(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】トルク伝達機構を内蔵する自転車用クランク組立体
(51)【国際特許分類】
B62M 3/00 20060101AFI20220722BHJP
F16D 3/06 20060101ALI20220722BHJP
F16D 1/02 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
B62M3/00 D
F16D3/06 A
F16D1/02 300
(21)【出願番号】P 2018049373
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】394000493
【氏名又は名称】ヒーハイスト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】福留 弘人
(72)【発明者】
【氏名】原 宣功
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-164150(JP,A)
【文献】特開2001-050293(JP,A)
【文献】特開2017-109529(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0008282(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0269177(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 3/00
F16D 3/06
F16D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部に開口部を備えた内部空間を有するクランク軸、
クランク軸の上記一方の端部に取り付けられたクランク、
クランク軸の内部空間に内蔵された、クランク軸の軸方向に延びる複数列の溝部を外周面に備えた摺動軸、及び摺動軸の複数列の溝部のそれぞれに収容された複数個の転動体を含むトルク伝達機構、そして
トルク伝達機構の摺動軸の周囲に取り付けられたスプロケット、
を含む自転車用クランク組立体であって、
上記トルク伝達機構の摺動軸の複数列の溝部が、互いに間隙を介して隣接配置された溝部対として複数対配置された構成とされ、この構成により、溝部対の各溝部に収容された一対の転動体とクランク軸内周面との間に形成された空間に、上記一対の転動体とクランク軸内周面のそれぞれに接触する接触面を持
ち、かつ上記空間にて揺動することが可能な形状を持つトルク伝達体
とが備えられていることを特徴とする自転車用クランク組立体。
【請求項2】
上記トルク伝達機構のトルク伝達体がその接触面を介して接触するクランク軸の内周面に、クランク軸の軸方向に延びる凹みが形成されている、請求項1に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項3】
上記トルク伝達機構の摺動軸の複数対の溝部対が、摺動軸の外周に沿って互いに等間隔で配置されている、請求項1もしくは2に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項4】
上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部対が五対以下であって、それぞれの溝部対の溝部間の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸の位置を中心点とする多角形の各頂点に位置している、請求項1乃至3の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項5】
上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部対が三対であって、それぞれの溝部対の溝部間の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸の位置を中心点とする三角形の各頂点に位置している、請求項1乃至3の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項6】
上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部対が三対であって、それぞれの溝部対の溝部間の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置している、請求項1乃至3の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項7】
上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部対が二対であって、それぞれの溝部対の溝部間の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸に対して軸対称の位置にある、請求項1乃至3の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項8】
上記トルク伝達機構のトルク伝達体が、クランク軸の内周面に対向する凸状接触面、そして溝部対の各溝部に収容されている転動体のそれぞれに対向する凹状接触面を備えている、請求項1乃至7の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項9】
上記トルク伝達機構に、転動体を保持する転動体保持器が含まれている、請求項1乃至8の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体
。
【請求項10】
上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面で軸方向に延びる複数列の溝部対の溝部のそれぞれが弧状の断面を持つ、請求項1乃至9の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項11】
一方の端部に開口部を備えた内部空間を有するクランク軸、
クランク軸の上記一方の端部に取り付けられたクランク、
クランク軸の内部空間に内蔵された、クランク軸の軸方向に延びる複数列の溝部を外周面に備えた摺動軸、及び摺動軸の複数列の溝部のそれぞれに収容された複数個の転動体を含むトルク伝達機構、そして
トルク伝達機構の摺動軸の周囲に取り付けられたスプロケット、
を含み、
該トルク伝達機構の摺動軸の複数列の溝部が、互いに間隙を介して隣接配置された溝部対として複数対配置された構成とされ、この構成により、溝部対の各溝部に収容された一対の転動体とクランク軸内周面との間に形成された空間に、摺動軸に沿う方向に延びる長尺体であって、その長尺方向に対して垂直となる平面で切断した断面が扇状の形状を持ち、上記一対の転動体とクランク軸内周面のそれぞれに接触する接触面を持つトルク伝達体が備えられていることを特徴とする自転車用クランク組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用クランク組立体に関し、さらに詳しくは、変速機構を利用して走行する自転車に装着して用いるのに適したトルク伝達機構を内蔵する自転車用クランク組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
上記変速機構を備える自転車は、単一のフロントスプロケット、複数のリアスプロケット、フロントスプロケットと所望のリアスプロケットとを連結するチェーン、そしてチェーンと係合するリアスプロケットを変えるリアディレイラを含む。そして、リアディレイラの操作によってチェーンと係合するリアスプロケットを変えることにより変速が行われる。このような変速機構を備えた自転車は通常、変速機付き自転車と呼ばれるている。
【0003】
変速機付き自転車は、変速に際して、チェーンと係合するリアスプロケットの位置によっては、フロントスプロケットとリアスプロケットとを連結するチェーンがフロントスプロケットに対して斜め方向に配置される場合があり、この場合には、フロントスプロケットのチェーン保持力が低下するため、走行時の振動により、チェーンがフロントスプロケットから脱落するおそれがある。
【0004】
上記の自転車走行時に発生することのあるトラブルを回避するための変速機構を備える自転車として、特許文献1には、フロントスプロケットをその回転中心軸心に沿う移動が可能なように構成したフロントスプロケット移動機構を備えたクランク組立体が提案されている。このクランク組立体の移動機構は、フロントスプロケットの周縁部とクランクアームとの間に複数の軸体を配置し、この複数の軸体を介してフロントスプロケットが、クランクアームとの距離の変更をもたらす移動が可能なように構成されている。
【0005】
特許文献2には、変速操作時あるいは自転車走行時に発生する可能性のある前記のトラブルを回避するために有効な、フロントスプロケットをその回転中心軸心に沿う移動が可能なように構成したフロントスプロケット摺動機構を備えたクランク組立体が開示されている。この特許文献2に開示されたクランク組立体の摺動機構は、クランクアームの回転軸(すなわち、クランク軸)の内部を中空とし、その中空部に該回転軸の軸方向に摺動する摺動軸を挿入した摺動機構とし、この摺動機構の一方の端部にフロントスプロケットを装着した構成とされている。そして、この摺動機構の例としては、摺動軸の周囲にボールベアリングなどの転動体を配置し、その転動体の転動を利用しての、上記回転軸内での摺動軸の軸方向での円滑な摺動、そしてクランクアームの回転により発生する上記回転軸のトルクの摺動機構を介してのフロントスプロケットへの伝達が行われるようにされた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US2013/0008282A1
【文献】特開2017-109529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献2には、一方の端部に開口部を備えた内部空間を有するクランク軸;クランク軸の上記一方の端部に取り付けられたクランク;クランク軸の内部空間に内蔵された、クランク軸の軸方向に延びる複数列の溝部を外周面に備えた摺動軸;及び摺動軸の複数列の溝部のそれぞれに収容された複数個の転動体を含むトルク伝達機構;そして トルク伝達機構の摺動軸の周囲に取り付けたスプロケットを含む自転車用クランク組立体が開示されている。
【0008】
特許文献2に開示されたフロントスプロケットの摺動機構は、外筒と摺動軸との間にボールベアリングなどの転動体を介在させることにより、外筒内での摺動軸の軸方向の円滑な移動を実現する機構であって、一般的に、「直動軸受」と呼ばれる構成を利用する機構であると理解される。そして、特許文献2に具体的に記載のある摺動機構では、クランクアームに結合する中空の回転軸(クランク軸)を直動軸受の外筒に模した形状とし、その内部にボールベアリングに代表される転動体を収容保持する保持器(転動体保持器)を介して、一方の端部にフロントスプロケットが装着された摺動軸を挿入した構成としている。なお、この特許文献2に具体的に開示されている摺動機構では、摺動軸として断面が六角形(図面には、正六角形と見られる六角形の形状が示されている)であって、その各角部に、軸方向に延びる溝部が合計六条列形成され、その各条列の溝部のそれぞれに複数個の転動体が収容保持された構成が採用されている。
【0009】
本発明の発明者、即ち本発明者は、特許文献2に開示されたフロントスプロケットの摺動機構の実用性を評価するために様々な観点からの検討を行った。そして、その結果、特許文献2に具体例として開示されている、六条列の溝を断面六角形の各角部を備えた摺動軸を用いる摺動機構は、通常の利用態様での変速機付き自転車の走行における摺動機構としては充分に機能し、快適な変速操作が可能であることを確認した。
【0010】
しかしながら、本発明者の更なる検討の結果、特許文献2に開示の変速機構を備えた変速機付き自転車の走行を長期間行った場合、その自転車走行期間や走行条件(走行条件の過酷度など)にもよるが、クランクアームからのフロントスプロケットへの円滑なトルクの伝達に不具合が発生する場合があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の長期間の走行経過後あるいは過酷な走行に際して発生し易い円滑なトルクの伝達の不具合の原因を究明するために、さらに検討を続けた結果、特許文献2に具体例として記載されている、六条列の溝を断面六角形の各角部を備えた摺動軸を用いる摺動機構は、クランクアーム回転軸内での摺動軸の円滑な摺動のためには非常に好ましい摺動機構と云うことができるものの、クランクアームの回転により発生するトルクをフロントスプロケットに伝達するための機構としては必ずしも最適であるとは云えないとの知見を得た。
【0012】
上記の知見に基づき、本発明者はさらに検討を続けた。その検討の結果、本発明者は、特許文献2に具体例として開示されているトルク伝達機構の摺動軸の複数列の溝部を、互いに間隙を介して隣接配置された溝部対として複数対配置した構成に変え、この構成により、溝部対の各溝部に収容された一対の転動体とクランク軸内周面との間に形成される空間に、上記一対の転動体とクランク軸内周面のそれぞれに接触する接触面を持つトルク伝達体を配することによって、クランクアーム回転軸内での摺動軸の円滑な摺動を確保することが可能であり、かつ変速機付き自転車の長期間及び/又は過酷な走行にも拘わらず、クランクアームの回転により発生するトルクのフロントスプロケットへの円滑な伝達機能の低下が現れにくくなることを見出した。
【0013】
以上に記載の本発明者に検討により判明した新規な知見に基づき、本発明により、下記の構成の自転車用クランク組立体が提供される。
一方の端部に開口部を備えた内部空間を有するクランク軸、
クランク軸の上記一方の端部に取り付けられたクランク、
クランク軸の内部空間に内蔵された、クランク軸の軸方向に延びる複数列の溝部を外周面に備えた摺動軸、及び摺動軸の複数列の溝部のそれぞれに収容された複数個の転動体を含むトルク伝達機構、そして
トルク伝達機構の摺動軸の周囲に取り付けられたスプロケット、
を含む自転車用クランク組立体であって、
上記トルク伝達機構の摺動軸の複数列の溝部は、互いに間隙を介して隣接配置された溝部対として複数対配置された構成とされ、この構成により、溝部対の各溝部に収容された一対の転動体とクランク軸内周面との間に形成された空間に、上記一対の転動体とクランク軸内周面のそれぞれに接触する複数の接触面を持つトルク伝達体が備えられていることを特徴とする自転車用クランク組立体。
【0014】
なお、特許文献2に記載の六条列の溝を断面六角形の各角部を備えた摺動軸を用いる摺動機構が、前述のように、上記の長期間の自転車の走行経過後あるいは過酷な走行に際して、円滑なトルクの伝達の不具合の発生が見られる場合があることの原因については、現時点では必ずしも確認できていない。しかしながら、本発明者のこれまでの検討によると、六条列の溝を断面六角形の各角部を備えた摺動軸を用いる摺動機構からのクランクアームの回転により発生するトルクの摺動機構の摺動軸に取り付けられたフロントスプロケットへの伝達は、摺動軸の周囲の各溝に配置され合計六組のボールベアリングなどの転動体とクランク軸の内周面との接触領域を介して伝達されるが、自転車の長期間の走行あるいは過酷な走行の結果として、それらの転動体の内の一個であっても、その転動体に不均一な摩耗や部分的な損傷が発生した場合、あるいはクランク軸に変形が生じた場合には、上記の回転トルクの伝達が不均一となり、このため、フロントスプロケットへのトルクが発生する結果となるのであろうと推定している。さらに、クランクアームの回転軸、摺動軸、そして摺動軸の周囲に配置された溝部などの加工に際して僅かな対称性の不均一が発生した場合であっても、クランクアームの回転により生じるトルクの摺動機構の摺動軸への伝達に不均一が発生することも考えられる。
【0015】
これに対して、本発明に従う自転車用クランク組立体では、本明細書において後述するトルク伝達体の作用により、摺動軸の軸方向の円滑な摺動が可能な上、クランクの回転により生じたトルクの、クランク軸と摺動軸とを介してのフロントスプロケットへの伝達が円滑かつ確実に達成され、さらにクランク組立体の耐久性も向上する結果となる。
【0016】
本発明に従う自転車用クランク組立体の好ましい態様を以下に記載する。
(1)上記トルク伝達機構のトルク伝達体がその接触面を介して接触するクランク軸の内周面に、クランク軸の軸方向に延びる凹みが形成されている。このクランク軸内周面の軸方向の凹み(弧状断面を持つ凹みであることが好ましい)の形成により、トルク伝達体とクランク軸内周面との接触面積が増え、その結果、クランク軸からのトルクのフロントスプロケットへの伝達効率が向上し、また伝達機能の安定性も向上する。
【0017】
(2)上記トルク伝達機構の摺動軸の複数対の溝部対が、摺動軸の外周に沿って互いに等間隔で配置されている。摺動軸外周面の溝部対の配置をこのようにすることにより、摺動軸のより円滑な摺動を確保することができ、またより円滑なトルク伝達も実現する。
【0018】
(3)上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部対が五対以下であって、それぞれの溝部対の各溝の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸の位置を中心点とする多角形(好ましくは正多角形)の各頂点に位置している。摺動軸の外周面に備えられる溝部対の配置をこのように調整することにより、クランク軸内の摺動軸の軸方向の円滑な摺動を損なうことなく、トルク伝達機構の剛性が向上する。
【0019】
(4)上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部対が三対であって、それぞれの溝部対の各溝の各溝の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸の位置を中心点とする三角形の各頂点に位置している。摺動軸の外周面に備えられる溝部対の配置をこのように調整することにより、クランク軸内の摺動軸の軸方向の円滑な摺動を損なうことなく、摺動機構の簡素化が実現し、さらに、三対の溝部対の溝の夫々に収容された転動体とクランク軸内周面との接触のバランスが向上する。
【0020】
(5)上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部対が三対であって、それぞれの溝部対の各溝の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置している。摺動軸の外周面に備えられる溝部対の配置をこのように調整することにより、上記(4)に記載した作用効果がさらに向上する。なお、本明細書で言及する「正三角形」とは、数学的な厳密な意味での「正三角形」を意味するものではなく、通常の機械工作により製作された物品の評価として、「正三角形」であると判断される形状を意味する。
【0021】
(6)上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部対が二対であって、それぞれの溝部対の各溝の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸に対して軸対称の位置にある。なお、二対の溝部対であっても、クランク軸内の摺動軸の軸方向の円滑な摺動を損なうことなく、摺動機構の簡素化が実現する。なお、ここで記載した「対称の位置」との用語も、数学的な厳密な意味での「対称の位置」を意味するものではないことは勿論であって、通常の機械工作により製作された物品の評価として、「対称の位置関係にある」と判断される位置関係を意味する。
【0022】
(7)上記トルク伝達機構のトルク伝達体が、クランク軸の内周面に対向する凸状接触面、そして溝部対の各溝部に収容されている転動体のそれぞれに対向する凹状接触面を備えている。トルク伝達体をこのような形状とすることにより、とトルク伝達体とクランク軸の内周面との接触面積、そして各溝部対の溝部に収容されている転動体トルク伝達体との接触面積が増え、その結果、クランク軸の回転により生じるトルクのフロントスプロケットへの伝達効率が向上する。
【0023】
(8)上記トルク伝達機構のトルク伝達体が、トルク伝達機構に含まれる上記空間にて揺動することが可能な形状を持つ。本明細書にて後に図面を参照して説明するように、トルク伝達体がこのような揺動を行うことにより、クランク軸の回転により生じるトルクのフロントスプロケットへの伝達効率がさらに向上する。
【0024】
(9)上記トルク伝達機構のトルク伝達体は、摺動軸に沿う長尺体であって、その長尺体の長尺方向に対して垂直となる平面で切断した切断面が扇状の形状を持つ。トルク伝達体の形状をこのようにすることにより、上記(8)に記載したトルク伝達体の揺動がより円滑に行われる。
【0025】
(10)上記トルク伝達機構に、転動体を保持する転動体保持器が含まれている。トルク伝達機構への転動体保持器の組み込みにより、クランク組立体内での摺動軸の溝部での転動体の保持が確実となる。なお、直動軸受における転動体保持器の装着は、転動体の確実な収容保持のために一般的に行われることであり、本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構においても、その使用が好ましい。
【0026】
(11)上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面で軸方向に延びる複数列の溝部対の溝部のそれぞれが弧状の断面を持つ。溝部の断面が弧状(円周の一部となる形状)を持つことにより、転動体の溝部内での転動(回転など)が、より円滑に行われる。
【0027】
本発明に従う自転車用クランク組立体は、簡素な構造であって軽量化が可能である上に、摺動軸のクランク軸(クランク回転軸)内における軸方向の円滑な摺動が確保される。さらに、本発明に従う自転車用クランク組立体を用いることにより、クランクの回転により生じるトルクのスプロケット(通常はフロントスプロケット)への伝達効率が向上し、また自転車の長期間の走行あるいは過酷な走行によっても、クランクからのスプロケットへのトルク伝達効率の低下が現れにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の自転車用クランク組立体の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図1の自転車用クランク組立体の内部構造を示す正面断面図である。
【
図3】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の正面図とA-A線に沿う側面断面図である。
【
図4】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の正面断面図と右側面図である。
【
図5】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の構造の例(三対の溝部対を備えた摺動軸を用いる態様の例)を示す断面図である。
【
図6】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の構造の例(二対列の溝部対を備えた摺動軸を用いる態様の例)を示す断面図である。
【
図7】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構を構成する各部品を示す組立図である。
【
図8】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の摺動軸の正面図(a)、斜視図(b)、(c)、そして左側面図(d)と右側面図(e)である。
【
図9】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構のトルク伝達体の形状の一例を示す正面図(a)、斜視図(b)、そして側面図(c)である。
【
図10】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構に含まれるトルク伝達体で想定される揺動の動作を説明する説明図である。
【
図11】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の構成に好適に利用される回転体保持器の斜視図(a)、正面図(b)、そして側面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の自転車用クランク組立体について、添付図面を参照しながら詳しく説明する。
【0030】
図1は、本発明の自転車用クランク組立体10の外観を示す斜視図であり、そして
図2は、
図1の自転車用クランク組立体10の内部構造を示す正面断面図である。
【0031】
図1と
図2の自転車用クランク組立体10は、内部を中空とし、一方の端部が閉鎖され、他方の端部で開口した管体の形状にあるクランク軸(クランク回転軸)11、クランク軸11の一方端部に装着されたクランクアーム13a、クランク軸11の他方の端部に装着されたクランクアーム13b、そしてクランク軸11の内部空間に収容された摺動軸12、摺動軸の周囲に配置されたボールベアリングなどの転動体14、摺動軸12の一方の端部(クランク軸11の他方の端部側に突き出る端部)に、固定具15を介して固定されたフロントスプロケット16を主要な構成部材としている。なお、
図2の自転車用クランク組立体では、摺動軸の外周面に延びる溝部が二条列が一対の溝部対とされて三対備えられ、それぞれの溝部対の各溝の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置している構成が採用されている。
【0032】
図3は、
図2に示した本発明の自転車用クランク組立体のクランク軸の正面図(a)、そして正面図(a)のA-A線に沿う側面断面図(b)を示す。側面断面図(b)には、本発明の自転車用クランク組立体で採用されている摺動機構の断面図が示されている。
図4は、
図3に示した本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の正面断面図(a)と右側面図(b)である。
図4の正面断面図(a)は、右側面図(b)に記入したB-B線に沿った断面として示してある。
【0033】
図3と
図4において、クランク軸の一方の端部11aと他方の側端部11bのそれぞれには、
図1と
図2に示したように、クランクアーム13a、13bを装着固定するためのスプラインが形成されている。なお、一方の端部11aは、クランク軸の内部空間へのゴミや埃の侵入を避けるために閉鎖されていることが好ましいが、自転車の走行条件によっては、その一部あるいは全面を開口状態としたとしても、本発明で採用している摺動機構の作動に大きな影響を与えることのない場合もある。
【0034】
図3の側面断面図(b)と
図4の側面図(a)には、
図2と同様に、外周面に延びる溝部が、二条列一対の溝部対とされて、三対備えられ、それぞれの溝部対の各溝の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置している構成が採用されている。そして各溝部対の溝部にボールベアリングなどの転動体14が複数個並べて収容された図が示されている。そして、転動体14は、転動体保持器17によって、摺動軸12の溝部のそれぞれの内部にて確実に収容された状態で保持されている。そして、各溝部対を構成する隣接する一対の溝部のそれぞれに収容されている一対の転動体14、14、そしてクランク軸11の内周面により形成されている空間には、当該一対の転動体14、14、そしてクランク軸11の内周面のそれぞれに接触する個数の接触面を持つトルク伝達体18が挿入されている。このトルク伝達体18の形状そしてトルク伝達体18の周囲の構成については、次に
図5、そして
図9を参照して詳しく説明する。また、トルク伝達体18について想定される作動については、
図10に図示して、説明する。
【0035】
図5は、本発明の特徴的なトルク伝達機構を説明する図であって、
図3の側面断面図(b)の拡大図に相当する。すなわち、
図5の側面断面図において、クランク11の内部の空間領域には、互いに間隙を介して隣接配置された一対の溝部19、19からなる溝部対が三対配置された構成とされている。そして、このような構成により、溝部対の各溝部19、19に収容された一対の転動体14、14とクランク軸11内周面との間に形成された空間には、それらの一対の転動体14、14とクランク軸11の内周面のそれぞれに接触する複数の接触面(
図5では、三個の接触面)を持つトルク伝達体18が備えられている。
図5は、摺動軸12の外周面に延びる溝部対19、19が三対であって、それぞれの溝部対の各溝の中心を結ぶ直線の中点20が、摺動軸12の中心軸の位置を中心点20とする正三角形の各頂点に位置していることを模式的に示している。
【0036】
図5に見られるように、トルク伝達体18は、その接触面を介して接触するクランク軸11の内周面には、クランク軸11の軸方向に延びる凹み11aが形成されていることが好ましい。
【0037】
そして、トルク伝達体18は、クランク軸11の内周面の凹み11aに対向する凸状接触面18a、そして溝部対の各溝部19、19に収容されている転動体14、14のそれぞれに対向する凹状接触面18b、18bを備えていることが好ましい。
【0038】
なお、トルク伝達体18は、トルク伝達機構に含まれる空間にて揺動することが可能な
図5に示すような形状(例えば、扇の形状)を持つことが好ましい。
【0039】
図6は、本発明の特徴的なトルク伝達機構おいて、摺動軸の外周面に二対の溝部対を備えた構成を摺動軸が用いられた例を断面図として示す図である。
図6において、クランク軸11の内部の空間領域には、互いに間隙を介して隣接配置された一対の溝部19、19からなる溝部対が二対配置された構成とされている。そして、このような構成により、溝部対の各溝部19、19に収容された一対の転動体14、14とクランク軸11内周面との間に形成された空間には、それらの一対の転動体14、14とクランク軸11の内周面のそれぞれに接触する複数の接触面(
図6では、三個の接触面)を持つトルク伝達体18が備えられている。
図6は、摺動軸12の外周面に延びる溝部対19、19が二対であって、それぞれの溝部対の各溝の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸21に対して軸対称の位置にある構成を示している。
【0040】
図6においても、トルク伝達体18は、その接触面を介して接触するクランク軸11の内周面には、クランク軸11の軸方向に延びる凹み11aが形成されていることが好ましい。
【0041】
そして、トルク伝達体18は、クランク軸11の内周面の凹み11aに対向する凸状接触面18a、そして溝部対の各溝部19、19に収容されている転動体14、14のそれぞれに対向する凹状接触面18b、18bを備えていることが好ましい。
【0042】
なお、トルク伝達体18についても、トルク伝達機構に含まれる空間にて揺動することが可能な
図6に示すような形状(例えば、扇の形状)を持つことが好ましい。
【0043】
図7は、本発明の自転車用クランク組立体のトルク伝達機構を構成する各部品を示す組立図である。
図3、
図4そして
図5と対応させて見れば理解できるように、本発明の自転車用クランク組立体は、直動軸受との観点で見れば外筒として機能する、内部に空間領域を有するクランク軸(クランク回転軸)11の内部空間に、転動体14を保持する転動体保持器17を周囲に装着した摺動軸11が収容される。
図7においても、摺動軸11は、その周囲において軸方向に延び、かつ互いに均一な間隔を以て平行に配置された隣接する溝部19が一対とされた溝部対がを備えられている。なお、その他の部品は、クランク軸11の内部における摺動軸11や転動体保持器17の摺動領域を制限するためにクランク軸内部に装着する付属部品である。
【0044】
図8は、本発明の自転車用クランク組立体のトルク伝達機構の摺動軸の正面図(a)、斜視図(b)、(c)、そして左側面図(d)と右側面図(e)である。
図8においても、摺動軸11は、その周囲において軸方向に延び、かつ互いに均一な間隔を以て平行に配置された隣接する溝部19が一対とされた溝部対19、19が備えられているその周囲に、軸方向に、かつ互いに均一な間隔を以て平行に配置された三条列の溝部18を備えている。
【0045】
図9は、本発明の自転車用クランク組立体のトルク伝達機構に挿入して使用するトルク伝達体の代表的な形状を示す正面図(a)、斜視図(b)、そして側面図(c)を示す。トルク伝達体は、
図9に示すような側面と断面が扇状の長尺体であることが好ましい。トルク伝達体18の断面の頂面18a、側面18b、18bは、それぞれ、クランク軸11の内周面、そして一対の溝部19、19に収容されている転動体14、14に接触する接触面である。なお、これらの接触面は、自転車の走行中において全てが、クランク軸11の内周面、そして転動体14、14に接触した状態にあることが好ましいが、その接触状態は走行条件の折々で変動する。この、トルク伝達体18と、クランク軸11の内周面の凹み11a、そして転動体14、14との接触状態、そしてそれらの接触状態がトルク伝達機構でどのようなトルク伝達動作を行っているかの説明を
図10を参照して、次に説明する。
【0046】
図10は、本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構に含まれるトルク伝達体で想定される揺動の動作を説明する説明図である。
すなわち、
図10の(a)は、自転車が停車中である場合の摺動軸12、転動体14、14、トルク伝達体18、そしてクランク軸11の位置関係の想定図である。なお、自転車が垂直あるいは略垂直な位置にて停車しているのであれば、トルク伝達体18は、いずれかの部品に接触している。(b)は、自転車が走行状態に入り、クランク軸11が白矢印の方向(時計回りの方向)への回転を介しした状態の各部品の位置関係を示す。クランク軸11の回転によりクランク軸11の内周面は、先ずトルク伝達体18に接触し、クランク軸11の回転により生じるトルク(黒矢印で示している)は、先ずトルク伝達体18に伝達される。次いで、(c)に示されている様に、トルク伝達体18は、図において右側に配置されている転動体14に接触し、トルクを転動体14に伝達する。そして、次にトルク伝達体18は、クランク軸の回転方向とは逆の方向(白矢印)に回転し、その結果、図において左側に配置されている転動体14と接触する。そして、トルク伝達体18は、トルクが付与された転動体14と摺動軸12との接触を引き起こし、次いで転動体14を介して伝えられたトルク(回転力)により摺動軸がクランク軸11の回転方向と同じ方向に回転する。摺動軸12の回転により、摺動軸12の溝に収容されている転動体14もまた、摺動軸12の回転に従って、摺動軸12の周囲を回転するようになり、その結果、転動体14もまた、トルク伝達体18に接触する。これまでに述べた、クランク軸11、トルク伝達体18、転動体14、摺動軸12、そして転動体14の回転と移動とによって、クランク軸11と摺動軸12とは物理的に係合するようになり、その結果、クランク軸11の回転により生じたトルクが確実に摺動軸12に伝達され、摺動軸12の安定な回転運動を保証することになる。
【0047】
図11は、本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の構成に好適に利用される転動体保持器の斜視図(a)、正面図(b)、そして側面図(c)である。なお、この
図11の転動体保持器は、
図5に示した転動体保持器17の詳細な固形状を示す図として、示されている。すなわち、トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる一対の溝部が合計3対備えられている構成の自転車用クランク組立体に用いる転動体保持器17とその転動体保持器17に収容保持されている転動体14(14aと14b)を持つ例で示しているが、摺動軸の形状や摺動軸の周面に形成される溝部対の個数や形状により、その構成や形状が変わることは云うまでもない。また、転動体保持器17に収容される転動体の個数も所望により変えうることも当然である。
【0048】
転動体としては、直動軸受で一般的に用いられるボールベアリングが使用されるが、必要により、「ころ」状の転動体、「俵」状の転動体などの他の形状の転動体を用いることもできる。
【0049】
本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構のこれまでの説明は、添付図面に図示した、周囲に軸方向に、かつ互いに均一な間隔を以て平行に配置された溝部を一対とした溝部対を三対備え、それぞれの溝部対の溝部間の中心を結ぶ直線の中点が、摺動軸の中心軸の位置を中心点とする(正)三角形の各頂点に位置している例を参照して行ったが、本発明の自転車用クランク組立体は、このような説明により限定されるものではない。
【符号の説明】
【0050】
10 クランク組立体
11 クランク軸(クランク回転軸)
11a クランク軸の内周面の凹み
12 摺動軸
13a、13b クランクアーム
14 転動体
15 固定具(スプロケット固定具)
16 フロントスプロケット
17 転動体保持器
18 トルク伝達体
18a 凸状面(接触面)
18b 凹状面(接触部)
19 溝部
20 (正)三角形の中心点
21 対称軸