(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-21
(45)【発行日】2022-07-29
(54)【発明の名称】トルク伝達機構を内蔵する自転車用クランク組立体
(51)【国際特許分類】
B62M 3/00 20060101AFI20220722BHJP
F16D 1/02 20060101ALI20220722BHJP
F16D 3/06 20060101ALI20220722BHJP
【FI】
B62M3/00 D
F16D1/02 300
F16D3/06 A
(21)【出願番号】P 2018049374
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】394000493
【氏名又は名称】ヒーハイスト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】福留 弘人
(72)【発明者】
【氏名】原 宣功
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109529(JP,A)
【文献】特開昭61-211527(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0008282(US,A1)
【文献】特開2001-050293(JP,A)
【文献】特開2007-008286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 3/00
F16D 1/02
F16D 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部に開口部を備えた内部空間を有するクランク軸、
クランク軸の上記一方の端部に取り付けられたクランク、
クランク軸の内部空間に内蔵された、クランク軸の軸方向に延びる
弧状断面を持つ複数列の溝部を外周面に備えた摺動軸、
ただし、この摺動軸の溝部の弧状断面の弧状部の両端部の内の一方の端部は他方の端部よりも摺動軸の中心軸位置から遠い位置にまで延びている、及び摺動軸の複数列の溝部のそれぞれにクランク軸の内周面に接するように収容された複数個の転動体を含むトルク伝達機構、
そして
トルク伝達機構の摺動軸の周囲に取り付けられたスプロケット、
を含む
変速機構を利用して走行する自転車
に装着するための自転車用クランク組立体であって、
トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部が
三条列であって、それぞれの溝部が摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置していることを特徴とするクランク組立体。
【請求項2】
摺動軸の外周面に備えられた複数列の溝部に収容されている転動体が接するクランク軸の内周面にクランク軸の軸方向に延びる凹みが形成されている、請求項1に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項3】
トルク伝達機構が、転動体を保持する転動体保持器が含む、請求項1または2に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項4】
溝部の弧状の断面の弧状部の両端部を結ぶ直線が転動体の直径よりも小さい、請求項1乃至3の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項5】
クランク軸の内周面と上記トルク伝達機構の摺動軸の複数列の溝部のそれぞれに収容された複数個の転動体とが互いに接触してトルク伝達面を形成している、請求項1乃至4の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項6】
トルク伝達機構の摺動軸の複数列の溝部が摺動軸の外周に沿って互いに等間隔で配置されている、請求項1乃至5の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項7】
複数個の転動体がクランク軸の内径の1/2以下の直径を持つ、請求項1乃至6の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【請求項8】
摺動軸の外周面に備えられた複数列の溝部に収容されている転動体が接するクランク軸の内周面にクランク軸の軸方向に延びる凹みが形成されていて、各凹みの断面の両端部間の長さが転動体の直径よりも大きい、請求項1乃至7の内のいずれかの項に記載の自転車用クランク組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用クランク組立体に関し、さらに詳しくは、変速機構を利用して走行する自転車に装着して用いるのに適したトルク伝達機構を内蔵する自転車用クランク組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
上記変速機構を備える自転車は、単一のフロントスプロケット、複数のリアスプロケット、フロントスプロケットと所望のリアスプロケットとを連結するチェーン、そしてチェーンと係合するリアスプロケットを変えるリアディレイラを含む。そして、リアディレイラの操作によってチェーンと係合するリアスプロケットを変えることにより変速が行われる。このような変速機構を備えた自転車は通常、変速機付き自転車と呼ばれるている。
【0003】
変速機付き自転車は、変速に際して、チェーンと係合するリアスプロケットの位置によっては、フロントスプロケットとリアスプロケットとを連結するチェーンがフロントスプロケットに対して斜め方向に配置される場合があり、この場合には、フロントスプロケットのチェーン保持力が低下するため、走行時の振動により、チェーンがフロントスプロケットから脱落するおそれがある。
【0004】
上記の自転車走行時に発生することのあるトラブルを回避するための変速機構を備える自転車として、特許文献1には、フロントスプロケットをその回転中心軸心に沿う移動が可能なように構成したフロントスプロケット移動機構を備えたクランク組立体が提案されている。このクランク組立体の移動機構は、フロントスプロケットの周縁部とクランクアームとの間に複数の軸体を配置し、この複数の軸体を介してフロントスプロケットが、クランクアームとの距離の変更をもたらす移動が可能なように構成されている。
【0005】
特許文献2には、変速操作時あるいは自転車走行時に発生する可能性のある前記のトラブルを回避するために有効な、フロントスプロケットをその回転中心軸心に沿う移動が可能なように構成したフロントスプロケット摺動機構を備えたクランク組立体が開示されている。この特許文献2に開示されたクランク組立体の摺動機構は、クランクアームの回転軸(すなわち、クランク軸)の内部を中空とし、その中空部に該回転軸の軸方向に摺動する摺動軸を挿入した摺動機構とし、この摺動機構の一方の端部にフロントスプロケットを装着した構成とされている。そして、この摺動機構の例としては、摺動軸の周囲にボールベアリングなどの転動体を配置し、その転動体の転動を利用しての、上記回転軸内での摺動軸の軸方向での円滑な摺動、そしてクランクアームの回転により発生する上記回転軸のトルクの摺動機構を介してのフロントスプロケットへの伝達が行われるようにされた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US2013/0008282A1
【文献】特開2017-109529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献2には、一方の端部に開口部を備えた内部空間を有するクランク軸;クランク軸の上記一方の端部に取り付けられたクランク;クランク軸の内部空間に内蔵された、クランク軸の軸方向に延びる複数列の溝部を外周面に備えた摺動軸;及び摺動軸の複数列の溝部のそれぞれに収容された複数個の転動体を含むトルク伝達機構;そして トルク伝達機構の摺動軸の周囲に取り付けたスプロケットを含む自転車用クランク組立体が開示されている。
【0008】
特許文献2に開示されたフロントスプロケットの摺動機構は、外筒と摺動軸との間にボールベアリングなどの回転体を介在させることにより、外筒内での摺動軸の軸方向の円滑な移動を実現する機構であって、一般的に、「直動軸受」と呼ばれる構成を利用する機構であると理解される。そして、特許文献2に具体的に記載のある摺動機構では、クランクアームに結合する中空の回転軸(クランク軸)を直動軸受の外筒に模した形状とし、その内部にボールベアリングに代表される回転体(転動体と同じ)を収容保持する回転体保持器(転動体保持器と同じ)を介して、一方の端部にフロントスプロケットが装着された摺動軸を挿入した構成としている。なお、この特許文献2に具体的に開示されている摺動機構では、摺動軸として断面が六角形(図面には、正六角形と見られる六角形の形状が示されている)であって、その各角部に、軸方向に延びる溝部が合計六条列形成され、その各条列の溝部のそれぞれに複数個の転動体が収容保持された構成が採用されている。
【0009】
本発明の発明者、即ち本発明者の検討の結果、特許文献2に開示の変速機構を備えた変速機付き自転車の走行を長期間行った場合、その自転車走行期間や走行条件(走行条件の過酷度など)にもよるが、クランクアームからのフロントスプロケットへの円滑なトルクの伝達に不具合が発生する場合があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の長期間の走行経過後あるいは過酷な走行に際して発生し易い円滑なトルクの伝達の不具合の原因を究明するために、さらに検討を続けた結果、特許文献2に具体例として記載されている、六条列の溝を断面六角形の各角部を備えた摺動軸を用いる摺動機構は、クランクアーム回転軸内での摺動軸の円滑な摺動のためには非常に好ましい摺動機構と云うことができるものの、クランクアームの回転により発生するトルクをフロントスプロケットに伝達するための機構としては必ずしも最適であるとは云えないとの知見を得た。
【0011】
上記の知見に引き続き、本発明者はさらに検討を続け、その検討の結果、意外にも、五条列乃至三条列の溝を断面が五角形乃至三角形の多角形の各角部に備えた摺動軸を用いる摺動機構、あるいは二条列の溝を摺動軸の中心軸に対して軸対象の位置に備えた摺動軸を用いる摺動機構を利用することによって、クランクアーム回転軸内での摺動軸の円滑な摺動を確保することが可能であり、かつ変速機付き自転車の長期間及び/又は過酷な走行にも拘わらず、クランクアームの回転により発生するトルクのフロントスプロケットへの円滑な伝達機能の低下が現れにくくなることを見出した。
【0012】
以上に記載の本発明者に検討により判明した新規な知見に基づき、本発明により、下記の構成の自転車用クランク組立体が提供される。
一方の端部に開口部を備えた内部空間を有するクランク軸、
クランク軸の上記一方の端部に取り付けられたクランク、
クランク軸の内部空間に内蔵された、クランク軸の軸方向に延びる複数列の溝部を外周面に備えた摺動軸、及び摺動軸の複数列の溝部のそれぞれに収容された複数個の転動体を含むトルク伝達機構、そして
トルク伝達機構の摺動軸の周囲に取り付けられたスプロケット、
を含む自転車用クランク組立体であって、
トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部が五条列以下であることを特徴とする自転車用クランク組立体。
【0013】
なお、「クランク軸の内周面に接するよう収容された複数個の転動体」との文言は、溝部に収容されている複数個の転動体の全てがクランク軸の内周面に接している構成、及び当該複数個の転動体の大部分(例えば、転動体の個数を基準として80%以上)がクランク軸の内周面に接している構成の双方を含む意味の文言である。
【0014】
なお、特許文献2に記載の六条列の溝を断面六角形の各角部を備えた摺動軸を用いる摺動機構が、前述のように、上記の長期間の自転車の走行経過後あるいは過酷な走行に際して、円滑なトルクの伝達の不具合の発生が見られる場合があることの原因については、現時点では必ずしも確認できていない。しかしながら、本発明者のこれまでの検討によると、六条列の溝を断面六角形の各角部を備えた摺動軸を用いる摺動機構からのクランクアームの回転により発生するトルクの摺動機構の摺動軸に取り付けられたフロントスプロケットへの伝達は、摺動軸の周囲の各溝に配置され合計六組のボールベアリングなどの転動体とクランク軸の内周面との接触領域を介して伝達されるものの、自転車の長期間の走行あるいは過酷な走行の結果として、それらの転動体の内の一個であっても、その転動体に不均一な摩耗や部分的な損傷が発生した場合、あるいはクランク軸に変形が生じた場合には、上記のトルクの伝達が不均一となり、このため、フロントスプロケットへのトルクの伝達の不均一が発生する結果となるのであろうと推定している。さらに、クランクアームの回転軸、摺動軸、そして摺動軸の周囲に配置された溝部などの加工に際して僅かな対称性の不均一が発生した場合であっても、クランクアームの回転により生じるトルクの摺動機構の摺動軸への伝達に不均一が発生することも考えられる。
【0015】
これに対して、本発明者は、本発明に従う自転車用クランク組立体では、クランク軸の回転軸からのトルク伝達機構を構成する摺動軸の外周面に延びる溝部が五条列以下の複数列と減るため、自転車の長期間の走行あるいは過酷な走行によって発生し易い転動体の不均一な摩耗や部分的な損傷が生じる個数が減少し、またクランクアームの回転軸、摺動軸、そして摺動軸の周囲に配置された溝部などの加工に際して発生しやすい僅かな対称性の不均一が発生する箇所の数も減少するのであろうと推定している。一方、摺動軸のクランク軸(クランク回転軸)内における軸方向の円滑な摺動は、五条列以下の複数列の溝部に収容された転動体の作用により充分に確保されると推定される。
【0016】
本発明に従う自転車用クランク組立体の好ましい態様を以下に記載する。
(1)上記摺動軸の外周面に備えられた複数列の溝部に収容されている転動体が接するクランク軸の内周面に、クランク軸の軸方向に延びる凹み(好ましくは、軸方向に垂直な平面で切断した断面が弧状を持つ)が形成されている。このクランク軸内周面の軸方向の凹み(特に弧状断面を持つ凹み)の形成により、溝部に収容されている複数の転動体とクランク軸内周面との接触面積が増加し、その結果、クランク軸の回転により生じるトルクのフロントスプロケットへの伝達効率が向上する。
【0017】
(2)上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部が三条列であって、それぞれの溝部が摺動軸の中心軸の位置を中心点とする三角形の各頂点に位置している。摺動軸の外周面に備えられる溝部を摺動軸の中心軸の位置を中心点とする三角形の各頂点に位置させることにより、クランク軸内の摺動軸の軸方向の円滑な摺動を損なうことなく、摺動機構の簡素化が実現する。さらに、三条列の溝の夫々に収容された転動体とクランク軸内周面との接触のバランスが向上する。
このような、三条列の溝の夫々に収容された転動体とクランク軸内周面との接触のバランスの向上は、以下に述べるような、特に摺動軸の外周面に備えられる溝部を摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置させた場合に顕著に現れる。なお、本明細書で言及する「正三角形」とは、数学的な厳密な意味での「正三角形」を意味するものではなく、通常の機械工作により製作された物品の評価として、「正三角形」であると判断される形状を意味する。
(3)上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面で軸方向に延びる溝部が三条列であって、それぞれの溝部が摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置している。
【0018】
(4)上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面で軸方向に延びる溝部が二条列であって、それぞれの溝部が摺動軸の中心軸の位置を中心点として対称の位置にある。このような二条列の溝部であっても、クランク軸内の摺動軸の軸方向の円滑な摺動を損なうことなく、摺動機構の簡素化が実現する。なお、ここで記載した「対称の位置」との用語も、数学的な厳密な意味での「対称の位置」を意味するものではないことは勿論であって、通常の機械工作により製作された物品の評価として、「対称の位置」であると判断される位置関係を意味する。
【0019】
(5)上記トルク伝達機構に転動体を保持する転動体保持器が含まれている。直動軸受における転動体保持器の装着は、転動体の確実な収容保持のために一般的に行われることであり、本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構においても、その使用が好ましい。
【0020】
(6)上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面で軸方向に延びる複数列の溝部が弧状の断面を持ち、その弧状の断面の弧状部の両端部を結ぶ直線が転動体の直径よりも小さい。摺動軸の外周面に形成される溝部をこのような形状とすることにより、溝部に収容されている転動体の円滑な転動が確保しやすい。
(7)上記トルク伝達機構の摺動軸の外周面で軸方向に延びる溝部の弧状の断面の弧状部の両端部の内の一方の端部が他方の端部よりも摺動軸の中心軸位置から遠い位置にまで延びている、請求項6に記載の自転車用クランク組立体。摺動軸の外周面に形成される溝部とその周辺をこのような形状とすることにより、転動体の円滑な転動と共に、転動時の転動体の溝内の保持が確実となり、さらに摺動軸の剛性も向上する。
【0021】
(8)上記クランク軸の内周面と上記トルク伝達機構の摺動軸の複数列の溝部のそれぞれに収容された複数個の転動体とが互いに接触してトルク伝達面を形成している。
【0022】
(9)上記トルク伝達機構の摺動軸の複数列の溝部が摺動軸の外周に沿って互いに等間隔に配置されている。摺動軸外周面の溝部の配置をこのようにすることにより、摺動軸のより円滑な摺動を確保することができ、またより円滑なトルク伝達も実現する。
【0023】
(10)上記複数個の転動体がクランク軸(クランク回転軸)の内径の1/2以下の直径を持っている。
(11)上記摺動軸の外周面に備えられた複数列の溝部に収容されている回転体が接するクランク軸の内周面にクランク軸の軸方向に延びる凹みが形成されていて、各凹みの断面の両端部間の長さが転動体の直径よりも大きい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に従う自転車用クランク組立体では、簡素な構造で、軽量化が可能である上に、摺動軸のクランク軸(クランク回転軸)内における軸方向の円滑な摺動が確保される。さらに、本発明に従う自転車用クランク組立体を用いることにより、自転車の長期間の走行あるいは過酷な走行によっても、クランクからのスプロケットへのトルク伝達効率の低下が現れにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の自転車用クランク組立体の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図1の自転車用クランク組立体の内部構造を示す正面断面図である。
【
図3】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の正面図(a)とC-C線に沿う側面断面図である。
【
図4】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の正面断面図(a)と右側面図である。
【
図5】
図3の自転車用クランク組立体の摺動機構の側面断面図(b)の拡大図である。
【
図6】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構を構成する各部品を示す組立図である。
【
図7】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の摺動軸の正面図(a)、斜視図(b)、(c)、そして左側面図(d)と右側面図(e)である。
【
図8】本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の構成に好適に利用される回転体保持器の斜視図(a)、正面図(b)、そして側面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の自転車用クランク組立体について、添付図面を参照しながら詳しく説明する。
【0027】
図1は、本発明の自転車用クランク組立体10の外観を示す斜視図であり、そして
図2は、
図1の自転車用クランク組立体10の内部構造を示す正面断面図である。
【0028】
図1と
図2の自転車用クランク組立体10は、内部を中空とし、一方の端部が閉鎖され、他方の端部で開口した管体の形状にあるクランク軸(クランク回転軸)11、クランク軸11の一方の端部に装着されたクランクアーム13a、クランク軸11の他方の端部に装着されたクランクアーム13b、そしてクランク軸11の内部空間に収容された摺動軸12、摺動軸の周囲に配置されたボールベアリングなどの転動体14、摺動軸12の一方の端部(クランク軸11の他方の端部側に突き出る端部)に、固定具15を介して固定されたフロントスプロケット16を主要な構成部材としている。なお、
図2の自転車用クランク組立体では、外周面に延びる溝部が三条列であって、それぞれの溝部が摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置している摺動軸を用いる摺動機構が採用されている。ここで、「三条列の溝部が摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置している」とは、各溝部に収容される各転動体の中心あるいは各溝部の断面形状を円に近似した場合の当該円の中心のそれぞれを結ぶ線分、そしてそれぞれの中心と摺動軸の中心軸の位置を表す点(中心点)とを結ぶ線分により形成される多角形が正三角形であることを意味する。その具体例は、後に
図5を参照して説明する。
【0029】
図3は、
図2に示した本発明の自転車用クランク組立体のクランク軸の正面図(a)、そして正面図(a)のC-C線に沿う側面断面図(b)を示す。側面断面図(b)には、本発明の自転車用クランク組立体で採用されている摺動機構の断面図が示されている。
図4は、
図3に示した本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の正面断面図(a)と右側面図(b)である。
図4の正面断面図(a)は、右側面図(b)に記入したD-D線に沿った断面として示した。
【0030】
図3と
図4において、クランク軸の一方の端部11aと他方の端部11bのそれぞれには、
図1と
図2に示したように、クランクアーム13a、13bを装着固定するためのスプラインが形成されている。なお、閉鎖端部11aは、クランク軸の内部空間へのゴミや埃の侵入を避けるために閉鎖されていることが好ましいが、自転車の走行条件によっては、その一部あるいは全面を開口状態としたとしても、本発明で採用している摺動機構の作動に大きな影響を与えることのない場合もある。
【0031】
図3の側面断面図(b)と
図4の側面図(b)には、
図2と同様に、周面に三条列の溝部が形成された摺動軸12の各条列の溝部にボールベアリングなどの転動体14が複数個並べて収容された図が示されている。そして、転動体14は、転動体保持器17によって、摺動軸12の溝部のそれぞれの内部にて確実に収容された状態で保持されている。
【0032】
図5は、
図3の自転車用クランク組立体の摺動機構の側面断面図(b)の拡大図であって、本発明の自転車用クランク組立体の代表的な構成である「トルク伝達機構の摺動軸の外周面で軸方向に延びる溝部が三条列であって、それぞれの溝部が摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置している」という構成における、各部品の位置関係、そしてここで云う「正三角形」の意味を図示する拡大図である。なお、
図5に示されている「正三角形」は仮想図であることは勿論である。
【0033】
図5に見られるように、摺動軸12の外周面に備えられた複数列の溝部18に収容されている転動体14が接するクランク軸11の内周面にクランク軸の軸方向に延びる凹み11aが形成されていることが好ましい。
【0034】
また、
図5に示されているように、トルク伝達機構の摺動軸12の外周面で軸方向に延びる複数列の溝部18が弧状の断面を持ち、その弧状の断面の弧状部の両端部を結ぶ直線L1が転動体14の直径よりも小さいことが好ましい。そして、さらに、トルク伝達機構の摺動軸12の外周面で軸方向に延びる溝部18の弧状の断面の弧状部の両端部の内の一方の端部E1が他方の端部E2よりも摺動軸の中心軸位置Cから遠い位置にまで延びていることが好ましい。
【0035】
そして、クランク軸11の内周面とトルク伝達機構の摺動軸12の複数列の溝部のそれぞれに収容された複数個の転動体14とが互いに接触してトルク伝達面TTを形成していることが好ましい。
【0036】
トルク伝達機構の摺動軸12の複数列の溝部18は、摺動軸12の外周に沿って互いに等間隔で配置されていることが好ましい。
【0037】
複数個の転動体14は、クランク軸11の内径(内径が最大の部分の内径を意味する)L2の1/2以下の直径を持つことが好ましい。
【0038】
そして、摺動軸12の外周面に備えられた複数列の溝部18に収容されている転動体14が接するクランク軸の内周面にクランク軸の軸方向に延びる凹み11aが形成されていて、各凹み11aの断面の両端部間の長さL2が転動体14の直径よりも大きいことが好ましい。
【0039】
図6は、本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構を構成する各部品を示す組立図である。
図3及び
図4と対応させて見れば理解できるように、本発明の自転車用クランク組立体は、直動軸受との観点で見れば外筒として機能する、内部に空間領域を有するクランク軸(クランク回転軸)11の内部空間に、転動体14を保持する転動体保持器17を周囲に装着した摺動軸11が収容される。
図6においても、摺動軸11は、その周囲において軸方向に延び、かつ互いに均一な間隔を以て平行に配置された三条列の溝部18を備えている。これらの三条列の溝部18は、摺動軸11溝部形成領域を構成する形状が三角形(好ましくは正三角形)の断面の三個の角部に形成されていることが好ましい。なお、その他の部品は、クランク軸11の内部における摺動軸11や転動体保持器17の摺動領域を制限するためにクランク軸内部に装着する付属部品である。
【0040】
図7は、本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の摺動軸の正面図(a)、斜視図(b)、(c)、そして左側面図(d)と右側面図(e)である。
図7においても、摺動軸11は、その周囲に軸方向に、かつ互いに均一な間隔を以て平行に配置された三条列の溝部18を備えている。
【0041】
図8は、本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構の構成に好適に利用される転動体保持器の斜視図(a)、正面図(b)、そして側面図(c)である。なお、この
図8の転動体保持器は、トルク伝達機構の摺動軸の外周面に延びる溝部が三条列であって、それぞれの溝部が摺動軸の中心軸の位置を中心点とする正三角形の各頂点に位置している構成の自転車用クランク組立体に用いる転動体保持器17とその転動体保持器17に収容保持されている転動体14を持つ例で示しているが、摺動軸の形状や摺動軸の周面に形成される溝部の列数や形状により、その構成や形状が変わることは云うまでもない。また、転動体保持器17に収容される転動体の個数も所望により変えうることも当然である。
【0042】
転動体としては、直動軸受で一般的に用いられるボールベアリングが使用されるが、必要により、「ころ」状の転動体、「俵」状の転動体などの他の形状の転動体を用いることもできる。
【0043】
本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構のこれまでの説明は、添付図面に図示した、周囲において軸方向に延び、かつ互いに均一な間隔を以て平行に配置された三条列の溝部を備えた溝部領域の断面が(正)三角形の摺動軸を用いた摺動機構を参照して行ったが、本明細書において前述したように、本発明の自転車用クランク組立体の摺動機構は、周囲において軸方向に延び、かつ互いに均一な間隔を以て平行に配置された五条列以下の溝部を備えた溝部領域の断面が五角形以下の多角形の角部の頂部に備えた摺動軸、あるいは、摺動軸の外周面で軸方向に延びる溝部が二条列であって、それぞれの溝部が摺動軸の中心軸の位置を中心点として対称の位置にある摺動軸を用いてもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 クランク組立体
11 クランク軸
11a 凹部
12 摺動軸
13a、13b クランクアーム
14 転動体
15 固定具(スプロケット固定具)
16 フロントスプロケット
17 転動体保持器
18 溝部
C 摺動軸の中心軸位置
E1、E2 溝部の弧状の断面の弧状部の各端部
L1 溝部の弧状の断面の弧状部の両端部を結ぶ直線
L2 クランク軸の内径
TT トルク伝達面