K)より、それぞれ分かれて出てくる水を取水し、微量塩分濃度系で濃度を分析した。塩分濃度計はナトリウムガラス電極型を使用、ナトリウムイオンに選択的に対応するものを使用した。
【0118】
(処理2回目)
樹脂製部材(L)の開口部(I)から蒸留水を注入し洗浄した後、再度、開口部(J)より取水した水を開口部(I)より注入した。開口部(J)、(K)より出てくる水を取水し、微量塩分濃度系で塩分濃度を測定した。
また、樹脂製部材(L)の開口部(I)から蒸留水を注入し洗浄した後、再度、開口部(K)より取水した水を注入した。開口部(J)、(K)より出てくる水を取水し、微量塩分濃度系で塩分濃度を測定した。
【0119】
<塩分濃度測定の結果>
試料水の塩分濃度:3%(導電率45mS/cm)
【0120】
(1回目)
開口部(J)より取水した水の塩分濃度:2.4%
開口部(K)より取水した水の塩分濃度:3.5%
【0121】
(2回目)
・1回目の開口部(J)より取水した水を再度注水
開口部(J)より取水した水の塩分濃度:2.0%
開口部(K)より取水した水:2.8%
【0122】
(2回目)
・1回目の開口部(K)より取水した水を再度注水
開口部(J)より取水した水の塩分濃度:2.2%
開口部(K)より取水した水の塩分濃度:3.9%
【0123】
<考察>
静電界磁場と磁場及びパルス発生電圧により、イオン化したナトリウムと塩素が水中を偏在して流れることで、塩分を分離する淡水化技術の可能性を実験した。結果、開口部(J)から取水した水と開口部(K)から取水した水よりナトリウムイオンの増減の違いが確認できた。
試料塩分濃度が3%であるのに対し、2回目の分流で濃度が2.0%と3.9%に変化した。
塩素イオンも対になる偏在傾向を示すと考えられることから、繰り返し実験を行うことで、高濃度塩分水と淡水レベルに分離することの可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の水処理システムや淡水の製造方法によれば、安定して淡水を製造でき、天候等に左右されずに飲料水等の水資源を確保することができる。
【符号の説明】
【0125】
1a、1b、1c、2b、2c、3a、3b、3c 絶縁性チューブ
1d 帯状部材
4、5 排出用配管
6 配管
10a、10b、10c、10d、20a、20b~24b、20c、30a、30b~34b イオン分離装置
12 筒状体
13a、13b、13c 二又分岐管
13d 二又分岐部
14b、14c、14d 電圧印加手段
15、15d ドーナツ型コイル
16、16d 導電線
17、17d DCパルス電源
40、50 貯水槽
60 タンク
100、200、300、400、500、600 本発明の水処理システム
I、J、K 開口部
L 樹脂製部材
M 中空部
S1、S2、S3 ポリエステルシート
S4 V字形状シート